説明

マイエナイト含有酸化物の製造方法

【課題】高価な設備、複雑な反応条件の制御および長時間の反応時間を要さずに、マイエナイト型化合物を含み水素化物イオン密度が1×1018/cm3以上であるマイエナイト含有酸化物を製造する方法の提供、および、導電性マイエナイト含有酸化物の製造方法の提供、を課題とする。
【解決手段】酸化物換算でモル比がCaO:Al23=9〜14:5〜10である混合物を製造する原料の混合工程と、酸素分圧が1000Pa以下の水素含有ガス中で前記混合物を1210℃以上1350℃未満で焼成して、マイエナイト型化合物を含み水素化物イオン密度が1×1018/cm3以上であるマイエナイト含有酸化物を得る水素化工程と、を具備するマイエナイト含有酸化物の製造方法。および、得られたマイエナイト含有酸化物に紫外線等を照射する、導電性マイエナイト化合物を含有する導電性マイエナイト含有酸化物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイエナイト型化合物を含む酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイエナイト型化合物は12CaO・7Al23(以下「C12A7」ともいう。)なる代表組成を有し、三次元的に連結された直径約0.4nmの空隙(ケージ)を有する特徴的な結晶構造を持つ。このケージを構成する骨格は正電荷を帯びており、単位格子当たり12個のケージを形成する。そして、このケージの1/6は、結晶の電気的中性条件を満たすため酸素イオンによって占められているが、この酸素イオンは骨格を構成する他の酸素イオンとは化学的に異なる特性を持つことから、特にフリー酸素イオンと呼ばれている。このことから、C12A7結晶は、[Ca24Al28644+・2O2- と表記される(非特許文献1参照)。
【0003】
C12A7結晶の粉末あるいはその焼結体は、還元雰囲気中で熱処理することによってケージの中に電子を包接させて、永続的な導電性を室温で付与することができる(特許文献1参照)。この包接された電子はケージに緩く束縛されていて、結晶中を自由に動くことができるので、マイエナイト型化合物に導電性が付与される(特許文献2参照)。
【0004】
また、C12A7結晶の粉末あるいはその焼結体は、水素を含んだ不活性ガス雰囲気中で熱処理することによってケージの中にH-を包接させることができる。ケージ中にH-を包接させた状態で、紫外線、電子線またはプラズマを照射するとH-→H0+e-の反応により、ケージ内に電子が包接される。この包接された電子はケージに緩く束縛されていて、結晶中を自由に動くことができるため、マイエナイト型化合物に永続的な導電性を室温で付与することができる(特許文献3参照)。紫外線などを照射する前に焼結体に適当なマスクをすることにより、微細な配線パターンを容易に得ることもできる。
【0005】
このようなマイエナイト型化合物は還元性が高い化合物であるため、電子は高温においてフリー酸素イオンと比較してケージから放出されやすい。このため、電子のみを包接するマイエナイト型化合物が大気中で500℃のような高温に曝されると、ケージから供与された電子により大気中の酸素が酸素イオンに変化し、ケージへの酸素イオンの取り込み反応が容易に起こる。これはマイエナイト型化合物のケージ構造を形成する骨格が正の電荷を持つため、負の電荷を持つ酸素イオンはケージ中に取り込まれるが、電気的に中性の、酸素分子または酸素原子は取り込みにくいためである。
【0006】
以上のことから、電子のみを包接するマイエナイト型化合物と比較して、大気中の酸素への電子供与性の小さいマイエナイト型化合物であれば、酸素分子から酸素イオンの生成反応を抑制し、酸素イオンのケージ中への取り込み速度を遅くすることが可能となる。
【0007】
このようなマイエナイト型化合物を得る方法として、特許文献3には、最初に1200〜1415℃でマイエナイト型化合物を合成し、その後に水素還元処理を施すことにより、水素化物イオンが包接されたマイエナイト型化合物を得る方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−000741号公報
【特許文献2】国際公開第2006−129675号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2003−089373号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】F.M.Lea and C.H.Desch,The Chemistry of Cement and Concrete,2nd ed.,p.52,Edward Arnold & Co.,London,1956.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら特許文献3に記載の方法は、C12A7構造だけの結晶粉を製造した後に水素還元処理を施すことによってマイエナイト型化合物のみを製造するため、高価な設備、複雑な反応条件の制御、および長時間の反応時間が必要であった。
【0011】
