説明

マイクロインジェクション装置

【課題】 細胞等の被導入体への導入物質の導入を、複数の注入針で効率良く確実に行うことができて、処理効率の向上が可能であり、注入針の先端を精度良く位置決めできるマイクロインジェクション装置を提供する。
【解決手段】 注入針11移動用の搬送手段4は、互いに直交する方向に進退自在な第1、第2の移動体41,42を、基台40に設置した第1、第2の進退駆動手段45,46によりそれぞれ進退させる。基台40と第1の移動体41との相対変位を検出する第1のセンサS1の信号、および基台40と第2の移動体42との相対変位を検出する第2のセンサS2の信号を用いて、第1、第2の進退駆動手段45,46を制御する。第2のセンサS2は、被検出部S2aと検出部S2bとが、第1の移動体41を案内する第1のガイドの案内方向45に相対変位しても検出可能な構造とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、顕微鏡下で、細胞等の被導入体内に遺伝子細胞因子等の導入物質を微小な注入針により導入するマイクロインジェクション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な細胞内への物質導入方法には、エレクトロポレーション(電気的)、リポフェクション(化学的)、ベクター法(生物的)、マイクロインジェクション法(機械的)、レーザインジェクション(光学的)がある。電気的な方式は、大電流によって細胞膜を破るため細胞の損傷が大きい。化学的方式は、導入できる遺伝子に制限があり、導入効率が低い。生物的方式は、導入できる遺伝子の種類に制限があり、また安全性の問題といった欠点があった。マイクロインジェクション法は、インジェクション位置を高精度で制御することで、確実に細胞内に物質を注入することができる特長がある。キャピラリ(微小針)を用いてマイクロインジェクションを行う方法が特許文献1に記載されている。
【0003】
細胞内に遺伝子を導入する方法には上記の方法が挙げられるが、確実性と効率性の両方を有した技術はまだ無い。細胞1個1個に遺伝子を導入するマイクロインジェクション法は最も確実な方法であるが、その操作には熟練と時間を要し、そのためスループットが低いことが問題であった。マイクロインジェクション法のスループットを高くする方法として、例えば特許文献2に記載された方法のように、多数の注入針を規則的に配列したマイクロキャピラリーアレイを開発し、これに対応した位置にチャンバーを有するマイクロチャンバーアレイを用いて、一括注入を試みた例がある。
【0004】
図21に、マイクロインジェクション法を適用した装置の従来例を示す。このマイクロインジェクション装置では、被導入体である細胞を収容したシャーレ90を容器載置台91で把持し、シャーレ90の内部の局部平面画像を撮像手段92で撮像し、その平面画像を画像処理手段93で処理することにより、細胞の位置情報を得る。この容器載置台91を、XYステージ装置からなる水平2軸方向の容器位置調整手段に94よって移動させることで、注入針95の挿入方向に細胞が位置するように細胞の位置決めを行う。次に、注入針95を保持したマニピュレータを、Zステージ装置96を有する搬送手段97によって注入針95の挿入方向に移動させる。このように、位置決めされた細胞に対して注入針95を突き刺し、注入針95の内部に充填された導入物質を細胞に導入する。これら一連の動作は、制御装置98の制御により自動的に行われる。搬送手段97には、超音波モータやボールねじが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2624719号公報
【特許文献2】特許第3035608号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
細胞の形状、大きさ、弾性力が異なるため、細胞に対する注入針の位置制御を一括で行う特許文献2等のマイクロキャピラリーアレイ方式では、多くの細胞に対して針が刺さらないか、あるいは多くの細胞を破壊するといった結果になっている。また、マイクロキャピラリーアレイを用いる方式は、細胞をマイクロキャピラリーアレイと同位置に配列させる必要があるため、培養液内で移動可能な浮遊細胞のみに対応でき、培地やシャーレの底に付着した細胞には使用することができない。
【0007】
マイクロインジェクション法のハイスループット化のために注入物質の注入速度の向上やマニピュレータの位置決め速度の向上が図られている。現在、1秒以下で1個の細胞の注入処理を実現したものがある。しかし、医療用途の要求では、導入物質の種類を問わないこと、導入効率が高いこと、および物質導入細胞を大量に供給できることが要求され、特に重要な物質導入細胞を大量に供給できる要求は現状では満たすことができない。
【0008】
複数の注入針を使用したくても、現状は注入針を装備したマニピュレータの寸法が大きいため、マニピュレータの複数配置ができないといった問題がある。また、現在のマイクロインジェクション装置では、細胞の位置決めには細胞が入ったシャーレステージを移動し、注入針を装備したマニピュレータは細胞に注入針を穿刺する方向にのみ移動するため、複数の細胞の位置決めを同時に行うことができなかった。
【0009】
例えば、図21に示す現在のマイクロインジェクション装置では、細胞を位置決めするために、細胞を収容したシャーレ90を支持する容器載置台91を容器位置調整手段94により移動させ、注入針95を装備したマニピュレータを、細胞に注入針96を挿入する方向にのみ移動させるため、複数の細胞を位置決めして各細胞に注入針95を同時に挿入することができなかった。
【0010】
また、注入針95の搬送手段において、注入針95が直交するX軸方向およびY軸方向の2自由度を移動する場合、例えばX軸移動機構上にY軸移動機構を積み重ねるように配置していた。そのため、X軸移動機構は注入針95とY軸移動機構との両方を駆動することになるため、高速移動が困難であった。
【0011】
そこで、本件出願人は、マイクロインジェクション法のスループットを高くする上記手法において、以下の方策を講じることで、複数のマニピュレータを並行に高速で駆動させることを試みた。すなわち、複数の注入針をそれぞれ個別に移動可能に移動させる複数の搬送手段は、少なくとも2自由度を持っているものとし、基台に対し第1の移動体を直線方向に進退自在に設置し、この第1の移動体の上に第2の移動体を前記直線方向と直交する方向に進退自在に設置し、この第2の移動体に、注入針を保持するマニピュレータを支持させる。第1の移動体を進退させる第1の進退駆動手段、および第2の移動体を進退させる第2の進退駆動手段は共に基台に設置し、移動体を案内するガイド部分と進退駆動手段等の動力部分とを分離させる。これにより、注入針の先端の位置決めをマニピュレータ単独で行うことが可能となる。また、搬送手段の小型化、各移動体の質量低減ができ、各マニピュレータを高速で駆動させられる。
【0012】
しかし、上記構成は、第1の移動体の上に第2の移動体が設置されているため、組立精度の影響によって、一方の移動体の動作が他方の移動体に干渉して、注入針の位置で大きな位置差が生じる原因となる。例えば、第1の進退駆動手段の駆動で第1の移動体を移動させるとき、第2の進退駆動手段が駆動されていなくても、第1の移動体に設置された第2の移動体が変位することがある。この変位は僅かであっても、注入針の先端では大きな変位となる。
【0013】
注入針の先端位置をCCDカメラで測定して制御する方法もあるが、この方法は画像から注入針の先端位置を計算するのに時間を要し、インジェクション処理速度の問題から毎回行うことはできない。レーザ変位計を用いる場合も、移動する注入針の先端位置を正確に検出することは難しい。また、レーザ変位計は高価であるという問題もある。
【0014】
