説明

マイクロミキサー、及び流体混合方法

【課題】従来の積層型マイクロミキサーと比べ、粒子の含有有無による比重の異なる流体からなる多層流体においても、十分良好な混合を達成する。
【解決手段】マイクロミキサーにおける第1の流体分断手段を用いて、流体を左右に分断し、第2の流体分断手段を用いて、前記左右に分断された前記流体を上方に分断する。次いで、第3の流体分断手段を用いて、前記左右に分断された前記流体を下方に分断し、流体合流手段を用いて、前記上方に分断された前記流体と前記下方に分断された前記流体とを合流させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロミキサー、及び流体混合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異なる流体がほぼ同じ流量比で二つの流路に分断された後、異なる流体が層をなすように合流部で積層される従来の積層型マイクロミキサーは、異なる流体間の界面と垂直な面で分割した後、それぞれの異なる流体層の積層方向と同じ向きにあらためて積層することで、薄い流体層を構成し、このプロセスを最終的に分子拡散が支配的となる厚さとなるまで繰り返すことで効果的な混合を達成するものである。このような考え方に基づく積層型マイクロミキサーが、例えばBranebjeg et.al.,Proc.IEEE−MEMS96,pp441-446,1996やByoung−Gyun et al.,Proc.IntSensor Conf 2001,Seoul、Korea,PP.157−158らによって提案されている。
【0003】
しかしながら、従来の積層型マイクロミキサーを用いて、磁気ビーズ等の流体と比重の異なる粒子を含む流体の混合を行おうとすると、密度の大きな粒子が重力により沈殿してしまう。このため、液相どうしは非常に薄い層となり混合するが、密度の大きな粒子は流路下部に沈殿し、本来の目的である粒子ともう一方の流体層との混合が十分に達成されないという課題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、従来の積層型マイクロミキサーと比べ、粒子の含有有無による比重の異なる流体からなる多層流体においても、十分良好な混合を達成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成すべく、本発明は、
流体を左右に分断するための第1の流体分断手段と、
前記左右に分断された前記流体を上方に分断するための第2の流体分断手段と、
前記左右に分断された前記流体を下方に分断するための第3の流体分断手段と、
前記上方に分断された前記流体と前記下方に分断された前記流体とを合流させる流体合流手段と、
を具えることを特徴とする、マイクロミキサーに関する。
【0006】
また、本発明は、
第1の流体分断手段を用いて、流体を左右に分断する第1の工程と、
第2の流体分断手段を用いて、前記左右に分断された前記流体を上方に分断する第2の工程と、
第3の流体分断手段を用いて、前記左右に分断された前記流体を下方に分断する第3の工程と、
流体合流手段を用いて、前記上方に分断された前記流体と前記下方に分断された前記流体とを合流させる第4の工程と、
を具えることを特徴とする、流体混合方法に関する。
【0007】
本発明によれば、所定の流体を左右方向に分断し、さらにこの分断された流体をそれぞれ上下方向に分断した後、これら分断された流体を合流させるようにしている。この過程において、前記上下方向に分断された流体の断面は、それぞれ最初の流体の断面に対して所定の角度だけ回転することができ、さらに前記上下方向に分断された流体が合流される際に、再度前記最初の流体の断面に対して所定の角度だけ回転することができる。したがって、上記過程を経ることにより、前記最初の流体は分断されるとともに、分断された流体の断面が所定角度回転された後、合流されることになるので、前記流体は十分に撹拌され混合されることになる。
【0008】
したがって、前記流体を異なる流体が層をなしてなる多層流体である場合、上述した本発明の工程を経ることにより、各層の流体がそれぞれ分断され、その断面が回転した後合流するようになるので、前記各層の流体が十分均一に混合され、最終的にはほぼ均一に混合された単層の流体となる。
【0009】
この結果、磁気ビーズ等を含む比重の大きな流体と比重の小さい流体とが同一の流路を流れ、これら流体の比重差に基づいてこれら流体が分離し、多層流体を構成する場合であっても、上述した本発明の工程を経ることにより、前述した比重差の異なる流体を十分に混合させることができるようになる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、従来の積層型マイクロミキサーと比べ、粒子の含有有無による比重の異なる流体からなる多層流体においても、十分良好な混合を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明のマイクロミキサーの一例を示す分解構成図である。図1に示すマイクロミキサー10は、第1の板状部材11と、第1の板状部材11の上方において順次に設けられた第2の板状部材12及び第4の板状部材14と、第1の板状部材11の下方において順次に設けられた第3の板状部材13及び第5の板状部材15とを含んでいる。
