説明

ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物および成形品

【課題】PBT系樹脂が有する優れた機械的強度などの特性を保持しつつ、溶融流動性を向上できるポリブチレンテレフタレート(PBT)系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】PBT系樹脂(A)と、ポリエステルエラストマー(B)と、環状ポリエステルオリゴマー(C)とでPBT系樹脂組成物を構成する。環状ポリエステルオリゴマー(C)は、環状ポリC2−4アルキレンテレフタレートオリゴマーなどを好適に使用できる。環状ポリエステルオリゴマー(C)の割合は、PBT系樹脂(A)およびポリエステルエラストマー(B)の合計100重量部に対して0.01〜10重量部程度であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靭性および流動性に優れるポリブチレンテレフタレート樹脂組成物およびその成形品に関する。さらに詳しくは、優れた靭性および流動性を有し、コネクター、スイッチ、コンデンサー、集積回路(IC)、リレー、抵抗器、発光ダイオード(LED)、コイルボビンおよびその周辺機器、ハウジングなどの電気・電子部品などに適したポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物およびその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、優れた機械的特性、電気的特性、耐熱性、耐候性、耐水性、耐薬品性及び耐溶剤性を有するため、エンジニアリング・プラスチックとして自動車部品、電気・電子部品などの種々の用途に広く利用されている。しかしながら、用途の拡大、多様化に伴い、さらに高度な性能や特殊性が求められることが多く、より優れた機械的性質、特に柔軟性、耐衝撃性などの靭性の向上が要望されている。
【0003】
このような要求に応えるため、従来よりボリブチレンテレフタレート樹脂にオレフィン系ポリマー、ゴム状ポリマー、ポリエステルエラストマーなどの熱可塑性エラストマーを配合する方法などが提案されている。中でもポリエステルエラストマーはポリブチレンテレフタレートとの相溶性に優れ、従来から利用されている。例えば、特許第2863022号公報(又は特開平4−218560号公報、特許文献1)には、結晶性熱可塑性ポリエステル樹脂(特に、ポリブチレンテレフタレートを主体とする樹脂)50〜99重量部と、ポリエステルエラストマー1〜50重量部との合計100重量部に対して、ソルビタンエステル0.01〜10重量部を添加配合したポリエステル樹脂組成物が開示されている。そして、この文献には、前記樹脂組成物は、低温における靭性に優れ、薄肉あるいは複雑な形状を有する部品、例えば自動車、電気機器等の各種ギヤー、コネクターなどに好ましく用いられることが記載されている。この文献の樹脂組成物は、成形性、靱性に優れるものの、さらなる溶融流動性の向上が求められる。
【0004】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の流動性を改善する手法も知られており、例えば、特開平5−179114号公報(特許文献2)には、粘度(数平均分子量)の異なるポリブチレンテレフタレートを所定の割合でブレンドしたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が開示されている。この文献には、前記樹脂組成物は、成形体の耐繰り返し疲労性を改善し、かつ溶融状態において高流動性を有することが記載されている。しかし、この文献の樹脂組成物では、樹脂の伸度などにおいて、高粘度ポリブチレンテレフタレートを単独で使用する場合に比べて劣る。
【0005】
また、流動性を向上させるため、ポリブチレンテレフタレート樹脂に流動性改良剤を添加することも知られている。例えば、特公平4−73461号公報(又は特開昭61−85467号公報、特許文献3)には、主としてポリテトラメチレンテレフタレートからなる熱可塑性ポリエステル樹脂に流動性改良剤として、特定の芳香族多塩基酸エステルを混合した樹脂組成物が開示されている。また、特公平7−15048号公報(又は特開昭62−207357号公報、特許文献4)には、熱可塑性ポリエステル樹脂(特にポリブチレンテレフタレート又はこれを主体とするコポリマー)と、特定の難燃剤と、流動性改良剤としてのエチレン重合体又はエチレンと炭素数3以上のα−オレフィン共重合体にα−,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体をグラフト重合させて得た変性エチレン共重合体と、表面処理したガラス繊維とで構成された流動性改良難燃性ポリエステル樹脂組成物が開示されている。しかし、これらの文献に記載の樹脂組成物では、流動性改良剤を添加しない場合に比べて、やや機械的強度が低下する傾向がある。
【0006】
その他、流動性を改善するために、樹脂用流動性改質剤が用いられることが一般的であるが、このような樹脂用流動性改良剤の使用は、染み出しや成形品表面層剥離の懸念がある上、機械強度の低下は避けることができない。
【0007】
一方、特開平6−16946号公報(特許文献5)には、主として炭素、水素および酸素から構成される少なくとも一種の大環状オリゴマー(ポリカーボネートオリゴマー、ポリ(アルキレンジカルボキシレート)オリゴマーなど)と、大環状オリゴマーのそれとは異なる構成単位から本質的に成る少なくとも一種の線状ポリマーの密な物理的混合物を含んで成る組成物が開示されている。この文献には、線状ポリマーとして使用可能な例示的縮合ポリマーは、ポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリホルマール、ポリフェニレンエーテルおよびポリイミドを含み、大抵の場合、付加ポリマーが使用されることが記載されている。
【0008】
なお、この文献には、大環状オリゴマーは数多くのタイプの線状ポリマーと物理的に混合していろいろな使い道の可能性を持ったブレンドを形成できること、不均質ブレンドもこの文献の範囲内であるが、この文献のブレンドは容易に流動し、多くの場合に均質であること、これらのブレンドは、多くの場合に、そのブレンドの大環状オリゴマーのそれと線状ポリマー成分のそれの中間のガラス転移温度を持つこと、使用される大環状オリゴマーと線状ポリマーに依っては、大環状オリゴマーの重合が耐溶剤性のような有利な特性を持つポリマーブレンドを提供し得ることが記載されている。このように、この文献には、ポリブチレンテレフタレート樹脂と大環状オリゴマーとの組み合わせについてはなんら記載されていない。
