ポリベンザゾール繊維
【課題】長期の接続安定性に優れたプリント配線板に有用なポリベンザゾール繊維を提供する。
【解決手段】本発明のポリベンザゾール繊維は、クラック率が10個/1000m以下、弾性率が200GPa以上350GPa以下、かつ、繊維軸方向の線膨張係数(100℃以上200℃以下)が−20ppm/℃以上−3ppm/℃以下であることを特徴とする。
【解決手段】本発明のポリベンザゾール繊維は、クラック率が10個/1000m以下、弾性率が200GPa以上350GPa以下、かつ、繊維軸方向の線膨張係数(100℃以上200℃以下)が−20ppm/℃以上−3ppm/℃以下であることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリベンザゾール繊維および該ポリベンザゾール繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリベンザゾール繊維は、現在市販されているスーパー繊維の代表であるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の2倍以上の強度と弾性率をもち、次世代スーパー繊維として期待されている。
【0003】
このようなポリベンザゾール繊維は、ライオトロピック液晶性のポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリパラフェニレンベンゾビスチアゾールなどのポリベンザゾールから構成されるが、ライオトロピック液晶性のポリベンザゾールは、熱可塑性を有さない。そのため、一般的に、ポリベンザゾール繊維は、ポリベンザゾールポリマーと、当該ポリマーを溶解し得る酸溶媒とを含有する紡糸原液を用いて、湿式紡糸法あるいはドライジェット紡糸法などの公知の紡糸方法により紡出し紡出糸条を形成した後、得られた紡出糸条に凝固剤を接触させポリベンザゾールポリマーを凝固させることにより製造されている(例えば、特許文献1〜3)。
【0004】
ところで従来、配線基板は、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)などの半導体素子に代表される能動素子および、容量素子、抵抗素子などの受動素子を多数搭載して、所定の電子回路を構成する混成集積回路に用いられている。このような配線基板が、種々開発されている(例えば、特許文献4〜6)。
【0005】
上記のような従来の配線基板は、通常、以下のようにして製作される。すなわち、(1)強化繊維101に樹脂102を含浸させ、乾燥して得られるプリプレグの上下面に銅箔103を配置し、熱プレスを行って樹脂102を硬化させると同時に銅箔103を接着させることにより、いわゆる両面銅張基板を作製する(図11参照)。;(2)ドリルによって銅箔103と絶縁基板100とを貫通する貫通孔を形成する(図12参照)。;(3)次に、形成された貫通孔内部表面に、めっき法により導体層104を形成しスルーホール105とする(図13参照)。;(4)更に、サブトラクティブ法により、銅箔を配線パターン状の配線層に加工する(図14参照);(5)得られた基体の主面に、ソルダーレジストと呼ばれる絶縁層を積層することによって、配線基板とする。
【0006】
また、配線基板の配線密度を高める方法も種々提案されている。配線密度を高める方法としては、例えば、(I)前述の(1)〜(3)を経て得られた基体の主面に、エポキシ樹脂などから成る絶縁層を積層し、レーザー光を照射することにより絶縁層のみを貫通する貫通孔を形成する;(II)形成された絶縁層貫通孔の内部表面に、めっき法により導体層を形成するとともに、絶縁層の表面に配線導体を形成する;(I)、(II)の工程を複数回繰り返し、ビルトアップ部を形成することによって、所望の多層配線基板とする方法がある(例えば、特許文献7)。
【0007】
プリント配線基板は、通常、内層回路を形成した内層回路板の上に絶縁層を形成し、その上に金属層を形成して、配線板全体を貫通する孔を開けたり、内層回路に達するバイアホールを形成したりして内層回路と金属箔とを電気的に接続し、金属箔の不要な箇所をエッチング除去して製造しているが、通常の絶縁材では、熱膨張率が約16ppm/℃であり、シリコンチップの3ppm/℃との間に大きな差があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,296,185号明細書
【特許文献2】米国特許第5,385,702号明細書
【特許文献3】国際公開第94/04726号
【特許文献4】特開2002−198658号公報
【特許文献5】特開2002−212394号公報
【特許文献6】特表平10−508720号公報
【特許文献7】特開2005−86164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、LSIの高速化・高機能化に伴い、シリコン表面に低誘電率材料が用いられる傾向がある。最も低誘電率の材料は空気であるが、回路の保持に問題があるため、低誘電率材料の候補は多くの気泡を含んだ材料となる傾向がある。多くの気泡を含んだ低誘電率材料は強度が低いため、このような気泡を含んだ低誘電率材料を用いたシリコンチップを従来の基板にフリップチップ実装すると、基板とシリコンチップとの熱膨張率差のため、フリップチップ実装後の冷却過程でシリコンチップ表面の低誘電率材料に割れが入り、回路が断線するという問題が生じている。
【0010】
そのため、気泡を含む低誘電率材料を用いたシリコンチップを実装するパッケージは、シリコンチップとの熱膨張率差ができる限り小さく、シリコンチップに熱応力を生じさせないものでなければならない。このため、パッケージ基板の熱膨張率はシリコンチップの熱膨張率に限りなく近いものが求められている。
【0011】
また、LSIは同時に多くのデータを処理するため大形化する傾向がある。LSIが大形化するとデータのインプットとアウトプットを行うI/O(Input/Output)を増やす必要がある。I/Oは現在数千程度であるが、将来は一万に達すると予測されている。そのため、半導体素子と配線基板との接続部分(バンプ)は小形化する傾向があり、現在、直径100μm、ピッチ220μmのバンプが今後は直径50μm以上75μm以下、ピッチ100μm以上125μm以下に小形化することが求められている。バンプが小形化すると機械的強度が低下すること、およびシリコンチップと基板との距離が縮まることから、基板とシリコンチップとの熱膨張率差のため、製品使用時の加熱冷却の繰り返しによりバンプが破断し、回路が断線するためにシステムが停止するという問題が生じている。
【0012】
そのため、I/Oが多く小さなバンプが必要なシリコンチップを実装するパッケージはシリコンチップとの熱膨張率差をできる限り小さくし、シリコンチップに熱応力を生じさせないものでなければならない。このため、パッケージ基板の熱膨張率はシリコンチップの熱膨張率に限りなく近いものが求められている。
【0013】
しかしながら、ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させて成る通常の絶縁基板は、ガラスクロスの熱膨張率が大きくシリコンチップと同等の熱膨張率の達成は困難であった。また、ガラスクロスはドリルやレーザー光により穿設加工することが困難なため、貫通導体の微細化には限界があり、また、ガラスクロスの厚みが不均一なために均一な孔径の貫通導体を形成することが困難であるという問題点を有していた。
【0014】
上述の課題を解決する1つの方策としてポリベンザゾール繊維の利用があげられる。ポリベンザゾール繊維は重合溶液から溶剤を除去することにより製造されるために、微結晶(フェニレン環およびベンゾビスオキサゾール構造)の配向が溶媒の流出にならって並ぶため、結果としてポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール分子中のフェニレン環平面およびベンゾビスオキサゾール構造平面がラジアル方向(放射状)に選択的に配向する傾向を示す。さらにポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール分子は分子間の相互作用が
小さい。したがって、構造形成に従って、ラジアル状に並んだ配列方向(繊維の軸と直角な横断面できった時)に沿って微細に割れる問題(クラックの発生)は不可避である。このようにクラックが発生したとしても、分子は繊維軸方向には高度に配向しているため、繊維弾性率や強度には大きな影響を与えない。しかしながらこれを高密度電子回路基板の補強材料として利用したとき、2本のスルーホールが共通のクラックを横切る可能性を棄却できない。ここで言うクラックは、繊維の内部に生じた空間である。クラック中を銅原子がマイギュレーション効果により短絡回路を形成し、回路基板(特にパッケージ用途)としての役割を果たせない可能性が生じている。
【0015】
すなわち、繊維軸方向にクラックを生じた強化繊維101を絶縁基板100に用いた場合、図15に示すように、基板の貫通孔に導体層104を形成しスルーホール105を形成する際に、導体層104が強化繊維101中のクラック内にまで侵入してしまう。そのため、配線基板に形成された複数のスルーホール105が、強化繊維101中のクラックを介して導通破壊を生じやすくなるという問題があった。
【0016】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、長期の接続安定性に優れたプリント配線板に有用なポリベンザゾール繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、クラック数が少なく、高弾性率を有し、かつ高い負の線膨張性を有するポリベンザゾール繊維を、プリント配線基板を構成する基板に用いることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。また、ポリベンザゾール繊維を構成するポリベンザゾール分子が有するフェニレン環平面およびベンザゾール構造平面を、繊維直径方向断面においてランダムに配向させることにより、ポリベンザゾール繊維中のクラックを抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
上記課題を解決することができた本発明のポリベンザゾール繊維は、クラック率が10個/1000m以下、弾性率が200GPa以上350GPa以下、かつ、繊維軸方向の線膨張係数(100℃以上200℃以下)が−20ppm/℃以上−3ppm/℃以下であることを特徴とする。このようなクラック数の少ないポリベンザゾール繊維を、プリント配線基板を構成する基板の強化繊維として用いることにより、プリント配線基板に形成された複数のスルーホールが導通破壊を生じにくくなるため、プリント配線基板の接続信頼性が向上する。また、ポリベンザゾール繊維が高弾性率を有することで、基板の補強作用が大きくなり、厚さ0.3mm以下の薄型基板を製造した場合でも実用上の問題が生じることがない。さらに、ポリベンザゾール繊維が高い負の線膨張性を有するので、得られるプリント配線基板の線膨張係数を低くすることができる。
【0019】
前記ポリベンザゾール繊維は、直交座標系において、繊維軸をZ軸方向と一致させて、X軸方向に平行にX線を照射し、X線照射位置をY軸方向に走査させて、Y軸方向繊維全幅にわたり、中心点を含み実質的に等間隔な11点についてX線回折測定を行い、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを作成した際に、前記回折強度の折れ線グラフが、Y軸方向繊維中心またはその近傍に最大値を有する単峰性を示すことが好ましい。
【0020】
前記折れ線グラフが、Y軸方向繊維中心またはその近傍に最大値を有する単峰性を示すポリベンザゾール繊維は、繊維を構成するポリベンザゾール分子が有するフェニレン環平面およびベンザゾール構造平面が、選択配向することなくランダムに配向しているため、繊維中にクラックを生じにくい。
【0021】
本発明のポリベンザゾール繊維は、繊維径が4μm以上15μm以下、繊維軸方向の線膨張係数(100℃以上200℃以下)が−20ppm/℃以上−3ppm/℃以下、弾性率が200GPa以上350GPa以下であることが好ましい。
【0022】
また、本発明のポリベンザゾール繊維の製造方法は、ポリベンザゾールとポリリン酸とを含有する紡糸原液を用いて、紡糸口金から紡出する紡出工程;紡出された紡出糸条に、温度70℃以上130℃以下の水蒸気を噴きつけて、ポリベンザゾールを凝固させる凝固工程;凝固したポリベンザゾールを含有する紡出糸条を洗浄する洗浄工程;および、得られたポリベンザゾール繊維に、1.0cN/dtex以上8.0cN/dtex以下の張力を付加し、400℃以上700℃以下で熱処理を施す熱処理工程;を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、長期の接続安定性に優れたプリント配線板に有用なポリベンザゾール繊維が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のポリベンザゾール繊維における、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフの一態様を例示する模式図である。
【図2】本発明のポリベンザゾール繊維における、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフの他の態様を例示する模式図である。
【図3】本発明のポリベンザゾール繊維の繊維径方向断面図を例示する模式図である(繊維軸方向は紙面に対して直角方向である)。
【図4】従来のポリベンザゾール繊維における、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを例示する模式図である。
【図5】従来のポリベンザゾール繊維の繊維径方向断面図を例示する模式図である(繊維軸方向は紙面に対して直角方向である)。
【図6】折れ線グラフの谷点を説明するための模式図である。
【図7】繊維中のクラックを説明するための模式図であり、(a)は直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させ、X軸方向から見たクラックを例示する模式図であり、(b)は直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させ、Y軸方向から見たクラックを例示する模式図である。
【図8】ポリベンザゾール繊維No.1の各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフである。
【図9】ポリベンザゾール繊維No.7の各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフである。
【図10】ポリベンザゾール繊維No.8の各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフである。
【図11】従来の配線基板の製作過程を説明するための、両面銅張基板の断面模式図である。
【図12】従来の配線基板の製作過程を説明するための、貫通孔が形成された両面銅張基板の断面模式図である。
【図13】従来の配線基板の製作過程を説明するための、スルーホールが形成された両面銅張基板の断面模式図である。
【図14】従来の配線基板の製作過程を説明するための、配線層が設けられた絶縁基板の断面模式図である。
【図15】従来の配線基板の断面を例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のポリベンザゾール繊維は、クラック率が10個/1000m以下、弾性率が200GPa以上350GPa以下、かつ、繊維軸方向の線膨張係数(100℃以上200℃以下)が−20ppm/℃以上−3ppm/℃以下であることを特徴とする。
【0026】
まず、本発明に用いられるポリベンザゾール繊維について説明する。本発明のポリベンザゾール繊維は、ベンザゾール単位のホモポリマー、またはランダム、シーケンシャルもしくはブロック共重合体ポリマーなどのポリベンザゾール(以下、「PBZ」ということがある)から構成されている。
【0027】
前記PBZとしては、例えば、Wolfe等の「Liquid Crystalline Polymer Compositions, Process and Products」、米国特許第4703103号(1987年10月27日);「Liquid Crystalline Polymer Compositions, Process and Products」、米国特許第4533692号(1985年8月6日);「Liquid Crystalline Poly(2,6-Benzothiazole) Compositions, Process and Products」、米国特許第4533724号(1985年8月6日);「Liquid Crystalline Polymer Compositions, Process and Products」、米国特許第4533693号(1985年8月6日);Eversの「Thermooxidatively Stable Articulated p-Benzobisoxazole and p-Benzobisoxazole Polymers」、米国特許第4359567号(1982年11月16日);Tsaiらの「Method for making Heterocyclic Block Copolymer」、米国特許第4578432号(1986年3月25日)などに記載されているものが挙げられる。
【0028】
前記ポリベンザゾール繊維に用いられるPBZを構成するベンザゾール単位としては、下記式(a)〜(h)で表されるものが好ましく、これらの中でも(a),(b)で表されるベンザゾール単位から構成されるポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(以下、「PBO」ということがある)、(c),(d)で表されるベンザゾール単位から構成されるポリパラフェニレンベンゾビスチアゾール(以下、「PBT」ということがある)がより好適である。そして、前記ポリベンザゾール繊維に用いられるPBZとしては、ベンザゾール単位としてPBOを80質量%以上含有するものが好ましく、PBOホモポリマーが特に好適である。
【0029】
【化1】
【0030】
【化2】
【0031】
前記ポリベンザゾール繊維は、直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させて、X軸方向と平行にX線を照射し、X線照射位置をY軸方向に走査させて、Y軸方向繊維全幅にわたり、中心点を含み実質的に等間隔な11点についてX線回折測定を行い、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを作成した際に、前記回折強度の折れ線グラフが、Y軸方向繊維中心またはその近傍に最大値を有する単峰性を示すことが好ましい。
【0032】
ここで、直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させて、X軸方向と平行にX線を照射し、X線照射位置をY軸方向に走査させて、Y軸方向繊維全幅にわたり、中心点を含み実質的に等間隔な11点についてX線回折測定を行い、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを作成した際に、前記回折強度の折れ線グラフが、Y軸方向繊維中心またはその近傍に最大値を有する単峰性を示すことについて説明する。なお、本願において、X線回折測定の測定位置とは、ポリベンザゾール繊維に照射されるX線ビームスポットのY軸方向中心をいうものとする。
【0033】
本発明において、直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させて、X軸方向と平行にX線を照射するX線回折測定における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度とは、ポリベンザゾール繊維を構成するPBZが分子中に有するPBZ結晶内のフェニレン環平面の規則性および配向様式に起因するものである。なお、(200)回折点の指数付けは、Fratiniら(Material Research Society Symposium Proceedings Vol.134 p.431(1989年))により提案されている結晶模型に従い行った。
【0034】
本発明において、Y軸方向繊維中心またはその近傍とは、直径座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させて、X軸方向から見た際に、Y軸方向繊維全幅を直径とみなして、繊維の半径を100とすると、Y軸方向繊維中心からの距離が0以上50以下までの範囲をいうものとする。
【0035】
