説明

マイクロインジェクション装置および方法

【課題】 複数の細胞への導入物質の導入を同時に行うことのできる処理効率向上の可能なマイクロインジェクション装置を提供する。
【解決手段】 このマイクロインジェクション装置は、内部に導入物質の充填された微小な注入針11を被導入体に挿入することにより、被導入体内に導入物質を導入するものである。容器位置調整手段1、撮像手段2、位置判定手段3、および複数の搬送手段4を備える。容器位置調整手段1は、被導入体の収容された容器12の位置を調整する。撮像手段2は、容器位置調整手段1により位置調整された容器12の内部の画像を、レンズ2aを通して撮像する。位置判定手段3は、撮像手段2によって得られた画像から被導入体の位置を判定する。複数の搬送手段4は、位置判定手段3によって得られた位置情報に応じて複数の注入針11を、各注入針11ごとに個別に移動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、細胞等の被導入体内に遺伝子制御因子等の導入物質を微小な注入針により導入するマイクロインジェクション装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞内へ遺伝子制御因子等の所望の物質を導入する代表的な方法として、電気的な方式であるエレクトロポレーション法、化学的な方式であるリポフェクション法、生物的な方式であるベクター法、機械的な方式であるマイクロインジェクション法、光学的な方式であるレーザインジェクション法などがある。
【0003】
このうち、電気的方式であるエレクトロポレーション法は、大電流によって細胞膜を破るため細胞の損傷が大きい。また、化学的方式であるリポフェクション法の場合は、導入物質として導入できる遺伝子制御因子に制限があり、導入効率が低い。生物的方式であるベクター法の場合も導入できる遺伝子制御因子に制限があり、また安全性について問題がある。これに対して、機械的方式であるマイクロインジェクション法の場合は、インジェクション位置を高精度で制御することで、細胞内に導入物質を確実に導入できるという特長がある。このマイクロインジェクション法の一例として、キャピラリー(微小な注入針)を用いて細胞内に導入物質を導入する方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
マイクロインジェクション法の処理効率を高くする手法として、多数の注入針を規則的に配列したマイクロキャピラリーアレイと、このアレイの各注入針に対応した位置に細胞を固定する複数のマイクロチャンバーを配列してなるマイクロチャンバーアレイとを対向させて、複数の細胞に遺伝子制御因子を一括注入する方法も提案されている(特許文献2)。
【0005】
図10に、マイクロインジェクション法を適用した装置の従来例を示す。このマイクロインジェクション装置では、被導入体である細胞を収容したシャーレ50を容器載置台51で把持し、シャーレ50の内部の局部平面画像を撮像手段52で撮像し、その平面画像を画像処理手段53で処理することにより、細胞の位置情報を得る。この容器載置台51を、XYステージ装置からなる水平2軸方向の容器位置調整手段54によって移動させることで、注入針55の注入方向に細胞が位置するように細胞の位置決めを行う。次に、注入針55を保持したマニピュレータを、Zステージ装置56を有する注入針搬送手段57によって注入針55の注入方向に移動させる。このように、位置決めされた細胞に対して注入針55を突き刺し、注入針55の内部に充填された導入物質を細胞に導入する。これらの一連の動作は、制御装置58の制御により自動的に行なわれる。注入針搬送手段57には、超音波モータやボールねじが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2624719号公報
【特許文献2】特許第3035608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
細胞内にDNAやタンパク質等の遺伝子制御因子を導入する方法として、上記した各方法が挙げられるが、確実性と効率性を両立させた技術は未だ確立されていない。これらの各方法の中でも、細胞の一つ一つに遺伝子制御因子を導入するマイクロインジェクション法は最も確実な方法であるが、その操作には熟練と時間を要し、そのため処理効率が低いという問題がある。
【0008】
特許文献2に開示のマイクロキャピラリーアレイ方式のように複数の細胞に対する注入針の位置制御を一括して行う方法では、各細胞の形状、大きさ、弾力性が異なることから、多くの細胞に対して注入針が刺さらないか、或いは、多くの細胞を破壊するといった結果になっている。また、マイクロキャピラリーアレイ方式では、細胞をマイクロキャピラリーアレイの各注入針と同位置に配列する必要があるため、培養液内で移動可能な浮遊細胞に適用できるのみで、培地やシャーレの底に付着した細胞には適用することができない。
【0009】
そこで、マイクロインジェクション法を適用する装置では、これまで、その処理効率向上のために、細胞へ導入物質を注入する注入速度の向上や、マニピュレータの位置決め速度の向上が図られている。現在のマイクロインジェクション装置では、1秒以下で1個の細胞の注入処理を実現したものがある。
【0010】
しかし、医療用途の要求では、細胞への導入物質の種類を問わないこと、導入効率が高いこと、および物質導入細胞を大量に供給できることが要求され、特に重要な物質導入細胞を大量に供給できる要求は現状では満たすことができない。
