説明

ポリプロピレン系樹脂組成物、並びにそれを用いた延伸性フイルムもしくは延伸性シート

【課題】透明性を悪化させることなく、耐衝撃性、耐寒性、延伸性が改良されたポリプロピレン系樹脂組成物ならびにそれを用いた延伸性フイルムもしくは延伸性シートの提供。
【解決手段】MFRが0.01〜500g/10分、DSCによって得られる融点が110〜170℃のである高立体規則性プロピレン単独重合体および/またはプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体(a):50〜99重量%、およびMFRが0.01〜1000g/10分、DSCにおい、温度20〜200℃の間に吸熱ピークが観測されず、固体粘弾性測定によって得られるガラス転移温度が−10℃以下であるプロピレン系重合体(b):1〜50重量%からなり、固体粘弾性測定において0℃以下に単独のガラス転移温度を有し、組成物の引張試験において引張破断点歪みL[%]が300以上であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン系樹脂組成物及びそれを用いた延伸性フイルムもしくは延伸性シートに関し、詳しくは、高立体規則性プロピレン単独重合体および/またはプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体成分と、特定の特性を有する軟質プロピレン系重合体成分からなり、耐衝撃性、透明性において優位であり、延伸性が大幅に改良されたプロピレン系樹脂組成物及びそれを用いた延伸性フイルムもしくは延伸性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンは、剛性、強度に優れ、各種射出成形、ブロー、フィルム、シートなどの成形法に広く使用されてきた。その一方で、剛性が高いがゆえに材料が脆性的に破壊しやすく、耐衝撃性や耐寒性あるいは延伸性が不十分であり、従来よりこれらを改良すべく、様々な改良がなされてきた。例えば、プロピレン系樹脂に、エチレン・α−オレフィン共重合体に代表されるエラストマー成分を加えて耐衝撃性を向上させたりすることは良く行われる手法である。また、プロピレン成分とエチレン・プロピレン共重合体成分を連続的に重合することで得られる、いわゆるブロック共重合体あるいはインパクトポリプロピレンと称されるものは、剛性と耐衝撃性の良好なバランスの材料を提供する。さらにエチレン・α−オレフィン共重合体のガラス転移温度が低いことから、耐寒性も向上する。
しかしながら、これらの手法においては、耐衝撃性を向上させるために必要なエチレン・α−オレフィン共重合体成分が、ポリプロピレン成分との相溶性が悪いために、材料内で所謂相分離構造を形成し、そのため、透明性については寧ろ悪化し、延伸性についても十分なものではなかった。
【0003】
一方で、ポリプロピレンの立体規則性を低下させることで、軟質なプロピレン単独重合体を得て、これを通常のポリプロピレン系樹脂の改質材として用いる手法は公知である(例えば、特許文献1〜2参照。)。しかしながら、立体規則性を低下させたポリプロピレンは、ガラス転移温度が、通常の高立体規則性のポリプロピレンと殆ど変わらないために、耐寒性の向上は望むことができない。
これとは異なり、ポリマー主鎖中のプロピレン連鎖の中に異種結合と呼ばれる構造欠陥を導入することで、ガラス転移温度を効率的に低下させた軟質なポリプロピレン単独重合体が得られることが知られている(例えば、特許文献3〜5参照。)。
このうち特許文献4においては、特定の異種結合の割合および立体規則性の割合を有するポリプロピレン系単独重合体が開示されており、該成分を低温の衝撃性改良材として用いる技術が開示されている。しかしながら、この技術においては特定の異種結合の割合および立体規則性の割合を有するポリプロピレン系単独重合体のガラス転移温度が低いことだけをもって、この成分を含む低温での衝撃が改良された熱可塑性樹脂組成物全体を広く含めてしまうものであり、実際の組成物が耐寒性を得るために必要な組成物の構成が規定されていない。また、材料の他の力学特性、例えば透明性や延伸性を維持あるいは向上させるために必要な技術については全く言及されていない。したがって、このように従来の技術では、透明性を悪化させることなく、ポリプロピレン系樹脂の耐衝撃性、耐寒性、延伸性を全て向上させることは困難であった。
【特許文献1】特開平3−14851号公報
【特許文献2】特開2003−41074号公報
【特許文献3】特開平5−306304号公報
【特許文献4】特開2001−192412号公報
【特許文献5】特開2003−292517号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記のような現状を踏まえ、透明性を悪化させることなく、耐衝撃性、耐寒性、延伸性が改良されたポリプロピレン系樹脂組成物ならびにそれを用いた延伸性フイルムもしくは延伸性シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリオレフィン系の樹脂組成物は、組成物の相分離構造や結晶構造の相違で大きくその力学物性を変えるものであり、これらは組成物を構成する各樹脂成分の分子量や結晶性、或いは成分間の熱力学的な相互作用によって支配されるものであるので、組成物を規定するに当たっては、少なくともこれらの効果について考慮しなくては、所望の特性を有する樹脂組成物を得ることはできないものであるという基本的考えに基づき、ポリプロピレン系樹脂と異種結合を多く含む特定の特性を有するプロピレン単独重合体との組成物によって組成物の耐寒性のみならず、透明性、耐衝撃性、延伸性を全て向上させるような組成物の相構造を規定し、そのような構造を得るために組成物を構成する各成分の分子量、結晶性、異種結合の範囲を限定することで、上記物性を全て向上させるための必要な条件を見出して、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、下記(a−1)〜(a−2)の特性を満たす高立体規則性プロピレン単独重合体および/またはプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体(a)50〜99重量%、及び下記(b−1)〜(b−3)の特性を満たす95重量%以上のプロピレンを含有するプロピレン系重合体(b)1〜50重量%を含有するポリプロピレン系樹脂組成物であって、下記(i)および(ii)の特性を満足することを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物が提供される。
