説明

マイクロカプセルの製造方法及びマイクロカプセル

【課題】キトサンを被覆とするマイクロカプセルを、容易に製造する製造方法と、これによる安全性の確保されたマイクロカプセルを提供すること。
【解決手段】キトサンの酸溶解液中に疎水性芯物質を分散させて疎水性芯物質の水中油型乳化液を調製し、該乳化液とポリアクリル酸またはその部分中和物等のアニオン性高分子とを混合して相分離させた後に、カルボン酸のアルカリ金属塩を添加することによって被膜を硬化させマイクロカプセルを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キトサンを被覆(カプセルシェル)とするマイクロカプセルの製造方法、及び、それにより得られるマイクロカプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
芯物質を内包するマイクロカプセルは、例えば、疎水性芯物質をゼラチン等の水溶性高分子により包み込んだ後、何らかの方法で水溶性高分子を硬化させて水不溶性とすることにより製造することができる。
【0003】
ここで、硬化剤として、水溶性高分子との反応性が高いことからホルムアルデヒド等が用いられることがあるが、ホルムアルデヒドを硬化剤として用いた場合は、マイクロカプセルを製造した後に未反応のホルムアルデヒドを除去するために慎重に洗浄する必要があった。
【0004】
また、このような硬化剤を用いて得られたマイクロカプセルは、化粧品や衣類のように安全性が重視される分野において使用するには、ホルムアルデヒドの残留等の懸念があった。したがって、このような硬化剤による安全性への懸念を解決するために、様々なマイクロカプセルの検討がなされている。
【0005】
ところで、キトサンは、主としてβ−D−グルコサミン単位を有する直鎖型の多糖類であり、カニやエビなどの甲殻類の外骨格から得られるキチン(すなわち、β−1,4−ポリ−N−アセチル−D−グルコサミン)を濃アルカリの中で煮沸する等の処理により脱アセチル化することで得ることができる、β−1,4−ポリ−D−グルコサミンのことである。
【0006】
なお、キチンの脱アセチル化は完全には進まないため、キトサンは糖鎖上の一部にN−アセチルグルコサミン単位を含んでいる。また、キトサンはグルコサミン残基に由来するアミノ基を有している。
【0007】
このように、キトサンは、生物資源由来の原料より生産されるため、生分解性がよく、安全性が高いという特徴があり、アミノ基の存在により高分子電解質としての挙動を示すことから酸水溶液に溶解する性質を有しており、化学処理により様々な機能を付与することが可能であることから、高機能化へのアプローチが盛んに行われている。
【0008】
そして、このようなキトサンを用いて芯物質を被覆したマイクロカプセルの検討がなされている。例えば、特許文献1には、予め芯物質にポリリン酸ナトリウムを加えて造粒物としたものを、キトサン希酸水溶液中に撹拌しながら加えることによって、造粒物の表面に均一なキトサン皮膜を形成させるマイクロカプセル化方法が開示されている。
【0009】
また、特許文献2には、コアと半透膜の形態の高分子電解質膜錯体シェルとを有するマイクロカプセルの製造方法として、アルギン酸ナトリウムの溶液の噴流をカッティングして液滴を形成させ、次いで、この液滴を、キトサンポリマーやキトサンオリゴマーを含む溶液に導入して、表面に錯体を形成させる方法が開示されており、これによれば、アルギン酸ナトリウムをコアとし、キトサンを高分子電解質膜錯体シェルとするマイクロカプセルが得られる。
【0010】
しかしながら、特許文献1記載のマイクロカプセル化方法では、キトサンと反応して硬
化させ得るポリリン酸ナトリウムを予め芯物質に固着させておかなければならず、芯物質がテオフィリンやアスピリン等のように固体であるものに限られ、芯物質が液体であるマイクロカプセルを製造することができない。
【0011】
また、特許文献2記載の発明では、コア成分を含む溶液の噴流をカッティングして液滴を形成させてマイクロカプセルを製造するため、マクロサイズのカプセルを容易に作製することが可能であるものの、噴流のカッティング装置が必要であって製造が容易ではないという問題や、より微小なマイクロサイズのカプセルの作製は困難であるといった問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭60−78634号公報