また、複数の注入針を使用したくても、現状では注入針を装備したマニピュレータの寸法が大きいため、マニピュレータを複数配置できないといった問題がある。
【0011】
また、例えば図10と共に前述したような現在のマイクロインジェクション装置では、細胞を位置決めするために細胞を収容したシャーレ50を支持する容器位置調整手段54を移動させ、注入針55を装備したマニピュレータを、細胞に注入針55を刺入する方向にのみ移動させるため、複数の細胞を位置決めして各細胞に注入針を同時に刺入することができなかった。
【0012】
この発明の目的は、細胞等の被導入体への導入物質の導入を、複数の注入針で効率良く確実に行うことができて、処理効率の向上が可能なマイクロインジェクション装置を提供することである。
この発明の他の目的は、複数の被導入体に対して複数の注入針の先端の位置決めを同時に行うことができ、より一層の処理効率の向上を可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明のマイクロインジェクション装置は、内部に導入物質の充填された微小な注入針を被導入体に挿入することにより、被導入体内に導入物質を導入するマイクロインジェクション装置であって、前記被導入体の収容された容器の位置を調整する容器位置調整手段と、この容器位置調整手段で位置調整された容器の内部の被導入体に対して複数の注入針をそれぞれ個別に移動可能に移動させる複数の搬送手段と、前記容器位置調整手段により位置調整された前記容器の内部の画像を拡大用のレンズを通して撮像する撮像手段と、この撮像手段によって得られた画像から被導入体の位置を判定する位置判定手段と、この位置判定手段によって得られた位置情報に応じて前記各搬送手段に注入針の移動を行わせる制御手段とを備えることを特徴とする。
【0014】
この構成によると、被導入体を収容した容器の位置を容器位置調整手段で調整し、位置調整された容器の内部の平面視画像を撮像手段で撮像し、その画像から細胞位置を位置判定手段で判定することで各注入針の担当する細胞等の被導入体を決定する。このとき、拡大用のレンズにより前記容器を局部的に拡大し、細胞等の被導入体の位置を画像処理することで、被導入体の位置を精度良く認識できる。また、例えば、認識した細胞等の被導入体の画像内での位置関係から、各搬送装置で担当する被導入体を決定することができる。このように各注入針の担当する被導入体を決定した後、各注入針を個別の複数の搬送手段で移動させて各被導入体に注入針をそれぞれ挿入することにより、各被導入体に導入物質を導入する。このため、細胞等の複数の被導入体への導入物質の導入を同時に行うことができ、インジェクション処理の効率向上が可能となる。また、少なくとも2種類以上の種類の異なる注入物質を注入針毎に充填しておき、同じ被導入体に順次導入することにより、被導入体に複数種の導入物質のあらかた同時導入が可能となる。よって、注入針の注入物質の入れ替えなく複数種の導入物質の導入ができ、インジェクション処理の効率向上が可能となる。
【0015】
この発明において、前記複数の搬送手段が、前記容器の周囲に放射状に配置されたものであっても良い。この発明のマイクロインジェクション装置は、各注入針の位置決めを個々の搬送手段によって行うようにしたため、上記のような複数の搬送手段の容器周囲への放射状の配置が可能になる。このように、注入針を位置決めする複数の搬送手段を放射状に配置した場合、容器の周囲の限られたスペースに多数の搬送手段を配置でき、それだけ多数の注入針を使用することができてインジェクション処理の、より一層の効率向上が可能となる。
【0016】
この発明において、前記制御手段は、前記位置判定手段によって得られた位置情報により前記容器内の複数の被導入体の位置を認識し、前記複数の搬送手段を並行して動作させて、複数の注入針を各被導入体にそれぞれ挿入させる構成としても良い。
個々の注入針を動作させる複数の搬送手段を並行して動作させてインジェクション動作を行うことで、インジェクション処理の効率がより向上する。複数の搬送手段を並行動作させるが、複数の注入針を共通の搬送手段で位置決めするものと異なり、個々の搬送手段は独立して位置決め可能であるため、複数の細胞等の被導入体への適切な位置決めを可能として、確実な注入を可能としながら、インジェクション処理の効率の向上が可能となる。
【0017】
この発明において、前記制御手段は、前記位置判定手段によって得られた位置情報により前記容器内の被導入体の位置を認識し、前記複数の搬送手段を順次動作させて、複数の注入針を同じ被導入体に順次挿入させる構成としても良い。
この構成の場合、複数種の導入物質を複数の注入針でそれぞれ注入するインジェクション処理につき、効率の向上が可能となる。
【0018】
この発明において、前記搬送手段は、少なくとも2自由度の、各自由度ごとの移動機構を持つものとしても良い。搬送手段が少なくとも2自由度以上の移動機構を持つものとすれば、1つの搬送手段により注入針の先端の適切な位置決めが可能となる。各搬送手段が2自由度以上の移動機構を持つことで、各注入針の先端の位置決めが、前記搬送手段の単体で可能となる。
【0019】
