説明

ポリペプチド精製のための方法およびシステム

本発明は、精製後のポリペプチドを含む水溶液の、直後に行うろ過を含む、ポリペプチド精製のための方法および自動化システムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリペプチド精製のための方法および自動化システムに関する。特に、本発明は、複合混合物からのポリペプチド精製に有用な、高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)に基づく方法および自動化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)は、液体クロマトグラフィーの一種であり、複合混合物からタンパク質やDNAなどの多量の多様な生体分子を分離および/又は精製するために、産業的にも学術的にも広く用いられている。FPLCでは、液体の流れを利用して、対象の生体分子を含む可溶性成分の入った混合物を固定相に通過させることにより混合物を分離させ、これにより混合物の個々の成分が分離される。使用する溶出法により、混合物に含まれる複数の成分が互いに異なる速度で固定相を移動するか、または、固定相との特定のリガンド相互作用により保持され、これにより互いに分離する。
【0003】
設計が単純であることから、FPLCを自動化するシステムが開発された。FPLCに基づく自動化システムは、特に、英国のChalfont St.GilesのGE Healthcare社により製造され、AKTA(一字目のAは¨が付いた文字、以下同じ)(商標)という商品名で販売されている。
【0004】
生体分子の精製は簡素化されるとはいえ、精製サイクルは現存のFPLCに基づくシステム上で実行されるようにのみ設定することができ、このシステムでは、対象の生体分子を含む生成されたフロースルーや溶出液は、一度システムを離れると短時間で回収することができる。生成されたフロースルーまたは溶出液が迅速に回収されず、それにより長期間露出されてしまう場合、それらが変質する危険性は高くなる。一度フロースルーや溶出液に変質が生じると、それらは使用できなくなり廃棄または大々的に浄化しなければならなくなり、時間もかかる上に費用もかかる。よって、フロースルーや溶出液の変質は回避しなければならない。フロースルーまたは溶出液の変質を回避するには、フロースルーや溶出液がシステムを離れる際にオペレータが必要となり、これにより、特に長い運転サイクルで、生産性を高めることのない余分な工数が増える。この結果、精製サイクルの実行を、フロースルーまたは溶出液がシステムを離れる時間がオペレータの通常の勤務時間内に収まるように設定され、これによりタイミングと実行させる精製サイクル数とが制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
こうしたことから、本発明の目的は、現存のFPLCに基づくシステムの所定の欠点を解消する手段を提供することであり、特に、その目的は、融通性および/または生産性が向上した方法およびシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によると、この目的は以下の項目1〜23の主題により達成される。
項目1.ポリペプチドを精製するための高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)に基づく方法であり、a)ポリペプチドを含む溶液を、固定相を含むクロマトグラフィー手段につけるステップと、b)クロマトグラフィー手段である固定相に溶液を通過させることにより、溶液に含まれる他の分子からポリペプチドを分離するステップと、c)クロマトグラフィー手段からフロースルーまたは溶出液中にポリペプチドを回収するステップと、d)ろ過により再生したポリペプチドを含むフロースルーまたは溶出液を滅菌するステップと、を含む方法。
項目2.項目1のステップb)において、ポリペプチドは固定相と相互作用して固定相により保持され、ステップc)において、ポリペプチドは溶出により回収される項目1に記載の方法。
項目3.ステップd)において、ろ過は真空ろ過である項目1または2に記載の方法。
項目4.ステップa)〜d)のうち1つ以上のステップが自動的に制御される項目1〜3のいずれかに記載の方法。
項目5.固定相は、生体高分子、無機高分子、または合成高分子であり、これらの各々は任意で、それに結合する官能基を有してもよく、または、固定相はメンブレンまたはモノリスであることを特徴とする項目1〜4のいずれかに記載の方法。
項目6.項目1〜5のいずれかの方法によりポリペプチドを精製するために構成される高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)自動化システムであり、i)クロマトグラフィーモジュールと、ii)クロマトグラフィーモジュールの次に配置されるろ過モジュールと、を備えるシステム。
