説明

マイクロストリップ線路と同軸線路との接続構造

【目的】 伝送変換損失が少ないマイクロストリップ線路と同軸線路との接続構造を提供すること。
【構成】 マイクロストリップ線路と同軸線路との接続構造において、同軸線路の中心導体14aとマイクロストリップ線路の誘電体基板11との間、または中心導体14aと誘電体基板11および導電性基板13の両基板との間に位置する誘電体のうち、中心導体14aと線路導体12側の導電性基板13面とを結ぶ領域の少なくとも一部14cの誘電率を、これと反対側の領域の誘電率より大きくする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、マイクロ波回路に使用されるマイクロストリップ線路と同軸線路との接続構造に関する。
【0002】
【従来の技術】従来のマイクロストリップ線路と同軸線路との接続構造について、図6および図7を参照して説明する。図6は、マイクロストリップ線路と同軸線路との接続構造の分解斜視図で、図7は、組立てられた状態を図6の中心線B−Bで断面した図である。
【0003】1は、誘電体基板で、誘電体基板1の表面には線路導体2が形成される。また、誘電体基板1の裏面には、アルミニウムや銅などからなる導電性基板3が接している。前記線路導体2は、導電性基板3や誘電体基板1などといわゆる不平衡形マイクロストリップ線路を構成している。
【0004】また、4は同軸線路で、中心導体4aや中心導体4aを取り囲む誘電体4bなどから構成されている。また、中心導体4aと誘電体4bは、コネクタ5に取り付けられる。
【0005】コネクタ5に取り付けられた中心導体4aと誘電体4bは、導電性基板3や誘電体基板1を貫通する貫通孔6に挿入される。
【0006】そして、中心導体4aから延長する先端4cは、マイクロストリップ線路の線路導体2の端部と銅箔7で接続される。
【0007】また、コネクタ5は、その4隅のネジ穴5aを利用して導電性基板3の裏面にネジ5bで固定される。
【0008】上記構成の場合、コネクタ5や導電性基板3が同軸線路の外導体の役目をしている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】上記した従来のマイクロストリップ線路と同軸線路との接続構造においては、マイクロ波による電界は、図7の矢印Aで示すようにマイクロストリップ線路部分では、導電性基板3面に直角に向いている。また、同軸線路部分では、矢印Bに示すように中心導体4aから横方向に放射状に出て、導電性基板1に形成された貫通孔6の内面に対し直角に向いている。
【0010】したがって、マイクロストリップ線路部分や同軸線路部分では、マイクロ波の電界は乱されることなく良好に伝送する。
【0011】しかし、マイクロストリップ線路と同軸線路とが接続する部分、即ち、中心導体4aの延長部と線路導体2とが銅箔7で接続される部分の近くでは、中心導体4aと線路導体2とがほぼ直角になっている。
【0012】したがって、中心導体4aと導電性基板1との距離は、接続部分に近づくにしたがって次第に大きくなる。また、中心導体4aから見る導電性基板3面も急激に拡大する。
【0013】このため、中心導体4aの上端部分では、マイクロ波の電界は矢印Cに示すように導電性基板3面に対して直角とならず、電磁界モ−ドが乱れてしまう。
【0014】この現象は、線路導体2のない側が顕著で、例えば中心導体4aの上端などから点線矢印Dのように電磁界の一部が外部へ放出され、大きな伝送変換損失の原因となる。
【0015】この発明は、伝送変換損失が少ないマイクロストリップ線路と同軸線路との接続構造を提供することを目的とする。
【0016】
【課題を解決するための手段】本発明は、誘電体基板の表面に形成された線路導体および前記誘電体基板の裏面に設けられた導電性基板からなるマイクロストリップ線路と、前記導電性基板および前記誘電体基板を貫通し、かつ誘電体で囲まれた中心導体を有し、その中心導体の延長部が前記線路導体の端部に接続する同軸線路とを具備したマイクロストリップ線路と同軸線路との接続構造において、前記中心導体と前記誘電体基板との間、または前記中心導体と前記誘電体基板および導電性基板の両基板との間に位置する誘電体のうち、前記中心導体と前記線路導体側の導電性基板面とを結ぶ領域の少なくとも一部の誘電率を、これと反対側の領域の誘電率より大きくしている。