上記のように少なくとも2自由度の移動機構を持つ構成とした場合に、前記搬送手段の各自由度の移動機構のうち、少なくとも1つの自由度の移動機構の駆動源として圧電素子を用いても良い。駆動源として圧電素子を用いることで、搬送手段の小型化が可能となる。このように搬送手段が小型化されることで、細胞等の被導入体の入った容器の周辺の限られたスペースに複数の搬送装置を配置することが実現可能となる。また、圧電素子は、電気エネルギから機械エネルギに変換する変換効率が高く、印加する電圧を変えることにより、発生する変位を比較的簡単に可変することがき、制御性に優れた特長がある。そのため、注入針の挿入動作の制御性が優れたものとなる。
【0020】
上記のように移動機構の駆動源に圧電素子を用いた場合は、その移動機構は、前記圧電素子の変位を拡大する拡大機構を有するものとしても良い。
注入針の先端が、撮像手段で撮像された容器内の画像における所定視野内の全域を移動可能にするためには、搬送手段による注入針の移動距離は、例えば1mm以上であることが望ましい。圧電素子の変位を拡大機構で拡大すれば、圧電素子を駆動源として用いても、注入針の移動距離を十分確保することができる。
【0021】
この発明において、前記各搬送手段を、注入針の先端が被導入体の近接する注入準備位置と退避位置との間で進退させる搬送手段退避機構を設けても良い。
注入針の先端を常に被導入体に近接する注入準備位置に位置させておいても良いが、その場合、被導入体の収容された容器を交換するときに注入針が障害となり、容器の交換が困難となる。前記搬送手段退避機構を設けることで、容器の交換が容易に行える。また、各搬送手段の移動範囲を広げることで注入針を容器から退避させるものと異なり、搬送手段は撮像手段の視野内等の小さな範囲で移動可能なもので足り、搬送手段の小型化を図りながら、容器からの注入針の退避が行える。
【0022】
この発明において、前記被導入体が細胞であり、前記導入物質が遺伝子制御因子であっても良い。遺伝子制御因子は例えばDNAやタンパク質である。被導入体が細胞であり、導入物質が遺伝子制御因子である場合に、この発明における、複数の被導入体への導入物質の導入を同時に行うことができることなどによる処理効率向上するという効果が、より効果的に発揮される。
【0023】
この発明のマイクロインジェクション方法は、内部に導入物質の充填された微小な注入針を被導入体に突き刺すことにより、被導入体内に導入物質を導入する方法であって、前記被導入体の収容された容器の位置を調整する容器位置調整過程と、この容器位置調整過程により位置調整された前記容器の内部の平面視画像をレンズを通して撮像する撮像過程と、この撮像過程によって得られた画像から被導入体の位置を判定する位置判定過程と、この位置判定過程によって得られた位置情報に応じて複数の注入針を、複数の搬送手段で各注入針ごとに個別に移動させる過程とを含むことを特徴とする。
この発明方法によると、この発明装置につき説明したと同様に、細胞等の複数の被導入体への導入物質の導入を同時に行うことや、同じ被導入体に複数の被導入体で順次導入を行うことができ、インジェクション処理の効率向上が可能となる。
【発明の効果】
【0024】
この発明のマイクロインジェクション装置は、内部に導入物質の充填された微小な注入針を被導入体に挿入することにより、被導入体内に導入物質を導入する装置であって、前記被導入体の収容された容器の位置を調整する容器位置調整手段と、この容器位置調整手段で位置調整された容器の内部の被導入体に対して複数の注入針をそれぞれ個別に移動可能に移動させる複数の搬送手段と、前記容器位置調整手段により位置調整された前記容器の内部の画像を拡大用のレンズを通して撮像する撮像手段と、この撮像手段によって得られた画像から被導入体の位置を判定する位置判定手段と、この位置判定手段によって得られた位置情報に応じて前記各搬送手段に注入針の移動を行わせる制御手段とを備えるため、細胞等の被導入体への導入物質の導入を、複数の注入針で効率良く確実に行うことができる。
この発明のマイクロインジェクション方法は、内部に導入物質の充填された微小な注入針を被導入体に突き刺すことにより、被導入体内に導入物質を導入する方法であって、前記被導入体の収容された容器の位置を調整する容器位置調整過程と、この容器位置調整過程により位置調整された前記容器の内部の平面視画像をレンズを通して撮像する撮像過程と、この撮像過程によって得られた画像から被導入体の位置を判定する位置判定過程と、この位置判定過程によって得られた位置情報に応じて複数の注入針を、複数の搬送手段で各注入針ごとに個別に移動させる過程とを含む方法であるため、細胞等の被導入体への導入物質の導入を、複数の注入針で効率良く確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の一実施形態にかかるマイクロインジェクション装置の概念図である。
【図2】同マイクロインジェクション装置における搬送手段の配置構成を示す平面図である。
【図3】同マイクロインジェクション装置における1つの搬送手段および搬送手段退避機構の組み合わせ体の斜視図である。
【図4】同搬送手段におけるZ軸移動機構の縦断面図である。
【図5】同搬送手段におけるY軸移動機構の水平断面図である。
【図6】同搬送手段におけるX軸移動機構の水平断面図である。
【図7】マイクロインジェクション装置における容器載置台の斜視図である。
【図8】浮遊細胞の固定に用いられる細胞吸着基板ユニットの一例の断面図である。
【図9】容器位置調整調整手段におけるXYステージ装置の平面図である。
【図10】従来例の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