【特許文献1】特許第2863022号公報(特許請求の範囲、段落番号[0019])
【特許文献2】特開平5−179114号公報(特許請求の範囲、段落番号[0005])
【特許文献3】特公平4−73461号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特公平7−15048号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開平6−16946号公報(特許請求の範囲、段落番号[0004])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、機械的強度、靱性などの特性を保持しつつ、流動性(溶融流動性)を向上できるポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物、およびその成形品を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、染み出しや機械的強度の低下を生じることなく、溶融成型時の流動性を向上できるポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物、およびその成形品を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、靱性、機械的強度および溶融流動性をバランスよく両立できるポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物、およびその成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(PBT系樹脂)と、ポリエステルエラストマーと、特定の環状オリゴマーとを組み合わせることにより、染み出しなどを生じることなく、PBT系樹脂が有する優れた機械的強度などの特性の保持と高い溶融流動性とを両立できるPBT系樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)と、ポリエステルエラストマー(B)と、環状ポリエステルオリゴマー(C)(又は環状ポリエステル系オリゴマー又は環状エステル系オリゴマー、単に環状オリゴマーということがある)とで構成されている。
【0014】
前記樹脂組成物において、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)の固有粘度は、0.6〜1.3dL/g程度であってもよい。また、ポリエステルエラストマー(B)は、硬質成分としてポリアルキレンアリレートブロック(例えば、ポリブチレンテレフタレートブロックなどのポリアルキレンテレフタレートブロックなど)を含むブロック共重合体であってもよい。さらに、前記環状ポリエステルオリゴマー(C)は、例えば、環状ポリアルキレンテレフタレートオリゴマーなどの環状芳香族ポリエステルオリゴマーであってもよい。
【0015】
前記樹脂組成物において、環状ポリエステルオリゴマー(C)の割合は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)50〜99重量%およびポリエステルエラストマー(B)1〜50重量%の合計100重量部に対して、例えば、0.01〜10重量部程度であってもよい。本発明の樹脂組成物では、このような比較的小割合で環状ポリエステルオリゴマーを使用しても、効率よくPBT系樹脂組成物の流動性を向上できる。
【0016】
本発明の樹脂組成物は、流動性に優れており、例えば、温度260℃および剪断速度1000sec−1における溶融粘度は、160Pa・s以下程度であってもよい。
【0017】
本発明には、前記樹脂組成物で形成された成形品も含まれる。このような成形品は、溶融混練過程を経る種々の成形方法により製造できる。特に、前記樹脂組成物は、前記のように溶融流動性に優れているため、前記成形品は射出成形品であってもよい。また、前記成形品は、機械的強度や靱性などに優れているため、このような特性が要求される成形品、例えば、電気又は電子部品であってもよい。代表的には、前記成形品は、前記樹脂組成物で形成された射出成形品であって、電気又は電子部品である射出成形品であってもよい。このような成形品(例えば、電気・電子部品)は、コネクター、スイッチ、コンデンサー、集積回路、リレー、抵抗器、発光ダイオード、コイルボビン、これらの周辺機器、およびこれらのハウジングから選択された成形品であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物は、PBT系樹脂とポリエステルエラストマーと特定の環状オリゴマーとを組み合わせているので、機械的強度、靱性などの特性を保持しつつ、流動性(溶融流動性)を向上できる。また、前記環状オリゴマーがPBT系樹脂(およびポリエステルエラストマー)に対して親和性が高いためか、染み出しや機械的強度の低下を生じることなく、溶融成型時の流動性を向上できる。特に、本発明の樹脂組成物は、前記組み合わせにより、環状ポリエステルオリゴマーを添加しても機械的強度の低下を招くことがないため、靱性、機械的強度および溶融流動性をバランスよく両立できる。このような本発明の樹脂組成物は、その特性からコネクター、スイッチ、コンデンサー、集積回路(IC)、リレー、抵抗器、発光ダイオード(LED)、コイルボビンおよびその周辺機器、ハウジングなどの電気又は電子部品成形品などに好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
[ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物]
(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂
ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)とは、テレフタル酸成分(テレフタル酸又はそのエステル形成誘導体)、及び炭素数4のアルキレングリコール(1,4−ブタンジオール)又はそのエステル形成誘導体を少なくとも重合成分とする熱可塑性樹脂である。
【0020】
