説明

マイボーム腺観察装置

【課題】フィルタやこれを光路に挿脱する機構を設けずに、可視光による観察と、赤外光によるマイボーム腺の観察を切替可能な装置を提供する。
【解決手段】赤外照明系は、赤外光を出力する赤外光源を有し、眼瞼の裏面を赤外光で照明する。可視照明系は、可視光を出力する可視光源を有し、被検眼を可視光で照明する。制御部は、赤外光源を点灯及び消灯させる制御と、可視光源を点灯及び消灯させる制御とを行う。撮影系は、光を検出して画像信号を出力する撮像素子を有し、眼瞼の裏面による赤外光の反射光を撮像素子に導き、かつ被検眼による可視光の反射光を撮像素子に導く。表示部は、赤外光の反射光を検出した撮像素子からの画像信号に基づくマイボーム腺画像を表示し、かつ可視光の反射光を検出した撮像素子からの画像信号に基づく可視画像を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はマイボーム腺観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マイボーム腺とは眼瞼に存在する皮脂腺である。マイボーム腺から供給される皮脂(油性物質)により涙液の表面に油層が形成され、涙液の過剰な蒸発が防止される。マイボーム腺は上下の眼瞼に20〜30本程度ずつ存在する。
【0003】
マイボーム腺はドライアイの診断において特に注目されている。ドライアイは、涙液及び角結膜上皮の慢性疾患である。その原因は、シェーグレン症候群に代表される「涙液減少型」と、マイボーム腺機能不全(MGD)に代表される「蒸発亢進型」とに分類できる。よって、ドライアイの原因を特定するにはマイボーム腺の状態を把握することが重要である。
【0004】
マイボーム腺観察装置としては特許文献1に記載のものが知られている。この装置は、細隙灯顕微鏡に赤外線カメラと可視カットフィルタ(つまり赤外透過フィルタ)を設けたものであり、非接触での観察を可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−285447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の装置では、照明光学系の光路に可視カットフィルタを挿脱することにより、可視光による前眼部観察と、赤外光によるマイボーム腺観察との切り替えを行っている。
【0007】
このような観察方法の切り替えには、フィルタやこれを移動させるための専用の機構が必要である。この機構は被検者側に設けられた照明光学系の近傍に配置されるので、検者にとって操作しづらいという問題がある。
【0008】
この問題を解決するために、この機構を電気的に制御することも考えられる。たとえば、検者側にスイッチを設けるとともに、このスイッチを用いた操作に対応して当該機構に駆動力を伝えるアクチュエータを設けることができる。しかし、このような構成を適用すると、装置の大型化や複雑化、更にはコストの増加などの問題が生じてしまう。したがって、この解決方法は妥当とは言い難い。
【0009】
また、細隙灯顕微鏡においては、照明光学系の近傍のスペースが非常に限られており(被検眼に近いため)、フィルタを挿脱する機構やこれを制御する手段をここに配置させることは困難である。
【0010】
この発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、フィルタやこれを光路に挿脱する機構を設けることなく、可視光による被検眼の観察と、赤外光によるマイボーム腺の観察とを切り替えることが可能なマイボーム腺観察装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1に記載のマイボーム腺観察装置は、赤外照明系と、可視照明系と、制御部と、撮影系と、表示部とを有する。赤外照明系は、赤外光を出力する赤外光源を有し、眼瞼の裏面を赤外光で照明する。可視照明系は、可視光を出力する可視光源を有し、被検眼を可視光で照明する。制御部は、赤外光源を点灯及び消灯させる制御と、可視光源を点灯及び消灯させる制御とを行う。撮影系は、光を検出して画像信号を出力する撮像素子を有し、眼瞼の裏面による赤外光の反射光を撮像素子に導き、かつ被検眼による可視光の反射光を撮像素子に導く。表示部は、赤外光の反射光を検出した撮像素子からの画像信号に基づくマイボーム腺画像を表示し、かつ可視光の反射光を検出した撮像素子からの画像信号に基づく可視画像を表示する。
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のマイボーム腺観察装置であって、眼瞼の裏面の撮影の開始指示を入力するための第1入力部を備え、制御部は、可視光源が点灯されているときに開始指示が入力されたことに対応して、可視光源を消灯させる制御と、赤外光源を点灯させる制御とを行うことを特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のマイボーム腺観察装置であって、第1入力部は、撮像素子からの画像信号を解析してマイボーム腺の撮影が開始されるか否か判断する判断部を含み、制御部は、判断部によりマイボーム腺の撮影が開始されると判断されたことに対応して、可視光源を消灯させる制御と、赤外光源を点灯させる制御とを行うことを特徴とする。
また、請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のマイボーム腺観察装置であって、眼瞼の裏面の撮影の終了指示を入力するための第2入力部を備え、制御部は、終了指示が入力されたことに対応して、赤外光源を消灯させる制御と、可視光源を点灯させる制御とを行うことを特徴とする。
また、請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のマイボーム腺観察装置であって、眼瞼の裏面に対する赤外光の照射方向を変更する第1変更機構を備えることを特徴とする。