【特許文献2】特開2006−528264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、キトサンを被覆とするマイクロカプセルを、特殊な製造設備を必要とすることなく、しかも容易に製造することができる製造方法、及び、それにより得られる安全性の確保されたマイクロカプセルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、キトサン酸溶解液中に疎水性芯物質の水中油型乳化液を作製し、これとアニオン性高分子を混合して相分離させ、さらにカルボン酸のアルカリ金属塩を添加することによって、キトサンを被覆とするマイクロカプセルを容易に製造し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、
(1)キトサンの酸溶解液中に疎水性芯物質を分散させて疎水性芯物質の水中油型乳化液を調製し、該乳化液とアニオン性高分子とを混合して相分離させた後に、カルボン酸のアルカリ金属塩を添加することによって被膜を硬化させることを特徴とするマイクロカプセルの製造方法、
(2)前記アニオン性高分子がアニオン性基を有するものであり、かつ、アニオン性高分子中に含まれるアニオン性基が部分的に中和されたものであるか又は未中和であることを特徴とする前項(1)記載のマイクロカプセルの製造方法、
(3)アニオン性高分子が、ポリアクリル酸又はその部分中和物であることを特徴とする前項(1)又は(2)に記載のマイクロカプセルの製造方法、及び、
(4)前項(1)〜(3)のいずれかに記載の製造方法により得られる、キトサンを被覆とするマイクロカプセル、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、特殊な設備や装置を必要とせず、乳化分散するための装置により容易にキトサンを被覆とするマイクロカプセルを製造することが可能となる。
【0017】
また、本発明によれば、マイクロカプセルを製造する際に、ホルムアルデヒド等の人体や環境への悪影響が懸念される硬化剤を使用しないので、得られるマイクロカプセルは、化粧品、衣類等のように安全性が重視される分野においても使用することができる。
さらに、キトサンを被覆とするマイクロカプセルは、芯物質を徐放することができるという性質があり、芯物質の徐放が要求される用途に使用することができる。
【0018】
そして、本発明の製造方法によれば、カプセル膜厚の調整が容易となり、得られるマイクロカプセルにおける芯物質の徐放性のコントロールが容易となる。
また、芯物質が液体である場合にも、マイクロカプセルの製造を容易に行うことができるという、顕著な効果を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、キトサン酸溶解液中に疎水性芯物質を分散させて疎水性芯物質の水中油型乳化液を調製し、該乳化液とアニオン性高分子とを混合して相分離させた後に、カルボン酸のアルカリ金属塩を添加することによって被膜を硬化させることを特徴とする、キトサンを被覆とするマイクロカプセルの製造方法である。
【0020】
本発明において用いられるキトサンは、高分子量のものから、アルカリ条件下で過酸化水素等を用いる従来手法により低分子量化させたものまで、平均分子量が1万〜100万程度のものを適宜用いることができるが、キトサン酸溶解液の粘度の面から、平均分子量が1万〜20万のものが好ましい。
【0021】
このようなキトサンを溶解するために用いられる酸としては、酸であれば特に制限なく用いることができ、例えば、酢酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸等の有機酸、塩酸、硝酸、リン酸などの無機酸を挙げることができる。また、マイクロカプセルの用途に応じて、酸を選択することもでき、例えば、マイクロカプセルが化粧品分野で用いられる場合には、酸として乳酸を用いることが好ましい。
【0022】
このような酸の使用量は、キトサンが溶媒中に溶解する範囲の量で使用することができ、例えば、キトサンのグルコサミン単位1モルに対して、酸の使用量を0.6〜1モルとすることができ、また0.7〜0.8モルとすることが好ましい。酸の使用量が不十分でキトサンが溶媒中に十分に溶解していない場合は、マイクロカプセルの製造が困難になるおそれがある。
【0023】
キトサンの酸溶解液は、水、酸及びキトサンを混合し溶解する方法、酸の希釈水の中にキトサンを混合する方法等により適宜調製することができる。本発明において、キトサン酸溶解液の溶媒は水であるが、アルコール等の水混和性溶媒を混合させることもできる。
【0024】
キトサン酸溶解液において、キトサンの濃度は、キトサンの平均分子量やマイクロカプセルの製造の条件に合わせて調製することができる。また、溶解液中に含まれるキトサンの濃度を変えることによって、被覆の厚みを変えることができる。
