説明

ポリ乳酸製自動車用マット

【課題】
本発明は、長期の使用期間におけるヒール摩耗にも耐えうる耐久性に優れたポリ乳酸製自動車用マットを提供せんとするものである。
【解決手段】
本発明のポリ乳酸製自動車用マットは、タフティングマットが、繊維表面に天然物系ワックスおよび/または合成ワックスを含有するポリ乳酸繊維からなるパイル糸で構成されていることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒール摩耗が発生することなく、長期の使用することができる耐久性に優れた自動車用マットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より汎用的に用いられてきた合成繊維は一般に石油を原料としている。これに対しポリ乳酸繊維は、サトウキビ、トウモロコシ等の植物を原料に作られるため、石油資源の省資源化およびライフサイクル全体でのCO削減に効果があり、様々な用途での適用検討が行われている。かかるポリ乳酸繊維をパイルに用いたタフティングカーペットや自動車用マットにおいても実用化の検討がなされている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0003】
しかしながら、自動車用マットとして用いた際、使用条件によっては6ヶ月から1年程度の使用後において、摩擦によるパイルの摩耗、削れによる外観変化が発生したり、ひどい場合には、パイルが摩耗により削り取られ、一次基布、さらにはマット裏材が露出したり、穴が空いてしまう問題が発生している。このような現象は、運転者がアクセル、ブレーキ操作を行う際のかかとが触れる位置に集中して発生するため、一般にヒール摩耗と呼ばれている。
【0004】
また、摩擦に対する染色堅牢度向上目的で、脂肪族ポリエステルに平滑剤を付与する検討が行われており(特許文献3参照)、具体的に平滑剤としてシリコーン樹脂、ポリエチレン樹脂、特殊ポリエステル系樹脂が挙げられている。しかしながら、自動車用マットにこのような樹脂を付与させた場合、単糸同士が樹脂でくっついてしまい、風合い粗硬の原因となり、結果として耐摩耗性は向上しないものとなっていた。
【0005】
このように、ヒール摩耗が発生することなく、長期の使用期間、具体的には3年もしくは走行距離5万kmの使用期間にも耐えうるポリ乳酸製自動車用マットは未だ供給されていないのが現状である。
【特許文献1】特開2002−105752号公報
【特許文献2】特開2002−248047号公報
【特許文献3】特開2003−49364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、長期の使用期間におけるヒール摩耗にも耐えうる耐久性に優れたポリ乳酸製自動車用マットを提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用する。すなわち、本発明のポリ乳酸製自動車用マットは、タフティングマットが、繊維表面に天然物系ワックスおよび/または合成ワックスを含有するポリ乳酸繊維からなるパイル糸で構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポリ乳酸繊維をパイルに用いて構成されているにもかかわらず、実用的な耐久性を有する自動車用マットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、前記課題、つまり長期の使用期間におけるヒール摩耗にも耐えうる耐久性に優れたポリ乳酸製自動車用マットについて、鋭意検討し、ワックスを採用して、パイル重量の0.1〜10.0重量%の範囲でパイル糸を構成するポリ乳酸繊維の表面に付与・付着させてみたところ、上記課題を一挙に解決し、優れた耐久性を有する自動車用マットを提供することができることを究明し、本発明に到達したものである。
【0010】
本発明のかかる構成を採用することにより、上記効果を奏する上に、量産に適し、比較的安価にタフティングカーペットを製造することができ利点も達成することができたものである。
【0011】
かかるタフティングカーペットを構成する一次基布、つまり裏材の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、スチレン・ブタジエン・ラバー(SBR)等の各種材料が使用可能である。また、より石油の省資源化を図る目的で、非石油由来物質を原料とするポリ乳酸樹脂、天然繊維、天然ゴム等の各種材料を用いることも好ましい。
【0012】
