説明

ポリマーストライプで塗膜した、防弾性能の増大した布帛

一連の曲線、ストライプまたはこれらの組み合わせにおいてポリマーが配列された布帛層であって、ポリマーが一連の曲線、ストライプまたはこれらの組み合わせ内で実質的に連続し、かつ布帛層の20%以下を覆う布帛層、およびその層の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防護衣類に用いられる粘性ポリマー溶液の塗膜布帛に係る。
【背景技術】
【0002】
多くの可撓性防護服は、弾道発射物を適切に止めることができるものの、防護チョッキ等の物品において、ある坪量の布帛だと、鈍的外傷によって、重傷や死を招く可能性が尚ある。従来から、鈍的外傷を減じるために、より剛性の層の布帛が、身体近くに使われてきたが、貫通に対する弾道抵抗性を大幅に損なうことが知られている。さらに、布帛は、接着剤で均一に含浸され、これに伴う坪量の増加を補うために、含浸層を身体の近くに配置して、鈍的外傷を減じるのが一般的である。これによって、防護服の重量が増し、快適さが減じる。
【0003】
特許文献1には、防弾繊維および布帛への、カーボンブラック、フュームドシリカ(ナノ−シリカ)および少量の接着剤「グルー」からなる典型的な組成の膨張性乾燥粉末の適用が開示されている。
【0004】
特許文献2では、接着力修正剤で塗膜され、マトリックス樹脂中に埋め込まれたアラミド織布の剛性複合体が検討された。摩擦が減じ、界面が脆弱化することによって、防弾性能の改善となった。布帛での摩擦が大きすぎたり、マトリックスの剛性が大きすぎる場合には、弾道抵抗性が大幅に損なわれる。
【0005】
特許文献3は、樹脂が、繊維用のバインダーとして作用する複合体材料に関する。これは、主に、単配向性である。これらの繊維配列は、樹脂の2枚の連続層間に挟まれている。
【0006】
特許文献4は、可撓性を増大するために、単配向性構造にパッチで樹脂を適用するものである。
【0007】
坪量を大幅に減少するには、弾道貫通抵抗性(V50)の改善および背面変形(BFD)の減少が必要である。本発明は、この問題を解決する手段を提供する。
【0008】
【特許文献1】米国特許第5,776,839号明細書
【特許文献2】米国特許第5,229,199号明細書
【特許文献3】米国特許第5,061,545号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2002/0037391 A1号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ポリマーの塗膜を含んでなる布帛層であって、塗膜が一連の曲線、ストライプまたはこれらの組み合わせにおいて布帛層に配列され、かつ一連の曲線、ストライプまたはこれらの組み合わせ内で実質的に連続し、そして布帛層の20%以下を覆い、および布帛が6.5N/cm〜10N/cmの引抜力を有する、布帛層に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明によって、非常に強い樹脂で布帛を適切に含浸することができ、これに伴うV50の損失とはならずに、非常に高い繊維摩擦レベルとなる。繊維布帛の弾道抵抗性は、多数の変数の相互作用や、非常に短時間の事象(約100マイクロ秒)のために、非常に複雑な問題である。コンピュータシミュレーションによって、繊維歪みの役割や層内動力学等、以前は分かっていなかった、現象の見識や理解が可能となっている。
【0011】
これは、多様な液状および固形接着剤を用いて、一連の比較的細いストライプで布帛に適用することにより成される。ストライプは、実質的に連続した直線、曲線またはこれらの組み合わせの形態とすることができる。ストライプは、布帛層の約20%以下としなければならない。布帛は、アラミド繊維から形成したとき、約6.5N/cm〜10N/cmの引抜力を有しているのが好適である。コンピュータで調べると、防護衣類に用いられる従来の布帛の中には弾道抵抗性に乏しいものがあるが、これは、(i)ヤーンの引抜力の値が低いこと、(ii)大量の強固な接着剤の略均一な含浸による過剰な曲げ剛性、および(iii)非常に可撓性の布帛層を、剛性の含浸布帛層と混合する複合システムの使用によるものである、ということが分かっている。
【0012】
これは、細いストライプで接着剤を適用することにより対処されており、坪量が減じるために、塗膜または含浸された布帛を多層システム全体で用いることができ、上述した問題(iii)を解決している。
【0013】
