説明

ポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミドを含む潤滑組成物の使用法

本発明は、特にTU5(CEC L−88−T02)及びASTM D6984の1つ以上に従って試験されるピストンの清浄性を向上するため、好ましくは内燃機関に、基油と1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド塩誘導体とを含む潤滑組成物を使用する方法を提供する。好ましいポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド塩誘導体は、TBN(全塩基価)値が10mg.KOH/g未満のものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特に内燃機関に使用される潤滑油の使用法に関する。
【背景技術】
【0002】
WO 2007/128740は、内燃機関における堆積物を減少させるため、ポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド塩誘導体の使用法を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド塩誘導体は内燃機関の汚染を抑制し、スラッジ及びワニスのような堆積物の減少に有利な浄化性能を示し、意外にも有利な摩擦低下及び耐摩耗特性を示すばかりでなく、ピストン清浄性も向上することが意外にも見出された。
【課題を解決するための手段】
【0004】
したがって本発明は、特にTU5(CEC L−88−T02)及びASTM D6984の1つ以上に従って試験されるピストンの清浄性を向上するため、好ましくは内燃機関に、基油と、式(III):
[Y−CO[O−A−CO]−Z−R]pXq− (III)
(但し、Yは水素又は任意に置換されたヒドロカルビル(hydrocarbyl)基であり、Aは任意に置換された2価のヒドロカルビル基であり、nは1〜100、好ましくは1〜10であり、mは1〜4であり、qは1〜4であり、またpはpq=mとなるような整数であり、Zは、窒素原子を介してカルボニル基に結合する、任意に置換された2価の架橋基であり、Rはアンモニウム基であり、またXq−はアニオンである。)
を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド塩誘導体とを含む潤滑組成物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0005】
これに関連して、一方ではスラッジ及びワニスが堆積し、他方では堆積物は化学的に異なり、異なる方法により形成されることが注目される。
【0006】
前述のWO 2007/128740に記載されるように(特に第2頁12〜23行参照)、スラッジ及びワニス堆積物は、異なるエンジン条件下では潤滑油組成物の成分と汚染物との複雑な相互作用を形成する。短距離の自動車移動のような低温運転条件下では、潤滑油組成物は水や燃料成分のような汚染物を蒸発させるのに十分な熱さにならないかも知れない。高温では潤滑油組成物は酸化して、反応基を生成すると共に粘稠度増大(thickening)が生じ得る。これらの条件は未燃焼及び部分的に燃焼した燃料、水、煤、酸、ブローバイガス及びその他の汚染物との反応を促進して、スラッジやワニスを形成する。
【0007】
これに対し、ピストン堆積物(本発明では特に回避される)は、熱表面での潤滑油及び燃料の炭化で生じる硬いカーボン堆積物である。このような堆積物は炭素含有量が煤よりも低く、また通常、材料及び灰分のみ含有する。これらは、普通、ピストンのトップランド及びクラウン上やピストンリング溝中に見られる。
【0008】
本発明の式(III)において、Rは第一、第二、第三又は第四アンモニウム基であってよい。Rは、好ましくは第四アンモニウム基である。
式(III)において、Aは以下、式(I)及び(II)について説明するように、好ましくは2価の直鎖又は分岐鎖ヒドロカルビル基である。
【0009】
即ち、式(III)において、Aは、好ましくは任意に置換された芳香族、脂肪族又は脂環式直鎖又は分岐鎖の2価ヒドロカルビル基である。更に好ましくは、Aはアリーレン、アルキレン又はアルケニレン基、特に炭素原子数が4〜25、更に好ましくは12〜20の範囲のアリーレン、アルキレン又はアルケニレン基である。
【0010】
前記式(III)の化合物において、カルボニル基と、ヒドロキシル基から誘導された酸素原子との間に直接接続した炭素原子が好ましくは4個以上、更に好ましくは8〜14個の範囲存在する。
【0011】