項目7.ろ過モジュールは、クロマトグラフィーモジュールから回収したポリペプチドを含むフロースルーまたは溶出液を滅菌ろ過するための少なくとも1つのろ過手段と、少なくとも1つのろ過手段による滅菌ろ過を制御するための制御手段と、を備える項目6に記載のシステム。
項目8.ろ過モジュールは、クロマトグラフィーモジュールから回収したポリペプチドを含むフロースルーまたは溶出液を滅菌ろ過するための2つ以上のろ過手段と、各ろ過手段に対する、ろ過手段による滅菌ろ過を制御するための機能的に接続された制御手段と、を備える項目6または7に記載のシステム。
項目9.滅菌ろ過は真空をかけることにより行われる項目7または8に記載のシステム。
項目10.制御手段は、演算手段による制御用の入力端子と出力端子とを任意で備える少なくとも1つの電動リレーと、少なくとも1つの電気機械バルブとを備え、電動リレーと電気機械バルブとは機能的に接続されている項目7〜9のいずれかに記載のシステム。
項目11.各制御手段は、互いに機能的に接続されている電動リレーと電気機械バルブとを備える項目7〜10のいずれかに記載のシステム。
項目12.制御手段は、演算手段による制御用の入力端子と出力端子とを備える項目7〜11のいずれかに記載のシステム。
項目13.電気機械バルブは、真空供給の伝達を制御するために用いられる項目10〜12のいずれかに記載のシステム。
項目14.電気機械バルブは前記電動リレーにより制御される項目10〜13のいずれかに記載のシステム。
項目15.電気機械バルブはソレノイドバルブである項目10〜14のいずれかに記載のシステム。
項目16.ろ過手段はフィルターカップである項目6〜15のいずれかに記載のシステム。
項目17.ろ過モジュールは、4つのろ過手段と4つの制御手段とを備える項目6〜16のいずれかに記載のシステム。
項目18.項目6〜7のいずれかに記載の自動クロマトグラフィーシステム用に構成されたろ過モジュールであって、ポリペプチドを含む水溶液を滅菌ろ過するための少なくとも1つのろ過手段と、少なくとも1つのろ過手段による前記滅菌ろ過を制御するための制御手段と、を備えるろ過モジュール。
項目19.ポリペプチドを含む水溶液を滅菌ろ過するための2つ以上のろ過手段と、各ろ過手段に対する、ろ過手段による滅菌ろ過を制御するための機能的に接続された制御手段とを備える項目18に記載のろ過モジュール。
項目20.ろ過モジュールは、4つのろ過手段と4つの制御手段とを備えることで、常に1つのろ過手段が制御手段に機能的に接続されている項目18または19に記載のろ過モジュール。
項目21.項目18〜20のいずれかのろ過モジュール用に構成された制御手段であって、演算手段による制御用の入力端子と出力端子とを任意で備える少なくとも1つの電動リレーと、少なくとも1つの電気機械バルブとを備え、電動リレーと電気機械バルブとは機能的に接続されている制御手段。
項目22.演算手段による制御用の2つ以上の入力端子と2つ以上の出力端子とを任意で備える2つ以上の電動リレーと、2つ以上の電気機械バルブとを備え、電動リレーと電気機械バルブとは機能的に接続されている項目21に記載の制御手段。
項目23.制御手段は、4つのリレーと4つのバルブとを備えることで、常に1つのリレーが1つのバルブに機能的に接続されている項目21または22に記載の制御手段。
【0007】
フロースルーまたは溶出液がクロマトグラフィー手段を離れると、フロースルーまたは溶出液をすぐに滅菌することにより、フロースルーまたは溶出液、または含まれる生体分子の変質の危険を伴うことなく長期に渡り確実に保存することができる(つまり、クロマトグラフィーの直後に実施されるインライン滅菌ろ過を用いる)。このように、本出願は、1つのクロマトグラフィーモジュールと多数の並列(つまり、2つ以上)のろ過手段を備える装置を対象とすることが好ましい。こうした装置の利点は、クロマトグラフィーモジュールの通過後に生成される溶出液が多数の並列のろ過手段を通過することにより(1つのクロマトグラフィー手段が1つのろ過手段にのみ接続されている装置と比較して)所定時間内に多量の液体をろ過できることである。このようにして得られたより高速のろ過により、精製されるタンパク質の変質の危険性が著しく低下する。
【0008】
これにより、本発明の方法およびシステムにより、運転サイクルのタイミングの融通性を向上させることができる。無人で夜間のサイクルを行わせることにより経過時間および工数のいずれをも短縮することができ、それによって、システムの生産性を向上させられる。更に、真空ろ過を利用することは、圧力により駆動されるインラインフィルターを追加する場合のようにシステムの動的特性を変更することがない。これにより、システムの圧力上限が重要となるより高速のスループットが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、1つの電動EULリレーと1つのガスソレノイドバルブとを備える本発明の制御手段を模式的に示す図である。
