説明

マイクログリッドにおける電力需給制御システム

【課題】電力不足に適切に対応して、マイクログリッドを自立運転できる機会を増大させる。
【解決手段】商用電力源1に接続されるマイクログリッドMGが、1つの共通電力網10と複数の個別電力網20とを有する。共通電力網10は、共通蓄電機器11,共通発電機12を有する。個別電力網20は、個別蓄電機器21と個別発電機22と車両に搭載された車載蓄電機器23とを有する。マイクログリッドMG全体として電力不足が予測されたときは、予測された電力不足を補うために、共通蓄電機器11,個別蓄電機器21,車載蓄電機器23の優先順で放電を行わせ、車載蓄電機器23からの放電でも電力不足のときは、商用電力源1から電力の調達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクログリッドにおける電力需給制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時、個別の住宅、集合住宅、大型店舗、工場等の電力需要家が、個別に充電機器と発電機器とを有して、商用電力を極力利用することなく、電力の需給をまかなうようにすることが増加している。個別の電力需要家のみでの電力需給には限界があるため、特許文献1に記載のように、複数の電力需要家の間で電力網を形成して、ある電力需要家の余剰電力を他の電力需要家の不足電力として供給することが開示されている。発電機と蓄電機器とを有して、電力需給を極力自立運転でまかなうようにしたシステムは、マイクログリッド(あるいはマイクログリッドシステム)と呼ばれており、このマイクログリッドにおいては、商用電力との間での電力授受を極力抑制した自立運転が強く望まれるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2004/073136 A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなマイクログリッドにおいては、複数の電力需要家をもってしても完全に電力需給をまかなうことは難しく、商用電力の利用を考慮せざるを得ないものである。すなわち、複数の電力需要家が全体として電力不足の場合は、不足分の電力を商用電力から供給してもらう必要があり、逆に複数の電力需要家が全体として電力余剰の場合は、余剰電力を商用電力に供給する必要がある。とりわけ、最近では、電力需要家が大容量の蓄電機器を搭載した車両(例えばハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車等)を利用することから、電力需要が高まる一方、車両が搭載している蓄電機器が相当に大きな電力源となる。したがって、この車両が搭載した蓄電機器を有効に利用すれば、マイクログリッドでの自立運転する機会が増大して、マイクログリッドを形成したメリットが大きくなる。とりわけ、電力不足の際に、いかに商用電力源から電力供給を受けないようにするかが、自立運転する機会を増大させる上で重要となる。
【0005】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、電力不足に適切に対応して、マイクログリッドを自立運転できる機会を増大できるようにしたマイクログリッドにおける電力需給管理システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち、特許請求の範囲における請求項1に記載のように、
商用電力源に対して接続されるマイクログリッドが、共通用発電機および共通用蓄電機器を備えると共に第1電力授受用機器を介して前記商用電力源に対して接続された共通電力網と、それぞれ第2電力授受用機器を介して前記共通電力網に対して接続されると共にそれぞれ個別発電機と個別蓄電機器とを備えた複数の個別電力需要家用となる複数の個別電力網とによって構成され、
前記マイクログリッドに対して、車両に搭載された車載蓄電機器が接続可能とされており、
前記第1電力授受用機器を制御して前記共通電力網と前記商用電力源との間での電力授受を制御すると共に、前記各第2電力授受用機器を制御して該共通電力網と前記複数の個別電力網との間での電力授受を制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、マイクログリッド全体での電力の不足を予測して、電力不足と予測した場合は、予測された不足分の電力を前記共通蓄電機器、前記個別蓄電機器、前記車載蓄電機器の優先順で放電させるように制御すると共に、車載蓄電機器からの放電でもさらに電力が不足する場合には前記商用電力源から不足分の電力を調達するように設定されている、