【0025】
本発明において、キトサンの濃度は、キトサン酸溶解液の粘度、すなわち、取り扱い容易性及びマイクロカプセルの製造効率の観点から、1〜10質量%であることが好ましい。
【0026】
本発明で用いられる疎水性芯物質としては、特に制限はなく、従来マイクロカプセルの芯物質として使用されているものを挙げることができ、例えば、動植物油、炭化水素化合物、エステル化油、シリコーン油、高級脂肪酸、高級アルコール、ワックス、ビタミン及びプロビタミンなどのビタミン様作用物質、アロマオイルを含む各種香料等を挙げることができる。
【0027】
本発明のマイクロカプセルの製造方法においては、まず、疎水性芯物質を前記キトサン酸溶解液中に分散させ、疎水性芯物質の水中油型乳化液を作製する。分散の際には、既存の乳化機器やホモミキサーなどを用いることができ、必要に応じて、疎水性芯物質の分散
に適した公知の界面活性剤を併用することもできる。なお、水中油型乳化液中の疎水性芯物質の粒径を調製することにより、最終的に得られるマイクロカプセルの粒径を調製することができる。
【0028】
次いで、このキトサン酸溶解液中に疎水性芯物質を分散させた水中油型乳化液に、アニオン性高分子を混合し、相分離させる。
【0029】
ここで用いられるアニオン性高分子としては、分子内にカルボン酸基等のアニオン性基を有する高分子を挙げることができ、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリスチレン酸、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸等を用いることができる。
【0030】
また、アニオン性高分子の平均分子量は1000〜10万であることが好ましい。アニオン性高分子の平均分子量が1000未満であると相分離ができないおそれがあり、一方、平均分子量が10万を超えると、粒径の調整が難しく、得られるマイクロカプセルの二次凝集が生じるおそれがある。
【0031】
なお、相分離のために、硫酸イオン、リン酸イオンや塩化物イオン等の低分子アニオンでなく、このようなアニオン性高分子を用いることにより、得られるマイクロカプセルの剛性が良好なものとなり、また、マイクロカプセルの形成が容易となる。
【0032】
本発明においては、アニオン性高分子のアニオン性基が未中和であるか、部分中和されているもの、すなわち、アニオン性高分子が有する複数のアニオン性基のうち一部が中和されたものであることが好ましい。
【0033】
アニオン性高分子のアニオン性基を中和する際には、一般に中和反応に用いられる塩基を用いることができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアを用いることができる。中和の方法としては、未中和のアニオン性高分子の水溶解物又は水分散物に塩基を添加して混合すればよい。
【0034】
アニオン性高分子のアニオン性基を部分中和するためには、塩基の使用量を、アニオン性高分子に含まれるアニオン性基の当量未満とすることが好ましく、相分離を良好なものとするために、アニオン性高分子に含まれるアニオン性基1モルに対し、塩基を0.0001〜0.1モルとすることが好ましく、0.001〜0.01モルとすることがより好ましい。
【0035】
アニオン性高分子が有するアニオン性基が完全に中和されたものを用いる場合は、前記水中油型乳化液と混合する際に、急激にキトサンが析出し、乳化形態を破壊するおそれがあるため、アニオン性高分子の希薄溶液を微少量ずつ注意深く混合する必要があって、工業的に生産するにあたり工程管理が煩雑なものとなるおそれがある。
【0036】
前記水中油型乳化液とアニオン性高分子とを混合する方法としては、特に制限はないが、アニオン性高分子を予め水に溶解又は分散させ、これを水中油型乳化液と混合する方法又は水中油型乳化液中に添加する方法や、アニオン性高分子の水溶解液又は水分散物中に水中油型乳化液を添加する方法を挙げることができる。
【0037】
なかでも、アニオン性高分子の水溶解液又は水分散物を水中油型乳化液中に滴下する方法を採用すると、相分離が効果的になされるので好ましい。ここで滴下の速度は、水溶解液又は水分散物におけるアニオン性高分子の濃度、アニオン性高分子が有するアニオン性基の中和の度合い、水中油型乳化液中のキトサンの平均分子量や濃度等の条件に応じて調整することができる。
【0038】
