説明

マイクロカプセル剤及びその製造方法

【課題】 害虫に対して適度な残効性を有し、環境に優しいマイクロカプセル殺虫組成物を提供する。
【解決手段】 ゼラチンまたはゼラチンおよび多糖類からなる膜中に殺虫活性成分を保持せしめたマイクロカプセル剤であり、好ましくは殺虫成分がピレトリンまたは分子中にハロゲン原子を含有しないピレスロイド系化合物であるマイクロカプセル組成物である。マイクロカプセルの粒子径は5μm以上100μm以下であることが好ましく、マイクロカプセル内にカプセルの粒子径未満の大きさの吸油性固体粒子を内包させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゼラチンあるいはゼラチン及び多糖類からなる膜中に殺虫活性成分を保持せしめたマイクロカプセル剤及びその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シロアリやヒラタキクイムシ等の木材害虫、ゴキブリ、ハエ、カ等の衛生害虫、ヨトウムシ、ウンカ、ヨコバイ等の農園芸害虫による害を防ぐために種々の殺虫組成物が提案されてきた。これらの殺虫組成物の有効成分は殺虫活性が高く、安全かつ環境に優しく、適度な残効性を有することが求められてきた。効力を持続させるための殺虫製剤として、マイクロカプセル剤がある。マイクロカプセル剤は殺虫成分がカプセル内に封入されているため、分解が起こりにくくなり、残効性が得られる。
【0003】
殺虫成分をマイクロカプセル化するためには多くの方法が提案されている。例えば、(特許文献1)にはポリエチレングリコールおよび/またはポリプロピレングリコールを用いたマイクロカプセル、(特許文献2)には自己水分散性樹脂を用いたマイクロカプセルの製造方法、(特許文献3)には熱硬化性樹脂を用いたマイクロカプセル、(特許文献4)には多価イソシアネートとアミノ酸アミノアルキルエステルを用いたマイクロカプセルの製造方法、(特許文献5)にはポリウレア膜からなるマイクロカプセル、(特許文献6)にはアミン等量140〜300のポリイソシアネート成分と活性水素基含有成分との反応によるマイクロカプセル等が提案されている。これらの方法によって製造されたマイクロカプセル剤は合成高分子膜物質からなり、環境中で生分解せず、膜物質が長期間残留するという問題があった。
【0004】
一方、生分解性の天然膜物質を用いた殺虫剤のマイクロカプセル剤としては、水溶性天然高分子物質やシクロデキストリン等の水溶性被膜物質からなるもの(特許文献7)や澱粉を被膜物質とした植物製油のマイクロカプセル(特許文献8)が提案されている。これらの天然膜物質を用いたマイクロカプセル剤は、充分な量の有効成分をカプセル内に包含させることができなかったり、残効性が短すぎたりする等の問題点があった。
【0005】
ゼラチンは変性したコラーゲンであり、ゲル化剤や増粘剤などとして広く食品に用いられている安全性が高くかつ生分解性の素材である。ゼラチンは医薬品のカプセルの材料として用いられているが、従来殺虫剤のマイクロカプセル膜の素材としては知られていなかった。農薬としても、わずかに(特許文献9)に除草剤をマイクロカプセル化する方法としてゼラチンとポリアスパラギン酸を用いる方法が開示されているが、殺虫剤に応用できることやゼラチンと多糖類を用いたマイクロカプセルについては何ら示唆されていない。
【0006】
【特許文献1】特開平7−165505号公報
【特許文献2】特開2000−143407号公報
【特許文献3】特開平10−167904号公報
【特許文献4】特開平8−71406号公報
【特許文献5】特開昭62−215514号公報
【特許文献6】特開2001−247409号公報
【特許文献7】特開平5−238904号公報
【特許文献8】特開2002−114605号公報
【特許文献9】特表平11−503960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は適度な残効性を有し、生分解性の天然膜物質からなるマイクロカプセル殺虫剤及びその製造法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ゼラチンあるいはゼラチン及び多糖類からなる膜中に殺虫活性成分を保持せしめたマイクロカプセル剤が本課題を解決しうることを見出し、本発明を完成した。本発明は、ゼラチンあるいはゼラチン及び多糖類からなる膜中に殺虫成分を保持せしめたマイクロカプセルに関するものであり、殺虫成分としてはピレトリンまたは分子中にハロゲン原子を含有しないピレスロイド系化合物が好ましく、特にピレトリンが好ましい。本発明のマイクロカプセルの平均粒子径は5μm以上100μm以下であることが好ましく、さらに希釈安定性を保つために吸油性固体を殺虫活性成分とともにゼラチンあるいはゼラチン及び多糖類からなる膜中に保持せしめることが好ましい。本発明のマイクロカプセルは、ゼラチンまたはゼラチン及び多糖類を含む水溶液を殺虫活性成分または溶剤に溶解した殺虫活性成分からなる芯物質を混合し、30℃〜70℃に加温・攪拌後膜硬化剤を加えることによって製造できる。
