説明

ポータブルトイレ

【課題】 ポータブルトイレを重くすること無く簡単な操作でバケツの取出し、格納ができるポータブルトイレを提供する。
【解決手段】 使用者が着座する椅子部材1の座面にバケツ6と、便座4とを備えたポータブルトイレにおいて、ノズル2bを備えた洗浄装置2と、格納状態であるノズル2bの下方にノズルから噴射された洗浄水をバケツ内に案内する案内板8と、案内板8の下方に位置し、案内板8とオーバーラップLするように椅子部材1にバケツ6を備え、バケツ6は、前記案内板8とオーバーラップLする第1位置と、第1位置から前方側にスライドした第2位置とを取り得るように椅子部材1に対してスライド自在に載置されているとともに、バケツ6には、前記椅子部材1の前方側で略水平に格納される取っ手9が揺動自在に枢着され、取っ手9を格納状態とすることでバケツ6のスライドが規制されるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は搬送が可能なポータブルトイレに関し、詳細には便座に洗浄装置が設けられたポータブルトイレに関するものである。
【背景技術】
【0002】
老人や身障者などが各自の部屋や病室などで用を足すために用いる椅子式のポータブルトイレが知られているが、近年では便座にお尻を洗浄する洗浄装置が設けられたポータブルトイレも普及している。例えば特許文献1参照。
【0003】
お尻を洗浄する洗浄装置ではノズルの格納状態でノズルを洗浄するのが一般的であるが、このノズルの洗浄に用いた洗浄水を、ポータブルトイレでは椅子に載置されているバケツでトラップする必要があることから、一般的にはノズルの下方にオーバーラップさせる形でバケツを位置させ、これによって洗浄水を確実にトラップできるように構成している。そのため、バケツの取出し時には、バケツを単に垂直に持ち上げるだけでは、バケツ後端とノズルや、ノズルの下方に更にバケツに洗浄水を案内する案内板を設けているような場合はどうしてもこれら部材にバケツの後端が干渉してしまうという問題があった。
【0004】
この対策のために特許文献1では、バケツを椅子に直接載置するのではなく、前後方向にスライドする引き出し形式の荷重受け部材上にバケツを載置するように構成している。これにより、排泄物を捨てる際には、まずこの荷重受け部材を介してバケツをオーバーラップが解消できる前方位置まで一旦スライドさせて、その状態でバケツを垂直方向上方に引き上げることでバケツが案内板に干渉することなく取り出せるように工夫したものである。
【0005】
【特許文献1】特開2006−94901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように構成された特許文献1の構造においては、バケツを案内板に干渉することなく取り出すことが可能になっているものの、その取出し方法がバケツを持ち上げるという一つの動作では行えないことから、どうしても煩わしさが残るという問題に加え、用を足さない時や使用者の居場所に合わせて搬送をしたいというポータブルトイレには欠かすことができないニーズに対して、この特許文献1の構造では、引き出し式の荷重受け部材のみならずレール等も必要になってしまうことから必然的に重くなってしまい、老人や身体が不自由な人がこのポータブルトイレを搬送するような場合には特に辛い作業を強いることになるという問題があった。
【0007】
さらに、荷重受け部材の格納が確実に行われなかった場合には、バケツが正規な格納状態にないことになるためノズル洗浄用の洗浄水がバケツにトラップされなかったり、排泄物を確実にトラップできなかったり、排泄物の落下に伴うバケツ内の溜め水の飛び散りが過大に生じてしまうなどの問題もあった。
【0008】
また、ポータブルトイレは搬送されることが日常的に行われるが、バケツを正規な格納状態にしたとしても、搬送に伴う振動等でバケツが正規な状態からずれてしまい、そのことに気づかずに用を足してしまい上記の問題が生じてしまうと言う問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、使用者が着座する椅子部材と、椅子部材の座面に着脱自在に載置される排泄物の容器となるバケツと、前記椅子部材に後端が揺動自在に枢着され、起立位置と前記バケツの上面を覆う水平位置とを取り得る便座とを備えたポータブルトイレにおいて、