式(III)の化合物において、基Aにおける任意の置換基は、好ましくはヒドロキシ、ハロ又はアルコキシ基、特にC1〜4アルコキシ基から選ばれる。
式(III)において、Yは式(I)について前述したような任意に置換されたヒドロカルビル基が好ましい。
【0012】
即ち、式(III)における任意に置換されたヒドロカルビル基は、好ましくは炭素原子数が50以下、更に好ましくは7〜25の範囲のアリール、アルキル又はアルケニルである。例えば任意に置換されたヒドロカルビル基Yは、ヘプチル、オクチル、ウンデシル、ラウリル、ヘプタデシル、ヘプタデニル、ヘプタデカジエニル、ステアリル、オレイル及びリノレイルから選ぶのが都合良いかも知れない。
【0013】
ここで式(III)における前記任意置換のヒドロカルビル基Yの他の例としては、シクロヘキシルのようなC4〜8シクロアルキル;アビエチン酸のような天然産の酸から誘導された多環式テルペニル基のようなポリシクロアルキル基;フェニルのようなアリール;ベンジルのようなアラルキル;及びナフチル、ビフェニル、スチベニル及びフェニルメチルフェニルのようなポリアリールが含まれる。
【0014】
本発明では、式(III)における前記任意置換のヒドロカルビル基Yは、カルボニル、カルボキシル、ニトロ、ヒドロキシ、ハロ、アルコキシ、アミノ、好ましくは第三アミノ(N−H結合はない)、オキシ、シアノ、スルホニル及びスルホキシルのような1種以上の官能基を含有してよい。置換ヒドロカルビル基における水素以外の原子の大部分は、一般に、存在する非水素原子全体に対し約33%以下の少量しか表示しないヘテロ原子(例えば酸素、窒素及び硫黄)を有する炭素である。
【0015】
当業者ならば置換ヒドロカルビル基Yにおけるヒドロキシ、ハロ、アルコキシ、ニトロ及びシアノのような官能基は、ヒドロカルビル基の炭素原子の1つと置換し、一方、置換ヒドロカルビル基におけるカルボニル、カルボキシル、第三アミノ(−N−)、オキシ、スルホニル及びスルホキシルのような官能基は、このヒドロカルビル基の−CH−又は−CH−部分と置換することは理解されよう。
【0016】
式(III)における前記ヒドロカルビル基Yは、更に好ましくはヒドロキシ、ハロ又はアルコキシ基、なお更に好ましくはC1〜4アルコキシから選ばれた基で置換されていないか、又は置換されている。
【0017】
式(III)における前記任意置換のヒドロカルビル基Yは、最も好ましくはステアリル基、12−ヒドロキシステアリル基、オレイル基又は12−ヒドロキシオレイル基、及びトール油脂肪酸のような天然産の油から誘導された基である。
【0018】
式(III)において、Zは好ましくは式(IV)
【化1】


(但し、Rは水素又はヒドロカルビル基であり、Bは、任意に置換されたアルキレン基である。)
で示される任意に置換された2価の架橋基である。
【0019】
を表示できるヒドロカルビル基の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル及びオクタデシルが含まれる。Bを表示できる、任意に置換されたアルキレン基の例としては、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン及びヘキサメチレンが含まれる。
【0020】
式(III)において好ましいZ部分の例としては、−NHCHCH−、−NHCHC(CHCH−及び−NH(CH−が含まれる。好ましくはRは式(V)
【化2】


(但し、R、R及びRは、水素、及びメチルのようなアルキル基から選択できる。)
で示すことができる。
【0021】
式(III)の化合物のアニオンXq−は、好ましくは硫黄含有アニオンである。更に好ましくは前記アニオンはサルフェート及びスルホネートアニオンから選択される。
【0022】
前記1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド塩誘導体は、アミン及び式(I)
Y−CO[O−A−CO]−OH (I)
(但し、Yは水素又は任意に置換されたヒドロカルビル基であり、Aは任意に置換された2価のヒドロカルビル基であり、nは1〜100、好ましくは1〜10である。)
のポリ(ヒドロキシカルボン酸)と、酸又は四級化(quaternizing)剤との反応で得ることができる。
【0023】
ここで使用される用語“ヒドロカルビル”は1つの炭化水素の1つの炭素原子から1つ以上の水素原子を除去して形成される残基(複数の水素原子が除去されている場合、必ずしも複数の同じ炭素原子である必要はない)を表す。
【0024】