【図2】図2は、4つの電動EULリレーからなるアレイと4つのガスソレノイドバルブとを備える本発明の別の制御手段を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
特記しない限り、「ポリペプチド」および「タンパク質」は少なくとも2つのアミノ酸からなる化合物を指す。「ポリペプチド」または「タンパク質」は、触媒活性または結合活性を有していてよい。「ポリペプチド」または「タンパク質」は、例えば、酵素またはドメインや単一ドメイン抗体などの抗体であってもよいが、これらに限定されない。本発明の目的では、両方の用語は置き換え可能に用いることができる。
【0011】
特記しない限り、「アミノ酸」という用語は、少なくとも1つのアミノ基と少なくとも1つの酸性基とを備えるいずれの有機化合物も含む。アミノ酸は、天然由来の化合物でもよく、合成物からなるものでもよい。アミノ酸は、少なくとも1つのアミノ基および/または少なくとも1つのカルボキシル基を含むことが好ましい。「アミノ酸」は、また、こうしたアミノ酸化合物に由来しペプチド結合または擬似ペプチド結合により隣接する残留物に結合される、ペプチドおよびタンパク質などの大きな分子に含まれる残留物を指す。
【0012】
特記しない限り、「固定相」という用語は、溶液内の物質と相互作用する固体材料を指す。
【0013】
特記しない限り、「溶出液」という用語は、クロマトグラフィー手段を離れ、固定相に保持される物質を固定相から除去または溶解した液体を指す。
【0014】
特記しない限り、「フロースルー」は、固定相により保持される物質を固定相から除去または溶解せずに、クロマトグラフィー手段を通過して分離した液体を指す。
【0015】
特記しない限り、「滅菌ろ過する」および「滅菌ろ過」とは、微生物(例えば、バクテリアや菌類など)の汚染物質をフロースルーや溶出液から排除することを指す。ろ過のプロセスでは、汚染物質がフィルターに保持されるので、汚染物質がフロースルーや溶出液に含まれる他の物質から分離される。
【0016】
一態様において、本発明はポリペプチドを精製するためのFPLCに基づいた方法を提供する。この方法は、
a)ポリペプチドを含む溶液を、固定相を含むクロマトグラフィー手段につけるステップと、
b)クロマトグラフィー手段である固定相に溶液を通過させることにより、溶液に含まれる他の分子からポリペプチドを分離するステップと、
c)クロマトグラフィー手段からフロースルーまたは溶出液中にポリペプチドを回収するステップと、
d)回収したポリペプチドを含むフロースルーまたは溶出液をろ過により滅菌するステップと、を含む。
【0017】
本発明で使用されるクロマトグラフィー手段は、ポリペプチドおよびタンパク質を精製するためのカラムクロマトグラフィー、メンブレンクロマトグラフィーまたはモノリスクロマトグラフィーで通常用いられる手段である。こうした手段は、本技術分野では公知である。
【0018】
いくつかの実施形態では、クロマトグラフィー手段は精製カラムが用いられる。本実施形態で使用される精製カラムは、固定相を含む多様な大きさおよび内径のチューブである。通常、チューブの大きさおよび内径はそれぞれ1cm〜30cmの範囲および0.1〜5cmの範囲である。しかしながら、チューブの大きさは2mまで大きくしてもよい。チューブは、ガラスまたはステンレス鋼などの金属から作られてもよい。精製カラムは、Tricorn(商標)カラム、MiniBeads(商標)カラム、RESOURCE(商標)カラム、HiTrap(商標)カラム、HiLoad(商標)カラム、HiPrep(商標)カラム、Superdex(商標)カラム、およびSuperose(商標)カラムなど、市販の精製カラムから選択してもよいが、これらに限定されない。また、精製カラムは、最適な固定相を空のカラム本体へ詰めることにより実験装置内で製造されてもよい。市販のカラム本体の一例としては、GE Healthcare XKシリーズやMillipore Vantageシリーズがある。
【0019】
固定相は、固体充填材であり、生体高分子、合成高分子、または無機高分子であってもよい。生体高分子は、セルロース、デキストラン、またはアガロースから選択されてもよい。合成高分子は、ポリアクリルアミド、メタクリレート、またはポリビニルベンゼン/ポリスチレンから選択されてもよい。無機高分子は、シリカ、ヒドロキシアパタイト、または多孔性ガラスビーズであってもよい。必要に応じ、充填材には、更に、ポリペプチドとの特定相互作用を可能にする官能基が結合していてもよい。こうした官能基は、第四ヒドロキシプロピルジエチルアミノエチル基(QAE)、第四トリメチルアミノエチル基(Q)、ジエチルアミノエチル基(DEAE)、カルボキシメチル基(CM)、スルホメチル基(S)、またはスルホプロピル基(SP)であってもよいが、これらに限定されない。官能基は、また、対象のポリペプチドの特定の結合パートナーなど、群特異的または単一特異的なリガンドであってもよく、例えば、抗体の場合は抗原であり、またはその逆であってもよい。
