説明

マイクロ波加熱装置

【課題】各アンテナから放出されたマイクロ波の電力を効果的に空間合成し、加熱室内に強い電界を発生させ、食品の加熱効率を改善できるマイクロ波加熱装置を提供する。
【解決手段】マイクロ波加熱装置は、マイクロ波を発生するマイクロ波発生部101と、被加熱物を収納する加熱室104と、マイクロ波発生部101が発生したマイクロ波を加熱室104に供給するための少なくとも2個のアンテナ103a、103bとを備え、少なくとも2個のアンテナ103a、103bは、加熱室104の同一面に配置され、かつ、少なくとも2個のアンテナ103a、103bにおける各給電点の位置がマイクロ波の波長以下の間隔になるように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱室に配置されたアンテナからマイクロ波を放射し、加熱室内の被加熱物を加熱するマイクロ波加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マイクロ波により食品等の被加熱物を加熱する装置として、電子レンジが広く普及している。被加熱物を加熱するためには、民生用途においても、500W以上の非常に大きなマイクロ波電力が必要である。それに伴って、電子レンジの消費電力も非常に大きい。そこで、供給するマイクロ波電力を被加熱物の加熱に有効利用し、加熱効率を向上させることで、電子レンジの消費電力を低減することが求められてきた。
【0003】
加熱効率を向上する手段として、例えば、特許文献1に記載の装置は、マイクロ波発生部であるマグネトロンから放出されたマイクロ波が加熱室内の広い範囲に行きわたるように、回転式の攪拌機構を設けている。
【0004】
また、特許文献2に記載の装置は、マイクロ波発生部が半導体素子で構成され、加熱室内に複数配置されたアンテナから放出されるマイクロ波の周波数および位相を制御することにより、被加熱物に適した加熱条件で加熱できるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−286443号公報
【特許文献2】特開2008−269793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の装置では、マグネトロンが放出するマイクロ波の周波数が不安定である。さらに、回転式の攪拌機構が常に動作しているため、加熱室内のマイクロ波分布が安定しない。よって、加熱効率の高い状態を維持できず、放出されたマイクロ波を食品の加熱に、有効利用することが困難である。
【0007】
それに対し、特許文献2に記載の装置では、半導体素子を使用しているため、アンテナから放出されるマイクロ波が安定しており、加熱室内のマイクロ波分布を一定に保つことが可能である。しかし、複数の壁面にアンテナを配置した場合、各アンテナから放出されたマイクロ波の電力を空間合成することが困難であり、加熱室内に強い電界が発生しない。よって、加熱効率を十分にあげられないという課題があった。
【0008】
本発明の目的は、上記従来の課題を解決するもので、各アンテナから放出されたマイクロ波の電力を効果的に空間合成し、加熱室内に強い電界を発生させ、食品の加熱効率を改善できるマイクロ波加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係るマイクロ波加熱装置は、被加熱物を加熱するマイクロ波加熱装置であって、マイクロ波を発生するマイクロ波発生部と、前記被加熱物を収納する加熱室と、前記マイクロ波発生部が発生した前記マイクロ波を前記加熱室に供給するための少なくとも2個のアンテナとを備え、前記少なくとも2個のアンテナは、前記加熱室の同一面に配置され、かつ、前記少なくとも2個のアンテナにおける各給電点の位置が前記マイクロ波の波長以下の間隔になるように配置されている。
【0010】
これにより、エネルギーの空間合成が効果的に生じ、加熱室内の定在波の電界強度が強くなる。この強い電界を利用し、食品を加熱することで、加熱効率が向上する。
【0011】
また、前記少なくとも2個のアンテナは、前記各給電点の位置が前記マイクロ波の波長の2分の1以上の間隔になるように配置されていることが好ましい。
【0012】
