説明

マイクロチップ検査装置およびその構成部材

【課題】 光源として放電ランプを用いた場合であっても、高い測定精度の得られるマイクロチップ検査装置、並びにこのマイクロチップ検査装置に用いられるマイクロチップおよびチップホルダーを提供すること。
【解決手段】 マイクロチップ検査装置は、吸光光度測定部を有するマイクロチップを備えてなり、マイクロチップの吸光光度測定部を透過した、光源から放射された光が透過光受光部に受光される構成を有し、マイクロチップにおける吸光光度測定部の光軸方向に直線状に伸び、その一端から入射した光源から放射された光を、他端から出射することによって前記マイクロチップにおける吸光光度測定部に導入するアパーチャー部と、アパーチャー部の一端から吸光光度測定部に至る光路上に配置された、入射された光の一部を透過し、他の一部を反射する入射光分割ミラーと、当該ミラーからの反射光を受光するための反射光受光部とが設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップを用いて、吸光光度分析法により検査対象液中における検出対象成分の濃度を測定するためのマイクロチップ検査装置、並びに当該マイクロチップ検査装置の構成部材であるマイクロチップおよびチップホルダーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロマシン作製技術を応用して、化学分析等を従来の装置に比して微細化して行うμ−TAS(μ−Total Analysis System)や「Lab on chip」と称されるマイクロチップを使用した分析方法が注目されている。
このようなマイクロチップを使用した分析システム(以下、「マイクロチップ分析システム」ともいう。)は、マイクロマシン作製技術によって小さな基板上に形成された微細な流路の中において試薬の混合、反応、分離、抽出および検出などの分析処理のすべての工程を行うことを目指したものであり、具体的には、例えば医療分野における血液の分析、超微量のタンパク質や核酸等の生体分子の分析などに用いられている。
【0003】
特に、マイクロチップ分析システムを人の血液の分析に用いた場合には、例えば血液量が少なくて済むことから患者への負担を軽減することができると共に、試薬量も少なくて済むことから分析コストを低減することができる、また装置が小型であることから分析を容易に行うことができるなどの利点がある。このような利点を活かし、マイクロチップ分析システムによる血液分析装置を、例えば自宅などにおいて患者自身が血液分析を行うことのできる仕様とすることが検討されている。
【0004】
マイクロチップ分析システムにおいては、検査対象液(以下、「被検査液」ともいう。)中における検出対象成分の濃度を測定するためには、一般的に吸光光度分析法が用いられており、具体的には、例えばマイクロチップに形成された流路内に、被検査液に試薬を加えることによって得られた吸光成分を含有する測定対象液を流し込み、当該流路の直線状部分を吸光光度測定部として、この吸光光度測定部を透過した、光源から放射された光を受光部に受光させることによって得られる吸光度から被検査液中の検出対象成分の濃度を算出するマイクロチップ検査装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
このようなマイクロチップ検査装置においては、被検査液量および試薬量が極めて微量であり、また吸光光度測定部には被検査液の種類に応じた一定以上の長さが必要とされることなどから、吸光光度測定部は、その形状を極めて細長くし、光入出射部分の面積を、例えば0.5mm2 程度と非常に小さくする必要がある。従って、正確に吸光度を測定するためには、吸光光度測定部に対して平行度の高い光を入射させることにより、当該吸光光度測定部の側面から外部に光が漏れることを抑制して迷光によって測定誤差が生じることを防止する必要がある。
ここに、「迷光」とは、マイクロチップにおける吸光光度測定部以外の部分を通過して受光部に入射される光である。
【0006】
然るに、吸光光度測定部に対して光を供給する光源としては、レーザー装置を用いることが理想的ではあるが、レーザー光が単色光であり、しかも、検出対象成分の種類に応じて測定に必要とされる光の波長が異なるため、その測定毎に適宜のレーザー装置を用意することが必要となり、煩雑な上に検査コストが高くなることから、連続波長域の光を放射する、例えばキセノンランプなどの放電ランプを、波長選択フィルタなどの波長選択手段と組み合わせて用いることが検討されている。
