マイクロチップ及びその製造方法
【課題】耐熱性や耐薬品性が高く、少ない製造工程で製造可能なマイクロチップ及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明によると、一つの透明な基材の内部に、基材の表面又は側面に開口部を有する流路を有することを特徴とするマイクロチップが提供される。また、本発明によると、レーザによって改質された後、等方性エッチングによって一つの透明な基材の内部に形成され、且つ基材の表面又は側面に開口部を有する流路を有することを特徴とするマイクロチップが提供される。
【解決手段】本発明によると、一つの透明な基材の内部に、基材の表面又は側面に開口部を有する流路を有することを特徴とするマイクロチップが提供される。また、本発明によると、レーザによって改質された後、等方性エッチングによって一つの透明な基材の内部に形成され、且つ基材の表面又は側面に開口部を有する流路を有することを特徴とするマイクロチップが提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップ及びその製造方法に関する。特に、基材の内部にマイクロ流路を形成したマイクロチップ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造技術を流路形成に応用したμ−TAS(Micro Total Analysis System)やLab−on−a−chip、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と呼ばれるマイクロチップが研究され、実用化されている。
【0003】
これらのマイクロチップは、数cm角の大きさのチップの内部にマイクロ流路と呼ばれるマイクロメートルオーダーの幅の流路を有し、マイクロ流路が合流したり、分岐したりする構造を有する。マイクロチップは、マイクロ流路に微量の溶液を流して、溶液の反応や分離、分析を行うシステムであるため、試料の微量化、反応の効率化を図ることができ、非常に有用である。また、流路の微細化によりマイクロチップを含む装置全体を小型化することも可能となるため、様々な用途への応用が可能となる。
【0004】
マイクロチップの材料としてはシリコン、ガラス、樹脂などが用いられている。樹脂製のマイクロチップは、大量生産が容易であるという利点はあるが、耐熱性が低く、有機溶剤によって膨潤や腐食が生じたり、張り合わせに用いる接着剤の成分が溶け出したりすることや、流体圧や外圧によってマイクロチップの変形が起こってしまうという問題がある。
【0005】
シリコン製のマイクロチップは、無機材料から構成されているので耐熱性が高く、有機溶剤による膨潤や腐食がなく、かつ流体圧や外圧によってマイクロチップが変形することがほとんどない。このようなシリコン製のマイクロチップは、MEMS技術を用いて製造することが可能であり、生産性の面でも優れている。
【0006】
一方、ガラス製のマイクロチップは、耐熱性が高く、有機溶剤による膨潤や腐食がなく、あるいは流体圧や外圧によって変形することがほとんどないマイクロチップを提供することが可能であり、また、透明な材料であることから、流路内の光学的な観察も可能である。ガラス製のマイクロチップを用いることで、例えば、蛍光物質等用いて細胞や、タンパク、DNAなどのイメージングに利用することもできる。
【0007】
このような光学的な観察が可能なマイクロチップを、ガラス基材とシリコン含有基材とを組合せて製造することが特許文献1に開示されている。また、複雑な形状の流路をガラス基材とシリコン基材を組合せて形成することが特許文献2に開示されている。このようなガラス基材とシリコン基材を組合せたマイクロチップは、樹脂製のマイクロチップに比して耐熱性が高く、有機溶剤による膨潤や腐食がなく、あるいは流体圧や外圧によってほとんど変形しない点で優れている。
【0008】
しかし、これら従来のマイクロチップは、シリコン、ガラス、樹脂などからなる基材の表面に流路を形成し、この流路を覆うために、少なくともさらに1枚の基材を張り合わせる必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−25688号公報
【特許文献2】特開2010―29780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、従来のマイクロチップは、1枚のマイクロチップの形成に必要な基材数が多く、その結果、厚くなるため小型化の障害となる。また、ガラス基材とシリコン基材を組合せたマイクロチップでは、基材同士を直接接合する場合、可動性イオンを含む特殊なガラス基材を用いる必要があり、接合工程が必要となる。さらに、流路を形成するシリコン基材を加工するための製造工程や必要な設備が多くなるため、製造コストが上昇する。
【0011】
そこで、本発明は上記の課題を鑑みてなされたものであり、耐熱性や耐薬品性が高く、少ない製造工程で製造可能なマイクロチップ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施形態によると、一つの透明な基材の内部に、基材の表面又は側面に開口部を有する流路を有することを特徴とするマイクロチップが提供される。
【0013】
これにより、基材の貼り合せや積層をすることなく、単一の透明な基材の内部に流路を形成したマイクロチップが提供される。したがって、基材を直接接合する場合のように、接合界面のボイドによる接合不良で、液漏れ等の不具合が生じることはない。また、ガラス基材とシリコン基材とを陽極接合する場合のように、開口部に相当する部分にアルカリ析出が起こり、被験物の性状によっては問題となることもない。さらに、接着剤を用いて基材を接合する場合のように、接着剤による流路特性の劣化や、接着剤により流路内の被験物の観察の障害となることもない。
【0014】
また、本発明の一実施形態によると、レーザによって改質された後、等方性エッチングによって一つの透明な基材の内部に形成され、且つ基材の表面又は側面に開口部を有する流路を有することを特徴とするマイクロチップが提供される。
【0015】
従来のガラス基材とシリコン基材を組合せたマイクロチップは、用いる基材が多いため、製造工程が多く複雑になるが、本発明の一実施形態によると、少ない製造工程で1枚の基材の内部に流路を形成したマイクロチップが提供される。
【0016】
マイクロチップの流路は基材内で基材の上面に対して水平方向および/または垂直方向に曲がるように形成されてもよい。
【0017】
これにより、1枚の基材内に蛇行させて流路を形成することで小型化を可能とし、また、1枚の基材であるために、細長いキャピラリーよりも割れにくく、扱いが容易なマイクロチップが提供される。
【0018】
マイクロチップの流路の断面形状は、円形、楕円形、多角形、リング形又はドーナツ形であってもよい。
【0019】
従来の半導体製造技術では、異方性エッチングを用いることで矩形形状の流路形成するのは比較的容易であるが、円形の流路を基材内部に形成するためには複雑な製造工程が必要となる。本発明の一実施形態によると、等方性のエッチングであるウェットエッチングを用いることで、形成された流路の断面は略円形の形状になり、製造工程も簡便なマイクロチップが提供される。また、多角形の断面形状の流路では、流路の幾何学的な配置を用いることで、1枚の基材に複数の流路をコンパクトに集積することができる。リング形又はドーナツ形の断面形状の流路では、流路毎に異なる温度の流体を流し、流体間の熱交換に用いることができ、また、異なる種類の液体、異なる粘度の流体を流すこともできる。
【0020】
マイクロチップの流路の断面形状が、基材の位置によって異なってもよい。
【0021】
これにより、マイクロチップの設計における自由度が高くなり、多様な用途のマイクロチップの開発を可能にすることができる。
【0022】
マイクロチップの流路に構造体を有してもよい。
【0023】
これにより、流路に構造体を形成することで、例えば、流体の流量や圧力を制御することが可能である。
【0024】
マイクロチップの流路に複数の構造体を有し、複数の構造体は大きさの異なる構造体を有してもよい。
【0025】
これにより、流路に複数の構造体を形成し、複数の構造体の大きさの異ならせることで、流体の撹拌が可能である。1つの流路の内部に所定の間隔で複数の板状構造体を形成することで、撹拌効果を高めることができる。
【0026】
また、本発明の一実施形態によると、一つの基材内部にレーザを照射して、基材の一部を改質し、基材の一部をエッチングにより除去して、基材の表面又は側面に開口部を有する流路を基材内部に形成することを特徴とするマイクロチップの製造方法が提供される。
【0027】
これにより、基材の貼り合せや積層をすることなく、単一の透明な基材の内部に流路を形成することができる。また、耐熱性や耐薬品性が高く、安価な材料を用いて製造可能なマイクロチップが提供される。
【0028】
マイクロチップの製造方法において、流路は基材内で基材の上面に対して水平方向および/または垂直方向に曲がるように形成されてもよい。
【0029】
これにより、1枚の基材内に蛇行させて流路を形成することで小型化を可能とし、また、1枚の基材であるために、細長いキャピラリーよりも割れにくく、扱いが容易なマイクロチップが製造できる。
【0030】
マイクロチップの製造方法において、レーザは1000フェムト秒以下のパルスレーザであってもよい。
【0031】
フェムト秒レーザは、レーザと物質との相互作用において非線形性が顕著になるため、多光子吸収を利用したプロセシングや熱的影響が無視できる。フェムト秒レーザは、炭酸ガスレーザやYAGレーザに比して、レーザ光を極めて小さな領域に照射することができ、加工精度は格段に高い。フェムト秒レーザを用いることで、加工する対象に瞬時にエネルギーを注入し、熱的、化学的損傷を受けない状態で、且つ、膜飛びを生じずに、必要箇所のみ屈折率を変え、密度を疎の状態に変える「改質」を行うことができる。
【0032】
マイクロチップの製造方法において、流路の断面形状を、円形、楕円形、多角形、リング形又はドーナツ形で形成してもよい。
【0033】
複雑な断面形状を有する流路を従来の半導体の製造技術で形成するには、複雑な製造工程が必要となる。本発明の一実施形態によると、従来に比して簡便に複雑な流路を形成することができる。したがって、マイクロチップの設計における自由度が高くなり、多様な用途のマイクロチップの開発を可能にする。
【0034】
マイクロチップの製造方法において、流路の断面形状を、基材の位置によって異なるように形成してもよい。
【0035】
1枚のマイクロチップの内部に様々な断面形状の流路を複数組合せて形成するには、従来の半導体の製造技術では複雑な製造工程が必要となる。本発明の一実施形態によると、従来に比して簡便に複雑な流路を形成することができる。したがって、マイクロチップの設計における自由度が高くなり、多様な用途のマイクロチップの開発を可能にする。
【0036】
マイクロチップの製造方法において、流路に構造体を形成してもよい。
【0037】
従来の半導体の製造技術で流路に構造体を形成するには、複雑な製造工程が必要となる。本発明の一実施形態によると、従来に比して簡便に複雑な流路を形成することができる。したがって、流路に機能性を持たせたマイクロチップの設計における自由度が高くなり、多様な用途のマイクロチップの開発を可能にする。
【0038】
