説明

マイクロホン用風防及びマイクロホン装置

【課題】 音の減衰がほとんど無く、風切音を防止する、マイクロホン用風防及びその風防を用いたマイクロホン装置の提供。
【解決手段】 マイクロホンの風切音を軽減するためのマイクロホン用風防において、前記風防が、繊維を含んで構成される原料を湿式抄造法で抄紙することによって得られる、前記繊維が互いに交絡している繊維材料からなる音響透過材料を含み、前記繊維材料が、下記の特性(1)を有し、前記風防が、下記の特性(2)を有することを特徴とする、防水型マイクロホン用風防。
(1)透気度が0s・100mlである。
(2)JISの防水規格においてJIS IPX2以上の防水性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロホンの風切音、或いは風雑音を軽減するためのマイクロホン用風防及び当該風防を用いたマイクロホン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のマイクロホン用風防は、Windscreenなどと呼ばれ、多くはウレタンなどの多孔質材を充填したような構造、或いはビニル系、プラスチック系材料を発泡させたような様態のものであった。これらの風防をマイクロホンの周辺に設けて、風切音を防止する。これらの風防において、構成素材表面に防水塗装、防水スプレーなどの処理を施し暫定期間のみ防水性を示すように意図したものも散見された。
【0003】
風力発電施設による低音域騒音が問題となっている。すなわち、風力発電施設の発する低音域の騒音によって、不眠、いらいら感、うるさいなどの心理的要素の被害から、血圧上昇、圧迫感、腹部や胸頚部の異常、頭痛、耳痛、リンパ腺の腫れ、耳鳴り、めまい等のなんらかの生理的身体症状の被害が近隣住民の中で見られる。これらの低音域騒音は耳で聞こえる範囲のみならず、通常、聞こえない範囲の低周波数の音の発生についてまで対策を採らなければならない。そこで、当該低音域の騒音を測定する測定するための装置が求められている。しかし、低音域の騒音を測定しようとすると、これらの音の測定は通常屋外で行わなければならないので、風切音の影響によって、当該騒音を測定できないことがある。このように屋外での低周波騒音の測定に関して、計測用マイクロホンの外側に配置して風雑音の発生を低減する防風スクリーンにおいて、この防風スクリーンはウレタンフォームからなる壁体と、この壁体の外側面に取り付けられる目の粗い外側網体と、前記壁体の内側面に取り付けられる目の細かい内側網体とを備えることを特徴とする防風スクリーンが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−246960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来型の風防、或いは防風スクリーンの問題点として以下のような課題がある。まず、充填球形風防の場合、内部の多孔質層を空気が移動する際に発生する流れ抵抗が発生し、ポリウレタン、グラスウールなどの多孔質吸音材が有するのと同様の吸音、即ち、減衰が発生し中興音域の応答特性が低下したり乱れを誘発したりすることになる。そこで、本発明は、音の減衰がほとんど無く、風切音を防止する、マイクロホン用風防及びその風防を用いたマイクロホン装置を提供することを第一の目的とする。
【0006】
また、従来のマイクロホン用風防は、ほとんどのものは防水性が無く、又はあったとしても製作後に表面に防水スプレーを施したようなもので、長期にわたる屋外での防水性や耐候性を期待することはできない。そこで、本発明は、音響透過性を有し、風切音を防止し、且つ、防水スプレーなどをする必要がなく、材料そのものが防水性・撥水性を有する材料を用いたマイクロホン用風防及びその風防を用いたマイクロホン装置を提供することを第二の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明(1)は、マイクロホンの風切音を軽減するためのマイクロホン用風防において、
前記風防が、繊維を含んで構成される原料を湿式抄造法で抄紙することによって得られる、前記繊維が互いに交絡している繊維材料からなる音響透過材料を含み、
前記繊維材料が、下記の特性(1)を有し、
前記風防が、下記の特性(2)を有することを特徴とする、防水型マイクロホン用風防である。
(1)透気度が0s・100mlである。
(2)JISの防水規格においてJIS IPX2以上の防水性を有する。
【0008】
本発明(2)は、前記繊維が、金属繊維又はフッ素繊維であることを特徴とする、前記発明(1)の防水型マイクロホン用風防である。
【0009】
本発明(3)は、前記風防が、風速2.7m/sの風に対し、Δ(デルタ)20dBA以上の風切音低減効果を有することを特徴とする、前記発明(1)又は(2)の防水型マイクロホン用風防である。
【0010】
本発明(4)は、前記繊維材料が、水に対する接触角が90度以上であることを特徴とする、前記発明(1)〜(3)のいずれか一つの防水型マイクロホン用風防である。
【0011】
本発明(5)は、前記繊維材料が熱処理されていることを特徴とする、前記発明(1)〜(4)のいずれか一つの防水型マイクロホン用風防である。
【0012】
本発明(5−1)は、前記風防が、20Hz〜20kHzのシートに直角方向からの入射音に対し減衰1dB以下となるような音響透過性を有することを特徴とする、前記発明(1)〜(5)のいずれか一項記載の防水型マイクロホン用風防である。
【0013】
本発明(6)は、低周波音を屋外において測定する全天候型低周波音測定用マイクロホン装置において、
前記発明(1)〜(5)のいずれか一つのマイクロホン用風防であって、内部に空間を有する中空形状である風防と、
前記風防の空間内に配置されているマイクロホンとを有することを特徴とする、全天候型低周波音測定用マイクロホン装置である。