ようにしてある。上記解決手法によれば、マイクログリッド全体で電力不足が予測された場合は、この不足電力を、まず共通蓄電機器からの放電で補い、共通蓄電機器からの放電でも不足する場合は個別蓄電機器からの放電で補い、個別蓄電機器からの放電でも不足する場合は車載蓄電機器からの放電で補い、車載蓄電機器からの放電でも不足する場合は、最後に商用電力源から電力が調達されることになる。このように、車載蓄電機器を有効に利用することにより、マイクログリッドの自立運転する機会を増大させて、商用電力源からの電力調達を極力抑制することができる。また、不足電力を補う際には、まずマイクログリッド全体として共通用となる共通蓄電機器からの放電で対応するので、各電力需要家での自立運転を極力妨げることなく行う上で好ましいものとなる。さらに、車載蓄電機器からの放電はマイクログリッドとしては最後に行うようにしてあるので、車両を利用する(走行を行う)際に車載蓄電機器が適切に蓄電されている状態を確保しておく上でも好ましいものとなる。
【0007】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2以下に記載のとおりである。すなわち、
前記車載蓄電機器が、前記個別電力網に対して接続可能とされ、
前記制御手段は、前記マイクログリッド全体での電力の余剰を予測して、電力余剰と予測した場合は、予測された余剰分の電力を前記共通蓄電機器、前記個別蓄電機器または前記車載蓄電機器の一方、前記個別蓄電機器または前記車載蓄電機器の他方の優先順で蓄電させるように制御すると共に、前記個別蓄電機器と前記車載蓄電機器の他方の蓄電でもさらに電力が余剰する場合には前記商用電力源に対して余剰分の電力を放電するように設定されている、
ようにしてある(請求項2対応)。この場合、余剰電力をまず共通蓄電機器に充電するようにしてあるので、電力不足の際に共通蓄電機器からの放電可能量を十分に確保しておく上で好ましいものとなる。また、個別蓄電機器および車載蓄電機器については、個別電力網に接続されて使用されることを考慮して、共通蓄電機器よりも優先順位を下げて充電されるようにして、個別電力網において自立運転する機会を増大させる上で好ましいものとなる。勿論、商用電力源への放電は、マイクログリッド内の蓄電機器に対する充電でも不十分な場合に始めて行うようにして、電力余剰の際にも自立運転する機会を増大させる上で好ましいものとなる。
【0008】
前記車載蓄電機器が、前記共通電力網に接続され、
前記制御手段は、前記マイクログリッド全体での電力の余剰を予測して、電力余剰と予測した場合は、予測された余剰分の電力を前記車載蓄電機器、前記共通蓄電機器または前記個別蓄電機器の一方、前記共通蓄電機器または前記個別蓄電機器の他方の優先順で蓄電させるように制御すると共に、前記共通蓄電機器または前記個別蓄電機器の他方の蓄電でもさらに電力が余剰する場合には前記商用電力源に対して余剰分の電力を放電するように設定されている、
ようにしてある(請求項3対応)。この場合、余剰電力をまず車載蓄電機器に充電するようにしてあるので、車載蓄電機器を走行に備えて十分に充電しておく上で好ましいものとなる。また、商用電力源への放電は、マイクログリッド内の蓄電機器に対する充電でも不十分な場合に始めて行うようにして、電力余剰の際にも自立運転する機会を増大させる上で好ましいものとなる。
【0009】
前記制御手段によるマイクログリッド全体での電力の過不足の予測が、前記共通蓄電機器の過去の長期間の平均的充放電量と短期間の充放電量とに基づいて行うように設定されている、ようにしてある(請求項4対応)。この場合、電力の過不足の予測を、精度よく行う上で好ましいものとなる。
【0010】
前記制御手段による前記個別蓄電機器への充放電が、個別の電力需要家における電力需給予測に基づいて算出される前記個別蓄電機器の充放電可能量に基づいて行うように設定されている、ようにしてある(請求項5対応)。この場合、個別の電力需要家での電力需要を優先しながら、マイクログリッド全体として自立運転する機会を増大させる上で好ましいものとなる。
【0011】
前記制御手段によるマイクログリッド全体での電力の過不足の予測が、前記個別の電力需要家の電力需給予測に基づいて行うように設定され、
前記個別の電力需要家の電力需給予測が、前記個別蓄電機器の過去の長期間の平均的充放電量と短期間の充放電量とに基づいて行うように設定されている、
ようにしてある(請求項6対応)。この場合、マイクログリッド全体としての電力の過不足を精度よく予測する上で好ましいものとなる。
【0012】
前記制御手段による前記車載蓄電機器への充放電の制御が、個別の車両の行動予測に基づいて算出される前記車載蓄電機器の充放電可能量に基づいて行うように設定されている、ようにしてある(請求項7対応)。この場合、個別の車載蓄電機器(個別の車両)での電力需要を優先しながら、マイクログリッド全体として自立運転する機会を増大させる上で好ましいものとなる。
【0013】
