説明

マグネシウム合金圧延材、およびマグネシウム合金部材、ならびにマグネシウム合金圧延材の製造方法

【課題】幅が広く、機械的特性が幅方向で均一なMg合金圧延材、およびそのMg合金圧延材を塑性加工してなるMg合金部材、ならびにそのMg合金圧延材の製造方法を提供する。
【解決手段】Mg合金圧延材の製造方法は、Mg合金素材を圧延ロールで圧延して製造する方法である。Mg合金素材の幅が1000mm以上で、圧延ロールは幅方向に3つ以上の領域を有している。圧延ロール表面の幅方向においる最高温度と最低温度の差が10℃以下となるように、各領域毎に温度制御する。圧延ロールの幅方向全体の温度差を小さくすることで、幅方向の圧延具合のばらつきを低減することができる。そのため、幅方向で機械的特性が実質的に均一なMg合金圧延材を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム合金圧延材、およびマグネシウム合金部材、ならびにマグネシウム合金圧延材の製造方法に関するものである。特に、圧延材の幅が広くても幅方向の機械的特性が均一であるマグネシウム合金圧延材、およびそのマグネシウム合金圧延材を塑性加工したマグネシウム合金部材、ならびに上記マグネシウム合金圧延材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、マグネシウム(以下、Mg)合金板が、携帯電話やノートパソコンの筺体などに利用されている。Mg合金は、塑性加工性に乏しいことから、ダイカスト法やチクソモールド法による鋳造材が主流である。通常、その鋳造材に、圧延加工などを施すことで機械的特性の向上を図っている。
【0003】
特許文献1では、ASTM規格におけるAZ91合金相当のマグネシウム合金を双ロール連続鋳造法により製造した鋳造材に圧延を施すことが記載されている。具体的には、圧延ロールへ挿入する直前におけるMg合金素材板の表面温度と、圧延ロールの表面温度をそれぞれ特定の温度に制御して圧延している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−098470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
Mg合金の用途範囲の拡大に伴い、大きさの大きいMg合金材の開発が望まれている。上述した圧延によれば、例えば、Mg合金素材の幅がさほど広くない場合においては、幅方向においてMg合金素材および圧延ロールのそれぞれの表面温度が自然と均一になり易い。そのため、幅方向で圧延具合にばらつきが生じ難く、機械的特性が幅方向で均一なMg合金圧延材となり易い。しかし、上記合金素材の幅が広くなるほど、特に1000mm以上になると、その幅方向において機械的特性を均一にすることが困難であった。というのも、幅が広くなるほど、圧延時に、Mg合金素材の幅方向の中央部では加熱状態が維持され易く、同両端部では冷却され易い傾向にある。そのため、上記中央部と両端部とで均一な加熱状態を維持することが難しく、圧延具合に差が生じることがあるからである。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、幅が広く、機械的特性が幅方向に均一なMg合金圧延材を提供することにある。
【0007】
本発明の別の目的は、上記Mg合金圧延材を利用したMg合金部材を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、上記Mg合金圧延材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のMg合金圧延材は、Mg合金素材を圧延ロールにて圧延してなり、幅が1000mm以上である。上記Mg合金圧延材の幅方向において、中央部における(002)面、(100)面、(101)面、(102)面、(110)面、(103)面のX線回折のピーク強度をそれぞれI(002)、I(100)、I(101)、I(102)、I(110)、I(103)とする。上記幅方向において、端部における上記各面のX線回折のピーク強度をそれぞれI(002)、I(100)、I(101)、I(102)、I(110)、I(103)とする。そして、上記中央部および端部のそれぞれにおける底面ピーク比O、Oを以下の式とするとき、前記端部と中央部の底面ピーク比の比率O/Oが、0.89≦O/O≦1.15を満たす。
底面ピーク比O:I(002)/{I(100)+I(002)+I(101)+I(102)+I(110)+I(103)}
底面ピーク比O:I(002)/{I(100)+I(002)+I(101)+I(102)+I(110)+I(103)}
【0010】
本発明のMg合金圧延材によれば、Mg合金圧延材の端部と中央部の底面ピーク比の比率O/Oが上記の範囲を満たすことで、結晶面の配向性が幅方向で均一である。そのため、Mg合金圧延材の塑性加工性(成形性)が幅方向で均一な圧延材とすることができる。したがって、この圧延材に塑性加工を施す際、どの箇所を加工しても実質的に均一な加工を施すことができる。
【0011】
本発明圧延材の一形態として、上記中央部と端部において、圧延方向と直交する断面における平均結晶粒径をそれぞれD、Dとするとき、上記端部と中央部の平均結晶粒径比D/Dが、0.7≦D/D≦1.5を満たすことが挙げられる。
【0012】
上記の構成によれば、Mg合金圧延材の端部と中央部の平均結晶粒径比D/Dが、上記の範囲を満たすことで、平均結晶粒径が幅方向において均一である。そのため、幅方向で強度および耐食性が実質的に均一な圧延材とすることができる。
【0013】
本発明圧延材の一形態として、上記中央部と端部において、圧延方向の引張試験における伸びをそれぞれE、Eとするとき、上記端部と中央部の伸び比E/Eが、2/3≦E/E≦3/2を満たすことが挙げられる。
【0014】
上記の構成によれば、Mg合金圧延材の端部と中央部の伸び比E/Eが、上記の範囲を満たすことで、圧延方向における伸びが幅方向で均一である。つまり、どの箇所に塑性加工を施しても実質的に均一な加工を施すことができる。
【0015】
本発明圧延材の一形態として、上記中央部と端部において、圧延方向の引張試験における引張強さをそれぞれTs、Tsとするとき、上記端部と中央部の引張強さ比Ts/Tsが、0.9≦Ts/Ts≦1.1を満たすことが挙げられる。
【0016】
上記の構成によれば、Mg合金圧延材の端部と中央部の引張強さ比Ts/Tsが、上記の範囲を満たすことで、圧延方向における引張強さが幅方向で実質的に均一である。
【0017】
本発明圧延材の一形態として、上記中央部と端部において、圧延方向の引張試験における0.2%耐力をそれぞれPs、Psとするとき、上記端部と中央部の0.2%耐力比Ps/Psが、0.9≦Ps/Ps≦1.1を満たすことが挙げられる。
