説明

マイクロカプセル分散液、及びその製造方法

【課題】塗布時の弾き(ハジキ)が抑制されたマイクロカプセル含有塗膜が得られるマイクロカプセル分散液、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】水性又は油性の分散媒と、分散媒に分散されるマイクロカプセルと、マイクロカプセルに内包されるカプセルコア成分であって、水性又は油性のうち、分散媒とは異なる性質を有するカプセルコア成分と、を有し、マイクロカプセル外であって分散媒に含まれるカプセルコア成分の含有量が、100ppm以下であるマイクロカプセル分散液である。そして、マイクロカプセル分散液とカプセルコア成分を溶解する溶媒とを混合した後、当該溶媒を除去する工程を有するマイクロカプセル分散液の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロカプセル分散液、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トナー、トイレタリー用品、化粧品など、様々な分野で、これらの主成分(コア成分)をカプセル化させる手法が採用され、種々実用化あるいは研究・開発がなされている。カプセル化の製法としては、油相と水相を接触させ、カプセルコア成分を粒子状にした際又は後にシェルで覆うことによりカプセル状に形成する。カプセル化した効果を十分発揮するためには、コア成分の内包を確実に行うか、もしくは漏洩した成分を除去する必要がある。
【0003】
例えば、特許文献1では、PVAの重合度及び鹸化度を規定することにより、カプセル形成時におけるカプセルコア成分の滲み出しを抑制し、加工適性を向上させる方法が開示されている。
また、特許文献2では、除去物の対象として分散媒に溶解しているイオン性物質を除去するマイクロカプセルの精製方法が開示されている。
また、特許文献3では、シェルがメラミン−ホルムアルデヒド重合体であるカプセル分散液において残留ホルムアルデヒドを多価アルコールで処理し、異臭を防止することが提案されている。
また、特許文献4では、中空糸状精密濾過膜でマイクロカプセル以外の成分を除去することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−32959公報
【特許文献2】特開平10−251645号公報
【特許文献3】特開2000−44940公報
【特許文献4】特開2001−62284公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、マイクロカプセル外であって分散媒に含まれるカプセルコア成分の含有量を考慮しない場合に比べ、塗布時の弾き(ハジキ)が抑制されたマイクロカプセル含有塗膜が得られるマイクロカプセル分散液を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
請求項1に係る発明は、
水性又は油性の分散媒と、
前記分散媒に分散されるマイクロカプセルと、
前記マイクロカプセルに内包されるカプセルコア成分であって、水性又は油性のうち、前記分散媒とは異なる性質を有するカプセルコア成分と、
を有し、
前記マイクロカプセル外であって前記分散媒に含まれる前記カプセルコア成分の含有量が、100ppm以下であるマイクロカプセル分散液。
【0007】
請求項2に係る発明は、
水性又は油性の分散媒と、前記分散媒に分散されるマイクロカプセルと、前記マイクロカプセルに内包されるカプセルコア成分であって水性又は油性のうち前記分散媒とは異なる性質を有するカプセルコア成分と、を有するマイクロカプセル分散液を製造する工程と、
前記マイクロカプセル分散液と、前記カプセルコア成分を溶解する溶媒と、を混合した後、当該溶媒を除去する工程と、
を有するマイクロカプセル分散液の製造方法。
【0008】
請求項3に係る発明は、
前記分散媒が水性の分散媒で、前記カプセルコア成分が油性のカプセルコア成分である場合、前記溶媒が、前記分散媒への溶解度1質量%以下で、且つHildebrandの溶解度パラメータδ(SP値)8cal/cm以上9cal/cm以下の有機溶媒である請求項2に記載のマイクロカプセル分散液の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に係る発明によれば、マイクロカプセル外であって分散媒に含まれるカプセルコア成分の含有量を考慮しない場合に比べ、塗布時の弾き(ハジキ)が抑制されたマイクロカプセル含有塗膜が得られるマイクロカプセル分散液が提供される。
請求項2に係る発明によれば、特定の溶媒によりマイクロカプセル分散液を処理しない場合に比べ、塗布時の弾き(ハジキ)が抑制されたマイクロカプセル含有塗膜が得られるマイクロカプセル分散液の製造方法が提供される。
請求項3に係る発明によれば、特定の溶媒によりマイクロカプセル分散液を処理しない場合に比べ、塗布時の弾き(ハジキ)が抑制されたマイクロカプセル含有塗膜が得られるマイクロカプセル分散液の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態に係る表示素子を示す概略構成図である。
【図2】実施例1における除去用溶媒の混合・除去処理前の液晶マイクロカプセル分散液(比較例1における液晶マイクロカプセル分散液)中の分散媒(水)HPLC分析結果を示す図である。
【図3】実施例1における除去用溶媒の混合・除去処理後の液晶マイクロカプセル分散液中の分散媒(水)HPLC分析結果を示す図である
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
本実施形態に係るマイクロカプセル分散液は、水性又は油性の分散媒と、分散媒に分散されるマイクロカプセルと、マイクロカプセルに内包されるカプセルコア成分であって水性又は油性のうち分散媒とは異なる性質を有するカプセルコア成分とを有している。そして、マイクロカプセル外であって分散媒に含まれるカプセルコア成分の含有量が、1000ppm以下(望ましくは500ppm以下、より望ましくは100ppm以下)である。
【0013】