すなわち、換言すると、本発明に用いられるポリベンザゾール繊維は、直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させて、X軸方向と平行にX線を照射し、X線照射位置をY軸方向に走査させて、Y軸方向繊維全幅にわたりX線回折測定を行った際に、Y軸方向繊維全幅を直径とみなして、繊維の半径を100とすると、赤道方向(200)結晶面由来の回折強度の最大値を示す位置が、Y軸方向繊維中心からの距離が0以上50以下の範囲内に存在する。前記赤道方向(200)結晶面由来の回折強度の最大値を示す位置は、Y軸方向繊維全幅を直径とみなして、繊維の半径を100とすると、Y軸方向繊維中心からの距離が、50以下が好ましく、より好ましくは30以下である。
【0036】
本願において、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを作成した際に、前記回折強度の折れ線グラフ(以下、単に「折れ線グラフ」ということがある)が単峰性を示すとは、折れ線グラフが実質的に、上に凸の放物線状であることをいう。
【0037】
なお、折れ線グラフの波形は単峰性を示していればよい。前記折れ線グラフの波形の態様としては、例えば、(I)Y軸方向繊維中心において最大値を示し、半径方向外方端に近づくにつれて、徐々に単純減少する態様(図1参照);(II)Y軸方向繊維中心において最大値を示し、Y軸方向繊維中心の近傍では最大値と同程度の強度を示し、Y軸方向繊維中心の近傍外では半径方向外方端に近づくにつれて、徐々に単純減少する態様(図2参照)などが挙げられる。
【0038】
前記折れ線グラフが単峰性を示すとは、逆に言えば、折れ線グラフが谷点を有さないことをいう。
【0039】
ここで、本願における折れ線グラフの谷点について、図6を参照して説明する。図6は、折れ線グラフの谷点を説明するための模式図である。本願においては、ある測定位置(Y0)における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度(I0)よりも、その測定位置の両隣の測定位置(Y-1,Y1)における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度(I-1,I1)が大きな値となり((I0<I-1),(I0<I1))、かつ、測定位置(Y0)の両側2点隣の測定位置(Y-2,Y2)における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度(I-2,I2)が、前記測定位置(Y-1,Y1)における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度(I-1,I1)よりも大きな値となる((I-1<I-2),(11<I2))場合、測定位置(Y0)を谷点というものとする。
【0040】
ここで、直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させて、X軸方向と平行にX線を照射し、X線照射位置をY軸方向に走査させて、Y軸方向繊維全幅にわたり、実質的に等間隔な11点についてX線回折測定を行い、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを作成した際に、前記回折強度の折れ線グラフが、Y軸方向繊維中心またはその近傍に最大値を有する単峰性を示すポリベンザゾール繊維が、繊維中にクラックを生じにくくなる理由は、以下のように考えられる。
【0041】
まず、ポリベンザゾール繊維を構成するPBZが有するフェニレン環平面およびベンザゾール構造平面(PBO分子中のベンゾビスオキサゾール構造平面、PBT分子中のベンゾビスチアゾール構造平面など)の配向と、前記折れ線グラフの波形との関係について、図を参照して説明する。図1および図2は、本発明に用いられるポリベンザゾール繊維における、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを例示する模式図である。図3は、本発明に用いられるポリベンザゾール繊維の繊維径方向断面図を例示する模式図である(繊維軸方向は紙面に対して直角方向である)。図4は、従来のポリベンザゾール繊維における、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを例示する模式図である。図5は、従来のポリベンザゾール繊維の繊維径方向断面図を例示する模式図である(繊維軸方向は紙面に対して直角方向である)。
【0042】
図1および図2に示すように、折れ線グラフが、Y軸方向繊維中心またはその近傍に最大値を有する単峰性を示す場合は、ポリベンザゾール繊維を構成するPBZが有するフェニレン環平面およびベンザゾール構造平面(以下、「構造平面」ということがある)が、図3に示すようにランダムに配向していること示している。一方、図4に示すように、折れ線グラフが、Y軸方向繊維中心またはその近傍に最大値を有さず、および/または、折れ線グラフが単峰性を示さない場合は、ポリベンザゾール繊維を構成するPBZが有する構造平面が、図5に示すように繊維中心から半径方向外方に向けて放射状に選択配向していることを示している。
【0043】
ここで、PBOなどのポリベンザゾール繊維を構成するPBZは、隣接するポリマー分子間の相互作用が小さい、すなわち、PBZが有する構造平面が一定方向に配向していると、構造平面に沿って割れが生じやすくなる。従って、図5に示すように、構造平面が繊維中心から半径方向外方に向けて放射状に選択配向した場合には、この構造平面の配向方向に沿ってクラックが発生しやすくなる。しかしながら、本発明に用いられるポリベンザゾール繊維では、図3に示すように、構造平面が特定の方向に選択配向しておらず、ランダムに配向しているため、クラックが発生しにくくなると考えられる。
【0044】
なお、本発明において、直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させて、X軸方向と平行にX線を照射し、X線照射位置をY軸方向に走査させて、Y軸方向繊維全幅にわたるX線回折測定方法としては、Y軸方向繊維全幅にわたり少なくとも10点程度測定することができる方法、すなわち、測定に用いられるX線の焦点直径が繊維径の5分の1程度であれば特に限定されず、例えば、非特許文献(Polymer vol.46(2005) p.1935-1942)に記載された方法で測定できる。
【0045】
本発明のポリベンザゾール繊維のクラック率は、10個/1000m以下であることが好ましく、より好ましくは8個/1000m以下、さらに好ましくは5個/1000m以下である。ポリベンザゾール繊維のクラック率が10個/1000m以下であれば、プリント配線基板の補強材料として用いた場合、プリント配線基板の長期接続信頼性がより向上する。ここで、本発明において、クラック率とは、単繊維単位長さ(1000m)当たりに存在するクラックの個数であり、後述する測定方法により確認する。
【0046】
なお、本発明において、クラックとは、直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させたとき、Z軸方向の長さが30μm以上500μm以下、X軸方向の長さが0.5μm以上5μm以下、Y軸方向の長さが0.5μm以上5μm以下の欠陥をいう。なお、クラックの各方向の長さは、図7(a),(b)に示すように、各方向における最大値(Xm,Ym,Zm)を測定するものとする。ここで、図7は繊維中のクラックを説明するため
の模式図であり、(a)は直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させ、X軸方向から見たクラックを例示する模式図であり、(b)は直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させ、Y軸方向から見たクラックを例示する模式図である。
【0047】
本発明のポリベンザゾール繊維の繊維径は、4μm以上が好ましく、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは6μm以上であり、15μm以下が好ましく、より好ましくは12μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。ポリベンザゾール繊維の繊維径が上記範囲内であれば、プリント配線基板の補強材料として用いた場合、基板を構成するポリベンザゾール繊維と樹脂成分との密着性が確保される。なお、ポリベンザゾール繊維の繊維径は、樹脂成分との密着性を高める観点からは、より小さいことが望ましいが、繊維径が4μm未満のポリベンザゾール繊維は製造が困難であり、また、一般に繊維径が細い繊維は健康への悪影響が懸念されている。
【0048】
本発明のポリベンザゾール繊維の引張強度は、1.8GPa以上が好ましく、より好ましくは2.0GPa以上、さらに好ましくは2.2GPa以上であり、7.0GPa以下が好ましく、より好ましくは6.5GPa以下、さらに好ましくは6.0GPa以下である。ポリベンザゾール繊維の引張強度が上記範囲内であれば、本発明のポリベンザゾール繊維を補強材料として用いて、厚さ0.3mm以下の薄型基板を製造し、電子機器に使用した場合でも、機器落下時の基板の割れなどの実用上の問題が生じることがない。
【0049】
本発明のポリベンザゾール繊維の弾性率は、200GPa以上が好ましく、より好ましくは210GPa以上、さらに好ましくは225GPa以上であり、350GPa以下が好ましく、より好ましくは330GPa以下、さらに好ましくは300GPa以下である。ポリベンザゾール繊維の弾性率が上記範囲内であれば、本発明のポリベンザゾール繊維を補強材料に用いて、厚さ0.3mm以下の薄型基板を製造した場合でも、基板の反り、変形などの問題が生じることがない。なお、本発明において、ポリベンザゾール繊維の弾性率とは、JIS L 1013に規定されている見掛けヤング率を指すものとする。
【0050】
本発明のポリベンザゾール繊維の繊維軸方向の線熱膨張係数(100℃以上200℃以下)は、−20ppm/℃以上が好ましく、より好ましくは−15ppm/℃以上、さらに好ましくは−10ppm/℃以上であり、−3ppm/℃以下が好ましく、より好ましくは−4ppm/℃以下、さらに好ましくは−5ppm/℃以下である。ポリベンザゾール繊維の繊維軸方向の線熱膨張係数(100℃以上200℃以下)が上記範囲内であれば、プリント配線基板の補強材料に用いた場合、プリント配線基板において、配線層を形成する銅などの金属の使用量が多い場合や、基板中の樹脂成分の含有比率が高い場合でも、プリント配線基板本体の線熱膨張係数を低くすることができる。
【0051】
前記ポリベンザゾール繊維の製造方法を説明する。本発明に用いられるポリベンザゾール繊維の製造方法は、例えば、紡糸原液調製工程、紡出工程、凝固工程、洗浄工程、中和工程、乾燥工程および熱処理工程を有する。
【0052】
前記紡糸原液調製工程は、前記PBZと、溶媒とを含有する紡糸原液を調製する工程である。前記PBZおよび紡糸原液は公知の方法により合成することができる。例えば、Wolfe等の米国特許第4533693号(1985年8月6日)、Sybert等の米国特許第4772678号(1988年9月20日)、Harrisの米国特許第4847350号(1989年7月11日)に記載される方法で合成される。実質的にPBOから成るポリマーはGregory等の米国特許第5089591号(1992年2月18日)によると、脱水性の酸溶媒中での比較的高温、高剪断条件下において高い反応速度での高分子量化が可能である。
【0053】
前記溶媒としてはPBZを溶解し得る非酸化性の酸溶媒を含有するものであれば特に限定されない。前記酸溶媒としては、例えば、ポリリン酸、メタンスルフォン酸、高濃度硫酸、およびこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、ポリリン酸およびメタンスルフォン酸が好ましく、特にポリリン酸が好適である。
【0054】
前記紡糸原液中のPBZ含有率は、7質量%以上が好ましく、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは14質量%以上である。また、紡糸原液中のPBZ含有率の上限は、特に限定されないが、PBZの溶解性や紡糸原液の粘度などを考慮し、20質量%である。
【0055】
前記紡出工程は、前記紡糸原液を装置の紡糸部に供給し、紡糸口金から紡出する工程である。紡出工程には、公知の装置を用いることができる。紡糸口金から紡出する際の紡糸原液の温度は通常100℃以上250℃以下である。紡糸口金に形成される細孔の配列は、通常円周状、格子状に配列されるが、その他の配列でもよい。また、紡糸口金に形成される細孔の個数は、特に限定されず、紡出された紡出糸条間の融着が発生しないように適宜調整すればよい。
【0056】
紡出された紡出糸条は、十分な一定の延伸比(SDR)を得るため、米国特許第5296185号に記載されたように、十分な一定の長さのドローゾーンが必要で、かつ比較的高温度(紡糸原液の固化温度以上、紡出温度以下)の整流された冷却風で均一に冷却されることが望ましい。ドローゾーンの長さは、窒素、アルゴン、空気などの非凝固性の気体中で固化が完了する長さが必要であり大雑把には単孔吐出量によって決定される。良好な繊維物性を得るにはドローゾーンの取り出し応力が、ポリマー換算で(ポリマーのみに応力がかかるとして)2g/d以上が必要である。なお、本発明において「固化」とは、紡糸原液が冷却されて、単に溶融状態から固体状態になることをいう。
【0057】
前記SDRは、得られるポリベンザゾール繊維の線膨張係数、弾性率の観点からは高い方が好ましいが、SDRが高すぎると糸条に含まれる微細な異物、粘度斑によってクラックが発生しやすくなる。そのため、例えば、繊維径4μm以上15μm以下のポリベンザゾール繊維を得る場合、紡出口金に形成される細孔の孔径は0.10mm以上が好ましく、より好ましくは0.11mm以上、さらに好ましくは0.12mm以上であり、0.17mm以下が好ましく、より好ましくは0.16mm以下、さらに好ましくは0.15mm以下である。
【0058】
前記凝固工程は、紡出糸条に凝固剤を接触させて、PBZを凝固させる工程である。上述のようにドローゾーンで延伸された紡出糸条は、凝固浴に導かれ凝固剤と接触される。凝固剤としては、紡糸原液に用いた酸溶媒を紡出糸条から溶出させることなく、酸溶媒がPBZを溶解し得なくすることができるものであれば、特に限定されない。例えば、酸溶媒としてポリリン酸を用いた場合には、凝固剤として水蒸気を用いればよい。水蒸気を用いることにより、紡出糸条からポリリン酸を溶出させることなく、PBZ溶解し得るポリリン酸から、PBZを溶解し得ないリン酸に加水分解することができ、こうすることによりPBZを凝固させることができる。なお、本発明において「凝固」とは、酸溶媒に溶解しているPBZを、析出させることをいう。
【0059】
このように、紡糸原液に用いた酸溶媒を紡出糸条から溶出させることなく、酸溶媒がP
BZを溶解し得なくすることにより、溶媒が紡出糸条から溶出する際に構造平面がラジアル配向(放射状の選択配向)することが防止でき、構造平面がランダムに配向したポリベンザゾール繊維を得ることができる。
【0060】
紡出糸条に水蒸気を吹き付けるための装置は、紡出糸条が水蒸気に接触し、紡出糸条内部まで凝固を進行させることができるものであれば特に限定されず、連続式、非連続式、密閉型、非密閉型のいずれも用いることができる。
【0061】
紡出糸条に水蒸気を接触させる際の水蒸気の温度は、70℃以上が好ましく、より好ましくは80℃以上であり、130℃以下が好ましく、より好ましくは110℃以下である。なお、上記水蒸気の温度とは、凝固浴内において測定される温度である。温度が低いと後述するフェニレン環などの構造平面の配向様式を十分にランダム化できない。逆に高すぎると、繊維の引張強度・弾性率が所期のレベルに達しない。蒸気を使った凝固といえども、後述する物質流の影響により、構造平面の配向様式もラジアル配向する。このため、製造途中、特に乾燥工程や熱処理工程においてクラックが生成され好ましくない。また、凝固浴内の気相中の全気体成分中の水蒸気含有率は80質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。水蒸気含有率が低いと、構造平面の配向様式を十分ランダム化できない。
【0062】
本発明でとくに重要な、フェニレン環などの構造平面の配向様式をランダムに変化させる方法・原理について述べる。凝固工程において、紡糸口金から押し出された紡出糸条は凝固剤と出会うことで、表面から凝固と構造形成(結晶の成長と配列)が同時に起こる。時間の経過とともに、凝固と構造形成が起こる場所は、紡出糸条の表面から中心へ移る。凝固が生じると、今までPBZを溶解していたポリリン酸分子は、PBZ分子から離れ、加水分解効果により一部の分子はリン酸へと変化しながら紡出糸条の外側へと流れ出ていく。PBZ分子は、分子構造中に平面構造(フェニレン環など)を有している。
【0063】
このとき、物質(PBZ分子を溶解する能力を有するポリリン酸(加水分解を受けていない、もしくは、その程度の小さいポリリン酸))の繊維内部から外側への流れ出しが生じるので、その流れ出しに沿ってフェニレン環などの構造平面が沿って並ぶ。そのため、結果として最終の繊維構造は、PBZと相互作用が可能な物質が流れ出た方向、すなわちラジアル状に並ぶ傾向を示すと推察される。
【0064】
そこで蒸気を用いた凝固に伴って、自発的に発生するフェニレン環などの構造平面の配向を抑制する方策を考えた。PBZがポリリン酸溶液に溶解している状態では、フェニレン環などの構造平面はランダムに配向している。溶液状態でのランダム配向を固体(繊維化したあと)でも維持すること(第一課題)、物質の流れに沿って配向するので、物質流の影響をおさえること(第二課題)、の2点が課題である。ランダム配向を維持(第一課題)するためには紡出糸条が凝固浴に突入すると短い時間で、凝固剤分子(ポリリン酸溶液の場合は水分子)を紡出糸条の中心にすばやく到達させ、ポリリン酸の縮合度を下げポリベンザゾールの溶解能力をなくす必要がある。
【0065】
このためには、凝固剤として蒸気を用いることで、凝固途中の繊維の温度を上昇せしめ、水や酸溶媒(ポリリン酸)の分子運動を高め、かつ、ポリリン酸の加水分解反応を促進させることが重要である。次に、物質流の影響を抑えるためには紡出糸条と凝固液間でのケミカルポテンシャルの差を小さくする。すなわち、凝固剤として蒸気を採用することで、凝固浴を通過している最中でのリン酸やポリリン酸の凝固浴への流れ出しを抑制することが重要である。結果として、凝固浴を通過している間、紡出糸条の内部まで水分子が短い時間で到達し、ポリリン酸の縮合度を落とす。凝固剤が蒸気のため液体のように洗い流す効果を期待できないため、ポリリン酸の紡出糸条外への流れ出しは抑えられている。
【0066】
したがって、凝固浴を出た直後の紡出糸条は、PBZに対する溶解能力を失うまで加水分解されたポリリン酸やリン酸(モノリン酸)で満たされている状態になっていることが理想状態であると推察される。
【0067】
前記洗浄工程は、凝固工程を経た紡出糸条を洗浄浴へ導き、洗浄液により紡出糸条中の酸溶媒を洗浄し、ポリベンザゾール繊維とする工程である。前記洗浄液としては、酸溶媒を溶出させることができるものであれば、特に限定されない。例えば、酸溶媒として、ポリリン酸を使用し、凝固剤として水蒸気を用いた場合には、凝固工程を経た紡出糸条中に含有されるリン酸を溶解できるものを用いればよく、例えば、水などが用いられる。
【0068】
洗浄工程において、洗い流されるモノリン酸や加水分解したポリリン酸は、もはやPBZを溶かす能力がない、すなわち、PBZ分子との相互作用が非常に小さくなっている。そのため、フェニレン環などの構造平面を物質移動の(ラジアル)方向へ配向促進させる能力はもはや失われていると考えられる。実際その様にして作ったポリベンザゾール繊維においては、PBZ分子のフェニレン環などの構造平面はラジアル方向に並ばない。
【0069】
前記中和工程は、洗浄工程で得られたポリベンザゾール繊維中に残留する酸溶媒を中和する工程である。中和工程において用いられる中和液は、特に限定されず、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水、炭酸ナトリウム水溶液などが挙げられる。なお、中和後は再度水洗することが望ましい。
【0070】
前記乾燥工程は、ポリベンザゾール繊維の水分率を調整する工程である。乾燥温度は、150℃以上が好ましく、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは220℃以上であり、400℃以下が好ましく、より好ましくは300℃以下、さらに好ましくは270℃以下である。そして、熱処理工程に供するポリベンザゾール繊維の水分率は、3質量%以下が好ましく、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。ポリベンザゾール繊維の水分率が高すぎると、後述する熱処理を施した際に、水分が急激に沸騰、蒸発して、繊維にクラックを生じるおそれがある。なお、ポリベンザゾール繊維の水分率は、JIS L 1013に準じて測定すればよい。
【0071】