【0014】
本発明(7)は、前記空間が、半球形状、球の一部を成す形状であってその底面にあたる平面部分を有する形状、又は、外周部から中心部に向かい高さ(厚み)が暫増する流線型の断面形状と、円形、楕円形、多角形、あるいはこれらを組み合わせた3次元形状等の半球状に準じる形状であることを特徴とする、前記発明(6)の全天候型低周波音測定用マイクロホン装置である。
【0015】
本発明(8)は、マイクロホンと、風切音を軽減するための風防と、を有する風切音低減マイクロホン装置において、
前記風防が、前記発明(1)〜(5)のいずれか一つの風防であり、
前記風防と、前記マイクロホンとの間に、1mm〜数10cmの距離が形成される空間を有することを特徴とする、マイクロホン装置である。
【0016】
本発明(8−1)は、前記空間の体積が、数mm〜数万cmであることを特徴とする、前記発明(8)のマイクロホン装置である。
【0017】
本発明(8−2)は、前記風防が、内部に空間を有する中空球形状を有しており、
前記風防の空間内の略中心にマイクロホンが配置されていることを特徴とする、前記発明(8)のマイクロホン装置である。
【0018】
本発明(8−3)は、前記空間が、球形状、又は、楕円体、多面体などの球形に準じる形状であることを特徴とする、前記発明(8−2)のマイクロホン装置である。
【0019】
本発明(8−4)は、前記マイクロホンと前記風防の壁面までの距離の平均値が数cm〜数十cmであることを特徴とする、前記発明(8−2)又は(8−3)のマイクロホン装置である。
【0020】
本発明(8−5)は、前記風防が、内部に円柱形状の空間を有する中空円柱形状を有しており、
前記風防の中空円柱形状の空間内にマイクロホンが配置されており、当該マイクロホンの振動板に対する風防壁面の距離が、数cm〜数十cmであることを特徴とする、前記発明(8)のマイクロホン装置である。
【0021】
本発明(8−6)は、前記発明(8−2)〜(8−4)のいずれか一つの風防内に、請求項(8−5)記載のマイクロホン装置が配置されていることを特徴とする、マイクロホン装置である。
【0022】
本発明(9)は、枠体と前記枠体上部に配された音響透過材料とを有する風防と、マイクロホンとを有し、
前記枠体と前記音響透過材料とにより形成される空間内の一方の底面部にマイクロホンが配置されていることを特徴とする、サーフェース型マイクロホン装置である。
【0023】
本発明(9−1)は、前記音響透過材料が、平面状に形成されていることを特徴とする、前記発明(9)のサーフェース型マイクロホン装置である。
【0024】
本発明(9−2)は、前記枠体の高さが、1mm〜数10cmの範囲にあることを特徴とする、前記発明(9)のサーフェース型マイクロホン装置である。
【0025】
ここで本明細書において使用する各種用語の意味を説明する。「dBA」とは、騒音レベルの低減効果を示す単位であり、騒音レベルで20dBの低減効果を△20dBAと略記する(以下、単位dBAで表記する)。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る風防によれば、当該繊維材料からなる音響透過材料を使用することによって、防汚水性及び風切音低減効果を有し、更に、ポリウレタン等の従来の風防材料を用いた場合と比較して、高い全音響透過性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1は、本発明に係るマイクロホン用風防と、マイクロホン装置の構造の例を示した図である。
【図2】図2は、全天候型低周波音測定用マイクロホン装置100の概略構成図である。
【図3】図3は、本発明に係る風防の一例を示す概略構成図である。
【図4】図4は、本発明に係るマイクロホン装置200の第一態様に係る概略構成図である。
【図5】図5は、本発明に係るマイクロホン装置200の第二態様に係る概略構成図である。
【図6】図6は、本発明に係るマイクロホン装置200の第三態様に係る概略構成図である。
【図7】図7は、本発明に係るサーフェース型マイクロホン装置300の概略構成図である。
【図8】図8は、音響透過性(伝送周波数特性)測定方法の概略図である。
【図9】図9は、図2に示したマイクロホン装置を用いて、音響透過試験を行なった結果を示す図である。
【図10】図10は、音響透過性試験を行なった系統の概略構成を示す図である。
【図11】図11は、音響透過性の測定例の結果を示した図である。
【図12】図12は、風切音低減試験を行なった系統を示す概略構成図である。
【図13】図13は、風切音低減試験の結果を示す図である。
【図14】図14(a)は、測定に用いた1/2”ECM用の球形風防の概略構成図であり、図14(b)は、1/2”ECM用の球形風防について風切音低減試験及び音響透過性の測定を行った系統を示す図である。
【図15】図15は、風切音低減試験を行なった結果を示す図である。
【図16】図16は、挿入損失の測定結果を示す図である。
【図17】図17(a)は、測定に用いたサーフェース型マイクロホン装置の概略構成図であり、図17(b)は、サーフェース型マイクロホン装置について風切音低減試験及び音響透過性の測定を行った系統を示す図である。
【図18】図18は、サーフェース型マイクロホン装置の直径D=75mmΦ(一定)として、円筒厚T(mmt)毎に風切音を測定した結果を示す図である。
【図19】図19は、サーフェース型マイクロホン装置のT=10t(一定)として円筒径D毎に風切音を測定した結果を示す図である。
【図20】図20はη方向(=0°,45°,90°)・1m点にスピーカーを置いた場合の挿入損失の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明は、マイクロホンの風切音を軽減するためのマイクロホン用風防であり、前記風防が、繊維を含んで構成される原料を湿式抄造法で抄紙することによって得られる、前記繊維が互いに交絡している繊維材料からなる音響透過材料を含んでいることを特徴とする。また、前記繊維材料が、下記の特性(1)を有し、当該風防が下記の特性(2)を有することを特徴としている。