ここで、マイクロカプセル分散液を、塗布して塗膜を形成すると塗膜に局所的にハジキが生じ、塗布欠陥が生じることがある。例えば、カプセルコア成分として、油性(疎水性)の性質を持つ液晶を内包した液晶マイクロカプセルが水性分散媒に分散されたマイクロカプセル分散液の塗膜において、顕微鏡観察によりハジキが生じた個所を観察すると当該液晶の存在が確認される一方で、ハジキが生じていない個所を観察すると液晶の存在は確認されなかった。このため、当該塗膜のハジキが生じる原因は、塗布時に水性分散媒と油性(疎水性)の液晶との分離により生じているものと考えられた。つまり、マイクロカプセル分散液において、分散媒とカプセルコア成分とが互いに非相溶となる性質を持つ場合、例えば、カプセルコア成分が、当該マイクロカプセル外であって分散液中に存在すると、塗膜にハジキが生じると考えられる。
【0014】
そこで、本実施形態に係るマイクロカプセル分散液では、マイクロカプセル外であって分散媒に含まれるカプセルコア成分の含有量を上記範囲とすることで、ハジキの原因となるマイクロカプセル外であって分散液中に存在するカプセルコア成分を低減させることで、当該分散液を例えば基板に塗布してマイクロカプセル塗膜を形成する際、塗布時の弾き(ハジキ)を抑制させる。その結果、当該弾き(ハジキ)に起因する塗布欠陥が抑制されたマイクロカプセル含有塗膜が得られる。
【0015】
本実施形態に係るマイクロカプセル分散液において、マクロカプセル分散液を構成する各材料の詳細については、当該マイクロカプセル分散液の製造方法と共に説明する。
【0016】
以下、本実施形態に係るマイクロカプセル分散液の製造方法について説明する。
本実施形態に係るマイクロカプセル分散液の製造方法は、マイクロカプセル分散液を製造する工程と、マイクロカプセル分散液と、カプセルコア成分を溶解する溶媒と、を混合した後、当該溶媒を除去する工程と、を有する。そして、製造するマイクロカプセル分散液は、水性又は油性の分散媒と、前記分散媒に分散されるマイクロカプセルと、前記マイクロカプセルに内包されるカプセルコア成分であって水性又は油性のうち前記分散媒とは異なる性質を有するカプセルコア成分と、を有するマイクロカプセル分散液である。
【0017】
ここで、上述のように、マイクロカプセル分散液を塗布した塗膜には、局所的にハジキが発生することがあり、当該ハジキの原因が、分散媒と互いに非相溶となる性質を持つカプセルコア成分が、マイクロカプセル外であって分散液中に存在するためである考えられる。
【0018】
マイクロカプセル分散液の作製する際、循環が不十分であるとカプセル内に封入されないカプセルコア成分が一部発生する可能性がある。また、製造工程において何らかの応力によりマイクロカプセルが破壊され、カプセルコア成分が漏洩し、分散媒中に存在する可能性がある。通常、未封入のカプセルコア成分は分散液中の不用物(分散剤、望ましくない(形状、粒径)カプセル等)と共に洗浄工程において除去される。しかしながら、未封入のカプセルコア成分が分散媒と非相溶で(親和性がなく)、シェル成分と相溶する(親和性がある)場合、デカンテーション等の分離処理によって未封入カプセルコア成分の除去は十分に行うことはでき難い。そして、マイクロカプセル分散液を塗布する場合、分散媒中にカプセルコア成分が存在する場合、塗布媒体上で塗布欠陥、いわゆる弾き(ハジキ)が発生し、外観上、及び性能上問題となる。
【0019】
なお、上述のように、特許文献1では、PVAの重合度及び鹸化度を規定することにより、カプセル形成時におけるカプセルコア成分の滲み出しを抑制し、加工適性を向上させる方法が開示されているが、加工適性評価の詳細が記載されていない。
また、特許文献2では、マイクロカプセルの精製方法が開示されているが、除去物の対象は分散媒に溶解しているイオン性物質に限られている。
また、特許文献3では、シェルがメラミン−ホルムアルデヒド重合体であるカプセル分散液において残留ホルムアルデヒドを多価アルコールで処理し、異臭を防止することが提案されているが、この方法を用いても、油溶性の不純物除去は不十分であるのが現状である。
また、特許文献4では、中空糸状精密濾過膜でマイクロカプセル以外の成分を除去することが提案されているが、この方法を用いても、マイクロカプセル以外の不溶物や水溶性の不純物は除去できても油溶性の不純物除去は不十分であるのが現状である。
【0020】
そこで、本実施形態に係るマイクロカプセル分散液の製造方法では、製造したマイクロカプセル分散液と、分散媒と非相溶性でかつカプセルコア成分を溶解する溶媒(以下、除去用溶媒と称することがある)とを混合することで、分散液と除去用溶媒を接触させ、マイクロカプセル外であって分散液中に存在するカプセルコア成分を除去用溶媒に溶解・抽出させる。そして、当該マイクロカプセル成分が溶解された除去用溶媒をマイクロカプセル分散液から除去することで、マイクロカプセル分散液におけるマイクロカプセル外であって分散液中に存在するカプセルコア成分量を低減させる。
【0021】
したがって、本実施形態に係るマイクロカプセル分散液の製造方法では、塗布時の弾き(ハジキ)が抑制されたマイクロカプセル含有塗膜が得られるマイクロカプセル分散液が製造される。
【0022】
以下、各工程の詳細について説明する。
【0023】
まず、マイクロカプセル分散液とカプセルコア成分を溶解する除去用溶媒とを混合した後、当該除去用溶媒を除去する工程について説明する。本工程は、除去用溶媒により、マイクロカプセル分散液における、マイクロカプセル外であって分散媒に存在するカプセルコア成分を、除去用溶媒により当該分散液から除去する工程である。
【0024】
除去用溶媒は、カプセルコア成分を溶解させる溶媒である。そして、除去用溶媒は、マイクロカプセル(その壁材)を溶解させない溶媒であることがよい。つまり、除去用溶媒は、マイクロカプセル(その壁材)に不溶な溶媒であることがよい。これにより、除去溶媒により、マイクロカプセル(その壁材)の変質を抑制して、液晶が除去される。
【0025】
除去用溶媒は、分散媒とは非相溶で、分散媒と比重が異なる溶媒であることがよい。ここで、除去用溶媒と分散液との比重差は例えば0.1以上であることがよい。これにより、除去用溶媒が分散媒とは非相溶な溶媒である場合には、分散媒と相分離すると共に、除去用溶媒と分散媒との比重差により一方が沈降することから、これらの混合液の上澄み液と沈降液とを分離・採取することで、分離した除去用溶媒を採取することで、除去用溶媒がマイクロカプセル分散液から除去される。