前記熱処理工程は、ポリベンザゾール繊維に張力をかけた状態で、熱処理を施す工程である。繊維に付加する張力は、1.0cN/dtex以上が好ましく、より好ましくは1.5cN/dtex以上、さらに好ましくは2.0cN/dtex以上、特に好ましくは2.5cN/dtex以上、最も好ましくは3.0cN/dtex以上であり、8.0cN/dtex以下が好ましく、より好ましくは7.0cN/dtex以下、さらに好ましくは6.0cN/dtexである。熱処理温度は、400℃以上が好ましく、より好ましくは500℃以上、さらに好ましくは550℃以上であり、700℃以下が好ましく、より好ましくは680℃以下、さらに好ましくは630℃以下である。
【0072】
本発明のポリベンザゾール繊維は、繊維中のクラック数が少なく、また、線熱膨張係数が小さいことから、プリント配線基板の補強材料として好適である。
【0073】
以下、プリント配線基板について説明する。ここで、プリント配線基板とは、基板と、前記基板の少なくとも一方の面に設けられた配線層を有するものである。また、前記基板とは、前記ポリベンザゾール繊維と樹脂成分とを含有するものであって、配線層が形成されていないものをいう。
【0074】
前記基板に含有される本発明のポリベンザゾール繊維の形態は特に限定されないが、例えば、(I)単繊維、紡績糸、チョップドファイバー、ステープルファイバーなどの繊維状で分散している態様;(II)ポリベンザゾール繊維が、一定の方向に配向された繊維
層を構成している態様(例えば、特許文献6の図1参照);(III)少なくともポリベンザゾール繊維が第1方向に配向された第1層と、ポリベンザゾール繊維が前記第1方向と異なる第2方向に配向された第2層とを有する多層構造を有する態様(例えば、特許文献6の図3参照);(IV)ポリベンザゾール繊維あるいは紡績糸が、経糸および緯糸となり織物を構成している態様などが挙げられる。これらの中でも、上記(II)〜(IV)の態様が好ましく、(III)の態様が最も好ましい。
【0075】
(IV)の態様(織物)は、布が伸び縮みするようにそれ自体が伸縮性を有しているため、その分寸法変化が大きくなってしまい、さらなる低熱膨張化を実現することが困難である。また、繊維の湾曲が不可避であるため、不規則な寸法挙動を誘発し、プリント配線基板の反りや表面のうねりが発生しやすい。しかし、(III)の態様であれば、これらの問題点が解消され、本発明のクラックが極めて少ないポリベンザゾール繊維と組み合わせれば、回路の小型化が可能になるからである。
【0076】
前記樹脂成分としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂(シアン酸エステル樹脂)、ビスマレイミド樹脂、トリアジン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、アクリレート樹脂、シリコーン樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記樹脂としては、複数種類の混合物を用いることが好ましく、エポキシ樹脂とフェノール樹脂との混合物がより好適である。
【0077】
前記エポキシ樹脂としては、フェノール類またはアルコール類とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジルエーテル型;カルボン酸類とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジルエステル型;アミン類またはシアヌル酸とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジルアミン型などが挙げられる。これらの中でも、グリシジルエーテル型が好適である。また、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂には、フェノール誘導体として使用される化合物によって、さらにビスフェノールAノボラック型;フェノールノボラック型;クレゾールノボラック型などに分類されるが、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂がより好適である。前記フェノール樹脂は、ノボラック樹脂とレゾール樹脂に分類されるが、ノボラック樹脂が好適である。また、ノボラック樹脂の中でも、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、トリアジン変性ノボラック樹脂がより好適である。
【0078】
前記基板は、前記樹脂成分を含有する硬化性樹脂組成物と、前記ポリベンザゾール繊維とを含有するプリプレグから得ることができる。なお、本発明においてプリプレグとは、ポリベンザゾール繊維に硬化性樹脂組成物を含浸させ、当該硬化性樹脂組成物をBステージまで硬化させたシート状材料を指す。ここでBステージとは、例えば、硬化性樹脂組成物として熱硬化性樹脂を用いた場合においては、当該熱硬化性樹脂の硬化中間状態を指し、この状態での樹脂は加熱すると軟化し、ある種の溶剤に触れると膨潤するが、完全に溶融、溶解することはない。また、前記硬化性樹脂組成物とは、未硬化の樹脂成分を必須成分とし、必要に応じて、硬化剤、無機フィラーなどを含有する組成物である。
【0079】
前記硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、硬化剤を含有してもよい。前記硬化剤は、硬化性樹脂組成物に含有される樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、樹脂としてエポキシ樹脂を含有する場合には、2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール化合物;ポリアミン系硬化剤;ポリメルカプタン硬化剤などを用いることができる。
【0080】
前記硬化性樹脂組成物は、無機フィラーを含有することが好ましい。前記無機フィラーとしては、非導電性材料から成るものが好ましく、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、水酸化アルミニウムなどの金属酸化物から成るものが挙げられる。無機フィラーの形状としては、球状、回転楕円体状、薄板状、針状などが挙げられる。これらの無機フィラーは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、シリカからなる粒子が好ましく、特に球状シリカが好適である。前記球状シリカとしては、特に限定されず、例えば、ケイ素化合物を火炎中で処理して製造されたものや、酸化ケイ素粉末を火炎中で処理して製造されたものを用いることができる。
【0081】
無機フィラーの大きさは、微細であるほど望ましく、例えば、球状のものであれば、体積平均粒子径が、7μm以下が好ましく、より好ましくは4μm以下、さらに好ましくは2μm以下である。ここで、無機フィラーの平均粒子径は、レーザー回折型粒度分布測定装置により測定される値とする。
【0082】
また、前記無機フィラーは、その表面がシランカップリング処理されていることが好ましい。なお、無機フィラーのシランカップリング処理は、公知の方法で行えばよい。
【0083】
前記硬化性樹脂組成物に、無機フィラーを含有させる場合には、硬化性樹脂組成物中の無機フィラーの含有率は20体積%以上が好ましく、より好ましくは45体積%以上、さらに好ましくは60体積%以上である。無機フィラーの含有率は、多いほど良いが、90体積%を超えると内部に気泡が多数残留するため、現実的には、90体積%以下が好ましく、より好ましくは85体積%以下である。硬化性樹脂組成物中の無機フィラーの含有率を上記範囲とすることにより、硬化性樹脂組成物の線熱膨張係数を低くできるため、得られる基板の熱膨張係数を低くすることができる。さらに、硬化性樹脂組成物の弾性率を高くできるため、得られる基板の剛性が高くなり、基板の反りや変形を防止することができる。
【0084】
また、前記硬化性樹脂組成物は、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、縮合型リン酸エステルなどの難燃剤などが挙げられる。
【0085】
前記硬化性樹脂組成物の硬化物の線熱膨張係数(100℃以上200℃以下)は、40ppm/℃以下が好ましく、より好ましくは20ppm/℃以下、さらに好ましくは10ppm/℃以下である。硬化性樹脂組成物の硬化物の線熱膨張係数(100℃以上200℃以下)が上記範囲内であれば、プリント配線基板における、配線層を形成する銅などの金属の使用量が多い場合や、基板中の樹脂成分の含有比率が高い場合でも、プリント配線基板本体の線熱膨張係数を低くすることができる。
【0086】
前記硬化性樹脂組成物の硬化物のヤング率は、特に限定されないが、5GPa以上50GPa以下である。硬化性樹脂組成物のヤング率は、JIS K 7161に準じて測定すればよい。
【0087】
前記プリプレグは、前記樹脂成分、ならびに、必要に応じて溶剤および無機フィラーを含有する硬化性樹脂組成物を、前記ポリベンザゾール繊維に含浸させることにより得られる。硬化性樹脂組成物をポリベンザゾール繊維に含浸させる方法は特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。
【0088】
また、硬化性樹脂組成物をポリベンザゾール繊維に含浸させる際には、硬化性樹脂組成物を溶剤で希釈することが好ましい。前記溶剤としては、メチルエチルケトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどが用いられる。前記溶剤を用いた場合には、硬化性樹脂組成物含浸後に当該溶剤を揮発させる必要があるが、この際の乾燥方法についても、特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。
【0089】
前記プリプレグ中の硬化性樹脂組成物の含有率は20体積%以上が好ましく、より好ましくは25体積%以上、さらに好ましくは30体積%以上であり、60体積%以下が好ましく、より好ましくは50体積%以下、さらに好ましくは40体積%以下である。プリプレグ中の硬化性樹脂組成物の含有率を上記範囲とすることにより、ポリベンザゾール繊維の有する低熱膨張係数、高弾性率などの特性が支配的となるため、当該プリプレグから得られる基板の熱膨張係数をより低く、かつ、弾性率をより高くすることができる。
【0090】
前記プリプレグの厚みは100μm以下が好ましく、より好ましくは70μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。プリプレグが厚すぎると、含有されるポリベンザゾール繊維の質量分率を高めることが困難となり、得られる基板の熱膨張率を抑えることができない。プリプレグの厚みの下限値は、特に限定されないが、加工装置の性能およびポリベンザゾール繊維の繊維径を考慮すると、30μm程度である。
【0091】
そして、前記プリプレグに含有される硬化性樹脂組成物を硬化させることにより基板とする。硬化性樹脂組成物の硬化方法は、硬化性樹脂組成物に含有される樹脂成分および硬化剤の種類に応じて選択すればよい。例えば、樹脂成分としてエポキシ樹脂、硬化剤として2−エチル−4−メチルイミダゾールを用いた場合には、200℃で60分加熱すればよい。
【0092】
ここで、シリコンチップが実装されるプリント配線基板の線熱膨張係数は後述する範囲内であることが好ましい。プリント配線基板の線熱膨張係数がこの範囲内であれば、シリコンチップの大きさ、材質に影響されず、安定した歩留りで不具合なくシリコンチップの実装が可能となる。プリント配線基板の線熱膨張係数を後述する範囲内とするためには、基板に配線層(例えば、銅配線など)を形成することによる線熱膨張係数の増加分をキャンセルする必要がある。そのため、前記プリプレグを硬化して得られる基板の線熱膨張係数(100℃以上200℃以下)は、−6ppm/℃以上が好ましく、より好ましくは−5ppm/℃以上であり、4ppm/℃以下が好ましく、より好ましくは0ppm/℃以下、さらに好ましくは−2ppm/℃以下である。基板の線熱膨張係数(100℃以上200℃以下)が上記範囲内であれば、プリプレグを硬化して得られる基板上に様々な配線層を形成した場合でも、プリント配線基板の線熱膨張係数を後述する範囲内とすることができる。すなわち、プリント配線基板の熱膨張係数を所定の範囲内に納めるための設計上の制約が少なくなる。
【0093】
また、プリプレグから基板を得る際には、プリプレグの片面または両面に、あらかじめ金属箔を積層させた後、硬化性樹脂組成物を硬化させること、いわゆる両面銅張基板とすることが好ましい。これにより、得られる基板には金属箔が積層されているため、この金属箔をエッチングすることで容易に配線層を形成することができ、プリント配線基板の製造が容易となる。前記金属箔の厚みは、1μm以上18μm以下が好ましい。また、前記金属箔としては、導電性を有するものであれば特に限定されないが、銅箔が好適である。
【0094】
次に、本発明のプリント配線基板について説明する。本発明のプリント配線基板は、前記基板の少なくとも一方の面に設けられた配線層を有する。
【0095】
前記配線層は、基板の一方の面にのみ設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。また、前記配線層の形成方法は、特に限定されず、エッチング法、めっき法、転写法など公知の方法を採用できる。これらの中でも、前述のようにプリプレグから基板を得る際に、あらかじめ金属箔を積層している場合には、エッチング法が好適である。
【0096】
前記プリント配線基板は、スルーホールが形成されていてもよい。前記スルーホールは、例えば、両面銅張基板を構成する基板および銅箔を貫通する貫通孔を形成し、この貫通孔内表面に導体層を形成して導電化することにより形成される。
【0097】
前記貫通孔の形成方法は、特に限定されず、例えば、レーザー加工、ドリル加工など公知の方法を採用でき、これらの中でも、レーザー加工が好ましい。前記貫通孔の直径は、200μm以下が好ましく、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは60μm以下である。貫通孔の直径を前記範囲とすることにより、プリント配線基板に形成されるスルーホールの密度を高めることができ、多数のI/O(Input/Output(接続端子))を有する半導体の実装が可能となる。
【0098】
前記貫通孔を導電化する方法としては、例えば、電気めっき、無電解めっき、スパッタ、蒸着、導電性ペーストの充填などの方法が挙げられる。これらの中でも、電気めっきまたは無電解めっきが好ましく、無電解めっきを行った後にさらに電気めっきを行うことがより好ましい。
【0099】
前記プリント配線基板は、基板に設けられた配線層上に、さらに絶縁層および配線層が形成された、いわゆる多層プリント配線基板でもよい。前記多層プリント配線基板の製造方法は、特に限定されないが、例えば、ビルトアップ法を採用すればよい。
【0100】
前記プリント配線基板の線熱膨張係数(100℃以上200℃以下)は、−5ppm/℃以上が好ましく、より好ましくは−2ppm/℃以上、さらに好ましくは1ppm/℃以上であり、7ppm/℃以下が好ましく、より好ましくは6ppm/℃以下、さらに好ましくは5ppm/℃以下である。プリント配線基板の線熱膨張係数(100℃以上200℃以下)が上記範囲内であれば、シリコンチップなどをフリップチップ実装する際に、フリップチップ実装後の冷却過程で、シリコンチップとプリント配線基板との熱膨張率差が原因で生じる熱応力により、シリコンチップに用いられている低誘電率材料に割れが生じることを抑制できる。なお、プリント配線基板の線熱膨張係数とは、基板に配線層が設けられたものを測定した値であり、後述する方法により測定する。
【実施例】
【0101】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0102】
評価方法
1.繊維径
ポリベンザゾール繊維の繊維束をエポキシ樹脂(ガタン社製、G−2)に胞埋したものを、ポリッシングして観察用繊維断面を得た。得られた観察用繊維断面を電解放射走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、「S−4500」)を用いて観察し、繊維径を測定した。なお、観察用繊維断面には観察前にカーボン蒸着を施し、電子顕微鏡は加速電圧を5kV〜10kV、倍率を1000倍〜3000倍に設定し、観察を行った。そして、少なくとも100本の単繊維について繊維径を測定した後、これらの平均値を求め繊維径とした。
【0103】
2.繊維の引張強度・弾性率
ポリベンザゾール繊維を、標準状態(温度:20±2℃、相対湿度(RH):65±2%)の試験室内に、紫外光および可視光を遮断した状態で24時間以上放置した後、繊維の引張強度および弾性率(見掛けヤング率)を、JIS L 1013に準じて測定した。試験機には定速伸長型を用い、試料長200mm、引張速度200mm/minの条件で測定を行った。なお、PBOの密度は1.56g/cm3とした。
【0104】
3.繊維のクラック率
ポリベンザゾール繊維を、光学顕微鏡(接眼レンズ倍率;10倍、対物レンズ倍率;10倍)を用いて観察し、繊維中のクラックの個数を数えて、クラック率(ポリベンザゾール繊維1000m当たりの平均クラック個数)を算出した。なお、観察は、少なくとも6m以上の長さを有するポリベンザゾール繊維を、無作為に複数本サンプリングし、これらについて全長に渡って観察を行い、観察されるポリベンザゾール繊維の長さの合計が、少なくとも1000mとなるまで観察を行って、クラック率を算出した。
【0105】
4.繊維の線熱膨張係数
ポリベンザゾール繊維の繊維軸方向の熱膨張の測定は、熱機械測定装置(TMA)(ティー・エイ・インスツルメント社製、型番「Q400EM」)を用いて測定した。測定試料には、ポリベンザゾール繊維166本からなる繊維束を用い、荷重はポリベンザゾール繊維1本あたり1g以下になるように調整した。温度上昇速度は10℃/分に設定し、温度100℃〜200℃間に生じた繊維の繊維軸方向の寸法変化を測定した。得られた測定結果を元に下記式から線熱膨張係数を算出した。
α=ΔL/(L×ΔT)
α:線熱膨張係数(ppm/℃)
ΔL:試料の寸法変化量(m)
L :試料のもとの長さ(m)
ΔT:温度変化量(℃)
【0106】
5.X線回折測定
(200)結晶面の選択配向評価は、X線回折法を用いて測定した。X線ソースとしては、大型放射光施設ESRF(European Synchrotron Radiation Facility,所在地:フランス国グルノーブル市)をX線源とし、ID13ハッチを使用した。蓄積リングから取り出したX線(0.98Å)は単色化したのちサンプル(ポリベンザゾール繊維)位置で収束するようにセットした。焦点の大きさは、キャピラリー光学系を通して直径が1μm以下になるように調整した。
【0107】
測定は、直径座標系において、ポリベンザゾール繊維の繊維軸をZ軸方向に一致させて、X軸方向と平行にX線を照射し、X線照射位置をY軸方向に走査させて、Y軸方向繊維全幅にわたり、中心点を含み実質的に等間隔な11点についてX線回折測定を行った。X線回折図形は、CCDカメラ(MARCCO検出器:空間分解能64.45×64.45μm2)を用いて記録した。記録された画像データはパソコンに転送して、赤道方向および方位角方向のデータを切り出した後、各測定位置における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を評価した。
【0108】
各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを作成し、前記回折強度の折れ線グラフの最大値の位置および波形を確認した。
最大値の位置は、Y軸方向繊維中心またはその近傍に最大値を有する場合を「可」、それ以外を「不可」とした。波形は、単峰性を示す場合を「可」、それ以外を「不可」とした。
【0109】
6.プリント配線基板の線熱膨張係数
製造例で得られたプリプレグから得られる基板、プリント配線基板から熱膨張測定用試料(長さ10mm、幅3mm、厚み0.5mm)を切り出し、熱機械測定装置(TMA)を用いて、熱膨張を測定した。温度上昇速度は10℃/分に設定し、温度100℃〜200℃間に生じた寸法変化を測定した。得られた測定結果を元に、前記繊維の線熱膨張係数と同様にして、基板、プリント配線基板の線熱膨張係数を算出した。
【0110】
7.はんだ耐熱性試験
製造例で得られた両面銅張基板について、はんだ耐熱性試験を、JIS C 6481に準じて行った。具体的には、両面銅張基板を、260℃に加熱したはんだ浴に20秒間浮かせた後、試料の膨れの有無を目視にて観察した。膨れや層の剥離による変色が認められた試料は不良と判定した。
【0111】
8.プリント配線基板の歩留り、マイグレーション試験
絶縁抵抗試験
製造例で示した製造方法に基づいて、縦横に50列×50行のスルーホールを形成した試験用プリント配線基板を25個作製した。各スルーホールの直径は75μm、スルーホールピッチは200μmとした。得られた試験用プリント配線基板25個について、スルーホール50列に対して1列ごとに正と負の電荷が交互に付与されるよう櫛刃状の配線を形成した。各プリント配線基板のスルーホール50列について、隣接するスルーホール列との絶縁抵抗を測定することで、スルーホールの絶縁性が保てているかどうかを検査し、絶縁性が確保できているプリント配線基板の比率(歩留り)を算出した。
【0112】
マイグレーション試験
