説明

ポリフォスファゼン化合物

【目的】有機薄膜EL素子、有機薄膜光電池等の正孔輸送材料に用いることができ、耐熱性およびスピンコート等の溶剤塗布法による成膜性が良好な化合物を提供する。
【構成】高分子量のポリフォスファゼンの側鎖に高濃度に正孔輸送性の基が導入でき、平滑で透明、耐熱性のある正孔輸送層を形成できる。
【効果】本発明により、トリフェニルアミンのように低融点、結晶性で平滑な膜が得られない、かつ低分子で蒸気圧が低いために真空中で基板上から再蒸発してしまい真空蒸着による成膜が難しいキャリア輸送性物質においても、ヒドロキシ体を合成し、ポリフォスファゼンの側鎖として導入することにより有機溶媒可溶な耐熱性のある、あるポリマーが得られ、スピンコート法等により平滑で透明なポリフォスファゼン薄膜が得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、有機薄膜EL(エレクトロルミネセンス)素子用や有機薄膜光電池用の正孔輸送材料、あるいは電子写真用のキャリア輸送材料としてふさわしい新規なポリフォスファゼン化合物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】イーストマン・コダック社のC.W.Tangらに開発された有機薄膜EL素子は、特開昭59−194393号公報、特開昭63−264692号公報、特開昭63−295695号公報、アプライド・フィジックス・レター第51巻第12号第913頁(1987年)、およびジャーナル・オブ・アプライドフィジックス第65巻第9号第3610頁(1989年)等によれば一般的には陽極、有機正孔輸送層、電子輸送発光層、陰極の順に構成され、以下のように作られている。
【0003】まず、ガラスや樹脂フィルム等の透明絶縁性の基板上に蒸着又はスパッタリング法等でインジウムとスズの複合酸化物(以下ITOという)の透明導電性被膜の陽極が形成される。次に有機正孔輸送層として銅フタロシアニン、あるいは(化5)で示される化合物:
【0004】
【化5】


【0005】1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン(融点181.4℃〜182.4℃)、あるいは(化6)で示される化合物:
【0006】
【化6】