この除去用溶媒としては、分散媒が水性である場合、例えば、ヘキサン、トルエン、キシレン、ベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロエタン等が挙げられ、分散媒が油性(疎水性)である場合、水、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0026】
なお、除去用溶媒が、分散媒とは相溶な溶媒であっても、分散媒とは比重が異なる溶媒を採用すれば、除去用溶媒を分散媒と混合した後、静置させれば、除去用溶媒と分散媒との比重差により一方が沈降することから、これらの混合液の上澄み液と沈降液とを分離・採取することで、除去用溶媒がマイクロカプセル分散液から分離・除去される。
【0027】
ここで、溶解する及び相溶することは、一方に対する他方の溶解度(温度25℃での溶解度)が1質量%以上であることを意味する。また、溶解しない、不溶である、及び非相溶であるとは、一方に対する他方の溶解度(温度25℃での溶解度)が1質量%未満であることを意味する。
【0028】
特に、分散媒が水性の分散媒で、カプセルコア成分が油性のカプセルコア成分(特に液晶)である場合、除去溶媒としては、分散媒への溶解度(温度25℃での溶解度)1質量%以下で、且つHildebrandの溶解度パラメータδ(SP値)8cal/cm以上9cal/cm以下の有機溶媒であることがよい。当該有機溶媒としては、分散媒への溶解度が1質量%以下で、且つHildebrandの溶解度パラメータδ(SP値)8cal/cm以上9cal/cm以下の有機溶媒であることが望ましく、より望ましくは分散媒への溶解度が0.1質量%以下で、且つHildebrandの溶解度パラメータδ(SP値)8cal/cm以上9cal/cm以下の有機溶媒である。
【0029】
当該有機溶媒を除去用溶媒として適用することで、除去用溶媒により、マイクロカプセル(特に、ポリウレタン/ポリウレアマイクロカプセル等)内部への浸透や、当該マイクロカプセル(特に、ポリウレタン/ポリウレアマイクロカプセル等)の溶解を抑制しつつ、マイクロカプセル外であって分散媒に存在するカプセルコア成分(特に液晶等)を溶解・抽出させると共に、除去用溶媒が水性の分散媒と分離し易く、マイクロカプセル分散液からの除去が容易となる。その結果、塗布時の弾き(ハジキ)が抑制されたマイクロカプセル含有塗膜が得られる。
【0030】
ここで、溶解度(温度25℃での溶解度)は、溶剤ハンドブック(講談社、1976年)等公知の文献に記載されている値が引用される。
【0031】
また、Hildebrandの溶解度パラメータδ(SP値)は、溶剤ハンドブック(講談社、1976年)等公知の文献に記載されている値が引用される。
【0032】
除去用溶媒の混合量は、例えば、マイクロカプセル分散液に対して20質量%以上500質量%以下であることがよく、望ましくは30質量%以上300質量%以下であり、50質量%以上200質量%以下である。
【0033】
なお、マイクロカプセル分散液とカプセルコア成分を溶解する除去用溶媒とを混合した後、当該除去用溶媒を除去する工程は、カプセルコア成分をカプセル化した後であれば、製造工程のいつでも行ってもよい。但し、製造工程の各工程(例えば、重合後、カプセル濃縮工程、洗浄工程等)では、カプセルコア成分をカプセル化した後でも、カプセルコア成分がマイクロカプセルから漏洩する可能性があることから、上記除去用溶媒の混合・除去工程は、最も最後の最終工程で実施することがよい。
【0034】
次に、マイクロカプセル分散液を製造する工程について説明する、なお、本工程の詳細は、液晶を内容したマイクロカプセルが水性分散媒に分散された液晶マイクロカプセル分散液について説明する。
【0035】
液晶マイクロカプセル分散液を製造する工程は、液晶をマイクロカプセル化する工程である。そして、マイクロカプセル化させる対象となる液晶としては、例えば、ネマチック液晶、スメックチック液晶、コレステリック液晶等が挙げられるが、これらに限定されるものではないが、液晶表示素子等にはメモリ性(表示維持性)を持つコレステリック液晶が好適に採用されている。
【0036】
コレステリック液晶は、光学活性化合物を含む液晶材料であり、1)ネマチック液晶にカイラル剤と呼ばれる光学活性化合物等を添加する方法、2)コレステロール誘導体などのようにそれ自身光学活性な液晶材料を用いる方法などによって得られる。前者の場合、ネマチック液晶材料としては、シアノビフェニル系、フェニルシクロヘキサン系、フェニルベンゾエート系、シクロヘキシルベンゾエート系、アゾメチン系、アゾベンゼン系、ピリミジン系、ジオキサン系、シクロヘキシルシクロヘキサン系、スチルベン系、トラン系など公知のネマチック液晶含有組成物が利用される。カイラル剤としてはコレステロール誘導体や、2−メチルブチル基などの光学活性基を有する化合物等が利用される。
【0037】
コレステリック液晶には、色素、粒子などの添加物を加えてもよい。また、架橋性高分子や水素結合性ゲル化剤などを用いてゲル化したものでもよく、また、高分子液晶、中分子液晶、低分子液晶のいずれでもよく、またこれらの混合物でもよい。コレステリック液晶の螺旋ピッチは、カイラル剤の種類や添加量、液晶の材質によって変化させてもよい。なお、後述する高分子中に分散されたコレステリック液晶滴(マイクロカプセル含む)の平均粒径は、メモリー性を発現するためには、コレステリック液晶の螺旋ピッチの少なくとも3倍以上あることが望ましい。
【0038】
そして、液晶をマイクロカプセル化する方法としては、1)液晶を分散した高分子水溶液を相分離させて液晶滴表面に皮膜を形成する相分離法、2)高分子と液晶とを共通溶媒に溶解して、これを水相中に分散して溶媒を蒸発させる液中乾燥法、3)液晶と油溶性モノマーAとの混合溶液(油相液)を水相中に分散して、これに水溶性モノマーBを添加して、モノマーAとモノマーBとを界面重合反応させて皮膜を形成する界面重合法、4)液晶中又は水相中にモノマーを溶解して加熱等によって重合させて析出した高分子で皮膜を形成するin situ重合法などが利用される。
【0039】
−相分離法−