【0020】
他の実施形態では、クロマトグラフィー手段は、固定相としてメンブレンを含む容器またはカラムを用いる。カラムは、上記のようにチューブ状であってもよい。
【0021】
クロマトグラフィーに用いられるメンブレンは、当該技術分野では周知のものである。メンブレンは、1層以上、例えば2層、3層、または4層からなるものであっても良いが、これらに限定されない。メンブレンのマトリクス材は、セルロース、修正セルロース、架橋セルロース、ニトロセルロースや、ナイロン、ポリビニルクロライド(PVC)またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのポリアミドであってもよいが、これらに限定されない。
【0022】
他の実施形態では、クロマトグラフィー手段は、固定相としてモノリスを含む容器またはカラムを用いる。カラムは、上記のようにチューブ状であってもよい。
【0023】
クロマトグラフィーに用いられるモノリスは、当該技術分野では周知のものである。
【0024】
所定の実施形態において、ステップd)のろ過は真空ろ過である。
【0025】
別の態様では、本発明は、FPLCに基づいた方法のための自動化システムを提供する。特に、本発明は、上記に詳述した方法によりポリペプチドを精製するために構成された自動FPLCシステムを提供する。本発明のシステムは、クロマトグラフィーモジュールとろ過モジュールとを備える。ろ過モジュールは、クロマトグラフィーモジュールの後に配置される。
【0026】
本発明のシステムのクロマトグラフィーモジュールは、クロマトグラフィー手段と、ポンプと、検出システムと、制御部とを備える。また、本発明のクロマトグラフィーモジュールは、オートサンプラーおよび/またはフラクションコレクターを備えてもよい。本発明では、クロマトグラフィーモジュールとして、英国のChalfront St.GilesのGE Healthcare社が製造し提供するAKTA(商標)FPLC装置を用いてもよい。
【0027】
クロマトグラフィー手段は上記の通りである。
【0028】
ポンプはシステム内の液体を一定の流量にすることを可能にする。カラムクロマトグラフィーモジュールは、2つ以上のポンプ、例えば、2つ、3つ、または4つのポンプを備えても良いが、これらに限定されない。ポンプは、蠕動ポンプであってもよい。ポンプは、また、ダイヤフラムポンプ、チェックピストンポンプ、またはローブポンプであってもよい。ポンプの流速は、0.001〜100ml/minの範囲であってもよい。
【0029】
検出システムは、クロマトグラフィー手段を離れる分子を検出することができる。検出システムは、UV分光光度計であってもよい。または、検出システムは、伝導性フローセルまたはpH電極であってもよい。
【0030】
制御部は、各システムコンポーネントの自動制御を可能とする。制御部は、各システムコンポーネントを制御するコンピュータプログラムを実行する演算手段であってもよい。演算手段は、コンピュータのプロセッサにより実行されるコンピュータプログラムをロードしたパーソナルコンピュータであってもよい。演算手段は、また、ネットワークシンクライアントであってもよい。このコンピュータプログラムは、英国ChalfrontのSt.GilesのGE Healthcare社から入手可能なUNICORN(商標)コントロールソフトウェアであってもよい。本発明ではUNICORN(商標)コントロールソフトウェアであることが好ましい。
【0031】
本発明のシステムにおけるろ過モジュールは、クロマトグラフィーモジュールから回収されるフロースルーや溶出液を滅菌ろ過するための少なくとも1つのろ過手段と、少なくとも1つのろ過手段による滅菌ろ過を制御するための制御手段とを備える。ろ過モジュールは、2つ以上のろ過手段および/または2つ以上の制御手段を備えても良く、例えば、2つ、3つ、または4つのろ過手段および/または2つ、3つ、または4つの制御手段を備えてもよいが、これらに限定されない。
【0032】
ろ過手段により、フロースルーや溶出液を滅菌ろ過することができる。つまり、微生物などの汚染物質がフロースルーや溶出液から除去される。ろ過手段は、フィルターを含む装置である。本発明の一実施形態では、ろ過手段がフィルターカップであり、真空駆動ボトルトップフィルターとも呼ばれる。フィルターカップは、当該技術分野では公知である。フィルターカップを用いることにより、移動を必要とすることなくフロースルーや溶出液をすぐに回収することができ、これにより、滅菌ろ過することができる。フィルターの細孔のサイズは、0.45〜0.1μmの範囲であって、例えば、0.45μm、0.22μm、または0.1μmであってもよいが、これらに限定されない。通常、0.45〜0.1μmの範囲のサイズの細孔によってバクテリアなどの微生物が留められることが期待される。特定の実施形態では、フィルター細孔のサイズは0.22μmである。