また、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載のマイボーム腺観察装置であって、撮像素子は、第1変更機構により複数の異なる方向から照射された赤外光の反射光をそれぞれ検出して複数の画像信号を出力し、制御部は、複数の画像信号のそれぞれに基づくマイボーム腺画像における輝度分布に基づいて、複数の異なる方向のうちの一の方向を選択する選択部を備え、第1変更機構を制御して一の方向から赤外光を照射させることを特徴とする。
また、請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のマイボーム腺観察装置であって、可視照明系は、眼瞼の裏面を可視光で照明し、眼瞼の裏面に対する赤外光の照射方向を変更する第1変更機構と、眼瞼の裏面に対する可視光の照射方向を変更する第2変更機構とを備え、撮像素子は、第2変更機構により複数の異なる方向から照射された可視光の反射光をそれぞれ検出して複数の画像信号を出力し、制御部は、複数の画像信号のそれぞれに基づく可視画像における輝度分布に基づいて、複数の異なる方向のうちの一の方向を選択する選択部を備え、第1変更機構を制御して一の方向から赤外光を照射させることを特徴とする。
また、請求項8に記載の発明は、請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載のマイボーム腺観察装置であって、制御部は、記憶部を有し、各被検者についてのマイボーム腺画像と可視画像とを関連付けて記憶部に記憶させることを特徴とする。
また、請求項9に記載の発明は、請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載のマイボーム腺観察装置であって、被検眼の前眼部をスリット光で照明するスリット照明系を備え、可視照明系は、スリット光による照明野の周囲領域に可視光を照射し、制御部は、スリット照明系及び可視照明系を制御してスリット光及び可視光を同時に前眼部に照射させることを特徴とする。
また、請求項10に記載の発明は、請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載のマイボーム腺観察装置であって、赤外光源は赤外発光ダイオードであることを特徴とする。
また、請求項11に記載の発明は、請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載のマイボーム腺観察装置であって、可視光源は白色発光ダイオードであることを特徴とする。
また、請求項12に記載の発明は、請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載のマイボーム腺観察装置であって、赤外照明系及び/又は可視照明系は、出力された光を拡散する拡散板を有することを特徴とする。
また、請求項13に記載の発明は、請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載のマイボーム腺観察装置であって、赤外照明系は、赤外光源により出力された赤外光を眼瞼の裏面に向けて反射する第1反射部材を有することを特徴とする。
また、請求項14に記載の発明は、請求項1〜請求項13のいずれか一項に記載のマイボーム腺観察装置であって、可視照明系は、可視光源により出力された可視光を被検眼に向けて反射する第2反射部材を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明に係るマイボーム腺観察装置は、赤外照明系と、可視照明系と、制御部と、撮影系と、表示部とを有する。赤外照明系は、赤外光を出力する赤外光源を有し、眼瞼の裏面を赤外光で照明する。可視照明系は、可視光を出力する可視光源を有し、被検眼を可視光で照明する。制御部は、赤外光源を点灯及び消灯させる制御と、可視光源を点灯及び消灯させる制御とを行う。撮影系は、光を検出して画像信号を出力する撮像素子を有し、眼瞼の裏面による赤外光の反射光を撮像素子に導き、かつ被検眼による可視光の反射光を撮像素子に導く。表示部は、赤外光の反射光を検出した撮像素子からの画像信号に基づくマイボーム腺画像を表示し、かつ可視光の反射光を検出した撮像素子からの画像信号に基づく可視画像を表示する。
【0013】
このようなマイボーム腺観察装置によれば、フィルタやこれを光路に挿脱する機構を設けることなく、可視光による被検眼の観察と、赤外光によるマイボーム腺の観察とを切り替えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明に係るマイボーム腺観察装置の実施形態の外観構成の一例を表す概略側面図である。
【図2】この発明に係るマイボーム腺観察装置の実施形態の光学系の構成の一例を表す概略側面図である。
【図3】この発明に係るマイボーム腺観察装置の実施形態の制御系の構成の一例を表す概略ブロック図である。
【図4】この発明に係るマイボーム腺観察装置の実施形態の制御系の構成の一例を表す概略ブロック図である。
【図5】この発明に係るマイボーム腺観察装置の実施形態の制御系の構成の一例を表す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明に係るマイボーム腺観察装置の実施形態の一例について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の説明では細隙灯顕微鏡を利用した構成について特に詳しく説明するが、他の眼科装置(たとえば眼底カメラやケラトメータ)についても、以下の実施形態と同様の構成を適用することで同様の作用・効果を得ることが可能である。
【0016】
まず方向を定義しておく。装置光学系において最も被検者側に位置するレンズ(対物レンズ)から被検者に向かう方向を前方向とし、その逆方向を後方向とする。また、前方向に直交する水平方向を左右方向をとする。更に、前後方向と左右方向の双方に直交する方向を上下方向とする。
【0017】
〈第1の実施形態〉
[外観構成]
