マイクロ流体チップの液流路封止方法およびその装置
【課題】マイクロ流体チップに接触することなく、充填材料によって液流路の出入り口を塞ぎ、コンタミネーションやハンドリングトラブルがなく、正確且つ信頼性の高い分析結果を低コスト、短時間で得られるマイクロ流体チップの液流路封止方法およびその装置を提供する。
【解決手段】基板21内に形成された液流路に沿って液処理部が配設されたマイクロ流体チップ100の液流路封止装置50であって、液流路の出入り口PTに充填材料121を滴下して液流路を塞ぐ充填材料滴下手段60と、液流路の出入り口PTに滴下した硬化型材料121に向けて活性エネルギーを照射する活性エネルギー照射手段70を備えた。
【解決手段】基板21内に形成された液流路に沿って液処理部が配設されたマイクロ流体チップ100の液流路封止装置50であって、液流路の出入り口PTに充填材料121を滴下して液流路を塞ぐ充填材料滴下手段60と、液流路の出入り口PTに滴下した硬化型材料121に向けて活性エネルギーを照射する活性エネルギー照射手段70を備えた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液等の生体物質を分析するマイクロ流体チップの液流路封止方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の分子生物学の進歩により、血液等の生体物質を分析する事により、病気の治療における薬剤投与の効果や副作用の体質による個人差を予知することが可能であることが示されてきており、これを利用して、個人個人にとって最適な治療を施していこうという気運が高まっている。例えば、特定の遺伝子と、特定の治療薬剤の効果や副作用が強く相関することがわかっている場合、この情報を特定の患者の治療に役立てるためには、患者の遺伝子の塩基配列を知る必要がある。内因性遺伝子の変異又は一塩基多型(SNP)に関する情報を得るための遺伝子診断は、そのような変異又は一塩基多型を含む標的核酸の増幅及び検出により行なうことができる。このため、サンプル中の標的核酸を迅速且つ正確に増幅及び検出し得る簡便な方法が求められる。
【0003】
この場合、被検出物質と特異的に結合する抗体又は抗原等のタンパク質或いは一本鎖の核酸をプローブに使い、微粒子、ビーズ、ガラス板等の固相表面に固定し、被検出物質と抗原抗体反応又は核酸ハイブリダイゼーションを行う。そして、酵素等の検知感度の高い標識物質を担持した特異的な相互作用を有する標識化物質、例えば標識化抗体や標識化抗原又は標識化核酸等を用いて、抗原抗体化合物や2本鎖の核酸を検出して、被検物質の有無の検出或いは被検物質の定量を行っている。
【0004】
この種の技術として、例えば特許文献1に開示される細菌芽胞処理チップ及び細菌芽胞処理装置は、芽胞を形成した細菌を含む試料が供給される注入口と、注入口に供給された試料に導入される発芽促進剤を保管する発芽促進液保管部と、試料と発芽促進剤とを混合した液に導入される溶解液を保管する溶解液保管部と、試料と発芽促進剤と溶解液とを混合し、試料から遺伝子が溶出される遺伝子溶出部と、溶出遺伝子と結合する遺伝子結合担体を備える遺伝子抽出部と、遺伝子抽出部に導入される洗浄液を保管する洗浄液保管部と、遺伝子抽出部に導入される溶離液を保管する溶離液保管部と、溶離液により溶離された遺伝子が導入される反応部とを備え、細菌芽胞から遺伝子の抽出・分析を行う。試料注入口が大気開放されていることによる大気からの汚染や、試薬類の漏れを防止するため、試料を試料注入口に分注した後、ガラス薄板(例えば顕微鏡用のカバーガラス)等の試料注入口カバーを手動または自動により試料注入口に被せることが開示されている。
【0005】
また、特許文献2に開示される塩基配列検出装置及び塩基配列自動解析装置は、塩基配列検出チップに設けられた流路、該流路に沿って設けられた作用極と対極と参照極、流路に上流側から薬液またはエアを送入する送入ポート、流路から薬液またはエアを送出する送出ポート、および該流路内に試料を注入する試料注入口を備え、試料注入口から注入された試料の塩基配列を検出する。試料注入口の近傍には蓋が配設されており、試料を注入した後、蓋を押圧して試料注入口に挿入し、試料や薬液の漏れを防止している。
【0006】
【特許文献1】特開2005−253365号公報
【特許文献2】特開2004−125777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記特許文献1及び上記特許文献2では、試料注入口を試料注入口カバーや蓋によって塞ぐ際、分析装置側に設けられたカバー装着機構が試料注入口カバーや蓋に直接接触することになる。万一、試料注入口カバーや蓋に異物や試料注入口に注入した試料などが付着していると、これらの異物などがカバー装着機構に付着してしまい、それ以降に分析装置にかけられるチップが汚染される可能性がある。このことは、多くのチップが連続して自動的に処理される分析装置においては、チップ汚染に気が付くまでに多量のチップが処理されてしまい、それらの分析結果に重大な影響を与えることとなるので深刻な問題である。また、カバー装着機構が流路内の試料に触れると、チップ間の試料混合によるコンタミネーションが発生し、検査結果の信頼性が低下する。更に、試料注入口とカバー装着機構の位置を正確に合わせる必要があるため、カバー装着機構が複雑となってハンドリングトラブル発生が懸念されるばかりでなく、分析装置の製作費が嵩む問題があった。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、マイクロ流体チップに接触することなく、充填材料によって液流路の出入り口を塞ぎ、コンタミネーションやハンドリングトラブルがなく、正確且つ信頼性の高い分析結果を低コスト、短時間で得られるマイクロ流体チップの液流路封止方法およびその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る上記目的は、下記方法により達成できる。
(1) 基板内に形成された液流路に沿って液処理部が配設されたマイクロ流体チップの液流路封止方法であって、
前記液流路の出入り口に、充填材料を滴下して前記液流路を塞ぐことを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止方法。
【0010】
このような液流路封止方法によれば、マイクロ流体チップの液流路の出入り口に、充填材料を滴下して液流路を塞ぐようにしたので、マイクロ流体チップに接触することなく液流路を塞ぐことができる。これにより、コンタミネーションの発生を防止して信頼性の高い分析を行うことができる。また、液流路閉塞機構を簡素化することができ、機械故障などのハンドリングトラブルを防止することができる。
【0011】
(2) 上記(1)記載のマイクロ流体チップの液流路封止方法であって、
前記充填材料が活性エネルギーにより硬化する硬化型材料であり、
前記液流路の出入り口に滴下した前記硬化型材料に向けて活性エネルギー照射部から前記活性エネルギーを照射することを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止方法。
【0012】
このような液流路封止方法によれば、活性エネルギーにより硬化する硬化型材料を液流路の出入り口に滴下し、活性エネルギー照射部から活性エネルギーを照射して硬化させるようにしたので、マイクロ流体チップに非接触で、短時間且つ確実に液流路の出入り口を塞ぐことができる。また、硬化型材料を容易に出入り口へ滴下でき、且つ硬化した硬化型材料は高い耐久性を有するので、薬液や試料の漏れ、コンタミネーションの発生を確実に防止して信頼性の高い分析結果が得られる。尚、硬化型材料は、予め加熱などの殺菌処理を施して無菌状態としてから使用することがコンタミネーション防止の観点から望ましい。
【0013】
(3) 上記(2)記載のマイクロ流体チップの液流路封止方法であって、
前記活性エネルギーが紫外線であり、
前記硬化型材料が、紫外線硬化型樹脂であることを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止方法。
【0014】
このような液流路封止方法によれば、紫外線硬化型樹脂を液流路の出入り口に滴下し、紫外線を照射して硬化させるようにしたので、マイクロ流体チップに非接触で、短時間且つ確実に液流路の出入り口を塞ぐことができ、薬液や試料の漏れ、コンタミネーションの発生を確実に防止して信頼性の高い分析結果が得られる。
【0015】
また、本発明に係る上記目的は、下記装置により達成できる。
(4) 基板内に形成された液流路に沿って液処理部が配設されたマイクロ流体チップの液流路封止装置であって、
前記液流路の出入り口に、充填材料を滴下して前記液流路を塞ぐ充填材料滴下手段を備えたことを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止装置。
【0016】
このように構成された液流路封止装置においては、充填材料滴下手段から液流路の出入り口に充填材料を滴下して液流路を塞ぐようにしたので、マイクロ流体チップに接触することなく液流路を塞ぐことができる。これにより、コンタミネーションの発生を防止して信頼性の高い分析を行うことができる。また、液流路閉塞機構は、機構が簡単な充填材料滴下手段であるので、機械故障などのハンドリングトラブルを防止することができる。
【0017】
(5) 上記(4)記載のマイクロ流体チップの液流路封止装置であって、
前記充填材料が活性エネルギーにより硬化する硬化型材料であり、
前記液流路の出入り口に滴下した前記硬化型材料に向けて前記活性エネルギーを照射する活性エネルギー照射手段を更に備えたことを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止装置。
【0018】
このように構成された液流路封止装置においては、充填材料滴下手段から活性エネルギーにより硬化する硬化型材料を液流路の出入り口に滴下した後、活性エネルギー照射手段によって活性エネルギーを照射して硬化させるようにしたので、マイクロ流体チップに非接触で、短時間且つ確実に液流路の出入り口を塞ぐことができる。これにより、コンタミネーションの発生を防止して信頼性の高い分析を行うことができる。
【0019】
(6) 上記(5)記載のマイクロ流体チップの液流路封止装置であって、
前記硬化型材料が、紫外線硬化型樹脂であり、
前記活性エネルギー照射手段が、紫外線を照射する紫外線照射装置であることを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止装置。
【0020】
このように構成された液流路封止装置においては、充填材料滴下手段から紫外線硬化型樹脂を液流路の出入り口に滴下し、紫外線照射装置から紫外線を照射して硬化させるようにしたので、マイクロ流体チップに非接触で、短時間且つ確実に液流路の出入り口を塞ぎ、コンタミネーションの発生を防止して信頼性の高い分析を行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のマイクロ流体チップの液流路封止方法およびその装置によれば、マイクロ流体チップに接触することなく、充填材料によって液流路の出入り口を塞ぎ、コンタミネーションやハンドリングトラブルがなく、正確且つ信頼性の高い分析結果を低コスト、短時間で得られるマイクロ流体チップの液流路封止方法およびその装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係るマイクロ流体チップの液流路封止装置の好適な各実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
(第1実施形態)
図1は本発明に係るマイクロ流体チップの液流路封止装置を備えた検査装置をマイクロ流体チップと共に示す概略構成図、図2は検査装置およびマイクロ流体チップの詳細な構成を示すブロック図である。
【0024】
図1に示すように、検査装置11は、制御部19と、送液部20と、加熱・検出部30と、液流路封止装置40と、を備える。マイクロ流体チップ(以下、単に「チップ」とも称す。)100は、検査装置11にセットされて使用され、一回の使用後に廃棄される。本実施の形態は、検体である血液(全血)がマイクロ流体チップ100に注入される。マイクロ流体チップ100は、検査装置11にセットされることで、チップ外部からの物理的作用力によって検体液がハンドリングされ、例えば一塩基多型の複数ターゲット遺伝子が検査されるものであり、特開2005-160387号に示されているような、ターゲット配列の核酸を等温で特異的に増幅するための反応とその検出をチップ100上で実現可能とするものである。これにより、例えば、標的核酸を増幅してこれを検出することで、感染症の原因となる病原体に特異的な標的核酸の増幅及び検出が可能となり、検体中の該病原体の存否等が判定可能となる。
【0025】
本実施の形態において、物理的作用力は、液流路の始点と終点に設けたポート部PTからエア供給又はエア吸引することにより発生する空気圧作用力(空圧駆動力)である。したがって、液流路内に供給された液体が、液流路の始点と終点とに作用されるエア供給又はエア吸引により、液流路内の所望位置へ移動制御可能となる。この際、液体は、始点と先端部、後端部と終点との間に介在する気体に挟持された状態で保持され、引っ張り力の作用により途中で分断されることがない。
【0026】
なお、DNA増幅反応は、等温増幅反応により、使用する酵素の活性が一定に維持できる温度に保たれる。ここで、「等温」とは、酵素およびプライマーが実質的に機能しうるような、ほぼ一定の温度をいう。さらに、「ほぼ一定の温度」とは、酵素及びプライマーの実質的な機能を損なわない程度の温度変化であれば許容されることを意味する。
【0027】
図2に示すように、検査装置11の送液部20は、作動流体として空気が使用されるポンプPMPと、バルブSV1,SV2,SV3,SV4を備える。また、加熱・検出部30は、検体加熱部13と、温調部15と、液位置検出部16と、蛍光検出部17とを備える。送液部20および加熱・検出部30の各装置は、これらに接続されて検出信号が入力され、或いは制御信号を送出する制御部19に接続されている。
【0028】
送液部20のバルブSV4はポンプPMPとバルブSV2との間に介装され、バルブSV2は作動流体制御側がチップ100の第4ポートPT−Cと、バルブSV1は作動流体制御側がチップ100の第2ポートPT−Dと、バルブSV3は作動流体制御側が第1ポートPT−Aとに接続され、バルブSV2の作動流体制御側とバルブSV1の作動流体入力側はチップ100の第3ポートPT−Bに接続される。また、加熱・検出部30の検体加熱部13は、チップ100の被加熱部Bを加熱し、温調部15はチップ100の反応部Fの温度調節を行い、蛍光検出部17は反応部Fの蛍光を検出可能としている。これら各構成要素の動作については後に詳述する。
【0029】
図3は図1に示した液流路封止装置40の概略構成図である。
液流路封止装置40は、図3に示すように、第1ポートPT−A、第2ポートPT−D、第3ポートPT−B、および第4ポートPT−Cにそれぞれ対応して配置された4つの滴下ノズル101、103、105、107を備える。各滴下ノズル101、103、105、107は、充填材料111が貯留されるタンク109に定量ポンプ113を介して接続されており、定量ポンプ113を作動させて滴下ノズル101、103、105、107から各ポートPT−A、PT−D、PT−B、およびPT−Cに所定量の充填材料111を滴下させる。液流路封止装置40は、図示しない搬送機構によって、各滴下ノズル101、103、105、107がポート部PTに対応する作動位置と、ポート部PTから離間した待機位置との間を移動自在となっている。
【0030】
図4は図2に示したマイクロ流体チップの分解斜視図、図5はマイクロ流体チップの上面視を(a)、下面視を(b)に表した平面図である。
マイクロ流体チップ100は、図4に示すように、流路基板21と、この流路基板21の一方の面(下面)22に貼着される蓋材23とにより構成されている。流路基板21は、熱可塑性の高分子ポリマーの射出成形により製作される。使用する高分子ポリマーは、特に限定されないが、光学的に透明であり、耐熱性が高く、化学的に安定であり、射出成形が容易なものが望ましく、COP、COC、PMMA等が好適である。光学的に透明とは、検出に用いる励起光や蛍光の波長において透過性が高く、散乱が小さく、自家蛍光が少ないことである。チップ100は、蛍光を検出可能とする透光性を有していることで、検出試薬に例えばサイバーグリーンが用いられ、反応によって増幅された2本鎖DNAにインターカレートすることで発する蛍光が測定可能となる。これにより、ターゲットとする遺伝子配列の存在の有無が検出可能となる。
【0031】
流路基板21の他方の面(上面)28には掘り込み29,31が形成され、掘り込み29,31は被加熱部B、反応部Fに対応して位置している。また、流路基板21の下面22には図5に示すように、上記の第1ポートPT−A、第2ポートPT−D、第3ポートPT−B、第4ポートPT−Cに連通する開口33,35,37,39が設けられている。流路基板21は、外形が例えば縦横W2,W1が55×91mmであり、厚みtが2mm程度で形成される。
【0032】
蓋材23は、流路基板21の流路面(下面22)に形成されたポート、セル、流路(溝)に蓋をするための部材であり、蓋材23と流路基板21は接着剤や粘着剤により接合される。蓋材23としては、流路基板同様、光学的に透明であり、耐熱性が高く、化学的に安定であるシート状の高分子ポリマーを用いる。本実施の形態では、100μmの厚みのPCR用プレートシールを用いた(プラスチックフィルムに粘着剤が塗布されている)。
【0033】
図6は図5(b)の拡大図、図7はポート出口流路の近傍を表す要部拡大平面図である。
流路基板21には、液体に必要な操作(詳しくは後述)するためのポート、セル、流路等が構成されている。すなわち、図6に示すように、流路基板21は、生体細胞を含む検体液と前処理試薬(第1液)とを投入する第1ポートPT−Aと、反応増幅試薬(第2液)を投入する第2ポートPT−Dと、流路内に空気圧を供給する第3ポートPT−Bと、減圧される流路終端の第4ポートPT−Cと、第1ポートPT−Aから投入された検体液と前処理試薬とを混合して第1混合液を生成する第1の流路(検体混合部)Aと、第1混合液を加熱して生体細胞よりDNAを抽出し1本鎖に分解する第2の流路(被加熱部)Bと、被加熱部Bで処理された第1混合液に反応増幅試薬を合流させる第3の流路(試薬合流部)Cと、試薬合流部Cで合流された第2混合液が通過することにより溶解が進む酵素(第1固体)を固化実装した第4の流路(酵素保持部)Dと、酵素保持部Dで処理される第2混合液への酵素の混合を助長する第5の流路(酵素混合部)Eと、酵素混合部Eに接続され、流路内に固化実装されたプライマー(第2固体)の溶解、加熱によるDNA増幅、DNA増幅の検出を同一位置で行う複数の第6の流路(反応部)Fと、反応部Fの流路に接続され酵素混合部Eで処理された第2混合液を反応部Fの複数の反応検出セル27それぞれに定量分注するための第7の流路(定量分注流路)Gと、を備える。
【0034】
第1ポートPT−A、第2ポートPT−D、第3ポートPT−B、第4ポートPT−C(ポート部PT)は、流路基板21を上下面に貫通した穴により構成され、蓋材23を貼り付けることにより、流路と連結した凹部が形成される。各ポート部PTは、流路基板21の他の部分より若干厚みが大きくなっており、この部分に検査装置11の送液用のポートパッド(図示せず)が接続される。各ポートパッドは、配管を経由してバルブSV1,SV2,SV3,SV4(バルブSV)に接続される。このバルブSVには送液駆動のための上記したポンプPMPが接続されている。これらバルブSVとポンプPMPの動作を制御部19によって制御することにより、ポート部PTの空気を減圧、加圧、大気開放、密閉状態にすることができ、流路内の液滴を自在に搬送することができる。
【0035】
また、マイクロ流体チップ100は、所望の搬送が完了した時点で、ポート部PTからポートパッドを脱離させた後、液流路封止装置40を待機位置から作動位置へ移動させ、図3に示すように、滴下ノズル101、103、105、107をそれぞれ各ポートPT−A、PT−D、PT−B、およびPT−Cに対向配置して充填材料111を滴下させる。これにより、各ポートPT−A、PT−D、PT−B、およびPT−Cの出入り口が充填材料111によって塞がれて、チップ100が密閉状態とされる。チップ100を密閉しない状態で増幅反応を行った場合、増幅されたDNAがチップ外に流出して環境を汚染し、キャリーオーバーの危険性があり、これを防止するために増幅反応前にチップ100を密閉状態にする。充填材料111によるポートPT−A、PT−D、PT−B、およびPT−Cの封止については、後に詳述する。