【0007】
しかしながら、マイクロチップ検査装置は、測定対象液が導入された吸光光度測定部を透過して出射する光の強度(以下、「透過光強度」ともいう。)を測定し、この透過光強度と、例えば吸光光度測定部に純水を導入し、この純水が導入された吸光光度測定部を透過して出射する光の強度を測定することなどによって予め測定しておいた吸光光度測定部に入射する光の強度(以下、「入射光強度」ともいう。)とにより、ランベルト−ベールの法則によって検出対象成分の濃度が算出される構成のものであることから、光源としてキセノンランプなどの放電ランプを用いた場合には、この放電ランプが、経時的にその放射光量が変化するという性質を有するものであるために、予め測定しておいた入射光強度の値が、透過光強度を測定した時点における実際上の入射光強度と大きく異なっているおそれがあるため、十分な測定精度を得ることができない、という問題がある。この問題は、入射光強度を測定した時点と、透過光強度を測定した時点とに大きな時間差がある場合には顕著である。
【0008】
【特許文献1】特開2003−279471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、その目的は、光源として放電ランプを用いた場合であっても、高い測定精度の得られるマイクロチップ検査装置、並びにこのマイクロチップ検査装置に用いられるマイクロチップおよびチップホルダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のマイクロチップ検査装置は、吸光光度測定部を有するマイクロチップを備えてなり、当該マイクロチップの吸光光度測定部を透過した、光源から放射された光が透過光受光部に受光される構成のマイクロチップ検査装置であって、
前記マイクロチップにおける吸光光度測定部の光軸方向に直線状に伸び、その一端から入射した光源から放射された光を、他端から出射することによって当該吸光光度測定部に導入するアパーチャー部と、当該アパーチャー部の一端から吸光光度測定部に至る光路上に配置された、入射された光の一部を透過し、他の一部を反射する入射光分割ミラーと、当該ミラーからの反射光を受光するための反射光受光部とが設けられていることを特徴とする。
【0011】
本発明のマイクロチップ検査装置は、マイクロチップが組み込まれるチップ組込み空間を有するチップホルダーを備えてなることが好ましい。
【0012】
本発明のマイクロチップ検査装置においては、マイクロチップがアパーチャー部における光を出射する他端に対向する面を有する突出部を有し、当該突出部に吸光光度測定部が設けられていることが好ましい。
【0013】
本発明のマイクロチップは、上記のマイクロチップ検査装置を構成するマイクロチップであって、
入射光分割ミラーが設けられていることを特徴とする。
【0014】
本発明のチップホルダーは、上記のマイクロチップ検査装置を構成するチップホルダーであって、
アパーチャー部と、入射光分割ミラーとが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明のマイクロチップ検査装置によれば、アパーチャー部によって吸光光度測定部に、光源から当該吸光光度測定部に直行する光を選択して導入するための導光路が形成されていることから、当該吸光光度測定部に対して平行度の高い光を入射させることができると共に、アパーチャー部の一端から吸光光度測定部に至る光路上に配置された入射光分割ミラーと反射光受光部とよりなる入射光強度測定機構が設けられており、入射光強度の測定を、アパーチャー部に入射した光に基づいて透過光強度の測定と同時に行うことができることから、光源から放射される光の放射光量が経時的に変化した場合であっても、これに起因して検出対象成分の濃度の算出に用いられる入射光強度および透過光強度のいずれか一方の測定値のみが変動することがなく、しかも吸光光度測定部に導入される光の正確な入射光強度の値を得ることができるため、検査対象液中における検出対象成分の濃度を高い精度で測定することができる。
【0016】
本発明のマイクロチップおよびチップホルダーは、上記のマイクロチップ検査装置の構成部材として用いられるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
〔第1の実施の形態〕
