説明

ポリ硫酸第2鉄を効率的に製造する方法

【課題】 鉄原料である硫酸第1鉄を短時間で溶解することにより、ポリ硫酸第2鉄を効率的、すなわち短時間で製造する方法の提供。
【解決手段】 密閉用蓋、攪拌機及び液体循環パイプを具備した反応装置に水を必要量の60%以上、好ましくは全量供給し、該水を攪拌・循環し、その状態の水に硫酸第1鉄を添加し溶解しながら全量供給し、その後反応装置の気体空間に酸素を供給して大気と遮断し、次いで硫酸及び酸素を徐々に供給し酸化してポリ硫酸第2鉄を生成させてポリ硫酸第2鉄を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、攪拌機及び液体循環パイプを具備した反応装置において、硫酸第1鉄を鉄原料としてポリ硫酸第2鉄を、効率的、すなわち短時間で製造する方法に関する。
より詳しくは、本発明は、鉄原料である硫酸第1鉄を短時間で溶解することにより、攪拌機及び液体循環パイプを具備した反応装置においてポリ硫酸第2鉄を効率的、すなわち短時間で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ硫酸第2鉄は、硫酸第1鉄を含有する溶液を亜硝酸ナトリウム等の触媒の存在下で酸素等の酸化剤により酸化することにより製造されるものであり、その硫酸第1鉄含有溶液を形成する鉄原料としては、酸洗廃硫酸から回収した硫酸第1鉄(特許文献1参照)、四三酸化鉄(特許文献2及び3参照)、酸化鉄と金属鉄(特許文献4参照)、硫酸第二鉄溶液と含水三酸化二鉄(特許文献5参照)、酸化鉄(特許文献6参照)、ゲータイト(特許文献7参照)等を利用することが提案されている。
【0003】
[先行技術文献]
【特許文献1】特公昭51−17516号公報
【特許文献2】特公平2−22012号公報
【特許文献3】特公平5−53730号公報
【特許文献4】特公平5−13094号公報
【特許文献5】特開平6−47205号公報
【特許文献6】特開平7−275609号公報
【特許文献7】特開平7−241404号公報
【0004】
このポリ硫酸第2鉄及びその製造方法は、本出願人企業が独自に開発した独創的な技術であり、本出願人企業の指導の下でポリ硫酸第2鉄を多くの企業が製造しており、多くの地方自治体あるいは企業等によって凝集剤として利用され、実用化されている。
このポリ硫酸第2鉄の鉄原料としては、前記したとおり多くの鉄及び鉄化合物の利用が提案されているものの、現状で実用化されているのは、硫酸酸洗廃液と酸洗廃硫酸等から回収した硫酸第1鉄であり、その中でも主として回収硫酸第1鉄であり、他は実用化されていないのが実状である。
【0005】
この回収硫酸第1鉄を利用してポリ硫酸第2鉄を製造する場合には、攪拌装置等を具備した反応装置に水、回収硫酸第1鉄及び硫酸の原料物質をまず供給し、同装置内で原料を攪拌してスラリー状態を形成し、それと同時に上部気体空間を酸素で置換し、触媒の亞硝酸ナトリウムを供給して反応装置を密閉し酸化反応を行う。
その酸化反応の際には、鉄の溶解に時間を要し、その結果、原料の供給から反応終了までには、ポリ硫酸第2鉄の製造量あるいは硫酸第1鉄中の不純物含有量等にもよるが通常7〜10時間が必要となる。
【0006】
本発明者らは、この反応終了までに必要な時間を短縮すべく鋭意研究開発に努め、その結果開発に成功したのが本発明である。
すなわち、反応装置内に水、回収硫酸第1鉄及び硫酸の理論必要量が供給されている場合には充分に攪拌しても常温下では硫酸第1鉄の全量の1/2が未溶解となり全量溶解することは不可能である。
ポリ硫酸第2鉄生成反応においては、この反応が発熱反応のため反応が進行するに従い温度も上昇し、それに伴って溶解度が上昇するものの、硫酸第1鉄全量を溶解するには、製造所要時間の85%程度を占める5〜8時間を必要とし、この溶解がポリ硫酸第2鉄生成反応の律速となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、この溶解時間を短縮すべく、鋭意研究開発に努めた結果、硫酸が存在しない状態で硫酸第1鉄を水に溶解した場合には、硫酸が存在する場合(特に高濃度で存在する場合)に比し溶解度が相当高くなり、これを利用してポリ硫酸第2鉄の生成を行った場合には溶解時間が相当短縮できることを見出し、この知見を利用することにより本発明の開発に成功したものである。
