マイクロチップおよびその製造方法
【課題】内部の流体回路の変形が抑制されており、もって高精度で検査・分析を行なうことができるマイクロチップを提供する。
【解決手段】内部に形成された空間からなる流体回路を備えるマイクロチップであって、光吸収性の第1の基板10と、第1の基板10上に貼合される光透過性の第2の基板20とを含み、第2の基板20における第1の基板10とは反対側の表面上であって、流体回路の少なくとも一部の直上の位置に、流体回路と平行に延びる断面がV字形状の溝40を有するマイクロチップおよびその製造方法である。
【解決手段】内部に形成された空間からなる流体回路を備えるマイクロチップであって、光吸収性の第1の基板10と、第1の基板10上に貼合される光透過性の第2の基板20とを含み、第2の基板20における第1の基板10とは反対側の表面上であって、流体回路の少なくとも一部の直上の位置に、流体回路と平行に延びる断面がV字形状の溝40を有するマイクロチップおよびその製造方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)や酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスおよび細胞などの生体物質、ならびに化学物質を検知、検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々なバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称してマイクロチップと称する。)が提案されている。
【0003】
マイクロチップは、実験室で行なっている一連の分析または実験操作を、数cm角で厚さ数mm〜1cm程度のチップ内で行なえることから、検体および試薬が微量で済み、コストが安く、反応速度が速く、ハイスループットな検査ができ、検体を採取した現場で直ちに検査結果を得ることができるなど多くの利点を有している。このようなマイクロチップは、たとえば血液検査等の生化学検査用として好適に用いられている。
【0004】
マイクロチップとしては、流体回路(あるいはマイクロ流体回路)と呼ばれる、該回路内に存在する検体、試薬等の液体に対して特定の処理を行なうための複数種類の部位(室)とこれらの部位を適切に接続する微細な流路とから構成される流路網をその内部に備えたものが従来公知である。このような流体回路を内部に備えるマイクロチップを用いた検体の検査または分析などにおいては、その流体回路を利用して、流体回路内に導入された検体やこれと混合される試薬の計量(すなわち、計量を行なうための部位である計量部への移動)、検体と試薬との混合(すなわち、これらを混合するための部位である混合部への移動)、ある部位から他の部位への移動などの種々の処理が行なわれる。なお、マイクロチップ内でなされる、各種液体(検体、検体中の特定成分、液体試薬、またはこれらのうちの2種以上の混合物など)に対してなされる処理を以下では「流体処理」ともいう。これら種々の流体処理は、マイクロチップに対して、適切な方向の遠心力を印加することにより行なうことができる。
【0005】
上記のような、遠心力を利用して流体回路内の液体を流体回路内の所望の位置(部位)に移動させて流体処理を行なうマイクロチップは、流体回路を構成する溝(凹部)が形成された基板と、平坦な基板とを貼り合わせることにより作製することができる。従来、マイクロチップを構成する、熱可塑性樹脂からなる2枚の基板の貼り合わせには、光(たとえばレーザー光)照射による溶着が用いられている(たとえば、特許文献1)。この光照射による溶着においては、2枚の熱可塑性樹脂基板のうち、一方を光透過性基板とし、他方を光吸収性基板として、この両者を重ね合わせて、光透過性基板側から光を照射する。光照射により、貼り合わせ面の温度が融点を超えると、基板が融解して両基板が接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−310828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されるような光照射による溶着には以下のような課題があった。すなわち、通常、光透過性基板と光吸収性基板とを貼り合わせる場合には、光透過性基板の全面に光を照射するが、光透過性基板と光吸収性基板との貼り合わせ部(接触部)への光の照射光量が十分でないと接合不良が生じる。一方、すべての貼り合わせ部に接合不良が生じない程度まで照射光量を大きくすると、貼り合わせ部以外へのダメージが大きくなってしまう。たとえば、照射光量を大きくすると、計量部の変形によりその容量が変化したり、各部を接続する微細な流路が閉塞したり、該流路の内壁面が荒れたりするなど、流体回路の変形が生じ得る。流体回路の変形は、マイクロチップを用いた検査・分析の精度を大きく低下させる要因となる。
【0008】
本発明の目的は、内部の流体回路の変形が抑制されており、もって高精度で検査・分析を行なうことができるマイクロチップを提供することにある。また本発明の他の目的は、内部に形成される流体回路の変形を抑えることができるマイクロチップの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、内部に形成された空間からなる流体回路を備えており、流体回路内に存在する液体を流体回路内の所望の位置に移動させるマイクロチップであって、光吸収性の第1の基板と、該第1の基板上に貼合される光透過性の第2の基板とを含み、第2の基板における第1の基板とは反対側の表面上であって、流体回路の少なくとも一部の直上の位置に、流体回路と平行に延びる断面がV字形状の溝を有するマイクロチップを提供する。
【0010】
上記V字形状の溝における幅方向の両端部は、第1の基板と第2の基板とが接触している貼り合わせ部の直上に位置することが好ましい。
【0011】
上記V字形状の溝は、その断面形状が二等辺三角形であり、かつ下記式(1):
l=〔a・tan(θ−θ’)〕/〔1+tanθ・tan(θ−θ’)〕 (1)
を満たすことが好ましい。
【0012】
ここで、式(1)中、lはV字形状の溝の幅方向両端部間の距離の1/2であり、aは第2の基板におけるV字形状の溝が形成される側の表面から流体回路までの距離であり、θはV字形状の溝の幅方向両端部間を結ぶ直線と該溝を構成する傾斜面とがなす角度である。θ’は、下記式(2):
sinθ/sinθ’=n/1 (2)
を満たす角度であり、式(2)中のnは第2の基板の屈折率である。
【0013】
また本発明は、内部に形成された空間からなる流体回路を備えており、流体回路内に存在する液体を流体回路内の所望の位置に移動させるマイクロチップであって、光吸収性の第1の基板と、該第1の基板上に貼合される光透過性の第2の基板とを含み、流体回路は、第2の基板における第1の基板側表面上に設けられる溝と第1の基板とによって形成される空間からなり、該溝の底面に、断面形状が二等辺三角形であり、かつその頂角が90度である突起を含むテーパー構造部を備えるマイクロチップを提供する。当該マイクロチップは、第2の基板における第1の基板とは反対側の表面上であって、流体回路の少なくとも一部の直上の位置に、流体回路と平行に延びる断面がV字形状の溝をさらに有していてもよい。
【0014】
テーパー構造部は、たとえば、断面形状が二等辺三角形であり、かつその頂角が90度である三角柱状の突起の複数を平行に配列したものや、断面形状が二等辺三角形であり、かつその頂角が90度である四角錘状の突起の複数を隣接して配列したものであることができる。
【0015】
さらに本発明は、第1の基板上に第2の基板を配置する工程と、第2の基板側であって、第2の基板における第1の基板とは反対側の表面に対して垂直な方向から光を照射することにより、第1の基板と第2の基板とを溶着させる工程とを備える上記マイクロチップの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光照射による溶着によって基板同士を貼り合わせるマイクロチップにおいて、内部の流体回路の変形が抑制されたマイクロチップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るマイクロチップを概念的に示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るマイクロチップの一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るマイクロチップの他の一例を示す概略断面図である。
【図4】断面がV字形状の溝が、その溝形状に関して満足することが好ましい要件を説明するための概略断面図である。
【図5】実際に作製された、本発明の第1の実施形態に係るマイクロチップを示す写真である。
【図6】断面がV字形状の溝を設けることの効果を検証する実験のために作製した、第1の基板に流体回路を構成する溝が設けられ、第2の基板の外表面に断面がV字形状の溝が設けられた基板積層体の一例の断面を示す写真である。
【図7】断面がV字形状の溝を設けることの効果を検証する実験の実験結果を示す写真である(V字形状の溝あり)。
【図8】断面がV字形状の溝を設けることの効果を検証する実験の実験結果を示す写真である(V字形状の溝なし)。
【図9】断面がV字形状の溝を設けることの効果を検証する実験の実験結果を示す写真である(V字形状の溝あり)。