この発明の目的は、細胞等の被導入体への導入物質の導入を、複数の注入針で効率良く確実に行うことができて、処理効率の向上が可能であり、注入針の先端を精度良く位置決めできるマイクロインジェクション装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明のマイクロインジェクション装置は、内部に導入物質が充填された注入針を被導入体に挿入することにより、被導入体内に導入物質を導入する装置であって、前記被導入体の入った容器の位置を調整する容器位置調整手段と、この容器位置調整手段で位置調整された容器の内部の被導入体に対して複数の注入針をそれぞれ個別に移動させる複数の搬送手段と、前記容器位置調整手段により位置調整された前記容器の内部を拡大用のレンズを通して撮像する撮像手段と、この撮像手段によって得られた画像から被導入体の位置を判定する位置判定手段と、この位置判定手段によって得られた位置情報に応じて前記各搬送手段に注入針の移動を行わせる搬送制御手段とを備え、前記搬送手段は、少なくとも第1の移動体と第2の移動体とを互いに直交する方向に進退自在とした2自由度を持っていて、第2の移動体に前記注入針を支持し、前記第1の移動体が第1のガイドを介して基台に直線方向に進退自在に設置され、第1の移動体の上に第2のガイドを介して第2の移動体が、前記直線方向と直交する方向に進退自在に設置され、前記第1の移動体および第2の移動体をそれぞれ進退させる第1の進退駆動手段および第2の進退駆動手段が前記基台に設置され、前記第2の進退駆動手段の出力部材が、第2の移動体に対して進退可能な方向と直交する方向に対して移動が自在に連結され、または接触し、前記基台と前記第1の移動体との相対変位を検出する第1のセンサと、前記基台と前記第2の移動体との前記第2のガイドの案内方向の相対変位を検出する第2のセンサとを有し、前記搬送制御手段は、前記位置判定手段によって得られた被導入体の位置情報と、少なくとも前記第1および第2のセンサの信号とから、前記第1および第2の進退駆動手段を制御するものであり、前記第2のセンサは、前記基台および第2の移動体のいずれか一方に固定された被検出部と、他方に固定され前記被検出部を検出する検出部とでなり、これら被検出部と検出部とが前記第1のガイドの案内方向に相対変位しても検出可能な構造であることを特徴とする。
【0016】
この構成によると、前記搬送手段は、移動体と進退駆動手段を分離し、各自由度に対する進退駆動手段をいずれも基台に設置したため、搬送手段を小型化でき、また移動体の質量を低減できて搬送手段の高速駆動が可能となる。各自由度に対する進退駆動手段をいずれも基台に設置したが、基台に対して第1の移動体を介して設置される第2の移動体に対しては、第2の進退駆動手段の出力部材が、その進退可能な方向と直交する方向に対して移動が自在に連結され、または接触するため、第1の移動体の移動した位置に係わらず、第2の進退駆動手段の進退駆動を第2の移動体に伝達することができる。
【0017】
また、搬送手段を小型化することができるため、細胞等の被導入体が入ったシャーレ等の容器の周辺に複数の搬送手段を配置することができる。そのため、複数の被導入体に対して注入針の先端の位置決めを同時に行うことができ、一度に多数の被導入体へのインジェクション処理を実行することができ、ハイスループット化が可能となる。
【0018】
被導入体の導入に際しては、被導入体を収容した容器の位置を容器位置調整手段で調整し、位置調整された容器の内部の平面視画像を撮像手段で撮像し、その画像から細胞位置を位置判定手段で判定することで各注入針の担当する細胞等の被導入体を決定する。このとき、拡大用のレンズにより前記容器を局部的に拡大し、細胞等の被導入体の位置を画像処理することで、被導入体の位置を精度良く認識できる。また、例えば、認識した細胞等の被導入体の画像内での位置関係から、各搬送手段で担当する被導入体を決定することができる。
【0019】
このように各注入針の担当する被導入体を決定した後、各注入針を個別に複数の搬送手段で移動させて各被導入体に注入針をそれぞれ挿入することにより、各被導入体に導入物質を導入する。このため、細胞等の複数の被導入体への導入物質の導入を同時に行うことができ、インジェクション処理の効率向上が可能となる。また、少なくとも2種類以上の種類の異なる注入物質を注入針毎に充填しておき、同じ被導入体に順次導入することにより、被導入体に複数種の導入物質をあらかた同時に導入することが可能となる。よって、注入針の注入物質の入れ替えなく複数種の導入物質の導入ができ、インジェクション処理の効率向上が可能となる。
【0020】
この構成のマイクロインジェクション装置は、搬送制御手段により、位置判定手段によって得られた被導入体の位置情報と、第1および第2のセンサの信号とから、第1および第2の進退駆動手段を制御して、注入針の先端を位置決めする。第1および第2のセンサは、基台に対する第1および第2の移動体の相対位置をそれぞれ検出するセンサであるため、第1および第2の移動体の動作が互いに干渉することにより第1および第2のセンサの検出結果に影響を与えることが少なく、上記制御を精度良く行える。
【0021】
第2の移動体は第1の移動体に設置されているため、基台と第2の移動体との相対変位を検出するセンサである第2のセンサは、その被検出部と検出部との相対位置が第1の移動体の移動に伴い変化する。しかし、第2のセンサは、被検出部と検出部とが第1のガイドの案内方向に相対変位しても検出可能な構造であるため、第1の移動体が移動しても、常に基台と第2の移動体との相対変位を検出することができる。
【0022】
この発明において、前記第2のセンサは磁気式のセンサであっても良く、光学式のセンサであっても良い。
いずれのセンサでも、基台および各移動体間の各相対位置を検出することができる。
【0023】
第2のセンサが磁気式のセンサまたは光学式のセンサである場合、第2のセンサとしてリニアエンコーダを採用することができる。その場合、前記被検出部は直線に沿って並ぶ複数の目盛りを有し、前記検出部は前記被検出部の目盛りを検出するものとし、前記目盛りの並び方向と垂直な方向の幅を、前記基台に対する前記第1の移動体の進退可能範囲よりも広くするのが良い。
目盛りの並び方向と垂直な方向の幅を上記のようにすれば、第1の移動体が進退可能範囲のどこに位置していても、基台と第2の移動体との相対変位を検出可能に第2のセンサを設置することができる。
【0024】
第2のセンサが磁気式のセンサである場合、第2のセンサとして、前記検出部である1次コイルおよび2次コイルと、前記被検出部であるコアとからなる差動トランスを採用することができる。その場合、前記1次コイルおよび前記2次コイルは、前記コアがコアの軸方向に対し垂直な方向に、前記基台に対する前記第1の移動体の進退可能範囲よりも長い距離だけ移動可能な形状であるのが良い。
1次コイルおよび2次コイルを上記形状にすれば、第1の移動体が進退可能範囲のどこに位置していても、基台と第2の移動体との相対変位を検出可能に第2のセンサを設置することができる。
【0025】
また、第2のセンサが磁気式のセンサである場合、第2のセンサとして、コイル内にコアが配置された前記検出部と、前記コアの軸方向端と対向するターゲット面を有する前記被検出部とでなり、前記コイルに流れる電流の変化から、前記コアから前記ターゲット面までの距離を検出する渦電流式またはリラクタンス式のセンサを採用することができる。その場合、前記被検出部は、前記コアの軸方向に対し垂直な方向の長さを、前記基台に対する前記第1の移動体の進退可能範囲よりも長くするのが良い。
被検出部を上記寸法にすれば、第1の移動体が進退可能範囲のどこに位置していても、基台と第2の移動体との相対変位を検出可能に第2のセンサを設置することができる。
【0026】
第2のセンサが上記渦電流式またはリラクタンス式である場合、前記第2のセンサは、前記被検出部の両面に2つのターゲット面を設け、これら2つのターゲット面にそれぞれ対向させて2つの検出部を配置してもよい。
検出部を2つ配置にすれば、検出の精度を向上させることができる。
【0027】
この発明において、前記第1のガイドおよび第2のガイドは、固定側部材である前記基台または前記第1の移動体に設置されたレールと、移動側部材である前記第1の移動体または前記第2の移動体に設けられ前記レールに沿って進退自在な被案内体とでなる場合、前記第1のガイドおよび第2のガイドのいずれかまたは両方につき、前記レールと前記被案内体間に予圧を発生させる予圧発生手段を設けるのが良い。
上記予圧発生手段を設けると、搬送手段における固定側部材に対する移動側部材の案内部の剛性を高めることができ、第1のガイドによる第1の移動体の案内の精度、および第2のガイドによる第2の移動体の案内の精度が向上する。それにより、注入針の先端を精度良く位置決めすることができる。
【0028】
例えば、前記予圧発生手段は、前記固定側部材および移動側部材のうちの一方に永久磁石を配置し、かつ他方に磁性体を配置し、これら永久磁石と磁性体との磁気吸引力によって前記レールと前記被案内体間に予圧を発生させるものとすることができる。
あるいは、前記予圧発生手段は、前記固定側部材および移動側部材の対向面に、異なる磁極同士が向かい合うように永久磁石をそれぞれ配置し、これら2つの永久磁石の磁気吸引力によって前記レールと前記被案内体間に予圧を発生させるものとしても良い。