前記便座の着座時における使用者の背中側となる後部側に設けられたノズルを備えた洗浄装置と、
格納状態である前記ノズルの下方に位置し該ノズルから噴射された洗浄水をバケツ内に案内する案内板と、
前記案内板の下方に位置し、該案内板とオーバーラップするように椅子部材に載置された前記バケツを備え、
該バケツは、前記案内板とオーバーラップする第1位置と、第1位置から前方側にスライドした第2位置とを取り得るように前記椅子部材に対してスライド自在に載置されているとともに、前記バケツには、前記椅子部材の前方側で略水平な格納状態を取り得る取っ手が揺動自在に枢着され、該取っ手を前記格納状態とすることで前記椅子部材に対する前記バケツの第2位置へのスライドを規制し、第1位置にバケツを位置規制するように構成されている。
【0010】
上記のように構成されていることから、バケツ内の排泄物を捨てるに当たっては、単にバケツの前方側に設けられた取っ手を引き出すように持ち上げるだけでバケツが前方にスライドし、取っ手が垂直状態になった状態ではバケツの後端と案内板との干渉も回避されていることから、一つの取出し動作でバケツを確実に簡単に取り出すことができる。
【0011】
また、バケツの格納に際してバケツが正規な第1位置にない限り取っ手を水平な正規な格納状態にできないように構成されていることから、バケツが正規な位置にないことを確実に認識できるようになる。
【0012】
さらに、バケツが正規な第1位置に格納されて取っ手を水平な正規な格納状態にすることで、バケツが第1位置から第2位置にスライドすることが抑制されるように構成されているため、ポータブルトイレの搬送に伴う振動等でバケツが正規な位置からずれてしまうという問題をも防止できるものである。さらにそれを単に取っ手を格納するという煩わしい作業なしにできることから、お年寄りや身体が不自由な人にも作業できるというポータブルトイレという分野において、実に実用性の高い効果を奏するものである。
【0013】
さらに、バケツをスライドさせるように構成しているためバケツの格納状態でバケツの椅子部材に対する拘束力が弱くなることからバケツの支持剛性が低く、よって用を足した時に騒音が大きくなると言う問題があったが、取っ手を格納することでスライドを規制するように拘束力を与えるためバケツの支持剛性が高まって騒音を軽減できるというポータブルトイレでは非常に大きな課題である騒音という問題をも同時に解決できるものである。
【0014】
請求項2に記載のポータブルトイレにおいては、前記椅子部材には、前記取っ手を格納状態で略水平に格納されるよう下方に段下げされた階段状の格納部が形成され、前記取っ手は、前記格納部の縦面に当接することで前記バケツのスライドを規制するように構成されている。
【0015】
本件発明においては、椅子部材の座面を階段状に形成して格納部を形成し、これによって取っ手やバケツを略水平に格納できるように構成している。さらに、格納部の縦面で取っ手を支持しこれによってバケツのスライドを規制するように構成しているため、極めて簡単な構成で取っ手の格納及びバケツのスライドが規制できるものである。
【0016】
請求項3に記載のポータブルトイレにおいては、前記取っ手は前記格納部の縦面に対して上下方向の動きが規制されるように嵌合機構を介して支持されるように構成されている。
【0017】
これによって、嵌合機構の作用で取っ手の格納が確実に行われることから、一層確実にかつ強固にバケツのスライドを規制できる。また、嵌合感によって正規な位置にバケツが格納されていることを確実に認識でき、人的なミスを抑制できる。
【0018】
さらに、嵌合機構によって取っ手の格納に対して拘束力を付与する構造であるためバケツの支持剛性が一層高まり、騒音を大きく下げることができるという極めて有効な効果を奏するものである。
【0019】
請求項4に記載のポータブルトイレにおいて、前記便座が水平位置とされることで前記取っ手を覆い、これによって該取っ手を前記格納部内に格納規制することで前記バケツの第1位置から第2位置へのスライドが規制されるように構成されている。
【0020】