また、かかるタフティングカーペットのパイルに用いる繊維材料としては、石油の省資源化を図る観点から、本発明ではポリ乳酸繊維を用いる。
【0013】
かかるポリ乳酸繊維を構成するポリ乳酸樹脂としては、L−乳酸を主成分とする、具体的には、構成成分の60質量%以上がL−乳酸よりなるものが好ましい。またD−乳酸を含有していてもよいが、その含有量として好ましくは40質量%以下である。
【0014】
また、本発明におけるポリ乳酸は、L−乳酸、D−乳酸のほかにエステル形成能を有するその他の成分を共重合した共重合ポリ乳酸であってもよい。かかる共重合可能な他の成分としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸類の他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の分子内に複数の水酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸等の分子内に複数のカルボン酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体を使用することができる。ポリ乳酸と共重合可能な他成分の割合は特に制限されないが、環境配慮の面からポリ乳酸比率50質量%以上が好ましい。
【0015】
また、溶融粘度を低減させるため、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、およびポリエチレンサクシネートのような脂肪族ポリエステルポリマーを内部可塑剤あるいは外部可塑剤として用いることができる。ポリ乳酸と可塑剤の割合は特に制限されないが、環境配慮の面からポリ乳酸比率50質量%以上が好ましい。
【0016】
かかるポリ乳酸樹脂およびそれからなる繊維の製造方法としては、乳酸を原料としていったん環状二量体であるラクチドを生成せしめ、その後開環重合を行う二段階のラクチド法や、乳酸を原料として溶媒中で直接脱水縮合を行う一段階の直接重合法を採用することができる。ラクチド法によって得られるポリマーの場合には、ポリマー中に含有される環状二量体が溶融紡糸時に気化して糸斑の原因となるのを防ぐために、溶融紡糸以前の段階でポリマー中に含有される環状二量体の含有量を0.1wt%以下とすることが望ましい。また、直接重合法の場合には、環状二量体に起因する問題が実質的にないため、製糸性の観点からはより好適であるといえる。
【0017】
ポリ乳酸樹脂の平均分子量は数平均分子量で5万〜30万が好ましく、より好ましくは10万〜30万である。5万以上とすることで、繊維の強度物性の低下を抑えることができる。
【0018】
また、かかるポリ乳酸樹脂には、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、抗酸化剤、着色顔料等として無機微粒子や有機化合物を必要に応じて添加することができる。また、染色等の熱水処理によるポリ乳酸の加水分解抑制や製品の経時による物性低下抑制を目的として、カルボジイミド化合物等の末端封鎖剤を含有していてもよい。
【0019】
かかるポリ乳酸樹脂は、次に溶融紡糸法により、通常の方法により製糸化され、パイル化される。まず、エクストルーダーでポリ乳酸樹脂を融点より40〜60℃高い紡糸温度で混練・溶融し、一定孔径のノズルから押し出して紡糸する。紡糸温度が融点+40℃よりも低い場合、ポリ乳酸樹脂内に未溶融物が発生し、糸切れが発生し、製糸性に問題が生じやすい。紡糸温度が融点+60℃よりも高い場合、ポリ乳酸の熱分解や熱劣化などによって、溶融ポリマーの粘度低下が発生し、品質に支障がでやすい。
【0020】
続いて紡糸された糸条は冷風で冷却固化し、延伸・嵩高加工をする。延伸倍率は3.0〜5.0倍の範囲とすることが好ましい。延伸倍率が3.0倍未満であると、ポリ乳酸の配向が低く、マルチフィラメントの強度が弱くなる。また、5.0倍以上であると配向が高くなりすぎ、硬い分子構造をとり、マルチフィラメントは脆くなる。
【0021】
パイルの形態としては、連続長繊維、短繊維を紡績したスパン糸、あるいはこれらを交絡等により混合させたもの等を挙げることができる。中でも、遊び毛が少なく風綿の発生が少ない連続長繊維が好適に用いられる。
【0022】
パイルの繊度、フィラメント数については製造工程中で必要とされる糸強力を満たす程度であればよいが、連続長繊維であれば総繊度1000〜3000dtex、フィラメント数50〜200が好ましく、スパン糸であれば3〜30綿番手が好ましい。
【0023】