さらに、前記予圧発生手段は、前記固定側部材および移動側部材の対向面に、同じ磁極同士が向かい合うように永久磁石をそれぞれ配置し、これら2つの永久磁石の磁気反発力によって前記レールと前記被案内体間に予圧を発生させるものとしても良い。
上記各予圧発生手段は、いずれも第1および第2の各ガイドに個々に予圧をかけるのではなく、固定側部材と移動側部材間に予圧をかけることで、各ガイドのレールと被案内体間に予圧を発生させる。そのため、第1および第2の各ガイドに予圧を発生させるための機構を設けずに済み、構造を簡単にできる。その結果、搬送手段の小型化、各移動体の質量低減を図ることができて、各マニピュレータを高速で駆動させるのに有利である。
【0029】
この発明において、前記位置判定手段が、前記撮像手段によって得られた画像から、被導入体の位置と前記注入針の先端の位置との相対位置を測定する機能を有する場合、前記搬送制御手段に、前記位置判定手段により測定された前記相対位置が近くなるように、前記各搬送手段に注入針の移動を行わせる微調整用動作制御部を設けるのが良い。
被導入体の位置と注入針の先端位置とが接近してくると、撮像手段によって両者を同時に撮像することが可能になる。そのため、撮像手段によって得られた画像から、被導入体の位置と注入針の先端位置との相対位置を測定することができる。画像から相対位置を直接測定すれば、一部の演算処理を省略することができて、注入針先端の位置決めの微調整が容易になる。
【0030】
この発明において、前記搬送手段における各進退駆動手段は、複数の圧電素子が積層されて積層方向に伸縮する圧電素子積層体を用いても良い。
駆動源として積層型の圧電素子を用いた場合は、搬送手段をより一層小型化できて、前記容器の周囲の限られたスペースに多数の搬送手段を配置でき、それだけ多数の注入針を使用することができてインジェクション処理の効率向上が可能になる。
【0031】
この発明において、前記注入針を移動させる搬送手段が、前記容器位置調整手段で位置調整される容器内の被導入体の周囲に複数配置されていても良い。
注入針を移動させる搬送手段が被導入体の周囲に多数配置されていると、コンパクトな構成で複数種の導入物質の導入が行える。
【0032】
この発明において、被導入体が細胞であり、導入物質がDNAおよびタンパク質等の遺伝子制御因子であっても良い。
このような細胞への遺伝子制御因子の注入の場合に、この発明における、複数の注入針で効率良く確実に行うことができて、処理効率の向上が可能という利点が、効果的に発揮される。
【発明の効果】
【0033】
この発明のマイクロインジェクション装置は、内部に導入物質が充填された注入針を被導入体に挿入することにより、被導入体内に導入物質を導入する装置であって、前記被導入体の入った容器の位置を調整する容器位置調整手段と、この容器位置調整手段で位置調整された容器の内部の被導入体に対して複数の注入針をそれぞれ個別に移動させる複数の搬送手段と、前記容器位置調整手段により位置調整された前記容器の内部を拡大用のレンズを通して撮像する撮像手段と、この撮像手段によって得られた画像から被導入体の位置を判定する位置判定手段と、この位置判定手段によって得られた位置情報に応じて前記各搬送手段に注入針の移動を行わせる搬送制御手段とを備え、前記搬送手段は、少なくとも第1の移動体と第2の移動体とを互いに直交する方向に進退自在とした2自由度を持っていて、第2の移動体に前記注入針を支持し、前記第1の移動体が第1のガイドを介して基台に直線方向に進退自在に設置され、第1の移動体の上に第2のガイドを介して第2の移動体が、前記直線方向と直交する方向に進退自在に設置され、前記第1の移動体および第2の移動体をそれぞれ進退させる第1の進退駆動手段および第2の進退駆動手段が前記基台に設置され、前記第2の進退駆動手段の出力部材が、第2の移動体に対して進退可能な方向と直交する方向に対して移動が自在に連結され、または接触し、前記基台と前記第1の移動体との相対変位を検出する第1のセンサと、前記基台と前記第2の移動体との前記第2のガイドの案内方向の相対変位を検出する第2のセンサとを有し、前記搬送制御手段は、前記位置判定手段によって得られた被導入体の位置情報と、少なくとも前記第1および第2のセンサの信号とから、前記第1および第2の進退駆動手段を制御するものであり、前記第2のセンサは、前記基台および第2の移動体のいずれか一方に固定された被検出部と、他方に固定され前記被検出部を検出する検出部とでなり、これら被検出部と検出部とが前記第1のガイドの案内方向に相対変位しても検出可能な構造であるため、細胞等の被導入体への導入物質の導入を、複数の注入針で効率良く確実に行うことができて、処理効率の向上が可能であり、注入針の先端を精度良く位置決めできる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の一実施形態にかかるマイクロインジェクション装置の概念図に、制御系のブロック図を加えて表示した図である。
【図2】同マイクロインジェクション装置の容器位置調整手段の平面図である。
【図3】同マイクロインジェクション装置における搬送手段の配置を示す平面図である。
【図4】(A)は同搬送手段の平面図、(B)はその側面図である。
【図5】同搬送手段のX軸移動機構の破断側面図に、制御系のブロック図を加えて表示した図である。
【図6】同搬送手段のY軸移動機構の破断側面図に、制御系のブロック図を加えて表示した図である。
【図7】同搬送手段のZ軸移動機構の破断側面図に、制御系のブロック図を加えて表示した図である。
【図8】同搬送手段の進退駆動手段における出力部材と移動体との接触部を示す平面図である。
【図9】(A)同搬送手段に設けられる予圧発生手段の概略構成を示す平面図、(B)はその側面図である。
【図10】同マイクロインジェクション装置の第2のセンサの一例の被検出部の部分拡大図である。
【図11】同マイクロインジェクション装置の第2のセンサの異なる例の概略構成を示す図である。
【図12】同第2のセンサの断面図である。
【図13】図11に概略構成を示すセンサの一般的な断面形状を示す図である。
【図14】同マイクロインジェクション装置の第2のセンサのさらに異なる例の概略構成を示す図である。
【図15】同搬送手段の進退駆動手段における出力部材と移動体との接触部の他の例を示す平面図である。
【図16】(A)搬送手段に設けられる予圧発生手段の異なる例の概略構成を示す平面図、(B)はその側面図である。
【図17】(A)搬送手段に設けられる予圧発生手段のさらに異なる例の概略構成を示す平面図、(B)はその側面図である。
【図18】(A)搬送手段に設けられる予圧発生手段のさらに異なる例の概略構成を示す平面図、(B)はその側面図である。
【図19】(A)搬送手段に設けられる予圧発生手段のさらに異なる例の概略構成を示す平面図、(B)はその側面図である。
【図20】(A)は異なる実施形態にかかるY軸移動機構の破断側面図に、制御系のブロック図を加えて表示した図、(B)は異なる実施形態にかかるX軸移動機構の破断側面図に、制御系のブロック図を加えて表示した図である。
【図21】従来のマイクロインジェクション装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
この発明の第1の実施形態を図1〜図10と共に説明する。図1は、このマイクロインジェクション装置の概念図を示す。このマイクロインジェクション装置は、内部に導入物質の充填された微小な注入針11を被導入体66に挿入することにより、被導入体66内に導入物質を導入する装置である。被導入体66は、例えば細胞である。この細胞は、人体の細胞であっても、他の任意の動物や植物等の生物の細胞であっても良い。
【0036】
このマイクロインジェクション装置は、容器位置調整手段1と、撮像手段2と、位置判定手段3と、複数の注入針11に対して個別に設けたマニピュレータである複数の搬送手段4と、搬送制御手段80とを備える。この実施形態では、位置判定手段3および搬送制御手段80が、装置全体の動作を制御する制御装置5に含まれるが、これらは制御装置5から独立して設けても良い。
【0037】