本発明はこのような問題点を解消することを目的とする。すなわち本発明は、高価な設備、複雑な反応条件の制御、および長時間の反応時間を要さずに、マイエナイト型化合物を含み水素化物イオン密度が1×1018/cm3以上である酸化物を得る方法を提供することを目的とする。また、さらに処理を施すことで、電子を含み、優れた二次電子放出係数を有する導電性マイエナイト型化合物を含む導電性マイエナイト含有酸化物を得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、カルシウムアルミネート、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、焼成により酸化カルシウムとなるカルシウム化合物および焼成により酸化アルミニウムとなるアルミニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも2種の原料を含み、かつCaOおよびAl23に換算したモル比でCaO:Al23=9:10〜14:5となる割合のCa原子とAl原子とを含有する混合物を、前記原料を混合して製造する混合工程と、酸素分圧が1000Pa以下の水素含有ガス中で、前記混合物を1210℃以上1350℃未満で焼成して、マイエナイト型化合物を含み水素化物イオン密度が1×1018/cm3以上であるマイエナイト含有酸化物を得る水素化工程とを具備する、マイエナイト含有酸化物の製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明は、水素含有ガスが水素と不活性ガスの混合ガスであるマイエナイト含有酸化物の製造方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、上記方法によりマイエナイト含有酸化物を製造し、次いで、得られたマイエナイト含有酸化物に、電子線、波長が140〜380nmの紫外線およびプラズマからなる群から選ばれる少なくとも1つを照射して、導電性マイエナイト型化合物を含むマイエナイト含有酸化物を得る、導電性マイエナイト含有酸化物の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高価な設備、複雑な反応条件の制御、および長時間の反応時間を要さずに、マイエナイト型化合物を含み水素化物イオン密度が1×1018/cm3以上である耐熱性が高い酸化物を得ることができる。また、さらにプラズマ処理等を施すことで、電子を含み、優れた二次電子放出係数を有する導電性マイエナイト型化合物を含む導電性マイエナイト含有酸化物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明について説明する。
本発明は、カルシウムアルミネート、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、焼成により酸化カルシウムとなるカルシウム化合物および焼成により酸化アルミニウムとなるアルミニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも2種の原料を含み、かつCaOおよびAl23に換算したモル比でCaO:Al23=9:10〜14:5となる割合のCa原子とAl原子を含有する混合物を、前記原料を混合して製造する混合工程と、酸素分圧が1000Pa以下の水素含有ガス中で、前記混合物を1210℃以上1350℃未満で焼成して、マイエナイト型化合物を含み水素化物イオン密度が1×1018/cm3以上であるマイエナイト含有酸化物を得る水素化工程と、を具備するマイエナイト含有酸化物の製造方法である。
【0017】
このような製造方法を、以下では「本発明の酸化物製造方法」ともいう。
【0018】
<混合工程>
本発明の酸化物製造方法における混合工程について説明する。
混合工程では、カルシウムアルミネート、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、焼成により酸化カルシウムとなるカルシウム化合物および焼成により酸化アルミニウムとなるアルミニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも2種の原料を含み、かつ後述の割合のカルシウム原子とアルミニウム原子を含有する混合物を製造する。
【0019】
なお、以下、焼成により酸化カルシウムとなるカルシウム化合物と酸化カルシウムをカルシウム原料と総称し、焼成により酸化アルミニウムとなるアルミニウム化合物と酸化アルミニウムをアルミニウム原料と総称する。
【0020】
この混合物は下記の(1)〜(5)に記載のいずれかである。下記(1)〜(5)に記載の混合物は均一に混合されていることが好ましい。(5)に記載されたカルシウムアルミネートの混合物は、2種以上のカルシウムアルミネートを混合して得られる、酸化物に換算したモル比で、CaOとAlが9:10〜14:5となる割合のカルシウム原子とアルミニウム原子を含有する混合物である。
(1)カルシウム原料とアルミニウム原料との混合物
(2)カルシウム原料とカルシウムアルミネートとの混合物
(3)アルミニウム原料とカルシウムアルミネートとの混合物
(4)カルシウム原料、アルミニウム原料およびカルシウムアルミネートの混合物
(5)カルシウムアルミネート2種以上の混合物。
【0021】
カルシウム原料は、上記(1)、(2)または(4)に記載の混合物を水素化工程で、水素化物イオン密度が1×1018/cm3以上であるマイエナイト含有酸化物が得られるものであればよい。例えば、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸水素カルシウム、硫酸カルシウム、メタリン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、酢酸カルシウム、硝酸カルシウム、ハロゲン化カルシウムなどが挙げられる。
これらのカルシウム原料の中でも、炭酸カルシウム、酸化カルシウムおよび水酸化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1つが好ましい。
【0022】
アルミニウム原料は、上記(1)、(3)または(4)に記載の混合物を水素化工程で、水素化物イオン密度が1×1018/cm3以上であるマイエナイト含有酸化物が得られるものであればよい。例えば、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、ハロゲン化アルミニウムなどが挙げられる。
【0023】
これらのアルミニウム原料の中でも、水酸化アルミニウムおよび酸化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1つが好ましい。