【図10】断面がV字形状の溝を設けることの効果を検証する実験の実験結果を示す写真である(V字形状の溝なし)。
【図11】本発明の第2の実施形態に係るマイクロチップの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のマイクロチップは、各種化学合成、検査または分析等を、それが内部に有する流体回路(内部に形成された空間)を用いて行なうチップであり、流体回路内の液体(検体、検体中の特定成分、液体試薬、および、これらのうちの2種以上の混合物など)を遠心力の印加により流体回路内の所定の位置(部位)に移動させることにより、該液体に対して適切な流体処理を行なうことができるものである。このために流体回路は、適切な位置に配置された種々の部位(室)を備えており、これらの部位は微細な流路を介して適切に接続されている。
【0019】
流体回路は、上記部位(室)として、たとえば、検査または分析などの対象となる検体と混合(または反応)させるための試薬を保持するための試薬保持部;流体回路内に導入された検体から特定成分を取り出すための分離部;検体(検体中の特定成分を含む。以下同じ。)を計量するための検体計量部;試薬を計量するための試薬計量部;検体と試薬とを混合するための混合部;得られた混合液についての検査または分析(たとえば、混合液中の特定成分の検出または定量)を行なうための検出部(光学測定用キュベット)などを含むことができる。検査または分析の方法は特に制限されず、たとえば、混合液を収容する検出部に光を照射して透過する光の強度(透過率)を検出する方法、検出部に保持された混合液についての吸収スペクトルを測定する方法等の光学測定を挙げることができる。本発明のマイクロチップは、上述の例示された部位のすべてを有していてもよく、いずれか1以上を有していなくてもよい。また、これら例示された部位以外の部位を有していてもよい。
【0020】
検体からの特定成分の抽出(不要成分の分離)、検体および/または試薬の計量、検体と試薬との混合、得られた混合液の検出部への導入などのような流体回路内における種々の流体処理は、マイクロチップに対して、適切な方向の遠心力を順次印加することにより行なうことができる。マイクロチップへの遠心力の印加は、マイクロチップを、遠心力を印加可能な装置(遠心装置)に載置して行なうことができる。遠心装置は、回転自在なローター(回転子)と、該ローター上に配置された回転自在なステージとを備えることができる。該ステージ上にマイクロチップを載置し、該ステージを回転させてローターに対するマイクロチップの角度を任意に設定することにより、マイクロチップに対して任意の方向の遠心力を印加することができる。
【0021】
以下、実施の形態を示して本発明を詳細に説明する。
<第1の実施形態>
図1は、本実施形態に係るマイクロチップを概念的に示す斜視図である。図1に示されるように、本実施形態のマイクロチップは、光吸収性の第1の基板10と、第1の基板10上に貼合される光透過性の第2の基板20とを含んで構成される。第1の基板10と第2の基板20とは、第2の基板20側から照射される光(レーザー光、ランプ光等)による溶着によって接合される。すなわち、第2の基板20を透過し、基板界面に達した光によって光吸収性の第1の基板の貼り合わせ面を融解させ、基板同士の接合がなされる。
【0022】
図1の例においては、第1の基板10における第2の基板20側表面上に、流体回路を構成する溝(凹部)30が設けられており、この溝30と第2の基板20とによって流体回路(内部空間)が形成されている。そして、第2の基板20における第1の基板10とは反対側の表面(外側表面)上であって、流体回路の直上の位置に、流体回路と平行に延びる、断面がV字形状の溝40が設けられている。このような溝40を第2の基板表面に有する本実施形態のマイクロチップは、以下の点で極めて有利である。
【0023】
(I)溝40は、第1の基板10と第2の基板20とを光溶着する際に照射する光が、溝40の直下の位置する流体回路を構成する溝30に照射されることを防止する遮光手段として効果的に機能する。これにより、流体回路の変形(たとえば、各部位の変形、部位間を接続する流路の変形または閉塞、各部位や流路の内壁面の荒れなど)を抑制できるため、高精度の検査・分析を行なうことが可能になる。また、このような遮光効果は、検査や分析の種類によって必要に応じて流体回路内に担持される固定化抗体等の担持物の失活を防止するうえでも極めて有効である。
【0024】
(II)溝40に照射された溶着のための光は、溝40によって屈折され、第1の基板10と第2の基板20とが接触する貼り合わせ部に集光される。これにより、光源の照射強度や照射時間を増加させることなく、第1の基板10と第2の基板20との貼り合わせ部(接触部)に到達する光の照射光量を増加させることができるため、基板間の接着性を向上させることができる。また、照射時間を増加させる必要がないことから、生産性を向上させることができる。
【0025】
このように、第2の基板全体にわたって一律に光を照射した場合においても、光照射が不要な領域(流体回路を構成する溝が存在する領域)へ向けて照射された光を第1の基板と第2の基板との貼り合わせ部に振り向けることが可能になるため、流体回路の変形防止と基板間の接着性の向上とを同時に達成することが可能となる。
【0026】
図2および図3は、本実施形態に係るマイクロチップをより具体的に示す概略断面図である。図2に示されるマイクロチップは、上記図1と同様、光吸収性基板である第1の基板10における第2の基板20側表面上に、流体回路を構成する溝(凹部)30が設けられている。一方、図3に示されるマイクロチップは、光透過性基板である第2の基板20における第1の基板10側表面上に、流体回路を構成する溝30が設けられている。このように流体回路を構成する溝30はいずれの基板に形成されてもよい。
【0027】
図2および図3を参照して、第2の基板20側であって、第2の基板20における第1の基板10とは反対側の表面(溝40を有する表面)に対して垂直な方向から照射される基板の溶着のための光は、上述のように、溝40によって屈折され、溝40の直下の位置する流体回路を構成する溝30に照射されることを防止するとともに、当該屈折された光は、第1の基板10と第2の基板20とが接触する貼り合わせ部50に集光される。これにより上記効果が得られる。
【0028】
図2および図3を参照して、断面がV字形状の溝40における幅方向の端部41はともに、第1の基板10と第2の基板20とが接触する貼り合わせ部50の直上に位置することが好ましい。これにより、流体回路全体にわたって溝40の直下に位置する溝30の変形を防止することができる。
【0029】
断面がV字形状の溝40は、その断面形状が三角形であるが、2つの傾斜面によって等方的に光を屈折させることができることから、二等辺三角形であることが好ましい。また、断面形状が二等辺三角形である場合において溝40は、図4を参照して、その形状に関し、下記式(1):
l=〔a・tan(θ−θ’)〕/〔1+tanθ・tan(θ−θ’)〕 (1)
を満たすことが好ましい。
【0030】
上記式(1)中、lは、V字形状の溝40の幅方向端部41,41間の距離の1/2である。aは、第2の基板20におけるV字形状の溝40が形成される側の表面から流体回路(溝30)までの距離であり、図4の例のように、第1の基板10に流体回路を構成する溝30が設けられる場合には、第2の基板20の厚みに相当する。θは、V字形状の溝40の幅方向端部41,41間を結ぶ直線と溝40を構成する傾斜面とがなす角度である。θ’は、下記式(2):
sinθ/sinθ’=n/1 (2)
を満たす角度である。上記式(2)中のnは、第2の基板20の屈折率である。
【0031】
V字形状の溝40の形状が上記式(1)を満足することが好ましい理由は次のとおりである。遮光手段であるV字形状の溝40によって遮光される領域(遮光領域)は、最大限の遮光効果を得るためにできるだけ広いことが好ましい。遮光領域は、図4を参照して、溝40の頂点(V字の頂点)近くに照射された光が仮にそのまま直進したときに到達する第1の基板10/第2の基板20の界面における位置と、溝40の傾斜面により屈折されることによって実際に到達する第1の基板10/第2の基板20の界面における位置との距離をwとすると、min(w,l)と表すことができる。つまり、遮光領域はwとlの小さい方で決定され、距離wとlが両方とも大きいほど遮光効果が高く好ましい。
【0032】
第2の基板20の表面(溝40が形成される表面)に対して垂直な方向から、溝40の頂点近くに照射される照射光について考えたとき、溝40の傾斜面へのその照射光の入射角は、溝40の幅方向端部41,41間を結ぶ直線と溝40の傾斜面とがなす角度と同じθであり、傾斜面によって屈折された光の屈折角θ’とは、下記式〔a〕:
sinθ/sinθ’=n/1 〔a〕
の関係を満たす。この式〔a〕は上記式(2)と同一である。
【0033】
また、溝40の幅方向端部41,41間を結ぶ直線から、照射光と溝40の傾斜面との接点までの距離をdとすると、図4から、下記式〔b〕および〔c〕:
tanθ=d/l 〔b〕
tan(θ−θ’)=w/(a−d) 〔c〕
の関係式が導かれる。
【0034】
一方、遮光領域を代表するmin(w,l)が最大になるのは、下記式〔d〕:
w=l 〔d〕
の関係を満たす場合であるから、上記〔b〕〜〔d〕より、遮光領域min(w,l)が最大になるのは、上記式(1)を満たす場合となる。