容器位置調整手段1は、被導入体66を収容するシャーレ等の容器12が載置状態に保持された容器載置台13を水平な直交2軸方向に移動させて容器12の位置を調整する手段であり、XYステージ装置6により構成される。XYステージ装置6は、例えば図2に平面図で示すように、基台181にガイド182を介してY軸方向に移動自在に設置された下側可動台183と、この下側可動台183上のガイド184を介してX軸方向に移動自在に設置された上側可動台185と、上記下側可動台183および下側可動台185を可動方向に進退させる各軸の可動台駆動機構186,187とで構成される。可動台駆動機構186,187は、超音波モータやリニアモータであっても、モータとボールねじ等の回転・直線運動変換機構とでなるものであっても良い。上側可動台185に、図1の上記容器載置台13が設置され、または上側可動台185自体が、上記容器載置台13となる。
なお、この明細書でいうX軸、Y軸、Z軸は、マイクロインジェクション装置の全体における共通の座標系として定められる直角座標の各軸を表すものではなく、それぞれ個別の装置説明での各自由度に対する軸として表される。
【0038】
図1において、撮像手段2は、容器載置台13の上方の所定位置に、容器12を俯瞰するように1台だけ設置される。撮像手段2は、拡大用のレンズ2aを通して容器12の内部を局部的に拡大して撮像するカメラ等からなる。撮像された画像は、画像処理手段7によって処理される。
【0039】
位置判定手段3は、前記撮像手段2によって得られた画像から被導入体66の位置を判定する手段であり、この実施形態のように例えば前記制御装置5の一部として含まれる。位置判定手段3は、画像処理手段7による画像処理結果を、適宜設定されて記憶部3aに記憶されている設定基準と照合すること等で、被導入体66の位置を判定する。例えば、位置判定手段3は、全体画像内での各被導入体66の位置関係から、各被導入体66の位置を判定する。また、位置判定手段3は、撮像手段2によって得られた画像から、被導入体66の位置と注入針11の先端の位置との相対位置を測定する機能を有する。
【0040】
搬送手段4は、個々の注入針11をそれぞれ移動させるXYZステージ装置等からなる手段であり、複数設けられる。これら複数の搬送手段4は、図3に平面図で示すように、容器載置台13の上方に位置して、容器12を囲むように、容器12の中心に対して略放射状に配置される。同図の例では、搬送手段4は、容器12の左右にそれぞれ複数個(例えば3個)ずつが等角度間隔で配置され、左右の搬送手段4は、互いに放射中心に対して同一直線上に対向して位置している。
【0041】
図4に、1つの搬送手段4を示す。搬送手段4は3自由度を有し、そのうちの1自由度を担う移動機構は、容器載置台13に対して水平方向の直交する2方向(X軸方向、Y軸方向)のうち一方向(X軸方向)に、第1の移動体41と共に注入針11を移動させるX軸移動機構14である。他の一つの自由度を担う移動機構は、水平方向の直交する2方向のうちの一方向(Y軸方向)に、第2の移動体42と共に注入針11を移動させるY軸移動機構15である。さらに他の一つの自由度を担う移動機構は、容器12の内部に向けて傾斜する方向となる注入針中心軸方向(Z軸方向)に注入針11を移動させるZ軸移動機構16である。
【0042】
X軸移動機構14を構成する第1の移動体41は、搬送手段4の基台40に第1のガイド43を介して直線方向(X軸方向)に進退可能に設置されている。Y軸移動機構15を構成する第2の移動体42は、第1の移動体41の上に第2のガイド44を介して前記直線方向(X軸方向)と直交する直線方向(Y軸方向)に進退自在に設置されている。第1の移動体41および第2の移動体42は、それぞれ矩形の板状とされている。図4(B)に示すように、第2の移動体42の上に、Z軸移動機構16の固定台17が搭載されている。そして、この固定台17に、注入針11を支持する針支持部材18がZ軸方向に進退自在に設けられている。注入針11は、下向きに傾斜させて設置される。なお、図4(A)には、Z軸移動機構16の図示が省略されている。
【0043】
第1のガイド43は、基台40上に設置されたレール43aと、第1の移動体41の下面に設けられて前記レール43aに沿って進退自在な直動転がり軸受等の被案内体43bとでなり、2個が互いに平行に設けられている。第2のガイド44は、第1の移動体41の上に設置されたレール44aと、第2の移動体42の下面に設けられて前記レール44aに沿って進退自在な直動転がり軸受等の被案内体44bとでなり、2個が互いに平行に設けられている。第1、第2のガイド43,44の被案内体43b,44bは、底面に長さ方向に沿う溝が設けられており、この溝にレール43a,44aの上部が嵌り込んでいる。
【0044】
第1の移動体41および第2の移動体42をそれぞれ進退させる第1の進退駆動手段45および第2の進退駆動手段46は、前記基台40に設置されている。第1の進退駆動手段45は、出力部材45aを駆動手段本体45bで直線方向に進退させる手段である。第1の進退駆動手段45の出力部材45aは、第1の移動体41に対してこの第1の移動体41が進退可能な方向(X軸方向)と直交する方向(Y軸方向)に対して移動が自在に接触している。また、第2の進退駆動手段46は、出力部材46aを駆動手段本体46bで直線方向に進退させる手段である。第2の進退駆動手段46の出力部材46aは、第2の移動体42に対してこの第2の移動体42が進退可能な方向(Y軸方向)と直交する方向(X軸方向)に対して移動が自在に接触している。弾性体等の押付け手段(図示せず)により移動体41,42を出力部材45a,46aに押し付けることで、移動体41,42が正逆両方向に自在に駆動可能となる。
【0045】
移動体41,42と進退駆動手段45,46の出力部材45a,46aとの接触箇所において、互いに移動体41,42の移動方向と直角をなす面のどの方向にも移動自在となるように、摩擦係数を低下させる施策を講じることが望ましい。この実施形態では、第1の進退駆動手段45の出力部材45aにおける、第1の移動体41と接する先端部は、図8に示すように球面状とされている。図示は省略するが、第2の進退駆動手段46の出力部材46aも、第1の進退駆動手段45と同様に、出力部材46aの先端部が球面状とされている。出力部材45a,46aの先端部を球面状とする代わりに、これら出力部材45a,46aの先端部が接する移動体41,42の側面を、互いに摺動方向に延びる半円柱状とし、出力部材45a,46aの先端部は平坦面としても良い。
【0046】
また、図8に示すように、進退駆動手段45,46の出力部材45a,46aと移動体41,42との接触部のいずれか一方または両方に、低摩擦化用のコーティング101を施しても良い。図示の例では、出力部材45a,46aにコーティングを施している。コーティングとしては、ダイヤモンドライクカーボン、二硫化モリブデン、フッ素樹脂、およびグラファイトのいずれかとするのが好ましい。
【0047】
図8の例のように出力部材45a,46aの先端を半球状または半円柱状とする代わりに、図14に示すように、出力部材45a,46aと移動体41,42とが、ボールまたはローラ等の転動体49を介して接するようにしても良い。図15の例では、転動体49はボールであり、出力部材45a,46aの先端に設けられた保持部材45aa,46aa内に、一部が突出するように回転自在に収容されている。また、第2の進退駆動手段46の出力部材46aは、第2の移動体42に対して、ガイド(図示せず)を介して、第2の移動体42が進退可能な方向(Y軸方向)と直交する方向(X軸方向)に移動自在に連結してもよい。ガイドを介して連結してあると、出力部材46aの高速動作時にも、出力部材46aの進退両方向の駆動伝達が確実に行える。
【0048】
この搬送手段4には、X軸移動機構14およびY軸移動機構15の剛性を高めるために、第1のガイド43および第2のガイド44のレール43a,44aと被案内体43b,44b間に予圧を発生させる予圧発生手段が設けられている。この実施形態の場合、例えば図9に示すように、予圧発生手段110は永久磁石111と磁性体112とでなり、固定側部材である基台40および移動側部材である第1の移動体41の一方に永久磁石111を配置し、他方に磁性体112を配置し、永久磁石111が磁性体112を磁気吸引する力で第1のガイド43に予圧を与えて、剛性を高めるようにしている。図の例では、基台40に永久磁石111を配置し、第1の移動体41に磁性体112を配置してあるが、逆であっても良い。図9はX軸移動機構14の予圧発生手段110を示すが、Y軸移動機構15の予圧発生手段(図示せず)も同様である。Y軸移動機構15の場合、第1の移動体41が固定部材となり、第2の移動体42が移動側部材となる。
【0049】