この実施形態に係る細隙灯顕微鏡の外観構成について、図1を参照しながら説明する。細隙灯顕微鏡1には、コンピュータ100が接続されている。コンピュータ100は、各種の制御処理や演算処理を行う。なお、顕微鏡本体(光学系等を格納する筐体)とは別にコンピュータ100を設ける代わりに、顕微鏡本体に同様のコンピュータを搭載した構成を適用することも可能である。
【0018】
細隙灯顕微鏡1はテーブル2上に載置される。なお、コンピュータ100は他のテーブル上又はその他の場所に設置されていてもよい。基台4は、移動機構部3を介して水平方向に移動可能に構成されている。基台4は、操作ハンドル5を傾倒操作することにより移動される。
【0019】
基台4の上面には、観察系6及び照明系8を支持する支持部15が設けられている。支持部15には、観察系6を支持する支持アーム16が左右方向に回動可能に取り付けられている。支持アーム16の上部には、照明系8を支持する支持アーム17が左右方向に回動可能に取り付けられている。支持アーム16、17は、それぞれ独立に同軸で回動可能とされている。
【0020】
観察系6は、支持アーム16を手動で回動させることで移動される。照明系8は、支持アーム17を手動で回動させることで移動される。なお、各支持アーム16、17は、電気的な機構によって回動されるように構成されていてもよい。その場合、各支持アーム16、17を回動させるための駆動力を発生するアクチュエータと、この駆動力を伝達する伝達機構とが設けられる。アクチュエータは、たとえばステッピングモータ(パルスモータ)により構成される。伝達機構は、たとえば歯車の組み合わせやラック・アンド・ピニオンなどによって構成される。
【0021】
照明系8は、被検眼Eに照明光を照射する。照明系8は、前述のように、上下方向に延びる回動軸を中心に左右方向に振ることができる。それにより被検眼Eに対する照明光の照射方向が変更される。照明系8は上下方向にも振れるように構成されていてもよい。つまり、照明光の仰角や俯角を変更できるように構成されていてもよい。
【0022】
観察系6は、被検眼Eによる照明光の反射光を案内する左右一対の光学系を有する。この光学系は鏡筒本体9内に収納されている。鏡筒本体9の終端は接眼部9aである。検者は接眼部9aをのぞき込むことで被検眼Eを肉眼で観察する。前述のように、支持アーム16を回動させることにより鏡筒本体9を左右方向に回動させることができる。それにより被検眼Eに対する観察系6の向きを変更することができる。なお、照明光の反射光には、たとえば散乱光のように被検眼Eを経由した各種の光が含まれるが、これら各種の光を含めて「反射光」と呼ぶことにする。
【0023】
鏡筒本体9に対峙する位置には顎受け台10が配置されている。顎受け台10には、被検者の顔を安定配置させるための顎受部10aと額当て10bが設けられている。
【0024】
鏡筒本体9の側面には、観察倍率を変更するための観察倍率操作ノブ11が配置されている。更に、鏡筒本体9には、被検眼Eを撮影するための撮像装置13が接続されている。撮像装置13は撮像素子を含んで構成されている。撮像素子は、光を検出して電気信号(画像信号)を出力する光電変換素子である。画像信号はコンピュータ100に入力される。撮像素子としては、たとえばCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサや、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサが用いられる。照明系8の下方位置には、照明系8から出力される照明光束を被検眼Eに向けて反射するミラー12が配置されている。
【0025】
鏡筒本体9の上方には可視光源61が設けられている。可視光源61は可視光を出力する。可視光源61は、たとえば白色発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)である。可視光源61からの可視光は、被検眼Eの前眼部をスリット光で観察するときの背景照明光として、また前眼部やその周囲(眼瞼の裏面など)を観察するための照明光として用いられる。背景照明光とは、スリット光と同時に照射される光であって、スリット光による照明野の周囲領域に照射される光である。可視光源61は可視照明系を構成する。可視照明系は、可視光源61から出力された可視光を拡散する拡散板を備えていてもよい。それにより、可視光による照明野の明るさの一様化を図ることができる。
【0026】
鏡筒本体9の下方には赤外光源62が設けられている。赤外光源62は赤外光を出力する。赤外光源62は、たとえば赤外発光ダイオードである。赤外光源62からの赤外光は、マイボーム腺を観察するときに眼瞼の裏面に照射される。なお、マイボーム腺を観察するときには、従来と同様に、眼瞼を裏返してその裏面が露出される。この赤外光の用途はこれには限定されず、たとえば前眼部の観察に用いることが可能である。赤外光源62は赤外照明系を構成する。赤外照明系は、赤外光源62から出力された赤外光を拡散する拡散板を備えていてもよい。それにより、赤外光による照明野の明るさの一様化を図ることができる。
【0027】
[光学系の構成]
細隙灯顕微鏡1の光学系の構成について、図2を参照しながら説明する。細隙灯顕微鏡1の光学系には、従来と同様の観察系6と照明系8に加え、前述の可視照明系と赤外照明系が設けられている。
【0028】
〔観察系〕
観察系6は左右一対の光学系を備えている。左右の光学系は、ほぼ同様の構成を有する。検者は、この左右の光学系により被検眼Eを双眼で観察することができる。なお、図2には、観察系6の左右の光学系の一方のみが示されている。符号O1は観察系6の光軸(観察光軸)である。
【0029】
観察系6の左右の各光学系は、対物レンズ31、変倍光学系32、絞り33、リレーレンズ35、プリズム36及び接眼レンズ37を有する。ビームスプリッタ34は、左右の光学系の一方のみに又は双方に設けられる。接眼レンズ37は接眼部9a内に設けられている。符号Pは、接眼レンズ37に導かれる光の結像位置を示している。符号Ecは被検眼Eの角膜を、符号Epは虹彩を、符号Erは眼底をそれぞれ示している。符号Eoは検者眼を示している。