前記絶縁抵抗試験において、絶縁性が確保できていたプリント配線基板を試験基板として用いて、マイグレーション試験を実施した。マイグレーション試験はJEDEC A 101Bに準じて行った。試験は、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気で行い、電極への印加電圧は5Vとして、1000時間以上絶縁を保ったものを合格、1000時間未満で絶縁破壊が生じたものを不合格とした。
【0113】
ポリベンザゾール繊維
製造例1
米国特許第4533693号に示される方法によって得た、極限粘度が24.2dl/gであるPBOを、ポリリン酸に溶解させて、PBO濃度が14質量%である紡糸原液を調製した。得られた紡糸原液を紡糸温度175℃で孔径0.14mm、孔数166の紡糸口金から紡出し、紡出された紡出糸条をクエンチ温度60℃のクエンチチャンバー内を通過させて冷却した。クエンチチャンバーを通過した紡出糸条を、マルチフィラメントに収束させながら、水蒸気温度95℃、凝固浴内の気相中の全気体成分中の水蒸気分率90質量%の蒸気付与条件で水蒸気を噴きつけ紡出糸条を凝固させた。凝固された紡出糸条を、フィラメント中の残留リン濃度が6000ppm以下になるまで水洗し、1%NaOH水溶液で5秒間中和し、さらに10秒間水洗した。水洗後、水分率が2質量%になるまで乾燥させた。乾燥後、張力5.0cN/dtex、温度600℃の状態で2.4秒間熱処理を行い、ポリベンザゾール繊維No.1を得た。得られたポリベンザゾール繊維No.1について、クラック率、繊維径、引張強度、弾性率、繊維軸方向の線熱膨張係数、(200)結晶面由来の回折強度を測定した。結果を表1に示した。また、X線回折測定結果を元に作成した回折強度の折れ線グラフを図8に示した。
【0114】
製造例2
凝固工程における蒸気付与条件を、水蒸気温度65℃、凝固浴内の気相中の全気体成分中の水蒸気分率90質量%に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、ポリベンザゾール繊維No.2を作製し、評価した。結果を表1に示した。
【0115】
製造例3
凝固工程における蒸気付与条件を、水蒸気温度135℃、凝固浴内の気相中の全気体成分中の水蒸気分率90質量%に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、ポリベンザゾール繊維No.3を作製し、評価した。結果を表1に示した。
【0116】
製造例4
凝固工程における蒸気付与条件を、水蒸気温度95℃、凝固浴内の気相中の全気体成分中の水蒸気分率75質量%に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、ポリベンザゾール繊維No.4を作製し、評価した。結果を表1に示した。
【0117】
製造例5
紡出工程における紡糸口金を、孔径0.18mm、孔数166の紡糸口金に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、ポリベンザゾール繊維No.5を作製し、評価した。結果を表1に示した。
【0118】
製造例6
紡出工程における紡糸口金を、孔径0.12mm、孔数166の紡糸口金に変更したこと以外は、製造例1と同様にしてポリベンザゾール繊維No.6を作製したが、糸切れが多発し、繊維を作製することが困難であった。そのため、ポリベンザゾール繊維No.6については、繊維径のみを測定し、他の物性値は測定しなかった。
【0119】
製造例7
凝固工程において、凝固剤として水(温度40℃)を用いたこと以外は、製造例1と同様にして、ポリベンザゾール繊維No.7を作製し、評価した。結果を表1に示した。また、X線回折測定結果を元に作成した回折強度の折れ線グラフを図9に示した。
【0120】
製造例8
紡出工程における紡糸口金を、孔径0.16mm、孔数166の紡糸口金に変更したこと、および、凝固工程における蒸気付与条件を、水蒸気温度85℃、凝固浴内の気相中の全気体成分中の水蒸気分率90質量%に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、ポリベンザゾール繊維No.8を作製し、評価した。結果を表1に示した。また、X線回折測定結果を元に作成した回折強度の折れ線グラフを図10に示した。
【0121】
製造例9
熱処理工程において、繊維に付加する張力を0.7cN/dtexに変更したこと以外は、製造例1と同様にして、ポリベンザゾール繊維No.9を作製し、評価した。結果を表1に示した。
【0122】
製造例10
極限粘度が29dl/gであるPBOを、ポリリン酸に溶解させて、PBO濃度が14質量%である紡糸原液を調製した。得られた紡糸原液を用いて、単糸フィラメント径が11.5μm、1.65dtexとなるような条件で紡糸を行った。すなわち、紡糸原液を紡糸温度175℃で孔径0.20mm、孔数166の紡糸口金から紡出し、紡出された紡出糸条をクエンチ温度60℃のクエンチチャンバー内を通過させて冷却した。クエンチチャンバーを通過した紡出糸条を、マルチフィラメントに収束させながら、水蒸気を接触させて紡出糸条を凝固させた。なお、水蒸気の付与は、水蒸気温度75℃、凝固浴内の気相中の全気体成分中の水蒸気分率90質量%に調節した蒸気雰囲気に、紡出糸条を0.6秒間通過させることで行った。
凝固された紡出糸条を、フィラメント中の残留リン濃度が5000ppm以下になるまで水洗し、1%NaOH水溶液で5秒間中和し、さらに10秒間水洗した。水洗後、水分率が2質量%になるまで乾燥させた。乾燥後、張力5.0cN/dtex、温度600℃の状態で2.4秒間熱処理を行い、ポリベンザゾール繊維No.10を作製し、評価した。
【0123】
製造例11
凝固工程における蒸気雰囲気を、水蒸気温度120℃、凝固浴内の気相中の全気体成分中の水蒸気分率90質量%に変更したこと以外は、製造例10と同様にして、ポリベンザゾール繊維No.11を作製し、評価した。結果を表1に示した。
【0124】
【表1】
【0125】
ポリベンザゾール繊維No.1,8は、クラック率がそれぞれ4個/1000m、7個/1000mであり、繊維中のクラックの個数が少なかった。また、ポリベンザゾール繊維No.1,8は、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを作成した際に、前記回折強度の折れ線グラフが、Y軸方向繊維中心またはその近傍に最大値を有する単峰性を示した。
【0126】
ポリベンザゾール繊維No.2〜7は、いずれもクラック率が13個/1000m以上
であり、繊維中のクラックの個数が多かった。また、ポリベンザゾール繊維No.2〜7は、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを作成した際に、前記回折強度の折れ線グラフが、Y軸方向繊維中心またはその近傍に最大値を有さなかった、および/または単峰性を示さなかった。
【0127】
ポリベンザゾール繊維No.9は、熱処理工程における張力を0.7cN/dtexとして得られたものである。このポリベンザゾール繊維No.9では、繊維中のクラックの個数は少ないが、線熱膨張係数が−1ppm/℃と大きな値となった。ポリベンザゾール繊維No.10,11は、高いSDRで紡出糸条を引き取り、凝固工程において紡出糸条に水蒸気を噴きつけていないものである。これらは、いずれも繊維中のクラックの個数が多く、弾性率も低かった。
【0128】
両面銅張基板、プリント配線基板
製造例A
前記製造例1で得られたポリベンザゾール繊維No.1を経糸および緯糸に用い、平織りして成る織布(打ち込み本数50本/インチ)を作製した。次に、硬化性樹脂組成物として、松下電工株式会社製の「多機能有機グリーンシート(OGSシート)」を使用し、この硬化性樹脂組成物を有機溶剤(メチルエチルケトン)に溶解、分散し、樹脂ワニスを作製した。この樹脂ワニスを上述の織布に含浸し、95℃の乾燥機中で15分間乾燥し、厚み90μm、硬化性樹脂組成物含有率55体積%のプリプレグNo.Aを得た。
【0129】
得られたプリプレグを8枚重ねて、その両面に厚み8μmの銅箔を積層し、圧力3.5MPa、温度200℃で60分間加熱加圧して、厚みが600μmの両面に銅箔が積層された基板(以下、「両面銅張基板」ということがある)No.Aを作製し、はんだフロート試験を行った。結果を表2に示した。
【0130】
この両面銅張基板の両面をクリーニングして、表面に付着した樹脂などの異物を取り除いた後、レーザー装置を用いて貫通孔を形成した。貫通孔を形成した後、両面銅張基板の両面および貫通孔ない表面を再度クリーニングし、貫通孔内表面に無電解めっきおよび電解めっきを施してスルーホールを完成した。さらに、両面銅張基板の両面に感光性レジストを塗布して、所望の回路の露光現像を行い、エッチングを行って銅箔の回路を形成した。最後にレジストを剥離して、基板の両面に1層ずつ配線層を有するプリント配線基板No.Aを得た。得られたプリント配線基板No.Aについて、線熱膨張係数測定およびマイグレーション試験を行った。結果を表3に示した。
【0131】
製造例B
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.2を用いたこと以外は、製造例Aと同様にして、両面銅張基板No.B、プリント配線基板No.Bを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0132】
製造例C
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.3を用いたこと以外は、製造例Aと同様にして、両面銅張基板No.C、プリント配線基板No.Cを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0133】
製造例D
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.4を用いたこと以外は、製造例Aと同様にして、両面銅張基板No.D、プリント配線基板No.Dを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0134】
製造例E
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.5を用いたこと以外は、製造例Aと同様にして、両面銅張基板No.E、プリント配線基板No.Eを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0135】
製造例F
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.7を用いたこと以外は、製造例Aと同様にして、両面銅張基板No.F、プリント配線基板No.Fを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0136】
製造例G
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.8を用いたこと以外は、製造例Aと同様にして、両面銅張基板No.G、プリント配線基板No.Gを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0137】
製造例H
製造例1で得られたポリベンザゾール繊維No.1を用い、製造例Aと同様にして、厚み130μm、硬化性樹脂組成物含有率80体積%のプリプレグを得た。得られたプリプレグを用いて、製造例Aと同様にして両面銅張基板No.Hを作製した。得られた両面銅張基板No.Hの厚みは800μmであった。得られた両面銅張基板No.Hを用いて、製造例Aと同様にして、プリント配線基板No.Hを作製した。得られた両面銅張基板No.H、プリント配線基板No.Hを評価した。結果を表2,3に示した。
【0138】
製造例I
製造例1で得られたポリベンザゾール繊維No.1を、一定の方向に配向するように配列して繊維層を構成した。そして、この繊維層に製造例Aと同様の樹脂ワニスを含浸させた後、180℃の乾燥機中で6分間乾燥し、厚み50μm、硬化性樹脂組成物含有率50体積%のプリプレグを得た。なお、単位長さ(繊維に対して直角方向)あたりの繊維本数は200本/mmとした。
【0139】
得られたプリプレグを8枚重ねて、その両面に厚み8μmの銅箔を積層し、圧力3.5MPa、温度200℃で60分間加熱加圧して、両面銅張基板No.Iを得た。なお、プリプレグは、下から1枚目と8枚目のプリプレグ中の繊維方向に対し、2枚目と7枚目のプリプレグ中の繊維方向が直交するように配し、2枚目と7枚目のプリプレグ中の繊維方向に対し、3枚目と6枚目のプリプレグ中の繊維方向が直交するように配し、3枚目と6枚目のプリプレグ中の繊維方向に対し、4枚目と5枚目のプリプレグ中の繊維方向が直交するように配して重ねた。ここで、4枚目のプリプレグ中の繊維方向と5枚目のプリプレグ中の繊維方向は同じである。得られた両面銅張基板No.Iの厚みは320μmであった。得られた両面銅張基板No.Iを用いて、製造例Aと同様にしてプリント配線基板No.Iを作製した。得られた両面銅張基板No.I、プリント配線基板No.Iを評価した。結果を表2,3に示した。
【0140】
製造例J
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.7を用いたこと以外は、製造例Iと同様にして、両面銅張基板No.J、プリント配線基板No.Jを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0141】
製造例K
硬化性樹脂組成物として、松下電工株式会社製の「多機能有機グリーンシート(OGSシート)」を使用し、この硬化性樹脂組成物を、有機溶剤(メチルエチルケトン)に溶解、分散し、樹脂ワニスを作製した。製造例1で得られたポリベンザゾール繊維No.1を、一定の方向に配向するように配列して繊維層を構成した。そして、この繊維層に上記で得た樹脂ワニスを含浸させた後、95℃の乾燥機中で15分間乾燥し、厚み70μm、硬化性樹脂組成物含有率60体積%のプリプレグを得た。なお、単位長さ(繊維に対して直角方向)あたりの繊維本数は210本/mmとした。
【0142】
得られたプリプレグを4枚重ねて、その両面に厚み12μmの銅箔を積層し、圧力3.5MPa、温度180℃で60分間加熱加圧して、両面銅張基板No.Kを得た。なお、プリプレグは、下から1枚目と4枚目のプリプレグ中の繊維方向に対し、2枚目と3枚目のプリプレグ中の繊維方向が直交するように配して重ねた。ここで、2枚目のプリプレグ中の繊維方向と3枚目のプリプレグ中の繊維方向は同じである。得られた両面銅張基板No.Kの厚みは0.2mm、硬化性樹脂組成物含有率は50体積%であった。得られた両面銅張基板No.Kを用いて、製造例Aと同様にしてプリント配線基板No.Kを作製した。得られた両面銅張基板No.K、プリント配線基板No.Kを評価した。結果を表2,3に示した。
【0143】
製造例L
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.7を用いたこと以外は、製造例Kと同様にして、両面銅張基板No.L、プリント配線基板No.Lを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0144】
製造例M
製造例Kと同様にしてプリプレグを作製した後、得られたプリプレグを8枚重ねて、その両面に厚み12μmの銅箔を積層し、圧力3.5MPa、温度180℃で60分間加熱加圧して、両面銅張基板No.Mを得た。なお、プリプレグは、下から1枚目と8枚目のプリプレグ中の繊維方向に対し、2枚目と7枚目のプリプレグ中の繊維方向が直交するように配し、2枚目と7枚目のプリプレグ中の繊維方向に対し、3枚目と6枚目のプリプレグ中の繊維方向が直交するように配し、3枚目と6枚目のプリプレグ中の繊維方向に対し、4枚目と5枚目のプリプレグ中の繊維方向が直交するように配して重ねた。ここで、4枚目のプリプレグ中の繊維方向と5枚目のプリプレグ中の繊維方向は同じである。得られた両面銅張基板No.Mの厚みは0.4mmであった。得られた両面銅張基板No.Mを用いて、製造例Aと同様にしてプリント配線基板No.Mを作製した。得られた両面銅張基板No.M、プリント配線基板No.Mを評価した。結果を表2,3に示した。
【0145】
製造例N
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.7を用いたこと以外は、製造例Mと同様にして、両面銅張基板No.N、プリント配線基板No.Nを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0146】
製造例O
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.9を用いたこと以外は、製造例Aと同様にして、プリプレグNo.O、両面銅張基板No.O、プリント配線基板No.Oを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0147】
製造例P
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.10を用いたこと以外は、製造例Aと同様にして、プリプレグNo.P、両面銅張基板No.P、プリント配線基板No.Pを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0148】
製造例Q
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.11を用いたこと以外は、製造例Aと同様にして、プリプレグNo.Q、両面銅張基板No.Q、プリント配線基板No.Qを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0149】
【表2】
【0150】
【表3】
【0151】
製造例A,G,H,I,K,M,Oのプリント配線基板は、ポリベンザゾール繊維No.1,8または9を含有するプリプレグを用いて得られたもの、すなわち基板に含有されるポリベンザゾール繊維がポリベンザゾール繊維No.1,8または9である。これらのプリント配線基板は、マイグレーション試験における導通破壊までの時間が1000時間以上であり、接続信頼性に優れていることがわかる。ただし、製造例H,Oのプリント配線基板は、線熱膨張係数(100℃〜200℃)が10ppm/℃、8ppm/℃と大きいため、フリップチップ実装試験において、シリコンチップ表面に割れが生じた。
【0152】
製造例B〜F,J,L,N,P,Qのプリント配線基板は、ポリベンザゾール繊維No.2〜7,10,11のいずれかを含有するプリプレグを用いて得られたもの、すなわち基板に含有されるポリベンザゾール繊維がポリベンザゾール繊維No.2〜7,10,11のいずれかである。これらのプリント配線基板は、マイグレーション試験における導通破壊までの時間が、いずれも1000時間未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明は、長期の接続信頼性に優れたプリント配線基板に有用である。
【符号の説明】
【0154】
1:ポリベンザゾール繊維、2:フェニレン環平面の断面方向、100:絶縁基板、101:強化繊維、102:樹脂、103:銅箔、104:導体層、105:スルーホール
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリベンザゾール繊維および該ポリベンザゾール繊維の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリベンザゾール繊維は、現在市販されているスーパー繊維の代表であるポリパラフェニレンテレフタルアミド繊維の2倍以上の強度と弾性率をもち、次世代スーパー繊維として期待されている。
【0003】
このようなポリベンザゾール繊維は、ライオトロピック液晶性のポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリパラフェニレンベンゾビスチアゾールなどのポリベンザゾールから構成されるが、ライオトロピック液晶性のポリベンザゾールは、熱可塑性を有さない。そのため、一般的に、ポリベンザゾール繊維は、ポリベンザゾールポリマーと、当該ポリマーを溶解し得る酸溶媒とを含有する紡糸原液を用いて、湿式紡糸法あるいはドライジェット紡糸法などの公知の紡糸方法により紡出し紡出糸条を形成した後、得られた紡出糸条に凝固剤を接触させポリベンザゾールポリマーを凝固させることにより製造されている(例えば、特許文献1〜3)。
【0004】
ところで従来、配線基板は、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)などの半導体素子に代表される能動素子および、容量素子、抵抗素子などの受動素子を多数搭載して、所定の電子回路を構成する混成集積回路に用いられている。このような配線基板が、種々開発されている(例えば、特許文献4〜6)。
【0005】
