説明

ポリマーの製造方法

【課題】界面活性剤を利用してポリマーを製造する方法において、界面活性剤の使用量を抑え、かつポリマーの成形性を充分に向上させることのできるポリマーの製造方法を目的とする。
【解決手段】モノマーを含む原料液から重合によりポリマーを含むスラリーを得る重合工程と、ポリマーを含むスラリーを脱水して湿潤ポリマーを得て、該湿潤ポリマーを、脱水しながら界面活性剤を含有する洗浄液で洗浄する脱水洗浄工程と、脱水洗浄工程の後、前記湿潤ポリマーをペレット状に成形する成形工程と、成形した湿潤ポリマーを乾燥する乾燥工程とを含むことを特徴とするポリマーの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマーは非常に多くの分野で利用されており、例えば、アクリロニトリルを含有するアクリロニトリル系ポリマーは、アクリル繊維などとして利用される。アクリル繊維は優れた風合いと染色鮮明性とを有するため、カーテン、カーペットなどのインテリア用途、セーター、ジャージなどの衣料分野に広く利用されている。
【0003】
このようなポリマーは、例えば、水系懸濁重合などの重合により得たポリマーを脱水、洗浄した後、ペレット状に成形し、乾燥することにより製造される。このポリマーの製造方法では、成形するポリマーの含水率を低くすることにより、乾燥に必要なエネルギーを低減できる。しかし、ポリマーの含水率が低すぎると、充分な成形性が得られなくなる。そのため、ポリマーの成形性を向上させるために界面活性剤を利用することが知られている。界面活性剤を用いれば、ポリマーの含水率が低くても充分な成形性が得られ、かつ乾燥に必要なエネルギーを低減できる。また、得られるポリマーの強度が向上する効果も得られる。
【0004】
界面活性剤を用いたポリマーの製造方法としては、以下に示す方法が挙げられる。
特許文献1には、水系懸濁重合法により得たポリマーを含むスラリーに、界面活性剤を添加して攪拌混合した後、そのスラリーを脱水、洗浄して得た湿潤ポリマーをペレット状に成形し、乾燥するポリマーの製造方法が示されている。
また、特許文献1には、水系懸濁重合法により得たポリマーを含むスラリーを脱水、洗浄して湿潤ポリマーを得た後、該湿潤ポリマーに界面活性剤を添加して混練し、その後にペレット状に成形して乾燥するポリマーの製造方法も示されている。
【特許文献1】特許第2840726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の製造方法は、界面活性剤により湿潤ポリマーの成形性が向上するため、湿潤ポリマーの水分量を低減することができる。そのため、成形した湿潤ポリマーを乾燥するのに必要なエネルギーが抑えられる。しかし、前者の方法では、スラリーからの濾液に界面活性剤が残存するため、湿潤ポリマーに充分に界面活性剤を付着させるには、多くの界面活性剤を必要としていた。また、後者の方法では、湿潤ポリマーに界面活性剤を均一に付着させることが困難であった。
そのため、より少ない量の界面活性剤でポリマーの成形性を充分に向上させることのできる方法が望まれている。
【0006】
そこで本発明では、界面活性剤を利用したポリマーの製造方法において、界面活性剤の使用量を抑え、かつポリマーの成形性を充分に向上させて、乾燥に必要なエネルギーを低減できる製造方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のポリマーの製造方法は、モノマーを含む原料液から重合によりポリマーを含むスラリーを得る重合工程と、ポリマーを含むスラリーを脱水して湿潤ポリマーを得て、該湿潤ポリマーを、脱水しながら界面活性剤を含有する洗浄液で洗浄する脱水洗浄工程と、脱水洗浄工程の後、前記湿潤ポリマーをペレット状に成形する成形工程と、成形した湿潤ポリマーを乾燥する乾燥工程とを含むことを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、界面活性剤を利用したポリマーの製造において、界面活性剤の使用量を抑えることができ、かつポリマーの成形性が充分に向上し、乾燥に必要なエネルギーを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[製造設備]
図1は、本発明のポリマーの製造方法を適用した製造設備の一例を示した工程図である。