炭化水素基は、芳香族、脂肪族、非環式又は環式基であってよい。ヒドロカルビル基は、好ましくはアリール、シクロアルキル、アルキル又はアルケニルであり、この場合、これらは直鎖又は分岐鎖基であってよい。代表的なヒドロカルビル基としては、フェニル、ナフチル、メチル、エチル、ブチル、ペンチル、メチルペンチル、ヘキセニル、ジメチルヘキシル、オクテニル、シクロオクテニル、メチルシクロオクテニル、ジメチルシクロオクチル、エチルヘキシル、オクチル、イソオクチル、ドデシル、ヘキサデセニル、エイコシル、ヘキサコシル、トリアコンチル及びフェニルエチルが含まれる。
【0025】
本発明では慣用句“任意に置換されたヒドロカルビル”は、任意に、1種以上の“不活性”ヘテロ原子含有官能基を有するヒドロカルビル基を説明するために使用される。“不活性”とは、該官能基がいかなる実質的な程度までも該化合物の機能を妨害しないことを意味する。
【0026】
ここで式(I)における任意に置換されたヒドロカルビル基Yは、炭素原子数が好ましくは50以下、更に好ましくは7〜25の範囲の、アリール、アルキル又はアルケニルである。例えば任意に置換されたヒドロカルビル基Yは、ヘプチル、オクチル、ウンデシル、ラウリル、ヘプタデシル、ヘプタデニル、ヘプタデカジエニル、ステアリル、オレイル及びリノレイルから都合良く選択できる。
【0027】
ここで式(I)における前記任意置換のヒドロカルビル基Yの他の例としては、シクロヘキシルのようなC4〜8シクロアルキル;アビエチン酸のような天然産の酸から誘導されるポリシクロアルキル;フェニルのようなアリール;ベンジルのようなアラルキル;及びナフチル、ビフェニル、スチベニル及びフェニルメチルフェニルのようなポリアリールが含まれる。
【0028】
本発明において任意に置換されたヒドロカルビル基Yは、カルボニル、カルボキシル、ニトロ、ヒドロキシ、ハロ、アルコキシ、第三アミノ(N−H結合なし)、オキシ、シアノ、スルホニル及びスルホキシルのような1種以上の官能基を含有してよい。置換ヒドロカルビル基における水素以外の原子の大部分は一般に、存在する非水素原子全体に対し約33%以下の少量しか表示しないヘテロ原子(例えば酸素、窒素及び硫黄)を有する炭素である。
【0029】
当業者ならば置換ヒドロカルビル基Yにおけるヒドロキシ、ハロ、アルコキシ、ニトロ及びシアノのような官能基はヒドロカルビル基の水素原子の1つと置換し、一方、置換ヒドロカルビル基におけるカルボニル、カルボキシル、第三アミノ(−N−)、オキシ、スルホニル及びスルホキシルのような官能基は、このヒドロカルビル基の−CH−又は−CH−部分と置換することは理解されよう。
【0030】
式(I)における前記ヒドロカルビル基Yは、更に好ましくはヒドロキシ、ハロ又はアルコキシ基、なお更に好ましくはC1〜4アルコキシから選ばれた基で置換されていないか、又は置換されている。
【0031】
式(III)における前記任意置換のヒドロカルビル基Yは、最も好ましくはステアリル基、12−ヒドロキシステアリル基、オレイル基又は12−ヒドロキシオレイル基、及びトール油脂肪酸のような天然産の油から誘導された基である。
【0032】
本発明の好ましい実施態様では、1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド塩誘導体は硫黄含有ポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド塩誘導体である。
【0033】
前記1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド塩誘導体は、ICP−AESで測定して硫黄を、該ポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド塩誘導体の全重量に対し、更に好ましくは0.1〜2.0重量%、なお更に好ましくは0.6〜1.2重量%の範囲で硫黄を含有する。
【0034】
ポリ(ヒドロキシカルボン酸)及びそのアミド又は他の誘導体の製造法は、例えばEP 0164817、WO 95/17473、WO 96/07689、米国特許第5536445号、GB 2001083、GB 1342746、GB 1373660、米国特許第5000792号及び米国特許第4349389号に記載されている。
【0035】
式(1)のポリカルボン酸は、式(II)
HO−A−COOH (II)
(式中、Aは任意に置換された2価のヒドロカルビル基である。)
の1種以上のヒドロキシカルボン酸を、周知の方法に従って任意に触媒の存在下でエステル交換して製造できる。このような方法は、例えば米国特許第3996059号、GB 1373660及びGB 1342746に記載されている。
【0036】
前記エステル交換での連鎖停止剤は非ヒドロキシカルボン酸であってよい。