【0024】
カルシウムアルミネートは、酸化カルシウムと酸化アルミニウムとが一定の割合で含まれる化合物であり、上記(2)〜(5)に記載の混合物を水素化工程で、水素化物イオン密度が1×1018/cm3以上であるマイエナイト含有酸化物が得られるものであればよい。例えば、3CaO・Al23(以下、C3Aと記す場合がある。)、CaO・Al23(以下、CAと記す場合がある。)、5CaO・3Al23(以下、C5A3と記す場合がある。)のなどの混相、またはC12A7が挙げられる。
【0025】
前記原料は、これに含まれるカルシウム原子とアルミニウム原子との割合が酸化カルシウムおよび酸化アルミニウムの形態で存在すると仮定して求めたモル比(すなわちCaOおよびAl23に換算したモル比)がCaO:Al23=9:10〜14:5であり、9.5:9.5〜13:6であることが好ましく、約12:7であることがより好ましい。このようなモル比の範囲外であると、本発明の酸化物製造方法によって得られるマイエナイト含有酸化物中に含まれるマイエナイト型化合物の含有量が少なくなる傾向がある。その結果、得られるマイエナイト含有酸化物の水素化物イオン密度が1×1018/cm3未満となるおそれがある。
【0026】
混合工程は、前記原料を均質に混合して混合物を得る工程である。この混合には乾式混合と湿式混合のいずれの混合方法を用いることも可能である。
【0027】
具体的には、乾式で混合する方法としては、自動乳鉢、V型ミキサーなどが挙げられる。また、湿式で混合する方法としては、ボールミル、ビーズミルなどが挙げられる。自動乳鉢を用いると簡便ではあるが原料が均質に混ざり難い。このため、混合物を水素化工程で、1210℃以上1350℃未満の温度で焼成したときにマイエナイト型化合物が析出し難くなり、導電性が低くなるおそれがある。
【0028】
一方、分散媒を用いたボールミルなどの湿式混合を用いると原料が均質に混ざり易く、水素化工程でマイエナイト型化合物が得られ易くなるので湿式混合を用いるのが好ましい。
【0029】
湿式混合に用いる分散媒としては、水や種々の有機溶剤が使用可能である。分散媒として使用可能な有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール、炭素数6以上の高級アルコール、シクロヘキサンなどが挙げられる。環境負荷を考慮すると分散媒としては水が好ましい。
【0030】
さらに、混合物が均質に混ざり易くするための分散剤を加えることがより好ましい。分散剤として用いられる界面活性剤は、水のような極性のある分散媒には、親水性部分がイオン性であるアニオン性、カチオン性、両性の界面活性剤が用いられる。アニオン性界面活性剤としては、モノアルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩などが挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩などが挙げられる。両性界面活性剤としては、アルキルジメチルアミンオキシド、アルキルカルボキシベタインなどが挙げられる。
【0031】
一方、極性が小さい有機溶剤などの分散媒には、ノニオン性界面活性剤が分散剤として用いられる。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルグリコシド、脂肪酸ジエタノールアミド、アルキルモノグルセリルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。分散剤は、分散媒との相溶性、分散される粒子の表面状態や、分散される粒子への分散剤の吸着力の指標として、酸価、アミン価などを考慮して選定される。
【0032】
分散の機構としては、電気的な反発力による分散と、粒子間に分子間力が働かない程度まで体積的に粒子を離れさせる分散がある。前者は主として極性分散媒の場合の機構であり、後者は主として非極性分散媒の場合の機構である。分散剤の添加割合は、原料の比表面積、粒径にもよるが、平均粒径が0.5〜50μm程度では、原料の質量に対して0.01〜2.0質量%とすることが好ましく、0.1〜1.0質量%とすることがより好ましい。
【0033】
本発明の酸化物の製造方法では、混合物を水素化工程で、1210℃以上1350℃未満の温度で焼成を行う前に、さらに細かく粉砕してもよい。この粉砕に用いる方法としては、循環式ビーズミルなどが使用可能である。混合物をさらに細かく粉砕することよって、混合物の比表面積を大きくし、水素化工程における焼成(以下単に焼成という)で固相反応が進みやすくすることができる。このように微粉砕された混合物の平均粒径は0.5〜50μmが好ましい。
【0034】
微粉砕された混合物の平均粒径が0.5μm未満では凝集し易くなり、取り扱いが難しくなる。また、50μm超では焼成を行うときに固相反応が進み難くなり、マイエナイト型化合物を製造するのに長時間を要するからである。前記微粉砕された混合物の平均粒径はレーザ回折散乱法を用いて測定した数値である。また、混合物の平均粒径は、上記のような乾式混合または湿式混合を行っても、平均粒径は混合の前後ではほとんど変化しないため、原料の平均粒径とほぼ同じ数値となる。混合工程で粉砕を行った場合には、混合物の平均粒径は原料の平均粒径よりも小さくなる。
【0035】
本発明における混合工程では、カルシウムアルミネート、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、焼成により酸化カルシウムとなるカルシウム化合物および焼成により酸化アルミニウムとなるアルミニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも2種の原料を含み、かつ酸化物に換算したモル比で、CaOとAlとが9:10〜14:5となる割合のカルシウム原子とアルミニウム原子を含有するように、前記原料を均質に混合する。