これによって、便座で取っ手が格納部から飛び出ることを防止できるためバケツの搬送時等の振動があっても確実にスライドを規制できるという効果を奏することができる。
【0021】
請求項5に記載のポータブルトイレにおいては、少なくとも前記バケツの第1位置で前記便座を水平位置とすることで前記バケツ上端面に着座するように構成され、前記便座の着座でバケツを押圧してバケツの動きが規制されるように構成されている。
【0022】
これによって、バケツに便座の荷重が作用するためバケツの搬送時等の振動があっても確実にスライドが規制されるという効果に加え、用を足す際には人の荷重がバケツに作用するためバケツの支持剛性が一層高まり、バケツにスライド機構を付与した本構造にあっても、極めて高い支持剛性を付与できるため排尿時等の騒音を確実に低減できるという作用効果を奏するものである。
【0023】
請求項6に記載のポータブルトイレにおいては、、前記バケツは、少なくとも第1位置で前記椅子部材の上面に対してバケツの上端面が突出するように格納されるとともに、前記便座は、前記水平位置で前記バケツ上端面に着座するように構成され、前記便座の着座でバケツを押圧してバケツの動きが規制されるように構成されている。
【0024】
これによって、椅子部材の上端面となる座面からバケツの上端面を突出するように構成しているため確実に便座にバケツを当接させることが可能となるため、バケツのスライドの規制及び、バケツの支持剛性を高めることができる。さらに、座面から突出させた部分が便座とバケツの隙間を覆うため先の作用効果に加え、排尿時等の遮音をも行うことができるものである。
【0025】
請求項7に記載のポータブルトイレにおいては、、前記バケツが第2位置にある時に前記取っ手が格納部の周縁に当接することで取っ手が格納部内に格納されないように構成するとともに、前記取っ手が当接する周縁もしくは、該周縁に当接する取っ手部に、取っ手の未格納状態で取っ手の傾斜角度が大になるようにする傾斜角度拡大手段が形成されている。
【0026】
これによって、バケツが正規な第1位置に格納されていない場合は、取っ手が座面の周縁に当接し、かつ傾斜角度拡大手段の作用によって取っ手が大きく傾いた状態になるように構成される。そのため、使用者は、容易にバケツが正規な位置にないことが判断でき、バケツの格納不良状態で誤って用を足されるということを防止できる。
【0027】
請求項8に記載のポータブルトイレにおいては、、前記傾斜角度拡大手段は、前記格納部の周縁に設けられた上方凸部もしくは、前記周縁に当接する取っ手部に形成された下方凸部である。
【0028】
これによって、請求項7の効果を簡単な構成は達成できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係るポータブルトイレによれば、ポータブルトイレを重くしたりすることなく、洗浄装置のノズルや案内板との干渉を確実に避けながら簡単にバケツを取り出せ、かつ簡単にかつ確実に正規な位置に格納保持できるというポータブルトイレの分野において極めて優れた特有の効果を奏することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明に係る洗浄装置付のポータブルトイレの斜視図を示すものであって、木製の椅子部材1の座面1a上には、その後端部にお尻を洗浄する洗浄装置2が固定されているとともに、この洗浄装置2の前面部に対してヒンジ3を介して便座4が図に示す水平位置と起立させた起立位置との2位置を取り得るように揺動自在に支持されている。
【0031】
図中5は、ポータブルトイレを椅子として使用する際に使用者が着座するためのクッション性のある座部であり、この座部5は、便座4の上面を覆い、便座4に着座させる水平位置で座部となり、図に示すように支持部材5aを介して二つ折りの状態で起立させることで、用を足すときには椅子部材1の背もたれ部1bに当接してクッション性のある背もたれとして機能するように構成されている。
【0032】
なお、図中2aは洗浄装置2の機能を選択する操作パネルであり、1e,1fは肘掛である。図から見て取れるように一方側の肘掛1fが短く構成されており、これは、身体の不自由な人が短い肘掛1f側から肘掛1fに身体を支えながらポータブルトイレに短くなった肘掛1f側から身体を容易に滑り込ませることができるように配慮したものである。