ヒドロキシカルボン酸又は非ヒドロキシカルボン酸中のヒドロキシルカルボン酸基及びカルボン酸基は、特性が第一、第二又は第三であってよい。
【0037】
ヒドロキシカルボン酸と非ヒドロキシカルボン酸連鎖停止剤とのエステル交換は、任意にトルエン又はキシレンのような好適な炭化水素溶剤の存在下、出発材料を加熱し、生成した水を共沸除去して行なえる。この反応は−250℃以下の温度、都合良くは溶剤の還流温度で行なってよい。
【0038】
ヒドロキシカルボン酸のヒドロキシル基が第二又は第三の場合、使用温度は酸分子の脱水を起こすような高温であってはならない。
【0039】
所定温度での反応速度を高めるか、或いは所定の反応速度に必要な温度を低下させる目的で、p−トルエンスルホン酸、酢酸亜鉛、ナフテン酸ジルコニウム又はテトラブチルチタネートのようなエステル交換用触媒を含有してもよい。
【0040】
式(I)及び(II)の化合物において、Aは任意に置換された芳香族、脂肪族又は脂環式直鎖又は分岐鎖の2価ヒドロカルビル基が好ましい。Aは好ましくはアリーレン、アルキレン又はアルケニレン、特に炭素原子数が4〜25の範囲、更に好ましくは12〜20の範囲のアリーレン、アルキレン又はアルケニレンである。
【0041】
式(I)及び(II)の化合物において、カルボニル基とヒドロキシル基由来の酸素原子間に直接結合した炭素原子が好ましくは4個以上、更に好ましくは8〜14個ある。
【0042】
式(I)及び(II)の化合物において、基Aでの任意の置換基は、好ましくはヒドロキシ、ハロ又はアルコキシ基、更に好ましくはC1〜4アルコキシ基から選ばれる。
【0043】
式(II)のヒドロキシカルボン酸におけるヒドロキシル基は好ましくは第二ヒドロキシル基である。好適なヒドロキシカルボン酸は9−ヒドロキシステアリン酸、10−ヒドロキシステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、12−ヒドロキシ−9−オレイン酸(リシノール酸)、6−ヒドロキシカプロン酸、好ましくは12−ヒドロキシステアリン酸である。市販の12−ヒドロキシステアリン酸(水素化ヒマシ油脂肪酸)は、普通、不純物としてステアリン酸及び他の非ヒドロキシステアリン酸を15重量%以下含有し、更に混合することなく分子量約1000〜2000の重合体を製造するのに使用できる。
【0044】
反応に非ヒドロキシカルボン酸を別々に導入する場合、所定分子量の重合体又はオリゴマーを製造するのに必要な割合は、当業者ならば簡単な実験又は計算により決定できる。
【0045】
式(I)及び(II)の化合物中の基−O−A−CO−は、好ましくは12−オキシステアリル基、12−オキシオレイル基又は6−オキシカプロイル基である。
アミンとの反応用の式(I)の好ましいポリ(ヒドロキシカルボン酸)としてはポリ(ヒドロキシステアリン酸)及びポリ(ヒドロキシオレイン酸)が含まれる。
【0046】
式(I)のポリ(ヒドロキシカルボン酸)と反応してポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド中間体を生成するアミンとしては、WO 97/41092に定義されたアミンが含まれてよい。
例えば各種アミン及びその製造法は米国特許第3275554号、同第3438757号、同第3454555号、同第3565804号、同第3755433号及び同第3822209号に記載されている。
【0047】
アミン反応体は好ましくはジアミン、トリアミン又はポリアミンである。
好ましいアミン反応体は、エチレンジアミン、N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミンから選ばれたジアミン、ジエチリンとリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン及びトリス(2−アミノエチル)アミンから選ばれたトリアミン及びポリアミンである。
【0048】
アミン反応体と式(I)のポリ(ヒドロキシカルボン酸)との反応は、当業者に公知の方法に従って、任意に好適な溶剤、例えばトルエン又はキシレンの存在下、ポリ(ヒドロキシカルボン酸)とアミン反応体とを加熱し、次いで生成した水を共沸除去して行なうことができる。前記反応はp−トルエンスルホン酸、酢酸亜鉛、ナフテン酸ジルコニウム又はテトラブチルチタネートのような触媒の存在下で行なうことができる。
【0049】
アミンと式(I)のポリ(ヒドロキシカルボン酸)との反応で形成されたポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド中間体は、周知の方法に従って酸又は四級化剤と反応させて、塩誘導体を形成できる。
【0050】