したがって、本発明は、鉄原料である硫酸第1鉄を短時間で溶解することにより、ポリ硫酸第2鉄を効率的、すなわち短時間で製造することを発明の解決すべき課題、すなわち目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明が、前記目的を達成するために採用したポリ硫酸第2鉄の製造方法は、密閉用蓋、攪拌機及び液体循環パイプを具備した反応装置に水を必要量の60%以上供給し、該水を攪拌・循環し、その状態の水に硫酸第1鉄を添加し溶解しながら全量供給し、その後反応装置の気体空間に酸素を供給して大気と遮断し、次いで硫酸及び酸素を徐々に供給し酸化してポリ硫酸第2鉄を生成させることを特徴とするものであり、その酸化反応では亜硝酸ナトリウムを触媒として用いるのがよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリ硫酸第2鉄の製造方法では、攪拌機及び液体循環パイプを具備した反応装置において、硫酸第1鉄と水とを該反応装置に供給し、硫酸を反応装置に供給することなく硫酸第1鉄をでき得る限り溶解し、その後に該反応装置に硫酸を供給するものであり、このようにすることにより硫酸第1鉄の溶解を円滑に行うことが、その結果ポリ硫酸第2鉄の製造時間を短縮でき、本発明ではポリ硫酸第2鉄を効率的に製造することができるという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について図1を用いて詳細に説明するが、本発明は、それによって何等限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載によって特定されるものであることはいうまでもない。
本発明で製造するポリ硫酸第2鉄は、下記の式(1)で表される液状の物質である。
[Fe2(OH)n(SO4)3-n/2m(但しn<2、m>10である。)・・・式(1)
【0011】
そのポリ硫酸第2鉄は、前記式(1)のとおりのものであるから、このポリ硫酸第2鉄における全硫酸根と全鉄との比率は、モル比で1.5>SO4-2/Fe>1.0の範囲にあることになる。
また、このポリ硫酸第2鉄については、安定した性質が発現できる全鉄濃度の最大値は約11wt%であり、その際の全硫酸根濃度は28.3wt%である。
なお、全鉄濃度が11wt%を超えると安定性が次第に低下するが勿論それを製造することは可能であり、その際には全硫酸根濃度も28.3wt%を超えることになる。
【0012】
さらに、そのポリ硫酸第2鉄の最大の用途である凝集剤の凝集性能は、鉄含有量に依存するものであり、そのため現在市販されているポリ硫酸第2鉄は、鉄含有量が最大値の約11wt%ものである。
前記のとおりであるから、本発明では、市販されているポリ硫酸第2鉄の性能に匹敵するものを製造することを好ましくは意図するものであり、全鉄濃度8〜11wt%、全硫酸根濃度17〜28.5wt%の範囲のものを製造することを好ましくは意図するものである。
【0013】
そして、このような高濃度のポリ硫酸第2鉄を工業的規模、すなわち1回の生産量が 12tの規模で製造するには8時間前後を要し、より効率的な製造方法の開発が望まれている。
その際には、水、硫酸第1鉄及び硫酸をそれぞれ全量反応装置に供給しポリ硫酸第2鉄を製造するが、硫酸第1鉄の溶解に時間を要し効率的な製造の妨げなっていることがわかっており、その効率的な製造には硫酸第1鉄を短時間で溶解することが必要となっている。
そこで、本発明者らは、この問題を解消すべく、まず硫酸の不存在下で硫酸第1鉄を水に溶解したところ、溶解度が硫酸存在下に比し大幅に上昇することがわかった。
【0014】
すなわち、硫酸第1鉄を硫酸の不存在下で水に溶解したところ、高濃度のポリ硫酸第2鉄を製造するのに必要な硫酸存在下(全硫酸根濃度28.5wt%)で溶解した場合に比し、溶解度が大幅に上昇する。
例えば、常温における水に対する硫酸第1鉄の溶解度は、20.8wt%であるのに対し、全硫酸根濃度28.5wt%の硫酸水溶液に対する同溶解度は、16.8wt%である。
また、工業的にポリ硫酸第2鉄を製造する際に採用している温度である60℃における水に対する硫酸第1鉄の溶解度は、35.5wt%であるのに対し、全硫酸根濃度28.5wt%の硫酸水溶液に対する同溶解度は、28.7wt%である。
【0015】
