ポリペプチド突然変異導入法
標的ポリペプチドのアミノ酸配列を、そのポリペプチドをコードする標的DNA配列を改変することにより改変する方法であって、標的DNA配列にトランスポゾンを導入するステップを含み、該トランスポゾンは、その末端のそれぞれに向かう第1の制限酵素の認識配列を含み、該認識配列は、トランスポゾンの残りの部分にも、標的DNA配列中にも、あるいは標的DNA配列を含む構築物中にも存在せず、該第1の制限酵素の認識配列は、アウトサイドカッターである第1の切断酵素によって認識され、また、該トランスポゾンの末端の端を越えて位置するDNA切断部位を該第1の制限酵素が有するように位置することを特徴とする方法、が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的ポリペプチドにおける少なくとも1つのアミノ酸の挿入、欠失又は置換によって標的ポリペプチドのアミノ酸配列を変える方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の突然変異
自然界では、無数のタンパク質を、生命体に適応した機能を発揮するように進化させてきた。遺伝子配列の変化は、タンパク質のアミノ酸組成の変化に翻訳される。自然界では、ヌクレオチドの置換、欠失又は挿入が、進化の過程において利用されている(Chothia, C.他(2003) Science 300 1701-1703)。単一のヌクレオチドの置換が、その特定の位置でアミノ酸をコードする情報を変えることによってアミノ酸の特性に変化をもたらし得る。選択圧は、3つのヌクレオチド又はこれらの倍数の欠失又は挿入が、遺伝子のリーディングフレームを維持するため好ましいことを意味している(Taylor, M.他(2004) Genome Res. 14 555-566)。分岐進化の過程において、多くの置換及び挿入−欠失(インデル)突然変異によって、タンパク質の組成の変化がもたらされる(Taylor, M.他(2004)、Lesk, A.M.(2001)著「タンパク質構造概論(Introduction to protein architecture)」Oxford University Press, Oxford、Pascarella, S.及びArgos, P.(1992) J. Mol. Biol. 224 461-471)。これらの変化の多くは、タンパク質の特性、特に、折り畳み、リガンド又は基質結合、タンパク質−タンパク質相互作用、並びに温度依存性の活性及び安定性に対して多大な影響を持つ。例えば、置換突然変異導入による免疫グロブリン可変ドメインの配列変化はアミノ酸の欠失及び挿入によって促進され(de Wildt, R.M.他(1999) J. Mol. Biol. 294 701-710)、また、構造的に相同なサブチリシンセリンプロテアーゼの間では、触媒作用、基質認識及びカルシウム結合に重要であることが知られている領域などにおいて、様々な置換及びインデル事象が観察されている(Siezen, R.J.及びLeunissen, J.A.(1997) Protein Sci. 6 501-523)。
【0003】
標的遺伝子全体にわたるランダムな突然変異の導入は、タンパク質の特性を変える有力な方法である(Tao, H.及びCornish, V.W.(2002) Curr. Opin. Chem. Biol. 6 858-864及びArnold, F.H.(2001) Nature 409 253-257を参照されたい)。現行の技術の大部分は、アミノ酸の置換に至る点突然変異の導入に焦点を当てている(Dalby, P.A.(2003) Curr. Opin. Struct. Biol. 13 500-505、Lutz, S.及びPatrick, W.M.(2004) Curr. Opin. Biotechnol. 15 291-297及びその中の参考文献)。これらの方法は通常、1つのコドンにつき1つのヌクレオチド塩基対を変化させることに限定されるため、その位置で利用可能なアミノ酸の種類は限定され、あるいは自然発生的な遺伝的多様性に依存することになる。いくつかの方法、例えばペンタペプチド走査突然変異法(scanning mutagenesis)(Hallet, B.他(1997 Nucleic Acids Res. 25 1866-1867、以下にさらに記載))、並びにランダム挿入及び欠失(RID)(Murakami, H.他(2002) Nat. Biotechnol. 20 76-81)が、アミノ酸の挿入を行うために使用されてきた。RID法は、単一アミノ酸の欠失の導入に利用可能性があるが、現在までのところはアミノ酸の置換又は挿入の導入のみに適用されている。さらに、この処理は複雑であり、好ましくない二次的突然変異が導入される傾向がある(Murakami, H.他(2002))。
【0004】
単一コドンの挿入又は欠失は、自然界で観察されるインデル突然変異の最も一般的な形態の1つであり、進化の過程に対する重要性を示している(Taylor, M.他(2004))。このような事象をin vitroにおいて模倣することにより、タンパク質構造及びタンパク質機能に対するインデル突然変異の影響に関する我々の理解が進み、また、特定の用途に対するタンパク質の特性を向上させる我々の能力が高められることになろう。現在、イン
デル突然変異を導入する最も一般的な方法は理論的設計によるものであるため、欠失させるべき残基の決定には構造的情報が必要になり、またそれぞれの突然変異に対して別々のオリゴヌクレオチドが必要になるだろう。
【0005】
トランスポゾン
トランスポゾンは、DNA配列にランダムに挿入することができる、遺伝子情報の可動性の断片である(Reznikoff他(1999) Biochem. Biophys. Res. Commun. 266 729-734)。ほとんどのトランスポゾンは、これに関する共通の一般的なメカニズムに従う(Mizuuchi(1992) Annu. Rev. Biochem. 61 1011-1051、Craig(1995) Science 270 253-254)。トランスポゾンは、そのそれぞれの末端に逆向き反復配列から成る認識配列を有しており、すなわちこの末端は逆方向の同一配列を有している。トランスポザーゼ酵素はこれらの認識配列を認識して結合することによって、タンパク質−DNA複合体を形成する。その後、このタンパク質−DNA複合体が、DNAの切断反応及び連結反応を触媒することによって、標的DNAへのトランスポゾンの挿入を促進する。例えば、Muトランスポゾンの場合、MuAがトランスポザーゼとして作用する。Muトランスポゾンの挿入前に、標的DNAにおいて5bpの互い違いの切断が行われる。反対側のDNA鎖上に生じた5bpのギャップは、必要に応じて宿主生物により、あるいはin vitroにおいて適切な酵素を使用することにより補われる。その結果、トランスポゾンの挿入に加えて、トランスポゾンの片側に5bpの標的DNAの反復が生じる。Tn5トランスポゾンの場合、9bpの互い違いの切断を行い、トランスポゾンの片側に9bpの標的DNAの反復がもたらされる(Reznikoff他(1999)、Steiniger-White他(2004) Curr. Opin. Struct. Biol. 14 50-57)。特に、mini−Mu及びTn5転移反応は、in vitroでの使用に適合するようになっており、この反応は、標的部位の優先度が非常に低いため、トランスポゾンの挿入を所与の遺伝子における任意の点で行うことができる(Goryshin及びReznikoff(1998)
J. Biol. Chem. 273, 7367-7374、Haapa他(1999) Nuc. Ac. Res. 27, 2777-2784)。
【0006】
制限酵素
制限エンドヌクレアーゼは、特定のヌクレオチド配列を認識してDNAを切断する酵素の種類である。II型酵素は、特定の種類の制限エンドヌクレアーゼである。それら酵素の認識部位は、パリンドロームであるか、部分的にパリンドロームであるか、又は中断されたパリンドロームである。ランダムにDNAを切断するI型及びIII型制限エンドヌクレアーゼとは異なり、II型酵素は、通常、認識配列内の特定の部位でDNAを切断する。IIS型酵素は、一般的なII型酵素に当てはまらないいくつかの特徴を有する亜型である。これらのIIS型酵素は、一般的に認識配列の外側で切断された少なくとも1本の鎖によって、パリンドロームではない又は非対称のヌクレオチド配列を認識する(これらのIIS型酵素は、いわゆる「アウトサイドカッター(outside cutter)」である)。このようなIIS型制限エンドヌクレアーゼの1つの例は、MlyIである。MlyIは、パリンドロームではないDNA配列を特異的に認識し、認識配列から5bp離れた部位を切断することにより、平滑末端を形成する(5’GAGTCNNNNN↓3’、認識配列には下線が付され、NはG、A、T又はCのいずれかが許容されることを示し、矢印は切断位置を示す)。他のII型酵素は、IIB亜型、IIE亜型、IIG亜型及びIIP亜型であり、これらはIIS型の亜型といくつかの特徴を共有する。例えば、これらの亜型の内のいくつかは、アウトサイドカッターとして分類される。
【0007】
既知のタンパク質の突然変異導入法
米国特許第5,843,772号は、AT−2として知られる人工のトランスポゾンに関する。DNAベクターから平滑末端化したトランスポゾンを分離させるために、制限酵素の認識部位が付加された。認識配列自体の内部で切断する制限酵素によって、制限酵素の認識部位が認識される。この特許は主として、人工のトランスポゾンを形成し、それらをDNA配列に挿入する方法に関する。
【0008】
Vilen他(J. Virol.(2003) 77 123-134)は、ウイルスゲノムにおける遺伝子をマッピングするためのトランスポゾンの使用に関する。Vilen他に開示されているトランスポゾンは、標的ポリペプチドのアミノ酸配列を変える方法において使用するには適していない。
【0009】
米国特許第4,830,965号は、DNA配列をトランスポゾン内の点に挿入させるための制限酵素の認識部位の導入に関する。制限酵素の認識部位は、トランスポゾンの末端には位置していない。
【0010】
米国特許第5,728,551号は、上述のペンタペプチド走査突然変異法に関し、以下でより詳細に論じられる。コドン挿入による突然変異誘発の方法の案について言及されてはいるが、そのような方法が行われたことを示すデータは提供されていない。トランスポゾンの末端近くにSrfI制限酵素の認識配列を位置させ、このSrfI制限酵素がその認識配列内で切断することを提案している。標的DNAにこのようなトランスポゾンを挿入し、次いでSrfIを使用して取り除くことにより、トランスポゾンが取り除かれた結果としてギャップを有する標的DNAがもたらされるが、このギャップの末端は、該DNAのSrfI切断位置の結果として、いくつかのトランスポゾン由来のヌクレオチドを含む。したがって、挿入されるコドンの配列は、トランスポゾンの末端の配列によって部分的に決定されるので、所与のトランスポゾンを使用して挿入することができる特定のコドンは限定されることになろう。
【0011】
Hayes他(Applied & Environmental Microbiology(1990) 56, 202-209)は、遺伝子ノックアウトを形成するためにトランスポゾンを使用すること、及び細胞内のプラスミド複製に必須の遺伝子の位置をマッピングするためにトランスポゾン内の制限酵素部位を使用することに関する。
【0012】
TEM−1は、β−ラクタム系抗生物質に対する菌の耐性の主因の1つであることから、臨床的に重要なタンパク質である。TEM−1には、新規の広範なスペクトル(ES)のβ−ラクタム系抗生物質に対する耐性を与えるように進化した多くの自然変異体が存在する(http://www.lahey.org/Studies/temtable.asp、参考文献の例として、Matthew, M.
& R.W.Hedges(1976) J. Bacteriol. 125 713-718、Chanal, C.M.他(1989) Antimicrob. Agents Chemother. 33 1915-1920、Goussard, S.及びCourvalin, P.(1999) Antimicrob. Agents Chemother. 43 367-370、が挙げられる。)。TEM−1の自然発生的な欠失変異体は存在しないが、ES β−ラクタムに対する菌の耐性の一因となるSHV−9及びSHV−10(Prinarakis, E.E.他(1997) Antimicrob. Agents Chemother. 41 838-840)並びにS.aureus PC1(Zawadzke, L.E.他(1995) Protein Eng. 8 1275-1285)のような相同的なβ−ラクタマーゼにおいては、アミノ酸の欠失が観察されている。TEM−1は多くのタンパク質工学の研究の焦点でもあり(Matagne, A.他(1998) Biochem. J. 330(Pt2) 581-598)、そのような研究として、どのアミノ酸残基が突然変異に耐性がないかを判定するための全てのアミノ酸のランダム置換(Huang, W.他(1996) J. Mol. Biol. 258
688-703)、指向進化(例えばCamps, M.他(2003) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 100 9727-9732、Stemmer, W.P.(1994) Nature 370 389-391)、及びペンタペプチド走査突然変異法(Hayes, F.他(1997) J. Biol. Chem. 272 28833-28836)などが挙げられる。ペンタペプチド走査突然変異法は、トランスポゾンの挿入、及びNotI(5’GC↓GGCCGC3’)又はPmeI(5’GTTT↓AAC3’)等の、標準的な、レアカットな(rare-cutting)II型制限酵素によるトランスポゾンの除去に関する。この方法の主な欠点は、導入することができる配列変化が制限されているということである。トランスポゾンを除去するための制限酵素消化の際には、常に、制限部位を含むトランスポゾンの断片と共に、標的DNAの5bpの重複領域が、最終的な修飾された標的DNAに組み込まれる。したがって、このことは、通常5アミノ酸長より大きい、所定の組のアミノ酸の挿入をも
たらす。アミノ酸の置換又は欠失はサンプルにならず、単一アミノ酸などの程度の小さい挿入もまたサンプルにはならない。
【0013】
上記の方法に関する改善点は、米国公開特許第2005/0074892号に開示されている。その文献に開示されている方法においては、トランスポゾンが標的DNA配列に挿入され、このトランスポゾンはIIS型ではない制限酵素を使用して切り出され、トランスポゾンの切り出しによって形成されるギャップを有する標的DNAが残される。ギャップのそれぞれの末端には、いくつかのトランスポゾン由来のヌクレオチド及びトランスポゾンの挿入により生じる重複ヌクレオチドが含まれる。この方法で使用されるトランスポゾンは市販されており、この処理に使用するために改変されてはいない。さらに、この方法は、さらなる非転移DNA配列を順次挿入及び欠失させることを含み、最終的に標的DNA配列からトランスポゾン由来のヌクレオチドを取り除くための複数の制限エンドヌクレアーゼによる消化工程を伴う。この冗長な処理によって、最終的に標的DNA配列内への単一コドンの挿入、欠失又は置換が可能になる。
【0014】
「分子スイッチ」の形成
所望の入力に応じてその性質を変えることができる分子を設計及び生成する能力によって、新規の検出及び変換装置が作られる重要で新たな可能性が生じるであろう。この分子スイッチの概念は、化学信号を検出し、この化学信号を適切な細胞応答に変換する先導の役割を果たすタンパク質と共に、自然界において十分に確立されている(Monod他(1963) J. Mol. Biol. 6 306-329、Changeux及びEdelstein(2005) Science 308 1424-1428)。出力が所望の入力と対になるタンパク質を作出することは、対象物質に合わせて調整した(tailored)バイオセンサーや新規のインテリジェント材料の形成等の、in vivo及びin vitroでの多種多様の用途に対する可能性を有する。天然のタンパク質スイッチを使用することが最も簡単であると考えられるが、これらは、定まった生物学的状況の範囲内において特定の機能を果たすように進化しており、特定の用途に必要な特性は有していないかもしれない。したがって、分子スイッチを形成するための一般的な試みとして、本来は異種であるタンパク質の機能を結合しても良い。
【0015】
天然のアロステリックタンパク質は、空間的に異なる調節部位及び活性部位を有する(Monod他(1963)、Changeux及びEdelstein(2005))。調節部位へのエフェクター分子の結合は、急速に且つ可逆的にタンパク質活性を直接調節することができる立体構造変化を引き起こす。任意の人工のアロステリックタンパク質がこのメカニズムを模倣することが理想的であろう。天然のスイッチの再構築に比べて簡単でより効果的な戦略としては、結合による立体構造変化を通じて本来は異種であるタンパク質の機能を結合することである(Buskirk及びLiu(2005) Chem. Biol. 338 633-641、Hahn及びMuir(2005) Trends Biochem. Sci.
30 26-34、Ostermeier(2005) Prot. Eng. Des. Sel. 18 359-364)。所望の調節(例えば小分子依存性の立体構造変化)及びレポーター(例えば酵素活性)機能を有するタンパク質が用いられる。小分子が結合した際に調節ドメインで起こる立体構造事象を、出力信号を調節するレポータードメインに伝達させることができるような方法で、この2つのタンパク質を結び付ける必要がある。このような立体構造事象を結び付ける1つの試みとして、ドメイン挿入と呼ばれる方法を使用することがあげられ、この方法では1つのタンパク質ドメインが、もう1つのタンパク質ドメイン内に挿入される(Doi及びYanagawa(1999) FEBS Lett. 457 1-4、Ostermeier(2005) Protein Eng. Des. Sel. 18 359-364)。そのようにして2つの共有のリンクが生成され、2つのドメイン間の自由度を低下させてそれらの構造を密接に連関させ、任意の立体構造変化の伝達を促進する。より従来型に近い末端−末端の方法で連結されたドメインは、それら2ドメイン間での連絡がなく、一般的にはそれぞれが独立に機能するであろう。
【0016】
この方法の成功の鍵は、両タンパク質の機能を維持し、且つ立体構造事象の伝達を可能
にさせつつ全ドメインの挿入を許容する、タンパク質内部の部位を同定することである。天然の多ドメインタンパク質の分析は、ドメインの挿入が比較的一般的な進化事象であることを示唆している(Jones他(1998) Protein Sci. 7 233-242、Aroul-Selvam他(2004) J.
Mol. Biol. 338 633-641)。いくつかのタンパク質工学の研究により、タンパク質が、別のタンパク質のドメイン全体などの大きな挿入を許容し得ることも示されている。しかし、挿入を許容し、且つカップリングを可能にする部位は明らかではないかもしれない。例えば、レポータータンパク質を活性部位に近接して挿入することは、立体構造変化を直接触媒中心に伝達させることによってカップリングを強化するだろうが、酵素活性にとっては過度に有害であると考えてよいだろう。
【0017】
現在のところ、2つのタンパク質の機能を連結するために、タンパク質ドメイン全体の挿入を許容する標的タンパク質内の部位を予測することは、非常に困難である。この障害を克服するために、ある1つのタンパク質を別のタンパク質にランダムに挿入するという進化的な試みを行うことができる。遺伝子レベルでこれを行うには、挿入が行われるタンパク質をコードする遺伝子のランダムな位置に単一の切断が導入されなくてはいけない。DNA中にそのような切断を生成するために使用される1つの方法として、非特異的なエンドヌクレアーゼであるDNaseIの使用が挙げられる(Guntas及びOstermeier(2004) J. Mol. Biol. 336 263-273)。DNaseIを使用するにあたっての問題点は、DNaseIがDNAにおいて単一の切断を形成することが難しいことが知られていること、並びにこの非特異的なエンドヌクレアーゼによる消化が一定の間隔で縦列重複(tandem duplications)及び様々なサイズの段階的欠失(nested deletions)を生じさせることである。このことによって、タンパク質においてフレームシフト、大きな挿入、及び大きな欠失がもたらされ、その結果ライブラリーの質の低下、及びサンプリングが必要な変異体の数の増加につながるであろう。本発明の方法は、タンパク質レベルでのそのような大きな欠失又は挿入を導入することはなく、研究者は、挿入ドメインを有する任意の連結配列の大きさを決定することが可能になる。挿入された遺伝子に関して可能な読み枠は3つだけであり(これは、1つのコドンに関するトランスポゾンの挿入点に依存する)、正しい読み枠となる可能性は、DNaseIを使用する場合には6つの内の1つであるが、本発明の方法を使用する場合には3つの内の1つにまで増大する。
【発明の開示】
【0018】
[発明の概要]
本発明は、標的遺伝子全体にわたるランダムな位置でのトリプレットヌクレオチドの欠失又はヌクレオチドの挿入を導入する新規の方法に関する。さらに、特定の位置でのアミノ酸配列の全範囲をカバーするアミノ酸の置換を可能にするようにこの技術を変更することができる。その上、エピトープ、タンパク質断片又は全タンパク質ドメインでさえもコードするこができる、より長鎖長のDNAの挿入が可能になるように、この技術をさらに適応させることができる。
【0019】
bla遺伝子によってコードされるTEM−1 β−ラクタマーゼに対するアミノ酸のインデルの影響を測定することによって、この技術を試験した。
【0020】
したがって、本出願において概説された新しい技術は、TEM−1に対して開かれた配列空間並びにTEM−1の構造及び機能に対するこのような突然変異の影響をさらに調査することによって、既存の知識を補完することになろう。さらに、この技術の使用の好適な例を挙げることにより、本出願において概説された技術の正当性が明らかになるだろう。
【0021】
本発明の第1の態様によれば、標的ポリペプチドのアミノ酸配列を、そのポリペプチドをコードする標的DNA配列を改変することによって改変する方法が提供される。この方
法は、標的DNA配列にトランスポゾンを導入するステップを含み、このトランスポゾンは、その末端のそれぞれに向かう第1の制限酵素の認識配列を含み、この認識配列は、トランスポゾンの残りの部分にも、標的DNA配列にも、あるいは標的DNA配列を含む構築物(例えばプラスミド又はベクター)中にも存在せず、この第1の制限酵素の認識配列は、アウトサイドカッターである第1の制限酵素によって認識され、かつ、トランスポゾンの末端の端を越えて位置するDNA切断部位を第1の制限酵素が有するように位置する。
【0022】
本明細書を通して使用される「アウトサイドカッター(outside cutter)」という用語は、制限酵素の認識配列の外側のDNAを切断する制限酵素を示す、当該技術分野で既知の用語である。アウトサイドカッターである制限酵素の大部分は、IIS型の亜型に属するが、IIB亜型、IIE亜型、IIG亜型及びIIP亜型の成員もアウトサイドカッターとして分類することができる。
【0023】
本明細書を通して使用される「トランスポゾンの末端の端を越えて」という語句は、トランスポゾンが標的DNA配列に組み込まれる場合、第1の制限酵素の切断部位がトランスポゾンのDNA配列内には位置せず、標的DNA配列内に位置するように、第1の制限酵素の切断部位がトランスポゾン配列の外側にあるということである。
【0024】
好都合なことに、本発明は、対象のポリペプチド全体にわたる点における、1又は複数のアミノ酸の挿入、欠失及び置換の効果を研究するための単純なツールを提供する。好都合なことに、アウトサイドカッターである酵素により認識される第1の制限酵素の認識配列に対する必要条件によって、本発明の方法の使用による標的ポリペプチドにおける単一アミノ酸の挿入、欠失又は置換が可能になる。さらに好都合なことに、切断部位がトランスポゾンの末端の端を越えるような認識配列の位置決めとともに、アウトサイドカッターである酵素を使用することによって、トランスポゾンの末端に位置するヌクレオチドを含む、挿入後の標的DNA配列からの全トランスポゾンDNA配列の切除が可能になり、付加的なステップを必要とすることなくそのようなヌクレオチドの除去が可能になる。したがって、本発明の方法は、既知の方法よりも単純であり、迅速であり、それ故に経済的である。
【0025】
例えば、この方法は、MuAトランスポザーゼを用いてin vitroでの標的DNA配列に正確且つ効果的に挿入され得るDNA要素であるmini−Muトランスポゾンの特性を利用することができる(Haapa, S.他(1999) Nucleic Acids Res. 27. 2777-2784)。この反応は、標的部位の選択性が非常に低いため、トランスポゾンの挿入を所与の遺伝子における任意の点で行うことができる。この技術の基礎として、例えば、人工トランスポゾンAT−2(Devine, S.E.及びBoeke, J.D.(1994) Nucleic Acids Res. 22 3765-3772)又はTn5トランスポゾン(Goryshin及びReznikoff(1998) J. Biol. Chem. 273 7367-7374)などの、他のトランスポゾンもまた使用することができる。驚くべきことに、本発明者は、トランスポゾンの末端を変えることによって、トランスポゾンを認識するトランスポザーゼ酵素の能力を低下させることなく、本発明の方法に使用するのに適するようにトランスポゾンを構築することができることを見出している。例えば、mini−Muの末端を変える突然変異が、トランスポゾンを認識するMuAトランスポザーゼの能力に悪影響を及ぼす可能性があることがこれまでに示されてきた(Goldhaber-Gordon他(2002) J. Biol. Chem. 277 7703-7712、Goldhaber-Gordon他(2003) Biochemistry 42 14633-14642)。本発明の方法で使用されるトランスポゾンは、標準的な、改変されていないmini−Muのものと同様の転移効率を維持する。
【0026】
アミノ酸配列は、少なくとも1つのアミノ酸の欠失、挿入又は置換によって変わり得る。好ましくは、単一のアミノ酸が欠失、挿入又は置換される。
【0027】
少なくとも1つのアミノ酸が、標的ポリペプチドのアミノ酸配列に挿入される場合、又は少なくとも1つのアミノ酸が、標的ポリペプチドのアミノ酸配列から欠失される場合、本発明の第1の態様による方法は、以下の
a)トランスポゾン、標的DNA及びトランスポザーゼ酵素を混合することを含む転移反応を行うステップ、
b)トランスポゾンに含まれる第1の制限酵素の認識配列を認識する第1の制限酵素で、(a)由来のDNAを消化するステップ、
c)トランスポゾンを含まないDNAを分離するステップ、
d)(c)由来のDNAの分子内ライゲーション反応を行うステップ、及び
e)(d)由来のDNAからタンパク質を発現させるステップ
を含むことが好ましい。
【0028】
例えば、宿主生物を(d)由来のDNAで形質転換することができ、その結果、このタンパク質が宿主生物中で発現する。あるいは、人工的な発現システム(例えばRoche Diagnostics Ltd(Lewes, United Kingdom)製のRapid Translation System等)を使用して、このタンパク質を(d)由来のDNAから発現させることができる。
【0029】
当業者であれば、DNAからのタンパク質の発現に利用可能な選択肢を知っていることだろう。
【0030】
標的ポリペプチドのアミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸が異なるアミノ酸で置換される場合、本発明の第1の態様による方法は、以下の
a)トランスポゾン、標的DNA及びトランスポザーゼ酵素を混合することを含む転移反応を行うステップ、
b)トランスポゾンに含まれる第1の制限酵素の認識配列を認識する第1の制限酵素で、(a)由来のDNAを消化するステップ、
c)トランスポゾンを含まないDNAを分離するステップ、
d)(c)由来のDNAと第2のDNA配列との分子間ライゲーションを行うステップであって、第2のDNA配列は少なくとも2つの第2の制限酵素の認識部位を含み、第2の制限酵素の認識部位は切断部位の少なくとも1つが第2のDNA配列の末端にはないように位置することを特徴とする、ステップ、
e)(d)由来のDNAで宿主生物を形質転換し、第2のDNA配列を含む細胞を選択するステップ、
f)(e)において選択される細胞からDNAを単離し、そのDNAを第2の制限酵素の認識部位を認識する第2の制限酵素で消化するステップであって、第2の制限酵素はアウトサイドカッターであることを特徴とする、ステップ
g)(f)由来のDNAの分子内ライゲーションを行うステップ、及び
h)(g)由来のDNAからタンパク質を発現させるステップ
を含むことが好ましい。
【0031】
例えば、宿主生物を(g)由来のDNAで形質転換することができ、その結果、このタンパク質が宿主生物中で発現する。あるいは、人工的な発現システム(例えばRoche Diagnostics Ltd製のRapid Translation System等)を使用して、このタンパク質を(g)由来のDNAから発現させることができる。
【0032】
第2のDNA配列を含まないDNAが第2のDNA配列を含むDNAから分離されるように、上記のステップ(f)の後に、付加的な分離ステップ(f1)が続くことが好ましい。したがって、第2のDNA配列を含まないDNAはステップ(g)で使用される。
【0033】