塩誘導体の形成に使用できる酸は有機又は無機酸から選択できる。前記酸は好ましくは硫黄含有有機又は無機酸である。前記酸は好ましくは硫酸、メタンスルホン酸及びベンゼンスルホン酸から選択される。
【0051】
誘導体の形成に使用できる四級化剤は、ジメチル硫酸、炭素原子数が1〜4のジアルキルサルフェート、塩化メチル、臭化メチルのようなハロゲン化アルキル、塩化ベンジルのようなハロゲン化アリールから選択してよい。
【0052】
好ましい実施態様では四級化剤は硫黄含有四級化剤、特にジメチル硫酸又は炭素原子数が1〜4のジアルキルサルフェートである。四級化剤は好ましくはジメチルサルフェートである。四級化は当該技術分野で周知の方法である。例えばジメチルサルフェートを用いる四級化は、米国特許第3996059号、米国特許第4349389号及びGB 1373660に記載されている。
【0053】
本発明の好ましい実施態様では1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド塩誘導体は、本発明の潤滑組成物中に、該潤滑組成物の総重量に対し0.1〜10.0重量%、更に好ましくは0.1〜5.0重量%、最も好ましくは0.2〜4.0重量%の範囲の量で存在する。
【0054】
本発明で好ましいポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド塩誘導体は、各々、TBN(全塩基価)値がASTM D4739で測定して10mg.KOH/g未満のものである。更に好ましくはポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド塩誘導体のTBN値は、ASTM D4739で測定して5mg.KOH/g未満、最も好ましくは2mg.KOH/g未満である。
【0055】
市販のポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド塩誘導体の例としては、Lubrizolから商品名“SOLSPERSE 17000”(ポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)とN,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン及びジメチルサルフェートとの反応生成物)及びShanghai Sanzheng Polymer Companyから商品名“CH−5”及び“CH−7”で得られるものが含まれる。
【0056】
本発明潤滑組成物中の1種以上の耐摩耗剤は、潤滑組成物の総重量に対し好ましくは0.01〜10.0重量%の範囲で存在する。
【0057】
潤滑組成物に存在する1種以上の耐摩耗剤は、ジチオリン酸亜鉛を含有してよい。ジチオリン酸亜鉛はジアルキル−、ジアリール−又はアルキルアリール−ジチオリン酸亜鉛から選択してよい。
好ましいジチオリン酸亜鉛については、WO 2007/128740の第15頁19行〜第16頁17行参照(この文献の教示には特定の参照を援用する)。
【0058】
本発明の潤滑組成物は、ジチオリン酸亜鉛を潤滑油組成物の総重量に対し、好ましくは0.01〜10.0重量%の範囲で含有する。
本発明の潤滑組成物には別の又は代りの耐摩耗剤を都合良く使用できる。
【0059】
本発明の好ましい実施態様では1種以上の洗浄剤、特に1種以上のサリチレート、フェネート又はスルホネート洗浄剤を含有する。
前記洗浄剤は、好ましくはアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリチレート、フェネート又はスルホネート洗浄剤から選択される。カルシウム及びマグネシウムサリチレート、フェネート及びスルホネートが特に好ましい。
【0060】
前記洗浄剤は、潤滑油組成物の総重量に対し、好ましくは0.05〜12.5重量%、更に好ましくは1.0〜9.0重量%、最も好ましくは2.0〜5.0重量%の範囲で使用される。
本発明で使用される基油については特に制限はなく、各種既知の鉱油及び合成油が都合良く使用できる。
【0061】
本発明で都合良く使用される基油は1種以上の鉱油及び/又は1種以上の合成油の混合物を含有する。
鉱油としては液体石油及びパラフィン性、ナフテン性又はパラフィン性/ナフテン性混合系の溶剤処理又は酸処理した鉱物潤滑油(これらは更に水素仕上げ及び/又は脱蝋により精製してよい)が含まれる。
【0062】
ナフテン性基油は低粘度指数(VI)(一般に40〜80)及び低流動点を有する。このような基油はナフテン類が豊富で、蝋含有量が少ない供給原料から製造され、色調及び色安定性が第一に重要でVI及び酸化安定性が次に重要な潤滑剤に主として使用される。
【0063】
