説明

ポンプ、その製造方法および冷却装置

【課題】沸騰冷却方式を用いた場合であっても長期間にわたり冷却性能を維持することができるポンプ、その製造方法および冷却装置を提供する。
【解決手段】本発明におけるポンプは、流体の流入口および流出口を備えた筺体と、筺体内に設けられた軸方向に摺動可能な可動体と、流入口および流出口に接続した流路とを備え、流路は流体と接する面が金属層である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
液体を循環させるポンプ、その製造方法および冷却装置に関し、特に低沸点の冷媒を循環させるポンプ、その製造方法および冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータをはじめとして、電子機器の情報処理速度の向上は著しく、これを実現するCPU(Central Processing Unit)やその他の半導体素子の処理クロック数は大幅な高速化が図られている。
【0003】
このCPUや半導体素子の高速化に伴い、CPUや半導体素子が発する発熱量も増大してきている。そのためCPU等の発熱体に対して熱的に接続したヒートシンクを空冷で冷却する方式では、十分に冷却を行うことができない半導体素子も現れてきている。
【0004】
そこで近年では、空気よりも比熱の高い液体を冷媒として用いることで、冷却効率をさらに向上させた液冷方式の冷却装置の開発が進んでいる。
【0005】
液冷方式の冷却装置は、冷媒を閉循環経路に循環させるポンプを備えており、そのポンプは冷媒を循環させて放熱部に運ぶ。ポンプの構造は、シリンダの内部に往復動自在なピストンを配置しており、吸排弁を介してシリンダ室と外部とを連通している。そしてシリンダ内でピストンを往復動させるポンプ作用により冷媒の吸排を行う。
【0006】
特許文献1には、このようなポンプを冷媒の相変化を用いた沸騰冷却システムに適用した例が記載されている。上記文献に開示された沸騰冷却システムにおいては、蒸発器と凝縮器とを連通する上部連通管において気化冷媒の流量を圧力調整弁で制御する。そしてポンプを制御することにより、蒸発器の液面レベルを一定に保っている。上記構造により、冷媒の飽和温度を可変させて、発熱体の温度を一定に保つことで安定的に冷却を行うこととしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−349681号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
冷媒の相変化を用いる沸騰冷却装置では、冷媒の沸点を低くするために冷却装置内の内圧を大気圧より低い状態に保つ必要がある。そのため冷媒の循環経路の全てにおいて、密閉性を有した構造が求められる。
【0009】
しかし特許文献1のように冷媒の循環系路内にポンプが配置されている場合、外部の空気がポンプの流路を形成している樹脂などから浸透して入り込んでしまう可能性がある。従って、長時間にわたり気密性を維持することは難しい。ポンプ内に空気が流入すると、内圧が上がってしまう。その結果、冷媒の沸点が上昇し冷却性能が低下してしまうという問題があった。
【0010】
本発明は、上述した課題である、ポンプを沸騰冷却に用いると、冷却性能が経時的に低下するという課題を解決するポンプ、その製造方法および冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明におけるポンプは、流体の流入口および流出口を備えた筺体と、筺体内に設けられた軸方向に摺動可能な可動体と、流入口および流出口に接続した流路とを備え、流路は流体と接する面が金属層である。
【発明の効果】
【0012】
本発明におけるポンプ、その製造方法および冷却装置によれば、沸騰冷却方式を用いた場合であっても長期間にわたり冷却性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態におけるポンプ1を示す断面図である。
【図2】第1実施形態におけるポンプ1の動きを示す断面図である。
【図3】第1実施形態におけるポンプ1の動きを示す断面図である。
【図4】第2実施形態におけるポンプ1を示す断面図である。
【図5】第3実施形態における冷却装置10を示す断面図である。
【図6】第3実施形態における流路を示す斜視図である。
【図7】第4実施形態におけるポンプ1の製造方法を示す図である。