上記のステップ(d)において、「切断部位が第2のDNA配列の末端にはない」という語句は、切断部位が第2のDNA配列の末端に由来する1又は複数のヌクレオチドである、すなわち、切断部位が第2のDNA配列内にあるように、第2の制限酵素の認識部位が位置していることを示す。当業者は、1又は複数のアミノ酸が置換されるという所望の結果を得るために必要な第2の制限酵素の認識部位の位置を容易に認識するであろう。
【0034】
第2の制限酵素は、第1の制限酵素と同じであってもよい。第2のDNA配列は、第2のDNA配列を含まない細胞と比較して選択可能な特徴を、第2のDNA配列を含む宿主細胞に与える遺伝子を含むことが好ましい。本明細書を通して使用される「選択可能な特徴」という用語は、例えば(この細胞が細菌である場合)、抗生物質含有培地で成長する能力を指すことがある。
【0035】
標的ポリペプチドのアミノ酸配列が、さらなるアミノ酸配列の挿入により変えられる場合、本発明の第1の態様による方法は、
a)トランスポゾン、標的DNA及びトランスポザーゼ酵素を混合することを含む転移反応を行うステップ、
b)トランスポゾンに含まれる第1の制限酵素の認識配列を認識する第1の制限酵素で、(a)由来のDNAを消化するステップ、
c)トランスポゾンを含まないDNAを分離するステップ、
d)さらなるアミノ酸配列をコードする第3のDNA配列と(c)由来のDNAとの分子間ライゲーションを行うステップ、及び
e)(d)由来のDNAからタンパク質を発現させるステップ
を含むことが好ましい。
【0036】
例えば、宿主生物を(d)由来のDNAで形質転換することができ、その結果、このタンパク質が宿主生物中で発現する。あるいは、人工的な発現システム(例えばRoche Diagnostics Ltd製のRapid Translation System等)を使用して、このタンパク質を(d)由来のDNAから発現させることができる。
【0037】
さらなるアミノ酸配列は、完全長のタンパク質、タンパク質ドメイン又はタンパク質断片であり得る。タンパク質断片は、エピトープ、結合ドメイン、アロステリック部位、金属結合部位等の明確な機能領域、又はオリゴマー化の接合部分(oligomerisation interface)であり得る(しかしながらこれらに限定されない)。第3のDNA配列は、第3のDNA配列を含まない細胞と比較して選択可能な特徴を、第3のDNA配列を含む宿主細胞に与える遺伝子を含むことが好ましい。
【0038】
第3のDNA配列は、標的DNAがタンパク質に翻訳される際に単一のキメラタンパク質が形成されるように、標的DNAのものと同様のオープンリーディングフレームを有しても良い。あるいは、又は付加的には、第3のDNA配列は終止コドン及び/又は開始コドンを含んでもよい。
【0039】
本発明による方法の好ましい実施形態においては、第1の制限酵素はIIS型酵素であり、最も好ましくはMlyIである。
【0040】
トランスポゾンは、標的部位の選択性が低いことが好ましい。トランスポゾンは、mini−Mu、AT−2又はTn5の内の1つに由来してもよい。トランスポゾンは、トランスポゾンを含まない細胞と比較して選択可能な特徴を、トランスポゾンを含む宿主細胞に与える遺伝子を含むことが好ましい。より好ましくは、トランスポゾンは、5’末端として5’−NGACTC−3’(配列番号1)及び3’末端として5’−GAGTCN−
3’(配列番号2)(好ましくは、5’末端として5’−TGACTCGGCGCA−3’(配列番号3)及び3’末端として5’−TGCGCCGAGTCA−3’(配列番号4))のDNA配列を含むか、あるいは、5’末端として5’−NNNNGACTC−3’(配列番号5)及び3’末端として5’−GAGTCNNNN−3’(配列番号6)(好ましくは、5’末端として5’−TGAAGACTCGCA−3’(配列番号7)及び3’末端として5’−TGCGAGTCTTCA−3’(配列番号8))のDNA配列を含む。ここで、Nは任意のヌクレオチドである。別の方法においては、トランスポゾンは、5’末端として5’−TGTTGACTC−3’(配列番号9)及び3’末端として5’−GAGTCAACA−3’(配列番号10)のDNA配列を含むか、又はさらに別の方法では、5’末端として5’−CTGACTC−3’(配列番号11)及び3’末端として5’−AAGAGTCAG−3’(配列番号12)のDNA配列を含む。
【0041】
標的DNAは、プラスミド、好ましくはpNOM又はその誘導体等の構築物に保持されていてもよい。
【0042】
本発明の第2の態様によれば、その末端のそれぞれに向かって制限酵素の認識配列を含むトランスポゾンが提供され、この認識配列がアウトサイドカッターである制限酵素により認識され、この認識配列はトランスポゾンの残りの部分に存在せず、また、トランスポゾンの末端の端を越えて位置するDNA切断部位を制限酵素が有するように位置する。好ましくは、それぞれの制限酵素の認識配列は、トランスポゾンの末端から1又は複数のヌクレオチドの位置に、より好ましくはトランスポゾンの末端から1〜20ヌクレオチドの位置に、さらにより好ましくはトランスポゾンの末端から1〜10ヌクレオチドの位置に、最も好ましくはトランスポゾンの末端から1、2、3、4又は5ヌクレオチドの位置に存在する。好都合なことに、このことによって、本発明の第1の態様による方法において、トランスポゾンをツールとして使用することが可能になり、対象のポリペプチド全体にわたる点における、1又は複数のアミノ酸の挿入、欠失及び置換の効果の研究が可能になる。
【0043】
驚くべきことに、本発明者は、トランスポゾンの末端を変えることによって、トランスポゾンを認識するトランスポザーゼ酵素の能力を低下させることなく、本発明の第1の態様による方法に使用するのに適したトランスポゾンを構築することができることを見出している。例えば、mini−Muの末端を変える突然変異が、MuAトランスポザーゼのトランスポゾンを認識する能力に対して悪影響を与える可能性があることがこれまでに示されている(Goldhaber-Gordon他(2002) J. Biol. Chem. 277 7703-7712、Goldhaber-Gordon他(2003) Biochemistry 42 14633-14642)。本発明の方法で使用されるトランスポゾンは驚くべきことに、標準的な改変していないmini−Muのものと同様の転移効率を維持している。
【0044】
好ましい実施形態において、制限酵素はIIS型酵素であり、最も好ましくはMlyIである。トランスポゾンは、5’末端として5’−NGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTCN−3’(好ましくは、5’末端として5’−TGACTCGGCGCA−3’及び3’末端として5’−TGCGCCGAGTCA−3’)のDNA配列を含んでもよい。あるいは、トランスポゾンは、5’末端として5’−NNNNGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTCNNNN−3’(好ましくは、5’末端として5’−TGAAGACTCGCA−3’及び3’末端として5’−TGCGAGTCTTCA−3’)のDNA配列を含み得る。さらに別法として、トランスポゾンは、5’末端として5’−TGTTGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTCAACA−3’のDNA配列を含んでもよい。別の選択肢として、トランスポゾンは、5’末端として5’−CTGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTCAG−3’のDNA配列を含んでもよい。トランスポゾンが転移の能力を維持し、また制限酵素の認識部位
が必要な位置にあれば、これらの末端配列は変異を包含してもよい。
【0045】
例えば、IIS型の制限酵素MlyIに対する認識配列を組み込むように、mini−Muトランスポゾンの両末端の近傍を修飾してもよい。mini−Muトランスポゾンは、そのトランスポゾンを含む大腸菌細胞をクロラムフェニコールの存在下で成長させることができるCamR遺伝子を包含する。当業者であれば、本明細書中に記載の方法に対して適切なありふれた修正がなされ、また必要に応じて追加のステップが付加される場合には、MlyI以外の制限酵素に対する認識配列をトランスポゾンに導入してもよいことを理解するだろう。このような修正は当業者にとってはありふれたものである。
【0046】
本発明の第3の態様によれば、図1で示されるDNA配列を有するプラスミド又は図1で示されるDNA配列を有するプラスミドの誘導体が提供される。「図1で示されるDNA配列を有するプラスミドの誘導体」という用語は、例えば、DNA配列のサイレント突然変異、別の選択マーカーによるbla遺伝子の置換、又は、ori領域、マルチクローニングサイトもしくはbla遺伝子等のプラスミドの必須要素を1つも形成しない配列のようなDNA配列の非必須要素の変更によって、図1で示されるプラスミドから調製されたプラスミドを意味する。この用語は、図1のDNA配列における点、好ましくは(しかし任意に)マルチクローニングサイトに挿入された、付加的な対象DNA配列を有する、図1で示されるDNA配列も包含する。図1で示されるDNA配列を有するプラスミドの誘導体のDNA配列は、本発明の第1の態様による方法で使用される第1の制限酵素に対する認識配列を含まず、本発明の方法で使用することが意図される。「図1に示されるDNA配列を有するプラスミドの誘導体」という用語は、pUC18プラスミドを包含することは意図しない。
【0047】
本発明の第4の態様によれば、本発明の第2の態様によるトランスポゾンを含むキットが提供される。好ましくは、このキットは、本発明の第3の態様によるプラスミドをさらに含む。キットは、好適なトランスポザーゼ、並びに/又は酵素反応に必要な緩衝液、並びに/又はスクリーニング及び/若しくはDNAシークエンシング処理に使用するに適したオリゴヌクレオチドをさらにまた含んでもよい。最も好ましくは、キットは、本発明の第1の態様による方法に使用されるものである。
【0048】
本発明の第5の態様によれば、ある標的ポリペプチドに突然変異を導入することがそのポリペプチドの検出可能な活性を変えるか否かを判定する方法が提供され、その方法は、本発明の第1の態様による方法及び以下の
a)改変されていない標的ポリペプチドと比較して、改変された標的ポリペプチドの活性の相違をスクリーニングするステップ、及び
b)改変された標的ポリペプチドをシークエンシングして、アミノ酸の挿入、欠失又は置換の位置を決定するステップ
をさらに含む。
【0049】
検出可能な活性の例としては、タンパク質が酵素である場合には基質結合活性、タンパク質が抗体である場合には抗原結合活性、タンパク質が受容体である場合にはリガンド結合活性が挙げられる。当業者は、他のタンパク質の種類の活性を評価することができる手段を容易に理解するであろう。
【0050】
ほんの一例として、図1〜図10を参照して本発明の実施の形態を記載する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
材料
細菌株:大腸菌DH5α(supE44、ΔlacU169、(φ80 lacZΔM
15)、hsdR17、recA1、endA1、gyrA96、thi−1、relA1)。
【0052】
プラスミド:pUC18、pEntranceposon(Camr)(Finnzymes, Esboo, Finland)及びpNOM。
【0053】
トランスポゾン:挿入−欠失突然変異誘発に使用されるトランスポゾンは、mini−Mu(CamR−3)に基づいている。
【0054】
抗生物質:アンピシリン及びクロラムフェニコール(両者ともMelford Laboratories, Ipswich, UK)。
【0055】
DNA関連酵素:TaqDNAポリメラーゼ(Promega Corp., Madison, WI, USA)、Extensor Hi−Fidelity PCR酵素(Abgene, Epsom, UK)、MlyI、XhoI、BglII及びNdeI制限エンドヌクレアーゼ(NE Biolabs, Beverly, MA, USA)、T4 DNAリガーゼ(Abgene)、MuAトランスポザーゼ(Finnzymes)、EZ−Tn5(商標)トランスポザーゼ(Epicentre, Madison, WI, USA)。
【0056】
遺伝子:TEM−1 β−ラクタマーゼをコードするBla遺伝子。
【0057】
DNA精製キット:Promega Corp.製のWizard(登録商標)Plus SVキットを使用して、細胞培養物からプラスミドDNAを単離した。アガロースゲル又はPCR反応物から、Qiagen Ltd(Crawley, UK)製のQiaquick(商標)ゲル抽出キット又はPCR精製キットをそれぞれ使用して、DNAを単離した。
【実施例】
【0058】
方法及び結果
<実施例1>
本実施例は、図2で示されるbla遺伝子におけるランダムな位置でのトリプレットヌクレオチドの欠失を含む変異体のライブラリーを形成する方法を示す。要約すると、この処理は、4つの主なステップから構成される。
ステップ1:MuDelトランスポゾンを標的プラスミド又は標的遺伝子に挿入する。
ステップ2:プラスミドに組み込まれたMuDelを含む細胞はCamR遺伝子を含むためクロラムフェニコール存在下で成長することができる。当該プラスミドを単離してプールし、MlyI消化によってトランスポゾンを取り除く。
ステップ3:分子内ライゲーションにより、ヌクレオチド塩基対が除かれた標的遺伝子の再形成がもたらされる。
ステップ4:得られたライブラリーを選択又はスクリーニングして、必要な特性を有するこれらの変異体を選択する。
【0059】
図2において、斜線のブロックはトランスポゾンを示し、黒色のブロックはbla遺伝子を示し、ギャップは(本実施例のための)欠失点を示し、灰色のブロックは、再ライゲーションした標的遺伝子における(本実施例のための)欠失点を示し、太い点線は残りのプラスミド骨格を示す。
【0060】
以下の場合には、前記の処理をbla遺伝子以外の標的遺伝子に適用することもできる。
1.図2のステップ4での選択又はスクリーニングするステップに対する適切な改変であって、標的遺伝子によってコードされるタンパク質に適した改変がなされる場合、及び
2.好ましくない制限部位が全く存在しないか、又は標的遺伝子から取り除かれる場合
。
【0061】
改変されたmini−Muトランスポゾン及び新たに構築されたpNOMプラスミドを使用した本実施例を以下に詳細に記載する。本実施例においては、制限エンドヌクレアーゼMlyIはトリプレットヌクレオチドの欠失に必須ではあるが、当業者によって理解されるように、適切なステップを修正し、また必要に応じて追加のステップが加えられる場合、MlyIのものと同様の特性を有する他の制限エンドヌクレアーゼを使用することができる。
【0062】
前記の手順がうまく働くように、標的DNA又は標的DNAを含むプラスミドは、いかなるMlyI制限部位も含んではならない。MlyIの認識配列はわずか5bp長であるため、多くのプラスミドは少なくとも1つあるいはそれ以上のMlyI制限部位を有している。例えば、pUC18は、bla遺伝子内の1つ、pMB1複製起点(ori)内の1つ、及びマルチクローニングサイト(MCS)内のもう1つを含む、4つのMlyI制限部位を有する。
【0063】
pNOMの構築
そこで、MlyI部位を全く含まず、かつ有用なMCSを含む、好適なプラスミドを構築した。この新規のベクターはpNOMと呼ばれる。このプラスミドの大部分は、ori領域及びbla遺伝子を含めて、pUC18から提供された。TEM−1 β−ラクタマーゼの一次構造を破壊しないように、サイレント突然変異の導入によって、bla遺伝子に存在するMlyI部位を取り除いた。理論的な突然変異がどのようにプラスミド複製に影響を与え得るかが不明だったので、MlyI認識配列を形成するヌクレオチドの中の2つがランダム化されたライブラリーを形成することにより、MlyI部位のori領域からの除去を達成した。有用なクローニング部位を含むように、MCS部位を構築した。
【0064】
特に明記しない限り、Extensor Hi−Fidelity PCR酵素ミックス及びそれが供給する緩衝液(Abgene)を用いて、全てのPCR反応を行った。pUC18及び人工のMCSからpNOMプラスミドを構築した。DNA配列から任意のMlyI制限部位を取り除くように、いくつかの段階において、PCRによって、pUC18の−1〜1979bpの領域を増幅した。PCR反応混合物は、鋳型としての0.1ng/μlのpUC18 1μl、10μMの好適なプライマー3μl(以下のプライマーの組み合わせを参照のこと)、20mMのdNTP混合物3μl(5mMのdATP、5mMのdTTP、5mMのdGTP及び5mMのdCTPから成る)、10×Extensor緩衝液1 5μl、5単位/μlのExtensor Hi−Fidelity PCR酵素ミックス0.5μlから構成され、滅菌した分子生物学的品質の水で50μlに合わせた。それぞれの場合において、以下に示すようにPCRを行った。
ステップ1:94℃で2分間
ステップ2:94℃で10秒間
ステップ3:55℃で30秒間
ステップ4:68℃で90秒間
さらに29回、ステップ2〜ステップ4を繰り返す
ステップ5:68℃で7分間。
【0065】
断片F1は、pUC18の−1〜989bpから構成され、化学合成したオリゴヌクレオチドの形態の一本鎖DNA(「プライマー」と称される)であるDDJdi006(5’GAAACtCGaGAGACGAAAGGGCCTCGTGATACG3’、配列番号13)及びDDJdi004(5’CATCCATAGTTGCCTGACTgCCCGTCGTGTAGATAAC3’、配列番号14)を用いたPCRによって生成した。ここで、小文字は突然変異誘発を受けるヌクレオチドを示す。DDJdi006にはXh
oI部位が導入され、DDJdi004はbla遺伝子からMlyI部位が取り除かれている。
【0066】
断片F2は、pUC18の972〜1507bpから成り、プライマーDDJdi003(5’GTTATCTACACGACGGGcAGTCAGGCAACTATGGATG3’、配列番号15)及びDDJdi008(5’CCAACCCGGTAAGACAC3’、配列番号16)のプライマーを使用したPCRによって生成した。DDJdi003はDDJdi004と相補的であり、小文字は突然変異誘発を受けるヌクレオチドを示す。
【0067】
断片F3は、pUC18の1490〜1979bpから成り、プライマーDDJdi007(5’GTGTCTTACCGGGTTGGNNTCAAGACGATAGTTACCGGA3’、配列番号17)及びDDJdi009(5’cttcctcgctcatatgCTCGCTGCGCTCGGTCGTTCGGCTGC3’、配列番号18)のプライマーを使用したPCRによって生成した。DDJdi007は、pUC18の複製領域のpMB1 Ori起点におけるMlyI部位と対応する2つのランダム化ヌクレオチドを含んでいた(すなわち、それぞれの位置での任意のヌクレオチドは「N」で表す)。DDJdi009は、その5’末端に向かうNdeI認識部位を含んでいた。
【0068】
アガロースゲル電気泳動後に、断片F1、F2及びF3を単離精製した。末端プライマーとして、DDJdi006及びDDJdi009を使用して、単一のPCR反応においてそれぞれの断片を共にスプライシングして、断片F4を形成した。このPCR反応では68℃での伸長温度を120秒に延長した。アガロースゲル電気泳動後に、2005bpの生成物を単離精製した。推奨される条件下(0.1mg/mlのウシ血清アルブミン(BSA)の存在下、50mMのNaCl、10mMのTris−HCl(pH7.9)、10mMのMgCl2、1mMのジチオスレイトール(DTT))で、NdeI及びXhoIエンドヌクレアーゼによって断片F4を消化した。Qiagen Qiaquick(商標)PCR精製キットを使用して、制限消化混合物からDNAを精製した。
【0069】
断片F5は、新規のマルチクローニングサイト(MCS)を含み、pET22bのMCSに基づいている。68℃での伸長時間を60秒にしたことを除いて、標準的なPCR条件を使用して、鋳型としてプライマーpET−F(5’ATGCGTCCGGCGTAGAGGA3’、配列番号19)及びpET−R(5’GCTAGTTATTGCTCAGCGGTG3’、配列番号20)並びにpET24bを使用したPCRによって、断片F5を生成した。得られた351bpの生成物を精製して、NdeI及びXhoIで消化し、続いて、ゲル電気泳動後に単離精製した。
【0070】
製造業者によって推奨される条件下(30mMのTris−HCL(pH7.8)、10mMのMgCl2、10mMのDTT及び1mMのATP)で、3U/μlのT4 DNAリガーゼ(Promega Corp.)1μlを使用して、NdeI/XhoIで消化したF4及びF5断片を25℃で共にライゲーションした。ライゲーション混合物の1/10を使用して、Biorad Gene Pulser(商標)(Bio-Rad Laboratories, Hemel Hempstead, UK)を使用したエレクトロポレーションによって、大腸菌DH5α 50μlを形質転換した。エレクトロポレーションの直後に、細胞にSOC培地500μlを加えて、細胞を37℃で1時間インキュベートした。インキュベート後の、エレクトロポレーションした大腸菌DH5α細胞を約50μl及び約500μl、100μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天プレート上に広げ、37℃で一晩インキュベートした。断片F4及びF5の正確なライゲーションは、pNOMプラスミドの形成を意味する。
【0071】
100μg/mlのアンピシリンの存在下で成長することができる5つの別個の大腸菌
DH5αコロニーを選択して、100μg/mlのアンピシリンを含むLBブロス5mlに移し、この培養物を回転式振盪培養器で37℃で一晩インキュベートした。5つの培養物のうちの3つからプラスミドDNAを精製した。プラスミドDNAをNdeI又はMlyIによる制限分析にかけ、プラスミドの性質及び全てのMlyI部位が取り除かれていることを確認した。pNOMの供給源として1つのクローンが選択され、DDJdi003及びDDJdi009を使用し、PCRによってOri領域を増幅させることによって、DDJdi007におけるNNヌクレオチドによる突然変異を確認した。この領域のシークエンシングはできなかったが、MlyIによる制限分析によって、この領域がMlyI部位を有しないことを再確認した。pNOMのDNA配列を図1に示す。
【0072】
MuDelの構築
ランダムなトリプレットヌクレオチドの欠失の形成に使用するために、元のMuファージ由来のトランスポゾンであるmini−Mu(CamR−3)を改変した。ここでは、トランスポゾン内の選択マーカーとして、CamR遺伝子を使用する。このCamR遺伝子は、大腸菌又は任意の他の適当な生物の選択株に対し、特定の条件下において、その生物を生存可能にさせるか、又はその生物とトランスポゾン配列を含まない他の細胞とを差別化する特徴をその生物に示させる選択的利点を与える別の遺伝子と交換することができる。
【0073】
トリプレットヌクレオチドを欠失させる能力は、図3で概説されるように、トランスポゾンの挿入メカニズム及び2つの導入された制限部位の位置に依存する。特定の制限部位を標的遺伝子に挿入するための媒体として働くように、mini−Muトランスポゾンを改変した(図3A)。選択された制限エンドヌクレアーゼは、その認識配列の外側5bpを切断して平滑末端を形成する、IIS型酵素であるMlyIであった(切断プロファイル:5’GAGTC(N5)↓3’)。MlyI認識部位を、トランスポゾン挿入部位から1bp離れて位置させ、MuDelを形成させる(図3A)。2つの必要な点突然変異の両者が、MuA結合に関与するR1領域の外側に位置していることにより、トランスポゾン反応の効率に潜在的に影響を与え得るタンパク質−DNA相互作用に対する妨害を最小にできる。MuDelの転移は、標的DNAにおける5bpの互い違いの切断を介して生じ、その結果、大腸菌によるギャップ修復後にはこれらの5bpの重複がもたらされるであろう(図3B)。MlyIによるDNAの消化によって、両末端における4つの付加的なヌクレオチド塩基対と共にトランスポゾンが標的遺伝子から取り除かれる。2つの平滑末端の分子内ライゲーションによって、3つのヌクレオチドの、標的遺伝子からのインフレーム(in-frame)での欠失がもたらされる(図3B)。
【0074】
特に明記しない限り、全てのPCR反応は、Extensor Hi−Fidelity PCR酵素ミックスを用いて上記のように実施された。フォーワードプライマー及びリバースプライマーの両方として、オリゴヌクレオチドDDJdi005(5’GCTTAGATCTGActCGGCGCACGAAAAACGCGAAAG3’(配列番号21)、小文字は突然変異誘発を受けるヌクレオチドを示す)を使用し、鋳型として機能する原型のmini−Mu(CamR−3)トランスポゾン0.1ngを含むPCRによって、MuDelトランスポゾンを構築した。1322bpの生成物を精製し、37℃でBglIIによって消化した(反応条件:100mMのNaCl、50mMのTris HCl(pH7.9)、10mMのMgCl2、1mMのDTT)。アガロースゲル電気泳動後に消化したトランスポゾンを単離精製した。T4 DNAリガーゼを使用して、BglII消化pEntranceposon(CamR)にライゲーションすることによって、新規のトランスポゾンMuDelを示すDNAを再クローニングした。ライゲーション混合物の1/10を使用して、Biorad Gene Pulser(商標)を使用したエレクトロポレーションによって、大腸菌DH5α 50μlを形質転換した。エレクトロポレーションの直後に、細胞にSOC培地500μlを加えて、細胞を37℃で1
時間インキュベートした。インキュベーション後のエレクトロポレーションした大腸菌DH5α細胞を約50μl及び約500μl、20μg/mlのクロラムフェニコールを含むLB寒天プレート上に広げ、37℃で一晩インキュベートした。20μg/mlのクロラムフェニコールの存在下で成長できる6つの別個の大腸菌DH5αコロニーを20μg/mlのクロラムフェニコールを含む別のLB寒天プレート上にレプリカプレーティングした。熱安定性酵素としてTaq DNAポリメラーゼ、及びプライマーとしてpUC−F(5’AGCTGGCGAAAGGGGGATGTG3’、配列番号22)及びpUC−R(5’TTATGCTTCCGGCTCGTATGTTGTGT3’、配列番号23)を使用したPCR反応における鋳型DNAの供給源として、元のコロニーの一部を使用した。Taq DNAポリメラーゼに関する上記の条件を使用して、PCRを行った。PCR混合物は、10×反応緩衝液5μl(100mMのTris−HCl(pH9.0)、500mMのKCl、1%のTriton X−100)、25mMのMgCl2 3μl、20mMのdNTP 3μl、10μMのオリゴヌクレオチドプライマー1.5μl、適当な大腸菌コロニー、及び5U/μlのTaq DNAポリメラーゼ0.5μlを含んでいた。反応混合物を滅菌した分子生物学的品質の水で50μlに合わせた。反応混合物を以下の熱サイクル条件に供した。
ステップ1:94℃で3分間、その後Taq DNAポリメラーゼ0.5μlを添加
ステップ2:94℃で20秒間
ステップ3:55℃で20秒間
ステップ4:72℃で90秒間
さらに29回、ステップ2〜ステップ4を繰り返す
ステップ5:72℃で5分間。
【0075】
1504bpの生成物を精製し、37℃でMlyIによって消化して(反応条件:50mMの酢酸カリウム、20mMのTris−酢酸、10mMの酢酸マグネシウム、1mMのDTT(pH7.9)、100μg/mlのBSAを追加)、アガロースゲル電気泳動で分析することにより、MlyI認識配列の存在を確認した。MuDelトランスポゾンを含むコロニーを100μg/mlのアンピシリンを含むLBブロス5mlに移し、この培養物を回転式振盪器において37℃で一晩インキュベートし、プラスミドDNAを精製した。プライマーpUC−F及びpUC−Rを使用して、プラスミドDNAをシークエンシングすることによって、MuDelの配列を確認した。上記の条件下においてBglIIで消化することによって、プラスミドからMuDelトランスポゾンを放出させ、アガロースゲル電気泳動後に精製した。
【0076】
転移反応及び大腸菌細胞への形質転換
30℃で3時間、mini−Mu及びMuDelトランスポゾンによる転移を行い、その後75℃で10分間加熱して不活性化させた。反応混合物は、反応緩衝液2μl(125mMのTris−HCl(pH8.0)、125mMのMgCl2、50mMのNaCl、0.25%のTriton X−100、及び50%(v/v)のグリセロール)、0.22μg/mlのMuAトランスポザーゼ1μl、および以下に示すような、様々な量の標的DNA及びトランスポゾンから構成された。Finnzymes(HindIII部位にクローニングしたバクテリオファージλDNAの6.6kbpのHindIII断片を含むpUC19)及びpUC18によって供給された対照DNAの鋳型を使用して、MuDelを使用した転移反応の効率を試験した。ライブラリーの構築にpNOMプラスミドを使用した。360ng(対照DNA)又は100ng(pUC18又はpNOM)の標的プラスミドDNA、及びmini−Mu(CamR−3)(20ng)又はMuDel(20ng又は100ng)が、反応混合物中に存在していた。反応物を30℃で3時間放置した後、75℃で10分間加熱して不活性化させた。1μl又は2μlを使用して、エレクトロポレーションにより大腸菌DH5α細胞を形質転換した。20μg/mlのクロラムフェニコールを含むLB寒天上にこの細胞をプレーティングして、CamR
遺伝子、すなわちmini−Mu又はMuDelトランスポゾンを含む細胞を選択した。
【0077】
導入される突然変異が転移効率を損なうか否かを試験するために、標的DNA基質としてpUC18を使用した。mini−Muトランスポゾン(20ng)による転移反応は、転移反応混合物の1/10(2μl)を用いたエレクトロポレーションによる形質転換後に、20μg/mlのクロラムフェニコールプレート上で約99個の大腸菌DH5αコロニーが成長する結果をもたらした。mini−Muトランスポゾンを20ng又は100ngのMuDelで置き換えた結果、それぞれ約100個及び430個のコロニーが成長した。従って、驚くべきことに、トランスポゾンの末端で突然変異が導入されたにも関わらず、MuDelは、依然として転移反応の有効な基質として働く。