【0017】また、誘電体基板の表面に形成された線路導体および前記誘電体基板の裏面に設けられた導電性基板からなるマイクロストリップ線路と、前記誘電体基板と平行に配列され、誘電体で囲まれた中心導体の延長部が前記線路導体の端部に接続する同軸線路とを具備したマイクロストリップ線路と同軸線路との接続構造において、前記中心導体の延長部と前記線路導体との接続部の近傍で、前記同軸線路の中心導体と前記導電性基板面とを結ぶ領域の誘電体の少なくとも一部の誘電率を、これと反対側の領域の誘電率より大きくしている。
【0018】また、前記中心導体の延長部と前記線路導体との接続部に近い方がそれより遠い方よりも、前記中心導体を囲む誘電体の径を小さくしている。
【0019】
【作用】上記した本発明のマイクロストリップ線路と同軸線路との接続構造では、例えば、前記中心導体と前記誘電体基板との間、または前記中心導体と前記誘電体基板および導電性基板の両基板との間に位置する誘電体のうち、前記中心導体と前記線路導体側に位置する導電性基板面とを結ぶ領域の少なくとも一部の誘電率を、これと反対側の領域の誘電率より大きくしている。
【0020】一般に、同軸線路の中心導体を延長し、その延長部分でマイクロストリップ線路の線路導体と接続する場合、両者の接続部に近づくにしたがって、中心導体とマイクロストリップ線路の導電性基板との距離が大きくなり、また、中心導体から見る導電性基板面も大きくなる。
【0021】このため、両者の接続部の近くでは、マイクロ波の電磁界モ−ドが乱れ、電磁界の一部が外部へ放出される。
【0022】しかし、本発明の構成によれば、中心導体を囲む誘電体のうち、例えば中心導体と導電性基板面とを結ぶ領域にある誘電体の少なくとも一部の誘電率を、これと反対側の領域の誘電率より大きくしている。
【0023】導電性基板側の誘電体の誘電率を大きくすると、マイクロ波による電界が導電性基板側に集中する。この結果、これと反対側の空間方向に向かう電界が少なくなり、電磁界の外部への放出が防げる。
【0024】なお、本発明においては、中心導体と導電性基板面とを結ぶ側の方が、これと反対側、例えば空間方向に向かう側に比べてマイクロ波による電界成分が大きくなるように、中心導体を囲む誘電体の条件を決定すればよく、中心導体を囲む誘電体のうち、誘電率を大きくする部分の具体的な配置、形状などは、設計条件により適宜選択されることになる。
【0025】
【実施例】以下、本発明の一実施例について、図1および図2を参照して説明する。
【0026】図1は、この発明によるマイクロストリップ線路と同軸線路との接続構造の第一の実施例を示す分解斜視図で、図2は、組立てた状態を図1の中心線A−Aで断面した図である。
【0027】11は、誘電体基板で、誘電体基板11の表面には線路導体12が形成されている。また、誘電体基板11の裏面には、アルミニウムや銅などからなる導電性基板13が接している。前記線路導体12は、導電性基板13や誘電体基板11などといわゆる不平衡形マイクロストリップ線路を形成している。また、14は同軸線路で、中心導体14aや中心導体14aを囲む第一の誘電体14bなどで構成される。
【0028】なお、中心導体14aの上方部分は、例えば中心導体14aと平行に2分された第二の誘電体14c、14dで囲まれている。
【0029】上記した中心導体14aや誘電体14b、14c、14dは、コネクタ15に固定され、導電性基板13や誘電体基板11に形成された貫通孔16に挿入される。なお、コネクタ15や導電性基板13は、同軸線路の外導体の役目をしている。
【0030】そして、中心導体14aの延長部分である先端14eが、マイクロストリップ線路の線路導体12と銅箔17で接続される。
【0031】なお、コネクタ15は、その4隅のネジ穴15aを利用して導電性基板13の裏面にネジ15bで固定される。