成分(a):
(a−1)230℃で測定したメルトフローレート(MFR)が0.01〜500g/10分の範囲である
(a−2)示差走査熱量測定DSCによって得られる融点が110〜170℃である
成分(b):
(b−1)230℃で測定したメルトフローレート(MFR)が0.01〜1000g/10分の範囲である
(b−2)示差走査熱量測定DSCにおいて、温度20〜200℃の間に吸熱ピークが観測されない
(b−3)固体粘弾性測定によって得られるガラス転移温度が−10℃以下である
樹脂組成物:
(i)固体粘弾性測定において、0℃以下に単独のガラス転移温度を有する
(ii)組成物の引張試験において引張破断点歪みL[%]が300以上である
【0007】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、成分(b)がプロピレン単独重合体であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物が提供される。
【0008】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、成分(a)の(a−1)230℃で測定したメルトフローレート(MFR)が0.1〜200g/10分であり、成分(b)の(b−1)230℃で測定したメルトフローレート(MFR)が0.1〜500g/10分であることを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物が提供される。
【0009】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、成分(a)および(b)がメタロセン系触媒によって重合され、それぞれがさらに下記(a−3)、(b−4)の特性を満たすことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物が提供される。
(a−3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量分布Mw/Mnが1〜4の範囲である
(b−4)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量分布Mw/Mnが1〜4の範囲である
【0010】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、成分(b)が、さらに下記(b−5)の特性を満たすことを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物が提供される。
(b−5)13C−NMR測定から得られる、式(1)で示されるK値が5〜20の範囲であり、かつ式(2)で示されるM値が10〜70の範囲である
【0011】
【数1】

【0012】
【数2】

【0013】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明のポリプロピレン系樹脂組成物からなる延伸性フイルムもしくは延伸性シートが提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、それぞれ特定の特性を有する高立体規則性ポリプロピレン系樹脂成分(a)と軟質プロピレン重合体成分(b)から製造されているので、従来に比べて透明性、耐衝撃性、耐寒性、特に延伸性が改良された組成物である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本明のポリプロピレン系樹脂組成物は、(a)高立体規則性のプロピレン単独重合体および/またはプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体と(b)プロピレン系重合体を含有する組成物である。以下に、本発明の組成物が満たすべき特性及び組成物を構成する成分(a)、(b)の各々の構成要件を中心に具体的に詳しく記述する。
【0016】
1.プロピレン系樹脂組成物の構成成分
(1)成分(a)
本発明のプロピレン系樹脂組成物で用いる成分(a)は、高立体規則性プロピレン単独重合体および/またはプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体である。ここで、α−オレフィンとは、エチレンまたは炭素数4〜10の各種のオレフィンが使用できるが、なかでもエチレンが好ましい。ただし、本発明の主旨を逸脱しない限り、微量のその他のコモノマーを含有するものであっても良い。
成分(a)としては、下記の特性(a−1)、(a−2)、必要に応じて(a−3)の特性を満足する限り、プロピレン単独重合体、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体のいずれかを単独で使用しても良いし、これらの群から複数を選んで任意の配合比率で配合した組成物であっても良い。下記の特性(a−1)のMFR、(a−2)の融点は主成分が(a)成分であるので、ポリプロピレン系樹脂組成物の剛性や耐熱性および成形性をある程度確保するために、必須の特性である。
【0017】
特性(a−1):MFR
本発明で用いる成分(a)の230℃で測定したメルトフローレート(MFR)は、0.01〜500g/10分の範囲であることが必要であり、好ましくは0.1〜200g/10分、より好ましくは0.1〜50g/10分である。MFRがこの範囲であることにより、得られるポリプロピレン系樹脂組成物は、延伸性に優れ、特にフィルム、シート用途に好適に用いることができる。
ここで、MFRは、JIS K7210 A法に準拠して測定する値である。
【0018】
特性(a−2)融点
本発明で用いる成分(a)の示差走査熱量測定DSCによって得られる融点は、110〜170℃の範囲であり、好ましくは120〜170℃の範囲である。融点が110℃未満であると耐熱性において劣るものであり、170℃を超えるものは実質的に製造が困難である。
