説明

マグネタイト粒子

【課題】シラン化合物の被覆性が高く、かつ磁気凝集が防止されたマグネタイト粒子の提供。
【解決手段】本発明のマグネタイト粒子は、Ti又はSiを含有し、これらが粒子の内部に存在しているとともに、粒子最表面にTi及びSiが実質的に存在していないマグネタイトからなり、純水煮沸試験によるTi及びSiの溶出量が、粒子全体に対してそれぞれ50ppm以下であることを特徴とする。粒子表面にFe及びO以外の異種元素が実質的に存在していないことが好適である。粒子をその最表面から溶解していったときに、Feの溶出率が10〜100重量%までの間に溶出するTi又はSiの量が、粒子全体に含まれるTi又はSiの量の60〜100重量%であることも好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネタイト粒子に関する。また本発明は、該マグネタイト粒子の表面がシラン化合物で被覆された被覆マグネタイト粒子に関する。この被覆マグネタイト粒子は、例えばプリンターや電子複写機のトナー用材料として特に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来、静電複写磁性トナーの製造においては、トナーの原料となる磁性粉やバインダ等を混合して溶融混練した後に、粉砕・分級する、いわゆる粉砕法が主流であった。しかしながら、粒子径の微小化、更なる低温定着性などの機能付与において粉砕法で得られたトナーでは限界に近づいている。特にフルカラーなどの高画質化に向けて、粉砕分級工程が不要であるか、あるいは粉砕分級工程を大幅に軽減できる重合法が脚光を浴びてきた。
【0003】
重合法で直接トナーを製造する方法としては、懸濁重合法が知られている。懸濁重合法によってトナーを製造する場合、表面が親水性である磁性粉を用いると、トナーの帯電特性及び画像特性が低下する傾向にある。この理由は、磁性粉の表面が親水性であることに起因して、磁性粉が非水系溶媒中で十分に分散できず、その結果、トナー中での磁性粉の分散性が低下して、トナー中に磁性粉が十分に含有されないことによるものである。
【0004】
そこで、重合法トナーの原料となる磁性粉の表面を疎水化することで、非水系溶媒中での磁性粉の分散性を高める試みが提案されている。例えば特許文献1においては、マグネタイト粒子粉末と、気化させたフルオロアルキルシランやアルコキシシランとを、50〜150℃の温度範囲で接触・反応させた後、得られた粒子粉末を160〜250℃の温度範囲で加熱処理することで、疎水化されたマグネタイト粒子粉末を製造することが提案されている。
【0005】
また特許文献2には、磁性酸化鉄を基体粒子とし、その表面にシラン化合物を被覆した疎水性磁性酸化鉄粒子が提案されている。同文献には、疎水性磁性酸化鉄粒子におけるシラン化合物のトルエン中への溶出率を30%以下とすることによって、磁性酸化鉄の疎水性が十分となり、磁性酸化鉄粒子同士の合一が少なくなって粒度分布が狭くなると記載されている。同文献によれば、シラン化合物は、pHが4〜6に設定された磁性酸化鉄粒子のスラリー中に添加され、該シラン化合物の被覆が進行するにつれてpHを高くすることが好ましいとされている。
【0006】
しかし、特許文献1に記載の技術では、マグネタイト粒子粉末とフルオロアルキルシラン等との結合強度を高めるために、SiやAlの水酸化物等からなる中間被覆層を導入しているので、該中間被覆層によって比表面積や水の吸着サイトが増加してしまう。このことは、フルオロアルキルシラン等を多量に用いることにつながる。また、同文献に記載の技術では、160〜250℃の温度範囲で加熱処理を行っているので、粒子の凝集が起こりやすく、それに起因して有機溶媒中での粒子の分散性が悪化する傾向にある。
【0007】
特許文献2に記載の技術においては、磁性酸化鉄とシラン化合物との結合強度は高いものの、表面の疎水化度は十分に高いとは言えない。また、処理中のpHの調整に水酸化ナトリウムなどのアルカリを用いており、それが粒子の表面に残存し、粒子の疎水性に影響を及ぼす可能性がある。
【0008】
重合法のトナーとは別に、本出願人は先に、粒子の中心から表面にかけてTiやSiが含有されているマグネタイト粒子を提案した(特許文献3及び4参照)。しかし、これらのマグネタイト粒子は、耐環境性や流動性の向上を目的として提案されたものであり、重合法のトナー用に最適化されたものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−327948号公報
【特許文献2】特開2005−263619号公報
【特許文献3】特開2002−154826号公報
【特許文献4】特開2000−272924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前述した従来技術が有する種々の欠点を解消し得るマグネタイト粒子を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、Ti又はSiを含有し、これらが粒子の内部に存在しているとともに、粒子最表面にTi及びSiが実質的に存在していないマグネタイトからなり、