【図8】第4実施形態におけるポンプ1の製造方法を示す図である。
【図9】第4実施形態におけるポンプ1の製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための好ましい形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。
【0015】
〔第1の実施形態〕本実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本実施形態におけるポンプ1の断面図である。
【0016】
〔構造の説明〕図1に示すように本実施形態におけるポンプ1は、流路2と、筺体5と、可動体6と、電磁コイル7と、バルブ8とを備えている。
【0017】
本実施形態におけるポンプ1は鉛直方向に延在する円筒形状であり、図1はポンプ1の鉛直方向における断面図を示す。図1に示すようにポンプ1は、ポンプ1内を流動する流体の流入口3と、流出口4とをそれぞれ2つずつ有する筺体5を備えている。筺体5は、図1における上下方向である鉛直軸方向に延在する形状であれば上記に限定されない。なお筺体5は、流入口3と流出口4とをそれぞれ1つずつ設けた構造でもよい。
【0018】
流入口3および流出口4には、それぞれ流路2が接続している。流路2の材質は、長期間、安定に冷媒を送出するため、冷媒と反応性の低い樹脂を用いることが望ましい。例えば、本実施形態におけるポンプ1は、ポリフェニレンスルファイド樹脂で流路2を構成している。しかしこれに限らず耐熱温度が100℃以上で長期間使用でき、また冷媒に対して高い耐性を有するスーパーエンジニアリングプラスチックのような樹脂であれば特に限定されない。
【0019】
また流路2は、樹脂層の内層である流体と接する面に金属層11を設けている。例えば金属層11は、アルミニウム、スズ、ステンレス、銅、真鍮、亜鉛などの材料で構成される。
【0020】
なお、流入口3および流出口4を介する流路2と筺体5との接続構造、および流路2、筺体5はそれぞれ密閉性を有した構造である。そしてポンプ1内部の気圧は、大気圧に比べて低い状態となるように、真空引きされている。
【0021】
可動体6は筺体5の内部に設けられており、筺体5の内部において筺体5の鉛直軸方向に摺動可能な形状である。なお可動体6は、内部に磁性体9を備えており、磁性体9は筺体5の鉛直軸方向にN極またはS極を有するように配置されている。本実施形態では、磁性体9は鉛直軸方向の上方向にS極を、下方向にN極を有しているとした。
【0022】
電磁コイル7は、筺体5の外周において鉛直軸方向に対して垂直方向に環状に巻きつけられている。従って、電磁コイル7は、電流が流れると筺体5の内部に鉛直軸方向に平行な磁力を発生する。そして電磁コイル7から発生した磁力線は、磁性体9を貫通する。なお電磁コイル7が筺体5に巻かれている巻き数を多くすることで筺体5の内部に発生する磁力を大きくすることができる。
【0023】
バルブ8は、筺体5の流入口3と流出口4にそれぞれ設けられており、冷媒の流れに沿ってバルブ8が動くことでバルブ8の弁12が流入口3、流出口4を開閉し、流体の流れを制御する。つまりバルブ8の弁12が流入口3を閉じると、ポンプ1内に冷媒は流入されず、弁12が流出口4を閉じるとポンプ1内の冷媒は、流出されない。
【0024】
ここで、バルブ8の詳細な構造について説明を行う。本実施形態におけるバルブ8は、鉛直軸方向の両端部に上部開口部と下部開口部を有しており、鉛直軸方向(図1における上下方向)に摺動可能な形状である。またバルブ8は、上部開口部または下部開口部のいずれか一方に、弁12を有している。つまり、バルブ8が鉛直軸方向に動くと、バルブ8の弁12も同時に動く。
【0025】
ここで第1バルブ8aは、上部開口部に弁12を有する構造であり、流入口3Aおよび流出口4Aに設けられている。つまり図2に示すように、第1バルブ8aは流入口3Aおよび流出口4Aの鉛直方向の上部に弁12を設けている。
【0026】
上記構造により、可動体6が鉛直方向の上向きに動くと、冷媒の流動により第1バルブ8aも上方向に動く。このとき、第1バルブ8aの弁12は、流入口3Aおよび流出口4Aと接触しないため、冷媒の吸排を行うことができる。
【0027】
一方、図3に示すように、第1バルブ8aは、可動体6が鉛直方向の下方向に動くと、冷媒の流動により第1バルブ8aも下方向に動く。このとき、第1バルブ8aの弁12は、流入口3Aおよび流出口4Aを封止するため、冷媒の流れを遮断する。