マイクロチップの製造方法において、流路に大きさの異なる複数の構造体を形成してもよい。
【0039】
従来の半導体の製造技術で流路に構造体を形成するには、複雑な製造工程が必要となる。本発明の一実施形態によると、従来に比して簡便に複雑な流路を形成することができる。したがって、流路に機能性を持たせたマイクロチップの設計における自由度が高くなり、多様な用途のマイクロチップの開発を可能にする。
【発明の効果】
【0040】
本発明よると、耐熱性や耐薬品性が高く、少ない製造工程で製造可能なマイクロチップ及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】一実施形態に係る本発明のマイクロチップ100の模式図であり、(a)はマイクロチップ100を斜め上方向から見た図であり、(b)はAA’での切断面であり、(c)はBB’での切断面である。
【図2】一実施形態に係る本発明のマイクロチップ100の製造工程のパルスレーザの照射を示す図であり、(a)はマイクロチップ100を斜め上方向から見た図であり、(b)はAA’での切断面である。
【図3】レーザ光の照射方法と形成される改質部の形状との関係を示す図であり、(a)は先に形成された改質部を伝搬しないようにレーザ光の焦点を走査する図を示し、(b)は先に形成された改質部を伝搬するようにレーザ光の焦点を走査する図を示す。
【図4】一実施形態に係る本発明の流路21の断面形状を示し、(a)は、図1(a)のAA’での切断面に相当する様々な断面形状の流路21を示し、(b)は溝形の断面形状を有する流路23を示す。
【図5】一実施形態に係る本発明の流路31の断面形状を示し、(a)は流体をリング状に流す流路31の断面図であり、(b)は二重の流路33の断面図である。
【図6】一実施形態に係る本発明の流路の配置を示す図であり、(a)は基材1の内部に複数の流路41を形成した様子を示す断面図であり、(b)は基材1の内部に複数の流路43を形成した様子を示す断面図である。
【図7】一実施形態に係る本発明の内部に構造体を形成した流路の例を示し、(a)は、1つの流路の内部に階段状構造体81を形成した流路51を示し、(b)は、1つの流路の内部に板状構造体83を形成した流路53を示す。
【図8】一実施形態に係る本発明のマイクロチップ200を示し、(a)はマイクロチップ200を上方向から見た図であり、(b)はAA’での切断面であり、(c)はBB’での切断面である。
【図9】一実施例に係る本発明のマイクロチップ300の模式図であり、(a)は上面図、(b)は(a)のBB’での断面図を示す。
【図10】一実施例に係る本発明のマイクロチップ400の模式図であり、(a)は上面図、(b)は(a)のBB’での断面図を示す。
【図11】(a)〜(c)は、マイクロチップ400を用いた染色体DNAの観察方法を示す図である。
【図12】一実施例に係る本発明のマイクロチップ500の模式図であり、(a)は上面図、(b)は(a)のBB’での断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、図面を参照して本発明に係るマイクロチップ及びその製造方法について説明する。但し、本発明のマイクロチップは多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態及び実施例で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0043】
上述の課題について鋭意検討した結果、1枚の基材の内部に流路を形成する方法を用いるに至った。すなわち、上述のガラス基材とシリコン基材を組合せたマイクロチップは、基材が多いため、製造工程が多く複雑になるが、少ない製造工程で1枚の基材の内部に流路を形成できれば、課題を解決できることとなる。このような製造方法は、パルスレーザの照射とウェットエッチングの組合せで実現できることを見出した。
【0044】
(実施形態1)
図1は、本発明の本実施形態に係るマイクロチップ100の模式図である。図1(a)はマイクロチップ100を斜め上方向から見た図であり、図1(b)はAA’での切断面であり、図1(c)はBB’での切断面である。例えば、マイクロチップ100は、単一の基材1の内部に蛇行した流路11を有し、流路11は基材1の上部表面に形成された開口部90に接続されている。
【0045】
流路11はマイクロ流路であり、流体の試料を流すための流路である。流路11は基材1の内部を蛇行するように配置することで、基材1のBB’方向の長さよりも長い流路を形成することができる。流路11の長さが短くても良い場合は、2つの開口部90の間を直線状に接続するように配置すればよい。また、流路11は試料の粘度に応じて、例えば、BからB’方向に向かって下がるような傾斜を有するように形成してもよい。
【0046】
開口部90は、例えば、流路11に流す試料を添加するために用いることができる。開口部90は、基材1の上部表面に対して垂直に形成しても良く、また、試料の粘度に応じて傾斜させるように形成してもよい。開口部90は、マイクロチップ100の側面部表面に形成してもよい。
【0047】
本発明の本実施形態に係るマイクロチップ100は、パルスレーザの照射とウェットエッチングとを組合せて製造することができる。図2は、本発明の本実施形態に係るマイクロチップ100の製造工程のパルスレーザの照射を示す図である。図2(a)はマイクロチップ100を斜め上方向から見た図であり、図2(b)はAA’での切断面である。
【0048】
ここで、マイクロチップ100の基材1には、透明な基材である耐薬品性が高いガラス、すなわち、耐酸性、耐アルカリ性の高いガラス、例えば、ホウケイ酸ガラス、ソーダライム、アルミナホウケイ酸ガラス、石英ガラスなどを用いることができる。また、サファイアなどの単結晶基材であってもよい。これらの基材は透光性を有するため、基材内部にレーザ光を照射可能である。
【0049】
マイクロチップ100に流路11を形成するために、図1(a)及び図1(b)に示すように、基材1の内部の所定の位置にレーザ光5を照射する。本実施形態に係るレーザ光5として、1000フェムト秒以下のパルス幅のパルスレーザ(フェムト秒レーザ)を用いることができる。フェムト秒レーザは、レーザと物質との相互作用において非線形性が顕著になるため、多光子吸収を利用したプロセシングや熱的影響が無視できる。フェムト秒レーザは、炭酸ガスレーザやYAGレーザに比して、レーザ光を極めて小さな領域に照射することができ、加工精度は格段に高い。フェムト秒レーザを用いることで、加工する対象に瞬時にエネルギーを注入し、熱的、化学的損傷を受けない状態で、且つ、膜飛びを生じずに、必要箇所のみ屈折率を変え、密度を疎の状態に変える「改質」を行うことができる。
【0050】
基材1にレーザ光5を照射すると、レーザ光5の焦点6の位置の基材1が改質され、改質部7を形成することができる。基材1の内部の所望の位置でレーザ光5を走査することで、流路11に相当する改質部7を形成することができる。この改質部7は、基材1の改質されていない部分よりもエッチングされやすい性質を有する。レーザ光5の走査は、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向で行うことができ、これにより所望の改質部7を形成することができる。レーザ光5を精度良く走査することで、内部の表面に凹凸の少ない流路11を形成するための改質部7を形成することができる。
【0051】
次に、改質部7を形成した基材1にエッチングを行う。本実施形態に係るエッチングには等方性のエッチングであるウェットエッチングが好ましい。エッチング液としては、フッ酸やフッ硝酸系の溶液を用いることができる。改質部7は、改質されていない部分よりも速くエッチングされ、基材1にマイクロメートルオーダーの幅の流路11が形成される。エッチングを行う時間を長くすることで、流路11の内部の表面の凹凸を減少させることができる。また、エッチング液による基材1の表面のエッチングを防ぐために、エッチング工程の前に、改質部7を形成した基材1の表面に保護膜を形成してもよい。基材1の表面の保護膜を形成しない部分(開口部90に相当)から、エッチング液が基材1の内部に浸潤し、改質部7をエッチングして流路11を形成することができる。保護膜は、エッチング液に対する耐性を有する材料で形成することができ、例えば、クロムや金、これらの合金などを用いることができる。
【0052】
従来の半導体製造技術では、異方性エッチングを用いることで矩形形状の流路形成するのは比較的容易であるが、円形の流路を基材内部に形成するためには複雑な製造工程が必要となる。本発明の本実施形態に係るマイクロチップ100は、等方性のエッチングであるウェットエッチングを用いることで、形成された流路11の断面は略円形の形状になり、製造工程も簡便である。
【0053】
マイクロチップ100は、基材1の内部に蛇行した流路11を有することで、長い流路をコンパクトに収めることができ、例えば、マイクロキャピラリーの代わりに用いることができる。例えば、キャピラリー電気泳動、キャピラリーDNAシーケンサ等は、高い分離性能を得るために、キャピラリーの長さが必要であるため、装置がその分大きくなり、小型化の障害となる。マイクロチップ100は、1枚の基材内に蛇行させて流路を形成することで小型化を可能とし、また、1枚の基材であるために、細長いキャピラリーよりも割れにくく、扱いが容易となる。
【0054】
本発明の本実施形態に係るマイクロチップ100は、パルスレーザの照射とウェットエッチングとを組合せることで、基材の貼り合せや積層をすることなく、単一の基材の内部に略円形の断面形状の蛇行した流路を形成することができる優れた効果を奏する。また、本発明の本実施形態によると、耐熱性や耐薬品性が高く、安価な材料を用いて製造可能なマイクロチップが提供される。
【0055】
従来の複数枚の基材を接合するマイクロチップでは、基材を直接接合する場合には、接合界面にボイドがあると接合不良になりやすく、液漏れ等の不具合が生じることがある。また、ガラス基材とシリコン基材とを陽極接合する場合、開口部90に相当する部分にアルカリ析出が起こり、被験物の性状によっては問題となることがある。さらに、接着剤を用いて基材を接合する場合、接着剤による流路特性の劣化や、接着剤により流路内の被験物の観察の障害となることもある。一方、本発明の本実施形態に係るマイクロチップ100は、基材の貼り合せや積層をすることなく、単一の基材の内部に流路を形成することができるため、このような問題は生じない。
【0056】
(実施形態2)
本実施形態においては、複雑な形状を有する流路を形成する例について説明する。図3は、レーザ光の照射方法と形成される改質部の形状との関係を示す図である。図3(a)は先に形成された改質部を伝搬しないようにレーザ光の焦点を走査する図を示し、図3(b)は先に形成された改質部を伝搬するようにレーザ光の焦点を走査する図を示す。
【0057】
図3(a)に示すように、レーザ光5の焦点6が基材1の改質部7を伝搬しないように1方向に走査する場合は、基材1の屈折率が一定であるため、レーザ光5のビーム径が拡がらず、改質部7の径を小さくすることができる。一方、図3(b)に示すように、レーザ光5の焦点6を、改質部7を伝搬させるように基材1の内部に走査する場合、すでに形成された改質部7は基材1と屈折率が異なり、改質部7に入射したレーザ光5は反射、屈折を生じるため、レーザ光5のビーム径が拡がり、改質部7の径が大きくなる。したがって、先に形成された改質部7を、あえて伝搬するようにレーザ光5の焦点6を走査することで、より大きな改質部7を形成することができる。