【0009】
すなわち、本発明1は、ゼラチン膜中に殺虫活性成分を保持せしめたマイクロカプセル剤であり、本発明2は、ゼラチンと多糖類からなる膜中に殺虫活性成分を保持せしめたマイクロカプセル剤であり、本発明3は、上記殺虫成分がピレトリンまたは分子中にハロゲン原子を含有しないピレスロイド系化合物であるマイクロカプセル剤であり、本発明4は殺虫活性成分がピレトリンである上記のマイクロカプセル剤に関する。本発明5は、マイクロカプセルの平均粒子径が5μm以上100μm以下である上記のマイクロカプセル剤であり、本発明6は、殺虫活性成分とともに、マイクロカプセルの粒子径未満の大きさの吸油性固体粒子を内包してなるマイクロカプセル剤に関する。本発明7は、ゼラチンまたはゼラチン及び多糖類を含有する水溶液と殺虫活性成分または溶剤に溶解した殺虫活性成分からなる芯物質を混合し、30℃〜70℃に加温・攪拌後膜硬化剤を加える本マイクロカプセル剤の製造方法に関し、本発明8は膜硬化剤が塩化カルシウムである本マイクロカプセル剤の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のマイクロカプセル剤を用いることにより種々の害虫を効果的かつ適度な期間防除できるようになった。また、本発明マイクロカプセルの被膜は生分解性であり、環境中に長期間残留することはなかった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のマイクロカプセル剤は、有効成分として種々の殺虫活性成分を用いることができるが、製造上油溶性の化合物が好ましい。本発明のマイクロカプセル剤は、本来残効性の短い化合物に適度な残効性を付与することが目的であり、マイクロカプセル以外の製剤では容易に分解し残効性に欠ける殺虫剤、すなわち、ピレトリンや分子内にハロゲン元素を有しないピレスロイドを用いることによりその特徴を特に発揮させることができる。また、殺虫活性成分としてピレトリンを用いることにより、全て天然物からなるマイクロカプセル剤を得ることができ、生分解性という点で特に好ましい。これらの殺虫活性成分の含有率は特に制限されないが、マイクロカプセル剤中に通常1〜50重量%であり、好ましくは3〜15重量%である。
【0012】
上記殺虫活性成分は通常溶剤に溶解して用いるが、常温で油状の化合物であればそのまま用いても良い。溶剤は殺虫剤を溶解するものであれば特に限定されないが、水に対する溶解度の低いものが好ましい。本発明で用いられる溶剤としては、例えば、コーンオイル、コットンオイル、菜種油、ゴマ油等の天然油、酢酸エチル、安息香酸メチル、フタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチルなどのエステル系溶剤、トルエン、キシレン、メチルナフタレンなどの芳香族系溶剤、n−ヘキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族または脂環式炭化水素系溶剤、パラフィン類、灯油、軽油などの石油溜分系溶剤、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素系溶剤等を用いることができるが、生分解性という点から天然油を用いることが好ましい。
【0013】
マイクロカプセル膜としてはゼラチンを用いるが、ゼラチン及び多糖類を用いることが好ましい。多糖類は、特に限定されず、たとえば、アラビアゴム、ペクチン、キサンタンガム、グァーガム、カラギナン、ローストビーン等が挙げられる。
【0014】
