説明

マグネシウム材に対する陽極酸化皮膜の形成方法、及びマグネシウム材

【課題】マグネシウム材の耐食性を向上させるマグネシウム材に対する陽極酸化皮膜の形成方法、及びその形成方法により形成された陽極酸化皮膜を有するマグネシウム材を提供する。
【解決手段】マグネシウム材に対する陽極酸化皮膜の形成方法は、マグネシウム材の表面に陽極酸化皮膜を形成する方法であり、次の第一電解工程と第二電解工程とを備える。第一電解工程は、マグネシウム材の表面に多孔質なポーラス型の陽極酸化皮膜を生成する電解条件で電解を行う。第二電解工程は、第一電解工程の後、ポーラス型の陽極酸化皮膜よりも緻密なバリヤー型の陽極酸化皮膜を生成する電解条件で電解を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム材に対する陽極酸化皮膜の形成方法、及び陽極酸化皮膜を有するマグネシウム材に関する。特に、マグネシウム材の表面に耐食性を向上させる陽極酸化皮膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム又はマグネシウム合金(以下、単に「マグネシウム材」と呼ぶ場合がある)が、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータといった携帯用電気・電子機器類の筐体や自動車用部品などの各種の部材の構成材料に利用されつつある。
【0003】
マグネシウム合金からなる部材は、ダイカスト法やチクソモールド法による鋳造材(ASTM規格のAZ91合金)が主流である。近年、ASTM規格のAZ31合金に代表される展伸用マグネシウム合金からなる板材にプレス加工を施した部材が使用されつつある。最近では、AZ91合金板材の開発が進められており、例えば特許文献1には、AZ91合金相当のマグネシウム合金からなり、双ロール連続鋳造法により得られた圧延板に、プレス加工を施して、箱状のプレス材を得ることが記載されている。
【0004】
また、マグネシウムは、活性な金属であり、耐食性に劣るため、例えば特許文献1に記載されるように、上記部材やその素材となるマグネシウム材の表面には、通常、陽極酸化処理や化成処理といった表面処理が施される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009‐120877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
陽極酸化処理により生成された陽極酸化皮膜は、化成処理により生成された化成皮膜に比較して、一般的に耐食性(防食性)が高く、表面に陽極酸化皮膜を有するマグネシウム材の利用が拡大することが予想される。
【0007】
しかし、マグネシウム材の耐食性を更に向上させるため、耐食性により優れる陽極酸化皮膜を形成することが求められている。
【0008】
従来のマグネシウム材に対する陽極酸化皮膜の形成方法では、通常、1種類の電解液を用い、耐食性の向上を目的として膜厚を厚くする電解条件で電解(陽極酸化処理)を行っていた。例えば、陽極酸化皮膜の膜厚を数μm以上としていた。しかし、従来の陽極酸化皮膜の形成方法では、厚膜化が可能であるが、厚い陽極酸化皮膜を形成した場合、酸化皮膜に空隙やクラックなどの欠陥が生じ易く、この欠陥が腐食の起点となって耐食性の低下を招く虞がある。
【0009】
また、特に最近では、金属質感を出すため、透明な陽極酸化皮膜を有するマグネシウム材が求められている。しかし、陽極酸化皮膜の膜厚が厚くなると透明性を維持することが難しい。その原因は、厚い陽極酸化皮膜を形成した場合、皮膜表面の平滑性が低下し易いため、表面で光が乱反射して透明性が損なわれたり、上述したように酸化皮膜に空隙やクラックなどの欠陥が生じることで、皮膜構造が不均一となり透明度が低くなるためである。よって、透明性を有しながら、耐食性に優れる陽極酸化皮膜を形成することも求められている。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的の一つは、マグネシウム材の耐食性を向上させるマグネシウム材に対する陽極酸化皮膜の形成方法、及びその形成方法により形成された陽極酸化皮膜を有するマグネシウム材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、厚膜化が可能なポーラス型の陽極酸化皮膜(一次皮膜)を生成した後、緻密なバリヤー型の陽極酸化皮膜を生成する電解条件で再度電解を行うことで、一次皮膜の細孔や欠陥内に新たな酸化皮膜が生成され、細孔や欠陥の少ない或いは有しない緻密な陽極酸化皮膜を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明のマグネシウム材に対する陽極酸化皮膜の形成方法は、マグネシウム材の表面に陽極酸化皮膜を形成する方法であり、次の工程を備えることを特徴とする。