【0058】
このように形成した改質部7をエッチングすることで、基材1の内部に複雑な形状を有する流路を形成することができる。したがって、レーザ光5の照射方法と形成される改質部7の形状との関係を利用すれば、様々な形状の流路を形成することができる。その例を図4に示す。図4(a)は、図1(a)のAA’での切断面に相当する様々な断面形状の流路21の例を示す。上述したレーザ光5の照射方法と形成される改質部7の形状との関係を利用することで、様々な断面形状の流路21の形成が可能である。ここで、本実施形態に係る流路21の形成にはウェットエッチングを用いるため、三角形や、矩形、多角形の断面形状を有する流路21では、異方性エッチングを用いた流路に比して角が丸くなる。
【0059】
円形や楕円形の断面形状の流路では、流路内を流れる流体の圧力が流路の壁面全体で略均一にかかるため、高圧条件下でのマイクロチップの利用が可能となる。一方、多角形の断面形状の流路では、後述する流路の幾何学的な配置を用いることで、1枚の基材に複数の流路をコンパクトに集積することができる。例えば、正六角形の断面形状の流路を用いたハニカム構造を1枚の基材中に形成することで、マイクロチップの強度を損なわずに流路を集積することができる。
【0060】
図4(b)は、さらに複雑な断面形状の流路の例であり、溝形の断面形状を有する流路23を示す。図4(b)では基材1の底面方向に凸部を有する溝形の断面形状を例示したが、基材1の上面方向に凸部を有する溝形の断面形状の流路23も形成できる。このような溝形の断面形状を有する流路23は流路の表面積がいため、例えば、流体と流路との接触面積を広げたい場合に有効である。
【0061】
図5は、流体をリング形状又はドーナツ形状に流す流路31の断面図であり、図5(a)は、図1(a)のAA’での切断面に相当する。流路31は、その中心部に改質しない基材部を残すように、レーザ光5の焦点6を走査することでリング形状の改質部7を形成する。このリング状の改質部7をエッチングにより除去することで、リング形状の断面形状を有する流路31を形成することができる。図5(a)に示した流路31は一例であって、多角形のリング形状に形成することもできる。また、流路の外周を円形にし、基材1による内周を矩形にする等、外周の形状と内周の形状とを異なるようにしてもよい。
【0062】
図5(b)は二重の流路33の断面図である。流路33は、流路33aの内側に流路33bを有する。流路33は、例えば、流路33aと流路33bとに異なる温度の流体を流し、流体間の熱交換に用いることができる。また、流路33aと流路33bとに異なる種類の液体、異なる粘度の流体を流すこともできる。図5(b)に示した流路33は一例であって、基材1の厚さが許容する範囲で、何重の構造にでも形成可能である。また、流路33aと流路33bの断面形状は円に限定されず、図4(a)に示したように、所望の形状で形成可能である。
【0063】
以上説明した複雑な断面形状を有する流路を従来の半導体の製造技術で形成するには、複雑な製造工程が必要となる。本実施形態に係る本発明の流路の形成方法を用いることで、従来に比して簡便に複雑な流路を形成することができる。したがって、本実施形態に係る本発明の流路を用いることで、マイクロチップの設計における自由度が高くなり、多様な用途のマイクロチップの開発を可能にする優れた効果を奏する。
【0064】
(実施形態3)
本実施形態においては、実施形態2で説明した複雑な流路の形成方法を応用して、1枚のマイクロチップの内部に様々な断面形状の流路を複数組合せて配置する方法について説明する。
【0065】
図6は、本発明の本実施形態に係る流路の配置を示す図である。図6(a)は基材1の内部に複数の流路41を形成した様子を示す断面図である。図6(a)は、図1(a)のAA’での切断面に相当する。流路41は、複数の流路を基材1の底面に対して垂直方向に配置するように形成している。図6(a)に示したように、同一の断面形状の流路を複数配置するように形成することもでき、また、異なる断面形状の流路を複数配置するように形成することもできる。
【0066】
図6(b)は基材1の内部に複数の流路43を形成した様子を示す断面図である。図6(b)は、図1(a)のAA’での切断面に相当する。流路43は、複数の流路を幾何学的に配置することで、1枚の基材に複数の流路をコンパクトに集積する例を示す。流路43のこのような幾何学的な配置により、流路の全長を長くしてもマイクロチップの小型化が可能となる。また、効率よく集積された流路43を形成したマイクロチップを用いることで、結果として、マイクロチップを利用する装置の小型化を促進することができる。なお、図5(b)に示した流路43は一例であって、他の幾何学的な流路の配置も可能である。
【0067】
以上説明した1枚のマイクロチップの内部に様々な断面形状の流路を複数組合せて形成するには、従来の半導体の製造技術では複雑な製造工程が必要となる。実施形態2に係る本発明の流路の形成方法を本実施形態の流路の配置に適用することで、従来に比して簡便に複雑な流路を形成することができる。したがって、本実施形態に係る本発明の流路を用いることで、マイクロチップの設計における自由度が高くなり、多様な用途のマイクロチップの開発を可能にする優れた効果を奏する。
【0068】
(実施形態4)
本実施形態においては、1つの流路の内部に構造体を形成する方法について説明する。図7(a)及び図7(b)は、内部に構造体を形成した流路の例を示し、流体の移動方向に平行な切断面である。
【0069】
図7(a)は、1つの流路の内部に階段状構造体81を形成した流路51を示す。流路51は、流体の移動方向に対して段階的に流路が細くなる形状である。流路51を用いることで、例えば、流体の流量や圧力を制御することが可能である。
【0070】
図7(b)は、1つの流路の内部に板状構造体83を形成した流路53を示す。流路53は、流体の移動方向に対して所定の間隔で板状の構造体が配置され、段階的に流路が細くなる形状である。流路53を用いることで、例えば、流体の撹拌が可能である。流路53に2種類以上の流体を導入すると、導入された流体は板状構造体83に衝突することで撹拌される。1つの流路の内部に所定の間隔で複数の板状構造体83を形成することで、撹拌効果を高めることができる。
【0071】
本実施形態の構造体を1つの流路の内部に形成するには、実施形態2で説明した流路の形成方法を適用できる。従来の半導体の製造技術で流路の構造体を形成するには、複雑な製造工程が必要となる。本実施形態に係る構造体の形成方法を用いることで、従来に比して簡便に複雑な流路を形成することができる。したがって、本実施形態に係る本発明の構造体を有する流路を用いることで、流路に機能性を持たせたマイクロチップの設計における自由度が高くなり、多様な用途のマイクロチップの開発を可能にする優れた効果を奏する。
【0072】
(実施形態5)
本実施形態においては、実施形態2で説明した複雑な形状を有する流路を形成する方法をマイクロチップの製造に適用した例について説明する。図8に本発明の本実施形態に係るマイクロチップ200を示す。図8(a)はマイクロチップ200を上方向から見た図であり、図8(b)はAA’での切断面であり、図8(c)はBB’での切断面である。例えば、マイクロチップ200は、単一の基材1の内部にマイクロピラー285を有する流路261を有し、流路211は流路261と基材1の上部表面に形成された開口部290とに接続されている。開口部290は、マイクロチップ200の側面部表面に形成してもよい。マイクロピラー285は、円柱状の構造物で、基材1の底面部と一体に形成されている。
【0073】
本実施形態のマイクロチップ200は、上述したレーザ光5の照射方法と形成される改質部7の形状との関係を利用し、先に形成された改質部7を伝搬するようにレーザ光5の焦点6を走査して流路261の比較的大きな改質部7を形成し、マイクロピラー285や細い流路211を形成する場合は、先に形成された改質部7を伝搬しないようにレーザ光5の焦点6を走査することで微細加工して形成することができる。
【0074】
マイクロピラー285を有するマイクロチップ200を従来の半導体製造技術で製造する場合、異方性エッチングにより、マイクロピラー285を形成した後に、基材1の上面部を貼り合わせて形成することとなり、製造工程が複雑になる。また、複数の基材を用いるため、製造コストが上昇する。しかし、本実施形態に係る流路の形成方法を用いることで、1枚の基材でマイクロチップを形成することができ、且つ、従来に比して簡便に形成することができる。
【実施例】
【0075】
上述の実施形態で説明した本発明に係る流路を用いたマイクロチップの具体例を以下に示す。なお、以下の実施例は、一例であって、本発明に係る流路を用いたマイクロチップは、こられに限定されるものではない。
【0076】
(実施例1)
図9は、実施例1の本発明に係るマイクロチップ300の模式図であり、図9(a)は上面図、図9(b)は図9(a)のBB’での断面図を示す。マイクロチップ300は単一の基材1の内部に流路311と、流路311の途中に複数の突出したトラップ315を有し、基材1の上部表面に流路311に接続した開口部390a及び開口部390bを有する。また、トラップ315の底面の一部は貫通しており、トラップ315の底面に電極395を形成することで塞がれた構造になっている。なお、図9(a)において、流路311は蛇行した流路として形成されているが、直線状、曲線上、螺旋状等、目的に応じた形状に配置することができる。
【0077】
基材1にはホウケイ酸ガラス、ソーダライム、アルミナホウケイ酸ガラス、石英ガラスなどを用いることができ、耐腐食性に優れたパイレックス(登録商標)ガラスを好適に用いることができる。また、電極395には、アルミニウムや白金等の金属を用いることができる。
【0078】
マイクロチップ300は、例えば、細胞等の粒子状の被験物の観察に用いることができる。トラップ315に配置された電極395にレーザ光を照射すると、電極395が振動し、バブルを発生させることができる。これにより、トラップ315内に入った粒子状の被験物を流路311へ押し出し、流路311を満たす流体の原動力となる。開口部390aから被験物が入った流体を流路311へ導入すると、流体は開口部390b方向へ移動する。このとき、上述のように電極395にレーザ光を照射してバブルを発生させることで、流体の移動を促進し、流路311内を移動する被験物を観察することができる。また、電極395は、トラップ315に入った被験物を電気抵抗法により計測するために用いることもできる。
【0079】
本実施例のマイクロチップには、従来の基材の貼り合せや積層による製造方法を用いずに、パルスレーザの照射とウェットエッチングとを組合せることで、単一の基材の内部に蛇行した流路やトラップなどを形成することができる。本実施例のマイクロチップは1枚のガラス基材で形成されるため、流路内を移動する被験物の観察に適している。
【0080】
(実施例2)
図10は、実施例2の本発明に係るマイクロチップ400の模式図であり、図10(a)は上面図、図10(b)は図10(a)のBB’での断面図を示す。マイクロチップ400は単一の基材1の内部に矩形形状の比較的大きな流路411と、基材1の上部表面に流路411に接続した開口部490a及び開口部490bを有する。また、流路411の内部には、流路411の底面部の基材1と一体に形成された円柱状の構造物であるマイクロピラー485と三角柱2つからなるマイクロポケット487を複数有する。マイクロチップ400の底面には電極495a、電極495b、電極495c及び電極495dが配置されている。
