説明

ポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材

【課題】エアーポケットによるフクレの抑制ができる1液型シーリング材の提供。
【解決手段】ポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材の主成分であるポリ塩化ビニル樹脂に、粒径が10〜50μmの粗粒タイプを使用することで、温度ゲル化曲線からの粘度変化率が+30%となった温度をゲル化溶融開始温度としたときのゲル化溶融開始温度を90〜110℃と高くしゲル化の開始を遅延させる。これによってゲル化開始時の粘度を低く維持することができエアーポケット内のエアーの排出がスムースに行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に空間があっても加熱硬化時の空気熱膨張による膨れ等の不良が発生し難い、自動車のドア等の蓋物パネル等に用いられるシーリング材に関するもので、特に、ポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車製造ラインにおいて、ドアやフード等の蓋物と呼ばれる鋼板の合わせ部であるヘミング部には、シーリング材が塗布され、その後、塗料焼付にて加熱され、両板材を固着している。
しかし、塗料焼付で加熱されるとヘミング内部のエアーの熱膨張によりフクレが発生し、外観品質の問題となり、大きいものは穴があき、シーリング材の機能である水密性が失われることもある。そのためフクレの大きいものは修正が必要となり、自動車製造ラインにおいて多大なる工数がかかっていた。
【0003】
このような現象を抑制させるため、特許文献1に記載されている技術は、主剤と硬化剤とからなる2液混合型シーリング材で、混合直後には塗布可能な流動性を有し、20℃〜40℃の範囲内の室温で架橋反応が進行して硬化し、その後の加熱処理時には粘度が1.0×105Pa・s〜1.0×108Pa・sの範囲内まで硬化が進行し、加熱処理時においても粘度が1.0×105Pa・s〜1.0×108Pa・sの範囲内を保持するものである。
【0004】
このような2液混合型シーリング材においては、主剤と硬化剤とを混合した直後には塗布可能な流動性を有しているので、所定の部分に所定の厚さで塗布することができ、塗布後には20℃〜40℃の範囲内の室温でも架橋反応が進行して硬化し、例えば、その後の塗装加熱硬化時等の加熱処理時においては、既に粘度が1.0×106Pa・s〜1.0×109Pa・sの範囲内まで硬化が進行する。
したがって、シーリング材塗布部分の内部に空間が存在して、その部分の空気が加熱硬化時の高温(140℃前後)によって熱膨張しようとしても、シーリング材の粘度が1.0×106Pa・s〜1.0×109Pa・sの範囲内まで硬化しているため空気の熱膨張が抑えられて、膨れが殆ど発生しない。そして、引き続き加熱硬化時の高温(140℃前後)に曝されてもシーリング材の粘度が1.0×106Pa・sより軟化することはないので、膨れが発生したり垂れが生じたりすることもなく、良好な外観を保つことができるものである。
【0005】
また、特許文献2では、1液型シーリング材と見ることができるものの、接着クリアランスをより狭くしてエアー溜りの可能性をできるだけ抑え、かつ、適度の仮止め効果を維持させ、ある程度のエアーが残留しても、ボデーシーラーのフクレの発生を防止若しくは軽減でき、ヘミング接着剤に配合する球形粒子として、特定平均粒径のガラスビーズを用い、かつ、従来よりも低圧締条件下でプレス(加圧)しても、適度の接着クリアランス及び仮止め効果が得られ、更に、ボデーシーラーに熱硬化性材料を配合することにより、加熱時強度を付与すればフクレの発生を有効に防止若しくは軽減し得るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−262184
【特許文献2】特開2004−26070
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、特許文献1は、内部に空間があっても膨れが発生し難く、高温においても膨れを抑制できる粘度を有する2液混合型シーリング材とすることによって、容易に良好な外観を得ることができるものである。
【0008】
しかし、このような2液混合型シーリング材は、吐出装置が1液に比べ複雑で高価でもあり、作業性についても1液に比べ劣ることから採用され難いという問題点があった。そこで、従来設備を使用し、かつ、作業性を考慮し、1液型シーリング材でエアーポケット(エアー溜り)によるフクレの抑制ができる材料の開発が望まれていた。
【0009】
特許文献2は、車体パネルの接着剤中に100〜300μmのガラスビーズを0.3〜2.0重量重量%添加することで低圧プレスできるシーリング材を提供している。板合わせ部に用いられるシーリング材は、熱硬化性材料を3重量%以上添加して150℃に加熱時の強度が50kPa以上にして施工すれば、フクレ等を有効に防止または低減できることになる。但し、エアーポケットによるフクレは熱による連続した体積膨張に伴う現象であることから、現在用いられる1液化加熱硬化タイプは、概ね40℃以上の昇温過程時に発生し始めることになる。したがって、150℃での熱間時の強度を50kPa以上としても既にフクレは生じているはずである。このような特許文献2は、完全なる1液に比べ複雑であり、かつ、高価でもあり、作業性についても1液に比べ劣ることから採用されていないのが現状である。