パラフィン性基油はVIが比較的高く(一般に>95)、流動点が高い。前記基油はパラフィン類が豊富な供給原料から製造され、VI及び酸化安定性が重要な潤滑剤に使用される。
【0064】
フィッシャー・トロプシュ誘導基油は、例えばEP 0776959、EP 0668342、WO 97/21788、WO 00/15736、WO 00/14188、WO 00/14187、WO 00/14183、WO 00/14179、WO 00/08115、WO 99/41332、EP 1029029、WO 01/18156及びWO 01/57166に開示されるフィッシャー・トロプシュ誘導基油が本発明の潤滑油組成物において潤滑油基油として都合良く使用できる。
【0065】
合成方法により、簡単な物質から分子を作製したり、或いは分子に所要の正確な特性を付与するように改質した構造を持たせることができる。
合成油としては、オレフィンオリゴマー(PAO)、二塩基酸エステル、ポリオールエステル、及び脱蝋した蝋状ラフィネートのような炭化水素油が含まれる。シェルグループから“XHVI”(商品名)の名称で販売されている合成炭化水素基油が都合よく使用できる。
【0066】
基油は飽和物を、ASTM D2007で測定して80重量%を超え、好ましくは90重量%を超える鉱物油及び/又は合成油で構成されるのが好ましい。
【0067】
基油は硫黄を、ASTM D2622、D4294、D4927又はD3120で測定し、元素状硫黄として計算して、好ましくは0.1重量%未満含有することが更に好ましい。
基油の粘度指数は、ASTM D2270で測定して、好ましくは80を超え、更に好ましくは120を超える。
【0068】
本発明の潤滑組成物に取入れる基油の総量は、潤滑組成物の総重量に対し、好ましくは60〜92重量%、更に好ましくは75〜90重量%、最も好ましくは75〜88重量%の範囲の量で存在する。
【0069】
本発明の潤滑油組成物は、100℃での動粘度が好ましくは2〜80mm/s、更に好ましくは3〜70mm/s、最も好ましくは4〜50mm/sの範囲である。
【0070】
本発明の潤滑組成物は更に酸化防止剤、分散剤、摩擦改良剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、腐蝕防止剤、泡立ち防止剤及びシール固定又はシール適合剤のような別の添加剤を含有してよい。
都合良く使用できる酸化防止剤には、アミン系酸化防止剤及び/又はフェノール系酸化防止剤の群から選択されたものが含まれる。
【0071】
好ましい実施態様では前記酸化防止剤は、潤滑組成物の総重量に対し、0.1〜5.0重量%、更に好ましくは0.3〜3.0重量%、最も好ましくは0.5〜1.5重量%の範囲の量で存在する。
【0072】
好適な又は好ましいアミン系及びフェノール系酸化防止剤の例については、前記WO 2007/128740の第19頁18行〜第21頁32行参照。この文献の教示は特にここに援用する。
本発明の潤滑組成物は無灰分分散剤を更に含有してよく、好ましくは潤滑組成物の総重量に対し5〜15重量%の範囲の量で混合される。
【0073】
使用可能な無灰分分散剤の例としては、特開昭53−050291号公報、特開昭56−120679号公報、特開昭53−056610号公報及び特開昭58−171488号公報に開示されるポリアルケニルスクシンイミド及びポリアルケニル琥珀酸エステルが含まれる。好ましい分散剤はホウ素化(borated)スクシンイミドを含む。
【0074】
本発明の潤滑組成物に都合良く使用できる粘度指数向上剤の例としては、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン星状共重合体及びポリメタクリレート共重合体並びにエチレン−プロピレン共重合体が含まれる。本発明の潤滑組成物には分散剤−粘度指数向上剤を使用してよい。
【0075】
このような粘度指数向上剤は、本発明潤滑組成物の総重量に対し1〜20重量%の範囲の量で都合良く使用できる。
ポリメタクリレートは、本発明の潤滑組成物に効果的な流動点降下剤として都合良く使用できる。
【0076】
更に、アルケニル琥珀酸又はそのエステル部分のような化合物、ベンゾトリアゾール系化合物及びチオジアゾール系化合物は、本発明の潤滑組成物に腐食防止剤として都合良く使用できる。
【0077】
ポリシロキサン、ジメチルポリシロキサン及びポリアクリレートのような化合物は本発明の潤滑組成物において泡立ち防止剤として都合良く使用できる。
本発明の潤滑組成物においてシール固定又はシール適合性剤として都合良く使用できる化合物としては、例えば市販の芳香族エステルが含まれる。
【0078】