【0035】
たとえば、図4に示されるマイクロチップにおいて第2の基板20として、ポリスチレン(屈折率n=1.59)からなる厚み1.5mm(すなわち、a=1.5mm)の光透過性基板を用いた場合、上記式(1)より、距離wは、θ=56.8度のとき最大値0.41mmを示す。
【0036】
図5は、実際に作製された本実施形態に係るマイクロチップを示す写真である。図5に示されるマイクロチップにおいては、流体回路のうち、全血から分離された血漿成分を計量するための検体計量部、および、該血漿成分に混合される試薬を保持する試薬保持部と試薬を計量するための試薬計量部とを接続する流路の直上に、断面がV字形状の溝40が設けられている。このように溝40は、流体回路のうち、特に遮光が望ましい箇所など、流体回路の少なくとも一部の直上に設けられればよい。特に遮光が望ましい箇所とは、たとえば、検体(検体中の特定成分を含む。)を計量するための検体計量部、試薬を計量するための試薬計量部、幅が狭い流路、固定化抗体等の担持物が存在する箇所などである。
【0037】
図6は、断面がV字形状の溝40を設けることの効果を検証する実験のために作製した、第1の基板10に流体回路を構成する溝が設けられ、第2の基板20の表面(外表面)に溝40が設けられた基板積層体の一例の断面を示す写真である。また、図7〜図10は、断面がV字形状の溝40を設けることの効果を検証する実験の実験結果を示す写真であり、上記基板積層体の断面を示したものである。図6に示される基板積層体は、一方の表面に、断面が四角形状の溝(幅250μm、深さ1000μm)を形成した厚み5mmの黒色の第1の基板10(カーボンブラックを分散したポリスチレンからなる)上に、厚み1.6mmの透明な第2の基板20(ポリスチレンからなる)を積層したものであり、第2の基板20はその外表面であって、第1の基板10が有する溝の直上に断面がV字形状の溝40(溝40の幅方向両端部間の距離534μm、最大深さ800μm、頂角67.4度)を有している。
【0038】
上記のような図6に示される基板積層体に、図6に示されるような方向、すなわち、第2の基板20側であって、第2の基板20外表面(溝40を有する表面)に対して垂直な方向から、波長940μm、パワー30Wのレーザー光をスキャンスピード20mm/秒で照射した。その結果が図7である。図7に示されるように、四角形状の溝に変形および閉塞は全く見られなかった。これに対して、溝40を有しないこと以外は図6の基板積層体と同じ構成の基板積層体について同様のレーザー光照射実験を行なったところ、図8に示すように、第1の基板10と第2の基板20との界面付近において、四角形状の溝に大きな変形が生じた。
【0039】
さらに、四角形状の溝の幅および深さをそれぞれ180μm、480μmに変更したこと以外は図6の基板積層体と同じ構成の基板積層体(断面がV字形状の溝40あり)について同様のレーザー光照射実験を行なったところ、図9に示されるように、四角形状の溝に変形および閉塞は全く見られなかった。これに対して、四角形状の溝の幅および深さをそれぞれ180μm、480μmに変更するとともに、溝40を有しないこと以外は図6の基板積層体と同じ構成の基板積層体について同様のレーザー光照射実験を行なったところ、図10に示すように、四角形状の溝に閉塞が生じた。
【0040】
このように、光透過性基板の外表面であって、流体回路を構成する溝の直上の位置に断面がV字形状の溝を設けることにより、流体回路の変形および閉塞を効果的に防止できることが確認された。
【0041】
次に、本実施形態に係るマイクロチップの製造方法およびマイクロチップに用いる基板について説明する。本実施形態に係るマイクロチップは、以下の工程:
(A)光吸収性の第1の基板10上に、光透過性の第2の基板を配置する工程、および
(B)第2の基板20側であって、第2の基板20における第1の基板10とは反対側の表面に対して垂直な方向から光を照射することにより、第1の基板と第2の基板とを溶着させる工程を含む方法によって好適に製造することができる。
【0042】
上記方法によれば、断面がV字形状の溝40によって、第1の基板10と第2の基板20とを光溶着する際に照射する光が、溝40の直下の位置する流体回路を構成する溝30に照射されることを防止できるため、流体回路の変形を効果的に抑制することができる。また、溝40に照射された溶着のための光は、溝40によって屈折され、第1の基板10と第2の基板20とが接触する貼り合わせ部に集光されるため、光源の照射強度や照射時間を増加させることなく、第1の基板10と第2の基板20との貼り合わせ部(接触部)に到達する光の照射光量を増加させることができ、基板間の接着性を向上させることができる。また、照射時間を増加させる必要がないことから、生産性を向上させることができる。
【0043】
第1の基板10は光吸収性の基板であり、たとえば、光を吸収して発熱する光吸収物質が分散された熱可塑性樹脂から構成することができる。光吸収物質としては、たとえば色素を挙げることができ、その中でもカーボンブラックを好適に用いることができる。光吸収物質は、少なくとも第1の基板10の貼り合わせ面上に分散されていればよい。たとえば、基板の貼り合わせ面側に光吸収物質が分散された層が形成された構成としてもよく、あるいは第1の基板10全体に光吸収物質が分散されていてもよい。
【0044】
第2の基板20は、光透過性の熱可塑性樹脂からなる。第1の基板10および第2の基板20に用いられる熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアリレート樹脂(PAR)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリメチルペンテン樹脂(PMP)、ポリブタジエン樹脂(PBD)、スチレン・ブタジエン樹脂(スチレン−ブタジエン共重合体)、生分解性ポリマー(BP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)などを挙げることができる。
【0045】
第1の基板10と第2の基板20とは、異種の熱可塑性樹脂から構成する場合もあるが、同種の熱可塑性樹脂から構成することが好ましい。両基板を同種の樹脂から構成することにより、光照射によって両基板の貼り合わせ面が同時に融解するため、接着強度をより高くすることができる。
【0046】
第1の基板10および第2の基板20のサイズは特に限定されず、たとえば縦横数cm程度、厚さ数mm〜1cm程度とすることができる。
【0047】
図2および図3に示されるように、流体回路を構成する溝(凹部)30は、第1の基板10の表面に設けられてもよく、第2の基板20の表面に設けられてもよい。場合によっては、両基板に設けることもできる。
【0048】
基板表面に、流体回路を構成する溝を形成する方法としては、特に制限されず、転写構造を有する金型を用いた射出成形法、インプリント法などを挙げることができる。マイクロチップの流体回路は、第1の基板表面に設けられた凹部と第2の基板における第1の基板に対向する側の表面とから構成される空洞部からなる。溝(凹部)の形状(パターン)は、所望される適切な流体回路構造となるように決定される。第2の基板20の表面に設ける断面がV字形状の溝40についても同様の方法で形成することができる。
【0049】
上記工程(A)においては、第1の基板10上に、第2の基板20を配置する。ついで、上記工程(B)において、ガラス板等を第2の基板上に配置し、このガラス板等を介して第1の基板10および第2の基板20に圧力を印加した状態で、第2の基板側(ガラス板側)であって、該基板表面に対して垂直な方向から光(たとえば、レーザー光、ランプ光)を照射し、第2の基板全体にわたってスキャンすることにより、基板の溶着を行なう。圧力を印加することにより、第1の基板10と第2の基板20とを隙間無く密着させた状態で溶着を行なうことができる。光照射により、光吸収物質が発熱し、この熱によって第1の基板10の貼り合わせ部、場合によってはさらに第2の基板20の貼り合わせ部が溶融し、基板同士が溶着される。
【0050】
照射する光は、カーボンブラック等の光吸収物質が光を吸収して、比較的効率よく貼り合わせ部を加熱できるものであれば特に限定されず、たとえば、波長0.8〜1.1μm程度、パワー10〜1000W程度のレーザー光を用いることができる。
【0051】
以上、本実施形態のマイクロチップについて、主に、第1の基板10と第2の基板20の2枚の基板からなるマイクロチップを例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、たとえば、基板の両表面に流体回路を構成する溝(凹部)を備える光吸収性の第1の基板と、これを挟持するように積層される光透過性の第2および第3の基板との積層構造を有するものであってもよい。この場合、流体回路は、第2の基板および第1の基板における第2の基板側表面に設けられた溝から構成される第1の流体回路と、第3の基板および第1の基板における第3の基板側表面に設けられた溝から構成される第2の流体回路との2層構造を有することができる。「2層」とは、マイクロチップの厚み方向に関して異なる2つの位置に流体回路が設けられていることを意味する。かかる2層の流体回路は、第1の基板を厚み方向に貫通する貫通穴によって接続することができる。なお、図5に示されるマイクロチップは、このような3枚の基板からなるものである。