図1は、本発明のマイクロチップ検査装置の構成の一例を示す説明図であり、図2は、図1のマイクロチップ検査装置のA−A断面図である。
この第1のマイクロチップ検査装置10は、吸光光度測定部25を有するマイクロチップ20と、マイクロチップ20が組み込まれるチップ組込み空間32を有するチップホルダー30とを備えてなる構成のものであり、吸光光度分析法によって被検査液(検査対象液)中における検出対象成分の濃度を測定するためのものである。
【0019】
第1のマイクロチップ検査装置10は、その先端部分(図1において上方部分)に突出部22を有する、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチックなどの光透過性材料よりなる板状体であって、当該突出部22の内部に、その面方向に水平方向(図1において左右方向)に伸びる直方体状空間よりなる吸光光度測定部25が形成されているマイクロチップ20が、例えばアルミニウム製の箱状体よりなるチップホルダー30における組込み空間32内に、チップ組込み用開口32aから挿入されて組み込まれた状態の装置本体11と、吸光光度測定部25に対して光を供給するための光源13と、この光源13から放射された光が装置本体11に至るまでの光路(図1において二点鎖線で示す)L1上に設けられた波長選択フィルタ14と、波長選択フィルタ14および装置本体11を介して光源13と対向するよう設けられた、吸光光度測定部25を透過した光を受光するための透過光受光部15と、この透過光受光部15に接続された、測定された吸光度に基づいて検出対象成分の濃度を算出するための演算部16とを備えている。
この図の例においては、装置本体11は、マイクロチップ20が、その突出部22の先端面22aがチップホルダー30におけるチップ組込み用開口32aに対向する内壁面に突き当てられることによって位置決めれさることにより、所定の位置に組み込まれる構成を有するものである。また、18は平滑レンズであり、19は、演算部16において算出された値が表示される表示部である。
【0020】
マイクロチップ20は、図3および図4に示すように、2枚の基板21a、21bが接合されてなるものであり、一方の基板21aに形成された吸光光度測定部用凹所が、当該基板21a上に積重された状態の他方の基板21bによって密閉されることにより吸光光度測定部25が形成されている。
この図の例において、マイクロチップ20は、吸光光度測定部25と共に、基板21aによって形成される面側に開口を有する被検査液注入用孔26a、試薬注入用孔26bおよび排出用孔28と、基板21aに形成された凹所が基板21bに密閉状態とされた構成を有する混合部27、被検査液注入用孔26aと混合部27とを連通する被検査液流路29a、試薬注入用孔26bと混合部27とを連通する試薬流路29b、混合部27と吸光光度測定部25とを連通する測定対象液流路29c、および吸光光度測定部25と排出用孔28とを連通する排出流路29dとを有し、被検査液注入用孔26aに供給された被検査液と、試薬注入用孔孔26bに供給された試薬とが混合部27において混合されることによって得られた吸光成分を含有する測定対象液が、吸光光度測定部25に導入されて当該吸光光度測定部25を通過し、最終的に排出用孔28を介して排出される構成のものである。
【0021】
そして、第1のマイクロチップ検査装置10においては、装置本体11を構成するチップホルダー30には、吸光光度測定部25の光軸方向(図1において左右方向)に直線状に伸び、その一端(図1において左端)41aから入射した光源13から放射された光を、他端(図1における右端)41bから出射することによって吸光光度測定部25に導入するアパーチャー部41と、当該アパーチャー部41に交差するよう配置された、入射される光の一部を反射し、残部を透過することによって入射光を2分割するハーフミラー44が設けられており、また、装置本体11の外方(図1において上方)には、ハーフミラー44からの反射光を受光するための反射光受光部46が、演算部16に接続された状態で設けられている。
この図の例においては、ハーフミラー44は、その光入射面44aがアパーチャー部41の光軸に対して45°傾いた状態で配置されている。また、35は、アパーチャー部41に連通し、ハーフミラー44からの反射光を反射光受光部46に導入するための反射光導光路であり、34は、吸光光度測定部25を透過し光出射面25bから出射した光を透過光受光部15に導入するための透過光導光路である。
