説明

マイクロ波による吸着材再生方法

【課題】使用済吸着材をマイクロ波加熱を利用して処理することにより、吸着物質が略完全に除去された再生吸着材を得る吸着材再生方法を提供する。さらに、マイクロ波加熱による温度変化の特有な現象を利用して無駄なエネルギー消費をなくし、自動的に処理できる吸着材再生方法を提供する。
【解決手段】マイクロ波による吸着材再生方法は、汚染した吸着材1にマイクロ波を照射する第1工程と、その吸着材1を熱風に曝す第2工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体、液体等に含まれる不純物をろ過するフィルタとガス吸着分離材として使用した吸着材を再生する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
気体や液体が通過する経路内にフィルタとして吸着材が使用される。吸着材は、網目等の外的構成により物理的にゴミ、異物などを止める機能の他、物理化学的機能によりミクロな物質を吸着する機能を持つものがある。例えばエアー配管の途中に吸着材として活性炭をおいてオイルミストを吸着し、あるいはシリカゲルをおいて水分を吸着する。
【0003】
これらの吸着材は、一定量以上物質を吸着すると吸着能が飽和するから連続して再生しなければならない。吸着能力が低下した使用済みの吸着材を廃棄するのは、経済的に好ましくないのみならず、二次公害を生ずる恐れもあるので、再生処理(リサイクル)、具体的には吸着されている汚染物質を排出する処理がなされてから、再利用されている。
【0004】
従来、かかる吸着材の再生は、回収した使用済吸着材を容器に入れてオーブン内に置き、温度を上昇させて一定時間加熱するという手法で行なわれていた。あるいは使用済吸着材を入れた容器に温風を一定時間吹き込むという手法がとられていた。さらには、加熱手段として高周波誘電加熱を利用する例が知られている。
【0005】
特許文献1には、ゼオライト/シリカゲル混合乾燥剤の吸着水分を高周波誘電加熱によって乾燥する例が開示されている。高周波誘電加熱には、一般の家庭用電子レンジが使用されている。
【0006】
特許文献2には、ゼオライトの乾燥剤を高周波照射によって乾燥再生する例が開示されている。高周波照射は、調理用電子レンジを使用できる旨が記載されている。
【0007】
ところが、回収されてくるゼオライト等の使用済吸着材は、吸着成分および吸着量が回収毎に異なって、多くの場合、吸着成分、吸着量を特定できないから、温度を何度に設定し、何時間加熱するのが適切であるかを予測することができない。加熱温、加熱時間が不足すると吸着材に吸着されている物質が残留し、再生吸着材の吸着能が不十分になってしまう。加熱温、加熱時間が十分であれば、再生吸着材から吸着物質は一旦は離脱するが再吸着されてしまう。
【0008】
また、使用済吸着材の再生では各再生処理ロット毎に加熱温度、加熱時間、あるいは温風量等の処理条件を変える必要があるが、適切な条件を見出す方法がなかった。そのため、作業者のカンで行なわれていたが、確実性を追求するため、多くの場合は過剰加熱によるエネルギーが無駄使いされていた。
【0009】
【特許文献1】特開平9−75727号公報
【特許文献2】特開2002−85936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、使用済吸着材をマイクロ波加熱を利用して処理することにより、吸着物質が略完全に除去された再生吸着材を得る吸着材再生方法を提供することを目的とする。
【0011】
さらに本発明の発明者は、マイクロ波加熱を吸着材の再生に応用する研究を進めたところ、マイクロ波加熱により吸着材に吸着されている残留物質の量が変化すると、吸着材が特有の温度変化を示すことを見出した。かかる温度変化はマイクロ波加熱による特有な現象であり、この現象を利用して無駄なエネルギー消費をなくし、自動的に処理できる吸着材再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に係る発明のマイクロ波による吸着材再生方法は、汚染した吸着材にマイクロ波を照射する第1工程と、その吸着材を熱風に曝す第2工程とを有することを特徴とする。
【0013】