前記個別の車両の行動の予測が、過去の長期間の平均的行動と短期間の行動とに基づいて行うように設定されている、ようにしてある(請求項8対応)。この場合、車両の行動予測を精度よく行う上で好ましいものとなる。
【0014】
前記個別の車両の行動の予測が、個別の車両の行動情報を群として扱って予測するように設定されている、ようにしてある(請求項9対応)。この場合、車両の行動予測を精度よく行う上で好ましいものとなる。
【0015】
前記個別の車両の行動予測に使う行動情報が、駐車時刻とされている、ようにしてある(請求項10対応)。この場合、車両の行動予測を精度よく行う上で好ましいものとなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、マイクログリッド全体としての電力不足を予測して、この予測に基づく電力不足を、マイクログリッド内に構成された共通蓄電機器と個別蓄電機器と車載蓄電機器とを適切な優先順で有効に利用して、マイクログリッド全体として自立運転する機会を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】マイクログリッドの一例を示す系統図。
【図2】マイクログリッドの制御系統をブロック図的に示す図。
【図3】個別電力網での電力需給予測を示すシステム図。
【図4】マイクログリッド全体での電力需給予測を示すシステム図。
【図5】マイクログリッド全体での電力不足に対応するときのシステム図。
【図6】マイクログリッド全体での電力余剰に対応するときのシステム図。
【図7】個別電力網での電力需要量の予測例を示す図。
【図8】太陽光発電量の予測例を示す図。
【図9】個別蓄電機器の放電可能量を予測するときに用いるデータを示す図。
【図10】個別蓄電機器の放電可能量の予測例を示す図。
【図11】個別蓄電機器の充電可能量を予測するときに用いるデータを示す図。
【図12】個別蓄電機器の充電可能量の予測例を示す図。
【図13】個別蓄電機器の充放電可能量予測をより精度よく行うための一例を示す図。
【図14】車両の行動(走行距離)を予測するときに用いるデータを示す図。
【図15】車両の走行距離から車載蓄電機器の必要充電量を算出する一例を示す図。
【図16】車載蓄電機器を利用できる時間帯の予測値と駐車開始時の車載蓄電機器の充電量の予測値とを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1において、1は商用電力源で、電力会社が所有、管理するものであり、通常の交流電源とされる。この商用電力源1に対して、マイクログリッドMGが接続されている。このマイクログリッドMGは、1つの共通電力網10と、複数の個別電力網20とを有する。共通電力網10は、共通蓄電機器11と共通発電機12とを有して、ゲートウエイ13を介して商用電力源1に接続されている。共通蓄電機器11は例えばバッテリとされ、共通発電機12は例えば太陽光発電機やコジェネ等が用いられている(実施形態では太陽光発電機を用いてある)。また、ゲートウエイ13は、商用電力源1との電力の授受を行うためのもので、電力授受のために電圧、周波数および位相を調整する機能を有する。
【0019】
個別電力網20は、個別蓄電機器21と、個別発電機22と、車載蓄電機器23とを有する。なお、図1では、一部の個別電力網20については、個別蓄電機器21、個別発電機22、車載蓄電機器23を省略してある。個別蓄電機器21は例えばバッテリとされ、個別発電機22は例えば太陽光発電機やコジェネ等が用いられている(実施形態では太陽光発電機を用いてある)。また、車載蓄電機器23は、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車に搭載された例えばバッテリとされ、これらの車両が個別電力網20に接続される。勿論、車両が個別の電力需要家の需要に応じて走行に使用されたときは、車載蓄電機器23は個別電力網20から離脱されるものである。
【0020】
個別電力網20は、個別の電力需要家用となるもので、複数(例えば1戸建て住宅の場合は数十戸)設置される。そして、共通蓄電機器11および共通発電機12は、複数の個別電力網20用となることから、個別蓄電機器21や個別発電機22よりも大型(大容量)とされている。各個別の電力需要家は、例えば、照明、空調等の各種の電力消費器具を有していて、その電力需要を自立運転させるために、共通電力網10に接続されたHEMS(Home1 Energy Management Systemで、マイクロコンピュータを利用して構成)25を備えている。このHEMS25は、基本的に、各個別電力網20の電力需要が極力自立運転されるように個別蓄電機器21,共通発電機22および車載蓄電機器23を制御すると共に、余剰電力が生じたときは共通電力網10へ放電し、不足電力が生じたときは共通電力網10から不足電力の供給を受けるように制御する。
【0021】