また、アニオン性高分子の混合量は、相分離を効果的になすために、水中油型乳化液に含まれるキトサン中のアミノ基1モルに対して、アニオン性高分子中のアニオン性基が0.3〜2.0モルとなる量が好ましく、0.7〜1.5モルとなる量がより好ましい。
【0039】
キトサン中のアミノ基1モルに対してアニオン性高分子中のアニオン性基が0.3モル未満であると相分離が不十分となるおそれがあり、2.0モルを超えてアニオン性高分子を使用しても、それに見合う相分離の向上は見られないばかりか、キトサンからなる被膜の硬化のために後述するカルボン酸のアルカリ金属塩の使用量を増やす必要があり、コスト面で不利になるおそれがある。
【0040】
本発明の製造方法においては、アニオン性高分子による相分離により、疎水性芯物質をキトサンが包み込みカプセルの形態が形成されるが、マイクロカプセルとして得るにはカプセルを硬化させる必要がある。ここで本発明においては、キトサンは、酸性の水溶液には溶解するが中性若しくはアルカリ性の水溶液には溶解しないという性質に着目し、相分離後、カルボン酸のアルカリ金属塩を添加することによってキトサンを不溶化させて、被膜を硬化させる。
【0041】
このようなカルボン酸のアルカリ金属塩としては、例えば、酢酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、クエン酸、エチレンジアミンテトラカルボン酸、ニトリロトリアセテート等の有機カルボン酸のアルカリ金属塩を用いることができる。特に、本発明のカルボン酸のアルカリ金属塩としては、クエン酸3ナトリウム、エチレンジアミン4ナトリウムが好ましい。
【0042】
本発明の製造方法において、カルボン酸のアルカリ金属塩のかわりに、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどのアミン類を用いると、キトサンの中和が急激にかつ部分的に起こるため、カプセルが凝集してしまうか、良好なマイクロカプセルを得ることができない。
【0043】
一方、前記カルボン酸のアルカリ金属塩を用いた場合は、カプセル同士の凝集も見られず、工業的に安定してマイクロカプセルを得ることができる。したがって、本発明の製造方法においては、カルボン酸のアルカリ金属塩を用いる必要がある。
【0044】
また、本発明におけるカルボン酸のアルカリ金属塩の使用量は、キトサン由来のアミノ基の量、キトサンの含有量、アニオン性高分子の添加量、系のpH等の諸条件によって異なるので、これらの要素を総合的に考慮しながら最適量を設定する必要がある。カルボン酸のアルカリ金属塩の使用量は、例えば、得られるマイクロカプセルの室温(25℃)における徐放性から芯物質の内包率を割り出し、内包率が最高となる点を終点とすることにより量を設定することができる。
【0045】
本発明の製造方法においては、乳化分散剤、安定剤などの他の添加剤を加えることも可能である。乳化分散剤、安定剤などの添加剤の種類、添加する段階は、マイクロカプセルの平均粒子径や用途により様々であり、特に限定するものではない。
また、マイクロカプセルの平均粒子径は、分野、用途により好ましいサイズが様々ではあるが、本発明によれば、0.1〜1000μmのものが作製可能である。
【0046】
上記本発明の製造方法により得られる、キトサンを被覆とするマイクロカプセルは、キトサンの硬化にホルムアルデヒド等の硬化剤を使用しないため、化粧品や衣類等の安全性が強く要求される分野での使用が可能である。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
実施例1
ビーカーに水945g、キミカキトサンLL((株)キミカ製、平均分子量50,000〜100,000)40g、及び、乳酸15gを加え撹拌し、キトサンの乳酸溶解液(キトサンの含有量4質量%)を得た。
別のビーカーに、上記キトサンの乳酸溶解液(キトサンの含有量4質量%)100g、分散剤として、クラレポバールPVA−217((株)クラレ製、ポリビニルアルコール)の10質量%水溶液を10g、及び、疎水性芯物質としてリモネン10gを加え、プライミクス(株)製ホモミキサーを用いて3000rpmで撹拌し、リモネンの水中油型乳化分散液を得た。
予め、ポリアクリル酸(和光純薬工業(株)製、平均分子量5,000)3gに水47gを加え溶解させたものを、上記リモネンの水中油型乳化分散液中に、ホモミキサーで撹拌しながら少しずつ全量を加えて相分離させた。
次いで、クエン酸3ナトリウム10質量%水溶液8gを少しずつ加えながら、pHを約4に調整し、マイクロカプセルの被膜を硬化させ、マイクロカプセルを含むスラリー178gを得た。