本発明の製造設備1は、図1に示すように、モノマーを含む原料液から重合によりポリマーを含むスラリー(以下、単にスラリーということがある。)を得る重合釜10と、重合釜10で得られたスラリーから蒸留により未反応モノマーを分離する蒸留塔12と、蒸留したスラリーを貯留するスラリータンク14と、スラリータンク14に貯留されていたスラリーを脱水して湿潤ポリマーを得て、該湿潤ポリマーを、脱水しながら洗浄液で洗浄する脱水洗浄装置16と、湿潤ポリマーを洗浄する洗浄液を貯留する洗浄液タンク18と、脱水、洗浄された湿潤ポリマーをペレット状に成形するペレタイザー20と、成形した湿潤ポリマーを乾燥する乾燥機22と、脱水洗浄装置16からの濾液を貯留する濾液タンク24と、濾液から未反応モノマーを分離するモノマーストリップ塔(MS塔)26とを備えている。
また、重合釜10から蒸留塔12に重合後のポリマー溶液を送液する送液ポンプ28と、蒸留塔12からスラリータンク14にスラリーを送液する送液ポンプ30と、スラリータンク14から脱水洗浄装置16にスラリーを送液する送液ポンプ32とを備えている。
【0010】
重合釜10は、モノマーを含む原料液から重合によりポリマーを含むスラリーを得る反応釜である。重合釜10にモノマーを含む原料液が供給され、重合が行われることによりスラリーが得られる。得られたスラリーは、送液ポンプ28により蒸留塔12に送られる。
【0011】
蒸留塔12は、重合釜10で得られたスラリーを蒸留して、スラリーから未反応モノマーを分離する塔である。蒸留塔12における蒸留により、スラリーから未反応モノマーと溶媒成分が分離される。蒸留されたスラリーは送液ポンプ30によりスラリータンク14へと送られる。
【0012】
スラリータンク14は、蒸留されたスラリーを貯留するタンクである。スラリータンク14に貯留されたスラリーは、送液ポンプ32により脱水洗浄装置16に送られる。
【0013】
脱水洗浄装置16は、スラリータンク14に貯留されていたスラリーを脱水することにより湿潤ポリマーを得て、該湿潤ポリマーを、脱水しながら洗浄液で洗浄する装置である。脱水洗浄装置16は、スラリーの脱水を行うことができ、かつ湿潤ポリマーを脱水しながら洗浄液で洗浄できるものであればよく、例えば、図2に示すような、連続式回転型濾過機100(以下、濾過機100という。)が挙げられる。
【0014】
濾過機100は、スラリーを収容する濾過槽102と、濾過槽102内に、下半部がスラリーに浸漬するように配置された回転ドラム104と、回転ドラム104の外周面に巻装され、スラリーを濾過する濾布106と、回転ドラム104の内部に設けられ、スラリーを回転ドラム104の内部方向に吸引する吸引部108と、回転ドラム104の軸部分に吸引部108と連通するように設けられ、濾液を排出する集液管110と、濾布106上に得られた湿潤ポリマーに洗浄液を噴霧するシャワーノズル112と、濾布106上の湿潤ポリマーを掻き取って次工程に送るスクレーパ114とを備えている。
【0015】
濾過槽102は、スラリーを収容する槽である。濾過槽102の下部には、スラリーを供給するスラリー流入口116が設けられている。
回転ドラム104は、ドラムの外周面に網目構造を有する円筒状のドラムである。回転ドラム104は、濾過槽102内に収容されているスラリーに下半部が浸漬するように配置されおり、一方向に連続的に回転する(図2では右回転)。
【0016】
濾布106は、所定の濾水性を有しており、スラリーを濾過して表面上に湿潤ポリマーを捕集する布である。濾布106は、スラリーから目的の湿潤ポリマーを捕集できるものであればよく、例えば、ポリエステル製のマルチフィラメントからなる糸条を所定の織密度で平織りした平織物などが挙げられる。
濾布106と回転ドラム104との間には、濾布106の強度低下を補う点から、所定の網目構造を有するスクリーンを設けてもよい。
【0017】
吸引部108は、回転ドラム104内の下部に設けられており、スラリーを回転ドラム104の内部方向へと吸引する。スラリーが吸引されることにより、湿潤ポリマーが濾布106表面に捕集され、濾液が吸引部108内に透過する。吸引部108内の吸引方法は特に限定されず、減圧ポンプによる減圧などが挙げられる。
吸引部108を設ける位置はスラリーを吸引できる位置であればよく、回転ドラム104のうち、スラリーに浸漬している範囲内に設けることができる。
【0018】
集液管110は、回転ドラム104の軸部分に設けられ、吸引部108に連通している。吸引部108内に透過してきた濾液が集液管110から濾過機100外に排出される。
シャワーノズル112は、濾布106上に捕集された湿潤ポリマーに洗浄液を噴霧するノズルである。シャワーノズル112の数は、湿潤ポリマーに均一に洗浄液を噴霧できれば特に限定されない。
【0019】