【0036】
第1ポートPT−Aは、検体ポートとして使用され、血液1μLと前処理試薬3μLとが投入される。前処理試薬は、血液中の白血球から核酸成分を単離するために用いられる。界面活性剤や強アルカリを用いて化学的に溶解処理が行われる。例えば、界面活性剤として、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。また、血液の凝固を防ぐために、へパリンやEDTA等の凝固防止剤を添加しても良い。
【0037】
第2ポートPT−Dは、液体試薬ポートとして使用され、反応増幅試薬が56μL投入される。反応増幅試薬には、酵素、プライマー以外の増幅反応と検出に必要とする試薬が含まれている。例えば、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム等の触媒、dNTPミックス等の基質、トリス塩酸バッファー、トライシンバッファー、リン酸ナトリウムバッファー、リン酸カリウムバッファー等の緩衝液を使用することができる。さらに、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)やベタイン(N,N,N-trimethylglycine)等の添加物、国際公開第99/54455号パンフレットに記載の酸性物質、陽イオン錯体等を使用してもよい。
【0038】
検出試薬にはサイバーグリーンを用いることができる。サイバーグリーンは、反応によって増幅された2本鎖DNAにインターカレートすることにより、強い蛍光を発する。この蛍光強度を測定することにより、ターゲットとする遺伝子配列の存在の有無を検出する。
【0039】
第3ポートPT−B、第4ポートPT−Cは、送液ポートとして使用され、ポンプPMPやバルブSVによって、減圧、加圧や大気開放状態、閉状態に切り替えられるにより流路内の液滴を駆動する。
【0040】
図7に示すように、検体混合部Aは、第1ポートPT−Aに投入した血液と前処理試薬の全量より大きな亀の甲状セルが複数連結した流路になっており、この流路を通過させることにより、第1ポートPT−Aに投入した血液と前処理試薬を均一に混合する。すなわち、検体混合部Aの流路は、液体の流動方向に直交する方向の断面積が他の流路における断面積に比して大きい広幅流路部41と、該広幅流路部41より断面積が小さい狭幅流路部43とが交互に形成されている。したがって、第1ポートPT−Aに投入された血液が、検体混合部Aに到達すると、液体が流動する方向に沿って広幅流路部41と狭幅流路部43とが交互に形成された流路を通過することで、オリフィス作用による撹拌が複数回行われ、血液と前処理試薬とが均一に混合される。
【0041】
被加熱部Bは、図2に示す検体加熱部13により98℃に加熱される。すなわち、マイクロ流体チップ100は、液処理の制御動作条件が、液体を液処理部で加熱処理するための加熱設定温度を含む条件となる。例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法による核酸増幅反応等において、液流路内の送液制御により、鋳型DNA、プライマー、基質、耐熱性ポリメラーゼ酵素等の混合された反応液が温度調節され、所定の3種類の温度に順次変化されることを繰り返すことで、目的とするDNAが増幅可能となる。本実施の形態では、この部分を血液と前処理試薬が通過することにより、前処理試薬により白血球から抽出されたDNA2本鎖が1本鎖になる。被加熱部Bは、加熱を均一に行うために、流路基板21には掘り込み29が設けられ、この部分の厚みが1.2mm程度に薄くなっている。
【0042】
試薬合流部Cは、加熱処理された血液と前処理試薬に反応増幅試薬を合流させる。第2ポートPT−Dにおける流路の毛細管力の大小関係は、ポートD出口流路45>主流路47>ポートD流路(第2ポートPT−D) という関係になっており、ポートD出口流路45と主流路47の接続部はラプラス圧バルブが構成されている。第2ポートPT−Dに投入した反応増幅試薬は主流路47に流出することなく、ポートD出口流路45と主流路47の接続面で留まる。また、後述する操作により血液と前処理試薬の混合液がポートD出口流路45に到着すると、ラプラス圧バルブが破壊され、上記の2液体が合流する。
【0043】
酵素混合部Eは、図6に示すように、液溜め室である第1混合部49と第2混合部51とを有する。酵素保持部Dは、第1混合部49と第2混合部51との間に設けられ、第1保持部53と第2保持部55とからなる。第1保持部53は、第1混合部49と第2混合部51の間に設置された、試薬保持用のセルであり、ポリミラーゼとデキストリンの水溶解液を点着後、凍結乾燥により乾燥、固化した試薬57が保持される。
【0044】
この保持部の上流と下流の流路は、その保持部より細くなっており、乾燥固化した試薬57の流路への密着力が無い場合でも、チップ100の保存、運搬等の振動により固化試薬57が剥がれ落ちて前後の流路へ流出してしまうことを防いでいる。
【0045】
ポリメラーゼは、鎖置換(strand displacement)活性(鎖置換能)を有するものであればよく、常温性、中温性、もしくは耐熱性のいずれのものも好適に使用できる。また、このポリメラーゼは、天然体もしくは人工的に変異を加えた変異体のいずれであってもよい。このようなポリメラーゼとしては、DNAポリメラーゼが挙げられる。さらに、このDNAポリメラーゼは、実質的に5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有しないものであることが好ましい。このようなDNAポリメラーゼとしては、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus、以下「B.st」という)、バチルス・カルドテナックス(Bacillus caldotenax、以下「B.ca」という)等の好熱性バチルス属細菌由来DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠失した変異体、大腸菌(E.coli)由来DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント等が挙げられる。
【0046】
デキストリンは酵素の安定化剤として用いられる。これにより、酵素の長期保存が可能になると共に、増幅反応においても、反応液中の酵素が安定化されるため、核酸の増幅効率を高めることが可能となる。その他の酵素安定化剤として、グリセロール、ウシ血清アルブミン、糖類などを用いることができる。
【0047】
第2保持部55は第1保持部53の下流に設置され、第1保持部53と同様の構造になっている。第2保持部55には、MutSとデキストリンの水溶液を点着後、凍結乾燥により乾燥、固化させた試薬59が保持される。MutSは、「ミスマッチ結合タンパク質」(「ミスマッチ認識タンパク質」とも称される)と呼ばれるタンパク質群の1つである。これは、DNAの2本鎖において部分的に対合できない(ミスマッチ)塩基対が生じたときに、これを修復する機能を有するタンパク質群であり、MutSタンパク質(特表平9−504699号公報)以外に、MutMタンパク質(特開2000−300265号公報)などの様々なミスマッチ結合タンパクが知られている。
【0048】
酵素混合部Eは、血液、前処理試薬、反応増幅試薬の合流液を第1混合部49、第2混合部51の間を往復させることにより、第1の酵素である試薬57、第2の酵素である試薬59を溶解し、前記液体を均一に混合する。往復時に液滴が気泡を巻き込まないように安定に搬送するために、酵素混合部Eは混合液に対して撥水的であることが望ましく、本実施の形態では流路基板21の材料にCOP(水の接触角約110°)を選択した。
【0049】
反応部Fには、ターゲットDNAのプライマーとゼラチンの水溶解液が点着後冷却固化、固定されている。プライマーは、ターゲットDNAの特定部分に相補的な塩基配列を有する20塩基長程度のオリゴヌクレオチドであり、ポリメラーゼによるDNAの合成の起点となる。本実施の形態では13個の反応検出セル27a〜27mが構成されており、検査対象の遺伝子に対して、wildとmutantの配列に特異的に増幅反応を行うために、wildを増幅させるプライマー61及び、mutantを増幅させるためのプライマー63を一対として、それぞれ異なる反応・検出セルに固定している。
【0050】
すなわち、12個の反応検出セル27a〜27lで6ケ所D1〜D6の遺伝子を検査対象としている。残りの1ケ所PDの反応検出セル27mには、多型の存在しない遺伝子配列を増幅させるためのプライマー65が固定されており、このセルはポジコンとして用いられる。第1混合部49、第2混合部51で混合された検体は、各反応検出セル27a〜27mに定量分注される。
【0051】
この反応検出セル27a〜27mを60℃に加熱することにより、固化したゼラチンが溶解し、各反応検出セル27a〜27m内に分散し、等温増幅反応が行われる。プライマーの水溶液のみを反応検出セル27に点着し、乾燥固定化することもできるが、この場合、セル内に液体が流入した際に、プライマーが流れ方向に流されてしまい、セル内での反応、検出が行えない。このため、常温の水溶液では溶解しにくいゼラチンを0.5%含有させて点着、固化した。
【0052】
図8は反応検出セルの拡大平面図である。
各反応検出セル27a〜27mの前後には反応検出セル入り口流路69と反応検出セル出口流路71が配置され、この入り口出口流路69,71は細い流路となっている。分注後の液体の端面は、入り口流路69と主流路73の接続面、及び出口流路71と排気流路75の接続面に留まっている。反応部Fには加熱部77が形成され、加熱部77は、加熱を均一に行うために、上記の掘り込み31によって、流路基板21の厚みが1.2mm程度に薄くなっている。加熱部77は、反応検出セル27全体と、入り口出口流路69,71の一部分までを加熱する配置になっており、加熱部77以外は、他の温度調整手段によって常温に温度調節されている。すなわち、反応検出セル27内の液体の両端面は、加熱されることなく、常温に保持される。このことにより、加熱により水分が蒸発することを防ぐことができる。この加熱部77及びその周りの温度調節手段が、図2の温調部15を構成している。
【0053】
入り口出口流路69,71、主流路73、排気流路75は、定量分注流路Gを構成している。定量分注流路Gは、酵素混合部Eで処理された第2混合液を反応部Fの複数の反応検出セル27それぞれに定量分注する。
【0054】
反応検出セル27に定量分注された液体は、生態細胞を有する検体液、前処理試薬、反応増幅試薬を含む。反応検出セル27には核酸の断片であるプライマー61、63、…が実装されており、この反応検出セル27に液体を定量分注し、加熱しながら励起光を照射する事により、液処理部内で発生する蛍光を検出する。反応検出セル27では、被検出物質の核酸増幅反応が行われる。この際、検知感度の高い標識物質である発光性物質を担持した特異的な相互作用を有する標識化物質、例えば標識化抗体や標識化抗原又は標識化核酸等が用いられる。サイバーグリーンは、反応によって増幅された2本鎖DNAにインターカレートすることにより、強い蛍光を発する。この蛍光強度を測定することにより、ターゲットとする遺伝子配列の存在の有無が検出可能となる。
【0055】
図9はターゲット配列がある場合を(a)、ターゲット配列が無い場合を(b)に表した蛍光測定結果のグラフである。
反応検出セル27a〜27mは、光学系により、約490nmの波長で励起し、インターカレートしたサイバーグリーンの約520nmの蛍光を測定することにより、ターゲットDNAの増幅が確認される。すなわち、図9に示すように、ターゲットとする核酸配列が存在する場合には、蛍光強度Iの増加が確認され、存在しない場合には蛍光強度Iの増加が確認されない。
【0056】
反応部Fでは、反応検出セル27a〜27mへの分注時に液体がスムーズに進入し、出口部でのラプラス圧バルブによる停止が安定に行えるためには、反応検出セル27とその前後の細い入り口出口流路69,71は適度に親水的であることが望ましい。本実施の形態では、少なくとも入り口出口流路69,71が、プラズマ照射により親水化されている(水の接触角約70°)。
【0057】
流路基板21を部分的に親水化、又は撥水化する方法としては、プラズマ照射以外に公知の方法(親水化/撥水化処理液を塗布する方法、UV照射、蒸着やスパッタにより親水化/撥水化材料の薄膜を形成する方法、2色成形やインサート成形により、濡れ性の異なる樹脂を用いて成形する方法等)を用いることができる。本実施の形態では、各流路(少なくとも入り口出口流路69,71)の流路内壁面が、少なくとも2段階以上の濡れ性を有している。これにより、各反応検出セル27a〜27mへの分注時に液体がスムーズに進入し、出口部でのラプラス圧バルブによる停止が安定に行えるようになっている。
【0058】
本実施の形態では、上記のように、6組の一塩基多型を判定するための12個の反応検出セル27a〜27lと、ポジコン用の1個の反応検出セル27mにより構成されている。ポジコン用反応検出セル27mには、多型が存在しない遺伝子配列部をターゲットとするプライマー65が実装されており、どんな検体を検査しても、蛍光強度の増大が確認される。このポジコン用反応検出セル27mの蛍光を確認することにより、一連の送液操作が正常に行われ、且つ正常な反応が行われたことを確認することができ、検査結果の信頼性を保障することが可能となる。
【0059】
また、ネガコンの保障方法としては、血液の代わりに水を投入して一連の反応を行わせ、蛍光強度の増大が無いことを確認しても良いし、同一基板上に2組の回路を形成し、検査とネガコンの保障を同時に行っても良い。
【0060】
有限な液体をマイクロ流体チップ100で操作する場合、特に、能動的なバルブやポンプを内蔵していないシンプルな流路により構成されているマイクロ流体チップ100で、液体の複雑なハンドリングをチップ外部からの空圧駆動で行うには、液体の位置を正確に検出することが不可欠となる。液体の位置を検出しないで、例えば駆動空気の流量で制御しようとすると、ポンプからマイクロ流体チップ100のポート部PTまでの配管や、チップ内の流路の空気の体積(デッドボリューム)の温度変化による膨張や収縮、流路内の微小な傷や静電気による流量抵抗の変化、或いは流体を加熱した時に流体が蒸発することによる蒸気圧の影響などの外乱により、再現性良く液体をハンドリングすることは困難となる。このため、液体の位置を正確に検出することは非常に重要となる。
【0061】
マイクロ流体チップ100は、液流路の特定位置において液流路内の液体の先端部、後端部の少なくともいずれかを検出し、検出されたタイミングに応じて液体の制御動作条件を決定する。これにより、ピペッティングの操作、装置への出し入れ等の煩雑な操作を不要にして、液流路内での検体中のDNAの抽出或いは増幅等の反応が可能となる。液体の制御動作条件は、液体に対する移動の方向、移動速度、移動のための駆動力のうち、少なくとも1つを含むものであれば、液流路内における送液の移動制御が可能となる。また、液体移動の方向、移動速度、駆動力の全てを制御可能とした構成によれば、これらの動作条件が自在に切り替えられることで、ピペッティングの操作、装置への出し入れ等を行うのと同等の送液制御が可能となる。
【0062】
本実施の形態では、液体の位置を検出することにより、液体の駆動速度、駆動方向、駆動力の制御を、検査装置11の制御部19によって切り替えている。ここで駆動力とは、一定圧力による吸引や加圧以外に、ポート部PTの大気開放、閉状態、及び複数ポート部PTの連結状態を含むものとする。
【0063】
図10は液位置検出部の平面視を(a)、そのP1−P1断面視を(b)に表した説明図、図11は液位置検出部の入反射光を表した模式図、図12は反射率と入射角度との相関を表したグラフである。
マイクロ流体チップ100には液位置検出のためのセンシング部PH1〜5(図2,図6参照)が配置されている。本実施の形態では、このセンシング部PH1〜5に対向する位置に、液位置検出部16が配置される。図2には纏めて1つの液位置検出部16を示しているが、センシング部PH1〜5の合計5箇所それぞれに対向して配置される。この液位置検出部16の具体例として、図10に示す反射型光ファイバーセンサー87が使用されている。各ファイバーセンサー87の先端は、図10に示すように、チップ100の蓋材23側から流路83に向けて配置されている。
【0064】
反射型光ファイバーセンサー87は、流路83の特定位置に光を照射して流路83からの反射光を検出し、特定位置おける流路内の液体の有無を、反射光の空気と液体との屈折率変化に基づく光量変化から判定する。したがって、チップ100の外部から光りを照射し、その反射光の屈折率変化によって判定が可能となるので、流路83にセンサ等が露出せず、検体液の汚染されることがない。また、超音波を利用した場合の振動が発生せず、反応液等との混ざり具合にバラツキの発生することがない。
【0065】
具体的には、反射型光ファイバーセンサー87は、特定位置を照射する光を投光側光ファイバー89を通じて供給し、流路83からの反射光を受光側光ファイバー91に導入して検出する。この反射型光ファイバーセンサー87によれば、照射光と反射光を、投光側光ファイバー89と受光側光ファイバー91を統合した小面積なファイバー先端面で行うことができ、小面積の被検出領域に対する光照射及び当該照射領域からの反射光の受光が可能となり、微小な流路83の特定位置における液体の有無が検出可能となる。
【0066】
反射型光ファイバーセンサー87の受光側光ファイバー91は、チップ100より反射される反射光の強度を検出する。
流路83中の液滴のあり/なしは、主に蓋材23の流路側面からの反射率が流路中に空気がある場合と、水がある場合の反射率の違いにより検出することができる。
【0067】
一般に、図11に示すような入射光に対する反射率は次式で表される。
【数1】
ここで、Rp:p偏光、Rs:s偏光であり、n=n2/n1とおいた。
【数2】
とおき、蓋材23の屈折率をn1=1.49、流路83中の流体の屈折率を
液滴なしの場合・・・n2(空気)=1.00
液滴ありの場合・・・n2(水)=1.33
とおいて計算すると、流路83中の流体が空気の場合と水の場合とで図12のような反射率の違いを求めることができる。
【0068】
使用している投光側光ファイバー89の投光の広がり角が60°の場合、図12の0°から30°の範囲で考えればよく、流路83中の流体が空気の場合は反射率が約4%、水の場合は0.5%以下になる。この違いにより、液滴の有り無しで反射型光ファイバーセンサー87の受光量が変化し、液滴の到着を検出することができる。
【0069】
このように、反射型光ファイバーセンサー87による検出は、空気と流体の屈折率の差を検出するものであり、流体の光透過率や、光の散乱を検出する原理による検出方法と比較して、流体中の溶解物質の種類やその濃度変化があっても、安定して検出することができるという利点を備えている。
【0070】
上記の構成を有する本実施の形態によるマイクロ流体チップ100によれば、検体液と理試薬とを投入する第1ポートPT−Aと、反応増幅試薬を投入する第2ポートPT−Dと、流路内に空気圧を供給する第3ポートPT−Bと、第1ポートPT−Aから投入された検体液と前処理試薬とを混合して第1混合液を生成する検体混合部Aと、第1混合液を加熱して生体細胞よりDNAを抽出し1本鎖に分解する被加熱部Bと、被加熱部Bで処理された第1混合液に反応増幅試薬を合流させる試薬合流部Cと、試薬合流部Cで合流された第2の混合液が通過することにより溶解が進む酵素を固化実装した酵素保持部Dと、酵素保持部Dで処理される第2の混合液への酵素の混合を助長する酵素混合部Eと、酵素混合部Eに接続され、流路内に固化実装されたプライマーの溶解、加熱によるDNA増幅、このDNA増幅の検出を同一位置で行う複数の反応検出セル27からなる反応部Fと、複数の反応検出セル27に接続され酵素混合部Eで処理された第2混合液を複数の反応検出セル27のそれぞれに定量分注するための定量分注流路Gと、を備えたので、立体的に複雑な構造を必要とせず、簡単な構造で複雑な送液制御が行えるとともに、ピペッティングの操作、装置への出し入れ等の煩雑な操作が不要になり、熟練を要さない簡単な操作で、正確かつ信頼性の高い分析結果を低コスト、短時間で得ることができる。
そして、マイクロ流体チップの液流路の出入り口に、充填材料を滴下して液流路を塞ぐようにしたので、マイクロ流体チップに接触することなく液流路を塞ぐことができる。これにより、コンタミネーションの発生を防止して信頼性の高い分析を行うことができる。また、液流路閉塞機構を簡素化することができ、機械故障などのハンドリングトラブルを防止することができる。