【0022】
アパーチャー部41は、その断面形状が正方形であるトンネル状の導光路であり、開口径が、吸光光度測定部25の光入射面25aの最小径よりも小さいものであることが好ましく、また、全長(b)に対する開口径(a)の比(a/b)が0.01〜0.02であることが好ましい。
吸光光度測定部25の光入射面25aとの関係におけるアパーチャー部41の寸法の具体的な一例としては、吸光光度測定部25の光入射面25aの最小径が0.7mmである場合には、アパーチャー部41は、開口径が0.3mmであって全長が16mmであると共に、全長に対する開口径の比(a/b)が0.019である。
【0023】
また、アパーチャー部41は、その内面が非反射処理されてなるものであることが好ましい。
非反射処理の具体例としては、チップホルダー30の材質などによって適宜に選択されるが、例えばチップホルダー30がアルミニウム製である場合には、黒アルマイト処理などが挙げられる。
【0024】
ハーフミラー44としては、例えばガラス板上に誘電体多層膜が積層された積層体などを用いることができる。
【0025】
このようなチップホルダー30は、チップ組込み空間用凹所と共に、アパーチャー部用凹所、反射光導光路用凹所、透過光導光路用凹所およびハーフミラー組込み用凹所が形成された基板31aと、チップ組込み空間用凹所のみが形成された基板31bと、ハーフミラー44とを用意し、基板31aのハーフミラー組込み用凹所にハーフミラー44を組み込んだ後、このハーフミラー44が組み込まれた状態の基板31aと、基板31bとを、当該基板31aおよび基板31bにおける2つのチップ組込み空間用凹所が組み合わされることによってチップ組込み空間32が形成されるよう接合することにより作製することができる。
【0026】
光源13としては、キセノンランプ、プロジェクターの光源として好適に用いられるような超高圧水銀ランプ、ショートアーク型メタルハライドランプなどを用いることができるが、大きな発光強度が得られると共に点光源化が容易であり、その上、波長250〜1400nmの広い波長領域において連続スペクトルを有し、特に吸光度測定に多く用いられる波長領域(具体的には波長300〜800nmの領域)において輝線の発生がなく安定的な放射スペクトルが得られることから、消費電力20〜75Wのショートアーク型キセノンランプを用いることが好ましい。
【0027】
波長選択フィルタ14は、吸光光度測定部25に導入される測定対象液中における吸光成分が吸収する波長領域の光(以下、「測定波長領域の光」ともいう。)に対してのみ高い透過率を有するものであり、例えばガラス板上に誘電体多層膜や金属膜を積層してなるものを用いることができる。
【0028】
透過光受光部15および反射光受光部46は、各々、受光した光に基づいて光強度信号を出力する機能を有するものである。
透過光受光部15および反射光受光部46としては、具体的に、例えばシリコンフォトダイオードなどの受光素子を用いることができる。このシリコンフォトダイオードは、波長300〜1100nmの波長領域の光に対して感度を有する受光素子である。
【0029】
演算部16は、透過光受光部15および反射光受光部46に接続されており、透過光受光部15から出力された光強度信号(以下、「透過光信号」ともいう。)と、反射光受光部46から出力された光強度信号(以下、「反射光信号」ともいう。)とに基づいてランベルト−ベールの法則により被検査液中における検出対象成分の濃度を算出する演算機構を有するものである。
【0030】
このような構成を有する第1のマイクロチップ検査装置10は、マイクロチップ20の被検査液注入用孔26aに被検査液を供給すると共に、試薬注入用孔26bに試薬を供給し、例えば排出用孔28に接続された吸引ポンプの作用によって混合部27において得られた測定対象液を吸光光度測定部25に導入した後、このマイクロチップ20をチップホルダー30に組込み、光源13を点灯状態とすることによって動作状態とされる。
【0031】
動作状態の第1のマイクロチップ検査装置10においては、光源13から放射されて平滑レンズ18により平行化された光のうちの波長選択フィルタ14を透過した測定波長領域の光が、アパーチャー部41に入射してハーフミラー44により2分割され、当該ハーフミラー44を透過した光は、測定対象液が導入された吸光光度測定部25を透過することにより、その一部が測定対象液中の吸光成分に吸収された残りの一部が透過光導光路34を介して透過光受光部15に供給され、一方、当該ハーフミラー44を反射した光は、反射光導光路35を介して反射光受光部46に供給される。