スクレーパ114は、その先端部が濾布106の表面に近接しており、他端が濾過槽102の外部に位置するように設けられている。回転ドラム104の回転に従って、スクレーパ114と濾布106との近接部分で湿潤ポリマーが掻き取られ、掻き取られた湿潤ポリマーが次工程のペレタイザー20に送られる。
【0020】
洗浄液タンク18は、湿潤ポリマーを洗浄する洗浄液を貯留するタンクである。洗浄液タンク18に貯留されている洗浄液が、濾過機100のシャワーノズル112に送られ、湿潤ポリマーに噴霧される。
【0021】
ペレタイザー20は、脱水洗浄装置16で得られた湿潤ポリマーをペレット状に成形する装置である。ペレタイザー20は、湿潤ポリマーをペレット状に成形できるものであればよく、例えば、多孔板により成形する装置などが挙げられる。
乾燥機22は、ペレット状に成形された湿潤ポリマーを乾燥する装置である。乾燥機22は、ポリマーを乾燥できるものであれば特に限定されない。
【0022】
濾液タンク24は、脱水洗浄装置16から排出される濾液を貯留するタンクである。濾液タンク24は、濾液を貯留できるものであれば特に限定されない。
MS塔26は、濾液から未反応モノマーを分離、回収する塔である。MS塔26には、蒸気が導入されており、その蒸気により濾液の気液分離が行われ、塔頂部から溶媒成分と未反応モノマーが分離、回収され、蒸留塔12に送られる。また、塔底からは排液が取り出される。
【0023】
[製造方法]
本発明の製造方法は、モノマーを含む原料液から重合によりポリマーを含むスラリーを得る重合工程と、ポリマーを含むスラリーを脱水して湿潤ポリマーを得て、該湿潤ポリマーを、脱水しながら界面活性剤を含有する洗浄液で洗浄する脱水洗浄工程と、脱水洗浄工程の後、前記湿潤ポリマーをペレット状に成形する成形工程と、成形した湿潤ポリマーを乾燥する乾燥工程とを含む方法である。
【0024】
本発明の製造方法により製造するポリマーの種類は、特に限定はなく、例えば、アクリロニトリル系ポリマーなどが挙げられる。
アクリロニトリル系ポリマーは、アクリロニトリルモノマーに由来する構成単位を含有するポリマーである。アクリロニトリル系ポリマーは、アクリロニトリルモノマーとその他のモノマーとの共重合体であることが好ましい。
【0025】
アクリロニトリルモノマーと共重合させるその他のモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸およびそのエステル、酢酸ビニル、アクリルアミド、塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、ベンゼンスルホン酸およびその塩などが挙げられる。
【0026】
アクリロニトリル系ポリマーは、その製造に用いる全モノマー量(100質量%)中のアクリロニトリルモノマーの含有量が、85〜98質量%であることが好ましく、90〜95質量%であることがより好ましい。アクリロニトリルモノマーの含有量が98質量%を超えると、得られる繊維が脆くなり、紡績工程等により加工性に劣るものとなりやすい。また染色性にも劣る繊維となりやすい。一方、アクリロニトリルモノマーの含有量が85質量%未満になると、得られた繊維が耐熱性に劣るものとなりやすい。
【0027】
以下、本発明の製造方法の実施形態の一例として、図1に例示した製造設備1によりアクリロニトリル系ポリマーを製造する方法について詳細に説明する。
本実施形態のポリマーの製造方法は、モノマーを含む原料液から重合によりポリマーを含むスラリーを得る重合工程と、該ポリマーを含むスラリーを蒸留して、スラリーから未反応モノマーを分離する蒸留工程と、スラリーを濾過により脱水して湿潤ポリマーを得て、さらに該湿潤ポリマーを脱水しながら界面活性剤を含有する洗浄液で洗浄する脱水洗浄工程と、脱水洗浄工程の後、湿潤ポリマーをペレット状に成形する成形工程と、成形した湿潤ポリマーを乾燥する乾燥工程と、脱水洗浄工程における濾液から未反応モノマーを回収する回収工程とを有する。
【0028】
(重合工程)
重合は、重合釜10にて行われる。重合方法は特に限定はなく、水系懸濁重合、溶液重合、乳化重合などの公知の方法を用いることができる。重合方法としては、生産性が高く、ポリマーの取り扱いが容易である点から、水系懸濁重合が特に好ましい。水系懸濁重合は、水を媒体として用いて重合を行う方法である。水としては、例えば、イオン交換水などが用いられる。
重合は、連続式であってもよく、バッチ式であってもよい。
【0029】
アクリロニトリルモノマーと、共重合させるその他のモノマーとを水に溶解した原料液を調製し、その原料液を反応釜10に供給する。原料液中の水とモノマーとの比率は特に限定されないが、水の比率が低いほど、後の工程において得られる湿潤ポリマーの含水率を低下させることが容易になる。