【0018】
上記の構成によれば、Mg合金圧延材の上記端部と中央部の0.2%耐力比Ps/Psが、上記の範囲を満たすことで、圧延方向における上記耐力比が幅方向で均一である。そのため、圧延方向における成形性が幅方向で実質的に均一な圧延材とすることができる。
【0019】
本発明圧延材の一形態として、上記マグネシウム合金素材は、アルミニウムを5質量%以上12質量%以下含有することが挙げられる。
【0020】
上記の構成によれば、アルミニウムを上記の範囲含有することで、より高硬度で耐食性に優れるMg合金圧延材とすることができる。
【0021】
本発明のMg合金部材は、上記本発明Mg合金圧延材に塑性加工を施すことで作製される。
【0022】
上記の構成によれば、幅方向において機械的特性が均一なMg合金圧延材に塑性加工を施しているので、どの箇所においても特性が均一なMg合金部材とすることができる。
【0023】
本発明のMg合金圧延材の製造方法は、マグネシウム合金素材を圧延ロールにて圧延して製造する方法である。上記マグネシウム合金素材の幅が1000mm以上で、上記圧延ロールは、幅方向に3つ以上の領域を有する。そして、上記圧延ロール表面の幅方向における最高温度と最低温度の差が10℃以下となるように、各領域毎に温度制御する。
【0024】
本発明の製造方法によれば、圧延ロールの幅方向全体の温度差を小さくすることで、幅方向の圧延具合のばらつきを低減できる。そのため、幅が1000mm以上ある幅広なMg合金素材に対し、幅方向で均一な圧延を施すことができる。したがって、厚さのばらつきや縁割れなどが少なく、幅が1000mm以上で、機械的特性が幅方向で実質的に均一なMg合金圧延材を製造することができる。
【0025】
本発明製造方法の一形態として、上記温度制御は、上記圧延ロール内に温度を調整した熱媒油を導入して行うことが挙げられる。
【0026】
上記の構成によれば、温度制御に熱媒油を使用することで、上記各領域毎で圧延ロールの内部から速やかに所定の温度に制御することができる。
【0027】
本発明製造方法の一形態として、上記温度制御は、上記圧延ロール表面に温度を調整した加熱流体を付着させることで行うことが挙げられる。
【0028】
上記の構成によれば、加熱流体をロール表面に直接付着させて温度制御するので、各領域毎、および各領域にまたがる箇所など圧延ロールの幅方向において細かく制御することができる。また、圧延ロール内部に温度制御機構を組み込まなくてもよい。つまり、加熱流体の利用により温度制御機構のない既存の圧延ロールでも、ロールの外部からその表面温度を領域ごとに容易に制御できる。
【0029】
本発明製造方法の一形態として、上記温度制御は、上記圧延ロール表面において、幅方向に100mm離れた2点の温度差が6℃以下となるように行うことが挙げられる。
【0030】
上記の構成によれば、近接した2点の温度差を小さくすることで、圧延ロールの幅方向全体の温度分布のばらつきを制御し易い。そのため、Mg合金素材の幅方向で圧延具合のばらつきを低減することができる。
【0031】
本発明製造方法の一形態として、上記圧延ロールを通過する直前の上記マグネシウム合金素材表面において、幅方向の最高温度と最低温度の差が8℃以下となるように予熱することが挙げられる。
【0032】
上記の構成によれば、Mg合金素材の幅方向全体の温度差を小さくすることで、Mg合金素材の幅方向で圧延具合のばらつきをより効果的に低減することができる。つまり、圧延ロールだけでなく、素材の温度も幅方向でばらつきを低減することで、均一な圧延を施すことができる。
【0033】
本発明製造方法の一形態として、上記圧延ロールを通過する直前の上記マグネシウム合金素材表面において、幅方向に100mm離れた2点の温度差が6℃以下となるように予熱し、そして、上記温度制御は、上記圧延ロールを通過した直後の上記マグネシウム合金圧延材表面において、幅方向に100mm離れた2点の温度差が6℃以下となるように行うことが挙げられる。
【0034】
上記の構成によれば、圧延前後で、近接した2点の温度差を小さくすることで、圧延ロールの幅方向全体の温度分布のばらつきをより一層制御し易い。そのため、Mg合金素材の幅方向で圧延具合のばらつきをより一層効果的に低減することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明のMg合金圧延材は、幅が広く、機械的特性が幅方向で均一とすることができる。
【0036】
本発明のMg合金部材は、どの箇所においても特性を均一にすることができる。
【0037】
本発明のMg合金圧延材の製造方法は、幅が1000mm以上ある幅広なMg合金素材でも、機械的特性が幅方向で均一な圧延材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施形態に係るMg合金圧延材の製造過程の概略図であって、(A)は圧延ラインの一例を模式的に示す説明図で、(B)はMg合金素材の予熱に利用するヒートボックスの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施の形態を説明する。先に、Mg合金圧延材を説明し、その後、図1を適宜参照してその製造方法について説明する。
【0040】
<<Mg合金圧延材>>
[組成]
Mg合金圧延材は、Mg元素を主成分として、そのMgに添加元素を含有した種々の組成のもの(残部:不純物)が挙げられる。特に、本発明では、添加元素に少なくともアルミニウム(Al)を含有するMg−Al系合金とすることが好ましい。このAlの含有量が多いほど、耐食性に優れる上に、強度、耐塑性変形性といった機械的特性にも優れる傾向にある。したがって、本発明では、Alを3質量%以上含有することが好ましく、5質量%以上、特に7.0質量%以上がより好ましく、更には、7.3質量%以上含有すると一層好ましい。但し、Alの含有量が12質量%を超えると塑性加工性の低下を招くことから、上限は12質量%とする。Alの含有量は、特に11質量%以下、更に、8.3質量%〜9.5質量%が好ましい。
【0041】
Al以外の添加元素には、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、シリコン(Si)、ベリリウム(Be)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、イットリウム(Y)、銅(Cu)、銀(Ag)、錫(Sn)、ニッケル(Ni)、金(Au)、リチウム(Li)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)及び希土類元素RE(Y、Ceを除く)から選択された1種以上の元素が挙げられる。このような元素を含む場合、その含有量は、合計で0.01質量%以上10質量%以下、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下が挙げられる。これら添加元素のうち、Y、Ce、Ca、及び希土類元素(Y、Ceを除く)から選択される少なくとも1種の元素を合計0.001質量%以上、好ましくは合計0.1質量%以上5質量%以下含有すると、耐熱性、難燃性に優れる。希土類元素を含有する場合、その合計含有量は0.1質量%以上が好ましく、特に、Yを含有する場合、その含有量は0.5質量%以上が好ましい。不純物は、例えば、Fe、Niなどが挙げられる。