【0052】
<第2の実施形態>
図11は、本実施形態に係るマイクロチップの一例を示す概略断面図である。図11に示されるように、本実施形態のマイクロチップは、光吸収性の第1の基板10と、第1の基板10上に貼合される光透過性の第2の基板20とを含んで構成される。第1の基板10と第2の基板20とは、上記第1の実施形態と同様、第2の基板20側から照射される光(レーザー光、ランプ光等)による溶着によって接合される。
【0053】
本実施形態においては、光透過性の第2の基板20における第1の基板10側表面上に、流体回路を構成する溝(凹部)30が設けられ、この溝30と第1の基板10とによって流体回路(内部空間)が形成される。そして、溝30の底面に、断面形状が二等辺三角形であり、かつその頂角が90度である突起(すなわち、断面形状が、基板面に対して45度のテーパーを有する先細の突起)を含むテーパー構造部60が設けられている。ここでいう溝30の底面とは、およそ四角形状である溝30における第2の基板20の外表面(第1の基板10とは反対側の主面)側の内壁面であり、この内壁面は通常、第2の基板20の外表面と略平行である。
【0054】
このようなテーパー構造部60を溝30の底面に設けることにより、第2の基板20側であって、第2の基板20における第1の基板10とは反対側の表面に対して垂直な方向から照射される基板の溶着のための光は、テーパー構造部60によって全反射されるため、流体回路の変形、とりわけ、テーパー構造部60に対向する内壁面(光吸収性基板からなる内壁面である)の変形を効果的に抑制することができ、これにより高精度の検査・分析を行なうことが可能になる。このような遮光効果は、検査や分析の種類によって必要に応じて流体回路内に担持される固定化抗体等の担持物の失活を防止するうえでも極めて有効である。
【0055】
テーパー構造部60は、たとえば、断面形状が二等辺三角形であり、かつその頂角が90度である三角柱状の突起の複数を平行に配列したものや、断面形状が二等辺三角形であり、かつその頂角が90度である四角錘状(ピラミッド形状)の突起の複数を隣接して(たとえば縦横に)配列したものであることができる。
【0056】
テーパー構造部60は、上記第1の実施形態における断面がV字形状の溝40と同様、流体回路のうち、特に遮光が望ましい箇所など、流体回路の少なくとも一部の直上に設けられればよい。特に遮光が望ましい箇所とは、たとえば、検体(検体中の特定成分を含む。)を計量するための検体計量部、試薬を計量するための試薬計量部、幅が狭い流路、固定化抗体等の担持物が存在する箇所などである。
【0057】
第1の基板10と第2の基板20とからなる基板積層体を作製し、テーパー構造部60を設けることの効果を検証する実験を行なった。実験概要は次のとおりである。厚み1.5mmの黒色の第1の基板10(カーボンブラックを分散したポリスチレンからなる)上に、流体回路を構成する、断面がおよそ四角形状の溝(幅5000μm、深さ3000μm)を一方の表面に形成した厚み5mmの透明な第2の基板20(ポリスチレンからなる)を、溝形成面側が第1の基板10に対向するように積層して基板積層体を得た。第2の基板20が有する溝の底面の一部には、幅1mm、長さ3mmの底面を有し、頂角が90度である三角柱状のライン状突起を3本隣接して平行に配列したテーパー構造部60を設けた。この基板積層体に、第2の基板20側であって、第2の基板20外表面に対して垂直な方向から、波長940μm、パワー30Wのレーザー光をスキャンスピード20mm/秒で照射した。第2の基板20が有する溝の底面に対向する流体回路内壁面(第1の基板10からなる内壁面)の荒れの程度を、レーザー顕微鏡を用いて測定したところ、テーパー構造部60が設けられた領域の直下の内壁面における表面粗さRa(算術平均粗さ)は3.7μmであったのに対し、テーパー構造部60が設けられていない領域の直下の内壁面における表面粗さRaは130.8μmであった。
【0058】
このように、流体回路を構成する溝の底面にテーパー構造部を設けることにより、流体回路の変形、とりわけ、テーパー構造部に対向する内壁面の変形を効果的に抑制できることが確認された。
【0059】
本実施形態のマイクロチップは、図11に示されるように、上記第1の実施形態と同様の断面がV字形状の溝40を、第2の基板20の外表面であって、流体回路を構成する溝30の直上の位置に有していてもよい。これにより上述の効果(I)および(II)をさらに得ることができる。
【0060】
また、本実施形態のマイクロチップは、第2の基板20の外表面であって、第1の基板10と第2の基板20とが接触する貼り合わせ部の上部に設けられる集光部70を備えていてもよい。集光部70は、第2の基板20の外表面から傾斜した傾斜面を備えるものである。このような集光部70を設けることにより、光照射が不要な領域(流体回路を構成する溝が存在する領域)へ向けて照射された光を第1の基板と第2の基板との貼り合わせ部に振り向けることが可能になるため、基板間の接着性の向上を図ることができるとともに、流体回路の変形防止を図ることもできる。
【0061】
本実施形態に係るマイクロチップの製造方法は、上記第1の実施形態と同様であり、上記工程(A)および(B)を含む方法によって好適に製造することができる。また、マイクロチップに用いる基板の構成および材質等も、テーパー構造部60が設けられること、および、光透過性の第2の基板20に流体回路を構成する溝30が設けられることが必須になることを除いては上記第1の実施形態と同様である。テーパー構造部60は、転写構造を有する金型を用いた射出成形法、インプリント法などにより形成することができる。
【0062】
なお、本実施形態においても、マイクロチップを構成する基板の数は2枚に限定されるものではなく、たとえば、基板の両表面に流体回路を構成する溝(凹部)を備える光吸収性の第1の基板と、これを挟持するように積層される光透過性の第2および第3の基板との積層構造を有するものであってもよい。
【符号の説明】
【0063】
10 第1の基板、20 第2の基板、30 流体回路を構成する溝、40 断面がV字形状の溝、41 断面がV字形状の溝の幅方向端部、50 基板の貼り合わせ部、60テーパー構造部、70 集光部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療や健康、食品、創薬などの分野で、DNA(Deoxyribo Nucleic Acid)や酵素、抗原、抗体、タンパク質、ウィルスおよび細胞などの生体物質、ならびに化学物質を検知、検出あるいは定量する重要性が増してきており、それらを簡便に測定できる様々なバイオチップおよびマイクロ化学チップ(以下、これらを総称してマイクロチップと称する。)が提案されている。
【0003】
マイクロチップは、実験室で行なっている一連の分析または実験操作を、数cm角で厚さ数mm〜1cm程度のチップ内で行なえることから、検体および試薬が微量で済み、コストが安く、反応速度が速く、ハイスループットな検査ができ、検体を採取した現場で直ちに検査結果を得ることができるなど多くの利点を有している。このようなマイクロチップは、たとえば血液検査等の生化学検査用として好適に用いられている。
【0004】
マイクロチップとしては、流体回路(あるいはマイクロ流体回路)と呼ばれる、該回路内に存在する検体、試薬等の液体に対して特定の処理を行なうための複数種類の部位(室)とこれらの部位を適切に接続する微細な流路とから構成される流路網をその内部に備えたものが従来公知である。このような流体回路を内部に備えるマイクロチップを用いた検体の検査または分析などにおいては、その流体回路を利用して、流体回路内に導入された検体やこれと混合される試薬の計量(すなわち、計量を行なうための部位である計量部への移動)、検体と試薬との混合(すなわち、これらを混合するための部位である混合部への移動)、ある部位から他の部位への移動などの種々の処理が行なわれる。なお、マイクロチップ内でなされる、各種液体(検体、検体中の特定成分、液体試薬、またはこれらのうちの2種以上の混合物など)に対してなされる処理を以下では「流体処理」ともいう。これら種々の流体処理は、マイクロチップに対して、適切な方向の遠心力を印加することにより行なうことができる。
【0005】
上記のような、遠心力を利用して流体回路内の液体を流体回路内の所望の位置(部位)に移動させて流体処理を行なうマイクロチップは、流体回路を構成する溝(凹部)が形成された基板と、平坦な基板とを貼り合わせることにより作製することができる。従来、マイクロチップを構成する、熱可塑性樹脂からなる2枚の基板の貼り合わせには、光(たとえばレーザー光)照射による溶着が用いられている(たとえば、特許文献1)。この光照射による溶着においては、2枚の熱可塑性樹脂基板のうち、一方を光透過性基板とし、他方を光吸収性基板として、この両者を重ね合わせて、光透過性基板側から光を照射する。光照射により、貼り合わせ面の温度が融点を超えると、基板が融解して両基板が接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−310828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されるような光照射による溶着には以下のような課題があった。すなわち、通常、光透過性基板と光吸収性基板とを貼り合わせる場合には、光透過性基板の全面に光を照射するが、光透過性基板と光吸収性基板との貼り合わせ部(接触部)への光の照射光量が十分でないと接合不良が生じる。一方、すべての貼り合わせ部に接合不良が生じない程度まで照射光量を大きくすると、貼り合わせ部以外へのダメージが大きくなってしまう。たとえば、照射光量を大きくすると、計量部の変形によりその容量が変化したり、各部を接続する微細な流路が閉塞したり、該流路の内壁面が荒れたりするなど、流体回路の変形が生じ得る。流体回路の変形は、マイクロチップを用いた検査・分析の精度を大きく低下させる要因となる。