【0028】
また第2バルブ8bは、下部開口部に弁12を有する構造であり、流入口3Bおよび流出口4Bに設けられている。つまり図2に示すように、第2バルブ8bは流入口3Bおよび流出口4Bの鉛直方向の下部に弁12を設けている。
【0029】
上記構造により、可動体6が鉛直方向の上向きに動くと、冷媒の流動により第2バルブ8bも上方向に動く。このとき、第2バルブ8bの弁12は、流入口3Bおよび流出口4Bを封止するため、冷媒の流れを遮断する。
【0030】
一方、図3に示すように、第2バルブ8bは、可動体6が鉛直方向の下向きに動くと、冷媒の流動により第2バルブ8bも下方向に動く。このとき、第2バルブ8bの弁12は、流入口3Bおよび流出口4Bと接触しないため、冷媒の吸排を行うことができる。
【0031】
なお図1に示す本実施形態では、第1バルブ8aを設けている流入口3Aおよび流出口4Aと、第2バルブ8bを設けている流入口3Bおよび流出口4Bとがそれぞれ対角線方向に設けられている。
【0032】
〔作用・効果の説明〕次に、本実施形態における作用・効果について図2を用いて説明を行う。
【0033】
まず電磁コイル7に通電を行ない電流を流す。すると電磁コイル7の内部に設けられた筺体5には鉛直軸方向の磁力線が発生する。鉛直軸方向に発生した電磁力により、内部に磁性体9を設けている可導体6は、鉛直軸方向(図1における上下方向)に移動を行う。
【0034】
まず図2に示すように、可導体6が上方向に移動している場合を考える。所定の方向で電磁コイル7に電流を流すと、上向き方向に磁力線が発生する。このとき可導体6は、軸線方向の上部にS極を、下部にN極を有した磁性体9を内部に設けているため、可導体6は上方向に動く。
【0035】
図2に示すように、可動体6が鉛直方向の上向きに動くと、筺体5の内部に充填されている冷媒も鉛直方向の上向きに動くため、弁12は上方向に移動する。第1バルブ8aは、弁12が流入口3Aおよび流出口4Aの上部に設けられているので、弁12は流入口3Aおよび流出口4Aと接触せず、冷媒を通過させる。
【0036】
一方、弁12が流入口3Bおよび流出口4Bの下部に設けられている第2バルブ8bは、弁12が鉛直方向の上向きに移動することで流入口3B及び流出口4Bと接触して封止するため、冷媒の流れを遮断する。
【0037】
つまり、可動体6を鉛直方向の上向きに動かすと、第1バルブ8aを備えた流入口3Aおよび流出口4Aは、冷媒の吸排を行うことができるが、第2バルブ8bを備えた流入口3Bおよび流出口4Bは冷媒の吸排を行うことができない。
【0038】
一方、電磁コイル7に反対向きの電流を流すと、電磁コイル7の内部に設けられた筺体5には鉛直軸方向の下向きに磁力線が発生する。なお電磁コイル7に電流を流す向きは、回路などにより制御してもよい。
【0039】
図3に示すように、可動体6が鉛直方向の下向きに動くと、筺体5の内部に充填されている冷媒も鉛直方向の下向きに動くため、弁12は鉛直軸方向の下向きに移動する。第2バルブ8bは、弁12が流入口3Bおよび流出口4Bの下部に設けられているので、弁12は流入口3Bおよび流出口4Bと接触せず、冷媒を通過させる。
【0040】
一方、弁12が流入口3Aおよび流出口4Aの上部に設けられている第1バルブ8aは、弁12が下向きに移動することで流入口3A及び流出口4Aと接触して封止するため、冷媒の流れを遮断する。
【0041】
上記のように、電磁コイル7に通電を行う向きにより、発生する磁力線の向きを変えることで、第1バルブ8a、または第2バルブ8bを備えた流入口3、流出口4に対しての冷媒の移動を制御することができる。
【0042】
ここでポンプ1における可動体6と流体の運動について説明を行う。電磁コイル7に通電することで、電磁コイル7の内部に設けられた筺体5に鉛直軸方向の磁力線を発生させると、内部に磁性体9を設けている可導体6は、鉛直軸方向に移動を行う。
【0043】
まず図2に示すように、可導体6が鉛直方向の上向きに移動している場合、筺体5の下面と可動体6の下面とで挟まれた領域Aの体積が増加する。このとき下方の流入口3Aは第1バルブ8aの弁12により開放されており、下方の流出口4Bは第2バルブ8bにより塞がれているため、流入口3Aから筺体5の領域Aに冷媒が流入して蓄積する。
【0044】