この発明の一実施形態を図1ないし図8と共に説明する。図1は、このマイクロインジェクション装置の概念図を示す。このマイクロインジェクション装置は、内部に導入物質の充填された微小な注入針11を被導入体に挿入することにより、被導入体内に導入物質を導入する装置である。被導入体は、例えば細胞である。この細胞は、人体の細胞であっても、他の任意の動物や植物等の生物の細胞であっても良い。
このマイクロインジェクション装置は、容器位置調整手段1と、複数の注入針11に対して個別に設けたマニピュレータである複数の搬送手段4と、この搬送手段4を注入準備位置と退避位置との間で進退させる搬送手段退避機構33と、撮像手段2と、装置全体の動作を制御する制御装置5とを備える。制御装置5は、位置判定手段3と、担当被導入体決定部51と、注入動作制御部52とを有している。
【0027】
容器位置調整手段1は、被導入体を収容するシャーレ等の容器12が載置状態に保持された容器載置台13を水平な直交2軸方向に移動させて容器12の位置を調整する手段であり、XYステージ装置6により構成される。XYステージ装置6は、例えば図9に平面図で示すように、基台61にガイド62を介してY軸方向に移動自在に設置された下側可動台63と、この下側可動台63上のガイド64を介してX軸方向に移動自在に設置された上側可動台65と、上記下側可動台63および上側可動台65を可動方向に進退させる各軸の可動台駆動機構66,67とで構成される。可動台駆動機構66,67は、リニアモータであっても、モータとボールねじ等の回転・直線運動変換機構とでなるものであっても良い。上側可動台65に、図1の上記容器載置台13が設置され、または上側可動台65自体が、上記容器載置台13となる。
なお、この明細書でいうX軸、Y軸、Z軸は、マイクロインジェクション装置の全体における共通の座標系として定められる直角座標の各軸を表すものではなく、それぞれ個別の装置説明での各自由度に対する軸として表される。
【0028】
撮像手段2(図1)は、容器載置台13の上方の所定位置に、シャーレ等からなる容器12を俯瞰するように1台だけ設置される。撮像手段2は、容器12の内部を局部的に拡大した平面視画像等の画像を、拡大用のレンズ2aを通して撮像するカメラなどであり、その画像は画像処理手段7によって処理される。
【0029】
位置判定手段3は、前記撮像手段2によって得られた画像から被導入体の位置を判定する手段であり、例えば前記制御装置5の一部として含まれる。位置判定手段3は、画像処理手段7による画像処理結果を、適宜設定された設定基準と照合することなどで、被導入体の位置を判定する。例えば、位置判定手段3は、全体画像内での各被導入体の位置関係から、各被導入体の位置を判定する。
【0030】
搬送手段4は、個々の注入針11をそれぞれ移動させるXYZステージ装置等からなる手段であり、複数設けられる。これら複数の搬送手段4は、図2に平面図で示すように、容器載置台13の上方に位置して、容器12を囲むように、容器12の中心に対して略放射状に配置される。同図の例では、搬送手段4は、容器12の左右にそれぞれ複数個(例えば3個)ずつが等角度間隔で配置され、左右の搬送手段4は、互いに放射中心に対して同一直線上に対向して位置している。
【0031】
図3は、1つの搬送手段4と、その搬送手段4を支持する搬送手段退避機構33とでなる退避機構付き搬送手段の全体構成の斜視図を示す。搬送手段4は3自由度を有する。そのうちの1自由度を担う移動機構は、容器載置台13に対して水平方向の直交する2方向(X軸方向,Y軸方向)のうち一方向(X軸方向)に注入針11を移動させるX軸移動機構14である。他の1つの自由度を担う移動機構は、水平方向の直交する2方向のうちの他の一方向(Y軸方向)に注入針11を移動させるY軸移動機構15である。さらに他の1つの自由度を担う移動機構は、容器12の内部に向けて傾斜する方向となる注入針中心軸方向に注入針11を移動させるZ軸移動機構16である。
【0032】
Z軸移動機構16は、図4に縦断面図で示すように、中空箱形の固定台17と、この固定台17の一端部において、その上面開口を通って、固定台17内から上方に突出するように設けられた針支持部材18と、固定台17内に配置され駆動源となる圧電素子ユニット19Aとを備える。
針支持部材18は、注入針11を着脱自在に支持可能な構成であり、注入針11の損傷や導入物質の交換等のために、注入針11を簡単に交換することができる。針支持部材18は、立片部18aおよび横片部18bを有する概形が横向きT字状である。針支持部材18は、その立片部18aの上端で注入針11を着脱自在に支持し、横片部18bが案内機構21を介して固定台17の上に注入針11の突出方向に移動自在に支持される。針支持部材18の立片部18aの下側部分は、固定台17の一端部の内壁面に板ばね等からなるばね部材20を介して支持されている。
圧電素子ユニット19Aは、複数の圧電素子19Aaを、それらの変位方向に重ねて棒状体としたものである。図では一部の圧電素子19Aaのみを図示している。圧電素子ユニット19Aは、その一端が針支持部材18の立片部18aに連結され、他端が固定台17の他端部に支持されている。前記ばね部材20は、圧電素子ユニット19Aに予圧を与える部材である。これにより、圧電素子ユニット19Aの長手方向への変位で、針支持部材18が注入針11の突出方向に進退可能である。
【0033】
このZ軸移動機構16には、固定台17と針支持部材18との相対変位を測定するための図示しないセンサが内蔵される。このセンサとしては、圧電素子ユニット19Aに予圧を与えるばね部材20の歪みを検出する歪みセンサや、固定台17と針支持部材18とのギャップを測定する静電容量センサ、磁気センサ、光学式センサなどを用いることができる。