マグネシウム材の表面に多孔質なポーラス型の陽極酸化皮膜を生成する電解条件で電解を行う第一電解工程。
第一電解工程の後、ポーラス型の陽極酸化皮膜よりも緻密なバリヤー型の陽極酸化皮膜を生成する電解条件で電解を行う第二電解工程。
【0013】
上記した本発明の形成方法によれば、ポーラス型の陽極酸化皮膜を生成する電解条件で電解を行った後、この電解条件と異なる条件、具体的には、バリヤー型の陽極酸化皮膜を生成する電解条件で電解を行うことで、マグネシウム材の表面に緻密な陽極酸化皮膜を形成することができる。その結果、マグネシウム材の耐食性を向上させることができる。本発明でいう「バリヤー型の陽極酸化皮膜」とは、ポーラス型の陽極酸化皮膜に比較して、細孔が少ない或いは細孔を有しない緻密な酸化皮膜のことをいう。また、バリヤー型の陽極酸化皮膜は、通常、ポーラス型の陽極酸化皮膜に比較して厚膜化が困難であり、例えばマグネシウム材の表面にバリヤー型の陽極酸化皮膜のみ生成した場合、その膜厚は200nm程度以下となる。
【0014】
本発明では、第一電解工程と第二電解工程における電解条件が異なり、例えば、第一電解工程と第二電解工程において使用する電解液の種類を変更することが挙げられる。
【0015】
本発明の形成方法において、第一電解工程における電解条件は、電解液として、アルカリ金属の水酸化物、リン酸塩、ケイ酸塩、スズ酸塩、炭酸塩及びアルミン酸塩からなる群から選択される少なくとも一種の塩を含む水溶液を用いることが挙げられる。また、この電解液中の上記塩の濃度は0.1〜5mol/dm3であることが好ましい。
【0016】
上記列挙した塩を含む水溶液を電解液に用いることで、ポーラス型の陽極酸化皮膜を生成することができる。この電解液を用いてポーラス型の陽極酸化皮膜を生成した場合、厚膜化が可能である。アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。第一電解工程において生成する陽極酸化皮膜(一次皮膜)の膜厚は、特に限定されないが、例えば100nm以上10μm以下とすることが挙げられる。なお、第二電解工程では、陽極酸化皮膜の膜厚にあまり影響を与えないことから、一次皮膜の膜厚が最終的に得られる陽極酸化皮膜とほぼ同じになる。つまり、本発明において、最終的な陽極酸化皮膜の膜厚は、主として、一次皮膜の膜厚を制御することで決定される。
【0017】
一次皮膜の膜厚は、電解液温度(浴温)、電解時間、定電流電解の場合は電流密度、定電圧電解の場合は電圧に依存する。ここで、より好ましい第一電解工程の電解条件は、電解液温度を20〜70℃とし、電流密度200〜1000A/m2の定電流電解、若しくは電圧1〜30V又は100〜200Vの定電圧電解とすることが挙げられる。その他、電流密度200〜1000A/m2で電圧が100〜200Vに到達するまで定電流電解し、その後、その電圧を保持した定電圧電解とする、といった定電流電解と定電圧電解とを組み合わせた電解としてもよい。この場合の定電圧電解の電解時間は、例えば0分超60分以下とすることが挙げられる。以上のような電解条件を満たすことで、厚膜化が容易である。特に、上記した第一電解工程の電解条件において、定電流電解の場合、一次皮膜の膜厚が透明性を維持できる厚さまでとすると、一次皮膜の膜厚を薄く、例えば200nm以下に制御して、透明な陽極酸化皮膜を形成することが可能である。
【0018】
本発明の形成方法において、第二電解工程における電解条件は、電解液として、アルカリ金属の水酸化物、又は第三アミンを溶質とし、有機溶媒及び水を溶媒とする溶液を用いることが挙げられる。この溶媒中の水の割合は5〜50体積%(vol%)である。また、この電解液中の上記溶質の濃度は0.05〜5mol/dm3であることが好ましい。
【0019】
上記した溶液を電解液に用いることで、バリヤー型の陽極酸化皮膜を生成することができる。この電解液を用いてバリヤー型の陽極酸化皮膜を生成した場合、ポーラス型の陽極酸化皮膜よりも緻密な酸化皮膜が生成されるが、一方で、ポーラス型の陽極酸化皮膜に比較して厚膜化が困難である。また、上記溶媒における水の割合を5〜50vol%とすることで、ポーラス型の陽極酸化皮膜(一次皮膜)の細孔や欠陥内に新たな酸化皮膜を効果的に生成し易い。
【0020】
アルカリ金属の水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。第三アミンとしては、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリアミルアミン、トリオクチルアミンなどが挙げられる。