次に図3に示すように、可動体6が鉛直方向の下向きに移動している場合、筺体5の下面と可動体6の下面とで挟まれた領域Aの体積が減少する。このとき下方の流入口3Aは第1バルブ8aの弁12により塞がれており、下方の流出口4Bは第2バルブ8bにより開放されているため、筺体5の領域Aに蓄積された冷媒は下方の流出口4Bから流路2に排出される。
【0045】
上記のように、可動体6が筺体5内で鉛直軸方向に動くことで、筺体5内に蓄積する冷媒の領域Aの体積が増減する。それと同時に第1バルブ8aと第2バルブ8bとが、それぞれ流入口3Aと流出口4Bの開閉状態を制御するため、冷媒がポンプ1を介して流動する。なお、筺体5の上面と可動体6の上面とで挟まれる領域Bについても同様の作用を行う。
【0046】
ここで流入口3および流出口4に接続している流路2が樹脂のみで構成されている場合を考える。ポンプ1に接続する流路2は、例えばポリフェニレンスルファイドなどの反応に対する耐性が高いスーパーエンジニアリングプラスチックのような樹脂を用いているため、樹脂が高温の冷媒により腐食することを防ぐことができる。
【0047】
しかし相変化冷却に用いるポンプは、冷媒の沸点を低くするために密閉性を有した構造で、かつポンプ内の内圧を大気圧に比べて低い状態で使用する必要がある。そのため関連するポンプでは、流路2の材料には反応性の低い樹脂を使用しているが、外部から樹脂を介して浸透する空気の流入を完全に防ぐことは難しい。
【0048】
そして、関連するポンプおいては、ポンプ内に空気が流入すると、大気圧より低くした内圧が増加することで冷媒の沸点が上昇し、冷却性能が低下してしまうという問題があった。
【0049】
しかし、本実施形態におけるポンプ1は、流路2の内層である流体と接する面に金属層11を設けた構造としている。そのため、樹脂を介して外部から流路2に空気が浸透してきたとしても、金属層11において空気がポンプ1内に流入することを防ぐことができる。
【0050】
その結果、ポンプ1内に空気が流入することを防ぐことで、内圧が上がることを防ぐことができる。つまり内圧があがることによる冷媒の沸点が上昇することを抑えることができるため、本実施形態によるポンプ1を用いた冷却装置の冷却性能の低下を抑制することができる。
【0051】
〔第2の実施形態〕次に第2の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図4は、本実施形態におけるポンプ1の断面図である。
【0052】
〔構造の説明〕本実施形態におけるポンプ1は、金属層11が流路2の内層だけでなく、可動体6の表面にも設けられている点である。それ以外の構造、接続関係は、第1の実施形態と同様であり、流路2と、電磁コイル7と、バルブ8とを備えている。
【0053】
筺体5は、図4に示すように円筒形状であり、流入口3と、流出口4とをそれぞれ2つ設けている。流入口3および流出口4には、それぞれ流路2が接続している。
【0054】
流路2の材質は、長期間、安定に冷媒を送出するため、反応性の低い樹脂を用いることが望ましい。例えば、本実施形態におけるポンプ1は、ポリフェニレンスルファイド樹脂で流路2を構成している。しかし、これに限らず耐熱温度は100℃以上で長期間使用でき、また冷媒に対して高い耐性を有するスーパーエンジニアリングプラスチックのような樹脂であればよい。
【0055】
また流路2の樹脂層の内層である流体と接する面には、金属層11が設けられている。金属層11は、例えばアルミニウム、スズ、ステンレス、銅、真鍮、亜鉛などを用いることができる。
【0056】
なお本実施形態では、流路2の内層だけでなく、可動体6の外表面にもメッキ処理により金属保護層11aを形成している。つまり可動体6が流体と接する面に金属保護層11aを設けている。以下、ニッケルめっき処理を行った場合を記載するが、特にこれに限定されない。例えば、ニッケルめっき処理を行う場合、ニッケルめっきの厚さは、10μm程度以上、好ましくは20μm以上あることが望ましい。
【0057】
なお、流入口3および流出口4を介した流路2と筺体5との接続構造、および流路2と筺体5の構造は密閉性を有している。そしてポンプ1内部の気圧は、大気圧に比べて低くい状態となるように、真空引きされている。
【0058】
可動体6は、筺体5の内部に設けられており、筺体5の内部で筺体5の鉛直軸方向に摺動可能な形状である。なお可動体6は、内部に磁性体9を設けており、磁性体9は筺体5の鉛直軸方向にN極またはS極を有するように配置されている。本実施形態では、磁性体9は鉛直軸方向の上向きにS極を、下向きにN極を有している。