これにより、同一平面内に各アンテナを配置する場合においても、十分に、各アンテナの領域が確保される。
【0013】
また、前記マイクロ波発生部は、半導体素子を用いた発振部と半導体素子を用いた増幅部とで構成されることが好ましい。
【0014】
半導体素子により発生させたマイクロ波は、マグネトロンにより発生させたマイクロ波と比べ、アンテナから放射されるマイクロ波のスペクトルが急峻になる。そのため、加熱室内の定在波が安定し、電界分布が一定に保たれる。したがって、加熱効率向上に必要な電界の強い状態を保持できる。
【0015】
また、前記マイクロ波発生部の前記増幅部は、窒化ガリウムのトランジスタを含むことが好ましい。
【0016】
窒化ガリウムは、高電圧および大電流動作が可能なバンドギャップの広い化合物半導体材料であり、電子移動度および電子飽和速度も高い。よって、高周波特性も優れている。この窒化ガリウムのトランジスタを使用すれば、小型かつ低コストでマイクロ波発生部を構成することができる。
【0017】
また、前記少なくとも2個のアンテナは、円形のパッチアンテナであることが好ましい。
【0018】
電子レンジへの応用では、アンテナから加熱室内に放射されるマイクロ波の出力が非常に大きく、アンテナの形状も重要な要素となる。角を持たない円形のパッチアンテナを使用することで、電界集中による放電および絶縁破壊を抑制できる。
【0019】
また、前記少なくとも2個のアンテナは、前記加熱室の底面に配置されていることが好ましい。
【0020】
これにより、被加熱物が載置される加熱室の底面付近に強い電界を発生させることが可能になる。
【0021】
また、前記少なくとも2個のアンテナは、前記少なくとも2個のアンテナが配置されている前記同一面の中心位置から前記各給電点の位置までの距離がいずれも同じ距離になるように配置されていることが好ましい。
【0022】
これにより、被加熱物が載置される加熱室の中央付近に強い電界を発生させることが可能になる。
【0023】
また、前記少なくとも2個のアンテナは、前記少なくとも2個のアンテナにおけるいずれの給電点においても、前記給電点の位置から前記加熱室において前記被加熱物を出し入れするための扉を有する面までの最短距離が、前記給電点の位置から前記加熱室において前記扉を有する面の反対側の面までの最短距離よりも、短くなるように、配置されていることが好ましい。
【0024】
通常、電子レンジの加熱室は、マイクロ波を加熱室内に閉じ込めるため壁面を金属材料で構成する。しかし、被加熱物を出し入れするための扉は、金属材料にマイクロ波が通過できない程度の、波長よりも十分に小さい穴を開けることにより、加熱室内を目視で確認できるように構成される。そのため、扉面側と背面側との壁面は境界条件が異なり、電界の強い領域が、加熱室の中心から背面側に広がるように発生する。そこで、アンテナを予め扉面側に近づけて配置することにより、被加熱物が載置される加熱室の中央付近に電界の強い領域を発生させることが可能になる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、エネルギーの空間合成が効果的に生じるため、加熱室内の定在波の電界強度が強くなる。この強い電界を利用し、食品を加熱することで、加熱効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、実施の形態におけるマイクロ波加熱装置の基本構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、実施の形態におけるマイクロ波発生部の構成を示すブロック図である。
【図3】図3は、実施の形態におけるマイクロ波発生部の変形例の構成を示すブロック図である。
【図4A】図4Aは、本発明の効果を検証するための解析モデルの全体図である。
【図4B】図4Bは、本発明の効果を検証するための解析モデルの上面図である。
【図4C】図4Cは、本発明の効果を検証するための解析モデルの横面図である。
【図5】図5は、本発明の効果を検証した解析結果を示す図である。
【図6A】図6Aは、アンテナ間隔が90mmの場合の結果を示す図である。
【図6B】図6Bは、アンテナ間隔が120mmの場合の結果を示す図である。
【図6C】図6Cは、アンテナ間隔が150mmの場合の結果を示す図である。