【0021】
有機溶媒としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタン‐1,4‐ジオール、ジエチレングリコール、メタノール、エタノール、1‐プロパノール、2‐プロパノール、1‐ブタノール、2‐エチル‐1‐ヘキサノール、シクロヘキサノール、グリセリン、ペンタエリスリトールなどの脂肪族アルコールが挙げられる。その他、分子内にアルコール性水酸基以外の官能基を有する有機溶媒、例えば、2‐メトキシエタノールやジエチレングリコールモノエチルエーテルのように、アルコキシ基を有する有機溶媒を用いることも可能である。
【0022】
また、環状カルボン酸エステル類(γ‐ブチロラクトン、γ‐バレロラクトン、δ‐バレロラクトンなど)、鎖状カルボン酸エステル類(酢酸メチル、プロピオン酸メチルなど)、環状炭酸エステル類(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートなど)、鎖状炭酸エステル類(ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなど)、アミド類(N‐メチルホルムアミド、N‐エチルホルムアミド、N,N‐ジメチルホルムアミド、N,N‐ジエチルホルムアミド、N‐メチルアセトアミド、N,N‐ジメチルアセトアミド、N‐メチルピロリドンなど)、ニトリル類(アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3‐メトキシプロピオニトリルなど)、リン酸エステル類(トリメチルフォスフェート、トリエチルフォスフェートなど)などの極性を持つ有機溶媒を用いることもできる。
【0023】
上述した有機溶媒は、一種を単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。
【0024】
ここで、より好ましい第二電解工程の電解条件は、電解液温度を20〜70℃とし、電流密度1〜100A/m2の定電流電解とし、電解時間を1〜10分とすることが挙げられる。このような電解条件を満たすことで、ポーラス型の陽極酸化皮膜(一次皮膜)の細孔や欠陥内に新たな酸化皮膜をより効果的に生成し、最終的な陽極酸化皮膜の緻密化が容易である。
【0025】
本発明のマグネシウム材は、陽極酸化皮膜を有し、この陽極酸化皮膜が、上記した本発明のマグネシウム材に対する陽極酸化皮膜の形成方法により形成されていることを特徴とする。
【0026】
上記した本発明のマグネシウム材によれば、陽極酸化皮膜が上記した本発明の形成方法により形成されていることで、陽極酸化皮膜が緻密であり、耐食性が向上し、優れた耐食性を有する。
【0027】
さらに、マグネシウム材の表面に陽極酸化皮膜を形成した後、その表面に塗装を施してもよい。塗装は、電着塗装、静電塗装、吹付塗装など、公知の方法を採用することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明のマグネシウム材に対する陽極酸化皮膜の形成方法は、ポーラス型の陽極酸化皮膜を生成する電解条件で電解を行った後、バリヤー型の陽極酸化皮膜を生成する電解条件で電解を行うことで、マグネシウム材の表面に緻密な陽極酸化皮膜を形成することができる。その結果、マグネシウム材の耐食性を向上させることができる。また、本発明のマグネシウム材は、上記した本発明の形成方法により形成された陽極酸化皮膜を有することで、優れた耐食性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】試料2-Aの表面のSEM写真(20000倍)である。
【図2】試料2-A-bの表面のSEM写真(20000倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
マグネシウム材を用意し、本発明の形成方法により表面に陽極酸化皮膜を形成した。
【0031】
[試験例1]
AZ31マグネシウム合金の板材(圧延板)を用意し、これを切断して、複数の試験片を得た。各試験片の前処理として、25℃の8vol%HNO3‐1vol%H2SO4水溶液に20秒浸漬して表面洗浄した。
【0032】
(第一電解工程)
次に、前処理を施した各試験片に対し、次に示す電解条件で電解を行い、表面にポーラス型の陽極酸化皮膜(一次皮膜)を生成した。
〈電解条件〉
電解液:リン酸三ナトリウム(Na3PO4)を溶質とする水溶液(溶質の濃度:0.5mol/dm3
電解液温度:25℃
