説明

ポリプロピレン系樹脂発泡体

【課題】安価な材料から発泡倍率の高いポリプロピレン系樹脂発泡体を製造することが可能な技術を提供する。
【解決手段】溶融張力(230℃,引き取り速度2m/min)が100mN以下、190℃における損失正接が周波数0.02rad/sにおいて0.5〜2.0であるポリプロピレン系樹脂組成物を押出発泡することによってポリプロピレン系樹脂発泡体を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリプロピレン系樹脂組成物を押出発泡することによって得られる発泡体に関し、さらに詳述すると、安価な材料から得られる発泡倍率の高いポリプロピレン系樹脂発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンはリサイクル性が高く、汎用樹脂の中では高い強度と耐熱性を持つため、さまざまな発泡体用樹脂の代替候補として期待されている。しかし、ポリプロピレンは溶融張力が低いため、気泡成長時に気泡壁が破れやすく、高い発泡倍率を得ることが困難であった。そこで、高い発泡倍率を得るために、高い溶融張力をもつポリプロピレン(以下、高溶融張力ポリプロピレンと言う)が開発されてきた(例えば、特許文献1〜6参照)。なお、高い溶融張力を一概に数値で限定することは困難であるが、ここでは100mNを超える溶融張力を目安とする。
【0003】
【特許文献1】特開平5−214184号公報(段落0005等)
【特許文献2】特開平6−157666号公報(段落0006等)
【特許文献3】特開平6−263823号公報(段落0006等)
【特許文献4】特開平11−246716号公報(段落0007等)
【特許文献5】特開2001−316510号公報(請求項1等)
【特許文献6】特開2001−518533号広報(段落0014等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、ポリプロピレンにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を混合して溶融張力を高めることが提案されている。しかし、特許文献1の技術では、ポリプロピレンに高価なPTFEを混ぜるため材料コストが高くなる上、樹脂中のPTFEの分散不良に起因する問題が生じることがあった。
【0005】
特許文献2および特許文献3では、ポリプロピレンに過酸化物を混ぜて架橋反応させることによって高溶融張力ポリプロピレンを得ている。しかし、特許文献2、3の技術では、過度な架橋を抑えるための厳密な温度および時間の管理と、押し出し後に押出機内の樹脂を完全にパージすることが必要であり、手間と時間を要していた。
【0006】
特許文献4では、プロピレンとブテン−1との共重合体に電子線を照射してわずかに架橋させることで、高溶融張力のポリプロピレンを得ている。しかし、特許文献4の技術では、後照射による手間と、高価な電子線照射装置が必要なことから、ポリプロピレンの価格が上昇するものであった。
【0007】
特許文献5では、架橋反応や添加剤によらず、ポリマー重合時に特殊な触媒を用い、プロピレンとα,ω−ジエンとを共重合させることで高溶融張力ポリプロピレンを得ている。しかし、特許文献5の技術では、特殊な触媒を用いて樹脂組成物を合成することから、ポリプロピレンの価格を抑えることは困難であった。
【0008】
特許文献6では、上記と同様に架橋反応や添加剤を使用せず、少なくとも2つの重合段階において異なった量の分子量調整剤を用い、2段階重合工程中においてポリマーの分子量分布を適切に調整することにより高溶融張力ポリプロピレンを得ている。しかし、特許文献6の技術では、少なくとも2段階の重合工程が必要なため、やはり手間とコストを要していた。
【0009】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたもので、安価な材料から発泡倍率の高いポリプロピレン系樹脂発泡体を製造することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成するために種々検討を行った結果、特定の温度および周波数における損失正接の値が特定の範囲にあるポリプロピレン系樹脂組成物を発泡材料として用いた場合、ポリプロピレン系樹脂組成物の溶融張力が低くても、発泡倍率を高めることができることを見出した。