図1中CMは、マイクロコンピュータを利用して構成された制御手段としての中央管理センターである。この中央管理センターCMは、マイクログリッドMG全体の電力需要を制御するものである。すなわち、マイクログリッドMG全体で余剰電力が生じたときは、後述するように共通蓄電機器11,個別蓄電機器21,車載蓄電機器23への充電を行う一方、これらへの充電でも不十分な場合に、ゲートウエイ13を介して商用電力源1へ放電させる。また、マイクログリッド全体で電力不足が生じたときは、後述するように共通蓄電機器11,個別蓄電機器21,車載蓄電機器23の優先順で放電を行わせる一方、これらの放電でも不十分な場合に、ゲートウエイ13を介して商用電力源1から電力を調達する。
【0022】
上記中央管理センターCMは、図2に示すように、各HEMS25との間で制御信号の授受を行ないつつ、各HEMS25およびゲートウエイ13の制御を行う他、各種情報入手部31〜33からの信号を受ける。情報入手部31は天気の予測情報(例えば曇り、晴れ、雨、雪等)を得るものである。情報入手部32は気温の予測情報を得るものである。情報入手部33湿度の予測情報を得るものである。各情報入手部31〜33は、例えば気象庁等からの天気情報を受信して中央管理センターCMに伝達する。中央管理センターCMは、情報入手部31〜33から受信した情報を、各HEMS25へ送信する機能をも有する。
【0023】
中央管理センターCMは、次のような機能を行う。まず、共通蓄電機器11について、蓄電量(の情報)を常時得ていると共に、過去の充放電情報を記憶している。また、HEMS25を介して、個別蓄電機器21と車載蓄電機器23とについて、その充放電量(の情報)を常時得ていると共に過去の充放電情報を記憶しており、さらに個別発電機22の発電電力(の情報)を常時得ていると共に、過去の発電電力情報を記憶している。さらに、中央管理センターCMは、HEMS25を介して、車載蓄電機器23を搭載した車両の行動情報を常時得ていると共に、過去の行動情報(例えば個別電力網20に接続された状態となる駐車時刻等)を記憶している。
【0024】
HEMS25の機能について、図3を参照しつつ説明する。HEMS25は、個別の電力需要家の電力需給に関する情報を常時得ていると共に、電力需給に関する過去の情報を記憶している。そして、HEMS25は、記憶している過去の電力需給情報と、天気情報、気温情報および湿度情報を加味して、個別の電力需要家の電力需給を予測する(個別電力網20での電力需給の予測)。そして、現在の個別蓄電機器21の蓄電量と予測された電力需給予測とに基づいて、個別蓄電機器21の充放電可能量を決定する。なお、実施形態では個別発電機22が太陽光発電機とされているので、発電可能電力は天気情報等に基づいて予測される。個別蓄電機器21での充放電のみでは電力の過不足を生じる場合は、車載蓄電機器23の充放電によって過不足が補われる。個別蓄電機器23の充放電可能量は、車両の行動予測と現在の車載蓄電機器23の蓄電量とに基づいて決定される。車載蓄電機器23の充放電を行っても電力の過不足を解消できないときは、共通蓄電機器11の充放電によって過不足が補われる。共通蓄電機器11の充放電可能量は、マイクログリッドMG全体の電力需給予測と現在の共通蓄電機器11の蓄電量とに基づいて決定される。この共通蓄電機器11の充放電でも個別電力網20の電力過不足が解消されないときは、商用電力源1からの電力供給あるいは商用電力源1への電力放電によって、個別電力網20の電力過不足が解消される。
【0025】
中央管理センターCMによるマイクログリッドMG全体としての電力過不足の調整は、例えば図4に示すように行われる。すなわち、例えば各個別電力網20での電力需給予測に基づいて、マイクログリッドMG全体の電力需給予測が行われる。このマイクログリッドMG全体の電力需給予測と現在の共通蓄電機器11の蓄電量とに基づいて、共通蓄電機器11の充放電量(充放電可能量)が決定される。この共通蓄電機器11の充放電のみでは電力の過不足が生じる場合は、個別蓄電機器21の充放電が行われる。個別蓄電機器21の充放電可能量の決定は、図3で説明した場合と同じである。個別蓄電機器21の充放電でもマイクログリッドMG全体の電力過不足を解消できないときは、車載蓄電機器23からの充放電が行われる。車載蓄電機器23の充放電可能量は、図3で説明した場合と同様である。この車載蓄電機器23の充放電でも電力の過不足が解消されないときは、商用電力源1との間での電力授受によって電力の過不足が解消される。
【0026】
図5は、マイクログリッドMG全体として電力不足の場合に、不足電力をいかにして解消するかを示すものである。この図5は、図4の説明のうち、電力不足に対応したものなので、電力不足を補うために使用する機器の優先順に着目して説明する。まず、電力不足は、共通蓄電機器11からの放電によって補われる。この共通蓄電機器21からの放電によっても電力不足であるときは、個別蓄電機器21からの放電が行われる。この個別蓄電機器21からの放電によっても電力不足であるときは、車載蓄電機器23からの放電が行われる。この車載蓄電機器23からの放電によっても電力不足のときは、商用電力源1から電力が調達される。