【0078】
このように、標的遺伝子内のランダムな位置でトリプレットヌクレオチドの欠失を形成させる方法の一般的な概要が図2に示される。TEM−1 β−ラクタマーゼは、いくつかのβ−ラクタム系抗生物質に対する耐性に関与する臨床的に重要な酵素であり、この酵素の突然変異が、新たなES β−ラクタムに対する耐性をもたらし得るため、標的としてTEM−1 β−ラクタマーゼをコードするbla遺伝子を選択した。活性型の変異体は大腸菌においてアンピシリンに対する耐性を付与し、細胞の成長を可能にするため、このことは簡単な選抜方法も提供する。新規のベクターであるpNOMがbla遺伝子の供給源として使用され、従って、MuDel挿入に関する標的DNAとして働く。
【0079】
上記の記載の別法として、pNOMとは無関係な対象遺伝子をトランスポゾンの挿入の標的として使用することができる。必要に応じて、トランスポゾンの挿入後に、標準的な手法を使用して、対象遺伝子をpNOM又は別の好適なベクターにクローニングすることができる。あるいは、対象の遺伝子へのトランスポゾンの挿入後、通常は生物中において修復される、トランスポゾン反応の結果として形成されるDNA鎖に存在するギャップを、適切なギャップ修復法及びライゲーション法を使用して、in vitroで修復することができる。
【0080】
MuDelのpNOMへの挿入の位置は、プラスミド全体にわたって均等に分布するはずなので、bla遺伝子領域に挿入されるMuDelを含む細胞を選択する方法が必要になる。MuDelトランスポゾンのプラスミドDNAへの転移により、大腸菌にクロラムフェニコール耐性が付与されるため、MuDelの挿入されたpNOMを含む細胞の選択が可能になる。bla遺伝子領域内に挿入されたMuDelを有するこれらのコロニーはTEM−1の発現が低下し、これにより細胞のアンピシリンの存在下で成長する能力が影響を受ける。
【0081】
トランスポゾンにより破壊されたbla遺伝子を有するコロニーの選択
大腸菌DH5αの転移混合物による形質転換後、20μg/mlのクロラムフェニコール存在下で成長する48個のコロニーを選択し、100μg/mlのアンピシリン及び20μg/mlのクロラムフェニコールの両者のLB寒天プレートに再びプレーティングした。48個のコロニーの中で、22個のコロニーがクロラムフェニコールのプレート上でのみ成長し、それらはこの領域に対するトランスポゾンの挿入により破壊されたbla遺伝子を有すると考えられ、したがってBLADELライブラリーの成員として選択された。MuDelトランスポゾンの存在を確認するために、Taq DNAポリメラーゼ(上記の方法)及びbla遺伝子に隣接するプライマーDDJdi010(5’TCCGCTCATGAGACAATAACCCTG3’、配列番号24)及びDDJdi011(5’CTACGGGGTCTGACGCTCAGTG3’、配列番号25)を使用して、22個のコロニーそれぞれに対してPCRを行った。
【0082】
制限分析及び挿入したトランスポゾンを包含するクローンの選択
PCR生成物を精製して、(これまでに記載された反応条件)MlyIで制限分析を行うことによって、トランスポゾンの様々な挿入位置を確認した(図4)。MlyIによる、直鎖PCR断片(pNOMのbla遺伝子領域のみを含む)の消化によって、MuDelトランスポゾン及びbla遺伝子(1310bp)の内の8bpが取り除かれ、MuDel挿入点によって長さが異なる2つの断片が生成する(図4A)。制限分析は、MuDelの挿入がランダムに起こり、トランスポゾンはこの領域にただ1つだけ挿入されたことを示した(図4B、レーン1〜8及び10〜16は、BLADELライブラリーの異なる成員を示し、レーン9は、φ174 DNA−HaeIII分子量ラダーである。アスタリスクで標識したバンドは、トランスポゾンに対応する)。それぞれのレーン由来の2つのより小さな断片の質量分析によって、2つの断片の大きさを足すと、PCR生成物からMuDelを除いたものにほぼ等しくなることを確認した。bla遺伝子内のトランスポゾンの位置を確定するプライマーとして、DDJdi010及びDDJdi011を使用して、22個のPCR生成物をシークエンシングした。配列分析によって、トランスポゾンの挿入がbla遺伝子内のランダムな位置で起こるという制限分析を確認し、その位置は図4Cで縦軸で示される。
【0083】
22個のコロニーのそれぞれからMuDelの挿入されたpNOMプラスミドを単離し、等量のプラスミドをそれぞれプールして、MlyIで制限消化した後に、アガロースゲル電気泳動を行った。アガロースゲル電気泳動後に、MuDelを除いた直鎖pNOMに対応するバンドを単離精製した。T4 DNAリガーゼ及び直鎖pNOM 約10ngを使用して、分子内ライゲーションを行った(上述の反応条件)。反応系を25℃で10分間、その後16℃で10時間放置した。ライゲーション混合物1μlによるエレクトロポレーションによって、大腸菌DH5α細胞を形質転換した。エレクトロポレーションの直後に、SOC培地500μlを細胞に加えて、細胞を37℃で1時間インキュベートした。インキュベーション後の形質転換した細胞系50μl及び500μlを15μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天プレート上にプレーティングした。プレートを37℃で一晩放置し、94BLADELライブラリー及び2つのpNOM含有コロニーを選択し、LB培地200μl及び15μg/mlのアンピシリンを含む96ディープウェル(deep-well)培養プレートに移した。細胞を強く振盪しながら、37℃で16時間成長させた。−80℃での保存用に10%(v/v)まで滅菌グリセロールを加えた。
【0084】
TEM−1 β−ラクタマーゼ活性に対する突然変異の影響
大腸菌の成長を妨げるアンピシリンの最小阻害濃度(MIC)を測定することによって、それぞれのコロニーのTEM−1 β−ラクタマーゼ活性をin vivoで測定した。96プロング(prong)複製フォークを使用して、50、100、500、2500、5000、7500又は10000μg/mlのAmpを含むNunc Omnitray(商標)プレート内のLB寒天上に96ウェルプレートにおけるコロニーをそれぞれ、レプリカプレーティングして、37℃で16時間インキュベートした。
【0085】
アンピシリンに対する元のコロニーそれぞれのMICを図5に示す。ここでは、行(A〜H)及び列(1〜12)を表示するのに使用された96ウェルマイクロプレートフォーマットによる、ライブラリーBLADELのそれぞれ選択された成員に対するアンピシリンMICの測定値を示す。ボックスの中の値は、500、2500、5000及び10000μg/mlのアンピシリンのMIC値、又は10000μg/mlを超えるアンピシリンのMIC値を示す。数字の後にXで印を付けられたボックスは、bla遺伝子配列情報を有する変異体を示す。全ての細胞は、50μg/ml及び100μg/mlのアンピシリンで成長した。14個の変異体は、MICが500μg/mlであり、これはTEM−1活性の低下を示していた。6つの変異体のみが2500μg/mlのMICを有しており、30個の変異体は5000μg/mlのMICを有していた。アンピシリンのMICが7500μg/mlである変異体はなく、15個の変異体の成長が10000μg/m
lのアンピシリンで阻害された。2つの野生型pNOM対照を含む残りの31個のコロニーは10000μg/mlのアンピシリンでも生存可能であった。このようなMIC値の広がりは、様々な3つのヌクレオチド塩基対の欠失突然変異がbla遺伝子に組み込まれ、TEM−1のin vivo活性に対して大きな影響を与えたことを示す。
【0086】
それぞれのアンピシリン濃度でのMICを示すいくつかのクローンを、プライマーDDJdi010及びDDJdi011並びにTaq DNAポリメラーゼを用いたPCRに供した。シークエンシングプライマーとして、DDJdi010及びDDJdi011を使用して、1067bpのPCR生成物をシークエンシングすることにより、トリプレットヌクレオチドの欠失位置を確認した。
【0087】
単一コドンに関するMuDelの挿入点により、欠失の性質が確定する。表1の第1列、第4列及び第5列に、3つの可能性が示される。全挿入の3分の1が、コドンの真の欠失を形成する。残りの3分の2においては、取り除かれる3つのヌクレオチド塩基対は2つのコドンと重複することになり、それにより二次的な点突然変異が引き起こされ得る。二次的な突然変異の性質は、周辺のDNA配列によって変わる。遺伝暗号の縮重のため、点突然変異のいくつかはサイレント突然変異になる一方で、それ以外は、アミノ酸の置換をもたらすことになろう。
【0088】
【表1】
【0089】
特定のアンピシリンのMICを示すクローンからいくつかのbla遺伝子を単離し、シークエンシングすることによって、アミノ酸の欠失位置及び任意の二次突然変異が起こったか否かを確認した。表2は、ライブラリーBLADELの活性型TEM−1変異体から単離した全ての異なる配列を示す。
【0090】
【表2】
【0091】
22個の可能な異なる突然変異の内の8個が、この選択基準において、TEM−1により耐性になっていると同定された。8個のうちの2つ(R83Δ及びR275Δ、Δは、欠失した残基を示す)は、真のコドンの欠失であった。3つの配列(T114Δ、G196Δ及びA217Δ)は、遺伝子レベルでは真の欠失を生成しなかったが、遺伝暗号の縮重のために、アミノ酸の置換は起こらなかった。3つの配列(P62Δ−E63Q、T114Δ−D115N及びE177Δ−R178D)は、二次的な突然変異を含んでいた。単一のコドンに関するMuDelの挿入点は、予想通り均等に分配される(2:3:3)(表2)。任意のシークエンシングした変異体について、他の突然変異は観察されず、野生型のTEM−1は検出されなかった。
【0092】
前記配列は、TEM−1の一次構造の全長にわたって散在し、in vivo活性における種々の影響を伴っていた。2つの突然変異、T114Δ及びT114Δ−D115Nは、2つのヌクレオチド塩基対のトランスポゾン挿入位置によってのみ分離された(表2)。
【0093】
前記配列とアンピシリンMICとの間には良好な相関関係があった(表3)。P62Δ−E63Q、R83Δ及びE177Δ−R176Dを含む変異体は、全て500μg/mlのMICを有していた。T114Δ変異体及びT114Δ−D115N変異体は、2500μg/ml及び5000μg/mlの値両方にわたり、それぞれの濃度で複数のクローンが同定された。R275Δ変異体は、欠失がへリックス内で生じるにもかかわらず、アンピシリンに対する比較的高いMICを有している(5000μg/ml)。A217Δ及びG196Δの両者で、in vivo活性に対する影響はほとんどなく、G196Δは大腸菌に対して、10000μg/mlのアンピシリンに対する耐性を依然として付与することができる。G196Δ TEM−1変異体を有する1つのクローンは、実際に10000μg/mlのアンピシリンのMICを示したが、そのようになった理由は不明である。というのは、G196Δ変異体に関する一般的な傾向(シークエンシングした7個のうちの6個;表3)では、この変異体を有する細胞は10000μg/mlのアンピ
シリン濃度で成長できることが示されているからである。
【0094】
【表3】
【0095】
<実施例2>
本実施例では、実施例1で概説されるトランスポゾンに基づく技術を用いて、対象の標的遺伝子のランダムな位置でのトリプレットヌクレオチドの挿入を含む変異体のライブラリーを形成する方法を例証する。本実施例は、改変mini−Muトランスポゾン及び新たに構築されたpNOMプラスミド、又はpNOMプラスミドの好適な誘導体を使用する。本実施例では、制限エンドヌクレアーゼMlyIはトリプレットヌクレオチドの挿入に必須であるが、当業者によって理解されるように、適当なステップが修正され、また必要に応じて追加のステップが加えられるならば、MlyIのものと同様の特性を有する他の制限エンドヌクレアーゼを使用することができる。
【0096】
本実施例は、実施例1及び図2で概説された手順に従う。図2では、本実施例に関しては、ギャップ及び灰色のブロックは挿入点を表す。主な違いは、mini−Muトランスポゾンに関する点である。ランダムなトリプレットヌクレオチドの挿入の形成を目的として、元のMuファージ由来のトランスポゾンであるmini−Mu(CamR−3)を改変する。ここでは、改変されたMuトランスポゾン内の選択マーカーとして、CamR遺
伝子を使用する。正しい要素がトランスポゾンの末端に存在して転移を可能にするならば、このCamR遺伝子を別の遺伝子と交換してもよい。そのような別の遺伝子は、大腸菌又は任意の他の生物の選択株に対して、特定の条件下において、その生物を生存可能にさせるか、又はその生物とトランスポゾン配列を含まない他の細胞とを差別化する特徴をその生物に示させる選択的利点を与える遺伝子である。
【0097】
MuInsとして知られる改変されたトランスポゾンはMlyI制限部位を含むが、その位置はトランスポゾン挿入部位から4ヌクレオチド塩基対離れた位置にシフトした(図3A)。トリプレットヌクレオチドの挿入に関するメカニズムは、実施例1のものと同様の経路に従い、図3Cで概説される。トランスポゾンの挿入は、大腸菌でのギャップ修復後に5bpの重複をもたらす(トランスポゾンからの4bpの突出部は取り除かれる)。MlyIの切断部位は認識配列から5bp離れているため、標的遺伝子の両末端から1bpが除去される結果になる。2つの末端のライゲーションによってこの遺伝子は再結合されるが、3つのヌクレオチド塩基対が付加される。挿入された3つのヌクレオチド塩基対は、図3Cにおいて太字で示される。単一コドンに関するMuInsの挿入点によって、挿入の性質が決定される。上記の表1の第1列、第2列、第3列で3つの可能性が示される。
【0098】
MuDelに関すると同じ様式でトランスポゾンが使用され、同様に取り扱われた。すなわち、標的遺伝子へのトランスポゾンの挿入、トランスポゾンが挿入された標的遺伝子の選択、制限消化によるトランスポゾンの除去、分子内ライゲーション、適当な生物への形質転換、トリプレットヌクレオチドの挿入を有する標的遺伝子変異体ライブラリーの選択又はスクリーニング、である。
【0099】
<実施例3>
本実施例は、実施例1で概説されるトランスポゾンに基づく技術を使用して、対象の標的遺伝子のランダム位置でトリプレットヌクレオチドの置換を有する変異体のライブラリーを形成する方法を示している。本実施例は、MuDelトランスポゾン(実施例1で概説される)及び新たに構築されたpNOMプラスミド、又はpNOMプラスミドの好適な誘導体を使用する。本実施例では、制限エンドヌクレアーゼMlyIはトリプレットヌクレオチドの置換に必須であるが、当業者によって理解されるように、適当なステップが改変され、また必要に応じて追加のステップが加えられるならば、MlyIのものと同様の特性を有する他の制限エンドヌクレアーゼを使用することができる。
【0100】
本実施例は、図6で概説される手順に従い、実施例1で概説される手順と同様である。pNOM及びMuDelの両者は実施例1で概説されると同様である。実施例1と同じ様式でMuDelが使用され、同様に取り扱われた。標的遺伝子へのトランスポゾンの挿入、トランスポゾンが挿入された標的遺伝子の選択、制限消化によるトランスポゾンの除去、である。図6で概説されるように、分子内ライゲーションが分子間ライゲーションに置き換えられるという点で、次の段階は実施例1とは異なる。ステップ3では、分子内ライゲーションが人工のDNA配列の分子間ライゲーションと置き換えられる(例えばSubSeq、図7参照)。人工のDNA配列内及び単離され、MlyIで消化されたプラスミドDNA内に存在する選択マーカーを使用するために、人工のDNA配列を含む標的DNA配列が選択される(図6のステップ4)。分子内ライゲーションは、3つのヌクレオチド塩基対が置換されたbla遺伝子の再形成をもたらす(ステップ5)。得られるライブラリーを選択又はスクリーニングして、必要な特性を有するこれらの変異体を選択する。
【0101】
図6において、斜線ブロックはトランスポゾン、黒色のブロックは標的遺伝子、斑のブロックは人工のDNA配列、灰色のブロックは置換点、そして太い点線は残りのプラスミド骨格を示す。図7Aに示される特性を有するDNA要素を含むように、標準的なDNA
ライゲーション法を使用して、新たなDNA配列を挿入した。図7Aでは、DNA配列の2つの異なる末端をTERM−1及びTERM−2とした。TERM−2の最後の3つのヌクレオチド塩基対は、決定されたトリプレット配列、又は、完全にランダムな(それぞれの位置が4つの可能性のあるヌクレオチドを有し得る)若しくは半分ランダムな(いくつかの位置では許容されるヌクレオチドに制限があってもよい)トリプレット配列であり得る。選択マーカーをコードする遺伝子がTERM−1とTERM−2との間に配置される。使用されるメカニズムを図7Bで概説する。MuDelトランスポゾンの挿入が、大腸菌でのギャップ修復後の5bpの重複をもたらす。MlyIの切断部位は、認識配列から1bp離れており、標的遺伝子の両末端で4bpの除去をもたらし、標的遺伝子から3つのヌクレオチド塩基対の同等物を欠失させる。SubSeq DNAを切断点で標的遺伝子にライゲーションし、形質転換後に、選択マーカーを使用して、挿入されたSubSeqを有する標的遺伝子を選択する。SubSeqを挿入した標的遺伝子のMlyIによる消化によって、TERM−2における最後の3つのヌクレオチド塩基対以外のSubSeq DNAの除去がもたらされる。分子内ライゲーションによって、標的遺伝子の再形成がもたらされるが、3つのヌクレオチド塩基対が置き換えられる。置換された3つのヌクレオチド塩基対を太字で示す。
【0102】
SubSeqの作製
図7で示されるDNA要素(以降、SubSeqと称する)は、2つのMlyI部位を含むが、当業者によって理解されるように、適当なステップが改変され、また必要に応じて追加のステップが加えられるならば、MlyIのものと同様の特性を有する他の制限エンドヌクレアーゼを使用することができる。1つのMlyI部位が(これ以降TERM−1と称する)DNA配列の1つの末端から5bpに配置され、もう1つのMlyI部位が(これ以降TERM−2と称する)もう1つの末端から8bp離れて配置された。適切な選択マーカー遺伝子が2つのMlyI部位を連結し、該選択マーカー遺伝子は、大腸菌又は任意の他の適当な生物の選択株に対して、特定の条件下において、その生物を生存可能にさせるか、又はその生物とSubSeq DNA要素を含まない他の細胞とを差別化する特徴をその生物に示させる選択的利点を与える。TERM−2の最後の3つのヌクレオチド塩基対は、決定されたトリプレット配列、又は、完全にランダム(それぞれの位置が4つの可能性のあるヌクレオチドを有し得る)若しくは半分ランダム(いくつかの位置では許容されるヌクレオチドに制限があってもよい)であり得る。
【0103】
特に明記しない限り、Extensor Hi−Fidelity PCR Enzymeミックスを用いて、上記のように全てのPCR反応を行った。鋳型として働く元のmini−Mu(CamR−3)トランスポゾン0.1ngと共に、オリゴヌクレオチドプライマーDDJdi017(5’Phos−CGACCGAcTcAATACCTGTGACGGAAGATC3’(配列番号47);「Phos」は、リン酸化したヌクレオチドを示す)及びDDJdi018(5’Phos−NNNAACTGGaCTCAGGCATTTGAGAAGCACAC3’(配列番号48);「Phos」はリン酸化したヌクレオチドを示し、「N」は任意のヌクレオチドを示す)をフォワードプライマー及びリバースプライマーとして使用したPCRによって、SubSeq DNA要素を構築し、SubSeqを作製した。1095bpのPCR産物を精製した。
【0104】
アミノ酸置換ライブラリーの作製及びシークエンシング
実施例1で作製されたものに基づく拡張ライブラリーを本実施例で使用した。この拡張ライブラリーは、bla遺伝子内に挿入されたMuDelを有する最大176個のクローンを含んでいた。pNOMのbla遺伝子内のMuDelを含むコロニーをプールし、実施例1で概説されるように、プラスミドDNAを単離した。精製したプラスミドライブラリーをMlyIで切断し、実施例1で概説されるようにアガロースゲル電気泳動後にMuDelを除去した直鎖pNOMプラスミドを単離精製した。プラスミドDNAを、アガロ
ースゲル電気泳動に先立って、仔ウシ腸アルカリホスファターゼ(NEBioLabs)を使用して脱リン酸化した。
【0105】
上記で概説されるように作製したSubSeq DNA配列(50ng)をT4 DNAリガーゼを使用して、MlyI消化pNOM(約30ng)にライゲーションした。ライゲーションミックスを最大2μl使用して、エレクトロポレーションによって大腸菌DH5α細胞を形質転換した。この細胞を20μg/mlのクロラムフェニコールLB寒天プレートにプレーティングして、pNOMのbla遺伝子内に挿入されたSubSeqを含む細胞を選択した。クロラムフェニコールLB寒天プレートからランダムに192個のコロニーを選択し、20μg/mlのクロラムフェニコールLBブロスを含む96ディープウェル培養プレートで成長させた。それぞれのウェルから等量を取り出し、共にプールした。
【0106】
実施例1で概説されるように、細胞からSubSeq含有pNOMライブラリーを精製した。上記で概説されるように、約2μgのライブラリーをMlyIで消化した。この消化によりSubSeqが除去され、この手順のはじめにMuDelの除去の際に欠失した3bpの野生型bla遺伝子の置き換えをもたらした。アガロースゲル電気泳動後に直鎖pNOM(2115bp)に対応するバンドを単離精製した。
【0107】
直鎖pNOMプラスミドのライブラリー(10ng)は、T4 DNAリガーゼを(上記のように)使用した分子内ライゲーションさせて、プラスミドの末端を再結合させ、BLASUBライブラリーが構築された。ライゲーション混合物の10分の1を使用し、DH5αを形質転換した。この細胞を15μg/mlのアンピシリンLB寒天プレート上でプレーティングして、活性型TEM−1β−ラクタマーゼ変異体を選択した。同プレート上で1000個を超えるコロニーが成長した。
【0108】
実施例1で概説されるように、15μg/mlのアンピシリン上で成長することができるコロニーを幾つかランダムに選択して、プライマーDDJdi010及びDDJdi011を使用し、Taq DNAポリメラーゼを使用したPCRを行った。予想通り、この生成物それぞれの大きさは1070bpであった。プライマーとしてオリゴヌクレオチドDDJdi010を使用して、PCRによって生成されたDNAを精製し、シークエンシングした。突然変異体の正確な性質を表4に示す。このデータは、このトランスポゾンに基づく技術を使用して、アミノ酸置換をタンパク質のランダムな位置に組み込むことができることを示している。
【0109】
【表4】
【0110】
<実施例4>
本実施例は、実施例3の発展であり、SubSeqDNA配列内にさらなる特徴を組み込む。実施例4は、記載される違いを除いて、実施例3で概説されるものと同じステップに従う。主な違いは、SubSeq DNA要素の性質である。
【0111】
実施例3に対するこの別形態においては、TERM−1及び/又はTERM−2でのMlyI部位をSubSeq配列内に移動させた。適当な位置にMlyI配列を移動させることにより、
(i) 別のトリプレットヌクレオチド又は複数のトリプレットヌクレオチドのさらなる欠失、
(ii) トリプレット(3)ヌクレオチド配列の四重項(quadruplet)(4)ヌクレオチド配列による置換、及び
(iii) 別のトリプレットヌクレオチド又は複数のトリプレットヌクレオチドのさらなる挿入
が生じ得る。
【0112】
<実施例5>
本実施例は、実施例1で概説されるトランスポゾンに基づく技術を使用して、対象の標的タンパク質のランダムな位置へのアミノ酸配列(例えば、全タンパク質、タンパク質ドメイン又はタンパク質ドメインの(エピトープ等の)断片)の挿入を含む変異体のライブラリーを形成する方法を示している。本実施例は、MuDelトランスポゾン(実施例1)及び新たに構築されたpNOMプラスミド、又はpNOMプラスミドの好適な誘導体を使用する。当業者に理解されるように、この処理に適当な改変を加えることにより、本明細書に記載される他のトランスポゾンもこの手順に使用することができる。本実施例では、制限エンドヌクレアーゼMlyIはドメイン挿入に必須であるが、当業者によって理解されるように、適当なステップが改変され、また必要に応じて追加のステップが加えられるならば、MlyIのものと同様の特性を有する他の制限エンドヌクレアーゼを使用する
ことができる。
【0113】
本実施例は、図8で概説される手順に従い、実施例1で概説される手順と同様のものである。前述のように、この手順は4つの主なステップを含む。
ステップ1:MuDelトランスポゾン(図8の斜線ブロック)を標的プラスミド又は標的遺伝子に挿入する。
ステップ2:選択マーカー遺伝子の特性を利用して、プラスミドに組み込まれたMuDelを含む細胞を選択する。プラスミドを単離し、プールして、MlyI消化によってトランスポゾンを取り除く。
ステップ3:DNA配列(図8の白色ブロック)を標的遺伝子に挿入する。この場合、挿入されるDNAは、タンパク質シトクロームb562をコードするcybC遺伝子(これ以降cyt bと称する)である。
ステップ4:ライブラリーを所望の特性を有するキメラ遺伝子によってコードされるタンパク質を同定するに適切な選択又はスクリーニングステップに供する。
【0114】
pNOM及びMuDelの両者が、これまでの実施例に概説されるものと同一である。実施例1及び実施例3と同じ様式でMuDelを使用し、同様に取り扱った。すなわち、標的遺伝子へのトランスポゾンの挿入、トランスポゾンが挿入された標的遺伝子の選択、制限消化によるトランスポゾンの除去、である。
【0115】
本実施例で使用したpNOMのbla遺伝子内に挿入されたMuDelのライブラリーは、実施例3で使用したものと同一である。MuDelを除いた直鎖脱リン酸化pNOMの生成は、実施例3で概説されるものと全く同じである。
【0116】
Cyt b挿入の構築
cyt bをコードするcybC遺伝子の3つの異なるバージョンを作製した。実施例1で概説されるように、トランスポゾンを1つのコドンに対して3つの異なる位置に挿入することができる。トランスポゾン除去後に導入される単一の切断点が、単一のコドンに対して3つの異なる位置に生じ得るので、cybC遺伝子挿入に対して、オープンリーディングフレーム(ORF)のみを使用した場合、フレームシフトによってライブラリーの3分の2は重複することになろう。したがって、全ての3つのORFのサンプリングを可能にするため、さらなる塩基を両末端に加えたcybCの2つのさらなるバージョンを使用した。これらは、3つの別々のライブラリーを構築した。さらに、TEM−1をcyt
bの挿入に対して耐性とするために、一方又は両方の結合点には短いリンカーが必要かもしれない。したがって、cybCのORFの各々のバージョンは、遺伝子の一方の末端又は両方の末端で、以下に列挙されるプライマーオリゴヌクレオチドでコードされたリンカーを有するcyt bあるいはリンカー配列を有さないcyt bのいずれかをコードする4つの異なる配列から構成されていた。
【0117】
特に明記しない限り、Extensor Hi−Fidelity PCR酵素ミックス及び供給される緩衝液を用いて、上記で概説されるように全てのPCR反応を行った。以下のように、鋳型としてcybC遺伝子を使用したPCRを使用して、cybC遺伝子(ORFI、ORFII及びORFIII)のORFライブラリーそれぞれを構築した。ORFI:フォワードプライマーDDJlacB005(5’GCAGATCTTGAAGACAATATGGA3’、配列番号69)、DDJdi023(5’ggcggtagcGCAGATCTTGAAGACAATATGGA(配列番号70)、小文字は結合領域をコードするヌクレオチドを示す)、並びにリバースプライマーDDJlacB006(5’CCTATACTTCTGGTGATAGGCGT、配列番号71)及びDDJdi024(5’gctgccaccCCTATACTTCTGGTGATAGGCGT(配列番号72)、小文字は結合領域をコードするヌクレオチドを示す)。
ORFII:フォワードプライマーDDJdi019(5’CGCAGATCTTGAAGACAATATGGA3’(配列番号73)、下線を付したヌクレオチドはORFを維持するために使用される追加のヌクレオチドである)及びDDJdi025(5’CggcggtagcGCAGATCTTGAAGACAATATGGA3’(配列番号74)、下線のヌクレオチドはORFを維持するのに使用される追加のヌクレオチドであり、小文字は結合領域をコードするヌクレオチドを示す)、並びにリバースプライマーDDJdi020(5’CTATACTTCTGGTGATAGGCGT3’、配列番号75)及びDDJdi026(5’ctgccaccCCTATACTTCTGGTGATAGGCGT3’(配列番号76)、小文字は結合領域をコードするヌクレオチドを示す);
ORFIII:フォワードプライマーDDJdi021(5’CTGCAGATCTTGAAGACAATATGGA3’(配列番号77)、下線のヌクレオチドはORFを維持するのに使用される追加のヌクレオチドである)及びDDJdi027(5’CTggcggtagcGCAGATCTTGAAGACAATATGGA3’(配列番号78)、下線を付したヌクレオチドはORFを維持するために使用される追加のヌクレオチドであり、小文字は結合領域をコードするヌクレオチドを示す)、並びにリバースプライマーDDJdi022(5’TATACTTCTGGTGATAGGCGT3’、配列番号79)及びDDJdi028(5’tgccaccCCTATACTTCTGGTGATAGGCGT3’(配列番号80)、小文字は結合領域をコードするヌクレオチドを示す)。
【0118】
318〜336bpの生成物を精製し、T4 DNAリガーゼ(NE Biolabs)反応緩衝液中で20単位のT4ポリヌクレオチドキナーゼを使用して、PCR産物に5’リン酸基を付加した。