(1)透気度が0s/100mlである。
(2)JISの防水規格においてJIS IPX2以上の防水性を有する。
【0029】
音響透過材料として用いる繊維材料は、上記の(1)を満足することによって、高い音響透過性を有する材料となる。また、当該繊維材料は、上記(2)の特性を満足するように構成されることによって、防水性を有するともに、適度に繊維の密度が上昇するため、風切音の原因となる風を遮断することが可能となる。即ち、当該発明は、繊維材料からなる音響透過材料が空気分子塊の移動である「風」に対しては遮蔽物、或いは移動方向変換装置(フラップ)として機能し、また気圧変化の移動(媒体自体は振動するだけで移動しない)である「音」に対してはほぼ完全な透過性を呈し、更にまた、音響透過材料自体が撥水性もしくは防水性を有するため、これらの性質をバランスよく利用することにより、シンプルな様態ながら合理的かつ効果的に音響透過性の防水型風防を構成できる。
【0030】
以下、まず、本発明に係るマイクロホン用風防を説明し、次いで、本発明に係るマイクロホン装置を説明することとする。尚、本発明の技術的範囲は、以下で説明する最良形態には限定されない。
【0031】
(マイクロホン用風防)
本発明に係るマイクロホン用風防は、繊維材料からなる音響透過材料を含んでいる。より具体的には、マイクロホンに対して風を遮るようにシート状の音響透過材料が連続的に配置されていることが好適である。本発明に係るマイクロホン用風防は、音響透過材料のみで構成されていてもよいし、2つの網状体の間に音響透過材料を挟みこんだ構成を有していてもよい。本発明に係る繊維材料からなる音響透過材料を用いることにより、繊維材料自体が自立性を有するため、音響透過材料のみであっても風防を形成することが可能となる。
【0032】
本発明に係る音響透過性材料は、透気度が0s/100mlである。当該性質を有することにより、音響透過性が著しく向上する。透気度とは、一定面積を一定の空気が一定圧力の下で通過するのにかかる時間を意味し、ここではシート状の音響透過性材料に対して、100mlの空気が通過するのに要する時間である。透気度は、JIS P8117に規定されているガーレー法により測定する。また、ここで透気度が0s/100mlとは、上記の測定方法において、0.5s/100mlより低い値であることを意味する。
【0033】
また、本発明に係る音響透過材料は、JISの防水規格においてJIS IPX2以上の防水性を有する。このような防水性を有することによって、単に防水性能を有するのみならず、透水性が低くなる程度に、繊維材料の密度を高めることによって、風防としての機能を発揮する。即ち、上記透気度条件(1)、防水性条件(2)を満足することによって、単に音響透過性を有するだけなく、風防機能を有する材料としての性質を有することとなる。また、JIS IPX4以上の防水性を有することがより好適である。
【0034】
本発明に係る音響透過材料は、繊維を含んで構成される原料を湿式抄造法で抄紙することによって得られる。ここで、湿式抄造法で抄紙することによって、繊維が互いに交絡している繊維材料が得られる。ここで繊維材料の製造に用いられる原料は、金属繊維、又はフッ素繊維であることが好適である。ここで、音響透過材料として用いられる繊維材料は、厚さ3mm以下であることが好適であり、厚さ10μm〜300μm、より好ましくは20μm〜250μmであることがより好適である。このような厚みとすることにより、ある程度の剛性を有し最小限のシンプルな骨組みで効果的な風切音低減効果確認することができる。
【0035】
金属繊維材料
音響透過材料の繊維として金属繊維を用いた場合、金属繊維材料は、1種又は2種以上の金属繊維を含んで構成されるスラリーを湿式抄造法で抄紙することによって得られる、前記金属繊維が互いに交絡している金属繊維材料である。金属繊維材料の形状については特に限定されないが金属繊維シートであることが好適である。以下、各要件を詳述する。尚、当該金属繊維材料及びその製造方法として、特開2000−80591、特許2649768及び特許2562761の記載内容も本明細書に組み込まれているものとする。
【0036】
(材料)
1種又は2種以上の金属繊維とは、ステンレス、アルミニウム、真ちゅう、銅、チタン、ニッケル、金、白金、鉛等の金属材料を素材とする繊維から選択される1種又は2種以上の組み合わせである。
【0037】
(構造)
当該金属繊維材料は、金属繊維が互いに交絡した構造を採っている。また、当該金属繊維を構成する金属繊維は、1μm〜50μm、好ましくは8μm〜20μmの繊維径を有し、かつアスペクト比が500〜3000のものが好ましく、さらに好ましくは、アスペクト比が1000〜2000のものである。このような金属繊維であれば、金属繊維同士を交絡させるのに好適であり、また、このような金属繊維同士を交絡させることにより、表面がけば立ちの少ない金属繊維シートとすることが可能となる。
【0038】
(製造方法)