【0071】
次に、上記のマイクロ流体チップ100を使用した送液フローについて説明する。
図13はマイクロ流体チップの駆動制御に伴う各要素の作動状態を時間軸に沿って表したタイムチャート、図14は液セットから最初の加熱までの動作説明図、図15は酵素混合までの動作説明図、図16は反応部注入までの動作説明図、図17は分注から検査完了までの動作説明図である。
以下の説明においては、図13の制御動作V1〜V13と図14〜図17の各ステップS1〜S20における状態を対応させて説明する。
【0072】
先ず、チップ100を準備し、検査装置11のREADYスイッチを押す(V1、S1)。そして、第2ポートPT−Dに反応増幅試薬を投入する(S2)。第2ポートPT−Dにおける流路の毛細管力の大小関係は、ポートD出口流路45>主流路47>第2ポートPT−Dという関係になっており、ポートD出口流路45と主流路47の接続部はラプラス圧バルブが構成されている。このため、反応増幅試薬は主流路47に流出することなく、ポートD出口流路45と主流路47の接続面で留まる。
【0073】
次いで、第1ポートPT−Aに血液と前処理試薬を投入する(S3)。チップ100を検査装置11にセットし、検査装置11のSTARTスイッチを押す(V2)。すると、第1ポートPT−A、第2ポートPT−D、第3ポートPT−B、第4ポートPT−Cにポートパッドが押し付けられる。この時、第1ポートPT−A、第2ポートPT−D、第3ポートPT−B、第4ポートPT−Cに対応するパッドは大気開放状態になっており、パッドが押し付けられる事によりチップに投入されている液体が移動する事がない。そして、パッド押し付けが完了すると、第3ポートPT−Bが減圧され(V3)、血液と前処理試薬Lが検体混合部Aを高速(100μL/min)に通過することにより均一に混合される(S4)。第2ポートPT−Dは、第3ポートPT−Bと同一の減圧で吸引されており、血液と前処理試薬の送液抵抗が大きくても、第2ポートPT−D内の前処理試薬が流路に流出することがない。
【0074】
液がセンシング位置PH1に到達し、液位置検出部のセンサーPH−1がONし(V4)、吸引速度が低速(30μl/min)に切り替えられる(S5)。
被加熱部Bを液が低速(30μl/min)で通過することにより(S6)、血液と前処理試薬の混合液Lは一定時間(例えば15秒間)、98℃に加熱され、白血球中のDNAが抽出され、1本鎖となる。
液がセンシング位置PH2に到達し、センサーPH−2がONすると(V5)、第2ポートPT−Dが大気開放となり、同時に第1ポートPT−Aが閉となり、吸引により、第2ポートPT−Dのみから増幅反応試薬が流出し(S7)、血液と前処理試薬の混合液Lと泡を含むことなく合流する(S8)。
【0075】
液がセンシング位置PH3に到達し、センサーPH−3がONすると(V6)、吸引速度が高速(100μl/min)に切り替えられ、一定流量(45μl)が吸引される(S9,S10)。
そして、第1ポートPT−Aが大気開放となり(V7)、さらに15μL吸引され、第2ポートPT−Dは空になり、第1混合部49で混合される(S11)。
さらに高速(500μl/min)で80μL吸引されることにより(V8)、混合液Lは第1保持部53、第2保持部55を通過し、酵素が溶解され、第2混合部51で混合される(S12)。
【0076】
さらに高速(500μl/min)で80μL加圧されることにより(V9)、混合液Lは第1混合部49に搬送され、未溶解の酵素が溶解され、第1混合部49で混合される(S13)。
さらに高速(500μl/min)で80μL吸引されることにより(V10)、第1保持部53、第2保持部55の酵素は完全に溶解され、また液体は第2混合部51で均一に混合される(S14)。
次に、第3ポートPT−Bより、0.2kPaで吸引することにより(V11)、第2混合部51の混合液Lは、反応部Fの流路に搬送される(S15)。
【0077】
液がセンシング位置PH5に到達し、センサーPH−5がONすると(V12)、第3ポートPT−Bは閉状態になり、第4ポートPT−Cが0.3kPaで吸引され、この状態が5秒間保持される。混合液Lは、反応検出セル27内に搬送され、セル下流の細い反応検出セル出口流路71で停止する(S16,S17,S18)。
【0078】
この時、各反応検出セル27は常温に保たれており、予めゼラチンにより固定化されているプライマーは溶解することなくセル内に保持されている。
次に、第4ポートPT−Cを閉状態とし(V13)、第3ポートPT−Bより100μl/minの速度で加圧することにより、反応検出セル27を連結している主流路73内の混合液は第2混合部51に押し戻され(S19)、各反応検出セル27には、2.5μLの混合液Lが秤量分注され、これらはお互いに液で連結していない状態となる(S20)。
【0079】
次に、検査装置11のパッドデバイスが離脱した後、図3に示すように、液流路封止装置40が、図示しない搬送機構によって待機位置から作動位置に移動して滴下ノズル101、103、105、107を第1ポートPT−A、第2ポートPT−D、第3ポートPT−B、および第4ポートPT−Cにそれぞれ対向させる。そして、定量ポンプ113が作動して滴下ノズル101、103、105、107から各ポートPT−A、PT−D、PT−B、およびPT−Cに所定量の充填材料111を滴下させて出入り口を封止する。これにより、チップ100は密閉状態となり、増幅反応による増幅産物がチップ外に流出することにより、環境を汚染する心配がなくなる。なお、充填材料111による汚染を防止するため、充填材料111は予め加熱するなど、適宜の殺菌装置により殺菌処理してから用いるのがよい。
【0080】
第1ポートPT−A、第2ポートPT−D、第3ポートPT−B、および第4ポートPT−Cは、検査装置11のパッドデバイスとの接続を容易にするため、大きく形成されていることが望ましい。これにより、パッドデバイスの位置制御が容易となる。特に、第1ポートPT−A、第2ポートPT−Dは、血液と前処理試薬、及び反応増幅試薬を投入するので、投入ミスを防止する観点からノズルの挿入が容易に行えるように大きく形成される。しかし、ポート部PTが大きくなるとその容量も大きくなるので、従来の封止方法のようにガラス薄板等の試料注入口カバーやシールによってポート部PTを封止するとポート部PT内に蓄積される残留空気の容量が大きくなり、温度変化による膨張や収縮代が大きくなる傾向がある。このため、液流路内での液の移動が発生して分析結果に影響を及ぼす可能性がある。
【0081】
しかし、本発明に係る液流路封止装置40のように、充填材料111を滴下させ、ポート部PT内に充填材料111を充填して出入り口を封止するようにすれば、ポート部PTの大きさに拘わらず、液流路内の残留空気の容量を少なくすることができ、且つ漏れのない状態で確実に封止することができる。これにより、反応部加熱時に空気の膨張による液流路内での液拡散が抑制されて高精度の解析結果が得られる。更に、試料注入口カバーやシールによる封止と比較して高い耐久性を有する。
【0082】
ポート部PT(液流路)の封止に用いられる充填材料111としては、滴下後に時間経過とともに硬化する材料が好ましく、例えば以下のような接着剤、シーリング材、UV硬化型樹脂などの材料が挙げられる。
(1)接着剤:エポキシ樹脂系、アクリル系、酢酸ビニル系
(2)シーリング材:シリコン系、ウレタン系、二トリルゴム
(3)UV硬化型樹脂:変性アクリレート
【0083】
次に反応部Fは、図示しない温調デバイスにより、60℃に急速に加熱される。加熱により、ゼラチンにより固定化されていたプライマーは、反応検出セル27内に均一に拡散し、等温増幅反応が始まる。
このとき、反応検出セル27両端の細い反応検出セル入り口流路69と反応検出セル出口流路71との液体端面は、温調デバイスとの熱的な接触が無い構造で常温近くに保たれており、60℃に加熱されることはない。そのため、反応検出セル27内の液体が、上記の加熱によって移動し、流路内から無くなってしまうことはない。
【0084】
各反応検出セル27a〜27mを図2に示す蛍光検出部17で励起光を照射し一定時間間隔で蛍光測定することにより、各反応検出セル27a〜27mに予め実装していたプライマーに対応するターゲット遺伝子配列が存在しているかどうかを知ることができる。ターゲット遺伝子配列が存在している場合には、蛍光強度の増大が確認されるのに対して、ターゲット遺伝子配列が存在していない場合には、蛍光強度の増大がない。
【0085】
したがって、本実施の形態によるマイクロ流体チップの液流路封止装置40によれば、マイクロ流体チップ100に接触することなく、充填材料111によって液流路の出入り口(ポート部PT)を塞ぎ、コンタミネーションやハンドリングトラブルがなく、正確且つ信頼性の高い分析結果を低コスト、短時間で得られる。
【0086】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態のマイクロ流体チップの液流路封止装置について説明する。図18は第2実施形態のマイクロ流体チップの液流路封止装置を備えた検査装置をマイクロ流体チップと共に示す概略構成図、図19(a)は図18に示した硬化型材料滴下部からマイクロ流体チップの出入り口に硬化型材料が滴下される状態を示すブロック図、図19(b)は活性エネルギー照射手段から活性エネルギーが照射されて硬化型材料が硬化する状態を示すブロック図である。
【0087】
図18及び図19に示すように、第2実施形態のマイクロ流体チップの液流路封止装置50は、硬化型材料滴下部60と、活性エネルギー照射手段70とを備え、硬化型材料滴下部60からマイクロ流体チップ100の出入り口に活性エネルギーにより硬化する硬化型材料(以下、単に硬化型材料と言う)121を滴下した後、活性エネルギー照射手段70から活性エネルギーを照射して硬化型材料121を硬化させる。それ以外は、マイクロ流体チップ100の構成も含めて、第1実施形態の液流路封止装置40と同様であるので、同一部分には同一符号または相当符号を付して説明を省略、または簡略化する。
【0088】
液流路封止装置50の硬化型材料滴下部60は、図19(a)に示すように、第1ポートPT−A、第2ポートPT−D、第3ポートPT−B、および第4ポートPT−Cにそれぞれ対応して配置された4つの滴下ノズル101、103、105、107を備える。各滴下ノズル101、103、105、107は、活性エネルギーにより硬化する硬化型材料121が貯留されるタンク109に定量ポンプ113を介して接続されており、定量ポンプ113を作動させて滴下ノズル101、103、105、107から各ポートPT−A、PT−D、PT−B、およびPT−Cに所定量の硬化型材料121を滴下させる。
【0089】
また、図19(b)に示すように、活性エネルギー照射手段70が各ポートPT−A、PT−D、PT−B、PT−Cに対応して配置されており、滴下された硬化型材料121に活性エネルギーを照射して硬化させる。
なお、液流路封止装置50は、遮光壁123によって外部から光学的に遮断されており、外光による硬化型材料121の硬化が防止されている。また、液流路封止装置50は、図示しない搬送機構によって、滴下ノズル101、103、105、107がポート部PTに対応する作動位置と、ポート部PTから離間した待機位置との間を移動自在となっている。
【0090】
そして、第1実施形態において説明したと同一のタイミング、即ち、各反応検出セル27に混合液Lが秤量分注され、検査装置11のパッドデバイスが離脱した後、図19に示すように、液流路封止装置50の硬化型材料滴下部60が、図示しない搬送機構によって待機位置から作動位置に移動して滴下ノズル101、103、105、107を第1ポートPT−A、第2ポートPT−D、第3ポートPT−B、および第4ポートPT−Cにそれぞれ対向させる。そして、定量ポンプ113が作動して滴下ノズル101、103、105、107から各ポートPT−A、PT−D、PT−B、およびPT−Cに所定量の硬化型材料121を滴下させる。次いで、図19(b)に示すように、活性エネルギー照射手段70から活性エネルギーを照射して各ポートPT−A、PT−D、PT−B、およびPT−C内に滴下・注入された硬化型材料121を硬化させて出入り口を確実に封止する。
【0091】
硬化型材料121は、活性エネルギーの照射によって短時間で硬化するので効率的に出入り口を封止することができる。これにより、チップ100は密閉状態となり、増幅反応による増幅産物がチップ外に流出することにより、環境を汚染する心配がなくなる。その他の作用及び効果については、第1実施形態において述べたものと同様であるので省略する。
【0092】
ここで、本発明で言う「活性エネルギー」とは、その照射により硬化型材料中において開始種を発生させうるエネルギーを付与することができるものであれば、特に制限はなく、広く、α線、γ線、X線、紫外線、可視光線、電子線、熱などを包含するものである。中でも、硬化感度及び装置の入手容易性の観点からは、紫外線及び電子線が好ましく、特に紫外線が好ましい。
【0093】
活性エネルギー照射手段としては、水銀ランプやガス・固体レーザー等が利用可能であり、特に紫外線の照射手段としては、水銀ランプ、メタルハライドランプが広く知られている。更には、発光ダイオードLED(UV−LED),レーザーダイオードLD(UV−LD)は小型、高寿命、高効率、低コストであり、活性エネルギー照射手段として好ましい。
【0094】
以下に、本発明の硬化型材料に用いられる成分について順次説明する。
本発明に用いられる硬化型材料組成物は、活性エネルギーの照射により硬化可能な組成物であり、例えば、カチオン重合系組成物、ラジカル重合系組成物、水性組成物等が挙げられる。これら組成物について以下詳細に説明する。
【0095】
(カチオン重合系組成物)
カチオン重合系組成物は、(a)カチオン重合性化合物と、(b)活性エネルギーの照射により酸を発生する化合物を含有する。
【0096】
〔(a)カチオン重合性化合物〕
本発明に用いられる(a)カチオン重合性化合物は、後述する(b)活性エネルギーの照射により酸を発生する化合物から発生する酸により重合反応を生起し、硬化する化合物であれば特に制限はなく、光カチオン重合性モノマーとして知られる各種公知のカチオン重合性のモノマーを使用することができる。カチオン重合性モノマーとしては、例えば、特開平6−9714号、特開2001−31892、同2001−40068、同2001−55507、同2001−310938、同2001−310937、同2001−220526などの各公報に記載されている、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物などが挙げられる。
【0097】
エポキシ化合物としては、芳香族エポキシド、脂環式エポキシド、脂肪族エポキシドなどが挙げられる。
芳香族エポキシドとしては、少なくとも1個の芳香族核を有する多価フェノール或いはそのアルキレンオキサイド付加体とエピクロルヒドリンとの反応によって製造されるジ又はポリグリシジルエーテルが挙げられ、例えば、ビスフェノールA或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールA或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル、並びにノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。ここで、アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0098】
脂環式エポキシドとしては、少なくとも1個のシクロへキセン又はシクロペンテン環等のシクロアルカン環を有する化合物を、過酸化水素、過酸等の適当な酸化剤でエポキシ化することによって得られる、シクロヘキセンオキサイド又はシクロペンテンオキサイド含有化合物が好ましく挙げられる。
【0099】
脂肪族エポキシドとしては、脂肪族多価アルコール或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル等が挙げられる。その代表例としては、エチレングリコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテル又は1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル等のアルキレングリコールのジグリシジルエーテル、グリセリン或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はトリグリシジルエーテル等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコール或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテルに代表されるポリアルキレングリコールのジグリシジルエーテル等が挙げられる。ここで、アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0100】
エポキシ化合物は、単官能であっても多官能であってもよい。
本発明に用いうる単官能エポキシ化合物の例としては、例えば、フェニルグリシジルエーテル、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、1,2−ブチレンオキサイド、1,3−ブタジエンモノオキサイド、1,2−エポキシドデカン、エピクロロヒドリン、1,2−エポキシデカン、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、3−メタクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−アクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−ビニルシクロヘキセンオキサイド等が挙げられる。
【0101】
また、多官能エポキシ化合物の例としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールSジグリシジルエーテル、エポキシノボラック樹脂、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールSジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタ−ジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンオキサイド、4−ビニルエポキシシクロヘキサン、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル−3’,4’−エポキシ−6’−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレングリコールのジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、1,1,3−テトラデカジエンジオキサイド、リモネンジオキサイド、1,2,7,8−ジエポキシオクタン、1,2,5,6−ジエポキシシクロオクタン等が挙げられる。
【0102】
これらのエポキシ化合物の中でも、芳香族エポキシド及び脂環式エポキシドが、硬化速度に優れるという観点から好ましく、特に脂環式エポキシドが好ましい。
【0103】
ビニルエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル等のジ又はトリビニルエーテル化合物、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル−O−プロピレンカーボネート、ドデシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等のモノビニルエーテル化合物等が挙げられる。
【0104】
ビニルエーテル化合物は、単官能であっても多官能であってもよい。
具体的には、単官能ビニルエーテルの例としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、n−ノニルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルメチルビニルエーテル、4−メチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、ジシクロペンテニルビニルエーテル、2−ジシクロペンテノキシエチルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、ブトキシエチルビニルエーテル、メトキシエトキシエチルビニルエーテル、エトキシエトキシエチルビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールビニルエーテル、テトラヒドロフリフリルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、4−ヒドロキシメチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールビニルエーテル、クロルエチルビニルエーテル、クロルブチルビニルエーテル、クロルエトキシエチルビニルエーテル、フェニルエチルビニルエーテル、フェノキシポリエチレングリコールビニルエーテル等が挙げられる。