【0034】
図3に示すように、Z軸移動機構16は、注入針11の注入角度が下向きに傾斜した所定角度となるように、上側可動支持体22の一端部の傾斜取付台部22aに固定されている。なお、Z軸移動機構16は、上側可動支持体22に対して注入針11の注入角度を自在に変更する角度可変機構(図示せず)を有するものとしても良い。上側可動支持体22は、一辺が開放された矩形枠状とされている。上側可動支持体22は、平板状の下側可動支持体23上に、左右一対の案内機構24を介して水平方向の一方向(Y軸方向)に移動自在に支持されている。下側可動支持体23の上には、前記Y軸移動機構15が設置されている。下側可動支持体23は、その下に配置された平板状の搬送手段基台28の上に、案内機構29を介してX軸方向に移動自在に支持されている。この搬送手段基台28の下側に前記X軸移動機構14が設置されている。
【0035】
Y軸移動機構15を、図5に水平断面図で示す。Y軸移動機構15は、固定台25と、可動片26と、駆動源となる圧電素子ユニット19Bとを備える。固定台25は、X軸方向に延びる主枠部25aと、この主枠部25aの両端から幅方向(Y軸方向)に延びる一対の側枠部25b,25cとを有し、水平断面がU字状とされている。可動片26は、固定台25と一体に形成され、固定台25の一端の側枠部25bから他端の側枠部25c側へ延びている。可動片26は、圧電素子ユニット19Bの変位を拡大する拡大機構となるものであって、固定台25と共に、金属や合成樹脂等の弾性材で形成されている。可動片26は、固定台25の一端の側枠部25bから主枠部25aと略平行に延びる主枠平行片部26aと、この主枠平行片部26aの他端から固定台25の他端の側枠部25cの内側に位置する側枠平行片部26bとでなる。側枠平行片部26bは、側枠部25cと平行に延びる。固定台25の側枠部25bと可動片26の主枠平行片部26aとの接続部、および可動片26の主枠平行片部26aと側枠平行片部26bとの接続部は薄肉部26cとされている。また、可動片26の主枠平行片部26aの長手方向中間部も薄肉部26dとされている。これにより、可動片26の側枠平行片部26bは、その基端の薄肉部26cを揺動中心に揺動可能とされる。また、可動片26の主枠平行片部26aは、その長手方向中間部の薄肉部26dで折れ曲がっていて、その折れ曲がり角度の増減により、長手方向と直交する方向(Y軸方向)に、中間部が進退可能とされる。
【0036】
固定台25の他端の側枠部25cと、可動片26の側枠平行片部26bとの間には、圧電素子ユニット19Bに予圧を与える板ばね等のばね部材27が介在している。圧電素子ユニット19Bは、上記圧電素子ユニット19Aと同様な積層構造の棒状とされている。圧電素子ユニット19Bは、その一端が可動片26の側枠平行片部26bに連結され、他端が固定台25の側枠部25bに支持されている。これにより、圧電素子ユニット19Bの長手方向への変位で、可動片26の側枠平行片部26bが屈曲動作し、その屈曲変位が拡大されて主枠平行片部26aのY軸方向への変位となる。この変位は、Z軸移動機構16を支持する支持体22(図3)に伝達され、これにより注入針11がY軸方向に移動可能である。
【0037】
Y軸移動機構15の場合も、固定台25と可動片26との相対変位を測定するための図示しないセンサが内蔵される。このセンサとしては、前記圧電素子ユニット19Bに予圧を与えるばね部材27の歪みを検出する歪みセンサや、固定台25と可動片26とのギャップを測定する静電容量センサ、磁気センサ、光学式センサ等を用いることができる。
【0038】
図6にX軸移動機構14を水平断面図で示す。X軸移動機構14は、固定台29と、可動片30と、駆動源となる圧電素子ユニット19Cとを備える。固定台29は、X軸方向に延びる主枠部29aと、この主枠部29aの両端から幅方向に延びる一対の側枠部29b,29cとを有し、水平断面がU字状とされている。可動片30は、固定台29と一体に形成されていて、固定台29の一端の側枠部29bから他端の側枠部29c側に向けて延びている。可動片30は、圧電素子ユニット19Cの変位を拡大する第1の拡大機構となるものであって、固定台29と共に、金属や合成樹脂等の弾性材で形成されている。可動片30は、固定台29の一端の側枠部29bから主枠部29aと略平行に延びる主枠平行片部30aと、この主枠平行片部30aの他端から固定台29の他端の側枠平行片部30bとでなり、水平断面がL字状とされている。側枠平行片部30bは、側枠部29cの内側に位置して側枠部29cと平行に延びる。固定台29の側枠部29cと可動片30の側枠平行片部30bとの間には、圧電素子ユニット19Cに予圧を与える板ばね等のばね部材31が介在している。固定台29の側枠部29bと可動片30の主枠平行片部30aとの接続部、および可動片30の主枠平行片部30aと側枠平行片部30bとの接続部は、いずれも薄肉部30cとされている。また、可動片30の主枠平行片部30aの長手方向中間部も薄肉部30dとされている。これにより、可動片30の側枠平行片部30bは、その基端の薄肉部30cを揺動中心に、屈曲して揺動可能とされる。また、可動片30の主枠平行片部30aは、両端の薄肉部30cを中心に屈曲揺動可能であると共に、その長手方向の中間部の薄肉部30dで折れ曲がっていて、この薄肉部30dで屈曲揺動が可能である。
【0039】