【0008】
本発明の目的は、内部の流体回路の変形が抑制されており、もって高精度で検査・分析を行なうことができるマイクロチップを提供することにある。また本発明の他の目的は、内部に形成される流体回路の変形を抑えることができるマイクロチップの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、内部に形成された空間からなる流体回路を備えており、流体回路内に存在する液体を流体回路内の所望の位置に移動させるマイクロチップであって、光吸収性の第1の基板と、該第1の基板上に貼合される光透過性の第2の基板とを含み、第2の基板における第1の基板とは反対側の表面上であって、流体回路の少なくとも一部の直上の位置に、流体回路と平行に延びる断面がV字形状の溝を有するマイクロチップを提供する。
【0010】
上記V字形状の溝における幅方向の両端部は、第1の基板と第2の基板とが接触している貼り合わせ部の直上に位置することが好ましい。
【0011】
上記V字形状の溝は、その断面形状が二等辺三角形であり、かつ下記式(1):
l=〔a・tan(θ−θ’)〕/〔1+tanθ・tan(θ−θ’)〕 (1)
を満たすことが好ましい。
【0012】
ここで、式(1)中、lはV字形状の溝の幅方向両端部間の距離の1/2であり、aは第2の基板におけるV字形状の溝が形成される側の表面から流体回路までの距離であり、θはV字形状の溝の幅方向両端部間を結ぶ直線と該溝を構成する傾斜面とがなす角度である。θ’は、下記式(2):
sinθ/sinθ’=n/1 (2)
を満たす角度であり、式(2)中のnは第2の基板の屈折率である。
【0013】
また本発明は、内部に形成された空間からなる流体回路を備えており、流体回路内に存在する液体を流体回路内の所望の位置に移動させるマイクロチップであって、光吸収性の第1の基板と、該第1の基板上に貼合される光透過性の第2の基板とを含み、流体回路は、第2の基板における第1の基板側表面上に設けられる溝と第1の基板とによって形成される空間からなり、該溝の底面に、断面形状が二等辺三角形であり、かつその頂角が90度である突起を含むテーパー構造部を備えるマイクロチップを提供する。当該マイクロチップは、第2の基板における第1の基板とは反対側の表面上であって、流体回路の少なくとも一部の直上の位置に、流体回路と平行に延びる断面がV字形状の溝をさらに有していてもよい。
【0014】
テーパー構造部は、たとえば、断面形状が二等辺三角形であり、かつその頂角が90度である三角柱状の突起の複数を平行に配列したものや、断面形状が二等辺三角形であり、かつその頂角が90度である四角錘状の突起の複数を隣接して配列したものであることができる。
【0015】
さらに本発明は、第1の基板上に第2の基板を配置する工程と、第2の基板側であって、第2の基板における第1の基板とは反対側の表面に対して垂直な方向から光を照射することにより、第1の基板と第2の基板とを溶着させる工程とを備える上記マイクロチップの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光照射による溶着によって基板同士を貼り合わせるマイクロチップにおいて、内部の流体回路の変形が抑制されたマイクロチップを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るマイクロチップを概念的に示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るマイクロチップの一例を示す概略断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係るマイクロチップの他の一例を示す概略断面図である。
【図4】断面がV字形状の溝が、その溝形状に関して満足することが好ましい要件を説明するための概略断面図である。
【図5】実際に作製された、本発明の第1の実施形態に係るマイクロチップを示す写真である。
【図6】断面がV字形状の溝を設けることの効果を検証する実験のために作製した、第1の基板に流体回路を構成する溝が設けられ、第2の基板の外表面に断面がV字形状の溝が設けられた基板積層体の一例の断面を示す写真である。
【図7】断面がV字形状の溝を設けることの効果を検証する実験の実験結果を示す写真である(V字形状の溝あり)。
【図8】断面がV字形状の溝を設けることの効果を検証する実験の実験結果を示す写真である(V字形状の溝なし)。
【図9】断面がV字形状の溝を設けることの効果を検証する実験の実験結果を示す写真である(V字形状の溝あり)。
【図10】断面がV字形状の溝を設けることの効果を検証する実験の実験結果を示す写真である(V字形状の溝なし)。
【図11】本発明の第2の実施形態に係るマイクロチップの一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のマイクロチップは、各種化学合成、検査または分析等を、それが内部に有する流体回路(内部に形成された空間)を用いて行なうチップであり、流体回路内の液体(検体、検体中の特定成分、液体試薬、および、これらのうちの2種以上の混合物など)を遠心力の印加により流体回路内の所定の位置(部位)に移動させることにより、該液体に対して適切な流体処理を行なうことができるものである。このために流体回路は、適切な位置に配置された種々の部位(室)を備えており、これらの部位は微細な流路を介して適切に接続されている。
【0019】
流体回路は、上記部位(室)として、たとえば、検査または分析などの対象となる検体と混合(または反応)させるための試薬を保持するための試薬保持部;流体回路内に導入された検体から特定成分を取り出すための分離部;検体(検体中の特定成分を含む。以下同じ。)を計量するための検体計量部;試薬を計量するための試薬計量部;検体と試薬とを混合するための混合部;得られた混合液についての検査または分析(たとえば、混合液中の特定成分の検出または定量)を行なうための検出部(光学測定用キュベット)などを含むことができる。検査または分析の方法は特に制限されず、たとえば、混合液を収容する検出部に光を照射して透過する光の強度(透過率)を検出する方法、検出部に保持された混合液についての吸収スペクトルを測定する方法等の光学測定を挙げることができる。本発明のマイクロチップは、上述の例示された部位のすべてを有していてもよく、いずれか1以上を有していなくてもよい。また、これら例示された部位以外の部位を有していてもよい。
【0020】
検体からの特定成分の抽出(不要成分の分離)、検体および/または試薬の計量、検体と試薬との混合、得られた混合液の検出部への導入などのような流体回路内における種々の流体処理は、マイクロチップに対して、適切な方向の遠心力を順次印加することにより行なうことができる。マイクロチップへの遠心力の印加は、マイクロチップを、遠心力を印加可能な装置(遠心装置)に載置して行なうことができる。遠心装置は、回転自在なローター(回転子)と、該ローター上に配置された回転自在なステージとを備えることができる。該ステージ上にマイクロチップを載置し、該ステージを回転させてローターに対するマイクロチップの角度を任意に設定することにより、マイクロチップに対して任意の方向の遠心力を印加することができる。
【0021】
以下、実施の形態を示して本発明を詳細に説明する。
<第1の実施形態>
図1は、本実施形態に係るマイクロチップを概念的に示す斜視図である。図1に示されるように、本実施形態のマイクロチップは、光吸収性の第1の基板10と、第1の基板10上に貼合される光透過性の第2の基板20とを含んで構成される。第1の基板10と第2の基板20とは、第2の基板20側から照射される光(レーザー光、ランプ光等)による溶着によって接合される。すなわち、第2の基板20を透過し、基板界面に達した光によって光吸収性の第1の基板の貼り合わせ面を融解させ、基板同士の接合がなされる。
【0022】
図1の例においては、第1の基板10における第2の基板20側表面上に、流体回路を構成する溝(凹部)30が設けられており、この溝30と第2の基板20とによって流体回路(内部空間)が形成されている。そして、第2の基板20における第1の基板10とは反対側の表面(外側表面)上であって、流体回路の直上の位置に、流体回路と平行に延びる、断面がV字形状の溝40が設けられている。このような溝40を第2の基板表面に有する本実施形態のマイクロチップは、以下の点で極めて有利である。
【0023】
(I)溝40は、第1の基板10と第2の基板20とを光溶着する際に照射する光が、溝40の直下の位置する流体回路を構成する溝30に照射されることを防止する遮光手段として効果的に機能する。これにより、流体回路の変形(たとえば、各部位の変形、部位間を接続する流路の変形または閉塞、各部位や流路の内壁面の荒れなど)を抑制できるため、高精度の検査・分析を行なうことが可能になる。また、このような遮光効果は、検査や分析の種類によって必要に応じて流体回路内に担持される固定化抗体等の担持物の失活を防止するうえでも極めて有効である。