図16に示す予圧発生手段110のように、固定側部材(基台40)および移動側部材(第1の移動体40)の互いに対向する面に、異なる磁極同士が向かい合うように永久磁石111A、111Bをそれぞれ配置し、これら2つの永久磁石111A,111Bの磁気吸引力によって固定側部材と移動側部材間に予圧を発生させても良い。また、図17に示す予圧発生手段110のように、固定側部材(基台40)および移動側部材(第1の移動体40)の互いに対向する面に、同じ磁極同士が向かい合うように永久磁石111A,111Bをそれぞれ配置し、これら2つの永久磁石111A,111Bの磁気反発力によって固定側部材と前記移動側部材間に予圧を発生させても良い。
【0050】
図16、図17は、予圧発生手段110により、固定側部材(基台40)と移動側部材(第1の移動体40)間に鉛直方向の予圧を発生させるが、図18、図19に示すように、予圧発生手段110により、一対の永久磁石111C,111Dの磁気吸着力または磁気反発力によって、固定側部材(基台40)と移動側部材(第1の移動体40)間に水平方向の予圧を発生させるようにしても良い。永久磁石(図示せず)と磁性体(図示せず)の組み合わせで、水平方向の予圧を発生させても良い。
【0051】
図4に示すように、搬送手段4には、基台40と第1の移動体41との相対変位を検出する第1のセンサS1と、基台40と第2の移動体42との第2のガイド46の案内方向の相対変位を検出する第2のセンサS2とが設けられている。第1のセンサS1は、第1の移動体41に固定された被検出部S1aと、基台40に固定され前記被検出部S1aを検出する検出部S1bとでなる。被検出部S1aと検出部S1bの固定箇所が、互いに逆であってもよい。また、第2のセンサS2は、第2の移動体42に固定された被検出部S2aと、基台40に固定され前記被検出部S2aを検出する検出部S2bとでなる。被検出部S2aと検出部S2bの固定箇所が、互いに逆であってもよい。上記センサS1,S2としては、例えば磁気式のセンサまたは光学式のセンサが用いられる。
【0052】
第2の移動体42は第1の移動体41の上に設置されているため、第2のセンサS2は、その被検出部S2aと検出部S2bとの相対位置が第1の移動体41の移動に伴い変化する。これに対応するために、第2のセンサS2は、被検出部S2aと検出部S2bとが第1のガイド43の案内方向に相対変位しても検出可能な構造とされている。以下、具体的に説明する。
【0053】
図10は、この実施形態の第2のセンサS2の被検出部S2aの部分拡大図である。この第2のセンサS2はリニアエンコーダであって、被検出部S2aは、基準となるZ相120に隣接して直線に沿って並ぶ複数の目盛り121を有し、これらの目盛り121を検出部S2b(図4)が検出する。目盛り121の並び方向と垂直な方向の幅Wは、標準的な目盛りの幅wよりも拡張させて、基台40に対する第1の移動体41の進退可能範囲よりも広くしてある。つまり、標準目盛り部121aに加えて拡張目盛り部121bを設けて、目盛り121の幅を広げてある。このように目盛り121の幅を広くすれば、第1の移動体41が進退可能範囲のどこに位置していても、基台40と第2の移動体42との相対変位を検出可能に第2のセンサS2を設置することができる。
【0054】
図11は、第2のセンサS2の異なる例を示す。この第2のセンサS2は磁気式のセンサであり、検出部S2bである1次コイル122および2次コイル123と、被検出部S2aであるコア124とからなり、1次コイル122の交流電圧Eと2次コイル123の交流電圧Eの差からコア124の位置を検出する差動トランスである。図12に示すように、1次コイル122および2次コイル123は、通常の円形状(図13)ではなく、コア124がコア124の軸方向に対し垂直な方向に、基台40に対する第1の移動体41の進退可能範囲よりも長い距離Lだけ移動可能な形状としてある。1次コイル122および2次コイル123を上記形状にすれば、第1の移動体41が進退可能範囲のどこに位置していても、基台40と第2の移動体42との相対変位を検出可能に第2のセンサS2を設置することができる。
【0055】
図14は、第2のセンサS2のさらに異なる例を示す。この第2のセンサSも磁気式のセンサであり、コイル125内にコア126が配置された検出部S2b,S2bと、前記コア126の軸方向端と対向するターゲット面127を有する被検出部S2aとでなり、コイル125に流れる電流の変化よりコア126から被検出部S2aのターゲット面127までの距離Y,Yを検出する渦電流式またはリラクタンス式のセンサである。被検出部S2aは、コア126の軸方向に対し垂直な方向の長さを、基台40に対する第1の移動体41の進退可能範囲よりも長くしてある。被検出部S2aを上記寸法にすれば、第1の移動体41が進退可能範囲のどこに位置していても、基台40と第2の移動体42との相対変位を検出可能に第2のセンサS2を設置することができる。図の例の場合、被検出部S2aの両面に2つのターゲット面127を設け、これら2つのターゲット面127にそれぞれ対向させて2つの検出部S2b,S2bを配置したため、検出の精度を向上させることができる。
【0056】
図5に第1の進退駆動手段45の内部構成を、図6に第2の進退駆動手段46の内部構成をそれぞれ示す。第1の進退駆動手段45と第2の進退駆動手段46は、X軸方向とY軸方向が互いに逆になることを除き、基本的に同じ構成であるので、代表して第1の進退駆動手段45について説明する。第2の進退駆動手段46については、図面に、第1の進退駆動手段45と同じ構成である箇所に同一符号を付して表わし、説明は省略する。
【0057】
図5において、第1の進退駆動手段45は、固定台25と、可動片26と、駆動源となる2組の圧電素子積層体19C,19Dとを備える。固定台25は、Y軸方向に延びる主枠部25aと、この主枠部25aの両端から幅方向(X軸方向)に延びる一対の側枠部25b,25dと、側枠部25bの先端から主枠部25aと平行にY軸方向に延びる水平断面がL字状の副枠部25cとを有する中空箱形とされている。
【0058】
可動片26は、固定台25の一端の側枠部25bの先端から他端の側枠部25d側に向けて延びて、水平断面がL字状とされている。可動片26は、圧電素子積層体19C,19Dの変位を拡大する拡大機構となるものであって、固定台25と共に、金属や合成樹脂等の弾性材で形成されている。可動片26は、固定台25の一端の側枠部25bから主枠部25aと略平行に延びる主枠平行片部26aと、この主枠平行片部26aの他端から固定台25の他端の側枠部25dの内側に側枠部25dと平行に延びる側枠平行片部26bとでなる。
【0059】
固定台25の側枠部25bと可動片26の主枠平行部26aとの接続部、および可動片26の主枠平行片部26aと側枠平行片部26bとの接続部は、共に薄肉部26cとされている。また、可動片26の主枠平行片部26aの長手方向中間部も、薄肉部26dとされている。これにより、可動片26の側枠平行片部26bは、その基端の薄肉部26cを揺動中心として屈曲するように揺動可能とされる。また、可動片26の主枠平行片部26aは、その長手方向中間部の薄肉部26dで折れ曲がっていて、その折れ曲がり角度の増減により、長手方向と直交する方向(X軸方向)に、中間部が進退可能とされる。
【0060】
2組の圧電素子積層体19C,19Dは、共に積層型圧電素子であって、積層方向に沿って前記固定台25の主枠部25aと平行となるように前後に並列に配置される。これら2組の圧電素子積層体19C,19Dは、締結部材58を介して直列に接続される。締結部材58は、前後の両圧電素子積層体19C,19Dの間にこれら両圧電素子積層体19C,19Dと平行に配置される長手方向部58aと、この長手方向部58aの両端において、前後方向に互いに逆方向となるように突出する各突部58b,58cとを有する概形Z字状である。
【0061】
1組の圧電素子積層体19Cは、その一端が固定台25の側枠部25bに支持され、他端が固定台25の側枠部25d側に向く前記締結部材58の突部58bに連結されている。また、他の1組の圧電素子積層体19Dは、その一端が固定台25の側枠部25b側に向く前記締結部材58の突部58cに連結され、他端が可動片26の側枠平行片部26bに連結されている。
【0062】
固定台25の副枠部25cの先端の幅方向に延びる側部25caと前記締結部材58の突部58bとの間には、圧電素子積層体19Cに予圧を与える板ばね等のばね部材27Aが介在する。固定台25の側枠部25dと可動片26の側枠平行片部26bとの間には、圧電素子積層体19Dに予圧を与える板ばね等のばね部材27Bが介在する。また、固定台25の副枠部25cの先端の幅方向に延びる側部25caと可動片26の側枠平行片部26bとの間には、可動片26の側枠平行片部26bに予圧を与えるばね部材27Cが介在する。