【0042】
Mg−Al系合金のより具体的な組成は、例えば、ASTM規格におけるAZ系合金(Mg−Al−Zn系合金、Zn:0.2質量%〜1.5質量%)、AM系合金(Mg−Al−Mn系合金、Mn:0.15質量%〜0.5質量%)、Mg−Al−RE(希土類元素)系合金、AX系合金(Mg−Al−Ca系合金、Ca:0.2質量%〜6.0質量%)、AJ系合金(Mg−Al−Sr系合金、Sr:0.2質量%〜7.0質量%)などが挙げられる。特に、Alを8.3質量%〜9.5質量%、Znを0.5質量%〜1.5質量%含有するMg−Al系合金、代表的にはAZ91合金は、耐食性、機械的特性に優れて好ましい。
【0043】
[寸法]
Mg合金圧延材の幅は1000mm以上であれば、長さおよび厚さは、製造するMg合金部材の大きさに応じて適宜選択すればよく、特に限定しない。例えば、長尺材やコイル材を適宜な長さに切りとった短尺材などが挙げられる。いずれの長さを有する圧延材でも、幅方向において厚さが実質的に均一であることが好ましい。特に、Mg合金圧延材の幅方向の中央部と端部において、それぞれの厚さをt、tとするとき、厚さの比t/tが0.97≦t/t≦1.03を満たすことが好ましい。この範囲を満たすことで、Mg合金圧延材をコイルに巻き取る場合、幅方向で厚さが均一であるので、巻きずれの発生を低減することができる。ここでいう中央部とは、圧延材の幅方向の中心から両側縁方向におよそ50mm以内の範囲とし、端部とは、側縁から中心方向におよそ100mm以内、好ましくは50mm以内の地点近傍とする。以降、中央部および端部は、ここでいう中央部と端部と同様の位置を表す。
【0044】
[機械的特性]
本発明のMg合金圧延材は、幅が1000mm以上でも、後述するように幅方向の圧延具合を均一にすることで、幅方向全域に亘って以下の各物理量を均一にすることができる。具体的な機械的特性を以下に述べる。
【0045】
(底面ピーク比)
底面ピーク比は、Mg合金圧延材の幅方向の中央部と端部についてX線回折により求める。ここでいう中央部における底面ピーク比Oとは、(002)面、(100)面、(101)面、(102)面、(110)面、(103)面でのX線回折により求めたピーク強度I(002)、I(100)、I(101)、I(102)、I(110)、I(103)から、I(002)/{I(100)+I(002)+I(101)+I(102)+I(110)+I(103)}で表す。同様に、端部における底面ピーク比Oとは、(002)面、(100)面、(101)面、(102)面、(110)面、(103)面でのX線回折により求めたピーク強度I(002)、I(100)、I(101)、I(102)、I(110)、I(103)から、I(002)/{I(100)+I(002)+I(101)+I(102)+I(110)+I(103)}で表す。そうして求められた端部と中央部の底面ピーク比の比率O/Oが、0.89≦O/O≦1.15を満たすとき、幅方向において底面ピーク比が実質的に均一であるとする。そのようなMg合金圧延材は、Mg合金圧延材の幅方向で結晶面の配向性が均一であり、幅方向において実質的に均一な塑性加工性(成形性)を有することができる。これらのX線回折を測定する箇所は、上記中央部および端部においてそれぞれ表面で測定する。
【0046】
(平均結晶粒径)
上記中央部と端部において、圧延方向と直交する断面における平均結晶粒径をそれぞれ「鋼−結晶粒度の顕微鏡試験方法 JIS G 0551(2005)」に基づいて求める。そして、中央部と端部の上記平均結晶粒径をそれぞれD、Dとし、上記端部と中央部の平均結晶粒径比D/Dが、0.7≦D/D≦1.5を満たすとき、平均粒径が幅方向で実質的に均一であるとする。そのようなMg合金圧延材であれば、幅方向で強度および耐食性を実質的に均一にできる。この平均結晶粒径比D/Dは、0.9≦D/D≦1.1であることがより好ましい。
【0047】
(伸び・引張強さ・0.2%耐力)
伸び、引張強さ、0.2%耐力は、上記中央部と端部のそれぞれにおいて、「金属材料引張試験方法 JIS Z 2241(1998)」に基づいて求める。この引張試験は、上記中央部と端部のそれぞれにおいて、長手が圧延方向に沿うように、JIS13B号試験片(JIS Z 2201(1998))を切り出し、その試験片に対して行う。
【0048】
そして、中央部と端部の伸びをそれぞれE、Eとし、上記端部と中央部の伸び比E/Eが、2/3≦E/E≦3/2を満たすとき、幅方向で伸びが実質的に均一であるとする。
【0049】
同様に、引張強さをそれぞれ、Ts、Tsとし、上記端部と中央部の引張強さ比Ts/Tsが、0.9≦Ts/Ts≦1.1を満たすとき、幅方向で引張強さが実質的に均一であるとする。
【0050】
また、0.2%耐力をそれぞれ、Ps、Psとし、上記端部と中央部の0.2%耐力比Ps/Psが、0.9≦Ps/Ps≦1.1を満たすとき、幅方向で0.2%耐力が実質的に均一であるとする。
【0051】
これら伸び、引張強度、0.2%耐力が上記の範囲を満たすとき、幅方向で成形性を均一にすることができる。
【0052】
<マグネシウム合金部材>
本発明Mg合金圧延材に塑性加工を施すことにより、Mg合金部材が得られる。塑性加工は、プレス加工、深絞り加工、鍛造加工、曲げ加工などの種々の加工が採用できる。このような塑性加工が施されたMg合金部材としては、代表的には、その全体に塑性加工が施されたもの、例えば、筒状部材や波状部材などの立体形状の塑性加工部材や、Mg合金圧延材の一部にのみ塑性加工が施された形態、即ち、塑性加工部を有する形態も含む。本発明Mg合金圧延材は、幅方向において機械的特性が均一であるため、塑性加工する箇所が制限されることなく適宜選択することができるので、自由に曲げなどの塑性加工を施すことができる。塑性加工は、上記圧延材を200℃〜300℃に加熱して施すと、割れなどが生じ難く、表面性状に優れるMg合金部材が得られる。また、上述のように幅方向において機械的特性が均一なMg合金圧延材とすることで、Mg合金部材のどの箇所においても特性が均一である。
【0053】
その他、本発明Mg合金圧延材に適宜切断や打ち抜きなどの形状を変化する種々の加工を施すことで、所定形状の板状のMg合金部材とすることができる。