【0119】
cybC挿入ライブラリーの作製及びシークエンシング
次の段階は実施例1とは異なり、図8で概説されるように、分子内ライゲーションが分子間ライゲーションに置き換えられるという点で、実施例3により密接に従う。SubSeqがbla遺伝子のランダムな位置に挿入される代わりに、実施例3と同様に、cybCのORFライブラリーが挿入される。ここではcybCが挿入されるが、全遺伝子、タンパク質ドメインと同等の遺伝子断片、全タンパク質の部分的アミノ酸配列と同等の遺伝子断片、若しくはタンパク質のドメインのいずれかをコードする任意のDNA要素(例えばエピトープ)、又は任意の他のアミノ酸配列を使用してもよい。
【0120】
実施例1で作製されたものに基づく、実施例3で使用された拡張ライブラリーもまた本実施例で使用された。この拡張ライブラリーは、bla遺伝子内に挿入されたMuDelを有する最大176個のクローンを含んでいた。pNOMのbla遺伝子内にMuDelを含むコロニーをプールし、実施例1で概説されるように、プラスミドDNAを単離した。精製したプラスミドライブラリーをMlyIで切断し、実施例1で概説されるようなアガロースゲル電気泳動後に、MuDelが除かれた直鎖pNOMプラスミドを単離精製した。アガロースゲル電気泳動に先立って、仔ウシ腸アルカリホスファターゼを使用して、プラスミドDNAを脱リン酸化した。
【0121】
上記で作製したcybCの3つのORFライブラリー(50ng)をT4 DNAリガーゼを使用して、MlyI消化pNOM(約30ng)に別々にライゲーションした。最大2μlのそれぞれの反応物のライゲーションミックスを使用して、エレクトロポレーションによって大腸菌DH5α細胞を形質転換した。この細胞を15μg/mlのアンピシリンLB寒天プレート上にプレーティングし、活性型キメラcyt b−TEM−1タンパク質を含む細胞を選択した。対照プレート上で成長したのは8個のコロニーのみであったが(ORFライブラリー挿入物を含まないライゲーションで形質転換された細胞)、その一方で、45個、130個及び150個のコロニーがそれぞれORFI、ORFII及びORFIIIのcybCライブラリーを意味するプレート上で成長した。
【0122】
実施例1で概説されるように、プライマーDDJdi010及びDDJdi011を使用して、それぞれORFI、ORFII及びORFIIIを意味するプレートからの10個、15個及び10個のランダムに選択されたコロニーについて、Taq DNAポリメラーゼを使用したPCRを行った。生成物の大きさは1300bp〜1600bpの範囲であった。PCRによって生成されたDNAを精製し、プライマーとしてオリゴヌクレオチドDDJdi010を使用してシークエンシングした。突然変異体の正確な性質を表5に示す。いくつかのキメラは、bla遺伝子の同じ位置に直列に挿入された2つのcybC遺伝子を含んでいた。このデータは、このトランスポゾンに基づく技術を使用して、ドメイン挿入物をタンパク質のランダムな位置に組み込むことができることを示している。
【0123】
【表5】
【0124】
本実施例で概説される方法が、上記の「背景技術」のセクションで概説されるような分子スイッチを生成するようにドメイン挿入物を作製するためのツールとして利用できることを、当業者は理解するだろう。
【0125】
<実施例6>
本実施例は、前述の実施例に記載されたMuInsトランスポゾンの代替物を記載している。MuInsを含むこれまでのそれぞれの実施例において、スキームにおけるMuInsを以下に記載される新たなトランスポゾン配列によって置き換えるとともに、転移を生じさせる手順を適切に改変する。
【0126】
第1の例において、Devine及びBoeke(Nucleic Acid Res.(1994) 22 3765-3772)によって記載されるAT−2トランスポゾンを図9Aに示すように改変した。AT−2トランスポゾンは、mini−Muと同様の特徴を示し、in vitroで効率的な転移を行うことができる。主な違いは、トランスポザーゼ認識部位が、末端の4つのヌクレオチド塩基対のみから構成されるということである。この配列の後に直接MlyI認識部位を配置することにより、転移の効率を低下させることなく、図9Bで概説されるメカニズムにより、挿入突然変異を進行させることが可能である(挿入したヌクレオチドを太字で示す)。選択マーカーは、図9Aで示されるように2つの末端の間のトランスポゾン内に存在する。Ty1インテグラーゼによって同定されるU3配列を示す。選択マーカーをコードする遺伝子は、2つの末端のU3配列及びMlyI認識配列の間に存在するであろう。選択マーカーは、大腸菌又は任意の他の適当な生物の選択株に対して、特定の条件下で、その生物を生存可能にさせるか、又はその生物とトランスポゾン配列を含まない他の細胞とを差別化する特徴をその生物に示させる、選択的利点を与える遺伝子である。
【0127】
第2の例においては、図10Aに示されるように、Goryshin及びReznikoff(J. Biol. Chem. (1998) 273 7367-7374)に記載されるTn5トランスポゾンを改変してMuInsトランスポゾンを置き換えた。Tn5InsOEはOE(外部末端)要素を含み、Tn5InsMEはME(モザイク末端)要素を含む。これらの要素は、これらの間に位置するDNA配列の転移を促進することができる。それぞれの場合において、選択マーカー遺伝子は、2つのOE又はME要素の間に位置している。選択マーカーは、大腸菌又は任意の他の好適な生物の選択株に対し、特定の条件下で、その生物を生存可能にさせるか、又はその生物とトランスポゾン配列を含まない他の細胞とを差別化する特徴をその生物に示させる、選択的利点を与える遺伝子である。ヌクレオチド配列の改変を含むOE又はME要素の任意の修正版を利用することができるが、その配列が必要な位置にMlyI配列を依然として含み、そのDNAが依然トランスポゾンとして働くことができることが条件となる。
【0128】
Tn5InsOE又はTn5InsMEを使用する場合の、トリプレットヌクレオチドの挿入が起こるメカニズムを図10Bに示す。挿入されたヌクレオチドを太字で示す。Mu及びAT−2とは異なり、Tn5転移は、9つのヌクレオチドの互い違いの切断を介して生じる。MlyI認識配列は、各末端から2ヌクレオチド塩基対離れて配置され、MlyI消化後の分子内ライゲーションの際に3つのヌクレオチド塩基対の正確な挿入を可能にする。
【0129】
<実施例7>
本実施例は、図10で示されるように、Tn5トランスポゾンに基づく改変された認識部位を含む改変されたトランスポゾンを利用するトランスポゾンに基づく技術を使用して、bla遺伝子のランダムな位置におけるトリプレットヌクレオチドの付加を含む変異体のライブラリーを作製する方法を示している。クロラムフェニコール耐性遺伝子が、選択マーカーとして挙げられる。本実施例は、Tn5InsOE及びTn5InsMEと名付けられた2つの新規のトランスポゾン及びpNOMプラスミドを使用するが、pNOMの他の好適な誘導体を使用してもよい。本実施例では、制限エンドヌクレアーゼMlyIは、トリプレットヌクレオチドの挿入に必須であるが、当業者によって理解されるように、適当なステップを改変し、また必要に応じて追加のステップが加えられれば、MlyIのものと同様の特性を有する制限エンドヌクレアーゼを使用することができる。
【0130】
本実施例は、実施例1及び図2で概説される手順に従う。主な違いは、使用されるトランスポゾンに関するものである。要約すると、この手順は、4つの主なステップから成る。
ステップ1:Tn5InsOE又はTn5InsMEトランスポゾンを標的プラスミド又は標的遺伝子に挿入する。
ステップ2:プラスミドに組み込まれたTn5InsOE又はTn5InsMEを含む細胞はCamR遺伝子を含み、従ってクロラムフェニコールの存在下で成長することができる。プラスミドを単離し、プールして、MlyI消化によってトランスポゾンを取り除く。
ステップ3:分子内ライゲーションにより、ヌクレオチド塩基対が追加された標的遺伝子の再形成がもたらされる。
ステップ4:得られたライブラリーを選択又はスクリーニングして、必要な特性を有する変異体を選択する。
【0131】
図2においては、斜線ブロックはトランスポゾンを示し、黒色のブロックはbla遺伝子を示し、間隙及び灰色のブロックは挿入点を示し、太い点線は残りのプラスミド骨格を示す。
【0132】
この処理をbla遺伝子以外の標的遺伝子に適用することもできるが、その際の条件は、
1.標的遺伝子によってコードされるタンパク質に適した図2のステップ4の選択又はスクリーニングのステップに対して適切な改変が為されること、及び
2.好ましくない制限部位が全く存在しないか、又は標的遺伝子から取り除かれること、である。
【0133】
新たに構築したpNOMプラスミド(実施例1を参照)と共に、Tn5由来の配列を含む修飾したmini−Muトランスポゾンを使用する本実施例を、これより詳細に記載する。得られたトランスポゾンDNAは、Tn5由来の転移反応に要求される配列(例えばトランスポザーゼ酵素によって認識されるOE又はME配列)以外はmini−Muに由来する。本実施例では、制限エンドヌクレアーゼMlyIはトリプレットヌクレオチドの挿入に必須であるが、当業者によって理解されるように、適当なステップが改変され、また必要に応じて追加のステップが加えられる場合、MlyIのものと同様の特性を有する他の制限エンドヌクレアーゼを使用することができる。同様に、OE又はME配列の間のDNA配列が適切な選択マーカーに対する配列を含んでいることを条件に、このOE又はME配列の間のDNA配列を変えることができる。
【0134】
Tn5InsOE及びTn5InsMEの構築
ランダムなトリプレットヌクレオチドの付加の作製に使用するため、元のMuファージ由来のトランスポゾンであるmini−Mu(CamR)を改変した。ここでは、トランスポゾン内の選択マーカーとして、CamR遺伝子を使用する。このCamR遺伝子は、大腸菌又は任意の他の適当な生物の選択株に対して、特定の条件下で、その生物を生存可能にさせるか、又はその生物とトランスポゾン配列を含まない他の細胞とを差別化する特徴をその生物に示させる、選択的利点を与える別の遺伝子と交換することができる。
【0135】
トリプレットヌクレオチドを重複させる能力は、図10で概説されるように、トランスポゾンの挿入メカニズム及び2つの導入された制限部位の位置に依存する。特定の制限部位を標的遺伝子に挿入するための媒体として機能するように、mini−Muトランスポゾンを改変した(図3A)。選択された制限エンドヌクレアーゼは、その認識配列の外側の5bpを切断し、平滑末端を形成するIIS型酵素であるMlyIであった(切断プロファイル5’GAGTC(N5)↓3’)。Tn5トランスポゾン由来の外側の末端(OE)又はモザイク末端(ME)配列に基づく配列によって、mini−Muの2つの末端に向かうヌクレオチド配列を置き換えた。次に、この新たなヌクレオチド配列を標的DNAに挿入するためにTn5トランスポザーゼが必要になる。Tn5Insの転移は、標的
DNAにおける9bpの互い違いの切断を介して生じ、大腸菌でのギャップの修復に続いて、これらの9bpの重複がもたらされる(図10B)。MlyIによるDNAの消化は、標的遺伝子の両末端の3つの付加的ヌクレオチド塩基対と共にトランスポゾンを除去する。2つの平滑末端の分子内ライゲーションは、標的遺伝子由来の3つのヌクレオチドのインフレームでの重複をもたらす(図10B)。
【0136】
特に明記しない限り、Extensor Hi−Fidelity PCR酵素ミックスを用いて、上記のように全てのPCR反応を行った。Tn5Insトランスポゾンは、フォワードプライマー及びリバースプライマーの両者として、オリゴヌクレオチドプライマーAS1(5’CTGACTCTTATACACAAGTCGCGAAAGCGTTTCACGATA3’、配列番号89)又はAS2(5’CTGAGTCTTATACACATCTCGCGAAAGCGTTTCACGATA3’、配列番号90)を使用したPCRによって、鋳型として働く元のmini−Mu(CamR−3)トランスポゾン0.1ngを用いて構築され、それぞれトランスポゾンTn5InsOE及びTn5InsMEを生成した。いつでも転移反応に使用できるように1302bpの生成物を精製した。
【0137】
転移反応及び大腸菌細胞への形質転換
Tn5InsOE及びTn5InsMEを用いた転移を37℃で2時間行った後に、70℃で10分間過熱して不活性化させた。反応混合物は、全量10μlの10×反応緩衝液(500mMのTris−酢酸(pH7.5)、1.5Mの酢酸カリウム、100mMの酢酸マグネシウム、40mMのスペルミジン)1μl、200ngのpNOM、0.232pmolのTn5Ins及び1単位のEZ−Tn5(商標)トランスポザーゼ(Epicentre, Madison USA)で構成されていた。70℃で10分間のインキュベーションに先立って1μlの停止溶液(1%のSDS)を添加し、反応を停止させた。
【0138】
1μl又は2μlの反応混合物を使用して、エレクトロポレーションにより大腸菌DH5α細胞を形質転換した。この細胞を20μg/mlのクロラムフェニコールを含むLB寒天上にプレーティングして、CamR遺伝子、したがってTn5Ins遺伝子を含む細胞を選択した。
【0139】
上記のように、標的遺伝子内のランダムな位置でトリプレットヌクレオチドの挿入を作製する方法の一般的な概要を図2に示す。前述のように、TEM−1 β−ラクタマーゼをコードするbla遺伝子を標的として選択した。bla遺伝子の供給源として、新規のベクターであるpNOMを使用し、その結果Tn5Ins挿入に関する標的DNAとして働く。
【0140】
上記の記述の代案として、pNOMとは無関係の対象遺伝子をトランスポゾン挿入の標的として使用することができる。必要に応じて、トランスポゾンの挿入後に標準的な技法を使用して、対象遺伝子をpNOM又は別の好適なベクターにクローン化することができる。あるいは、対象遺伝子へのトランスポゾン挿入後に、通常は生物中で修復される転移反応の結果として形成されたDNA鎖に存在するギャップを、適切なギャップ修復及びライゲーション法を使用して、in vitroで修復してもよい。
【0141】
pNOMへのTn5InsOE又はTn5InsMEの挿入場所は、プラスミド全体にわたって均等に分配されるはずなので、bla遺伝子領域に挿入されたトランスポゾンを含む細胞を選択する方法が要求される。プラスミドDNAへのトランスポゾンの転移は、大腸菌に対してクロラムフェニコールに対する耐性を与え、Tn5InsOEあるいはTn5InsMEが挿入されたpNOMを含む細胞の選択を可能にする。Tn5InsOE又はTn5InsMEがbla遺伝子領域内に挿入されたこれらのコロニーは、TEM−1発現が低下し、したがってアンピシリンの存在下で成長させる細胞の能力に影響を与え
ることになる。
【0142】
トランスポゾンにより破壊されたbla遺伝子を有するコロニーの選択
転移反応物1μlを用いた大腸菌DH5αの形質転換、及び20μg/mlのクロラムフェニコール上への形質転換混合物の2分の1のプレーティング後、Tn5InsMEを使用した場合には200個を超えるコロニーが観察され、Tn5InsOEを使用した場合には20個のコロニーが観察された。これ以降は、Tn5InsMEを用いて作製されたライブラリーを利用した。bla遺伝子に関して挿入されたTn5InsMEトランスポゾンを選択するために、20μg/mlのクロラムフェニコール上で成長する96個のコロニーを選択し、それらを100μg/mlのアンピシリンと20μg/mlのクロラムフェニコールLB寒天プレートの両者に再びプレーティングした。96個のコロニーのうち、66個はクロラムフェニコール上でのみ成長し、この領域におけるトランスポゾン挿入によってbla遺伝子が破壊されていると思われた。
【0143】
bla遺伝子内に挿入されたTN5InsMEを有するpNOMプラスミドを、66個のコロニーのうち10個から別々に精製した。それぞれのプラスミドをMlyIで消化した後、アガロースゲル電気泳動を行った。アガロースゲル電気泳動後、Tn5InsMEを除去した直鎖pNOMに対応するバンドを単離精製した。T4 DNAリガーゼ及び約10ngの直鎖DNAを使用して、分子内ライゲーションを行った。最大2μlのライゲーションミックスを使用して、エレクトロポレーションにより大腸菌DH5α細胞を形質転換し、この細胞を15μg/mlのアンピシリンLB寒天プレート上にプレーティングして、活性型TEM−1 β−ラクタマーゼを含む細胞を選択した。プライマーDDJdi010を使用し、個々のプラスミドそれぞれにおけるbla遺伝子のシークエンシングも行い、挿入の性質を確定した。これらの配列を以下の表6に示す。アミノ酸の重複は、TEM−1全体にわたって存在することが見出された。1つの配列のみは、1以上のクローンにおいて2回表れた。このことにより、対象標的遺伝子にアミノ酸の挿入を組み込むための、トランスポゾンに基づく方法の利用法が成功裏に実証される。
【0144】
【表6】
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】pNOMのDNA配列(配列番号100)を示す図である。
【図2】トリプレットヌクレオチドの欠失−挿入突然変異導入法の概要を示す図である。
【図3】Aは、改変されたMuDel及びMuInsトランスポゾンの末端の配列を示す。Bは、3つのヌクレオチド塩基対の欠失の導入に関するメカニズムを示し、Cは3つのヌクレオチド塩基対の挿入の導入に関するメカニズムを示す。
【図4】トランスポゾン挿入のランダム性を決定するためのMlyIを用いたライブラリーBLADELの分析を示す図である。(A)は制限分析の手順を図解し、(B)は22個のBLADELライブラリー成員の内の15個の制限分析を示す(アスタリスクを付されたバンドはトランスポゾンに対応する)。(C)は、DNAシークエンシングによって測定された、BLADELライブラリーの22個の成員におけるトランスポゾン挿入点の位置を示す。
【図5】BLADELライブラリーのそれぞれ選択された成員に関するアンピシリンのMIC値の測定を示す図である。
【図6】トリプレットヌクレオチドの置換突然変異導入法の概要を示す図である。
【図7】Aは、置換突然変異導入に用いられるSubSeq DNA要素の基本的特徴を示す。Bは、3つのヌクレオチド塩基対の置換の導入に関するメカニズムを示す。
【図8】全タンパク質、タンパク質ドメイン、又はタンパク質ドメインの断片(エピトープ等)の挿入を含む変異体のライブラリーの作製の概要を示す図である。
【図9】Aは、MuInsの代替として適したAT−2系のトランスポゾンの特徴を示す。Bは、トリプレットヌクレオチドの挿入を有する標的遺伝子のライブラリーを作製するために、改変されたAT−2トランスポゾンを使用することができるメカニズムを示す。
【図10】Aは、MuInsの代替として適したTn5InsOE及びTn5InsMEトランスポゾンの特徴を示す。Bは、トリプレットヌクレオチドの挿入を有する標的遺伝子のライブラリーを作製するために、Tn5InsOE及びTn5InsMEトランスポゾンを使用することができるメカニズムを示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的ポリペプチドにおける少なくとも1つのアミノ酸の挿入、欠失又は置換によって標的ポリペプチドのアミノ酸配列を変える方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の突然変異
自然界では、無数のタンパク質を、生命体に適応した機能を発揮するように進化させてきた。遺伝子配列の変化は、タンパク質のアミノ酸組成の変化に翻訳される。自然界では、ヌクレオチドの置換、欠失又は挿入が、進化の過程において利用されている(Chothia, C.他(2003) Science 300 1701-1703)。単一のヌクレオチドの置換が、その特定の位置でアミノ酸をコードする情報を変えることによってアミノ酸の特性に変化をもたらし得る。選択圧は、3つのヌクレオチド又はこれらの倍数の欠失又は挿入が、遺伝子のリーディングフレームを維持するため好ましいことを意味している(Taylor, M.他(2004) Genome Res. 14 555-566)。分岐進化の過程において、多くの置換及び挿入−欠失(インデル)突然変異によって、タンパク質の組成の変化がもたらされる(Taylor, M.他(2004)、Lesk, A.M.(2001)著「タンパク質構造概論(Introduction to protein architecture)」Oxford University Press, Oxford、Pascarella, S.及びArgos, P.(1992) J. Mol. Biol. 224 461-471)。これらの変化の多くは、タンパク質の特性、特に、折り畳み、リガンド又は基質結合、タンパク質−タンパク質相互作用、並びに温度依存性の活性及び安定性に対して多大な影響を持つ。例えば、置換突然変異導入による免疫グロブリン可変ドメインの配列変化はアミノ酸の欠失及び挿入によって促進され(de Wildt, R.M.他(1999) J. Mol. Biol. 294 701-710)、また、構造的に相同なサブチリシンセリンプロテアーゼの間では、触媒作用、基質認識及びカルシウム結合に重要であることが知られている領域などにおいて、様々な置換及びインデル事象が観察されている(Siezen, R.J.及びLeunissen, J.A.(1997) Protein Sci. 6 501-523)。
【0003】
標的遺伝子全体にわたるランダムな突然変異の導入は、タンパク質の特性を変える有力な方法である(Tao, H.及びCornish, V.W.(2002) Curr. Opin. Chem. Biol. 6 858-864及びArnold, F.H.(2001) Nature 409 253-257を参照されたい)。現行の技術の大部分は、アミノ酸の置換に至る点突然変異の導入に焦点を当てている(Dalby, P.A.(2003) Curr. Opin. Struct. Biol. 13 500-505、Lutz, S.及びPatrick, W.M.(2004) Curr. Opin. Biotechnol. 15 291-297及びその中の参考文献)。これらの方法は通常、1つのコドンにつき1つのヌクレオチド塩基対を変化させることに限定されるため、その位置で利用可能なアミノ酸の種類は限定され、あるいは自然発生的な遺伝的多様性に依存することになる。いくつかの方法、例えばペンタペプチド走査突然変異法(scanning mutagenesis)(Hallet, B.他(1997 Nucleic Acids Res. 25 1866-1867、以下にさらに記載))、並びにランダム挿入及び欠失(RID)(Murakami, H.他(2002) Nat. Biotechnol. 20 76-81)が、アミノ酸の挿入を行うために使用されてきた。RID法は、単一アミノ酸の欠失の導入に利用可能性があるが、現在までのところはアミノ酸の置換又は挿入の導入のみに適用されている。さらに、この処理は複雑であり、好ましくない二次的突然変異が導入される傾向がある(Murakami, H.他(2002))。
【0004】
単一コドンの挿入又は欠失は、自然界で観察されるインデル突然変異の最も一般的な形態の1つであり、進化の過程に対する重要性を示している(Taylor, M.他(2004))。このような事象をin vitroにおいて模倣することにより、タンパク質構造及びタンパク質機能に対するインデル突然変異の影響に関する我々の理解が進み、また、特定の用途に対するタンパク質の特性を向上させる我々の能力が高められることになろう。現在、イン
デル突然変異を導入する最も一般的な方法は理論的設計によるものであるため、欠失させるべき残基の決定には構造的情報が必要になり、またそれぞれの突然変異に対して別々のオリゴヌクレオチドが必要になるだろう。
【0005】
トランスポゾン
トランスポゾンは、DNA配列にランダムに挿入することができる、遺伝子情報の可動性の断片である(Reznikoff他(1999) Biochem. Biophys. Res. Commun. 266 729-734)。ほとんどのトランスポゾンは、これに関する共通の一般的なメカニズムに従う(Mizuuchi(1992) Annu. Rev. Biochem. 61 1011-1051、Craig(1995) Science 270 253-254)。トランスポゾンは、そのそれぞれの末端に逆向き反復配列から成る認識配列を有しており、すなわちこの末端は逆方向の同一配列を有している。トランスポザーゼ酵素はこれらの認識配列を認識して結合することによって、タンパク質−DNA複合体を形成する。その後、このタンパク質−DNA複合体が、DNAの切断反応及び連結反応を触媒することによって、標的DNAへのトランスポゾンの挿入を促進する。例えば、Muトランスポゾンの場合、MuAがトランスポザーゼとして作用する。Muトランスポゾンの挿入前に、標的DNAにおいて5bpの互い違いの切断が行われる。反対側のDNA鎖上に生じた5bpのギャップは、必要に応じて宿主生物により、あるいはin vitroにおいて適切な酵素を使用することにより補われる。その結果、トランスポゾンの挿入に加えて、トランスポゾンの片側に5bpの標的DNAの反復が生じる。Tn5トランスポゾンの場合、9bpの互い違いの切断を行い、トランスポゾンの片側に9bpの標的DNAの反復がもたらされる(Reznikoff他(1999)、Steiniger-White他(2004) Curr. Opin. Struct. Biol. 14 50-57)。特に、mini−Mu及びTn5転移反応は、in vitroでの使用に適合するようになっており、この反応は、標的部位の優先度が非常に低いため、トランスポゾンの挿入を所与の遺伝子における任意の点で行うことができる(Goryshin及びReznikoff(1998)
J. Biol. Chem. 273, 7367-7374、Haapa他(1999) Nuc. Ac. Res. 27, 2777-2784)。
【0006】
制限酵素
制限エンドヌクレアーゼは、特定のヌクレオチド配列を認識してDNAを切断する酵素の種類である。II型酵素は、特定の種類の制限エンドヌクレアーゼである。それら酵素の認識部位は、パリンドロームであるか、部分的にパリンドロームであるか、又は中断されたパリンドロームである。ランダムにDNAを切断するI型及びIII型制限エンドヌクレアーゼとは異なり、II型酵素は、通常、認識配列内の特定の部位でDNAを切断する。IIS型酵素は、一般的なII型酵素に当てはまらないいくつかの特徴を有する亜型である。これらのIIS型酵素は、一般的に認識配列の外側で切断された少なくとも1本の鎖によって、パリンドロームではない又は非対称のヌクレオチド配列を認識する(これらのIIS型酵素は、いわゆる「アウトサイドカッター(outside cutter)」である)。このようなIIS型制限エンドヌクレアーゼの1つの例は、MlyIである。MlyIは、パリンドロームではないDNA配列を特異的に認識し、認識配列から5bp離れた部位を切断することにより、平滑末端を形成する(5’GAGTCNNNNN↓3’、認識配列には下線が付され、NはG、A、T又はCのいずれかが許容されることを示し、矢印は切断位置を示す)。他のII型酵素は、IIB亜型、IIE亜型、IIG亜型及びIIP亜型であり、これらはIIS型の亜型といくつかの特徴を共有する。例えば、これらの亜型の内のいくつかは、アウトサイドカッターとして分類される。
【0007】
既知のタンパク質の突然変異導入法
米国特許第5,843,772号は、AT−2として知られる人工のトランスポゾンに関する。DNAベクターから平滑末端化したトランスポゾンを分離させるために、制限酵素の認識部位が付加された。認識配列自体の内部で切断する制限酵素によって、制限酵素の認識部位が認識される。この特許は主として、人工のトランスポゾンを形成し、それらをDNA配列に挿入する方法に関する。
【0008】
Vilen他(J. Virol.(2003) 77 123-134)は、ウイルスゲノムにおける遺伝子をマッピングするためのトランスポゾンの使用に関する。Vilen他に開示されているトランスポゾンは、標的ポリペプチドのアミノ酸配列を変える方法において使用するには適していない。
【0009】
米国特許第4,830,965号は、DNA配列をトランスポゾン内の点に挿入させるための制限酵素の認識部位の導入に関する。制限酵素の認識部位は、トランスポゾンの末端には位置していない。
【0010】
米国特許第5,728,551号は、上述のペンタペプチド走査突然変異法に関し、以下でより詳細に論じられる。コドン挿入による突然変異誘発の方法の案について言及されてはいるが、そのような方法が行われたことを示すデータは提供されていない。トランスポゾンの末端近くにSrfI制限酵素の認識配列を位置させ、このSrfI制限酵素がその認識配列内で切断することを提案している。標的DNAにこのようなトランスポゾンを挿入し、次いでSrfIを使用して取り除くことにより、トランスポゾンが取り除かれた結果としてギャップを有する標的DNAがもたらされるが、このギャップの末端は、該DNAのSrfI切断位置の結果として、いくつかのトランスポゾン由来のヌクレオチドを含む。したがって、挿入されるコドンの配列は、トランスポゾンの末端の配列によって部分的に決定されるので、所与のトランスポゾンを使用して挿入することができる特定のコドンは限定されることになろう。
【0011】
Hayes他(Applied & Environmental Microbiology(1990) 56, 202-209)は、遺伝子ノックアウトを形成するためにトランスポゾンを使用すること、及び細胞内のプラスミド複製に必須の遺伝子の位置をマッピングするためにトランスポゾン内の制限酵素部位を使用することに関する。
【0012】
TEM−1は、β−ラクタム系抗生物質に対する菌の耐性の主因の1つであることから、臨床的に重要なタンパク質である。TEM−1には、新規の広範なスペクトル(ES)のβ−ラクタム系抗生物質に対する耐性を与えるように進化した多くの自然変異体が存在する(http://www.lahey.org/Studies/temtable.asp、参考文献の例として、Matthew, M.