【0063】
上記構成により、2組の圧電素子積層体19C,19Dの積層方向への伸縮による変位で、可動片26の側枠平行片部26bが揺動し、その揺動変位が拡大されて主枠平行片部26aのX軸方向への変位となる。図6に示す第2の進退駆動手段46の場合は、Y軸方向への変位となる。
【0064】
2組の圧電素子積層体19C,19Dは、X軸位置制御部59X(Y軸位置制御部59Y)から印加される電圧である位置決め信号によって変位する。X軸位置制御部59X(Y軸位置制御部59Y)は、位置指令部60から位置指令が電圧発生器61に与えられ、その位置指令に基づいて、電圧発生器61から前記圧電素子積層体19C,19Dに対応する電圧を印加する。X軸位置制御部59X(Y軸位置制御部59Y)は、図1の注入動作制御部88における搬送手段個別制御部88aに設けられる。また、その位置指令部60は、図1の位置判定手段3によって得られた位置情報に基づいて、担当被導入体決定部87で定められる目標位置を前記位置指令とする。位置指令部60は、担当被導入体決定部87の一部として設けられたものであっても良い。
【0065】
X軸移動機構14およびY軸移動機構15は、図20(A),(B)に示す構成としてもよい。これらは、圧電素子積層体19G,19Hの伸縮をその伸縮方向と直交する方向の変位に拡大する拡大機構として、リンク機構75を設けたものである。リンク機構75は、1つの固定ジョイント76と2つの可動ジョイント77A,77Bと2つのリンク81A,81Bとからなるクランク・スライダ機構を有し、このクランク・スライダ機構は、前記圧電素子の伸長方向の変位を、2つの可動ジョイント77A,77Bおよび2つのリンク81A,81Bを介して、固定ジョイント76の円周上の任意の方向に変換し更に変位を拡大可能としても良い。
【0066】
図20(A)は、上記リンク機構75を設けたY軸移動機構15を示す。このY軸移動機構15も、図6の実施形態と同様に、固定台73と、駆動源となる2組の圧電素子積層体19G,19Hとを備える。固定台73は、X軸方向に延びる一対の主枠部73a,73bと、この主枠部73a、73bの両端から幅方向(Y軸方向)に延びる一対の側枠部73c,73dと、4つの枠部を締結する側板73e とを有する。固定台73の一端の側枠部73cには、他端の側枠部73dに対向する伸縮方向移動体74がばね部材27Dを介してX軸方向に移動自在に支持されている。
【0067】
2組の圧電素子積層体19G,19Hは、共に積層型圧電素子であって、積層方向に沿って前記固定台73の主枠部73a、73bと平行となるように前後に並列に配置される。これら2組の圧電素子積層体19G,19Hは、締結部材78を介して直列に接続される。締結部材78は、前後の両圧電素子積層体19G,19Hの間にこれら両圧電素子積層体19G,19Hと平行に配置される長手方向部78aと、この長手方向部78aの両端において、前後方向に互いに逆方向となるように突出する各突部78b,78cとを有する概形Z字状である。1組の圧電素子積層体19Gは、その一端が固定台73の側枠部73cに支持され、他端が前記伸縮方向移動体74側に向く締結部材78の突部78bに連結されている。また、他の1組の圧電素子積層体19Hは、その一端が固定台側枠部73d側に向く前記締結部材78の突部78cに連結され、他端が伸縮方向移動体74に連結されている。前記ばね部材27Dは、圧電素子積層体19Hに予圧を与える。これにより、圧電素子積層体19G,19Hの伸縮変位に応じて伸縮方向移動体74がX軸方向に変位可能である。
【0068】
この例では、圧電素子積層体19G,19Hの伸縮をその伸縮方向(X軸方向)と直交する方向(Y軸方向)の変位に拡大する拡大機構としてリンク機構75を設けている。このリンク機構75は、1つの固定ジョイント76で固定台側枠部73dに連結され、1つの可動ジョイント77Aで前記伸縮方向移動体74に連結される。
この構成によると、圧電素子積層体19G,19Hの伸縮により可動ジョイント77AがX軸方向に変位し、可動ジョイント77Bが固定ジョイント76を中心にして回転運動する。よって第1のリンク81Aに固定された可動部82がY軸方向に変位する。したがって、固定ジョイント76の円周上の任意の位置に出力部を設定することで任意の方向に変位拡大することができる。よって、進退駆動手段45,46の部品点数の削減や寸法の小型化が可能になる。
【0069】
図20(B)は、上記リンク機構75を設けたX軸移動機構14を示す。このX軸移動機構14も、図19(A)のY軸移動機構15と同じ構成であって、リンク81Aに固定された可動ジョイント77Bと可動部82の位置を変更することで、X軸方向に変位する。したがって、固定ジョイント76の円周上の任意の位置に出力部を設定することで任意の方向に変位拡大することができる。よって、Y軸移動機構15の部品点数の削減や寸法の小型化が可能になる。
【0070】
図7は、Z軸移動機構16の内部構成を示す図である。Z軸移動機構16は、中空箱形の固定台17と、この固定台17の一端部において固定台17内から上方に突出するように設けられた針支持部材18と、前記固定台17内に配置された進退・振動駆動手段50とを備える。進退・振動駆動手段50は、針支持部材18のZ軸方向の位置決め、および針支持部材18をZ軸方向に振動させる駆動源となる。
【0071】
針支持部材18は、注入針11を着脱自在に支持する構成とされ、注入針11の損傷や導入物質の交換等のために、注入針11を簡単に交換することができるようになっている。針支持部材18は、立片部18aおよび横片部18bを有する概略T字状で、その横片部18bが案内機構21を介して固定台17の上に、注入針11の突出方向に移動自在に支持され、立片部18aが固定台17の一端部の内向き面に板ばね等からなるばね部材20Aを介して支持されている。
【0072】
進退・振動駆動手段50は、圧電素子積層体19A,19B1,19B2からなる。各圧電素子積層体19A,19B1,19B2は、複数の圧電素子19aを、それらの変位方向に積層して棒状体とした積層型圧電素子である。これら圧電素子積層体19A,19B1,19B2のうち、2つの圧電素子積層体19B1,19B2は、互いに直線上に配置されると共に締結部材47で直列に接続された連結体からなる1組の圧電素子積層体19Bとされる。この圧電素子積層体19Bと、残りの1個の圧電素子積層体19Aとは、前記積層方向に沿って互いに平行となるように上下に並列に配置され、これら2組の圧電素子積層体19A,19Bが締結部材48を介して直列に接続される。締結部材48は、上下の両圧電素子積層体19A,19Bの間に、これら両圧電素子積層体19A,19Bと平行に配置される長手方向部48aと、この長手方向部48aの両端において、上下方向に互いに逆方向となるように突出する各突部48b,48cとを有する概形Z字状である。
【0073】
1組の圧電素子積層体19Aは、その一端が、前記締結部材48における固定台17の一端部側の突部48bに連結され、他端が固定台17の他端部に支持されている。締結部材48の突部48bと固定台17の一端部との間には、圧電素子積層体19Aに予圧を与える板ばね等のばね部材20Bが介在している。圧電素子積層体19Bの一端部、つまり圧電素子積層体19Bを構成する1つの圧電素子積層体19B1における締結部材47による連結部とは反対側の端部は、前記針支持部材48の立片部48aに連結されている。また、圧電素子積層体19Bの他端部、つまり圧電素子積層体19Bを構成する他の1つの圧電素子積層体19B2における締結部材47により連結部とは反対側の端部は、固定台17の他端部側に向く、前記締結部材48の突部48cに連結されている。圧電素子積層体19Bには、針支持部材18の立片部18aと固定台17の他端部との間に介装される板ばね等のばね部材20Aによって予圧が与えられる。
上記構成により、2組の圧電素子積層体19A,19Bの積層方向への変位で、針支持部材18が注入針11の突出方向(Z軸方向)に進退可能である。Z軸方向は、被導入体への注入針11の挿入方向である。
【0074】
前記圧電素子積層体19A,19Bのうち、圧電素子積層体19Aと、圧電素子積層体19Bにおける1つの圧電素子積層体19B2とは、針支持部材18の位置決め、つまり注入針11の位置決めのための駆動源として使用される。すなわち、これらの圧電素子積層体19,19Bは、Z軸位置制御部51から印加される電圧である位置決め信号によって変位する。