【0027】
図6は、マイクログリッドMG全体として電力余剰の場合に、余剰電力をいかにして解消するかを示すものである。この図6は、図4の説明のうち、電力余剰に対応したものなので、電力余剰を解消するために使用する機器の優先順に着目して説明する。まず、電力余剰は、共通蓄電機器11への充電によって吸収される。この共通蓄電機器11の充電によっても電力余剰であるときは、個別蓄電機器21の充電が行われる。この個別蓄電機器21の充電によっても電力不足であるときは、車載蓄電機器23の充電が行われる。この車載蓄電機器23の充電によっても電力余剰のときは、商用電力源1への電力放電が行われる。
【0028】
図7は、各個別電力網20(個別の電力需要家)における個別電力需要量を予測するための一例を示すものである。まず、各個別電力網20での電力需要の過去データが、長期間の5年分と短期間の1年分との2種類が記憶、更新されている。各データは、天気(晴れ、曇り、雨等の区別あり)の区別毎に、各曜日毎かつ時刻毎の電力需要量(の平均値)が記憶されている。個別電力需要量は、「時刻毎の過去1年分の平均値」に対して、「過去5年分の平均値から過去1年分の平均値を差し引いた値の1/2」をリスク値として加算した値として設定される(リスク値を加算するのは、電力需要量が増大する可能性を勘案したもの)。
【0029】
図8は、個別電力網20での発電電力(太陽光発電による電力)を予測するための一例を示すものである。まず、過去5年分と過去1年分の発電電力について、各月毎に、天気の区別毎かつ時刻の相違毎に発電電力のデータが記憶、更新されている。発電電力の予測値は、「時刻毎の過去1年分の平均値」に対して、「過去5年分の平均値から過去1年分の平均値を差し引いた値の1/2」をリスク値として加算した値として設定される(リスク値を加算するのは、発電量が増大する可能性を勘案したもので、発電量が少なくなる可能性を考慮する場合はリスク値を減算するようにすればよい)。なお、図7,図8のデータ共に、月の代わりに季節(例えば春、夏、秋、冬の4半期毎)を用いるようにしてもよく、この場合は、記憶しておくデータ量を少なくすることができる。
【0030】
図9、図10は、個別蓄電機器23の放電可能量の算出例を示すものである。まず、図9に示すように、現在時刻以降で、電力需給が0になる時点を、現在時刻から2点抽出し、この2点がα時点とβ時点として示される。この後、現在時刻からα時点までの電力需給量Aと、α時点とβ時点との間での電力需給量Bとが算出(予測)される。なお、α時点、β時点、A、Bの値は、例えば図7において説明した記憶されている例えば過去1年分の電力需要量に関するデータに基づいて決定される。
【0031】
この後、図10に示すように、S1(Sはステップを示す−以下同じ)で個別蓄電機器21の現在の蓄電量から需要量Aを差し引いた値Xが0以下であるか否かが判断されて、この判断がYESのときは、S2において放電可能量が0と決定される。上記S1判断でNOのときは、S3において、個別蓄電機器21の現在の蓄電量から、「A+B」を差し引いた値Yが0以下であるか否かが判断されて、この判断がYESのときは、S4において、個別蓄電機器21からの放電可能量が0と決定される。上記S3の判断でNOのときは、S5において、Aが0よりも小さいか否かが判断されて、この判断がYESのときは、S6において、放電可能量がYとして決定される。また、S5の判断でNOのときは、S7において、放電可能量がXとして決定される。
【0032】
図11,図12は、個別蓄電機器21の充電可能量を算出する一例を示すものである。この図11におけるα、β、A、Bは、それぞれ図9に示す場合と同じである。そして、図12に示すように、S11においてAが0よりも小さいか否かが判断されて、この判断がYESのときは、S12において、個別蓄電機器21の充電可能量が、個別蓄電機器21の「満充電量+A−現在の蓄電量」として決定される。上記S11の判断でNOのときは、S13において、A+Bが0以上であるか否かが判断される。このS13の判断でYESのときは、S14において、個別蓄電機器21の充電可能量が、個別蓄電機器21の満充電量から現在の蓄電量を差し引いた値として決定される。上記S13の判断でNOのときは、S15において、個別蓄電機器21の充電可能量が、「満充電量+(A+B)−現在の蓄電量」として決定される。
【0033】