そして、オリンパス製の光学顕微鏡による観察により、マイクロカプセルの形成状態が確認できた。さらに、島津製作所製の分布計測器SALD−1100により、平均粒子径を測定したところ、マイクロカプセルの平均粒子径は7μmであった。
【0049】
実施例2
ビーカーに、実施例1で作製したキトサンの乳酸溶解液(キトサンの含有量4質量%)100g、分散剤として、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド10質量%水溶液を10g、疎水性芯物質としてリモネン10gを加え、プライミクス(株)製ホモミキサーを用いて3000rpmで撹拌し、リモネンの水中油型乳化分散液を得た。
予めポリアクリル酸(和光純薬工業(株)製、平均分子量25,000)2gと水48gを混合し溶解させたものを、リモネンの水中油型乳化分散液中にホモミキサーで撹拌しながら少しずつ加えて相分離させた。次いで、エチレンジアミン4ナトリウム10質量%水溶液10gを少しずつ加えながら、pHを約6に調整し、マイクロカプセルの被膜を硬化させ、マイクロカプセルを含むスラリー180gを得た。
そして、オリンパス製の光学顕微鏡による観察により、マイクロカプセルの形成状態が確認できた。さらに、島津製作所製の分布計測器SALD−1100により、平均粒子径を測定したところ、マイクロカプセルの平均粒子径は16μmであった。
【0050】
実施例3
ビーカーに、実施例1で作製したキトサンの乳酸溶解液(キトサンの含有量4質量%)100g、分散剤として、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド10質量%水溶液を10g、疎水性芯物質としてリモネン10gを加え、プライミクス(株)製ホモミキサーを用いて3000rpmで撹拌し、リモネンの水中油型乳化分散液を得た。
このリモネンの水中油型乳化分散液中に、予めポリアクリル酸(和光純薬工業(株)製、平均分子量5,000)5gに水45gを加え溶解させたものを、ホモミキサーで撹拌しながら少しずつ加えて相分離させた。次いで、リンゴ酸2ナトリウム10質量%水溶液5gを少しずつ加えながら、pHを約5に調整し、マイクロカプセルの被膜を硬化させ、マイクロカプセルを含むスラリー175gを得た。
そして、オリンパス製の光学顕微鏡による観察により、マイクロカプセルの形成状態が確認できた。さらに、島津製作所製の分布計測器SALD−1100により、平均粒子径を測定したところ、マイクロカプセルの平均粒子径は10μmであった。
【0051】
実施例4
ビーカーに、実施例1で作製したキトサンの乳酸溶解液(キトサンの含有量4質量%)100g、分散剤としてクラレポバールPVA−217((株)クラレ製、ポリビニルアルコール)の10質量%水溶液を10g、及び、疎水性芯物質としてリモネン10gを加え、プライミクス(株)製ホモミキサーを用いて3000rpmで撹拌し、リモネンの水中油型乳化分散液を得た。
予めポリアクリル酸(和光純薬工業(株)製、平均分子量5,000)3gに水47gを加え溶解させ、さらに1質量%水酸化ナトリウム溶液1gを加えて部分中和させたものを、リモネンの水中油型乳化分散液中にホモミキサーで撹拌しながら少しずつ加え相分離させた。次に、クエン酸3ナトリウム10%溶液8gを少しずつ加えながら、pHを約4に調整し、マイクロカプセルの被膜を硬化させ、マイクロカプセルスラリー179gを得た。
そして、オリンパス製の光学顕微鏡による観察により、マイクロカプセルの形成状態が確認できた。さらに、島津製作所製の分布計測器SALD−1100により、平均粒子径を測定したところ、マイクロカプセルの平均粒子径は4μmであった。
【0052】
比較例1
ビーカーに、実施例1で作製したキトサンの乳酸溶解液(キトサンの含有量4質量%)100g、分散剤としてクラレポバールPVA−217((株)クラレ製、ポリビニルアルコール)の10質量%水溶液を10g、及び、疎水性芯物質としてリモネン10gを加え、プライミクス(株)製ホモミキサーを用いて3000rpmにて撹拌し、リモネンの水中油型乳化分散液を得た。
予め、ポリアクリル酸(和光純薬工業(株)製、平均分子量5,000)3gに水47gを加え溶解したものを、リモネンの水中油型乳化分散液中にホモミキサーで撹拌しながら少しずつ加え相分離させた。次に、1質量%水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ加えながら、pHを4に調整したところ、マイクロカプセルが凝集し、スラリーを得ることができなかった。
【0053】
比較例2