本発明の潤滑組成物は、1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド塩誘導体及び任意に、1種以上の耐摩耗剤、1種以上の洗浄剤及び更に潤滑組成物に通常存在する前述のような添加剤を、鉱物及び/又は合成基油と添加混合して都合良く製造できる。
【0079】
他の状況では本発明は、本発明の潤滑組成物で(好ましくは内燃機関)潤滑することを特徴とする、TU5 (CEC L−88−T02)及びASTM D6984の1つ以上の試験法に従って、好ましくは内燃機関で試験したピストンの清浄特性を向上する方法を提供する。
【0080】
当業者ならば、この潤滑組成物がピストンの清浄特性向上の役割を演じる場合、内燃機関以外の他の用途にも好適に使用できることを理解している。
本発明を以下の実施例を参照して説明するが、これらの実施例は本発明の範囲をいかなる方法でも限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0081】
潤滑油組成物
表1は、試験した潤滑油組成物の組成を示す。成分の量は重量%で示す。
試験した組成物は全ていわゆるSAE J300規格(2004年5月に改訂)による15W−40エンジンオイルとして配合した。SAEはSociety of Automotive Engineers(自動車技術者協会)を表す。
【0082】
“基油”はAmerican Petroleum Institute(API)(米国石油協会)の定義によるAPIグループI基油である。
添加剤パッケージ(両組成物とも同じ)はTBNが30〜350mg.KOH/gの範囲のスルホネート・フェネート洗浄剤、PIBスクシンイミド分散剤、ジチオ燐酸亜鉛耐摩耗剤、流動点降下剤、泡立ち防止剤及び希釈油を含む慣用の添加剤パッケージである。
【0083】
試験に使用した本発明のポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド塩誘導体は、Shanghai Sanzhang Polymer Companyから商品名“CH−5”で市販されている製品である。
【0084】
“CH−5”製品は、TBN値がASTM D4739で測定して約1.9mg.KOHである。更に“CH−5”製品の硫黄含有量は、ICP−AESで測定して約0.95重量%である。
【0085】
【表1】

【0086】
TU5(CEC L−88−T02)試験
本発明のピストン清浄性向上を示すため、プジョーTU5試験に従って測定を行った。
プジョーTU5試験は、点火制御された現代のエンジンにおける高温堆積物、リング焼付き、オイルの粘稠度増加を評価する。この試験はヨーロッパ高速道のドライブをシミュレートする。
【0087】
この試験には、動力計付きの台上に載せたプジョーTU5 JP+L4、1.5リッター、インライン、改良オイルポンプ付き4気筒エンジンを使用した。
この試験は、6つの12−時間、2−相サイクルを合計試験時間72時間操作する。相1(11時間50分)はwide-openスロットル、5,600rpm、オイル及び冷却液温度150℃である。相2は10分間のアイドリングである。ピストンをラッカー、カーボン、及びリング焼付きについて評価した。
ピストン清浄性測定値(長所)を下記表2に示す。
【0088】
連続IIIF寿命試験(ASTM D6984)
本発明のピストン清浄特性向上を示すため、連続IIIF寿命試験に従って測定を行った。IIIF寿命試験は高温条件下でオイルの粘稠度増加及びピストン堆積物を測定して、バルブ列の摩耗についての情報を与える。この試験は比較的高い周囲条件下での高速使用(service)をシミュレートするものである。
【0089】
1996/1997 231 CID(3,800cc)シリーズIIゼネラルモータースV−6燃料噴射型エンジンを使用した。
この試験では、無鉛ガソリンを用いてエンジンは10分の初期オイルレベリング法を行ない(run)、次いで速度及び負荷条件まで15分の緩やかな傾斜路(slow ramp)を運転する(run)。次いで、オイル量のチェックのため10時間間隔で中断したが、100bhp(ブレーキ馬力)、3,600rpm、及びオイル温度155℃で80時間操作する。
【0090】
試験の終了時に6個のピストン全てを堆積物及びワニスについて調べ、カムシャフト及びリフターの摩耗を測定し、オイルスクリーンの詰まりを評価し、40℃での動粘度の増加(%)を10時間毎に新しいオイル基準線と比較し、また摩耗金属(Cu、Pb及びFe)を評価した。
ピストン清浄性測定値(長所)を下記表2に示す。
【表2】

【0091】
考察
表2から判るように、実施例1のピストン清浄性は比較例1と比べて著しく向上した。