本発明は、かくして得られたポリ乳酸繊維で構成されたパイル糸の繊維表面に自動車用マットにした際のヒール摩耗を発生することを抑制する目的で天然物系ワックスおよび/または合成ワックスを含有させるものである。
【0024】
本発明においてワックスとは、脂肪酸と水に不溶性な高級一価アルコール類または二価アルコール類とのエステルをいう。
【0025】
本発明でいう天然物系ワックスとは、天然物由来のワックスであれば特に制限がない。かかる天然物系ワックスとしては、動物由来の代表的な例としては蜜蝋、鯨蝋、セラック蝋が用いられ、また、植物由来の代表的な例としてはカルナバ蝋、木蝋、米糠蝋、キャンデリワラックスなどが用いられ、石油由来ワックスの代表的な例としてはパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどが用いられ、鉱物由来の代表的な例としてはモンタンワックス、オゾケライトなどを使用することができる。
【0026】
また、合成ワックスの代表的な例としては、フィッシャートロプシュワックス、低分子ポリエチレンワックスなどの合成炭化水素のものや、モンタンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス誘導体などの変形ワックスや、セチルアルコールやステアリン酸、グリセリールステアレート、ポリエチレングリコールステアレート、水素化ワックス、アーマーワックス、アクラワックスなどを使用することができる。
【0027】
これらのワックスをマットに付与させやすい形態、例えば乳化剤を用いて、水に乳化させて使用することについても特に制限はない。また、これらのワックスを少なくとも1種以上含んでいればよく、場合によっては2種以上の混合物でも何ら問題はない。
【0028】
これらのワックスをパイル糸に対して、0.1〜10重量%の範囲で付与していることを特徴とする。ワックスをパイル糸対比0.1重量%以上付与することにより、パイル糸に平滑性が得られ、結果として耐摩耗性が向上する。また、ワックスにて糸をコートすることにより、空気中の湿度による加水分解を抑えることができる。好ましくは1.0重量%以上付与することにより更に摩耗性が向上する。また、10重量%以上付与すると、耐摩耗性は向上するものの、マットとしての品位が低下するため好ましくない。
【0029】
本発明者らは、かかる特定なワックスが、上述の特殊な機能を発揮することを発見し、初めてこれをポリ乳酸パイル糸に付着させてみたところ、ポリ乳酸パイル糸に優れた前記効果を付与することに成功したものである。
【0030】
かかるワックスを付与する方法としては、タフティングする前の糸条であっても、タフティングした後であっても特に制限はなく、各々の工程でスプレー方式やパディング方式で付与することが可能である。
【実施例】
【0031】
[測定方法]
(1)総繊度
JIS L 1090により測定した。
【0032】
(2)捲縮伸長率
繊維に無荷重下で98℃×5分間の沸騰水処理を施した後風乾し、初荷重(1.82mg/dtex)をかけ、長さL1を測定した。次いで定荷重(90.91mg/dtex)をかけ、長さL2を測定し、下記式にて算出した。
捲縮伸長率(%)=(L2−L1)/L1×100 。
【0033】
(3)繊維の異型度
繊維横断面の外接円の直径Rと内接円の直径rとの比R/rを異型度とした。
【0034】
(4)摩耗減量率(常態)
JIS L 1096 8.17.3のテーバー摩耗試験法において、5500回の摩擦処理を施し、摩擦処理前後のサンプルの質量から下記式により求めた。
摩耗減量率(%)=(W1−W2)/(P×A)×100
W1:摩擦処理前のサンプルの質量。
W2:摩擦処理後、脱落したパイルを全て払い落としたサンプルの質量。
P:パイル目付。
A:摩擦処理後のサンプルにおいて、摩耗輪が接触した部分の面積。
【0035】
(5)摩耗減量率(強制劣化状態)
温度50℃、相対湿度95%RHの環境に1200時間放置したのち、JIS L 1096 8.17.3のテーバー摩耗試験法において、1000回の摩擦処理を施し、摩擦処理前後のサンプルの質量から上記(4)における式と同様にして求めた。
【0036】
[実施例1]
(紡糸・捲縮加工)
ポリ乳酸のチップ(L体比率95質量%、D体比率5質量%)をエクストルーダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度220℃で溶融し、溶融紡糸し、加熱流体捲縮加工装置により総繊度2000dtex、96フィラメント、異型度1.58の捲縮糸を得た。
【0037】