【0036】
混合物の均質性の評価としては、湿式混合の場合、メッシュを用いると簡便である。原料は分散媒中で混合されるため、混合直後の原料は分散媒中に分散された状態となり、これをスラリーと呼ぶ。混合工程で湿式混合の場合は、前記スラリーの分散媒を乾燥して混合物を得るが、このスラリーをメッシュに通したときに、通過するか目詰まりするかで原料の凝集挙動を定性的に評価できる。
【0037】
例えば原料が粉体ならば、粉体の最大粒径を超える口径のメッシュを用いれば、原料が凝集していないときはスラリーが全て通過する。凝集していない状態は分散性が良いと判断できるため、混合物が均質に混合していると評価できる。逆にスラリーが目詰まりする場合は、原料が凝集しメッシュに目詰まりしていると考えられ、分散性が悪いことになる。即ち、不均質に混合されていると評価できる。メッシュの口径の大きさを変えることにより、半定量的に均質性を評価することもできる。
【0038】
<水素化工程>
本発明の酸化物製造方法における水素化工程について説明する。
素化工程では、前記混合物を水素含有ガス中で焼成する。
なお、水素化工程において、前記混合物を水素含有ガス中で焼成する温度を、以下では「還元温度」ともいう。また、前記混合物を水素含有ガス中で焼成する時間を、以下では「還元時間」ともいう。
【0039】
水素含有ガスについて説明する。水素化工程において用いる水素含有ガスは、水素を含みかつ酸素分圧が1000Pa以下のガスである。この水素含有ガスは水素ガスと不活性ガスの混合ガスであることが好ましい。水素含有ガスは、さらにハロゲン(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を意味する)およびイオウからなる群から選ばれる少なくとも1つを含んでもよい。また、水蒸気圧が1000Pa以下であることが好ましい。
【0040】
マイエナイト型化合物は前述のように、三次元的に連結された空隙(ケージ)を有する特徴的な結晶構造を持つ。このケージを構成する骨格は正電荷を帯びており、結晶の電気的中性条件を満たすため酸素イオンのような陰イオンがケージ内に包接されている。
【0041】
したがって、ケージ内の陰イオンが不足すると、電気的中性条件を満たさなくなり、マイエナイト型化合物は分解し、CAやC3Aのようなカルシウムアルミネートになる。文献(Katsuro Hayashi,Peter V.Sushko,et.al.,J.Phys.Chem.,B,2005,109,p.23836−23842)によると、ケージ内に包接できる水素化物イオン密度には上限値があり、1×1020/cm3程度と考えられる。電気的中性条件を満たすのに必要なケージ内の陰イオンは、一価の場合、2.3×1021/cm3である。よって、水素化物イオンだけでは陰イオンが不足するため、O2-やOH-になるような、陰イオンが混合ガス中に存在しなければマイエナイト型化合物が合成し難くなる。水素含有ガス中に不純物としての上記陰イオンが存在しない場合は、水素含有ガス中には体積ppmオーダーの酸素や水蒸気が必要となる。
【0042】
水素含有ガス中で前記混合物を焼成することで、ケージ中のフリー酸素イオンが水素化物イオンに置換されたマイエナイト型化合物を含むマイエナイト含有酸化物を得ることができる。ここで「水素化物イオン」とはH-、H2-およびH2-を意味する。
【0043】
水素含有ガス中の水素濃度は特に限定されないが、0.2体積%以上100体積%以下であることが好ましく、1〜90体積%であることがより好ましい。1〜90体積%の水素濃度であると、より水素化物イオン密度が高いマイエナイト含有酸化物が得られる傾向があり、得られるマイエナイト含有酸化物の水素化物イオン密度が1×1019cm-3以上となり易い。
【0044】
前記ハロゲンやイオウを含む水素含有ガスを使用して得られるマイエナイト含有酸化物に含まれるマイエナイト型化合物は、ケージ中のフリー酸素イオンが、電子親和力が酸素原子より小さい原子の陰イオンに置換されたものとなることもある。
【0045】
このような陰イオンとしては、F-、Cl-、Br-、I-、S2-が挙げられる。なお、水素化物イオンも電子親和力が酸素原子より小さい原子の陰イオンではあるが、当該陰イオンに水素化物イオンを含まないものとする。
【0046】
ハロゲンやイオウを含む水素含有ガスを使用する場合、水素含有ガス中のハロゲンやイオウの量は0.01〜10体積%が好ましく、特に0.01〜5体積%が好ましい。
【0047】
また、水素含有ガスが酸素を含む場合、酸素分圧は1000Pa以下である。水素含有ガスは酸素を含まない場合もあるので、水素含有ガスにおける酸素分圧は0〜1000Paである。水素含有ガスの酸素分圧が1000Paを超えると、マイエナイト型化合物のケージ中に入り込んだ水素化物イオンがOH-に置換される反応が進行して、得られるマイエナイト含有酸化物の水素化物イオン密度が低下する傾向があるので好ましくない。
【0048】
水素含有ガスにおける酸素分圧は10Pa以下が好ましく、10-1Pa以下がさらに好ましい。また、酸素分圧は10-11Pa以上が好ましい。このような好ましい酸素分圧となる範囲で水素含有ガスが酸素を含むと、より短時間、より低温で焼成しても水素化物イオン密度が高いマイエナイト型化合物が得られるので好ましい。
【0049】
また、水素含有ガスが水蒸気を含む場合、水蒸気分圧は1000Pa以下であることが好ましい。水素含有ガスは水蒸気を含まない場合もあるので、水素含有ガスにおける水蒸気分圧は0〜1000Paが好ましい。水素含有ガスの水蒸気分圧が1000Paを超えると、マイエナイト型化合物のケージ中に入り込んだ水素化物イオンがOH-に置換される反応が進行して、得られるマイエナイト含有酸化物の水素化物イオン密度が低下する可能性がある。
【0050】