このようなベース樹脂としてのポリブチレンテレフタレート系樹脂(PBT系樹脂)としては、ブチレンテレフタレートを主成分として[例えば、50重量%以上(例えば、55〜100重量%)、好ましくは60重量%以上(例えば、65〜100重量%)、さらに好ましくは70重量%以上(例えば、75〜100重量%)程度]含むホモポリエステル(ポリブチレンテレフタレート)又はコポリエステル(ブチレンテレフタレート系共重合体又はポリブチレンテレフタレートコポリエステル)などが挙げられる。
【0021】
コポリエステル(ブチレンテレフタレート系共重合体又は変性PBT樹脂)における前記共重合可能なモノマー(以下、単に共重合性モノマーと称する場合がある)としては、テレフタル酸成分を除くジカルボン酸成分、1,4−ブタンジオールを除くジオール、オキシカルボン酸成分、ラクトン成分などが挙げられる。共重合性モノマーは一種で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0022】
ジカルボン酸(又はジカルボン酸成分又はジカルボン酸類)としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸(例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ダイマー酸などのC4−40ジカルボン酸、好ましくはC4−14ジカルボン酸)、脂環式ジカルボン酸(例えば、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ハイミック酸などのC8−12ジカルボン酸)、テレフタル酸を除く芳香族ジカルボン酸(例えば、フタル酸、イソフタル酸;2,6−ナフタレンジカルボン酸などのナフタレンジカルボン酸;4,4′−ジフェニルジカルボン酸、4,4′−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルケトンジカルボン酸などのC8−16芳香族ジカルボン酸)、又はこれらの反応性誘導体(例えば、低級アルキルエステル(ジメチルフタル酸、ジメチルイソフタル酸(DMI)などのフタル酸又はイソフタル酸のC1−4アルキルエステルなど);酸クロライド;酸無水物;アルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体などのエステル形成可能な誘導体)などが挙げられる。さらに、必要に応じて、トリメシン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多価カルボン酸又はそのエステル形成性誘導体(アルコールエステルなど)などを併用してもよい。このような多官能化合物を併用すると、分岐状のPBT系樹脂を得ることもできる。
【0023】
ジオール(又はジオール成分又はジオール類)には、例えば、1,4−ブタンジオールを除く脂肪族ジオール[例えば、アルカンジオール(例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール(1,6−ヘキサンジオールなど)、オクタンジオール(1,3−オクタンジオール、1,8−オクタンジオールなど)、デカンジオールなどの低級アルカンジオール、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C2−12アルカンジオール、さらに好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C2−10アルカンジオールなど);(ポリ)オキシアルキレングリコール(例えば、複数のオキシC2−4アルキレン単位を有するグリコール、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジテトラメチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど)など]、脂環族ジオール(例えば、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールAなど)、芳香族ジオール[例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、ナフタレンジオールなどのジヒドロキシC6−14アレーン;ビフェノール(4,4’−ジヒドロキシビフェニルなど);ビスフェノール類;キシリレングリコールなど]、及びこれらの反応性誘導体(アルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体などのエステル形成性誘導体など)などが挙げられる。さらに、必要に応じて、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールなどのポリオール又はそのエステル形成性誘導体を併用してもよい。このような多官能化合物を併用すると、分岐状のPBT系樹脂を得ることもできる。
【0024】
前記ビスフェノール類としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールAD)、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタンなどのビス(ヒドロキシアリール)C1−6アルカン;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシアリール)C4−10シクロアルカン;4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン;4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド;4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、及びこれらのアルキレンオキサイド付加体などが例示できる。アルキレンオキサイド付加体としては、ビスフェノール類(例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールAD、ビスフェノールFなど)のC2−3アルキレンオキサイド付加体、例えば、2,2−ビス−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ジエトキシ化ビスフェノールA(EBPA)、2,2−ビス−[4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ジプロポキシ化ビスフェノールAなどが挙げられる。アルキレンオキサイド付加体において、アルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドなどのC2−3アルキレンオキサイド)の付加モル数は、各ヒドロキシル基1モルに対して1〜10モル、好ましくは1〜5モル程度である。