純水煮沸試験によるTi及びSiの溶出量が、粒子全体に対してそれぞれ50ppm以下であることを特徴とするマグネタイト粒子を提供するものである。
【0012】
また本発明は、前記のマグネタイト粒子の表面が、炭素数2〜10のアルキル鎖を有するシラン化合物によって被覆されていることを特徴とする被覆マグネタイト粒子を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、シラン化合物の被覆性が高く、かつ磁気凝集が防止されたマグネタイト粒子が提供される。また、本発明によれば、表面の疎水性が高く、誘電率の低い有機溶媒中への分散安定性が高い被覆マグネタイト粒子が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明のマグネタイト粒子(このマグネタイト粒子を、後述する被覆マグネタイト粒子との関係で、コアマグネタイト粒子ともいう。)は、Ti及び/又はSiを含んでいる。コアマグネタイト粒子はTi及びSiのうちのいずれか一方のみを含んでいてもよく、あるいはTi及びSiの双方を含んでいてもよい。コアマグネタイト粒子は、Ti及びSiの含有部位によって特徴付けられる。詳細には、Ti及び/又はSiは、コアマグネタイト粒子の内部に存在しているとともに、粒子最表面には実質的に存在していない。更に、コアマグネタイト粒子は、その最表面において、Ti及びSiに加え、その他の異種元素も実質的に存在していないことが好ましい。ここでいう異種元素とは、マグネタイトを構成する元素であるFe及びO以外の元素のことをいう。つまり異種元素とは、Fe及びO以外のすべての元素のことである。
【0015】
コアマグネタイト粒子が、その内部にTi及び/又はSiを含んでいることで、コアマグネタイト粒子の磁気特性が制御されて過度の磁気凝集が抑制される。その結果、後述するシラン化合物によってコアマグネタイト粒子の表面を万遍なく被覆することが可能となる。磁気凝集の防止の観点のみからは、コアマグネタイト粒子のいずれかの部位にTi又はSiが含まれていればよいが、粒子の最表面にTiやSiが存在している場合には、逆にシラン化合物による被覆を阻害することが、本発明者らの検討の結果判明した。また、Ti及びSi以外の異種元素についても、これらがコアマグネタイト粒子の最表面に存在していると、やはりシラン化合物による被覆を阻害することが判明した。そこで本発明においては、コアマグネタイト粒子の最表面に、Ti及びSiが実質的に存在しないようにしており、好適にはこれら以外の異種元素も実質的に存在しないようにしている。
【0016】
上述した「実質的に存在していない」とは、コアマグネタイト粒子の最表面に意図的に異種元素を存在させないことを意味する。したがって、コアマグネタイト粒子及びこれを原料とする被覆マグネタイト粒子の製造過程において、不可避的に粒子の最表面に異種元素が混入することは許容される。具体的には、以下の方法で行われる純水煮沸試験によるTi及びSiの溶出量(元素基準)が、コアマグネタイト粒子全体に対してそれぞれ50ppm以下、好ましくは20ppm以下、更に好ましくは10ppm以下である場合には、コアマグネタイト粒子の最表面にこれらの元素が実質的に存在していないといえる。
【0017】
本発明者らの検討の結果、Ti及びSiに加えて、これら以外の異種元素のなかでも、特にNaがコアマグネタイト粒子の最表面に少ない方が、後工程でのシラン化合物の被覆状態を改善できることが判明した。したがって、Ti及びSiに加えてNaも、コアマグネタイト粒子の最表面に実質的に存在させないことが好ましい。具体的には、純水煮沸試験によるNaの溶出量(元素基準)を、コアマグネタイト粒子全体に対して好ましくは50ppm以下、好ましくは20ppm以下、更に好ましくは10ppm以下とする。
【0018】
コアマグネタイト粒子の表面に存在するTi及びSiを始めとする異種元素の量は、上述のとおりそれぞれ50ppm以下であれば、その量が少なければ少ないほどシラン化合物の被覆状態が改善される。しかしながら、異種元素の量を極限にまで減らすことは、当該技術分野で知られている現在のコアマグネタイト粒子の製造技術では極めて困難である。本発明者らが異種元素の存在量の下限値について検討したところ、各異種元素の量をそれぞれ1ppmまで低減させれば、満足すべき被覆性が得られることが判明した。
【0019】
Ti及びSiを始めとする異種元素の純水煮沸試験による溶出量の測定は以下の手順で行う。コアマグネタイト粒子25gを正確に秤量し、純水250mL中に分散させた後、5分間沸騰させ、常温まで冷却する。蒸発によって減じた液量分の純水を加えて再び250mLとする。次いで、JIS P3801に準ずる5種Cの濾紙にて濾過を行う。濾過を開始して最初の50mLを捨て、残りの濾液を採取する。採取した濾液について、ICPを用いて濾液中の各元素の濃度を測定する。測定された各元素の濃度を、コアマグネタイト粒子中での各元素の割合に換算する。
【0020】