【0010】
そこで、本発明は、鋼板の合わせ部分であるヘミング部に発生するエアーポケットに起因するフクレの抑制が可能な1液型のポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明にかかるポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材は、温度ゲル化曲線から粘度変化率が+30%となった温度をゲル化溶融開始温度とし、当該ゲル化溶融開始温度を90〜110℃としたものである。
ここで、温度ゲル化曲線から粘度変化率が+30%となったゲル化溶融開始温度とは、ポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材の粘度の変化率が30重量%上昇したときの温度である。
また、ポリ塩化ビニル樹脂とは、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride;PVC)または塩化ビニル樹脂であり、塩化ビニルまたは塩ビ等と呼ばれ、塩化ビニル(クロロエチレン)を重合してなるものである。
そして、可塑剤とは、熱可塑性合成樹脂に加えて柔軟性、対候性を改良する添加剤で、ポリエステル、フタル酸エステル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジブチル、アジピン酸エステル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル、トリメリット酸トリオクチル、リン酸エステル、アセチルクエン酸トリブチル、セバシン酸エステル、マレイン酸エステル、安息香酸エステル等の使用が可能である。
【0012】
請求項2の発明にかかるポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材は、粗粒タイプ(中位径10〜50μm)のポリ塩化ビニル樹脂を使用することで、ゲル化溶融開始温度を90〜110℃としたものである。前記粗粒タイプの中位径(メディアン径)とは、積算重量%の分布曲線において、10重量%の横軸と交差する点の粒子径を10重量%径、30重量%の横軸と交差する点の粒子径を30重量%径、80重量%の横軸と交差する点の粒子径を80重量%径といい、これを「任意重量%粒子径」と呼び、特に、50重量%粒子径は、メディアン径(中位径)と呼んでいる。本発明で使用する粒子径はレーザー光散乱方式で測定したものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1のポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材は、ゲル化溶融開始温度を90〜110℃としたものである。ゲル化溶融開始を遅延し、ゲル化溶融開始温度を90〜110℃とすることで、ポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材のゲル化に伴うエアーポケットに溜ったエアーの排出阻害によるフクレに起因する不具合の発生が抑制される。即ち、エアーポケットに溜ったエアーの排出を容易にし、フクレに起因する要因を排除することができる。
【0014】
請求項2のポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材は、ゲル化溶融開始温度を90〜110℃とするために粗粒タイプのポリ塩化ビニル樹脂を使用したものである。
ポリ塩化ビニル樹脂のゲル化はポリ塩化ビニル樹脂が加熱されて所定の温度になったとき開始する。そして、その温度はポリ塩化ビニル樹脂の粒子の大きさに影響される。つまり粒子が大きくなるほど粒子自体が温まる時間が長くなり、これによって加温に必要な温度が高くなる。本発明においては粗粒タイプ(中位径10〜50μm)の粒径を使用することでゲル化溶融開始温度90〜110℃を達成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は本発明の実施の形態のポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材の実施例及び比較例を作成するための温度ゲル化曲線である。
【図2】図2は本発明の実施の形態のポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材の実施例及び比較例の温度ゲル化曲線である。
【図3】図3は本発明の実施の形態のポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材の接合状態を説明する平面図(a)及び断面図(b)である。
【図4】図4は本発明の実施の形態のポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材の接合状態を説明する図3(b)に相当する断面図である。