また、可動片30の主枠平行片部30aの長手方向中間部の薄肉部30dよりも側枠平行片部30b寄りの略半部となる部分には、固定台29の側枠部29c側に延びて側枠部29cの基端近傍に連結される水平断面が逆L字状の可動枠部32が一体形成されている。この可動枠部32は圧電素子ユニット19Cの変位を拡大する第2の拡大機構となるものであって、可動片30の主枠平行片部30aと略平行な厚肉枠部32aと、この厚肉枠部32aから固定台29の側枠部29cの外側を側枠部29cと平行に延びる薄肉枠部32bとでなる。可動枠部32の厚肉枠部32aと薄肉枠部32bとの接続部、および薄肉枠部32bと固定台29の側枠部29cの基端近傍との接続部は薄肉枠部32bよりもさらに薄い薄肉部32cとされている。また、薄肉枠部32bの長手方向中間部も、さらに薄い薄肉部32dとされている。これにより、可動枠部32の薄枠肉部30bは、その長手方向中間部の薄肉部32dおよび両端の薄肉部32cで折れ曲がって、中間部が長手方向と直交する方向(X軸方向)に進退可能とされている。
【0040】
圧電素子ユニット19Cは、前記圧電素子ユニット19Aと同様な棒状とされ、その一端が前記可動片30の側枠平行片部30bに連結され、他端が固定台29の側枠部29bに支持されている。これにより、圧電素子ユニット19Cの長手方向への変位で、可動片30の側枠平行片部30bが揺動し、その揺動変位が拡大されて主枠平行片部30aのY軸方向への変位となる。この変位はさらに拡大されて可動枠部32における薄枠肉部32bのX軸方向への変位となる。このX軸方向への変位は、図3における下側可動支持体23に伝達され、これにより注入針11がX軸方向に移動可能である。
【0041】
X軸移動機構14の場合も、固定台29と可動枠部32との相対変位を測定するための図示しないセンサが内蔵される。このセンサとしては、前記圧電素子ユニット19Cに予圧を与えるばね部材31の歪みを検出する歪みセンサや、固定台29と可動枠部32とのギャップを測定する静電容量センサ、磁気センサ、光学式センサなどを用いることができる。
【0042】
上記した各搬送手段4のX軸移動機構14、Y軸移動機構15、およびZ軸移動機構16における駆動源としては、圧電素子ユニット19A,19B,19Cのほかに、モータおよびボールねじ、超音波モータ、リニアモータ、油圧アクチュエータ、空圧アクチュエータを用いても良い。また、注入針11の先端が前記画像における所定視野内の全域を移動可能にするために、搬送手段4による注入針11の移動距離は1mm以上であることが望ましい。前記所定視野の範囲は、任意に設定される。
【0043】
図3において、搬送手段退避機構33につき説明する。この搬送手段退避機構33は、搬送手段4の搬送手段基台28を支持する機構であり、基台34と、断面L字状の水平移動台36と、垂直移動台38とでなる。水平移動台36は、基台34上に案内機構35を介して水平方向の一方向(例えばX軸方向)に移動自在である。垂直移動台38は、水平移動台36の立板部36aに案内機構37を介して垂直方向に移動自在に設けられており、この垂直移動台38に前記搬送手段基台28が支持されている。水平移動台36および垂直移動台38は、図示しない駆動源、例えば回転型のモータとボールねじとの組み合わせ、またはリニアモータ、流体圧アクチュエータ等により駆動される。これにより、図1における容器載置台13上へ容器12を着脱する際に、前記搬送手段退避機構33の水平移動台36および垂直移動台37を駆動することで、注入針11の各搬送手段4をインジェクション位置から退避させて、着脱の作業スペースを確保することができる。
【0044】
図1において、制御装置5につき説明する。制御装置5は、このマイクロインジェクション装置の全体を制御する手段であって、マイクロコンピュータ,パーソナルコンピュータ等のコンピュータと、これに実行されるプログラムと、電子回路等によって構成される。制御装置5は、前記位置判定手段3の他に、搬送手段4の制御手段となる担当被導入体決定部51と、注入動作制御部52とを有している。
【0045】
担当被導入体決定部51は、位置判定手段3による各被導入体の位置の判定結果、例えば全体画像内での各被導入体の位置関係から、設定規則等に基づき、各注入針11にどの被導入体への注入を行わせるかの担当の決定、およびその決定された被導入体のどの位置へ注入針11を挿入するかの注入目標位置を決定する手段である。被導入体の担当については、特に「担当」として定めていなくても良く、各注入針11の先端が移動する目標位置が決定されて、その結果として被導入体の担当が定まるようにしても良い。また、同じ被導入体に複数の注入針11による注入を行わせるように上記目標位置を決定しても良い。
【0046】
注入動作制御部52は、担当被導入体決定部51で決定された目標位置に注入針11の先端が移動するように、各搬送手段4を制御する手段である。注入動作制御部52は、各搬送手段4毎に、各軸の移動機構14〜16の駆動制御を行う搬送手段個別制御部52aを有している。注入動作制御部52は、注入針11に導入物質を吐出させる注入駆動手段(図示せず)を有している場合は、上記制御の他に、その注入駆動手段の制御手段(図示せず)が設けられる。また、注入動作制御部52には、各搬送手段退避機構33の制御を行う退避機構制御手段53、および容器位置調整手段1の各軸の制御を行う容器位置調整制御手段54を有している。
【0047】
次に、上記構成のマイクロインジェクション装置によるインジェクション動作を説明する。