【0059】
電磁コイル7は、筺体5の外周において鉛直軸方向に対して垂直方向に環状に巻きつけられている。従って、電磁コイル7は、電流が流れると筺体5の内部に鉛直軸方向に平行な磁力を発生する。そして電磁コイル7から発生した磁力線は、磁性体9を貫通する。なお電磁コイル7が筺体5に巻かられている巻き数を多くすることで筺体5の内部に発生する磁力を大きくすることができる。
【0060】
〔作用・効果の説明〕次に、本実施形態における作用・効果について説明を行う。
【0061】
まず電磁コイル7に通電することで電流を流す。電磁コイル7の内部に設けられた筺体5には鉛直軸方向の磁力線が発生する。鉛直軸方向に発生した電磁力により、内部に磁性体9を設けている可導体6は、鉛直軸方向に移動を行う。
【0062】
ここで図2に示すように、可導体6が鉛直方向の上向きに移動している場合を考える。所定の方向で電磁コイル7に電流を流すと、上向き方向に磁力線が発生するため、可導体6は上方向に動く。可動体6が上方向に動くと、筺体5の内部に充填されている冷媒も上方向に動き、弁12は鉛直軸方向の上向きに移動する。
【0063】
第1バルブ8aは、流入口3Aおよび流出口4Aの上部に弁12を設けているため、弁12が流入口3Aおよび流出口4Aと接触せず、冷媒が流動する。一方、第2バルブ8bは、流入口3Bおよび流出口4Bの下部に弁12を設けているため、弁12が流入口3B及び流出口4Bと接触して封止することで冷媒の流れを遮断する。
【0064】
つまり、可動体6を鉛直方向の上向きに動かすと、第1バルブ8aを備えた流入口3Aおよび流出口4Aは、冷媒の吸排を行うことができるが、第2バルブ8bを備えた流入口3Bおよび流出口4Bでは冷媒の吸排を行うことができない。
【0065】
一方、図3に示すように、電磁コイル7に対して反対向きに電流を流すと、電磁コイル7の内部に設けられた筺体5には鉛直軸方向の下向きに磁力線が発生するため、可導体6は下方向に動く。可動体6が下方向に動くと、筺体5の内部に充填されている冷媒も下方向に動き、弁12は鉛直軸方向の下向きに移動する。
【0066】
第2バルブ8bは、流入口3Bおよび流出口4Bの下部に弁12を設けているため、弁12が流入口3Bおよび流出口4Bと接触せず、冷媒の流れを開放する。一方、第1バルブ8aは、流入口3Aおよび流出口4Aの上部に弁12を設けているため、弁12が流入口3A及び流出口4Aと接触して封止することで冷媒の流れを遮断する。
【0067】
上記のように、電磁コイル7に通電を行う向きにより、磁力線の向きを変えることで、第1バルブ8a、または第2バルブ8bを備えた流入口3、流出口4に対しての冷媒の移動を制御することができる。
【0068】
ここで相変化を用いた冷却装置は、発熱体が発生する熱量によって冷媒は沸騰して気化し、気化した冷媒の蒸気を、気液密度の差による浮力により、凝縮部に運ぶ。凝縮部に運ばれた冷媒の蒸気は、放熱部により冷却されることによって凝縮し液化する。凝縮した冷媒は重力により降下し、気液界面に還流する。
【0069】
上記の相変化冷却を用いた冷却装置に本実施形態のポンプ1を用いた場合、流路2および筺体5に、高温の冷媒が流れる。そのため、高温の冷媒が可動体6と接触して反応すると、腐食などにより不凝縮性ガスを発生してしまう。不凝縮ガスが発生すると冷却器内部の内圧が上昇し、冷却性能が低下してしまう。
【0070】
そこで本実施形態では図4に示すように、可動体6の外表面である流体と接する面にメッキ処理により金属保護層11aを形成している。そのため、高温の冷媒やその蒸気が、流路2を介して筺体5の内部に流れ込んだとしても、冷媒が可動体6と反応して不凝縮性ガスを発生させることを防ぐことができる。その結果、冷却装置内の内圧が上昇することを防ぐことができるため、冷却性能の低下を防ぐことができる。
【0071】
なおメッキ処理により形成される金属保護層11aは、可動体6に限らず筺体5の内壁面や、筺体5と流路2との継ぎ目の接続面などの流体と接する面に設けてもよい。上記のように、流路2を含めてポンプ1内の冷媒が流動する際に、流体と接する箇所にメッキ処理をして金属保護層11aを形成することで、不凝縮ガスが発生することによる冷却効率の低下を防ぐことができる。
【0072】
また金属保護層11aは、可動体6と筺体5との摺動面(外周面)を被覆するように設けられた被膜であればよく、樹脂と金属とを複合した材料も適用することができる。例えば、ポリフェニレンスルファイド樹脂の微粉末をニッケルめっき中に分散させた金属保護層11aを用いることができる。