【0105】
また、多官能ビニルエーテルの例としては、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ブチレングリコールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、ビスフェノールAアルキレンオキサイドジビニルエーテル、ビスフェノールFアルキレンオキサイドジビニルエーテルなどのジビニルエーテル類;トリメチロールエタントリビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ジトリメチロールプロパンテトラビニルエーテル、グリセリントリビニルエーテル、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、ジペンタエリスリトールペンタビニルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテル、エチレンオキサイド付加トリメチロールプロパントリビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加トリメチロールプロパントリビニルエーテル、エチレンオキサイド付加ジトリメチロールプロパンテトラビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加ジトリメチロールプロパンテトラビニルエーテル、エチレンオキサイド付加ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、エチレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテルなどの多官能ビニルエーテル類等が挙げられる。
【0106】
ビニルエーテル化合物としては、ジ又はトリビニルエーテル化合物が、硬化性の観点から好ましく、特にジビニルエーテル化合物が好ましい。
【0107】
本発明におけるオキセタン化合物は、オキセタン環を有する化合物を指し、特開2001−220526、同2001−310937、同2003−341217の各公報に記載される如き、公知オキセタン化合物を任意に選択して使用できる。オキセタン環を有する化合物としては、その構造内にオキセタン環を1〜4個有する化合物が好ましい。このような化合物を使用することで、硬化型材料の粘度をハンドリング性の良好な範囲に維持することが容易となる。
【0108】
このようなオキセタン環を有する化合物については、前記特開2003−341217公報、段落番号〔0021〕乃至〔0084〕に詳細に記載され、ここに記載の化合物は本発明にも好適に使用しうる。本発明で使用するオキセタン化合物の中でも、硬化型材料の粘度と粘着性の観点から、オキセタン環を1個有する化合物を使用することが好ましい。
【0109】
本発明の硬化型材料組成物には、これらのカチオン重合性化合物を、1種のみを用いても、2種以上を併用してもよいが、硬化時の収縮を効果的に抑制するといった観点からは、オキセタン化合物とエポキシ化合物とから選ばれる少なくとも1種の化合物と、ビニルエーテル化合物とを併用することが好ましい。
【0110】
[(b)活性エネルギーの照射により酸を発生する化合物]
本発明の硬化型材料組成物は、活性エネルギーの照射により酸を発生する化合物(以下、適宜、「光酸発生剤」と称する。)を含有する。
本発明に用いうる光酸発生剤としては、光カチオン重合の光開始剤、光ラジカル重合の光開始剤、或いはマイクロレジスト等に使用されている光(400〜200nmの紫外線、遠紫外線、特に好ましくは、g線、h線、i線、KrFエキシマレーザー光)、ArFエキシマレーザー光、電子線、X線、分子線又はイオンビームなどの照射により酸を発生する化合物を適宜選択して使用することができる。
【0111】
このような光酸発生剤としては、例えば、活性エネルギーの照射により分解して酸を発生する、ジアゾニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、セレノニウム塩、アルソニウム塩等のオニウム塩、有機ハロゲン化合物、有機金属/有機ハロゲン化物、o−ニトロベンジル型保護基を有する光酸発生剤、イミノスルフォネート等に代表される光分解してスルホン酸を発生する化合物、ジスルホン化合物、ジアゾケトスルホン、ジアゾジスルホン化合物を挙げることができる。
【0112】
光酸発生剤としては、また、特開2002−122994公報、段落番号〔0029〕乃至〔0030〕に記載のオキサゾール誘導体、s−トリアジン誘導体なども好適に用いられる。更に、特開2002−122994公報、段落番号〔0037〕乃至〔0063〕に例示されるオニウム塩化合物、スルホネート系化合物も、本発明における光酸発生剤として、好適に使用しうる。光酸発生剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0113】
[ラジカル重合系組成物]
ラジカル重合系組成物は、(d)ラジカル重合性化合物と(e)重合開始剤を含有する。以下、ラジカル重合系組成物に用いられる各構成成分について順次説明する。
【0114】
(d)[ラジカル重合性化合物]
ラジカル重合性化合物としては、例えば、以下に挙げるような付加重合化能なエチレン性不飽和結合を有する化合物が含まれる。
【0115】
[付加重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物]
本発明のインク組成物に用い得る付加重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物としては、例えば、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸など)と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、上記不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミド等があげられる。
【0116】
脂肪族多価アルコール化合物と不飽和カルボン酸とのエステルのモノマーの具体例としては、アクリル酸エステルとして、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリメチロールエタントリアクリレート、へキサンジオールジアクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、ソルビトールテトラアクリレート、ソルビトールペンタアクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、トリ(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ポリエステルアクリレートオリゴマー等がある。
【0117】
メタクリル酸エステルとしては、テトラメチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、へキサンジオールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ソルビトールトリメタクリレート、ソルビトールテトラメタクリレート、ビス〔p−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ジメチルメタン、ビス−〔p−(アクリルオキシエトキシ)フェニル〕ジメチルメタン等がある。イタコン酸エステルとしては、エチレングリコールジイタコネート、プロピレングリコールジイタコネート、1,3−ブタンジオールジイタコネート、1,4−ブタンジオールジイタコネート、テトラメチレングリコールジイタコネート、ペンタエリスリトールジイタコネート、ソルビトールテトライタコネート等がある。
【0118】
クロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジクロトネート、テトラメチレングリコールジクロトネート、ペンタエリスリトールジクロトネート、ソルビトールテトラジクロトネート等がある。イソクロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジイソクロトネート、ペンタエリスリトールジイソクロトネート、ソルビトールテトライソクロトネー卜等がある。マレイン酸エステルとしては、エチレングリコールジマレート、トリエチレングリコールジマレート、ペンタエリスリトールジマレート、ソルビトールテトラマレート等がある。さらに、前述のエステルモノマーの混合物もあげることができる。また、脂肪族多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのアミドのモノマーの具体例としては、メチレンビス−アクリルアミド、メチレンビス−メタクリルアミド、1,6−へキサメチレンビス−アクリルアミド、1,6−へキサメチレンビス−メタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド、キシリレンビスメタクリルアミド等がある。
【0119】
その他の例としては、特公昭48−41708号公報中に記載されている1分子に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に、下記の一般式(A)で示される水酸基を含有するビニルモノマーを付加した1分子中に2個以上の重合性ビニル基を含有するビニルウレタン化合物等があげられる。CH2=C(R)COOCH2CH(R')OH (A)(ただし、RおよびR'はHあるいはCH3を示す。)
また、特開昭51−37193号に記載されているようなウレタンアクリレー卜類、特開昭48−64183号、特公昭49−43191号、特公昭52−30490号公報に記載されているようなポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させたエポキシアクリレート類等の多官能のアクリレートやメタクリレートをあげることができる。さらに日本接着協会誌vol.20、No.7、300〜308ページ(1984年)に光硬化性モノマー及びオリゴマーとして紹介されているものも使用することができる。本発明において、これらのモノマーはプレポリマー、すなわち2量体、3量体およびオリゴマー、またはそれらの混合物ならびにそれらの共重合体などの化学的形態で使用しうる。
【0120】
[水性組成物]
水性組成物は、重合性化合物と活性エネルギーの作用によってラジカルを生成する水溶性光重合開始剤を含有する。
【0121】
[重合性化合物]
本発明の水性組成物に含まれる重合性化合物としては、公知の水性組成物に含まれる重合性化合物を用いることができる。
水性組成物は、硬化速度、密着性、柔軟性などのエンドユーザー特性を考慮した処方を最適化するために、反応性材料を加えることができる。このような反応性材料としては、(メタ)クリレート(即ち、アクリレート及び/又はメタクリレート)モノマー及びオリゴマー、エポキサイド並びにオキセタンなどが用いられる。
アクリレートモノマーの例としては、フェノキシエチルアクリレート、オクチルデシルアクリレート、テトラヒドロフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(例えば、テトラエチレングリコールジアクリレート)、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリ(プロピレングリコール)トリアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ビス(ペンタエリスリトール)ヘキサアクリレート、エトキシ化又はプロポキシ化グリコール及びポリオールのアクリレート(例えば、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート)、及びこれらの混合物が挙げられる。
アクリレートオリゴマーの例としては、エトキシ化ポリエチレングリコール、エトキシ化トリメチロールプロパンアクリレート及びポリエーテルアクリレート及びそのエトキシ化物、及びウレタンアクリレートオリゴマーが挙げられる。
メタクリレートの例としては、ヘキサンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0122】
〔活性エネルギーの作用によってラジカルを生成する水溶性光重合開始剤〕
重合開始剤の一例としては、例えば、波長400nm前後までの光重合開始剤が挙げられる。このような光重合開始剤としては、例えば、長波長領域に官能性、即ち、紫外線を受けてラジカルを生成する感受性を持つ物質である下記一般式で表される光重合開始剤(以下、TX系と略称する)が挙げられ、本発明においては、これらの中から適宜に選択して使用することが特に好ましい。
【0123】
【化1】
【0124】
上記一般式TX−1〜TX−3中、R2は−(CH2)x−(x=0または1)、−O−(CH2)y−(y=1または2)、置換若しくは未置換のフェニレン基を表わす。またR2がフェニレン基の場合には、ベンゼン環中の水素原子の少なくとも1つが、例えば、カルボキシル基若しくはその塩、スルホン酸若しくはその塩、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素等)、炭素数1〜4のアルコキシル基、フェノキシ基等のアリールオキシ基等から選ばれる1つまたは2つ以上の基や原子で置換されていてもよい。Mは、水素原子若しくはアルカリ金属(例えば、Li、Na、K等)を表わす。更に、R3及びR4は各々独立に、水素原子、または置換若しくは未置換のアルキル基を表わす。ここでアルキル基の例としては、例えば、炭素数1〜10程度、特には、炭素数1〜3程度の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。また、これらのアルキル基の置換基の例としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、シュウ素原子等)、水酸基、アルコキシル基(炭素数1〜3程度)等が挙げられる。また、mは1〜10の整数を表わす。
【0125】
更に本発明において、下記一般式からなる光重合開始剤 Irgacure2959(商品名:Ciba Specialty Chemicals製)の水溶性の誘導体(以下、IC系と略称する)を使用することもできる。具体的には、下記式からなるIC−1〜IC−3を使用することができる。
【0126】
【化2】
【0127】
なお、本発明に係る液流路封止装置は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形や改良等が可能である。
例えば、紫外線硬化型樹脂をマイクロ流体チップ内に予め組み込んでおき、上述したエア供給または吸引などの物理的作用力によって特定の液流路に紫外線硬化型樹脂を移動させた後、紫外線を照射して硬化させるようにしてもよい。この場合、液流路の紫外線硬化型樹脂を硬化させる部位は、紫外線が透過可能な材料で構成される。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】本発明に係る第1実施形態のマイクロ流体チップの液流路封止装置を備えた検査装置をマイクロ流体チップと共に示す概略構成図である。
【図2】図1に示した検査装置およびマイクロ流体チップの詳細な構成を示すブロック図である。
【図3】図2に示した液流路封止装置の概略構成図である。
【図4】図2に示したマイクロ流体チップの分解斜視図である。
【図5】マイクロ流体チップの上面視を(a)、下面視を(b)に表した平面図である。
【図6】図5(b)の拡大図である。
【図7】ポート出口流路の近傍を表す要部拡大平面図である。
【図8】反応検出セルの拡大平面図である。
【図9】ターゲット配列がある場合を(a)、ターゲット配列が無い場合を(b)に表した蛍光測定結果のグラフである。
【図10】液位置検出部の平面視を(a)、そのP1−P1断面視を(b)に表した説明図である。
【図11】液位置検出部の入反射光を表した模式図である。
【図12】反射率と入射角度との相関を表したグラフである。
【図13】マイクロ流体チップの駆動制御に伴う各要素の作動状態を時間軸に沿って表したタイムチャートである。
【図14】液セットから最初の加熱までの動作説明図である。
【図15】酵素混合までの動作説明図である。
【図16】反応部注入までの動作説明図である。
【図17】分注から検査完了までの動作説明図である。
【図18】本発明に係る第2実施形態のマイクロ流体チップの液流路封止装置を備えた検査装置をマイクロ流体チップと共に示す概略構成図である。
【図19】図18に示した硬化型材料滴下部からマイクロ流体チップの出入り口に硬化型材料が滴下される状態を(a)、活性エネルギー照射手段から活性エネルギーが照射されて硬化型材料が硬化する状態を(b)に示すブロック図である。
【符号の説明】
【0129】
21 流路基板
40 液流路封止装置
50 液流路封止装置
60 硬化型材料滴下部
70 活性エネルギー照射手段(紫外線照射装置)
100 マイクロ流体チップ
101 滴下ノズル(充填材料滴下手段)
103 滴下ノズル(充填材料滴下手段)
105 滴下ノズル(充填材料滴下手段)
107 滴下ノズル(充填材料滴下手段)
111 充填材料
121 活性エネルギーにより硬化する硬化型材料(紫外線硬化型樹脂)
A 検体混合部(液処理部)
B 被加熱部(液処理部)
C 試薬合流部(液処理部)
D 酵素保持部(液処理部)
E 酵素混合部(液処理部)
F 反応部(液処理部)
G 定量分注流路(液処理部)
PT ポート(液流路の出入り口)
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液等の生体物質を分析するマイクロ流体チップの液流路封止方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の分子生物学の進歩により、血液等の生体物質を分析する事により、病気の治療における薬剤投与の効果や副作用の体質による個人差を予知することが可能であることが示されてきており、これを利用して、個人個人にとって最適な治療を施していこうという気運が高まっている。例えば、特定の遺伝子と、特定の治療薬剤の効果や副作用が強く相関することがわかっている場合、この情報を特定の患者の治療に役立てるためには、患者の遺伝子の塩基配列を知る必要がある。内因性遺伝子の変異又は一塩基多型(SNP)に関する情報を得るための遺伝子診断は、そのような変異又は一塩基多型を含む標的核酸の増幅及び検出により行なうことができる。このため、サンプル中の標的核酸を迅速且つ正確に増幅及び検出し得る簡便な方法が求められる。
【0003】
この場合、被検出物質と特異的に結合する抗体又は抗原等のタンパク質或いは一本鎖の核酸をプローブに使い、微粒子、ビーズ、ガラス板等の固相表面に固定し、被検出物質と抗原抗体反応又は核酸ハイブリダイゼーションを行う。そして、酵素等の検知感度の高い標識物質を担持した特異的な相互作用を有する標識化物質、例えば標識化抗体や標識化抗原又は標識化核酸等を用いて、抗原抗体化合物や2本鎖の核酸を検出して、被検物質の有無の検出或いは被検物質の定量を行っている。
【0004】
この種の技術として、例えば特許文献1に開示される細菌芽胞処理チップ及び細菌芽胞処理装置は、芽胞を形成した細菌を含む試料が供給される注入口と、注入口に供給された試料に導入される発芽促進剤を保管する発芽促進液保管部と、試料と発芽促進剤とを混合した液に導入される溶解液を保管する溶解液保管部と、試料と発芽促進剤と溶解液とを混合し、試料から遺伝子が溶出される遺伝子溶出部と、溶出遺伝子と結合する遺伝子結合担体を備える遺伝子抽出部と、遺伝子抽出部に導入される洗浄液を保管する洗浄液保管部と、遺伝子抽出部に導入される溶離液を保管する溶離液保管部と、溶離液により溶離された遺伝子が導入される反応部とを備え、細菌芽胞から遺伝子の抽出・分析を行う。試料注入口が大気開放されていることによる大気からの汚染や、試薬類の漏れを防止するため、試料を試料注入口に分注した後、ガラス薄板(例えば顕微鏡用のカバーガラス)等の試料注入口カバーを手動または自動により試料注入口に被せることが開示されている。