【図6D】図6Dは、アンテナ間隔が180mmの場合の結果を示す図である。
【図7】図7は、アンテナの位置関係を示す概念図である。
【図8】図8は、円形パッチアンテナの一例を示す図である。
【図9】図9は、円形パッチアンテナのリターンロスの特性を示す図である。
【図10】図10は、円形パッチアンテナの遠方界での放射分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明における実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、実施の形態におけるマイクロ波加熱装置の基本構成を示すブロック図である。
【0028】
図1に示すように、マイクロ波加熱装置100は、マイクロ波発生部101と、分配部102と、第1アンテナ103aと、第2アンテナ103bと、加熱室104とを備えている。なお、図1において、マイクロ波加熱装置100は、2個のアンテナを有しているが、アンテナの数はこれに限定されるものではない。
【0029】
マイクロ波発生部101により、2.4〜2.5GHzの周波数でマイクロ波電力を発生させ、そのマイクロ波電力を分配部102により分配する。さらに、分配されたマイクロ波電力は、第1アンテナ103aと第2アンテナ103bに給電され、マイクロ波として加熱室104へ放射される。加熱室104の壁面は、金属材料などで構成され、放射されたマイクロ波を、加熱室104内部に閉じ込める。そのため、放射されたマイクロ波は加熱室104の壁面で複雑に反射し、加熱室104内に定在波が生じる。この定在波を利用し、被加熱物105は加熱される。
【0030】
また、分配部102は、マイクロ波発生部101から入力されたマイクロ波電力を2分配する。この分配部102としては、ウィルキンソン型分配器、ハイブリッドカプラ、または、抵抗分配器などにより構成することができる。なお、図1において、マイクロ波加熱装置100は、1個のマイクロ波発生部101から発生したマイクロ波を分配部102にて2分配しているが、分配部102を用いずに、マイクロ波発生部101を複数配置し、それぞれが各アンテナに給電する構造にしてもよい。
【0031】
第1アンテナ103aと第2アンテナ103bは、加熱室104の同一壁面に配置され、各アンテナの給電点の間隔が、アンテナから放射するマイクロ波の波長の2分の1倍から1倍の間になるように配置されている。つまり、電子レンジで、被加熱物を加熱するために使用するマイクロ波の周波数を、2.45GHzとすると、波長は122mmであり、給電点間隔を61〜122mmとすればよい。
【0032】
61mm以上とすることで、アンテナを置くスペースが確保される。また、122mm以下とすることで、加熱室104内の定在波の電界強度が強くなる。なお、以降、アンテナの給電点の間隔を単にアンテナの間隔と記載する場合がある。
【0033】
また、第1アンテナ103aおよび第2アンテナ103bは、平面のパッチアンテナであり、その絶縁破壊を抑制するために、第1アンテナ103aおよび第2アンテナ103bと、加熱室底面の金属材料との間を空気層で構成することが好ましい。そして、本実施の形態では、第1アンテナ103aおよび第2アンテナ103bは、円形パッチアンテナである。通常、円形パッチアンテナの半径は、放射されるマイクロ波の波長の4分の1程度である。例えば、2.45GHzのマイクロ波を加熱室内に放射するためには、円形パッチアンテナの半径として30mm程度必要である。
【0034】
ここで、給電点はパッチアンテナの中心部付近にあるため、各アンテナの給電点の間隔を波長の2分の1倍の長さよりも短くすると、アンテナ同士が物理的に重なってしまうため、給電点はアンテナから放射するマイクロ波の波長の2分の1倍よりも広い間隔で配置することが好ましい。
【0035】
なお、図1においては、第1アンテナ103aおよび第2アンテナ103bは、加熱室104の底面に設けられているが、それに限るものではなく、それぞれのアンテナが同一壁面に設けられていればよく、上面、側面、または、背面に設けられていてもよい。
【0036】
図2は、図1に示されたマイクロ波発生部101の具体的な構成を示すブロック図である。
【0037】