ここで、融点は、市販の示差走査熱量(DSC)測定によって、試料5.0mgを採り、200℃で5分間保持した後、20℃まで10℃/分の降温速度で結晶化させ、さらに10℃/分の昇温速度で融解させたときの融解ピーク温度とする。
【0019】
特性(a−3)Mw/Mn
本発明で用いる成分(a)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量分布Mw/Mnは、1〜4が好ましく、より好ましくは2.0〜3.8である。Mwが1未満のものは理論上製造不能であり、4を超えるものは即ち平均分子量で規定されるよりも極めて大きな或いは小さな分子量の分子が混在することを意味し、これらの成分の存在は成形性や延伸性において好ましくない影響を与える。
なお、Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量を表す。
ここで、GPC測定で得られる保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行うものとし、使用する標準ポリスチレンは何れも東ソー(株)製の以下の銘柄である、F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000を用いた。
各々が0.5mg/mLとなるようにo−ジクロロベンゼン(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.2mL注入して較正曲線を作成する。
較正曲線は最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。分子量への換算に使用する粘度式の[η]=K×Mαは、以下の数値を用いる。
PS:K=1.38×10−4 α=0.7
PP:K=1.03×10−4 α=0.78
なお、GPCの測定条件は以下の通りである。
装置:WATERS社製 GPC(ALC/GPC 150C)
検出器:FOXBORO社製 MIRAN 1A IR検出器(測定波長:3.42μm)
カラム:昭和電工社製AD806M/S(3本)
移動相溶媒:o−ジクロロベンゼン
測定温度:140℃
流速:1.0ml/分
注入量:0.2ml
試料の調製:試料はo−ジクロロベンゼン(0.5mg/mLのBHTを含む)を用いて1mg/mLの溶液を調製し、140℃で約1時間を要して溶解させる。
測定によって得られたクロマトグラムから公知の手法によってMwおよびMnを求め、その比で定義される分子量分布を計算する。
【0020】
本発明で用いる成分(a)は、さらに、耐熱性の観点から高立体規則性であることが必要であるが、成分(a)としては、これらの範囲を満たすものであれば、重合触媒や製造プロセスは特に制限なく、市販されている従来公知のポリプロピレン単独重合体、ランダム共重合体樹脂を使用することができる。
【0021】
本発明で用いる成分(a)は、上記特性を満たすものであればその製造方法は特に制限されず、従来公知の種々の触媒を用いて製造することが可能であるが、本発明の樹脂組成物が延伸性に優れることを特徴とするため、延伸性に悪影響を及ぼす低分子量成分の生成量が少ないメタロセン触媒を用いることが好ましい。
特に、特性(a−2)を満たすポリマーを得るためには、特定の構造を有する遷移金属化合物を用いることが必要であり、具体的には、特開2000−95791号或いは特開2003−292518号公報に示される特定の位置に置換基を有するラセミ型アズレニルメタロセン等が挙げられる。メタロセン触媒を用いて重合する際には上記の遷移金属化合物とともに、助触媒として、遷移金属化合物をカチオンに変換することが可能な化合物、例えばアルミニウムオキシ化合物(メチルアルモキサン等)、粘土鉱物(モンモリロナイト、雲母等)、ルイス酸(トリスペンタフルオロフェニルボラン、トリエチルアルミニウム等)、イオン性化合物(N,N−ジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート等)と組み合わせて使用される。
【0022】
また成分(a)を製造する際には、溶媒を用いる溶媒重合に適用されるのはもちろんであるが、実質的に溶媒を用いない液相無溶媒重合、気相重合、溶融重合にも適用される。また連続重合、回分式重合いずれにも適用される。溶媒重合の場合の溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、ペンタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の飽和脂肪族または芳香族炭化水素の単独あるいは混合物が用いられる。重合温度は−78〜200℃程度、好ましくは−20〜100℃であり、さらに好ましくは50〜80℃。反応系のオレフィン圧には特に制限がないが、好ましくは常圧〜5MPaの範囲である。重合に際しては公知の手段、例えば温度、圧力の選定あるいは水素の導入、により分子量調節を行うことができる。
【0023】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物中の成分(a)の割合は、成分(a)が主成分であることを保証するために成分(a)が組成物全体に対して50〜99重量%であり、好ましくは55〜95重量%である。成分(a)の量が50重量%未満では剛性や耐熱性に劣り、99重量%を超えると耐衝撃性、耐寒性、延伸性が不十分である。
【0024】
(2)成分(b)
本発明のプロピレン系樹脂組成物で用いる(b)プロピレン重合体は、プロピレンを95重量%以上含有する、プロピレン単独重合体またはプロピレンとα−オレフィンやその他のコモノマーの共重合体であって、下記の(b−1)〜(b−3)、必要に応じて(b−4)〜(b−5)の特性を満たす軟質プロピレン重合体である。プロピレン含量量が95重量%未満であると、成分(b)の成分(a)との相溶性に悪影響を及ぼし、その結果延伸性が不十分になることがあり、好ましくは成分(b)としてはプロピレン単独重合体を用いる。
【0025】
特性(b−1)MFR
成分(b)の230℃で測定されるMFRは、0.01〜1000g/10分の範囲であることが必要であり、好ましくは0.1〜500g/10分の範囲である。MFRがこの範囲であることにより、得られるポリプロピレン系樹脂組成物全体の流動性を工業的に好ましい範囲にすることができる。