同じく特許請求の範囲の請求項2に係る発明のマイクロ波による吸着材再生方法は、請求項1に係る発明の方法であって、前記第1工程と、前記第2工程が順に行われることを特徴とする。
【0014】
また、請求項3に係る発明のマイクロ波による吸着材再生方法は、請求項1に係る発明の方法であって、前記第1工程と、前記第2工程が同一容器内で行われることを特徴とする。
【0015】
請求項4に係る発明のマイクロ波による吸着材再生方法は、請求項1に係る発明の方法であって、前記第1工程と、前記第2工程が回転する容器内で行われることを特徴とする。
【0016】
請求項5に係る発明のマイクロ波による吸着材再生方法は、請求項1に係る発明の方法であって、前記第1工程と、前記第2工程が回転する容器内で行われ、第1工程における回転が鉛直方向の回転軸の回転であり、第2工程における回転が水平方向の回転軸の回転であることを特徴とする。
【0017】
請求項6に係る発明のマイクロ波による吸着材再生方法は、請求項1に係る発明の方法であって、前記第1工程が、マイクロ波を照射中の吸着材を測温しつつ、その測温データによりマイクロ波の照射量を制御することを特徴とする。
【0018】
請求項7に係る発明のマイクロ波による吸着材再生方法は、請求項1に係る発明の方法であって、前記第1工程が、マイクロ波を照射中の吸着材を測温して、その測定温度が上昇後下降し、定温域になったら、マイクロ波の照射を停止することを特徴とする。
【0019】
請求項8に係る発明のマイクロ波による吸着材再生方法は、請求項1に係る発明の方法であって、該吸着材が活性炭素、シリカゲル、酸化カルシウム、ゼオライト、セラミック多孔体、珪藻土、ボーキサイト、骨炭、木質系吸着材、金属酸化物系吸着材、高分子系吸着材から選ばれることを特徴とする。
【0020】
請求項9に係る発明のマイクロ波による吸着材再生方法は、請求項1に係る発明の方法であって、該吸着材が水分あるいは−OH基を持つ分子物質を吸着するものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明のマイクロ波による吸着材再生方法は、通気性の非金属の容器に入れた使用済吸着材を筐体内に置き、回転させながらマイクロ波を照射することで、使用済吸着材から吸着物質が放散し、排気手段を通じて排出される。そのため、放散した吸着物質が吸着材に再吸着されることがなく、残留する吸着物質が完全になくなった吸着材が再生される。
【0022】
本発明のマイクロ波による吸着材再生方法で、吸着材の温度測定をすれば、吸着物質の残量が分かり、どの程度のマイクロ波を照射すればよいか吸着物質を完全に放散できるかを正確に捉えることができるため、過不足ない照射が可能になる。したがって、無駄なエネルギーの消耗を防ぐことができる。
【0023】
さらに、本発明のマイクロ波による吸着材再生方法で、測温データからマイクロ波の照射を制御し、無人で最適なマイクロ波の照射量により吸着材の再生処理が可能となる。したがって、省エネルギーのみならず省力にも役立つ。
【発明を実施するための好ましい形態】
【0024】
以下、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0025】
図1は本発明を適用するマイクロ波による吸着材再生方法の第1工程(マイクロ波照射)を実施するための装置の一実施形態の外観正面図である。この第1工程の装置は、正面が扉13で開閉できる金属筐体10の一側壁からチャンバー8内に向けてマイクロ波を発振するマグネトロン12が取り付けられている。チャンバー8を覆う正面扉13は電磁波シールドのための金属網を耐熱ガラスで覆ってある。筐体10の底面上に、回転駆動源であるモータ14に連結したターンテーブル15が配置されている。筐体10の天井部分には排気筒17が設置され、図示外のファンを経由して戸外に開口している。排気筒17の内空の1箇所には金属網が覆っており、通気はするが電磁波は遮断される構造となっている。
【0026】
ターンテーブル15の上には、再生すべき使用済吸着材1が入れられたプラスチック網の筒容器20が載置されている。プラスチック網の筒容器20のプラスチック網で筒状に囲われた空間16となっている。金属筐体10の天井壁を貫通して金属シース熱電対温度計18がチャンバー8内に挿入され、筒容器20の中央空間16に挿入されている。金属シース熱電対温度計18の導線は装置のコントロールボックス22の温度入力端子へ繋がれる。コントロールボックス22には温度表示計24、残時間表示計25、時間設定つまみ27、発振出力設定つまみ28が配置されている。