図2に示すように、マイクロ波発生部101は、発振部201と、増幅部202とを備えている。
【0038】
発振部201は、トランジスタなどの半導体増幅素子と、タンク回路などの共振回路で構成される一般的なマイクロ波発振回路である。発振部201の構成は公知であり、ハートレー型発振回路またはコルピッツ型発振回路などを用いることができる。
【0039】
増幅部202は、発振部201で生成されたマイクロ波電力を増幅する。増幅部202は、例えば、トランジスタで構成できる。
【0040】
ここで、増幅部202に、高電圧および大電流動作が可能な窒化ガリウムのトランジスタを使用した場合、小さいチップ面積で大きな電力を扱えるため、増幅部202のサイズを小さくできるとともに、コストも低減可能である。
【0041】
図3は、図2に示された発振部201を、位相同期ループ(PLL:Phase Locked Loop)を用いて、周波数可変型のマイクロ波電力発生器として構成した場合の、マイクロ波発生部101の具体的な構成を示すブロック図である。
【0042】
図3に示すように、マイクロ波発生部101は、発振部301と、位相同期ループ302と、増幅部202とを備えている。
【0043】
発振部301は、位相同期ループ302から出力される電圧に応じた周波数を有するマイクロ波信号を生成する、例えばVCO(Voltage Controlled Oscillator)で構成できる。
【0044】
位相同期ループ302は、発振部301にて発生されるマイクロ波電力の周波数と、制御部303から入力された、設定周波数を示す周波数制御信号304とが同一周波数となるように出力電圧を調整する。これにより、マイクロ波の周波数および位相を調整することができる。
【0045】
なお、図2および図3では、増幅部202を1個の電力増幅器で構成しているが、出力電力を大きくするために、電力増幅器を複数設け、直列に多段接続してもよいし、並列接続した電力増幅器から出力される電力を合成する構成にしてもよい。
【0046】
次に、実際に本発明の効果を検証したシミュレーション結果について、説明する。
図4A、図4Bおよび図4Cに、本発明の効果を検証するための解析モデルを示す。
【0047】
図4Aは、解析モデル410の全体図を示しており、図4Bは、解析モデル410の上面図、図4Cは、解析モデル410の横面図をそれぞれ示している。
【0048】
図4Aの解析モデル全体図に示すように、解析モデル410は、加熱室401と、第1アンテナ402aと、第2アンテナ402bと、第1アンテナ402aおよび第2アンテナ402bを配置するスペース403と、加熱室401に被加熱物を出し入れするための扉404と、天井部分の張り出し405とから構成される。また、図4Cに示すように、加熱室401の底面に、被加熱物を載置する載置台406が配置されている。
【0049】
ここでは、具体的な構成例として、加熱室401の大きさをx=314mm、y=410mm、および、z=230mmとした。また、天井部分の張り出しをz=9mmとし、アンテナを配置するスペースをz=20mmとし、扉の張り出しをx=8.8mmとした。
【0050】
図4Bは、解析モデル410の上面図であり、アンテナの具体的な配置を示している。第1アンテナ402aおよび第2アンテナ402bは、いずれも半径32.3mmの円形パッチアンテナであり、底面の中心点Aからx軸およびy軸の方向に対していずれも対称になるように配置されている。また、アンテナの配置間隔は、円形のパッチアンテナの中心間距離で規定し、アンテナから放射するマイクロ波信号の波長よりも短い90mmと、アンテナから放射するマイクロ波信号の波長よりも長い180mmの2種類で解析を実施した。なお、アンテナの給電点はアンテナの中心部付近にあるため、中心間距離で規定されたアンテナの間隔は、アンテナの給電点の間隔とほぼ同じになる。
【0051】
図4Cは、解析モデル410の横面図であり、加熱室401と第1アンテナ402aと第2アンテナ402bとの位置関係を示している。加熱室401の底面には、被加熱物が載置される載置台406を配置し、その下にアンテナを配置するスペース403を設けた。第1アンテナ402aと第2アンテナ402bは、アンテナを配置するスペース403の底面から高さ4mmに配置し、円形アンテナの厚さを0.4mmとした。