ここで、MFRは、JIS K7210 A法に準拠して測定する値である。
【0026】
特性(b−2)DSCにおける吸熱ピーク
成分(b)の示差走査熱量測定DSC測定において、温度20〜200℃の間に吸熱ピークが観測されないことが必要である。すなわち、成分(b)は、組成物全体の衝撃性や延伸性を改良するために、軟質であることすなわち結晶性は低いものであることが必要であり、DSC測定において温度20〜200℃の間に融点が観測されないことが必要である。
ここで、DSC測定は、成分(a)の場合と同様に行うものとする。成分(b)が、融点が観測されるほど結晶性の高いものである場合、衝撃性や延伸性の改良効果が小さくなる。融点が観測されないとは、DSC測定において、吸熱曲線を温度に対してプロットした際に、殆どピークを示さないか、またはピークを示したとしても、極めて不明瞭であり、その吸熱量が高々5mJ/mg以下であることを意味する。
【0027】
特性(b−3)ガラス転移温度
成分(b)は、組成物に対して耐寒性を付与する成分であり、そのために固体粘弾性測定によって得られるガラス転移温度による規定が必要である。固体粘弾性測定によって得られるガラス転移温度は、材料の脆化する温度を表す指標であり、ガラス転移温度が低い材料ほど、低温での脆化が起こりにくくなるといえる。そのため、成分(b)のガラス転移温度は、−10℃以下、好ましくは−15℃以下であることが必要である。ガラス転移温度の下限については特に制限はないが、通常−60℃を下回るものは製造困難である。成分(b)を重合する際に、エチレン等のコモノマーを共重合させると、効率的にガラス転移温度を下げることが出来るが、後で述べるように、本発明の樹脂組成物は、相分離していないことが必要であるため、コモノマー含量はあまり大きくすることは出来ず、好ましくは5重量%未満の量であり、なかでもプロピレン単独重合体を用いることが好ましい。
ここで、固体粘弾性測定とは、具体的には、短冊状の試料片に特定周波数の正弦歪みを与え、発生する応力を検知することで行う。ここでは、周波数は1Hzを用い、測定温度は−60℃から段階状に昇温し、サンプルが融解して測定不能になるまで行う。また、歪みの大きさは0.1〜0.5%程度が推奨される。得られた応力から、公知の方法によって貯蔵弾性率と損失弾性率を求め、これの比で定義される損失正接(=損失弾性率/貯蔵弾性率)を温度に対してプロットすると10℃以下の温度領域で鋭いピークを示す。ここでは本ピーク温度をガラス転移温度Tg(℃)として定義する。
【0028】
特性(b−4)Mw/Mn
本発明で用いる成分(b)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量分布Mw/Mnは、1〜4が好ましく、より好ましくは1.8〜3.8である。Mwが1未満のものは理論上製造不能であり、4を超えるものは即ち平均分子量で規定されるよりも極めて大きな或いは小さな分子量の分子が混在することを意味し、これらの成分の存在は成形性や延伸性において好ましくない影響を与える。
なお、Mw/Mnの測定法は、上記成分(a)と同じ方法による。
【0029】
特性(b−5)K値、M値
本発明で用いる成分(b)は、前述のようにポリプロピレン系樹脂成分(a)に対して相溶性の高いものを使用することが好ましく、プロピレン単独重合体を用いることが好ましいが、プロピレン単独重合体で融点が観測されず、かつガラス転移温度を−10℃以下に制御するための付加的な条件としては、13C−NMR測定から得られるK値が5〜20の範囲、かつM値が10〜70の範囲であることが好ましい。K値が低すぎる場合には異種結合の量が少なすぎ、成分(b)のガラス転移温度をあまり下げられず、耐寒性が得られない。高すぎる場合には、成分(a)との相分離が起こる可能性があり、好ましい範囲としては7〜18の範囲である。M値が小さすぎる場合には、延伸性に劣る可能性があり、大きすぎる場合には十分な衝撃性、延伸性の改良効果が得られない。M値は、材料の立体規則性の多寡を判定する指数であり、この値が適切な範囲の中で高いほど、成分(a)と成分(b)の相溶性が増し、延伸性を向上させると考えられるので、M値の好ましい範囲としては40〜60である。
ここで、K値、M値は、13C−NMR測定によって算出されるものであり、K値は特開2001−192412号公報に示される通り、ポリマー鎖中の構造の乱れを定量するものであって、下記式(1)で示される。
なお、各ピーク強度I(Sαα)、I(βγ)、I(ασ)は、「Makromol.Chem.,Rapid.Comun.」1987年、305頁記載の方法に従った。
【0030】
【数3】

【0031】
M値は、特開2001−192412号公報に示される通り、ポリマー鎖中の立体規則性を定量するものであって、下記式(2)で示される。各ピーク強度I(mmmm)、I(mmmr)、I(rmmr)、I(mrrm)は「Makromolecules」1995年、5403頁記載の方法に従った。
【0032】
【数4】

【0033】
本発明で用いる成分(b)は、上記特性を満たすものであれば、製造方法は特に限定されないが、具体的な製造法としては、メタロセン触媒であって、特定の構造の遷移金属化合物を用いて行うことができる。具体的には、特開2003−292517号公報に示される特定の位置に置換基を有するラセミ型アズレニルメタロセンを触媒として用いる方法が好ましい。また助触媒として、上記の遷移金属化合物をカチオンに変換することが可能なイオン性化合物またはルイス酸を含み、任意成分として微粒子担体を含む化合物を使用することもできる。その他の事項については上記の成分(a)の製造と同様に行うことができる。
成分(b)は、前述の様にプロピレン単独重合体であるか、またはコモノマー含量が5重量%以下であるプロピレンとα−オレフィンやその他のコモノマーの共重合体である。従来公知のチーグラー・ナッタ系触媒や、成分(a)を製造するような高融点のポリプロピレンを製造できるメタロセン触媒を用いて、5重量%以下のコモノマー含量を有するプロピレンランダムコポリマーを製造しても、ガラス転移温度を−10℃より低くすることはできず、従って組成物に耐寒性を付与することは難しい。