水素含有ガスにおける水蒸気分圧は10Pa以下がより好ましく、10-1Pa以下がさらに好ましい。また、水蒸気分圧は10-11Pa以上がより好ましい。このような好ましい水蒸気分圧となる範囲で水素含有ガスが1000Pa以下の酸素を含むと、より短時間、より低温で焼成しても水素化物イオン密度が高いマイエナイト型化合物が得られるので好ましい。
【0051】
また、水素含有ガスは不活性ガスを含むことが好ましい。不活性ガスはマイエナイト型化合物と反応しない気体であれば特に限定されないが、例えば窒素、アルゴン等が挙げられる。水素含有ガス中の不活性ガス濃度は10〜99体積%であることが好ましく、50〜99体積%であることがより好ましい。
【0052】
水素化工程では、このような混合ガス中で前記混合物を1210℃以上1350℃未満の還元温度で焼成する。還元温度が1210℃未満であると、マイエナイト型化合物を得難い傾向がある。一方、1350℃以上とすると、マイエナイト型構造のケージ内の水素化物イオンが減少し、水素化物イオン密度が1×1018/cm3以上とならない。
【0053】
還元温度が1210〜1230℃であると、得られるマイエナイト含有酸化物中に含まれるマイエナイト型化合物の含有率は30体積%未満程度であり、残部は主としてCA等のカルシウムアルミネートとなる傾向がある。そして、マイエナイト含有酸化物中のマイエナイト型化合物の水素化物イオン密度は1〜5×1018/cm3程度となる傾向がある。
【0054】
したがって、還元温度は1230℃超が好ましく、1290℃以上1350℃未満とすることがさらに好ましい。還元温度が高いと得られるマイエナイト含有酸化物中のマイエナイト型化合物の含有率が高まる傾向がある結果、得られるマイエナイト含有酸化物の水素化物イオン密度がより高まるからである。
【0055】
上記のような還元温度で前記混合物を処理する還元時間は特に限定されないが、0.5〜6時間であることが好ましく、1〜3時間であることがより好ましい。還元時間は混合物の量や水素含有ガス中の水素濃度等によって調整することが好ましい。例えば、混合物が3gならば、概ね3時間以内で水素化物イオンが一部包接されたマイエナイト型化合物と生成させて、水素化物イオン密度が1×1018/cm3以上のマイエナイト含有酸化物を得ることができる。
【0056】
また、所望の還元温度とするための昇温速度は50℃/時間以上が好ましく、200℃/時間以上がより好ましい。水素化工程が短時間となり生産性が向上するからである。ただし、昇温中に揮発成分が生じる場合は、その温度域に限り徐々に昇温させることが好ましい。例えば、原料として炭酸カルシウムを用いた場合には、898℃で炭酸ガスを放出するため、800〜1000℃の温度域に限り、100℃/時間以下で昇温させることが好ましい。
【0057】
また、所望の還元温度に所望の還元時間保持後、冷却速度は50℃/時間以上が好ましく、200時間℃/時間がより好ましい。水素化工程が短時間となり生産性が向上するからである。焼成後の冷却方法としては、窒素などの不活性ガス雰囲気で冷却してもよいし、空冷してもよいが、水冷などの冷却設備を備えた加熱処理炉を用いて、できる限り速く冷却させることが好ましい。
【0058】
このような水素化工程は、閉鎖系の電気炉に前記水素含有ガスを流して行うことが好ましい。
【0059】
このような本発明の酸化物製造方法によって、マイエナイト型化合物を含み水素化物イオン密度が1×1018/cm3以上であるマイエナイト含有酸化物を、安価な設備を用いて、短時間で、より容易に製造することができる。よって、マイエナイト含有酸化物を効率的に量産することができる。このように水素化物イオン密度が1×1018/cm3以上であると、後述するように、2次電子放出係数が大きく電子放出特性に優れた導電性マイエナイト型化合物を容易に得ることができるので好ましい。
【0060】
前記マイエナイト含有酸化物はマイエナイト型化合物(C12A7)以外に、C3AやCAのようなカルシウムアルミネートを含有していてもよい。
【0061】
マイエナイト含有酸化物中の水素化物イオン密度は以下のように求める。
初めに、粉末状としたマイエナイト含有酸化物に330nmの紫外線を30分間照射し、H-→H0+e-の反応を充分進行させる。そして、水素化物イオンから脱離した電子の量を電子スピン共鳴(電子スピン共鳴、日本電子株式会社製、JES−TE200)で測定し、得られたシグナル強度と、電子密度が求められている標準試料のシグナル強度と比較することにより、紫外線照射後の電子密度を求めることができる。ここで、電子スピン共鳴(ESR)の標準試料として硫酸銅(II)五水和物CuSO4・5H2Oを使用する。
【0062】
マイエナイト含有酸化物中の水素化物イオン密度は、二次イオン質量分析装置(SIMS)を用いて定量することもできる。ここでOH-と区別するために赤外吸収スペクトル(IR)を測定し、OH-の濃度を定量しておくことが望ましい。SIMSで定量された水素化物イオン密度の総量から、IRより定量されたOH-の濃度を差し引くことによって、水素化物イオンのみの濃度が正確に定量することができる。
【0063】
2次電子放出係数の観点からは、マイエナイト含有酸化物の水素化物イオン密度が1×1019/cm3以上であることが好ましい。また、マイエナイト含有酸化物は、C12A7結晶の単相であることがより好ましい。これは、C12A7結晶単相であると高い水素化物イオン密度の酸化物を得ることが容易になり、紫外線、電子線、またはプラズマを照射後の2次電子放出係数を高くできるからである。なお文献(Katsuro Hayashi,Peter V.Sushko,et.al.,J.Phys.Chem.,B,2005,109,p.23836−23842)によれば、マイエナイト型化合物における水素化物イオン密度の上限は、1×1020/cm3程度と推定される。
【0064】