原料液における全モノマーの質量Mm(共重合の場合は、アクリロニトリルモノマーの質量と共重合させるモノマーの質量との合計)に対する水の質量Mwの比率(Mw/Mm)は、Mw/Mm=1.0〜5.0であることが好ましい。
【0030】
重合反応の条件は、アクリロニトリル系ポリマーの製造において通常行われている条件を使用することができる。
重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの酸化剤、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素アンモニウム、チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウム、亜二チオン酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒドスルフォキシレート、L−アルコビン酸、デキストローズなどの還元剤などの無機系レドックス開始剤などが挙げられる。
【0031】
重合温度は、30〜80℃とすることが好ましい。重合温度が30℃以上であれば、充分な重合速度が得られ、生産性が向上する。また、重合温度が80℃以下であれば、アクリロニトリルモノマーが蒸発して重合転化率が低下することを防止しやすい。
また、pHは、用いる重合開始剤の酸化・還元反応の速度が向上する点から、2.0〜3.5であることが好ましい。
重合は、重合停止剤を添加することにより停止させることができる。重合停止剤は、シュウ酸などのラジカルトラップ剤、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)などのキレート剤、水酸化ナトリウムなどのpH調整剤などの水系懸濁重合に通常用いられるものを適宜組み合わせて使用することができる。
【0032】
(蒸留工程)
重合工程で得られたスラリーは、脱水洗浄工程における湿潤ポリマーの洗浄が容易になる点から、蒸留により未反応モノマーが分離されることが好ましい。
本実施形態では、重合工程で得られたスラリーが、送液ポンプ28により重合釜10から蒸留塔12へと送られる。蒸留塔12では、蒸留によりポリマー水溶液から未反応モノマーが分離、回収される。
【0033】
蒸留は、ポリマーの製造に通常用いられる蒸留塔により行うことができる。また、蒸留温度は、製造するポリマーの種類によっても異なるが、アクリロニトリル系ポリマーの製造においては、70〜100℃で行うことが好ましい。
蒸留されたスラリーは、送液ポンプ30により蒸留塔12からスラリータンク14に送られ、スラリータンク14で貯留される。
【0034】
重合工程で得られるスラリー(蒸留工程を行う場合は蒸留工程後のスラリー)におけるポリマーの質量Mpと水の質量Mwとの比率(Mw/Mp)は、スラリー送液ラインの設備トラブル、脱水洗浄装置16での処理能力の点から、Mw/Mp=2.5〜9.0であることが好ましい。Mw/Mpが2.5より小さい場合には、スラリー送液ライン内での沈降や対流が発生しやすく、工程トラブルを招きやすい。一方、Mw/Mpが9.0より大きい場合には脱水洗浄装置16での処理能力が悪くなり、結果として生産性が低下するおそれがある。
【0035】
(脱水洗浄工程)
ついで、送液ポンプ32によりスラリータンク14から濾過機100(脱水洗浄装置16)に送り、スラリーを脱水し、それにより得た湿潤ポリマーを、脱水しながら洗浄液で洗浄する。
具体的には、図2に示すように、回転ドラム104の下半部が浸漬するように濾過槽102にスラリーを供給する。そして、吸引部108によりスラリーを回転ドラム104の内部方向に吸引しながら、回転ドラム104を一方向に連続的に回転させる(図2では右回転)。吸引部108による吸引により、スラリー中のアクリロニトリル系ポリマーが濾布106上に捕集され、濾液は濾布106を透過して集液管110から排出される。これにより、濾布106上に捕集されたアクリロニトリル系ポリマーがスラリーから分離、脱水されて湿潤ポリマーが得られる。また、濾布106上の湿潤ポリマーに含まれる水分は常に濾布106および回転ドラム104を透過していくため、湿潤ポリマーの脱水が継続される。
【0036】
また、濾布106上の湿潤ポリマーを、脱水しながら洗浄液により洗浄する。洗浄液で洗浄することにより、湿潤ポリマーに付着した重合開始剤などの不純物を洗い流すことができる。