【0030】
変倍光学系32は、複数(たとえば2枚)の変倍レンズ32a、32bを含んで構成される。各変倍レンズ32a、32bは観察光軸O1に沿って移動可能とされている。それにより、被検眼Eの肉眼観察像や撮影画像の倍率(画角)を変更できる。倍率の変更は、観察倍率操作ノブ11を操作することにより行われる。また、図示しないスイッチ等を用いて電動で倍率を変更するように構成してもよい。
【0031】
ビームスプリッタ34は、観察光軸O1に沿って進む光を二分割する。ビームスプリッタ34を透過した光は、リレーレンズ35、プリズム36及び接眼レンズ37を介して検者眼Eoに導かれる。プリズム36は、2つの光学素子36a、36bを含み、光の進行方向を上方に平行移動させる。
【0032】
他方、ビームスプリッタ34により反射された光は、リレーレンズ41及びミラー42を介して、撮像装置13の撮像素子43に導かれる。撮像素子43は、この反射光を検出して画像信号を生成する。観察系6に含まれる部材のうち撮像素子43を終端とする光路を形成する部材は「撮影系」を構成する。
【0033】
〔照明系〕
照明系8は、光源51、リレーレンズ52、照明絞り56、集光レンズ53、細隙(スリット)形成部54及び集光レンズ55を有する。符号O2は、照明系8の光軸(照明光軸)を示す。照明系8は「スリット照明系」の一例である。
【0034】
光源51は照明光を出力する。なお、照明系8に複数の光源を設けてもよい。たとえば、定常光を出力する光源(ハロゲンランプ、LED等)と、フラッシュ光を出力する光源(キセノンランプ、LED等)の双方を光源51として設けることができる。また、角膜観察用の光源と眼底観察用の光源とを別々に設けてもよい。
【0035】
細隙形成部54は、スリット光(細隙光)を生成するために用いられる。細隙形成部54は、一対のスリット刃を有する。これらスリット刃の間隔を変更することによりスリットの幅が変更される。
【0036】
照明絞り56は、その透光部のサイズを変更可能に構成されている。照明絞り56は、特に眼底観察において有効である。たとえば、照明絞り56には、角膜Ecや水晶体による照明光の反射を低減させたり、照明光の明るさを調整したりといった用途がある。
【0037】
〔可視照明系〕
可視照明系は被検眼Eを可視光で照明する。可視照明系は可視光源61を含んで構成される。可視照明系は、拡散板等の任意の光学素子を備えていてもよい。可視照明系は、前眼部をスリット光で観察するときに背景照明光を照射する。また、可視照明系は、前眼部やその周囲(眼瞼の裏面など)を観察するための照明光を照射する。
【0038】
〔赤外照明系〕
赤外照明系は、マイボーム腺を観察(撮影)するために、眼瞼の裏面を赤外光で照明する。赤外照明系は赤外光源62を含んで構成される。赤外照明系は、拡散板等の任意の光学素子を備えていてもよい。
【0039】
なお、可視照明系及び/又は赤外照明系の形態(使用される光学素子やそれらの配置)は、上記に限定されるものではない。たとえば、可視照明系は、可視光源61からの可視光を被検眼Eに向けて反射する光学素子(第2反射部材)を備えていてもよい。同様に、赤外照明系は、赤外光源62からの赤外光を眼瞼の裏面に向けて反射する光学素子(第1反射部材)を備えていてもよい。第1反射部材と第2反射部材の双方が設けられる場合、これらを別体としてもよいし、単一の部材としてもよい。この単一の部材の例としてミラー12を適用することができる(図示省略)。
【0040】
[制御系の構成]
細隙灯顕微鏡1の制御系について、図3を参照しながら説明する。細隙灯顕微鏡1の制御系は、制御部101を中心に構成されている。なお、図3には、この実施形態で特に注目する構成部位のみが記載されており、それ以外の構成部位は省略されている。
【0041】
〔制御部〕
制御部101は、細隙灯顕微鏡1の各部を制御する。たとえば、制御部101は、観察系6の制御、照明系8の制御、可視照明系の制御、赤外照明系の制御、などを行う。観察系6の制御としては、変倍光学系32の制御、絞り33の制御、撮像素子43の電荷蓄積時間、感度、フレームレート等の制御などがある。照明系8の制御としては、光源51の制御、照明絞り56の制御、細隙形成部54の制御などがある。可視照明系の制御としては、可視光源61の制御などがある。赤外照明系の制御としては、赤外光源62の制御などがある。
【0042】
制御部101には記憶部102が設けられている。制御部101は、記憶部102に記憶されたデータの読み出し処理や、記憶部102に対するデータの書き込み処理を行う。
【0043】
制御部101は、マイクロプロセッサ、RAM、ROM、ハードディスクドライブ等を含んで構成される。このハードディスクドライブには、制御プログラムが予め記憶されている。制御部101の動作は、この制御プログラムと上記ハードウェアとの協働によって実現される。
【0044】
制御部101は、細隙灯顕微鏡1の装置本体(たとえば基台4内)やコンピュータ100に配置される。
【0045】
〔表示部〕
表示部103は、制御部101の制御を受けて各種の情報を表示する。表示部103は、LCD等のフラットパネルディスプレイ、CRTディスプレイなどの任意の表示デバイスを含んで構成される。表示部103は、細隙灯顕微鏡1の装置本体に設けられていてもよいし、コンピュータ100に設けられていてもよい。
【0046】
〔操作部〕
操作部104は、操作デバイスや入力デバイスを含んで構成される。操作部104には、装置本体に設けられたボタンやスイッチ(たとえば操作ハンドル5等)や、コンピュータ100のマウス、キーボードなどが含まれる。また、トラックボール、専用の操作パネル、スイッチ、ボタン、ダイアルなど、任意の操作デバイスや入力デバイスを用いることも可能である。
【0047】