【0033】
次に、便座4の中心に開けられた開口部4a内に着目して説明する。便座4の下方で椅子部材1の座面1aには開口部4aと対応しつつ、開口部4aより大きなバケツ6の収納用開口1dが形成されている。この収納用開口1dの周縁には後述するバケツ6を支え、かつ取っ手9が格納される下方に段下げされた階段状の格納部1cが形成されており、この格納部1cにバケツ6のフランジ6aが載置されることでバケツ6が椅子部材1に支持されるように構成されている。また、この格納部1cには取っ手9も載置されるものであり、載置されることで水平の格納状態を維持するようになっている。また、取っ手9は、階段状の格納部の縦面1hに格納状態で当接するように構成されている。
【0034】
図中7はバケツ6の開口を覆う蓋であって、この蓋7が臭いやバケツ6搬送時の溜め水の飛散を防止する役割を果たしているものである。
【0035】
次に洗浄装置2の開口部4a側には、お尻を洗浄するためのノズル2bが図のような格納状態と伸張状態とを取り得るように設けられ、そのノズル2bの下方には椅子部材1の座面1aに固定された案内板8が設けられている。この案内板8はノズル2bの下方に位置することで、ノズル2bが自らのノズル2bを洗浄するために噴射した洗浄水をバケツ6内に確実に案内するために設けられているものである。ここで、ノズル2bの洗浄について補足すると、ノズル2bが図の格納状態にある時に、ノズル2bを洗浄するために、ノズル2bからノズル2bの上方に位置する洗浄室2cの上壁に向けてノズル2bが自ら洗浄水を噴射し、その跳ね返りの洗浄水でノズル2bを清掃するように構成されており、このノズル2bを洗浄した洗浄水が案内板8の上面に落下し、そして案内板8を伝ってバケツ6内に落下するようになっているものである。
【0036】
図2は、図1と同じく斜視図であるが、洗浄装置2、便座4及び座部5などを取り除いて、椅子部材1の座面1aとバケツ6が確認しやすいようにしたものである。以下同様であるが、図1と同じものは同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0037】
図2では、便座4が取り除かれているため、便座4の前部下方に対応する位置にバケツ6を取り出したり、搬送するための略U字状の取っ手9がバケツ6の前方側で格納されていることが理解でき、この取っ手9は、更にバケツ6の側方上部に跨る形でバケツ6に揺動自在に取り付けられていることが見て取れる。なお、図に示す取っ手9の状態は、格納部1cに格納されて水平になった正規の格納状態である。
【0038】
次に、図に示すバケツ6の正規な格納状態においては、バケツ6の中心から前方側の周囲全周に渡って隙間10が連続的に設けられている。これは、座面1a上に形成されたバケツの収納用開口1dがバケツ6の長手方向となる前後方向長さより長く開口していることを意味し、これによってバケツ6が収納用開口1d内で前後方向にスライドできるように構成されている。このスライドを保障できるように格納部1c上でバケツ6のフランジ6aがスライドできるように載置されていることは言うまでもない。
【0039】
ここで、本発明の工夫点の一つを説明する。前述した通り隙間10を設定することでバケツ6はスライド可能になっているものの、格納部1c内に取っ手9を格納し、取っ手9が縦面1hに当接嵌合することでバケツ6のスライドは規制されるように構成されているものである。
これにより部屋のお掃除や部屋の模様替え、使用者の移動等に伴うポータブルトイレの搬送時に、その振動でバケツがスライドしてしまうという問題を確実に防止できるものである。よって、使用時にわざわざバケツの位置が正規な格納状態にあるか否かを確認することなく安心して用を足すことができるようになるものである。なお、取っ手9は、縦面1hに当接するだけでも良いが、本発明では、縦面1hを凹状にしてここに取っ手9の丸断面が取っ手9の弾性力を利用して嵌合するように構成しており、これによってバケツ6の支持剛性を高め、かつ取っ手9の外れを確実に抑制しているものである。
【0040】