本発明の製造方法における洗浄液は、界面活性剤を含有している。そのため、湿潤ポリマーを洗浄すると同時に界面活性剤を付着させ、湿潤ポリマーの成形性を向上させることができる。洗浄液は、湿潤ポリマーの洗浄に通常用いられる洗浄液に界面活性剤を含有させたものを用いることができ、界面活性剤を水に溶解した水溶液であることが好ましく、界面活性剤をイオン交換水に溶解した水溶液であることが特に好ましい。
【0037】
界面活性剤は、ポリマーの成形性を向上させることができるものであればよく、製造するポリマーに応じて適宜選択すればよい。アクリロニトリル系ポリマーを製造する場合の界面活性剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルエステルスルホン酸ナトリウムなどのアニオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、プルロニック型エーテルなどのノニオン系界面活性剤などが挙げられる。
【0038】
洗浄液中の界面活性剤の含有量は、製造するポリマーの種類、界面活性剤の種類によっても異なるが、水と界面活性剤との合計質量を100質量%としたとき、0.003〜0.05質量%であることが好ましく、0.005〜0.015質量%であることがより好ましく、0.007〜0.012質量%であることが特に好ましい。
界面活性剤の含有量が0.003質量%以上であれば、ポリマーの成形性を向上させることが容易になる。また、界面活性剤の含有量が0.05質量%以下であれば、用いる界面活性剤の量が多くなりすぎることを防ぎやすい。
【0039】
洗浄液は洗浄液タンク18からシャワーノズル112へと送られ、湿潤ポリマーへと噴霧される。
洗浄液の温度は、40〜90℃であることが好ましい。洗浄液の温度が40℃より低い場合、湿潤ポリマーの洗浄効率、および湿潤ポリマーへの界面活性剤の付着効率が低下するおそれがある。一方、洗浄液の温度が90℃より高い場合、脱水洗浄装置16の濾布106の熱劣化を促進し、使用寿命を短くすることになる。
【0040】
脱水洗浄工程により得られた湿潤ポリマーは、スクレーパ114と濾布106との接触部分において掻き取られ、スクレーパ114によりペレタイザー20へと送られる。
得られた湿潤ポリマーの含水率は、40〜60質量%であることが好ましい。含水率が40質量%以上であれば、湿潤ポリマーの成形が容易になる。また、含水率が60質量%以下であれば、成形したポリマーの乾燥に必要なエネルギーを抑えやすい。
【0041】
(成形工程)
脱水洗浄工程により得られた湿潤ポリマーは、ペレタイザー20によりペレット状に成形される。ペレット状に成形する方法は、ポリマーの製造に通常用いられる方法を用いることができ、例えば、多孔板により成形する方法などが挙げられる。
【0042】
(乾燥工程)
ペレット状に成形したアクリロニトリル系ポリマー(湿潤ポリマー)は、乾燥機22で乾燥される。乾燥方法は、ポリマーを乾燥して含水率を低減できるものであれば特に制限されない。
乾燥温度は、50〜150℃とすることが好ましい。
アクリロニトリル系ポリマーの製造の場合は、アクリロニトリル系ポリマーの含水率が10質量%以下となるまで乾燥することが好ましい。
【0043】
(回収工程)
脱水洗浄工程における濾液は、濾液タンク24で貯留された後、MS塔26において残存している未反応モノマーが回収される。MS塔26における未反応モノマーの回収は、ポリマーの製造において通常用いられる条件を使用することができる。回収した未反応モノマーは、蒸留塔12へと送られる。
【0044】
以上説明した本発明のポリマーの製造方法は、界面活性剤の使用量を抑え、かつポリマーの成形性を充分に向上させることができる。そのため、界面活性剤のコストおよび乾燥に必要なエネルギーコストを抑えることができる。
これは、本発明の製造方法では、界面活性剤を洗浄液に含有させているため、濾液に残存して排出される界面活性剤の量を抑えることができるためであると考えられる。また、洗浄と同時に湿潤ポリマーに界面活性剤を付着させることができるため、湿潤ポリマーに界面活性剤を添加して混練する方法に比べて界面活性剤を均一に付着させやすいためであると考えられる。
【0045】
尚、本発明の製造方法は、図1に例示した製造設備1を利用する方法には限定されない。例えば、蒸留工程や回収工程を備えていないものであってもよい。また、本発明の製造方法は、アクリロニトリル系ポリマーの製造には限定されない。
また、脱水洗浄装置16も、図2に例示した濾過機100には限定されない。例えば、スラリーを脱水して得られた湿潤ポリマーを洗浄液で洗浄できるものであれば、遠心脱水機であっても構わない。
【実施例】
【0046】
以下、実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。また、本実施例における「部」は「質量部」を意味する。