【0052】
図5は、本発明の効果を検証した解析結果である。図5は、図4A等に示された解析モデル410において、実際に第1アンテナ402aおよび第2アンテナ402bからマイクロ波を放射することにより、加熱室401内に発生した定在波の電界分布を示している。解析は、アンテナ間隔を90mmとした場合と、アンテナ間隔を180mmとした場合の2種類を実施し、それぞれの横面図と上面図を示している。なお、横面図は、図4Bに示された中心点Aを含むZY平面の電界分布を示しており、上面図は、加熱室401の底面から15.25mmにおけるXY平面の電界分布を示している。
【0053】
図5に示した定在波の電界分布において、色の濃い領域は電界が強く、被加熱物の加熱に適した状態であるのに対し、色の薄い領域は電界が弱く、被加熱物の加熱には適していない状態である。
【0054】
図5に示すように、アンテナ間隔が90mmの場合、加熱室401の広い範囲で電界強度の強い領域が多く、被加熱物が載置されると想定される載置台の中央付近に強い電界が発生している。これに対し、アンテナ間隔が180mmの場合、加熱室401内の電界強度が全体的に弱く、被加熱物が載置されると想定される載置台の中央付近も電界強度が弱くなっている。
【0055】
この電界強度は、被加熱物を加熱する効率に大きな影響がある。図5は、アンテナ間隔を90mmにすることで加熱効率が圧倒的に高くなることを明確に示している。また、アンテナ間隔を90mmにすることで電界強度が強くなる原因は、アンテナ間隔をアンテナから放射するマイクロ波の波長よりも短くすることで、空間での電力合成が効果的に生じているためである。
【0056】
また、被加熱物を出し入れするための扉は、扉を閉めた状態でも加熱室401内が確認できるように金属板にマイクロ波が漏れない程度の穴が開いているのに対し、その他の壁面は金属板で完全に遮蔽される。これにより、図5の上面図に示すように、加熱室401内の電界分布が非対称となり、被加熱物を出し入れするための扉面側の方から背面側の方に、電界強度が強く広がっている。そのため、アンテナ位置を加熱室内の中心よりも、扉面側へ配置することが望ましい。これにより、中心部付近の電界強度が強くなる。
【0057】
図6A、図6B、図6Cおよび図6Dは、さらに、図4A等で示した解析モデルを用い、第1アンテナ402aと第2アンテナ402bとの間隔を90mm、120mm、150mmおよび180mmの4種類に設定して、各アンテナ間の相互干渉レベルをシミュレーションした結果である。また、図6A、図6B、図6Cおよび図6Dのシミュレーションには、加熱室401の中に、加熱される食品を想定して、直径150mm、高さ75mmの器に、17.5mmの高さまで水をいれた被加熱物を、載置台406の中央部に配置した。
【0058】
図6A、図6B、図6Cおよび図6Dの横軸は、第1アンテナ402aおよび第2アンテナ402bから放射する周波数であり、ここでは、2.4〜2.5GHzとした。図6A、図6B、図6Cおよび図6Dの縦軸は、各アンテナの相互干渉のレベルをデシベルで示した。
【0059】
実際には、アンテナに供給したマイクロ波電力が加熱室401内に放射されずに、アンテナ端で反射してしまうリターンロスが発生する。しかし、リターンロスは、アンテナの設計に影響される要素が大きく、アンテナの間隔による影響は小さいと考えられるため、リターンロスの記載は、図6A、図6B、図6Cおよび図6Dにおいて省略している。
【0060】
図6A、図6B、図6Cおよび図6Dでは、第1アンテナ402aから放射されて第2アンテナ402bに入射したマイクロ波電力のレベルをS21、および、第2アンテナ402bから放射されて第1アンテナ402aに入射したマイクロ波電力のレベルをS12として示している。また、ここで使用した解析モデルは、加熱室401の構造に対し、第1アンテナ402aおよび第2アンテナ402bの配置は、左右対称であるため、S21とS12は、ほぼ同じ値となり、図6A、図6B、図6Cおよび図6Dでは重なっている。
【0061】
図6Aは、第1アンテナ402aと第2アンテナ402bとの間隔を90mmとした場合のシミュレーション結果である。同様に、図6Bは、間隔を120mmとした場合、図6Cは、間隔を150mmとした場合、図6Dは、間隔を180mmとした場合のシミュレーション結果である。