【0032】上記構成の場合、マイクロストリップ線路と同軸線路との接続部分の近く、即ち、中心導体4aの先端部分は、2分割された誘電体(14c、14d)で囲まれている。
【0033】そして、マイクロストリップ線路に近い側の誘電体14cの誘電率ε1を、これと反対側の誘電体14dの誘電率ε2よりも大きく(ε1>ε2)している。上記の構成で、マイクロ波による電界について考える。
【0034】マイクロストリップ線路と同軸線路との接続部分から離れた領域では、マイクロ波による電界は、図2の矢印AやBに示すように、導電性基板13面に向かって直角となり、電界に乱れは生じない。したがって、マイクロ波は良好に伝送する。
【0035】ところで、マイクロストリップ線路と同軸線路との接続部分の近くでは、マイクロストリップ線路に近い側、例えば、中心導体14aと線路導体12の下方にある導電性基板13面とを結ぶ領域の誘電体14cの誘電率ε1が、これと反対側の誘電体14dの誘電率ε2より大きくなっている。したがって、マイクロ波による電界は、図2の矢印Cに示すように誘電率の大きい誘電体14cの方に集中し、それと反対方向は矢印Dのように少なくなる。
【0036】このため電磁界の外部への放出が抑圧され、また、電磁界モ−ドの乱れも少なくなり、信号伝送時のVSWRも小さくなる。
【0037】なお、マイクロストリップ線路側とこの反対側とで、誘電体の誘電率を変える領域の長さは、図2に示されるようにで導電性基板13が位置する部分まででもよく、また、もっと短く誘電体基板11に隣り合う部分までにしてもよい。
【0038】次に、本発明の第二の実施例について、図3で説明する。
【0039】21は、導電性基板で、導電性基板21の両面に誘電体基板22a、22bが形成される。また、各誘電体基板22a、22b面にそれぞれ線路導体23a、23bが形成され、マイクロストリップ線路が上下の両面に構成される。
【0040】また、24が同軸線路で、中心導体24aや誘電体24bなどで構成される。そして、同軸線路24が、両方のマイクロストリップ線路同士を接続している。例えば、中心導体24aの上下の延長部が線路導体23a、23bと銅箔25a、25bで接続される。
【0041】なお、同軸線路24の中心導体を囲む誘電体は、その上下の両端部分で第一の実施例と同様に、マイクロストリップ線路側とこの反対側とに2分され、マイクロストリップ線路側の誘電体26a1、26b1の誘電率を、その反対側の誘電体26a2、26b2の誘電率より大きくしている。
【0042】次に、本発明の第三の実施例について、図4で説明する。
【0043】31は誘電体基板、32は誘電体基板31の表面に形成された線路導体、33は誘電体基板31に接して設けられた導電性基板で、これらでマイクロストリップ線路が構成されている。
【0044】そして、34が同軸線路で、その中心導体34aの延長部が、マイクロストリップ線路の線路導体32と銅箔35で接続される。
【0045】この場合も、第一の実施例と同様に、同軸線路34とマイクロストリップ線路との接続部分の近くで、中心導体を囲む誘電体が中心導体に沿って2分され、マイクロストリップ線路側の誘電体34b1の誘電率が、他方の誘電体34b2の誘電率より大きくなっている。
【0046】また、同軸線路34とマイクロストリップ線路との接続部分の近くで、誘電体を2分して各区分ごとに誘電率を変えると同時に、中心導体を囲む誘電体の径rを、それより下方の部分の径Rより小さく(r<R)している。
【0047】誘電体の径を小さくすると、中心導体34aと導電性基板33との結合が強くなり、外部方向に向かう電磁界がそれだけ抑えられ、伝送変換損失を少なくできる。
【0048】なお、上記した各実施例では、同軸線路とマイクロストリップ線路とは、いずれも直角方向で接続されている。
【0049】しかし、同軸線路とマイクロストリップ線路との接続は、直角方向である必要はなく、例えば45゜など任意のいかなる角度ででも接続できる。