【0007】N,N,N’,N’−テトラ−p−トリル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(融点120℃)等のテトラアリールジアミンを、0.1μm程度以下の厚さに単層または積層して蒸着して形成する。
【0008】次に、有機正孔輸送層上にトリス(8−キノリノール)アルミニウム等の有機蛍光体を0.1μm程度以下の厚さで蒸着し、有機電子輸送発光層を形成する。最後に、その上に陰極としてMg:Ag,Ag:Eu,Mg:Cu,Mg:In,Mg:Sn等の合金を共蒸着により2000Å程度蒸着している。
【0009】また、アプライド・フィズィックス・レター第57巻第6号第531頁(1990年)によると、安達らは有機電子輸送発光層を、2種類の材料を積層することにより有機発光層と有機電子注入輸送層とに分けた素子を作製した。この素子は、ITOの陽極上に有機正孔輸送層としてN,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(融点159〜163℃)、有機発光層として1−〔4−N,N−ビス(p−メトキシフェニル)アミノスチリル〕ナフタレン、有機電子注入輸送層として2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(以下、単にBPBDという)、陰極としてMgとAgの合金を順に積層している。
【0010】しかし、上記で示した有機正孔輸送材料は、銅フタロシアニンは耐熱性ではあるが可視光線波長領域の吸収が大きく、また結晶性であるために蒸着膜が凸凹になり素子が電気短絡し易くなる問題があった。また、フタロシアニン類は有機溶媒に難溶でありスピンコート法等の溶剤を用いた塗布法で膜厚0.1μm以下の平滑な薄膜を作製するのは困難であった。(化5)(化6)で示した化合物は、非晶質で平滑な蒸着膜が得られ、可視光線波長領域での吸収もないが、融点が低く、素子作成プロセスや素子駆動時の発熱により融解しやすい問題があった。また、低分子化合物であるため膜の強度も弱いと考えられる。
【0011】上記で述べたように、有機薄膜EL素子の正孔輸送層材料の性質として求められている項目として次の4点があげられる。
1.可視光線領域で無色透明であること。
2.スピンコート法等の溶剤を用いた塗布法により低コストで膜厚0.1μm以下のピンホールがない平滑な膜が形成できること。
3.200℃以上の高い耐熱性を付与可能なこと。
4.正孔輸送能力が大きいこと。
本発明では、以上の課題を解決し、耐熱性が高く、溶剤を用いた成膜法にも適した有機薄膜EL素子用正孔輸送材料、および有機薄膜光電池用正孔輸送材料、電子写真用キャリア輸送材料にも応用できる新規なポリフォスファゼン化合物を提供することを目的としてなされたものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、無色透明で、高分子量のため成膜性の良いポリフォスファゼンを主鎖とし、側鎖にキャリア輸送性の基を置換して得た一般式(化1)で示される新規なポリフォスファゼン化合物である。本発明によるポリフォスファゼン化合物は、例えば一般式(化2)に示す化合物にあっては、可視領域で無色透明であり、非晶質で平滑な膜を形成でき、正孔移動度が大きいトリフェニルアミン等の芳香族第3級アミンを側鎖に導入し、側鎖間の正孔および電子のホッピング伝導により正孔および電子のキャリアが輸送できるようにしてある。
【0013】また、一般式(化3)で示したように、トリフェニルアミンと主鎖の間に−O−(CH2 2 −O−鎖を導入し、側鎖の柔軟性を増すことも可能である。また一般式(化4)で示したようにCF3 CH2 −基、またはCH3 −基、CH3 CH2 −基、C3 7 CH2 −基等のアルキル基を一部導入し、分子の柔軟性を増すこともできる。
【0014】本発明のポリフォスファゼンの合成は、ポリジクロロフォスファゼンのベンゼン、テトラヒドロフラン等の溶液を、水素化ナトリウム等のアルカリ存在下にヒドロキシトリフェニルアミンや(N,N’−ジフェニルアミノ)フェノキシ−2−エタノール等の芳香族第3級アミンのフェノール体やアルコール体および1、1、1−トリフルオロエタノール等のアルキル基を導入するためのアルコールのジオキサン等のエーテル溶液に滴下し、生じた塩をろ別した後、ポリマーをメタノール等から再沈澱させることにより行なわれる。
【0015】他の芳香族第3級アミンとしては、トリナフチルアミンやテトラフェニルベンジジンのモノヒドロキシ置換体等も、同様にポリジクロロフォスファゼンと反応させ、ポリフォスファゼンの主鎖に導入可能である。また、本発明のポリフォスファゼンを成膜し、正孔輸送層等のキャリア輸送層として用いる場合、隣接する仕事関数の異なる電極、または隣接する仕事関数の異なる他のキャリア輸送層や発光層材料分子への最高被占軌道をとおした電子および正孔の受け渡しをスムーズに行なわせるためには、隣接各層の仕事関数のレベルを階段状に並べる必要がある。そのために、合成原料としてジフェニルアミンの代わりにジトリルアミンを用い、トリフェニルアミン骨格上に2つのメチル基を導入し、窒素上の電子密度を増やし仕事関数を0.1〜0.2eV小さくしたり、同様にビス(トリフルオロメチルフェニル)アミンを用いトリフルオロメチル基を導入し、窒素上の電子密度を減らし仕事関数を0.1〜0.2eV大きく調整することもできる。