【0027】
図2は上記したマイクロ波による吸着材再生装置の電気系統ブロック図である。金属シース熱電対温度計18に繋がる温度変化検知回路30、温度変化検知回路30に繋がるモータ電源制御回路31および発振電源制御回路32からなる。温度変化検知回路30は、金属シース熱電対温度計18から入力する時々刻々の温度を記憶し、その変化を検知して出力信号を出す機能を有している。電力供給源、例えば商用電源に繋がるモータ電源制御回路31はモータ14に接続し、発振電源制御回路32はマグネトロン12に接続する。温度変化検知回路30には温度表示計24、および残時間表示計25が連結されている。
【0028】
図3は本発明を適用するマイクロ波による吸着材再生方法の第2工程(温風曝露)を実施するための温風曝露装置の一実施形態の外観正面図である。この第2工程の装置は、正面が扉35で開閉できる筐体37の底床からチャンバー38内に向けて温風を噴き出す筒40が開口している。噴出筒40は温風供給器(不図示)に繋がっている。筐体37の天井部分には排気筒41が設置されている。また、筐体37の側壁を貫通し、軸19の中空を通って温度計42がチャンバー38内に挿入されている。
【0029】
再生すべき使用済吸着材1が入れられる筒容器20は、図1に示した第1工程を実施するためのマイクロ波照射装置に使用されるものと共通のものである。筒容器20の両端は、キャップ21で塞がれる。両方のキャップ21は、夫々回転軸19が固設されており筐体37の両側壁に軸支持されている。一方の側壁を貫通した回転軸19がモータ34に連結して筒容器20が回転するようになっている。
【0030】
この吸着材再生装置は、図4に示すフローチャートの手順で動作させて、本発明の吸着材再生方法を実施する。
【0031】
ステップ101の第1工程では、再生すべき使用済吸着材1を筒容器20に入れてチャンバー8内のターンテーブル15に載せ、扉13を閉じてから、電源を入れてモータ14を回転させながらマグネトロン12を発振させる。すると使用済吸着材1は、筒容器20を通過してくるマイクロ波に共振して加熱され、残留吸着物質が放散し排気筒17を経て排出されてゆく。ステップ102では、金属シース熱電対温度計18および温度変化検知回路30を動作させる。ステップ103で時間の経過により、金属シース熱電対温度計18からの出力温度が上昇から下降に変わったことを確認する。ステップ104で温度が略一定になったことを温度変化検知回路30が検知したら、ステップ105でモータ電源制御回路31および発振電源制御回路32に指令信号を出し、電力供給を停止する。これで第1工程は終了し、使用済吸着材1から水分や油分等の残留吸着物質が概ね放散する。
【0032】
この再生途中の使用済吸着材1は、筒容器20に入れられたまま図3に示す温風曝露装置に装着される。筒容器20の両端をキャップ21で塞ぎ回転軸19に取り付ける。そしてモータ34を回転させながら、温風供給器を作動させ噴出筒40を通じてチャンバー38内に向けて温風を噴出する。筒容器20内の再生途中の使用済吸着材1は、撹拌しながら温風に曝され、残留している油分等の吸着物質が完全に放散する。放散した油分等の吸着は、排気筒41を経て排出される。
【実施例】
【0033】
図1に示す金属シース熱電対温度計18の出力温度が略一定になると、吸着材から不純物が略放散していること、すなわちステップ101からステップ104の動作が正当であることを確かめるため、以下の実験を行った。
【0034】
使用済吸着材を100ccのるつぼに入れ、それを吸着材再生装置で2.45GHzのマイクロ波を発振させて処理した。15分毎に吸着材を取り出し、精密に秤量するとともに、そのときの温度を記録した。
【0035】
そのデータをプロットした結果、図5の実線(左縦軸)に示すとおり、マイクロ波発振の時間経過とともに、温度が一旦上昇したが、さらに経過すると一定温に収斂した。同時に点線(右縦軸)に示すとおり、マイクロ波発振の時間経過とともに、吸着材の質量は減少し(不純物の放散が進行)、やがて一定温に収斂した。そして両者の収斂時間は略同一の時間であった。
【0036】