【0005】
また、特許文献2に開示される塩基配列検出装置及び塩基配列自動解析装置は、塩基配列検出チップに設けられた流路、該流路に沿って設けられた作用極と対極と参照極、流路に上流側から薬液またはエアを送入する送入ポート、流路から薬液またはエアを送出する送出ポート、および該流路内に試料を注入する試料注入口を備え、試料注入口から注入された試料の塩基配列を検出する。試料注入口の近傍には蓋が配設されており、試料を注入した後、蓋を押圧して試料注入口に挿入し、試料や薬液の漏れを防止している。
【0006】
【特許文献1】特開2005−253365号公報
【特許文献2】特開2004−125777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、上記特許文献1及び上記特許文献2では、試料注入口を試料注入口カバーや蓋によって塞ぐ際、分析装置側に設けられたカバー装着機構が試料注入口カバーや蓋に直接接触することになる。万一、試料注入口カバーや蓋に異物や試料注入口に注入した試料などが付着していると、これらの異物などがカバー装着機構に付着してしまい、それ以降に分析装置にかけられるチップが汚染される可能性がある。このことは、多くのチップが連続して自動的に処理される分析装置においては、チップ汚染に気が付くまでに多量のチップが処理されてしまい、それらの分析結果に重大な影響を与えることとなるので深刻な問題である。また、カバー装着機構が流路内の試料に触れると、チップ間の試料混合によるコンタミネーションが発生し、検査結果の信頼性が低下する。更に、試料注入口とカバー装着機構の位置を正確に合わせる必要があるため、カバー装着機構が複雑となってハンドリングトラブル発生が懸念されるばかりでなく、分析装置の製作費が嵩む問題があった。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、マイクロ流体チップに接触することなく、充填材料によって液流路の出入り口を塞ぎ、コンタミネーションやハンドリングトラブルがなく、正確且つ信頼性の高い分析結果を低コスト、短時間で得られるマイクロ流体チップの液流路封止方法およびその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る上記目的は、下記方法により達成できる。
(1) 基板内に形成された液流路に沿って液処理部が配設されたマイクロ流体チップの液流路封止方法であって、
前記液流路の出入り口に、充填材料を滴下して前記液流路を塞ぐことを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止方法。
【0010】
このような液流路封止方法によれば、マイクロ流体チップの液流路の出入り口に、充填材料を滴下して液流路を塞ぐようにしたので、マイクロ流体チップに接触することなく液流路を塞ぐことができる。これにより、コンタミネーションの発生を防止して信頼性の高い分析を行うことができる。また、液流路閉塞機構を簡素化することができ、機械故障などのハンドリングトラブルを防止することができる。
【0011】
(2) 上記(1)記載のマイクロ流体チップの液流路封止方法であって、
前記充填材料が活性エネルギーにより硬化する硬化型材料であり、
前記液流路の出入り口に滴下した前記硬化型材料に向けて活性エネルギー照射部から前記活性エネルギーを照射することを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止方法。
【0012】
このような液流路封止方法によれば、活性エネルギーにより硬化する硬化型材料を液流路の出入り口に滴下し、活性エネルギー照射部から活性エネルギーを照射して硬化させるようにしたので、マイクロ流体チップに非接触で、短時間且つ確実に液流路の出入り口を塞ぐことができる。また、硬化型材料を容易に出入り口へ滴下でき、且つ硬化した硬化型材料は高い耐久性を有するので、薬液や試料の漏れ、コンタミネーションの発生を確実に防止して信頼性の高い分析結果が得られる。尚、硬化型材料は、予め加熱などの殺菌処理を施して無菌状態としてから使用することがコンタミネーション防止の観点から望ましい。
【0013】
(3) 上記(2)記載のマイクロ流体チップの液流路封止方法であって、
前記活性エネルギーが紫外線であり、
前記硬化型材料が、紫外線硬化型樹脂であることを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止方法。
【0014】
このような液流路封止方法によれば、紫外線硬化型樹脂を液流路の出入り口に滴下し、紫外線を照射して硬化させるようにしたので、マイクロ流体チップに非接触で、短時間且つ確実に液流路の出入り口を塞ぐことができ、薬液や試料の漏れ、コンタミネーションの発生を確実に防止して信頼性の高い分析結果が得られる。
【0015】
また、本発明に係る上記目的は、下記装置により達成できる。
(4) 基板内に形成された液流路に沿って液処理部が配設されたマイクロ流体チップの液流路封止装置であって、
前記液流路の出入り口に、充填材料を滴下して前記液流路を塞ぐ充填材料滴下手段を備えたことを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止装置。
【0016】
このように構成された液流路封止装置においては、充填材料滴下手段から液流路の出入り口に充填材料を滴下して液流路を塞ぐようにしたので、マイクロ流体チップに接触することなく液流路を塞ぐことができる。これにより、コンタミネーションの発生を防止して信頼性の高い分析を行うことができる。また、液流路閉塞機構は、機構が簡単な充填材料滴下手段であるので、機械故障などのハンドリングトラブルを防止することができる。
【0017】
(5) 上記(4)記載のマイクロ流体チップの液流路封止装置であって、
前記充填材料が活性エネルギーにより硬化する硬化型材料であり、
前記液流路の出入り口に滴下した前記硬化型材料に向けて前記活性エネルギーを照射する活性エネルギー照射手段を更に備えたことを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止装置。
【0018】
このように構成された液流路封止装置においては、充填材料滴下手段から活性エネルギーにより硬化する硬化型材料を液流路の出入り口に滴下した後、活性エネルギー照射手段によって活性エネルギーを照射して硬化させるようにしたので、マイクロ流体チップに非接触で、短時間且つ確実に液流路の出入り口を塞ぐことができる。これにより、コンタミネーションの発生を防止して信頼性の高い分析を行うことができる。
【0019】
(6) 上記(5)記載のマイクロ流体チップの液流路封止装置であって、
前記硬化型材料が、紫外線硬化型樹脂であり、
前記活性エネルギー照射手段が、紫外線を照射する紫外線照射装置であることを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止装置。
【0020】
このように構成された液流路封止装置においては、充填材料滴下手段から紫外線硬化型樹脂を液流路の出入り口に滴下し、紫外線照射装置から紫外線を照射して硬化させるようにしたので、マイクロ流体チップに非接触で、短時間且つ確実に液流路の出入り口を塞ぎ、コンタミネーションの発生を防止して信頼性の高い分析を行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のマイクロ流体チップの液流路封止方法およびその装置によれば、マイクロ流体チップに接触することなく、充填材料によって液流路の出入り口を塞ぎ、コンタミネーションやハンドリングトラブルがなく、正確且つ信頼性の高い分析結果を低コスト、短時間で得られるマイクロ流体チップの液流路封止方法およびその装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係るマイクロ流体チップの液流路封止装置の好適な各実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0023】
(第1実施形態)
図1は本発明に係るマイクロ流体チップの液流路封止装置を備えた検査装置をマイクロ流体チップと共に示す概略構成図、図2は検査装置およびマイクロ流体チップの詳細な構成を示すブロック図である。
【0024】
図1に示すように、検査装置11は、制御部19と、送液部20と、加熱・検出部30と、液流路封止装置40と、を備える。マイクロ流体チップ(以下、単に「チップ」とも称す。)100は、検査装置11にセットされて使用され、一回の使用後に廃棄される。本実施の形態は、検体である血液(全血)がマイクロ流体チップ100に注入される。マイクロ流体チップ100は、検査装置11にセットされることで、チップ外部からの物理的作用力によって検体液がハンドリングされ、例えば一塩基多型の複数ターゲット遺伝子が検査されるものであり、特開2005-160387号に示されているような、ターゲット配列の核酸を等温で特異的に増幅するための反応とその検出をチップ100上で実現可能とするものである。これにより、例えば、標的核酸を増幅してこれを検出することで、感染症の原因となる病原体に特異的な標的核酸の増幅及び検出が可能となり、検体中の該病原体の存否等が判定可能となる。
【0025】
本実施の形態において、物理的作用力は、液流路の始点と終点に設けたポート部PTからエア供給又はエア吸引することにより発生する空気圧作用力(空圧駆動力)である。したがって、液流路内に供給された液体が、液流路の始点と終点とに作用されるエア供給又はエア吸引により、液流路内の所望位置へ移動制御可能となる。この際、液体は、始点と先端部、後端部と終点との間に介在する気体に挟持された状態で保持され、引っ張り力の作用により途中で分断されることがない。
【0026】
なお、DNA増幅反応は、等温増幅反応により、使用する酵素の活性が一定に維持できる温度に保たれる。ここで、「等温」とは、酵素およびプライマーが実質的に機能しうるような、ほぼ一定の温度をいう。さらに、「ほぼ一定の温度」とは、酵素及びプライマーの実質的な機能を損なわない程度の温度変化であれば許容されることを意味する。
【0027】
図2に示すように、検査装置11の送液部20は、作動流体として空気が使用されるポンプPMPと、バルブSV1,SV2,SV3,SV4を備える。また、加熱・検出部30は、検体加熱部13と、温調部15と、液位置検出部16と、蛍光検出部17とを備える。送液部20および加熱・検出部30の各装置は、これらに接続されて検出信号が入力され、或いは制御信号を送出する制御部19に接続されている。
【0028】
送液部20のバルブSV4はポンプPMPとバルブSV2との間に介装され、バルブSV2は作動流体制御側がチップ100の第4ポートPT−Cと、バルブSV1は作動流体制御側がチップ100の第2ポートPT−Dと、バルブSV3は作動流体制御側が第1ポートPT−Aとに接続され、バルブSV2の作動流体制御側とバルブSV1の作動流体入力側はチップ100の第3ポートPT−Bに接続される。また、加熱・検出部30の検体加熱部13は、チップ100の被加熱部Bを加熱し、温調部15はチップ100の反応部Fの温度調節を行い、蛍光検出部17は反応部Fの蛍光を検出可能としている。これら各構成要素の動作については後に詳述する。
【0029】
図3は図1に示した液流路封止装置40の概略構成図である。
液流路封止装置40は、図3に示すように、第1ポートPT−A、第2ポートPT−D、第3ポートPT−B、および第4ポートPT−Cにそれぞれ対応して配置された4つの滴下ノズル101、103、105、107を備える。各滴下ノズル101、103、105、107は、充填材料111が貯留されるタンク109に定量ポンプ113を介して接続されており、定量ポンプ113を作動させて滴下ノズル101、103、105、107から各ポートPT−A、PT−D、PT−B、およびPT−Cに所定量の充填材料111を滴下させる。液流路封止装置40は、図示しない搬送機構によって、各滴下ノズル101、103、105、107がポート部PTに対応する作動位置と、ポート部PTから離間した待機位置との間を移動自在となっている。
【0030】
図4は図2に示したマイクロ流体チップの分解斜視図、図5はマイクロ流体チップの上面視を(a)、下面視を(b)に表した平面図である。
マイクロ流体チップ100は、図4に示すように、流路基板21と、この流路基板21の一方の面(下面)22に貼着される蓋材23とにより構成されている。流路基板21は、熱可塑性の高分子ポリマーの射出成形により製作される。使用する高分子ポリマーは、特に限定されないが、光学的に透明であり、耐熱性が高く、化学的に安定であり、射出成形が容易なものが望ましく、COP、COC、PMMA等が好適である。光学的に透明とは、検出に用いる励起光や蛍光の波長において透過性が高く、散乱が小さく、自家蛍光が少ないことである。チップ100は、蛍光を検出可能とする透光性を有していることで、検出試薬に例えばサイバーグリーンが用いられ、反応によって増幅された2本鎖DNAにインターカレートすることで発する蛍光が測定可能となる。これにより、ターゲットとする遺伝子配列の存在の有無が検出可能となる。
【0031】
流路基板21の他方の面(上面)28には掘り込み29,31が形成され、掘り込み29,31は被加熱部B、反応部Fに対応して位置している。また、流路基板21の下面22には図5に示すように、上記の第1ポートPT−A、第2ポートPT−D、第3ポートPT−B、第4ポートPT−Cに連通する開口33,35,37,39が設けられている。流路基板21は、外形が例えば縦横W2,W1が55×91mmであり、厚みtが2mm程度で形成される。
【0032】
蓋材23は、流路基板21の流路面(下面22)に形成されたポート、セル、流路(溝)に蓋をするための部材であり、蓋材23と流路基板21は接着剤や粘着剤により接合される。蓋材23としては、流路基板同様、光学的に透明であり、耐熱性が高く、化学的に安定であるシート状の高分子ポリマーを用いる。本実施の形態では、100μmの厚みのPCR用プレートシールを用いた(プラスチックフィルムに粘着剤が塗布されている)。
【0033】
図6は図5(b)の拡大図、図7はポート出口流路の近傍を表す要部拡大平面図である。
流路基板21には、液体に必要な操作(詳しくは後述)するためのポート、セル、流路等が構成されている。すなわち、図6に示すように、流路基板21は、生体細胞を含む検体液と前処理試薬(第1液)とを投入する第1ポートPT−Aと、反応増幅試薬(第2液)を投入する第2ポートPT−Dと、流路内に空気圧を供給する第3ポートPT−Bと、減圧される流路終端の第4ポートPT−Cと、第1ポートPT−Aから投入された検体液と前処理試薬とを混合して第1混合液を生成する第1の流路(検体混合部)Aと、第1混合液を加熱して生体細胞よりDNAを抽出し1本鎖に分解する第2の流路(被加熱部)Bと、被加熱部Bで処理された第1混合液に反応増幅試薬を合流させる第3の流路(試薬合流部)Cと、試薬合流部Cで合流された第2混合液が通過することにより溶解が進む酵素(第1固体)を固化実装した第4の流路(酵素保持部)Dと、酵素保持部Dで処理される第2混合液への酵素の混合を助長する第5の流路(酵素混合部)Eと、酵素混合部Eに接続され、流路内に固化実装されたプライマー(第2固体)の溶解、加熱によるDNA増幅、DNA増幅の検出を同一位置で行う複数の第6の流路(反応部)Fと、反応部Fの流路に接続され酵素混合部Eで処理された第2混合液を反応部Fの複数の反応検出セル27それぞれに定量分注するための第7の流路(定量分注流路)Gと、を備える。
【0034】
第1ポートPT−A、第2ポートPT−D、第3ポートPT−B、第4ポートPT−C(ポート部PT)は、流路基板21を上下面に貫通した穴により構成され、蓋材23を貼り付けることにより、流路と連結した凹部が形成される。各ポート部PTは、流路基板21の他の部分より若干厚みが大きくなっており、この部分に検査装置11の送液用のポートパッド(図示せず)が接続される。各ポートパッドは、配管を経由してバルブSV1,SV2,SV3,SV4(バルブSV)に接続される。このバルブSVには送液駆動のための上記したポンプPMPが接続されている。これらバルブSVとポンプPMPの動作を制御部19によって制御することにより、ポート部PTの空気を減圧、加圧、大気開放、密閉状態にすることができ、流路内の液滴を自在に搬送することができる。
【0035】
また、マイクロ流体チップ100は、所望の搬送が完了した時点で、ポート部PTからポートパッドを脱離させた後、液流路封止装置40を待機位置から作動位置へ移動させ、図3に示すように、滴下ノズル101、103、105、107をそれぞれ各ポートPT−A、PT−D、PT−B、およびPT−Cに対向配置して充填材料111を滴下させる。これにより、各ポートPT−A、PT−D、PT−B、およびPT−Cの出入り口が充填材料111によって塞がれて、チップ100が密閉状態とされる。チップ100を密閉しない状態で増幅反応を行った場合、増幅されたDNAがチップ外に流出して環境を汚染し、キャリーオーバーの危険性があり、これを防止するために増幅反応前にチップ100を密閉状態にする。充填材料111によるポートPT−A、PT−D、PT−B、およびPT−Cの封止については、後に詳述する。
【0036】
第1ポートPT−Aは、検体ポートとして使用され、血液1μLと前処理試薬3μLとが投入される。前処理試薬は、血液中の白血球から核酸成分を単離するために用いられる。界面活性剤や強アルカリを用いて化学的に溶解処理が行われる。例えば、界面活性剤として、ノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。また、血液の凝固を防ぐために、へパリンやEDTA等の凝固防止剤を添加しても良い。
【0037】
第2ポートPT−Dは、液体試薬ポートとして使用され、反応増幅試薬が56μL投入される。反応増幅試薬には、酵素、プライマー以外の増幅反応と検出に必要とする試薬が含まれている。例えば、塩化マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム等の触媒、dNTPミックス等の基質、トリス塩酸バッファー、トライシンバッファー、リン酸ナトリウムバッファー、リン酸カリウムバッファー等の緩衝液を使用することができる。さらに、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide)やベタイン(N,N,N-trimethylglycine)等の添加物、国際公開第99/54455号パンフレットに記載の酸性物質、陽イオン錯体等を使用してもよい。
【0038】
検出試薬にはサイバーグリーンを用いることができる。サイバーグリーンは、反応によって増幅された2本鎖DNAにインターカレートすることにより、強い蛍光を発する。この蛍光強度を測定することにより、ターゲットとする遺伝子配列の存在の有無を検出する。
【0039】
第3ポートPT−B、第4ポートPT−Cは、送液ポートとして使用され、ポンプPMPやバルブSVによって、減圧、加圧や大気開放状態、閉状態に切り替えられるにより流路内の液滴を駆動する。
【0040】
図7に示すように、検体混合部Aは、第1ポートPT−Aに投入した血液と前処理試薬の全量より大きな亀の甲状セルが複数連結した流路になっており、この流路を通過させることにより、第1ポートPT−Aに投入した血液と前処理試薬を均一に混合する。すなわち、検体混合部Aの流路は、液体の流動方向に直交する方向の断面積が他の流路における断面積に比して大きい広幅流路部41と、該広幅流路部41より断面積が小さい狭幅流路部43とが交互に形成されている。したがって、第1ポートPT−Aに投入された血液が、検体混合部Aに到達すると、液体が流動する方向に沿って広幅流路部41と狭幅流路部43とが交互に形成された流路を通過することで、オリフィス作用による撹拌が複数回行われ、血液と前処理試薬とが均一に混合される。
【0041】
被加熱部Bは、図2に示す検体加熱部13により98℃に加熱される。すなわち、マイクロ流体チップ100は、液処理の制御動作条件が、液体を液処理部で加熱処理するための加熱設定温度を含む条件となる。例えば、PCR(Polymerase Chain Reaction)法による核酸増幅反応等において、液流路内の送液制御により、鋳型DNA、プライマー、基質、耐熱性ポリメラーゼ酵素等の混合された反応液が温度調節され、所定の3種類の温度に順次変化されることを繰り返すことで、目的とするDNAが増幅可能となる。本実施の形態では、この部分を血液と前処理試薬が通過することにより、前処理試薬により白血球から抽出されたDNA2本鎖が1本鎖になる。被加熱部Bは、加熱を均一に行うために、流路基板21には掘り込み29が設けられ、この部分の厚みが1.2mm程度に薄くなっている。