【0034】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物中の成分(b)の割合は、組成物全体に対して1〜50重量%であり、好ましくは5〜45重量%である。成分(b)の量が1重量%未満では耐衝撃性、耐寒性、延伸性が不十分であり、50重量%を超えると剛性や耐熱性に劣る。
【0035】
(3)付加的成分
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物には、本発明の主旨を損なわない限り、従来公知の添加剤、例えば、安定剤、酸化防止剤、造核剤、UV吸収剤、光保護剤、金属失活剤、フリーラジカル捕捉剤、フィラー及び強化剤、相溶化剤、可塑剤、滑剤、乳化剤、蛍光像白剤、難燃化剤、顔料、帯電防止剤、発泡剤などを添加しても良い。
【0036】
2.ポリプロピレン系樹脂組成物の製造
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、少なくとも成分(a)および成分(b)の二成分を含有するものであるが、これを製造するに際してはその手法に特に制限は無く、多段階の重合により二成分を製造する手法、複数の触媒を用いて異なる分子量成分を製造する方法、溶媒の存在下に二成分を混合した後に溶媒を除去する方法、押出機やブラベンダ−によって溶融混練する手法等が挙げられる。
【0037】
3.ポリプロピレン系樹脂組成物の特性
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、衝撃性、耐寒性のみならず、透明性および延伸性において優れるものである。通常、組成物が相分離構造を呈する場合には、各成分の屈折率差に起因する光の散乱のために組成物の透明性が劣るものとなるため、本発明の組成物は、材料中に明確な相分離構造を有しないものであることが必要であり、下記の特性(i)及び(ii)を有することが必要である。
【0038】
特性(i)固体粘弾性測定におけるガラス転移温度
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、固体粘弾性測定において、0℃以下に単独のガラス転移温度を有することが必要である。
材料の相分離の程度が、固体粘弾性のピークの現れ方によって判別可能であることは良く知られている事実である。通常、相分離した材料の場合には、それぞれの成分のガラス転移温度が異なるために、複数のガラス転移温度のピークが観察される。逆に相溶している場合には、各成分単独のガラス転移温度の間に単一のピークが観測される。本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、透明性および延伸性での物性向上を達成するために、相溶系であることが必要であり、そのためガラス転移温度は単独であることが必要であり、さらに耐寒性を付与するために、ガラス転移温度は0℃以下であることが必要である。ガラス転移温度の下限は、必然的に成分(b)単独でのガラス転移温度となる。
ここで、ガラス転移温度の定義は、成分(b)での規定と同様である。
【0039】
特性(ii)引張破断点歪L
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、延伸性が大幅に改良されたことを特徴とするものであり、組成物の引張試験において、引張破断点歪L[%]が300以上、好ましくは400以上、より好ましくは500以上である。
通常、ポリプロピレン系樹脂に衝撃性や延伸性を付与するために、軟質の成分例えばエチレン・α−オレフィン共重合体ゴム(EPR)やエチレン・α−オレフィン・ジエン共重合体ゴム(EPDM)、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレンブロック共重合体エラストマー(SEBS)等を添加する手法は良く知られている。これらの成分を用いた場合には、弾性率の低下を伴いつつ、ある程度の延伸性の改良、すなわち引張破断点歪みの向上は達成される。ところで、このような従来の手法で得られた組成物が相分離している場合には、透明性の悪化はもちろんのこと、界面での剥離や応力集中によるクレーズの発生が不可避であり、延伸性の改良にはおのずから限度がある。一方、本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、相溶性であることを特徴とするものであり、引張弾性率と引張破断点歪みの関係が、相分離系の組成物とは全く異なるものであり、組成物の引張試験において、引張破断点歪L[%]が300以上のものは、材料中に延伸性の阻害要因である相分離界面が存在せず、延伸性に極めて優れた材料であることを保証するものである。
ここで、引張試験は、JIS K 7113に準拠し、プレス成形によって得た厚さ2mmのシートをJIS K7162−5A形に打ち抜いたものについて、23℃において25mm/分の引張速度で測定したものとする。
【0040】
4.ポリプロピレン系樹脂組成物の用途
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、シートやフィルムまたは射出成形品あるいは繊維製品や包装材料などの各種成形品に好適に使用することができる。
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、延伸性に優れることから、特にシート、フィルムの用途に好適に用いられる。フィルムやシートの成形法の例としては、空冷インフレーション成形、水冷インフレーション成形、Tダイによる無延伸成形、一軸延伸成形、二軸延伸成形、カレンダー成形、プレス成形等が用いることができる。
また、これらフィルムやシートとして使用する場合に、多層構成中の層としての使用も可能である。
【実施例】
【0041】
本発明をさらに具体的に説明するために、以下に実施例及び比較例を掲げて説明するが、本発明をより明確にするために好適な実施の例などを記述するものであって、本発明はこれらの実施例によりいかなる限定も受けないことは当然のことである。
以下の実施例及び比較例において得られた諸物性の測定方法及び用いた材料樹脂の製造方法は、次の通りである。
【0042】
1.評価方法