【0054】
得られたMg合金部材に、研磨などの表面性状改質処理、化成処理、陽極酸化処理などの防食処理、塗装などの装飾表面処理を行って、耐食性を更に向上させたり、機械的保護を図ったり、商品価値を高めたりすることができる。
【0055】
<<Mg合金圧延材の製造方法>>
上述した幅が1000mm以上で、機械的特性が幅方向で均一なMg合金圧延材は、Mg合金素材に圧延ロールで圧延を施すことで製造される。この圧延は、図1(A)に示すように、一方のリール10a(10b)から繰り出されるMg合金素材板1を圧延ロール3にて圧延し、その圧延された素材板1を他方のリール10b(10a)で巻き取ることを1パスとして複数パス行う。ここでは、1パス毎に各リール10a(10b)の回転方向を逆転するリバース圧延を行う。圧延ロール前後でMg合金素材板1の表面温度が下がらないように、リール10a(10b)と圧延ロール3の途中に保護カバー5を配置している。そして、圧延ロール3と、圧延ロール3を通過する直前、直後の素材板1の表面温度を測定する温度センサ4r、4bf、4bbが設けている。本発明の製造方法の特徴は、圧延ロールは、幅方向に3つ以上の領域を有し、圧延ロール表面の幅方向における最高温度と最低温度の差が10℃以下となるように、各領域毎に温度制御することにあり、それにより本発明のMg合金圧延材を得ることができる。以下、この方法の詳細を説明する。
【0056】
[Mg合金素材の準備]
(鋳造)
まず、Mg合金素材板1を準備する。このMg合金素材板1には、上述した圧延材の組成と同様の組成を有する鋳造材(鋳造板)を好適に利用することができる。鋳造材は、例えば、双ロール鋳造法のような連続鋳造法やダイカストなどによって製造する。特に、双ロール鋳造法は急冷凝固が可能であるため酸化物や偏析物などの内部欠陥を低減でき、圧延などの塑性加工時にこれらの内部欠陥が起点となって割れなどが生じることを軽減できる。即ち、双ロール鋳造法は圧延性に優れる鋳造材が得られて好ましい。特に、Alの含有量が多いMg合金素材では鋳造時に晶出物や偏析が発生し易く、鋳造後に圧延などの工程を経ても内部に晶出物や偏析物が残存し易いが、双ロール鋳造材は、上述のように偏析などを低減できるため、Mg合金素材に好適に利用できる。鋳造材の厚さは特に限定しないが、厚過ぎると偏析が生じ易いため、10mm以下、更に5mm以下、特に4mm以下が好ましい。鋳造材の幅は1000mm以上とする。製造設備で製造可能な幅の鋳造材を利用できる。本例では、鋳造した長尺な鋳造材をコイル形状に巻き取って鋳造コイル材とし、次の工程に供する。巻き取り時、鋳造材において特に巻き始め部分の温度を100℃〜200℃程度にすると、AZ91合金といった割れが生じ易い合金種であっても、曲げ易くなって巻き取り易い。
【0057】
(溶体化処理)
上記鋳造材に圧延を施してもよいが、圧延前の鋳造材に溶体化処理を施して、得られた溶体化材をMg合金素材板1としてもよい。溶体化処理によって鋳造材の均質化が可能となる。溶体化処理の条件は保持温度:350℃以上、好ましくは380℃〜420℃、保持時間:30分〜2400分が挙げられる。Alの含有量が高いほど保持時間を長くすることが好ましい。また、上記保持時間からの冷却工程において、水冷や衝風といった強制冷却などを利用して、冷却速度を速めると、粗大な析出物の析出を抑制して、圧延性に優れる板材とすることができる。溶体化処理を長尺な鋳造材に施す場合、上記鋳造コイル材のように、鋳造材をコイル形状に巻き取った状態で行うと、効率よく加熱できる。
【0058】
[予熱]
上記鋳造材や上記溶体化処理が施されたMg合金素材に圧延を施して所望の機械的特性を有するMg合金圧延材を製造する。圧延にあたり、Mg合金素材の塑性加工性(圧延性)を高めることに加えて、幅方向で圧延具合のばらつきを生じさせないために、予熱を行ってもよい。予熱には、例えば、図1(B)に示すようなヒートボックス2といった加熱手段を利用すると、長尺なMg合金素材を一度に加熱可能で、作業性に優れる。ヒートボックス2は、コイル状に巻き取られたMg合金素材板1を収納可能な密閉容器であり、所定の温度にされた熱風が当該容器内に循環供給され、当該容器内を所望の温度に保持可能な雰囲気炉である。特に、ヒートボックス2からそのままMg合金素材板1を引き出して圧延を施す構成とすると、加熱したMg合金素材板1が圧延ロール3に接触するまでの時間を短縮でき、圧延ロール3に接触するまでにMg合金素材板1の温度が低下することを効果的に抑制できる。具体的には、ヒートボックス2は、コイル状に巻き取られたMg合金素材板1を収納可能であり、当該Mg合金素材板1を繰り出し及び巻き取り可能なリール10を回転可能に支持する構成とすることが挙げられる。このようなヒートボックス2にMg合金素材板1を収納して、特定の温度に加熱する。なお、図1(B)はコイル状に巻き取られたMg合金素材板1をヒートボックス2内に収納した状態を示しており、実際には閉じて利用されるが、分かり易いように前面を開けた状態を示す。
【0059】
予熱工程では、Mg合金素材の温度が、300℃以下となるように加熱する。ヒートボックスなどの加熱手段の設定温度は、300℃以下の範囲で選択することができ、特に、圧延直前において、素材の表面温度が全パスに亘って150℃〜280℃の範囲となるように設定温度を調整することが好ましい。ここで、Mg合金素材に多パスの圧延を施すと、加工熱によりMg合金素材の温度が上昇する傾向にある。一方、Mg合金素材を巻き戻して圧延ロールに接触するまでにMg合金素材の温度が低下することがある。従って、圧延速度(主として圧延時の素材の走行速度)、加熱手段から圧延ロールまでの距離、圧延ロールの温度、パス数などを考慮して、加熱手段の設定温度を調整することが好ましい。加熱手段の設定温度は、150℃〜280℃が好ましく、特に200℃以上、とりわけ230℃〜280℃が利用し易い。加熱時間は、Mg合金素材が所定の温度に加熱できるまでとすればよいが、コイル状に巻き取られたMg合金コイル材では、コイルの内側領域と外側領域との温度ばらつきを低減して、Mg合金コイル材全体が均一な温度となるように十分な時間を採ることが好ましい。その他、加熱時間はコイルの重量、大きさ(幅、厚さ)、巻き数などに応じて適宜設定するとよい。
【0060】
圧延ロールを通過する前に、予熱されて繰り出されたMg合金素材板1の表面温度が、幅方向でばらつかないように、素材板1を断熱材料からなる保護カバー5で覆うことが好ましい。特に、素材板1の幅方向の両端部の加熱状態が維持され難く冷え易いので、少なくとも両端部を覆うようにして幅方向の温度がばらつかないようにすることが好ましい。そうすることで、その後の圧延を幅方向で均一に施し易くなり、圧延具合にばらつきが生じ難くなる。
【0061】