表2は、ポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド塩誘導体を含む潤滑組成物が内燃機関の汚染を抑えて、スラッジやワニスのような堆積物の低減に有利な清浄性能(WO 2007/128740に既に示される)を示すばかりでなく、特にTU5(CEC L−88−T02)及びASTM D6984によるピストン清浄性の向上を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0092】
【特許文献1】WO 2007/128740
【特許文献2】EP 0164817
【特許文献3】WO 95/17473
【特許文献4】WO 96/07689
【特許文献5】米国特許第5536445号
【特許文献6】GB 2001083
【特許文献7】GB 1342746
【特許文献8】GB 1373660
【特許文献9】米国特許第5000792号
【特許文献10】米国特許第4349389号
【特許文献11】米国特許第3996059号
【特許文献12】WO 97/41092
【特許文献13】米国特許第3275554号
【特許文献14】米国特許第3438757号
【特許文献15】米国特許第3454555号
【特許文献16】米国特許第3565804号
【特許文献17】米国特許第3755433号
【特許文献18】米国特許第3822209号
【特許文献19】米国特許第3996059号
【特許文献20】米国特許第4349389号
【特許文献21】EP 0776959
【特許文献22】EP 0668342
【特許文献23】WO 97/21788
【特許文献24】WO 00/15736
【特許文献25】WO 00/14188
【特許文献26】WO 00/14187
【特許文献27】WO 00/14183
【特許文献28】WO 00/14179
【特許文献29】WO 00/08115
【特許文献30】WO 99/41332
【特許文献31】EP 1029029
【特許文献32】WO 01/18156
【特許文献33】WO 01/57166
【特許文献34】特開昭53−050291号公報
【特許文献35】特開昭56−120679号公報
【特許文献36】特開昭53−056610号公報
【特許文献37】特開昭58−171488号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特にTU5(CEC L−88−T02)及びASTM D6984の1つ以上に従って試験されるピストンの清浄性を向上するため、好ましくは内燃機関に、基油と、式(III):
[Y−CO[O−A−CO]−Z−R]pXq− (III)
(但し、Yは水素又は任意に置換されたヒドロカルビル基であり、Aは任意に置換された2価のヒドロカルビル基であり、nは1〜100、好ましくは1〜10であり、mは1〜4であり、qは1〜4であり、またpはpq=mとなるような整数であり、Zは、窒素原子を介してカルボニル基に結合する、任意に置換された2価の架橋基であり、Rはアンモニウム基であり、またXq−はアニオンである。)
を有する1種以上のポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド塩誘導体とを含む潤滑組成物を使用する方法。
【請求項2】
前記ポリ(ヒドロキシカルボン酸)アミド塩誘導体の1種以上のTBN(全塩基価)が10mg.KOH/g未満である請求項1に記載の使用法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の潤滑組成物で潤滑することを特徴とする、好ましくは内燃機関における、特にTU5(CEC L−88−T02)及びASTM D6984の1つ以上に従って試験されるピストンの清浄特性を向上する方法。


【公表番号】特表2011−525563(P2011−525563A)
【公表日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515350(P2011−515350)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【国際出願番号】PCT/EP2009/057807
【国際公開番号】WO2009/156393
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(390023685)シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ (411)
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
【Fターム(参考)】