【0013】
第1の板状部材11には、T字型の第1の開口部111及びI字型の第4の開口部112が形成され、これら開口部の端部111A及び112Aは、それぞれ第1の板状部材11の、互いに相対向する側端部に開口している。
【0014】
また、第2の板状部材12には、L字型の第2の開口部121が形成され、その一方の端部121Aは、第1の板状部材11における第1の開口部111の上辺開口部の端部111Bと連続している。さらに、第2の開口部121の他方の端部121Bは、第1の板状部材11における第4の開口部112の前方端部112Bと連続している。
【0015】
第3の板状部材13には、同じくL字型の第3の開口部131が形成され、その一方の端部131Aは、第1の板状部材11における第1の開口部111の上辺開口部の端部111Cと連続している。また、第3の開口部131の他方の端部131Bは、第1の板状部材11における第4の開口部112の前方端部112Bと連続している。
【0016】
なお、第4の板状部材14及び第5の板状部材15は、それぞれ第1の開口部111から第4の開口部112までを密閉するために云わば蓋として設けられ、図1に示すマイクロミキサーを実際の素子として機能させるためのものである。
【0017】
次に、図1に示すマイクロミキサー10を用いた流体の混合方法について説明する。図2及び図3は、図1に示すマイクロミキサー10内を流れる際の、流体の状態を示す図である。なお、本例においては、前記流体が比重の異なる2種類の流体が上下方向に層をなしてなる多層流体の場合について説明する。
【0018】
最初に、多層流体S1は、マイクロミキサー10の第1の板状部材11における第1の開口部111に導入される。この際、多層流体S1は第1の開口部111の上辺部において左右方向に分断される。次いで、左右方向に分断された多層流体S1は、それぞれ第1の開口部111と連続した、第2の板状部材12における第2の開口部121及び第3の板状部材13における第3の開口部131に導入され、この結果、上下方向に分断されることになる。この際、多層流体S1は、その流れ方向に対して90度回転させられるので、その断面が90度回転することになる。
【0019】
次いで、多層流体S1は、第2の開口部121及び第3の開口部131と連続した、第1の板状部材11の第4の開口部112に導入され、上下方向に分断された多層流体S1が合流して多層流体S2となる。この際、分断されたそれぞれの多層流体S1は、それぞれ流れ方向に対してさらに90度回転させられるので、その断面が90度回転することになる。したがって、多層流体S2は、先の多層流体S1に対して、その断面が180度回転して各層を構成する流体の積層順序が逆転するとともに、積層数が2倍となる。
【0020】
結果として、図1に示すマイクロミキサー10内を通ることにより、多層流体S1が断面方向において分断されるとともに、その断面自体が180度回転するようになるので、得られた多層流体S2では、多層流体S1に比較して、各層同士がより混合して均一となる。多層流体S1が、磁気ビーズ等を含む比重の大きな流体と比重の小さい流体とからなり、これら流体の比重差に基づいてこれら流体が分離している場合であっても、上述した本発明の工程を経ることにより、前述した比重差を克服して、多層流体S1を十分に均一混合した多層流体S2とすることができる。
【0021】
なお、図1に示すようなマイクロミキサー10を複数直列に接続し、多層流体S1を複数のマイクロミキサー内を連続させて通すようにすることにより、多層流体S1は各マイクロミキサー中で上述したような混合操作を受け、均一に混合されるようになるので、最終的に得る多層流体S2の均一混合の度合いはより向上する。
【0022】
また、第1の板状部材11に設けられた第1の開口部111及び第4の開口部112、第2の板状部材12に設けられた第2の開口部121、並びに第3の板状部材13に設けられた第3の開口部131の少なくとも一つにおいて、角部の面取を行うことができる。これらの開口部において、尖い角部が存在すると、多層流体S1がそれらの開口部を流れる際に、前記角部において流速が減少してしまうので、多層流体S1の混合を十分に行うことができない場合がある。したがって、これらの問題発生を抑制するためには、上述したように、上記開口部の角部の面取を行うことが好ましい。
【0023】
なお、各板状部材は如何なる材料からも形成することができるが、上述した本発明の流体混合方法を実現することができる限り、樹脂や金属、ガラスなどから形成することができる。したがって、各板状部材の準備、及び各板状部材に対する加工が容易になり、上述した開口部の形成、すなわちマイクロミキサー自体の形成を簡易に行うことができるようになる。