相分離法では高分子として2種類の水溶性高分子;例えば、ゼラチンとアラビアゴム、たんぱく質と多糖類、たんぱく質とたんぱく質、たんぱく質と核酸、多糖類と核酸などの水溶液を、pHや温度を制御して濃厚相と希薄相に相分離させるコンプレックス・コアセルベーション法や、ポリビニルアルコールやゼラチンやアルキルセルロースなどの水溶性高分子溶液に、水と相溶する有機溶媒;例えば、アルコールやアセトンなどを添加して相分離させるシンプル・コアセルベーション法が利用される。
【0040】
−液中乾燥法−
液中乾燥法では、高分子を液晶と共に低沸点溶媒に溶解し、これを水相中に分散し、減圧又は加熱して溶媒を揮発させる方法などが利用される。高分子及び溶媒としては、例えば、フッ素樹脂とフロンなどのフッ素系溶媒や、アルキル基やハロゲン化アルキル基を導入したアクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリエステル樹脂などと塩化メチレンなどの組み合わせが利用される。
【0041】
−界面重合法−
界面重合法では、油溶性モノマーAとしては、塩基酸ハライド、ハロホルメート、イソシアネート、イソチオシアネート、ケテン、カルボジイミド、エポキシ、グリシジルエーテル、オキサゾリン、エチレンイミン、ラクトンなどの官能基を複数有する多価化合物が、水溶性モノマーBとしては、アミン、アルコール、カルボン酸、メルカプタン、フェノールなどの官能基を複数有する多価化合物が利用される。
【0042】
−in situ重合法−
in situ重合法では、1)油溶性のモノマーAとモノマーCとを重合させる方法や、2)ラジカル重合性モノマーの如く単独で重合するモノマーDを利用する方法などで行う。1)の場合、モノマーAとしては界面重合法の項で述べたモノマーAが同様に利用されて、塩基酸ハライド、ハロホルメート、イソシアネート、イソチオシアネート、ケテン、カルボジイミド、エポキシ、グリシジルエーテル、オキサゾリン、エチレンイミン、ラクトンなどの官能基を1分子内に複数有する多価化合物が利用される。モノマーCとしては、アミン、アルコール、カルボン酸、メルカプタン、フェノールなどの官能基を1分子内に複数有する多価化合物が利用される。2)の場合、モノマーDとしては、多価エポキシ化合物、多価イソシアネート化合物、不飽和炭化水素化合物;例えば、スチレン、イソプレン、ブタジエン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、アクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体などが利用される。また、水相から壁材を形成する場合はメラミン/ホルムアルデヒドなどの水溶性モノマーを利用する。
【0043】
マイクロカプセルを構成する壁材成分としては、白色性の高い表示をする観点から、ポリウレタン及びポリウレアから選ばれる少なくとも一種を含むことが望ましい。さらに壁材成分は、白色性の高い表示をする観点から、アルキル基及び/又はフルオロアルキル基がウレタン結合を介して直接又は間接的に結合してなるポリウレアであることがより望ましい。
以下、アルキル基及び/又はフルオロアルキル基がウレタン結合を介して直接又は間接的に結合してなるポリウレアを含むマイクロカプセルを用いた液晶マイクロカプセル(以下、「ポリウレア含有液晶マイクロカプセル」と称する場合がある)について説明する。
【0044】
ポリウレア含有液晶マイクロカプセルの第1の製法としては、例えば、アルキル基及び/又はフルオロアルキル基と水酸基とを有する化合物よりなる配向材と、ポリイソシアネートと、水とを反応させて、ポリウレアを生成する方法が挙げられる。
【0045】
第1の製法として具体的には、まず、液晶と配向材とポリイソシアネートとを混合して油相を調製する。次に、油相を水相中へ分散して分散液を製造する。そして、分散液を加熱する。この工程を経ることで、配向材とポリイソシアネートと水とを反応させてポリウレアを生成して被膜を形成する共に、被膜により液晶が内包される。
【0046】
第1の製法では、油相中のポリイソシアネートは水相中の水と反応してカルバミン酸を生成し、さらに脱炭酸をともなってアミンを生成する(式A)。カルバミン酸及びアミンはともに他のポリイソシアネートと結合反応してポリウレアの被膜を形成する(式B及びC)。
【0047】
式A:R−NCO(ポリイソシアネート)+HO → R−NHCOOH(カルバミン酸) → R−NH(アミン)+CO
式B:R−NCO+R−NHCOOH → R−NHCONH−R(ポリウレア)+CO
式C:R−NCO+R−NH → R−NHCONH−R(ポリウレア)
【0048】
ここで、Rはポリイソシアネートのある1つのイソシアネート基以外の部分(例えば、ポリイソシアネートがキシレンジイソシアネートならRはOCN−CH−C−CH−、1,6−ヘキサンジイソシアネートならOCN−(CH−、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートならOCN−C−CH−C−など)である。
【0049】
第1の製法では、式AからCにおいてポリイソシアネートの1つのイソシアネート基の反応だけを記述しているが、ポリイソシアネートは複数のイソシアネート基を有するので、式AからCの2段目及び3段目の反応では高分子が生成される。式AからCの一連の反応は油相と水相との界面で進行するため、必然的に被膜が形成される。一旦、被膜が形成されるとポリイソシアネートと水との接触が絶たれるため反応速度が大きく低下する。それゆえ、被膜がまだ形成されていない部分があると、その部分において他の部分より反応が進行する結果、ムラの少ない被膜が形成される。
【0050】
そして、アルキル基及び/又はフルオロアルキル基(下記式DではRと表記)は皮膜表面に対して液晶を垂直に配向させる垂直配向性基であり、これと水酸基を有する化合物よりなる配向材は水酸基がポリイソシアネートとウレタン結合することで被膜中に取り込まれ、被膜に垂直配向性を付与する(下記式D)。また、配向材において、垂直配向性基と水酸基との間に結合基を有する場合、垂直配向性基としてのアルキル基及び/又はフルオロアルキル基は、ウレタン結合と間接的に結合して、被膜中に取り込まれ、被膜に垂直配向性を付与する(下記式E)。
【0051】
式D:R−OH(配向材)+OCN−R(ポリイソシアネート)→R−OCONH−R(ウレタン結合)