& R.W.Hedges(1976) J. Bacteriol. 125 713-718、Chanal, C.M.他(1989) Antimicrob. Agents Chemother. 33 1915-1920、Goussard, S.及びCourvalin, P.(1999) Antimicrob. Agents Chemother. 43 367-370、が挙げられる。)。TEM−1の自然発生的な欠失変異体は存在しないが、ES β−ラクタムに対する菌の耐性の一因となるSHV−9及びSHV−10(Prinarakis, E.E.他(1997) Antimicrob. Agents Chemother. 41 838-840)並びにS.aureus PC1(Zawadzke, L.E.他(1995) Protein Eng. 8 1275-1285)のような相同的なβ−ラクタマーゼにおいては、アミノ酸の欠失が観察されている。TEM−1は多くのタンパク質工学の研究の焦点でもあり(Matagne, A.他(1998) Biochem. J. 330(Pt2) 581-598)、そのような研究として、どのアミノ酸残基が突然変異に耐性がないかを判定するための全てのアミノ酸のランダム置換(Huang, W.他(1996) J. Mol. Biol. 258
688-703)、指向進化(例えばCamps, M.他(2003) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 100 9727-9732、Stemmer, W.P.(1994) Nature 370 389-391)、及びペンタペプチド走査突然変異法(Hayes, F.他(1997) J. Biol. Chem. 272 28833-28836)などが挙げられる。ペンタペプチド走査突然変異法は、トランスポゾンの挿入、及びNotI(5’GC↓GGCCGC3’)又はPmeI(5’GTTT↓AAC3’)等の、標準的な、レアカットな(rare-cutting)II型制限酵素によるトランスポゾンの除去に関する。この方法の主な欠点は、導入することができる配列変化が制限されているということである。トランスポゾンを除去するための制限酵素消化の際には、常に、制限部位を含むトランスポゾンの断片と共に、標的DNAの5bpの重複領域が、最終的な修飾された標的DNAに組み込まれる。したがって、このことは、通常5アミノ酸長より大きい、所定の組のアミノ酸の挿入をも
たらす。アミノ酸の置換又は欠失はサンプルにならず、単一アミノ酸などの程度の小さい挿入もまたサンプルにはならない。
【0013】
上記の方法に関する改善点は、米国公開特許第2005/0074892号に開示されている。その文献に開示されている方法においては、トランスポゾンが標的DNA配列に挿入され、このトランスポゾンはIIS型ではない制限酵素を使用して切り出され、トランスポゾンの切り出しによって形成されるギャップを有する標的DNAが残される。ギャップのそれぞれの末端には、いくつかのトランスポゾン由来のヌクレオチド及びトランスポゾンの挿入により生じる重複ヌクレオチドが含まれる。この方法で使用されるトランスポゾンは市販されており、この処理に使用するために改変されてはいない。さらに、この方法は、さらなる非転移DNA配列を順次挿入及び欠失させることを含み、最終的に標的DNA配列からトランスポゾン由来のヌクレオチドを取り除くための複数の制限エンドヌクレアーゼによる消化工程を伴う。この冗長な処理によって、最終的に標的DNA配列内への単一コドンの挿入、欠失又は置換が可能になる。
【0014】
「分子スイッチ」の形成
所望の入力に応じてその性質を変えることができる分子を設計及び生成する能力によって、新規の検出及び変換装置が作られる重要で新たな可能性が生じるであろう。この分子スイッチの概念は、化学信号を検出し、この化学信号を適切な細胞応答に変換する先導の役割を果たすタンパク質と共に、自然界において十分に確立されている(Monod他(1963) J. Mol. Biol. 6 306-329、Changeux及びEdelstein(2005) Science 308 1424-1428)。出力が所望の入力と対になるタンパク質を作出することは、対象物質に合わせて調整した(tailored)バイオセンサーや新規のインテリジェント材料の形成等の、in vivo及びin vitroでの多種多様の用途に対する可能性を有する。天然のタンパク質スイッチを使用することが最も簡単であると考えられるが、これらは、定まった生物学的状況の範囲内において特定の機能を果たすように進化しており、特定の用途に必要な特性は有していないかもしれない。したがって、分子スイッチを形成するための一般的な試みとして、本来は異種であるタンパク質の機能を結合しても良い。
【0015】
天然のアロステリックタンパク質は、空間的に異なる調節部位及び活性部位を有する(Monod他(1963)、Changeux及びEdelstein(2005))。調節部位へのエフェクター分子の結合は、急速に且つ可逆的にタンパク質活性を直接調節することができる立体構造変化を引き起こす。任意の人工のアロステリックタンパク質がこのメカニズムを模倣することが理想的であろう。天然のスイッチの再構築に比べて簡単でより効果的な戦略としては、結合による立体構造変化を通じて本来は異種であるタンパク質の機能を結合することである(Buskirk及びLiu(2005) Chem. Biol. 338 633-641、Hahn及びMuir(2005) Trends Biochem. Sci.
30 26-34、Ostermeier(2005) Prot. Eng. Des. Sel. 18 359-364)。所望の調節(例えば小分子依存性の立体構造変化)及びレポーター(例えば酵素活性)機能を有するタンパク質が用いられる。小分子が結合した際に調節ドメインで起こる立体構造事象を、出力信号を調節するレポータードメインに伝達させることができるような方法で、この2つのタンパク質を結び付ける必要がある。このような立体構造事象を結び付ける1つの試みとして、ドメイン挿入と呼ばれる方法を使用することがあげられ、この方法では1つのタンパク質ドメインが、もう1つのタンパク質ドメイン内に挿入される(Doi及びYanagawa(1999) FEBS Lett. 457 1-4、Ostermeier(2005) Protein Eng. Des. Sel. 18 359-364)。そのようにして2つの共有のリンクが生成され、2つのドメイン間の自由度を低下させてそれらの構造を密接に連関させ、任意の立体構造変化の伝達を促進する。より従来型に近い末端−末端の方法で連結されたドメインは、それら2ドメイン間での連絡がなく、一般的にはそれぞれが独立に機能するであろう。
【0016】
この方法の成功の鍵は、両タンパク質の機能を維持し、且つ立体構造事象の伝達を可能
にさせつつ全ドメインの挿入を許容する、タンパク質内部の部位を同定することである。天然の多ドメインタンパク質の分析は、ドメインの挿入が比較的一般的な進化事象であることを示唆している(Jones他(1998) Protein Sci. 7 233-242、Aroul-Selvam他(2004) J.
Mol. Biol. 338 633-641)。いくつかのタンパク質工学の研究により、タンパク質が、別のタンパク質のドメイン全体などの大きな挿入を許容し得ることも示されている。しかし、挿入を許容し、且つカップリングを可能にする部位は明らかではないかもしれない。例えば、レポータータンパク質を活性部位に近接して挿入することは、立体構造変化を直接触媒中心に伝達させることによってカップリングを強化するだろうが、酵素活性にとっては過度に有害であると考えてよいだろう。
【0017】
現在のところ、2つのタンパク質の機能を連結するために、タンパク質ドメイン全体の挿入を許容する標的タンパク質内の部位を予測することは、非常に困難である。この障害を克服するために、ある1つのタンパク質を別のタンパク質にランダムに挿入するという進化的な試みを行うことができる。遺伝子レベルでこれを行うには、挿入が行われるタンパク質をコードする遺伝子のランダムな位置に単一の切断が導入されなくてはいけない。DNA中にそのような切断を生成するために使用される1つの方法として、非特異的なエンドヌクレアーゼであるDNaseIの使用が挙げられる(Guntas及びOstermeier(2004) J. Mol. Biol. 336 263-273)。DNaseIを使用するにあたっての問題点は、DNaseIがDNAにおいて単一の切断を形成することが難しいことが知られていること、並びにこの非特異的なエンドヌクレアーゼによる消化が一定の間隔で縦列重複(tandem duplications)及び様々なサイズの段階的欠失(nested deletions)を生じさせることである。このことによって、タンパク質においてフレームシフト、大きな挿入、及び大きな欠失がもたらされ、その結果ライブラリーの質の低下、及びサンプリングが必要な変異体の数の増加につながるであろう。本発明の方法は、タンパク質レベルでのそのような大きな欠失又は挿入を導入することはなく、研究者は、挿入ドメインを有する任意の連結配列の大きさを決定することが可能になる。挿入された遺伝子に関して可能な読み枠は3つだけであり(これは、1つのコドンに関するトランスポゾンの挿入点に依存する)、正しい読み枠となる可能性は、DNaseIを使用する場合には6つの内の1つであるが、本発明の方法を使用する場合には3つの内の1つにまで増大する。
【発明の開示】
【0018】
[発明の概要]
本発明は、標的遺伝子全体にわたるランダムな位置でのトリプレットヌクレオチドの欠失又はヌクレオチドの挿入を導入する新規の方法に関する。さらに、特定の位置でのアミノ酸配列の全範囲をカバーするアミノ酸の置換を可能にするようにこの技術を変更することができる。その上、エピトープ、タンパク質断片又は全タンパク質ドメインでさえもコードするこができる、より長鎖長のDNAの挿入が可能になるように、この技術をさらに適応させることができる。
【0019】
bla遺伝子によってコードされるTEM−1 β−ラクタマーゼに対するアミノ酸のインデルの影響を測定することによって、この技術を試験した。
【0020】
したがって、本出願において概説された新しい技術は、TEM−1に対して開かれた配列空間並びにTEM−1の構造及び機能に対するこのような突然変異の影響をさらに調査することによって、既存の知識を補完することになろう。さらに、この技術の使用の好適な例を挙げることにより、本出願において概説された技術の正当性が明らかになるだろう。
【0021】
本発明の第1の態様によれば、標的ポリペプチドのアミノ酸配列を、そのポリペプチドをコードする標的DNA配列を改変することによって改変する方法が提供される。この方
法は、標的DNA配列にトランスポゾンを導入するステップを含み、このトランスポゾンは、その末端のそれぞれに向かう第1の制限酵素の認識配列を含み、この認識配列は、トランスポゾンの残りの部分にも、標的DNA配列にも、あるいは標的DNA配列を含む構築物(例えばプラスミド又はベクター)中にも存在せず、この第1の制限酵素の認識配列は、アウトサイドカッターである第1の制限酵素によって認識され、かつ、トランスポゾンの末端の端を越えて位置するDNA切断部位を第1の制限酵素が有するように位置する。
【0022】
本明細書を通して使用される「アウトサイドカッター(outside cutter)」という用語は、制限酵素の認識配列の外側のDNAを切断する制限酵素を示す、当該技術分野で既知の用語である。アウトサイドカッターである制限酵素の大部分は、IIS型の亜型に属するが、IIB亜型、IIE亜型、IIG亜型及びIIP亜型の成員もアウトサイドカッターとして分類することができる。
【0023】
本明細書を通して使用される「トランスポゾンの末端の端を越えて」という語句は、トランスポゾンが標的DNA配列に組み込まれる場合、第1の制限酵素の切断部位がトランスポゾンのDNA配列内には位置せず、標的DNA配列内に位置するように、第1の制限酵素の切断部位がトランスポゾン配列の外側にあるということである。
【0024】
好都合なことに、本発明は、対象のポリペプチド全体にわたる点における、1又は複数のアミノ酸の挿入、欠失及び置換の効果を研究するための単純なツールを提供する。好都合なことに、アウトサイドカッターである酵素により認識される第1の制限酵素の認識配列に対する必要条件によって、本発明の方法の使用による標的ポリペプチドにおける単一アミノ酸の挿入、欠失又は置換が可能になる。さらに好都合なことに、切断部位がトランスポゾンの末端の端を越えるような認識配列の位置決めとともに、アウトサイドカッターである酵素を使用することによって、トランスポゾンの末端に位置するヌクレオチドを含む、挿入後の標的DNA配列からの全トランスポゾンDNA配列の切除が可能になり、付加的なステップを必要とすることなくそのようなヌクレオチドの除去が可能になる。したがって、本発明の方法は、既知の方法よりも単純であり、迅速であり、それ故に経済的である。
【0025】
例えば、この方法は、MuAトランスポザーゼを用いてin vitroでの標的DNA配列に正確且つ効果的に挿入され得るDNA要素であるmini−Muトランスポゾンの特性を利用することができる(Haapa, S.他(1999) Nucleic Acids Res. 27. 2777-2784)。この反応は、標的部位の選択性が非常に低いため、トランスポゾンの挿入を所与の遺伝子における任意の点で行うことができる。この技術の基礎として、例えば、人工トランスポゾンAT−2(Devine, S.E.及びBoeke, J.D.(1994) Nucleic Acids Res. 22 3765-3772)又はTn5トランスポゾン(Goryshin及びReznikoff(1998) J. Biol. Chem. 273 7367-7374)などの、他のトランスポゾンもまた使用することができる。驚くべきことに、本発明者は、トランスポゾンの末端を変えることによって、トランスポゾンを認識するトランスポザーゼ酵素の能力を低下させることなく、本発明の方法に使用するのに適するようにトランスポゾンを構築することができることを見出している。例えば、mini−Muの末端を変える突然変異が、トランスポゾンを認識するMuAトランスポザーゼの能力に悪影響を及ぼす可能性があることがこれまでに示されてきた(Goldhaber-Gordon他(2002) J. Biol. Chem. 277 7703-7712、Goldhaber-Gordon他(2003) Biochemistry 42 14633-14642)。本発明の方法で使用されるトランスポゾンは、標準的な、改変されていないmini−Muのものと同様の転移効率を維持する。
【0026】
アミノ酸配列は、少なくとも1つのアミノ酸の欠失、挿入又は置換によって変わり得る。好ましくは、単一のアミノ酸が欠失、挿入又は置換される。
【0027】
少なくとも1つのアミノ酸が、標的ポリペプチドのアミノ酸配列に挿入される場合、又は少なくとも1つのアミノ酸が、標的ポリペプチドのアミノ酸配列から欠失される場合、本発明の第1の態様による方法は、以下の
a)トランスポゾン、標的DNA及びトランスポザーゼ酵素を混合することを含む転移反応を行うステップ、
b)トランスポゾンに含まれる第1の制限酵素の認識配列を認識する第1の制限酵素で、(a)由来のDNAを消化するステップ、
c)トランスポゾンを含まないDNAを分離するステップ、
d)(c)由来のDNAの分子内ライゲーション反応を行うステップ、及び
e)(d)由来のDNAからタンパク質を発現させるステップ
を含むことが好ましい。
【0028】
例えば、宿主生物を(d)由来のDNAで形質転換することができ、その結果、このタンパク質が宿主生物中で発現する。あるいは、人工的な発現システム(例えばRoche Diagnostics Ltd(Lewes, United Kingdom)製のRapid Translation System等)を使用して、このタンパク質を(d)由来のDNAから発現させることができる。
【0029】
当業者であれば、DNAからのタンパク質の発現に利用可能な選択肢を知っていることだろう。
【0030】
標的ポリペプチドのアミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸が異なるアミノ酸で置換される場合、本発明の第1の態様による方法は、以下の
a)トランスポゾン、標的DNA及びトランスポザーゼ酵素を混合することを含む転移反応を行うステップ、
b)トランスポゾンに含まれる第1の制限酵素の認識配列を認識する第1の制限酵素で、(a)由来のDNAを消化するステップ、
c)トランスポゾンを含まないDNAを分離するステップ、
d)(c)由来のDNAと第2のDNA配列との分子間ライゲーションを行うステップであって、第2のDNA配列は少なくとも2つの第2の制限酵素の認識部位を含み、第2の制限酵素の認識部位は切断部位の少なくとも1つが第2のDNA配列の末端にはないように位置することを特徴とする、ステップ、
e)(d)由来のDNAで宿主生物を形質転換し、第2のDNA配列を含む細胞を選択するステップ、
f)(e)において選択される細胞からDNAを単離し、そのDNAを第2の制限酵素の認識部位を認識する第2の制限酵素で消化するステップであって、第2の制限酵素はアウトサイドカッターであることを特徴とする、ステップ
g)(f)由来のDNAの分子内ライゲーションを行うステップ、及び
h)(g)由来のDNAからタンパク質を発現させるステップ
を含むことが好ましい。
【0031】
例えば、宿主生物を(g)由来のDNAで形質転換することができ、その結果、このタンパク質が宿主生物中で発現する。あるいは、人工的な発現システム(例えばRoche Diagnostics Ltd製のRapid Translation System等)を使用して、このタンパク質を(g)由来のDNAから発現させることができる。
【0032】
第2のDNA配列を含まないDNAが第2のDNA配列を含むDNAから分離されるように、上記のステップ(f)の後に、付加的な分離ステップ(f1)が続くことが好ましい。したがって、第2のDNA配列を含まないDNAはステップ(g)で使用される。
【0033】
上記のステップ(d)において、「切断部位が第2のDNA配列の末端にはない」という語句は、切断部位が第2のDNA配列の末端に由来する1又は複数のヌクレオチドである、すなわち、切断部位が第2のDNA配列内にあるように、第2の制限酵素の認識部位が位置していることを示す。当業者は、1又は複数のアミノ酸が置換されるという所望の結果を得るために必要な第2の制限酵素の認識部位の位置を容易に認識するであろう。
【0034】
第2の制限酵素は、第1の制限酵素と同じであってもよい。第2のDNA配列は、第2のDNA配列を含まない細胞と比較して選択可能な特徴を、第2のDNA配列を含む宿主細胞に与える遺伝子を含むことが好ましい。本明細書を通して使用される「選択可能な特徴」という用語は、例えば(この細胞が細菌である場合)、抗生物質含有培地で成長する能力を指すことがある。
【0035】
標的ポリペプチドのアミノ酸配列が、さらなるアミノ酸配列の挿入により変えられる場合、本発明の第1の態様による方法は、
a)トランスポゾン、標的DNA及びトランスポザーゼ酵素を混合することを含む転移反応を行うステップ、
b)トランスポゾンに含まれる第1の制限酵素の認識配列を認識する第1の制限酵素で、(a)由来のDNAを消化するステップ、
c)トランスポゾンを含まないDNAを分離するステップ、
d)さらなるアミノ酸配列をコードする第3のDNA配列と(c)由来のDNAとの分子間ライゲーションを行うステップ、及び
e)(d)由来のDNAからタンパク質を発現させるステップ
を含むことが好ましい。
【0036】
例えば、宿主生物を(d)由来のDNAで形質転換することができ、その結果、このタンパク質が宿主生物中で発現する。あるいは、人工的な発現システム(例えばRoche Diagnostics Ltd製のRapid Translation System等)を使用して、このタンパク質を(d)由来のDNAから発現させることができる。
【0037】
さらなるアミノ酸配列は、完全長のタンパク質、タンパク質ドメイン又はタンパク質断片であり得る。タンパク質断片は、エピトープ、結合ドメイン、アロステリック部位、金属結合部位等の明確な機能領域、又はオリゴマー化の接合部分(oligomerisation interface)であり得る(しかしながらこれらに限定されない)。第3のDNA配列は、第3のDNA配列を含まない細胞と比較して選択可能な特徴を、第3のDNA配列を含む宿主細胞に与える遺伝子を含むことが好ましい。
【0038】
第3のDNA配列は、標的DNAがタンパク質に翻訳される際に単一のキメラタンパク質が形成されるように、標的DNAのものと同様のオープンリーディングフレームを有しても良い。あるいは、又は付加的には、第3のDNA配列は終止コドン及び/又は開始コドンを含んでもよい。
【0039】
本発明による方法の好ましい実施形態においては、第1の制限酵素はIIS型酵素であり、最も好ましくはMlyIである。
【0040】
トランスポゾンは、標的部位の選択性が低いことが好ましい。トランスポゾンは、mini−Mu、AT−2又はTn5の内の1つに由来してもよい。トランスポゾンは、トランスポゾンを含まない細胞と比較して選択可能な特徴を、トランスポゾンを含む宿主細胞に与える遺伝子を含むことが好ましい。より好ましくは、トランスポゾンは、5’末端として5’−NGACTC−3’(配列番号1)及び3’末端として5’−GAGTCN−
3’(配列番号2)(好ましくは、5’末端として5’−TGACTCGGCGCA−3’(配列番号3)及び3’末端として5’−TGCGCCGAGTCA−3’(配列番号4))のDNA配列を含むか、あるいは、5’末端として5’−NNNNGACTC−3’(配列番号5)及び3’末端として5’−GAGTCNNNN−3’(配列番号6)(好ましくは、5’末端として5’−TGAAGACTCGCA−3’(配列番号7)及び3’末端として5’−TGCGAGTCTTCA−3’(配列番号8))のDNA配列を含む。ここで、Nは任意のヌクレオチドである。別の方法においては、トランスポゾンは、5’末端として5’−TGTTGACTC−3’(配列番号9)及び3’末端として5’−GAGTCAACA−3’(配列番号10)のDNA配列を含むか、又はさらに別の方法では、5’末端として5’−CTGACTC−3’(配列番号11)及び3’末端として5’−AAGAGTCAG−3’(配列番号12)のDNA配列を含む。
【0041】
標的DNAは、プラスミド、好ましくはpNOM又はその誘導体等の構築物に保持されていてもよい。
【0042】
本発明の第2の態様によれば、その末端のそれぞれに向かって制限酵素の認識配列を含むトランスポゾンが提供され、この認識配列がアウトサイドカッターである制限酵素により認識され、この認識配列はトランスポゾンの残りの部分に存在せず、また、トランスポゾンの末端の端を越えて位置するDNA切断部位を制限酵素が有するように位置する。好ましくは、それぞれの制限酵素の認識配列は、トランスポゾンの末端から1又は複数のヌクレオチドの位置に、より好ましくはトランスポゾンの末端から1〜20ヌクレオチドの位置に、さらにより好ましくはトランスポゾンの末端から1〜10ヌクレオチドの位置に、最も好ましくはトランスポゾンの末端から1、2、3、4又は5ヌクレオチドの位置に存在する。好都合なことに、このことによって、本発明の第1の態様による方法において、トランスポゾンをツールとして使用することが可能になり、対象のポリペプチド全体にわたる点における、1又は複数のアミノ酸の挿入、欠失及び置換の効果の研究が可能になる。
【0043】
驚くべきことに、本発明者は、トランスポゾンの末端を変えることによって、トランスポゾンを認識するトランスポザーゼ酵素の能力を低下させることなく、本発明の第1の態様による方法に使用するのに適したトランスポゾンを構築することができることを見出している。例えば、mini−Muの末端を変える突然変異が、MuAトランスポザーゼのトランスポゾンを認識する能力に対して悪影響を与える可能性があることがこれまでに示されている(Goldhaber-Gordon他(2002) J. Biol. Chem. 277 7703-7712、Goldhaber-Gordon他(2003) Biochemistry 42 14633-14642)。本発明の方法で使用されるトランスポゾンは驚くべきことに、標準的な改変していないmini−Muのものと同様の転移効率を維持している。
【0044】
好ましい実施形態において、制限酵素はIIS型酵素であり、最も好ましくはMlyIである。トランスポゾンは、5’末端として5’−NGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTCN−3’(好ましくは、5’末端として5’−TGACTCGGCGCA−3’及び3’末端として5’−TGCGCCGAGTCA−3’)のDNA配列を含んでもよい。あるいは、トランスポゾンは、5’末端として5’−NNNNGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTCNNNN−3’(好ましくは、5’末端として5’−TGAAGACTCGCA−3’及び3’末端として5’−TGCGAGTCTTCA−3’)のDNA配列を含み得る。さらに別法として、トランスポゾンは、5’末端として5’−TGTTGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTCAACA−3’のDNA配列を含んでもよい。別の選択肢として、トランスポゾンは、5’末端として5’−CTGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTCAG−3’のDNA配列を含んでもよい。トランスポゾンが転移の能力を維持し、また制限酵素の認識部位
が必要な位置にあれば、これらの末端配列は変異を包含してもよい。
【0045】
例えば、IIS型の制限酵素MlyIに対する認識配列を組み込むように、mini−Muトランスポゾンの両末端の近傍を修飾してもよい。mini−Muトランスポゾンは、そのトランスポゾンを含む大腸菌細胞をクロラムフェニコールの存在下で成長させることができるCamR遺伝子を包含する。当業者であれば、本明細書中に記載の方法に対して適切なありふれた修正がなされ、また必要に応じて追加のステップが付加される場合には、MlyI以外の制限酵素に対する認識配列をトランスポゾンに導入してもよいことを理解するだろう。このような修正は当業者にとってはありふれたものである。
【0046】
本発明の第3の態様によれば、図1で示されるDNA配列を有するプラスミド又は図1で示されるDNA配列を有するプラスミドの誘導体が提供される。「図1で示されるDNA配列を有するプラスミドの誘導体」という用語は、例えば、DNA配列のサイレント突然変異、別の選択マーカーによるbla遺伝子の置換、又は、ori領域、マルチクローニングサイトもしくはbla遺伝子等のプラスミドの必須要素を1つも形成しない配列のようなDNA配列の非必須要素の変更によって、図1で示されるプラスミドから調製されたプラスミドを意味する。この用語は、図1のDNA配列における点、好ましくは(しかし任意に)マルチクローニングサイトに挿入された、付加的な対象DNA配列を有する、図1で示されるDNA配列も包含する。図1で示されるDNA配列を有するプラスミドの誘導体のDNA配列は、本発明の第1の態様による方法で使用される第1の制限酵素に対する認識配列を含まず、本発明の方法で使用することが意図される。「図1に示されるDNA配列を有するプラスミドの誘導体」という用語は、pUC18プラスミドを包含することは意図しない。
【0047】
本発明の第4の態様によれば、本発明の第2の態様によるトランスポゾンを含むキットが提供される。好ましくは、このキットは、本発明の第3の態様によるプラスミドをさらに含む。キットは、好適なトランスポザーゼ、並びに/又は酵素反応に必要な緩衝液、並びに/又はスクリーニング及び/若しくはDNAシークエンシング処理に使用するに適したオリゴヌクレオチドをさらにまた含んでもよい。最も好ましくは、キットは、本発明の第1の態様による方法に使用されるものである。
【0048】
本発明の第5の態様によれば、ある標的ポリペプチドに突然変異を導入することがそのポリペプチドの検出可能な活性を変えるか否かを判定する方法が提供され、その方法は、本発明の第1の態様による方法及び以下の
a)改変されていない標的ポリペプチドと比較して、改変された標的ポリペプチドの活性の相違をスクリーニングするステップ、及び
b)改変された標的ポリペプチドをシークエンシングして、アミノ酸の挿入、欠失又は置換の位置を決定するステップ
をさらに含む。
【0049】
検出可能な活性の例としては、タンパク質が酵素である場合には基質結合活性、タンパク質が抗体である場合には抗原結合活性、タンパク質が受容体である場合にはリガンド結合活性が挙げられる。当業者は、他のタンパク質の種類の活性を評価することができる手段を容易に理解するであろう。
【0050】
ほんの一例として、図1〜図10を参照して本発明の実施の形態を記載する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
材料
細菌株:大腸菌DH5α(supE44、ΔlacU169、(φ80 lacZΔM
15)、hsdR17、recA1、endA1、gyrA96、thi−1、relA1)。
【0052】
プラスミド:pUC18、pEntranceposon(Camr)(Finnzymes, Esboo, Finland)及びpNOM。
【0053】
トランスポゾン:挿入−欠失突然変異誘発に使用されるトランスポゾンは、mini−Mu(CamR−3)に基づいている。
【0054】
抗生物質:アンピシリン及びクロラムフェニコール(両者ともMelford Laboratories, Ipswich, UK)。
【0055】
DNA関連酵素:TaqDNAポリメラーゼ(Promega Corp., Madison, WI, USA)、Extensor Hi−Fidelity PCR酵素(Abgene, Epsom, UK)、MlyI、XhoI、BglII及びNdeI制限エンドヌクレアーゼ(NE Biolabs, Beverly, MA, USA)、T4 DNAリガーゼ(Abgene)、MuAトランスポザーゼ(Finnzymes)、EZ−Tn5(商標)トランスポザーゼ(Epicentre, Madison, WI, USA)。
【0056】
遺伝子:TEM−1 β−ラクタマーゼをコードするBla遺伝子。
【0057】
DNA精製キット:Promega Corp.製のWizard(登録商標)Plus SVキットを使用して、細胞培養物からプラスミドDNAを単離した。アガロースゲル又はPCR反応物から、Qiagen Ltd(Crawley, UK)製のQiaquick(商標)ゲル抽出キット又はPCR精製キットをそれぞれ使用して、DNAを単離した。
【実施例】
【0058】
方法及び結果
<実施例1>
本実施例は、図2で示されるbla遺伝子におけるランダムな位置でのトリプレットヌクレオチドの欠失を含む変異体のライブラリーを形成する方法を示す。要約すると、この処理は、4つの主なステップから構成される。