【0024】
以上、具体例を挙げながら発明の実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明してきたが、本発明は上記内容に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。例えば、上記具体例では多層流体を混合する場合について述べたが、本発明は多層流体のみならず、単層の流体にも適用することができ、その流体中の組成及び濃度がより均一となるように混合することができる。
【0025】
例えば、図1に示す本発明のマイクロミキサー10において、多層流体S1を第4の開口部112から第2の開口部121及び第3の開口部131を経て、第1の開口部111へ向けて逆流させることもできる。この場合、多層流体S1は、第2の開口部121で多層流体S1を上方に分断し、第3の開口部131で多層流体S1を下方に分断し、第1の開口部111で前記上方に分断された多層流体S1と前記下方に分断された多層流体S1とを合流させるようにすることもできる。この場合においても、多層流体S1は、図2及び3に示すような態様で十分に混合され、多層流体S2とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のマイクロミキサーの一例を示す分解構成図である。
【図2】図1に示すマイクロミキサー内を流れる際の、流体の状態を示す図である。
【図3】同じく、図1に示すマイクロミキサー内を流れる際の、流体の状態を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
10 マイクロミキサー
11 第1の板状部材
12 第2の板状部材
13 第3の板状部材
14 第4の板状部材
15 第5の板状部材
111 第1の開口部
112 第4の開口部
121 第2の開口部
131 第3の開口部
S1、S2 多層流体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を左右に分断するための第1の流体分断手段と、
前記左右に分断された前記流体を上方に分断するための第2の流体分断手段と、
前記左右に分断された前記流体を下方に分断するための第3の流体分断手段と、
前記上方に分断された前記流体と前記下方に分断された前記流体とを合流させる流体合流手段と、
を具えることを特徴とする、マイクロミキサー。
【請求項2】
前記第1の流体分断手段は、第1の板状部材において、その端部に一端が開口したT字型の第1の開口部を含むことを特徴とする、請求項1に記載のマイクロミキサー。
【請求項3】
前記第2の流体分断手段は、第2の板状部材において、前記第1の開口部の、上辺開口部における左端部又は右端部と連続したL字型の第2の開口部を含むことを特徴とする、請求項2に記載のマイクロミキサー。
【請求項4】
前記第3の流体分断手段は、第3の板状部材において、前記第1の開口部の、前記上辺開口部における、前記第2の開口部が連続した前記左端部又は前記右端部の残りと連続したL字型の第3の開口部を含むことを特徴とする、請求項3に記載のマイクロミキサー。
【請求項5】
前記流体合流手段は、前記第1の板状部材において、前記第1の開口部の後方において、前記第2の開口部の先端部及び前記第3の開口部の先端部と連続したI字型の第4の開口部を含むことを特徴とする、請求項4に記載のマイクロミキサー。
【請求項6】
前記第2の流体分断手段において、前記流体の断面を、前記流体の、前記第1の流体分断手段への流入時と比較して、90度回転させることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載のマイクロミキサー。
【請求項7】
前記第3の流体分断手段において、前記流体の断面を、前記流体の、前記第1の流体分断手段への流入時と比較して、90度回転させることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一に記載のマイクロミキサー。
【請求項8】
前記流体合流手段において、前記流体の断面を、前記流体の、前記第1の流体分断手段への流入時と比較して、180度回転させることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一に記載のマイクロミキサー。
【請求項9】
前記流体は、複数の流体が層をなして積層された多層流体であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一に記載のマイクロミキサー。
【請求項10】
前記多層流体は、前記第1の流体分断手段、前記第2の流体分断手段及び前記第3の流体分断手段を介して分断された後、前記流体合流手段で合流された際に、その積層順序が逆転するとともに、その積層数が2倍となることを特徴とする、請求項9に記載のマイクロミキサー。
【請求項11】
前記多層流体は、互いに比重の異なる複数の流体からなることを特徴とする、請求項9又は10に記載のマイクロミキサー。
【請求項12】
