説明

ポリマー複合窯業板の製造方法

【課題】耐水性が大きく向上し、湿潤な雰囲気中に長期間曝されても反りが発生しにくいポリマー複合窯業板の製造方法を提供する。
【解決手段】水硬性材料、水及び油性物質を含有する水硬性逆エマルション組成物を成形して成形板を作製し、この成形板を養生硬化することによりポリマー複合窯業板を製造する。前記水硬性材料がセメント以外のポゾラン反応性を有する材料を含有する。セメントの含有量を前記水硬性逆エマルション組成物の固形分量に対して20質量%以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外壁材などとして用いられるポリマー複合窯業板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外壁材などの外装建材は耐水性等が必要とされるが、セメントは親水性であるためセメント系の窯業板は一般に耐水性が充分に高いとはいえない。そこで従来、窯業板の耐水性を高めることが検討されている。
【0003】
例えば特許文献1では、水、セメント、油性物質、及び特定の構造を有すると共に特定の配合量のアルコキシシランからなるセメント含有逆エマルジョン組成物を成形硬化することで、セメント系成形品を得ることが開示されている。このセメント系成形品は、ポリマーと複合化することで耐水性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−252670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、セメント含有逆エマルジョン組成物から形成される窯業板であっても、耐水性の向上が充分ではない場合がある。例えば窯業板が屋外で長期間風雨に曝されるなど、湿潤な雰囲気に曝された場合、この窯業板の風雨に曝された面側に伸びが生じ、このため窯業板に反りが生じることがある。
【0006】
このような窯業板の反りは、窯業板中のセメントが親水性を有しているため、窯業板が僅かずつ水を吸収してしまうために発生すると考えられる。
【0007】
本発明は上記事由に鑑みてなされたものであり、耐水性が大きく向上し、湿潤な雰囲気中に長期間曝されても反りが発生しにくいポリマー複合窯業板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るポリマー複合窯業板の製造方法は、水硬性材料、水及び油性物質を含有する水硬性逆エマルション組成物を成形して成形板を作製し、この成形板を養生硬化することによりポリマー複合窯業板を製造する方法であって、前記水硬性材料がセメント以外のポゾラン反応性を有する材料を含有し、且つセメントの含有量を前記水硬性逆エマルション組成物中の固形分量に対して20質量%以下とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐水性が大きく向上し、湿潤な雰囲気中に長期間曝されても反りが発生しにくいポリマー複合窯業板を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態に係るポリマー複合窯業板の製造方法では、水硬性材料、水及び油性物質を含有する水硬性逆エマルション組成物を成形して成形板を作製し、この成形板を養生硬化することによりポリマー複合窯業板を製造する。
【0011】
前記水硬性材料は、セメント以外のポゾラン反応性を有する材料を必須成分として含有する。セメント以外のポゾラン反応性を有する材料としては、高炉スラグ、フライアッシュ等が挙げられる。
【0012】
前記水硬性材料は、セメント以外のポゾラン反応性を有する材料のみで構成されていてもよいが、更にポルトランドセメント等のセメントが含まれていてもよい。但し、セメントの含有量は水硬性逆エマルション組成物中の固形分量に対して20質量%以下とする。固形分とは、水硬性逆エマルション組成物中に含まれるポリマー複合窯業板を構成する成分であり、通常は水硬性逆エマルション組成物中の水を除く成分である。セメントの含有量は固形分に対して0質量%でもよいが、ポリマー複合窯業板の強度向上のためには固形分に対するセメントの量が5質量%以上であることが好ましい。
【0013】
水硬性逆エマルション組成物中の水の含有量は適宜調整される。特に水硬性逆エマルション組成物の含水量が固形分量に対して28〜55質量%の範囲であることが好ましい。水硬性逆エマルション組成物の含水量を前記範囲とすることで、水硬性逆エマルション組成物の成形性を確保しつつポリマー複合窯業板の強度を高く維持することができる。
【0014】
油性物質は、水と共に逆エマルション(W/Oエマルション)を形成するために使用される。油性物質としては、特に制限されるものではないが、通常は疎水性の液状物質が利用される。油性物質の具体例としては、トルエン、キシレン、灯油、スチレン、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらの油性物質を一種単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。油性物質の含有量は、水硬性逆エマルション組成物の全体量に対して5〜10体積%の範囲が好ましい。
【0015】
水硬性逆エマルション組成物は上記の成分の他に、乳化剤を含有することが好ましい。乳化剤は逆エマルションを安定させるために使用することができる。乳化剤の具体例としては、ソルビタンセスキオール、グリセロールモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ジエチレングリコールモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ジグリセロールモノオレート等の非イオン界面活性剤、各種アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等が挙げられる。乳化剤の含有量は水硬性逆エマルション組成物の全体量に対して1〜3体積%の範囲が好ましい。