【0081】
基材1にはホウケイ酸ガラス、ソーダライム、アルミナホウケイ酸ガラス、石英ガラスなどを用いることができ、耐腐食性に優れたパイレックス(登録商標)ガラスを好適に用いることができる。また、電極395には、アルミニウムや白金等の金属を用いることができる。
【0082】
マイクロチップ400は、例えば、染色体DNAの観察に用いることができる。以下に観察方法を説明する。図11は、マイクロチップ400を用いた染色体DNAの観察方法を示す図である。まず、細胞1101を懸濁した溶液を開口部490aから流路411へ導入する。導入された細胞1101は流路411内を拡散し、余分な溶液は開口部490bから、マイクロチップ外へ排出される。なお、細胞1101を懸濁する溶液としては、生理的食塩水やPBS(リン酸緩衝生理食塩水)が光学観察に好適である。
【0083】
ここで、電極495aに正の電位、電極495bに負の電位を印加すると、図11(a)に示すように、細胞1101は電極495bへ移動する。マイクロポケット487は、2つの三角柱の間にちょうど1個の細胞を収容するように配置されており、細胞1101はマイクロポケット487に収容される。マイクロチップ400は透明なガラスで形成されるため、細胞1101の移動の様子は位相差顕微鏡を用いることで容易に観察できる。
【0084】
次に、開口部490aから流路411へ可溶化剤を添加して細胞1101を溶解する。可溶化剤としては、SDS(ラウリル硫酸ナトリウム)等の界面活性剤や塩酸グアニジン等の変性剤を用いることができる。また、蛋白質を分解するためにトリプシン等のタンパク質分解酵素を添加してもよい。マイクロポケット487に収容された細胞1101は、可溶化剤により細胞膜が溶解され、染色体DNA1103が細胞1101から放出される。
【0085】
電極495aに負の電位、電極495bに正の電位を印加すると、図11(b)に示すように、染色体DNA1103は電極495aへ向かって伸張する。さらに電極495cに正の電位、電極495dに負の電位を印加すると、図11(c)に示すように、染色体DNA1103はマイクロピラー485の表面に吸着する。
【0086】
このように、染色体DNAを細胞外で伸張した状態にすると、FISH(Fluorescence In−Situ Hybridization)法を用いた染色体DNAの観察が容易になる。FISH法は、標的とする塩基配列と相補的な塩基配列の蛍光DNAプローブを用いた塩基配列の観察方法である。通常、FISH法は凝縮した染色体DNAに対して用いるため、観察時の分解能が高くない。しかし、本実施例のマイクロチップ400を用いることで、染色体DNAを細胞外で伸張した状態にすることができ、FISH法による標的塩基配列の観察が高分解能、且つ、高精度で行うことができる。
【0087】
本実施例のマイクロチップには、従来の基材の貼り合せや積層による製造方法を用いずに、パルスレーザの照射とウェットエッチングとを組合せることで、単一の基材の内部にマイクロピラーやマイクロポケットを有する流路を形成することができる。また、本実施例のマイクロチップは1枚のガラス基材で形成されるため、FISH法による標的塩基配列の観察に適している。
【0088】
(実施例3)
図12は、実施例3の本発明に係るマイクロチップ500の模式図であり、図12(a)は上面図、図12(b)は図12(a)のBB’での断面図を示す。マイクロチップ500は単一の基材1の内部に蛇行した流路511と、基材1の上部表面に流路511に接続した開口部590a、開口部590b、開口部590c及び開口部590dを有する。また、流路511は、開口部590a側から前処理部1251、反応部1253及び検出部1255を有する。さらに、流路511の内部には、流路511の底面部の基材1と一体に形成された板状構造体583を有する。
【0089】
基材1にはホウケイ酸ガラス、ソーダライム、アルミナホウケイ酸ガラス、石英ガラスなどを用いることができ、耐腐食性に優れたパイレックス(登録商標)ガラスを好適に用いることができる。
【0090】
マイクロチップ500は、例えば、ELISA(Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay)法を用いた検出キットに用いることができる。以下にELISA法を用いた被検出物の検出方法を説明する。図12は、マイクロチップ500を用いたELISA法による被検出物の検出方法を示す図である。まず、検出対象の溶液を開口部590aから流路511へ導入する。導入された溶液は流路511内を移動し、余分な溶液は開口部490dから、マイクロチップ外へ排出される。
【0091】
被検出物が細胞内のタンパク質等である時は、開口部590aから可溶化剤を添加して細胞を溶解する。可溶化剤としては、SDS(ラウリル硫酸ナトリウム)等の界面活性剤や塩酸グアニジン等の変性剤を用いることができる。
【0092】
溶液中の不要な成分を除去するために、前処理部1251にフィルタやイオン交換樹脂を配設してもよい。この場合、溶液中に可溶化された被検出物1205は粗精製されることとなるため、検出感度を向上させることができる。流路511を移動した被検出物1205は、反応部1253に予め導入された固定化ビーズ1211により固定される。固定化ビーズ1211は、板状構造体583により反応部1253に留められる。続いて開口部590bから流路511に洗浄液を導入し、固定化ビーズ1211に固定されない成分、ここでは被検出物1205以外の成分を洗い流す。洗浄液としては、生理的食塩水やPBS(リン酸緩衝生理食塩水)が光学観察に好適である。
【0093】
次に、開口部590bから流路511に抗体1207を添加する。抗体1207は被検出物1205と特異的に結合する抗体であって、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の何れでもよい。ここで、抗体1207は標識酵素1209を標識している。続いて、開口部590bから流路511に洗浄液を導入し、被検出物1205に結合していない余分な抗体1207を洗い流す。
【0094】
次に、開口部590cから基質1213を添加する。基質1213は、被検出物1205に結合した抗体1207の標識酵素1209により反応生成物1215となる。反応生成物1215は、検出部1255の検出位置1260で検出される。
【0095】
基質1213から反応生成物1215が生成されることで、溶液中に被検出物1205が存在していることが間接的に検出される。反応生成物1215の光学的に検出でき、傾向顕微鏡や熱レンズ顕微鏡等を用いることができる。
【0096】
本実施例のマイクロチップには、従来の基材の貼り合せや積層による製造方法を用いずに、パルスレーザの照射とウェットエッチングとを組合せることで、単一の基材の内部に板状構造体を有する流路を形成することができる。また、本実施例のマイクロチップは1枚のガラス基材で形成されるため、ELISA法による検出に適している。
【符号の説明】
【0097】
1:基材
5:レーザ
6:焦点
7:改質部
11:流路
21:流路
23:流路
31:流路
33:流路
41:流路
43:流路
51:流路
53:流路
61:流路
81:階段状構造体
83:板状構造体
85:マイクロピラー
90:開口部
100:マイクロチップ
200:マイクロチップ
211:流路
261:流路
285:マイクロピラー
290:開口部
300:マイクロチップ
311 流路
315:トラップ
390a:開口部
390b:開口部
395:電極
400:マイクロチップ
411:流路
485:マイクロピラー
487:マイクロポケット
490a:開口部
490b:開口部
495a:電極
495b:電極
495c:電極
495d:電極
500:マイクロチップ
511:流路
583:板状構造体
590a:開口部
590b:開口部
590c:開口部
590d:開口部
1101:細胞
1103:DNA
1205:被検出物
1207:抗体
1209:標識酵素
1211:ビーズ
1213:基質
1215:反応生成物
1251:前処理部
1253:反応部
1255:検出部
1260:検出位置
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップ及びその製造方法に関する。特に、基材の内部にマイクロ流路を形成したマイクロチップ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造技術を流路形成に応用したμ−TAS(Micro Total Analysis System)やLab−on−a−chip、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と呼ばれるマイクロチップが研究され、実用化されている。
【0003】
これらのマイクロチップは、数cm角の大きさのチップの内部にマイクロ流路と呼ばれるマイクロメートルオーダーの幅の流路を有し、マイクロ流路が合流したり、分岐したりする構造を有する。マイクロチップは、マイクロ流路に微量の溶液を流して、溶液の反応や分離、分析を行うシステムであるため、試料の微量化、反応の効率化を図ることができ、非常に有用である。また、流路の微細化によりマイクロチップを含む装置全体を小型化することも可能となるため、様々な用途への応用が可能となる。
【0004】
マイクロチップの材料としてはシリコン、ガラス、樹脂などが用いられている。樹脂製のマイクロチップは、大量生産が容易であるという利点はあるが、耐熱性が低く、有機溶剤によって膨潤や腐食が生じたり、張り合わせに用いる接着剤の成分が溶け出したりすることや、流体圧や外圧によってマイクロチップの変形が起こってしまうという問題がある。
【0005】
シリコン製のマイクロチップは、無機材料から構成されているので耐熱性が高く、有機溶剤による膨潤や腐食がなく、かつ流体圧や外圧によってマイクロチップが変形することがほとんどない。このようなシリコン製のマイクロチップは、MEMS技術を用いて製造することが可能であり、生産性の面でも優れている。
【0006】
一方、ガラス製のマイクロチップは、耐熱性が高く、有機溶剤による膨潤や腐食がなく、あるいは流体圧や外圧によって変形することがほとんどないマイクロチップを提供することが可能であり、また、透明な材料であることから、流路内の光学的な観察も可能である。ガラス製のマイクロチップを用いることで、例えば、蛍光物質等用いて細胞や、タンパク、DNAなどのイメージングに利用することもできる。
【0007】
このような光学的な観察が可能なマイクロチップを、ガラス基材とシリコン含有基材とを組合せて製造することが特許文献1に開示されている。また、複雑な形状の流路をガラス基材とシリコン基材を組合せて形成することが特許文献2に開示されている。このようなガラス基材とシリコン基材を組合せたマイクロチップは、樹脂製のマイクロチップに比して耐熱性が高く、有機溶剤による膨潤や腐食がなく、あるいは流体圧や外圧によってほとんど変形しない点で優れている。
【0008】