(1)MFR:JIS K7210 A法 条件Mに従い、試験温度:230℃、公称加重:2.16kg、ダイ形状:直径2.095mm、長さ8.00mmで測定した。
(2)ガラス転移温度:試料は厚さ2mmのシートから、10mm幅×18mm長×2mm厚の短冊状に切り出したものを用いた。装置はレオメトリック・サイエンティフィック社製のARESを用いた。周波数は1Hzである。測定温度は−60℃から段階状に昇温し、試料が融解して測定不能になるまで測定を行った。歪みは0.1〜0.5%の範囲で行った。得られた応力から、公知の方法によって貯蔵弾性率と損失弾性率を求め、これの比で定義される損失正接(=損失弾性率/貯蔵弾性率)を温度に対してプロットし、ピークを示す温度をガラス転移温度とした。
(3)分子量分布:前述の方法に従って求めた。
(4)引張試験(引張弾性率、引張破断点歪L):試料は下記条件によりプレス成形によって得られた厚さ2mmのシートから、試験片を打ち抜き、下記の条件で引張試験を行い、引張弾性率、引張破断点歪Lを求めた。
規格番号:JIS K−7162(ISO 527−1)準拠
試験機:精密万能試験機オートグラフAG−5kNG−微小伸び計付き(島津製作所製)
試験片の形状:JIS K7162−5A形
試験片の作成方法:厚さ2mmのシートを上記形状に打ち抜き
状態の調節:室温23℃、湿度50%に調節された恒温室内に24h以上
試験室:室温23℃、湿度50%に調節された恒温室
試験片の数:n=5
試験速度:1.0mm/min(伸びが5mmまで)、25.0mm/min(伸びが5mm以上)
(5)K値、M値:13C−NMRの測定で求めた。測定装置は日本電子社製EX−270、測定温度は130℃、溶媒は1,2−ジクロロベンゼンとベンゼン−d6を用いた。
なお、K値は、特開2001−192412号公報に示される通り、ポリマー鎖中の構造の乱れを定量するものであり、各ピーク強度I(Sαα)、I(βγ)、I(ασ)は「Makromol.Chem.,Rapid.Comun.」1987年、305頁記載の方法に従った。
また、M値は、特開2001−192412号公報に示される通り、ポリマー鎖中の立体規則性を定量するものである。各ピーク強度I(mmmm)、I(mmmr)、I(rmmr)、I(mrrm)は「Makromolecules」1995年、5403頁記載の方法に従った。
(6)透明性(Haze):厚さ2mmの射出成形片の透明性をヘイズによって評価した。JIS K−7136(ISO 14782)に準拠して測定した。
(7)シャルピー衝撃強度:厚さ4mmの射出試験片に、ノッチングマシンによってノッチを作成し、JIS K−7111に準拠してシャルピー衝撃強度を測定した。測定条件は以下のとおりである。
容量:4J
持ち上げ角度:150°
ノッチ寸法:先端半径0.25mm、切欠き深さ2.0mm、角度45°
測定温度:23℃
n数:5
【0043】
2.材料
(製造例1)
(1)錯体合成
特開2003−292518号公報に示される方法に従って、ジクロロ{1,1’−ジメチルシリレンビス[2−エチル−4−(4−トリメチルシリル−3−メチル−フェニル)−4H−アズレニル]}ハフニウムを合成した。
(2)モンモリロナイトの化学処理
撹拌翼と還流装置を取り付けた5Lセパラブルフラスコに、純水1,700gを投入し、98%硫酸500gを滴下した。そこへ、さらに市販の造粒モンモリロナイト(水澤化学社製、ベンクレイSL、平均粒径:19.5μm)を300g添加後撹拌した。その後90℃で2時間反応させた。このスラリーをヌッチェと吸引瓶にアスピレータを接続した装置にて、洗浄した。回収したケーキに硫酸リチウム1水和物325gの水900mL水溶液を加え90℃で2時間反応させた。このスラリーをヌッチェと吸引瓶にアスピレータを接続した装置にて、pH>4まで洗浄した。回収したケーキを120℃で終夜乾燥した。その結果、270gの化学処理体を得た。
(3)化学処理モンモリロナイトの有機アルミニウム処理
内容積1Lのフラスコに上記(2)で得た化学処理モンモリロナイト10.0gを秤量し、ヘプタン65mL、トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液35.4mL(25mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。その後、ヘプタンで残液率1/100まで洗浄し、最後にスラリー量を100mLに調製した。
(4)モンモリロナイトを助触媒とするプロピレン重合
内容物3Lの攪拌式オートクレーブ中に、トリイソブチルアルミニウム(東ソー・アクゾ社製)(2.0mmol、Al原子換算)を導入した。一方、触媒フィーダーに上記の錯体(1.41mg、1.5μmol)をトルエンで希釈して導入し、更に上記のモンモリロナイト(50mg)を含む上記のスラリーおよびトリイソブチルアルミニウム(7.5μmol、Al原子換算)を導入し、30分接触時間をおいた。その後オートクレーブにプロピレン(1500mL)と水素(90mL)を導入し、室温で触媒フィーダー内の触媒を導入した。70度に昇温して1時間重合を行い、ポリプロピレン78.3gを得た。錯体活性は5.5×10g−PP/g−錯体、触媒活性は1570g−PP/g−固体であった。ポリプロピレンのMFRは155g/10分、Mw/Mnは3.3、融点は160.4℃であった。
【0044】
(製造例2)
(1)モンモリロナイトの化学処理:
撹拌翼と還流装置を取り付けた3Lセパラブルフラスコに、イオン交換水1700mlを投入し、さらに濃硫酸501gをゆっくりと添加した。水溶液の温度を60℃に調整し、市販の造粒モンモリロナイト(水澤化学社製、ベンクレイSL、平均粒径:19μm)300g投入後、90℃に昇温し2時間反応させた。その後、イオン交換水450mlを添加し、50℃まで冷却させた。このスラリーをヌッチェと吸引瓶にアスピレータを接続した装置にて、減圧濾過を実施した。ケーキを回収し、純水を2.0L加え再スラリー化し、濾過を行った。この操作を3回繰り返し、ろ液pHが4以上となるように洗浄した。