そして、透過光受光部15からは、受光した光に係るピーク強度の積分値が光電変換された電気信号が透過光信号(光強度信号)として出力され、また、反射光受光部46からは、受光した光に係るピーク強度の積分値が光電変換された電気信号が反射光信号(光強度信号)として出力され、これらの透過光受光部15および反射光受光部46各々から出力された透過光信号および反射光信号が、演算部16に入力されることにより、これらに基づいて検出対象成分の濃度が算出されこの検出対象成分の濃度が表示部19に表示される。
【0032】
以上のような第1の吸光光度検査装置10によれば、アパーチャー部41によって吸光光度測定部25に、光源13から当該吸光光度測定部25に直行する光を選択して導入するための導光路が形成されていることから、当該吸光光度測定部25に対して平行度の高い光を入射させることができると共に、ハーフミラー44と反射光受光部46とよりなる入射光強度測定機構が設けられていることから、入射光強度の測定と透過光強度の測定とを同時に行うことができ、その上ハーフミラー44がアパーチャー部41に交差するよう配置されており、当該アパーチャー部41を通過する光が入射光強度の測定用に用いられることから、光源13から放射される放射光量が経時的に変化した場合であっても、これに起因して検出対象成分の濃度の算出に用いられる入射光強度および透過光強度のいずれか一方の測定値のみが変動することがなく、しかも、アパーチャー部41を通過する光の光量が光源13から放射される光の経時的な放射光量の変化割合に比例的に変化するものではなくても、吸光光度測定部25に導入される光の正確な入射光強度の値を得ることができるため、検査対象液中における検出対象成分の濃度を高い精度で測定することができる。
ここに、アパーチャー部41を通過する光の光量が光源13から放射される光の経時的な放射光量の変化割合に比例的に変化するものではない理由は、例えば0.3mmと開口径の極めて小さいアパーチャー部41によって光源13から放射される光のうちの吸光光度測定部25に直行する光のごく一部が選択されるためであると考えられている。
【0033】
また、第1のマイクロチップ検査装置10は、マイクロチップとチップホルダーとを備えてなる構成のものであるが、ハーフミラー44および反射光受光部46よりなる入射光強度測定機構が設けられており、入射光強度の測定と透過光強度の測定とを同時に行うことができることから、本発明者らによって特願2004−274788号において提案されている、マイクロチップおよび光源から放射された光を吸光光度測定部に導入するための光路が形成されたチップホルダーとを備え、吸光光度測定部に対して光を供給する光源としてキセノンランプなどの放電ランプが用いられてなる検査装置のように、入射光強度を測定するためのマイクロチップと、透過光強度を測定するためのマイクロチップとを交換する際に光学系に微妙なズレが生じることに起因して予め測定しておいた入射光強度の値が、透過光強度を測定した時点における実際上の入射光強度と異なるおそれがなく、また、マイクロチップ20をチップホルダー30に組み込む作業などに伴って装置10自体の光学系に微妙なズレが生じることに起因して検出対象成分の濃度の算出に用いられる入射光強度および透過光強度のいずれかの一方の測定値のみが変動することがないため、検査対象液中における検出対象成分の濃度を高い精度で測定することができる。
【0034】
また、第1のマイクロチップ検査装置10においては、吸光光度測定部25が、マイクロチップ20における他の部分から突出した突出部22に独立した状態で設けられていることから、当該装置10自体の測定系の設計の自由度が大きくなるため、測定誤差を小さくすることができる。
【0035】
本発明の第1のマイクロチップ検査装置には、種々の変更を加えることができる。
例えば、第1のマイクロチップ検査装置は、ハーフミラーに代えて、特定の波長領域の光(具体的には、測定波長領域の光)のみを透過し、当該特定の波長領域以外の波長領域の光(以下、単に「他の波長領域の光」ともいう。)を反射するという特性を有するミラー(以下、「波長選択ミラー」ともいう。)を用いることもできる。