【0025】
オキシカルボン酸(又はオキシカルボン酸成分又はオキシカルボン酸類)には、例えば、オキシ安息香酸、オキシナフトエ酸、ヒドロキシフェニル酢酸、4−カルボキシ−4’−ヒドロキシビフェニル、グリコール酸、オキシカプロン酸などのオキシカルボン酸又はこれらの誘導体(アルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体など)などが含まれる。ラクトンには、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(例えば、ε−カプロラクトンなど)などのC3−12ラクトンなどが含まれる。
【0026】
好ましい共重合性モノマーとしては、ジオール類[C2−6アルキレングリコール(エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサンジオールなどの直鎖状又は分岐鎖状アルキレングリコールなど)、繰返し数が2〜4程度のオキシアルキレン単位を有するポリC2−4アルキレングリコール(ジエチレングリコールなど)、ビスフェノール類(ビスフェノール類又はそのアルキレンオキサイド付加体など)、1,4−シクロヘキサンジメタノールなど]、ジカルボン酸類[C6−12脂肪族ジカルボン酸(アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸など)、カルボキシル基がアレーン環の非対称位置に置換した非対称芳香族ジカルボン酸など]などが挙げられる。これらの化合物のうち、芳香族化合物、例えば、ビスフェノール類(特にビスフェノールA)のアルキレンオキサイド付加体、及び非対称芳香族ジカルボン酸[フタル酸、イソフタル酸、及びその反応性誘導体(ジメチルイソフタル酸(DMI)などの低級アルキルエステル)など]などが好ましい。
【0027】
ポリブチレンテレフタレート系樹脂としては、ホモポリエステル(ポリブチレンテレフタレート)及び/又は共重合体(ポリブチレンテレフタレートコポリエステル)が好ましく、ポリブチレンテレフタレート系樹脂は、共重合性モノマーの割合(変性量)が、通常、45モル%以下(例えば、0〜40モル%程度)、好ましくは35モル%以下(例えば、0〜35モル%程度)であってもよく、さらに好ましくは30モル%以下(例えば、0〜30モル%程度)のホモ又はコポリエステル(特に、ホモポリエステル)であってもよい。
【0028】
なお、共重合体において、共重合性モノマーの割合は、例えば、0.01〜30モル%程度の範囲から選択でき、通常、1〜30モル%、好ましくは3〜25モル%、さらに好ましくは5〜20モル%(例えば、5〜15モル%)程度である。また、ホモポリエステル(ポリブチレンテレフタレート)と共重合体(コポリエステル)とを組み合わせて使用する場合、ホモポリエステルとコポリエステルとの割合は、共重合性モノマーの割合が、全単量体に対して0.1〜30モル%(好ましくは1〜25モル%、さらに好ましくは5〜25モル%)程度となる範囲であり、通常、前者/後者=99/1〜1/99(重量比)、好ましくは95/5〜5/95(重量比)、さらに好ましくは90/10〜10/90(重量比)程度の範囲から選択できる。
【0029】
なお、PBT系樹脂の固有粘度(IV)は、例えば、0.5dL/g以上、好ましくは0.6〜1.3dL/g、さらに好ましくは0.65〜1.2dL/g程度であってもよい。なお、固有粘度(IV)は、例えば、o−クロロフェノール中で、温度35℃の条件下で測定できる。このような範囲の固有粘度を有するPBT系樹脂を使用すると、十分な靱性の付与と溶融粘度の低減とを効率よく実現しやすい。固有粘度が小さすぎると十分な靭性が得られない場合がある。また、固有粘度が大きすぎると、成型時の溶融粘度が高くなり、場合により成形金型内で樹脂の流動不良、充填不良を起こす可能性がある。
【0030】
なお、PBT系樹脂は、市販品を使用してもよく、テレフタル酸又はその反応性誘導体と1,4−ブタンジオールと必要により共重合可能なモノマーとを、慣用の方法、例えば、エステル交換、直接エステル化法などにより共重合(重縮合)することにより製造したものを使用してもよい。
【0031】
(B)ポリエステルエラストマー
ポリエステルエラストマー(熱可塑性ポリエステルエラストマー、ポリエステル型エラストマー)は、ハードセグメント(又は硬質成分又は硬質ブロック)およびソフトセグメント(又は軟質成分又は軟質ブロック)のうち少なくとも一方がポリエステル成分で構成されていればよいが、通常、ハードセグメントとして硬質ポリエステルブロック(例えば、ポリアルキレンアリレートブロックなどの芳香族ポリエステルブロック)を含むブロック共重合体であってもよい。
【0032】
このようなポリエステルエラストマー(又はブロック共重合体)としては、例えば、硬質ポリエステルブロック(芳香族ポリエステルなどのハードブロック又はハードセグメント)と、軟質ブロック(ソフトブロック又はソフトセグメント)とが結合(例えば、エステル結合により結合)した構造を有するブロック共重合体である。このようなポリエステルエラストマーは、軟質ブロックの種類によって、例えば、ポリエーテル型とポリエステル型の2種類に分類でき、いずれのタイプも本発明に使用できる。
【0033】
硬質ブロック(硬質ポリエステルブロック)を構成する硬質ポリエステルは、前記PBT系樹脂と同様に、ジカルボン酸とジオールとの重縮合、オキシカルボン酸の重縮合などにより得ることができ、通常、少なくとも芳香族モノマー成分[前記PBT系樹脂の項で例示の芳香族ジオール及びその反応性誘導体、前記PBT系樹脂の項で例示の芳香族ジカルボン酸及びテレフタル酸(及びこれらの芳香族ジカルボン酸の反応性誘導体も含む)、及び/又は芳香族オキシカルボン酸(オキシ安息香酸、オキシナフトエ酸、4−カルボキシ−4’−ヒドロキシ−ビフェニルなどの他、これらのオキシカルボン酸の誘導体(アルキル、アルコキシ又はハロゲン置換体など)など)など]を用いた芳香族ポリエステルが使用できる。芳香族モノマー成分は、通常、芳香族ジカルボン酸成分(芳香族ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体など)であってもよい。前記芳香族モノマー成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。芳香族ポリエステルには、必要により共重合可能なモノマー(前記PBT系樹脂の項で例示の共重合性モノマーの他、1,4−ブタンジオール、テレフタル酸なども含む)を併用してもよい。