しかし、これら従来のマイクロチップは、シリコン、ガラス、樹脂などからなる基材の表面に流路を形成し、この流路を覆うために、少なくともさらに1枚の基材を張り合わせる必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−25688号公報
【特許文献2】特開2010―29780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、従来のマイクロチップは、1枚のマイクロチップの形成に必要な基材数が多く、その結果、厚くなるため小型化の障害となる。また、ガラス基材とシリコン基材を組合せたマイクロチップでは、基材同士を直接接合する場合、可動性イオンを含む特殊なガラス基材を用いる必要があり、接合工程が必要となる。さらに、流路を形成するシリコン基材を加工するための製造工程や必要な設備が多くなるため、製造コストが上昇する。
【0011】
そこで、本発明は上記の課題を鑑みてなされたものであり、耐熱性や耐薬品性が高く、少ない製造工程で製造可能なマイクロチップ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施形態によると、一つの透明な基材の内部に、基材の表面又は側面に開口部を有する流路を有することを特徴とするマイクロチップが提供される。
【0013】
これにより、基材の貼り合せや積層をすることなく、単一の透明な基材の内部に流路を形成したマイクロチップが提供される。したがって、基材を直接接合する場合のように、接合界面のボイドによる接合不良で、液漏れ等の不具合が生じることはない。また、ガラス基材とシリコン基材とを陽極接合する場合のように、開口部に相当する部分にアルカリ析出が起こり、被験物の性状によっては問題となることもない。さらに、接着剤を用いて基材を接合する場合のように、接着剤による流路特性の劣化や、接着剤により流路内の被験物の観察の障害となることもない。
【0014】
また、本発明の一実施形態によると、レーザによって改質された後、等方性エッチングによって一つの透明な基材の内部に形成され、且つ基材の表面又は側面に開口部を有する流路を有することを特徴とするマイクロチップが提供される。
【0015】
従来のガラス基材とシリコン基材を組合せたマイクロチップは、用いる基材が多いため、製造工程が多く複雑になるが、本発明の一実施形態によると、少ない製造工程で1枚の基材の内部に流路を形成したマイクロチップが提供される。
【0016】
マイクロチップの流路は基材内で基材の上面に対して水平方向および/または垂直方向に曲がるように形成されてもよい。
【0017】
これにより、1枚の基材内に蛇行させて流路を形成することで小型化を可能とし、また、1枚の基材であるために、細長いキャピラリーよりも割れにくく、扱いが容易なマイクロチップが提供される。
【0018】
マイクロチップの流路の断面形状は、円形、楕円形、多角形、リング形又はドーナツ形であってもよい。
【0019】
従来の半導体製造技術では、異方性エッチングを用いることで矩形形状の流路形成するのは比較的容易であるが、円形の流路を基材内部に形成するためには複雑な製造工程が必要となる。本発明の一実施形態によると、等方性のエッチングであるウェットエッチングを用いることで、形成された流路の断面は略円形の形状になり、製造工程も簡便なマイクロチップが提供される。また、多角形の断面形状の流路では、流路の幾何学的な配置を用いることで、1枚の基材に複数の流路をコンパクトに集積することができる。リング形又はドーナツ形の断面形状の流路では、流路毎に異なる温度の流体を流し、流体間の熱交換に用いることができ、また、異なる種類の液体、異なる粘度の流体を流すこともできる。
【0020】
マイクロチップの流路の断面形状が、基材の位置によって異なってもよい。
【0021】
これにより、マイクロチップの設計における自由度が高くなり、多様な用途のマイクロチップの開発を可能にすることができる。
【0022】
マイクロチップの流路に構造体を有してもよい。
【0023】
これにより、流路に構造体を形成することで、例えば、流体の流量や圧力を制御することが可能である。
【0024】
マイクロチップの流路に複数の構造体を有し、複数の構造体は大きさの異なる構造体を有してもよい。
【0025】
これにより、流路に複数の構造体を形成し、複数の構造体の大きさの異ならせることで、流体の撹拌が可能である。1つの流路の内部に所定の間隔で複数の板状構造体を形成することで、撹拌効果を高めることができる。
【0026】
また、本発明の一実施形態によると、一つの基材内部にレーザを照射して、基材の一部を改質し、基材の一部をエッチングにより除去して、基材の表面又は側面に開口部を有する流路を基材内部に形成することを特徴とするマイクロチップの製造方法が提供される。
【0027】
これにより、基材の貼り合せや積層をすることなく、単一の透明な基材の内部に流路を形成することができる。また、耐熱性や耐薬品性が高く、安価な材料を用いて製造可能なマイクロチップが提供される。
【0028】
マイクロチップの製造方法において、流路は基材内で基材の上面に対して水平方向および/または垂直方向に曲がるように形成されてもよい。
【0029】
これにより、1枚の基材内に蛇行させて流路を形成することで小型化を可能とし、また、1枚の基材であるために、細長いキャピラリーよりも割れにくく、扱いが容易なマイクロチップが製造できる。
【0030】
マイクロチップの製造方法において、レーザは1000フェムト秒以下のパルスレーザであってもよい。
【0031】
フェムト秒レーザは、レーザと物質との相互作用において非線形性が顕著になるため、多光子吸収を利用したプロセシングや熱的影響が無視できる。フェムト秒レーザは、炭酸ガスレーザやYAGレーザに比して、レーザ光を極めて小さな領域に照射することができ、加工精度は格段に高い。フェムト秒レーザを用いることで、加工する対象に瞬時にエネルギーを注入し、熱的、化学的損傷を受けない状態で、且つ、膜飛びを生じずに、必要箇所のみ屈折率を変え、密度を疎の状態に変える「改質」を行うことができる。
【0032】
マイクロチップの製造方法において、流路の断面形状を、円形、楕円形、多角形、リング形又はドーナツ形で形成してもよい。
【0033】
複雑な断面形状を有する流路を従来の半導体の製造技術で形成するには、複雑な製造工程が必要となる。本発明の一実施形態によると、従来に比して簡便に複雑な流路を形成することができる。したがって、マイクロチップの設計における自由度が高くなり、多様な用途のマイクロチップの開発を可能にする。
【0034】
マイクロチップの製造方法において、流路の断面形状を、基材の位置によって異なるように形成してもよい。
【0035】
1枚のマイクロチップの内部に様々な断面形状の流路を複数組合せて形成するには、従来の半導体の製造技術では複雑な製造工程が必要となる。本発明の一実施形態によると、従来に比して簡便に複雑な流路を形成することができる。したがって、マイクロチップの設計における自由度が高くなり、多様な用途のマイクロチップの開発を可能にする。
【0036】
マイクロチップの製造方法において、流路に構造体を形成してもよい。
【0037】
従来の半導体の製造技術で流路に構造体を形成するには、複雑な製造工程が必要となる。本発明の一実施形態によると、従来に比して簡便に複雑な流路を形成することができる。したがって、流路に機能性を持たせたマイクロチップの設計における自由度が高くなり、多様な用途のマイクロチップの開発を可能にする。
【0038】
マイクロチップの製造方法において、流路に大きさの異なる複数の構造体を形成してもよい。
【0039】
従来の半導体の製造技術で流路に構造体を形成するには、複雑な製造工程が必要となる。本発明の一実施形態によると、従来に比して簡便に複雑な流路を形成することができる。したがって、流路に機能性を持たせたマイクロチップの設計における自由度が高くなり、多様な用途のマイクロチップの開発を可能にする。
【発明の効果】
【0040】
本発明よると、耐熱性や耐薬品性が高く、少ない製造工程で製造可能なマイクロチップ及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】一実施形態に係る本発明のマイクロチップ100の模式図であり、(a)はマイクロチップ100を斜め上方向から見た図であり、(b)はAA’での切断面であり、(c)はBB’での切断面である。
【図2】一実施形態に係る本発明のマイクロチップ100の製造工程のパルスレーザの照射を示す図であり、(a)はマイクロチップ100を斜め上方向から見た図であり、(b)はAA’での切断面である。
【図3】レーザ光の照射方法と形成される改質部の形状との関係を示す図であり、(a)は先に形成された改質部を伝搬しないようにレーザ光の焦点を走査する図を示し、(b)は先に形成された改質部を伝搬するようにレーザ光の焦点を走査する図を示す。
【図4】一実施形態に係る本発明の流路21の断面形状を示し、(a)は、図1(a)のAA’での切断面に相当する様々な断面形状の流路21を示し、(b)は溝形の断面形状を有する流路23を示す。
【図5】一実施形態に係る本発明の流路31の断面形状を示し、(a)は流体をリング状に流す流路31の断面図であり、(b)は二重の流路33の断面図である。
【図6】一実施形態に係る本発明の流路の配置を示す図であり、(a)は基材1の内部に複数の流路41を形成した様子を示す断面図であり、(b)は基材1の内部に複数の流路43を形成した様子を示す断面図である。
【図7】一実施形態に係る本発明の内部に構造体を形成した流路の例を示し、(a)は、1つの流路の内部に階段状構造体81を形成した流路51を示し、(b)は、1つの流路の内部に板状構造体83を形成した流路53を示す。
【図8】一実施形態に係る本発明のマイクロチップ200を示し、(a)はマイクロチップ200を上方向から見た図であり、(b)はAA’での切断面であり、(c)はBB’での切断面である。
【図9】一実施例に係る本発明のマイクロチップ300の模式図であり、(a)は上面図、(b)は(a)のBB’での断面図を示す。
【図10】一実施例に係る本発明のマイクロチップ400の模式図であり、(a)は上面図、(b)は(a)のBB’での断面図を示す。
【図11】(a)〜(c)は、マイクロチップ400を用いた染色体DNAの観察方法を示す図である。
【図12】一実施例に係る本発明のマイクロチップ500の模式図であり、(a)は上面図、(b)は(a)のBB’での断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、図面を参照して本発明に係るマイクロチップ及びその製造方法について説明する。但し、本発明のマイクロチップは多くの異なる態様で実施することが可能であり、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態及び実施例で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0043】
上述の課題について鋭意検討した結果、1枚の基材の内部に流路を形成する方法を用いるに至った。すなわち、上述のガラス基材とシリコン基材を組合せたマイクロチップは、基材が多いため、製造工程が多く複雑になるが、少ない製造工程で1枚の基材の内部に流路を形成できれば、課題を解決できることとなる。このような製造方法は、パルスレーザの照射とウェットエッチングの組合せで実現できることを見出した。
【0044】
(実施形態1)