さらに、上記で使用した同タイプのセパラブルフラスコに、イオン交換水1140ml、硫酸リチウム・1水和物324gを添加し、溶解させた。続いて、先に硫酸処理したモンモリロナイトケーキを全量添加し、90℃に昇温し2時間反応させた。その後、イオン交換水700mlを添加し、50℃まで冷却させる。このスラリーをヌッチェと吸引瓶にアスピレータを接続した装置にて、減圧濾過を実施した。ケーキを回収し、純水を2.0L加え再スラリー化し、濾過を行った。この操作を3回繰り返した。回収したケーキを窒素気流下120℃で12時間予備乾燥を実施した。その結果、235gの化学処理体を得た。さらに少量含まれる水分除去を行うために、減圧下、200℃で2時間乾燥を実施した。
(2)予備重合触媒の調製
内容積1Lのフラスコに上記で得た化学処理モンモリロナイト10.0gを秤量し、ヘプタン64.6mlとトリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液35.4ml(25mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。その後、ヘプタンで洗浄し、最後にスラリー量を100mlに調製した。
上記で調製した、トリイソブチルアルミニウム処理したモンモリロナイトのヘプタンスラリーにトリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液0.43ml(0.304mmol)を加えて10分間、室温で撹拌した。また別のフラスコ(容積200mL)中で、上記製造例1(1)のジクロロ[1,1’−ジメチルシリレンビス{2−エチル−4−(3−メチル−4−トリメチルシリルフェニル)−4−ヒドロアズレニル}]ハフニウムのラセミ体(0.150mmol)にトルエン(30ml)を加えて、上記の1Lフラスコに加えて、室温で60分間撹拌した。次に、上記モンモリロナイトとメタロセン錯体の混合反応物に、さらにヘプタン370mlを追加して内容積1リットルの撹拌式オートクレーブに導入した。オートクレーブ内の温度が40℃で安定したところで、上記調製したメタロセン錯体溶液を加えて、引き続いてプロピレンを238mmol/時(10g/時)の一定速度で120分間供給した。プロピレンの供給終了後、50℃に昇温して2時間そのまま維持し、その後残存ガスをパージして予備重合触媒スラリーをオートクレーブより回収した。回収した予備重合触媒スラリーを静置し、上澄み液を抜き出した。残ったスラリーにトリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液8.5ml(6.0mmol)を室温にて加え、室温で10分間撹拌した後、減圧乾燥して固体触媒を33.3g回収した。予備重合倍率(予備重合ポリマー量を固体触媒量で除した値)は2.29であった。
(3)モンモリロナイトを助触媒とするプロピレン重合
重合槽(内容積3リットルの撹拌機付オートクレーブ)内をプロピレンで十分置換した後に、トリイソブチルアルミニウムのヘプタン溶液2.76ml(2.02mmol)を加え、水素90ml、続いて液体プロピレン1500mlを導入し、65℃に昇温した。先に調製した予備重合触媒を、固体触媒として40mg(予備重合ポリマーを除く正味の固体触媒の量)圧入して重合を開始した。槽内温度を65℃に維持し、1時間重合を実施した。残モノマーのパージを行って重合を終了させ、回収したポリマーを90℃窒素気流下で1時間乾燥した。
その結果、得られたプロピレン重合体は259gであり、触媒活性は6480g−PP/g−固体であった。ポリプロピレンのMFRは3.5g/10分、融点は159.1℃であった。
【0045】
(製造例3)
(1)錯体合成
特開2003−292517号公報に示される方法に従って、ジクロロジメチルシリレンビス(2−メチル−4、8−ジフェニル−8−n−ブチル−8H−アズレニル)ハフニウムを合成した。
(2)メチルアルモキサンを助触媒とするプロピレンの重合
内容積3Lの撹拌式オートクレーブ中にメチルアルモキサン(東ソー・アクゾ社製「MMAO」)8mmol(Al原子換算)を導入した。一方、触媒フィーダーに上記のラセミ体・メソ混合物(ラセミ/メソ=5/1、1.44mg)をトルエンで希釈して導入した。その後、オートクレーブにプロピレン1500mLを導入した後、室温で破裂板をカットし、70℃に昇温して1時間の重合操作を行い、ポリプロピレン60gを得た。錯体活性は4.2×10(g−ポリマー/g−錯体)であった。ポリプロピレンのTmは見られず、MFRは50g/10分、Mw/Mnは3.0、K値は10、M値は56、Tgは−18℃であった。
【0046】
(製造例4)
(1)錯体合成
特開2003−292517号公報に示される方法に従って、ジクロロジメチルシリレンビス(2−メチル−4−フェニル−8−n−ブチル−8H−アズレニル)ハフニウムを合成した。
(2)メチルアルモキサンを助触媒とするプロピレンの重合
内容積3Lの撹拌式オートクレーブ中にメチルアルモキサン(東ソー・アクゾ社製「MMAO」)8mmol(Al原子換算)を導入した。一方、触媒フィーダーに上記のラセミ体(1.37mg)をトルエンで希釈して導入し、30分間予備接触した。その後、オートクレーブにプロピレン1500mLを導入した後、触媒フィーダー内の触媒を導入した。70℃に昇温して1時間の重合操作を行い、ポリプロピレン64gを得た。錯体活性は4.7×10(g−ポリマー/g−錯体)であった。MFRは210g/10分、Mw/Mnは2.9、K値は16、M値は17、Tgは−20℃であった。
以上の製造例を数回繰り返し、必要量の試料を得た。
【0047】
(実施例1)
成分(a)、成分(b)として、それぞれ製造例1、製造例3で得られた重合体を用い、表1に記載の割合でドライブレンドし、さらに添加剤を配合し十分に混合させた。添加剤としては、酸化防止剤:テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン500ppm、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト500ppm、中和剤:ステアリン酸カルシウム500ppmを加えた。
添加剤を配合した試料を、テクノベル社製KZW−15−45−MG2軸押出機を用いて下記の条件で造粒し、射出成形用ペレットとした。
スクリュ:口径15mm、L/D=45
押出機設定温度:(ホッパ下から)40、80、160、200、220、220(ダイ)[℃]
スクリュ回転数:400rpm
吐出量:スクリュフィーダーにて1.5kg/hに調整