マイクロカプセルに内包される吸油性固形粒子は特に制限されないが、クレー、タルク、カオリン、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、ケイ砂等の鉱物、酸化鉄、酸化銅、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、無晶系二酸化ケイ素、二酸化チタン等の金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、硫酸カルシウム、ゼオライト等を用いることができる。これらの中でもクレー、タルク、無晶系二酸化ケイ素、酸化亜鉛が好ましい。吸油性固体粒子は油相に対して好ましくは0.1〜30重量%、より好ましくは1〜10重量%配合される。30重量%より高濃度であると、マイクロカプセル化が阻害され正常なマイクロカプセルを生成することが難しくなり、0.1重量%より低濃度であると固体粒子を添加する効果が低くなる。固体粒子の大きさは、マイクロカプセルの粒子径未満である必要がある。固体粒子の粒度分布が、マイクロカプセルの粒度分布と同程度あるいは狭ければ、固体粒子の平均粒子径はマイクロカプセル粒子の平均粒子径以下であることが望ましい。
【0015】
本発明のマイクロカプセル組成物は、以下の方法に準じて製造することができる。すなわち、水を30℃〜70℃に加温し、そこにゼラチンまたはゼラチン及び多糖類を混合・溶解し、水酸化ナトリウム溶液等のアルカリを加えpHを5以上に調整する。このゼラチンまたはゼラチン及び多糖類を含有する水溶液に殺虫活性成分、殺虫活性成分を溶解した溶剤もしくは殺虫活性成分を吸着させた吸油性固体からなる芯物質を混合し、30℃〜70℃に加温・分散させる。分散させた混合液を冷却後、硬化剤を加えることによりマイクロカプセル剤を得る。ゼラチン量、分散速度、分散時間、硬化剤の量、混合液のpHを調整することにより、被膜物質の量、膜厚、平均粒子径等を適宜制御することができる。
【0016】
マイクロカプセルの平均粒子径の測定には、例えばレーザー回折式粒度分布測定装置SALD−2000(島津製作所製)等を用いて行うことができる。本発明組成物のマイクロカプセルの平均粒子径は5μm以上100μm以下であり、好ましくは10μm以上50μm以下である。マイクロカプセルの平均粒子径が5μmより小さいと、容易に破壊されにくくなるため十分な効力が発揮されない。平均粒子径が100μmを超える場合には安定なマイクロカプセルを調製することが困難になり、またマイクロカプセル組成物の希釈や撹拌の操作によってマイクロカプセルが破壊されやすくなりマイクロカプセルとしての効力の持続性を発揮できない恐れがある。
【0017】
本発明のマイクロカプセル剤を調製する際に、製剤の安定化のために増粘剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、キレート剤、防錆剤、消泡剤、pH調節剤等を添加しても良い。
【実施例】
【0018】
次に本発明の実施例及び比較例をあげて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下に示した配合比率はすべて重量%である。
【0019】
実施例1
牛由来のゼラチン(新田ゼラチン株式会社製)2.8g、アラビアガム(三栄薬品貿易株式会社製)1.4g、ペクチン(和光純薬工業株式会社製)2.8g。0.4%水酸化ナトリウム水溶液15gをイオン交換水105gに溶解し水相とした。水相をT.K.ホモミックミキサー(特殊機化工業株式会社製)を用いて回転数4000rpmで分散しながらコーンオイルに溶解した天然ピレトリン50%溶液80gを添加し、そのまま15分間分散を続けた。分散後、500rpmで撹拌しながら5%酢酸溶液10mlを加えpH4.2以下になるように調節した。pH調節後、氷水に移し700rpmで30分間撹拌し続けた。氷水から30℃の温水に移し、500rpmで30分間撹拌した。30分後、撹拌しながら1%塩化カルシウム水溶液74gを加えた。これに、天然ピレトリン濃度が10%となるように、ケルザンS(三晶株式会社製)の0.2%水溶液を加え、実施例1のマイクロカプセル剤を得た。平均粒子径を測定した結果、10μmであった。
【0020】
実施例2
豚由来のゼラチン(新田ゼラチン株式会社製)2.8g、アラビアガム1.4g、ペクチン2.8g、0.4%水酸化ナトリウム水溶液15gをイオン交換水105gに溶解し水相とした。水相をT.K.ホモミックミキサーを用いて回転数4500rpmで分散しながらコーンオイルに溶解した天然ピレトリン50%溶液80gを添加し、そのまま15分間分散を続けた。分散後、500rpmで撹拌しながら5%酢酸溶液10mlを加えpH4.2以下になるように調節した。pH調節後、氷水に移し700rpmで30分間撹拌し続けた。氷水から30℃の温水に移し、500rpmで30分間撹拌した。30分後、撹拌しながら1%塩化カルシウム水溶液74gを加えた。これに、天然ピレトリン濃度が10%となるように、ケルザンSの0.2%水溶液を加え、実施例2のマイクロカプセル剤を得た。平均粒子径を測定した結果、13μmであった。