ここで、個別蓄電機器21の充放電量をより精度よく予測するために、次のような手法を採択してもよい。すなわち、図13に示すように、まずS21において、図10〜図12で説明したような個別蓄電機器21の充電可能量あるいは放電可能量を算出した後、S22において、個別蓄電機器21の充電あるいは放電が完了するまでの時刻を計算する(予測する)。この後、S23において、算出された(予測された)充放電完了時刻からの充放電可能量を、図10〜図12で説明したのと同様の手法によって算出する。この後、S24において、S21での計算値とS23での計算値とが大きく相違しない安定した状態となっているか否かが判断される。このS24の判断でNOのときは、S22に戻って、再びS24へ至る処理が行われる(時刻をさらに将来に移動しての計算し直し)。そして、S24の判別でYESのときに、最終的にS23で計算された計算値が、個別蓄電機器21の充放電可能量として決定される。
【0034】
図14は、各車載蓄電機器23の必要充電量(車両の走行のために必要な電力量)を予測するための一例を示すものである。まず、図14に示すように、各車両(車載蓄電機器23)の走行距離に関する過去データが、長期間の過去1年分と短期間の過去1ヶ月分との2種類が記憶、更新されている。各データは、各曜日毎かつ時刻毎の走行距離(の平均値)が記憶されている。走行距離の予測値は、図15のS31に示すように、「現在から24時間後までの走行距離の1ヶ月平均値」に対して、「過去1年分の平均値から過去1ヶ月分の平均値を差し引いた値の1/2」をリスク値として加算した値として設定される(リスク値を加算するのは、走行距離が増大する可能性を勘案したもの)。そして、図15のS32に示すように、予測される走行距離を走行するのに必要な車載蓄電機器23の充電量が算出される。この後S33において、放電可能量が、「車載蓄電機器23の満充電量」から、「S32で算出された必要充電量に一定の予備量を加算した値」を差し引くことにより決定される。上記一定の予備量は、車両の走行を電力を利用して行う機会を確実に確保しておくためのものであり、この一定の予備量を設定しないようにしてもよい。また、車載蓄電機器23の充電可能量は、満充電量から現在の充電量を差し引いた値として決定することができる。
【0035】
車載蓄電機器23の放電可能量については、上述した走行距離の代わりに直接測定される電力消費を利用してもよく、また過去1年の平均の分散を前述したリスク値として扱うようにしてもよい。
【0036】
車載蓄電機器23については、車両を使用しているとき(個別電力網20を離脱して走行しているとき)は、マイクログリッドMGのための充放電用としては利用できないものである。このため、車載蓄電機器23については、例えば駐車時刻を考慮して、車載蓄電機器23の利用可能性について予測するようにするのが好ましい。図16は、駐車時刻の過去データの一例を示すものであり、過去1年分の駐車時刻のデータと、過去1ヶ月分の駐車時刻のデータとを記憶、更新している。各データは、各曜日毎に設定されている。駐車開始時刻と駐車終了時刻とが、上記1年分のデータと1ヶ月分のデータとに基づいて、図7,図8等で説明したのと同様の手法によって予測される(リスク値を加味した決定)。また、駐車開始時の車載蓄電機器23の蓄電量が同様にして予測される(図16に示す場合は、図15のS33で設定した一定の予備値が設定されていない)。このような個別電力網20に接続される複数の車載蓄電機器23は、1つの群として(1つの大容量の車載蓄電機器)として扱って、その合計の充放電量を予測することができる。
【0037】
以上実施形態について説明したが、本発明は、実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能であり、例えば次のような場合をも含むものである。
(1)個別電力網20(の一部)に車載蓄電機器23が接続された形式のマイクログリッドMG全体として電力余剰のときに、共通蓄電機器11への充電の次に充電する蓄電機器として、車載蓄電機器23とし、その後個別蓄電機器21に設定することもできる。また、車載蓄電機器23と個別蓄電機器21とのいずれを優先して充電するかを、個別電力網20に設定されたスイッチ(個別の電力需要家によって操作されるスイッチ)によって自由に選択できるようにしてもよい。
(2)共通電力網10に車載蓄電機器23が接続される形式であってもよい。この場合、マイクログリッドMG全体として電力余剰を吸収させる機器の優先順として、第1に車載蓄電機器23,第2に共通蓄電機器21,第3に個別蓄電機器21とし、最後に商用電力源1への放電を行うように設定するのが好ましい。すなわち、車載蓄電機器23が共通電力網10に接続される場合は、車両が複数の個別の電力需要家の間で共通使用される場合等、車両が頻繁に使用(走行)される可能性が高い設定となるので、車載蓄電機器23への充電を最優先させるのが好ましいものとなる。勿論、上記の優先順とは異なるが、充電を行う優先順の第1番目を共通蓄電機器21とし、第2番目を車載蓄電機器23とし、第3番目を個別蓄電機器21とし、最後に商用電力源1とすることもできる。また、充電を行う優先順を、共通電力網10に設定したスイッチによって選択できるようにしてもよい(ただし、商用電力源1への放電が最後となる)。なお、車載蓄電機器23への充電を個別蓄電機器21の充電に優先して行うのが好ましい。