【0016】
水硬性逆エマルション組成物には軽量骨材を含有させることが好ましい。軽量骨材の具体例としては、パーライト、シラスバルーン等の無機系軽量骨材や、発泡ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン発泡体等の有機発泡体等の有機系軽量骨材等が挙げられる。この軽量骨材の含有量は、水硬性逆エマルション組成物中の水硬性材料100質量部に対して0.1〜40質量部の範囲とすることが好ましい。この場合、ポリマー複合窯業板の耐久性を充分に確保しつつポリマー複合窯業板の強度を充分に向上することができる。
【0017】
水硬性逆エマルション組成物中には、適宜量の補強材や各種添加剤を含有させてもよい。補強材の具体例として、砂利、ガラス粉、アルミナシリケートなどの骨材、ポリプロピレン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維等の合成繊維や、炭素繊維、ガラス繊維、パルプなどの補強繊維が挙げられる。
【0018】
水硬性逆エマルション組成物の具体的な調製方法の一例を示す。まず、乳化剤(例えば、ヤシ油)、スチレンモノマー、適量の水及び適量の架橋剤と重合開始剤とを混合して逆エマルション混合物を調製する。次に、この逆エマルション混合物と、水硬性材料と、有機系軽量骨材と、補強繊維とを混合すると共に含水量を調整する。或いは上記逆エマルション混合物と、水硬性材料と、無機系軽量骨材と、補強繊維とを混合すると共に含水量を調整する。この逆エマルション混合物と他の成分とは、例えば強制攪拌機あるいは連続混合機を用いて混合することができる。これにより、水硬性逆エマルション組成物を調製することができる。
【0019】
この水硬性逆エマルション組成物を成形して成形体を作製する。成形体の作製にあたっては、例えば水硬性逆エマルション組成物を押出成形し、或いは更にプレス成形することで、成形体を作製することができる。この水硬性逆エマルション組成物の成形時には、前記のとおり水硬性逆エマルション組成物の硬さの上昇が抑制されているため、水硬性逆エマルション組成物の良好な成形性が確保され、押出成形時に押出金型が詰まってしまうなどの成形不良の発生が抑制される。
【0020】
この成形体を、水硬性逆エマルション組成物の組成等に応じた適宜の条件で蒸気養生して硬化させた後、必要に応じて表面や端面の仕上げ加工を行うと共に所定の寸法に裁断することで、ポリマー複合窯業板を得ることができる。このポリマー複合窯業板には必要に応じて実加工等を施してもよい。
【0021】
このようにしてポリマー複合窯業板を製造すると、水硬性逆エマルション組成物中にセメント以外のポゾラン反応性を有する材料を含有させると共に、セメントの含有量を固形分量の20質量%以下とするために、ポリマー複合窯業板の吸湿性が大きく低減し、ポリマー複合窯業板が湿潤雰囲気に長期間曝されても反りが発生しにくくなる。
【実施例】
【0022】
以下、具体的な実施例を提示することで本発明を更に詳述する。
【0023】
[実施例1〜4、比較例1〜3]
水硬性逆エマルション組成物の原料として、セメント(比表面積4000±300cm/g)、高炉スラグ(比表面積4000±1000cm/g)、軽量骨材(パーライト;昭和化学工業株式会社製の品番B−03)、ポリプロピレン繊維、スチレン、乳化剤(ソルビタン脂肪酸エステル;第一工業製薬株式会社製の商品名ソルゲン40D)、添加剤(重合開始剤;日本油脂株式会社製の品番PCHO、並びに架橋剤;第一工業製薬株式会社製の品番TMPTM)、及び水を使用した。これらの原料を、各実施例及び比較例につき、表1に示す割合で配合し、アイリッシュミキサーで混練することで、水硬性逆エマルション組成物を調製した。尚、表1には水硬性逆エマルション組成物の固形分のみの組成を示している。水の配合量は、全ての実施例及び比較例において、水硬性逆エマルション組成物中の固形分量に対して50質量%とした。
【0024】
この水硬性逆エマルション組成物を押出成形して成形体を作製し、この成形体を養生硬化することでポリマー複合窯業板を製造した。
【0025】
[評価]
各実施例及び比較例について、比重、吸水率、反り量、及び強度を評価した。
【0026】
比重の測定にあたっては、ポリマー複合窯業板の寸法を10mm×100mm×100mmとし、このポリマー複合窯業板を105℃で24時間加熱乾燥してからその重量を測定した。またこのポリマー複合窯業板の体積をアルキメデス法により測定した。得られた重量と体積の値から、比重を導出した。
【0027】
吸水率の測定にあたっては、まず上記ポリマー複合窯業板を雰囲気温度80℃で10時間加熱乾燥してからその重量を測定して、得られた値を基準重量とした。このポリマー複合窯業板を水中に24時間浸漬してから再度その重量を測定し、得られた値を吸水重量とした。この基準重量と吸水重量から、吸水率を導出した。
【0028】
反り量は、JIS A5422 7.11に従った吸水による反り試験により測定した。
【0029】
強度の測定にあたっては、ポリマー複合窯業板の寸法を10mm×50mm×120mmとし、支点間スパン長100mmとし、スパンの中央に載荷速度2mm/minの条件で荷重を加えて、曲げ強度を測定した。測定結果を、比較例1の強度を100とした強度比で示す。
【0030】
この結果を表1に示す。
【0031】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性材料、水及び油性物質を含有する水硬性逆エマルション組成物を成形して成形板を作製し、この成形板を養生硬化することによりポリマー複合窯業板を製造する方法であって、前記水硬性材料がセメント以外のポゾラン反応性を有する材料を含有し、且つセメントの含有量を前記水硬性逆エマルション組成物中の固形分量に対して20質量%以下とすることを特徴とするポリマー複合窯業板の製造方法。