Mg合金素材板1の表面温度を圧延ロールの通過前後で測定する。そのための温度センサは、圧延ロール3とリール10a、10bとのそれぞれの間に配置される。例えば、図1(A)において、紙面左側から右側に向かって素材板1が進行する方向を往路方向とするとき、圧延ロール3の左側に配置される温度センサ4bfが圧延ロール3を通過する直前のMg合金素材板1の表面温度を検出し、圧延ロール3の右側に配置される温度センサ4bbが圧延ロール3を通過した直後の圧延板の表面温度を検出する。一方、紙面右側から左側に向かって素材板1が進行する方向を復路方向とするとき、圧延ロール3の右側に配置される温度センサ4bfが圧延ロール3を通過する直前のMg合金素材板1の表面温度を検出し、圧延ロール3の左側に配置される温度センサ4bbが圧延ロール3を通過した直後の圧延板の表面温度を検出する。
【0062】
上記の温度範囲に予熱されたMg合金素材板1の表面温度を、圧延前に温度センサ4bfで測定する。この温度センサ4bfの種類は、素材板1に接触させて測定する接触式センサでもよいが、素材板1に疵をつけないためには非接触式センサが好ましい。この温度センサ4bfの数や配置箇所は、少なくとも素材板1の幅方向の中央部と両端部の3箇所を個別に測定できるように適宜選択すればよい。例えば、3つの温度センサ4bfを中央部と両端部にそれぞれ配置して、各々の温度を測定するようにすることが挙げられる。後述するように、素材板1(圧延板)の幅方向における100mm間隔毎の温度差を制御する場合には、100mm毎に板幅に応じた数の温度センサを設ければよい。そして、このセンサ4bfで測定した温度に基づき、上記予熱の加熱温度や後述する発熱ランプなどの補助加熱手段の加熱温度を変更するなどの制御を行うことが好ましい。そうすることで、Mg合金素材板1の幅方向全体の温度差を低減し易い。
【0063】
温度センサ4bfの測定温度に基づいて、Mg合金素材板1を再加熱するための補助加熱手段(図示せず)を配置することが好ましい。この補助加熱手段は、発熱ランプなどが挙げられ、温度センサ4bfよりリール10a(10b)側に配置する。この補助加熱手段の配置する数は、Mg合金素材板1の幅方向において少なくとも両端部の2箇所を個別に加熱できるように適宜選択すればよい。そうすることで、圧延によって加熱状態が維持され難い、つまり、冷やされ易い両端部を個別に温度制御することができ、幅方向で温度のばらつきを低減することができる。
【0064】
この再加熱を含めた予熱により、Mg合金素材板1は、上記設定温度内において、Mg合金素材板1の幅方向全域の最高温度と最低温度の差が8℃以下、特に5℃以下となるように、温度制御することが好ましい。そうすることで、幅が1000mm以上ある幅広なMg合金素材板1などでも、幅方向全体の温度のばらつきが小さいので、Mg合金素材板1の圧延具合にばらつきが生じ難い。そのうえ、Mg合金素材板1の幅方向に100mm離れた2点の温度差が6℃以下、さらに3℃以下となるようすることが好ましい。近接する2点の温度差を小さくすることで、Mg合金素材板1の幅方向全体の温度分布のばらつきを制御しやすく、その結果、Mg合金素材板1の圧延具合のばらつきをより効果的に低減することができる。
【0065】
[圧延]
ヒートボックス2といった加熱手段により加熱したMg合金素材板1をヒートボックス2から繰り出し、圧延ロール3に供給して圧延を施す。具体的には、例えば、図1(A)に示すような圧延ラインを構築することが挙げられる。この圧延ラインは、反転可能な一対のリール10a,10bと、離間して配置されるこれら一対のリール10a,10b間に配置され、走行するMg合金素材板1を挟持するように対向配置される一対の圧延ロール3とを具える。一方のリール10aにコイル状のMg合金素材板1を設置して巻き戻し、Mg合金素材板1の一端を他方のリール10bで巻き取ることで、Mg合金素材板1は、両リール間10a,10bを走行する。この走行中、圧延ロール3に挟まれることで、Mg合金素材板1に圧延を施すことができる。図1(A)に示す例では、各リール10a,10bはそれぞれ、ヒートボックス2a,2bに収納され、各リール10a,10bに巻き取られたMg合金素材板1は各ヒートボックス2a,2bにより加熱可能である。そして、加熱されたMg合金素材板1は、一方のリールから巻き戻され、一方のヒートボックスから排出されて、他方のヒートボックスに向かって走行し、他方のリールに巻き取られる。
【0066】
ここでは、Mg合金素材板1の両端をそれぞれ、各リール10a,10bに巻き取り、リール10a,10bに巻き取られた両端側領域を除く中間領域を圧延ロール3に導入して、複数パスの圧延を施す。各パスの圧延は、1パスごとにリール10a,10bの回転方向を逆転して行う。即ち、リバース圧延を行う。従って、最終パスまでMg合金素材板1をリール10a,10bから取り外さない。
【0067】
なお、図1において圧延ロール3の数は例示であり、Mg合金素材板1の走行方向に複数対の圧延ロールを配置させた構成とすることができる。
【0068】
そして、圧延ロールを表面温度が、具体的には230℃〜290℃の範囲になるように加熱する。230℃以上とすることで、素材板1を十分に加熱状態に維持できるため、素材板を塑性加工性に優れる状態にでき、圧延を良好に施せる。290℃以下とすることで、素材板1の結晶粒径の粗大化や圧延により導入される加工歪みの解放を抑制して、プレス加工性に優れる圧延板を製造することができる。
【0069】
上記温度の範囲内で、圧延ロール表面の幅方向における最高温度と最低温度の差が10℃以下となるように温度制御する。圧延ロールの幅方向全体の温度差を小さくすることで、幅方向の圧延具合のばらつきを低減することができる。つまり、Mg合金圧延材の機械的特性を幅方向で均一にすることができる。加えて、圧延板の厚さのばらつきや、この厚さのばらつきに伴う巻きずれの発生を効果的に低減できる。この圧延ロールの幅方向における最高温度と最低温度の差は、5℃以下とすることがより好ましい。
【0070】
そのうえ、圧延ロールの幅方向に100mm離れた2点の温度差が6℃以下、さらに3℃以下となるように温度制御することが好ましい。近接する2点の温度差を小さくすることで、圧延ロールの幅方向全体の温度分布のばらつきを制御しやすく、その結果、Mg合金素材の圧延具合のばらつきをより効果的に低減することができる。この2点の距離は、100mm以上でも以下でもよいが、短いほど幅方向全体の温度のばらつきを制御し易く好ましい。
【0071】
圧延ロール3の温度は、温度センサ4rにより確認できるようにする。この温度センサ4rもロール3に接触させて測定する接触型センサでもよいし、非接触型センサでもよい。温度センサ4rを配置する数や位置は、ロール3の幅方向の少なくとも中央部および両端部の3箇所を測定できるように適宜選択すればよい。例えば、3つの温度センサ4rを中央部と両端部にそれぞれ配置して、各々の温度を測定するようにすることが挙げられる。圧延ロール3の幅方向における100mm間隔毎の温度差を制御する場合には、100mm毎に圧延ロール幅に応じた数の温度センサを設ければよい。