電解制御:電流密度200A/m2で電圧が100〜150Vに到達するまで定電流電解
【0033】
この例では、定電流電解での最終到達電圧を100V,120V,150Vとした試験片をそれぞれ2つずつ作製した。各到達電圧の試験片のうち1つをそれぞれ試料1-A,1-B,1-Cとした。
【0034】
(第二電解工程)
次いで、各電解時間の試験片のうち残りの1つに対し、次に示す電解条件で電解を行った。この電解条件は、バリヤー型の陽極酸化膜を生成する電解条件である。
〈電解条件〉
電解液:水酸化ナトリウム(NaOH)を溶質とし、エチレングリコール及び水を溶媒(水の割合:10vol%)とする溶液(溶質の濃度:0.5mol/dm3
電解液温度:25℃
電解制御:電流密度1A/m2の定電流電解
電解時間:4分
【0035】
第一電解工程において到達電圧を100V,120V,150Vとし、第二電解工程を実施した各試験片をそれぞれ試料1-A-a,1-B-a,1-C-aとした。
【0036】
(評価)
以上のようにして作製した各試料(試料1-A,1-B,1-C及び試料1-A-a,1-B-a,1-C-a)を目視観察したところ、いずれの試料も表面に灰色の陽極酸化皮膜が形成されていた。また、各試料を30℃の5質量%(mass%)の塩水に浸漬し、腐食開始時間を測定することで、各試料の耐食性を評価した。ここでは、15分毎に試料表面の腐食状態を目視で観察し、腐食開始時間を決定した。その結果を表1に併せて示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1の結果から、第一電解工程と第二電解工程とを実施した試料1-A-a,1-B-a,1-C-aは、同じ条件で第一電解工程のみを実施したそれぞれの試料1-A,1-B,1-Cに比較して、それぞれ腐食開始時間が長くなっており、耐食性が向上している。よって、本発明の形成方法により陽極酸化皮膜を形成することで、マグネシウム材の耐食性を向上できることが分かる。これは、ポーラス型の陽極酸化皮膜(一次皮膜)を生成した後、バリヤー型の陽極酸化皮膜を生成する電解条件で再度電解を行うことで、一次皮膜の細孔や欠陥内に新たな酸化皮膜が生成され、マグネシウム材の表面に緻密な陽極酸化皮膜が形成されたことによるものと考えられる。
【0039】
[試験例2]
AZ91マグネシウム合金の板材(圧延板)を用意し、これを切断して、複数の試験片を得た。各試験片の前処理として、80℃の5mass%NaOH水溶液に10分浸漬して表面洗浄した。
【0040】
(第一電解工程)
次に、前処理を施した各試験片に対し、次に示す電解条件で電解を行い、表面にポーラス型の陽極酸化皮膜(一次皮膜)を生成した。
〈電解条件〉
電解液:リン酸三ナトリウム(Na3PO4)を溶質とする水溶液(溶質の濃度:0.5mol/dm3
電解液温度:25℃
電解制御:電流密度200A/m2で電圧が100〜150Vに到達するまで定電流電解
【0041】
この例では、同じ条件で試験片を4つ作製した。試験片のうち1つを試料2-Aとした。
【0042】
(第二電解工程)
次いで、試験片のうち残りの3つに対し、次に示す電解条件で電解を行った。この電解条件は、バリヤー型の陽極酸化膜を生成する電解条件である。
〈電解条件〉
電解液:水酸化ナトリウム(NaOH)を溶質とし、エチレングリコール及び水を溶媒(水の割合:10vol%)とする溶液(溶質の濃度:0.5mol/dm3
電解液温度:25℃
電解制御:電流密度1A/m2〜100A/m2の定電流電解
電解時間:4分
【0043】
第二電解工程において電流密度を1A/m2,10A/m2,100A/m2とした各試験片をそれぞれ試料2-A-a,2-A-b,2-A-cとした。
【0044】
(評価)
以上のようにして作製した各試料(試料2-A及び試料2-A-a,2-A-b,2-A-c)を目視観察したところ、いずれの試料も表面に透明な陽極酸化皮膜が形成されており、金属素地の光沢や色調などが損なわれることなく、金属質感を有していた。また、第二電解工程前後での陽極酸化皮膜の皮膜構造の違いを調べるため、試料2-A及び試料2-A-bの表面をSEMで観察した。その結果を図1及び図2に示す。さらに、試験例1と同様にして、各試料の耐食性を評価した。その結果を表2に併せて示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表2の結果から、第一電解工程と第二電解工程とを実施した試料2-A-a,2-A-b,2-A-cは、同じ条件で第一電解工程のみを実施した試料2-Aに比較して、いずれも腐食開始時間が長くなっており、耐食性が向上している。よって、本発明の形成方法により陽極酸化皮膜を形成することで、マグネシウム材の耐食性を向上できることが分かる。