【0038】
(3)マイクログリッドMG全体としての電力需要予測は、各個別電力網20での電力需要予測の加算値として行うのみならず、適宜の手法によって行うことができる。例えば、共通蓄電機器11の過去の充放電量のデータに基づいて行うこともできる(図7,図8において行われているように、長期間のデータと短期間のデータとに基づいての予測が好ましい)。また、上記に加えて、実際に商用電力源1と電力のやりとりをしたときのデータを蓄積して、この蓄積データをも加味することにより、マイクログリッドMG全体の電力不足あるいは電力余剰を予測することもできる。
(4)上記(3)や図7,図8,図14,図16に示したような長期間のデータと短期間のデータとに基づいて各種の予測を行う場合に、短期間のデータとしては、長期間のデータ(の平均値)から大きく逸脱(相違)データのみを用いるようにしてもよい(短期間のデータを、突発的事態に対応したものに限定する)。
【0039】
(5)上記(3)や図7,図8,図14,図16に示すような予測を行う場合に、正月やお盆、長期連休日等は「特異日」として指定して、この特異日については別途独立したデータを記憶、更新させて、予測を行うようにしてもよい(特異日のデータが長期間あるいは短期間のデータとして埋没しないようにする)。このような手法は、特異日の指定に限らず、特異時間(特異時刻)として設定することもできる。また、特異日等であるか否かは、例えば、過去複数年の蓄積データからある一定以上の大きなギャップがあるか否かによって判断して、特異日等であると判断された場合にのみこれに対応したデータを蓄積するようにすればよい。
(6)上記特異日等を考慮した予測を行うに際して、次のような手法によって行うようにしてもよい。すなわち、例えば、季節毎の各曜日におけるデータに基づく予測値(平均値)と実績データとのギャップを算出して、ギャップ量が小さいときは特異日等ではないということで通常の処理(図7,図8で説明したような処理)を行う。そして、上記ギャップ量がある一定値以上となる大きい場合には、さらに上記実績データを得たのと同日についての前年や過去数年の平均データと比較して、比較結果がギャップ量「小」であれば特異日等して設定する一方、ギャップ量が「大」であれば異常な値として蓄積データから削除するようにすればよい(異常データに基づいて特異日等が設定されてしまう事態を防止)。
【0040】
(7)図7,図8等で示したリスク(リスク値)は、長期間の平均値から短期間の平均値を差し引いた値そのものを利用してもよい(差し引いた値へ乗算される重み付け係数を、図7,図8の場合は1/2に設定したが、1に設定することの意味であり、この重み付け係数は適宜の値に設定できる)。
(8)個別電力網20に接続される個別蓄電機器21あるいは車載蓄電機器23は、その放電に際してはロスを生じるため、同じ電力量を授受する場合でも、個別電力網20から共通電力網10へ電力供給する場合の課金(授受電力に対する課金)を、共通電力網10から個別電力網20へ電力供給する場合の課金よりも高額に設定するのが好ましいものである。
(9)中央管理センターCMの機能を、ゲートウエイ13あるいはHEMS25のいずれかに持たせたり、ゲートウエイ13とHEMS25とで分担処理するように設定することもできる。マイクログリッドMG全体として電力不足あるいは電力余剰が予測されたときの電力授受の制御は、個別電力網20内での自立運転のための電力授受の制御に優先して行うことができる。本発明の目的は、明記されたものに限らず、実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、マイクログリッド内で自立運転する機会を増大させて、マイクログリッドを構成した利点をより一層向上させることができる。
【符号の説明】
【0042】
MG:マイクログリッド
CM:中央管理センター
1:商用電力源
10:共通電力網
11:共通蓄電機器
12:共通発電機
13:ゲートウエイ
20:個別電力網
21:個別蓄電機器
22:個別発電機
23:車載蓄電機器
25:HEMS

【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用電力源に対して接続されるマイクログリッドが、共通用発電機および共通用蓄電機器を備えると共に第1電力授受用機器を介して前記商用電力源に対して接続された共通電力網と、それぞれ第2電力授受用機器を介して前記共通電力網に対して接続されると共にそれぞれ個別発電機と個別蓄電機器とを備えた複数の個別電力需要家用となる複数の個別電力網とによって構成され、