【0072】
さらに、圧延ロール3を通過した直後の素材板1の温度も同様に、温度センサ4bbで確認する。温度センサ4bbで測定した温度に基づいて、圧延ロール3の加熱温度を適宜変更するなどの温度制御を行うことが好ましい。そうすることで、Mg合金素材板1の幅方向全体の温度差をより低減し易くすることができる。この温度センサ4bbの測定により、Mg合金素材の幅方向に100mm離れた2点の温度差が6℃以下であれば好ましく、3℃以下であれば特に好ましい。
【0073】
また、コイル状に巻き取られた素材板1の全体は、巻き戻した一部分に比較して熱容量が大きいため、上記搬送時や設置時は比較的温度が低下し難いと考えられる。これに対して、リール10やサプライ装置から繰り出した後、圧延ロール3に接触するまでの温度低下は、比較的大きくなる恐れがある。この理由として、上述のように素材の一部分であり、熱容量が小さいことや、マグネシウム合金が熱伝導性に優れる金属であることから、冷却され易いことが考えられる。圧延ロール3に接するまでの素材板1の温度の低下度合いは、素材板1の厚さや素材板1の走行速度などに影響を受け、板厚が薄いほど、また、圧延速度が遅いほど当該温度が低下し易い。素材板1の表面温度が170℃よりも低くなる前、好ましくは180℃以上、特に210℃以上で圧延ロール3に供給することが好ましい。なお、圧延ロールの回転速度(周速)は、素材の走行速度に応じて適宜調整するとよく、例えば、5m/分〜200m/分であると、効率よく圧延を施すことができる。
【0074】
圧延ロール3表面の温度を上述したように制御するために、圧延ロール3は、幅方向に3つ以上の領域を有し、各領域毎に温度制御する。その手段として、例えば、カートリッジヒータといったヒータを内蔵させたり(ヒータ式)、加熱した油(熱媒油)などの液体を圧延ロール内に導入あるいはロール内で循環させたり(液体循環式)、温度を調節した加熱流体を直接付着することが挙げられる。加熱流体を圧延ロール3に直接付着させる具体的な手段としては、熱風などの気体を吹き付ける(熱風式)ことや、後述する潤滑剤などを塗布することが挙げられる。この中でも特に、圧延ロール3の内部に加熱した油を循環させて当該ロールを加熱すると、圧延ロール3において幅方向及び周方向に満遍なく加熱液体を充填できるため、上記各領域毎で圧延ロール3の内部から速やかに所定の温度に制御することができ、当該ロールの幅方向の最高温度と最低温度の差を上述した範囲に抑え易い。循環させる液体の温度は、圧延ロール3の大きさ(幅、直径)や材質、上記領域の幅や位置にもよるが、圧延ロール3の設定表面温度+10℃程度が好ましい。上記液体の循環には、例えば、水冷銅などに利用されている液体循環機構を適用できる。その他、圧延ロール3の幅方向の温度のばらつきを小さくするには、ヒータ式では、複数本のヒータを上記領域毎に調整して収納することが好ましい。つまり、加熱状態が維持され易いロール中央部と、加熱状態が維持され難い端部とで収納するヒータの本数を変えたり、ヒータの温度を変えたりすることが好ましい。圧延ロール3の回転軸における各ヒータ側と電源側との電気的接続には、摺動接点を利用すればよい。熱風式では、気体の温度、吹付け量、吹出し口の数、吹出し口の配置位置などを調整することが挙げられる。
【0075】
各パスの圧延において1パスあたりの圧下率は適宜選択することができる。1パスあたりの圧下率は10%以上40%以下、総圧下率は75%以上85%以下が好ましい。このような圧下率で複数回(多パス)のロール圧延を素材に施すことで所望の板厚にしたり、平均結晶粒径を小さくしたり、プレス加工性を高めたりすることができる上に表面割れとった欠陥の発生を抑制できる。
【0076】
圧延にあたり、潤滑剤を利用すると、圧延ロールと素材との摩擦を低減して、良好に圧延を行えて好ましい。潤滑剤は、圧延ロールに適宜塗布するとよい。但し、潤滑剤の種類によっては、素材に残存した潤滑剤が次の予熱工程での加熱や圧延ロールとの接触による加熱により焼き付いて変質層が生じることがある、との知見を得た。また、このような変質層が存在すると、素材が均一的に圧延されず、厚さにばらつきが生じたり、この厚さのばらつきにより素材が蛇行したり、一方向に偏って走行したり(横流れしたり)して、その結果、巻きずれが大きくなり易い、との知見を得た。更に、詳しいメカニズムは定かではないが、素材の幅方向の中央部よりも両縁部側に潤滑剤が残存し易い、との知見を得た。そこで、潤滑剤は、圧延ロールの加熱温度の最大値:290℃、余裕を考慮して、300℃程度で変質層が形成されないものを利用することが好ましい。また、上述のように素材に潤滑剤や変質層が局所的に存在することを防止するために、圧延ロールに素材を供給する直前において、素材の表面の潤滑剤を均すことが好ましい。例えば、圧延ロールの上流側に、刷毛やワイパなどの均し手段を配置しておき、素材の表面の潤滑剤の斑を均一化することが挙げられる。
【0077】
圧延時に素材1に加わる張力を調整するために、圧延ロール3の前後にピンチロール(図示せず)を配置することができる。ピンチロールとの接触による素材の温度低下を防ぐために、ピンチロールは、200℃〜250℃程度に加熱することが好ましい。
【0078】
(巻取)
上記圧延が施されて得られた圧延板は、コイル状に巻き取られる。そして、上記予熱工程、圧延工程、この巻取工程という一連の工程を連続して繰り返し行い、目的の回数のロール圧延を行った後、得られた圧延板(マグネシウム合金板)を最終的にコイル形状に巻き取る。得られたコイル材を構成するマグネシウム合金板は、圧延による導入された加工歪み(せん断帯)が存在する組織を有する。このような組織を有することで、上記マグネシウム合金板は、プレス加工といった塑性加工時に動的再結晶化を生じて、塑性加工性に優れる。特に、最終パスの圧延において、巻き取り直前の圧延板の温度を再結晶しない温度、具体的には150℃以下にして巻き取ると、平坦度に優れるマグネシウム合金板が得られる上に、上記加工歪みが十分に残存する組織とすることができる。巻き取り直前の圧延板を再結晶しない温度にするには、素材の走行速度を調整してもよいが、衝風などの強制冷却により圧延板を冷却すると短時間で所定の温度にすることができ、作業性に優れる。
【0079】
(矯正工程)