マイエナイト含有酸化物中に含まれるマイエナイト型化合物の含有量は、マイエナイト含有酸化物の水素化物イオン密度が1×1018/cm3以上になるような含有量であればよい。例えばマイエナイト含有酸化物が、水素化物イオン密度が1×1020/cm3であるマイエナイト型化合物を含む場合は、マイエナイト含有酸化物中にマイエナイト型化合物を1体積%以上含有していれば良い。この場合、マイエナイト含有酸化物の水素化物イオン密度が1×1018/cm3以上となるからである。
【0065】
マイエナイト含有酸化物中の、電子親和力が酸素原子以下の原子の陰イオンの濃度は、二次イオン質量分析装置(SIMS)を用いて定量することができる。
【0066】
上記のような本発明の酸化物製造方法により得られたマイエナイト含有酸化物に、電子線、波長が140〜380nmの紫外線およびプラズマからなる群から選ばれる少なくとも1つを照射して、導電性マイエナイト型化合物を含む導電性マイエナイト含有酸化物を得ることができる。本発明は、この導電性マイエナイト型化合物を含む導電性マイエナイト含有酸化物の製造方法でもある。なお、前記マイエナイト含有酸化物に、電子線、波長が140〜380nmの紫外線およびプラズマからなる群から選ばれる少なくとも1つを照射して、導電性マイエナイト型化合物を含む導電性マイエナイト含有酸化物を得る工程を、以下、照射工程という。
【0067】
このような導電性マイエナイト型化合物を含む導電性マイエナイト含有酸化物の製造方法は、前記混合工程と、前記水素化工程と、上記照射工程とを具備する、導電性マイエナイト型化合物を含むマイエナイト含有酸化物の製造方法であり、以下では「本発明の導電性酸化物製造方法」ともいう。
【0068】
本発明の導電性酸化物製造方法が具備する照射工程について説明する。
照射工程は、前記マイエナイト含有酸化物に、電子線、波長が140〜380nmの紫外線およびプラズマからなる群から選ばれる少なくとも1つを照射できる工程であれば、特に限定されず、例えば従来公知の方法を適用することできる。具体的には例えば出力1000W、主波長365nm、主な輝線313nmの高圧水銀ランプを70cmの距離で30分間という条件で紫外線を照射することができる。電子線、紫外線、プラズマのいずれを照射した場合であっても、水素化物イオンから脱離した電子がケージ中に導入され、フリー酸素イオンやOH-等が存在するケージと電子が存在するケージとが共存する1×1018/cm3以上の電子密度を有する導電性マイエナイト型化合物を含む導電性マイエナイト含有酸化物を得ることができる。
【0069】
このように導電性マイエナイト含有酸化物は、2次電子放出係数が大きい等、電子放出特性に優れる。
【0070】
なお、水素化物イオンからの電子の脱離は、上記の照射によって容易に進行するので、導電性マイエナイト含有酸化物中の電子密度は、前記マイエナイト含有酸化物中の水素化物イオン密度と同じとしてよい。
【0071】
前記導電性マイエナイト含有酸化物の電気伝導率は、0.01S/cm以上であることが好ましく、0.1S/cm以上であることがより好ましい。導電性マイエナイト含有酸化物中のC12A7濃度が高くなるに伴い、電気伝導率も高くなる。導電性マイエナイト含有酸化物の全てがC12A7からなると、電気伝導率が64S/cm程度となる場合もある。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の説明に限定されない。例1〜11は実施例、例12〜17は比較例である。
【0073】
[例1]
初めに、酸化物(CaOおよびAl23)換算した酸化カルシウムと酸化アルミニウムのモル比が12:7となるように、炭酸カルシウム62.7gと酸化アルミニウム37.3gとを原料としてボールミルを用いて下記のように混合した。
【0074】
500mLのプラスティック製容器に、直径2mmの安定化ジルコニアボール500g、純水200gと分散剤(BYK180、ビッグケミー社製)0.3gを入れた後、1.5時間、90rpmで容器を回転させて混合した。得られたスラリーは水分を除去するために100℃のオーブンで10時間乾燥させた。得られた粉体を解すため、#100のメッシュ(口径150μm)で篩い混合物α1を95gを得た。これを自動乳鉢を用いて解砕した。解砕は容易に行うことができた。
【0075】
解砕後に得られた混合物α1の平均粒径をレーザ回折散乱法(SALD−2100、島津製作所社製)で測定をしたところ、炭酸カルシウム、酸化アルミニウムともに100μm以下であったため、混合物の平均粒径も100μm以下であった。
【0076】
次に、混合物α1の2gを、内径50mm、高さ50mm、肉厚1mmの金属モリブデン製容器に入れた。そして当該容器を密閉できる電気炉内に設置した。その後、電気炉内を2Paまで減圧し、水素/窒素=3/97(体積比)の混合ガスを500mL/分の流量で流入させた。ここで窒素中の酸素分圧は0.06Paであった。また水蒸気の分圧は0.01Paであった。
【0077】
そして、常圧になってから500mL/分で15分間混合ガスを流し続け、電気炉内を混合ガスの雰囲気で十分満たした。その後500mL/分の流量を保ちながら、還元温度を1300℃、還元時間を2時間として焼成した。ここで室温から1200℃までは2000℃/時間で急昇温させた。昇温の際は、炭酸ガスの急激な発生を抑えるために、800〜1000℃までは100℃/時間でゆっくり昇温させた。また1200〜1300℃までは400℃/時間で昇温させた。また、還元時間の経過後は、2500℃/時間で室温まで急冷却させた。
【0078】
このような焼成を行い、1.8gの酸化物α1を得た(以下、焼成で得られた酸化物(照射工程前のもの)をαを付して表す)。得られた酸化物α1は薄黄色をしており、X線回折によりC12A7構造だけであることが分かった。
【0079】