【0047】
また、図1及び図2の結果から、本発明の形成方法により形成された陽極酸化皮膜(図2参照)は、ポーラス型の陽極酸化皮膜(図1参照)の細孔や欠陥内に新たな酸化皮膜の生成が観察され、細孔や欠陥が少ない緻密な皮膜構造であることが分かる。
【0048】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、電解条件(電解液の種類、電解液温度、電流密度、電解時間、定電流電解での最終到達電圧など)や陽極酸化皮膜の膜厚を適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のマグネシウム材に対する陽極酸化皮膜の形成方法、及びマグネシウム材は、電気・電子機器類の各種部材、特に、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータといった携帯用機器の筐体の他、耐食性が求められる各種部材に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム材に対する陽極酸化皮膜の形成方法であって、
前記マグネシウム材の表面に多孔質なポーラス型の陽極酸化皮膜を生成する電解条件で電解を行う第一電解工程と、
前記第一電解工程の後、前記ポーラス型の陽極酸化皮膜よりも緻密なバリヤー型の陽極酸化皮膜を生成する電解条件で電解を行う第二電解工程と、
を備えることを特徴とするマグネシウム材に対する陽極酸化皮膜の形成方法。
【請求項2】
前記第一電解工程における電解条件は、
電解液として、アルカリ金属の水酸化物、リン酸塩、ケイ酸塩、スズ酸塩、炭酸塩及びアルミン酸塩からなる群から選択される少なくとも一種の塩を含む水溶液を用いることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム材に対する陽極酸化皮膜の形成方法。
【請求項3】
前記第一電解工程の電解条件において、
前記電解液中の前記塩の濃度が0.1〜5mol/dm3であることを特徴とする請求項2に記載のマグネシウム材に対する陽極酸化皮膜の形成方法。
【請求項4】
前記第一電解工程における電解条件は、
電解液温度を20〜70℃とし、
電流密度200〜1000A/m2の定電流電解、若しくは電圧1〜30V又は100〜200Vの定電圧電解、又は電流密度200〜1000A/m2で電圧が100〜200Vに到達するまで定電流電解し、その後、その電圧を保持した定電圧電解とすることを特徴とする請求項2又は3に記載のマグネシウム材に対する陽極酸化皮膜の形成方法。
【請求項5】
前記第一電解工程の電解条件において、
定電流電解の場合、前記ポーラス型の陽極酸化皮膜の膜厚が透明性を維持できる厚さまでとすることを特徴とする請求項4に記載のマグネシウム材に対する陽極酸化皮膜の形成方法。
【請求項6】
前記第二電解工程における電解条件は、
電解液として、アルカリ金属の水酸化物、又は第三アミンを溶質とし、有機溶媒及び水を溶媒とする溶液を用い、
前記溶媒中の水の割合が5〜50体積%であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のマグネシウム材に対する陽極酸化皮膜の形成方法。
【請求項7】
前記第二電解工程の電解条件において、
前記電解液中の前記溶質の濃度が0.05〜5mol/dm3であることを特徴とする請求項6に記載のマグネシウム材に対する陽極酸化皮膜の形成方法。
【請求項8】
前記第二電解工程における電解条件は、
電解液温度を20〜70℃とし、
電流密度1〜100A/m2の定電流電解とし、
電解時間を1〜10分とすることを特徴とする請求項6又は7に記載のマグネシウム材に対する陽極酸化皮膜の形成方法。
【請求項9】
陽極酸化皮膜を有するマグネシウム材であって、
前記陽極酸化皮膜は、請求項1〜8のいずれか一項に記載のマグネシウム材に対する陽極酸化皮膜の形成方法により形成されていることを特徴とするマグネシウム材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−233213(P2012−233213A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100555(P2011−100555)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(501241645)学校法人 工学院大学 (14)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)