図3では、表示部103と操作部104とを別々に表しているが、これらを一体的に構成することも可能である。その具体例として、タッチパネル式のLCDを用いることができる。
【0048】
操作部104は、特に、マイボーム腺の撮影開始指示及び撮影終了指示の入力に用いられる。操作部104は「第1入力部」及び「第2入力部」の一例である。なお、第1入力部と第2入力部は共通のデバイスであってもよいし、異なるデバイスであってもよい。
【0049】
[動作]
細隙灯顕微鏡1の動作について説明する。
【0050】
〔マイボーム腺の撮影〕
マイボーム腺の撮影では、被検者の眼瞼が裏返しにされる。検者は操作部104を用いてマイボーム腺の撮影の開始を指示する。この指示を受けた制御部101は、赤外光源62を点灯させる。赤外光源62からの赤外光は、眼瞼の裏面に照射される。撮像素子43は、眼瞼の裏面による赤外光の反射光を検出して画像信号を出力する。制御部101は、この画像信号を受けて、この画像信号に基づく画像(マイボーム腺画像)を表示部103に表示させる。
【0051】
なお、マイボーム腺の撮影態様としては、フラッシュ光を用いて静止画像を取得するもの、定常光を用いて所定のフレームレートの動画像を取得するもの、定常光を用いつつ撮像素子43を制御して静止画像を取得するものなどがある。
【0052】
〔前眼部の撮影〕
検者は操作部104を用いて前眼部の撮影の開始を指示する。この指示を受けた制御部101は、可視光源61を点灯させる。可視光源61からの可視光は、被検眼Eの前眼部に照射される。撮像素子43は、前眼部による可視光の反射光を検出して画像信号を出力する。制御部101は、この画像信号を受けて、この画像信号に基づく前眼部の画像(可視画像)を表示部103に表示させる。
【0053】
なお、前眼部の撮影態様としては、フラッシュ光を用いて静止画像を取得するもの、定常光を用いて所定のフレームレートの動画像を取得するもの、定常光を用いつつ撮像素子43を制御して静止画像を取得するものなどがある。
【0054】
可視光を用いた撮影対象は前眼部には限定されず、被検眼Eの任意の部位であってよい。また、可視光を用いて眼瞼の表面や裏面を撮影することもできる。なお、一般に前眼部像には前眼部だけでなく眼瞼も描画される。
【0055】
〔前眼部の撮影からマイボーム腺の撮影への移行〕
可視光を用いて前眼部を撮影(又は観察)した後に、赤外光を用いてマイボーム腺を撮影(観察)することがある。制御部101は、可視光源61を点灯させているときにマイボーム腺の撮影の開始指示の入力を受けると、可視光源61を消灯させ、かつ赤外光源62を点灯させる。それにより、前眼部の撮影からマイボーム腺の撮影へスムースに移行できる。
【0056】
なお、マイボーム腺の撮影開始の指示は、前述した操作部104を用いるものには限定されない。たとえば、撮像素子43からの画像信号を解析してマイボーム腺の撮影が開始されるか否か判断するように構成できる。この画像信号は、前眼部の撮影によるものでも、マイボーム腺の撮影によるものでも、照明系8を用いた撮影によるものでもよい。
【0057】
マイボーム撮影が開始されるか否かは、たとえば次のようにして判断できる。第1の手法として、前眼部像の画素値(輝度値等)を解析することにより、眼瞼の裏面が露出しているか否かを判断し、それによりマイボーム腺の撮影が開始されるか否か決定できる。このときの解析処理としては、前眼部の強膜に相当する画像領域の形状や面積を解析する方法、眼瞼に相当する画像領域の輝度値(表面と裏面との間における光反射率の違いに基づく輝度の違い)を解析する方法などがある。
【0058】
第2の手法として、前眼部を動画撮影しているときに、被検者以外の物体やその影が画像に映り込んだことを検出し、それによりマイボーム腺の撮影が開始されると判断することができる。画像に映り込む物体や影は、眼瞼を裏返すときの検者の指や部材(綿棒等)、若しくはそれらの影である。物体や影の映り込みの検出処理としては、動画像のフレームにおける輝度の変化を監視する方法や、描画領域の外からの物体や影の進入を検出する方法などがある。
【0059】
制御部101は、このような解析処理によりマイボーム腺の撮影が開始されると判断されたことに対応して、可視光源61を消灯させる制御と、赤外光源62を点灯させる制御とを行う。上記解析処理を実行する制御部101は「判断部」の一例である。
【0060】
〔マイボーム腺の撮影から前眼部の撮影への移行〕
赤外光を用いてマイボーム腺を撮影(観察)した後に、可視光を用いて前眼部を撮影(又は観察)することがある。制御部101は、赤外光源62を点灯させているときにマイボーム腺の撮影の終了指示の入力を受けると、赤外光源62を消灯させ、かつ可視光源61を点灯させる。それにより、マイボーム腺の撮影から前眼部の撮影へスムースに移行できる。
【0061】
この場合においても、画像信号を解析してマイボーム腺の撮影が終了されるか否か判断し、終了されると判断されたことに対応して赤外光源62を消灯させる制御と、可視光源61を点灯させる制御とを行うように構成することができる。
【0062】
〔撮影画像の保存〕
ドライアイの診断等において、前眼部像とマイボーム腺画像の双方を取得することがある。その場合、制御部101は、前眼部像とマイボーム腺画像とを関連付けて記憶する。この処理について説明する。
【0063】
前提として、被検者識別情報(患者ID等)と左右眼情報とが入力される。被検者識別情報の入力態様としては、検者が操作部104を用いて行う方法や、制御部101が当該患者の電子カルテから自動で取得する方法などがある。左右眼情報の入力態様としては、検者が操作部104を用いて行う方法や、制御部101が当該患者の電子カルテから自動で取得する方法や、細隙灯顕微鏡1のセッティング(つまり各部の配置状態)から取得する方法などがある。セッティングから取得する方法としては、基台4の左右方向における位置をセンサで検出して被検眼Eが左眼か右眼か判別する方法、光学系(観察系6、照明系8等)の左右方向への回動状態をセンサで検出して左眼か右眼か判別する方法、被検眼Eの撮影画像(前眼部像等)を解析して左眼か右眼か判別する方法などがある。