式E:R−X−OH(配向材)+OCN−R(ポリイソシアネート)→R−X−OCONH−R(ウレタン結合)
【0052】
ここで、Rは上記同様である。Rは垂直配向性基としてのアルキル基及び/又はフルオロアルキル基である。Xは、アルキル基及び/又はフルオロアルキル基と水酸基とを結ぶ結合基(例えば、フェニレン基−Ph−、アルキルエステル基−OCO−(CH−、アルキルエーテル基−O−(CH−、−(OCHCH−、−(OCHCHCH、フェニルエステル基−OCO−Ph−、フェニルエーテル基−O−Ph−などの基:ここでpは0以上5以下であり、0の場合は式Dに示した直接的結合する場合に相当する。)を示す。Xの結合基種によって程度は異なるが、一般にpが大きくなるにしたがって垂直配向性が低下するため、pは5以下であることが望ましい。
【0053】
なお、配向材は液晶に溶解して用いるためその溶解性は重要である。このため結合基としてアルキルエーテル基などのエーテル基を含む結合基を用いると、化合物に柔軟性が付与されて溶解性に優れた配向材が得られるため好ましい。
【0054】
ポリウレア含有液晶マイクロカプセルの第2の製法としては、アルキル基及び/又はフルオロアルキル基と水酸基とを有する化合物よりなる配向材と、ポリイソシアネートと、ポリアミンと、水とを反応させて、ポリウレアを生成する方法が挙げられる。
【0055】
第2の製法として具体的には、まず、液晶と配向材とポリイソシアネートとを混合して油相を調製する。次に、油相を水相中へ分散して分散液を製造する。次に、分散液中に前記ポリアミンを添加する。そして、分散液を加熱する。この工程を経ることで、配向材とポリイソシアネートとポリアミンと水とを反応させてポリウレアを生成して被膜を形成する共に、被膜により液晶が内包される。
【0056】
第2の製法では、ポリイソシアネートと水と配向材とがなす上記式AからCの反応に加えて、ポリイソシアネートとポリアミンとの結合反応が加わる(式F)。
【0057】
式F:R−NCO+NH−R(ポリアミン) → R−NHCONH−R
【0058】
ここで、Rは上記同様である。Rはポリアミンのある1つのアミノ基以外の部分(例えば、ポリアミンがエチレンジアミンならRはHN−CHCH−、ジエチレントリアミンならHN−CHCH−NH−CHCH−など)を示す。
【0059】
油相と水相との界面で生成した高分子は、重合度が低い初期の段階では熱運動によって油相内部へ拡散してしまうため、速やかに重合度を上げて被膜へ成長させることが望ましい。一般に式Fの反応速度は式AからCの一連の反応速度より速いので、より確実にムラの少ない被膜が形成される。
【0060】
この速やかに重合度を上昇させる観点から、ポリアミンとしては高分子ポリアミンが望ましく、中でも反応性が高い1級アミノ基を有するポリアリルアミンが特に好適である。
【0061】
また、第1及び2の製法共に、配向材として水酸基を1つだけ有する化合物を用いた場合、架橋密度が低下して被膜のガラス転移温度が低下したり、強度が不足する場合があるが、これを防止する手段として、配向材に複数の水酸基を導入する方法が効果的である。
【0062】
以下、マイクロカプセルの形成に用いる各材料についてさらに詳細に説明する。
まず、ポリウレアとは、モノマーを尿素結合−NHCONH−で結合した高分子化合物を指し、具体的にはモノマーとしてポリイソシアネートと水、又はポリイソシアネートとポリアミンと用い、これらを反応させて生成する。
【0063】
ポリイソシアネートとしては、1)エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、2、2、4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2、6−ジイソシアネートメチルカプロエート、ビス(2−イソシアネートエチル)フマレート、ビス(2−イソシアネートエチル)カーボネート、2−イソシアネートエチル−2、6−ジイソシアネートヘキサノエートなどの脂肪族ポリイソシアネート、2)イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、ビス(2−イソシアネートエチル)−4−シクロヘキセン−1、2−ジカルボキシレートなどの脂環式ポリイソシアネート、3)キシリレンジイソシアネート、ジエチルベンゼンジイソシアネートなどの芳香脂肪族ポリイソシアネート、4)トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート、などが挙げられる。
【0064】
また、速やかに重合度を上げるため、及び高分子の架橋密度を高めて高い垂直配向性を得るという観点から、官能基数が3つ以上のポリイソシアネートは特に好適に利用される。そういったポリイソシアネートは、上記ジイソシアネートのアダクト体、イソシアヌレート体、ビュレット体、アロファネート体などかたちで得られ、例えば、下記化合物などが挙げられる。
【0065】
【化1】



【0066】
【化2】



【0067】
ここで、上記化合物の市販品としてはコロネートHX(日本ポリウレタン社製品)、バーノックD−750、クリスボンNX(大日本インキ化学工業(株)製品)、デスモジュールL(住友バイエル社製品)、コロネートL(日本ポリウレタン社製品)、タケネートD102(三井武田ケミカル社製品)等が挙げられる。
【0068】
【化3】



【0069】
ここで、上記化合物の市販品としてはバーノックD−950(大日本インキ化学工業(株)製品)が挙げられる。
【0070】
【化4】



【0071】
【化5】



【0072】
ここで、上記化合物の市販品としてはタケネートD110N(三井武田ケミカル社製品)が挙げられる。
【0073】
前記ポリイソシアネートは、下記構造式(1)から(3)でそれぞれ表わされるキシレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、イソホロンジイソシアネートポリイソシアネート、及びこれらの誘導体の少なくとも1種である場合に、特に高い垂直配向性が得られる。ここで、誘導体とはアダクト体、イソシアヌレート体、ビュレット体、アロファネート体などを指す。
【0074】
【化6】



【0075】