【0024】
(II)溝40に照射された溶着のための光は、溝40によって屈折され、第1の基板10と第2の基板20とが接触する貼り合わせ部に集光される。これにより、光源の照射強度や照射時間を増加させることなく、第1の基板10と第2の基板20との貼り合わせ部(接触部)に到達する光の照射光量を増加させることができるため、基板間の接着性を向上させることができる。また、照射時間を増加させる必要がないことから、生産性を向上させることができる。
【0025】
このように、第2の基板全体にわたって一律に光を照射した場合においても、光照射が不要な領域(流体回路を構成する溝が存在する領域)へ向けて照射された光を第1の基板と第2の基板との貼り合わせ部に振り向けることが可能になるため、流体回路の変形防止と基板間の接着性の向上とを同時に達成することが可能となる。
【0026】
図2および図3は、本実施形態に係るマイクロチップをより具体的に示す概略断面図である。図2に示されるマイクロチップは、上記図1と同様、光吸収性基板である第1の基板10における第2の基板20側表面上に、流体回路を構成する溝(凹部)30が設けられている。一方、図3に示されるマイクロチップは、光透過性基板である第2の基板20における第1の基板10側表面上に、流体回路を構成する溝30が設けられている。このように流体回路を構成する溝30はいずれの基板に形成されてもよい。
【0027】
図2および図3を参照して、第2の基板20側であって、第2の基板20における第1の基板10とは反対側の表面(溝40を有する表面)に対して垂直な方向から照射される基板の溶着のための光は、上述のように、溝40によって屈折され、溝40の直下の位置する流体回路を構成する溝30に照射されることを防止するとともに、当該屈折された光は、第1の基板10と第2の基板20とが接触する貼り合わせ部50に集光される。これにより上記効果が得られる。
【0028】
図2および図3を参照して、断面がV字形状の溝40における幅方向の端部41はともに、第1の基板10と第2の基板20とが接触する貼り合わせ部50の直上に位置することが好ましい。これにより、流体回路全体にわたって溝40の直下に位置する溝30の変形を防止することができる。
【0029】
断面がV字形状の溝40は、その断面形状が三角形であるが、2つの傾斜面によって等方的に光を屈折させることができることから、二等辺三角形であることが好ましい。また、断面形状が二等辺三角形である場合において溝40は、図4を参照して、その形状に関し、下記式(1):
l=〔a・tan(θ−θ’)〕/〔1+tanθ・tan(θ−θ’)〕 (1)
を満たすことが好ましい。
【0030】
上記式(1)中、lは、V字形状の溝40の幅方向端部41,41間の距離の1/2である。aは、第2の基板20におけるV字形状の溝40が形成される側の表面から流体回路(溝30)までの距離であり、図4の例のように、第1の基板10に流体回路を構成する溝30が設けられる場合には、第2の基板20の厚みに相当する。θは、V字形状の溝40の幅方向端部41,41間を結ぶ直線と溝40を構成する傾斜面とがなす角度である。θ’は、下記式(2):
sinθ/sinθ’=n/1 (2)
を満たす角度である。上記式(2)中のnは、第2の基板20の屈折率である。
【0031】
V字形状の溝40の形状が上記式(1)を満足することが好ましい理由は次のとおりである。遮光手段であるV字形状の溝40によって遮光される領域(遮光領域)は、最大限の遮光効果を得るためにできるだけ広いことが好ましい。遮光領域は、図4を参照して、溝40の頂点(V字の頂点)近くに照射された光が仮にそのまま直進したときに到達する第1の基板10/第2の基板20の界面における位置と、溝40の傾斜面により屈折されることによって実際に到達する第1の基板10/第2の基板20の界面における位置との距離をwとすると、min(w,l)と表すことができる。つまり、遮光領域はwとlの小さい方で決定され、距離wとlが両方とも大きいほど遮光効果が高く好ましい。
【0032】
第2の基板20の表面(溝40が形成される表面)に対して垂直な方向から、溝40の頂点近くに照射される照射光について考えたとき、溝40の傾斜面へのその照射光の入射角は、溝40の幅方向端部41,41間を結ぶ直線と溝40の傾斜面とがなす角度と同じθであり、傾斜面によって屈折された光の屈折角θ’とは、下記式〔a〕:
sinθ/sinθ’=n/1 〔a〕
の関係を満たす。この式〔a〕は上記式(2)と同一である。
【0033】
また、溝40の幅方向端部41,41間を結ぶ直線から、照射光と溝40の傾斜面との接点までの距離をdとすると、図4から、下記式〔b〕および〔c〕:
tanθ=d/l 〔b〕
tan(θ−θ’)=w/(a−d) 〔c〕
の関係式が導かれる。
【0034】
一方、遮光領域を代表するmin(w,l)が最大になるのは、下記式〔d〕:
w=l 〔d〕
の関係を満たす場合であるから、上記〔b〕〜〔d〕より、遮光領域min(w,l)が最大になるのは、上記式(1)を満たす場合となる。
【0035】
たとえば、図4に示されるマイクロチップにおいて第2の基板20として、ポリスチレン(屈折率n=1.59)からなる厚み1.5mm(すなわち、a=1.5mm)の光透過性基板を用いた場合、上記式(1)より、距離wは、θ=56.8度のとき最大値0.41mmを示す。
【0036】
図5は、実際に作製された本実施形態に係るマイクロチップを示す写真である。図5に示されるマイクロチップにおいては、流体回路のうち、全血から分離された血漿成分を計量するための検体計量部、および、該血漿成分に混合される試薬を保持する試薬保持部と試薬を計量するための試薬計量部とを接続する流路の直上に、断面がV字形状の溝40が設けられている。このように溝40は、流体回路のうち、特に遮光が望ましい箇所など、流体回路の少なくとも一部の直上に設けられればよい。特に遮光が望ましい箇所とは、たとえば、検体(検体中の特定成分を含む。)を計量するための検体計量部、試薬を計量するための試薬計量部、幅が狭い流路、固定化抗体等の担持物が存在する箇所などである。
【0037】
図6は、断面がV字形状の溝40を設けることの効果を検証する実験のために作製した、第1の基板10に流体回路を構成する溝が設けられ、第2の基板20の表面(外表面)に溝40が設けられた基板積層体の一例の断面を示す写真である。また、図7〜図10は、断面がV字形状の溝40を設けることの効果を検証する実験の実験結果を示す写真であり、上記基板積層体の断面を示したものである。図6に示される基板積層体は、一方の表面に、断面が四角形状の溝(幅250μm、深さ1000μm)を形成した厚み5mmの黒色の第1の基板10(カーボンブラックを分散したポリスチレンからなる)上に、厚み1.6mmの透明な第2の基板20(ポリスチレンからなる)を積層したものであり、第2の基板20はその外表面であって、第1の基板10が有する溝の直上に断面がV字形状の溝40(溝40の幅方向両端部間の距離534μm、最大深さ800μm、頂角67.4度)を有している。
【0038】
上記のような図6に示される基板積層体に、図6に示されるような方向、すなわち、第2の基板20側であって、第2の基板20外表面(溝40を有する表面)に対して垂直な方向から、波長940μm、パワー30Wのレーザー光をスキャンスピード20mm/秒で照射した。その結果が図7である。図7に示されるように、四角形状の溝に変形および閉塞は全く見られなかった。これに対して、溝40を有しないこと以外は図6の基板積層体と同じ構成の基板積層体について同様のレーザー光照射実験を行なったところ、図8に示すように、第1の基板10と第2の基板20との界面付近において、四角形状の溝に大きな変形が生じた。
【0039】
さらに、四角形状の溝の幅および深さをそれぞれ180μm、480μmに変更したこと以外は図6の基板積層体と同じ構成の基板積層体(断面がV字形状の溝40あり)について同様のレーザー光照射実験を行なったところ、図9に示されるように、四角形状の溝に変形および閉塞は全く見られなかった。これに対して、四角形状の溝の幅および深さをそれぞれ180μm、480μmに変更するとともに、溝40を有しないこと以外は図6の基板積層体と同じ構成の基板積層体について同様のレーザー光照射実験を行なったところ、図10に示すように、四角形状の溝に閉塞が生じた。
【0040】
このように、光透過性基板の外表面であって、流体回路を構成する溝の直上の位置に断面がV字形状の溝を設けることにより、流体回路の変形および閉塞を効果的に防止できることが確認された。
【0041】
次に、本実施形態に係るマイクロチップの製造方法およびマイクロチップに用いる基板について説明する。本実施形態に係るマイクロチップは、以下の工程:
(A)光吸収性の第1の基板10上に、光透過性の第2の基板を配置する工程、および
(B)第2の基板20側であって、第2の基板20における第1の基板10とは反対側の表面に対して垂直な方向から光を照射することにより、第1の基板と第2の基板とを溶着させる工程を含む方法によって好適に製造することができる。
【0042】