【0034】
前記芳香族ポリエステルは、例えば、全芳香族ポリエステル(芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとのポリエステルや芳香族オキシカルボン酸のポリエステルなど)であってもよく、芳香族ジカルボン酸成分と非芳香族ジオール成分(1,4−ブタンジオール、前記PBT系樹脂の項で例示の脂肪族ジオールや脂環族ジオールなど)とのポリエステル、非芳香族ジカルボン酸成分(前記PBT系樹脂の項で例示の脂肪族ジカルボン酸など)と芳香族ジオール成分とのポリエステル、芳香族オキシカルボン酸成分と非芳香族オキシカルボン酸成分(例えば、グリコール酸やオキシカプロン酸などの脂肪族オキシカルボン酸)とのポリエステルなどであってもよい。
【0035】
前記硬質ポリエステルのうち、結晶性の芳香族ポリエステル[例えば、ポリアルキレンアリレート(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどのポリC2−4アルキレンアリレート、共重合成分(イソフタル酸などの前記例示の共重合性モノマー)1〜30モル%(例えば、3〜25モル%、好ましくは5〜20モル%程度の割合)で変性又は共重合された変性ポリC2−4アルキレンアリレート)など]、液晶ポリエステルなどが好ましく、特に、ポリブチレンテレフタレートなどが好ましい。
【0036】
前記ポリエステル型エラストマーを構成する軟質ブロックは、例えば、ジカルボン酸とジオールとの重縮合、オキシカルボン酸やラクトンの重縮合などにより得ることができるポリエステル構造を有する。前記軟質ポリエステルは、前記硬質ブロックを構成する硬質ポリエステルよりも柔軟であればよく、通常、少なくとも脂肪族モノマー成分[脂肪族ジオール成分(1,4−ブタンジオール、前記PBT系樹脂の項で例示の脂肪族ジオール及びその反応性誘導体など)、脂肪族ジカルボン酸成分(前記脂肪族ジカルボン酸及びその反応性誘導体など)、脂肪族オキシカルボン酸(グリコール酸、オキシカプロン酸など)、前記ラクトンなど]を用いたポリエステル(特に脂肪族ポリエステル)などが使用できる。必要により、脂肪族モノマー成分には、共重合性単量体(通常、非芳香族性モノマー成分、例えば、前記脂環族ジオールや脂環族ジカルボン酸、及びこれらの反応性誘導体など)を併用してもよい。
【0037】
軟質ブロックを形成するポリエステルは、非晶性ポリエステル、例えば、脂肪族ジカルボン酸成分と脂肪族ジオール成分とのポリエステル(脂肪族ポリエステル)、ポリラクトン(前記ラクトンの開環重合体)などの脂肪族ポリエステルが好ましい。
【0038】
前記ポリエーテル型エラストマーの軟質ブロック(ソフトセグメント)は、少なくともポリエーテル単位を有していればよく、ポリエーテル[例えば、ポリオキシアルキレン単位を有する脂肪族ポリエーテル(前記ポリアルキレングリコール、好ましくはポリC2−6アルキレングリコールなど)など]やこのポリエーテルを用いたポリエステルなどで構成できる。前記ポリエーテルのうち、ポリエチレングリコール(ポリオキシエチレングリコール)、ポリプロピレングリコール(ポリオキシプロピレングリコール)、ポリテトラメチレングリコール(ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール)などのポリC2−4アルキレングリコールが好ましい。前記ポリエーテルを用いたポリエステルとしては、前記ポリエーテル(ポリオキシアルキレングリコールなど)と、ジカルボン酸成分[例えば、芳香族ジカルボン酸成分(例えば、テレフタル酸、イソフタル酸などのテレフタル酸および前記芳香族ジカルボン酸、およびこれらの反応性誘導体など)、非芳香族ジカルボン酸成分(例えば、前記脂肪族又は脂環族ジカルボン酸、及びこれらの反応性誘導体)など、特に芳香族ジカルボン酸成分(例えば、テレフタル酸などのC8−16芳香族ジカルボン酸およびその反応性誘導体など)]とのポリエステルなどが挙げられる。
【0039】
これらの軟質ブロックのうち、ポリエーテル単位(脂肪族ポリエーテル単位、脂肪族ポリエーテルを用いたポリエステル単位)、及び脂肪族ポリエステル単位から選択された少なくとも一種の単位を有する軟質ブロックが好ましい。
【0040】
ポリエステルエラストマー(B)の具体例としては、例えば、ポリエステル型ポリエステルエラストマー(すなわち、ポリエステル−ポリエステル型熱可塑性エラストマー){例えば、芳香族ポリエステル[例えば、ポリC2−4アルキレンアリレート(特にポリブチレンテレフタレート単位を有する単独重合体、又は共重合成分(エチレングリコール、イソフタル酸など)を共重合した共重合体)などの芳香族系結晶性ポリエステル又は液晶ポリエステル]で構成されたハードセグメントと、脂肪族ポリエステル(ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートなどのC2−6アルキレングリコールとC6−12アルカンジカルポン酸とのポリエステルなど)で構成されたソフトセグメントとのブロック共重合体}、ポリエーテル型ポリエステルエラストマー(すなわち、ポリエステルーポリエーテル型熱可塑性エラストマー){例えば、芳香族ポリエステル[例えば、前記芳香族系結晶性ポリエステル又は液晶ポリエステル]で構成されたハードセグメントと、ポリエーテル(又はポリエーテル単位、例えば、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのポリオキシC2−4アルキレングリコールなど)で構成されたソフトセグメント(ポリアルキレングリコールとジカルボン酸成分(例えば、芳香族ジカルボン酸成分)とのポリエステルなど)とのブロック共重合体]など}などが例示できる。
【0041】