【0064】
制御部101は、入力された被検者識別情報及び左右眼情報と、マイボーム腺画像及び可視画像とを関連付けて記憶部102に記憶させる。患者IDと左右眼情報が入力されると、制御部101は、入力された情報に関連付けられたマイボーム腺画像と可視画像とを記憶部102から読み出して表示部103に表示させる。なお、一方の画像のみを読み出すようにしてもよい。
【0065】
[効果]
細隙灯顕微鏡1(マイボーム腺観察装置)の効果について説明する。
【0066】
細隙灯顕微鏡1は、赤外照明系と、可視照明系と、制御部101と、撮影系と、表示部103とを有する。赤外照明系は、赤外光を出力する赤外光源62を有し、眼瞼の裏面を赤外光で照明する。可視照明系は、可視光を出力する可視光源61を有し、被検眼Eを可視光で照明する。制御部101は、赤外光源62を点灯及び消灯させる制御と、可視光源61を点灯及び消灯させる制御とを行う。撮影系は、観察系6の一部からなり、光を検出して画像信号を出力する撮像素子43を有し、眼瞼の裏面による赤外光の反射光を撮像素子43に導き、かつ被検眼Eによる可視光の反射光を撮像素子43に導く。表示部103は、赤外光の反射光を検出した撮像素子43からの画像信号に基づくマイボーム腺画像を表示し、かつ可視光の反射光を検出した撮像素子43からの画像信号に基づく可視画像を表示する。
【0067】
このような細隙灯顕微鏡1によれば、従来のようなフィルタやこれを光路に挿脱する機構を設けることなく、可視光による被検眼の観察と、赤外光によるマイボーム腺の観察とを切り替えることが可能である。
【0068】
また、細隙灯顕微鏡1は第1入力部を備える。第1入力部は、操作部104や制御部101(判断部)等により構成され、眼瞼の裏面の撮影の開始指示を入力するために用いられる。制御部101は、可視光源61が点灯されているときに当該開始指示が入力されたことに対応して、可視光源61を消灯させる制御と、赤外光源62を点灯させる制御とを行う。
【0069】
第1入力部として判断部を用いる場合、判断部は、撮像素子43からの画像信号を解析してマイボーム腺の撮影が開始されるか否か判断する。制御部101は、判断部によりマイボーム腺の撮影が開始されると判断されたことに対応して、可視光源61を消灯させる制御と、赤外光源62を点灯させる制御とを行う。
【0070】
このような細隙灯顕微鏡1によれば、可視光を用いる撮影から赤外光を用いる撮影に迅速かつ円滑に移行することができる。特に、判断部が用いられる場合には、赤外光を用いる撮影への移行を検出して自動で光源を切り替えることができるので、よりスムースな移行が可能となる。
【0071】
また、細隙灯顕微鏡1は第2入力部を備える。第2入力部は、操作部104や制御部101(判断部)等により構成され、眼瞼の裏面の撮影の終了指示を入力するために用いられる。制御部101は、赤外光源62が点灯されているときに当該終了指示が入力されたことに対応して、赤外光源62を消灯させる制御と、可視光源61を点灯させる制御とを行う。
【0072】
このような細隙灯顕微鏡1によれば、赤外光を用いる撮影から可視光を用いる撮影に迅速かつ円滑に移行することができる。特に、判断部が用いられる場合には、可視光を用いる撮影への移行を検出して自動で光源を切り替えることができるので、よりスムースな移行が可能となる。
【0073】
また、細隙灯顕微鏡1の制御部101には記憶部102が設けられている。制御部101は、各被検者についてのマイボーム腺画像と可視画像とを関連付けて記憶部102に記憶させる。この関連付けは、被検者識別情報に基づいてなされる。また、左右眼情報も利用することにより、同一被検者の左眼の画像と右眼の画像とを区別して保存することが可能となる。
【0074】
また、細隙灯顕微鏡1は、被検眼Eの前眼部をスリット光で照明するスリット照明系を備える。可視照明系は、スリット光による照明野の周囲領域に可視光を照射する。制御部101は、スリット照明系及び可視照明系を制御して、スリット光及び可視光を同時に前眼部に照射させる。
【0075】
このような構成によれば、可視照明系からの可視光を、スリット光での観察・撮影時における背景照明光として用いることが可能となる。
【0076】
〈第2の実施形態〉
この実施形態では、赤外光の照射方向を変更可能なマイボーム腺観察装置について説明する。マイボーム腺の観察や撮影は眼瞼を裏返して行うものであり、また左眼の眼瞼と右眼の眼瞼を、更には上眼瞼と下眼瞼を観察することもある。したがって、赤外線の照射方向を変更することにより、より適切に観察部位を照明することが可能となる。
【0077】
なお、この実施形態に係る装置の構成は第1の実施形態とほぼ同様である。よって、共通の構成部位については同じ符号を用いることにする。また、第1の実施形態と共通の説明については省略することがある。
【0078】
この実施形態の細隙灯顕微鏡は、第1の実施形態で説明した構成に加えて、眼瞼の裏面に対する赤外光の照射方向を変更する機構(第1変更機構)を有する。第1変更機構は、手動で駆動されるものであっても、電動で駆動するものであってもよい。
【0079】
照射方向の変更態様としては、たとえば観察光軸O1を中心とする周回軌道又は弧状軌道に沿うもの、観察光軸O1に対する距離を変更する軌道に沿うもの、任意方向に移動するもの、これらの組み合わせなどがある。また、照射方向の変更方法としては、赤外光源62を移動させる方法や、赤外光の進行方向を変更する方法や、これらの組み合わせなどがある。
【0080】
赤外光源62を移動させる構成としては、軌道に対応する形状のレールに沿って赤外光源62を移動させる構成や、可撓性を有するアームに赤外光源62を取り付ける構成などがある。また、赤外光の進行方向を変更する構成としては、反射面の向きを変更可能なミラーを用いる構成などがある。
【0081】