図1は、本発明の本実施形態に係るマイクロチップ100の模式図である。図1(a)はマイクロチップ100を斜め上方向から見た図であり、図1(b)はAA’での切断面であり、図1(c)はBB’での切断面である。例えば、マイクロチップ100は、単一の基材1の内部に蛇行した流路11を有し、流路11は基材1の上部表面に形成された開口部90に接続されている。
【0045】
流路11はマイクロ流路であり、流体の試料を流すための流路である。流路11は基材1の内部を蛇行するように配置することで、基材1のBB’方向の長さよりも長い流路を形成することができる。流路11の長さが短くても良い場合は、2つの開口部90の間を直線状に接続するように配置すればよい。また、流路11は試料の粘度に応じて、例えば、BからB’方向に向かって下がるような傾斜を有するように形成してもよい。
【0046】
開口部90は、例えば、流路11に流す試料を添加するために用いることができる。開口部90は、基材1の上部表面に対して垂直に形成しても良く、また、試料の粘度に応じて傾斜させるように形成してもよい。開口部90は、マイクロチップ100の側面部表面に形成してもよい。
【0047】
本発明の本実施形態に係るマイクロチップ100は、パルスレーザの照射とウェットエッチングとを組合せて製造することができる。図2は、本発明の本実施形態に係るマイクロチップ100の製造工程のパルスレーザの照射を示す図である。図2(a)はマイクロチップ100を斜め上方向から見た図であり、図2(b)はAA’での切断面である。
【0048】
ここで、マイクロチップ100の基材1には、透明な基材である耐薬品性が高いガラス、すなわち、耐酸性、耐アルカリ性の高いガラス、例えば、ホウケイ酸ガラス、ソーダライム、アルミナホウケイ酸ガラス、石英ガラスなどを用いることができる。また、サファイアなどの単結晶基材であってもよい。これらの基材は透光性を有するため、基材内部にレーザ光を照射可能である。
【0049】
マイクロチップ100に流路11を形成するために、図1(a)及び図1(b)に示すように、基材1の内部の所定の位置にレーザ光5を照射する。本実施形態に係るレーザ光5として、1000フェムト秒以下のパルス幅のパルスレーザ(フェムト秒レーザ)を用いることができる。フェムト秒レーザは、レーザと物質との相互作用において非線形性が顕著になるため、多光子吸収を利用したプロセシングや熱的影響が無視できる。フェムト秒レーザは、炭酸ガスレーザやYAGレーザに比して、レーザ光を極めて小さな領域に照射することができ、加工精度は格段に高い。フェムト秒レーザを用いることで、加工する対象に瞬時にエネルギーを注入し、熱的、化学的損傷を受けない状態で、且つ、膜飛びを生じずに、必要箇所のみ屈折率を変え、密度を疎の状態に変える「改質」を行うことができる。
【0050】
基材1にレーザ光5を照射すると、レーザ光5の焦点6の位置の基材1が改質され、改質部7を形成することができる。基材1の内部の所望の位置でレーザ光5を走査することで、流路11に相当する改質部7を形成することができる。この改質部7は、基材1の改質されていない部分よりもエッチングされやすい性質を有する。レーザ光5の走査は、X軸方向、Y軸方向及びZ軸方向で行うことができ、これにより所望の改質部7を形成することができる。レーザ光5を精度良く走査することで、内部の表面に凹凸の少ない流路11を形成するための改質部7を形成することができる。
【0051】
次に、改質部7を形成した基材1にエッチングを行う。本実施形態に係るエッチングには等方性のエッチングであるウェットエッチングが好ましい。エッチング液としては、フッ酸やフッ硝酸系の溶液を用いることができる。改質部7は、改質されていない部分よりも速くエッチングされ、基材1にマイクロメートルオーダーの幅の流路11が形成される。エッチングを行う時間を長くすることで、流路11の内部の表面の凹凸を減少させることができる。また、エッチング液による基材1の表面のエッチングを防ぐために、エッチング工程の前に、改質部7を形成した基材1の表面に保護膜を形成してもよい。基材1の表面の保護膜を形成しない部分(開口部90に相当)から、エッチング液が基材1の内部に浸潤し、改質部7をエッチングして流路11を形成することができる。保護膜は、エッチング液に対する耐性を有する材料で形成することができ、例えば、クロムや金、これらの合金などを用いることができる。
【0052】
従来の半導体製造技術では、異方性エッチングを用いることで矩形形状の流路形成するのは比較的容易であるが、円形の流路を基材内部に形成するためには複雑な製造工程が必要となる。本発明の本実施形態に係るマイクロチップ100は、等方性のエッチングであるウェットエッチングを用いることで、形成された流路11の断面は略円形の形状になり、製造工程も簡便である。
【0053】
マイクロチップ100は、基材1の内部に蛇行した流路11を有することで、長い流路をコンパクトに収めることができ、例えば、マイクロキャピラリーの代わりに用いることができる。例えば、キャピラリー電気泳動、キャピラリーDNAシーケンサ等は、高い分離性能を得るために、キャピラリーの長さが必要であるため、装置がその分大きくなり、小型化の障害となる。マイクロチップ100は、1枚の基材内に蛇行させて流路を形成することで小型化を可能とし、また、1枚の基材であるために、細長いキャピラリーよりも割れにくく、扱いが容易となる。
【0054】
本発明の本実施形態に係るマイクロチップ100は、パルスレーザの照射とウェットエッチングとを組合せることで、基材の貼り合せや積層をすることなく、単一の基材の内部に略円形の断面形状の蛇行した流路を形成することができる優れた効果を奏する。また、本発明の本実施形態によると、耐熱性や耐薬品性が高く、安価な材料を用いて製造可能なマイクロチップが提供される。
【0055】
従来の複数枚の基材を接合するマイクロチップでは、基材を直接接合する場合には、接合界面にボイドがあると接合不良になりやすく、液漏れ等の不具合が生じることがある。また、ガラス基材とシリコン基材とを陽極接合する場合、開口部90に相当する部分にアルカリ析出が起こり、被験物の性状によっては問題となることがある。さらに、接着剤を用いて基材を接合する場合、接着剤による流路特性の劣化や、接着剤により流路内の被験物の観察の障害となることもある。一方、本発明の本実施形態に係るマイクロチップ100は、基材の貼り合せや積層をすることなく、単一の基材の内部に流路を形成することができるため、このような問題は生じない。
【0056】
(実施形態2)
本実施形態においては、複雑な形状を有する流路を形成する例について説明する。図3は、レーザ光の照射方法と形成される改質部の形状との関係を示す図である。図3(a)は先に形成された改質部を伝搬しないようにレーザ光の焦点を走査する図を示し、図3(b)は先に形成された改質部を伝搬するようにレーザ光の焦点を走査する図を示す。
【0057】
図3(a)に示すように、レーザ光5の焦点6が基材1の改質部7を伝搬しないように1方向に走査する場合は、基材1の屈折率が一定であるため、レーザ光5のビーム径が拡がらず、改質部7の径を小さくすることができる。一方、図3(b)に示すように、レーザ光5の焦点6を、改質部7を伝搬させるように基材1の内部に走査する場合、すでに形成された改質部7は基材1と屈折率が異なり、改質部7に入射したレーザ光5は反射、屈折を生じるため、レーザ光5のビーム径が拡がり、改質部7の径が大きくなる。したがって、先に形成された改質部7を、あえて伝搬するようにレーザ光5の焦点6を走査することで、より大きな改質部7を形成することができる。
【0058】
このように形成した改質部7をエッチングすることで、基材1の内部に複雑な形状を有する流路を形成することができる。したがって、レーザ光5の照射方法と形成される改質部7の形状との関係を利用すれば、様々な形状の流路を形成することができる。その例を図4に示す。図4(a)は、図1(a)のAA’での切断面に相当する様々な断面形状の流路21の例を示す。上述したレーザ光5の照射方法と形成される改質部7の形状との関係を利用することで、様々な断面形状の流路21の形成が可能である。ここで、本実施形態に係る流路21の形成にはウェットエッチングを用いるため、三角形や、矩形、多角形の断面形状を有する流路21では、異方性エッチングを用いた流路に比して角が丸くなる。
【0059】
円形や楕円形の断面形状の流路では、流路内を流れる流体の圧力が流路の壁面全体で略均一にかかるため、高圧条件下でのマイクロチップの利用が可能となる。一方、多角形の断面形状の流路では、後述する流路の幾何学的な配置を用いることで、1枚の基材に複数の流路をコンパクトに集積することができる。例えば、正六角形の断面形状の流路を用いたハニカム構造を1枚の基材中に形成することで、マイクロチップの強度を損なわずに流路を集積することができる。
【0060】
図4(b)は、さらに複雑な断面形状の流路の例であり、溝形の断面形状を有する流路23を示す。図4(b)では基材1の底面方向に凸部を有する溝形の断面形状を例示したが、基材1の上面方向に凸部を有する溝形の断面形状の流路23も形成できる。このような溝形の断面形状を有する流路23は流路の表面積がいため、例えば、流体と流路との接触面積を広げたい場合に有効である。
【0061】
図5は、流体をリング形状又はドーナツ形状に流す流路31の断面図であり、図5(a)は、図1(a)のAA’での切断面に相当する。流路31は、その中心部に改質しない基材部を残すように、レーザ光5の焦点6を走査することでリング形状の改質部7を形成する。このリング状の改質部7をエッチングにより除去することで、リング形状の断面形状を有する流路31を形成することができる。図5(a)に示した流路31は一例であって、多角形のリング形状に形成することもできる。また、流路の外周を円形にし、基材1による内周を矩形にする等、外周の形状と内周の形状とを異なるようにしてもよい。
【0062】
図5(b)は二重の流路33の断面図である。流路33は、流路33aの内側に流路33bを有する。流路33は、例えば、流路33aと流路33bとに異なる温度の流体を流し、流体間の熱交換に用いることができる。また、流路33aと流路33bとに異なる種類の液体、異なる粘度の流体を流すこともできる。図5(b)に示した流路33は一例であって、基材1の厚さが許容する範囲で、何重の構造にでも形成可能である。また、流路33aと流路33bの断面形状は円に限定されず、図4(a)に示したように、所望の形状で形成可能である。
【0063】
以上説明した複雑な断面形状を有する流路を従来の半導体の製造技術で形成するには、複雑な製造工程が必要となる。本実施形態に係る本発明の流路の形成方法を用いることで、従来に比して簡便に複雑な流路を形成することができる。したがって、本実施形態に係る本発明の流路を用いることで、マイクロチップの設計における自由度が高くなり、多様な用途のマイクロチップの開発を可能にする優れた効果を奏する。
【0064】
(実施形態3)
本実施形態においては、実施形態2で説明した複雑な流路の形成方法を応用して、1枚のマイクロチップの内部に様々な断面形状の流路を複数組合せて配置する方法について説明する。
【0065】
図6は、本発明の本実施形態に係る流路の配置を示す図である。図6(a)は基材1の内部に複数の流路41を形成した様子を示す断面図である。図6(a)は、図1(a)のAA’での切断面に相当する。流路41は、複数の流路を基材1の底面に対して垂直方向に配置するように形成している。図6(a)に示したように、同一の断面形状の流路を複数配置するように形成することもでき、また、異なる断面形状の流路を複数配置するように形成することもできる。