上記のような従来の配線基板は、通常、以下のようにして製作される。すなわち、(1)強化繊維101に樹脂102を含浸させ、乾燥して得られるプリプレグの上下面に銅箔103を配置し、熱プレスを行って樹脂102を硬化させると同時に銅箔103を接着させることにより、いわゆる両面銅張基板を作製する(図11参照)。;(2)ドリルによって銅箔103と絶縁基板100とを貫通する貫通孔を形成する(図12参照)。;(3)次に、形成された貫通孔内部表面に、めっき法により導体層104を形成しスルーホール105とする(図13参照)。;(4)更に、サブトラクティブ法により、銅箔を配線パターン状の配線層に加工する(図14参照);(5)得られた基体の主面に、ソルダーレジストと呼ばれる絶縁層を積層することによって、配線基板とする。
【0006】
また、配線基板の配線密度を高める方法も種々提案されている。配線密度を高める方法としては、例えば、(I)前述の(1)〜(3)を経て得られた基体の主面に、エポキシ樹脂などから成る絶縁層を積層し、レーザー光を照射することにより絶縁層のみを貫通する貫通孔を形成する;(II)形成された絶縁層貫通孔の内部表面に、めっき法により導体層を形成するとともに、絶縁層の表面に配線導体を形成する;(I)、(II)の工程を複数回繰り返し、ビルトアップ部を形成することによって、所望の多層配線基板とする方法がある(例えば、特許文献7)。
【0007】
プリント配線基板は、通常、内層回路を形成した内層回路板の上に絶縁層を形成し、その上に金属層を形成して、配線板全体を貫通する孔を開けたり、内層回路に達するバイアホールを形成したりして内層回路と金属箔とを電気的に接続し、金属箔の不要な箇所をエッチング除去して製造しているが、通常の絶縁材では、熱膨張率が約16ppm/℃であり、シリコンチップの3ppm/℃との間に大きな差があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,296,185号明細書
【特許文献2】米国特許第5,385,702号明細書
【特許文献3】国際公開第94/04726号
【特許文献4】特開2002−198658号公報
【特許文献5】特開2002−212394号公報
【特許文献6】特表平10−508720号公報
【特許文献7】特開2005−86164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、LSIの高速化・高機能化に伴い、シリコン表面に低誘電率材料が用いられる傾向がある。最も低誘電率の材料は空気であるが、回路の保持に問題があるため、低誘電率材料の候補は多くの気泡を含んだ材料となる傾向がある。多くの気泡を含んだ低誘電率材料は強度が低いため、このような気泡を含んだ低誘電率材料を用いたシリコンチップを従来の基板にフリップチップ実装すると、基板とシリコンチップとの熱膨張率差のため、フリップチップ実装後の冷却過程でシリコンチップ表面の低誘電率材料に割れが入り、回路が断線するという問題が生じている。
【0010】
そのため、気泡を含む低誘電率材料を用いたシリコンチップを実装するパッケージは、シリコンチップとの熱膨張率差ができる限り小さく、シリコンチップに熱応力を生じさせないものでなければならない。このため、パッケージ基板の熱膨張率はシリコンチップの熱膨張率に限りなく近いものが求められている。
【0011】
また、LSIは同時に多くのデータを処理するため大形化する傾向がある。LSIが大形化するとデータのインプットとアウトプットを行うI/O(Input/Output)を増やす必要がある。I/Oは現在数千程度であるが、将来は一万に達すると予測されている。そのため、半導体素子と配線基板との接続部分(バンプ)は小形化する傾向があり、現在、直径100μm、ピッチ220μmのバンプが今後は直径50μm以上75μm以下、ピッチ100μm以上125μm以下に小形化することが求められている。バンプが小形化すると機械的強度が低下すること、およびシリコンチップと基板との距離が縮まることから、基板とシリコンチップとの熱膨張率差のため、製品使用時の加熱冷却の繰り返しによりバンプが破断し、回路が断線するためにシステムが停止するという問題が生じている。
【0012】
そのため、I/Oが多く小さなバンプが必要なシリコンチップを実装するパッケージはシリコンチップとの熱膨張率差をできる限り小さくし、シリコンチップに熱応力を生じさせないものでなければならない。このため、パッケージ基板の熱膨張率はシリコンチップの熱膨張率に限りなく近いものが求められている。
【0013】
しかしながら、ガラスクロスにエポキシ樹脂を含浸させて成る通常の絶縁基板は、ガラスクロスの熱膨張率が大きくシリコンチップと同等の熱膨張率の達成は困難であった。また、ガラスクロスはドリルやレーザー光により穿設加工することが困難なため、貫通導体の微細化には限界があり、また、ガラスクロスの厚みが不均一なために均一な孔径の貫通導体を形成することが困難であるという問題点を有していた。
【0014】
上述の課題を解決する1つの方策としてポリベンザゾール繊維の利用があげられる。ポリベンザゾール繊維は重合溶液から溶剤を除去することにより製造されるために、微結晶(フェニレン環およびベンゾビスオキサゾール構造)の配向が溶媒の流出にならって並ぶため、結果としてポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール分子中のフェニレン環平面およびベンゾビスオキサゾール構造平面がラジアル方向(放射状)に選択的に配向する傾向を示す。さらにポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール分子は分子間の相互作用が
小さい。したがって、構造形成に従って、ラジアル状に並んだ配列方向(繊維の軸と直角な横断面できった時)に沿って微細に割れる問題(クラックの発生)は不可避である。このようにクラックが発生したとしても、分子は繊維軸方向には高度に配向しているため、繊維弾性率や強度には大きな影響を与えない。しかしながらこれを高密度電子回路基板の補強材料として利用したとき、2本のスルーホールが共通のクラックを横切る可能性を棄却できない。ここで言うクラックは、繊維の内部に生じた空間である。クラック中を銅原子がマイギュレーション効果により短絡回路を形成し、回路基板(特にパッケージ用途)としての役割を果たせない可能性が生じている。
【0015】
すなわち、繊維軸方向にクラックを生じた強化繊維101を絶縁基板100に用いた場合、図15に示すように、基板の貫通孔に導体層104を形成しスルーホール105を形成する際に、導体層104が強化繊維101中のクラック内にまで侵入してしまう。そのため、配線基板に形成された複数のスルーホール105が、強化繊維101中のクラックを介して導通破壊を生じやすくなるという問題があった。
【0016】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、長期の接続安定性に優れたプリント配線板に有用なポリベンザゾール繊維を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、クラック数が少なく、高弾性率を有し、かつ高い負の線膨張性を有するポリベンザゾール繊維を、プリント配線基板を構成する基板に用いることにより、上記課題を解決し得ることを見出した。また、ポリベンザゾール繊維を構成するポリベンザゾール分子が有するフェニレン環平面およびベンザゾール構造平面を、繊維直径方向断面においてランダムに配向させることにより、ポリベンザゾール繊維中のクラックを抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0018】
上記課題を解決することができた本発明のポリベンザゾール繊維は、クラック率が10個/1000m以下、弾性率が200GPa以上350GPa以下、かつ、繊維軸方向の線膨張係数(100℃以上200℃以下)が−20ppm/℃以上−3ppm/℃以下であることを特徴とする。このようなクラック数の少ないポリベンザゾール繊維を、プリント配線基板を構成する基板の強化繊維として用いることにより、プリント配線基板に形成された複数のスルーホールが導通破壊を生じにくくなるため、プリント配線基板の接続信頼性が向上する。また、ポリベンザゾール繊維が高弾性率を有することで、基板の補強作用が大きくなり、厚さ0.3mm以下の薄型基板を製造した場合でも実用上の問題が生じることがない。さらに、ポリベンザゾール繊維が高い負の線膨張性を有するので、得られるプリント配線基板の線膨張係数を低くすることができる。
【0019】
前記ポリベンザゾール繊維は、直交座標系において、繊維軸をZ軸方向と一致させて、X軸方向に平行にX線を照射し、X線照射位置をY軸方向に走査させて、Y軸方向繊維全幅にわたり、中心点を含み実質的に等間隔な11点についてX線回折測定を行い、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを作成した際に、前記回折強度の折れ線グラフが、Y軸方向繊維中心またはその近傍に最大値を有する単峰性を示すことが好ましい。
【0020】
前記折れ線グラフが、Y軸方向繊維中心またはその近傍に最大値を有する単峰性を示すポリベンザゾール繊維は、繊維を構成するポリベンザゾール分子が有するフェニレン環平面およびベンザゾール構造平面が、選択配向することなくランダムに配向しているため、繊維中にクラックを生じにくい。
【0021】
本発明のポリベンザゾール繊維は、繊維径が4μm以上15μm以下、繊維軸方向の線膨張係数(100℃以上200℃以下)が−20ppm/℃以上−3ppm/℃以下、弾性率が200GPa以上350GPa以下であることが好ましい。
【0022】
また、本発明のポリベンザゾール繊維の製造方法は、ポリベンザゾールとポリリン酸とを含有する紡糸原液を用いて、紡糸口金から紡出する紡出工程;紡出された紡出糸条に、温度70℃以上130℃以下の水蒸気を噴きつけて、ポリベンザゾールを凝固させる凝固工程;凝固したポリベンザゾールを含有する紡出糸条を洗浄する洗浄工程;および、得られたポリベンザゾール繊維に、1.0cN/dtex以上8.0cN/dtex以下の張力を付加し、400℃以上700℃以下で熱処理を施す熱処理工程;を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、長期の接続安定性に優れたプリント配線板に有用なポリベンザゾール繊維が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のポリベンザゾール繊維における、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフの一態様を例示する模式図である。
【図2】本発明のポリベンザゾール繊維における、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフの他の態様を例示する模式図である。
【図3】本発明のポリベンザゾール繊維の繊維径方向断面図を例示する模式図である(繊維軸方向は紙面に対して直角方向である)。
【図4】従来のポリベンザゾール繊維における、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを例示する模式図である。
【図5】従来のポリベンザゾール繊維の繊維径方向断面図を例示する模式図である(繊維軸方向は紙面に対して直角方向である)。
【図6】折れ線グラフの谷点を説明するための模式図である。
【図7】繊維中のクラックを説明するための模式図であり、(a)は直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させ、X軸方向から見たクラックを例示する模式図であり、(b)は直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させ、Y軸方向から見たクラックを例示する模式図である。
【図8】ポリベンザゾール繊維No.1の各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフである。
【図9】ポリベンザゾール繊維No.7の各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフである。
【図10】ポリベンザゾール繊維No.8の各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフである。
【図11】従来の配線基板の製作過程を説明するための、両面銅張基板の断面模式図である。
【図12】従来の配線基板の製作過程を説明するための、貫通孔が形成された両面銅張基板の断面模式図である。
【図13】従来の配線基板の製作過程を説明するための、スルーホールが形成された両面銅張基板の断面模式図である。
【図14】従来の配線基板の製作過程を説明するための、配線層が設けられた絶縁基板の断面模式図である。
【図15】従来の配線基板の断面を例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のポリベンザゾール繊維は、クラック率が10個/1000m以下、弾性率が200GPa以上350GPa以下、かつ、繊維軸方向の線膨張係数(100℃以上200℃以下)が−20ppm/℃以上−3ppm/℃以下であることを特徴とする。
【0026】
まず、本発明に用いられるポリベンザゾール繊維について説明する。本発明のポリベンザゾール繊維は、ベンザゾール単位のホモポリマー、またはランダム、シーケンシャルもしくはブロック共重合体ポリマーなどのポリベンザゾール(以下、「PBZ」ということがある)から構成されている。
【0027】
前記PBZとしては、例えば、Wolfe等の「Liquid Crystalline Polymer Compositions, Process and Products」、米国特許第4703103号(1987年10月27日);「Liquid Crystalline Polymer Compositions, Process and Products」、米国特許第4533692号(1985年8月6日);「Liquid Crystalline Poly(2,6-Benzothiazole) Compositions, Process and Products」、米国特許第4533724号(1985年8月6日);「Liquid Crystalline Polymer Compositions, Process and Products」、米国特許第4533693号(1985年8月6日);Eversの「Thermooxidatively Stable Articulated p-Benzobisoxazole and p-Benzobisoxazole Polymers」、米国特許第4359567号(1982年11月16日);Tsaiらの「Method for making Heterocyclic Block Copolymer」、米国特許第4578432号(1986年3月25日)などに記載されているものが挙げられる。
【0028】
前記ポリベンザゾール繊維に用いられるPBZを構成するベンザゾール単位としては、下記式(a)〜(h)で表されるものが好ましく、これらの中でも(a),(b)で表されるベンザゾール単位から構成されるポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(以下、「PBO」ということがある)、(c),(d)で表されるベンザゾール単位から構成されるポリパラフェニレンベンゾビスチアゾール(以下、「PBT」ということがある)がより好適である。そして、前記ポリベンザゾール繊維に用いられるPBZとしては、ベンザゾール単位としてPBOを80質量%以上含有するものが好ましく、PBOホモポリマーが特に好適である。
【0029】
【化1】
【0030】
【化2】
【0031】
前記ポリベンザゾール繊維は、直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させて、X軸方向と平行にX線を照射し、X線照射位置をY軸方向に走査させて、Y軸方向繊維全幅にわたり、中心点を含み実質的に等間隔な11点についてX線回折測定を行い、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを作成した際に、前記回折強度の折れ線グラフが、Y軸方向繊維中心またはその近傍に最大値を有する単峰性を示すことが好ましい。
【0032】
ここで、直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させて、X軸方向と平行にX線を照射し、X線照射位置をY軸方向に走査させて、Y軸方向繊維全幅にわたり、中心点を含み実質的に等間隔な11点についてX線回折測定を行い、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを作成した際に、前記回折強度の折れ線グラフが、Y軸方向繊維中心またはその近傍に最大値を有する単峰性を示すことについて説明する。なお、本願において、X線回折測定の測定位置とは、ポリベンザゾール繊維に照射されるX線ビームスポットのY軸方向中心をいうものとする。
【0033】
本発明において、直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させて、X軸方向と平行にX線を照射するX線回折測定における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度とは、ポリベンザゾール繊維を構成するPBZが分子中に有するPBZ結晶内のフェニレン環平面の規則性および配向様式に起因するものである。なお、(200)回折点の指数付けは、Fratiniら(Material Research Society Symposium Proceedings Vol.134 p.431(1989年))により提案されている結晶模型に従い行った。
【0034】
本発明において、Y軸方向繊維中心またはその近傍とは、直径座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させて、X軸方向から見た際に、Y軸方向繊維全幅を直径とみなして、繊維の半径を100とすると、Y軸方向繊維中心からの距離が0以上50以下までの範囲をいうものとする。
【0035】
すなわち、換言すると、本発明に用いられるポリベンザゾール繊維は、直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させて、X軸方向と平行にX線を照射し、X線照射位置をY軸方向に走査させて、Y軸方向繊維全幅にわたりX線回折測定を行った際に、Y軸方向繊維全幅を直径とみなして、繊維の半径を100とすると、赤道方向(200)結晶面由来の回折強度の最大値を示す位置が、Y軸方向繊維中心からの距離が0以上50以下の範囲内に存在する。前記赤道方向(200)結晶面由来の回折強度の最大値を示す位置は、Y軸方向繊維全幅を直径とみなして、繊維の半径を100とすると、Y軸方向繊維中心からの距離が、50以下が好ましく、より好ましくは30以下である。
【0036】
本願において、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを作成した際に、前記回折強度の折れ線グラフ(以下、単に「折れ線グラフ」ということがある)が単峰性を示すとは、折れ線グラフが実質的に、上に凸の放物線状であることをいう。
【0037】
なお、折れ線グラフの波形は単峰性を示していればよい。前記折れ線グラフの波形の態様としては、例えば、(I)Y軸方向繊維中心において最大値を示し、半径方向外方端に近づくにつれて、徐々に単純減少する態様(図1参照);(II)Y軸方向繊維中心において最大値を示し、Y軸方向繊維中心の近傍では最大値と同程度の強度を示し、Y軸方向繊維中心の近傍外では半径方向外方端に近づくにつれて、徐々に単純減少する態様(図2参照)などが挙げられる。
【0038】
前記折れ線グラフが単峰性を示すとは、逆に言えば、折れ線グラフが谷点を有さないことをいう。
【0039】
ここで、本願における折れ線グラフの谷点について、図6を参照して説明する。図6は、折れ線グラフの谷点を説明するための模式図である。本願においては、ある測定位置(Y0)における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度(I0)よりも、その測定位置の両隣の測定位置(Y-1,Y1)における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度(I-1,I1)が大きな値となり((I0<I-1),(I0<I1))、かつ、測定位置(Y0)の両側2点隣の測定位置(Y-2,Y2)における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度(I-2,I2)が、前記測定位置(Y-1,Y1)における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度(I-1,I1)よりも大きな値となる((I-1<I-2),(11<I2))場合、測定位置(Y0)を谷点というものとする。
【0040】