次に図3を用いて前述したバケツ6のスライドを許容した理由を説明する。図3は、一部断面図を用いた側面図であって、この図から明らかな通り、バケツ6は、正規な格納状態では先に述べたノズル2bの洗浄用の洗浄水を確実にトラップできるように、前記した案内板8の下方においてLの長さだけ案内板8とバケツ6の後端がオーバーラップするように配置されている。これによって案内板8上を落下するノズル2bの洗浄用の洗浄水がバケツ6内に確実に落下させることができるものである。そのために、バケツ6の後端(図中左側)には図5からも明確な通り、案内板8とオーバーラップできるように後端部が凹部6bによって大きく切りかかれる形で構成されている。
【0041】
次に、本件発明においては、バケツ6の取り出しを容易化するために取っ手9を格納状態で図に示す通り前方側に位置するように配置しており、これに関連して本件発明で更に工夫を施している観点につき説明をする。
【0042】
バケツ6上面と便座4の下方には一般的に隙間L1が存在するが、本件発明においては、この隙間L1をバケツのフランジ6aから上方に一体的に延設させることで構成した遮蔽部6cで遮蔽するように構成している。これによって、隙間L1から小水やバケツ6内の溜め水が飛び散って取っ手9の握り部9bにこれらが付着することを防止しているものである。この遮蔽部6cによって、清潔にバケツ6の取り出しを行うことができ介護をする方などの不快感を解消できるものである。
【0043】
さらに、この遮蔽部6cは、便座4を図に示す水平位置にした場合には、その便座4の下面に押圧される形で密接に当接するように構成されており、これによって、図5に示すバケツ6の単体斜視図からも見て取れるように遮蔽部6cは後端部を除いて長く設けられているため、隙間L1を略全周に渡ってきっちりと遮蔽するため、ポータブルトイレでは大きな使用者の負担になっていた使用時の音という問題に対して有効に機能し、音の漏れを軽減し、トイレ専用ブースではないという使用環境にあっても、不安感、不快感を大きく持つことなく用を足すことができるという優れた効果を奏することも合わせてできるものである。
【0044】
また、便座4の下面が直接バケツ6の遮蔽部材6cに当接するように構成しているため、便座4を水平位置にすることで便座4の荷重によってバケツ6のスライドが確実に規制できるものである。さらに、本発明では、便座4下面に遮蔽部材6cが当接するだけでなく、便座下面に設けた図示していない4箇所のゴム等で構成された変形可能な足が、遮蔽部材6cより外方側で階段状の格納部1c内に格納されているバケツ6のフランジ6aと椅子部材1の座面1aに渡るような位置で、足自体が潰れることによって格納部1c内にあるフランジ6aに確実に当接するように構成されているため、遮蔽部材6cの過大な変形を抑制し、かつバケツ6のスライドを確実に防止できるように構成されているものである。
なお、本発明では、便座下面に設けた足がバケツのフランジ6aに当接する構造であるが、これに限られるものではなく、取っ手9に当接する構造や、取っ手9とフランジ6aの両方に当接する構造などであってもよく、要は便座4の重さがバケツ6に作用して搬送時における振動でスライドが抑制されるように構成されていれば良いことは言うまでもない。また、便座4によって、取っ手9が格納部1c内から飛び出るのを防止しているものである。
【0045】
次に図4を用いてバケツ6の取り出し・格納方法について詳述する。まずは、用を足した後にバケツ6を取り出す場合につき説明を行う。用を足した後、バケツ6を取り出すに当たっては、第4a図に示す如く、まずは便座4を起立状態に揺動させ、その後、露出した取っ手9の握り部9bを格納部1cから取り出し持ち上げながら矢印A方向、すなわち自然な方向である使用者の方向に引っ張りながら取っ手9を持ち上げることで容易にバケツ6は格納部1c内をバケツのフランジ6aがスライドすることで前方となるA方向(図中左側)に移動し、案内板8とのオーバーラップが干渉してバケツ6は上方に取り出すことが可能になる。
【0046】