【0075】
圧電素子積層体19A,19Bのうち、圧電素子積層体19Bにおける針支持部材18に直接連結される圧電素子積層体19B1は、針支持部材18を注入針11の挿入方向に振動させるための駆動源として使用される。振動付与用の圧電素子積層体19B1は、振動駆動手段54から印加させる電圧である振動駆動信号によって、その変位が繰り返し変化する。また、振動付与用の圧電素子積層体を個別に設けず、Z軸移動機構16の進退と振動の駆動信号を重畳させ同一の圧電素子で行なっても良い。
【0076】
Z軸位置制御部51は、位置指令部52から位置指令が電圧発生部53に与えられ、その位置指令に基づいて、電圧発生器53から圧電素子積層体19A,19B2に対応する電圧を印加する。Z軸位置制御部51は、図1の注入動作制御部88におけるZ軸の搬送手段個別制御部88aに設けられる。また、その位置指令部52は、図1の位置判定手段3によって与えられた位置情報に基づいて、担当被導入体決定部87で定められる目標位置を前記位置指令とする。位置指令部52は、担当被導入決定部87の一部として設けられたものであっても良い。
【0077】
振動駆動手段54は、電圧発生器56から前記振動駆動信号として所定周波数の交番電圧を前記圧電素子積層体19B1に印加する。その交番電圧の周波数、つまり針支持部材18に付与する振動の周波数は、周波数可変手段55から電圧発生器56への指令により切換可能とされている。
【0078】
図1に示すように、制御装置5は、前記位置判定手段3と搬送制御手段80とを有する。搬送制御手段80は、位置判定手段3によって得られた被導入体66の位置情報から注入針11の先端の目標位置を決定する担当被導入体決定部87と、上記目標位置に応じて各搬送手段4の動作を制御する注入動作制御部88とを有する。注入動作制御部88は、それぞれ個々の搬送手段4を制御する複数の搬送手段個別制御部88aで構成される。この搬送手段別個別搬送部88aには、第1の進退駆動手段45のX軸位置制御部59Xと、第2の進退駆動手段46のY軸位置制御部59Yと、進退・振動駆動手段50のZ軸位置制御部51および振動駆動手段54(図7)が含まれる。また、搬送制御手段80には、注入動作制御部88とは別に、注入針11の先端が被導入体66に接近したときに搬送手段4を制御する微調整用動作制御部89が設けられている。
【0079】
搬送手段個別制御部88aでは、以下の制御を行う。すなわち、担当被導入体決定部87によって決定された第1の進退駆動手段45bの目標位置信号と、第1のセンサS1の出力信号とがX軸位置調整部59Xに入力され、X軸位置調整部59Xから第1の進退駆動手段45bへ、制御量を指定する命令信号が出力される。同様に、担当被導入体決定部87によって決定された第2の進退駆動手段46bの目標位置信号と、第2のセンサS2の出力信号とがY軸位置調整部59Yに入力され、Y軸位置調整部59Yから第2の進退駆動手段46bへ、制御量を指定する命令信号が出力される。このようにフィードバック制御を行うことにより、注入針11の先端を被導入体66に近づける。
【0080】
第1および第2のセンサS1,S2により、基台40に対する第1および第2の移動体41,42の相対位置をそれぞれ検出するため、第1および第2の移動体41,42の動作が互いに干渉して第1および第2のセンサS1,S2の検出結果に影響を与えることが少なく、上記制御を精度良く行える。
【0081】
被導入体66の位置と注入針11の先端位置とが接近してきて、撮像手段2によって得られた画像に被導入体66および注入針11の先端位置の両方が写り込むようになった場合、位置判定手段3は、画像から被導入体66の位置と注入針11の先端の位置との相対位置を測定し、微調整用制御部89により、位置判定手段3によって測定された前記相対位置が近くなるように各搬送手段4を動作させて、注入針11の先端の位置を微調整する。このように、画像から相対位置を直接測定すれば、一部の演算処理を省略することができて、注入針11の先端の位置決めの微調整が容易になる。
【0082】
この構成のマイクロインジェクション装置によると、被導入体66を収容した容器12の位置を容器位置調整手段1で調整し、位置調整された容器12の内部の平面視画像を撮像手段2で撮像し、その画像から被導入体66の位置を位置判定手段3で判定することで、各注入針11の担当する被導入体66を決定する。このとき、拡大用のレンズ2aにより容器12を局部的に拡大し、被導入体66の位置を画像処理することで、被導入体66の位置を精度良く認識できる。また、例えば、認識した被導入体66の画像内での位置関係から、各注入針11が担当する被導入体66を決定することができる。このように、各注入針11の担当する被導入体66を決定した後、各注入針11を個別の複数の搬送手段4で移動させて、各被導入体66に注入針11をそれぞれ挿入することにより、各被導入体66に導入物質を導入する。
【0083】
搬送手段4は、被導入体66に対して少なくとも2自由度の駆動機構を持つため、注入針11の先端の位置決めが搬送手段4の単体で可能である。各々の搬送手段4が並列に動作して、インジェクション動作を繰り返す。画像内の被導入体66の処理が終了した後、容器位置調整手段1により容器12を移動させ、近接した別の位置における被導入体66の配置を画像処理によって認識し、前記同様にインジェクション動作を繰り返す。
【0084】
このように、細胞等の複数の被導入体66への導入物質の導入を同時に行うことができ、インジェクション処理の効率向上が可能になる。また、少なくとも2種類以上の異なる注入物質を注入針11ごとに充填しておき、同じ被導入体66に順次導入することにより、被導入体66に複数種の導入物質をほぼ同時に導入することが可能になる。よって、注入針11に注入物質を入れ替えすることなく、1つの被導入体66に複数種の導入物質を導入でき、インジェクション処理の効率向上が可能になる。
【0085】
特に、前記搬送手段4は、移動体41,42と進退駆動手段45,46とが分離され、各進退駆動手段45,46が共に基台4に設置されているため、搬送手段4を小型化でき、また移動体41,42の質量を低減できる。そのため、搬送手段4の高速駆動が可能である。各進退駆動手段45,46は共に基台4に設置されているが、第2の進退駆動手段46の出力部材46aは、第2の移動体42に対して進退方向と直交する方向に移動自在に接するため、第1の移動体41の移動した位置に係わらず、第2の進退駆動手段46の進退駆動を第2の移動体42に伝達することができる。
【0086】
また、搬送手段4を小型化できることから、細胞等の被導入体66が入ったシャーレ等の容器12の周辺に、図3のように複数の搬送手段4を配置することができる。そのため、複数の被導入体66に対して各注入針11の先端を同時に位置決めすることができる。つまり、一度に多数の被導入体66へのインジェクション処理を実行することができ、ハイスループット化が可能となる。
【0087】
各搬送手段4の動作を制御する注入動作制御部88の各搬送手段個別制御部88aに補正手段88bを設けたため、組立精度の影響等によって生じる注入針11の先端位置の変位を排除して、注入針11の先端位置を精度良く位置決めすることができる。それにより、注入針11による被導入体66への導入物質の注入精度を上げられる。
【0088】
また、搬送手段4の各移動体41,42の進退駆動手段45,46につき、圧電素子の積層体とした場合は、次の効果が得られる。すなわち、従来は注入針の駆動には、ボールねじを用いた機構や超音波モータが使用されていたが、この実施形態では、圧電素子を用いた小型アクチュエータを組み合わせることによって、注入針11を駆動する搬送手段4の小型化を図っている。圧電素子を用いたアクチュエータは、電気エネルギから機械エネルギに変換する変換効果が高く、印加する電圧を変えることにより、発生する変位を比較的簡単に変えることができ、制御性に優れた特長がある。
【0089】
また、この搬送手段4には、第1のガイド43および第2のガイド44のレール43a,44aと被案内体43b,44b間に予圧を発生させて、X軸移動機構14およびY軸移動機構15の剛性を高める予圧発生手段110が設けられているため、第1のガイド43による第1の移動体41の案内の精度、および第2のガイド44による第2の移動体42の案内の精度を向上させられる。それにより、注入針11の先端を精度良く位置決めすることができる。
【0090】