【0073】
上記の場合、金属保護層11aはニッケルめっき被膜を下地として施されているもので、可動体6と筺体5との摺動面では、この金属層11が露出する。可動体6は、筺体5との接触面に金属層11を設けることで摺動性、耐摩耗性を向上させることが出来る。また金属保護層11aは潤滑塗装などと比較して、可動子5の密着性が良好で、優れた摺動性を得ることができる。
【0074】
このように、図4に示す可動体6は、筺体5と接する外表面がニッケルめっきなどを含む金属保護層11aによって被覆されていることにより、高温の冷媒などに対しても十分な耐蝕性、耐久性を備えることができる。
【0075】
〔第3の実施形態〕次に第3の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図5は、本実施形態における冷却装置10の断面図である。
【0076】
〔構造の説明〕本実施形態における冷却装置10は、蒸発部20と凝縮部30と液相流路40と気相流路50とを有し、液相流路40内にポンプ1を備える。なおポンプ1の構造、接続関係は、第1の実施形態、または第2の実施形態と同様であり、流路2と、筺体5と、可動体6と、電磁コイル7と、バルブ8とを備えている。
【0077】
図5に示すように冷却装置10は、蒸発部20と凝縮部30とを備えており、気相流路50は蒸発部20の上部と凝縮部30の上部とを接続している。一方、液相流路40は、蒸発部20の側面部と、凝縮部30の下部とを接続している。
【0078】
蒸発部20は、箱型形状であり内部に冷媒を貯蔵している。具体的な冷媒としてHFC(hydro fluorocarbon:ハイドロフルオロカーボン)や、HFE(hydro fluor ether:ハイドロフルオロエーテル)を用いているが、低沸点の材料であればこれに限定されない。蒸発部20は、下面部において発熱体(図示しない)と熱的に接触しており、発熱体が発生する熱により冷媒は沸騰する。
【0079】
蒸発部20の上面と接続する気相流路50は、凝縮部30の上部と接続しており、蒸発部20の側部と接続する液相流路40は、凝縮部30の下部と接続している。上記構造とすることで、蒸発部20において蒸気となった冷媒は凝縮部30に運ばれ、そして凝縮部30において凝縮された冷媒は蒸発部20に運ばれるという熱サイクルを維持することができる。
【0080】
凝縮部30は箱型形状であり、気相流路50から凝縮部30の上部に冷媒が流入されると、冷媒は凝縮部30内部を上部から下部に流れる。凝縮部30が外気により冷却されることで、凝縮部30に流入した冷媒の蒸気は凝縮され液化する。液化した冷媒は、凝縮部30の下部に接続した液相流路40を介して、側面から蒸発部20に流れこむ。
【0081】
ここで本実施形態では、第1および第2の実施形態において説明したポンプ1を蒸発部20と凝縮部30とをつなぐ液相流路40内に設けている。なおポンプ1は、流路2だけでなく可動体6や筺体5の内壁など流体と接する面に金属層11がメッキ処理されていることが望ましい。
【0082】
ここで蒸発部20と凝縮部30とを接続する気相流路50、液相流路40は樹脂製の接続管により構成した。接続管の内層には金属層11を設け、金属層11の膜厚は、0.5mmであり、主にアルミニウムやスズなどの柔軟性を有した材料を用いた。
【0083】
気相流路50、液相流路40は、内層に薄い金属層11を設けた樹脂製の接続管であるため、柔軟性を有している。その結果、気相流路50、液相流路40を任意の方向に湾曲させることが可能であり、蒸発部20と凝縮部30を自由に配置することができる。
【0084】
ここで金属層11は、図6に示すように、少なくとも一部を重ね合わせて接合する接合部60を設けてもよい。気相流路50、液相流路40を湾曲させる場合、図6に示すように、気相流路50および液相流路40を湾曲させた場合、接合部60は湾曲部の曲率中心側に配置される。
【0085】
〔作用・効果の説明〕次に本実施形態における作用・効果について説明を行う。
【0086】
蒸発部20は、発熱体と熱的に接触している。そのため、蒸発部20の内部に設けられた冷媒は、発熱体が発する熱を受熱することで沸騰する。
【0087】
蒸発部20内部の冷媒が沸騰することにより発生した蒸気は、気液の密度差による浮力によって、蒸発部20に接続している気相流路50を介して凝縮部30に運ばれる。