【0066】
図6(b)は基材1の内部に複数の流路43を形成した様子を示す断面図である。図6(b)は、図1(a)のAA’での切断面に相当する。流路43は、複数の流路を幾何学的に配置することで、1枚の基材に複数の流路をコンパクトに集積する例を示す。流路43のこのような幾何学的な配置により、流路の全長を長くしてもマイクロチップの小型化が可能となる。また、効率よく集積された流路43を形成したマイクロチップを用いることで、結果として、マイクロチップを利用する装置の小型化を促進することができる。なお、図5(b)に示した流路43は一例であって、他の幾何学的な流路の配置も可能である。
【0067】
以上説明した1枚のマイクロチップの内部に様々な断面形状の流路を複数組合せて形成するには、従来の半導体の製造技術では複雑な製造工程が必要となる。実施形態2に係る本発明の流路の形成方法を本実施形態の流路の配置に適用することで、従来に比して簡便に複雑な流路を形成することができる。したがって、本実施形態に係る本発明の流路を用いることで、マイクロチップの設計における自由度が高くなり、多様な用途のマイクロチップの開発を可能にする優れた効果を奏する。
【0068】
(実施形態4)
本実施形態においては、1つの流路の内部に構造体を形成する方法について説明する。図7(a)及び図7(b)は、内部に構造体を形成した流路の例を示し、流体の移動方向に平行な切断面である。
【0069】
図7(a)は、1つの流路の内部に階段状構造体81を形成した流路51を示す。流路51は、流体の移動方向に対して段階的に流路が細くなる形状である。流路51を用いることで、例えば、流体の流量や圧力を制御することが可能である。
【0070】
図7(b)は、1つの流路の内部に板状構造体83を形成した流路53を示す。流路53は、流体の移動方向に対して所定の間隔で板状の構造体が配置され、段階的に流路が細くなる形状である。流路53を用いることで、例えば、流体の撹拌が可能である。流路53に2種類以上の流体を導入すると、導入された流体は板状構造体83に衝突することで撹拌される。1つの流路の内部に所定の間隔で複数の板状構造体83を形成することで、撹拌効果を高めることができる。
【0071】
本実施形態の構造体を1つの流路の内部に形成するには、実施形態2で説明した流路の形成方法を適用できる。従来の半導体の製造技術で流路の構造体を形成するには、複雑な製造工程が必要となる。本実施形態に係る構造体の形成方法を用いることで、従来に比して簡便に複雑な流路を形成することができる。したがって、本実施形態に係る本発明の構造体を有する流路を用いることで、流路に機能性を持たせたマイクロチップの設計における自由度が高くなり、多様な用途のマイクロチップの開発を可能にする優れた効果を奏する。
【0072】
(実施形態5)
本実施形態においては、実施形態2で説明した複雑な形状を有する流路を形成する方法をマイクロチップの製造に適用した例について説明する。図8に本発明の本実施形態に係るマイクロチップ200を示す。図8(a)はマイクロチップ200を上方向から見た図であり、図8(b)はAA’での切断面であり、図8(c)はBB’での切断面である。例えば、マイクロチップ200は、単一の基材1の内部にマイクロピラー285を有する流路261を有し、流路211は流路261と基材1の上部表面に形成された開口部290とに接続されている。開口部290は、マイクロチップ200の側面部表面に形成してもよい。マイクロピラー285は、円柱状の構造物で、基材1の底面部と一体に形成されている。
【0073】
本実施形態のマイクロチップ200は、上述したレーザ光5の照射方法と形成される改質部7の形状との関係を利用し、先に形成された改質部7を伝搬するようにレーザ光5の焦点6を走査して流路261の比較的大きな改質部7を形成し、マイクロピラー285や細い流路211を形成する場合は、先に形成された改質部7を伝搬しないようにレーザ光5の焦点6を走査することで微細加工して形成することができる。
【0074】
マイクロピラー285を有するマイクロチップ200を従来の半導体製造技術で製造する場合、異方性エッチングにより、マイクロピラー285を形成した後に、基材1の上面部を貼り合わせて形成することとなり、製造工程が複雑になる。また、複数の基材を用いるため、製造コストが上昇する。しかし、本実施形態に係る流路の形成方法を用いることで、1枚の基材でマイクロチップを形成することができ、且つ、従来に比して簡便に形成することができる。
【実施例】
【0075】
上述の実施形態で説明した本発明に係る流路を用いたマイクロチップの具体例を以下に示す。なお、以下の実施例は、一例であって、本発明に係る流路を用いたマイクロチップは、こられに限定されるものではない。
【0076】
(実施例1)
図9は、実施例1の本発明に係るマイクロチップ300の模式図であり、図9(a)は上面図、図9(b)は図9(a)のBB’での断面図を示す。マイクロチップ300は単一の基材1の内部に流路311と、流路311の途中に複数の突出したトラップ315を有し、基材1の上部表面に流路311に接続した開口部390a及び開口部390bを有する。また、トラップ315の底面の一部は貫通しており、トラップ315の底面に電極395を形成することで塞がれた構造になっている。なお、図9(a)において、流路311は蛇行した流路として形成されているが、直線状、曲線上、螺旋状等、目的に応じた形状に配置することができる。
【0077】
基材1にはホウケイ酸ガラス、ソーダライム、アルミナホウケイ酸ガラス、石英ガラスなどを用いることができ、耐腐食性に優れたパイレックス(登録商標)ガラスを好適に用いることができる。また、電極395には、アルミニウムや白金等の金属を用いることができる。
【0078】
マイクロチップ300は、例えば、細胞等の粒子状の被験物の観察に用いることができる。トラップ315に配置された電極395にレーザ光を照射すると、電極395が振動し、バブルを発生させることができる。これにより、トラップ315内に入った粒子状の被験物を流路311へ押し出し、流路311を満たす流体の原動力となる。開口部390aから被験物が入った流体を流路311へ導入すると、流体は開口部390b方向へ移動する。このとき、上述のように電極395にレーザ光を照射してバブルを発生させることで、流体の移動を促進し、流路311内を移動する被験物を観察することができる。また、電極395は、トラップ315に入った被験物を電気抵抗法により計測するために用いることもできる。
【0079】
本実施例のマイクロチップには、従来の基材の貼り合せや積層による製造方法を用いずに、パルスレーザの照射とウェットエッチングとを組合せることで、単一の基材の内部に蛇行した流路やトラップなどを形成することができる。本実施例のマイクロチップは1枚のガラス基材で形成されるため、流路内を移動する被験物の観察に適している。
【0080】
(実施例2)
図10は、実施例2の本発明に係るマイクロチップ400の模式図であり、図10(a)は上面図、図10(b)は図10(a)のBB’での断面図を示す。マイクロチップ400は単一の基材1の内部に矩形形状の比較的大きな流路411と、基材1の上部表面に流路411に接続した開口部490a及び開口部490bを有する。また、流路411の内部には、流路411の底面部の基材1と一体に形成された円柱状の構造物であるマイクロピラー485と三角柱2つからなるマイクロポケット487を複数有する。マイクロチップ400の底面には電極495a、電極495b、電極495c及び電極495dが配置されている。
【0081】
基材1にはホウケイ酸ガラス、ソーダライム、アルミナホウケイ酸ガラス、石英ガラスなどを用いることができ、耐腐食性に優れたパイレックス(登録商標)ガラスを好適に用いることができる。また、電極395には、アルミニウムや白金等の金属を用いることができる。
【0082】
マイクロチップ400は、例えば、染色体DNAの観察に用いることができる。以下に観察方法を説明する。図11は、マイクロチップ400を用いた染色体DNAの観察方法を示す図である。まず、細胞1101を懸濁した溶液を開口部490aから流路411へ導入する。導入された細胞1101は流路411内を拡散し、余分な溶液は開口部490bから、マイクロチップ外へ排出される。なお、細胞1101を懸濁する溶液としては、生理的食塩水やPBS(リン酸緩衝生理食塩水)が光学観察に好適である。
【0083】
ここで、電極495aに正の電位、電極495bに負の電位を印加すると、図11(a)に示すように、細胞1101は電極495bへ移動する。マイクロポケット487は、2つの三角柱の間にちょうど1個の細胞を収容するように配置されており、細胞1101はマイクロポケット487に収容される。マイクロチップ400は透明なガラスで形成されるため、細胞1101の移動の様子は位相差顕微鏡を用いることで容易に観察できる。
【0084】
次に、開口部490aから流路411へ可溶化剤を添加して細胞1101を溶解する。可溶化剤としては、SDS(ラウリル硫酸ナトリウム)等の界面活性剤や塩酸グアニジン等の変性剤を用いることができる。また、蛋白質を分解するためにトリプシン等のタンパク質分解酵素を添加してもよい。マイクロポケット487に収容された細胞1101は、可溶化剤により細胞膜が溶解され、染色体DNA1103が細胞1101から放出される。
【0085】
電極495aに負の電位、電極495bに正の電位を印加すると、図11(b)に示すように、染色体DNA1103は電極495aへ向かって伸張する。さらに電極495cに正の電位、電極495dに負の電位を印加すると、図11(c)に示すように、染色体DNA1103はマイクロピラー485の表面に吸着する。
【0086】
このように、染色体DNAを細胞外で伸張した状態にすると、FISH(Fluorescence In−Situ Hybridization)法を用いた染色体DNAの観察が容易になる。FISH法は、標的とする塩基配列と相補的な塩基配列の蛍光DNAプローブを用いた塩基配列の観察方法である。通常、FISH法は凝縮した染色体DNAに対して用いるため、観察時の分解能が高くない。しかし、本実施例のマイクロチップ400を用いることで、染色体DNAを細胞外で伸張した状態にすることができ、FISH法による標的塩基配列の観察が高分解能、且つ、高精度で行うことができる。
【0087】
本実施例のマイクロチップには、従来の基材の貼り合せや積層による製造方法を用いずに、パルスレーザの照射とウェットエッチングとを組合せることで、単一の基材の内部にマイクロピラーやマイクロポケットを有する流路を形成することができる。また、本実施例のマイクロチップは1枚のガラス基材で形成されるため、FISH法による標的塩基配列の観察に適している。
【0088】
(実施例3)
図12は、実施例3の本発明に係るマイクロチップ500の模式図であり、図12(a)は上面図、図12(b)は図12(a)のBB’での断面図を示す。マイクロチップ500は単一の基材1の内部に蛇行した流路511と、基材1の上部表面に流路511に接続した開口部590a、開口部590b、開口部590c及び開口部590dを有する。また、流路511は、開口部590a側から前処理部1251、反応部1253及び検出部1255を有する。さらに、流路511の内部には、流路511の底面部の基材1と一体に形成された板状構造体583を有する。