【図5】図5は本発明の実施の形態のポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材の接合状態を説明する平面図(a)及び断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、図示において、図示の同一記号及び同一符号は、同一または相当する機能部分であるから、ここではその重複する説明を省略する。
【0017】
まず、本発明の実施の形態のポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材について説明する。
本発明の実施の形態のポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材はポリ塩化ビニル樹脂を主成分とし、温度ゲル化曲線から粘度変化率が+30%となった温度をゲル化溶融開始温度としたとき、ポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材での当該ゲル化溶融開始温度を90〜110℃としたものである。
【0018】
ここで、粘度変化率が+30%となったゲル化溶融開始温度とは、図1に示す温度ゲル化曲線から、ポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材の粘度の変化率が30重量%上昇した時の温度である。測定機器としてThermo HAAKE社 HAAKE Thermo stress 600及び測定用ローターとしてDrehkorter/Roter Typ HPP8を使用し、測定条件として10分間に25℃から140℃まで昇温した後140℃を5分間保持した。このときに得られた時間に対する温度・粘度変化から温度ゲル化曲線を描き、ゲル化溶融開始温度を得た。
【0019】
図1は、温度ゲル化曲線であり、前記測定機器(Thermo HAAKE社 HAAKE Thermo stress 600)を使用して描いたものである。粘度変化率が+30%の点がゲル化溶融開始温度である。本発明を実施する場合には、まず、温度ゲル化曲線を得て、粘度変化率が+30%の点からゲル化溶融開始温度を得ている。
【0020】
ポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材の材料としては、主成分としてのポリ塩化ビニル樹脂、可塑剤、そして必要に応じて水分吸収材等の添加剤、接着性を上げる接着付与剤、充填剤等をミキサーで混合した。ミキサーはニーダー等通常のものが使用できることを確認した。
【0021】
ここで、ポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材のゲル化溶融開始温度90〜110℃とするポリ塩化ビニル樹脂として入手が容易な粒径が25μmのものと40μmのものとを選択した。前述したようにゲル化溶融開始温度90〜110℃であればエアーポケット中のエアーがポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材のゲル化開始までの流動可能な状態中にスムースに排出されることが期待できるからである。
【0022】
実施例1.
可塑剤A(ジイソノニルフタレート) 26重量%
ポリ塩化ビニル樹脂 中位径 25μm 15重量%
充填剤(表面処理炭酸カルシウム) 51重量%
接着付与剤(ホリアミドアミン) 1.5重量%
添加剤(水分吸収剤として酸化カルシウム) 6.5重量%
ゲル化開始温度 100℃
ゲル化粘度(100℃) 1.0×105mPa・S
ゲル化粘度(140℃) 1.5×108mPa・S
結果 仔細に分析すると、部分的にフクレが確認されるものの、それが目立ち難く、使用上問題はない。
【0023】
実施例2.
可塑剤A(ジイソノニルフタレート) 26重量%
ポリ塩化ビニル樹脂 中位径 25μm 19重量%
充填剤(表面処理炭酸カルシウム) 47重量%
接着付与剤(ホリアミドアミン) 1.5重量%
添加剤(水分吸収剤として酸化カルシウム) 6.5重量%
ゲル化開始温度 98℃
ゲル化粘度(100℃) 1.7×105mPa・S
ゲル化粘度(140℃) 5.1×108mPa・S
結果 仔細に分析してもフクレは全く確認されなかった。
【0024】
実施例3.
可塑剤A(ジイソノニルフタレート) 26重量%
ポリ塩化ビニル樹脂 中位径 40μm 19重量%
充填剤(表面処理炭酸カルシウム) 47重量%
接着付与剤(ホリアミドアミン) 1.5重量%
添加剤(水分吸収剤として酸化カルシウム) 6.5重量%
ゲル化開始温度 98℃
ゲル化粘度(100℃) 1.6×107mPa・S
ゲル化粘度(140℃) 1.3×109mPa・S
結果 仔細に分析してもフクレは全く確認されなかった。
【0025】
比較例1.
可塑剤C(アルキルスルフォン酸フェニルエステル) 26重量%
ポリ塩化ビニル樹脂 微粒(5μm) 15重量%
充填剤(表面処理炭酸カルシウム) 51重量%
接着付与剤(ホリアミドアミン) 1.5重量%
添加剤(水分吸収剤として酸化カルシウム) 6.5重量%
ゲル化開始温度 68℃
ゲル化粘度(100℃) 7.1×107mPa・S
ゲル化粘度(140℃) 1.1×108mPa・S
結果 フクレ及びエアーポケットが確認され、商品化には使用できない。
【0026】
比較例2.