【0088】
凝縮部30に運ばれた冷媒の蒸気は、凝縮部30を上端部から下端部に流れるあいだ、外気と熱交換を行う。蒸発した冷媒は凝縮部30において冷却され、気体から液体に凝縮することによって、発熱体で発生した熱を外気へ放熱することができる。なお、凝縮部30の下端部において液化した冷媒は、下端部に接続した液相流路40を介して蒸発部20に運ばれる。
【0089】
ここで発熱体が発する熱を蒸発部20で受熱して沸騰した冷媒の蒸気を、凝縮部30において冷却することによって、冷媒を凝縮させ、再び液化させる、という沸騰冷却のサイクルを、流路を通して円滑に循環させる必要がある。
【0090】
例えば、蒸発して気化した冷媒が凝縮部30で凝縮され、凝縮された冷媒が蒸発部20に還流するサイクルが滞ると、蒸発部20内の冷媒が全て蒸発してしまう可能性がある。このとき、沸騰した冷媒の蒸気を、凝縮部30を介して冷却することで、冷媒を再び液化するという冷却サイクルを継続することが困難になり、冷却性能が低下してしまう。
【0091】
そこで本実施形態では、凝縮部30で凝縮された冷媒を蒸発部20に還流する液相流路40内にポンプ1を設けている。ポンプ1を設けることで、凝縮部30で凝縮した冷媒を効率よく蒸発部20に還流することができる。
【0092】
その結果、蒸発部20おいて冷媒全てが蒸発してしまうと言う事態を防ぐことができ、冷却サイクルを継続することができる。そのため、冷却装置10の冷却性能を維持することができる。
【0093】
また液相流路40は、内層の金属層11を重ね合わせて接合させた接合部60を設けることで金属層11が薄い構造であっても強い接続構造を有することができる。
【0094】
しかし気相流路50および液相流路40は、蒸発部20と凝縮部30とを接続するため湾曲部分を設ける必要がある。そこで本実施形態では、液相流路40を湾曲させた場合、接合部60を湾曲部の曲率中心側に設けている。
【0095】
液相流路40の接合部60を湾曲部の外側に設けた場合、接合部60に対して力が外側に集中してかかることで、金属層11の接合部60が分離してしまう可能性があった。接合部60において金属層11が分離すると、その隙間から冷媒が侵入し、冷媒と樹脂層とが反応して不凝縮ガスを発生し、冷却性能を低下させてしまうなどの問題があった。
【0096】
そこで本実施形態では、液相流路40を湾曲させた場合、接合部60を湾曲部の曲率中心側に設けることで、接合部60に対して力が外側にかかることを防ぐことができる。その結果、金属層11の分離を回避することができ、冷媒の蒸気と樹脂層3とが反応して不凝縮性ガスが発生することによる冷却性能の低下を抑制することができる。
【0097】
〔第4の実施形態〕次に第4の実施形態について図面を用いて説明する。図7〜図9は、本実施形態によるポンプ1の製造方法を接飯するための工程図である。以下、同図を参照して工程順に説明する。
【0098】
本実施形態によるポンプ1の製造方法では、流路2と、筺体5と、可動体6と、電磁コイル7と、バルブ8とを備えたポンプ1を用いる。このときポンプ1の流路2、可動体6などの冷媒に接する面は、樹脂または耐腐食性の弱い金属層11により構成されている。
【0099】
まず図7に示すように、ポンプ1の流入口3、および流出口4の流路2に、それぞれチューブ12を接続する。そして流入口3および流出口4の流路2にそれぞれ接続したチューブ12を、金属メッキ溶液13が設けられた容器14に挿入する。
【0100】
そしてステップ1として、ポンプ1の電磁コイル7に通電することで電流を流す。すると電磁コイル7の内部に設けられた筺体5には鉛直軸方向の磁力線が発生する。鉛直軸方向に発生した電磁力により、内部に磁性体9を設けている可導体6は、鉛直軸方向に移動を行う。
【0101】
図8に示すように、筺体5内を可動体6が軸線方向にピストン運動を行うことで、金属メッキ容液13は流入口3を介して筺体5内に流入する。次にステップ2に進む。
【0102】
次に図9に示すように、ステップ2として、ポンプ1の電磁コイル7にステップ1とは反対方向に電流を流す。すると電磁コイル7の内部に設けられた可動体6は、筺体5内においてステップ1の時とは反対の軸線方向にピストン運動を行う。その結果、筺体5内の金属メッキ溶液13は流出口4を介して、容器14に排出する。
【0103】
〔効果の説明〕静止した冷媒にポンプ1の部品を浸漬させてメッキ処理を行う場合、メッキ加工を行うための反応層速度が大きくなり、時間を要してしまうという問題があった。