この事実は、不純物が多くあるとマイクロ波により温度は上昇し、不純物が放散して減ってゆくと温度が下がり、不純物がなくなると温度は上がりも下がりもしないことを示している。かかる現象は、マイクロ波による共振物質(不純物)多寡によって熱の発生増加、減少があることに起因していると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明を適用する吸着材再生方法の第1工程(マイクロ波照射)を実施するための装置の一実施形態を示す外観正面図である。
【図2】図1のマイクロ波による吸着材再生装置の電気系統ブロック図である。
【図3】本発明を適用する吸着材再生方法の第2工程(温風曝露)を実施するための温風曝露装置の一実施形態を示す外観正面図である。
【図4】本発明を適用する吸着材再生方法の動作手順を示すフローチャートである。
【図5】図1のマイクロ波による吸着材再生装置を使用した際の装置内温度と吸着材の質量との経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0038】
1は使用済吸着材、8はチャンバー、10は金属筐体、12はマグネトロン、13は扉、14はモータ、15はターンテーブル、16は中央空間、17は排気筒、18は金属シース熱電対温度計、19は回転軸、20は筒容器、21はキャップ、22はコントロールボックス、24は温度表示計、25は残時間表示計、27は時間設定つまみ、28は発振出力設定つまみ、30は温度変化検知回路、31はモータ電源制御回路、32は発振電源制御回路、34はモータ、35は扉、37は筐体、38はチャンバー、40は噴出筒、41は排気筒、42は温度計、101は第一工程マイクロ波照射、102は温度測定、103は昇温→下降、104は定温、105はマイクロ波照射第一工程終了である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚染した吸着材にマイクロ波を照射する第1工程と、その吸着材を熱風に曝す第2工程とを有することを特徴とするマイクロ波による吸着材再生方法。
【請求項2】
前記第1工程と、前記第2工程が順に行われることを特徴とする請求項1に記載の吸着材再生方法。
【請求項3】
前記第1工程と、前記第2工程が同一容器内で行われることを特徴とする請求項1に記載の吸着材再生方法。
【請求項4】
前記第1工程と、前記第2工程が回転する容器内で行われることを特徴とする請求項1に記載の吸着材再生方法。
【請求項5】
前記第1工程と、前記第2工程が回転する容器内で行われ、第1工程における回転が鉛直方向の回転軸の回転であり、第2工程における回転が水平方向の回転軸の回転であることを特徴とする請求項1に記載の吸着材再生方法。
【請求項6】
前記第1工程が、マイクロ波を照射中の吸着材を測温しつつ、その測温データによりマイクロ波の照射量を制御することを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波による吸着材再生方法。
【請求項7】
前記第1工程が、マイクロ波を照射中の吸着材を測温して、その測定温度が上昇後下降し、定温域になったら、マイクロ波の照射を停止することを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波による吸着材再生方法。
【請求項8】
該吸着材が活性炭素、シリカゲル、酸化カルシウム、ゼオライト、セラミック多孔体、珪藻土、ボーキサイト、骨炭、木質系吸着材、金属酸化物系吸着材、高分子系吸着材から選ばれることを特徴とする請求項1に記載の吸着材再生方法。
【請求項9】
該吸着材が水分あるいは−OH基を持つ分子物質を吸着するものであることを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波による吸着材再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−188491(P2008−188491A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−22812(P2007−22812)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(000103921)オリオン機械株式会社 (450)
【Fターム(参考)】