ここで、本発明では更に工夫が施されている観点につき説明する。すなわち、A方向にバケツ6をスライドさせるに当たり、バケツ6には溜め水に加え排泄物も入っているためある程度の重さがあるが、本件発明では、これが簡単にスライドできるように椅子部材1の格納部1c上に当接するバケツ6のフランジ6aの下面に突起6dを複数個一体的に形成することで接触面積を減らし、摺動抵抗を低下させて、これによってポータブルトイレの重さに抗してバケツ6だけが簡単に使用者側にスライドするようにしているものである。なお、ここでは、バケツ6に突起6dを設けているが、椅子部材1の格納部1c側に突起を形成してもよく、また、突起に限らず、低摩擦のテープや低摩擦の樹脂部材を貼り付けたり、ローラーを用いるなどの低摩擦処理を行うことで良いことは言うまでもない。
【0047】
なお、バケツ6が前方に移動した状態にあっては、第4b図として紹介するまでもなく、取っ手9を介して上方に持ち上げることでバケツ6の後端は案内板8に干渉することなく取り出せるものである。
【0048】
次にバケツ6をポータブルトイレに格納する手順を説明する。このバケツ6の格納は、溜め水が入っていると重くなるバケツ6を椅子部材1に一旦載置などした後に、力が入り難い方向となる自分から離れる方向にバケツ6を後方に移動させるという作業になる。これによって、案内板8とバケツ6の後端の干渉を避けながら、格納状態では両者をオーバーラップさせることができる。
【0049】
以下に第4c図を用いてバケツ6の格納操作を説明する。便座4を起立させた状態においてバケツ6を椅子部材1の収納用開口1dに挿通させるとともに、格納部1cにバケツ6のフランジ6aを載せることでバケツ6を椅子部材1に載置する。この時点では、案内板8とバケツ6の凹部6bがオーバーラップしないか、若干配慮しながら後方に格納させれば僅かにオーバーラップしているという状況である。この状態では、バケツ6は完全な格納状態になっていないため、当然この状態でノズル2aの洗浄や用を足されることは好ましくない。
【0050】
そのために、本件発明においては、バケツ6が正規な格納状態になく取っ手9が格納部1c内に収まらない状態では、図2の両側のZ部において、取っ手9が格納部1cの周縁に当接して取っ手9が正規な水平な格納状態にならないようにしているのが一つの工夫点である。これによって取っ手9が起立した状態になる為バケツ6が非正規な格納状態にあることが目視ですぐに判断でき、さらに、便座4も正規な水平位置にならないためバケツ6が正規な格納状態にないことを容易に判断できる。よって、確実にバケツ6の非正常な格納状態で使用されるということを抑制できるものである。
【0051】
さらに、本実施例においては、バケツ6が非正常な状態にあるとわかった場合は、使用者は再度取っ手9を持ってバケツを持ち上げながら後方に移動させることもできるが、この作業は辛いため、力が弱い人は、傾いている取っ手9を後方に押すことでバケツ6を容易にスライドさせることができ、これであればバケツ6を持ち上げたり、身体から離れる方向に重いバケツ6を移動させる等の作業が不要になるため極めて容易にバケツ6を正規な格納状態にでき、案内板8とバケツ6を確実にオーバーラップさせることができる。
【0052】
さらに、本件発明では繊細な工夫を施しているものであり、図に示すようなバケツ6が正規な格納状態にない場合に、便座4を正規な位置にするように上から便座4を押圧する、もしくは用を足すために単に便座4に着座するという行為によって、便座4に設けた当接部4aが取っ手9に当接しつつ取っ手9を下方に押圧する。これによって、取っ手9はその下方への力を受けて、取っ手9に形成した曲面状の曲面部9cが椅子部材1の格納部1cに形成した傾斜面1gに当接し、この傾斜面1gにガイドされることでバケツ6が後方側となる図面右側に移動し、案内板8とバケツ6の後端とが確実にオーバーラップする正規な位置までバケツ6が自動的にスライドするものである。以上のことから明確な通り、案内板8とバケツ6をオーバーラップさせるという辛い煩わしい作業を一切気にすることなくバケツを格納できるものである。
【0053】
更に本件発明では、重いバケツ6のスライド動作を軽量化するために、バケツ6と格納部1cとの間に発生する摩擦力を低減するように工夫しており、これによって操作力を軽減できるだけでなく、取っ手9が変形してしまうと十分なスライド力を確保できなくなるが、摩擦力を低減することで取っ手9の強度を大きくする必要がなく、これによって、それでなくても重くなるバケツ6を重くしなくて良いという効果を奏することができるものである。具体的には、バケツ6のフランジ6aの下面に格納部1cに点接触させるための突起6dが複数設けられているものである。