可塑剤A(ジイソノニルフタレート) 13重量%
可塑剤B(2一エチルヘキシル ベンシルフタレート) 13重量%
ポリ塩化ビニル樹脂 微粒(5μm) 15重量%
充填剤(表面処理炭酸カルシウム) 47重量%
接着付与剤(ホリアミドアミン) 1.5重量%
添加剤(水分吸収剤として酸化カルシウム) 6.5重量%
ゲル化開始温度 80℃
ゲル化粘度(100℃) 3.6×107mPa・S
ゲル化粘度(140℃) 1.3×108mPa・S
結果 フクレ及びエアーポケットが確認され、商品化には使用できない。
上記各実施例及び比較例を表にまとめたものが表1である。
【0027】
【表1】

【0028】
表1において、可塑剤Aはジイソノニルフタレートである。また、可塑剤Bは2一エチルヘキシル ベンシルフタレート、可塑剤Cはアルキルスルフォン酸フェニルエステルである。
また、塩ビ樹脂とはポリ塩化ビニル樹脂を意味し、粗粒Aはホモポリマー、重合度;1100、中位径; 25μmのもの。粗粒Bはホモポリマー、重合度;1100、中位径; 40μmのもの。微粒とは粒径3μmのコポリマー重合度;1900、酢酸ビニル含有量;8重量%である。
【0029】
充填剤とは、表面処理炭酸カルシウム、未処理炭酸カルシウムのいずれであっても特性的には同じであるが、本実施例及び比較例では表面処理炭酸カルシウムを使用した。接着付与剤とは、ポリアミドアミン、ブロックウレタンプレポリマーのいずれであっても特性的には同じであるが、本実施例及び比較例ではポリアミドアミンを使用した。そして、添加剤とは、水分吸収剤として酸化カルシウム、高沸点溶剤として石油系炭化水素を使用した。
【0030】
本発明を実施する場合のポリ塩化ビニル樹脂とは、PVC(polyvinyl chloride)または塩化ビニルまたは塩ビ等と呼ばれ、塩化ビニル(クロロエチレン)を重合してなるものであればよい。
そして、本発明を実施する場合の可塑剤とは、熱可塑性合成樹脂に加えて柔軟性、対候性を改良する添加剤で、ポリエステル、フタル酸エステル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジブチル、アジピン酸エステル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル、トリメリット酸トリオクチル、リン酸エステル、アセチルクエン酸トリブチル、セバシン酸エステル、マレイン酸エステル、安息香酸エステル等の使用が可能である。
【0031】
[試験方法]
図3乃至図5に示すように、70×150×0.8mmの金属板をベース1とし、そのベース1に対して35×150×0.8mmの金属板を接合板2として接合する。接合の際に疑似的なエアーポケット形成用に20×50×0.3mmの金属板をエアーポケット形成板3として使用した。
【0032】
ベース1に対して、ベース1の幅70mmの片側半分内(端から35mmの範囲内)に2枚のエアーポケット形成板3がベース1の幅70mmの中心線(端から35mmの線上)から25mm入った状態になるように離して配置し、この片側半分内の面積35mm×150mmに2枚のエアーポケット形成板3を除いてシーリング材(特に本発明に係るものでなくて良い)を塗布する。塗布したシーリング材の上に接合板2を端を合わせた後、加熱して固定化する。
【0033】
次に、冷却した後、2枚のエアーポケット形成板3を取り除き、2枚のエアーポケット形成板3によって開口部20mm、奥行き25mmのエアーポケット30を形成する。そして、ベース1に接合した接合板2のベース1内の端(ベース1の幅70mmの中心線上の位置になる)を中心に、幅10mmで接合板2の上面から厚みが2mmになるようにポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材(実施例1乃至実施例3、比較例1、比較例2)を塗布する。これによって接合板2を端から5mm幅で被覆し、残りの5mmは接合板2の端面(厚み0・8mmの部分)と、ベース1と接合板2を接合したシーリング材及びエアーポケット30を被覆することになる。その後、140℃に設定された乾燥機で加熱し焼付ける。このとき、室温(25℃)から140℃まで10分で昇温するように、風量、電力等を事前に調整しておく。
【0034】
焼付後、室温まで冷却したのちポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材の穴開き等の外観やふくれの形状、大きさ、高さをノギスで測定した。
その結果を、仔細に分析すると、部分的にフクレが確認されるが、目立ち難く、使用上問題ないものに丸○、仔細に分析してもフクレは全く確認されなかったものに二重丸◎、フクレ及びエアーポケットが確認され、商品化には使用できないものに×として表1に表示している。
【0035】
なお、実施例及び比較例では、温度ゲル化曲線から粘度変化率が+30%となったゲル化溶融開始温度を100、98、68,80℃とするポリ塩化ビニル樹脂及び可塑剤を有するポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材において、実施例2及び実施例3は100℃と140℃の粘度の材料を特定するも、ゲル化溶融開始温度は100℃ではない。しかし、実施例2及び実施例3の98℃はほぼ同じと判断することができる。