(合撚・染色)
得られた捲縮糸を160ターン/mにてS撚りし、さらにその糸を2本引きそろえて160ターン/mにてZ撚りを施し、合撚糸を得え、115℃でセットした。次いで、チーズ染色機にて、110℃で分散染料により染色し、グレーの染色糸を得た。
【0038】
(タフティング)
この染色糸をポリエチレンテレフタレート繊維製不織布の基布に1/10Gのタフティングマシンにてステッチ7.5本/2.54cm、パイル高さ5mmにてタフトし、カットパイルマットを製造した。
【0039】
得られたマットにスプレー方式にて天然物系ワックスのカルナバ蝋乳化液をパイル糸に対して5.0重量%付着するように付与して、乾燥機にて乾燥した。
【0040】
得られたマットのパイルを構成するパイル目付は1050g/m、摩耗減量率(常態)は15.4%、摩耗減量率(強制劣化状態)は8.4%であった。
【0041】
このマットを自動車用マットとして走行距離5万kmのテストを行ったところ、ヒール部分の外観変化はわずかであった。この結果を表1に示す。
【0042】
[実施例2]
紡糸からタフティングまでは実施例1と同様にし、得られたマットにスプレー方式にてパラフィンワックスをパイル糸に対して5.0重量%付着するように付与し、乾燥機にて乾燥した。
【0043】
得られたマットのパイルを構成するパイル目付は1050g/m、摩耗減量率(常態)は18.1%、摩耗減量率(強制劣化状態)は9.2%であった。
【0044】
このマットを自動車用マットとして走行距離5万kmのテストを行ったところ、ヒール部分の外観変化はわずかであった。この結果を表1に示す。
【0045】
[比較例1]
実施例1と同様にタフティングまで実施し、実施例のようにワックスは付与せずにマットを製造した。
【0046】
得られたマットの摩耗減量率(常態)は85.4%、摩耗減量率(強制劣化状態)は51.9%であった。
【0047】
このマットを自動車用マットとして走行距離5万kmのテストを行ったところ、パイルが摩耗により削り取られて、基布が見える状態になっていた。
【0048】
[比較例2]
実施例1と同様にタフティングまで実施し、シリコーン樹脂をパイル糸対比5.0重量%付与してマットを製造した。
【0049】
得られたマットの摩耗減量率(常態)は84.3%、摩耗減量率(強制劣化状態)は46.3%であった。
【0050】
このマットを自動車用マットとして走行距離5万kmのテストを行ったところ、パイルが摩耗により削り取られて、基布が見える状態になっていた。
【0051】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明のポリ乳酸繊維製自動車用マットはヒール摩耗に対してパイルの摩耗による削れ、脱落を防止し、3年もしくは走行距離5万kmの使用期間に耐えうることから自動車用オプションマット、ラインマットに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タフティングマットが、繊維表面に天然物系ワックスおよび/または合成ワックスを含有するポリ乳酸繊維からなるパイル糸で構成されていることを特徴とするポリ乳酸製自動車用マット。
【請求項2】
該ワックスが、該パイル糸に対して0.1〜10.0重量%の範囲で含有することを特徴とする請求項1に記載のポリ乳酸製自動車用マット。
【請求項3】
該天然物系ワックスが、動物系ワックス、植物系ワックス、鉱物系ワックスおよび石油系ワックスの中から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリ乳酸製自動車用マット。
【請求項4】
該合成ワックスが、合成炭化水素系ワックス、変性ワックス、セチルアルコール、ステアリン酸、グリセリールステアレート、ポリエチレングリコールステアレート、水素化ワックス、合成ケトンアミンアマイドの中から少なくとも1種を使用していることを特徴とする請求項1〜3のいずかに記載のポリ乳酸製自動車用マット。
【請求項5】
該天然物系ワックスがカルナバワックスを0.1重量%以上含むことを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸製自動車用マット。

【公開番号】特開2007−182124(P2007−182124A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1131(P2006−1131)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】