上記方法によれば、断面がV字形状の溝40によって、第1の基板10と第2の基板20とを光溶着する際に照射する光が、溝40の直下の位置する流体回路を構成する溝30に照射されることを防止できるため、流体回路の変形を効果的に抑制することができる。また、溝40に照射された溶着のための光は、溝40によって屈折され、第1の基板10と第2の基板20とが接触する貼り合わせ部に集光されるため、光源の照射強度や照射時間を増加させることなく、第1の基板10と第2の基板20との貼り合わせ部(接触部)に到達する光の照射光量を増加させることができ、基板間の接着性を向上させることができる。また、照射時間を増加させる必要がないことから、生産性を向上させることができる。
【0043】
第1の基板10は光吸収性の基板であり、たとえば、光を吸収して発熱する光吸収物質が分散された熱可塑性樹脂から構成することができる。光吸収物質としては、たとえば色素を挙げることができ、その中でもカーボンブラックを好適に用いることができる。光吸収物質は、少なくとも第1の基板10の貼り合わせ面上に分散されていればよい。たとえば、基板の貼り合わせ面側に光吸収物質が分散された層が形成された構成としてもよく、あるいは第1の基板10全体に光吸収物質が分散されていてもよい。
【0044】
第2の基板20は、光透過性の熱可塑性樹脂からなる。第1の基板10および第2の基板20に用いられる熱可塑性樹脂としては、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン(PS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアリレート樹脂(PAR)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリメチルペンテン樹脂(PMP)、ポリブタジエン樹脂(PBD)、スチレン・ブタジエン樹脂(スチレン−ブタジエン共重合体)、生分解性ポリマー(BP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)などを挙げることができる。
【0045】
第1の基板10と第2の基板20とは、異種の熱可塑性樹脂から構成する場合もあるが、同種の熱可塑性樹脂から構成することが好ましい。両基板を同種の樹脂から構成することにより、光照射によって両基板の貼り合わせ面が同時に融解するため、接着強度をより高くすることができる。
【0046】
第1の基板10および第2の基板20のサイズは特に限定されず、たとえば縦横数cm程度、厚さ数mm〜1cm程度とすることができる。
【0047】
図2および図3に示されるように、流体回路を構成する溝(凹部)30は、第1の基板10の表面に設けられてもよく、第2の基板20の表面に設けられてもよい。場合によっては、両基板に設けることもできる。
【0048】
基板表面に、流体回路を構成する溝を形成する方法としては、特に制限されず、転写構造を有する金型を用いた射出成形法、インプリント法などを挙げることができる。マイクロチップの流体回路は、第1の基板表面に設けられた凹部と第2の基板における第1の基板に対向する側の表面とから構成される空洞部からなる。溝(凹部)の形状(パターン)は、所望される適切な流体回路構造となるように決定される。第2の基板20の表面に設ける断面がV字形状の溝40についても同様の方法で形成することができる。
【0049】
上記工程(A)においては、第1の基板10上に、第2の基板20を配置する。ついで、上記工程(B)において、ガラス板等を第2の基板上に配置し、このガラス板等を介して第1の基板10および第2の基板20に圧力を印加した状態で、第2の基板側(ガラス板側)であって、該基板表面に対して垂直な方向から光(たとえば、レーザー光、ランプ光)を照射し、第2の基板全体にわたってスキャンすることにより、基板の溶着を行なう。圧力を印加することにより、第1の基板10と第2の基板20とを隙間無く密着させた状態で溶着を行なうことができる。光照射により、光吸収物質が発熱し、この熱によって第1の基板10の貼り合わせ部、場合によってはさらに第2の基板20の貼り合わせ部が溶融し、基板同士が溶着される。
【0050】
照射する光は、カーボンブラック等の光吸収物質が光を吸収して、比較的効率よく貼り合わせ部を加熱できるものであれば特に限定されず、たとえば、波長0.8〜1.1μm程度、パワー10〜1000W程度のレーザー光を用いることができる。
【0051】
以上、本実施形態のマイクロチップについて、主に、第1の基板10と第2の基板20の2枚の基板からなるマイクロチップを例に挙げて説明したが、これに限定されるものではなく、たとえば、基板の両表面に流体回路を構成する溝(凹部)を備える光吸収性の第1の基板と、これを挟持するように積層される光透過性の第2および第3の基板との積層構造を有するものであってもよい。この場合、流体回路は、第2の基板および第1の基板における第2の基板側表面に設けられた溝から構成される第1の流体回路と、第3の基板および第1の基板における第3の基板側表面に設けられた溝から構成される第2の流体回路との2層構造を有することができる。「2層」とは、マイクロチップの厚み方向に関して異なる2つの位置に流体回路が設けられていることを意味する。かかる2層の流体回路は、第1の基板を厚み方向に貫通する貫通穴によって接続することができる。なお、図5に示されるマイクロチップは、このような3枚の基板からなるものである。
【0052】
<第2の実施形態>
図11は、本実施形態に係るマイクロチップの一例を示す概略断面図である。図11に示されるように、本実施形態のマイクロチップは、光吸収性の第1の基板10と、第1の基板10上に貼合される光透過性の第2の基板20とを含んで構成される。第1の基板10と第2の基板20とは、上記第1の実施形態と同様、第2の基板20側から照射される光(レーザー光、ランプ光等)による溶着によって接合される。
【0053】
本実施形態においては、光透過性の第2の基板20における第1の基板10側表面上に、流体回路を構成する溝(凹部)30が設けられ、この溝30と第1の基板10とによって流体回路(内部空間)が形成される。そして、溝30の底面に、断面形状が二等辺三角形であり、かつその頂角が90度である突起(すなわち、断面形状が、基板面に対して45度のテーパーを有する先細の突起)を含むテーパー構造部60が設けられている。ここでいう溝30の底面とは、およそ四角形状である溝30における第2の基板20の外表面(第1の基板10とは反対側の主面)側の内壁面であり、この内壁面は通常、第2の基板20の外表面と略平行である。
【0054】
このようなテーパー構造部60を溝30の底面に設けることにより、第2の基板20側であって、第2の基板20における第1の基板10とは反対側の表面に対して垂直な方向から照射される基板の溶着のための光は、テーパー構造部60によって全反射されるため、流体回路の変形、とりわけ、テーパー構造部60に対向する内壁面(光吸収性基板からなる内壁面である)の変形を効果的に抑制することができ、これにより高精度の検査・分析を行なうことが可能になる。このような遮光効果は、検査や分析の種類によって必要に応じて流体回路内に担持される固定化抗体等の担持物の失活を防止するうえでも極めて有効である。
【0055】
テーパー構造部60は、たとえば、断面形状が二等辺三角形であり、かつその頂角が90度である三角柱状の突起の複数を平行に配列したものや、断面形状が二等辺三角形であり、かつその頂角が90度である四角錘状(ピラミッド形状)の突起の複数を隣接して(たとえば縦横に)配列したものであることができる。
【0056】
テーパー構造部60は、上記第1の実施形態における断面がV字形状の溝40と同様、流体回路のうち、特に遮光が望ましい箇所など、流体回路の少なくとも一部の直上に設けられればよい。特に遮光が望ましい箇所とは、たとえば、検体(検体中の特定成分を含む。)を計量するための検体計量部、試薬を計量するための試薬計量部、幅が狭い流路、固定化抗体等の担持物が存在する箇所などである。
【0057】
第1の基板10と第2の基板20とからなる基板積層体を作製し、テーパー構造部60を設けることの効果を検証する実験を行なった。実験概要は次のとおりである。厚み1.5mmの黒色の第1の基板10(カーボンブラックを分散したポリスチレンからなる)上に、流体回路を構成する、断面がおよそ四角形状の溝(幅5000μm、深さ3000μm)を一方の表面に形成した厚み5mmの透明な第2の基板20(ポリスチレンからなる)を、溝形成面側が第1の基板10に対向するように積層して基板積層体を得た。第2の基板20が有する溝の底面の一部には、幅1mm、長さ3mmの底面を有し、頂角が90度である三角柱状のライン状突起を3本隣接して平行に配列したテーパー構造部60を設けた。この基板積層体に、第2の基板20側であって、第2の基板20外表面に対して垂直な方向から、波長940μm、パワー30Wのレーザー光をスキャンスピード20mm/秒で照射した。第2の基板20が有する溝の底面に対向する流体回路内壁面(第1の基板10からなる内壁面)の荒れの程度を、レーザー顕微鏡を用いて測定したところ、テーパー構造部60が設けられた領域の直下の内壁面における表面粗さRa(算術平均粗さ)は3.7μmであったのに対し、テーパー構造部60が設けられていない領域の直下の内壁面における表面粗さRaは130.8μmであった。
【0058】
このように、流体回路を構成する溝の底面にテーパー構造部を設けることにより、流体回路の変形、とりわけ、テーパー構造部に対向する内壁面の変形を効果的に抑制できることが確認された。