【0021】
実施例3
PYROCIDE−50(50%天然ピレトリン、McLAUGHLIN GORMLEY KING COMPANY製)80g、タルク(平均粒子径3μm、富士タルク工業株式会社製)5gを混合し油相とした。豚由来のゼラチン(新田ゼラチン株式会社製)2.8g、アラビアガム1.4g、ペクチン2.8g、0.4%水酸化ナトリウム水溶液15gをイオン交換水105gに溶解し水相とした。水相をT.K.ホモミックミキサーを用いて回転数5000rpmで分散しながら油相溶液を添加し、そのまま15分間分散を続けた。分散後、500rpmで撹拌しながら5%酢酸溶液10mlを加えpH4.2以下になるように調節した。pH調節後、氷水に移し700rpmで30分間撹拌し続けた。氷水から30℃の温水に移し、500rpmで30分間撹拌した。30分後、撹拌しながら1%塩化カルシウム水溶液74gを加えた。これに、天然ピレトリン濃度が10%となるように、ケルザンSの0.2%水溶液を加え、実施例3のマイクロカプセル剤を得た。平均粒子径を測定した結果、14μmであった。本製剤を水で100倍に希釈して1日放置したところ、カプセルの浮遊や沈降は認められず、希釈安定性は良好であった。
【0022】
比較例1
PYROCIDE−50(50%天然ピレトリン、McLAUGHLIN GORMLEY KING COMPANY製)20g及びニューカルゲンCP−120(竹本油脂株式会社製)15gをIPソルベント(出光石油化学株式会社製)75gに均一に溶解し乳剤とした。
【0023】
試験例1 イエシロアリに対する殺虫効果
直径9cmのプラスチックシャーレに砂を20g敷き詰めた。実施例1、2及び比較例1の各製剤をイオン交換水で表1に示す希釈倍率に希釈し、砂の上から約5ml処理した。処理直後及び40℃に所定期間保存後、イエシロアリ職蟻20頭を放ち、それぞれ放飼48時間後の生死を調査し、死虫率を算出した。なお実験は2反復で行った。
【0024】
【表1】

実施例1及び2のマイクロカプセル剤は、イエシロアリに対し比較例と比べ長期間の残効性を示した。
【0025】
試験例2 チャバネゴキブリに対する殺虫効果
実施例1、2及び比較例1の各製剤をイオン交換水で表2に示す希釈倍率に希釈し、縦9cm、横12cmのガラス板に0.54ml処理した。処理直後及び25℃に所定の期間保存後、チャバネゴキブリ雌雄5頭ずつを放ち、それぞれ放飼48時間後の生死を調査し、死虫率を算出した。なお実験は2反復で行った。
【0026】
【表2】

実施例1及び2のマイクロカプセル剤は、チャバネゴキブリに対し比較例1と比べ長期間の残効性を示した。すなわち、本発明のマイクロカプセル剤は害虫に対して適度な残効性を示すことが明らかとなった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチン膜中に殺虫活性成分を保持せしめたマイクロカプセル剤。
【請求項2】
ゼラチンと多糖類からなる膜中に殺虫活性成分を保持せしめたマイクロカプセル剤。
【請求項3】
殺虫活性成分がピレトリンまたは分子中にハロゲン原子を含有しないピレスロイド系化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載のマイクロカプセル剤。
【請求項4】
殺虫活性成分がピレトリンであることを特徴とする請求項1、2または3に記載のマイクロカプセル剤。
【請求項5】
平均粒子径が5μm以上100μm以下であることを特徴とする請求項1〜4に記載のマイクロカプセル剤。
【請求項6】
殺虫活性成分とともに、マイクロカプセルの粒子径未満の大きさの吸油性固体粒子を内包してなることを特徴とする組成請求項1〜5に記載のマイクロカプセル剤。
【請求項7】
ゼラチンまたは、ゼラチン及び多糖類を含有する水溶液と殺虫活性成分または溶剤に溶解した殺虫活性成分からなる芯物質を混合し、30℃〜70℃に加温・攪拌後膜硬化剤を加えることを特徴とする請求項1〜6に記載のマイクロカプセル剤の製造方法。
【請求項8】
膜硬化剤が塩化カルシウムであることを特徴とする請求項7に記載のマイクロカプセル剤の製造方法。

【公開番号】特開2007−223907(P2007−223907A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−43499(P2006−43499)
【出願日】平成18年2月21日(2006.2.21)
【出願人】(000250018)住化エンビロサイエンス株式会社 (69)
【Fターム(参考)】