本発明に係る金属繊維材料の製造方法は、1種又は2種以上の金属繊維を含んで構成されるスラリーを湿式抄造法によりシート形成する際に、網上の水分を含んだシートを形成している前記金属繊維を互いに交絡させる繊維交絡処理工程を含んで構成される。ここで、繊維交絡処理工程としては、例えば、抄紙後の金属繊維シート面に高圧ジェット水流を噴射する繊維交絡処理工程を採用するのが好ましく、具体的には、シートの流れ方向に直交する方向に複数のノズルを配列し、この複数のノズルから同時に高圧ジェット水流を噴射することにより、シート全体に亘って金属繊維同士を交絡させることが可能である。即ち、湿式抄紙により平面方向に不規則に交差した金属繊維で構成されるシートに、例えば、高圧ジェット水流をシートのZ軸方向に噴射することにより、高圧ジェット水流が噴射された部分の金属繊維がZ軸方向に配向する。このZ軸方向に配向した金属繊維が平面方向に不規則に配向した金属繊維間に絡みつき、各繊維が互いに三次元的に絡み合った状態、すなわち交絡することで物理的強度を得ることができるものである。また、抄造方法は、例えば、長網抄紙、円網抄紙、傾斜ワイヤ抄紙等、必要に応じて種々の方法を採用することができる。尚、長繊維の金属繊維を含むスラリーを製造する場合、金属繊維の水中での分散性が悪くなることがあるので、増粘作用のあるポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース(CMC)等の高分子水溶液を少量添加してもよい。また、金属繊維材料の製造方法は、上述した湿式抄造工程後、得られた金属繊維材料を真空中または非酸化雰囲気中で金属繊維の融点以下の温度で焼結する焼結工程を含んで構成されるのが好ましい。すなわち、上述した湿式抄造工程後、焼結工程が行われれば、繊維交絡処理が施されるため、金属繊維材料に有機バインダ等を添加する必要がないので、有機バインダ等の分解ガスが焼結工程において障害となることもなく、金属特有の光沢面を有する金属繊維材料を製造することが可能となる。また、金属繊維が交絡しているので、焼結後の金属繊維材料の強度を一層向上することが可能となる。また、金属繊維材料を焼結することにより、高い音響透過性を示し、防水性に優れる材料となる。焼結しない場合、残存する増粘作用のある高分子が水を吸収する、つまり防水性が劣る可能性がある。
【0039】
フッ素繊維材料
繊維としてフッ素繊維を使用した場合、フッ素繊維材料は、不規則方向に配向した短繊維状のフッ素繊維により構成され、該繊維の繊維間が熱融着により結合されている材料(紙)である。尚、当該フッ素繊維材料及びその製造方法として、特開昭63−165598の記載内容も本明細書に組み込まれているものとする。以下、各要素を詳述する。
【0040】
(材料)
本発明に係るフッ素繊維は、熱可塑性フッ素樹脂から製造されるもので、その主成分としてはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン(TFE)、パーフルオロエーテル(PFE)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー(FEP)、テトラフルオロエチレンとエチレン又はプロピレンとのコポリマー(ETFE)、フッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)、フッ化ビニル系樹脂(PVF)があるが、フッ素樹脂から作られたものであればこれらに限定されるものではなく、さらにこれら或いは他の樹脂と混合して使用することもできる。ここで、当該フッ素繊維は、湿式抄紙法により紙状物とするために、繊維長が1〜20mmの単繊維であることが好適であり、また、その繊維径は2〜30μmであることが好適である。
【0041】
(製造方法)
本発明に係るフッ素繊維材料は、フッ素繊維と自己接着機能を有する物質とを湿式抄造法により混抄し乾燥して得たフッ素繊維混抄紙材料を、フッ素繊維の軟化点以上で熱圧着してフッ素繊維の繊維間を熱融着させた後、自己接着機能を有する物質を溶媒により溶解除去し、必要により再乾燥することにより製造することができる。ここで、自己接着機能を有する物質としては、通常製紙用として用いられる木材、綿、麻、わら等の植物繊維からなる天然パルプ、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエステル、芳香族ポリアミド、アクリル系、ポリオレフィン系の熱可塑性合成高分子からなる合成パルプや合成繊維、更に天然高分子や合成高分子からなる製紙用紙力増強剤等を用いることができるが、自己接着性の機能があってフッ素繊維と混在して水に分散できるものであればこれらに限定されるものではない。
【0042】
(物性)
本発明に係る音響透過材料は、以下の測定方法1に従い測定された周波数特性の差(以下、挿入損失)が各1/1オクターブ帯域で10dB以内であることが好適である。
【0043】
測定方法1:無響室において音源から発せられるオーディオ周波数帯域50〜10000Hzの音を音源から5m離間した位置に設置されたマイクロホンにて測定した周波数特性と、音源の前面に該部材を設置した場合の周波数特性との差を測定。
【0044】
本発明に係る音響透過材料は、更に上記の測定試験において、20Hz−20kHzでシートに直角方向からの入射音に対し減衰2dB以下(より好適には1dB以下)となるような音響透過性を有することが好適である。
【0045】
本発明において使用する音響透過材料は、当該材料と水滴との接触角が90°以上となる性質を有することが好適であり、100°以上がより好適であり、110°以上であることが更に好適である。上限は特に限定されないが、160°である。尚、水滴に対する接触角の測定方法は、試験片表面上に水滴を滴下し20℃の環境下で接触角計(エルマ社製、エルマG−I型接触角計)を用いて接触角を測定する。接触角の測定を10回行い、その平均値を求める。
【0046】
(風切音低減効果評価方法)
本発明係る風防は、風切音低減効果評価方法において、風速2.7mの風に対し、Δ20dBA以上の風切音低減効果を有することが好適である。ここで、風切音低減効果評価試験では、無響室において送風機などから2.7m/sの風速(風切音の発生が認められ、または風切音の低減が観測できる範囲)で風を送り、風防無しで観測されるマイクロホン出力応答に対し、当該風防を装着した状態で測定した応答が騒音レベル(dBA)でS(dBA)低減した場合、風切音低減効果△S(dBA)と呼ぶことにする。
【0047】
マイクロホン装置