コアマグネタイト粒子の内部に存在するTi及び/又はSiに関しては、これらの元素の具体的な量は次のとおりであることが好ましい。Tiに関しては、マグネタイト粒子中に500〜5000ppm、特に1000〜4000ppm、とりわけ1500〜3500ppmの範囲で含有されていることが好ましい。Tiの含有量をこの範囲に設定することで、Tiをコアマグネタイト粒子の表面に露出させることなく、コアマグネタイト粒子の磁気凝集を効果的に防止することができる。Siに関しても、Tiと同様の理由によって、マグネタイト粒子中に500〜5000ppm、特に1000〜4000ppm、とりわけ1500〜3500ppmの範囲で含有されていることが好ましい。
【0021】
コアマグネタイト粒子の内部にTi及びSiの双方が存在している場合、両者の合計量は、粒子中に1000〜10000ppm、特に3000〜7000ppmの範囲であることが、シラン化合物の被覆性の一層の向上、及び磁気凝集の一層の防止の観点から好ましい。
【0022】
コアマグネタイト粒子に含まれるTi及びSiの量は、例えば株式会社リガク製の走査型蛍光X線分析装置ZSX PrimusIIを用いて測定される。
【0023】
なお、コアマグネタイト粒子中に含まれるTi及びSiの量は、上述のとおり微量なので、該粒子中においてTiやSiがどのような状態で存在しているかは、現在の測定技術では特定が極めて困難である。推測ではあるが、本発明者らは、TiやSiは、それらの酸化物の状態で存在しているか、又はFeとの複合酸化物の状態で存在しているのではないかと考えている。
【0024】
コアマグネタイト粒子の内部にTi及び/又はSiが含まれていれば、それらの元素の存在部位によらず、該粒子の磁気凝集の防止に効果がある。例えばTi及び/又はSiは、コアマグネタイト粒子の内部において半径方向にわたりほぼ均一に存在していてもよく、あるいは半径方向の特定の位置において存在量のピークを有するように分布していてもよい。例えばコアマグネタイト粒子の中心及びその近傍に偏在していてもよい。また、ピークを有する部位は、TiとSiとで同じでもよく、あるいは異なっていてもよい。特に、コアマグネタイト粒子を、硫酸や塩酸等の鉱酸を用いてその最表面から溶解していったときに、Feの溶出率が10〜100重量%までの間に溶出するTi又はSiの量が、粒子全体に含まれるTi又はSiの量の好ましくは60〜100重量%、更に好ましくは70〜100重量%となるように、これらの元素が粒子内に分布していると、コアマグネタイト粒子の磁気特性が一層精密に制御されて、その磁気凝集を一層効果的に防止できる。また粒子最表面におけるTi及びSiの露出も一層効果的に防止できる。
【0025】
コアマグネタイト粒子の内部には、Ti及びSiに加えて、その他の異種元素が存在していてもよく、あるいは存在していなくてもよい。その他の異種元素がコアマグネタイト粒子の特性向上に寄与する場合には、そのような異種元素を積極的に含有させることが有利である。そのような元素としては、例えばAl、Zr、Mn、Zn、Mg等の1種又は2種以上が挙げられる。これらの元素は、例えばその酸化物やFeとの複合酸化物等の状態で、粒子内に含まれていることが好ましい。コアマグネタイト粒子の特性の向上に寄与しない異種元素の場合には、その存在がコアマグネタイト粒子の特性にマイナスの影響を与えない範囲において、コアマグネタイト粒子中に含有されることは許容される。例えば、上述したNaは、コアマグネタイト中に10〜3000ppm、特に20〜2000ppmの範囲で含有されることが許容される。コアマグネタイト粒子中のNaの量は、該粒子を完全溶解させた溶液をICP分析して求めることができる。
【0026】
コアマグネタイト粒子としては、XRD測定したときに主ピークがマグネタイトのピークと一致するものが用いられる。この場合、マグネタイトのピークのみが観察されてもよく、あるいはマグネタイトの主ピークの他に、マグヘマイト等のピークが観察されてもよい。
【0027】
コアマグネタイト粒子はその形状が球状、多面体状(例えば六面体状、八面体状)等であり得る。該粒子の形状について本発明者らが検討したところ、コアマグネタイト粒子が球状であると、シラン化合物による被覆が極めて良好に行えることが判明した。したがってコアマグネタイト粒子として、多面体状のものよりも、球状のものを用いることが好ましい。
【0028】
コアマグネタイト粒子はその平均粒径が0.1〜0.3μm、特に0.15〜0.25μmであることが、後述する被覆マグネタイト粒子を、プリンターや電子複写機のトナー用材料として用いる場合に好ましい。コアマグネタイト粒子の平均粒径がこの範囲内であれば、トナー中での着色力や色味が良好となるからである。コアマグネタイト粒子の平均粒径は、次の方法で測定される。
【0029】
〔コアマグネタイト粒子の平均粒径の測定方法〕
コアマグネタイト粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して撮影された像から測定する。具体的には、SEM写真(倍率40,000倍)を用い、200個の粒子のフェレ径を計測し、その平均値を平均粒径とする。
【0030】