はじめに、容器位置調整手段1の駆動により、容器載置台13が水平移動し、容器載置台13上の容器12が撮像手段2の下方の所定位置に位置決めされる。次に、撮像手段2が容器12内の一部の局部的に拡大した平面視画像を、レンズ2aを通して撮像する。その画像は画像処理手段7によって処理され、制御装置5の位置判定手段3が前記画像から容器12内の被導入体である細胞の位置を判定する。
【0048】
次に、位置判定手段3によって得られた各細胞の位置情報に応じて、担当被導入体決定部51により、各注入針11が注入を担当する細胞、およびその注入針11の先端を細胞に挿入する目標位置が決定される。この決定に伴い、注入針11を支持する各搬送手段4が、注入動作制御部52の各搬送手段個別制御部52aにより制御される。この場合、注入動作制御部52は、各搬送手段4の各注入針11が干渉しないように動作させる。
これにより、例えば、各注入針11による以下のインジェクション動作が並列して行なわれる。すなわち、インジェクション動作として、各注入針11の水平方向および注入方向の位置決めが行なわれ、注入方向への注入針11の移動で決定された細胞に注入針11が挿入され、注入針11の内部に充填された導入物質が細胞に導入される。この導入は、注入針11から駆動によって導入物質を吐出させるようにしても良く、また浸透圧等によって浸透することで導入されるようにしても良い。これらの注入針11による一連のインジェクション動作の全体は、制御装置5によって制御される。注入方向への注入針11の移動では、細胞への円滑な挿入を可能にするため、往復移動として振動させることができる。また、細胞の種類に応じて、あるいは細胞膜への突き刺しや核膜への突き刺しに応じて、前記振動の周波数を変えることもできる。導入物質は例えばDNAやタンパク質等の遺伝子制御因子である。
【0049】
画像内の細胞へのインジェクション処理が終了した後、容器位置調整手段1の作動で容器載置台13が所定量だけ水平移動することで、容器12内の先の画像撮像位置に近接した別の位置での細胞位置が、撮像手段2による画像から位置判定手段3によって認識され、上記したインジェクション動作が繰り返される。
【0050】
このように、上記構成のマイクロインジェクション装置によると、被導入体として例えば細胞を収容した容器である容器12の位置を容器位置調整手段1で調整し、位置調整された容器12の内部の平面視画像を撮像手段2で撮像し、その画像から細胞位置を位置判定手段3で判定することで各注入針11の担当する細胞を決定し、各注入針11を個別の複数の搬送手段4で移動させて各細胞に注入針11をそれぞれ挿入することにより、各細胞に導入物質として例えば遺伝子制御因子を導入する。そのため、一度に複数の細胞へのインジェクション動作を並行して行うことができ、インジェクション処理の大幅な効率向上が可能となる。
【0051】
また、このマイクロインジェクション装置は、図10に示す従来例において、複数の注入針11に対応した複数の搬送手段4を追加するだけで、インジェクション処理効率の高い構成とすることができる。
【0052】
また、この実施形態では、各注入針11を個別に移動させる複数の搬送手段4を、被導入体を収容する容器である容器12の周囲に放射状に配置しているので、容器12の周囲の限られたスペースに多数の搬送手段4を配置でき、それだけ多数の注入針11を使用することができてインジェクション処理の、より一層の効率向上が可能となる。なお、搬送手段4のこのような配置は、個々の搬送手段4がそれぞれ単独で注入針11の搬送動作を行なえることから可能となっている。
【0053】
また、この実施形態では、注入針11の搬送手段4として3自由度の移動機構、つまりX軸移動機構14、Y軸移動機構15およびZ軸移動機構16を持つものとしているが、少なくとも2自由度の移動機構を持つものとすれば、1つの搬送手段により注入針11の先端の位置決めが可能となる。
【0054】
また、この実施形態では、搬送手段4のX軸移動機構14、Y軸移動機構15およびZ軸移動機構16の駆動源として圧電素子ユニット19A,19B,19Cを用いているので、搬送手段4の小型化が可能であり、これによりインジェクション処理のさらなる効率向上が可能となる。圧電素子ユニット19A,19B,19Cは、電気エネルギから機械エネルギに変換する変換効率が高く、印加する電圧を変えることにより、発生する変位を比較的簡単に可変することがき、制御性に優れる特長がある。
【0055】
ところで、前記被導入体となる細胞には、培地などに付着した付着細胞と培養液内を浮遊する浮遊細胞がある。付着細胞の場合は、上記した手順でインジェクション動作を行うことができる。図7および図8は、被導入体が浮遊細胞である場合に用いる細胞吸着基板ユニットの一構成例を示す。この細胞吸着基板ユニット40は、上面が開放された箱体41の開口を、複数の微細孔43を有する細胞吸着基板42で蓋閉めしてなり、箱体41の一部には、箱体41内から培養液を吸引するための吸引口44が設けられている。細胞吸着基板42は、インジェクションを行う細胞の大きさによって、その微細孔43の孔径の異なるものを用意する。図1に示すマイクロインジェクション装置では、この細胞吸着基板ユニット40を使用する場合のポンプ45を装備した例を示している。このポンプ45で細胞吸着基板ユニット40の前記吸引口42から培養液を吸引することで、浮遊細胞46を細胞吸着基板42の各微細孔43に固定させることができる。ポンプ45を制御する手段(図示せず)も、制御装置5に設けられている。
【0056】