このコンピュータモデルでは、約10mm離れた細いストライプに沿って配列され、織り方パターンに対して対角に延在する強固な接着剤を、布帛全面積を約18%覆うように塗膜して、布帛層を分析した。ストライプの代表的なパターンを図1に示す。ストライプは、図1に示すように、ほぼ2つのヤーン交差部に相当する幅を有しており、ヤーン2と2’とは、縦糸/横糸織り方のように、実質的に垂直である。このように、幅は、布帛を作製する織り方の緻密さおよびヤーンのデニールに応じて異なる。ストライプの幅は、約2mmであるのが好ましい。ストライプは、図1に示す布帛織り方の面内のいずれかの軸に対して余角の(すなわち、合計が90度に等しい)角度AおよびA’で配列されている。このように、角度Aの1つもしくはそれ以上のストライプは、互いに実質的に平行で、互いに実質的に平行な角度A’の1つもしくはそれ以上のストライプと90度で交差している。角度AおよびA’は、約30〜60度の範囲内である。AおよびA’はそれぞれ約45度であるのがより好ましい。
【0014】
接着剤の役割は、(i)ヤーン引抜力、Fpullおよび(ii)Ebend=0.2.E.d/12(アラミドヤーンについては、d=0.25mmはヤーンの直径、E=140Gpaは引張係数である)に設定された値により曲げ係数を増大することと想定された。ストライプのパターンは、1つの層から次へ、パックの厚さを通して、不規則にシフトする。試験のために、パックは、クレイの弾性(圧縮率E=3MPa)を有するバックグラウンドに対して配置されたものと想定され、質量10.2gおよび半径3.7mmの球の非変形性発射に対して試験される。
【0015】
弾性貫通抵抗性は、Y.ターモニア、織布の耐衝撃性、テキスタイルリサーチジャーナル(Y. Termonia,Impact Resistance of Woven Fabrics.Textile Research Journal)、74, 723−729 (2004年)]により、各層を横断する歪み波動方程式を解いて、アイリング活性化速度理論およびY.ターモニアおよびP.スミス(Eyring’s activation rate theory and Y.Termonia and P.Smith)、ポリ(フェニレン−テレフタルアミド)繊維の最終機械特性の理論的研究、ポリマー(Theoretical Study of the Ultimate Mechanical Properties of Poly(phenylene−terephthalamide)Fibers.Polymer)、27、1845−1849(1986年)]に基づいた運動破壊モデルに従ってヤーンを破損することにより測定された。実際のインストロン繊維引抜試験によれば、高Fpull=10N/cm値は、本発明の教示に従って適用されたEA9313(芳香族アミンエポキシ、カリフォルニア州、ベイポイントのロックタイト(Loctite,Bay Point,California)より入手可能)等の高靭性を有するハイソールエポキシ(Hysol Epoxi)0151樹脂を用いることにより得られることが分かった。布帛を塗膜するのに好適なその他のポリマーとしては、シアノアクリレート接着剤、ウレタン接着剤および脂肪族アミンエポキシ樹脂が挙げられる。ポリマーは、ホモポリマー、コポリマー、ブレンドまたはこれらの混合物とすることができる。
【0016】
pull=10N/cmは、(40cmx40cm)層の中心での衝撃については、アラミドヤーンの破断強度に近い値に対応していることに、最後に留意する。これらの高値は、非常に強固で剛性のある樹脂によってのみ得ることができ、パンチスルーを避けるためには、本発明の教示に従って、局所的に適用されなければならない。
【0017】
布帛層を作製するのに好適な材料としては、ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリオレフィン、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリ{2,6−ジイミダゾ[4,5−b4’,5’−e]ピリジニレン−1,4(2,5−ジヒドロキシ)フェニレン}、ポリアレーンアゾール、ポリピリダゾール、ポリピリドビスイミダゾールおよびこれらの混合物が挙げられる。
【0018】
本発明は、平面変形とV50の良好な釣り合いを取って、かなり少ない坪量で、防弾衣類を製造するものである。良好なドレープ性というさらなる利点もあり、快適さが増す。
【実施例】
【0019】
実施例1
840デニールヤーン(引張り係数E=140Gpa)の平織り構造を有し、166g/m(4.9oz/sqy)の公称面重量を有するポリアラミド布帛層のパックを、コンピュータを用いてシミュレートした。表1に、臨界穿孔速度V50および背面変形値BFD(対応のV50で測定)の、層の合計数および6〜10N/cm内の繊維引抜力(Fpull)に対する計算された依存性を示す。モデル予測は、対角に沿った強固な樹脂の細いストライプで処理された層についてのV50およびBFDについてである。
【0020】
【表1】