【0059】
本実施形態のマイクロチップは、図11に示されるように、上記第1の実施形態と同様の断面がV字形状の溝40を、第2の基板20の外表面であって、流体回路を構成する溝30の直上の位置に有していてもよい。これにより上述の効果(I)および(II)をさらに得ることができる。
【0060】
また、本実施形態のマイクロチップは、第2の基板20の外表面であって、第1の基板10と第2の基板20とが接触する貼り合わせ部の上部に設けられる集光部70を備えていてもよい。集光部70は、第2の基板20の外表面から傾斜した傾斜面を備えるものである。このような集光部70を設けることにより、光照射が不要な領域(流体回路を構成する溝が存在する領域)へ向けて照射された光を第1の基板と第2の基板との貼り合わせ部に振り向けることが可能になるため、基板間の接着性の向上を図ることができるとともに、流体回路の変形防止を図ることもできる。
【0061】
本実施形態に係るマイクロチップの製造方法は、上記第1の実施形態と同様であり、上記工程(A)および(B)を含む方法によって好適に製造することができる。また、マイクロチップに用いる基板の構成および材質等も、テーパー構造部60が設けられること、および、光透過性の第2の基板20に流体回路を構成する溝30が設けられることが必須になることを除いては上記第1の実施形態と同様である。テーパー構造部60は、転写構造を有する金型を用いた射出成形法、インプリント法などにより形成することができる。
【0062】
なお、本実施形態においても、マイクロチップを構成する基板の数は2枚に限定されるものではなく、たとえば、基板の両表面に流体回路を構成する溝(凹部)を備える光吸収性の第1の基板と、これを挟持するように積層される光透過性の第2および第3の基板との積層構造を有するものであってもよい。
【符号の説明】
【0063】
10 第1の基板、20 第2の基板、30 流体回路を構成する溝、40 断面がV字形状の溝、41 断面がV字形状の溝の幅方向端部、50 基板の貼り合わせ部、60テーパー構造部、70 集光部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に形成された空間からなる流体回路を備えており、前記流体回路内に存在する液体を前記流体回路内の所望の位置に移動させるマイクロチップであって、
光吸収性の第1の基板と、前記第1の基板上に貼合される光透過性の第2の基板とを含み、
前記第2の基板における前記第1の基板とは反対側の表面上であって、前記流体回路の少なくとも一部の直上の位置に、前記流体回路と平行に延びる断面がV字形状の溝を有するマイクロチップ。
【請求項2】
前記溝の幅方向両端部は、前記第1の基板と前記第2の基板とが接触している貼り合わせ部の直上に位置する請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記溝は、その断面形状が二等辺三角形であり、かつ下記式(1):
l=〔a・tan(θ−θ’)〕/〔1+tanθ・tan(θ−θ’)〕 (1)
[上記式(1)中、lは前記溝の幅方向両端部間の距離の1/2であり、aは前記第2の基板における前記溝が形成される側の表面から前記流体回路までの距離であり、θは前記溝の幅方向両端部間を結ぶ直線と前記溝を構成する傾斜面とがなす角度である。また、θ’は、下記式(2):
sinθ/sinθ’=n/1 (2)
を満たす角度であり、上記式(2)中のnは前記第2の基板の屈折率である。]
を満たす請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
内部に形成された空間からなる流体回路を備えており、前記流体回路内に存在する液体を前記流体回路内の所望の位置に移動させるマイクロチップであって、
光吸収性の第1の基板と、前記第1の基板上に貼合される光透過性の第2の基板とを含み、
前記流体回路は、前記第2の基板における前記第1の基板側表面上に設けられる溝と前記第1の基板とによって形成される空間からなり、
前記溝の底面に、断面形状が二等辺三角形であり、かつその頂角が90度である突起を含むテーパー構造部を備えるマイクロチップ。
【請求項5】
前記テーパー構造部は、断面形状が二等辺三角形であり、かつその頂角が90度である三角柱状の突起の複数を平行に配列したものである請求項4に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記テーパー構造部は、断面形状が二等辺三角形であり、かつその頂角が90度である四角錘状の突起の複数を隣接して配列したものである請求項4に記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記第2の基板における前記第1の基板とは反対側の表面上であって、前記流体回路の少なくとも一部の直上の位置に、前記流体回路と平行に延びる断面がV字形状の溝をさらに有する請求項4に記載のマイクロチップ。
【請求項8】
前記第1の基板上に前記第2の基板を配置する工程と、
前記第2の基板側であって、前記第2の基板における前記第1の基板とは反対側の表面に対して垂直な方向から光を照射することにより、前記第1の基板と前記第2の基板とを溶着させる工程と、
を備える請求項1〜7のいずれかに記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項1】
内部に形成された空間からなる流体回路を備えており、前記流体回路内に存在する液体を前記流体回路内の所望の位置に移動させるマイクロチップであって、
光吸収性の第1の基板と、前記第1の基板上に貼合される光透過性の第2の基板とを含み、
前記第2の基板における前記第1の基板とは反対側の表面上であって、前記流体回路の少なくとも一部の直上の位置に、前記流体回路と平行に延びる断面がV字形状の溝を有するマイクロチップ。
【請求項2】
前記溝の幅方向両端部は、前記第1の基板と前記第2の基板とが接触している貼り合わせ部の直上に位置する請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記溝は、その断面形状が二等辺三角形であり、かつ下記式(1):
l=〔a・tan(θ−θ’)〕/〔1+tanθ・tan(θ−θ’)〕 (1)
[上記式(1)中、lは前記溝の幅方向両端部間の距離の1/2であり、aは前記第2の基板における前記溝が形成される側の表面から前記流体回路までの距離であり、θは前記溝の幅方向両端部間を結ぶ直線と前記溝を構成する傾斜面とがなす角度である。また、θ’は、下記式(2):
sinθ/sinθ’=n/1 (2)
を満たす角度であり、上記式(2)中のnは前記第2の基板の屈折率である。]
を満たす請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
内部に形成された空間からなる流体回路を備えており、前記流体回路内に存在する液体を前記流体回路内の所望の位置に移動させるマイクロチップであって、
光吸収性の第1の基板と、前記第1の基板上に貼合される光透過性の第2の基板とを含み、
前記流体回路は、前記第2の基板における前記第1の基板側表面上に設けられる溝と前記第1の基板とによって形成される空間からなり、
前記溝の底面に、断面形状が二等辺三角形であり、かつその頂角が90度である突起を含むテーパー構造部を備えるマイクロチップ。
【請求項5】
前記テーパー構造部は、断面形状が二等辺三角形であり、かつその頂角が90度である三角柱状の突起の複数を平行に配列したものである請求項4に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記テーパー構造部は、断面形状が二等辺三角形であり、かつその頂角が90度である四角錘状の突起の複数を隣接して配列したものである請求項4に記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記第2の基板における前記第1の基板とは反対側の表面上であって、前記流体回路の少なくとも一部の直上の位置に、前記流体回路と平行に延びる断面がV字形状の溝をさらに有する請求項4に記載のマイクロチップ。
【請求項8】
前記第1の基板上に前記第2の基板を配置する工程と、
前記第2の基板側であって、前記第2の基板における前記第1の基板とは反対側の表面に対して垂直な方向から光を照射することにより、前記第1の基板と前記第2の基板とを溶着させる工程と、
を備える請求項1〜7のいずれかに記載のマイクロチップの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図11】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図11】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−225849(P2012−225849A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95413(P2011−95413)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】
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