【0011】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、下記(1)〜(4)に示すポリプロピレン系樹脂発泡体を提供する。
(1)溶融張力(230℃,引き取り速度2m/min)が100mN以下、190℃における損失正接が周波数0.02rad/sにおいて0.5〜2.0であるポリプロピレン系樹脂組成物を押出発泡することによって得られることを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡体。
(2)前記ポリプロピレン系樹脂組成物のMFR(230℃,2.16kgf)が0.1〜10g/10minであることを特徴とする(1)のポリプロピレン系樹脂発泡体。
(3)前記ポリプロピレン系樹脂発泡体の発泡倍率が30〜40倍であることを特徴とする(1)または(2)のポリプロピレン系樹脂発泡体。
(4)発泡剤が炭酸ガスであることを特徴とする(1)〜(3)のポリプロピレン系樹脂発泡体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特定の条件を満たすポリプロピレン系樹脂組成物を押出発泡することにより、安価な溶融張力の低いポリプロピレン系樹脂組成物を発泡材料として、発泡倍率の高い発泡体を得ることができる。すなわち、本発明では、溶融張力が100mN以下の汎用PPを用いることができるため、発泡倍率の高い発泡体を安価に得ることができる。また、ポリプロピレン系樹脂組成物を発泡させるため、耐熱性が高い発泡体を得ることができる。さらに、発泡剤として炭酸スを使用した場合、炭酸ガスはブタンなどと異なり爆発の危険がないので、爆発の危険性なく発泡体製造装置を安全に運転できるという利点が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明につきさらに詳しく説明する。本発明は、樹脂温度190℃、周波数0.02rad/sにおける損失正接の値が0.5〜2.0の範囲にあるポリプロピレン系樹脂組成物であれば、溶融張力が低くても、発泡倍率を高めることができることを見出したものである。その詳細なメカニズムは不明であるが、次のように考えられる。すなわち、周波数0.02rad/sにおける損失正接が小さいということは、中〜長時間の緩和成分の存在が示唆される。この成分は、気泡が成長したときに破泡を抑える役割をする。しかし、そのような成分が多すぎる(損失正接が小さすぎる)と、メルトフラクチャーなどの押し出し不安定性を招き、表面平滑性が損なわれる。逆にそのような成分が少なすぎる(損失正接が大きすぎる)と、破泡を抑えることができないので、発泡倍率は低くなる。よって、樹脂温度190℃、周波数0.02rad/sにおける損失正接には適切な値の範囲があり、本発明では実験的に0.5〜2.0とした。発泡体の表面平滑性と破泡を抑える力とのバランスを考慮すると、損失正接の範囲は0.6〜1.6であればより好ましく、0.8〜1.3であればさらに好ましい。なお、損失正接(損失係数)とは、貯蔵剪断弾性率(G’)と損失剪断弾性率(G”)との比(G”/G’)であり、tanδで表される。
【0014】
本発明では、ポリプロピレン系樹脂組成物の230℃,2.16kgfでのMFR(メルトフローレート)が、0.1〜10g/10minの範囲にあることが望ましい。MFRが高すぎると、ダイ圧が低下するので樹脂中にガスを溶解させることが困難になり、MFRが低すぎると、押出成形性が著しく損なわれるからである。ダイ圧と成形性のバランスを考慮すると、MFRの範囲は0.5〜7g/10minであればより好ましく、1.0〜3g/10minであればさらに好ましい。
【0015】
本発明において、ポリプロピレン系樹脂発泡体の発泡倍率は、30〜40倍とすることが適当であり、これにより高発泡倍率のポリプロピレン系樹脂発泡体を得ることができる。発泡倍率が30倍未満であると用途によっては断熱性や緩衝性が不足することがあり、40倍を超えると用途によっては強度不足になることがあるからである。
【0016】
本発明では、発泡剤として炭酸ガスを使用することが好ましい。これにより、爆発の危険性なく発泡体製造装置を安全に運転できるという利点が得られる。
【0017】