【0104】
本実施形態においては、ポンプ1を駆動することによってポンプ1内に金属メッキ溶液13を流入し、排出するという循環を行う。それによって静止冷媒にメッキ対象を浸漬させるよりも、反応速度が大きくなり時間の短縮が可能となる。
【0105】
さらにポンプ1を駆動しながら、メッキ処理を行うので、可動部同士がメッキ処理により付着し、動作に支障が生じることを回避できる。
【符号の説明】
【0106】
1 ポンプ
2 流路
3 流入口
4 流出口
5 筺体
6 可動体
7 電磁コイル
8 バルブ
8a 第1バルブ
8b 第2バルブ
9 磁性体
10 冷却装置
11 金属層
11a 金属保護層
12 チューブ
13 金属メッキ溶液
14 容器
20 蒸発部
30 凝縮部
40 液相流路
50 気相流路
60 接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流入口および流出口を備えた筺体と、
前記筺体内に設けられた軸方向に摺動可能な可動体と、
前記流入口および前記流出口に接続した流路とを備え、
前記流路は前記流体と接する面が金属層であるポンプ。
【請求項2】
前記可動体は磁性体を有し、
前記磁性体を貫通し、前記軸方向に平行な磁力線を発生する電磁コイルを備える請求項1に記載のポンプ。
【請求項3】
前記筺体は、
前記流出口および前記流入口に、前記軸方向に摺動可能な弁を備えたバルブを有する請求項1または2に記載のポンプ。
【請求項4】
前記バルブは、前記軸方向の両端部に上部開口部と下部開口部を有し、
前記上部開口部に前記弁を備える第1バルブと
前記下部開口部に前記弁を備える第2バルブを含む請求項3に記載のポンプ。
【請求項5】
前記可動体は、表面に金属層を備える請求項1から4のいずれか一項に記載のポンプ。
【請求項6】
前記筺体は、前記流体と接する面が金属層である請求項1から5のいずれか一項に記載のポンプ。
【請求項7】
前記流路は、樹脂で構成される部分を含む請求項1から6のいずれか一項に記載のポンプ。
【請求項8】
前記金属層は、アルミニウムとスズとステンレスと銅と真鍮と亜鉛のうち少なくとも1つを含む請求項1から7いずれか一項に記載のポンプ。
【請求項9】
前記流体は、沸点が水よりも低い低沸点の冷媒である請求項1から8のいずれか一項に記載のポンプ。
【請求項10】
発熱体と熱的に接続し、内部に前記流体としての冷媒を備える蒸発部と
前記発熱体が発する熱により蒸発した前記冷媒を凝縮する凝縮部と、
前記蒸発部と前記凝縮部を接続し、気相状態の前記冷媒が流動する気相流路と、
前記凝縮部と前記蒸発部を接続し、液相状態の前記冷媒が流動する液相流路とを備え、
前記液相流路の一部に請求項1から9のいずれか一項に記載のポンプを備える冷却装置。
【請求項11】
前記液相流路の前記冷媒と接する面は、金属層である請求項10に記載の冷却装置。
【請求項12】
前記液相流路は、前記金属層の少なくとも一部を重ね合わせた接続部を備え、
前記接続部が、曲率中心側に配置した湾曲構造である請求項10に記載の冷却装置。
【請求項13】
筺体に流体の流入口と流出口を形成し、
前記筺体内に軸方向に摺動可能な可動体を配置し、
前記流入口と前記流出口にそれぞれ流路を接続し、
前記流入口と前記流出口の間に前記流路を通して金属粒子を含む金属流体を循環させることによって、前記流路に前記金属粒子を含む金属層を形成するポンプの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−68335(P2013−68335A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205517(P2011−205517)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の共同研究の成果に係る特許出願(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「グリーンネットワーク・システム技術研究開発プロジェクト(グリーンITプロジェクト)/エネルギー利用最適化データセンタ基盤技術の研究開発/最適抜熱方式の検討とシステム構成の開発/集熱沸騰冷却システムの開発」共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)