【0047】
[実施例1]
図1に例示した製造設備1を用いてアクリロニトリル系ポリマーの製造を行った。
(重合工程)
アクリロニトリル、酢酸ビニル、イオン交換水を、アクリロニトリル/酢酸ビニル/イオン交換水=91/9/200(部)の割合で混合して調製した原料液と、重合開始剤である過硫酸アンモニウムと酸性亜硫酸ナトリウムとを重合釜10に供給し、反応温度50℃で重合を行った。重合は、硫酸によりpHを3.0に調整し、重合釜10での反応溶液の平均滞在時間が90分となるようにして連続式で行った。重合開始剤は、原料液100部に対して0.70部の割合となるように添加した。
(蒸留工程)
重合により得られたポリマー溶液は蒸留塔12で蒸留して未反応モノマーを分離し、スラリータンク14で貯留した後に濾過機100へと送液した。蒸留塔12での蒸留温度は85℃とした。
【0048】
(脱水洗浄工程)
洗浄液として、界面活性剤であるポリオキシエチレンステアリルエーテルを0.010質量%含有するイオン交換水を用いた。図2に例示した連続式回転型濾過機100により、スラリーを脱水して得られた湿潤ポリマーを、脱水しながら前記洗浄液で洗浄した。得られた湿潤ポリマーの含水率は45質量%であった。
(成形工程および乾燥工程)
ついで、得られた湿潤ポリマーをペレタイザー20でペレット状に成形し、乾燥機22により乾燥して含水率1.0質量%のアクリロニトリル系ポリマーを得た。
得られたアクリロニトリル系ポリマー(100g)あたりのポリオキシエチレンステアリルエーテルの使用量は0.02gであった。
【0049】
[比較例1]
界面活性剤をスラリータンク14内のスラリーに添加した以外は、実施例1と同様の方法でアクリロニトリル系ポリマーを得た。
得られたアクリロニトリル系ポリマー100gあたりのポリオキシエチレンステアリルエーテルの使用量は0.04gであった。
【0050】
[ポリマーの成形性の評価]
実施例1および比較例1にて得られたアクリロニトリル系ポリマー(乾燥ペレット)W1(g)を10メッシュのふるいに載せ、振盪機で10秒間振盪させた後、ふるい上に残留した乾燥ポリマー量W2(g)を計量し、以下の式から残留率を算出した。残留率が高い程乾燥ペレットの強度が高いことを示す。
残留率(%)=(W1/W2)×100
実施例1および比較例1において残留率を算出した結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示すように、実施例1では、アクリロニトリル系ポリマー(100g)あたり0.02gのポリオキシエチレンステアリルエーテルにより、高強度な乾燥ペレットを得ることができた。
一方、比較例1では、実施例1に比べて2倍のポリオキシエチレンステアリルエーテルを用いたにもかかわらず、実施例1よりも乾燥ペレットの強度が劣っていた。
以上のように、本発明の製造方法は、より少ない界面活性剤の使用量でポリマーの成形性を向上させ、乾燥に必要なエネルギーを低減できた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のポリマーの製造方法は、界面活性剤の使用量を抑え、かつポリマーの成形性を向上させて乾燥に必要なエネルギーを低減できるため、アクリロニトリル系ポリマーなどの様々なポリマーの製造方法に好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明のポリマーの製造方法を適用した製造設備の一例を示した工程図である。
【図2】本発明のポリマーの製造方法に適用される連続式回転型濾過機の一例を示した概略断面図である。
【符号の説明】
【0055】
1 製造設備 10 重合釜 12 蒸留塔 14 スラリータンク 16 脱水洗浄装置 18 洗浄水タンク 20 ペレタイザー 22 乾燥機 24 濾液タンク 26 モノマーストリップ塔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマーを含む原料液から重合によりポリマーを含むスラリーを得る重合工程と、ポリマーを含むスラリーを脱水して湿潤ポリマーを得て、該湿潤ポリマーを、脱水しながら界面活性剤を含有する洗浄液で洗浄する脱水洗浄工程と、脱水洗浄工程の後、前記湿潤ポリマーをペレット状に成形する成形工程と、成形した湿潤ポリマーを乾燥する乾燥工程とを含むことを特徴とするポリマーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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