前記の知見に基づいて、本発明者らは、硫酸第1鉄の理論必要量の全量を水に攪拌しながらまず添加し、可能な限り溶解し、その後硫酸等を徐々に供給して酸化反応を進めたところ、硫酸第1鉄の溶解時間を短縮でき、その結果従来のように反応装置内に水、硫酸第1鉄及び硫酸の全てを供給した後酸素による酸化反応を行う場合には比し、溶解時間が約1時間程度短縮でき、その結果製造時間が大幅に短縮できることがわかった。
本発明は、この知見を利用してポリ硫酸第2鉄を効率的に製造するものであり、本発明の製造方法の好ましい態様について図1に図示された製造装置を用いて説明する。
【0016】
そのポリ硫酸第2鉄製造装置の反応装置1は重量計13上に配置されており、それにより反応装置1内に供給された原料の重量を計測することができる。
まず、水を水供給管2より該反応装置1に添加し、必要量の60重量%以上、好ましくは全量供給し、その供給後攪拌機10及びポンプ9を作動させて水を攪拌すると同時に循環パイプ8を用いて反応装置内に繰り返し循環させながら硫酸第1鉄の全量を同供給管3から反応装置1に供給し、可能な限り硫酸第1鉄を溶解する。
【0017】
その硫酸第1鉄については、1水塩と7水塩がありどちらも使用できるが、水への溶解速度が速い点で7水塩がよい。
なお、その際には、水量は重量計13で計測でき、また反応装置1内の空間は排気管7で大気に解放されており、水及び硫酸第1鉄の供給に伴って内部に存在する空気は排出される。
また、残りの水については、硫酸の全量を供給するまでに反応装置に供給すればよいが、本発明の趣旨からしてできる限り早い段階で添加するのがよい。
【0018】
その後、排気管7を開放した状態で酸素を同供給管5から供給し、反応装置の上部気体空間を酸素で置換した後、排気管7のバルブを閉鎖し、反応装置内を大気から閉鎖し50kPa以下の微加圧状態にするのがよく、好ましくは15〜30kPaの微加圧状態にするのがよい。
その閉鎖後、ポリ硫酸第2鉄を製造するのに必要な硫酸、酸素及び酸化触媒は、それぞれの供給管4、5及び6から酸化反応が円滑に進行するような関係(比率)で反応装置内に徐々に供給し、特に反応装置内の圧力が前記した微加圧状態に維持できるように圧力計14で計測しながら、それらを供給するのがよい。
【0019】
反応原料である硫酸については、その濃度が50%以上のものがよく、好ましくは75%のものがよく、より好ましくは95%以上のものがよい。
その硫酸の反応装置への供給については、全供給時間を通じて均等に行うのがよいが、製造開始からポリ硫酸第2鉄の製造終了までの全製造時間を通して行うのではなく、それは、必要理論量の全量を原料供給からポリ硫酸第2鉄製造終了までの全製造時間の60〜85%の範囲内で行うのがよい。
なお、その間には、硫酸第1鉄を円滑に溶解させ、酸化反応を円滑に進行させるために、反応装置内における液体の攪拌及び循環を繰り返し継続する。
その硫酸の供給を終了する時点は硫酸第1鉄の溶解を終了する時点とほぼ一致するのがよく、その供給終了後も反応装置内の液体を攪拌・循環し、酸化反応を充分に行う。
【0020】
また、酸化触媒については、酸素を酸化剤とする際に用いる各種酸化触媒が特に制限されることなく使用でき、それには亞硝酸ソーダ等の各種亞硝酸塩が例示できる。
その酸化触媒及び酸素の供給は、硫酸の供給終了後も前記微加圧状態を維持しながら継続するものの、酸化触媒の供給は酸素の消費量がある程度減少した時点で停止し、酸素の供給は製造を終了するまで継続するのがよい。
なお、硫酸、酸素及び酸化触媒の反応装置への供給方法については、酸化反応が円滑に進行する限り連続的でも間欠的でもよい。
さらに、酸化反応が進行するに従い反応装置内の液温が上昇するので、熱交換コイル11に水を供給して液温が60℃程度に維持できるように冷却するのがよい。
【実施例1】
【0021】
以下に、図1に記載のポリ硫酸第2鉄製造装置を用いて、本発明のポリ硫酸第2鉄を製造する実施例1及び比較例を示すが、本発明はこの実施例等によって何等限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載によって特定されるものであることはいうまでもない。
まず、本発明の前提技術である従来法によるポリ硫酸第2鉄の製造例を比較例として示す。
【0022】
[比較例]