【0033】
詳述したように、滅菌ろ過は、真空によって駆動されてもよい。この場合、ろ過手段を減圧させ、負圧をかけることにより液体および空気をフィルターに通過させる。これは、フィルターの、ろ過される液体を保持する側と反対側に位置する、ろ過手段上の真空入口を介して真空を供給することにより達成される。真空は真空供給源により生成され、真空供給源はオンデマンド真空ポンプまたはパイプ式真空ポンプであってもよい。ろ過手段および真空供給源は、ガス管および/またはシリコン実験管で接続されている。
【0034】
本発明の制御手段は、ろ過手段による滅菌ろ過の制御を可能にする。制御手段は、少なくとも1つの電動リレーまたは半導体リレーまたはソリッドステートの同等物、および少なくとも1つの電気機械バルブを備え、両者は機能的に接続されている。電動リレーと電気機械バルブとは、電気回路を介して機能的に接続されている。電気回路は、ヒステリシス設定を用いる高入力インピーダンス電圧検知リレーからなるものでもよい。
【0035】
制御手段は、更に2つ以上の電動リレーおよび/または2つ以上の電気機械バルブ、例えば、2つ、3つ、または4つの電動リレーおよび/または2つ、3つ、または4つの電気機械バルブを備えてもよいが、これらに限定されない。所定の実施形態では、本発明の制御手段は、4つのリレーからなるアレイを備える。
【0036】
電動リレーは、低出力リレーであってもよい。電動リレーは、リレーとして同じ筐体内に設置される専用の24V−DC電源により駆動されてもよい。所定の実施形態では、リレーは24V−DC電源により駆動される。
【0037】
電動リレーは、制御部により制御される。制御部は、リレーの切替えを制御するコンピュータプログラムを実行する演算手段であってもよい。演算手段による制御を行うために、電動リレーは、リレーを演算手段に接続することができるようにする入力端子と出力端子とを備える。所定の実施形態では、電動リレーは上記のクロマトグラフィーモジュールの制御部により制御される。
【0038】
所定の実施形態では、1つ以上の電気機械バルブにはソレノイドバルブを用いることができる。ソレノイドバルブは液体または気体と共に用いる電気機械バルブであり、ソレノイドに電流を流したり止めたりすることによりバルブを開閉させる。ソレノイドはコイルまたはワイヤであってもよい。特定の実施形態では、ソレノイドバルブにはガスソレノイドバルブを用いている。
【0039】
真空ろ過が行われる特定の実施形態では、ろ過手段への真空供給の伝達を制御するためにガスソレノイドバルブが用いられる。ここでの実施形態では、ガスソレノイドは、ろ過手段と真空供給源との間に配置される。
【0040】

制御手段の構成の一例を図1に表す。図1に示す制御手段は、単一の筐体内にある24V−DC電源と、EULリレーと、ガスソレノイドバルブとからなる。これらの構成要素は電気配線により接続されている。リレーは、端子E2およびMを介して、AKTA(商標)精製装置のPIN6およびPIN5のそれぞれに接続されている。ガスソレノイドバルブは、EULリレーの端子11および12に接続されている。
【0041】
制御手段の構成の他の例を図2に表す。図2に示す制御手段は、単一の筐体内の24V−DC電源と、4つのEULリレーと、4つのガスソレノイドバルブとからなる。これら構成要素は電気配線により接続されている。各リレーは、端子Mを介してAKTA(商標)精製装置のPIN5に接続され、一方、端子E2を介してAKTA(商標)精製装置のPIN6、PIN7、PIN8、またはPIN9に接続されている。各ガスソレノイドバルブは、EULリレーのうちの1つのEULリレーの端子11および12に接続されており、したがって、AKTA(商標)精製装置により独立して制御される。
【0042】
上記の構成により、UNICORN(商標)コントロールソフトウェアがソレノイドバルブを制御することができるので、真空供給の伝達も制御できる。
【0043】
上記のろ過モジュールおよびそれに含まれる制御手段について、本発明の別の態様を説明する。これらの態様によれば、ろ過モジュールおよび制御手段は本発明により提供され、FPLCを基本としたシステム用に、また、FPLCを基本としたシステムで用いられるように構成される。
【0044】
AKTA真空制御ガジェット
AKTA真空制御ガジェットは、製品の品質および完全性を維持するようにシステム流動特性に影響することなく、AKTAシステムからのカラム溶出液を滅菌できる方法を提供するものである。これにより、手作業を介入させる必要性が低下するので、AKTAシステムを1日のうちより多くの時間にわたって利用することが可能となる。その効果を立証するため、ガジェットありでの運転とガジェットなしでの運転を比較する。