本発明に係るマイクロホン用風防は、マイクロホン装置の構造によって、その構造を適宜変更することができる。特に、本発明に係る音響透過材料は、繊維材料を抄紙した材料であるので、新規構成を有するマイクロホン用風防及びマイクロホン装置を構成することができる。
【0048】
本発明に係るマイクロホン用風防と、マイクロホン装置の構造の例を図1に示した。図1(a)は、マイクロホン装置の概略構成図である。当該態様において、マイクロホン装置1は、風向きに対して垂直に風防2を配して、その背後にマイクロホン3を配した構成を有する。ここで、当該風防には、風防音響透過性材料が使用されていることが好適である。
【0049】
図1(b)に示す態様において、マイクロホン装置1は、風向きに対して斜めに風防2を配して、その背後にマイクロホン3を配した構成を有する。図1(c)に示す態様において、マイクロホン装置1は、風向きに対して部分球面や、部分二次曲面を有する風防2を配して、その背後にマイクロホン3を配した構成を有する。図1(d)に示す態様において、マイクロホン装置1は、球面状の風防2を配して、その内部にマイクロホン3を配した構成を有する。図1(e)に示す態様において、マイクロホン装置1は、中空箱型の形状を有する風防2を配して、その内部にマイクロホン3を配した構成を有する。図1(f)に示す態様において、マイクロホン装置1は、部分球面を有する風防2と、地表面に配置されたマイクロホン3とを有する。図1(g)に示す態様において、マイクロホン装置1は、半球面を有する風防2と、地表面に配されたマイクロホン3とを有する。図1(h)に示す態様において、マイクロホン装置1は、枠体21と、枠体上部に配された音響透過材料22とからなる風防2と、当該風防内部に配されたマイクロホン3とを有する。
【0050】
上記の構成のように、マイクロホンに対して吹き付ける風を遮るように風防を配すれば、風切音低減効果が得られる。すなわち、マイクロホンと風防の距離に関係なく、たとえば、マイクロホンと風防とが密着していても、少なくとも風切音の低減効果を得ることができ、更に、マイクロホンと風防との間に空間を設けることで、より好適に風切音を防止することができる。マイクロホンと風防との間の距離は、0mm(密着)〜数10cmが好適であり、サーフェースマイクロホン用風防においては0mm〜20mm、空中型(音場型)マイクロホン用風防においては30mm〜200mmがより好適である。このような距離とすることにより、周辺条件に影響を与えることなく風切音を効果的に防止することができる。
【0051】
(全天候型低周波音測定用マイクロホン装置)
図2は、全天候型低周波音測定用マイクロホン装置100の概略構成図である。図2(a)は一部断面の概略上面図であり、図2(b)は概略斜視図であり、図2(c)は概略側面図である。全天候型低周波音測定用マイクロホン装置100は、風力発電などにより発生する低周波音を測定することが可能である。また当該マイクロホン装置を使用することにより、低周波音のみならず、比較的高周波音も測定することができる。
【0052】
全天候型低周波音測定用マイクロホン装置100は、地表面に配置されたマイクロホン130と、その周辺に設けられた内部に半球形状の空間を有する中空半球状の風防120とを有する。ここでは、半球形状の空間を例に取り説明したが、当該空間が、半球形状、球の一部を成す形状であってその底面にあたる平面部分を有する形状、又は、外周部から中心部に向かい高さ(厚み)が暫増する流線型の断面形状と、円形、楕円形、多角形、あるいはこれらを組み合わせた3次元形状等の半球状に準じる形状であってもよい。前記風防の外周面もまた、半球形状、球の一部を成す形状であってその底面にあたる平面部分を有する形状、又は、外周部から中心部に向かい高さ(厚み)が暫増する流線型の断面形状と、円形、楕円形、多角形、あるいはこれらを組み合わせた3次元形状等の半球状に準じる形状であってもよい。ここで風防120は、例えば、図3に示すように、二つの粗めの半球状の金属ネット121と122の間に、音響透過材料123を挟む態様が挙げられる。このようにして、音響透過材料によってマイクロホン130の周辺を包み込むようにして、風切音の発生を防止する。また、風防120とマイクロホン130の間には空間を設けることが好適である。当該空間を設けることによって、理由は定かではないが、風切音を防止することができる。尚、音響透過材料とマイクロホンの間には空気を介在させることが好適であるが、発泡ウレタン等の多孔質材料を介在させてもよい。但し、多孔質材料を介在させると当該材料自体が吸音性を有するなどして、マイクロホンに到達するまでにマイクロホン対象となる音が減衰してしまうことがあるので、空気を介在させることが好適である。尚、風防120には、当該風防の形状を保持するために、金属フレーム124が設けられていてもよい。風防と、マイクロホンとの間に、1mm〜数10cmの距離が形成される空間を有することが好適である。風防内空間の体積が、数mm〜数万cmであることが好適であり、100mm〜2000万cmであることが好適である。風防120の半径は、5cm〜200cmであることが好適であり、10cm〜100cmであることがより好適であり、50cm〜90cmであることが更に好適であり、70cm〜90cmであることが特に好適である。
【0053】
音響透過材料123として、本発明係る繊維材料からなる材料を用いることが好適である。繊維材料からなる音響透過材料を用いることにより、当該材料自体が、防水性を有するため、スプレーなどで防水処理を施した場合と比較して、長期間耐久性を保持され、また性能劣化することを最小化することができる。
【0054】
また、風防120の内部には、中空半球状の第二風防125が設けられていることが好適である。このような構成とすることにより、より効果的に風切音を防止することができる。第二風防もまた、二つの粗めの半球状の金属ネットの間に、音響透過材料を挟む構成を有していてもよい。第二風防の半径は、空中型(音場型)マイクロホン用風防と同様、0mm〜数十cmが好適であり、30mm〜200mmがより好適である。