【0021】
表1に示した結果によれば、約8〜10N/cmという高FpullでV50が大幅に増加していることが分かる。
【0022】
実施例2
布帛全面積を実質的に同じく18%覆うようにするため、さらに離して(約20mmの距離)配置された、より幅広の対角ストライプ(約4mm)以外は、布帛のモデリングは実施例1と同じであった。
【0023】
【表2】

【0024】
防弾性能は、表1の細いストライプよりも低い約15〜20m/秒であり、まだ許容できる結果である。
【0025】
比較実施例A
以下の例は、樹脂がない以外は、実施例1に記載した布帛の22枚の層のパックについてのコンピュータモデルにより予想される防弾性能を示すものである。Fpullの値は、未処理の840デニールの平織りアラミド布帛について実験的に測定されたものに特有である。実施例1と同様に、BFD値は対応のV50で測定したものである。
【0026】
【表3】

【0027】
防弾性能は、実施例1および2で得られたものよりもかなり低い。
【0028】
比較実施例B
これは、ヤーン方向に沿ってストライプが延びている、すなわち、ストライプが、縦糸と横糸のように、互いに相互に垂直である以外は、実施例1と同様である。
【0029】
【表4】

【0030】
防弾性能は、実施例1におけるよりも、60m/秒とかなり低い。
【0031】
比較実施例C
この例は、布帛面積を同じく18%覆ったダイヤモンド形パッチへと適用された樹脂の場合についてである。ダイヤモンドは、幅約12mmで、図2に示すようなサテンデザインで33mm離して(中心から中心まで)配置されている。ダイヤモンド形パッチは、サテンパターンであり、約11の交差部に等しい対角幅を有している。
【0032】
【表5】

【0033】
50の防弾性能は、実施例1におけるよりも、45m/秒と低い。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ポリマーのストライプの配列の概略図である。
【図2】ポリマーの従来の配列の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛層であって、ポリマーが一連の曲線、ストライプまたはこれらの組み合わせにおいて布帛層に配列され、かつ一連の曲線、ストライプまたはこれらの組み合わせ内で実質的に連続し、そして布帛層の20%以下を覆い、および布帛が6.5N/cm〜10N/cmの引抜力を有する、布帛層。
【請求項2】
ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリオレフィン、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリ{2,6−ジイミダゾ[4,5−b4’,5’−e]ピリジニレン−1,4(2,5−ジヒドロキシ)フェニレン}、ポリアレーンアゾール、ポリピリダゾール、ポリピリドビスイミダゾールおよびこれらの混合物よりなる群から選択される材料を含んでなる請求項1に記載の布帛層。
【請求項3】
ポリマーがシアノアクリレート接着剤、ウレタン接着剤、脂肪族アミンエポキシ樹脂および芳香族アミンエポキシ樹脂よりなる群から選択される請求項1に記載の布帛。
【請求項4】
布帛が織布である請求項1に記載の布帛。
【請求項5】
ポリマーが、一重織交差部の最長対角断面を実質的に覆うのに十分な幅である請求項4に記載の布帛。
【請求項6】
ポリマーが、布帛織り方の方向に沿った面内のいずれかの軸に対して余角で、実質的に平行なストライプにおいて配列されている請求項5に記載の布帛。
【請求項7】
余角が30〜60度の範囲である請求項6に記載の布帛。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の布帛の10〜60層を含んでなる物品。
【請求項9】
防護衣類を含んでなる請求項8に記載の物品。
【請求項10】
織布帛層を準備し、布帛層に、布帛織り方の方向に沿った面内のいずれかの軸に対して余角で、一連の実質的に平行なストライプにおいてポリマーを適用することを含んでなる、布帛層の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−544109(P2008−544109A)
【公表日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−518321(P2008−518321)
【出願日】平成18年6月21日(2006.6.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/024007
【国際公開番号】WO2007/075192
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】