また、被導入体が浮遊細胞である場合において上述の前記細胞吸着基板ユニット40を用いないインジェクション方法について示す。注入針11の搬送手段4と同様の搬送手段を少なくとも2つ以上を組み合わせて、一方に注入針11を支持させ、他方に細胞固定用のチューブを把持させ、浮遊細胞を前記チューブからの吸引で固定し、注入針11でインジェクション動作を行う。この場合、細胞固定用のチューブ側の操作によって、細胞を容器である容器12内の任意の位置に移動させることができる。つまり、細胞固定用のチューブを把持した搬送手段4の操作によって細胞を分別することが可能となる。
【0057】
このマイクロインジェクション装置によると、複数の注入針11の内部に充填された導入物質が全ての注入針11で同じ物質である場合、インジェクション動作の速度を、従来と比較して注入針11の本数倍に向上させることができる。
また、複数の注入針11の内部に充填された導入物質が、注入針11ごとに異なる物質である場合、同じ細胞に対して、複数の注入針11が順次挿入されて注入する動作を行うように各搬送手段4を制御することで、1つの細胞に複数種類の導入物質を注入することが可能となる。注入動作制御部52は、このように複数の搬送手段4を順次動作させるように制御するものとしても良い。
【符号の説明】
【0058】
1…容器位置調整手段
2…撮像手段
3…位置判定手段
4…搬送手段
5…制御装置
11…注入針
12…容器
14…X軸移動機構
15…Y軸移動機構
16…Z軸移動機構
19A〜19C…圧電素子ユニット
26…可動片(拡大機構)
30…可動片(拡大機構)
32…可動枠部(拡大機構)
33…搬送手段退避機構
50…制御手段
51…担当被導入体決定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に導入物質の充填された微小な注入針を被導入体に挿入することにより、被導入体内に導入物質を導入するマイクロインジェクション装置であって、
前記被導入体の収容された容器の位置を調整する容器位置調整手段と、この容器位置調整手段で位置調整された容器の内部の被導入体に対して複数の注入針をそれぞれ個別に移動可能に移動させる複数の搬送手段と、前記容器位置調整手段により位置調整された前記容器の内部の画像を拡大用のレンズを通して撮像する撮像手段と、この撮像手段によって得られた画像から被導入体の位置を判定する位置判定手段と、この位置判定手段によって得られた位置情報に応じて前記各搬送手段に注入針の移動を行わせる制御手段とを備えることを特徴とするマイクロインジェクション装置。
【請求項2】
請求項1において、前記複数の搬送手段が、前記容器の周囲に放射状に配置されたマイクロインジェクション装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記制御手段は、前記位置判定手段によって得られた位置情報により前記容器内の複数の被導入体の位置を認識し、前記複数の搬送手段を並行して動作させて、複数の注入針を各被導入体にそれぞれ挿入させるマイクロインジェクション装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、前記制御手段は、前記位置判定手段によって得られた位置情報により前記容器内の被導入体の位置を認識し、前記複数の搬送手段を順次動作させて、複数の注入針を同じ被導入体に順次挿入させるマイクロインジェクション装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、前記搬送手段は、少なくとも2自由度の、各自由度ごとの移動機構を持つマイクロインジェクション装置。
【請求項6】
請求項5において、前記搬送手段の各自由度の移動機構のうち、少なくとも1つの自由度の移動機構の駆動源として圧電素子を用いたマイクロインジェクション装置。
【請求項7】
請求項6において、前記移動機構は、前記圧電素子の変位を拡大する拡大機構を有するマイクロインジェクション装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記各搬送手段を、注入針の先端が被導入体の近接する注入準備位置と退避位置との間で進退させる搬送手段退避機構を設けたマイクロインジェクション装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、前記被導入体が細胞であり、前記導入物質が遺伝子制御因子であるマイクロインジェクション装置。
【請求項10】
内部に導入物質の充填された微小な注入針を被導入体に突き刺すことにより、被導入体内に導入物質を導入するマイクロインジェクション方法であって、
前記被導入体の収容された容器の位置を調整する容器位置調整過程と、この容器位置調整過程により位置調整された前記容器の内部の平面視画像をレンズを通して撮像する撮像過程と、この撮像過程によって得られた画像から被導入体の位置を判定する位置判定過程と、この位置判定過程によって得られた位置情報に応じて複数の注入針を、複数の搬送手段で各注入針ごとに個別に移動させる過程とを含む、
ことを特徴とするマイクロインジェクション方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−158217(P2010−158217A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3599(P2009−3599)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】