【0055】
その他、本発明に係る全天候型低周波音測定用マイクロホン装置100は、円形アルミ板ベース140を有していることが好適であり、当該アルミ板ベース上に前記マイクロホン130及び風防120を固定して使用することが好適である。アルミ板ベース140は、当該マイクロホン装置を持ち上げやすくするために、持ち手141、142を設けることが好適である。
【0056】
マイクロホン130の構成としては、公知のマイクロホンを使用することが可能であり、例えば、コンデンサマイクロホンとマイクロホン用プリアンプからなるマイクロホンを使用することが可能である。また、マイクロホンからの信号を外部機材に伝達するために配線135により接続されていることが好適である。
【0057】
(マイクロホン装置)
図4は、本発明に係るマイクロホン装置200の第一態様に係る概略構成図である。ここで、マイクロホン装置200は、中空球形状の風防220と、当該風防内に設置されたマイクロホン230とを有する。当該中空球形状の風防220は、二つの球形状の金属ネット221、222と、当該金属ネットの間に挟まれた音響透過材料223とを有する。当該金属ネットは形状保持のために設けられ、音響透過材料単独で形状保持できれば、特に必要としない。ここで中空球形状の風防の半径rは、5cm〜200cmであることが好適であり、10cm〜100cmであることがより好適であり、70cm〜90cmであることが更に好適である。特に、70cm〜90cmの範囲とすることによって、マイクロホンと風防との間に適切な空間が形成されるため、特に顕著な風切音低減効果を得ることができる。また、中空球形状内の体積は、0.5l〜33klが好適であり、4.0l〜4klがより好適であり、4.0l〜250lが更に好適である。当該範囲の大きさとすることによって、マイクロホンと風防との間に適切な距離が形成されて、風切音が防止される。風防の形状は、球形状を例にとって説明したが、風防の内部の空間は、球形状、又は、楕円体、多面体などの球形に準じる形状であってもよい。また風防外部の形状もまた、球形状、又は、楕円体、多面体などの球形に準じる形状であってもよい。また、風の到来方向が決まっている場合は、これを構成する形状や材料の一部が割愛されていてもよい。
【0058】
風防220の中空形状の一部にはマイクを風防内に挿入するための挿入口240が設けられている。当該挿入口は特に限定されないが、気密パッキン241と、円筒型ホルダ242とを有する。ここで、挿入口240の形態としては、A)に示すように、風防の開口部分に気密パッキン241を設けて円筒型ホルダ242を通す態様である。B)に示すように、円筒型ホルダ242の外周に気密パッキン241を設けて、風防の開口部に通す態様としてもよい。マイクロホンと風防の壁面までの距離の平均値が数cm〜数十cmであることが好適であり、5cm〜80cmであることがより好適であり、10cm〜50cmであることがより好適である。
【0059】
マイクロホン230は、特に限定されないが、例えば、コンデンサーマイクロホン231と、プリアンプ232とを有していることが好適である。
【0060】
図5は、本発明に係るマイクロホン装置200の第二態様に係る概略構成図である。ここで、マイクロホン装置200は、基本的に第一態様と同じ構成であるので、第一形態の符号と同一符号を付して説明は省略する。第一形態との違いは、風防の形状である。第二形態に係る風防250は、中空円柱状の形状を有する。このように構成することにより、手軽に防水・防風層を形成するためのマイクと音響透過材料との間の有効距離をあえて縮小し、マイク先端に被せるキャップ式にしたものである。キャップはマイク先端部の振動板2311に対して距離をとり、小さいながら有効な風防層が形成できるようにしたものである。この際、マイクロホンの振動板と風防壁面(円柱上面部)との間の距離dは、数cm〜数十cmが好適で有り、0mm〜20mmがより好適であり、5mm〜10mmが更に好適である。
【0061】
図6は、本発明に係るマイクロホン装置200の第三態様に係る概略構成図である。ここで、本形態に係るマイクロホン装置200は、基本的に第一態様と同じ構成であるので、第一形態の符号と同一符号を付して説明は省略する。第一形態との違いとしては、マイクロホン装置200は、前記第二態様に係る風防250の周囲に更に、第一態様に係る球形状の風防220が設けられている。このように風防を二重に設けることにより、より風切音を防止することができる。これは音響透過性が秀逸であることを利用した構成である。音響透過性が優れていれば、更に3層、4層と風防を重ねることができる。
【0062】
(サーフェース型マイクロホン装置)
図7は、本発明に係るサーフェース型マイクロホン装置300の概略構成図である。本発明に係る表面マイクロホン装置300は、枠体321と、当該枠体の上面に形成された音響透過材料322とを有する風防320と、当該風防の内部に設けられたマイクロホン330とを有する。ここで、枠体321の形状は、特に限定されないが、例えば円形状が挙げられる。また枠体321の高さは特に限定されないが、1mm〜数10mmの範囲が好適であり、1mm〜50mmの範囲がより好適であり、10mm〜30mmの範囲が更に好適である。1mmより低い場合には風切音防止効果が十分に得られないため好ましくない。また数10cmより高い場合には、いわゆる障壁効果(防音塀効果)における経路差(障壁がある場合と無い場合の音源から受音点にいたる距離の差)が、音源位置つまり入射角により異なることになり、結果として指向性が発生してしまうため好ましくない。特に、枠体の高さを10mm以上とすることによって、マイクロホンと風防との間に適切な空間が形成されて風切音が顕著に低減される。また、本発明に係る枠体321を複数重ね合わせることによって、当該高さを調整することができる(図7(a)〜(c))。尚、枠体321の外周には粘土などの材料からなる傾斜材323を設けることが好適である。