【0016】このようにして得られたポリフォスファゼンは、有機溶剤に溶かしてスピンコート等の方法でITO等の電極上に塗布することにより有機薄膜EL素子の正孔輸送層として機能する。また、本発明におけるポリフォスファゼン化合物を電子写真における機能分離型感光体におけるキャリア輸送材料として用いる場合には、コロナ社刊、電子写真学会編「電子写真技術の基礎と応用」第441頁に有機系のキャリア発生材料として記載されているペリレン系、多環キノン系、フタロシアニン系、アゾ系等の有機色素やSe,Se−Te,CdS,アモルファスSi等の無機材料を含むキャリア発生層上に塗布することによりキャリア輸送層を形成することができる。
【0017】
【作用】本発明の化合物の主鎖として用いているポリフォスファゼンは、無色透明で高分子量のために成膜性が良く、かつ−P=N−の繰り返し単位当り2つのキャリア輸送性の基を導入できるため高いキャリア輸送能力が与えられる。また、高分子化により低分子の場合よりも耐熱性が高まる。
【0018】
【実施例】
<実施例1>ポリビス(N,N−ジフェニルアミノフェノキシ)フォスファゼンの合成ジフェニルアミンと3−ヨードアニソールのウルマン反応で得た3−メトキシトリフェニルアミンをクロロトリメチルシランでエーテル分解して得た3−ヒドロキシトリフェニルアミン35.9g(138mモル)をテトラヒドロフランとジオキサンの混合溶媒に溶かし、水素化ナトリウム3.3g(138mモル)と反応させた後、ポリジクロロフォスファゼン4g(34.5mモル)のテトラヒドロフラン溶液60mlを滴下し、70℃で8時間反応した。得られた生成物をテトラヒドロフラン溶液からメタノール中に再沈澱を行ない精製し白色のポリビス(N,N−ジフェニルアミノフェノキシ)フォスファゼンを得た。
【0019】本ポリマーは、250℃以上の融点を示し、そのCDCl3 溶液の13C−NMRスペクトルを図1R>1に示す。GPCによる分析で本ポリマーの重量平均分子量のピークは43万(ポリスチレン換算)であった。また仕事関数は理研計器(株)製AC−1で測定した結果約5.8eVであった。また、このポリマースピンコート膜の紫外・可視吸収スペクトルを図2に示すが、400nm以上の可視領域には吸収はない。
【0020】
【実施例2】
ポリビス(3−(N,N−ジフェニルアミノ)フェノキシ−2−エトキシ)フォスファゼンの合成3−ヒドロキシトリフェニルアミンと2−クロロエタノールを反応させて得た3−(N,N−ジフェニルアミノ)フェノキシ−2−エタノールを実施例1の3−ヒドロキシトリフェニルアミンの代わりに用いて同様に反応と精製を行ない、白色のポリビス(3−(N,N−ジフェニルアミノ)フェノキシ−2−エトキシ)フォスファゼンを得た。
【0021】本ポリマーは250℃以上の融点を示し、そのCDCl3 溶液の13C−NMRスペクトルを図3に示す。仕事関数は約5.8eVであった。
【0022】
【実施例3】実施例2の反応時に1、1、1−トリフルオロエタノールを加えて同様に反応と精製を行なった結果、3−(N,N−ジフェニルアミノ)フェノキシ−2−エタノールが81%,1、1、1−トリフルオロエタノールが19%置換した白色のポリマーが得られた。
【0023】本ポリマーのKBr法で測定した赤外線吸収スペクトルを図4に示す。本ポリマーは150℃以上で軟化した。仕事関数は約5.9eVであった。
【0024】
【発明の効果】本発明により、トリフェニルアミンのように低融点、結晶性で平滑な膜が得られない、かつ低分子で蒸気圧が低いために真空中で基板上から再蒸発してしまい真空蒸着による成膜が難しいキャリア輸送性物質においても、ヒドロキシ体を合成し、ポリフォスファゼンの側鎖として導入することにより有機溶媒可溶な耐熱性のある、あるポリマーが得られ、スピンコート法等により平滑で透明なポリフォスファゼン薄膜が得られる。この膜は、低分子をポリマーバインダーに分散させて得られる膜よりも高濃度にキャリア輸送性物質を含ませることができるため、有機薄膜EL素子および有機薄膜光電池に、有用であり、また電子写真の機能分離型感光体におけるキャリア輸送材料としても優れた特性を持っている。
【0025】
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のポリフォスファゼン化合物の13C−NMRスペクトルを示すグラフ図である。
【図2】本発明のポリフォスファゼン化合物の紫外〜可視吸収スペクトルを示すグラフ図である。
【図3】本発明のポリフォスファゼン化合物の13C−NMRスペクトルを示すグラフ図である。
【図4】本発明のポリフォスファゼン化合物の赤外吸収スペクトルを示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】下記の一般式(化1)で表されることを特徴とするポリフォスファゼン化合物。
【化1】


【請求項2】下記の一般式(化2)で表される請求項1記載のポリフォスファゼン化合物。
【化2】


【請求項3】下記の一般式(化3)で表される請求項1記載のポリフォスファゼン化合物。
【化3】


【請求項4】下記の一般式(化4)で表される請求項1記載のポリフォスファゼン化合物。
【化4】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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