図1に記載のポリ硫酸第2鉄製造装置の反応装置(容積15m3)に水供給管2より水の必要量全量 (4.2t)をまず供給し、その供給後攪拌機10及びポンプ9を作動させて水を攪拌すると同時に循環パイプ8を用いて反応装置内に繰り返し循環させながら硫酸第1鉄の全量(6.7t)及び硫酸(濃度98%)の全量(0.88t)をそれぞれの供給管3及び4から反応装置1に供給する。
なお、その際には排気管7は解放されており、反応装置内に各種原料が供給されるに伴って、反応装置中の空気は排出される。
それらの供給後酸素供給管5から反応装置に酸素を供給し上部空間を酸素で置換する。
【0023】
その後、排気管7の弁を閉鎖し、反応装置1内を25kPa程度の微加圧状態を維持しながら酸素及び酸化触媒をそれぞれ供給管5及び6から間欠的に反応装置内に導入する。
酸化還元電位(OPR)が550mVに達した時点で、硫酸第1鉄が全量溶解することが既知であるから、OPR計16でその時点までの所要時間を計測したところ、7時間を要した。
その後も酸化触媒及び酸素の供給は継続すると共に液体の攪拌及び循環は継続し、酸化触媒及び酸素は反応装置内が25kPa程度の微加圧状態を維持できるように引き続き継続する。
酸化触媒の供給は酸素の消費量が極端に低下する酸化還元電位が670mVに達する時点まで継続し、酸素の供給はその後も継続し800mVに達した時点で終了とし、その時点までの所要時間を計測したところ8時間を要した。
【0024】
[実施例]
前記知見に基づいて、比較例と同一の図1記載の製造装置を用いて、その反応装置(容積15m3)に水供給管2より水の必要量全量(4.3t)をまず供給し、供給後攪拌機10及びポンプ9を作動させて水を攪拌すると同時に循環パイプ8を用いて反応装置内に繰り返し循環させながら硫酸第1鉄の全量(6.8t)を供給管3から反応装置1に供給する。
なお、それらの供給の際には排気管7は解放されており、反応装置内にそれらが供給されるに伴って反応装置中の空気は排出される。
それらの供給後酸素供給管5から反応装置に酸素を供給し上部空間を酸素で置換する。
【0025】
次いで、排気管7の弁を閉鎖し、その状態で硫酸(濃度98%)、酸素及び酸化触媒を25kPa程度の微加圧状態を維持しながら、それぞれ供給管4、5及び6から間欠的に反応装置内に導入する。
その際における硫酸の反応装置への供給は、全量が前記したOPRが550mVに達するまでに必要な時間の80%、すなわち5.8時間で完了するように平均化して行った。
その硫酸の供給が終了した後も酸化触媒及び酸素の供給は継続するものの、酸化還元電位が670mVに達した時点で酸化触媒の供給を停止する。
その後も液体の攪拌及び循環は継続し、酸素の供給は反応装置内が25kPa程度の微加圧状態を維持できるように引き続き継続するものの、酸化還元電位が800mVに達した時点でポリ硫酸第2鉄の製造操作を終了とし、その時点までの所要時間を計測したところ6.8時間を要した。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のポリ硫酸第2鉄を製造する方法に好ましく使用できるポリ硫酸第2鉄の製造装置。
【符合の説明】
【0027】
1 反応装置1
2 水供給管
3 硫酸第1鉄供給管
4 硫酸供給管
5 酸素供給管
6 酸化触媒供給管
7 排気管
8 循環パイプ
9 ポンプ
10 攪拌機
11 熱交換コイル
13 重量計
14 圧力計
16 OPR計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉用蓋、攪拌機及び液体循環パイプを具備した反応装置に水を必要量の60%以上供給し、該水を攪拌・循環し、その状態の水に硫酸第1鉄を添加し溶解しながら全量供給し、その後反応装置の気体空間に酸素を供給して大気と遮断し、次いで硫酸及び酸素を徐々に供給し酸化してポリ硫酸第2鉄を生成させることを特徴とするポリ硫酸第2鉄の製造方法。
【請求項2】
酸化反応が、亜硝酸ナトリウムを触媒として用いるものである請求項1に記載のポリ硫酸第2鉄の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−182618(P2006−182618A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−379626(P2004−379626)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000227250)日鉄鉱業株式会社 (82)
【Fターム(参考)】