【0062】
また、放射するマイクロ波の周波数は2.4〜2.5GHzであるため、その波長は120〜125mmであり、図6Aおよび図6Bでは、第1アンテナ402aと第2アンテナ402bとの配置間隔が1波長以下となり、図6Cおよび図6Dでは、第1アンテナ402aと第2アンテナ402bとの配置間隔が1波長よりも長くなる。
【0063】
ここで、S21とS12は、一方のアンテナから放射されたマイクロ波が他方のアンテナに入射される電力であり、被加熱物の加熱に関与しない電力である。そのため、被加熱物の加熱効率を向上させるには、アンテナ間の相互干渉であるS21とS12を低いレベルに抑えることが非常に重要である。
【0064】
図6Aおよび図6Bに示すように、1波長以下の間隔で第1アンテナ402aと第2アンテナ402bとを配置することで、S21とS12は−12dB以下の低いレベルになる。これに対し、図6Cおよび図6Dに示すように、1波長よりも長い間隔で第1アンテナ402aと第2アンテナ402bとを配置すると、S21とS12のレベルが−5dBまで上がっている。
【0065】
これは、第1アンテナ402aと第2アンテナ402bとの間隔が1波長より長くなることで、第1アンテナ402aと第2アンテナ402bとの間で相互干渉が生じるためである。ここで、加熱室401内で発生する定在波のエネルギーは被加熱物の加熱に寄与するが、アンテナ間の相互干渉で対向するアンテナへ入射したエネルギーは被加熱物の加熱に寄与しない。すなわち、アンテナ間の距離が1波長よりも長い場合、アンテナ間の相互干渉により、加熱に寄与しないエネルギーが増加し、加熱効率が下がる。
【0066】
したがって、高い加熱効率を実現するためには、第1アンテナ402aと第2アンテナ402bとを1波長以下の間隔で配置することが望ましい。
【0067】
図7は、アンテナの位置関係を示す概念図である。
第1アンテナ501aと第2アンテナ501bとが、加熱室内の同一壁面に配置される。
【0068】
第1アンテナ501aは、中心502aから所定の半径rにより形成される円形のパッチアンテナである。中心502aに近い位置に給電点503aが設けられている。第2アンテナ501bは、第1アンテナ501aと同様に、中心502bから所定の半径rにより形成される円形のパッチアンテナである。中心502bに近い位置に給電点503bが設けられている。
【0069】
図7では、第1アンテナ501aの給電点503aと、第2アンテナ501bの給電点503bとは、対称の位置にあるが、非対称の位置にあっても構わない。
【0070】
また、半径rはアンテナからマイクロ波を放射させるために、通常、1波長の4分の1程度の長さになる。そのため、第1アンテナ501aの給電点503aと第2アンテナ501bの給電点503bとの間隔d1が、マイクロ波の1波長より長い場合、第1アンテナ501aと第2アンテナ501bとの間隔d2は、1波長の2分の1より長くなる。間隔d2が、1波長の2分の1より長くなると、アンテナ間の相互干渉が生じ始め、被加熱物の加熱に寄与せず消費されるエネルギーが増加する。よって、間隔d1は、マイクロ波の波長以下で配置することが望ましい。
【0071】
一方、半径rが1波長の4分の1であり、給電点の間隔d1が1波長の2分の1である場合、第1アンテナ501aと第2アンテナ501bとの間隔d2は、0になる。
【0072】
したがって、これ以上、給電点の間隔d1を短くすると、第1アンテナ501aと第2アンテナ501bとを重ねて配置しなければならない。よって、十分な大きさを持つ円形パッチアンテナを同一平面内に配置する場合、間隔d1は、マイクロ波の波長の2分の1以上で配置することが望ましい。
【0073】
なお、図7では、2個のアンテナの関係を示したが、マイクロ波加熱装置に3個以上のアンテナを配置してもよい。3個以上のアンテナのうち少なくとも2個のアンテナがマイクロ波の1波長以下で配置された場合、加熱室内の定在波の電界強度が強くなる。また、3個以上のアンテナが相互に1波長以下で配置されてもよい。また、例えば、4個のアンテナがある場合に、そのうち1個のアンテナとの関係において、他の3個のアンテナが1波長以下の間隔で配置されてもよい。また、4個のアンテナを1波長以下の間隔で直列に並べてもよい。