【0063】
枠体の形状は円筒状であることが好適であり、当該円筒径Φは、特に限定されないが、5mm以上が好適であり、30mm以上がより好適であり、70mm以上が更に好適である。円筒径の上限は特に限定されないが、例えば、200mmである。
【0064】
本発明に係る表面マイクロホン装置300は、自動車や、飛行機などの機体や車体の表面Bに貼り付けて移動中の騒音を測定することができる。その他、ダクト管壁表面に設置してその表面の音圧を正確に測定することができる。
【実施例】
【0065】
製造例1(フッ素繊維シート)
テトラフルオロエチレンとエチレンの共重合体からなる熱可塑性フッ素繊維(旭硝子社製アフロンCOP、10μmφ×11mm品使用)80重量部と叩解度40°SRに叩解されたNBKP20部とを水に分散混合し、ベタイン型両性界面活性剤(大和化学工業社製、デスグランB使用)を対原料(フッ素繊維とパルプに対して。以下も同様)0.5%加え、原料濃度0.5%で攪拌機により離解した。その後アクリルアミド系分散剤(ダイヤフロック社製アクリパースPMP使用)を対原料1%加えて、TAPPIスタンダードシートマシンでシート化し、乾燥して秤量115g/dのフッ素繊維混抄紙を得た。その後このフッ素繊維抄紙を220℃10kg/cmで20分間加熱加圧処理し、更に常温で98%HSO液に浸してフッ素繊維混抄紙中のパルプ分を溶解し、これを水洗して再び乾燥して製造例1に係るフッ素抄紙を得た。
【0066】
製造例2〜4
製造例2では、表1に示した抄紙の厚さとしたことと、得られた抄紙により高い圧力で加圧処理を施したこと以外は、製造例1と同様の方法で、フッ素抄紙を得た。製造例3、4では、表1に示した厚さとしたこと以外は製造例1と同様の方法でフッ素抄紙を得た。
【0067】
製造例5(金属繊維シート)
繊維長4mm、繊維径8μmのステンレス繊維(商品名サスミック、東京製綱社製)60重量部、微細状導電性金属として繊維長4mm、繊維径30μmの銅繊維(商品名カプロン、エスコ社製)20重量部、及び水中溶解度70℃であるPVA繊維(フィブリボンドVPB105−1−3クラレ社製)20重量部からなるスラリーを湿式抄紙法によって脱水プレス、加熱乾燥し100g/mの金属繊維シートを得た。得られた該シートを表面温度が160℃の加熱ロールを用い線圧300kg/cm、速度5m/minの条件で加熱圧着した。次に上記の圧着した金属繊維シートを加圧を施すことなく水素ガス雰囲気の連続焼結炉(メッシュベルト付ろう付炉)を用い、熱処理温度1120℃、速度15cm/minで焼結処理を行い坪量80g/m、密度1.69g/cmのステンレス繊維表面に銅が融着して被覆された製造例5の金属繊維焼結シートを得た。
【0068】
製造例6
連続焼結炉による焼結を行なわなかったこと以外は、製造例5と同様の方法で製造例6の金属繊維シートを得た。
【0069】
【表1】

【0070】
(防水試験)
JIS C0920:2003に準拠しておこなった。より具体的には当該規格内の14.2.2に従い試験を行った。ここで、表1の防水性は、IPX2以上を有する場合には○、IPX2を満たさない場合には×として評価した。
【0071】
(伝送周波数特性)
伝送周波数特性については、図8に示すように、有効径10数cmのスピーカーaを取り付けた約2250cmの発音装置の前面に、各実施例及び各比較例の音響透過材料bを設置し、スピーカーa前面より1500mmの位置に設置したマイクcで測定される伝送周波数特性を測定して、その変化を挿入損失として測定・確認した。スピーカーaには、略100Hzから10kHzまで、周波数変調を掛けない正弦波スイープを信号として用いた。ここで、表1の音響透過性は、各1/1オクターブ帯域で5dB以内である場合には○、5dB超え10dB以内である場合には△とした。
【0072】
(透気度測定方法)
透気度は、JIS P8117に規定されているガーレー法により、ガーレー式デンソメーター(株式会社安田精機製作所、型番:No.323)を用いて測定した。
【0073】
(接触角測定試験)
水滴に対する接触角の測定方法は、試験片表面上に水滴を滴下し20℃の環境下で接触角計(エルマ社製、エルマG−I型接触角計)を用いて接触角を測定した。接触角の測定を10回行い、その平均値を求めた。尚、焼結したステンレス繊維シートの水に対する接触角は130°程度であったのに対し、未焼結のシートでは60〜70°であった。
【0074】
半球型風防
図2に示したマイクロホン装置を用いて、音響透過試験を行なった。尚、ここで用いた音響透過材料は、焼結をしなかったことを除いて製造例5と同様の条件で製造した金属繊維シート(a)と、製造例5において製造した金属繊維シート(b)である。結果を図9に示した。風防無しのデータと比較すると、焼結処理無しのシート(a)の場合、特性に減衰と乱れ(正負の挿入損失)が見られるが、焼結処理をしたシート(b)では、風防無しのデータとほぼ完全に一致する。
【0075】
従来の風防を用いて、図10に示した系統で音響透過性試験を行なった。音響透過性の測定例の結果を図11に示した。これら従来型風防に対する音響透過性の測定例であるが、図中ハッチングのように風防装着により減衰や乱れが認められる。
【0076】
図12に示した系統で風切音低減試験を行なった。結果を図13に示す。ここで、風速は2.7mとした。上段は、図2に示した装置において風防を用いないときの風切音の測定データである。下段は、図2に示した装置において風防に製造例5の音響透過材料を使用した場合の風切音測定データである。ここで、図12に示すθは、90°の条件で測定した。また、風防の半径は90mmであった。風切音低減効果は、Δ38.3dBAであった。