前記第1の開口部から前記第4の開口部の少なくとも一つにおいて、角部の面取を実施したことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一に記載のマイクロミキサー。
【請求項13】
前記第1の流体分断手段から前記第3の流体分断手段、及び前記流体合流手段の少なくとも一つは、樹脂、金属又はガラスからなることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一に記載のマイクロミキサー。
【請求項14】
前記流体は、前記流体合流手段から前記第2の流体分断手段及び前記第3の流体分断手段を経て、前記第1の流体分断手段へ向けて逆流させ、前記第2の流体分断手段で前記流体を上方に分断し、前記第3の流体分断手段で前記流体を下方に分断し、前記第1の流体分断手段で前記上方に分断された前記流体と前記下方に分断された前記流体とを合流させるように構成したことを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一に記載のマイクロミキサー。
【請求項15】
第1の流体分断手段を用いて、流体を左右に分断する第1の工程と、
第2の流体分断手段を用いて、前記左右に分断された前記流体を上方に分断する第2の工程と、
第3の流体分断手段を用いて、前記左右に分断された前記流体を下方に分断する第3の工程と、
流体合流手段を用いて、前記上方に分断された前記流体と前記下方に分断された前記流体とを合流させる第4の工程と、
を具えることを特徴とする、流体混合方法。
【請求項16】
前記第1の工程における前記第1の流体分断手段は、第1の板状部材において、その端部に一端が開口したT字型の第1の開口部を含むことを特徴とする、請求項15に記載の流体混合方法。
【請求項17】
前記第2の工程における前記第2の流体分断手段は、第2の板状部材において、前記第1の開口部の、上辺開口部における左端部又は右端部と連続したL字型の第2の開口部を含むことを特徴とする、請求項16に記載の流体混合方法。
【請求項18】
前記第3の工程における前記第3の流体分断手段は、第3の板状部材において、前記第1の開口部の、前記上辺開口部における、前記第2の開口部が連続した前記左端部又は前記右端部の残りと連続したL字型の第3の開口部を含むことを特徴とする、請求項17に記載の流体混合方法。
【請求項19】
前記第4の工程における前記流体合流手段は、前記第1の板状部材において、前記第1の開口部の後方において、前記第2の開口部の先端部及び前記第3の開口部の先端部と連続したI字型の第4の開口部を含むことを特徴とする、請求項18に記載の流体混合方法。
【請求項20】
前記第2の工程において、前記第2の流体分断手段により、前記流体の断面を、前記流体の、前記第1の流体分断手段への流入時と比較して、90度回転させることを特徴とする、請求項15〜19のいずれか一に記載の流体混合方法。
【請求項21】
前記第3の工程において、前記第3の流体分断手段により、前記流体の断面を、前記流体の、前記第1の流体分断手段への流入時と比較して、90度回転させることを特徴とする、請求項15〜20のいずれか一に記載の流体混合方法。
【請求項22】
前記第4の工程において、前記流体合流手段により、前記流体の断面を、前記流体の、前記第1の流体分断手段への流入時と比較して、180度回転させることを特徴とする、請求項15〜21のいずれか一に記載の流体混合方法。
【請求項23】
前記流体は、複数の流体が層をなして積層された多層流体であることを特徴とする、請求項15〜22のいずれか一に記載の流体混合方法。
【請求項24】
前記多層流体は、前記第1の流体分断手段、前記第2の流体分断手段及び前記第3の流体分断手段を介して分断された後、前記流体合流手段で合流された際に、その積層順序が逆転するとともに、その積層数が2倍となることを特徴とする、請求項23に記載の流体混合方法。
【請求項25】
前記多層流体は、互いに比重の異なる複数の流体からなることを特徴とする、請求項23又は24に記載の流体混合方法。
【請求項26】
前記第1の流体分断手段から前記第3の流体分断手段、及び前記流体合流手段における前記第1の開口部から前記第4の開口部の少なくとも一つにおいて、角部の面取を実施したことを特徴とする、請求項15〜25のいずれか一に記載の流体混合方法。
【請求項27】
前記第1の流体分断手段から前記第3の流体分断手段、及び前記流体合流手段の少なくとも一つは、樹脂、金属又はガラスからなることを特徴とする、請求項15〜26のいずれか一に記載の流体混合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−7063(P2006−7063A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−186381(P2004−186381)
【出願日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】