本発明において、ポリプロピレン系樹脂組成物としては、ポリプロピレンホモポリマーや、プロピレンと他の成分との共重合体を含むもの挙げられる。上記共重合体としては、プロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−エチレンランダム共重合体等が挙げられるが、これらに限られるものではない。
【0018】
また、本発明において、上記ポリプロピレン系樹脂組成物には、必要に応じて気泡核剤、熱安定剤、加工助剤、滑剤、衝撃改質剤、充填剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料等の各種添加剤が適宜添加されてもよい。
【0019】
ここで、本発明に係るポリプロピレン系樹脂発泡体の製造装置の一例を示すが、本発明発泡体の製造装置は下記装置に限られるものではない。図1は上記製造装置の概略図である。図中1は押出機を示す。押出機1には、ホッパー2、ガス供給ポート3、ダイ4が設置されている。また、図中5はガス供給ポート3に接続されたガス供給管、6はガス供給管5に接続された炭酸ガスボンベ、7はガス供給管5に介装されたガス流量制御装置を示す。押出機1には、樹脂を完全に溶融させるとともに、ガスを樹脂中に均一に分散させる役割がある。押出機1には、単軸押出機単体を用いてもよいが、ダイ出口において樹脂を十分に冷却するために、押出機を二台直列につないだタンデム押出機を用いた方が望ましい。押出機(タンデム押出機の場合は1段目の押出機)のL/Dは30以上であることが望ましい。
【0020】
次に、図1を参照して、本発明に係るポリプロピレン系樹脂発泡体の製造方法の一例を示すが、本発明発泡体の製造方法は下記方法に限られるものではない。まず、ドライブレンドした樹脂および添加剤の混合物(以下、単に樹脂という)を押出機1のホッパー2に供給する。樹脂は押出機1内のスクリューの回転に伴い押出機1のバレル内を溶融しながら前進していく。一方、押出機1のバレルの中程に設置されたガス供給ポート3において、ガス流量制御装置7で制御された所定量の炭酸ガスがガス供給管5から押出機1に供給される。溶融した樹脂とガスはガス供給ポートで接触し、押出機1内の高い圧力によりガスは樹脂中に溶解していく。押出機1内で均質に混合された樹脂とガスの混合物は、ダイ4から押し出されると同時に発泡する。こうして発泡体8を得ることができる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものでない。まず、実施例、比較例における測定項目について説明する。
【0022】
(溶融張力)
溶融張力の測定は、東洋精機製キャピログラフ1Cに直径2mm、長さ8mmのダイを設置して行った。条件は、ダイの温度230℃、ヘッドスピード20mm/min、引き取り速度2m/minとした。
【0023】
(発泡倍率)
発泡倍率は、発泡前の樹脂の比重を、水中置換法(JIS K 7112)にて測定した発泡体の比重で割った値である。発泡体の比重の測定には、メトラードレド社製の電子天秤AG204を使用した。
【0024】
(樹脂温度)
樹脂温度は、押出機のダイの出口から上流側50mmの地点に設けられた熱電対で測定された温度である。熱電対には、Dynisco社製のオートプローブ2を使用した。
【0025】
(ガス濃度)
ガス濃度は、マスフローメータで測定したガス流量[g/min]を吐出量[g/min]で割って100を乗じた値として算出した。ガス流量の測定には、Oval社製のD006H−SS−200を使用した。
【0026】
(損失正接)
tanδの測定には、TAインスツルメント社製のARES粘弾性試験装置を用いた。測定方法は次のとおりとした。まず、直径25mmのパラレルプレート2枚の間に測定する樹脂を静置し、所定の温度で樹脂を溶融させてからプレートのギャップを2mmにセットした。温度は175℃,190℃,210℃,230℃の4水準を用いた。次に、0.3〜100rad/s(230℃のみ0.05〜100rad/s)の周波数で5.0%の歪を与え、tanδを測定した。得られたtanδの値を温度時間換算則にしたがって190℃を中心に重ね合わせ、最終的に0.02〜120rad/sの周波数範囲にわたるtanδのグラフを得た。
【0027】