コアマグネタイト粒子は、そのBET比表面積が4〜12m2/g、特に4〜10m2/gに設定されていることが好ましい。コアマグネタイト粒子のBET比表面積は、得られる被覆マグネタイト粒子の疎水性及び分散性に影響を及ぼすものであるところ、BET比表面積を上述の範囲に設定することで、シラン化合物によってコアマグネタイト粒子を首尾良く疎水化することができ、被覆マグネタイト粒子の水蒸気吸着量の抑制と有機溶媒中での分散安定性とを両立させることができるので好ましい。BET比表面積を、上述の範囲に設定するためには、例えばコアマグネタイト粒子を合成するときの反応速度や反応時間を適切に制御すればよい。
【0031】
次に、上述のコアマグネタイト粒子を含む被覆マグネタイト粒子について説明する。被覆マグネタイト粒子においては、コアマグネタイト粒子の表面がシラン化合物によって被覆されている。上述のコアマグネタイト粒子を用いることで、シラン化合物がコアマグネタイト粒子の表面を万遍なく被覆し、被覆マグネタイト粒子の疎水性が極めて高くなる。その結果、被覆マグネタイト粒子は、水蒸気吸着量が極めて少なく、誘電率の低い有機溶媒中への分散安定性が非常に高くなる。誘電率の低い有機溶媒としては、例えばスチレン、トルエン、ヘキサン、ベンゼン、酢酸エチル、キシレン等が挙げられる。
【0032】
前記のシラン化合物は、例えばSiの原子に直接結合したアルキル鎖を有する有機シランから生成する化合物である。「有機シランから生成する化合物」には、例えば有機シランの加水分解生成物や脱水縮合生成物等が包含される。シラン化合物は炭素数2〜10のアルキル鎖を有している。このようなシラン化合物を生成させるための有機シランとしては、例えばアルコキシシランや、シランカップリング剤として知られる化合物が挙げられる。例えば有機シランとしてR1xSi(OR24-xで表されるものを用いることができる。式中R1は、同一の又は異なる炭素数2〜10のアルキル基を表し、R2は短鎖アルキル基を表す。xは好ましくは1〜3の整数、更に好ましくは1又は2、一層好ましくは1を表す。xが2又は3である場合、R1は、その炭素数が上述の範囲であることを条件として、同種のアルキル基でもよく、あるいは異種のアルキル基でもよい。
【0033】
前記のシラン化合物において、アルキル鎖の炭素数を10以下に制限した理由は、マグネタイトのコア粒子の表面を均一に被覆させて、水蒸気吸着量を抑制するためである。炭素鎖が10超となると、分子鎖が大きくなり、コア粒子の表面にシラン化合物を均一に被覆させることが困難となる。一方、炭素数を2以上に制限した理由は、有機溶媒中での分散安定性を高めるためである。これらの観点から、前記のシラン化合物におけるアルキル鎖の炭素数は好ましくは3〜8であり、更に好ましくは3〜6である。
【0034】
前記のシラン化合物を生成する有機シランの具体例としては、n−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、iso−ブチルトリメトキシシラン、tert−ブチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、iso−ヘキシルトリメトキシシラン、tert−ヘキシルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、iso−オクチルトリメトキシシラン、tert−オクチルトリメトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、iso−デシルトリメトキシシラン、tert−デシルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、iso−ブチルトリエトキシシラン、tert−ブチルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、iso−ヘキシルトリエトキシシラン、tert−ヘキシルトリエトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、iso−オクチルトリエトキシシラン、tert−オクチルトリエトキシシラン、n−デシルトリエトキシシラン、iso−デシルトリエトキシシラン、tert−デシルトリエトキシシラン等が挙げられる。これらの有機シランは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
前記のシラン化合物の被覆量は、Si換算で、被覆マグネタイト粒子の重量に対して0.01〜1.5重量%、特に0.05〜0.5重量%であることが好ましい。シラン化合物の割合がこの範囲内であることによって、水蒸気吸着量が少なく、粒子の凝集が抑制されるという有利な効果が奏される。前記のシラン化合物の被覆量は例えば、被覆マグネタイト粒子を対象とし、株式会社リガク製の走査型蛍光X線分析装置ZSX PrimusIIを用いて測定されたSiの量と、シラン化合物で被覆される前のコアマグネタイト粒子を対象とし、同様の装置を用いて測定されたSiの量との差から求められる。
【0036】