また、ポリイソシアネートの添加量は液晶100(重量)部に対して1から20部とする。1部以下では被膜の強度が不十分であるほか、十分な垂直配向性が得られないことがある。20部以上では液晶マイクロカプセルに占める被膜の割合が大きくなるため表示性能が低下することがある。
【0076】
また、配向材としては、下記構造式(I)で示される化合物が好適に利用される。
【0077】
構造式(I):C(2n+1−m)−X−Y
(ただし、構造式(I)中、Xは−(OCH−、−(OCHCH−、−(OCHCHCH−、−(COOCHCH−、−(OCOCHCH−、−Ph−、又は−O−Ph−を示す(ここでpは0以上5以下の整数である。)。Yは−OH、−COO−CH(CHOH)、又は−COO−CH(OH)CHOHを示す。また、mは0以上(2n+1)以下の整数であり、nは4以上30以下の整数を示す。)
【0078】
構造式(I)のC(2n+1−m)はアルキル基/又はフルオロアルキル基を表わし、m=0の場合がアルキル基、m≠0の場合がフルオロアルキル基に相当する。この垂直配向性基としてのアルキル基、フルオロアルキル基を次式で示す。
アルキル基:C2n+1
フルオロアルキル基:C2n−m+1−(m≦2n+1)
【0079】
ここで鎖長を表わすnは4以上30以下が望ましく、より望ましくは10以上20以下である。nが4未満では十分な垂直配向性が発揮されないことがある。nが20以上では被膜の強度が極度に低下することがある。鎖長が長いほど垂直配向性が強くなるため、この範囲でnは大きいほうが好ましい。一般にアルキル基を有する配向材のほうがフルオロアルキル基を有する配向材より液晶への相溶性が高いが、フッ素系液晶等の低極性液晶ではこの限りではなく、目的に応じて選択することが望ましい。
【0080】
構造式(I)中、Xは、−(OCH−、−(OCHCH−、−(OCHCHCH−、−COOCHCH−、−Ph−、−O−Ph−などの結合基であり、pは0以上5以下である。Xの結合基種によって程度は異なるが、pが大きくなるにしたがって垂直配向性が低下するため、pは5以下であることが望ましい。このうちエーテル基を有する結合基(−(OCH−、−(OCHCH−、−(OCHCHCH−)は配向材分子に柔軟性を与えるため液晶との相溶性が高くなり、幅広い液晶材料種で好適に利用される。
【0081】
構造式(I)中、Yはイソシアネート基と結合するための官能基であり,水酸基−OHや、グリセロールのモノエステル−COO−CH(CHOH)、又は−COO−CH(OH)CHOHが好適に利用される。
【0082】
また、配向材の添加量はイソシアネート基数100に対する配向材の水酸基数は、5から70の範囲が好ましく、20から50の範囲で用いることがより好ましい。この範囲より少ないと十分な垂直配向性が得られず、多いと未反応の配向材が残留や架橋密度の極度の低下が生じることがあり好ましくない。
【0083】
次に、ポリアミンとしては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンジアミンなどの低分子ポリアミンや、キトサン、ポリリジン、ホフマン変成ポリアクリルアミド、ポリビニルアミン、ポリアミジン、ポリアリルアミンなどの高分子ポリアミンが好適に挙げられる。
【0084】
ポリアミンは、速やかに重合度を上げること、及び高分子の架橋密度を高めて高い垂直配向性を得るという観点から、高分子ポリアミン、特にポリアリルアミンが好適である。また未反応残留物が液晶に溶解し難く、液晶の電気特性を劣化させ難いという観点からも高分子ポリアミン、特にポリアリルアミンは好ましい。ポリアリルアミンは塩酸塩及びフリーのかたちで市販されているが、電気特性の観点からフリーのほうが好ましい。
【0085】
ポリアミンとしては反応性が高い1級アミノ基を有することが望ましい。2級以上のポリアミンは反応性が低いため良好な被膜を得にくい。高分子ポリアミン、特にポリアリルアミンの重量平均分子量としては、300以上100万以下が好ましく、300以上30,000以下がより好ましい。重量平均分子量300以下では十分な垂直配向性の向上効果が見られない。重量平均分子量が高いほど垂直配向性を高められるが、重量平均分子量が高すぎると重合時にカプセルの凝集を生じやすくなるため30,000以下が好ましい。
【0086】
ポリアミンとしては、上記観点から1級アミノ基を多数有するポリアリルアミンが特に好適であり、当該ポリアリルアミンとしては、例えば、下記式で表わされる化合物が好適に利用される。
【0087】
【化7】



【0088】
ここで、nは15から20,000の整数を示す。
【0089】
ポリアミンの添加量はイソシアネート基数100に対するアミノ基数が1から100の範囲であることが望ましい。この範囲以下では被膜が不完全に形成されることがあるため、垂直配向効果が得られないことがある。またポリアミンは分散相の表面を覆う量しか反応しないことがあるため、過剰に添加しても未反応のポリアミンが多量に生じて無駄が多いことがある。
【0090】
ここで、以上各材料を反応して得られるポリウレアのうち、特に好適なのは、少なくともポリイソシアネートと、水と、配向材として前記構造式(I)で表わされる化合物の少なくとも1種と、を反応して得られる高分子化合物、又は、少なくともポリイソシアネートと、水と、配向材として前記構造式(I)で表わされる化合物の少なくとも1種と、ポリアミンと、を反応して得られる高分子化合物である。
【0091】
以下、上記第1及び2の製法について詳細に説明する。
まず、第1の製法は、A1)液晶と配向材とポリイソシアネートとを混合して油相を調製する工程、A2)前記油相を水相中へ分散して分散液を製造する工程と、A3)分散液を加熱する工程、という一連の工程を有する。
【0092】
工程A1)では液晶と配向材とポリイソシアネートの相互溶解を補助するための溶剤(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルエチルケトン、トルエンなど)を油相に添加してもよい。また油相を加熱してもよい。前者は油相の粘度を下げて分散を容易にするため効果もある。
【0093】
工程A2)の分散は、プロペラ式、スクリュー式、パドル式、内歯式などの回転翼型の攪拌装置、超音波攪拌装置、ジェット式攪拌装置、膜乳化装置などを利用して行う。
【0094】