【0036】
ここで、図2に示されているように、ポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材として、粗粒タイプ(中位径10〜50μm)のポリ塩化ビニル樹脂を使用することで、ゲル化溶融開始温度を90〜110℃とすることができる。
即ち、ゲル化溶融開始温度を90〜110℃と高くすることにより、ゲル化溶融開始時間を遅延し、かつ、ゲル化溶融開始温度を90〜110℃と高くすることで、ポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材のゲル化に伴うエアーポケットに溜ったエアーの排出を容易にし、フクレに起因する要因を排除することができる。
【0037】
そして、上記実施の形態のポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材においては、ポリ塩化ビニル樹脂を粒径が粗粒タイプの中位径25μmと中位径40μmにすることにより、ゲル化溶融開始温度を90〜110℃、のものを得ているが、本発明者等の実験によれば、粗粒タイプとして中位径10μm乃至中位径50μmのポリ塩化ビニル樹脂の使用が可能であることが確認された。
【0038】
また、表1から本発明の実施例1乃至実施例3は比較例1、比較例2に比べてゲル化溶融開始温度域である100℃の粘度が低く、焼付後の140℃での粘度は比較例と同等またはそれ以上の粘度を示している。このことから本発明の実施例はゲル化溶融開始温度域ではエアーポケット中のエアーが抜けやすい粘性に維持され、焼付後には十分な粘性を有することが分かる。
【0039】
ゲル化溶融開始温度90〜110℃の粘度に関しては、ゲル化溶融開始温度90〜110℃のゲル化開始時の粘度を8.0×104〜1.6×107mPa・Sの範囲内にすることでポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材がエアーの排出を妨げることが少なく、スムースにエアーを外部へ逃がすことによりエアーポケットによるフクレの発生を抑制し、エアーポケットが目立ち難く、外観品質が向上する。ここで粘度が低いほどエアーポケット中のエアーが抜けやすくエアーポケットに関しては良好な結果をもたらすが、140℃での焼付後の粘性が低くなりやすくなり、その結果、垂れ等の不具合が発生しやすくなる。このためゲル化溶融開始温度での粘度は8.0×104mPa・S以上とするのが好ましい。
【0040】
以上説明してきたように、本発明はポリ塩化ビニル樹脂を主成分とし、温度ゲル化曲線からの粘度変化率が+30%となった温度をゲル化溶融開始温度としたとき、ゲル化溶融開始温度を90〜110℃とすることでポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材のゲル化を遅らせ、その結果エアーポケット中のエアーがエアーポケット中に残存しにくくなりフクレ等の外観不具合の発生が抑制される。
【0041】
また、主成分であるポリ塩化ビニル樹脂の粒径を粗粒タイプの中位径10〜50μmに規定している。これによってゲル化溶融開始温度を90〜110℃の範囲に確実にすることができる。
更に、ポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材のゲル化溶融開始温度を90〜110℃での粘度を8.0×104〜1.6×107mPa・Sの範囲内にすることで、焼付時に垂れ等の不具合を生じさせずに確実にエアーポケットによるフクレの発生を抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0042】
1 ベース
2 接合板
3 エアーポケット形成板
30 エアーポケット
4 シーリング材(ポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材)
5 ポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル樹脂を主成分とし、温度ゲル化曲線からの粘度変化率が+30%となった温度をゲル化溶融開始温度としたとき、当該ゲル化溶融開始温度を90〜110℃としたことを特徴としたポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材。
【請求項2】
前記ポリ塩化ビニル樹脂が粒径10〜50μmであることを特徴とする請求項1に記載のポリ塩化ビニル樹脂系シーリング材。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−188532(P2012−188532A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52774(P2011−52774)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】