ここで、直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させて、X軸方向と平行にX線を照射し、X線照射位置をY軸方向に走査させて、Y軸方向繊維全幅にわたり、実質的に等間隔な11点についてX線回折測定を行い、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを作成した際に、前記回折強度の折れ線グラフが、Y軸方向繊維中心またはその近傍に最大値を有する単峰性を示すポリベンザゾール繊維が、繊維中にクラックを生じにくくなる理由は、以下のように考えられる。
【0041】
まず、ポリベンザゾール繊維を構成するPBZが有するフェニレン環平面およびベンザゾール構造平面(PBO分子中のベンゾビスオキサゾール構造平面、PBT分子中のベンゾビスチアゾール構造平面など)の配向と、前記折れ線グラフの波形との関係について、図を参照して説明する。図1および図2は、本発明に用いられるポリベンザゾール繊維における、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを例示する模式図である。図3は、本発明に用いられるポリベンザゾール繊維の繊維径方向断面図を例示する模式図である(繊維軸方向は紙面に対して直角方向である)。図4は、従来のポリベンザゾール繊維における、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを例示する模式図である。図5は、従来のポリベンザゾール繊維の繊維径方向断面図を例示する模式図である(繊維軸方向は紙面に対して直角方向である)。
【0042】
図1および図2に示すように、折れ線グラフが、Y軸方向繊維中心またはその近傍に最大値を有する単峰性を示す場合は、ポリベンザゾール繊維を構成するPBZが有するフェニレン環平面およびベンザゾール構造平面(以下、「構造平面」ということがある)が、図3に示すようにランダムに配向していること示している。一方、図4に示すように、折れ線グラフが、Y軸方向繊維中心またはその近傍に最大値を有さず、および/または、折れ線グラフが単峰性を示さない場合は、ポリベンザゾール繊維を構成するPBZが有する構造平面が、図5に示すように繊維中心から半径方向外方に向けて放射状に選択配向していることを示している。
【0043】
ここで、PBOなどのポリベンザゾール繊維を構成するPBZは、隣接するポリマー分子間の相互作用が小さい、すなわち、PBZが有する構造平面が一定方向に配向していると、構造平面に沿って割れが生じやすくなる。従って、図5に示すように、構造平面が繊維中心から半径方向外方に向けて放射状に選択配向した場合には、この構造平面の配向方向に沿ってクラックが発生しやすくなる。しかしながら、本発明に用いられるポリベンザゾール繊維では、図3に示すように、構造平面が特定の方向に選択配向しておらず、ランダムに配向しているため、クラックが発生しにくくなると考えられる。
【0044】
なお、本発明において、直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させて、X軸方向と平行にX線を照射し、X線照射位置をY軸方向に走査させて、Y軸方向繊維全幅にわたるX線回折測定方法としては、Y軸方向繊維全幅にわたり少なくとも10点程度測定することができる方法、すなわち、測定に用いられるX線の焦点直径が繊維径の5分の1程度であれば特に限定されず、例えば、非特許文献(Polymer vol.46(2005) p.1935-1942)に記載された方法で測定できる。
【0045】
本発明のポリベンザゾール繊維のクラック率は、10個/1000m以下であることが好ましく、より好ましくは8個/1000m以下、さらに好ましくは5個/1000m以下である。ポリベンザゾール繊維のクラック率が10個/1000m以下であれば、プリント配線基板の補強材料として用いた場合、プリント配線基板の長期接続信頼性がより向上する。ここで、本発明において、クラック率とは、単繊維単位長さ(1000m)当たりに存在するクラックの個数であり、後述する測定方法により確認する。
【0046】
なお、本発明において、クラックとは、直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させたとき、Z軸方向の長さが30μm以上500μm以下、X軸方向の長さが0.5μm以上5μm以下、Y軸方向の長さが0.5μm以上5μm以下の欠陥をいう。なお、クラックの各方向の長さは、図7(a),(b)に示すように、各方向における最大値(Xm,Ym,Zm)を測定するものとする。ここで、図7は繊維中のクラックを説明するため
の模式図であり、(a)は直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させ、X軸方向から見たクラックを例示する模式図であり、(b)は直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させ、Y軸方向から見たクラックを例示する模式図である。
【0047】
本発明のポリベンザゾール繊維の繊維径は、4μm以上が好ましく、より好ましくは5μm以上、さらに好ましくは6μm以上であり、15μm以下が好ましく、より好ましくは12μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。ポリベンザゾール繊維の繊維径が上記範囲内であれば、プリント配線基板の補強材料として用いた場合、基板を構成するポリベンザゾール繊維と樹脂成分との密着性が確保される。なお、ポリベンザゾール繊維の繊維径は、樹脂成分との密着性を高める観点からは、より小さいことが望ましいが、繊維径が4μm未満のポリベンザゾール繊維は製造が困難であり、また、一般に繊維径が細い繊維は健康への悪影響が懸念されている。
【0048】
本発明のポリベンザゾール繊維の引張強度は、1.8GPa以上が好ましく、より好ましくは2.0GPa以上、さらに好ましくは2.2GPa以上であり、7.0GPa以下が好ましく、より好ましくは6.5GPa以下、さらに好ましくは6.0GPa以下である。ポリベンザゾール繊維の引張強度が上記範囲内であれば、本発明のポリベンザゾール繊維を補強材料として用いて、厚さ0.3mm以下の薄型基板を製造し、電子機器に使用した場合でも、機器落下時の基板の割れなどの実用上の問題が生じることがない。
【0049】
本発明のポリベンザゾール繊維の弾性率は、200GPa以上が好ましく、より好ましくは210GPa以上、さらに好ましくは225GPa以上であり、350GPa以下が好ましく、より好ましくは330GPa以下、さらに好ましくは300GPa以下である。ポリベンザゾール繊維の弾性率が上記範囲内であれば、本発明のポリベンザゾール繊維を補強材料に用いて、厚さ0.3mm以下の薄型基板を製造した場合でも、基板の反り、変形などの問題が生じることがない。なお、本発明において、ポリベンザゾール繊維の弾性率とは、JIS L 1013に規定されている見掛けヤング率を指すものとする。
【0050】
本発明のポリベンザゾール繊維の繊維軸方向の線熱膨張係数(100℃以上200℃以下)は、−20ppm/℃以上が好ましく、より好ましくは−15ppm/℃以上、さらに好ましくは−10ppm/℃以上であり、−3ppm/℃以下が好ましく、より好ましくは−4ppm/℃以下、さらに好ましくは−5ppm/℃以下である。ポリベンザゾール繊維の繊維軸方向の線熱膨張係数(100℃以上200℃以下)が上記範囲内であれば、プリント配線基板の補強材料に用いた場合、プリント配線基板において、配線層を形成する銅などの金属の使用量が多い場合や、基板中の樹脂成分の含有比率が高い場合でも、プリント配線基板本体の線熱膨張係数を低くすることができる。
【0051】
前記ポリベンザゾール繊維の製造方法を説明する。本発明に用いられるポリベンザゾール繊維の製造方法は、例えば、紡糸原液調製工程、紡出工程、凝固工程、洗浄工程、中和工程、乾燥工程および熱処理工程を有する。
【0052】
前記紡糸原液調製工程は、前記PBZと、溶媒とを含有する紡糸原液を調製する工程である。前記PBZおよび紡糸原液は公知の方法により合成することができる。例えば、Wolfe等の米国特許第4533693号(1985年8月6日)、Sybert等の米国特許第4772678号(1988年9月20日)、Harrisの米国特許第4847350号(1989年7月11日)に記載される方法で合成される。実質的にPBOから成るポリマーはGregory等の米国特許第5089591号(1992年2月18日)によると、脱水性の酸溶媒中での比較的高温、高剪断条件下において高い反応速度での高分子量化が可能である。
【0053】
前記溶媒としてはPBZを溶解し得る非酸化性の酸溶媒を含有するものであれば特に限定されない。前記酸溶媒としては、例えば、ポリリン酸、メタンスルフォン酸、高濃度硫酸、およびこれらの混合物が挙げられる。これらの中でも、ポリリン酸およびメタンスルフォン酸が好ましく、特にポリリン酸が好適である。
【0054】
前記紡糸原液中のPBZ含有率は、7質量%以上が好ましく、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは14質量%以上である。また、紡糸原液中のPBZ含有率の上限は、特に限定されないが、PBZの溶解性や紡糸原液の粘度などを考慮し、20質量%である。
【0055】
前記紡出工程は、前記紡糸原液を装置の紡糸部に供給し、紡糸口金から紡出する工程である。紡出工程には、公知の装置を用いることができる。紡糸口金から紡出する際の紡糸原液の温度は通常100℃以上250℃以下である。紡糸口金に形成される細孔の配列は、通常円周状、格子状に配列されるが、その他の配列でもよい。また、紡糸口金に形成される細孔の個数は、特に限定されず、紡出された紡出糸条間の融着が発生しないように適宜調整すればよい。
【0056】
紡出された紡出糸条は、十分な一定の延伸比(SDR)を得るため、米国特許第5296185号に記載されたように、十分な一定の長さのドローゾーンが必要で、かつ比較的高温度(紡糸原液の固化温度以上、紡出温度以下)の整流された冷却風で均一に冷却されることが望ましい。ドローゾーンの長さは、窒素、アルゴン、空気などの非凝固性の気体中で固化が完了する長さが必要であり大雑把には単孔吐出量によって決定される。良好な繊維物性を得るにはドローゾーンの取り出し応力が、ポリマー換算で(ポリマーのみに応力がかかるとして)2g/d以上が必要である。なお、本発明において「固化」とは、紡糸原液が冷却されて、単に溶融状態から固体状態になることをいう。
【0057】
前記SDRは、得られるポリベンザゾール繊維の線膨張係数、弾性率の観点からは高い方が好ましいが、SDRが高すぎると糸条に含まれる微細な異物、粘度斑によってクラックが発生しやすくなる。そのため、例えば、繊維径4μm以上15μm以下のポリベンザゾール繊維を得る場合、紡出口金に形成される細孔の孔径は0.10mm以上が好ましく、より好ましくは0.11mm以上、さらに好ましくは0.12mm以上であり、0.17mm以下が好ましく、より好ましくは0.16mm以下、さらに好ましくは0.15mm以下である。
【0058】
前記凝固工程は、紡出糸条に凝固剤を接触させて、PBZを凝固させる工程である。上述のようにドローゾーンで延伸された紡出糸条は、凝固浴に導かれ凝固剤と接触される。凝固剤としては、紡糸原液に用いた酸溶媒を紡出糸条から溶出させることなく、酸溶媒がPBZを溶解し得なくすることができるものであれば、特に限定されない。例えば、酸溶媒としてポリリン酸を用いた場合には、凝固剤として水蒸気を用いればよい。水蒸気を用いることにより、紡出糸条からポリリン酸を溶出させることなく、PBZ溶解し得るポリリン酸から、PBZを溶解し得ないリン酸に加水分解することができ、こうすることによりPBZを凝固させることができる。なお、本発明において「凝固」とは、酸溶媒に溶解しているPBZを、析出させることをいう。
【0059】
このように、紡糸原液に用いた酸溶媒を紡出糸条から溶出させることなく、酸溶媒がP
BZを溶解し得なくすることにより、溶媒が紡出糸条から溶出する際に構造平面がラジアル配向(放射状の選択配向)することが防止でき、構造平面がランダムに配向したポリベンザゾール繊維を得ることができる。
【0060】
紡出糸条に水蒸気を吹き付けるための装置は、紡出糸条が水蒸気に接触し、紡出糸条内部まで凝固を進行させることができるものであれば特に限定されず、連続式、非連続式、密閉型、非密閉型のいずれも用いることができる。
【0061】
紡出糸条に水蒸気を接触させる際の水蒸気の温度は、70℃以上が好ましく、より好ましくは80℃以上であり、130℃以下が好ましく、より好ましくは110℃以下である。なお、上記水蒸気の温度とは、凝固浴内において測定される温度である。温度が低いと後述するフェニレン環などの構造平面の配向様式を十分にランダム化できない。逆に高すぎると、繊維の引張強度・弾性率が所期のレベルに達しない。蒸気を使った凝固といえども、後述する物質流の影響により、構造平面の配向様式もラジアル配向する。このため、製造途中、特に乾燥工程や熱処理工程においてクラックが生成され好ましくない。また、凝固浴内の気相中の全気体成分中の水蒸気含有率は80質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。水蒸気含有率が低いと、構造平面の配向様式を十分ランダム化できない。
【0062】
本発明でとくに重要な、フェニレン環などの構造平面の配向様式をランダムに変化させる方法・原理について述べる。凝固工程において、紡糸口金から押し出された紡出糸条は凝固剤と出会うことで、表面から凝固と構造形成(結晶の成長と配列)が同時に起こる。時間の経過とともに、凝固と構造形成が起こる場所は、紡出糸条の表面から中心へ移る。凝固が生じると、今までPBZを溶解していたポリリン酸分子は、PBZ分子から離れ、加水分解効果により一部の分子はリン酸へと変化しながら紡出糸条の外側へと流れ出ていく。PBZ分子は、分子構造中に平面構造(フェニレン環など)を有している。
【0063】
このとき、物質(PBZ分子を溶解する能力を有するポリリン酸(加水分解を受けていない、もしくは、その程度の小さいポリリン酸))の繊維内部から外側への流れ出しが生じるので、その流れ出しに沿ってフェニレン環などの構造平面が沿って並ぶ。そのため、結果として最終の繊維構造は、PBZと相互作用が可能な物質が流れ出た方向、すなわちラジアル状に並ぶ傾向を示すと推察される。
【0064】
そこで蒸気を用いた凝固に伴って、自発的に発生するフェニレン環などの構造平面の配向を抑制する方策を考えた。PBZがポリリン酸溶液に溶解している状態では、フェニレン環などの構造平面はランダムに配向している。溶液状態でのランダム配向を固体(繊維化したあと)でも維持すること(第一課題)、物質の流れに沿って配向するので、物質流の影響をおさえること(第二課題)、の2点が課題である。ランダム配向を維持(第一課題)するためには紡出糸条が凝固浴に突入すると短い時間で、凝固剤分子(ポリリン酸溶液の場合は水分子)を紡出糸条の中心にすばやく到達させ、ポリリン酸の縮合度を下げポリベンザゾールの溶解能力をなくす必要がある。
【0065】
このためには、凝固剤として蒸気を用いることで、凝固途中の繊維の温度を上昇せしめ、水や酸溶媒(ポリリン酸)の分子運動を高め、かつ、ポリリン酸の加水分解反応を促進させることが重要である。次に、物質流の影響を抑えるためには紡出糸条と凝固液間でのケミカルポテンシャルの差を小さくする。すなわち、凝固剤として蒸気を採用することで、凝固浴を通過している最中でのリン酸やポリリン酸の凝固浴への流れ出しを抑制することが重要である。結果として、凝固浴を通過している間、紡出糸条の内部まで水分子が短い時間で到達し、ポリリン酸の縮合度を落とす。凝固剤が蒸気のため液体のように洗い流す効果を期待できないため、ポリリン酸の紡出糸条外への流れ出しは抑えられている。
【0066】
したがって、凝固浴を出た直後の紡出糸条は、PBZに対する溶解能力を失うまで加水分解されたポリリン酸やリン酸(モノリン酸)で満たされている状態になっていることが理想状態であると推察される。
【0067】
前記洗浄工程は、凝固工程を経た紡出糸条を洗浄浴へ導き、洗浄液により紡出糸条中の酸溶媒を洗浄し、ポリベンザゾール繊維とする工程である。前記洗浄液としては、酸溶媒を溶出させることができるものであれば、特に限定されない。例えば、酸溶媒として、ポリリン酸を使用し、凝固剤として水蒸気を用いた場合には、凝固工程を経た紡出糸条中に含有されるリン酸を溶解できるものを用いればよく、例えば、水などが用いられる。
【0068】
洗浄工程において、洗い流されるモノリン酸や加水分解したポリリン酸は、もはやPBZを溶かす能力がない、すなわち、PBZ分子との相互作用が非常に小さくなっている。そのため、フェニレン環などの構造平面を物質移動の(ラジアル)方向へ配向促進させる能力はもはや失われていると考えられる。実際その様にして作ったポリベンザゾール繊維においては、PBZ分子のフェニレン環などの構造平面はラジアル方向に並ばない。
【0069】
前記中和工程は、洗浄工程で得られたポリベンザゾール繊維中に残留する酸溶媒を中和する工程である。中和工程において用いられる中和液は、特に限定されず、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水、炭酸ナトリウム水溶液などが挙げられる。なお、中和後は再度水洗することが望ましい。
【0070】
前記乾燥工程は、ポリベンザゾール繊維の水分率を調整する工程である。乾燥温度は、150℃以上が好ましく、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは220℃以上であり、400℃以下が好ましく、より好ましくは300℃以下、さらに好ましくは270℃以下である。そして、熱処理工程に供するポリベンザゾール繊維の水分率は、3質量%以下が好ましく、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。ポリベンザゾール繊維の水分率が高すぎると、後述する熱処理を施した際に、水分が急激に沸騰、蒸発して、繊維にクラックを生じるおそれがある。なお、ポリベンザゾール繊維の水分率は、JIS L 1013に準じて測定すればよい。
【0071】
前記熱処理工程は、ポリベンザゾール繊維に張力をかけた状態で、熱処理を施す工程である。繊維に付加する張力は、1.0cN/dtex以上が好ましく、より好ましくは1.5cN/dtex以上、さらに好ましくは2.0cN/dtex以上、特に好ましくは2.5cN/dtex以上、最も好ましくは3.0cN/dtex以上であり、8.0cN/dtex以下が好ましく、より好ましくは7.0cN/dtex以下、さらに好ましくは6.0cN/dtexである。熱処理温度は、400℃以上が好ましく、より好ましくは500℃以上、さらに好ましくは550℃以上であり、700℃以下が好ましく、より好ましくは680℃以下、さらに好ましくは630℃以下である。
【0072】
本発明のポリベンザゾール繊維は、繊維中のクラック数が少なく、また、線熱膨張係数が小さいことから、プリント配線基板の補強材料として好適である。
【0073】
以下、プリント配線基板について説明する。ここで、プリント配線基板とは、基板と、前記基板の少なくとも一方の面に設けられた配線層を有するものである。また、前記基板とは、前記ポリベンザゾール繊維と樹脂成分とを含有するものであって、配線層が形成されていないものをいう。
【0074】
前記基板に含有される本発明のポリベンザゾール繊維の形態は特に限定されないが、例えば、(I)単繊維、紡績糸、チョップドファイバー、ステープルファイバーなどの繊維状で分散している態様;(II)ポリベンザゾール繊維が、一定の方向に配向された繊維
層を構成している態様(例えば、特許文献6の図1参照);(III)少なくともポリベンザゾール繊維が第1方向に配向された第1層と、ポリベンザゾール繊維が前記第1方向と異なる第2方向に配向された第2層とを有する多層構造を有する態様(例えば、特許文献6の図3参照);(IV)ポリベンザゾール繊維あるいは紡績糸が、経糸および緯糸となり織物を構成している態様などが挙げられる。これらの中でも、上記(II)〜(IV)の態様が好ましく、(III)の態様が最も好ましい。
【0075】
(IV)の態様(織物)は、布が伸び縮みするようにそれ自体が伸縮性を有しているため、その分寸法変化が大きくなってしまい、さらなる低熱膨張化を実現することが困難である。また、繊維の湾曲が不可避であるため、不規則な寸法挙動を誘発し、プリント配線基板の反りや表面のうねりが発生しやすい。しかし、(III)の態様であれば、これらの問題点が解消され、本発明のクラックが極めて少ないポリベンザゾール繊維と組み合わせれば、回路の小型化が可能になるからである。
【0076】
前記樹脂成分としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂(シアン酸エステル樹脂)、ビスマレイミド樹脂、トリアジン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、アクリレート樹脂、シリコーン樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。前記樹脂としては、複数種類の混合物を用いることが好ましく、エポキシ樹脂とフェノール樹脂との混合物がより好適である。
【0077】