ステップ1:MuDelトランスポゾンを標的プラスミド又は標的遺伝子に挿入する。
ステップ2:プラスミドに組み込まれたMuDelを含む細胞はCamR遺伝子を含むためクロラムフェニコール存在下で成長することができる。当該プラスミドを単離してプールし、MlyI消化によってトランスポゾンを取り除く。
ステップ3:分子内ライゲーションにより、ヌクレオチド塩基対が除かれた標的遺伝子の再形成がもたらされる。
ステップ4:得られたライブラリーを選択又はスクリーニングして、必要な特性を有するこれらの変異体を選択する。
【0059】
図2において、斜線のブロックはトランスポゾンを示し、黒色のブロックはbla遺伝子を示し、ギャップは(本実施例のための)欠失点を示し、灰色のブロックは、再ライゲーションした標的遺伝子における(本実施例のための)欠失点を示し、太い点線は残りのプラスミド骨格を示す。
【0060】
以下の場合には、前記の処理をbla遺伝子以外の標的遺伝子に適用することもできる。
1.図2のステップ4での選択又はスクリーニングするステップに対する適切な改変であって、標的遺伝子によってコードされるタンパク質に適した改変がなされる場合、及び
2.好ましくない制限部位が全く存在しないか、又は標的遺伝子から取り除かれる場合
。
【0061】
改変されたmini−Muトランスポゾン及び新たに構築されたpNOMプラスミドを使用した本実施例を以下に詳細に記載する。本実施例においては、制限エンドヌクレアーゼMlyIはトリプレットヌクレオチドの欠失に必須ではあるが、当業者によって理解されるように、適切なステップを修正し、また必要に応じて追加のステップが加えられる場合、MlyIのものと同様の特性を有する他の制限エンドヌクレアーゼを使用することができる。
【0062】
前記の手順がうまく働くように、標的DNA又は標的DNAを含むプラスミドは、いかなるMlyI制限部位も含んではならない。MlyIの認識配列はわずか5bp長であるため、多くのプラスミドは少なくとも1つあるいはそれ以上のMlyI制限部位を有している。例えば、pUC18は、bla遺伝子内の1つ、pMB1複製起点(ori)内の1つ、及びマルチクローニングサイト(MCS)内のもう1つを含む、4つのMlyI制限部位を有する。
【0063】
pNOMの構築
そこで、MlyI部位を全く含まず、かつ有用なMCSを含む、好適なプラスミドを構築した。この新規のベクターはpNOMと呼ばれる。このプラスミドの大部分は、ori領域及びbla遺伝子を含めて、pUC18から提供された。TEM−1 β−ラクタマーゼの一次構造を破壊しないように、サイレント突然変異の導入によって、bla遺伝子に存在するMlyI部位を取り除いた。理論的な突然変異がどのようにプラスミド複製に影響を与え得るかが不明だったので、MlyI認識配列を形成するヌクレオチドの中の2つがランダム化されたライブラリーを形成することにより、MlyI部位のori領域からの除去を達成した。有用なクローニング部位を含むように、MCS部位を構築した。
【0064】
特に明記しない限り、Extensor Hi−Fidelity PCR酵素ミックス及びそれが供給する緩衝液(Abgene)を用いて、全てのPCR反応を行った。pUC18及び人工のMCSからpNOMプラスミドを構築した。DNA配列から任意のMlyI制限部位を取り除くように、いくつかの段階において、PCRによって、pUC18の−1〜1979bpの領域を増幅した。PCR反応混合物は、鋳型としての0.1ng/μlのpUC18 1μl、10μMの好適なプライマー3μl(以下のプライマーの組み合わせを参照のこと)、20mMのdNTP混合物3μl(5mMのdATP、5mMのdTTP、5mMのdGTP及び5mMのdCTPから成る)、10×Extensor緩衝液1 5μl、5単位/μlのExtensor Hi−Fidelity PCR酵素ミックス0.5μlから構成され、滅菌した分子生物学的品質の水で50μlに合わせた。それぞれの場合において、以下に示すようにPCRを行った。
ステップ1:94℃で2分間
ステップ2:94℃で10秒間
ステップ3:55℃で30秒間
ステップ4:68℃で90秒間
さらに29回、ステップ2〜ステップ4を繰り返す
ステップ5:68℃で7分間。
【0065】
断片F1は、pUC18の−1〜989bpから構成され、化学合成したオリゴヌクレオチドの形態の一本鎖DNA(「プライマー」と称される)であるDDJdi006(5’GAAACtCGaGAGACGAAAGGGCCTCGTGATACG3’、配列番号13)及びDDJdi004(5’CATCCATAGTTGCCTGACTgCCCGTCGTGTAGATAAC3’、配列番号14)を用いたPCRによって生成した。ここで、小文字は突然変異誘発を受けるヌクレオチドを示す。DDJdi006にはXh
oI部位が導入され、DDJdi004はbla遺伝子からMlyI部位が取り除かれている。
【0066】
断片F2は、pUC18の972〜1507bpから成り、プライマーDDJdi003(5’GTTATCTACACGACGGGcAGTCAGGCAACTATGGATG3’、配列番号15)及びDDJdi008(5’CCAACCCGGTAAGACAC3’、配列番号16)のプライマーを使用したPCRによって生成した。DDJdi003はDDJdi004と相補的であり、小文字は突然変異誘発を受けるヌクレオチドを示す。
【0067】
断片F3は、pUC18の1490〜1979bpから成り、プライマーDDJdi007(5’GTGTCTTACCGGGTTGGNNTCAAGACGATAGTTACCGGA3’、配列番号17)及びDDJdi009(5’cttcctcgctcatatgCTCGCTGCGCTCGGTCGTTCGGCTGC3’、配列番号18)のプライマーを使用したPCRによって生成した。DDJdi007は、pUC18の複製領域のpMB1 Ori起点におけるMlyI部位と対応する2つのランダム化ヌクレオチドを含んでいた(すなわち、それぞれの位置での任意のヌクレオチドは「N」で表す)。DDJdi009は、その5’末端に向かうNdeI認識部位を含んでいた。
【0068】
アガロースゲル電気泳動後に、断片F1、F2及びF3を単離精製した。末端プライマーとして、DDJdi006及びDDJdi009を使用して、単一のPCR反応においてそれぞれの断片を共にスプライシングして、断片F4を形成した。このPCR反応では68℃での伸長温度を120秒に延長した。アガロースゲル電気泳動後に、2005bpの生成物を単離精製した。推奨される条件下(0.1mg/mlのウシ血清アルブミン(BSA)の存在下、50mMのNaCl、10mMのTris−HCl(pH7.9)、10mMのMgCl2、1mMのジチオスレイトール(DTT))で、NdeI及びXhoIエンドヌクレアーゼによって断片F4を消化した。Qiagen Qiaquick(商標)PCR精製キットを使用して、制限消化混合物からDNAを精製した。
【0069】
断片F5は、新規のマルチクローニングサイト(MCS)を含み、pET22bのMCSに基づいている。68℃での伸長時間を60秒にしたことを除いて、標準的なPCR条件を使用して、鋳型としてプライマーpET−F(5’ATGCGTCCGGCGTAGAGGA3’、配列番号19)及びpET−R(5’GCTAGTTATTGCTCAGCGGTG3’、配列番号20)並びにpET24bを使用したPCRによって、断片F5を生成した。得られた351bpの生成物を精製して、NdeI及びXhoIで消化し、続いて、ゲル電気泳動後に単離精製した。
【0070】
製造業者によって推奨される条件下(30mMのTris−HCL(pH7.8)、10mMのMgCl2、10mMのDTT及び1mMのATP)で、3U/μlのT4 DNAリガーゼ(Promega Corp.)1μlを使用して、NdeI/XhoIで消化したF4及びF5断片を25℃で共にライゲーションした。ライゲーション混合物の1/10を使用して、Biorad Gene Pulser(商標)(Bio-Rad Laboratories, Hemel Hempstead, UK)を使用したエレクトロポレーションによって、大腸菌DH5α 50μlを形質転換した。エレクトロポレーションの直後に、細胞にSOC培地500μlを加えて、細胞を37℃で1時間インキュベートした。インキュベート後の、エレクトロポレーションした大腸菌DH5α細胞を約50μl及び約500μl、100μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天プレート上に広げ、37℃で一晩インキュベートした。断片F4及びF5の正確なライゲーションは、pNOMプラスミドの形成を意味する。
【0071】
100μg/mlのアンピシリンの存在下で成長することができる5つの別個の大腸菌
DH5αコロニーを選択して、100μg/mlのアンピシリンを含むLBブロス5mlに移し、この培養物を回転式振盪培養器で37℃で一晩インキュベートした。5つの培養物のうちの3つからプラスミドDNAを精製した。プラスミドDNAをNdeI又はMlyIによる制限分析にかけ、プラスミドの性質及び全てのMlyI部位が取り除かれていることを確認した。pNOMの供給源として1つのクローンが選択され、DDJdi003及びDDJdi009を使用し、PCRによってOri領域を増幅させることによって、DDJdi007におけるNNヌクレオチドによる突然変異を確認した。この領域のシークエンシングはできなかったが、MlyIによる制限分析によって、この領域がMlyI部位を有しないことを再確認した。pNOMのDNA配列を図1に示す。
【0072】
MuDelの構築
ランダムなトリプレットヌクレオチドの欠失の形成に使用するために、元のMuファージ由来のトランスポゾンであるmini−Mu(CamR−3)を改変した。ここでは、トランスポゾン内の選択マーカーとして、CamR遺伝子を使用する。このCamR遺伝子は、大腸菌又は任意の他の適当な生物の選択株に対し、特定の条件下において、その生物を生存可能にさせるか、又はその生物とトランスポゾン配列を含まない他の細胞とを差別化する特徴をその生物に示させる選択的利点を与える別の遺伝子と交換することができる。
【0073】
トリプレットヌクレオチドを欠失させる能力は、図3で概説されるように、トランスポゾンの挿入メカニズム及び2つの導入された制限部位の位置に依存する。特定の制限部位を標的遺伝子に挿入するための媒体として働くように、mini−Muトランスポゾンを改変した(図3A)。選択された制限エンドヌクレアーゼは、その認識配列の外側5bpを切断して平滑末端を形成する、IIS型酵素であるMlyIであった(切断プロファイル:5’GAGTC(N5)↓3’)。MlyI認識部位を、トランスポゾン挿入部位から1bp離れて位置させ、MuDelを形成させる(図3A)。2つの必要な点突然変異の両者が、MuA結合に関与するR1領域の外側に位置していることにより、トランスポゾン反応の効率に潜在的に影響を与え得るタンパク質−DNA相互作用に対する妨害を最小にできる。MuDelの転移は、標的DNAにおける5bpの互い違いの切断を介して生じ、その結果、大腸菌によるギャップ修復後にはこれらの5bpの重複がもたらされるであろう(図3B)。MlyIによるDNAの消化によって、両末端における4つの付加的なヌクレオチド塩基対と共にトランスポゾンが標的遺伝子から取り除かれる。2つの平滑末端の分子内ライゲーションによって、3つのヌクレオチドの、標的遺伝子からのインフレーム(in-frame)での欠失がもたらされる(図3B)。
【0074】
特に明記しない限り、全てのPCR反応は、Extensor Hi−Fidelity PCR酵素ミックスを用いて上記のように実施された。フォーワードプライマー及びリバースプライマーの両方として、オリゴヌクレオチドDDJdi005(5’GCTTAGATCTGActCGGCGCACGAAAAACGCGAAAG3’(配列番号21)、小文字は突然変異誘発を受けるヌクレオチドを示す)を使用し、鋳型として機能する原型のmini−Mu(CamR−3)トランスポゾン0.1ngを含むPCRによって、MuDelトランスポゾンを構築した。1322bpの生成物を精製し、37℃でBglIIによって消化した(反応条件:100mMのNaCl、50mMのTris HCl(pH7.9)、10mMのMgCl2、1mMのDTT)。アガロースゲル電気泳動後に消化したトランスポゾンを単離精製した。T4 DNAリガーゼを使用して、BglII消化pEntranceposon(CamR)にライゲーションすることによって、新規のトランスポゾンMuDelを示すDNAを再クローニングした。ライゲーション混合物の1/10を使用して、Biorad Gene Pulser(商標)を使用したエレクトロポレーションによって、大腸菌DH5α 50μlを形質転換した。エレクトロポレーションの直後に、細胞にSOC培地500μlを加えて、細胞を37℃で1
時間インキュベートした。インキュベーション後のエレクトロポレーションした大腸菌DH5α細胞を約50μl及び約500μl、20μg/mlのクロラムフェニコールを含むLB寒天プレート上に広げ、37℃で一晩インキュベートした。20μg/mlのクロラムフェニコールの存在下で成長できる6つの別個の大腸菌DH5αコロニーを20μg/mlのクロラムフェニコールを含む別のLB寒天プレート上にレプリカプレーティングした。熱安定性酵素としてTaq DNAポリメラーゼ、及びプライマーとしてpUC−F(5’AGCTGGCGAAAGGGGGATGTG3’、配列番号22)及びpUC−R(5’TTATGCTTCCGGCTCGTATGTTGTGT3’、配列番号23)を使用したPCR反応における鋳型DNAの供給源として、元のコロニーの一部を使用した。Taq DNAポリメラーゼに関する上記の条件を使用して、PCRを行った。PCR混合物は、10×反応緩衝液5μl(100mMのTris−HCl(pH9.0)、500mMのKCl、1%のTriton X−100)、25mMのMgCl2 3μl、20mMのdNTP 3μl、10μMのオリゴヌクレオチドプライマー1.5μl、適当な大腸菌コロニー、及び5U/μlのTaq DNAポリメラーゼ0.5μlを含んでいた。反応混合物を滅菌した分子生物学的品質の水で50μlに合わせた。反応混合物を以下の熱サイクル条件に供した。
ステップ1:94℃で3分間、その後Taq DNAポリメラーゼ0.5μlを添加
ステップ2:94℃で20秒間
ステップ3:55℃で20秒間
ステップ4:72℃で90秒間
さらに29回、ステップ2〜ステップ4を繰り返す
ステップ5:72℃で5分間。
【0075】
1504bpの生成物を精製し、37℃でMlyIによって消化して(反応条件:50mMの酢酸カリウム、20mMのTris−酢酸、10mMの酢酸マグネシウム、1mMのDTT(pH7.9)、100μg/mlのBSAを追加)、アガロースゲル電気泳動で分析することにより、MlyI認識配列の存在を確認した。MuDelトランスポゾンを含むコロニーを100μg/mlのアンピシリンを含むLBブロス5mlに移し、この培養物を回転式振盪器において37℃で一晩インキュベートし、プラスミドDNAを精製した。プライマーpUC−F及びpUC−Rを使用して、プラスミドDNAをシークエンシングすることによって、MuDelの配列を確認した。上記の条件下においてBglIIで消化することによって、プラスミドからMuDelトランスポゾンを放出させ、アガロースゲル電気泳動後に精製した。
【0076】
転移反応及び大腸菌細胞への形質転換
30℃で3時間、mini−Mu及びMuDelトランスポゾンによる転移を行い、その後75℃で10分間加熱して不活性化させた。反応混合物は、反応緩衝液2μl(125mMのTris−HCl(pH8.0)、125mMのMgCl2、50mMのNaCl、0.25%のTriton X−100、及び50%(v/v)のグリセロール)、0.22μg/mlのMuAトランスポザーゼ1μl、および以下に示すような、様々な量の標的DNA及びトランスポゾンから構成された。Finnzymes(HindIII部位にクローニングしたバクテリオファージλDNAの6.6kbpのHindIII断片を含むpUC19)及びpUC18によって供給された対照DNAの鋳型を使用して、MuDelを使用した転移反応の効率を試験した。ライブラリーの構築にpNOMプラスミドを使用した。360ng(対照DNA)又は100ng(pUC18又はpNOM)の標的プラスミドDNA、及びmini−Mu(CamR−3)(20ng)又はMuDel(20ng又は100ng)が、反応混合物中に存在していた。反応物を30℃で3時間放置した後、75℃で10分間加熱して不活性化させた。1μl又は2μlを使用して、エレクトロポレーションにより大腸菌DH5α細胞を形質転換した。20μg/mlのクロラムフェニコールを含むLB寒天上にこの細胞をプレーティングして、CamR
遺伝子、すなわちmini−Mu又はMuDelトランスポゾンを含む細胞を選択した。
【0077】
導入される突然変異が転移効率を損なうか否かを試験するために、標的DNA基質としてpUC18を使用した。mini−Muトランスポゾン(20ng)による転移反応は、転移反応混合物の1/10(2μl)を用いたエレクトロポレーションによる形質転換後に、20μg/mlのクロラムフェニコールプレート上で約99個の大腸菌DH5αコロニーが成長する結果をもたらした。mini−Muトランスポゾンを20ng又は100ngのMuDelで置き換えた結果、それぞれ約100個及び430個のコロニーが成長した。従って、驚くべきことに、トランスポゾンの末端で突然変異が導入されたにも関わらず、MuDelは、依然として転移反応の有効な基質として働く。
【0078】
このように、標的遺伝子内のランダムな位置でトリプレットヌクレオチドの欠失を形成させる方法の一般的な概要が図2に示される。TEM−1 β−ラクタマーゼは、いくつかのβ−ラクタム系抗生物質に対する耐性に関与する臨床的に重要な酵素であり、この酵素の突然変異が、新たなES β−ラクタムに対する耐性をもたらし得るため、標的としてTEM−1 β−ラクタマーゼをコードするbla遺伝子を選択した。活性型の変異体は大腸菌においてアンピシリンに対する耐性を付与し、細胞の成長を可能にするため、このことは簡単な選抜方法も提供する。新規のベクターであるpNOMがbla遺伝子の供給源として使用され、従って、MuDel挿入に関する標的DNAとして働く。
【0079】
上記の記載の別法として、pNOMとは無関係な対象遺伝子をトランスポゾンの挿入の標的として使用することができる。必要に応じて、トランスポゾンの挿入後に、標準的な手法を使用して、対象遺伝子をpNOM又は別の好適なベクターにクローニングすることができる。あるいは、対象の遺伝子へのトランスポゾンの挿入後、通常は生物中において修復される、トランスポゾン反応の結果として形成されるDNA鎖に存在するギャップを、適切なギャップ修復法及びライゲーション法を使用して、in vitroで修復することができる。
【0080】
MuDelのpNOMへの挿入の位置は、プラスミド全体にわたって均等に分布するはずなので、bla遺伝子領域に挿入されるMuDelを含む細胞を選択する方法が必要になる。MuDelトランスポゾンのプラスミドDNAへの転移により、大腸菌にクロラムフェニコール耐性が付与されるため、MuDelの挿入されたpNOMを含む細胞の選択が可能になる。bla遺伝子領域内に挿入されたMuDelを有するこれらのコロニーはTEM−1の発現が低下し、これにより細胞のアンピシリンの存在下で成長する能力が影響を受ける。
【0081】
トランスポゾンにより破壊されたbla遺伝子を有するコロニーの選択
大腸菌DH5αの転移混合物による形質転換後、20μg/mlのクロラムフェニコール存在下で成長する48個のコロニーを選択し、100μg/mlのアンピシリン及び20μg/mlのクロラムフェニコールの両者のLB寒天プレートに再びプレーティングした。48個のコロニーの中で、22個のコロニーがクロラムフェニコールのプレート上でのみ成長し、それらはこの領域に対するトランスポゾンの挿入により破壊されたbla遺伝子を有すると考えられ、したがってBLADELライブラリーの成員として選択された。MuDelトランスポゾンの存在を確認するために、Taq DNAポリメラーゼ(上記の方法)及びbla遺伝子に隣接するプライマーDDJdi010(5’TCCGCTCATGAGACAATAACCCTG3’、配列番号24)及びDDJdi011(5’CTACGGGGTCTGACGCTCAGTG3’、配列番号25)を使用して、22個のコロニーそれぞれに対してPCRを行った。
【0082】
制限分析及び挿入したトランスポゾンを包含するクローンの選択
PCR生成物を精製して、(これまでに記載された反応条件)MlyIで制限分析を行うことによって、トランスポゾンの様々な挿入位置を確認した(図4)。MlyIによる、直鎖PCR断片(pNOMのbla遺伝子領域のみを含む)の消化によって、MuDelトランスポゾン及びbla遺伝子(1310bp)の内の8bpが取り除かれ、MuDel挿入点によって長さが異なる2つの断片が生成する(図4A)。制限分析は、MuDelの挿入がランダムに起こり、トランスポゾンはこの領域にただ1つだけ挿入されたことを示した(図4B、レーン1〜8及び10〜16は、BLADELライブラリーの異なる成員を示し、レーン9は、φ174 DNA−HaeIII分子量ラダーである。アスタリスクで標識したバンドは、トランスポゾンに対応する)。それぞれのレーン由来の2つのより小さな断片の質量分析によって、2つの断片の大きさを足すと、PCR生成物からMuDelを除いたものにほぼ等しくなることを確認した。bla遺伝子内のトランスポゾンの位置を確定するプライマーとして、DDJdi010及びDDJdi011を使用して、22個のPCR生成物をシークエンシングした。配列分析によって、トランスポゾンの挿入がbla遺伝子内のランダムな位置で起こるという制限分析を確認し、その位置は図4Cで縦軸で示される。
【0083】
22個のコロニーのそれぞれからMuDelの挿入されたpNOMプラスミドを単離し、等量のプラスミドをそれぞれプールして、MlyIで制限消化した後に、アガロースゲル電気泳動を行った。アガロースゲル電気泳動後に、MuDelを除いた直鎖pNOMに対応するバンドを単離精製した。T4 DNAリガーゼ及び直鎖pNOM 約10ngを使用して、分子内ライゲーションを行った(上述の反応条件)。反応系を25℃で10分間、その後16℃で10時間放置した。ライゲーション混合物1μlによるエレクトロポレーションによって、大腸菌DH5α細胞を形質転換した。エレクトロポレーションの直後に、SOC培地500μlを細胞に加えて、細胞を37℃で1時間インキュベートした。インキュベーション後の形質転換した細胞系50μl及び500μlを15μg/mlのアンピシリンを含むLB寒天プレート上にプレーティングした。プレートを37℃で一晩放置し、94BLADELライブラリー及び2つのpNOM含有コロニーを選択し、LB培地200μl及び15μg/mlのアンピシリンを含む96ディープウェル(deep-well)培養プレートに移した。細胞を強く振盪しながら、37℃で16時間成長させた。−80℃での保存用に10%(v/v)まで滅菌グリセロールを加えた。
【0084】
TEM−1 β−ラクタマーゼ活性に対する突然変異の影響
大腸菌の成長を妨げるアンピシリンの最小阻害濃度(MIC)を測定することによって、それぞれのコロニーのTEM−1 β−ラクタマーゼ活性をin vivoで測定した。96プロング(prong)複製フォークを使用して、50、100、500、2500、5000、7500又は10000μg/mlのAmpを含むNunc Omnitray(商標)プレート内のLB寒天上に96ウェルプレートにおけるコロニーをそれぞれ、レプリカプレーティングして、37℃で16時間インキュベートした。
【0085】
アンピシリンに対する元のコロニーそれぞれのMICを図5に示す。ここでは、行(A〜H)及び列(1〜12)を表示するのに使用された96ウェルマイクロプレートフォーマットによる、ライブラリーBLADELのそれぞれ選択された成員に対するアンピシリンMICの測定値を示す。ボックスの中の値は、500、2500、5000及び10000μg/mlのアンピシリンのMIC値、又は10000μg/mlを超えるアンピシリンのMIC値を示す。数字の後にXで印を付けられたボックスは、bla遺伝子配列情報を有する変異体を示す。全ての細胞は、50μg/ml及び100μg/mlのアンピシリンで成長した。14個の変異体は、MICが500μg/mlであり、これはTEM−1活性の低下を示していた。6つの変異体のみが2500μg/mlのMICを有しており、30個の変異体は5000μg/mlのMICを有していた。アンピシリンのMICが7500μg/mlである変異体はなく、15個の変異体の成長が10000μg/m
lのアンピシリンで阻害された。2つの野生型pNOM対照を含む残りの31個のコロニーは10000μg/mlのアンピシリンでも生存可能であった。このようなMIC値の広がりは、様々な3つのヌクレオチド塩基対の欠失突然変異がbla遺伝子に組み込まれ、TEM−1のin vivo活性に対して大きな影響を与えたことを示す。
【0086】
それぞれのアンピシリン濃度でのMICを示すいくつかのクローンを、プライマーDDJdi010及びDDJdi011並びにTaq DNAポリメラーゼを用いたPCRに供した。シークエンシングプライマーとして、DDJdi010及びDDJdi011を使用して、1067bpのPCR生成物をシークエンシングすることにより、トリプレットヌクレオチドの欠失位置を確認した。
【0087】
単一コドンに関するMuDelの挿入点により、欠失の性質が確定する。表1の第1列、第4列及び第5列に、3つの可能性が示される。全挿入の3分の1が、コドンの真の欠失を形成する。残りの3分の2においては、取り除かれる3つのヌクレオチド塩基対は2つのコドンと重複することになり、それにより二次的な点突然変異が引き起こされ得る。二次的な突然変異の性質は、周辺のDNA配列によって変わる。遺伝暗号の縮重のため、点突然変異のいくつかはサイレント突然変異になる一方で、それ以外は、アミノ酸の置換をもたらすことになろう。
【0088】
【表1】
【0089】
特定のアンピシリンのMICを示すクローンからいくつかのbla遺伝子を単離し、シークエンシングすることによって、アミノ酸の欠失位置及び任意の二次突然変異が起こったか否かを確認した。表2は、ライブラリーBLADELの活性型TEM−1変異体から単離した全ての異なる配列を示す。
【0090】
【表2】
【0091】
22個の可能な異なる突然変異の内の8個が、この選択基準において、TEM−1により耐性になっていると同定された。8個のうちの2つ(R83Δ及びR275Δ、Δは、欠失した残基を示す)は、真のコドンの欠失であった。3つの配列(T114Δ、G196Δ及びA217Δ)は、遺伝子レベルでは真の欠失を生成しなかったが、遺伝暗号の縮重のために、アミノ酸の置換は起こらなかった。3つの配列(P62Δ−E63Q、T114Δ−D115N及びE177Δ−R178D)は、二次的な突然変異を含んでいた。単一のコドンに関するMuDelの挿入点は、予想通り均等に分配される(2:3:3)(表2)。任意のシークエンシングした変異体について、他の突然変異は観察されず、野生型のTEM−1は検出されなかった。
【0092】
前記配列は、TEM−1の一次構造の全長にわたって散在し、in vivo活性における種々の影響を伴っていた。2つの突然変異、T114Δ及びT114Δ−D115Nは、2つのヌクレオチド塩基対のトランスポゾン挿入位置によってのみ分離された(表2)。
【0093】
前記配列とアンピシリンMICとの間には良好な相関関係があった(表3)。P62Δ−E63Q、R83Δ及びE177Δ−R176Dを含む変異体は、全て500μg/mlのMICを有していた。T114Δ変異体及びT114Δ−D115N変異体は、2500μg/ml及び5000μg/mlの値両方にわたり、それぞれの濃度で複数のクローンが同定された。R275Δ変異体は、欠失がへリックス内で生じるにもかかわらず、アンピシリンに対する比較的高いMICを有している(5000μg/ml)。A217Δ及びG196Δの両者で、in vivo活性に対する影響はほとんどなく、G196Δは大腸菌に対して、10000μg/mlのアンピシリンに対する耐性を依然として付与することができる。G196Δ TEM−1変異体を有する1つのクローンは、実際に10000μg/mlのアンピシリンのMICを示したが、そのようになった理由は不明である。というのは、G196Δ変異体に関する一般的な傾向(シークエンシングした7個のうちの6個;表3)では、この変異体を有する細胞は10000μg/mlのアンピ
シリン濃度で成長できることが示されているからである。
【0094】
【表3】
【0095】
<実施例2>
本実施例では、実施例1で概説されるトランスポゾンに基づく技術を用いて、対象の標的遺伝子のランダムな位置でのトリプレットヌクレオチドの挿入を含む変異体のライブラリーを形成する方法を例証する。本実施例は、改変mini−Muトランスポゾン及び新たに構築されたpNOMプラスミド、又はpNOMプラスミドの好適な誘導体を使用する。本実施例では、制限エンドヌクレアーゼMlyIはトリプレットヌクレオチドの挿入に必須であるが、当業者によって理解されるように、適当なステップが修正され、また必要に応じて追加のステップが加えられるならば、MlyIのものと同様の特性を有する他の制限エンドヌクレアーゼを使用することができる。
【0096】
本実施例は、実施例1及び図2で概説された手順に従う。図2では、本実施例に関しては、ギャップ及び灰色のブロックは挿入点を表す。主な違いは、mini−Muトランスポゾンに関する点である。ランダムなトリプレットヌクレオチドの挿入の形成を目的として、元のMuファージ由来のトランスポゾンであるmini−Mu(CamR−3)を改変する。ここでは、改変されたMuトランスポゾン内の選択マーカーとして、CamR遺
伝子を使用する。正しい要素がトランスポゾンの末端に存在して転移を可能にするならば、このCamR遺伝子を別の遺伝子と交換してもよい。そのような別の遺伝子は、大腸菌又は任意の他の生物の選択株に対して、特定の条件下において、その生物を生存可能にさせるか、又はその生物とトランスポゾン配列を含まない他の細胞とを差別化する特徴をその生物に示させる選択的利点を与える遺伝子である。
【0097】
MuInsとして知られる改変されたトランスポゾンはMlyI制限部位を含むが、その位置はトランスポゾン挿入部位から4ヌクレオチド塩基対離れた位置にシフトした(図3A)。トリプレットヌクレオチドの挿入に関するメカニズムは、実施例1のものと同様の経路に従い、図3Cで概説される。トランスポゾンの挿入は、大腸菌でのギャップ修復後に5bpの重複をもたらす(トランスポゾンからの4bpの突出部は取り除かれる)。MlyIの切断部位は認識配列から5bp離れているため、標的遺伝子の両末端から1bpが除去される結果になる。2つの末端のライゲーションによってこの遺伝子は再結合されるが、3つのヌクレオチド塩基対が付加される。挿入された3つのヌクレオチド塩基対は、図3Cにおいて太字で示される。単一コドンに関するMuInsの挿入点によって、挿入の性質が決定される。上記の表1の第1列、第2列、第3列で3つの可能性が示される。
【0098】