【0042】
試薬合流部Cは、加熱処理された血液と前処理試薬に反応増幅試薬を合流させる。第2ポートPT−Dにおける流路の毛細管力の大小関係は、ポートD出口流路45>主流路47>ポートD流路(第2ポートPT−D) という関係になっており、ポートD出口流路45と主流路47の接続部はラプラス圧バルブが構成されている。第2ポートPT−Dに投入した反応増幅試薬は主流路47に流出することなく、ポートD出口流路45と主流路47の接続面で留まる。また、後述する操作により血液と前処理試薬の混合液がポートD出口流路45に到着すると、ラプラス圧バルブが破壊され、上記の2液体が合流する。
【0043】
酵素混合部Eは、図6に示すように、液溜め室である第1混合部49と第2混合部51とを有する。酵素保持部Dは、第1混合部49と第2混合部51との間に設けられ、第1保持部53と第2保持部55とからなる。第1保持部53は、第1混合部49と第2混合部51の間に設置された、試薬保持用のセルであり、ポリミラーゼとデキストリンの水溶解液を点着後、凍結乾燥により乾燥、固化した試薬57が保持される。
【0044】
この保持部の上流と下流の流路は、その保持部より細くなっており、乾燥固化した試薬57の流路への密着力が無い場合でも、チップ100の保存、運搬等の振動により固化試薬57が剥がれ落ちて前後の流路へ流出してしまうことを防いでいる。
【0045】
ポリメラーゼは、鎖置換(strand displacement)活性(鎖置換能)を有するものであればよく、常温性、中温性、もしくは耐熱性のいずれのものも好適に使用できる。また、このポリメラーゼは、天然体もしくは人工的に変異を加えた変異体のいずれであってもよい。このようなポリメラーゼとしては、DNAポリメラーゼが挙げられる。さらに、このDNAポリメラーゼは、実質的に5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有しないものであることが好ましい。このようなDNAポリメラーゼとしては、バチルス・ステアロサーモフィルス(Bacillus stearothermophilus、以下「B.st」という)、バチルス・カルドテナックス(Bacillus caldotenax、以下「B.ca」という)等の好熱性バチルス属細菌由来DNAポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠失した変異体、大腸菌(E.coli)由来DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント等が挙げられる。
【0046】
デキストリンは酵素の安定化剤として用いられる。これにより、酵素の長期保存が可能になると共に、増幅反応においても、反応液中の酵素が安定化されるため、核酸の増幅効率を高めることが可能となる。その他の酵素安定化剤として、グリセロール、ウシ血清アルブミン、糖類などを用いることができる。
【0047】
第2保持部55は第1保持部53の下流に設置され、第1保持部53と同様の構造になっている。第2保持部55には、MutSとデキストリンの水溶液を点着後、凍結乾燥により乾燥、固化させた試薬59が保持される。MutSは、「ミスマッチ結合タンパク質」(「ミスマッチ認識タンパク質」とも称される)と呼ばれるタンパク質群の1つである。これは、DNAの2本鎖において部分的に対合できない(ミスマッチ)塩基対が生じたときに、これを修復する機能を有するタンパク質群であり、MutSタンパク質(特表平9−504699号公報)以外に、MutMタンパク質(特開2000−300265号公報)などの様々なミスマッチ結合タンパクが知られている。
【0048】
酵素混合部Eは、血液、前処理試薬、反応増幅試薬の合流液を第1混合部49、第2混合部51の間を往復させることにより、第1の酵素である試薬57、第2の酵素である試薬59を溶解し、前記液体を均一に混合する。往復時に液滴が気泡を巻き込まないように安定に搬送するために、酵素混合部Eは混合液に対して撥水的であることが望ましく、本実施の形態では流路基板21の材料にCOP(水の接触角約110°)を選択した。
【0049】
反応部Fには、ターゲットDNAのプライマーとゼラチンの水溶解液が点着後冷却固化、固定されている。プライマーは、ターゲットDNAの特定部分に相補的な塩基配列を有する20塩基長程度のオリゴヌクレオチドであり、ポリメラーゼによるDNAの合成の起点となる。本実施の形態では13個の反応検出セル27a〜27mが構成されており、検査対象の遺伝子に対して、wildとmutantの配列に特異的に増幅反応を行うために、wildを増幅させるプライマー61及び、mutantを増幅させるためのプライマー63を一対として、それぞれ異なる反応・検出セルに固定している。
【0050】
すなわち、12個の反応検出セル27a〜27lで6ケ所D1〜D6の遺伝子を検査対象としている。残りの1ケ所PDの反応検出セル27mには、多型の存在しない遺伝子配列を増幅させるためのプライマー65が固定されており、このセルはポジコンとして用いられる。第1混合部49、第2混合部51で混合された検体は、各反応検出セル27a〜27mに定量分注される。
【0051】
この反応検出セル27a〜27mを60℃に加熱することにより、固化したゼラチンが溶解し、各反応検出セル27a〜27m内に分散し、等温増幅反応が行われる。プライマーの水溶液のみを反応検出セル27に点着し、乾燥固定化することもできるが、この場合、セル内に液体が流入した際に、プライマーが流れ方向に流されてしまい、セル内での反応、検出が行えない。このため、常温の水溶液では溶解しにくいゼラチンを0.5%含有させて点着、固化した。
【0052】
図8は反応検出セルの拡大平面図である。
各反応検出セル27a〜27mの前後には反応検出セル入り口流路69と反応検出セル出口流路71が配置され、この入り口出口流路69,71は細い流路となっている。分注後の液体の端面は、入り口流路69と主流路73の接続面、及び出口流路71と排気流路75の接続面に留まっている。反応部Fには加熱部77が形成され、加熱部77は、加熱を均一に行うために、上記の掘り込み31によって、流路基板21の厚みが1.2mm程度に薄くなっている。加熱部77は、反応検出セル27全体と、入り口出口流路69,71の一部分までを加熱する配置になっており、加熱部77以外は、他の温度調整手段によって常温に温度調節されている。すなわち、反応検出セル27内の液体の両端面は、加熱されることなく、常温に保持される。このことにより、加熱により水分が蒸発することを防ぐことができる。この加熱部77及びその周りの温度調節手段が、図2の温調部15を構成している。
【0053】
入り口出口流路69,71、主流路73、排気流路75は、定量分注流路Gを構成している。定量分注流路Gは、酵素混合部Eで処理された第2混合液を反応部Fの複数の反応検出セル27それぞれに定量分注する。
【0054】
反応検出セル27に定量分注された液体は、生態細胞を有する検体液、前処理試薬、反応増幅試薬を含む。反応検出セル27には核酸の断片であるプライマー61、63、…が実装されており、この反応検出セル27に液体を定量分注し、加熱しながら励起光を照射する事により、液処理部内で発生する蛍光を検出する。反応検出セル27では、被検出物質の核酸増幅反応が行われる。この際、検知感度の高い標識物質である発光性物質を担持した特異的な相互作用を有する標識化物質、例えば標識化抗体や標識化抗原又は標識化核酸等が用いられる。サイバーグリーンは、反応によって増幅された2本鎖DNAにインターカレートすることにより、強い蛍光を発する。この蛍光強度を測定することにより、ターゲットとする遺伝子配列の存在の有無が検出可能となる。
【0055】
図9はターゲット配列がある場合を(a)、ターゲット配列が無い場合を(b)に表した蛍光測定結果のグラフである。
反応検出セル27a〜27mは、光学系により、約490nmの波長で励起し、インターカレートしたサイバーグリーンの約520nmの蛍光を測定することにより、ターゲットDNAの増幅が確認される。すなわち、図9に示すように、ターゲットとする核酸配列が存在する場合には、蛍光強度Iの増加が確認され、存在しない場合には蛍光強度Iの増加が確認されない。
【0056】
反応部Fでは、反応検出セル27a〜27mへの分注時に液体がスムーズに進入し、出口部でのラプラス圧バルブによる停止が安定に行えるためには、反応検出セル27とその前後の細い入り口出口流路69,71は適度に親水的であることが望ましい。本実施の形態では、少なくとも入り口出口流路69,71が、プラズマ照射により親水化されている(水の接触角約70°)。
【0057】
流路基板21を部分的に親水化、又は撥水化する方法としては、プラズマ照射以外に公知の方法(親水化/撥水化処理液を塗布する方法、UV照射、蒸着やスパッタにより親水化/撥水化材料の薄膜を形成する方法、2色成形やインサート成形により、濡れ性の異なる樹脂を用いて成形する方法等)を用いることができる。本実施の形態では、各流路(少なくとも入り口出口流路69,71)の流路内壁面が、少なくとも2段階以上の濡れ性を有している。これにより、各反応検出セル27a〜27mへの分注時に液体がスムーズに進入し、出口部でのラプラス圧バルブによる停止が安定に行えるようになっている。
【0058】
本実施の形態では、上記のように、6組の一塩基多型を判定するための12個の反応検出セル27a〜27lと、ポジコン用の1個の反応検出セル27mにより構成されている。ポジコン用反応検出セル27mには、多型が存在しない遺伝子配列部をターゲットとするプライマー65が実装されており、どんな検体を検査しても、蛍光強度の増大が確認される。このポジコン用反応検出セル27mの蛍光を確認することにより、一連の送液操作が正常に行われ、且つ正常な反応が行われたことを確認することができ、検査結果の信頼性を保障することが可能となる。
【0059】
また、ネガコンの保障方法としては、血液の代わりに水を投入して一連の反応を行わせ、蛍光強度の増大が無いことを確認しても良いし、同一基板上に2組の回路を形成し、検査とネガコンの保障を同時に行っても良い。
【0060】
有限な液体をマイクロ流体チップ100で操作する場合、特に、能動的なバルブやポンプを内蔵していないシンプルな流路により構成されているマイクロ流体チップ100で、液体の複雑なハンドリングをチップ外部からの空圧駆動で行うには、液体の位置を正確に検出することが不可欠となる。液体の位置を検出しないで、例えば駆動空気の流量で制御しようとすると、ポンプからマイクロ流体チップ100のポート部PTまでの配管や、チップ内の流路の空気の体積(デッドボリューム)の温度変化による膨張や収縮、流路内の微小な傷や静電気による流量抵抗の変化、或いは流体を加熱した時に流体が蒸発することによる蒸気圧の影響などの外乱により、再現性良く液体をハンドリングすることは困難となる。このため、液体の位置を正確に検出することは非常に重要となる。
【0061】
マイクロ流体チップ100は、液流路の特定位置において液流路内の液体の先端部、後端部の少なくともいずれかを検出し、検出されたタイミングに応じて液体の制御動作条件を決定する。これにより、ピペッティングの操作、装置への出し入れ等の煩雑な操作を不要にして、液流路内での検体中のDNAの抽出或いは増幅等の反応が可能となる。液体の制御動作条件は、液体に対する移動の方向、移動速度、移動のための駆動力のうち、少なくとも1つを含むものであれば、液流路内における送液の移動制御が可能となる。また、液体移動の方向、移動速度、駆動力の全てを制御可能とした構成によれば、これらの動作条件が自在に切り替えられることで、ピペッティングの操作、装置への出し入れ等を行うのと同等の送液制御が可能となる。
【0062】
本実施の形態では、液体の位置を検出することにより、液体の駆動速度、駆動方向、駆動力の制御を、検査装置11の制御部19によって切り替えている。ここで駆動力とは、一定圧力による吸引や加圧以外に、ポート部PTの大気開放、閉状態、及び複数ポート部PTの連結状態を含むものとする。
【0063】
図10は液位置検出部の平面視を(a)、そのP1−P1断面視を(b)に表した説明図、図11は液位置検出部の入反射光を表した模式図、図12は反射率と入射角度との相関を表したグラフである。
マイクロ流体チップ100には液位置検出のためのセンシング部PH1〜5(図2,図6参照)が配置されている。本実施の形態では、このセンシング部PH1〜5に対向する位置に、液位置検出部16が配置される。図2には纏めて1つの液位置検出部16を示しているが、センシング部PH1〜5の合計5箇所それぞれに対向して配置される。この液位置検出部16の具体例として、図10に示す反射型光ファイバーセンサー87が使用されている。各ファイバーセンサー87の先端は、図10に示すように、チップ100の蓋材23側から流路83に向けて配置されている。
【0064】
反射型光ファイバーセンサー87は、流路83の特定位置に光を照射して流路83からの反射光を検出し、特定位置おける流路内の液体の有無を、反射光の空気と液体との屈折率変化に基づく光量変化から判定する。したがって、チップ100の外部から光りを照射し、その反射光の屈折率変化によって判定が可能となるので、流路83にセンサ等が露出せず、検体液の汚染されることがない。また、超音波を利用した場合の振動が発生せず、反応液等との混ざり具合にバラツキの発生することがない。
【0065】
具体的には、反射型光ファイバーセンサー87は、特定位置を照射する光を投光側光ファイバー89を通じて供給し、流路83からの反射光を受光側光ファイバー91に導入して検出する。この反射型光ファイバーセンサー87によれば、照射光と反射光を、投光側光ファイバー89と受光側光ファイバー91を統合した小面積なファイバー先端面で行うことができ、小面積の被検出領域に対する光照射及び当該照射領域からの反射光の受光が可能となり、微小な流路83の特定位置における液体の有無が検出可能となる。
【0066】
反射型光ファイバーセンサー87の受光側光ファイバー91は、チップ100より反射される反射光の強度を検出する。
流路83中の液滴のあり/なしは、主に蓋材23の流路側面からの反射率が流路中に空気がある場合と、水がある場合の反射率の違いにより検出することができる。
【0067】
一般に、図11に示すような入射光に対する反射率は次式で表される。
【数1】
ここで、Rp:p偏光、Rs:s偏光であり、n=n2/n1とおいた。
【数2】
とおき、蓋材23の屈折率をn1=1.49、流路83中の流体の屈折率を
液滴なしの場合・・・n2(空気)=1.00
液滴ありの場合・・・n2(水)=1.33
とおいて計算すると、流路83中の流体が空気の場合と水の場合とで図12のような反射率の違いを求めることができる。
【0068】
使用している投光側光ファイバー89の投光の広がり角が60°の場合、図12の0°から30°の範囲で考えればよく、流路83中の流体が空気の場合は反射率が約4%、水の場合は0.5%以下になる。この違いにより、液滴の有り無しで反射型光ファイバーセンサー87の受光量が変化し、液滴の到着を検出することができる。
【0069】
このように、反射型光ファイバーセンサー87による検出は、空気と流体の屈折率の差を検出するものであり、流体の光透過率や、光の散乱を検出する原理による検出方法と比較して、流体中の溶解物質の種類やその濃度変化があっても、安定して検出することができるという利点を備えている。
【0070】
上記の構成を有する本実施の形態によるマイクロ流体チップ100によれば、検体液と理試薬とを投入する第1ポートPT−Aと、反応増幅試薬を投入する第2ポートPT−Dと、流路内に空気圧を供給する第3ポートPT−Bと、第1ポートPT−Aから投入された検体液と前処理試薬とを混合して第1混合液を生成する検体混合部Aと、第1混合液を加熱して生体細胞よりDNAを抽出し1本鎖に分解する被加熱部Bと、被加熱部Bで処理された第1混合液に反応増幅試薬を合流させる試薬合流部Cと、試薬合流部Cで合流された第2の混合液が通過することにより溶解が進む酵素を固化実装した酵素保持部Dと、酵素保持部Dで処理される第2の混合液への酵素の混合を助長する酵素混合部Eと、酵素混合部Eに接続され、流路内に固化実装されたプライマーの溶解、加熱によるDNA増幅、このDNA増幅の検出を同一位置で行う複数の反応検出セル27からなる反応部Fと、複数の反応検出セル27に接続され酵素混合部Eで処理された第2混合液を複数の反応検出セル27のそれぞれに定量分注するための定量分注流路Gと、を備えたので、立体的に複雑な構造を必要とせず、簡単な構造で複雑な送液制御が行えるとともに、ピペッティングの操作、装置への出し入れ等の煩雑な操作が不要になり、熟練を要さない簡単な操作で、正確かつ信頼性の高い分析結果を低コスト、短時間で得ることができる。
そして、マイクロ流体チップの液流路の出入り口に、充填材料を滴下して液流路を塞ぐようにしたので、マイクロ流体チップに接触することなく液流路を塞ぐことができる。これにより、コンタミネーションの発生を防止して信頼性の高い分析を行うことができる。また、液流路閉塞機構を簡素化することができ、機械故障などのハンドリングトラブルを防止することができる。
【0071】
次に、上記のマイクロ流体チップ100を使用した送液フローについて説明する。
図13はマイクロ流体チップの駆動制御に伴う各要素の作動状態を時間軸に沿って表したタイムチャート、図14は液セットから最初の加熱までの動作説明図、図15は酵素混合までの動作説明図、図16は反応部注入までの動作説明図、図17は分注から検査完了までの動作説明図である。
以下の説明においては、図13の制御動作V1〜V13と図14〜図17の各ステップS1〜S20における状態を対応させて説明する。
【0072】
先ず、チップ100を準備し、検査装置11のREADYスイッチを押す(V1、S1)。そして、第2ポートPT−Dに反応増幅試薬を投入する(S2)。第2ポートPT−Dにおける流路の毛細管力の大小関係は、ポートD出口流路45>主流路47>第2ポートPT−Dという関係になっており、ポートD出口流路45と主流路47の接続部はラプラス圧バルブが構成されている。このため、反応増幅試薬は主流路47に流出することなく、ポートD出口流路45と主流路47の接続面で留まる。
【0073】
次いで、第1ポートPT−Aに血液と前処理試薬を投入する(S3)。チップ100を検査装置11にセットし、検査装置11のSTARTスイッチを押す(V2)。すると、第1ポートPT−A、第2ポートPT−D、第3ポートPT−B、第4ポートPT−Cにポートパッドが押し付けられる。この時、第1ポートPT−A、第2ポートPT−D、第3ポートPT−B、第4ポートPT−Cに対応するパッドは大気開放状態になっており、パッドが押し付けられる事によりチップに投入されている液体が移動する事がない。そして、パッド押し付けが完了すると、第3ポートPT−Bが減圧され(V3)、血液と前処理試薬Lが検体混合部Aを高速(100μL/min)に通過することにより均一に混合される(S4)。第2ポートPT−Dは、第3ポートPT−Bと同一の減圧で吸引されており、血液と前処理試薬の送液抵抗が大きくても、第2ポートPT−D内の前処理試薬が流路に流出することがない。
【0074】
液がセンシング位置PH1に到達し、液位置検出部のセンサーPH−1がONし(V4)、吸引速度が低速(30μl/min)に切り替えられる(S5)。
被加熱部Bを液が低速(30μl/min)で通過することにより(S6)、血液と前処理試薬の混合液Lは一定時間(例えば15秒間)、98℃に加熱され、白血球中のDNAが抽出され、1本鎖となる。
液がセンシング位置PH2に到達し、センサーPH−2がONすると(V5)、第2ポートPT−Dが大気開放となり、同時に第1ポートPT−Aが閉となり、吸引により、第2ポートPT−Dのみから増幅反応試薬が流出し(S7)、血液と前処理試薬の混合液Lと泡を含むことなく合流する(S8)。
【0075】
液がセンシング位置PH3に到達し、センサーPH−3がONすると(V6)、吸引速度が高速(100μl/min)に切り替えられ、一定流量(45μl)が吸引される(S9,S10)。
そして、第1ポートPT−Aが大気開放となり(V7)、さらに15μL吸引され、第2ポートPT−Dは空になり、第1混合部49で混合される(S11)。
さらに高速(500μl/min)で80μL吸引されることにより(V8)、混合液Lは第1保持部53、第2保持部55を通過し、酵素が溶解され、第2混合部51で混合される(S12)。
【0076】
さらに高速(500μl/min)で80μL加圧されることにより(V9)、混合液Lは第1混合部49に搬送され、未溶解の酵素が溶解され、第1混合部49で混合される(S13)。