【0077】
球型風防
1/2”ECM用の球形風防について図14の構成で測定を行った。マイクロホン(1/2”ECM)と風防表面は、それぞれ透過性に影響の無い金属ネットと防水キャップ(試料B1使用)で保護されている。図15のように、風速2.7m/s(強)時の風切音は小型40φ‐Sp(スポンジ)以外の風防で、63Hz以上で30dB以上、A特性で25dB以上の低減を示した。一方挿入損失は、図16のように、75φ‐ウレタン製以外、市販の40φ‐Sp,90φ‐Spはじめ試料A1,C1を用いた75φ風防のいずれでもほとんど認められなかった(全帯域全透過)。ウレタン製の減衰は多孔質充填という構造によるものであろう。以上から、試料A1(フッ素)・C1(ステンレス)は風切音低減・音響透過性(挿入損失)に優れ、防水性の中空型風防(図14に断面構造)として理想的な条件を備えたシート素材と言える。
【0078】
サーフェース型マイクロホン用風防
表1試料A1を用い、図17の構成でサーフェース型マイクロホン用風防の最適形態を検討した。円筒枠上面に試料、底面中央にシリコンマイクを置き、周辺は1/4円形断面で面取りした。図18は直径D=75mmΦ(一定)として、円筒厚T(mmt)毎に風切音を測定したものである。T=2.5t,5tは正味空気層ゼロ(マイク上直置き)に近似し、低減は他に比べ10dB弱小さかった。厚みを増すとT=10t前後で最大値△26dBA強を示し、これは同厚・同径の球欠型風防(図中SS*)に相当した。それ以上Tを増しても風切音は下がらなかった。次に、T=10t(一定)として円筒径Dの影響を調べた。結果は図19のように、過小径(25Φ,43Φ)では約10dB効果が小さいが、75Φ付近で最大となり、それ以上(132Φなど)では飽和した。
【0079】
一方、図20はη方向(=0°,45°,90°)・1m点に置いたSPの応答である。η=0°では図20(c1)の30t,64tでも大きな乱れはないが、η=90°では(a2),(b2)のように過小径・過大厚で損失が大きい。これに対し(a1)T=10t以下、(b1)D=75Φ以上では同厚・同径のSS(10t‐75Φ球欠体)同様、損失はほとんど見られない。
【符号の説明】
【0080】
a スピーカー
b サンプル
c マイク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロホンの風切音を軽減するためのマイクロホン用風防において、
前記風防が、繊維を含んで構成される原料を湿式抄造法で抄紙することによって得られる、前記繊維が互いに交絡している繊維材料からなる音響透過材料を含み、
前記繊維材料が、下記の特性(1)を有し、
前記風防が、下記の特性(2)を有することを特徴とする、防水型マイクロホン用風防。
(1)透気度が0s・100mlである。
(2)JISの防水規格においてJIS IPX2以上の防水性を有する。
【請求項2】
前記繊維が、金属繊維又はフッ素繊維であることを特徴とする、請求項1記載の防水型マイクロホン用風防。
【請求項3】
前記風防が、風速2.7m/sの風に対し、Δ20dBA以上の風切音低減効果を有することを特徴とする、請求項1又は2記載の防水型マイクロホン用風防。
【請求項4】
前記繊維材料が、水に対する接触角が90度以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項の防水型マイクロホン用風防。
【請求項5】
前記繊維材料が熱処理されていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項記載の防水型マイクロホン用風防。
【請求項6】
低周波音を屋外において測定する全天候型低周波音測定用マイクロホン装置において、
請求項1〜5のいずれか一項記載のマイクロホン用風防であって、内部に空間を有する中空形状である風防と、
前記風防の空間内に配置されているマイクロホンとを有することを特徴とする、全天候型低周波音測定用マイクロホン装置。
【請求項7】
前記空間が、半球形状、球の一部を成す形状であってその底面にあたる平面部分を有する形状、又は、外周部から中心部に向かい高さ(厚み)が暫増する流線型の断面形状と、円形、楕円形、多角形、あるいはこれらを組み合わせた3次元形状等の半球状に準じる形状であることを特徴とする、請求項6記載の全天候型低周波音測定用マイクロホン装置。
【請求項8】
マイクロホンと、風切音を軽減するための風防と、を有する風切音低減マイクロホン装置において、
前記風防が、請求項1〜5のいずれか一項記載の風防であり、
前記風防と、前記マイクロホンとの間に、1mm〜数10cmの距離が形成される空間を有することを特徴とする、マイクロホン装置。
【請求項9】
枠体と前記枠体上部に配された音響透過材料とを有する風防と、マイクロホンとを有し、
前記枠体と前記音響透過材料とにより形成される空間内の一方の底面部にマイクロホンが配置されていることを特徴とする、サーフェース型マイクロホン装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2012−60544(P2012−60544A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203768(P2010−203768)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 電気通信回線を通じて発表、平成22年9月7日掲載、http://www.asj.gr.jp/annualmeeting/pdf/2010aki_web_01.pdf
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【出願人】(597147463)株式会社アコー (4)
【Fターム(参考)】