【0074】
次に、パッチアンテナの構造について説明する。
図8は、円形パッチアンテナの一例を示す図である。
【0075】
真円形のアンテナ板120は、マイクロ波加熱装置の加熱室内の底板導体121から4mmの高さに設置される。また、アンテナ板120の厚みは、0.4mmである。アンテナ板120に電力を給電するTEM型伝送線路122は、底板導体121の穴部分を通って加熱室外からアンテナ板120に接続される。アンテナ板120は、TEM型伝送線路122によって固定されている。アンテナ板120の半径を32.342mm、および、アンテナの中心から給電点の距離を11.35mmとすることにより、共振周波数が2.45GHzとなる。
【0076】
図9は、上記構造の円形パッチアンテナの無負荷時のリターンロスの特性を示す。図9では、リターンロスがS11として示されている。図9に示すように、電子レンジとして使用する2.4GHz〜2.5GHzの帯域の両端付近においても、S11<−10dBとなっており良好な反射特性が得られており、図9には示されていないが、300MHzと広い通過帯域が得られる。また、2.45GHzにおいて、約−43dBの減衰極が確認できる。
【0077】
ここで、S11のピークの急峻性を示す指標としてQ値(Quality Factor)がある。Q値が高い程ピーク中心のリターンロスの特性はよく、反射は少なくなるが、中心から外れるとリターンロスの特性は大きく劣化する。そのため、これ以上Q値が高くなると帯域の端の特性が劣化する。一般的にパッチアンテナの無負荷でのQ値はアンテナと下部導体との間の媒質の比誘電率が低く、厚みが大きいほど低くなっていく。
【0078】
上述した円形パッチアンテナにおいて、電子レンジとして使用する2.4GHz〜2.5GHzの帯域の両端において良好な反射特性が得られているのは、アンテナ板120と底板導体121との間を空気層としたことにより、誘電体を挿入した場合と比べて、アンテナ板120と底板導体121との実質的な距離が大きくなることにより、Q値が低くなったためと考えられる。さらに、誘電体を挿入した場合と比べて、誘電体による誘電損失も減少する。なお、アンテナ板120と底板導体121との間を空気層とすることにより、同じQ値であれば、誘電体を挿入した場合に比べて、アンテナの薄型化も同時に実現できる。このように、アンテナ板120と底板導体121との間を空気層とすることにより、アンテナの薄型化と広帯域化の両立を実現することができる。さらに、誘電体を省くことによりコストも低減できる。
【0079】
図10は、円形パッチアンテナの遠方界での放射分布を示す図である。図10では、放射分布が四方に広がっており、円形パッチアンテナの広指向性が示されている。また、図10には明示されてはいないが、この放射分布において利得は最も高い点で約10dBi得られている。このように、円形パッチアンテナを用いることにより、電磁波を一様に広い範囲に放射することができる。これにより、加熱室の壁面からの反射波も一様になり、複数のパッチアンテナ間の空間合成が効果的に行われる。
【0080】
さらに、パッチアンテナは、高電圧を印加するため、エッジがあるとそこに電界が集中することにより、放電等を起こす可能性がある。しかし、円形のパッチアンテナにすることにより、放電等の発生を防止することもできる。
【0081】
なお、本実施の形態においてアンテナへの給電点は1つとしているが、給電点を2つ設け、それぞれの位置が略円の中心点に対して互いに直交するような配置としても良い。給電点を2つ設けることで、円偏波を発生することが可能になるとともに、アンテナ板の固定強度を向上させる効果も得られる。
【0082】
また、アンテナ板の固定強度を大きくするためには、アンテナ板と下部導体との間に、誘電体からなる支持部材を部分的に設けてもよい。
【0083】
以上に示されたように、本実施の形態に係るマイクロ波加熱装置は、少なくとも2個のアンテナが、加熱室の同一面に配置され、かつ、給電点の位置がマイクロ波の波長以下の間隔になるように配置されている。これにより、加熱室内の被加熱物を加熱するための効率を向上させることができる。
【0084】