ビーカーに、実施例1で作製したキトサンの乳酸溶解液(キトサンの含有量4質量%)100g、分散剤としてクラレポバールPVA−217((株)クラレ製、ポリビニルアルコール)の10質量%水溶液を10g、及び、疎水性芯物質としてリモネン10gを加え、プライミクス(株)製ホモミキサーを用いて3000rpmにて撹拌し、リモネンの水中油型乳化分散液を得た。
予めポリアクリル酸(和光純薬工業(株)製、平均分子量5,000)3gに水47gを加え溶解したものを、ホモミキサーで撹拌しながら少しずつ加え相分離させた。次に、1%アンモニア水溶液を少しずつ加えながら、pHを4に調整したところ、沈殿物が凝集し、マイクロカプセルのスラリーを得ることができなかった。
【0054】
比較例3
ビーカーに、分散剤としてクラレポバールPVA−217((株)クラレ製、ポリビニルアルコール)の10質量%水溶液を20g、水80g、及び、疎水性芯物質としてリモネン10gを加え、プライミクス(株)製ホモミキサーを用いて3000rpmで撹拌し、リモネンの水中油型乳化分散液を得た。
【0055】
「マイクロカプセルの評価」
実施例1〜4で得られたマイクロカプセルスラリーの1%水溶液、又は、比較例3で作製したリモネンの水中油型乳化分散液1%水溶液に、ウール織物(目付け100g/m2)を浸漬し、ペーパータオルにて水分をふき取ってピックアップ50%に調整した。その後、室温にて12時間乾燥させた。乾燥後、ウール織物を精密に1g測り取り、ガスクロマト
グラフィー質量分析計(カラム:TC−WAX)にてリモネンの含有量を測定した。
乾燥前のウール織物中に含まれるリモネンの含有量を100とし、乾燥後のリモネンの残存率を算出した。結果を下表1にまとめる。
【0056】
【表1】

【0057】
比較例3の場合は、マイクロカプセルを製造できず、リモネンの水中油型乳化分散液を得た乾燥後ではリモネンの残存率が4.2%であり、リモネンが揮発してウール織物に保持されていないことがわかる。
一方、実施例1〜4のマイクロカプセルでは、乾燥後のリモネン残存率がいずれも良好であり、徐放化により揮発スピードが調整されリモネンの保持が可能であり、本発明の目指す良好な効果を有するマイクロカプセルを製造できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の製造方法によれば、特殊な設備装置を必要とせずに、従来の乳化分散するための装置により、安易に、キトサンを被覆とするマイクロカプセルを製造することができる。
また、本発明によれば、マイクロカプセルを製造する際に、ホルムアルデヒド等のような人体や環境への悪影響が懸念される硬化剤を使用することがないので、得られるマイクロカプセルは、化粧品、衣類等のように安全性が重視される分野においても使用することができる。
さらに、キトサンを被覆とするマイクロカプセルは、芯物質を徐放することができるという性質があり、芯物質の徐放が要求される用途に使用することができる。
そして、本発明の製造方法によれば、カプセル膜厚の調整が容易となり、得られるマイクロカプセルにおける芯物質の徐放性のコントロールが容易となる。また、芯物質が液体である場合にもマイクロカプセルの製造を容易に行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キトサンを被覆とするマイクロカプセルの製造方法であって、キトサンの酸溶解液中に疎水性芯物質を分散させて疎水性芯物質の水中油型乳化液を調製し、該乳化液とアニオン性高分子とを混合して相分離させた後に、カルボン酸のアルカリ金属塩を添加することによって被膜を硬化させることを特徴とするマイクロカプセルの製造方法。
【請求項2】
前記アニオン性高分子がアニオン性基を有するものであり、かつ、アニオン性高分子中に含まれるアニオン性基が部分的に中和されたものであるか又は未中和であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロカプセルの製造方法。
【請求項3】
アニオン性高分子が、ポリアクリル酸又はその部分中和物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のマイクロカプセルの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法により得られる、キトサンを被覆とするマイクロカプセル。

【公開番号】特開2010−253375(P2010−253375A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105785(P2009−105785)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】