【0054】
図4(c)に示す実施例においては、取っ手9に曲面部9cを設け、格納部1cに傾斜面1gを形成してバケツ6を正規な位置にスライドできるように構成しているが、これに限られるものではなく、取っ手9に曲面部9cを設けることなく直線的に形成し、格納部1cに傾斜面1gを設けることなく、取っ手9が格納部1cの周縁、すなわち縦面1hの上端に当接することで取っ手9が傾斜するように構成しても良い事は言うまでもない。
【0055】
また、図6(a)(b)に示すものは、バケツ6を後方にスライドさせる機能はないものの、バケツ6が正規な格納状態にない場合には、取っ手9が大きく拡大して傾斜するように工夫したものであり、これによって一目で正規な位置にないということを使用者に知らせるようにした例である。
図6(a)は、取っ手9に図2のZ部の座面1aに当接するように曲面部9cを設けている実施例である。図4(c)と異なるのは傾斜面1gが格納部に形成されていないことと、曲面部9cの形状がバケツ6をスライドさせることを狙っていないため鋭角に形成されているということである。
図6(b)の実施例は、図2のZ部の座面1a上に別体でスペーサ20を設けたものであり、このスペーサ20に取っ手9が当接することで図のように取っ手9が大きく拡大されて傾斜するようにしたものである。このスペーサ20は、座面と一体的なものでも、本実施例のように別体のものでもよく、材質は弾性材や樹脂材で形成されて貼り付けられるような形態等が考えられるものである。
【0056】
最後に、図5を用いてバケツ6の詳細を説明する。先の説明で説明した内容は同じ符号を付して省略する。このバケツ6は、消音バケツであり、第5b図に示す通り小水が当接する部分に凸部6eが形成されている。この凸部6eは、凸部分の剛性を高めることで振動を抑制しているものであるが、本発明では、その凸部6eの形状を詳細に最適化しているものである。
【0057】
具体的には、凸部6e単に凸状に形成しただけでは、大きく凸状に突出させないと、面強度が高くできないため音の発生を軽減できず、さらに、凸部が高くなるため小水が凸部で分流して溜め水に落下することから落下音が大きく発生するという問題が生じる。本件発明では、まず、一段の棚部6fを形成し、その棚部6fの中央に上方が三角形状で下方に向かうほど広がるような形状の第2凸部6gを形成することで凸部6eを構成した。このように構成することで、凸部6eをさほど高くすることなしに面剛性を高めることができることから、小水の衝突による衝撃音や、小水が凸部の頂部で二つに分流してバケツ6内に集中して落下することがなく、凸部6eに膜がはるような形で溜め水に分散して落下するため落下音も大幅に軽減できるものである。
【0058】
図中6hは、フランジ6aの上面で、取っ手9の握り部9bに略対応する形で凹状に形成された水切り溝である。これは、遮蔽部材6cを設けてはいるものの、便座4の着座状態が不備であったりすると、遮蔽部材6cを乗り越えて僅かながらでも握り部9b側に小水等が垂れてくる事が否定できない。この水切り溝9hは、そういう遮蔽部材6cを乗り越えて垂れてきた小水があっても、その小水が握り部9bに触れることがないように、その事前に水切り溝9h内で溜まるようにしたものである。これで確実に握り部9bを前方側に格納した本件であっても、使用者は汚れに対する不安を招くことなく握り部9bを握ってバケツ6を搬送できるようにしたものである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係るポータブルトイレの斜視図
【図2】同ポータブルトイレの一部装置を外した状態の斜視図
【図3】同ポータブルトイレの側面図
【図4】バケツの取出し、格納に関する動作説明図
【図5】バケツの単体図
【図6】傾斜角度拡大手段を示す概略図
【符号の説明】
【0060】
1…椅子部材
1a…座面
1b…背もたれ部
1c…格納部
1d…収納用開口
1e…肘掛
1f…肘掛
1g…傾斜面
1h…縦面
2…洗浄装置
2b…ノズル
4…便座
5…座部
6…バケツ
6a…フランジ