この実施形態の細隙灯顕微鏡の構成例を図4に示す。この細隙灯顕微鏡は、第1の実施形態の構成に加え、選択部110と第1変更機構200とを有する。第1変更機構200は、前述のように眼瞼の裏面に対する赤外光の照射方向を変更するものである。
【0082】
選択部110について説明する。前提として、この実施形態では、第1変更機構200により赤外光の照射方向を変更しつつ複数回の撮影を行う。このとき、撮像素子43は、複数の異なる方向から照射された赤外光の反射光をそれぞれ検出して複数の画像信号を出力する。これら画像信号は制御部101に送られる。
【0083】
選択部110は、これら画像信号を解析して、上記複数の照射方向のうちの一つを選択する。この選択処理は、たとえば、各画像信号に基づくマイボーム腺画像における輝度分布に基づいて実行される。この輝度分布は、たとえば、画像の全体又は一部における輝度値の大きさ及び/又はその統計値である。具体例として、選択部110は、各画像信号に基づくマイボーム腺画像の平均輝度値を求め、平均輝度値が最も大きいマイボーム腺画像に対応する照射方向を特定し、これを選択結果とする。なお、統計値は平均値には限定されず、たとえば最大値、最小値、極大値、極小値、中央値、最頻値、分散、標準偏差など、複数の値に対して統計処理を施すことで導出される値であればよい。ただし、好適なマイボーム腺画像が得られるような統計値が任意に選択されて使用される。
【0084】
また、眼瞼の裏面に残存する涙などにより、画像の全体又は一部の明るさが過度になることがある。このような画像が得られることを防止するために、選択部110は、マイボーム腺画像における輝度分布から、過度の明るさを持つ画像領域の有無を特定し、そのような画像領域を含むマイボーム腺画像を選択対象から除外して照射方向の選択を行うように構成することが可能である。過度の明るさを持つ画像領域の有無を特定する処理は、たとえば閾値処理により行うことができる。また、輝度値が飽和している画素の有無を特定することにより当該画像領域の有無の特定を行うように構成することも可能である。また、マイボーム腺画像における輝度値の大きい部分と小さい部分との相違(差、比など)に基づいて、過度の明るさを持つ画像領域の有無の特定を行うように構成することも可能である。
【0085】
制御部101は、選択部110により選択された照射方向から赤外光を照射させるように第1変更機構を制御する。
【0086】
このような細隙灯顕微鏡によれば、好適な明るさのマイボーム腺画像を容易に得る事が可能である。また、眼瞼の裏面に残存する涙などによる悪影響を防止することが可能である。
【0087】
なお、上記のように赤外光の照射方向を自動で変更する代わりに、選択部110により選択された照射方向を表示部103に表示させるように構成することも可能である。それにより、第1変更機構を手動で駆動させる場合であっても、同様の効果が得られる。
【0088】
〈第3の実施形態〉
この実施形態では、赤外光の照射方向と可視光の照射方向をそれぞれ変更可能なマイボーム腺観察装置について説明する。この実施形態に係る装置の構成は第2の実施形態とほぼ同様である。よって、共通の構成部位については同じ符号を用いることにする。また、第2の実施形態と共通の説明については省略することがある。
【0089】
この実施形態の細隙灯顕微鏡は、第2の実施形態で説明した構成に加えて、眼瞼の裏面に対する可視光の照射方向を変更する機構(第2変更機構)を有する。第2変更機構は、手動で駆動されるものであっても、電動で駆動するものであってもよい。また、可視光や赤外光の照射方向の変更態様や変更方向については、第2の実施形態と同様でよい。なお、この実施形態の可視照明系は、被検眼Eだけでなく、眼瞼の裏面にも可視光を照射するものであるが、可視光の照射範囲は比較的広いので特に構成変更の必要はない。
【0090】
この実施形態の細隙灯顕微鏡の構成例を図5に示す。この細隙灯顕微鏡は、第2の実施形態の構成に加え、第2変更機構300を有する。第2変更機構300は、前述のように眼瞼の裏面に対する可視光の照射方向を変更するものである。第2変更機構300の構成は第1変更機構200と同様でよい。
【0091】
選択部110について説明する。前提として、この実施形態では、第2変更機構200により可視光の照射方向を変更しつつ複数回の撮影を行う。このとき、撮像素子43は、複数の異なる方向から照射された可視光の反射光をそれぞれ検出して複数の画像信号を出力する。これら画像信号は制御部101に送られる。
【0092】
選択部110は、これら画像信号を解析して、上記複数の照射方向のうちの一つを選択する。この選択処理は、第2の実施形態と同様でよい。特に、過度の明るさを持つ画像領域を含むマイボーム腺画像を除外して照射方向の選択を行うように、選択部110を構成することが可能である。
【0093】
制御部101は、選択部110により選択された照射方向から赤外光を照射させるように第1変更機構を制御し、赤外光源62に赤外光を出力させる。
【0094】
このような細隙灯顕微鏡によれば、好適な明るさのマイボーム腺画像を容易に得る事が可能である。また、眼瞼の裏面に残存する涙などによる悪影響を防止することが可能である。
【0095】
なお、上記のように赤外光の照射方向を自動で変更する代わりに、選択部110により選択された照射方向を表示部103に表示させるように構成することも可能である。それにより、第1変更機構を手動で駆動させる場合であっても、同様の効果が得られる。
【0096】
以上第1〜第3の実施形態として説明した構成は、この発明を実施するための一具体例に過ぎない。この発明を実施しようとする者は、この発明の要旨の範囲内における任意の変形を適宜に施すことが可能である。
【符号の説明】
【0097】
1 細隙灯顕微鏡(マイボーム腺観察装置)
6 観察系
8 照明系
43 撮像素子
61 可視光源
62 赤外光源
100 コンピュータ
101 制御部
102 記憶部
103 表示部
104 操作部
110 選択部
200 第1変更機構
300 第2変更機構
O1 観察光軸