上記巻き取られたコイル材は、そのまま製品(代表的には塑性加工材といったマグネシウム合金材の素材)として使用できる。更に、このコイル材を巻き戻して、圧延板に所定の曲げを付与し、圧延により導入された加工歪みの矯正を行うことができる。矯正にはローラレベラを好適に用いることができる。ローラレベラは少なくとも一対の対向配置されたローラを具え、このローラ間に素材を挿通させることで曲げを付与するものである。特に複数のローラが千鳥状に配置され、これらローラ間に圧延板を通過させて、圧延板に繰り返し曲げを付与可能なものを好適に利用できる。このような矯正を行うことで、平坦度に更に優れるマグネシウム合金板とすることができる上に、上記加工歪みが十分に存在することで、プレス加工といった塑性加工性に優れる。上記ローラに加熱手段、例えばヒータを具えて、加熱したローラにより圧延板に曲げを付与する温間矯正とすると、割れなどが生じ難い。上記ローラ温度は100℃以上300℃以下が好ましい。矯正により付与する曲げ量の調整は、ローラの大きさ、数、対向配置されるローラ間の間隔(ギャップ)、素材の進行方向に隣り合うローラ間の間隔などを調整することで行える。矯正を施す前に素材となるマグネシウム合金板(圧延板)を予め加熱してもよい。具体的な加熱温度は100℃以上250℃以下、好ましくは200℃以上が挙げられる。
【0080】
矯正工程を経たマグネシウム合金板はそのまま製品(代表的には塑性加工材といったマグネシウム合金材の素材)として使用することができる。さらに表面状態を良好にするために、研磨ベルトなどを利用して表面研磨を行ってもよい。
【0081】
<作用効果>
上述した実施形態に係るMg合金圧延材、およびMg合金圧延材の製造方法によれば、以下の効果を奏する。
【0082】
(1)幅が1000mm以上ある幅広なMg合金圧延材で、機械的特性が幅方向で実質的に均一である。そのため、この圧延材に塑性加工を施す際、どの箇所を加工しても実質的に均一な加工を施すことができる。
【0083】
(2)幅方向で機械的特性が均一であるため、一枚の圧延材を幅方向に分割して幅の狭いMg合金圧延板を複数作製しても、同様の機械的特性を有する圧延材を得ることができる。
【0084】
(3)上述した製造方法によれば、圧延ロールの幅方向全体の温度差を小さくすることで、幅が1000mm以上でも、幅方向の圧延具合のばらつきを低減することができる。そのため、幅が1000mm以上で、幅方向で機械的特性が均一なMg合金圧延材を製造することができる。
【0085】
<試験例>
試験例として、次のMg合金圧延材を作製し、機械的特性を調べる。まず、双ロール鋳造により、Mg−9.0質量%Al−1.0質量%Znを含有するAZ91相当の組成であるMg合金素材板と、Mg−3.0質量%Al−1.0質量%Znを含有するAZ31相当の組成であるMg合金素材板を製造する。これら各素材板の板厚は5.0mm、板幅は1020mm、長さは1000mmである。これら各試料には、圧延前に400℃で20時間の溶体化処理を施す。その後、以下に示す条件で圧延を施し、AZ91からなる試料1〜3と、AZ31からなる試料4〜6とを作製した。
【0086】
(圧延条件)
・複数パス圧延 圧下率:15〜25%/パス
・最終厚さ:1.0mmまで圧延(幅:1020mm) 総圧下率:80%
・素材板の予熱(加熱炉内、加熱時間:30分)
・圧延ロールの加熱方法:ロール外部から加熱
【0087】
圧延ロールの加熱方法は、圧延ロールの幅方向を均等に3つの領域にわけ、その3つの領域に温度を調整した潤滑剤を直接塗布させることで行った。試料1では、3つの領域の中央に250℃〜255℃に調節した潤滑剤を塗布し、その両側に255℃〜260℃に調節した潤滑剤を塗布して、ロール表面温度を幅方向で均一になるようにした。一方、試料4では、同中央に230℃〜235℃に調節した潤滑剤を塗布し、その両側に235℃〜240℃に調節した潤滑剤を塗布して、ロール表面温度を幅方向で均一になるようにした。
【0088】
圧延を施すに際して、圧延直前のMg合金素材板の表面、圧延ロール表面、圧延直後のMg合金圧延板の表面の温度を、次のように測定して求めた。圧延ロールの表面において素材板が接触する領域内で、当該ロールの幅方向(軸方向と平行な方向)に沿って任意の直線をとり、この直線上で複数点の温度を測定する。ここでは、Mg合金素材板、圧延ロール、Mg合金圧延材のそれぞれの表面において上記任意の直線をとり、この直線上で幅方向一端から10mmの点と、その点から100mmずつ等間隔に10点の計11点をとって各点の温度を非接触式の温度センサで測定した。その際、圧延ロールの幅方向の温度は、潤滑剤自体の温度を計測しないよう、圧延ロールの表面のうち、潤滑剤の噴射領域からずれた箇所の温度を計測する。それらの値を表1〜3に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
【表3】

【0092】
[機械的特性評価]
得られたMg合金圧延材の試料1〜6に対して、以下の特性について評価を行った。
【0093】
[底面ピーク比]
試料1〜6の底面ピーク比を、X線回折のピーク強度により測定した。この測定は、各試料の幅方向一端から50mm(端部)、500mm(中央部)、950mm(端部)の地点の表面に対してX線回折することにより、(002)面、(100)面、(101)面、(102)面、(110)面、(103)面のピーク強度を求めた。その結果から、端部と中央部の底面ピーク比O、Oをそれぞれ求め、その比率O/Oも求めた。この底面ピーク比O、Oは、中央部と端部における上記各面のX線回折のピーク強度をそれぞれI(002)、I(100)、I(101)、I(102)、I(110)、I(103)、I(002)、I(100)、I(101)、I(102)、I(110)、I(103)とするとき、次の式で表される。
底面ピーク比O:I(002)/{I(100)+I(002)+I(101)+I(102)+I(110)+I(103)}
底面ピーク比O:I(002)/{I(100)+I(002)+I(101)+I(102)+I(110)+I(103)}
その結果を表4に示す。
【0094】
[平均結晶粒径]
試料1〜6の平均結晶粒径を、「鋼−結晶粒度の顕微鏡試験方法 JIS G 0551(2005)」に基づいて測定した。この測定は、各試料の幅方向一端から50mm(端部)、510mm(中央部)、970mm(端部)の地点において、圧延方向と直交する断面について行った。その結果から、端部と中央部との平均結晶粒径比D/Dを求めた。その結果を表4に示す。
【0095】
[引張試験]
試料1〜6の伸び、引張強さ、0.2%耐力を、「金属材料引張試験方法 JIS Z 2241(1998)」に基づいて測定した。この測定に際し、試料の幅方向一端から50mm(端部)、510mm(中央部)、970mm(端部)の地点において、JIS13B号試験片(JIS Z 2201(1998))を、その長手が圧延方向に沿うように切り出し、その試験片に対して引張試験を施すことで行った。その結果から、端部と中央部との伸び比E/E、引張強さ比Ts/Ts、0.2%耐力比Ps/Psをそれぞれ求めた。