このようなマイクロチップ検査装置は、図5に示すように、波長選択ミラー49を透過した測定波長領域の光が透過光受光部15に供給され、反射光受光部46には他の波長領域の光が供給されるものであり、この測定波長領域の光の光量と、他の波長領域の光の光量とが比例関係にあることを利用して被検査液中の検出対象成分の濃度を測定する構成を有するものである。
【0036】
この場合には、波長選択ミラー49によって光源13から放射された光から測定波長領域の光を選別することができるため、波長選択フィルタを設ける必要がなく、また、光源から放射された光のうちの測定波長領域の光を、透過光強度の測定用と、入射光強度の測定用に2分割する構成のハーフミラーを用いたマイクロチップ検査装置に比して、透過光受光部15および反射光受光部46に供給される光の強度が大きいことから、一層高い測定精度を得ることができる。
【0037】
〔第2の実施の形態〕
図6は、本発明のマイクロチップ検査装置の構成の他の例を示す説明図である。
この第2のマイクロチップ検査装置50は、ハーフミラー44がマイクロチップ60に設けられていること以外は、第1の実施の形態に係る第1のマイクロチップ検査装置10と同様の構成を有するものである。
図6において、第1のマイクロチップ検査装置10を構成する部材と同様の構成を有する部材には同一の符号を付した。また、65は、ハーフミラー44からの反射光を反射光受光部46に導入するための反射光導光路である。
【0038】
第2のマイクロチップ検査装置50の装置本体51を構成するマイクロチップ60には、ハーフミラー44が、突出部22における、吸光光度測定部25の光入射面25aの前方(図5において左方)に設けられており、このハーフミラー44は、チップホルダー70に設けられているアパーチャー部41の他端41bから出射された光が吸光光度測定部25に至るまでの光路(図6において二点鎖線で示す)L2に対して45°傾いた状態で配置されている。
ここに、マイクロチップ60は、突出部22にハーフミラー44が設けられていること以外は第1のマイクロチップ検査装置10に係るマイクロチップ20と同様の構成を有するものである。
【0039】
このようなマイクロチップ60は、2枚の基板が接合されてなるものであり、被検査液注入用孔、試薬注入用孔および排出用孔を形成するための貫通孔と、吸光光度測定部、混合部、これらを連通する微小流路(具体的には、被検査液注入用孔と混合部とを連通する被検査液流路、試薬注入用孔と混合部とを連通する試薬流路、混合部と吸光光度測定部とを連通する測定対象液流路、および吸光光度測定部と排出用孔とを連通する排出流路)を形成するための凹所と、ハーフミラー組込み用凹所とが形成された一方の基板(以下、「第1基板」ともいう。)と、他方の基板(以下、「第2基板」ともいう。)と、ハーフミラー44とを用意し、第1基板のハーフミラー組込み用凹所にハーフミラー44を組み込んだ後、このハーフミラー44が組み込まれた状態の第1基板と、第2基板とを、第1基板に形成されている凹所を密閉するよう接合することにより作製することができる。
【0040】
このような構成の第2のマイクロチップ検査装置50においては、光源13から放射されて波長選択フィルタ14を透過した測定波長領域の光が、アパーチャー部41を通過した後、ハーフミラー44により2分割されると共に、ハーフミラー44を反射した光が反射光導光路65を介して反射光受光部46に供給されること以外は、第1のマイクロチップ検査装置10と同様にして、透過光受光部15から出力された透過光信号と、反射光受光部46から出力された反射光信号とに基づいて演算部16において検出対象成分の濃度が算出され、この検出対象成分の濃度が表示部19に表示される。
【0041】
以上のような第2のマイクロチップ検査装置50によれば、アパーチャー部41によって吸光光度測定部25に、光源13から当該吸光光度測定部25に直行する光を選択して導入するための導光路が形成されていることから、当該吸光光度測定部25に対して平行度の高い光を入射させることができると共に、アパーチャー部41の他端41bから出射された光が吸光光度測定部25に至るまでの光路L2上に配置されたハーフミラー44と反射光受光部46とよりなる入射光強度測定機構が設けられていることから、入射光強度の測定を、アパーチャー部41を通過した光を用いて、透過光強度の測定と同時に行うことができるため、光源13から放射される放射光量が経時的に変化した場合であっても、これに起因して検出対象成分の濃度の算出に用いられる入射光強度および透過光強度のいずれかの一方の測定値のみが変動することがなく、しかも、アパーチャー部41を通過する光の光量が光源13から放射される光の経時的な放射光量の変化割合に比例的に変化するものではなくても、吸光光度測定部25に導入される光の正確な入射光強度の値を得ることができるため、検査対象液中における検出対象成分の濃度を高い精度で測定することができる。