【0089】
基材1にはホウケイ酸ガラス、ソーダライム、アルミナホウケイ酸ガラス、石英ガラスなどを用いることができ、耐腐食性に優れたパイレックス(登録商標)ガラスを好適に用いることができる。
【0090】
マイクロチップ500は、例えば、ELISA(Enzyme−Linked ImmunoSorbent Assay)法を用いた検出キットに用いることができる。以下にELISA法を用いた被検出物の検出方法を説明する。図12は、マイクロチップ500を用いたELISA法による被検出物の検出方法を示す図である。まず、検出対象の溶液を開口部590aから流路511へ導入する。導入された溶液は流路511内を移動し、余分な溶液は開口部490dから、マイクロチップ外へ排出される。
【0091】
被検出物が細胞内のタンパク質等である時は、開口部590aから可溶化剤を添加して細胞を溶解する。可溶化剤としては、SDS(ラウリル硫酸ナトリウム)等の界面活性剤や塩酸グアニジン等の変性剤を用いることができる。
【0092】
溶液中の不要な成分を除去するために、前処理部1251にフィルタやイオン交換樹脂を配設してもよい。この場合、溶液中に可溶化された被検出物1205は粗精製されることとなるため、検出感度を向上させることができる。流路511を移動した被検出物1205は、反応部1253に予め導入された固定化ビーズ1211により固定される。固定化ビーズ1211は、板状構造体583により反応部1253に留められる。続いて開口部590bから流路511に洗浄液を導入し、固定化ビーズ1211に固定されない成分、ここでは被検出物1205以外の成分を洗い流す。洗浄液としては、生理的食塩水やPBS(リン酸緩衝生理食塩水)が光学観察に好適である。
【0093】
次に、開口部590bから流路511に抗体1207を添加する。抗体1207は被検出物1205と特異的に結合する抗体であって、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体の何れでもよい。ここで、抗体1207は標識酵素1209を標識している。続いて、開口部590bから流路511に洗浄液を導入し、被検出物1205に結合していない余分な抗体1207を洗い流す。
【0094】
次に、開口部590cから基質1213を添加する。基質1213は、被検出物1205に結合した抗体1207の標識酵素1209により反応生成物1215となる。反応生成物1215は、検出部1255の検出位置1260で検出される。
【0095】
基質1213から反応生成物1215が生成されることで、溶液中に被検出物1205が存在していることが間接的に検出される。反応生成物1215の光学的に検出でき、傾向顕微鏡や熱レンズ顕微鏡等を用いることができる。
【0096】
本実施例のマイクロチップには、従来の基材の貼り合せや積層による製造方法を用いずに、パルスレーザの照射とウェットエッチングとを組合せることで、単一の基材の内部に板状構造体を有する流路を形成することができる。また、本実施例のマイクロチップは1枚のガラス基材で形成されるため、ELISA法による検出に適している。
【符号の説明】
【0097】
1:基材
5:レーザ
6:焦点
7:改質部
11:流路
21:流路
23:流路
31:流路
33:流路
41:流路
43:流路
51:流路
53:流路
61:流路
81:階段状構造体
83:板状構造体
85:マイクロピラー
90:開口部
100:マイクロチップ
200:マイクロチップ
211:流路
261:流路
285:マイクロピラー
290:開口部
300:マイクロチップ
311 流路
315:トラップ
390a:開口部
390b:開口部
395:電極
400:マイクロチップ
411:流路
485:マイクロピラー
487:マイクロポケット
490a:開口部
490b:開口部
495a:電極
495b:電極
495c:電極
495d:電極
500:マイクロチップ
511:流路
583:板状構造体
590a:開口部
590b:開口部
590c:開口部
590d:開口部
1101:細胞
1103:DNA
1205:被検出物
1207:抗体
1209:標識酵素
1211:ビーズ
1213:基質
1215:反応生成物
1251:前処理部
1253:反応部
1255:検出部
1260:検出位置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの透明な基材の内部に、前記基材の表面又は側面に開口部を有する流路を有することを特徴とするマイクロチップ。
【請求項2】
レーザによって改質された後、等方性エッチングによって一つの透明な基材の内部に形成され、且つ前記基材の表面又は側面に開口部を有する流路を有することを特徴とするマイクロチップ。
【請求項3】
前記流路は前記基材内で前記基材の上面に対して水平方向および/または垂直方向に曲がるように形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記流路の断面形状は、円形、楕円形、多角形、リング形又はドーナツ形であることを特徴とする請求項3に記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記流路の断面形状が、前記基材の位置によって異なることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記流路に構造体を有することを特徴とする請求項1乃至5の何れか一に記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記流路に複数の構造体を有し、前記複数の構造体は大きさの異なる構造体を有することを特徴とする請求項1乃至5の何れか一に記載のマイクロチップ。
【請求項8】
一つの基材内部にレーザを照射して、前記基材の一部を改質し、
前記基材の一部をエッチングにより除去して、前記基材の表面又は側面に開口部を有する流路を前記基材内部に形成することを特徴とするマイクロチップの製造方法。
【請求項9】
前記流路は前記基材内で前記基材の上面に対して水平方向および/または垂直方向に曲がるように形成されることを特徴とする請求項8に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項10】
前記レーザは1000フェムト秒以下のパルスレーザであることを特徴とする請求項9に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項11】
前記流路の断面形状を、円形、楕円形、多角形、リング形又はドーナツ形で形成することを特徴とする請求項10に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項12】
前記流路の断面形状を、前記基材の位置によって異なるように形成することを特徴とする請求項11に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項13】
前記流路に構造体を形成することを特徴とする請求項8乃至12の何れか一に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項14】
前記流路に大きさの異なる複数の構造体を形成することを特徴とする請求項8乃至12の何れか一に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項1】
一つの透明な基材の内部に、前記基材の表面又は側面に開口部を有する流路を有することを特徴とするマイクロチップ。
【請求項2】
レーザによって改質された後、等方性エッチングによって一つの透明な基材の内部に形成され、且つ前記基材の表面又は側面に開口部を有する流路を有することを特徴とするマイクロチップ。
【請求項3】
前記流路は前記基材内で前記基材の上面に対して水平方向および/または垂直方向に曲がるように形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記流路の断面形状は、円形、楕円形、多角形、リング形又はドーナツ形であることを特徴とする請求項3に記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記流路の断面形状が、前記基材の位置によって異なることを特徴とする請求項1乃至4の何れか一に記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記流路に構造体を有することを特徴とする請求項1乃至5の何れか一に記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記流路に複数の構造体を有し、前記複数の構造体は大きさの異なる構造体を有することを特徴とする請求項1乃至5の何れか一に記載のマイクロチップ。
【請求項8】
一つの基材内部にレーザを照射して、前記基材の一部を改質し、
前記基材の一部をエッチングにより除去して、前記基材の表面又は側面に開口部を有する流路を前記基材内部に形成することを特徴とするマイクロチップの製造方法。
【請求項9】
前記流路は前記基材内で前記基材の上面に対して水平方向および/または垂直方向に曲がるように形成されることを特徴とする請求項8に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項10】
前記レーザは1000フェムト秒以下のパルスレーザであることを特徴とする請求項9に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項11】
前記流路の断面形状を、円形、楕円形、多角形、リング形又はドーナツ形で形成することを特徴とする請求項10に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項12】
前記流路の断面形状を、前記基材の位置によって異なるように形成することを特徴とする請求項11に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項13】
前記流路に構造体を形成することを特徴とする請求項8乃至12の何れか一に記載のマイクロチップの製造方法。
【請求項14】
前記流路に大きさの異なる複数の構造体を形成することを特徴とする請求項8乃至12の何れか一に記載のマイクロチップの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図8】
【図9】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図8】
【図9】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−242240(P2011−242240A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−114143(P2010−114143)
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月18日(2010.5.18)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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