被覆マグネタイト粒子においては、上述のシラン化合物は、コアマグネタイト粒子の表面を薄く被覆している。したがって、被覆マグネタイト粒子の形状はコアマグネタイト粒子の形状を引き継いだものとなる。上述したとおり、コアマグネタイト粒子は球状であることが好ましいので、被覆マグネタイト粒子も球状であることが好ましい。また、上述のシラン化合物による被覆が薄いことに起因して、被覆マグネタイト粒子の平均粒径は、コアマグネタイト粒子の平均粒径と実質的に大差はない。したがって、被覆マグネタイト粒子の平均粒径については、コアマグネタイト粒子の平均粒径に関して詳述した説明が適宜適用される。被覆マグネタイト粒子の平均粒径の測定方法についても同様である。
【0037】
上述のシラン化合物で被覆されている被覆マグネタイト粒子は、該シラン化合物の作用によって表面が疎水化されている。疎水化の程度は、個々の被覆マグネタイト粒子に着目したミクロ的な観点及び被覆マグネタイト粒子の集合体である粉体に着目したマクロ的な観点から検討する必要があることが、本発明者らの検討の結果判明した。ミクロ的な観点からの疎水化の程度は、被覆マグネタイト粒子の水蒸気吸着量を尺度として表現することができる。一方、マクロ的な観点からの疎水化の程度は、メタノール疎水化度を尺度として表現することができる。本発明においては、水蒸気吸着量とメタノール疎水化度とを首尾良くバランスさせることで、被覆マグネタイト粒子の疎水性の程度を好適な範囲とすることができる。これらの測定方法は以下のとおりである。
【0038】
〔水蒸気吸着量の測定方法〕
水蒸気吸着量測定装置BELSORP18(日本ベル株式会社製)を用いて、25℃、相対圧0.9における被覆マグネタイト粒子1g当たりの水蒸気吸着量を測定した。
【0039】
〔メタノール疎水化度の測定方法〕
粉体濡れ性試験機(株式会社レスカ製WET101P)を用い、体積濃度40%(温度25℃)のメタノール水溶液60mLに被覆マグネタイト粒子50mgを添加し、撹拌羽根により撹拌する。この状態下にメタノールを滴下し、これとともにメタノール水溶液に波長780nmのレーザー光を照射し、その透過率を測定する。被覆マグネタイト粒子が濡れて沈降、懸濁していき、透過率が80%となるところのメタノール水溶液の体積濃度をメタノール疎水化度とする。
【0040】
水蒸気吸着量は、その値が小さいほど疎水化の程度が高くなる傾向にある。この観点から、被覆マグネタイト粒子の好適な水蒸気吸着量の範囲は0.01〜1.0mg/gであり、更に好適な範囲は0.05〜0.8mg/gである。
【0041】
メタノール疎水化度は0〜100%の値をとり、疎水性が高いほど、その値は高くなる傾向にある。したがって、疎水性の観点からはメタノール疎水化度の値は高い方が好ましい。しかし、実際は疎水性が高くない場合であっても、粒子の凝集が進むことに起因して、メタノール疎水化度が高い値になる傾向がある。したがって、メタノール疎水化度の値が高いことが、被覆マグネタイト粒子の疎水性が高いことと同義とならない場合がある。
【0042】
同様に、実際は疎水性が高くないシラン化合物(例えばマグネタイトのコア粒子が長鎖アルキル基(例えば炭素数10超)を有するシラン化合物)によって被覆されることによっても、メタノール疎水化度の値が高くなる傾向がある。この理由は、長鎖アルキル基にどうしの絡み合いによって粒子の凝集が起こりやすくなるからである。この場合、長鎖アルキル基の存在によって表面張力が下がりメタノール疎水化度は高くなるが、そのような被覆マグネタイト粒子は樹脂とのなじみ性が低いものであり、疎水性の程度は高いものとは言えない。また、粒子の凝集によって粒子間に巻き込まれたエアの存在によっても樹脂とのなじみ性が低くなる傾向にある。したがって、この場合にも、メタノール疎水化度の値が高いことが、被覆マグネタイト粒子の疎水性が高いことと同義とならないことがある。
【0043】
以上のことを総合的に勘案すると、メタノール疎水度はその値が高い方が好ましいが、過度に高くならない方が良い。この観点から、被覆マグネタイト粒子は、このメタノール疎水化度が好ましくは50〜70%、更に好ましくは53〜68%、一層好ましくは58〜64%である。メタノール疎水化度がこの範囲であることによって、被覆マグネタイト粒子は、有機溶媒のみならず、ポリエステル系樹脂を始めとする各種樹脂への分散性が良好になる。被覆マグネタイト粒子においては、メタノール疎水化度が上述の範囲となるのに足る量のシラン化合物で以て、コアマグネタイト粒子の表面が被覆されていることが好ましい。
【0044】
次に、被覆マグネタイト粒子の好適な製造方法について説明する。本製造方法は、(1)コアマグネタイト粒子の製造工程、及び(2)シラン化合物によるコアマグネタイト粒子の表面の被覆工程の2つに大別される。以下、それぞれの工程について説明する。
【0045】
まず、(1)のコアマグネタイト粒子の製造工程においては、2段階の湿式酸化を行う。具体的には、1回目の湿式酸化は、例えば、第一鉄塩の中和反応によって生じた水酸化第一鉄コロイド溶液に酸化性ガスを吹き込むことで行う。この場合、水溶性のTi塩(例えば硫酸チタニル等)及び/又は水溶性のSi化合物(例えばケイ酸ナトリウム等)の1種又は2種以上を、反応用溶液に投入する(反応前、反応開始時、又は反応途中のいずれでも可)。更に、必要に応じ、Ti及び/又はSi以外の金属、例えば、Al、Zr、Mn、Zn、Mg等の1種又は2種以上を含む水溶性化合物を、反応用溶液に投入してもよい(反応前、反応開始時、又は反応途中のいずれでも可)。