ダイ:口径3mmストランドダイ、穴数2個
得られた原料ペレットを市販の圧縮成形機を用いてプレス成形し、物性評価用試験片とした。プレス成形は、余熱温度230℃にて余熱時間7分間、230℃にて加圧50kg/cm加圧時間3分間、100kg/cmにて水冷3分間の条件で行った。
また、得られた原料ペレットを、下記の条件により射出成型し、シャルピー衝撃強度及びHaze測定用平板試験片を得た。得られた試験片を用い、各種物性測定を行った。結果を表1に示す。
規格番号:JIS K−7152(ISO 294−1)
成型機:東洋機械金属社製TU−15射出成型機
成型機設定温度:(ホッパ下から)80、160、200、200、200℃
金型温度:40℃
金型形状:平板(厚さ4mm、幅10mm、長さ80mm及び厚さ2mm、幅30mm、長さ90mm)
【0048】
(実施例2〜5)
成分(a)および成分(b)として使用する樹脂、及び配合比を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして組成物を得、物性を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
(比較例1、2)
成分(a)として表1に示す樹脂を用い、成分(b)を用いなかった以外は実施例1と同様にして組成物を得、物性を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
(比較例3)
成分(b)として、エチレン−プロピレンゴム(JSR社製EP02P)を使用した以外は実施例1と同様にして組成物を得た。物性測定の結果を表1に示す。
比較例3ではtanδを温度に対してプロットした際に、10℃以下の温度で二山のピークを示し、即ちガラス転移温度が二山となり相分離系であった。また、引張破断点歪は小さく、延伸性の改良効果が十分でない。また、ヘイズも悪いものであった。
【0051】
(比較例4)
成分(b)として、エチレン−オクテン共重合体(デュポンダウエラストマージャパン社製EG8842)を使用した以外は、実施例1と同様にして組成物を得た。物性測定の結果を表1に示す。
比較例4ではtanδを温度に対してプロットした際に、10℃以下の温度で二山のピークを示し、すなわちガラス転移温度が二山となり相分離系であった。また、引張破断点歪は小さく、延伸性の改良効果が十分でない。また、ヘイズも悪いものとなっている。
【0052】
(比較例5)
成分(b)として、エチレン−オクテン共重合体(デュポンダウエラストマージャパン社製EG8842)を使用した以外は、実施例5と同様にして組成物を得た。物性測定の結果を表1に示す。
比較例5ではtanδを温度に対してプロットした際に、10℃以下の温度で二山のピークを示し、すなわちガラス転移温度が二山となり相分離系であった。また、引張破断点歪は高いものの、ヘイズが悪いものとなっている。
【0053】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、透明性、耐衝撃性、耐寒性、特に延伸性が改良された組成物であるので、シートやフィルムまたは射出成形品あるいは繊維製品や包装材料などの各種成形品に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a−1)〜(a−2)の特性を満たす高立体規則性プロピレン単独重合体および/またはプロピレン・α−オレフィンランダム共重合体(a)50〜99重量%、及び下記(b−1)〜(b−3)の特性を満たす95重量%以上のプロピレンを含有するプロピレン系重合体(b)1〜50重量%を含有するポリプロピレン系樹脂組成物であって、下記(i)および(ii)の特性を満足することを特徴とするポリプロピレン系樹脂組成物。
成分(a):
(a−1)230℃で測定したメルトフローレート(MFR)が0.01〜500g/10分の範囲である
(a−2)示差走査熱量測定DSCによって得られる融点が110〜170℃である。
成分(b):
(b−1)230℃で測定したメルトフローレート(MFR)が0.01〜1000g/10分の範囲である
(b−2)示差走査熱量測定DSCにおいて、温度20〜200℃の間に吸熱ピークが観測されない
(b−3)固体粘弾性測定によって得られるガラス転移温度が−10℃以下である
樹脂組成物:
(i)固体粘弾性測定において、0℃以下に単独のガラス転移温度を有する
(ii)組成物の引張試験において引張破断点歪みL[%]が300以上である
【請求項2】
成分(b)がプロピレン単独重合体であることを特徴とする請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
成分(a)の(a−1)230℃で測定したメルトフローレート(MFR)が0.1〜200g/10分であり、成分(b)の(b−1)230℃で測定したメルトフローレート(MFR)が0.1〜500g/10分であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
成分(a)および(b)がメタロセン系触媒によって重合され、それぞれがさらに下記(a−3)、(b−4)の特性を満たすことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
(a−3)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量分布Mw/Mnが1〜4の範囲である
(b−4)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される分子量分布Mw/Mnが1〜4の範囲である
【請求項5】
成分(b)が、さらに下記(b−5)の特性を満たすことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリプロピレン系樹脂組成物。
(b−5)13C−NMR測定から得られる、式(1)で示されるK値が5〜20の範囲であり、かつ式(2)で示されるM値が10〜70の範囲である
【数1】

【数2】

【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリプロピレン系樹脂組成物からなる延伸性フイルムもしくは延伸性シート。