前記ポリエステルエラストマー(B)のうち、(B−1)ポリアルキレンアリレートブロック(硬質ポリアルキレンアリレートブロック、例えば、ポリC2−4アルキレンアリレートブロック)と、(B−2)脂肪族ポリエステル[例えば、ポリラクトン(特に、ポリカプロラクトン)および脂肪族ジカルボン酸成分と脂肪族ジオール成分とのポリエステルから選択された少なくとも1種]又は脂肪族ポリエーテル(ポリC2−6アルキレングリコールなどのオキシC2−6アルキレン単位を有する脂肪族ポリエーテル)で構成された軟質ブロック[例えば、脂肪族ポリエステルで構成された軟質ポリエステルブロック、脂肪族ポリエーテルとジカルボン酸(例えば、芳香族ジカルボン酸)とのポリエステルで構成された軟質ポリエーテルブロックなど]とのブロック共重合体が好ましい。前記ポリエステルエラストマー(B)は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0042】
ポリエステルエラストマーにおいて、ハードセグメント(又は硬質成分)とソフトセグメント(又は軟質成分)との重量割合は、通常、前者/後者=10/90〜90/10、好ましくは20/80〜80/20、さらに好ましくは30/70〜70/30(例えば、40/60〜60/40)程度である。
【0043】
なお、ポリエステルエラストマー(B)は、柔軟性が必要とされる用途では、例えば、曲げ弾性率が、1000MPa以下、さらには50〜400MPa程度の範囲にあるのが好ましい。このような用途では、曲げ弾性率が小さすぎると、加工上の取り扱い性に問題が生じ、大きすぎると十分な柔軟性が得られない可能性がある。
【0044】
本発明の樹脂組成物において、ポリエステルエラストマー(B)の割合は、PBT系樹脂(A)およびポリエステルエラストマー(B)の合計100重量部に対して、例えば、1〜50重量%、好ましくは3〜45重量%、さらに好ましくは5〜40重量%程度であってもよい。上記範囲とすると、靭性向上効果と十分な機械的強度とを両立させるのに有利である。
【0045】
(C)環状ポリエステルオリゴマー
本発明の特色は、PBT系樹脂と環状ポリエステルオリゴマーとを組み合わせる点にある。通常、PBT系樹脂に流動性改良剤などを添加すると、流動性を向上できても、PBT系樹脂そのものが有する機械的強度などの特性の低下を避けることができない。本発明では、環状ポリエステルオリゴマーを使用することにより、前記特性を高いレベルで保持しつつPBT系樹脂組成物の流動性を効率よく向上できる。また、ポリエステルエラストマーと組み合わせることにより、樹脂組成物又はその成形品の靱性を向上でき、このような靱性の向上効果もまた、ポリエステルエラストマーの使用によっても低下することがないため、靱性と機械的強度の保持と、流動性の向上とをバランスよく両立させることができる。
【0046】
環状ポリエステルオリゴマー(C)(環状ポリエステル、環状エステル系オリゴマー)は、ポリエステル骨格を有する環状ポリマーであればよい。ポリエステル骨格(又はポリエステル骨格を構成するポリエステル)としては、芳香族ポリエステル、脂環族ポリエステル、脂肪族ポリエステルなどのいずれであってもよい。ポリエステル骨格は、通常、芳香族ポリエステルであってもよい。
【0047】
代表的な環状ポリエステルオリゴマーには、下記式で表される構造単位を有する化合物(特に環状芳香族ポリエステルオリゴマー)が含まれる。
【0048】
【化1】

【0049】
(式中、Rはアルキレン基又は二価の脂環式基、Aは二価の芳香族基又は脂環式基、nは1以上の整数を示す)
上記式において、アルキレン基Rとしては、例えば、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基などのC2−12アルキレン基(特に直鎖状C2−12アルキレン基)、好ましくはC2−8アルキレン基、さらに好ましくはC2−4アルキレン基などが挙げられる。また、上記式において、二価の脂環式基Rとしては、シクロアルキレン基R(例えば、1,4−シクロヘキシレン基などのC5−10シクロアルキレン基)、シクロアルカンジアルキレン基(例えば、1,4−シクロヘキサンジメチレン基などのC5−10シクロアルカン−ジC1−4アルキレン基など)などが挙げられる。また、nは、1以上であればよく、例えば、1〜10、好ましくは1〜5、さらに好ましくは1〜3、特に1であってもよい。なお、nが2以上であるとき、複数のRは同一又は異なるアルキレン基又はシクロアルキレン基で構成してもよい。
【0050】
また、上記式において、芳香族基Aとしては、フェニレン基(例えば、m−フェニレン基、p−フェニレン基など)、ナフチレン基(例えば、2,6−ナフチレン基など)などのC6−12アリーレン基、好ましくはC6−10アリーレン基、さらに好ましくはC6−8アリーレン基などが挙げられる。また、脂環式基Aとしては、例えば、シクロアルキレン基(例えば、1,4−シクロヘキシレン基などのC5−10シクロアルキレン基)などが挙げられる。
【0051】
好ましい環状ポリエステルオリゴマーには、環状ポリアルキレンアリレート[例えば、環状ポリエチレンテレフタレートオリゴマー、環状ポリプロピレンテレフタレートオリゴマー、環状ポリブチレンテレフタレート(ポリテトラメチレンテレフタレート)オリゴマーなどの環状ポリC2−6アルキレンテレフタレート;環状ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレートなど]が含まれ、特に、環状ポリアルキレンテレフタレートオリゴマー(特に、環状ポリブチレンテレフタレートなどの環状ポリC2−4アルキレンテレフタレート)が好ましい。
【0052】
環状ポリエステルオリゴマー(C)の平均重合度は、例えば、2〜30、好ましくは3〜25、さらに好ましくは5〜20(例えば、6〜18)程度であってもよく、通常8〜15程度であってもよい。特に、環状ポリエステルオリゴマーは、主要部分(例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおいてピークを示す領域)が重合度12までの重合度を有するオリゴマーであり、各種の重合度を有する環状オリゴマーの混合物であってもよい。
【0053】
環状ポリエステルオリゴマーの融点は、例えば、100〜250℃、好ましくは110〜220℃、さらに好ましくは120〜210℃(例えば、130〜200℃)程度であってもよい。
【0054】