【0046】
1回目の湿式酸化においては、湿式酸化法を行うときの液のpHを適切に調節することが好ましい。例えば液のpHを好ましくは7以下、更に好ましくは5.5〜7.0、一層好ましくは5.5〜6.0に保ちつつ、該液に空気等の酸化性ガスを吹き込み、湿式酸化を行う。このpHの調節によって、得られるコアマグネタイト粒子を、容易に球状のものとすることができる。一方、液のpHをアルカリ側、例えばpHを好ましくは9以上に設定して湿式酸化を行うと、球状ではなく、多面体状のコア粒子が生成する。
【0047】
なお、湿式酸化における空気等の酸化性ガスの吹き込み条件は、本製造方法において特に臨界的でなく、適切な条件を採用すればよい。
【0048】
1回目の湿式酸化の終了後(この時点では、液中のTi及びSiがすべてコア粒子内に取り込まれている)、2回目の湿式酸化を行う。2回目の湿式酸化では、Ti及びSiを含まない第一鉄塩の水溶液を反応系に注ぎ足し、必要に応じアルカリ等を用いて反応系のpHを調節しながら湿式酸化を行う。この湿式酸化によって、最表面にTi及びSiが実質的に存在しないコアマグネタイト粒子を首尾良く得ることができる。
【0049】
コアマグネタイト粒子の最表面に存在するTi及びSi以外の異種元素の量を低減させるための操作としては、以下の操作が挙げられる。例えばNa等のアルカリ金属元素の量を低減させる場合には、前記の(1)の工程の完了後、後述する(2)の工程を行う前に、(1)の工程で得られたコアマグネタイト粒子を、メディアレス型分散機を用いて水洗すればよい。水洗にメディアレス型分散機を用いることで、凝集塊をほぐして効率的なNaの除去ができるという有利な効果が奏される。この観点から、メディアレス型分散機としては、例えばホモジナイザを用いることができる。ホモジナイザには、高速攪拌式、超音波式、高圧式等のタイプがあるところ、本発明においてはいずれの方式のホモジナイザも用いることができる。これらの方式のうち、特に高速攪拌式のホモジナイザを用いることが、一層効率的なNaの除去の観点から好ましい。高速攪拌式のホモジナイザとしては、例えば国産精工株式会社製のハレルホモジナイザや、プライミクス株式会社製パイプラインホモミクサー等が挙げられる。メディアレス型分散機の運転条件は、本製造方法において臨界的でなく、コアマグネタイト粒子の表面に存在するNaの量が上述の範囲にまで低減するように運転条件を適宜調整すればよい。例えば、コアマグネタイト粒子を水洗したときの液の電導度を測定することで、Naの量を調整することができる。なお、この水洗によっては、コアマグネタイト粒子内部に存在するNaの量はほとんど変化しない。
【0050】
このようにして得られたコア粒子は、次いで(2)の工程において、その表面が、炭素数2〜10のアルキル鎖を有するシラン化合物で被覆される。この被覆のために、本工程においては、上述した有機シランを用い、この有機シランから前記のシラン化合物を生成させる。
【0051】
具体的には、上述した有機シランをコアマグネタイト粒子の表面で加水分解させて、その加水分解物や脱水縮合物等からなる前記のシラン化合物を生成させ、これによってコアマグネタイト粒子の表面を被覆する。あるいは有機シランを予め加水分解させ、生成したシラン化合物をコアマグネタイト粒子の表面に被覆してもよい。有機シランを加水分解させて生成したシラン化合物をコアマグネタイト粒子の表面に被覆する方法には、湿式法と乾式法がある。湿式法では、水を媒体とし、コアマグネタイト粒子を含み、pHが所定の範囲に設定されたスラリーに有機シランやシラン化合物を添加してコアマグネタイト粒子の表面を被覆する。乾式法では、コアマグネタイト粒子と有機シランやシラン化合物とを、液媒体の実質的な非存在下に混合して該粒子の表面を被覆する。本製造方法においては、これら2つの方法のうち、シラン化合物によるコアマグネタイト粒子の表面の被覆を首尾良く行い得る点から、乾式法を採用する。
【0052】
乾式法において、コア粒子と有機シランとの混合には、公知の混合攪拌装置を用いることができる。例えば、ヘンシェルミキサ、ハイスピードミキサ、エッジランナー、リボンブレンダー等を用いることができる。これらの装置の運転条件としては、混合攪拌時の温度を10〜50℃、特に20〜40℃に設定することが好ましい。これによって、両者が十分に混合される前に有機シランが意図せず加水分解してしまうことや、有機シラン及びシラン化合物がコアマグネタイト粒子と十分に混合される前に揮発してしまうことを効果的に防止できる。コア粒子と有機シランとの配合の割合は、コアマグネタイト粒子100重量部に対して、有機シランを0.1〜10重量部、特に0.3〜3重量部とすることが、得られる被覆マグネタイト粒子に含まれるシラン化合物の量が適切になり、被覆マグネタイト粒子の疎水性が十分に高くなる点から好ましい。