【0045】
ガジェットなしでの運転
ガジェットなしの運転では、基本作業時間の開始時に、科学者によりシステムがセットアップされる。この場合、1サイクルは約8時間である。約7時間後に、科学者は分析または別の処理に供するための溶出液サンプルを取り出し、システムはサイクルを終了できる。この時点から翌朝まで、AKTAシステムは稼動しない。
【0046】
管理することなしにAKTAを夜通し運転させると、3サイクルが完了する。しかしながら、1回目のサイクルからの溶出液は常(室)温で16時間保持され、2回目のサイクルからの溶出液は常温で8時間保持される。AKTAは滅菌システムではないため、システムまたは実験室雰囲気からの汚染生物が取り込まれてしまう。高タンパク質水溶液は微生物の成長を促し、回収サンプルの変質に影響し、後の分析や他の処理に悪影響を及ぼす。
【0047】
ガジェットありの運転
次に、ガジェットありの運転を検証する。以下の例は、AKTA精製システムを用いて行われた。基本作業時間の開始時に、科学者によりシステムがセットアップされる。約8時間のサイクルを3サイクル実施できる十分な材料が機械に供給される。7時間後、システムは1回目のサイクルからの溶出液を回収して、ガジェットによる制御のもと滅菌される。15時間後、2回目のサイクルからの溶出液も同様に滅菌され、23時間後に3回目のサイクルへと移る。1回目のサイクルからの溶出液は、常温で16時間保持されるが、取り込まれた微生物は滅菌フィルターにより除去されているので、微生物が増殖することはなく、これは2回目のサイクルについても同様である。
【0048】
要約
ガジェットなしでの運転は、AKTAによる材料の生成を基本作業時間内に限定する。基本運転時間外で機械を運転させようとすると、生成される製品サンプルを微生物の増殖による汚染や損傷といった危険にさらすことになる。
【0049】
ガジェットを用いて運転することにより、微生物の増殖の危険を伴うことなく自動クロマトグラフィーシステムを最大限に利用することができる。
【0050】
上記の本発明の態様により、本発明の趣旨と範囲は、上記実施形態の全ての可能な組み合わせをカバーすると考えられる。更に、当業者であれば、多様な変更、修正、および改良が容易になされることが理解できる。こうした変更、修正、および改良は本明細書に開示された内容の一部であり、本発明の趣旨と範囲内であるのものとする。よって、前述の記載および図は一例にしかすぎない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ポリペプチドを含む溶液を、固定相を含むクロマトグラフィー手段につけるステップと、
b)前記クロマトグラフィー手段の前記固定相に前記溶液を通過させることにより、前記溶液に含まれる他の分子から前記ポリペプチドを分離するステップと、
c)前記クロマトグラフィー手段からフロースルーまたは溶出液中に前記ポリペプチドを回収するステップと、
d)回収した前記ポリペプチドを含む前記フロースルーまたは溶出液をろ過により滅菌するステップと、
を含むポリペプチドを精製するための高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)に基づく方法。
【請求項2】
前記ステップb)において、前記ポリペプチドは前記固定相と相互作用して前記固定相に保持され、
前記ステップc)において、前記ポリペプチドは溶出により回収される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップd)で、前記ろ過は真空ろ過である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップa)からd)のうち1つ以上のステップが自動的に制御される請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記固定相は、生体高分子、無機高分子、または合成高分子であり、該生体高分子、無機高分子、または合成高分子のそれぞれは、当該生体高分子、無機高分子、または合成高分子に結合する官能基を任意で有してもよく、または、前記固定相はメンブレンまたはモノリスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
i)クロマトグラフィーモジュールと、
ii)前記クロマトグラフィーモジュールの次に配置されるろ過モジュールと、
を備える請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法によるポリペプチドを精製するために構成された高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)自動化システム。
【請求項7】