【0050】例えば、図5のように同軸線路41とマイクロストリップ線路42とを、平行に配置し、同軸線路41の中心導体とマイクロストリップ線路42の線路導体とを接続する構成でもよい。
【0051】図5において、41aは中心導体、41bは外部導体である。
【0052】また、42aは線路導体、42bは導電性基板である。
【0053】この場合、中心導体41aを囲む誘電体は、例えば中心導体41aに沿って上下に2分され、図の下側、即ち導電性基板側に位置する方の誘電体41cの誘電率の方をその反対側の誘電体41dより大きくしている。
【0054】なお、上記した各実施例では、同軸線路の誘電体を中心導体に沿って2分している。しかし、3個以上に区分し、各区分の誘電率を変える構成でもよく、また区分する位置も中心導体に沿う必要はない。
【0055】なお、中心導体を囲む誘電体としては、空気で構成することもでき、同軸線路とマイクロストリップ線路との接続は、銅箔片でなく、金ワイヤ−などによるボンディング接続を用いることもできる。
【0056】
【発明の効果】本発明によれば、伝送変換損失が少ないマイクロストリップ線路と同軸線路との接続構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の一実施例を示す断面図である。
【図3】本発明の他の実施例を示す断面図である。
【図4】本発明の他の実施例を示す断面図である。
【図5】本発明の他の実施例を示す断面図である。
【図6】従来の例を示す分解斜視図である。
【図7】従来の例を示す断面図である。
【符号の説明】
11、22a、22b、31、43…誘電体基板
12、23a、23b、32、42a…線路導体
13、21、33、42b…導線性基板
14a、24a、34a、41a…・中心導体
14b、24b、34b1、34b2、41c、41d…誘電体
17、25a、25b、35…銅箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】 誘電体基板の表面に形成された線路導体および前記誘電体基板の裏面に設けられた導電性基板からなるマイクロストリップ線路と、前記導電性基板および前記誘電体基板を貫通し、かつ誘電体で囲まれた中心導体を有し、その中心導体の延長部が前記線路導体の端部に接続する同軸線路とを具備したマイクロストリップ線路と同軸線路との接続構造において、前記中心導体と前記誘電体基板との間、または前記中心導体と前記誘電体基板および導電性基板の両基板との間に位置する誘電体のうち、前記中心導体と前記線路導体側の導電性基板面とを結ぶ領域の少なくとも一部の誘電率を、これと反対側の領域の誘電率より大きくしたことを特徴とするマイクロストリップ線路と同軸線路との接続構造。
【請求項2】 誘電体基板の表面に形成された線路導体および前記誘電体基板の裏面に設けられた導電性基板からなるマイクロストリップ線路と、前記誘電体基板と平行に配列され、誘電体で囲まれた中心導体の延長部が前記線路導体の端部に接続する同軸線路とを具備したマイクロストリップ線路と同軸線路との接続構造において、前記中心導体の延長部と前記線路導体との接続部の近傍で、前記同軸線路の中心導体と前記導電性基板面とを結ぶ領域の誘電体の少なくとも一部の誘電率を、これと反対側の領域の誘電率より大きくしたことを特徴とするマイクロストリップ線路と同軸線路との接続構造。
【請求項3】 前記中心導体の延長部と前記線路導体との接続部に近い方がそれより遠い方よりも、前記中心導体を囲む誘電体の径が小さいことを特徴とする請求項1または請求項2記載のマイクロストリップ線路と同軸線路との接続構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開平6−37516
【公開日】平成6年(1994)2月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−192562
【出願日】平成4年(1992)7月21日
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)