特に、この実施形態では、予圧発生手段110は、第1および第2の各ガイド43,44に個々に予圧をかけるのではなく、固定側部材(基台40、第1の移動体41)と移動側部材(第1の移動体41、第2の移動体42)間に予圧をかけることで、各ガイド43,44のレール43a,44aと被案内体43b,44b間に予圧を発生させる構成とされている。そのため、第1および第2の各ガイド43,44に、予圧を発生させるための機構を設けずに済み、構造を簡単にできる。その結果、搬送手段4の小型化、各移動体41,42の質量低減を図ることができて、各マニピュレータを高速で駆動させるのに有利である。
【符号の説明】
【0091】
1…容器位置調整手段
2…撮像手段
3…位置判定手段
4…搬送手段
5…制御装置
11…注入針
12…容器
14…X軸移動機構
15…Y軸移動機構
16…Z軸移動機構
19A,19B1,19B2,19c,19D…圧電素子積層体
40…基台(固定側部材)
41…第1の移動体(移動側部材、固定側部材)
42…第2の移動体(移動側部材)
43…第1のガイド
43a…レール
43b…被案内部
44…第2のガイド
44a…レール
44b…被案内部
45…第1の進退駆動手段
45a…出力部材
46…第2の進退駆動手段
46a…出力部材
80…搬送制御手段
110…予圧発生手段
111,111A,111B…永久磁石
112…磁性体
121…目盛り
122…一次コイル
123…二次コイル
124…コア
125…コイル
126…コア
127…ターゲット面
S1…第1のセンサ
S2…第2のセンサ
S1a…被検出部
S2b,S2b,S2b…検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に導入物質が充填された注入針を被導入体に挿入することにより、被導入体内に導入物質を導入するマイクロインジェクション装置であって、
前記被導入体の入った容器の位置を調整する容器位置調整手段と、この容器位置調整手段で位置調整された容器の内部の被導入体に対して複数の注入針をそれぞれ個別に移動させる複数の搬送手段と、前記容器位置調整手段により位置調整された前記容器の内部を拡大用のレンズを通して撮像する撮像手段と、この撮像手段によって得られた画像から被導入体の位置を判定する位置判定手段と、この位置判定手段によって得られた位置情報に応じて前記各搬送手段に注入針の移動を行わせる搬送制御手段とを備え、
前記搬送手段は、少なくとも第1の移動体と第2の移動体とを互いに直交する方向に進退自在とした2自由度を持っていて、第2の移動体に前記注入針を支持し、前記第1の移動体が第1のガイドを介して基台に直線方向に進退自在に設置され、第1の移動体の上に第2のガイドを介して第2の移動体が、前記直線方向と直交する方向に進退自在に設置され、前記第1の移動体および第2の移動体をそれぞれ進退させる第1の進退駆動手段および第2の進退駆動手段が前記基台に設置され、前記第2の進退駆動手段の出力部材が、第2の移動体に対して進退可能な方向と直交する方向に対して移動が自在に連結され、または接触し、
前記基台と前記第1の移動体との相対変位を検出する第1のセンサと、前記基台と前記第2の移動体との前記第2のガイドの案内方向の相対変位を検出する第2のセンサとを有し、前記搬送制御手段は、前記位置判定手段によって得られた被導入体の位置情報と、少なくとも前記第1および第2のセンサの信号とから、前記第1および第2の進退駆動手段を制御するものであり、前記第2のセンサは、前記基台および第2の移動体のいずれか一方に固定された被検出部と、他方に固定され前記被検出部を検出する検出部とでなり、これら被検出部と検出部とが前記第1のガイドの案内方向に相対変位しても検出可能な構造であることを特徴とするマイクロインジェクション装置。
【請求項2】
請求項1において、前記第2のセンサは磁気式のセンサであるマイクロインジェクション装置。
【請求項3】
請求項1において、前記第2のセンサは光学式のセンサであるマイクロインジェクション装置。
【請求項4】
請求項2または請求項3において、前記第2のセンサはリニアエンコーダであり、前記被検出部は直線に沿って並ぶ複数の目盛りを有し、前記検出部は前記被検出部の目盛りを検出するものとし、前記目盛りの並び方向と垂直な方向の幅を、前記基台に対する前記第1の移動体の進退可能範囲よりも広くしたマイクロインジェクション装置。
【請求項5】
請求項2において、前記第2のセンサは、前記検出部である1次コイルおよび2次コイルと、前記被検出部であるコアとからなる差動トランスであり、前記1次コイルおよび前記2次コイルは、前記コアがコアの軸方向に対し垂直な方向に、前記基台に対する前記第1の移動体の進退可能範囲よりも長い距離だけ移動可能な形状であるマイクロインジェクション装置。
【請求項6】
請求項2において、前記第2のセンサは、コイル内にコアが配置された前記検出部と、前記コアの軸方向端と対向するターゲット面を有する前記被検出部とでなり、前記コイルに流れる電流の変化から、前記コアから前記ターゲット面までの距離を検出する渦電流式またはリラクタンス式のセンサであり、前記被検出部は、前記コアの軸方向に対し垂直な方向の長さを、前記基台に対する前記第1の移動体の進退可能範囲よりも長くしたマイクロインジェクション装置。
【請求項7】
請求項6において、前記第2のセンサは、前記被検出部の両面に2つのターゲット面を設け、これら2つのターゲット面にそれぞれ対向させて2つの検出部を配置したマイクロインジェクション装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項において、前記第1のガイドおよび第2のガイドは、固定側部材である前記基台または前記第1の移動体に設置されたレールと、移動側部材である前記第1の移動体または前記第2の移動体に設けられ前記レールに沿って進退自在な被案内体とでなり、前記第1のガイドおよび第2のガイドのいずれかまたは両方につき、前記レールと前記被案内体間に予圧を発生させる予圧発生手段を設けたマイクロインジェクション装置。
【請求項9】
請求項8において、前記予圧発生手段は、前記固定側部材および移動側部材のうちの一方に永久磁石を配置し、かつ他方に磁性体を配置し、これら永久磁石と磁性体との磁気吸引力によって前記レールと前記被案内体間に予圧を発生させるものとしたマイクロインジェクション装置。
【請求項10】
請求項8において、前記予圧発生手段は、前記固定側部材および移動側部材の対向面に、異なる磁極同士が向かい合うように永久磁石をそれぞれ配置し、これら2つの永久磁石の磁気吸引力によって前記レールと前記被案内体間に予圧を発生させるものとしたマイクロインジェクション装置。
【請求項11】
請求項8において、前記予圧発生手段は、前記固定側部材および移動側部材の対向面に、同じ磁極同士が向かい合うように永久磁石をそれぞれ配置し、これら2つの永久磁石の磁気反発力によって前記レールと前記被案内体間に予圧を発生させるものとしたマイクロインジェクション装置。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11のいずれか1項において、前記位置判定手段は、前記撮像手段によって得られた画像から、被導入体の位置と前記注入針の先端の位置との相対位置を測定する機能を有し、前記搬送制御手段に、前記位置判定手段により測定された前記相対位置が近くなるように、前記各搬送手段に注入針の移動を行わせる微調整用動作制御部を設けたマイクロインジェクション装置。
【請求項13】
請求項1ないし請求項12のいずれか1項において、前記搬送手段における各進退駆動手段は、複数の圧電素子が積層されて積層方向に伸縮する圧電素子積層体を用いたマイクロインジェクション装置。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか1項において、前記注入針を移動させる搬送手段が、前記容器位置調整手段で位置調整される容器内の被導入体の周囲に複数配置されているマイクロインジェクション装置。
【請求項15】
請求項1ないし請求項14のいずれか1項において、被導入体が細胞であり、導入物質がDNAおよびタンパク質等の遺伝子制御因子であるマイクロインジェクション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−115181(P2012−115181A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266315(P2010−266315)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】