次に、実施例、比較例を示す。実施例、比較例における樹脂PP1〜PP6としては、樹脂温度190℃、周波数(ω)0.02rad/sにおける損失正接(tanδ)が図2に示す値のものを用いた。PP1〜PP3は上記損失正接が0.5〜2.0の範囲のもの、PP4〜PP6は上記損失正接が2.0を超えるものである。
【0028】
(実施例1)
表1に示す樹脂(PP1)100質量部に対して気泡核剤としてタルクマスターバッチ(日本タルク社製タルペット70P:商品名)を1.4質量部(樹脂に対してタルクが約1質量部となる)混合した組成物を、図1と同様な押出機のホッパーに供給し、押出機のバレルの中間に設けられたガス供給口から炭酸ガスを組成物に対し8wt%の割合で供給した。押出機の温度は、ホッパーから押出機の中心部にかけて170〜190℃に設定し、その後段階的に温度を下げ、ダイ出口における樹脂温度が155℃になるように設定した。ダイは直径2mm、ランド長2mmのストランドダイを用いた。得られた発泡体の発泡倍率を前述の方法で測定して記録した。
【0029】
(実施例2)
樹脂を表1に示す樹脂(PP2)に変更し、実施例1と同様な方法でストランド状発泡体を作製し、得られた発泡体の発泡倍率を実施例1と同様の方法で算出した。
【0030】
(実施例3)
樹脂を表1に示す樹脂(PP3)に変更し、実施例1と同様な方法でストランド状発泡体を作製し、得られた発泡体の発泡倍率を実施例1と同様の方法で算出した。
【0031】
(比較例1)
樹脂を表1に示す樹脂(PP4)に変更し、実施例1と同様な方法でストランド状発泡体を作製し、得られた発泡体の発泡倍率を実施例1と同様の方法で算出した。
【0032】
(比較例2)
樹脂を表1に示す樹脂(PP5)に変更し、実施例1と同様な方法でストランド状発泡体を作製し、得られた発泡体の発泡倍率を実施例1と同様の方法で算出した。
【0033】
(比較例3)
樹脂を表1に示す樹脂(PP6)に変更し、実施例1と同様な方法でストランド状発泡体を作製し、得られた発泡体の発泡倍率を実施例1と同様の方法で算出した。
【0034】
樹脂の物性および発泡倍率の測定結果を表1に示す。表1より、樹脂温度190℃、周波数0.02rad/sにおける損失正接が0.5〜2.0の範囲のポリプロピレン系樹脂組成物によれば、発泡倍率が30倍以上の高発泡倍率の発泡体が得られることがわかる。これに対し、上記損失正接が2.0を超えるポリプロピレン系樹脂組成物は、発泡倍率が30倍未満の発泡体しか得られなかったり、発泡体が得られなかったりするものであった。
【0035】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係るポリプロピレン系樹脂発泡体の製造装置の一例を示す概略図である。
【図2】実施例、比較例で用いた樹脂の損失正接を示すグラフである。
【符号の説明】
【0037】
1 押出機
2 ホッパー
3 ガス供給ポート
4 ダイ
5 ガス供給管
6 炭酸ガスボンベ
7 ガス流量制御装置
8 発泡体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融張力(230℃,引き取り速度2m/min)が100mN以下、190℃における損失正接が周波数0.02rad/sにおいて0.5〜2.0であるポリプロピレン系樹脂組成物を押出発泡することによって得られることを特徴とするポリプロピレン系樹脂発泡体。
【請求項2】
前記ポリプロピレン系樹脂組成物のMFR(230℃,2.16kgf)が0.1〜10g/10minであることを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂発泡体。
【請求項3】
前記ポリプロピレン系樹脂発泡体の発泡倍率が30〜40倍であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡体。
【請求項4】
発泡剤が炭酸ガスであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−29900(P2009−29900A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−194318(P2007−194318)
【出願日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】