MuDelに関すると同じ様式でトランスポゾンが使用され、同様に取り扱われた。すなわち、標的遺伝子へのトランスポゾンの挿入、トランスポゾンが挿入された標的遺伝子の選択、制限消化によるトランスポゾンの除去、分子内ライゲーション、適当な生物への形質転換、トリプレットヌクレオチドの挿入を有する標的遺伝子変異体ライブラリーの選択又はスクリーニング、である。
【0099】
<実施例3>
本実施例は、実施例1で概説されるトランスポゾンに基づく技術を使用して、対象の標的遺伝子のランダム位置でトリプレットヌクレオチドの置換を有する変異体のライブラリーを形成する方法を示している。本実施例は、MuDelトランスポゾン(実施例1で概説される)及び新たに構築されたpNOMプラスミド、又はpNOMプラスミドの好適な誘導体を使用する。本実施例では、制限エンドヌクレアーゼMlyIはトリプレットヌクレオチドの置換に必須であるが、当業者によって理解されるように、適当なステップが改変され、また必要に応じて追加のステップが加えられるならば、MlyIのものと同様の特性を有する他の制限エンドヌクレアーゼを使用することができる。
【0100】
本実施例は、図6で概説される手順に従い、実施例1で概説される手順と同様である。pNOM及びMuDelの両者は実施例1で概説されると同様である。実施例1と同じ様式でMuDelが使用され、同様に取り扱われた。標的遺伝子へのトランスポゾンの挿入、トランスポゾンが挿入された標的遺伝子の選択、制限消化によるトランスポゾンの除去、である。図6で概説されるように、分子内ライゲーションが分子間ライゲーションに置き換えられるという点で、次の段階は実施例1とは異なる。ステップ3では、分子内ライゲーションが人工のDNA配列の分子間ライゲーションと置き換えられる(例えばSubSeq、図7参照)。人工のDNA配列内及び単離され、MlyIで消化されたプラスミドDNA内に存在する選択マーカーを使用するために、人工のDNA配列を含む標的DNA配列が選択される(図6のステップ4)。分子内ライゲーションは、3つのヌクレオチド塩基対が置換されたbla遺伝子の再形成をもたらす(ステップ5)。得られるライブラリーを選択又はスクリーニングして、必要な特性を有するこれらの変異体を選択する。
【0101】
図6において、斜線ブロックはトランスポゾン、黒色のブロックは標的遺伝子、斑のブロックは人工のDNA配列、灰色のブロックは置換点、そして太い点線は残りのプラスミド骨格を示す。図7Aに示される特性を有するDNA要素を含むように、標準的なDNA
ライゲーション法を使用して、新たなDNA配列を挿入した。図7Aでは、DNA配列の2つの異なる末端をTERM−1及びTERM−2とした。TERM−2の最後の3つのヌクレオチド塩基対は、決定されたトリプレット配列、又は、完全にランダムな(それぞれの位置が4つの可能性のあるヌクレオチドを有し得る)若しくは半分ランダムな(いくつかの位置では許容されるヌクレオチドに制限があってもよい)トリプレット配列であり得る。選択マーカーをコードする遺伝子がTERM−1とTERM−2との間に配置される。使用されるメカニズムを図7Bで概説する。MuDelトランスポゾンの挿入が、大腸菌でのギャップ修復後の5bpの重複をもたらす。MlyIの切断部位は、認識配列から1bp離れており、標的遺伝子の両末端で4bpの除去をもたらし、標的遺伝子から3つのヌクレオチド塩基対の同等物を欠失させる。SubSeq DNAを切断点で標的遺伝子にライゲーションし、形質転換後に、選択マーカーを使用して、挿入されたSubSeqを有する標的遺伝子を選択する。SubSeqを挿入した標的遺伝子のMlyIによる消化によって、TERM−2における最後の3つのヌクレオチド塩基対以外のSubSeq DNAの除去がもたらされる。分子内ライゲーションによって、標的遺伝子の再形成がもたらされるが、3つのヌクレオチド塩基対が置き換えられる。置換された3つのヌクレオチド塩基対を太字で示す。
【0102】
SubSeqの作製
図7で示されるDNA要素(以降、SubSeqと称する)は、2つのMlyI部位を含むが、当業者によって理解されるように、適当なステップが改変され、また必要に応じて追加のステップが加えられるならば、MlyIのものと同様の特性を有する他の制限エンドヌクレアーゼを使用することができる。1つのMlyI部位が(これ以降TERM−1と称する)DNA配列の1つの末端から5bpに配置され、もう1つのMlyI部位が(これ以降TERM−2と称する)もう1つの末端から8bp離れて配置された。適切な選択マーカー遺伝子が2つのMlyI部位を連結し、該選択マーカー遺伝子は、大腸菌又は任意の他の適当な生物の選択株に対して、特定の条件下において、その生物を生存可能にさせるか、又はその生物とSubSeq DNA要素を含まない他の細胞とを差別化する特徴をその生物に示させる選択的利点を与える。TERM−2の最後の3つのヌクレオチド塩基対は、決定されたトリプレット配列、又は、完全にランダム(それぞれの位置が4つの可能性のあるヌクレオチドを有し得る)若しくは半分ランダム(いくつかの位置では許容されるヌクレオチドに制限があってもよい)であり得る。
【0103】
特に明記しない限り、Extensor Hi−Fidelity PCR Enzymeミックスを用いて、上記のように全てのPCR反応を行った。鋳型として働く元のmini−Mu(CamR−3)トランスポゾン0.1ngと共に、オリゴヌクレオチドプライマーDDJdi017(5’Phos−CGACCGAcTcAATACCTGTGACGGAAGATC3’(配列番号47);「Phos」は、リン酸化したヌクレオチドを示す)及びDDJdi018(5’Phos−NNNAACTGGaCTCAGGCATTTGAGAAGCACAC3’(配列番号48);「Phos」はリン酸化したヌクレオチドを示し、「N」は任意のヌクレオチドを示す)をフォワードプライマー及びリバースプライマーとして使用したPCRによって、SubSeq DNA要素を構築し、SubSeqを作製した。1095bpのPCR産物を精製した。
【0104】
アミノ酸置換ライブラリーの作製及びシークエンシング
実施例1で作製されたものに基づく拡張ライブラリーを本実施例で使用した。この拡張ライブラリーは、bla遺伝子内に挿入されたMuDelを有する最大176個のクローンを含んでいた。pNOMのbla遺伝子内のMuDelを含むコロニーをプールし、実施例1で概説されるように、プラスミドDNAを単離した。精製したプラスミドライブラリーをMlyIで切断し、実施例1で概説されるようにアガロースゲル電気泳動後にMuDelを除去した直鎖pNOMプラスミドを単離精製した。プラスミドDNAを、アガロ
ースゲル電気泳動に先立って、仔ウシ腸アルカリホスファターゼ(NEBioLabs)を使用して脱リン酸化した。
【0105】
上記で概説されるように作製したSubSeq DNA配列(50ng)をT4 DNAリガーゼを使用して、MlyI消化pNOM(約30ng)にライゲーションした。ライゲーションミックスを最大2μl使用して、エレクトロポレーションによって大腸菌DH5α細胞を形質転換した。この細胞を20μg/mlのクロラムフェニコールLB寒天プレートにプレーティングして、pNOMのbla遺伝子内に挿入されたSubSeqを含む細胞を選択した。クロラムフェニコールLB寒天プレートからランダムに192個のコロニーを選択し、20μg/mlのクロラムフェニコールLBブロスを含む96ディープウェル培養プレートで成長させた。それぞれのウェルから等量を取り出し、共にプールした。
【0106】
実施例1で概説されるように、細胞からSubSeq含有pNOMライブラリーを精製した。上記で概説されるように、約2μgのライブラリーをMlyIで消化した。この消化によりSubSeqが除去され、この手順のはじめにMuDelの除去の際に欠失した3bpの野生型bla遺伝子の置き換えをもたらした。アガロースゲル電気泳動後に直鎖pNOM(2115bp)に対応するバンドを単離精製した。
【0107】
直鎖pNOMプラスミドのライブラリー(10ng)は、T4 DNAリガーゼを(上記のように)使用した分子内ライゲーションさせて、プラスミドの末端を再結合させ、BLASUBライブラリーが構築された。ライゲーション混合物の10分の1を使用し、DH5αを形質転換した。この細胞を15μg/mlのアンピシリンLB寒天プレート上でプレーティングして、活性型TEM−1β−ラクタマーゼ変異体を選択した。同プレート上で1000個を超えるコロニーが成長した。
【0108】
実施例1で概説されるように、15μg/mlのアンピシリン上で成長することができるコロニーを幾つかランダムに選択して、プライマーDDJdi010及びDDJdi011を使用し、Taq DNAポリメラーゼを使用したPCRを行った。予想通り、この生成物それぞれの大きさは1070bpであった。プライマーとしてオリゴヌクレオチドDDJdi010を使用して、PCRによって生成されたDNAを精製し、シークエンシングした。突然変異体の正確な性質を表4に示す。このデータは、このトランスポゾンに基づく技術を使用して、アミノ酸置換をタンパク質のランダムな位置に組み込むことができることを示している。
【0109】
【表4】
【0110】
<実施例4>
本実施例は、実施例3の発展であり、SubSeqDNA配列内にさらなる特徴を組み込む。実施例4は、記載される違いを除いて、実施例3で概説されるものと同じステップに従う。主な違いは、SubSeq DNA要素の性質である。
【0111】
実施例3に対するこの別形態においては、TERM−1及び/又はTERM−2でのMlyI部位をSubSeq配列内に移動させた。適当な位置にMlyI配列を移動させることにより、
(i) 別のトリプレットヌクレオチド又は複数のトリプレットヌクレオチドのさらなる欠失、
(ii) トリプレット(3)ヌクレオチド配列の四重項(quadruplet)(4)ヌクレオチド配列による置換、及び
(iii) 別のトリプレットヌクレオチド又は複数のトリプレットヌクレオチドのさらなる挿入
が生じ得る。
【0112】
<実施例5>
本実施例は、実施例1で概説されるトランスポゾンに基づく技術を使用して、対象の標的タンパク質のランダムな位置へのアミノ酸配列(例えば、全タンパク質、タンパク質ドメイン又はタンパク質ドメインの(エピトープ等の)断片)の挿入を含む変異体のライブラリーを形成する方法を示している。本実施例は、MuDelトランスポゾン(実施例1)及び新たに構築されたpNOMプラスミド、又はpNOMプラスミドの好適な誘導体を使用する。当業者に理解されるように、この処理に適当な改変を加えることにより、本明細書に記載される他のトランスポゾンもこの手順に使用することができる。本実施例では、制限エンドヌクレアーゼMlyIはドメイン挿入に必須であるが、当業者によって理解されるように、適当なステップが改変され、また必要に応じて追加のステップが加えられるならば、MlyIのものと同様の特性を有する他の制限エンドヌクレアーゼを使用する
ことができる。
【0113】
本実施例は、図8で概説される手順に従い、実施例1で概説される手順と同様のものである。前述のように、この手順は4つの主なステップを含む。
ステップ1:MuDelトランスポゾン(図8の斜線ブロック)を標的プラスミド又は標的遺伝子に挿入する。
ステップ2:選択マーカー遺伝子の特性を利用して、プラスミドに組み込まれたMuDelを含む細胞を選択する。プラスミドを単離し、プールして、MlyI消化によってトランスポゾンを取り除く。
ステップ3:DNA配列(図8の白色ブロック)を標的遺伝子に挿入する。この場合、挿入されるDNAは、タンパク質シトクロームb562をコードするcybC遺伝子(これ以降cyt bと称する)である。
ステップ4:ライブラリーを所望の特性を有するキメラ遺伝子によってコードされるタンパク質を同定するに適切な選択又はスクリーニングステップに供する。
【0114】
pNOM及びMuDelの両者が、これまでの実施例に概説されるものと同一である。実施例1及び実施例3と同じ様式でMuDelを使用し、同様に取り扱った。すなわち、標的遺伝子へのトランスポゾンの挿入、トランスポゾンが挿入された標的遺伝子の選択、制限消化によるトランスポゾンの除去、である。
【0115】
本実施例で使用したpNOMのbla遺伝子内に挿入されたMuDelのライブラリーは、実施例3で使用したものと同一である。MuDelを除いた直鎖脱リン酸化pNOMの生成は、実施例3で概説されるものと全く同じである。
【0116】
Cyt b挿入の構築
cyt bをコードするcybC遺伝子の3つの異なるバージョンを作製した。実施例1で概説されるように、トランスポゾンを1つのコドンに対して3つの異なる位置に挿入することができる。トランスポゾン除去後に導入される単一の切断点が、単一のコドンに対して3つの異なる位置に生じ得るので、cybC遺伝子挿入に対して、オープンリーディングフレーム(ORF)のみを使用した場合、フレームシフトによってライブラリーの3分の2は重複することになろう。したがって、全ての3つのORFのサンプリングを可能にするため、さらなる塩基を両末端に加えたcybCの2つのさらなるバージョンを使用した。これらは、3つの別々のライブラリーを構築した。さらに、TEM−1をcyt
bの挿入に対して耐性とするために、一方又は両方の結合点には短いリンカーが必要かもしれない。したがって、cybCのORFの各々のバージョンは、遺伝子の一方の末端又は両方の末端で、以下に列挙されるプライマーオリゴヌクレオチドでコードされたリンカーを有するcyt bあるいはリンカー配列を有さないcyt bのいずれかをコードする4つの異なる配列から構成されていた。
【0117】
特に明記しない限り、Extensor Hi−Fidelity PCR酵素ミックス及び供給される緩衝液を用いて、上記で概説されるように全てのPCR反応を行った。以下のように、鋳型としてcybC遺伝子を使用したPCRを使用して、cybC遺伝子(ORFI、ORFII及びORFIII)のORFライブラリーそれぞれを構築した。ORFI:フォワードプライマーDDJlacB005(5’GCAGATCTTGAAGACAATATGGA3’、配列番号69)、DDJdi023(5’ggcggtagcGCAGATCTTGAAGACAATATGGA(配列番号70)、小文字は結合領域をコードするヌクレオチドを示す)、並びにリバースプライマーDDJlacB006(5’CCTATACTTCTGGTGATAGGCGT、配列番号71)及びDDJdi024(5’gctgccaccCCTATACTTCTGGTGATAGGCGT(配列番号72)、小文字は結合領域をコードするヌクレオチドを示す)。
ORFII:フォワードプライマーDDJdi019(5’CGCAGATCTTGAAGACAATATGGA3’(配列番号73)、下線を付したヌクレオチドはORFを維持するために使用される追加のヌクレオチドである)及びDDJdi025(5’CggcggtagcGCAGATCTTGAAGACAATATGGA3’(配列番号74)、下線のヌクレオチドはORFを維持するのに使用される追加のヌクレオチドであり、小文字は結合領域をコードするヌクレオチドを示す)、並びにリバースプライマーDDJdi020(5’CTATACTTCTGGTGATAGGCGT3’、配列番号75)及びDDJdi026(5’ctgccaccCCTATACTTCTGGTGATAGGCGT3’(配列番号76)、小文字は結合領域をコードするヌクレオチドを示す);
ORFIII:フォワードプライマーDDJdi021(5’CTGCAGATCTTGAAGACAATATGGA3’(配列番号77)、下線のヌクレオチドはORFを維持するのに使用される追加のヌクレオチドである)及びDDJdi027(5’CTggcggtagcGCAGATCTTGAAGACAATATGGA3’(配列番号78)、下線を付したヌクレオチドはORFを維持するために使用される追加のヌクレオチドであり、小文字は結合領域をコードするヌクレオチドを示す)、並びにリバースプライマーDDJdi022(5’TATACTTCTGGTGATAGGCGT3’、配列番号79)及びDDJdi028(5’tgccaccCCTATACTTCTGGTGATAGGCGT3’(配列番号80)、小文字は結合領域をコードするヌクレオチドを示す)。
【0118】
318〜336bpの生成物を精製し、T4 DNAリガーゼ(NE Biolabs)反応緩衝液中で20単位のT4ポリヌクレオチドキナーゼを使用して、PCR産物に5’リン酸基を付加した。
【0119】
cybC挿入ライブラリーの作製及びシークエンシング
次の段階は実施例1とは異なり、図8で概説されるように、分子内ライゲーションが分子間ライゲーションに置き換えられるという点で、実施例3により密接に従う。SubSeqがbla遺伝子のランダムな位置に挿入される代わりに、実施例3と同様に、cybCのORFライブラリーが挿入される。ここではcybCが挿入されるが、全遺伝子、タンパク質ドメインと同等の遺伝子断片、全タンパク質の部分的アミノ酸配列と同等の遺伝子断片、若しくはタンパク質のドメインのいずれかをコードする任意のDNA要素(例えばエピトープ)、又は任意の他のアミノ酸配列を使用してもよい。
【0120】
実施例1で作製されたものに基づく、実施例3で使用された拡張ライブラリーもまた本実施例で使用された。この拡張ライブラリーは、bla遺伝子内に挿入されたMuDelを有する最大176個のクローンを含んでいた。pNOMのbla遺伝子内にMuDelを含むコロニーをプールし、実施例1で概説されるように、プラスミドDNAを単離した。精製したプラスミドライブラリーをMlyIで切断し、実施例1で概説されるようなアガロースゲル電気泳動後に、MuDelが除かれた直鎖pNOMプラスミドを単離精製した。アガロースゲル電気泳動に先立って、仔ウシ腸アルカリホスファターゼを使用して、プラスミドDNAを脱リン酸化した。
【0121】
上記で作製したcybCの3つのORFライブラリー(50ng)をT4 DNAリガーゼを使用して、MlyI消化pNOM(約30ng)に別々にライゲーションした。最大2μlのそれぞれの反応物のライゲーションミックスを使用して、エレクトロポレーションによって大腸菌DH5α細胞を形質転換した。この細胞を15μg/mlのアンピシリンLB寒天プレート上にプレーティングし、活性型キメラcyt b−TEM−1タンパク質を含む細胞を選択した。対照プレート上で成長したのは8個のコロニーのみであったが(ORFライブラリー挿入物を含まないライゲーションで形質転換された細胞)、その一方で、45個、130個及び150個のコロニーがそれぞれORFI、ORFII及びORFIIIのcybCライブラリーを意味するプレート上で成長した。
【0122】
実施例1で概説されるように、プライマーDDJdi010及びDDJdi011を使用して、それぞれORFI、ORFII及びORFIIIを意味するプレートからの10個、15個及び10個のランダムに選択されたコロニーについて、Taq DNAポリメラーゼを使用したPCRを行った。生成物の大きさは1300bp〜1600bpの範囲であった。PCRによって生成されたDNAを精製し、プライマーとしてオリゴヌクレオチドDDJdi010を使用してシークエンシングした。突然変異体の正確な性質を表5に示す。いくつかのキメラは、bla遺伝子の同じ位置に直列に挿入された2つのcybC遺伝子を含んでいた。このデータは、このトランスポゾンに基づく技術を使用して、ドメイン挿入物をタンパク質のランダムな位置に組み込むことができることを示している。
【0123】
【表5】
【0124】
本実施例で概説される方法が、上記の「背景技術」のセクションで概説されるような分子スイッチを生成するようにドメイン挿入物を作製するためのツールとして利用できることを、当業者は理解するだろう。
【0125】
<実施例6>
本実施例は、前述の実施例に記載されたMuInsトランスポゾンの代替物を記載している。MuInsを含むこれまでのそれぞれの実施例において、スキームにおけるMuInsを以下に記載される新たなトランスポゾン配列によって置き換えるとともに、転移を生じさせる手順を適切に改変する。
【0126】
第1の例において、Devine及びBoeke(Nucleic Acid Res.(1994) 22 3765-3772)によって記載されるAT−2トランスポゾンを図9Aに示すように改変した。AT−2トランスポゾンは、mini−Muと同様の特徴を示し、in vitroで効率的な転移を行うことができる。主な違いは、トランスポザーゼ認識部位が、末端の4つのヌクレオチド塩基対のみから構成されるということである。この配列の後に直接MlyI認識部位を配置することにより、転移の効率を低下させることなく、図9Bで概説されるメカニズムにより、挿入突然変異を進行させることが可能である(挿入したヌクレオチドを太字で示す)。選択マーカーは、図9Aで示されるように2つの末端の間のトランスポゾン内に存在する。Ty1インテグラーゼによって同定されるU3配列を示す。選択マーカーをコードする遺伝子は、2つの末端のU3配列及びMlyI認識配列の間に存在するであろう。選択マーカーは、大腸菌又は任意の他の適当な生物の選択株に対して、特定の条件下で、その生物を生存可能にさせるか、又はその生物とトランスポゾン配列を含まない他の細胞とを差別化する特徴をその生物に示させる、選択的利点を与える遺伝子である。
【0127】
第2の例においては、図10Aに示されるように、Goryshin及びReznikoff(J. Biol. Chem. (1998) 273 7367-7374)に記載されるTn5トランスポゾンを改変してMuInsトランスポゾンを置き換えた。Tn5InsOEはOE(外部末端)要素を含み、Tn5InsMEはME(モザイク末端)要素を含む。これらの要素は、これらの間に位置するDNA配列の転移を促進することができる。それぞれの場合において、選択マーカー遺伝子は、2つのOE又はME要素の間に位置している。選択マーカーは、大腸菌又は任意の他の好適な生物の選択株に対し、特定の条件下で、その生物を生存可能にさせるか、又はその生物とトランスポゾン配列を含まない他の細胞とを差別化する特徴をその生物に示させる、選択的利点を与える遺伝子である。ヌクレオチド配列の改変を含むOE又はME要素の任意の修正版を利用することができるが、その配列が必要な位置にMlyI配列を依然として含み、そのDNAが依然トランスポゾンとして働くことができることが条件となる。
【0128】
Tn5InsOE又はTn5InsMEを使用する場合の、トリプレットヌクレオチドの挿入が起こるメカニズムを図10Bに示す。挿入されたヌクレオチドを太字で示す。Mu及びAT−2とは異なり、Tn5転移は、9つのヌクレオチドの互い違いの切断を介して生じる。MlyI認識配列は、各末端から2ヌクレオチド塩基対離れて配置され、MlyI消化後の分子内ライゲーションの際に3つのヌクレオチド塩基対の正確な挿入を可能にする。
【0129】
<実施例7>
本実施例は、図10で示されるように、Tn5トランスポゾンに基づく改変された認識部位を含む改変されたトランスポゾンを利用するトランスポゾンに基づく技術を使用して、bla遺伝子のランダムな位置におけるトリプレットヌクレオチドの付加を含む変異体のライブラリーを作製する方法を示している。クロラムフェニコール耐性遺伝子が、選択マーカーとして挙げられる。本実施例は、Tn5InsOE及びTn5InsMEと名付けられた2つの新規のトランスポゾン及びpNOMプラスミドを使用するが、pNOMの他の好適な誘導体を使用してもよい。本実施例では、制限エンドヌクレアーゼMlyIは、トリプレットヌクレオチドの挿入に必須であるが、当業者によって理解されるように、適当なステップを改変し、また必要に応じて追加のステップが加えられれば、MlyIのものと同様の特性を有する制限エンドヌクレアーゼを使用することができる。
【0130】
本実施例は、実施例1及び図2で概説される手順に従う。主な違いは、使用されるトランスポゾンに関するものである。要約すると、この手順は、4つの主なステップから成る。
ステップ1:Tn5InsOE又はTn5InsMEトランスポゾンを標的プラスミド又は標的遺伝子に挿入する。
ステップ2:プラスミドに組み込まれたTn5InsOE又はTn5InsMEを含む細胞はCamR遺伝子を含み、従ってクロラムフェニコールの存在下で成長することができる。プラスミドを単離し、プールして、MlyI消化によってトランスポゾンを取り除く。
ステップ3:分子内ライゲーションにより、ヌクレオチド塩基対が追加された標的遺伝子の再形成がもたらされる。
ステップ4:得られたライブラリーを選択又はスクリーニングして、必要な特性を有する変異体を選択する。
【0131】
図2においては、斜線ブロックはトランスポゾンを示し、黒色のブロックはbla遺伝子を示し、間隙及び灰色のブロックは挿入点を示し、太い点線は残りのプラスミド骨格を示す。
【0132】
この処理をbla遺伝子以外の標的遺伝子に適用することもできるが、その際の条件は、
1.標的遺伝子によってコードされるタンパク質に適した図2のステップ4の選択又はスクリーニングのステップに対して適切な改変が為されること、及び
2.好ましくない制限部位が全く存在しないか、又は標的遺伝子から取り除かれること、である。
【0133】
新たに構築したpNOMプラスミド(実施例1を参照)と共に、Tn5由来の配列を含む修飾したmini−Muトランスポゾンを使用する本実施例を、これより詳細に記載する。得られたトランスポゾンDNAは、Tn5由来の転移反応に要求される配列(例えばトランスポザーゼ酵素によって認識されるOE又はME配列)以外はmini−Muに由来する。本実施例では、制限エンドヌクレアーゼMlyIはトリプレットヌクレオチドの挿入に必須であるが、当業者によって理解されるように、適当なステップが改変され、また必要に応じて追加のステップが加えられる場合、MlyIのものと同様の特性を有する他の制限エンドヌクレアーゼを使用することができる。同様に、OE又はME配列の間のDNA配列が適切な選択マーカーに対する配列を含んでいることを条件に、このOE又はME配列の間のDNA配列を変えることができる。
【0134】
Tn5InsOE及びTn5InsMEの構築
ランダムなトリプレットヌクレオチドの付加の作製に使用するため、元のMuファージ由来のトランスポゾンであるmini−Mu(CamR)を改変した。ここでは、トランスポゾン内の選択マーカーとして、CamR遺伝子を使用する。このCamR遺伝子は、大腸菌又は任意の他の適当な生物の選択株に対して、特定の条件下で、その生物を生存可能にさせるか、又はその生物とトランスポゾン配列を含まない他の細胞とを差別化する特徴をその生物に示させる、選択的利点を与える別の遺伝子と交換することができる。
【0135】
トリプレットヌクレオチドを重複させる能力は、図10で概説されるように、トランスポゾンの挿入メカニズム及び2つの導入された制限部位の位置に依存する。特定の制限部位を標的遺伝子に挿入するための媒体として機能するように、mini−Muトランスポゾンを改変した(図3A)。選択された制限エンドヌクレアーゼは、その認識配列の外側の5bpを切断し、平滑末端を形成するIIS型酵素であるMlyIであった(切断プロファイル5’GAGTC(N5)↓3’)。Tn5トランスポゾン由来の外側の末端(OE)又はモザイク末端(ME)配列に基づく配列によって、mini−Muの2つの末端に向かうヌクレオチド配列を置き換えた。次に、この新たなヌクレオチド配列を標的DNAに挿入するためにTn5トランスポザーゼが必要になる。Tn5Insの転移は、標的
DNAにおける9bpの互い違いの切断を介して生じ、大腸菌でのギャップの修復に続いて、これらの9bpの重複がもたらされる(図10B)。MlyIによるDNAの消化は、標的遺伝子の両末端の3つの付加的ヌクレオチド塩基対と共にトランスポゾンを除去する。2つの平滑末端の分子内ライゲーションは、標的遺伝子由来の3つのヌクレオチドのインフレームでの重複をもたらす(図10B)。
【0136】
特に明記しない限り、Extensor Hi−Fidelity PCR酵素ミックスを用いて、上記のように全てのPCR反応を行った。Tn5Insトランスポゾンは、フォワードプライマー及びリバースプライマーの両者として、オリゴヌクレオチドプライマーAS1(5’CTGACTCTTATACACAAGTCGCGAAAGCGTTTCACGATA3’、配列番号89)又はAS2(5’CTGAGTCTTATACACATCTCGCGAAAGCGTTTCACGATA3’、配列番号90)を使用したPCRによって、鋳型として働く元のmini−Mu(CamR−3)トランスポゾン0.1ngを用いて構築され、それぞれトランスポゾンTn5InsOE及びTn5InsMEを生成した。いつでも転移反応に使用できるように1302bpの生成物を精製した。
【0137】
転移反応及び大腸菌細胞への形質転換
Tn5InsOE及びTn5InsMEを用いた転移を37℃で2時間行った後に、70℃で10分間過熱して不活性化させた。反応混合物は、全量10μlの10×反応緩衝液(500mMのTris−酢酸(pH7.5)、1.5Mの酢酸カリウム、100mMの酢酸マグネシウム、40mMのスペルミジン)1μl、200ngのpNOM、0.232pmolのTn5Ins及び1単位のEZ−Tn5(商標)トランスポザーゼ(Epicentre, Madison USA)で構成されていた。70℃で10分間のインキュベーションに先立って1μlの停止溶液(1%のSDS)を添加し、反応を停止させた。
【0138】
1μl又は2μlの反応混合物を使用して、エレクトロポレーションにより大腸菌DH5α細胞を形質転換した。この細胞を20μg/mlのクロラムフェニコールを含むLB寒天上にプレーティングして、CamR遺伝子、したがってTn5Ins遺伝子を含む細胞を選択した。
【0139】
上記のように、標的遺伝子内のランダムな位置でトリプレットヌクレオチドの挿入を作製する方法の一般的な概要を図2に示す。前述のように、TEM−1 β−ラクタマーゼをコードするbla遺伝子を標的として選択した。bla遺伝子の供給源として、新規のベクターであるpNOMを使用し、その結果Tn5Ins挿入に関する標的DNAとして働く。
【0140】
上記の記述の代案として、pNOMとは無関係の対象遺伝子をトランスポゾン挿入の標的として使用することができる。必要に応じて、トランスポゾンの挿入後に標準的な技法を使用して、対象遺伝子をpNOM又は別の好適なベクターにクローン化することができる。あるいは、対象遺伝子へのトランスポゾン挿入後に、通常は生物中で修復される転移反応の結果として形成されたDNA鎖に存在するギャップを、適切なギャップ修復及びライゲーション法を使用して、in vitroで修復してもよい。
【0141】
pNOMへのTn5InsOE又はTn5InsMEの挿入場所は、プラスミド全体にわたって均等に分配されるはずなので、bla遺伝子領域に挿入されたトランスポゾンを含む細胞を選択する方法が要求される。プラスミドDNAへのトランスポゾンの転移は、大腸菌に対してクロラムフェニコールに対する耐性を与え、Tn5InsOEあるいはTn5InsMEが挿入されたpNOMを含む細胞の選択を可能にする。Tn5InsOE又はTn5InsMEがbla遺伝子領域内に挿入されたこれらのコロニーは、TEM−1発現が低下し、したがってアンピシリンの存在下で成長させる細胞の能力に影響を与え
ることになる。
【0142】
トランスポゾンにより破壊されたbla遺伝子を有するコロニーの選択