分散した油相の合一を防ぐために水相中へ乳化安定剤を添加してもよい。乳化安定剤としては界面活性剤:アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリエチレンオキシドアルキルエステルなどや、保護コロイド:例えば、ポリビニルアルコール、アルキルセルロース、ヒドロキシセルロース、ゼラチンなどが利用される。
【0095】
工程3)の加熱工程はポリイソシアネートと水、及びポリイソシアネートと配向材を反応させる工程である。加熱温度及び時間は使用する材料に応じて反応が進行するように選択する必要があるが、一般的には加熱温度が50から100℃、過熱時間が1から20時間程度である。
【0096】
次に、第2の製法は、B1)液晶と配向材とポリイソシアネートとを混合して油相を調製する工程、B2)前記油相を水相中へ分散して分散液を製造する工程と、B3)前記分散液中に前記ポリアミンを添加する工程、B4)分散液を加熱する工程、という一連の工程からなる。
【0097】
このうち工程B1)、B2)、B4)は、前記工程A1)、A2)、A3)にそれぞれ等しい。工程B3)のポリアミン添加工程において、ポリアミンとポリイソシアネートとの反応は速いので、反応にバラツキが生じないようによく攪拌しながら行うとともに、発熱の除去を行うことがよい。
【0098】
なお、上記工程を経て得られた液晶マイクロカプセル分散液には、例えば、成膜後に液晶マイクロカプセルを保持するための樹脂材料を添加してもよい。樹脂材料としては、例えば、ポリビニルアルコール、アルキルセルロース、ゼラチン、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリビニル、ポリウレタン、エポキシ、ポリカーボネート、ポリオレフィン、シリコーンなどの高分子や、金属アルコキシドをゾル−ゲル反応して生成される金属酸化物などが挙げられ、その中でも透明樹脂部材であることが好ましい。
【0099】
そして、得られた液晶マイクロカプセル分散液は、上記除去溶媒により混合・除去処理を経て、液晶マイクロカプセル含有膜形成に利用される。当該分散液の塗布方法としては、例えば、スクリーン印刷、凸版印刷、凹版印刷、平板印刷、フレクソ印刷などの印刷法や、スピン塗布法、バー塗布法、ディップ塗布法、ロール塗布法、ナイフ塗布法、ダイ塗布法が利用される。
【0100】
また、形成される液晶マイクロカプセル含有膜形成は、例えば、表示素子、画像・情報記録素子、空間光変調器などに利用される。
【0101】
ここで、製造するマイクロカプセル分散液は、上記液晶マイクロカプセル分散液に限られるわけではない。カプセル化の対象となるカプセルコア成分は、上記油性(疎水性)のものとして、液晶の他、接着剤、顔料又は染料を分散したインク、油溶性の食品抽出物、香料、医薬品、乳液成分等の化粧品等が挙げられ、水性(親水性)のものとして、水溶性の食品抽出物、香料、医薬品等が挙げられる。また、カプセル材料や、分散媒も上記に限られるわけではなく、カプセルコア成分に応じて、選択される。
【0102】
次に、得られた液晶マイクロカプセル分散液により形成された液晶マイクロカプセル含有膜を具備する表示素子(以下、本実施形態に係る表示素子と称する)の一例について説明する。
【0103】
本実施形態に係る表示素子は、例えば、上記液晶マイクロカプセル含有膜を一対の電極間に挟んだ構成である。ここで、図1は、本実施形態に係る表示素子を示す概略構成図である。
【0104】
本実施形態に係る表示素子は、図1に示すように、例えば、液晶マイクロカプセル含有膜4を、電極11、12がそれぞれ設けられた基板21、22の間に挟んで、駆動回路30によって電圧パルスを与えて表示させる構成となる。表示背景として光吸収部材を液晶マイクロカプセル含有膜4と電極12との間、又は基板22の裏面に設けてもよい。基板21、22としては例えば、ガラス、樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルフォン、ポリカーボネート、ポリオレフィンなどの透明誘電体)が利用される。電極11、12としては、例えば、酸化インジウム錫合金や酸化亜鉛などの透明導電膜が利用される。
【0105】
ここで、本実施形態に係る表示素子は、液晶マイクロカプセル含有膜4として、樹脂材料1中に液晶2を内包したマイクロカプセル3を分散・保持させた形態を示している。
【0106】
本実施形態に係る表示素子は、液晶としてコレステリック液晶を採用した場合、コレステリック液晶のメモリー状態におけるP配向とF配向の光学的差異を際立たせる素子となる。本形態では、表示モードとしては選択反射モード以外に、P配向とF配向の光散乱強度の差を利用した散乱−透過モード、旋光度の差を利用した旋光モード、複屈折の差を利用した複屈折モードなどを利用する。また、本形態では、補助部材として偏光板や位相差板と併用してもよい。また、本携帯では、液晶中に2色性色素を加えてゲスト−ホストモードで表示してもよい。
【0107】
本実施形態に係る表示素子の駆動方法としては、1)表示形状にパターニングされた電極間に挟んで駆動するセグメント駆動法、2)交差(例えば直交)する一対のストライプ状電極基板間に液晶含有組成物を挟んで線順次走査して画像を書き込む単純マトリクス駆動法、3)個々の画素ごとに薄膜トランジスタ、薄膜ダイオード、MIM(metal−insulator−metal)素子などの能動素子を設けてこれらの能動素子を介して駆動するアクティブ・マトリクス駆動法、4)光導電体と積層して一対の電極間に挟んで、光像を投影ながら電圧を印加して画像を書き込む光駆動法、5)一対の電極間に挟んだ液晶マイクロカプセル含有膜を、電圧印加でP配向へ遷移させてその後にレーザーやサーマルヘッドで相転移温度以上へ加熱して画像を書き込む熱駆動法、6)電極基板上へ液晶マイクロカプセル含有膜を成膜して、スタイラスヘッドやイオンヘッドで画像を書き込む静電駆動法など、公知の駆動方法が適用される。
【実施例】
【0108】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、これら各実施例は、本発明を制限するものではない。
【0109】
(実施例1)
−液晶マイクロカプセル分散液の調整−
まず、複屈折が0.25のネマチック液晶とカイラル剤R811(メルク社製)とカイラル剤R1011(メルク社製)とを、86.3対11.0対2.8の重量比で混合して、波長620nmを選択反射するコレステリック液晶を得た。