【0042】
また、第2のマイクロチップ検査装置50は、マイクロチップ60とチップホルダー70とを備えてなる構成のものであるが、入射光強度の測定と透過光強度の測定とを同時に行うことができることから、マイクロチップ60をチップホルダー70に組み込む作業などに伴って装置50自体の光学系に微妙なズレが生じた場合であっても、検出対象成分の濃度の算出に用いられる入射光強度および透過光強度のいずれかの一方の測定値のみが変動することがないため、検査対象液中における検出対象成分の濃度を高い精度で測定することができる。
【0043】
本発明の第2のマイクロチップ検査装置には、種々の変更を加えることができる。
例えば、第2のマイクロチップ検査装置は、第1のマイクロチップ検査装置と同様にしてハーフミラーに代えて、波長選択ミラーを用いることもできる。
【0044】
以上、本発明のマイクロチップ検査装置を、具体的な2つの形態を示すことによって説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明のマイクロチップ検査装置は、吸光光度測定部を有するマイクロチップを備え、当該吸光光度測定部を透過した、光源から放射された光が透過光受光部に受光される構成を有し、アパーチャー部と、ハーフミラーおよび波長選択ミラーから選択される入射光分割ミラーと、反射光受光部が設けられてなるものであれば、その他の構成部材としては適宜のものを用いることができる。
【0045】
以上のような本発明のマイクロチップ検査装置によれば、例えば血液中におけるγ−GTPの濃度や、GOTの濃度などを測定することができる。
【0046】
血液中のγ−GTPの濃度は、試薬として、L−γ−グルタミル−3−カルボキシ−4−ニトロアニリド(GluCANA)と、グリシルグリシンとを用い、下記反応式(1)に示すように、γ−GTPと2種の試薬とが反応することによってL−γ−グルタミルグリシルグリシンと、波長405nmの光を吸収する特性を有する5−アミノ−2−ニトロ安息香酸とが生成されるという特性を利用し、5−アミノ−2−ニトロ安息香酸による波長405nmの光の吸光量に基づいて測定することができる。
【0047】
【化1】

【0048】
また、血液中のGOTの濃度は、試薬として、波長340nmの光を吸収する特性を有するβ−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)溶液を用い、GOTと試薬とが反応することによってβ−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド酸化型(NAD)が生成されるという特性を利用し、β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド還元型(NADH)による波長340nmの光の吸収量に基づいて測定することができる。
【0049】
具体的に、下記の仕様を有する血液中のγ−GTPの濃度の測定を行うためのマイクロチップ検査装置を作製した。
【0050】
このマイクロチップ検査装置は、図1に示す構成を有し、マイクロチップとしては、ポリエチレンテレフタレートよりなり、縦25mm、横25mm、厚さ2mm、突出部の高さ2.5mm、突出部の全長12mmであって、吸光光度測定部の形状が、光入射面および光出射面0.7mm角、全長10mmであるものを用い、チップホルダーとしては、アルミニウムよりなり、開口径0.3mm、全長16mmであって全長に対する開口径の比(a/b)が0.019であるアパーチャー部を有するものを用いた。
また、光源としては、ショートアーク型キセノンランプを用い、波長選択フィルターとしては、波長400〜410(405±5)nmの波長領域の光に対してのみ高い透過率を有するものを用い、透過光受光部および反射光受光部としては、各々、シリコンフォトダイオードを用いた。
【0051】