なお、環状ポリエステルオリゴマーは、公知の方法[例えば、対応するジオールおよびジカルボン酸ハライド(塩化テレフタロイルなど)を立体障害のないアミン存在下で縮合させる方法;特開平8−225633号公報に記載の方法(ビス−ヒドロキシアルキル末端ジエステル又はオリゴマーを高沸点溶媒及びエステル化に接触させる方法);特開平8−19962号公報(特許第3426064号)に記載の方法;特表2004−507599号公報に記載の方法;特開2002−317041号公報に記載の方法など]を利用して製造したものを使用してもよく、市販品を使用することもできる。例えば、環状ポリエステルオリゴマー(環状ポリブチレンテレフタレートオリゴマー)は、サイクリクス・コーポレイション(Cyclics Corporation)社製、「CBT」などとして入手可能である。
【0055】
環状ポリエステルオリゴマー(C)の割合は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)およびポリエステルエラストマー(B)の合計100重量部に対して、例えば、0.01〜20重量部(例えば、0.03〜18重量部)、好ましくは0.05〜15重量部、さらに好ましくは0.1〜12重量部程度であってもよく、通常0.01〜10重量部程度であってもよい。本発明では、環状オリゴマー(C)を用いることで、PBT系樹脂組成物の流動性を効率よく向上できる。
【0056】
なお、環状ポリエステルオリゴマーの割合が少なすぎると流動性の向上効果が十分に得られなかったり、多すぎると成形に伴ってガス発生量が多くなり、成形品の外観を損ねたり、金型汚れを生じる可能性がある。
【0057】
なお、本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、他の樹脂(熱可塑性樹脂など)、種々の添加剤を含んでいてもよい。他の樹脂としては、例えば、PBT系樹脂以外のポリエステル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリアリーレンオキシド、ポリアリーレンサルファィド、フッ素樹脂などが例示される。これらの他の樹脂は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0058】
また、添加剤としては、充填剤、安定剤(酸化防止剤又は抗酸化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、着色剤(染料や顔料など)、潤滑剤、可塑剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、ドリッピング防止剤などが例示される。
【0059】
充填剤(又は補強剤)としては、無機充填剤[例えば、繊維状充填剤(ガラス繊維、ミルドガラスファイバー、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラスバルーン、シリカ、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、チタン酸カリウム繊維、カーボン繊維などの無機質繊維)、板状又は粉粒状充填剤(例えば、カーボンブラック、黒鉛、珪酸カルシウム・珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレーなどの珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、アルミナなどの金属酸化物、カルシウム、マグネシウム、亜鉛などの金属の炭酸塩や硫酸塩、さらには炭化珪素、窒化珪素、窒化ホウ素など)など]、有機充填材(例えば、高融点の芳香族ポリエステル繊維、液晶性ポリエステル繊維、芳香族ポリアミド繊維、フッ素樹脂繊維、ポリイミド繊維など)などが例示される。また、本発明の樹脂組成物においては燃焼時の滴下防止剤(ドリッピング剤)として、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系化合物を好適に使用してもよい。これらの添加剤は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0060】
充填剤の割合は、例えば、PBT系樹脂(A)およびポリエステルエラストマー(B)の合計100重量部に対して、例えば、10〜100重量部程度が一般的である。
【0061】
本発明のPBT系樹脂組成物は、粉粒体混合物や溶融混合物(ペレットなど)であってもよい。特に、本発明の樹脂組成物は、溶融流動性に優れているため、各成分[PBT系樹脂(A)、ポリエステルエラストマー(B)、環状ポリエステルオリゴマー(C)、および(さらに必要により、充填剤、他の樹脂などの他の成分)]を溶融混合物(溶融混練物)として効率よく得ることができる。溶融混合物は、慣用の方法により各成分を溶融混練することにより製造できる。また、本発明の樹脂組成物は、混合物(例えば、粉粒体又は溶融混合物)の形態でそのまま成形体の製造に供してもよい。
【0062】
そして、このような本発明の樹脂組成物の流動性は、一定のピストンフロー剪断速度下の条件のもとでの溶融粘度を指標として反映させることができる。例えば、本発明の樹脂組成物の溶融粘度は、温度260℃および剪断速度1000sec−1において、160Pa・s以下、好ましくは155Pa・s以下、さらに好ましくは150Pa・s以下(例えば、50〜148Pa・s程度)とすることもできる。測定結果は、上記のようにPa・s単位にて得られるが、数値の低いほうが溶融時の流動性に優れ、成型時の流動性に優れるとされる。測定条件としては、例えば、260℃、キャピラリーφ1mm×20mmL、剪断速度1000sec−1が用いられる。
【0063】
なお、一般には、流動性の指標として、ASTM D−1238で235℃、荷重2160gの条件で測定するメルトインデックスが用いられるが、メルトインデックスの測定は一定荷重下での測定となり、樹脂によりピストンの剪断速度は異なってくる。これに対し、一定のピストンフローの下での溶融粘度測定指標のほうが、実際の射出成形が一定のピストンフローで行われることを考慮するとより実際の流動特性により近い指標であると考えられるため、本発明ではこのような一定剪断速度条件における溶融粘度を流動性の指標とする。
【0064】
[成形体]
本発明の樹脂組成物は、前記のように溶融流動性に優れているため、成形加工性が良好であり、機械的強度や耐熱性の高い成形体又は成形品を製造するのに有用である。
【0065】