さらに高速(500μl/min)で80μL吸引されることにより(V10)、第1保持部53、第2保持部55の酵素は完全に溶解され、また液体は第2混合部51で均一に混合される(S14)。
次に、第3ポートPT−Bより、0.2kPaで吸引することにより(V11)、第2混合部51の混合液Lは、反応部Fの流路に搬送される(S15)。
【0077】
液がセンシング位置PH5に到達し、センサーPH−5がONすると(V12)、第3ポートPT−Bは閉状態になり、第4ポートPT−Cが0.3kPaで吸引され、この状態が5秒間保持される。混合液Lは、反応検出セル27内に搬送され、セル下流の細い反応検出セル出口流路71で停止する(S16,S17,S18)。
【0078】
この時、各反応検出セル27は常温に保たれており、予めゼラチンにより固定化されているプライマーは溶解することなくセル内に保持されている。
次に、第4ポートPT−Cを閉状態とし(V13)、第3ポートPT−Bより100μl/minの速度で加圧することにより、反応検出セル27を連結している主流路73内の混合液は第2混合部51に押し戻され(S19)、各反応検出セル27には、2.5μLの混合液Lが秤量分注され、これらはお互いに液で連結していない状態となる(S20)。
【0079】
次に、検査装置11のパッドデバイスが離脱した後、図3に示すように、液流路封止装置40が、図示しない搬送機構によって待機位置から作動位置に移動して滴下ノズル101、103、105、107を第1ポートPT−A、第2ポートPT−D、第3ポートPT−B、および第4ポートPT−Cにそれぞれ対向させる。そして、定量ポンプ113が作動して滴下ノズル101、103、105、107から各ポートPT−A、PT−D、PT−B、およびPT−Cに所定量の充填材料111を滴下させて出入り口を封止する。これにより、チップ100は密閉状態となり、増幅反応による増幅産物がチップ外に流出することにより、環境を汚染する心配がなくなる。なお、充填材料111による汚染を防止するため、充填材料111は予め加熱するなど、適宜の殺菌装置により殺菌処理してから用いるのがよい。
【0080】
第1ポートPT−A、第2ポートPT−D、第3ポートPT−B、および第4ポートPT−Cは、検査装置11のパッドデバイスとの接続を容易にするため、大きく形成されていることが望ましい。これにより、パッドデバイスの位置制御が容易となる。特に、第1ポートPT−A、第2ポートPT−Dは、血液と前処理試薬、及び反応増幅試薬を投入するので、投入ミスを防止する観点からノズルの挿入が容易に行えるように大きく形成される。しかし、ポート部PTが大きくなるとその容量も大きくなるので、従来の封止方法のようにガラス薄板等の試料注入口カバーやシールによってポート部PTを封止するとポート部PT内に蓄積される残留空気の容量が大きくなり、温度変化による膨張や収縮代が大きくなる傾向がある。このため、液流路内での液の移動が発生して分析結果に影響を及ぼす可能性がある。
【0081】
しかし、本発明に係る液流路封止装置40のように、充填材料111を滴下させ、ポート部PT内に充填材料111を充填して出入り口を封止するようにすれば、ポート部PTの大きさに拘わらず、液流路内の残留空気の容量を少なくすることができ、且つ漏れのない状態で確実に封止することができる。これにより、反応部加熱時に空気の膨張による液流路内での液拡散が抑制されて高精度の解析結果が得られる。更に、試料注入口カバーやシールによる封止と比較して高い耐久性を有する。
【0082】
ポート部PT(液流路)の封止に用いられる充填材料111としては、滴下後に時間経過とともに硬化する材料が好ましく、例えば以下のような接着剤、シーリング材、UV硬化型樹脂などの材料が挙げられる。
(1)接着剤:エポキシ樹脂系、アクリル系、酢酸ビニル系
(2)シーリング材:シリコン系、ウレタン系、二トリルゴム
(3)UV硬化型樹脂:変性アクリレート
【0083】
次に反応部Fは、図示しない温調デバイスにより、60℃に急速に加熱される。加熱により、ゼラチンにより固定化されていたプライマーは、反応検出セル27内に均一に拡散し、等温増幅反応が始まる。
このとき、反応検出セル27両端の細い反応検出セル入り口流路69と反応検出セル出口流路71との液体端面は、温調デバイスとの熱的な接触が無い構造で常温近くに保たれており、60℃に加熱されることはない。そのため、反応検出セル27内の液体が、上記の加熱によって移動し、流路内から無くなってしまうことはない。
【0084】
各反応検出セル27a〜27mを図2に示す蛍光検出部17で励起光を照射し一定時間間隔で蛍光測定することにより、各反応検出セル27a〜27mに予め実装していたプライマーに対応するターゲット遺伝子配列が存在しているかどうかを知ることができる。ターゲット遺伝子配列が存在している場合には、蛍光強度の増大が確認されるのに対して、ターゲット遺伝子配列が存在していない場合には、蛍光強度の増大がない。
【0085】
したがって、本実施の形態によるマイクロ流体チップの液流路封止装置40によれば、マイクロ流体チップ100に接触することなく、充填材料111によって液流路の出入り口(ポート部PT)を塞ぎ、コンタミネーションやハンドリングトラブルがなく、正確且つ信頼性の高い分析結果を低コスト、短時間で得られる。
【0086】
(第2実施形態)
次に、本発明に係る第2実施形態のマイクロ流体チップの液流路封止装置について説明する。図18は第2実施形態のマイクロ流体チップの液流路封止装置を備えた検査装置をマイクロ流体チップと共に示す概略構成図、図19(a)は図18に示した硬化型材料滴下部からマイクロ流体チップの出入り口に硬化型材料が滴下される状態を示すブロック図、図19(b)は活性エネルギー照射手段から活性エネルギーが照射されて硬化型材料が硬化する状態を示すブロック図である。
【0087】
図18及び図19に示すように、第2実施形態のマイクロ流体チップの液流路封止装置50は、硬化型材料滴下部60と、活性エネルギー照射手段70とを備え、硬化型材料滴下部60からマイクロ流体チップ100の出入り口に活性エネルギーにより硬化する硬化型材料(以下、単に硬化型材料と言う)121を滴下した後、活性エネルギー照射手段70から活性エネルギーを照射して硬化型材料121を硬化させる。それ以外は、マイクロ流体チップ100の構成も含めて、第1実施形態の液流路封止装置40と同様であるので、同一部分には同一符号または相当符号を付して説明を省略、または簡略化する。
【0088】
液流路封止装置50の硬化型材料滴下部60は、図19(a)に示すように、第1ポートPT−A、第2ポートPT−D、第3ポートPT−B、および第4ポートPT−Cにそれぞれ対応して配置された4つの滴下ノズル101、103、105、107を備える。各滴下ノズル101、103、105、107は、活性エネルギーにより硬化する硬化型材料121が貯留されるタンク109に定量ポンプ113を介して接続されており、定量ポンプ113を作動させて滴下ノズル101、103、105、107から各ポートPT−A、PT−D、PT−B、およびPT−Cに所定量の硬化型材料121を滴下させる。
【0089】
また、図19(b)に示すように、活性エネルギー照射手段70が各ポートPT−A、PT−D、PT−B、PT−Cに対応して配置されており、滴下された硬化型材料121に活性エネルギーを照射して硬化させる。
なお、液流路封止装置50は、遮光壁123によって外部から光学的に遮断されており、外光による硬化型材料121の硬化が防止されている。また、液流路封止装置50は、図示しない搬送機構によって、滴下ノズル101、103、105、107がポート部PTに対応する作動位置と、ポート部PTから離間した待機位置との間を移動自在となっている。
【0090】
そして、第1実施形態において説明したと同一のタイミング、即ち、各反応検出セル27に混合液Lが秤量分注され、検査装置11のパッドデバイスが離脱した後、図19に示すように、液流路封止装置50の硬化型材料滴下部60が、図示しない搬送機構によって待機位置から作動位置に移動して滴下ノズル101、103、105、107を第1ポートPT−A、第2ポートPT−D、第3ポートPT−B、および第4ポートPT−Cにそれぞれ対向させる。そして、定量ポンプ113が作動して滴下ノズル101、103、105、107から各ポートPT−A、PT−D、PT−B、およびPT−Cに所定量の硬化型材料121を滴下させる。次いで、図19(b)に示すように、活性エネルギー照射手段70から活性エネルギーを照射して各ポートPT−A、PT−D、PT−B、およびPT−C内に滴下・注入された硬化型材料121を硬化させて出入り口を確実に封止する。
【0091】
硬化型材料121は、活性エネルギーの照射によって短時間で硬化するので効率的に出入り口を封止することができる。これにより、チップ100は密閉状態となり、増幅反応による増幅産物がチップ外に流出することにより、環境を汚染する心配がなくなる。その他の作用及び効果については、第1実施形態において述べたものと同様であるので省略する。
【0092】
ここで、本発明で言う「活性エネルギー」とは、その照射により硬化型材料中において開始種を発生させうるエネルギーを付与することができるものであれば、特に制限はなく、広く、α線、γ線、X線、紫外線、可視光線、電子線、熱などを包含するものである。中でも、硬化感度及び装置の入手容易性の観点からは、紫外線及び電子線が好ましく、特に紫外線が好ましい。
【0093】
活性エネルギー照射手段としては、水銀ランプやガス・固体レーザー等が利用可能であり、特に紫外線の照射手段としては、水銀ランプ、メタルハライドランプが広く知られている。更には、発光ダイオードLED(UV−LED),レーザーダイオードLD(UV−LD)は小型、高寿命、高効率、低コストであり、活性エネルギー照射手段として好ましい。
【0094】
以下に、本発明の硬化型材料に用いられる成分について順次説明する。
本発明に用いられる硬化型材料組成物は、活性エネルギーの照射により硬化可能な組成物であり、例えば、カチオン重合系組成物、ラジカル重合系組成物、水性組成物等が挙げられる。これら組成物について以下詳細に説明する。
【0095】
(カチオン重合系組成物)
カチオン重合系組成物は、(a)カチオン重合性化合物と、(b)活性エネルギーの照射により酸を発生する化合物を含有する。
【0096】
〔(a)カチオン重合性化合物〕
本発明に用いられる(a)カチオン重合性化合物は、後述する(b)活性エネルギーの照射により酸を発生する化合物から発生する酸により重合反応を生起し、硬化する化合物であれば特に制限はなく、光カチオン重合性モノマーとして知られる各種公知のカチオン重合性のモノマーを使用することができる。カチオン重合性モノマーとしては、例えば、特開平6−9714号、特開2001−31892、同2001−40068、同2001−55507、同2001−310938、同2001−310937、同2001−220526などの各公報に記載されている、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物などが挙げられる。
【0097】
エポキシ化合物としては、芳香族エポキシド、脂環式エポキシド、脂肪族エポキシドなどが挙げられる。
芳香族エポキシドとしては、少なくとも1個の芳香族核を有する多価フェノール或いはそのアルキレンオキサイド付加体とエピクロルヒドリンとの反応によって製造されるジ又はポリグリシジルエーテルが挙げられ、例えば、ビスフェノールA或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールA或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル、並びにノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。ここで、アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0098】
脂環式エポキシドとしては、少なくとも1個のシクロへキセン又はシクロペンテン環等のシクロアルカン環を有する化合物を、過酸化水素、過酸等の適当な酸化剤でエポキシ化することによって得られる、シクロヘキセンオキサイド又はシクロペンテンオキサイド含有化合物が好ましく挙げられる。
【0099】
脂肪族エポキシドとしては、脂肪族多価アルコール或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル等が挙げられる。その代表例としては、エチレングリコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテル又は1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル等のアルキレングリコールのジグリシジルエーテル、グリセリン或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はトリグリシジルエーテル等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコール或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコール或いはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテルに代表されるポリアルキレングリコールのジグリシジルエーテル等が挙げられる。ここで、アルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0100】
エポキシ化合物は、単官能であっても多官能であってもよい。
本発明に用いうる単官能エポキシ化合物の例としては、例えば、フェニルグリシジルエーテル、p−tert−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、1,2−ブチレンオキサイド、1,3−ブタジエンモノオキサイド、1,2−エポキシドデカン、エピクロロヒドリン、1,2−エポキシデカン、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、3−メタクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−アクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3−ビニルシクロヘキセンオキサイド等が挙げられる。
【0101】
また、多官能エポキシ化合物の例としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールSジグリシジルエーテル、エポキシノボラック樹脂、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールSジグリシジルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタ−ジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンオキサイド、4−ビニルエポキシシクロヘキサン、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル−3’,4’−エポキシ−6’−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレングリコールのジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、1,1,3−テトラデカジエンジオキサイド、リモネンジオキサイド、1,2,7,8−ジエポキシオクタン、1,2,5,6−ジエポキシシクロオクタン等が挙げられる。
【0102】
これらのエポキシ化合物の中でも、芳香族エポキシド及び脂環式エポキシドが、硬化速度に優れるという観点から好ましく、特に脂環式エポキシドが好ましい。
【0103】
ビニルエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル等のジ又はトリビニルエーテル化合物、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル−O−プロピレンカーボネート、ドデシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等のモノビニルエーテル化合物等が挙げられる。
【0104】
ビニルエーテル化合物は、単官能であっても多官能であってもよい。
具体的には、単官能ビニルエーテルの例としては、例えば、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、n−ノニルビニルエーテル、ラウリルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルメチルビニルエーテル、4−メチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル、ベンジルビニルエーテル、ジシクロペンテニルビニルエーテル、2−ジシクロペンテノキシエチルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、ブトキシエチルビニルエーテル、メトキシエトキシエチルビニルエーテル、エトキシエトキシエチルビニルエーテル、メトキシポリエチレングリコールビニルエーテル、テトラヒドロフリフリルビニルエーテル、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、4−ヒドロキシメチルシクロヘキシルメチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、ポリエチレングリコールビニルエーテル、クロルエチルビニルエーテル、クロルブチルビニルエーテル、クロルエトキシエチルビニルエーテル、フェニルエチルビニルエーテル、フェノキシポリエチレングリコールビニルエーテル等が挙げられる。
【0105】
また、多官能ビニルエーテルの例としては、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ブチレングリコールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、ビスフェノールAアルキレンオキサイドジビニルエーテル、ビスフェノールFアルキレンオキサイドジビニルエーテルなどのジビニルエーテル類;トリメチロールエタントリビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ジトリメチロールプロパンテトラビニルエーテル、グリセリントリビニルエーテル、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、ジペンタエリスリトールペンタビニルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテル、エチレンオキサイド付加トリメチロールプロパントリビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加トリメチロールプロパントリビニルエーテル、エチレンオキサイド付加ジトリメチロールプロパンテトラビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加ジトリメチロールプロパンテトラビニルエーテル、エチレンオキサイド付加ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、エチレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテル、プロピレンオキサイド付加ジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテルなどの多官能ビニルエーテル類等が挙げられる。
【0106】
ビニルエーテル化合物としては、ジ又はトリビニルエーテル化合物が、硬化性の観点から好ましく、特にジビニルエーテル化合物が好ましい。
【0107】
本発明におけるオキセタン化合物は、オキセタン環を有する化合物を指し、特開2001−220526、同2001−310937、同2003−341217の各公報に記載される如き、公知オキセタン化合物を任意に選択して使用できる。オキセタン環を有する化合物としては、その構造内にオキセタン環を1〜4個有する化合物が好ましい。このような化合物を使用することで、硬化型材料の粘度をハンドリング性の良好な範囲に維持することが容易となる。
【0108】