【0096】
以上の結果をまとめて表5に示す。
【0097】
【表4】

【0098】
【表5】

【0099】
[結果]
以上の結果から、幅が1000mm以上あるような幅広なMg合金素材を圧延する際、圧延ロール表面の幅方向全体の温度差を小さくすることで、幅方向の圧延具合のばらつきを低減できることがわかった。それに加えて、圧延前にMg合金素材表面の幅方向全体の温度差も小さくすることで、圧延具合のばらつきをより一層低減でき、Mg合金素材の幅方向に均一な圧延を施すことができることがわかった。このように圧延具合のばらつきを低減することで、機械的特性が幅方向で均一なMg合金圧延材が得られることもわかった。
【0100】
なお、上述した実施の形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明のMg合金圧延材は、各種の電気・電子機器類の構成部材、特に、携帯用や小型な電気・電子機器類の筺体、高強度であることが望まれる種々の分野の部材、例えば、自動車や航空機といった輸送機器の構成部材の素材に好適に利用することができる。本発明のMg合金圧延材の製造方法は、幅が1000mm以上で、機械的特性が幅方向で均一なMg合金圧延材の製造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0102】
1 Mg合金素材板
2、2a、2b ヒートボックス
3 圧延ロール
4bf、4bb、4r 温度センサ
5 保護カバー
10、10a、10b リール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金素材を圧延ロールにて圧延してなるマグネシウム合金圧延材であって、
前記マグネシウム合金圧延材の幅が1000mm以上であり、
前記マグネシウム合金圧延材の幅方向において、
中央部における(002)面、(100)面、(101)面、(102)面、(110)面、(103)面のX線回折のピーク強度をそれぞれI(002)、I(100)、I(101)、I(102)、I(110)、I(103)、
端部における前記各面のX線回折のピーク強度をそれぞれI(002)、I(100)、I(101)、I(102)、I(110)、I(103)とし、
前記中央部および端部のそれぞれにおける底面ピーク比O、Oを以下の式とするとき、
前記端部と中央部の底面ピーク比の比率O/Oが、0.89≦O/O≦1.15を満たすことを特徴とするマグネシウム合金圧延材。
底面ピーク比O:I(002)/{I(100)+I(002)+I(101)+I(102)+I(110)+I(103)}
底面ピーク比O:I(002)/{I(100)+I(002)+I(101)+I(102)+I(110)+I(103)}
【請求項2】
前記中央部と端部において、圧延方向と直交する断面における平均結晶粒径をそれぞれD、Dとするとき、
前記端部と中央部の平均結晶粒径比D/Dが、0.7≦D/D≦1.5を満たすことを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム合金圧延材。
【請求項3】
前記中央部と端部において、圧延方向の引張試験における伸びをそれぞれE、Eとするとき、
前記端部と中央部の伸び比E/Eが、2/3≦E/E≦3/2を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載のマグネシウム合金圧延材。
【請求項4】
前記中央部と端部において、圧延方向の引張試験における引張強さをそれぞれTs、Tsとするとき、
前記端部と中央部の引張強さ比Ts/Tsが、0.9≦Ts/Ts≦1.1を満たすことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のマグネシウム合金圧延材。
【請求項5】
前記中央部と端部において、圧延方向の引張試験における0.2%耐力をそれぞれPs、Psとするとき、
前記端部と中央部の0.2%耐力比Ps/Psが、0.9≦Ps/Ps≦1.1を満たすことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のマグネシウム合金圧延材。
【請求項6】
前記マグネシウム合金素材は、アルミニウムを5質量%以上12質量%以下含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のマグネシウム合金圧延材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のマグネシウム合金圧延材に塑性加工を施すことによって作製されたことを特徴とするマグネシウム合金部材。
【請求項8】
マグネシウム合金素材を圧延ロールにて圧延してマグネシウム合金圧延材を製造するマグネシウム合金圧延材の製造方法であって、
前記マグネシウム合金素材の幅が1000mm以上で、
前記圧延ロールは、幅方向に3つ以上の領域を有し、
前記圧延ロール表面の幅方向における最高温度と最低温度の差が10℃以下となるように、各領域毎に温度制御することを特徴とするマグネシウム合金圧延材の製造方法。
【請求項9】
前記温度制御は、前記圧延ロール内に温度を調整した熱媒油を導入して行うことを特徴とする請求項8に記載のマグネシウム合金圧延材の製造方法。
【請求項10】
前記温度制御は、前記圧延ロール表面に温度を調整した加熱流体を付着させることで行うことを特徴とする請求項8または9に記載のマグネシウム合金圧延材の製造方法。
【請求項11】
前記温度制御は、前記圧延ロール表面において、幅方向に100mm離れた2点の温度差が6℃以下となるように行うことを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載のマグネシウム合金圧延材の製造方法。
【請求項12】
前記圧延ロールを通過する直前の前記マグネシウム合金素材表面において、幅方向の最高温度と最低温度の差が8℃以下となるように予熱することを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載のマグネシウム合金圧延材の製造方法。
【請求項13】
前記圧延ロールを通過する直前の前記マグネシウム合金素材表面において、幅方向に100mm離れた2点の温度差が6℃以下となるように予熱し、
前記温度制御は、前記圧延ロールを通過した直後の前記マグネシウム合金圧延材表面において、幅方向に100mm離れた2点の温度差が6℃以下となるように行うことを特徴とする請求項8〜12のいずれか1項に記載のマグネシウム合金圧延材の製造方法。

【図1】
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