前記エポキシ樹脂としては、フェノール類またはアルコール類とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジルエーテル型;カルボン酸類とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジルエステル型;アミン類またはシアヌル酸とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるグリシジルアミン型などが挙げられる。これらの中でも、グリシジルエーテル型が好適である。また、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂には、フェノール誘導体として使用される化合物によって、さらにビスフェノールAノボラック型;フェノールノボラック型;クレゾールノボラック型などに分類されるが、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂がより好適である。前記フェノール樹脂は、ノボラック樹脂とレゾール樹脂に分類されるが、ノボラック樹脂が好適である。また、ノボラック樹脂の中でも、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、トリアジン変性ノボラック樹脂がより好適である。
【0078】
前記基板は、前記樹脂成分を含有する硬化性樹脂組成物と、前記ポリベンザゾール繊維とを含有するプリプレグから得ることができる。なお、本発明においてプリプレグとは、ポリベンザゾール繊維に硬化性樹脂組成物を含浸させ、当該硬化性樹脂組成物をBステージまで硬化させたシート状材料を指す。ここでBステージとは、例えば、硬化性樹脂組成物として熱硬化性樹脂を用いた場合においては、当該熱硬化性樹脂の硬化中間状態を指し、この状態での樹脂は加熱すると軟化し、ある種の溶剤に触れると膨潤するが、完全に溶融、溶解することはない。また、前記硬化性樹脂組成物とは、未硬化の樹脂成分を必須成分とし、必要に応じて、硬化剤、無機フィラーなどを含有する組成物である。
【0079】
前記硬化性樹脂組成物は、必要に応じて、硬化剤を含有してもよい。前記硬化剤は、硬化性樹脂組成物に含有される樹脂の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、樹脂としてエポキシ樹脂を含有する場合には、2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール化合物;ポリアミン系硬化剤;ポリメルカプタン硬化剤などを用いることができる。
【0080】
前記硬化性樹脂組成物は、無機フィラーを含有することが好ましい。前記無機フィラーとしては、非導電性材料から成るものが好ましく、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、水酸化アルミニウムなどの金属酸化物から成るものが挙げられる。無機フィラーの形状としては、球状、回転楕円体状、薄板状、針状などが挙げられる。これらの無機フィラーは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、シリカからなる粒子が好ましく、特に球状シリカが好適である。前記球状シリカとしては、特に限定されず、例えば、ケイ素化合物を火炎中で処理して製造されたものや、酸化ケイ素粉末を火炎中で処理して製造されたものを用いることができる。
【0081】
無機フィラーの大きさは、微細であるほど望ましく、例えば、球状のものであれば、体積平均粒子径が、7μm以下が好ましく、より好ましくは4μm以下、さらに好ましくは2μm以下である。ここで、無機フィラーの平均粒子径は、レーザー回折型粒度分布測定装置により測定される値とする。
【0082】
また、前記無機フィラーは、その表面がシランカップリング処理されていることが好ましい。なお、無機フィラーのシランカップリング処理は、公知の方法で行えばよい。
【0083】
前記硬化性樹脂組成物に、無機フィラーを含有させる場合には、硬化性樹脂組成物中の無機フィラーの含有率は20体積%以上が好ましく、より好ましくは45体積%以上、さらに好ましくは60体積%以上である。無機フィラーの含有率は、多いほど良いが、90体積%を超えると内部に気泡が多数残留するため、現実的には、90体積%以下が好ましく、より好ましくは85体積%以下である。硬化性樹脂組成物中の無機フィラーの含有率を上記範囲とすることにより、硬化性樹脂組成物の線熱膨張係数を低くできるため、得られる基板の熱膨張係数を低くすることができる。さらに、硬化性樹脂組成物の弾性率を高くできるため、得られる基板の剛性が高くなり、基板の反りや変形を防止することができる。
【0084】
また、前記硬化性樹脂組成物は、添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、縮合型リン酸エステルなどの難燃剤などが挙げられる。
【0085】
前記硬化性樹脂組成物の硬化物の線熱膨張係数(100℃以上200℃以下)は、40ppm/℃以下が好ましく、より好ましくは20ppm/℃以下、さらに好ましくは10ppm/℃以下である。硬化性樹脂組成物の硬化物の線熱膨張係数(100℃以上200℃以下)が上記範囲内であれば、プリント配線基板における、配線層を形成する銅などの金属の使用量が多い場合や、基板中の樹脂成分の含有比率が高い場合でも、プリント配線基板本体の線熱膨張係数を低くすることができる。
【0086】
前記硬化性樹脂組成物の硬化物のヤング率は、特に限定されないが、5GPa以上50GPa以下である。硬化性樹脂組成物のヤング率は、JIS K 7161に準じて測定すればよい。
【0087】
前記プリプレグは、前記樹脂成分、ならびに、必要に応じて溶剤および無機フィラーを含有する硬化性樹脂組成物を、前記ポリベンザゾール繊維に含浸させることにより得られる。硬化性樹脂組成物をポリベンザゾール繊維に含浸させる方法は特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。
【0088】
また、硬化性樹脂組成物をポリベンザゾール繊維に含浸させる際には、硬化性樹脂組成物を溶剤で希釈することが好ましい。前記溶剤としては、メチルエチルケトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどが用いられる。前記溶剤を用いた場合には、硬化性樹脂組成物含浸後に当該溶剤を揮発させる必要があるが、この際の乾燥方法についても、特に限定されず、公知の方法を採用すればよい。
【0089】
前記プリプレグ中の硬化性樹脂組成物の含有率は20体積%以上が好ましく、より好ましくは25体積%以上、さらに好ましくは30体積%以上であり、60体積%以下が好ましく、より好ましくは50体積%以下、さらに好ましくは40体積%以下である。プリプレグ中の硬化性樹脂組成物の含有率を上記範囲とすることにより、ポリベンザゾール繊維の有する低熱膨張係数、高弾性率などの特性が支配的となるため、当該プリプレグから得られる基板の熱膨張係数をより低く、かつ、弾性率をより高くすることができる。
【0090】
前記プリプレグの厚みは100μm以下が好ましく、より好ましくは70μm以下、さらに好ましくは50μm以下である。プリプレグが厚すぎると、含有されるポリベンザゾール繊維の質量分率を高めることが困難となり、得られる基板の熱膨張率を抑えることができない。プリプレグの厚みの下限値は、特に限定されないが、加工装置の性能およびポリベンザゾール繊維の繊維径を考慮すると、30μm程度である。
【0091】
そして、前記プリプレグに含有される硬化性樹脂組成物を硬化させることにより基板とする。硬化性樹脂組成物の硬化方法は、硬化性樹脂組成物に含有される樹脂成分および硬化剤の種類に応じて選択すればよい。例えば、樹脂成分としてエポキシ樹脂、硬化剤として2−エチル−4−メチルイミダゾールを用いた場合には、200℃で60分加熱すればよい。
【0092】
ここで、シリコンチップが実装されるプリント配線基板の線熱膨張係数は後述する範囲内であることが好ましい。プリント配線基板の線熱膨張係数がこの範囲内であれば、シリコンチップの大きさ、材質に影響されず、安定した歩留りで不具合なくシリコンチップの実装が可能となる。プリント配線基板の線熱膨張係数を後述する範囲内とするためには、基板に配線層(例えば、銅配線など)を形成することによる線熱膨張係数の増加分をキャンセルする必要がある。そのため、前記プリプレグを硬化して得られる基板の線熱膨張係数(100℃以上200℃以下)は、−6ppm/℃以上が好ましく、より好ましくは−5ppm/℃以上であり、4ppm/℃以下が好ましく、より好ましくは0ppm/℃以下、さらに好ましくは−2ppm/℃以下である。基板の線熱膨張係数(100℃以上200℃以下)が上記範囲内であれば、プリプレグを硬化して得られる基板上に様々な配線層を形成した場合でも、プリント配線基板の線熱膨張係数を後述する範囲内とすることができる。すなわち、プリント配線基板の熱膨張係数を所定の範囲内に納めるための設計上の制約が少なくなる。
【0093】
また、プリプレグから基板を得る際には、プリプレグの片面または両面に、あらかじめ金属箔を積層させた後、硬化性樹脂組成物を硬化させること、いわゆる両面銅張基板とすることが好ましい。これにより、得られる基板には金属箔が積層されているため、この金属箔をエッチングすることで容易に配線層を形成することができ、プリント配線基板の製造が容易となる。前記金属箔の厚みは、1μm以上18μm以下が好ましい。また、前記金属箔としては、導電性を有するものであれば特に限定されないが、銅箔が好適である。
【0094】
次に、本発明のプリント配線基板について説明する。本発明のプリント配線基板は、前記基板の少なくとも一方の面に設けられた配線層を有する。
【0095】
前記配線層は、基板の一方の面にのみ設けられていてもよいし、両面に設けられていてもよい。また、前記配線層の形成方法は、特に限定されず、エッチング法、めっき法、転写法など公知の方法を採用できる。これらの中でも、前述のようにプリプレグから基板を得る際に、あらかじめ金属箔を積層している場合には、エッチング法が好適である。
【0096】
前記プリント配線基板は、スルーホールが形成されていてもよい。前記スルーホールは、例えば、両面銅張基板を構成する基板および銅箔を貫通する貫通孔を形成し、この貫通孔内表面に導体層を形成して導電化することにより形成される。
【0097】
前記貫通孔の形成方法は、特に限定されず、例えば、レーザー加工、ドリル加工など公知の方法を採用でき、これらの中でも、レーザー加工が好ましい。前記貫通孔の直径は、200μm以下が好ましく、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは60μm以下である。貫通孔の直径を前記範囲とすることにより、プリント配線基板に形成されるスルーホールの密度を高めることができ、多数のI/O(Input/Output(接続端子))を有する半導体の実装が可能となる。
【0098】
前記貫通孔を導電化する方法としては、例えば、電気めっき、無電解めっき、スパッタ、蒸着、導電性ペーストの充填などの方法が挙げられる。これらの中でも、電気めっきまたは無電解めっきが好ましく、無電解めっきを行った後にさらに電気めっきを行うことがより好ましい。
【0099】
前記プリント配線基板は、基板に設けられた配線層上に、さらに絶縁層および配線層が形成された、いわゆる多層プリント配線基板でもよい。前記多層プリント配線基板の製造方法は、特に限定されないが、例えば、ビルトアップ法を採用すればよい。
【0100】
前記プリント配線基板の線熱膨張係数(100℃以上200℃以下)は、−5ppm/℃以上が好ましく、より好ましくは−2ppm/℃以上、さらに好ましくは1ppm/℃以上であり、7ppm/℃以下が好ましく、より好ましくは6ppm/℃以下、さらに好ましくは5ppm/℃以下である。プリント配線基板の線熱膨張係数(100℃以上200℃以下)が上記範囲内であれば、シリコンチップなどをフリップチップ実装する際に、フリップチップ実装後の冷却過程で、シリコンチップとプリント配線基板との熱膨張率差が原因で生じる熱応力により、シリコンチップに用いられている低誘電率材料に割れが生じることを抑制できる。なお、プリント配線基板の線熱膨張係数とは、基板に配線層が設けられたものを測定した値であり、後述する方法により測定する。
【実施例】
【0101】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0102】
評価方法
1.繊維径
ポリベンザゾール繊維の繊維束をエポキシ樹脂(ガタン社製、G−2)に胞埋したものを、ポリッシングして観察用繊維断面を得た。得られた観察用繊維断面を電解放射走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、「S−4500」)を用いて観察し、繊維径を測定した。なお、観察用繊維断面には観察前にカーボン蒸着を施し、電子顕微鏡は加速電圧を5kV〜10kV、倍率を1000倍〜3000倍に設定し、観察を行った。そして、少なくとも100本の単繊維について繊維径を測定した後、これらの平均値を求め繊維径とした。
【0103】
2.繊維の引張強度・弾性率
ポリベンザゾール繊維を、標準状態(温度:20±2℃、相対湿度(RH):65±2%)の試験室内に、紫外光および可視光を遮断した状態で24時間以上放置した後、繊維の引張強度および弾性率(見掛けヤング率)を、JIS L 1013に準じて測定した。試験機には定速伸長型を用い、試料長200mm、引張速度200mm/minの条件で測定を行った。なお、PBOの密度は1.56g/cm3とした。
【0104】
3.繊維のクラック率
ポリベンザゾール繊維を、光学顕微鏡(接眼レンズ倍率;10倍、対物レンズ倍率;10倍)を用いて観察し、繊維中のクラックの個数を数えて、クラック率(ポリベンザゾール繊維1000m当たりの平均クラック個数)を算出した。なお、観察は、少なくとも6m以上の長さを有するポリベンザゾール繊維を、無作為に複数本サンプリングし、これらについて全長に渡って観察を行い、観察されるポリベンザゾール繊維の長さの合計が、少なくとも1000mとなるまで観察を行って、クラック率を算出した。
【0105】
4.繊維の線熱膨張係数
ポリベンザゾール繊維の繊維軸方向の熱膨張の測定は、熱機械測定装置(TMA)(ティー・エイ・インスツルメント社製、型番「Q400EM」)を用いて測定した。測定試料には、ポリベンザゾール繊維166本からなる繊維束を用い、荷重はポリベンザゾール繊維1本あたり1g以下になるように調整した。温度上昇速度は10℃/分に設定し、温度100℃〜200℃間に生じた繊維の繊維軸方向の寸法変化を測定した。得られた測定結果を元に下記式から線熱膨張係数を算出した。
α=ΔL/(L×ΔT)
α:線熱膨張係数(ppm/℃)
ΔL:試料の寸法変化量(m)
L :試料のもとの長さ(m)
ΔT:温度変化量(℃)
【0106】
5.X線回折測定
(200)結晶面の選択配向評価は、X線回折法を用いて測定した。X線ソースとしては、大型放射光施設ESRF(European Synchrotron Radiation Facility,所在地:フランス国グルノーブル市)をX線源とし、ID13ハッチを使用した。蓄積リングから取り出したX線(0.98Å)は単色化したのちサンプル(ポリベンザゾール繊維)位置で収束するようにセットした。焦点の大きさは、キャピラリー光学系を通して直径が1μm以下になるように調整した。
【0107】
測定は、直径座標系において、ポリベンザゾール繊維の繊維軸をZ軸方向に一致させて、X軸方向と平行にX線を照射し、X線照射位置をY軸方向に走査させて、Y軸方向繊維全幅にわたり、中心点を含み実質的に等間隔な11点についてX線回折測定を行った。X線回折図形は、CCDカメラ(MARCCO検出器:空間分解能64.45×64.45μm2)を用いて記録した。記録された画像データはパソコンに転送して、赤道方向および方位角方向のデータを切り出した後、各測定位置における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を評価した。
【0108】
各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを作成し、前記回折強度の折れ線グラフの最大値の位置および波形を確認した。
最大値の位置は、Y軸方向繊維中心またはその近傍に最大値を有する場合を「可」、それ以外を「不可」とした。波形は、単峰性を示す場合を「可」、それ以外を「不可」とした。
【0109】
6.プリント配線基板の線熱膨張係数
製造例で得られたプリプレグから得られる基板、プリント配線基板から熱膨張測定用試料(長さ10mm、幅3mm、厚み0.5mm)を切り出し、熱機械測定装置(TMA)を用いて、熱膨張を測定した。温度上昇速度は10℃/分に設定し、温度100℃〜200℃間に生じた寸法変化を測定した。得られた測定結果を元に、前記繊維の線熱膨張係数と同様にして、基板、プリント配線基板の線熱膨張係数を算出した。
【0110】
7.はんだ耐熱性試験
製造例で得られた両面銅張基板について、はんだ耐熱性試験を、JIS C 6481に準じて行った。具体的には、両面銅張基板を、260℃に加熱したはんだ浴に20秒間浮かせた後、試料の膨れの有無を目視にて観察した。膨れや層の剥離による変色が認められた試料は不良と判定した。
【0111】
8.プリント配線基板の歩留り、マイグレーション試験
絶縁抵抗試験
製造例で示した製造方法に基づいて、縦横に50列×50行のスルーホールを形成した試験用プリント配線基板を25個作製した。各スルーホールの直径は75μm、スルーホールピッチは200μmとした。得られた試験用プリント配線基板25個について、スルーホール50列に対して1列ごとに正と負の電荷が交互に付与されるよう櫛刃状の配線を形成した。各プリント配線基板のスルーホール50列について、隣接するスルーホール列との絶縁抵抗を測定することで、スルーホールの絶縁性が保てているかどうかを検査し、絶縁性が確保できているプリント配線基板の比率(歩留り)を算出した。
【0112】
マイグレーション試験
前記絶縁抵抗試験において、絶縁性が確保できていたプリント配線基板を試験基板として用いて、マイグレーション試験を実施した。マイグレーション試験はJEDEC A 101Bに準じて行った。試験は、温度85℃、相対湿度85%の雰囲気で行い、電極への印加電圧は5Vとして、1000時間以上絶縁を保ったものを合格、1000時間未満で絶縁破壊が生じたものを不合格とした。
【0113】
ポリベンザゾール繊維
製造例1
米国特許第4533693号に示される方法によって得た、極限粘度が24.2dl/gであるPBOを、ポリリン酸に溶解させて、PBO濃度が14質量%である紡糸原液を調製した。得られた紡糸原液を紡糸温度175℃で孔径0.14mm、孔数166の紡糸口金から紡出し、紡出された紡出糸条をクエンチ温度60℃のクエンチチャンバー内を通過させて冷却した。クエンチチャンバーを通過した紡出糸条を、マルチフィラメントに収束させながら、水蒸気温度95℃、凝固浴内の気相中の全気体成分中の水蒸気分率90質量%の蒸気付与条件で水蒸気を噴きつけ紡出糸条を凝固させた。凝固された紡出糸条を、フィラメント中の残留リン濃度が6000ppm以下になるまで水洗し、1%NaOH水溶液で5秒間中和し、さらに10秒間水洗した。水洗後、水分率が2質量%になるまで乾燥させた。乾燥後、張力5.0cN/dtex、温度600℃の状態で2.4秒間熱処理を行い、ポリベンザゾール繊維No.1を得た。得られたポリベンザゾール繊維No.1について、クラック率、繊維径、引張強度、弾性率、繊維軸方向の線熱膨張係数、(200)結晶面由来の回折強度を測定した。結果を表1に示した。また、X線回折測定結果を元に作成した回折強度の折れ線グラフを図8に示した。
【0114】
製造例2
凝固工程における蒸気付与条件を、水蒸気温度65℃、凝固浴内の気相中の全気体成分中の水蒸気分率90質量%に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、ポリベンザゾール繊維No.2を作製し、評価した。結果を表1に示した。
【0115】
製造例3
凝固工程における蒸気付与条件を、水蒸気温度135℃、凝固浴内の気相中の全気体成分中の水蒸気分率90質量%に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、ポリベンザゾール繊維No.3を作製し、評価した。結果を表1に示した。
【0116】
製造例4
凝固工程における蒸気付与条件を、水蒸気温度95℃、凝固浴内の気相中の全気体成分中の水蒸気分率75質量%に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、ポリベンザゾール繊維No.4を作製し、評価した。結果を表1に示した。
【0117】
製造例5
紡出工程における紡糸口金を、孔径0.18mm、孔数166の紡糸口金に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、ポリベンザゾール繊維No.5を作製し、評価した。結果を表1に示した。
【0118】
製造例6