【0053】
乾式混合が完了したら、有機シランやシラン化合物の脱水縮合が生じる温度にまで混合物を加熱して該有機シランや該シラン化合物の脱水縮合を生じさせる。有機シランやシラン化合物の種類にもよるが、加熱温度は100〜160℃、特に110〜150℃という比較的低温とすることが好ましい。加熱をこの温度範囲で行うことで、コア粒子の過度の凝集を防止しつつ、有機シランやシラン化合物の脱水縮合を行うことができる。加熱時の雰囲気に特に制限はない。一般的には大気下で加熱を行えばよい。
【0054】
このようにして、目的とする被覆マグネタイト粒子が得られる。この粒子においては、その表面が上述のシラン化合物で被覆されているので、疎水性が極めて高くなっている。得られた被覆マグネタイト粒子は、重合法トナーの原料として特に有用である。例えば懸濁重合法を行う場合、本発明の被覆マグネタイト粒子を、バインダのモノマー成分や電荷制御剤とともに混合し、次いで水を添加し、更に懸濁安定化剤を加えて懸濁させ、懸濁液をモノマーの重合工程に付して重合することでトナーが得られる。この方法によれば粒径のそろったトナーを一段階で得ることができる。また、本発明の被覆マグネタイト粒子を、粉砕法トナーの原料として用いても何ら差し支えない。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「重量%」を意味する。
【0056】
〔実施例1(コアマグネタイト粒子の製造)〕
Fe2+を1.8mol/L含有する硫酸第一鉄水溶液40リットルと、Tiの品位が20.0%の硫酸チタニル100gと、水酸化ナトリウム5.8kgとを混合し、更に水を加えて全量を140リットルとし、水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩水溶液を得た。この液の温度を90℃に保ちながら、15L/minで空気を通気し、水酸化第一鉄の湿式酸化を行い、Tiを含有するマグネタイト粒子を得た。この間、水酸化ナトリウム水溶液を添加することで、液のpHを6に維持した。
【0057】
次に、Fe2+を1.8mol/L含有する硫酸第一鉄水溶液10リットルを反応系に加え、水酸化ナトリウムの添加によってpHを6に保ちながら90℃で湿式酸化を再び行った。その後、デカンテーションを3回行って粒子を水洗し、引き続き乾燥及び粉砕を常法に従い行った。このようにして、Tiを含有する球状のコアマグネタイト粒子を得た。このコアマグネタイト粒子を、1Nの硫酸を用いて溶解させ、溶出したTiの量をICPによって経時分析したところ、Feの溶出率が10〜100%までの間に溶出したTiの量は、粒子全体に含まれるTiの量の70%であった。得られたコアマグネタイト粒子の特性を以下の表1に示す。BET比表面積は、島津−マイクロメリティックス製2200型BET計を用いて測定した。
【0058】
〔実施例2(コアマグネタイト粒子の製造)〕
実施例1において、コアマグネタイト粒子を、ハレルホモジナイザを用いて水洗し、その後、乾燥及び粉砕を常法に従い行った。このようにして、Tiを含有し、かつNaの量が低減した球状のコアマグネタイト粒子を得た。得られたコア粒子の特性を以下の表1に示す。
【0059】
〔実施例3(コアマグネタイト粒子の製造)〕
Fe2+を1.8mol/L含有する硫酸第一鉄水溶液40リットルと、Tiの品位が20.0%の硫酸チタニル100gと、ケイ酸ナトリウム水溶液(Si換算の濃度0.9mol/L)180gと、水酸化ナトリウム5.8kgとを混合し、更に水を加えて全量を140リットルとし、水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩水溶液を得た。この液の温度を90℃に保ちながら、15L/minで空気を通気し、水酸化第一鉄の湿式酸化を行い、Ti及びSiを含有するマグネタイトのコア粒子を得た。この間、水酸化ナトリウム水溶液を添加することで、液のpHを6に維持した。
【0060】
次に、Fe2+を1.8mol/L含有する硫酸第一鉄水溶液10リットルを反応系に加え、水酸化ナトリウムの添加によってpHを6に保ちながら90℃で湿式酸化を再び行った。その後、粒子を、ハレルホモジナイザを用いて水洗し、引き続き乾燥及び粉砕を常法に従い行った。このようにして、Ti及びSiを含有し、かつNaの量が低減した球状のコアマグネタイト粒子を得た。得られたコアマグネタイト粒子の特性を以下の表1に示す。
【0061】
〔実施例4(コアマグネタイト粒子の製造)〕
実施例1において、硫酸チタニルの使用量を100gから180gに増量した以外は実施例1と同様にしてTiを含有する球状のコアマグネタイト粒子を得た。得られたコアマグネタイト粒子の特性を以下の表1に示す。
【0062】
〔比較例1(コアマグネタイト粒子の製造)〕