【0110】
次に、下記組成を混合して油相を得た。
・コレステリック液晶:1g
・ポリイソシアネート:タケネートD−110N(武田薬品工業社製):0.13g
・配向材:ジエチレングリコールヘキサデカンエーテル(C1633−(OCHCH−OH):0.05g
・溶剤:酢酸エチル:10g
【0111】
次に、得られた油相を1%ポリビニルアルコール水溶液100gの中に投入し、プロペラ回転式攪拌機で分散して平均粒径7μmの分散液を作製した。その後、この分散液にポリアリルアミン(日東紡社製PAA−H10C:重量平均分子量10万)の2%水溶液2.5g加え、容器に収めて85℃のウォーターバス中で2時間反応を行った。顕微鏡で観察した結果、液晶を内包した液晶マイクロカプセルが得られていた。
【0112】
次に、分散液を遠心分離機にかけて液晶マイクロカプセルを沈降させ、上澄みを捨てて分散液を濃縮した。これに純水を加えて攪拌し、同様に分散液を濃縮するという操作を2回繰返して液晶マイクロカプセルを洗浄した。濃縮した分散液にバインダとしてポリビニルアルコール水溶液を添加して液晶マイクロカプセル分散液を調製した。液晶マイクロカプセル塗布液中に含まれる液晶マイクロカプセルとポリビニルアルコールとの比率は、重量比で75対25とした。
【0113】
ここで、調製した液晶マイクロカプセル分散液中の分散媒(水)を一部採取し、トルエンと混合した後、トルエン相を採取し、HPLC(高速液体クロマトグラフィー、移動相:ヘキサン/THF=95/5、流量:2.0ml/min、カラム:Unisil Q 60(GLサイエンス社製Φ4.6×250mm)、カラム温度:40℃)で分析したところ、液晶に相当するピーク(相対強度0.14)が検出された(図2参照)。当該検出結果と予め作成した検量線とにより、マイクロカプセル外であって分散媒(水)に存在する液晶濃度を表1に示す。なお、図2は、実施例1における除去用溶媒の混合・除去処理前の液晶マイクロカプセル分散液(比較例1における液晶マイクロカプセル分散液)中の分散媒(水)HPLC分析結果を示す図である。
【0114】
次に、調製した液晶マイクロカプセル分散液に、これと等量のトルエン(除去用溶媒:分散液(水)への溶解度が0.05%で、SP値が8.9)を混合し、10分間攪拌した後、30分静置した。その後、当該分散液は、2相に分離し、その上相(トルエン相)を除去した。さらにトルエンが当該分散液に残留しないように、トルエンの代わりにヘキサンを用いて、2回同様の操作を繰り返し行った後、分散液を70℃で1時間加熱した。
【0115】
調製した液晶マイクロカプセル分散液中の分散媒(水)を一部採取し、上記同様のHPLC分析したところ、液晶に相当するピークは検出されなかった(図3参照)。なお、図3は、実施例1における除去用溶媒の混合・除去処理後の液晶マイクロカプセル分散液中の分散媒(水)HPLC分析結果を示す図である。
【0116】
−評価−
得られた液晶マイクロカプセル分散液を用いたバー塗布法により、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板上に当該分散液の塗膜を形成した。この塗膜を目視にて観察し、ハジキの個数を調べた。結果を表1に示す。
【0117】
(比較例1)
除去用溶媒(トルエン)の混合・除去処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にしてマイクロカプセル分散液を調製し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0118】
(実施例2〜5、比較例2〜5)
表1に従って、除去用溶媒を変更した以外は、実施例1と同様にしてマイクロカプセル分散液を調製し、評価を行った。
(実施例6)
除去用溶媒の添加量を分散液に対して20wt%に変更した以外は、実施例1と同様にしてマイクロカプセル分散液を調整し、評価を行った。
【0119】
(比較例6)
除去用溶媒の添加量を分散液に対して10wt%に変更した以外は、実施例1と同様にしてマイクロカプセル分散液を調整し、評価を行った。
【0120】
【表1】

【0121】
上記結果から、本実施例では、比較例に比べ、液晶マイクロカプセル分散液の塗膜のハジキ数が低減されていることがわかる。
【符号の説明】
【0122】
1 樹脂部材
2 液晶
3 マイクロカプセル
4 液晶マイクロカプセル含有膜
11,12 電極
21,22 基板
30 駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性又は油性の分散媒と、
前記分散媒に分散されるマイクロカプセルと、
前記マイクロカプセルに内包されるカプセルコア成分であって、水性又は油性のうち、前記分散媒とは異なる性質を有するカプセルコア成分と、
を有し、
前記マイクロカプセル外であって前記分散媒に含まれる前記カプセルコア成分の含有量が、100ppm以下であるマイクロカプセル分散液。
【請求項2】
水性又は油性の分散媒と、前記分散媒に分散されるマイクロカプセルと、前記マイクロカプセルに内包されるカプセルコア成分であって水性又は油性のうち前記分散媒とは異なる性質を有するカプセルコア成分と、を有するマイクロカプセル分散液を製造する工程と、
前記マイクロカプセル分散液と、前記カプセルコア成分を溶解する溶媒と、を混合した後、当該溶媒を除去する工程と、
を有するマイクロカプセル分散液の製造方法。
【請求項3】
前記分散媒が水性の分散媒で、前記カプセルコア成分が油性のカプセルコア成分である場合、前記溶媒が、前記分散媒への溶解度1質量%以下で、且つHildebrandの溶解度パラメータδ(SP値)8cal/cm以上9cal/cm以下の有機溶媒である請求項2に記載のマイクロカプセル分散液の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−214247(P2010−214247A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61348(P2009−61348)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】