紡出工程における紡糸口金を、孔径0.12mm、孔数166の紡糸口金に変更したこと以外は、製造例1と同様にしてポリベンザゾール繊維No.6を作製したが、糸切れが多発し、繊維を作製することが困難であった。そのため、ポリベンザゾール繊維No.6については、繊維径のみを測定し、他の物性値は測定しなかった。
【0119】
製造例7
凝固工程において、凝固剤として水(温度40℃)を用いたこと以外は、製造例1と同様にして、ポリベンザゾール繊維No.7を作製し、評価した。結果を表1に示した。また、X線回折測定結果を元に作成した回折強度の折れ線グラフを図9に示した。
【0120】
製造例8
紡出工程における紡糸口金を、孔径0.16mm、孔数166の紡糸口金に変更したこと、および、凝固工程における蒸気付与条件を、水蒸気温度85℃、凝固浴内の気相中の全気体成分中の水蒸気分率90質量%に変更したこと以外は、製造例1と同様にして、ポリベンザゾール繊維No.8を作製し、評価した。結果を表1に示した。また、X線回折測定結果を元に作成した回折強度の折れ線グラフを図10に示した。
【0121】
製造例9
熱処理工程において、繊維に付加する張力を0.7cN/dtexに変更したこと以外は、製造例1と同様にして、ポリベンザゾール繊維No.9を作製し、評価した。結果を表1に示した。
【0122】
製造例10
極限粘度が29dl/gであるPBOを、ポリリン酸に溶解させて、PBO濃度が14質量%である紡糸原液を調製した。得られた紡糸原液を用いて、単糸フィラメント径が11.5μm、1.65dtexとなるような条件で紡糸を行った。すなわち、紡糸原液を紡糸温度175℃で孔径0.20mm、孔数166の紡糸口金から紡出し、紡出された紡出糸条をクエンチ温度60℃のクエンチチャンバー内を通過させて冷却した。クエンチチャンバーを通過した紡出糸条を、マルチフィラメントに収束させながら、水蒸気を接触させて紡出糸条を凝固させた。なお、水蒸気の付与は、水蒸気温度75℃、凝固浴内の気相中の全気体成分中の水蒸気分率90質量%に調節した蒸気雰囲気に、紡出糸条を0.6秒間通過させることで行った。
凝固された紡出糸条を、フィラメント中の残留リン濃度が5000ppm以下になるまで水洗し、1%NaOH水溶液で5秒間中和し、さらに10秒間水洗した。水洗後、水分率が2質量%になるまで乾燥させた。乾燥後、張力5.0cN/dtex、温度600℃の状態で2.4秒間熱処理を行い、ポリベンザゾール繊維No.10を作製し、評価した。
【0123】
製造例11
凝固工程における蒸気雰囲気を、水蒸気温度120℃、凝固浴内の気相中の全気体成分中の水蒸気分率90質量%に変更したこと以外は、製造例10と同様にして、ポリベンザゾール繊維No.11を作製し、評価した。結果を表1に示した。
【0124】
【表1】
【0125】
ポリベンザゾール繊維No.1,8は、クラック率がそれぞれ4個/1000m、7個/1000mであり、繊維中のクラックの個数が少なかった。また、ポリベンザゾール繊維No.1,8は、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを作成した際に、前記回折強度の折れ線グラフが、Y軸方向繊維中心またはその近傍に最大値を有する単峰性を示した。
【0126】
ポリベンザゾール繊維No.2〜7は、いずれもクラック率が13個/1000m以上
であり、繊維中のクラックの個数が多かった。また、ポリベンザゾール繊維No.2〜7は、各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを作成した際に、前記回折強度の折れ線グラフが、Y軸方向繊維中心またはその近傍に最大値を有さなかった、および/または単峰性を示さなかった。
【0127】
ポリベンザゾール繊維No.9は、熱処理工程における張力を0.7cN/dtexとして得られたものである。このポリベンザゾール繊維No.9では、繊維中のクラックの個数は少ないが、線熱膨張係数が−1ppm/℃と大きな値となった。ポリベンザゾール繊維No.10,11は、高いSDRで紡出糸条を引き取り、凝固工程において紡出糸条に水蒸気を噴きつけていないものである。これらは、いずれも繊維中のクラックの個数が多く、弾性率も低かった。
【0128】
両面銅張基板、プリント配線基板
製造例A
前記製造例1で得られたポリベンザゾール繊維No.1を経糸および緯糸に用い、平織りして成る織布(打ち込み本数50本/インチ)を作製した。次に、硬化性樹脂組成物として、松下電工株式会社製の「多機能有機グリーンシート(OGSシート)」を使用し、この硬化性樹脂組成物を有機溶剤(メチルエチルケトン)に溶解、分散し、樹脂ワニスを作製した。この樹脂ワニスを上述の織布に含浸し、95℃の乾燥機中で15分間乾燥し、厚み90μm、硬化性樹脂組成物含有率55体積%のプリプレグNo.Aを得た。
【0129】
得られたプリプレグを8枚重ねて、その両面に厚み8μmの銅箔を積層し、圧力3.5MPa、温度200℃で60分間加熱加圧して、厚みが600μmの両面に銅箔が積層された基板(以下、「両面銅張基板」ということがある)No.Aを作製し、はんだフロート試験を行った。結果を表2に示した。
【0130】
この両面銅張基板の両面をクリーニングして、表面に付着した樹脂などの異物を取り除いた後、レーザー装置を用いて貫通孔を形成した。貫通孔を形成した後、両面銅張基板の両面および貫通孔ない表面を再度クリーニングし、貫通孔内表面に無電解めっきおよび電解めっきを施してスルーホールを完成した。さらに、両面銅張基板の両面に感光性レジストを塗布して、所望の回路の露光現像を行い、エッチングを行って銅箔の回路を形成した。最後にレジストを剥離して、基板の両面に1層ずつ配線層を有するプリント配線基板No.Aを得た。得られたプリント配線基板No.Aについて、線熱膨張係数測定およびマイグレーション試験を行った。結果を表3に示した。
【0131】
製造例B
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.2を用いたこと以外は、製造例Aと同様にして、両面銅張基板No.B、プリント配線基板No.Bを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0132】
製造例C
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.3を用いたこと以外は、製造例Aと同様にして、両面銅張基板No.C、プリント配線基板No.Cを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0133】
製造例D
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.4を用いたこと以外は、製造例Aと同様にして、両面銅張基板No.D、プリント配線基板No.Dを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0134】
製造例E
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.5を用いたこと以外は、製造例Aと同様にして、両面銅張基板No.E、プリント配線基板No.Eを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0135】
製造例F
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.7を用いたこと以外は、製造例Aと同様にして、両面銅張基板No.F、プリント配線基板No.Fを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0136】
製造例G
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.8を用いたこと以外は、製造例Aと同様にして、両面銅張基板No.G、プリント配線基板No.Gを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0137】
製造例H
製造例1で得られたポリベンザゾール繊維No.1を用い、製造例Aと同様にして、厚み130μm、硬化性樹脂組成物含有率80体積%のプリプレグを得た。得られたプリプレグを用いて、製造例Aと同様にして両面銅張基板No.Hを作製した。得られた両面銅張基板No.Hの厚みは800μmであった。得られた両面銅張基板No.Hを用いて、製造例Aと同様にして、プリント配線基板No.Hを作製した。得られた両面銅張基板No.H、プリント配線基板No.Hを評価した。結果を表2,3に示した。
【0138】
製造例I
製造例1で得られたポリベンザゾール繊維No.1を、一定の方向に配向するように配列して繊維層を構成した。そして、この繊維層に製造例Aと同様の樹脂ワニスを含浸させた後、180℃の乾燥機中で6分間乾燥し、厚み50μm、硬化性樹脂組成物含有率50体積%のプリプレグを得た。なお、単位長さ(繊維に対して直角方向)あたりの繊維本数は200本/mmとした。
【0139】
得られたプリプレグを8枚重ねて、その両面に厚み8μmの銅箔を積層し、圧力3.5MPa、温度200℃で60分間加熱加圧して、両面銅張基板No.Iを得た。なお、プリプレグは、下から1枚目と8枚目のプリプレグ中の繊維方向に対し、2枚目と7枚目のプリプレグ中の繊維方向が直交するように配し、2枚目と7枚目のプリプレグ中の繊維方向に対し、3枚目と6枚目のプリプレグ中の繊維方向が直交するように配し、3枚目と6枚目のプリプレグ中の繊維方向に対し、4枚目と5枚目のプリプレグ中の繊維方向が直交するように配して重ねた。ここで、4枚目のプリプレグ中の繊維方向と5枚目のプリプレグ中の繊維方向は同じである。得られた両面銅張基板No.Iの厚みは320μmであった。得られた両面銅張基板No.Iを用いて、製造例Aと同様にしてプリント配線基板No.Iを作製した。得られた両面銅張基板No.I、プリント配線基板No.Iを評価した。結果を表2,3に示した。
【0140】
製造例J
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.7を用いたこと以外は、製造例Iと同様にして、両面銅張基板No.J、プリント配線基板No.Jを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0141】
製造例K
硬化性樹脂組成物として、松下電工株式会社製の「多機能有機グリーンシート(OGSシート)」を使用し、この硬化性樹脂組成物を、有機溶剤(メチルエチルケトン)に溶解、分散し、樹脂ワニスを作製した。製造例1で得られたポリベンザゾール繊維No.1を、一定の方向に配向するように配列して繊維層を構成した。そして、この繊維層に上記で得た樹脂ワニスを含浸させた後、95℃の乾燥機中で15分間乾燥し、厚み70μm、硬化性樹脂組成物含有率60体積%のプリプレグを得た。なお、単位長さ(繊維に対して直角方向)あたりの繊維本数は210本/mmとした。
【0142】
得られたプリプレグを4枚重ねて、その両面に厚み12μmの銅箔を積層し、圧力3.5MPa、温度180℃で60分間加熱加圧して、両面銅張基板No.Kを得た。なお、プリプレグは、下から1枚目と4枚目のプリプレグ中の繊維方向に対し、2枚目と3枚目のプリプレグ中の繊維方向が直交するように配して重ねた。ここで、2枚目のプリプレグ中の繊維方向と3枚目のプリプレグ中の繊維方向は同じである。得られた両面銅張基板No.Kの厚みは0.2mm、硬化性樹脂組成物含有率は50体積%であった。得られた両面銅張基板No.Kを用いて、製造例Aと同様にしてプリント配線基板No.Kを作製した。得られた両面銅張基板No.K、プリント配線基板No.Kを評価した。結果を表2,3に示した。
【0143】
製造例L
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.7を用いたこと以外は、製造例Kと同様にして、両面銅張基板No.L、プリント配線基板No.Lを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0144】
製造例M
製造例Kと同様にしてプリプレグを作製した後、得られたプリプレグを8枚重ねて、その両面に厚み12μmの銅箔を積層し、圧力3.5MPa、温度180℃で60分間加熱加圧して、両面銅張基板No.Mを得た。なお、プリプレグは、下から1枚目と8枚目のプリプレグ中の繊維方向に対し、2枚目と7枚目のプリプレグ中の繊維方向が直交するように配し、2枚目と7枚目のプリプレグ中の繊維方向に対し、3枚目と6枚目のプリプレグ中の繊維方向が直交するように配し、3枚目と6枚目のプリプレグ中の繊維方向に対し、4枚目と5枚目のプリプレグ中の繊維方向が直交するように配して重ねた。ここで、4枚目のプリプレグ中の繊維方向と5枚目のプリプレグ中の繊維方向は同じである。得られた両面銅張基板No.Mの厚みは0.4mmであった。得られた両面銅張基板No.Mを用いて、製造例Aと同様にしてプリント配線基板No.Mを作製した。得られた両面銅張基板No.M、プリント配線基板No.Mを評価した。結果を表2,3に示した。
【0145】
製造例N
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.7を用いたこと以外は、製造例Mと同様にして、両面銅張基板No.N、プリント配線基板No.Nを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0146】
製造例O
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.9を用いたこと以外は、製造例Aと同様にして、プリプレグNo.O、両面銅張基板No.O、プリント配線基板No.Oを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0147】
製造例P
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.10を用いたこと以外は、製造例Aと同様にして、プリプレグNo.P、両面銅張基板No.P、プリント配線基板No.Pを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0148】
製造例Q
ポリベンザゾール繊維No.1に代えて、ポリベンザゾール繊維No.11を用いたこと以外は、製造例Aと同様にして、プリプレグNo.Q、両面銅張基板No.Q、プリント配線基板No.Qを作製し、評価した。結果を表2,3に示した。
【0149】
【表2】
【0150】
【表3】
【0151】
製造例A,G,H,I,K,M,Oのプリント配線基板は、ポリベンザゾール繊維No.1,8または9を含有するプリプレグを用いて得られたもの、すなわち基板に含有されるポリベンザゾール繊維がポリベンザゾール繊維No.1,8または9である。これらのプリント配線基板は、マイグレーション試験における導通破壊までの時間が1000時間以上であり、接続信頼性に優れていることがわかる。ただし、製造例H,Oのプリント配線基板は、線熱膨張係数(100℃〜200℃)が10ppm/℃、8ppm/℃と大きいため、フリップチップ実装試験において、シリコンチップ表面に割れが生じた。
【0152】
製造例B〜F,J,L,N,P,Qのプリント配線基板は、ポリベンザゾール繊維No.2〜7,10,11のいずれかを含有するプリプレグを用いて得られたもの、すなわち基板に含有されるポリベンザゾール繊維がポリベンザゾール繊維No.2〜7,10,11のいずれかである。これらのプリント配線基板は、マイグレーション試験における導通破壊までの時間が、いずれも1000時間未満であった。
【産業上の利用可能性】
【0153】
本発明は、長期の接続信頼性に優れたプリント配線基板に有用である。
【符号の説明】
【0154】
1:ポリベンザゾール繊維、2:フェニレン環平面の断面方向、100:絶縁基板、101:強化繊維、102:樹脂、103:銅箔、104:導体層、105:スルーホール
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラック率が10個/1000m以下、弾性率が200GPa以上350GPa以下、かつ、繊維軸方向の線膨張係数(100℃以上200℃以下)が−20ppm/℃以上−3ppm/℃以下であることを特徴とするポリベンザゾール繊維。
【請求項2】
直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させて、X軸方向と平行にX線を照射し、X線照射位置をY軸方向に走査させて、Y軸方向繊維全幅にわたり、中心点を含み実質的に等間隔な11点についてX線回折測定を行い、
各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを作成した際に、
前記回折強度の折れ線グラフが、Y軸方向繊維中心またはその近傍に最大値を有する単峰性を示す請求項1に記載のポリベンザゾール繊維。
【請求項3】
繊維径が4μm以上15μm以下である請求項1または2に記載のポリベンザゾール繊維。
【請求項4】
繊維軸方向の線膨張係数(100℃以上200℃以下)が−20ppm/℃以上−3ppm/℃以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリベンザゾール繊維。
【請求項5】
弾性率が200GPa以上350GPa以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリベンザゾール繊維。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリベンザゾール繊維の製造方法であって、
ポリベンザゾールとポリリン酸とを含有する紡糸原液を用いて、紡糸口金から紡出する紡出工程;
紡出された紡出糸条に、温度70℃以上130℃以下の水蒸気を噴きつけて、ポリベンザゾールを凝固させる凝固工程;
凝固したポリベンザゾールを含有する紡出糸条を洗浄する洗浄工程;および、
得られたポリベンザゾール繊維に、1.0cN/dtex以上8.0cN/dtex以下の張力を付加し、400℃以上700℃以下で熱処理を施す熱処理工程;を含むことを特徴とするポリベンザゾール繊維の製造方法。
【請求項1】
クラック率が10個/1000m以下、弾性率が200GPa以上350GPa以下、かつ、繊維軸方向の線膨張係数(100℃以上200℃以下)が−20ppm/℃以上−3ppm/℃以下であることを特徴とするポリベンザゾール繊維。
【請求項2】
直交座標系において、繊維軸をZ軸方向に一致させて、X軸方向と平行にX線を照射し、X線照射位置をY軸方向に走査させて、Y軸方向繊維全幅にわたり、中心点を含み実質的に等間隔な11点についてX線回折測定を行い、
各測定位置について得られたX線回折図形における赤道方向(200)結晶面由来の回折強度を縦軸とし、Y軸方向繊維全幅における測定位置を横軸とする回折強度の折れ線グラフを作成した際に、
前記回折強度の折れ線グラフが、Y軸方向繊維中心またはその近傍に最大値を有する単峰性を示す請求項1に記載のポリベンザゾール繊維。
【請求項3】
繊維径が4μm以上15μm以下である請求項1または2に記載のポリベンザゾール繊維。
【請求項4】
繊維軸方向の線膨張係数(100℃以上200℃以下)が−20ppm/℃以上−3ppm/℃以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリベンザゾール繊維。
【請求項5】
弾性率が200GPa以上350GPa以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリベンザゾール繊維。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリベンザゾール繊維の製造方法であって、
ポリベンザゾールとポリリン酸とを含有する紡糸原液を用いて、紡糸口金から紡出する紡出工程;
紡出された紡出糸条に、温度70℃以上130℃以下の水蒸気を噴きつけて、ポリベンザゾールを凝固させる凝固工程;
凝固したポリベンザゾールを含有する紡出糸条を洗浄する洗浄工程;および、
得られたポリベンザゾール繊維に、1.0cN/dtex以上8.0cN/dtex以下の張力を付加し、400℃以上700℃以下で熱処理を施す熱処理工程;を含むことを特徴とするポリベンザゾール繊維の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
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【図10】
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【図12】
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【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−31445(P2010−31445A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156231(P2009−156231)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】
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