E 被検眼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外光を出力する赤外光源を有し、眼瞼の裏面を前記赤外光で照明する赤外照明系と、
可視光を出力する可視光源を有し、被検眼を前記可視光で照明する可視照明系と、
前記赤外光源を点灯及び消灯させる制御と、前記可視光源を点灯及び消灯させる制御とを行う制御部と、
光を検出して画像信号を出力する撮像素子を有し、前記眼瞼の裏面による前記赤外光の反射光を前記撮像素子に導き、かつ前記被検眼による前記可視光の反射光を前記撮像素子に導く撮影系と、
前記赤外光の反射光を検出した前記撮像素子からの前記画像信号に基づくマイボーム腺画像を表示し、かつ前記可視光の反射光を検出した前記撮像素子からの前記画像信号に基づく可視画像を表示する表示部と、
を備えることを特徴とするマイボーム腺観察装置。
【請求項2】
前記眼瞼の裏面の撮影の開始指示を入力するための第1入力部を備え、
前記制御部は、前記可視光源が点灯されているときに前記開始指示が入力されたことに対応して、前記可視光源を消灯させる制御と、前記赤外光源を点灯させる制御とを行う、
ことを特徴とする請求項1に記載のマイボーム腺観察装置。
【請求項3】
前記第1入力部は、前記撮像素子からの画像信号を解析してマイボーム腺の撮影が開始されるか否か判断する判断部を含み、
前記制御部は、前記判断部によりマイボーム腺の撮影が開始されると判断されたことに対応して、前記可視光源を消灯させる制御と、前記赤外光源を点灯させる制御とを行う、
ことを特徴とする請求項2に記載のマイボーム腺観察装置。
【請求項4】
前記眼瞼の裏面の撮影の終了指示を入力するための第2入力部を備え、
前記制御部は、前記終了指示が入力されたことに対応して、前記赤外光源を消灯させる制御と、前記可視光源を点灯させる制御とを行う、
ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のマイボーム腺観察装置。
【請求項5】
前記眼瞼の裏面に対する前記赤外光の照射方向を変更する第1変更機構を備えることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のマイボーム腺観察装置。
【請求項6】
前記撮像素子は、前記第1変更機構により複数の異なる方向から照射された前記赤外光の反射光をそれぞれ検出して複数の画像信号を出力し、
前記制御部は、
前記複数の画像信号のそれぞれに基づくマイボーム腺画像における輝度分布に基づいて、前記複数の異なる方向のうちの一の方向を選択する選択部を備え、
前記第1変更機構を制御して前記一の方向から前記赤外光を照射させる、
ことを特徴とする請求項5に記載のマイボーム腺観察装置。
【請求項7】
前記可視照明系は、前記眼瞼の裏面を前記可視光で照明し、
前記眼瞼の裏面に対する前記赤外光の照射方向を変更する第1変更機構と、
前記眼瞼の裏面に対する前記可視光の照射方向を変更する第2変更機構と、
を備え、
前記撮像素子は、前記第2変更機構により複数の異なる方向から照射された前記可視光の反射光をそれぞれ検出して複数の画像信号を出力し、
前記制御部は、
前記複数の画像信号のそれぞれに基づく可視画像における輝度分布に基づいて、前記複数の異なる方向のうちの一の方向を選択する選択部を備え、
前記第1変更機構を制御して前記一の方向から前記赤外光を照射させる、
ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のマイボーム腺観察装置。
【請求項8】
前記制御部は、
記憶部を有し、
各被検者についての前記マイボーム腺画像と前記可視画像とを関連付けて前記記憶部に記憶させる、
ことを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載のマイボーム腺観察装置。
【請求項9】
前記被検眼の前眼部をスリット光で照明するスリット照明系を備え、
前記可視照明系は、前記スリット光による照明野の周囲領域に前記可視光を照射し、
前記制御部は、前記スリット照明系及び前記可視照明系を制御して前記スリット光及び前記可視光を同時に前記前眼部に照射させる、
ことを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載のマイボーム腺観察装置。
【請求項10】
前記赤外光源は赤外発光ダイオードであることを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載のマイボーム腺観察装置。
【請求項11】
前記可視光源は白色発光ダイオードであることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれか一項に記載のマイボーム腺観察装置。
【請求項12】
前記赤外照明系及び/又は前記可視照明系は、前記出力された光を拡散する拡散板を有することを特徴とする請求項1〜請求項11のいずれか一項に記載のマイボーム腺観察装置。
【請求項13】
前記赤外照明系は、前記赤外光源により出力された赤外光を前記眼瞼の裏面に向けて反射する第1反射部材を有することを特徴とする請求項1〜請求項12のいずれか一項に記載のマイボーム腺観察装置。
【請求項14】
前記可視照明系は、前記可視光源により出力された可視光を前記被検眼に向けて反射する第2反射部材を有することを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれか一項に記載のマイボーム腺観察装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−228309(P2012−228309A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97303(P2011−97303)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000220343)株式会社トプコン (904)