転移反応物1μlを用いた大腸菌DH5αの形質転換、及び20μg/mlのクロラムフェニコール上への形質転換混合物の2分の1のプレーティング後、Tn5InsMEを使用した場合には200個を超えるコロニーが観察され、Tn5InsOEを使用した場合には20個のコロニーが観察された。これ以降は、Tn5InsMEを用いて作製されたライブラリーを利用した。bla遺伝子に関して挿入されたTn5InsMEトランスポゾンを選択するために、20μg/mlのクロラムフェニコール上で成長する96個のコロニーを選択し、それらを100μg/mlのアンピシリンと20μg/mlのクロラムフェニコールLB寒天プレートの両者に再びプレーティングした。96個のコロニーのうち、66個はクロラムフェニコール上でのみ成長し、この領域におけるトランスポゾン挿入によってbla遺伝子が破壊されていると思われた。
【0143】
bla遺伝子内に挿入されたTN5InsMEを有するpNOMプラスミドを、66個のコロニーのうち10個から別々に精製した。それぞれのプラスミドをMlyIで消化した後、アガロースゲル電気泳動を行った。アガロースゲル電気泳動後、Tn5InsMEを除去した直鎖pNOMに対応するバンドを単離精製した。T4 DNAリガーゼ及び約10ngの直鎖DNAを使用して、分子内ライゲーションを行った。最大2μlのライゲーションミックスを使用して、エレクトロポレーションにより大腸菌DH5α細胞を形質転換し、この細胞を15μg/mlのアンピシリンLB寒天プレート上にプレーティングして、活性型TEM−1 β−ラクタマーゼを含む細胞を選択した。プライマーDDJdi010を使用し、個々のプラスミドそれぞれにおけるbla遺伝子のシークエンシングも行い、挿入の性質を確定した。これらの配列を以下の表6に示す。アミノ酸の重複は、TEM−1全体にわたって存在することが見出された。1つの配列のみは、1以上のクローンにおいて2回表れた。このことにより、対象標的遺伝子にアミノ酸の挿入を組み込むための、トランスポゾンに基づく方法の利用法が成功裏に実証される。
【0144】
【表6】
【図面の簡単な説明】
【0145】
【図1】pNOMのDNA配列(配列番号100)を示す図である。
【図2】トリプレットヌクレオチドの欠失−挿入突然変異導入法の概要を示す図である。
【図3】Aは、改変されたMuDel及びMuInsトランスポゾンの末端の配列を示す。Bは、3つのヌクレオチド塩基対の欠失の導入に関するメカニズムを示し、Cは3つのヌクレオチド塩基対の挿入の導入に関するメカニズムを示す。
【図4】トランスポゾン挿入のランダム性を決定するためのMlyIを用いたライブラリーBLADELの分析を示す図である。(A)は制限分析の手順を図解し、(B)は22個のBLADELライブラリー成員の内の15個の制限分析を示す(アスタリスクを付されたバンドはトランスポゾンに対応する)。(C)は、DNAシークエンシングによって測定された、BLADELライブラリーの22個の成員におけるトランスポゾン挿入点の位置を示す。
【図5】BLADELライブラリーのそれぞれ選択された成員に関するアンピシリンのMIC値の測定を示す図である。
【図6】トリプレットヌクレオチドの置換突然変異導入法の概要を示す図である。
【図7】Aは、置換突然変異導入に用いられるSubSeq DNA要素の基本的特徴を示す。Bは、3つのヌクレオチド塩基対の置換の導入に関するメカニズムを示す。
【図8】全タンパク質、タンパク質ドメイン、又はタンパク質ドメインの断片(エピトープ等)の挿入を含む変異体のライブラリーの作製の概要を示す図である。
【図9】Aは、MuInsの代替として適したAT−2系のトランスポゾンの特徴を示す。Bは、トリプレットヌクレオチドの挿入を有する標的遺伝子のライブラリーを作製するために、改変されたAT−2トランスポゾンを使用することができるメカニズムを示す。
【図10】Aは、MuInsの代替として適したTn5InsOE及びTn5InsMEトランスポゾンの特徴を示す。Bは、トリプレットヌクレオチドの挿入を有する標的遺伝子のライブラリーを作製するために、Tn5InsOE及びTn5InsMEトランスポゾンを使用することができるメカニズムを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的ポリペプチドのアミノ酸配列を、そのポリペプチドをコードする標的DNA配列を改変することにより改変する方法であって、標的DNA配列にトランスポゾンを導入するステップを含み、該トランスポゾンは、その末端のそれぞれに向かう第1の制限酵素の認識配列を含み、該認識配列は、トランスポゾンの残りの部分にも、標的DNA配列中にも、あるいは標的DNA配列を含む構築物中にも存在せず、該第1の制限酵素の認識配列は、アウトサイドカッターである第1の切断酵素によって認識され、また、該トランスポゾンの末端の端を越えて位置するDNA切断部位を該第1の制限酵素が有するように位置することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記アミノ酸配列が、少なくとも1つのアミノ酸の欠失、挿入又は置換によって改変される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つのアミノ酸が、前記標的ポリペプチドのアミノ酸配列に挿入される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
単一のアミノ酸が、前記標的ポリペプチドのアミノ酸配列に挿入される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つのアミノ酸が、前記標的ポリペプチドのアミノ酸配列から欠失される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
単一のアミノ酸が、前記標的ポリペプチドのアミノ酸配列から欠失される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
a)前記トランスポゾン、前記標的DNA及びトランスポザーゼ酵素を混合することを含む転移反応を行うステップ、
b)前記トランスポゾンに含まれる第1の制限酵素の認識配列を認識する第1の制限酵素により、(a)由来のDNAを消化するステップ、
c)前記トランスポゾンを含まないDNAを分離するステップ、
d)(c)由来のDNAの分子内ライゲーション反応を行うステップ、及び
e)(d)由来のDNAからタンパク質を発現させるステップ
を含む、請求項3〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記標的ポリペプチドのアミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記標的ポリペプチドのアミノ酸配列の単一のアミノ酸が別のアミノ酸で置換される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
a)前記トランスポゾン、前記標的DNA及びトランスポザーゼ酵素を混合することを含む転移反応を行うステップ、
b)前記トランスポゾンに含まれる第1の制限酵素の認識配列を認識する第1の制限酵素により、(a)由来のDNAを消化するステップ、
c)前記トランスポゾンを含まないDNAを分離するステップ、
d)(c)由来のDNAと第2のDNA配列との分子間ライゲーションを行うステップであって、第2のDNA配列は少なくとも2つの第2の制限酵素の認識部位を含み、第2の制限酵素の認識部位は切断部位の少なくとも1つが第2のDNA配列の末端にはないように位置することを特徴とする、ステップ、
e)(d)由来のDNAで宿主生物を形質転換し、前記第2のDNA配列を含む細胞を選択するステップ、
f)(e)において選択される細胞からDNAを単離し、そのDNAを第2の制限酵素の認識部位を認識する第2の制限酵素で消化するステップであって、第2の制限酵素はアウトサイドカッターであることを特徴とする、ステップ、
g)(f)由来のDNAの分子内ライゲーションを行うステップ、及び
h)(g)由来のDNAからタンパク質を発現させるステップ
を含む、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の制限酵素が、前記第1の制限酵素と同じである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第2のDNA配列が、第2のDNA配列を含まない細胞と比較して選択可能な特徴を第2のDNA配列を含む宿主細胞に与える遺伝子を含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記標的ポリペプチドのアミノ酸配列が、さらなるアミノ酸配列の挿入により改変される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項14】
a)前記トランスポゾン、前記標的DNA及びトランスポザーゼ酵素を混合することを含む転移反応を行うステップ、
b)前記トランスポゾンに含まれる第1の制限酵素の認識配列を認識する第1の制限酵素により、(a)由来のDNAを消化するステップ、
c)前記トランスポゾンを含まないDNAを分離するステップ、
d)さらなるアミノ酸配列をコードする第3のDNA配列と(c)由来のDNAとの分子間ライゲーションを行うステップ、及び
e)(d)由来のDNAからタンパク質を発現させるステップ
を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記さらなるアミノ酸配列が、全タンパク質、タンパク質ドメイン又はタンパク質断片である、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記タンパク質断片がエピトープである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記タンパク質断片が結合ドメインである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記タンパク質断片がアロステリック部位である、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記タンパク質断片は明確な機能領域である、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記タンパク質断片がオリゴマー化の接合部分である、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記第3のDNA配列が、第3のDNA配列を含まない細胞と比較して選択可能な特徴を第3のDNA配列を含む宿主細胞に与える遺伝子を含む、請求項14〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記第3のDNA配列が、前記標的DNAのものと同じオープンリーディングフレームを有する、請求項14〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記第3のDNA配列が終止コドンを含む、請求項14〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記第3のDNA配列が開始コドンを含む、請求項14〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記第1の制限酵素がIIS型酵素である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記第1の制限酵素がMlyIである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記トランスポゾンは標的部位の選択性が低い、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記トランスポゾンがmini−Mu、AT−2又はTn5のうちの1つに由来する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記トランスポゾンが、トランスポゾンを含まない細胞と比較して選択可能な特徴をトランスポゾンを含む宿主細胞に与える遺伝子を含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記トランスポゾンが、5’末端として5’−NGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTCN−3’のDNA配列を含むか、又は、5’末端として5’−NNNNGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTCNNNN−3’のDNA配列を含むか、又は、5’末端として5’−TGTTGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTCAACA−3’のDNA配列を含むか、又は、5’末端として5’−CTGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTCAG−3’のDNA配列を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記標的DNAがプラスミド中に保持される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
前記プラスミドがpNOM又はその誘導体である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
末端のそれぞれに向かって制限酵素の認識配列を含むトランスポゾンであって、該認識配列はトランスポゾンの残りの部分には存在せず、アウトサイドカッターである制限酵素に対する認識配列であり、また、トランスポゾンの末端の端を越えて位置するDNA切断部位を該制限酵素が有するように位置していることを特徴とする、トランスポゾン。
【請求項34】
請求項1〜32のいずれか1項に記載の方法に使用するに適した、請求項33に記載のトランスポゾン。
【請求項35】
それぞれの制限酵素の認識配列が、トランスポゾンの末端から1から20ヌクレオチドの位置に存在している、請求項33又は34に記載のトランスポゾン。
【請求項36】
それぞれの制限酵素の認識配列が、トランスポゾンの末端から1、2、3、4又は5ヌクレオチドの位置に存在している、請求項35に記載のトランスポゾン。
【請求項37】
前記制限酵素がMlyIである、請求項33〜36のいずれか1項に記載のトランスポゾン。
【請求項38】
5’末端として5’−NGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTCN−3’のDNA配列を含む、請求項37に記載のトランスポゾン。
【請求項39】
5’末端として5’−NNNNGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTC
NNNN−3’のDNA配列を含む、請求項37に記載のトランスポゾン。
【請求項40】
5’末端として5’−TGTTGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTCAACA−3’のDNA配列を含む、請求項37に記載のトランスポゾン。
【請求項41】
5’末端として5’−CTGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTCAG−3’のDNA配列を含む、請求項37に記載のトランスポゾン。
【請求項42】
5’末端及び/又は3’末端のDNA配列において少なくとも1つの変異を含み、転移能力を有することを特徴とする、請求項40又は41に記載のトランスポゾン。
【請求項43】
図1に示されるDNA配列を有するプラスミド。
【請求項44】
請求項43に記載のプラスミドの誘導体であるプラスミド。
【請求項45】
請求項33〜42のいずれかに記載のトランスポゾンを含むキット。
【請求項46】
請求項43又は44に記載のプラスミドをさらに含む、請求項45に記載のキット。
【請求項47】
トランスポザーゼをさらに含む、請求項45又は46に記載のキット。
【請求項48】
少なくとも1つの緩衝液をさらに含む、請求項45〜47のいずれかに記載のキット。
【請求項49】
少なくとも1つのオリゴヌクレオチドをさらに含む、請求項45〜48のいずれかに記載のキット。
【請求項50】
請求項1〜32のいずれかに記載の方法で使用するための、請求項45〜49のいずれかに記載のキット。
【請求項51】
標的ポリペプチドに突然変異を導入することがそのポリペプチドの検出可能な活性を変えるか否かを判定する方法であって、請求項1〜32のいずれかに記載の方法を含み、
a)改変されていない標的ポリペプチドと比較して、改変された標的ポリペプチドの活性の相違をスクリーニングするステップ、及び
b)改変された標的ポリペプチドをシークエンシングして、アミノ酸の挿入、欠失又は置換の位置を決定するステップ
をさらに含む、方法。
【請求項1】
標的ポリペプチドのアミノ酸配列を、そのポリペプチドをコードする標的DNA配列を改変することにより改変する方法であって、標的DNA配列にトランスポゾンを導入するステップを含み、該トランスポゾンは、その末端のそれぞれに向かう第1の制限酵素の認識配列を含み、該認識配列は、トランスポゾンの残りの部分にも、標的DNA配列中にも、あるいは標的DNA配列を含む構築物中にも存在せず、該第1の制限酵素の認識配列は、アウトサイドカッターである第1の切断酵素によって認識され、また、該トランスポゾンの末端の端を越えて位置するDNA切断部位を該第1の制限酵素が有するように位置することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記アミノ酸配列が、少なくとも1つのアミノ酸の欠失、挿入又は置換によって改変される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1つのアミノ酸が、前記標的ポリペプチドのアミノ酸配列に挿入される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
単一のアミノ酸が、前記標的ポリペプチドのアミノ酸配列に挿入される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つのアミノ酸が、前記標的ポリペプチドのアミノ酸配列から欠失される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
単一のアミノ酸が、前記標的ポリペプチドのアミノ酸配列から欠失される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
a)前記トランスポゾン、前記標的DNA及びトランスポザーゼ酵素を混合することを含む転移反応を行うステップ、
b)前記トランスポゾンに含まれる第1の制限酵素の認識配列を認識する第1の制限酵素により、(a)由来のDNAを消化するステップ、
c)前記トランスポゾンを含まないDNAを分離するステップ、
d)(c)由来のDNAの分子内ライゲーション反応を行うステップ、及び
e)(d)由来のDNAからタンパク質を発現させるステップ
を含む、請求項3〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記標的ポリペプチドのアミノ酸配列の少なくとも1つのアミノ酸が別のアミノ酸で置換される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項9】
前記標的ポリペプチドのアミノ酸配列の単一のアミノ酸が別のアミノ酸で置換される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
a)前記トランスポゾン、前記標的DNA及びトランスポザーゼ酵素を混合することを含む転移反応を行うステップ、
b)前記トランスポゾンに含まれる第1の制限酵素の認識配列を認識する第1の制限酵素により、(a)由来のDNAを消化するステップ、
c)前記トランスポゾンを含まないDNAを分離するステップ、
d)(c)由来のDNAと第2のDNA配列との分子間ライゲーションを行うステップであって、第2のDNA配列は少なくとも2つの第2の制限酵素の認識部位を含み、第2の制限酵素の認識部位は切断部位の少なくとも1つが第2のDNA配列の末端にはないように位置することを特徴とする、ステップ、
e)(d)由来のDNAで宿主生物を形質転換し、前記第2のDNA配列を含む細胞を選択するステップ、
f)(e)において選択される細胞からDNAを単離し、そのDNAを第2の制限酵素の認識部位を認識する第2の制限酵素で消化するステップであって、第2の制限酵素はアウトサイドカッターであることを特徴とする、ステップ、
g)(f)由来のDNAの分子内ライゲーションを行うステップ、及び
h)(g)由来のDNAからタンパク質を発現させるステップ
を含む、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の制限酵素が、前記第1の制限酵素と同じである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第2のDNA配列が、第2のDNA配列を含まない細胞と比較して選択可能な特徴を第2のDNA配列を含む宿主細胞に与える遺伝子を含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記標的ポリペプチドのアミノ酸配列が、さらなるアミノ酸配列の挿入により改変される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項14】
a)前記トランスポゾン、前記標的DNA及びトランスポザーゼ酵素を混合することを含む転移反応を行うステップ、
b)前記トランスポゾンに含まれる第1の制限酵素の認識配列を認識する第1の制限酵素により、(a)由来のDNAを消化するステップ、
c)前記トランスポゾンを含まないDNAを分離するステップ、
d)さらなるアミノ酸配列をコードする第3のDNA配列と(c)由来のDNAとの分子間ライゲーションを行うステップ、及び
e)(d)由来のDNAからタンパク質を発現させるステップ
を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記さらなるアミノ酸配列が、全タンパク質、タンパク質ドメイン又はタンパク質断片である、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記タンパク質断片がエピトープである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記タンパク質断片が結合ドメインである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記タンパク質断片がアロステリック部位である、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
前記タンパク質断片は明確な機能領域である、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記タンパク質断片がオリゴマー化の接合部分である、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記第3のDNA配列が、第3のDNA配列を含まない細胞と比較して選択可能な特徴を第3のDNA配列を含む宿主細胞に与える遺伝子を含む、請求項14〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記第3のDNA配列が、前記標的DNAのものと同じオープンリーディングフレームを有する、請求項14〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記第3のDNA配列が終止コドンを含む、請求項14〜22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記第3のDNA配列が開始コドンを含む、請求項14〜23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記第1の制限酵素がIIS型酵素である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記第1の制限酵素がMlyIである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記トランスポゾンは標的部位の選択性が低い、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項28】
前記トランスポゾンがmini−Mu、AT−2又はTn5のうちの1つに由来する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記トランスポゾンが、トランスポゾンを含まない細胞と比較して選択可能な特徴をトランスポゾンを含む宿主細胞に与える遺伝子を含む、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項30】
前記トランスポゾンが、5’末端として5’−NGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTCN−3’のDNA配列を含むか、又は、5’末端として5’−NNNNGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTCNNNN−3’のDNA配列を含むか、又は、5’末端として5’−TGTTGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTCAACA−3’のDNA配列を含むか、又は、5’末端として5’−CTGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTCAG−3’のDNA配列を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記標的DNAがプラスミド中に保持される、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項32】
前記プラスミドがpNOM又はその誘導体である、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
末端のそれぞれに向かって制限酵素の認識配列を含むトランスポゾンであって、該認識配列はトランスポゾンの残りの部分には存在せず、アウトサイドカッターである制限酵素に対する認識配列であり、また、トランスポゾンの末端の端を越えて位置するDNA切断部位を該制限酵素が有するように位置していることを特徴とする、トランスポゾン。
【請求項34】
請求項1〜32のいずれか1項に記載の方法に使用するに適した、請求項33に記載のトランスポゾン。
【請求項35】
それぞれの制限酵素の認識配列が、トランスポゾンの末端から1から20ヌクレオチドの位置に存在している、請求項33又は34に記載のトランスポゾン。
【請求項36】
それぞれの制限酵素の認識配列が、トランスポゾンの末端から1、2、3、4又は5ヌクレオチドの位置に存在している、請求項35に記載のトランスポゾン。
【請求項37】
前記制限酵素がMlyIである、請求項33〜36のいずれか1項に記載のトランスポゾン。
【請求項38】
5’末端として5’−NGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTCN−3’のDNA配列を含む、請求項37に記載のトランスポゾン。
【請求項39】
5’末端として5’−NNNNGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTC
NNNN−3’のDNA配列を含む、請求項37に記載のトランスポゾン。
【請求項40】
5’末端として5’−TGTTGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTCAACA−3’のDNA配列を含む、請求項37に記載のトランスポゾン。
【請求項41】
5’末端として5’−CTGACTC−3’及び3’末端として5’−GAGTCAG−3’のDNA配列を含む、請求項37に記載のトランスポゾン。
【請求項42】
5’末端及び/又は3’末端のDNA配列において少なくとも1つの変異を含み、転移能力を有することを特徴とする、請求項40又は41に記載のトランスポゾン。
【請求項43】
図1に示されるDNA配列を有するプラスミド。
【請求項44】
請求項43に記載のプラスミドの誘導体であるプラスミド。
【請求項45】
請求項33〜42のいずれかに記載のトランスポゾンを含むキット。
【請求項46】
請求項43又は44に記載のプラスミドをさらに含む、請求項45に記載のキット。
【請求項47】
トランスポザーゼをさらに含む、請求項45又は46に記載のキット。
【請求項48】
少なくとも1つの緩衝液をさらに含む、請求項45〜47のいずれかに記載のキット。
【請求項49】
少なくとも1つのオリゴヌクレオチドをさらに含む、請求項45〜48のいずれかに記載のキット。
【請求項50】
請求項1〜32のいずれかに記載の方法で使用するための、請求項45〜49のいずれかに記載のキット。
【請求項51】
標的ポリペプチドに突然変異を導入することがそのポリペプチドの検出可能な活性を変えるか否かを判定する方法であって、請求項1〜32のいずれかに記載の方法を含み、
a)改変されていない標的ポリペプチドと比較して、改変された標的ポリペプチドの活性の相違をスクリーニングするステップ、及び
b)改変された標的ポリペプチドをシークエンシングして、アミノ酸の挿入、欠失又は置換の位置を決定するステップ
をさらに含む、方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公表番号】特表2008−527987(P2008−527987A)
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−551737(P2007−551737)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際出願番号】PCT/GB2006/000187
【国際公開番号】WO2006/077411
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(504043462)ユニバーシティ カレッジ カーディフ コンサルタンツ リミテッド (12)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際出願番号】PCT/GB2006/000187
【国際公開番号】WO2006/077411
【国際公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【出願人】(504043462)ユニバーシティ カレッジ カーディフ コンサルタンツ リミテッド (12)
【Fターム(参考)】
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