前記マイクログリッドに対して、車両に搭載された車載蓄電機器が接続可能とされており、
前記第1電力授受用機器を制御して前記共通電力網と前記商用電力源との間での電力授受を制御すると共に、前記各第2電力授受用機器を制御して該共通電力網と前記複数の個別電力網との間での電力授受を制御する制御手段を備え、
前記制御手段は、マイクログリッド全体での電力の不足を予測して、電力不足と予測した場合は、予測された不足分の電力を前記共通蓄電機器、前記個別蓄電機器、前記車載蓄電機器の優先順で放電させるように制御すると共に、車載蓄電機器からの放電でもさらに電力が不足する場合には前記商用電力源から不足分の電力を調達するように設定されている、
ことを特徴とするマイクログリッドにおける電力需給制御システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記車載蓄電機器が、前記個別電力網に対して接続可能とされ、
前記制御手段は、前記マイクログリッド全体での電力の余剰を予測して、電力余剰と予測した場合は、予測された余剰分の電力を前記共通蓄電機器、前記個別蓄電機器または前記車載蓄電機器の一方、前記個別蓄電機器または前記車載蓄電機器の他方の優先順で蓄電させるように制御すると共に、前記個別蓄電機器と前記車載蓄電機器の他方の蓄電でもさらに電力が余剰する場合には前記商用電力源に対して余剰分の電力を放電するように設定されている、
ことを特徴とするマイクログリッドにおける電力需給制御システム。
【請求項3】
請求項1において、
前記車載蓄電機器が、前記共通電力網に接続され、
前記制御手段は、前記マイクログリッド全体での電力の余剰を予測して、電力余剰と予測した場合は、予測された余剰分の電力を前記車載蓄電機器、前記共通蓄電機器または前記個別蓄電機器の一方、前記共通蓄電機器または前記個別蓄電機器の他方の優先順で蓄電させるように制御すると共に、前記共通蓄電機器または前記個別蓄電機器の他方の蓄電でもさらに電力が余剰する場合には前記商用電力源に対して余剰分の電力を放電するように設定されている、
ことを特徴とするマイクログリッドにおける電力需給制御システム。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、
前記制御手段によるマイクログリッド全体での電力の過不足の予測が、前記共通蓄電機器の過去の長期間の平均的充放電量と短期間の充放電量とに基づいて行うように設定されている、ことを特徴とするマイクログリッドにおける電力需給制御システム。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、
前記制御手段による前記個別蓄電機器への充放電が、個別の電力需要家における電力需給予測に基づいて算出される前記個別蓄電機器の充放電可能量に基づいて行うように設定されている、ことを特徴とするマイクログリッドにおける電力需給制御システム。
【請求項6】
請求項5において、
前記制御手段によるマイクログリッド全体での電力の過不足の予測が、前記個別の電力需要家の電力需給予測に基づいて行うように設定され、
前記個別の電力需要家の電力需給予測が、前記個別蓄電機器の過去の長期間の平均的充放電量と短期間の充放電量とに基づいて行うように設定されている、
マイクログリッドにおける電力需給制御システム。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、
前記制御手段による前記車載蓄電機器への充放電の制御が、個別の車両の行動予測に基づいて算出される前記車載蓄電機器の充放電可能量に基づいて行うように設定されている、ことを特徴とするマイクログリッドにおける電力需給制御システム。
【請求項8】
請求項7において、
前記個別の車両の行動の予測が、過去の長期間の平均的行動と短期間の行動とに基づいて行うように設定されている、マイクログリッドにおける電力需給制御システム。
【請求項9】
請求項7または請求項8において、
前記個別の車両の行動の予測が、個別の車両の行動情報を群として扱って予測するように設定されている、マイクログリッドにおける電力需給制御システム。
【請求項10】
請求項7ないし請求項9のいずれか1項において、
前記個別の車両の行動予測に使う行動情報が、駐車時刻とされている、ことを特徴とするマイクログリッドにおける電力需給制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−101520(P2011−101520A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255018(P2009−255018)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】