6b…凹部
6c…遮蔽部材
6d…突起
6h…水切り溝
8…案内板
9…取っ手
9b…握り部
9c…曲面部
20…スペーサ
L…オーバーラップ代

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者が着座する椅子部材と、椅子部材の座面に着脱自在に載置される排泄物の容器となるバケツと、前記椅子部材に後端が揺動自在に枢着され、起立位置と前記バケツの上面を覆う水平位置とを取り得る便座とを備えたポータブルトイレにおいて、
前記便座の着座時における使用者の背中側となる後部側に設けられたノズルを備えた洗浄装置と、
格納状態にある前記ノズルの下方に位置し該ノズルから噴射された洗浄水をバケツ内に案内する案内板と、
前記案内板の下方に位置し、該案内板とオーバーラップするように椅子部材に載置された前記バケツを備え、
該バケツは、前記案内板とオーバーラップする第1位置と、第1位置から前方側にスライドした第2位置とを取り得るように前記椅子部材に対してスライド自在に載置されているとともに、前記バケツには、前記椅子部材の前方側で略水平な格納状態を取り得る取っ手が揺動自在に枢着され、該取っ手を前記格納状態とすることで前記椅子部材に対する前記バケツの第2位置へのスライドを規制し、第1位置にバケツを位置規制するように構成されていることを特徴とするポータブルトイレ。
【請求項2】
請求項1に記載のポータブルトイレにおいて、前記椅子部材には、前記取っ手を格納状態で略水平に格納されるよう下方に段下げされた階段状の格納部が形成され、前記取っ手は、前記格納部の縦面に当接することで前記バケツのスライドを規制するように構成されていることを特徴とするポータブルトイレ。
【請求項3】
請求項2に記載のポータブルトイレにおいて、前記取っ手は前記格納部の縦面に対して上下方向の動きが規制されるように嵌合機構を介して支持されるように構成されていることを特徴とするポータブルトイレ。
【請求項4】
請求項2に記載のポータブルトイレにおいて、前記便座が水平位置とされることで前記取っ手を覆い、これによって該取っ手を前記格納部内に格納規制することで前記バケツの第1位置から第2位置へのスライドが規制されるように構成されていることを特徴とするポータブルトイレ。
【請求項5】
請求項4に記載のポータブルトイレにおいて、少なくとも前記バケツの第1位置で前記便座を水平位置とすることで前記バケツ上端面に着座するように構成され、前記便座の着座でバケツを押圧してバケツの動きが規制されるように構成されていることを特徴とするポータブルトイレ。
【請求項6】
請求項5に記載のポータブルトイレにおいて、前記バケツは、少なくとも第1位置で前記椅子部材の上面に対してバケツの上端面が突出するように格納されるとともに、前記便座は、前記水平位置で前記バケツ上端面に着座するように構成され、前記便座の着座でバケツを押圧してバケツの動きが規制されるように構成されていることを特徴とするポータブルトイレ。
【請求項7】
請求項2に記載のポータブルトイレにおいて、前記バケツが第2位置にある時に前記取っ手が格納部の周縁に当接することで取っ手が格納部内に格納されないように構成するとともに、前記取っ手が当接する周縁もしくは、該周縁に当接する取っ手部に、取っ手の未格納状態で取っ手の傾斜角度が大になるようにする傾斜角度拡大手段が形成されていることを特徴とするポータブルトイレ。
【請求項8】
請求項6に記載のポータブルトイレにおいて、前記傾斜角度拡大手段は、前記格納部の周縁に設けられた上方凸部もしくは、前記周縁に当接する取っ手部に形成された下方凸部であることを特徴とするポータブルトイレ。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−104833(P2008−104833A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−318682(P2006−318682)
【出願日】平成18年11月27日(2006.11.27)
【特許番号】特許第4038738号(P4038738)
【特許公報発行日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】