次に、酸化物α1を粉砕し、波長が330nmの紫外線を30分間照射した。照射後のものを酸化物β1とする(以下、照射後の酸化物をβを付して表す)。この酸化物β1は緑色を呈していた。これは、H-→H0+e-の反応でH-から脱離した電子がケージ中に導入されたためと考えられる。さらに、上記紫外線を40分間照射したが緑色は変化しておらず、30分間の照射でH-→H0+e-の反応が充分反応が進行していたものと考えられる。
【0080】
酸化物β1を解砕しESR(電子スピン共鳴、日本電子株式会社製、JES−TE200)でシグナルを測定した。標準試料として硫酸銅を同時に測定した。そしてシグナルの強度比から電子密度を見積もった。その結果、電子密度は2.0×1019/cm3であることが分かった。導電率は1.8S/cmであり、導電性を有するマイエナイト型化合物であることが分かった。
【0081】
上記のように、酸化物α1に紫外線を30分間照射することにより、H-→H0+e-の反応が充分に進行していると考えられるため、電子密度は水素化物イオンと同量と見積もることができる。ゆえに紫外線が照射される前の酸化物α1の水素化物イオン密度は2.0×1019/cm3であると考えられる。
【0082】
[例2]
還元温度を1330℃とした以外は例1と同様にして酸化物α2および酸化物β2を得た。酸化物α2および酸化物β2はC12A7単相であり、酸化物α2の水素化物イオン密度は2.5×1019/cm3、酸化物β2の導電率は2.2S/cmであった。
【0083】
[例3]
還元温度を1250℃とした以外は例1と同様にして酸化物α3および酸化物β3を得た。酸化物α3および酸化物β3はC12A7と僅かなC3AおよびCAの混相であった。酸化物α3の水素化物イオン密度は2.5×1019/cm3、酸化物β3の導電率は1.2S/cmであった。
【0084】
[例4]
還元時間を6時間とした以外は例1と同様にして酸化物α5および酸化物β5を得た。酸化物α5および酸化物β5はC12A7単相であり、酸化物α5の水素化物イオン密度は2.1×1019/cm3、酸化物β5の導電率は1.8S/cmであった。
【0085】
[例5]
炭酸カルシウムと酸化アルミニウムの混合を自動乳鉢で30分間混合とした以外は例1と同様にして酸化物α5および酸化物β5を得た。酸化物α5および酸化物β5はC12A7とC3AおよびCAの混相であった。酸化物α5の水素化物イオン密度は1.7×1018/cm3、酸化物β5の導電率は0.1S/cmであった。
【0086】
[例6]
水素化工程後の冷却速度を200℃/時間とした以外は例1と同様にして酸化物α6および酸化物β6を得た。酸化物α6および酸化物β6はC12A7単相であり、酸化物α6の水素化物イオン密度は1.8×1019/cm3、酸化物β6の導電率は1.6S/cmであった。
【0087】
[例7]
水素化工程に用いる水素含有ガスを水素/窒素=0.5/99.5(体積比)にした以外は例1と同様にして酸化物α7および酸化物β7を得た。酸化物α7および酸化物β7はC12A7と僅かなC3AおよびCAの混相であった。酸化物α7の水素化物イオン密度は1.0×1018/cm3、酸化物β7の導電率は0.09S/cmであった。
【0088】
[例8]
水素化工程に用いる水素含有ガスを水素/窒素=60/40(体積比)にした以外は例1と同様にして酸化物α8および酸化物β8を得た。酸化物α8および酸化物β8はC12A7と僅かなC3AおよびCAの混相であった。酸化物α8の水素化物イオン密度は4.0×1019/cm3、酸化物β8の導電率は3.5S/cmであった。
【0089】
[例9]
水素化工程に用いる水素含有ガスを水素ガス(水素濃度100体積%のガス)にした以外は例1と同様にして酸化物α9および酸化物β9を得た。酸化物α9および酸化物β9はC12A7と僅かなC3AおよびCAを含む混相であった。酸化物α9の水素化物イオン密度は1.7×1019/cm3、酸化物β9の導電率は1.5S/cmであった。
【0090】
[例10]
酸化カルシウムと酸化アルミニウムのモル比が10:9となるように、炭酸カルシウムと酸化アルミニウムとを混合して得た混合物α10を用いたこと以外は例1と同様にして、酸化物α10および酸化物β10を得た。酸化物α10および酸化物β10は主にCAを含み、C12A7も含まれていた。酸化物α10の水素化物イオン密度は1.5×1018/cm3、酸化物β10の導電率は0.02S/cmであった。
【0091】
[例11]
酸化カルシウムと酸化アルミニウムのモル比が13.5:5.5となるように、炭酸カルシウムと酸化アルミニウムとを混合して得た混合物α11を用いたこと以外は例1と同様にして、酸化物α11および酸化物β11を得た。酸化物α11および酸化物β11は主にCAを含み、C12A7も含まれていた。酸化物α11の水素化物イオン密度は1.1×1018/cm3、酸化物β11の導電率は0.04S/cmであった。
【0092】
[例12]
還元温度を1200℃とした以外は例1と同様にして酸化物α12および酸化物β12を得た。酸化物α12および酸化物β12は主にC3AおよびCAを含み、C12A7も僅かに含まれていた。酸化物α12の水素化物イオン密度は1.0×1017/cm3未満であった。また、酸化物β12の導電率は低すぎて測定不能であった。
【0093】
[例13]
還元温度を1360℃とした以外は例1と同様にして酸化物α13および酸化物β13を得た。酸化物α13および酸化物β13はC12A7単相であったが、酸化物α13の水素化物イオン密度は2.1×1017/cm3であった。酸化物β13の導電率は0.02S/cmであった。
【0094】
[例14]
例1では昇温の際は、炭酸ガスの急激な発生を抑えるために、800〜1000℃までは100℃/時間でゆっくり昇温させて酸化物α1を得たが、例14では800〜1000℃までを100℃/時間にはさせずに、室温から1200℃までを2000℃/時間で急昇温させて酸化物α14を得た。ほかの焼成の方法は例1と同様である。また、例1と同様の方法で酸化物β14を得た。酸化物α14および酸化物β14はC12A7単相であり、酸化物α14の水素化物イオン密度は1.0×1019/cm3、酸化物β14の導電率は0.9S/cmであった。