成形体(又は成形品)は、各成分[すなわち、PBT系樹脂(A)と、ポリエステルエラストマー(B)と、環状ポリエステルオリゴマー(C)と(さらに必要により、充填剤、他の樹脂などの他の成分と)]で構成された前記樹脂組成物を慣用の方法で成形することにより製造できる。例えば、本発明の成形体は、(1)各成分を混合して、押出機(一軸又は二軸押出機)により混練し押出してペレットを調製した後、成形する方法、(2)一旦、組成の異なるペレット(マスターバッチ)を調製し、そのペレットを所定量混合(希釈)して成形に供し、所定の組成の成形品を得る方法、(3)成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法などで製造できる。また、樹脂成分の一部を細かい粉体としてこれ以外の成分と混合し添加することは、これらの成分の均一配合を行う上で好ましい方法である。また、前記充填剤などは、任意の時期に添加し、所望の組成物を得ることも可能である。
【0066】
成形体は、前記PBT系樹脂組成物を溶融混練し、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、回転成形、ガスインジェクションモールディングなどの慣用の方法で容易に成形できる。成形体は、特に、射出成形により成形された成形品(射出成形品)であるのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の樹脂組成物は、機械的強度、耐熱性などの特性に優れているとともに、流動性に優れているので、各種用途に適用できる。特に、ポリエステルエラストマーを含んでいるため、高い靱性を有し、このような靱性および機械的強度に優れた樹脂組成物(又はその成形体)は、電気又は電子部品に好適である。電気又は電子部品としては、例えば、コネクター、スイッチ、コンデンサー、集積回路(IC)、リレー、抵抗器、発光ダイオード(LED)、コイルボビンおよびその周辺機器、ハウジングである射出成形品などが挙げられる。
【実施例】
【0068】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0069】
(実施例1〜7および比較例1〜5)
表に示す混合比率で各成分を、ドライブレンドし、30mmφのスクリューを有する2軸押出機((株)日本製鋼製)を用いて、250℃で溶融混練したのちペレット化した。得られたペレットを用いて、表に示す各評価を行った。結果を表に示す。
【0070】
なお、使用した各成分の詳細は以下の通りである。
【0071】
(A)ボリブチレンテレフタレート系樹脂
(A−1)ポリブチレンテレフタレート(固有粘度IV=0.69dL/g、ウィンテックポリマー(株)製)
(A−2)ポリブチレンテレフタレート(固有粘度IV=0.875dL/g、ウィンテックポリマー(株)製)
(B)ポリエステルエラストマー;
(B−1)「ペルプレンS2002」(東洋紡(株)製)
(B−2)「ペルプレンGP300」(東洋紡(株)製)
(C)環状ポリエステルオリゴマー;
環状ポリブチレンテレフタレートオリゴマー(サイクリクスコーポレイション社製、「CBT」(Cyclie butyleneterephthalate)、融点140〜190℃)
(D)充填剤;
ガラス繊維(日本電気硝子(株)製、「ECSO3T187」)。
【0072】
なお、本発明においてガラス繊維は必須成分ではないが、強度向上のために添加されることも多く、実施例8および比較例4にはガラス繊維を添加した例を記載した。
【0073】
また、各評価は以下のようにして測定又は評価した。
【0074】
(溶融粘度)
キャピログラフ1B((株)東洋精機製作所製)を用いて、得られたペレットを140℃で3時間乾燥後、炉体温度260℃、キャピラリーφ1mm×20mmLにて、剪断速度1000sec−1にて測定した。溶融粘度数値が低いほど流動性に優れる。
【0075】
(引張強さ、伸び)
得られたペレットを140℃で3時間乾燥後、成形温度260℃、金型温度80℃で、射出成形を行った。射出成形により得たISO3167引張試験片について、ISO527−1、2に定められている評価基準に従い評価した。なお、伸びが80%を超えるものについては「>80」と示した。
【0076】
実施例及び比較例の結果を表に示す。
【0077】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)と、ポリエステルエラストマー(B)と、環状ポリエステルオリゴマー(C)とで構成されているポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物。
【請求項2】
ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)の固有粘度が0.6〜1.3dL/gである請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
ポリエステルエラストマー(B)が、硬質成分としてポリアルキレンアリレートブロックを含むブロック共重合体である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項4】
環状ポリエステルオリゴマー(C)が、環状ポリアルキレンテレフタレートオリゴマーである請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項5】
環状ポリエステルオリゴマー(C)の割合が、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(A)50〜99重量%およびポリエステルエラストマー(B)1〜50重量%の合計100重量部に対して、0.01〜10重量部である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項6】
温度260℃および剪断速度1000sec−1における溶融粘度が160Pa・s以下である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1記載の樹脂組成物で形成された射出成形品であって、電気又は電子部品である射出成形品。

【公開番号】特開2008−156381(P2008−156381A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343273(P2006−343273)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(501183161)ウィンテックポリマー株式会社 (54)
【Fターム(参考)】