このマイクロチップ検査装置により、1〜2μlの血液を被検査対象液とし、試薬としては、L−γ−グルタミル−3−カルボキシ−4−ニトロアニリド(GluCANA)2.1μlと、グリシルグリシン8.4μlとを用いて複数回の濃度測定を行ったところ、この複数回の濃度測定毎にマイクロチップを交換すると共に、第1回目の濃度測定を行った時点と、最終回の濃度測定を行った時点とに大きな時間差があって光源であるキセノンランプの放射光量が変化していたが、そのすべてにおいて同一の測定値が得られた。
この結果から、本発明のマイクロチップ検査装置によれば、光源として放電ランプを用いた場合であっても、または、検査装置自体の光学系に微妙なズレが生じた場合であっても、高い測定精度が得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明のマイクロチップ検査装置の構成の一例を示す説明図である。
【図2】図1のマイクロチップ検査装置のA−A断面図である。
【図3】図1のマイクロチップ検査装置を構成するマイクロチップを示す説明図である。
【図4】図3のマイクロチップのB−B断面図である。
【図5】本発明のマイクロチップ検査装置の構成の他の例を示す説明図である。
【図6】本発明のマイクロチップ検査装置の構成の更に他の例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0053】
10 マイクロチップ検査装置
11 装置本体
13 光源
14 波長選択フィルタ
15 透過光受光部
16 演算部
18 平滑レンズ
19 表示部
20 マイクロチップ
21a、21b 基板
22 突出部
22a 先端面
25 吸光光度測定部
25a 光入射面
25b 光出射面
26a 被検査液注入用孔
26b 試薬注入用孔
27 混合部
28 排出用孔
29a 被検査液流路
29b 試薬流路
29c 測定対象液流路
29d 排出流路
30 チップホルダー
32 チップ組込み空間
32a チップ組込み用開口
34 透過光導光路
35 反射光導光路
41 アパーチャー部
41a 一端
41b 他端
44 ハーフミラー
44a 光入射面
46 反射光受光部
49 波長選択ミラー
50 マイクロチップ検査装置
51 装置本体
60 マイクロチップ
65 反射光導光路
70 チップホルダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸光光度測定部を有するマイクロチップを備えてなり、当該マイクロチップの吸光光度測定部を透過した、光源から放射された光が透過光受光部に受光される構成のマイクロチップ検査装置であって、
前記マイクロチップにおける吸光光度測定部の光軸方向に直線状に伸び、その一端から入射した光源から放射された光を、他端から出射することによって当該吸光光度測定部に導入するアパーチャー部と、当該アパーチャー部の一端から吸光光度測定部に至る光路上に配置された、入射された光の一部を透過し、他の一部を反射する入射光分割ミラーと、当該ミラーからの反射光を受光するための反射光受光部とが設けられていることを特徴とするマイクロチップ検査装置。
【請求項2】
マイクロチップが組み込まれるチップ組込み空間を有するチップホルダーを備えてなることを特徴とする請求項1に記載のマイクロチップ検査装置。
【請求項3】
マイクロチップがアパーチャー部における光を出射する他端に対向する面を有する突出部を有し、当該突出部内に吸光光度測定部が設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマイクロチップ検査装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載のマイクロチップ検査装置を構成するマイクロチップであって、
入射光分割ミラーが設けられていることを特徴とするマイクロチップ。
【請求項5】
請求項2または請求項3に記載のマイクロチップ検査装置を構成するチップホルダーであって、
アパーチャー部と、入射光分割ミラーとが設けられていることを特徴とするチップホルダー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−145309(P2006−145309A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−333925(P2004−333925)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】