なお、本発明に係るマイクロ波加熱装置について、実施の形態に基づいて説明したが、本発明は、実施の形態に限定されるものではない。実施の形態に対して当業者が思いつく変形を施して得られる形態も本発明に含まれる。また、実施の形態における各構成要素およびアンテナの位置関係を任意に組み合わせて実現される別の形態も本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によるマイクロ波加熱装置は、効率よく被加熱物を加熱することができるため、例えば、電子レンジなどに代表される調理家電等において、消費電力を低減させることができる。
【符号の説明】
【0086】
100 マイクロ波加熱装置
101 マイクロ波発生部
102 分配部
103a、402a、501a 第1アンテナ
103b、402b、501b 第2アンテナ
104 加熱室
105 被加熱物
120 アンテナ板
121 底板導体
122 TEM型伝送線路
201、301 発振部
202 増幅部
302 位相同期ループ
303 制御部
304 周波数制御信号
401 加熱室
403 スペース
404 扉
405 天井部分の張り出し
406 載置台
410 解析モデル
502a、502b 中心
503a、503b 給電点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱物を加熱するマイクロ波加熱装置であって、
マイクロ波を発生するマイクロ波発生部と、
前記被加熱物を収納する加熱室と、
前記マイクロ波発生部が発生した前記マイクロ波を前記加熱室に供給するための少なくとも2個のアンテナとを備え、
前記少なくとも2個のアンテナは、前記加熱室の同一面に配置され、かつ、前記少なくとも2個のアンテナにおける各給電点の位置が前記マイクロ波の波長以下の間隔になるように配置されている
マイクロ波加熱装置。
【請求項2】
前記少なくとも2個のアンテナは、前記各給電点の位置が前記マイクロ波の波長の2分の1以上の間隔になるように配置されている
請求項1に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項3】
前記マイクロ波発生部は、半導体素子を用いた発振部と半導体素子を用いた増幅部とで構成される
請求項1または請求項2に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項4】
前記マイクロ波発生部の前記増幅部は、窒化ガリウムのトランジスタを含む
請求項3に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項5】
前記少なくとも2個のアンテナは、円形のパッチアンテナである
請求項1〜4のいずれか1項に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項6】
前記少なくとも2個のアンテナは、前記加熱室の底面に配置されている
請求項1〜5のいずれか1項に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項7】
前記少なくとも2個のアンテナは、前記少なくとも2個のアンテナが配置されている前記同一面の中心位置から前記各給電点の位置までの距離がいずれも同じ距離になるように配置されている
請求項1〜6のいずれか1項に記載のマイクロ波加熱装置。
【請求項8】
前記少なくとも2個のアンテナは、前記少なくとも2個のアンテナにおけるいずれの給電点においても、前記給電点の位置から前記加熱室において前記被加熱物を出し入れするための扉を有する面までの最短距離が、前記給電点の位置から前記加熱室において前記扉を有する面の反対側の面までの最短距離よりも、短くなるように、配置されている
請求項1〜7のいずれか1項に記載のマイクロ波加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−124049(P2011−124049A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−279898(P2009−279898)
【出願日】平成21年12月9日(2009.12.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】