【0095】
しかしながら、酸化物α14は電気炉の内部に散布していた。これでは製品を効率的に生産することはできない。また、電気炉を損傷し、電気炉の寿命を著しく縮める。特に、電気炉の内壁には水素に対して耐久性のある高価なタングステンやモリブデンが使用される場合には、好ましくない。このような酸化物α14の散布は、炭酸カルシウムからの炭酸ガスの放出が898℃で急激に起こるためと考えられる。
【0096】
[例15]
酸化カルシウムと酸化アルミニウムのモル比が8:11となるように、炭酸カルシウムと酸化アルミニウムとを混合して得た原料α15を用いたこと以外は例1と同様にして、酸化物α15および酸化物β15を得た。酸化物α15および酸化物β15は主にC3AおよびCAを含んでいた。酸化物α15の水素化物イオン密度および酸化物β15の導電率は、共に低すぎて測定不能であった。
【0097】
[例16]
酸化カルシウムと酸化アルミニウムのモル比が14.5:4.5となるように、炭酸カルシウムと酸化アルミニウムとを混合して得た原料α16を用いたこと以外は例1と同様にして、酸化物α16および酸化物β16を得た。酸化物α16および酸化物β16は主にC3AおよびCAを含み、極僅かのC12A7も含まれていた。酸化物α16の水素化物イオン密度および酸化物β16の導電率は、共に低すぎて測定不能であった。
【0098】
[例17]
炭酸カルシウムと酸化アルミニウムをビニル袋に入れたのちにビニル袋を手で振るだけの混合とした以外は例1と同様にして酸化物α17を得た。酸化物α17および酸化物β17は主にC3AおよびCAを含み、僅かなC12A7も含まれていた。酸化物α17の水素化物イオン密度は4.0×1017/cm3、酸化物β17の導電率は0.01S/cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の導電性酸化物製造方法によれば、導電性が大きい導電性マイエナイト含有酸化物を、安定してかつ低コストで大量に製造することができる。また、本発明の酸化物製造方法によれば、導電性マイエナイト含有酸化物の製造に適したマイエナイト含有酸化物を安定して量産することができる。
【0100】
導電性マイエナイト含有酸化物は、電子放出特性が優れているので電界効果型の電子放出材料として用いることができる。そして、電子放出装置、表示装置、あるいは小型のX線源が実現される。また、仕事関数が小さいため、有機ELデバイスにおける電荷注入材料など、特殊な接合特性が要求される電極材料としても用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムアルミネート、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、焼成により酸化カルシウムとなるカルシウム化合物および焼成により酸化アルミニウムとなるアルミニウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも2種の原料を含み、かつCaOおよびAl23に換算したモル比でCaO:Al23=9:10〜14:5となる割合のCa原子とAl原子とを含有する混合物を、前記原料を混合して製造する混合工程と、酸素分圧が1000Pa以下の水素含有ガス中で、前記混合物を1210℃以上1350℃未満で焼成して、マイエナイト型化合物を含み水素化物イオン密度が1×1018/cm3以上であるマイエナイト含有酸化物を得る水素化工程とを具備する、マイエナイト含有酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記水素含有ガスが水素と不活性ガスとの混合ガスである、請求項1に記載のマイエナイト含有酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記水素含有ガスが、さらにハロゲンおよびイオウからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載のマイエナイト含有酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記水素含有ガス中の水素濃度が、0.2体積%以上100体積%以下である、請求項1〜3のいずれかに記載のマイエナイト含有酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記混合物が、炭酸カルシウム、酸化カルシウムおよび水酸化カルシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の原料と、水酸化アルミニウムおよび酸化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の原料とを含む、請求項1〜4のいずれかに記載のマイエナイト含有酸化物の製造方法。
【請求項6】
前記マイエナイト含有酸化物の水素化物イオン密度が、1×1019/cm3以上である、請求項1〜5のいずれかに記載のマイエナイト含有酸化物の製造方法。
【請求項7】
前記請求項1〜6のいずれかに記載の方法によりマイエナイト含有酸化物を製造し、次いで、得られたマイエナイト含有酸化物に、電子線、波長が140〜380nmの紫外線およびプラズマからなる群から選ばれる少なくとも1つを照射して、導電性マイエナイト型化合物を含むマイエナイト含有酸化物を得る、導電性マイエナイト含有酸化物の製造方法。

【公開番号】特開2012−101945(P2012−101945A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−33874(P2009−33874)
【出願日】平成21年2月17日(2009.2.17)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】