Fe2+を1.8mol/L含有する硫酸第一鉄水溶液50リットルと、水酸化ナトリウム5.8kgとを混合し、更に水を加えて全量を140リットルとし、水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩水溶液を得た。この液の温度を90℃に保ちながら、15L/minで空気を通気し、水酸化第一鉄の湿式酸化を行い、マグネタイトのコア粒子を得た。この間、水酸化ナトリウム水溶液を添加することで、液のpHを6に維持した。その後、デカンテーションを3回行ってコア粒子を水洗し、引き続き乾燥及び粉砕を常法に従い行った。このようにして、球状のコアマグネタイト粒子(Ti非含有)を得た。得られたコアマグネタイト粒子の特性を以下の表1に示す。
【0063】
〔比較例2(コアマグネタイト粒子の製造)〕
Fe2+を1.8mol/L含有する硫酸第一鉄水溶液50リットルと、Tiの品位が20.0%の硫酸チタニル100gと、水酸化ナトリウム7.2kgとを混合し、更に水を加えて全量を140リットルとし、水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩水溶液を得た。この液の温度を90℃に保ちながら、15L/minで空気を通気し、水酸化第一鉄の湿式酸化を行い、Tiを含有するマグネタイトのコア粒子を得た。この間、水酸化ナトリウム水溶液を添加することで、液のpHを6に維持した。その後、デカンテーションを3回行ってコア粒子を水洗し、引き続き乾燥及び粉砕を常法に従い行った。このようにして、Tiを含有する球状のコア粒子を得た。得られたコア粒子の特性を以下の表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
〔実施例5ないし8並びに比較例3及び4(被覆マグネタイト粒子の製造)〕
実施例1ないし4並びに比較例1及び2で得られたコアマグネタイト粒子100重量部と、有機シランであるn−ヘキシルトリメトキシシラン2重量部とを用い、これらを乾式で混合した。乾式混合にはヘンシェルミキサを用いた。混合温度は35℃とした。得られた混合物を110℃に加熱して1時間加熱処理を行った。この処理によって有機シランを加水分解させ、それによって生じたシラン化合物によってコアマグネタイト粒子の表面を被覆させ、被覆マグネタイト粒子を得た。このようにして得られた被覆マグネタイト粒子に含まれるシラン化合物の量(Si換算)を、上述の方法で測定した。その結果を以下の表2に示す。また、被覆マグネタイト粒子の水蒸気吸着量及びメタノール疎水化度を上述の方法で測定した。これらの結果も表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
表2に示す結果から明らかなように、Ti及び/又はSiを粒子の内部に含み、かつ最表面にTi及びSiが実質的に存在しないコアマグネタイト粒子を、炭素数2〜10のアルキル鎖を有するシラン化合物で乾式被覆した各実施例の被覆マグネタイト粒子(本発明品)は、水蒸気吸着量が少なく、かつメタノール疎水化度が特定の範囲内であることが判る。これに対して、Ti及びSiのいずれも含まないコアマグネタイト粒子及び粒子の最表面にTiが存在しているコアマグネタイト粒子を用いた場合(比較例3及び4)には、シラン化合物のアルキル鎖の炭素数が2〜10の範囲であっても、水蒸気吸着量が大きくなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti又はSiを含有し、これらが粒子の内部に存在しているとともに、粒子最表面にTi及びSiが実質的に存在していないマグネタイトからなり、
純水煮沸試験によるTi及びSiの溶出量が、粒子全体に対してそれぞれ50ppm以下であることを特徴とするマグネタイト粒子。
【請求項2】
粒子最表面にNaが実質的に存在していない請求項1記載のマグネタイト粒子。
【請求項3】
粒子表面にFe及びO以外の異種元素が実質的に存在していない請求項2記載のマグネタイト粒子。
【請求項4】
粒子をその最表面から溶解していったときに、Feの溶出率が10〜100重量%までの間に溶出するTi又はSiの量が、粒子全体に含まれるTi又はSiの量の60〜100重量%である請求項1ないし3のいずれかに記載のマグネタイト粒子。
【請求項5】
Tiの含有量が500〜5000ppmであり、Siの含有量が500〜5000ppmである請求項1ないし4のいずれかに記載のマグネタイト粒子。
【請求項6】
Ti及びSiの合計量が1000〜10000ppmの範囲にある請求項1ないし5のいずれかに記載の被覆マグネタイト粒子。
【請求項7】
重合トナーの原料として用いられる請求項1ないし6のいずれかに記載のマグネタイト粒子。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載のマグネタイト粒子の表面が、炭素数2〜10のアルキル鎖を有するシラン化合物によって被覆されていることを特徴とする被覆マグネタイト粒子。
【請求項9】
シラン化合物の被覆量が、Si換算で0.01〜1.5重量%である請求項8記載の被覆マグネタイト粒子。
【請求項10】
請求項8又は9記載の被覆マグネタイト粒子の製造方法であって、請求項1ないし6のいずれかに記載のマグネタイト粒子と、炭素数2〜10のアルキル鎖を有するシラン化合物とを乾式で混合し、該シラン化合物を該マグネタイト粒子の表面に結合させることを特徴とする被覆マグネタイト粒子の製造方法。