このようなオキセタン環を有する化合物については、前記特開2003−341217公報、段落番号〔0021〕乃至〔0084〕に詳細に記載され、ここに記載の化合物は本発明にも好適に使用しうる。本発明で使用するオキセタン化合物の中でも、硬化型材料の粘度と粘着性の観点から、オキセタン環を1個有する化合物を使用することが好ましい。
【0109】
本発明の硬化型材料組成物には、これらのカチオン重合性化合物を、1種のみを用いても、2種以上を併用してもよいが、硬化時の収縮を効果的に抑制するといった観点からは、オキセタン化合物とエポキシ化合物とから選ばれる少なくとも1種の化合物と、ビニルエーテル化合物とを併用することが好ましい。
【0110】
[(b)活性エネルギーの照射により酸を発生する化合物]
本発明の硬化型材料組成物は、活性エネルギーの照射により酸を発生する化合物(以下、適宜、「光酸発生剤」と称する。)を含有する。
本発明に用いうる光酸発生剤としては、光カチオン重合の光開始剤、光ラジカル重合の光開始剤、或いはマイクロレジスト等に使用されている光(400〜200nmの紫外線、遠紫外線、特に好ましくは、g線、h線、i線、KrFエキシマレーザー光)、ArFエキシマレーザー光、電子線、X線、分子線又はイオンビームなどの照射により酸を発生する化合物を適宜選択して使用することができる。
【0111】
このような光酸発生剤としては、例えば、活性エネルギーの照射により分解して酸を発生する、ジアゾニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、セレノニウム塩、アルソニウム塩等のオニウム塩、有機ハロゲン化合物、有機金属/有機ハロゲン化物、o−ニトロベンジル型保護基を有する光酸発生剤、イミノスルフォネート等に代表される光分解してスルホン酸を発生する化合物、ジスルホン化合物、ジアゾケトスルホン、ジアゾジスルホン化合物を挙げることができる。
【0112】
光酸発生剤としては、また、特開2002−122994公報、段落番号〔0029〕乃至〔0030〕に記載のオキサゾール誘導体、s−トリアジン誘導体なども好適に用いられる。更に、特開2002−122994公報、段落番号〔0037〕乃至〔0063〕に例示されるオニウム塩化合物、スルホネート系化合物も、本発明における光酸発生剤として、好適に使用しうる。光酸発生剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0113】
[ラジカル重合系組成物]
ラジカル重合系組成物は、(d)ラジカル重合性化合物と(e)重合開始剤を含有する。以下、ラジカル重合系組成物に用いられる各構成成分について順次説明する。
【0114】
(d)[ラジカル重合性化合物]
ラジカル重合性化合物としては、例えば、以下に挙げるような付加重合化能なエチレン性不飽和結合を有する化合物が含まれる。
【0115】
[付加重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物]
本発明のインク組成物に用い得る付加重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物としては、例えば、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸など)と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、上記不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミド等があげられる。
【0116】
脂肪族多価アルコール化合物と不飽和カルボン酸とのエステルのモノマーの具体例としては、アクリル酸エステルとして、エチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(アクリロイルオキシプロピル)エーテル、トリメチロールエタントリアクリレート、へキサンジオールジアクリレート、1,4−シクロヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、ソルビトールテトラアクリレート、ソルビトールペンタアクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、トリ(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ポリエステルアクリレートオリゴマー等がある。
【0117】
メタクリル酸エステルとしては、テトラメチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、へキサンジオールジメタクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールジメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、ソルビトールトリメタクリレート、ソルビトールテトラメタクリレート、ビス〔p−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ジメチルメタン、ビス−〔p−(アクリルオキシエトキシ)フェニル〕ジメチルメタン等がある。イタコン酸エステルとしては、エチレングリコールジイタコネート、プロピレングリコールジイタコネート、1,3−ブタンジオールジイタコネート、1,4−ブタンジオールジイタコネート、テトラメチレングリコールジイタコネート、ペンタエリスリトールジイタコネート、ソルビトールテトライタコネート等がある。
【0118】
クロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジクロトネート、テトラメチレングリコールジクロトネート、ペンタエリスリトールジクロトネート、ソルビトールテトラジクロトネート等がある。イソクロトン酸エステルとしては、エチレングリコールジイソクロトネート、ペンタエリスリトールジイソクロトネート、ソルビトールテトライソクロトネー卜等がある。マレイン酸エステルとしては、エチレングリコールジマレート、トリエチレングリコールジマレート、ペンタエリスリトールジマレート、ソルビトールテトラマレート等がある。さらに、前述のエステルモノマーの混合物もあげることができる。また、脂肪族多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのアミドのモノマーの具体例としては、メチレンビス−アクリルアミド、メチレンビス−メタクリルアミド、1,6−へキサメチレンビス−アクリルアミド、1,6−へキサメチレンビス−メタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド、キシリレンビスメタクリルアミド等がある。
【0119】
その他の例としては、特公昭48−41708号公報中に記載されている1分子に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に、下記の一般式(A)で示される水酸基を含有するビニルモノマーを付加した1分子中に2個以上の重合性ビニル基を含有するビニルウレタン化合物等があげられる。CH2=C(R)COOCH2CH(R')OH (A)(ただし、RおよびR'はHあるいはCH3を示す。)
また、特開昭51−37193号に記載されているようなウレタンアクリレー卜類、特開昭48−64183号、特公昭49−43191号、特公昭52−30490号公報に記載されているようなポリエステルアクリレート類、エポキシ樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させたエポキシアクリレート類等の多官能のアクリレートやメタクリレートをあげることができる。さらに日本接着協会誌vol.20、No.7、300〜308ページ(1984年)に光硬化性モノマー及びオリゴマーとして紹介されているものも使用することができる。本発明において、これらのモノマーはプレポリマー、すなわち2量体、3量体およびオリゴマー、またはそれらの混合物ならびにそれらの共重合体などの化学的形態で使用しうる。
【0120】
[水性組成物]
水性組成物は、重合性化合物と活性エネルギーの作用によってラジカルを生成する水溶性光重合開始剤を含有する。
【0121】
[重合性化合物]
本発明の水性組成物に含まれる重合性化合物としては、公知の水性組成物に含まれる重合性化合物を用いることができる。
水性組成物は、硬化速度、密着性、柔軟性などのエンドユーザー特性を考慮した処方を最適化するために、反応性材料を加えることができる。このような反応性材料としては、(メタ)クリレート(即ち、アクリレート及び/又はメタクリレート)モノマー及びオリゴマー、エポキサイド並びにオキセタンなどが用いられる。
アクリレートモノマーの例としては、フェノキシエチルアクリレート、オクチルデシルアクリレート、テトラヒドロフリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(例えば、テトラエチレングリコールジアクリレート)、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリ(プロピレングリコール)トリアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ビス(ペンタエリスリトール)ヘキサアクリレート、エトキシ化又はプロポキシ化グリコール及びポリオールのアクリレート(例えば、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジアクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート)、及びこれらの混合物が挙げられる。
アクリレートオリゴマーの例としては、エトキシ化ポリエチレングリコール、エトキシ化トリメチロールプロパンアクリレート及びポリエーテルアクリレート及びそのエトキシ化物、及びウレタンアクリレートオリゴマーが挙げられる。
メタクリレートの例としては、ヘキサンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0122】
〔活性エネルギーの作用によってラジカルを生成する水溶性光重合開始剤〕
重合開始剤の一例としては、例えば、波長400nm前後までの光重合開始剤が挙げられる。このような光重合開始剤としては、例えば、長波長領域に官能性、即ち、紫外線を受けてラジカルを生成する感受性を持つ物質である下記一般式で表される光重合開始剤(以下、TX系と略称する)が挙げられ、本発明においては、これらの中から適宜に選択して使用することが特に好ましい。
【0123】
【化1】
【0124】
上記一般式TX−1〜TX−3中、R2は−(CH2)x−(x=0または1)、−O−(CH2)y−(y=1または2)、置換若しくは未置換のフェニレン基を表わす。またR2がフェニレン基の場合には、ベンゼン環中の水素原子の少なくとも1つが、例えば、カルボキシル基若しくはその塩、スルホン酸若しくはその塩、炭素数1〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基、ハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素等)、炭素数1〜4のアルコキシル基、フェノキシ基等のアリールオキシ基等から選ばれる1つまたは2つ以上の基や原子で置換されていてもよい。Mは、水素原子若しくはアルカリ金属(例えば、Li、Na、K等)を表わす。更に、R3及びR4は各々独立に、水素原子、または置換若しくは未置換のアルキル基を表わす。ここでアルキル基の例としては、例えば、炭素数1〜10程度、特には、炭素数1〜3程度の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。また、これらのアルキル基の置換基の例としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、シュウ素原子等)、水酸基、アルコキシル基(炭素数1〜3程度)等が挙げられる。また、mは1〜10の整数を表わす。
【0125】
更に本発明において、下記一般式からなる光重合開始剤 Irgacure2959(商品名:Ciba Specialty Chemicals製)の水溶性の誘導体(以下、IC系と略称する)を使用することもできる。具体的には、下記式からなるIC−1〜IC−3を使用することができる。
【0126】
【化2】
【0127】
なお、本発明に係る液流路封止装置は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形や改良等が可能である。
例えば、紫外線硬化型樹脂をマイクロ流体チップ内に予め組み込んでおき、上述したエア供給または吸引などの物理的作用力によって特定の液流路に紫外線硬化型樹脂を移動させた後、紫外線を照射して硬化させるようにしてもよい。この場合、液流路の紫外線硬化型樹脂を硬化させる部位は、紫外線が透過可能な材料で構成される。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】本発明に係る第1実施形態のマイクロ流体チップの液流路封止装置を備えた検査装置をマイクロ流体チップと共に示す概略構成図である。
【図2】図1に示した検査装置およびマイクロ流体チップの詳細な構成を示すブロック図である。
【図3】図2に示した液流路封止装置の概略構成図である。
【図4】図2に示したマイクロ流体チップの分解斜視図である。
【図5】マイクロ流体チップの上面視を(a)、下面視を(b)に表した平面図である。
【図6】図5(b)の拡大図である。
【図7】ポート出口流路の近傍を表す要部拡大平面図である。
【図8】反応検出セルの拡大平面図である。
【図9】ターゲット配列がある場合を(a)、ターゲット配列が無い場合を(b)に表した蛍光測定結果のグラフである。
【図10】液位置検出部の平面視を(a)、そのP1−P1断面視を(b)に表した説明図である。
【図11】液位置検出部の入反射光を表した模式図である。
【図12】反射率と入射角度との相関を表したグラフである。
【図13】マイクロ流体チップの駆動制御に伴う各要素の作動状態を時間軸に沿って表したタイムチャートである。
【図14】液セットから最初の加熱までの動作説明図である。
【図15】酵素混合までの動作説明図である。
【図16】反応部注入までの動作説明図である。
【図17】分注から検査完了までの動作説明図である。
【図18】本発明に係る第2実施形態のマイクロ流体チップの液流路封止装置を備えた検査装置をマイクロ流体チップと共に示す概略構成図である。
【図19】図18に示した硬化型材料滴下部からマイクロ流体チップの出入り口に硬化型材料が滴下される状態を(a)、活性エネルギー照射手段から活性エネルギーが照射されて硬化型材料が硬化する状態を(b)に示すブロック図である。
【符号の説明】
【0129】
21 流路基板
40 液流路封止装置
50 液流路封止装置
60 硬化型材料滴下部
70 活性エネルギー照射手段(紫外線照射装置)
100 マイクロ流体チップ
101 滴下ノズル(充填材料滴下手段)
103 滴下ノズル(充填材料滴下手段)
105 滴下ノズル(充填材料滴下手段)
107 滴下ノズル(充填材料滴下手段)
111 充填材料
121 活性エネルギーにより硬化する硬化型材料(紫外線硬化型樹脂)
A 検体混合部(液処理部)
B 被加熱部(液処理部)
C 試薬合流部(液処理部)
D 酵素保持部(液処理部)
E 酵素混合部(液処理部)
F 反応部(液処理部)
G 定量分注流路(液処理部)
PT ポート(液流路の出入り口)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板内に形成された液流路に沿って液処理部が配設されたマイクロ流体チップの液流路封止方法であって、
前記液流路の出入り口に、充填材料を滴下して前記液流路を塞ぐことを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止方法。
【請求項2】
請求項1記載のマイクロ流体チップの液流路封止方法であって、
前記充填材料が活性エネルギーにより硬化する硬化型材料であり、
前記液流路の出入り口に滴下した前記硬化型材料に向けて活性エネルギー照射部から前記活性エネルギーを照射することを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止方法。
【請求項3】
請求項2記載のマイクロ流体チップの液流路封止方法であって、
前記活性エネルギーが紫外線であり、
前記硬化型材料が、紫外線硬化型樹脂であることを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止方法。
【請求項4】
基板内に形成された液流路に沿って液処理部が配設されたマイクロ流体チップの液流路封止装置であって、
前記液流路の出入り口に、充填材料を滴下して前記液流路を塞ぐ充填材料滴下手段を備えたことを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止装置。
【請求項5】
請求項4記載のマイクロ流体チップの液流路封止装置であって、
前記充填材料が活性エネルギーにより硬化する硬化型材料であり、
前記液流路の出入り口に滴下した前記硬化型材料に向けて前記活性エネルギーを照射する活性エネルギー照射手段を更に備えたことを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止装置。
【請求項6】
請求項5記載のマイクロ流体チップの液流路封止装置であって、
前記硬化型材料が、紫外線硬化型樹脂であり、
前記活性エネルギー照射手段が、紫外線を照射する紫外線照射装置であることを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止装置。
【請求項1】
基板内に形成された液流路に沿って液処理部が配設されたマイクロ流体チップの液流路封止方法であって、
前記液流路の出入り口に、充填材料を滴下して前記液流路を塞ぐことを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止方法。
【請求項2】
請求項1記載のマイクロ流体チップの液流路封止方法であって、
前記充填材料が活性エネルギーにより硬化する硬化型材料であり、
前記液流路の出入り口に滴下した前記硬化型材料に向けて活性エネルギー照射部から前記活性エネルギーを照射することを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止方法。
【請求項3】
請求項2記載のマイクロ流体チップの液流路封止方法であって、
前記活性エネルギーが紫外線であり、
前記硬化型材料が、紫外線硬化型樹脂であることを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止方法。
【請求項4】
基板内に形成された液流路に沿って液処理部が配設されたマイクロ流体チップの液流路封止装置であって、
前記液流路の出入り口に、充填材料を滴下して前記液流路を塞ぐ充填材料滴下手段を備えたことを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止装置。
【請求項5】
請求項4記載のマイクロ流体チップの液流路封止装置であって、
前記充填材料が活性エネルギーにより硬化する硬化型材料であり、
前記液流路の出入り口に滴下した前記硬化型材料に向けて前記活性エネルギーを照射する活性エネルギー照射手段を更に備えたことを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止装置。
【請求項6】
請求項5記載のマイクロ流体チップの液流路封止装置であって、
前記硬化型材料が、紫外線硬化型樹脂であり、
前記活性エネルギー照射手段が、紫外線を照射する紫外線照射装置であることを特徴とするマイクロ流体チップの液流路封止装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
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【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2008−139237(P2008−139237A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−327959(P2006−327959)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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