前記ろ過モジュールは、前記クロマトグラフィーモジュールから回収した前記ポリペプチドを含む前記フロースルーまたは溶出液を滅菌ろ過するための少なくとも1つのろ過手段と、前記少なくとも1つのろ過手段による前記滅菌ろ過を制御するための制御手段と、を備える請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記ろ過モジュールは、前記クロマトグラフィーモジュールから回収した前記ポリペプチドを含む前記フロースルーまたは溶出液を滅菌ろ過するための2つ以上のろ過手段と、各ろ過手段に対する、前記ろ過手段による前記滅菌ろ過を制御するための機能的に接続された制御手段と、を備える請求項6または7に記載のシステム。
【請求項9】
前記滅菌ろ過は真空をかけることにより行われる請求項7または8に記載のシステム。
【請求項10】
前記制御手段は、演算手段による制御用の入力端子と出力端子とを任意で備える少なくとも1つの電動リレーと、少なくとも1つの電気機械バルブとを備え、前記電動リレーと前記電気機械バルブとは機能的に接続されている請求項7〜9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
各制御手段は、互いに機能的に接続されている電動リレーと電気機械バルブとを備える請求項7〜10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
前記制御手段は、演算手段による制御用の入力端子と出力端子とを備える請求項7〜11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
前記電気機械バルブは、真空供給の伝達を制御するために用いられる請求項10〜12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
前記電気機械バルブは前記電動リレーにより制御される請求項10〜13のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
前記電気機械バルブはソレノイドバルブである請求項10〜14のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項16】
前記ろ過手段はフィルターカップである請求項6〜15のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項17】
前記ろ過モジュールは、4つのろ過手段と4つの制御手段とを備える請求項6〜16のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項18】
ポリペプチドを含む水溶液を滅菌ろ過するための少なくとも1つのろ過手段と、前記少なくとも1つのろ過手段による前記滅菌ろ過を制御するための制御手段と、
を備える請求項6〜17のいずれか一項に記載の自動クロマトグラフィーシステム用に構成されるろ過モジュール。
【請求項19】
前記ポリペプチドを含む水溶液を滅菌ろ過するための2つ以上のろ過手段と、該各ろ過手段に対する、該ろ過手段による前記滅菌ろ過を制御するための機能的に接続された制御手段とを備える請求項18に記載のろ過モジュール。
【請求項20】
前記ろ過モジュールは、4つのろ過手段と4つの制御手段とを備えることで、常に1つのろ過手段が制御手段に機能的に接続されている請求項18または19に記載のろ過モジュール。
【請求項21】
演算手段による制御用の入力端子と出力端子とを任意で備える少なくとも1つの電動リレーと、少なくとも1つの電気機械バルブとを備え、前記電動リレーと前記電気機械バルブとは機能的に接続される請求項18〜20のいずれか一項に記載のろ過モジュール用に構成される制御手段。
【請求項22】
演算手段による制御用の2つ以上の入力端子と2つ以上の出力端子とを任意で備える2つ以上の電動リレーと、2つ以上の電気機械バルブとを備え、前記電動リレーと前記電気機械バルブとは機能的に接続されている請求項21に記載の制御手段。
【請求項23】
前記制御手段は、4つのリレーと4つのバルブとを備えることで、常に1つのリレーが1つのバルブに機能的に接続されている請求項21または22に記載の制御手段。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−504750(P2013−504750A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528368(P2012−528368)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/063295
【国際公開番号】WO2011/029898
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(511193352)ロンザ バイオロジクス ピーエルシー (3)