説明

マグネトロン

【課題】耐衝撃性、耐振動性に優れ、また冷却ブロックや磁気継鉄の寸法にばらつきがあっても組み立てが容易であり、また金属の腐食が起こり難いマグネトロンを得る。
【解決手段】冷却ブロック22と磁気継鉄20間に空隙を設け、該空隙に緩衝材25を介在させて、これを通して冷却ブロック22と磁気継鉄20をネジ止めにより相互固定する。これにより、冷却ブロック22と磁気継鉄20にイオン化傾向の差の大きな金属を用いても金属の腐食が起こり難くなる。また、冷却ブロック22と磁気継鉄20間の空隙に緩衝材25を設けることで、陽極筒体10への衝撃や振動を緩和でき、陰極構体のフィラメントの断線不良を軽減できる。また、冷却ブロック22や磁気継鉄20の寸法のばらつきを緩衝材25で吸収できるため、部品の寸法精度を高める必要がなく、組み立てが容易になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波利用機器等のマイクロ波発振装置に用いて好適なマグネトロンに関する。
【背景技術】
【0002】
図17は、特許文献1で開示されたマグネトロンを示す縦断面図である。同図に示すマグネトロンは、主に、磁気継鉄4と、磁気継鉄4の上部に設けられる出力部9と、磁気継鉄4の下部に設けられるフィルタ11とから構成される。磁気継鉄4内には、2つの円環状永久磁石8A、8Bと、陽極筒体10と、陽極筒体10の周囲を覆う冷却ブロック1が収容されている。フィルタ11はチョークコイル6と貫通コンデンサ7を備えている。
【0003】
磁気継鉄4は、一端(図17では下側の端)が開口し、他端(図17では上側の端)が閉口すると共に中央部分に孔(図示略)が開けられた形状の本体部4aと、本体部4aの開口端を閉じる蓋部4bとから構成され、蓋部4bの中央部分には本体部4aに開けられた孔と同様の孔(図示略)が開けられている。
【0004】
冷却ブロック1は高い熱伝導率を有する金属で造られており、その内部には冷却用液体のための冷却液体流通管路2が形成されている。この冷却液体流通管路2には冷却液体が循環するようになっている。陽極筒体10の内部には、アノードベイン12が放射状に配置され、夫々隣り合ったアノードベイン12と陽極筒体10とで囲まれた空間で空洞共振器が形成されている。また、陽極筒体10の中心部には陰極構体13が配置され、この陰極構体13とアノードベイン12とで囲まれた空間が作用空間となっている。陽極筒体10の上端には出力側ポールピース14が固着され、下端には入力側ポールピース15が固着されている。
【0005】
陽極筒体10は、上下両端に配置した円環状永久磁石8A、8Bの外側から磁気継鉄4によって抑えられている。なお、図面に向かって下側に配置された円環状永久磁石8Bは入力側の磁石であり、上側に配置された円環状永久磁石8Aは出力側の磁石である。
【0006】
冷却ブロック1は、陽極筒体10を冷却するものであり、内側壁面が陽極筒体10の外側壁面に密着接触し、外側壁面が磁気継鉄4の内側壁面に密着接触している。冷却ブロック1の外側壁面と磁気継鉄4の内側壁面との接触部には熱拡散コンパウンド3が塗布されており、該接触部に万一隙間が生じていても良好な熱伝導状態が得られ、かつ該接触部で両者が固着されるようにしてある。これにより、冷却ブロック1が陽極筒体10、磁気継鉄4及び磁気継鉄4を介して円環状永久磁石8A、8B及びフィルタ11を冷却することを可能にしている。
【0007】
この従来のマグネトロンを使用するときには、マグネトロン内部を真空状態にした後、陰極構体13に所望の電力を印加して熱電子を放出させ、アノードベイン12と陰極構体13との間に直流の高電圧を印加する。作用空間には2つの円環状永久磁石8によって陰極構体13と陽極筒体10の対向する方向と直角の方向に磁界が形成されている。アノードベイン12と陰極構体13との間に直流高電圧を印加することで陰極構体13から出た電子がアノードベイン12に向かって引き出される。電子は作用空間中の電界及び磁界により、旋回運動をしながら周回運動しアノードベイン12に到達する。このときの電子運動によるエネルギーが空洞共振器に与えられて、マグネトロンの発振に寄与する。
【0008】
【特許文献1】特開平3−297034号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した従来のマグネトロンにおいては、以下に列記する問題がある。
冷却ブロック1を磁気継鉄4に密着接触させているため、陽極筒体10の陰極構体13が、振動は勿論のこと外部衝撃に対して弱くなる。陰極構体13には電子を放出させるためのフィラメントが存在し、これが振動や衝撃に対して非常に弱い性質を持っており、外力や振動の大きさによっては断線することがある。フィラメントが断線すると、マグネトロンが機能しなくなってしまう。
【0010】
また、冷却ブロック1を磁気継鉄4に密着接触させることから、これらの寸法精度を上げなければ組み立てが困難になる。たとえ組み立てられたとしても、冷却ブロック1と磁気継鉄4との間の隙間が大きければ、熱拡散コンパウンド3を塗布したとしても冷却ブロック1と磁気継鉄4の密着性を高めることは困難である。
【0011】
また、材料によっては、冷却ブロック1と磁気継鉄4の密着接触部分で腐食(錆び)が発生することがある。例えば、冷却ブロックの材料として銅を用いた場合、鉄を用いた磁気継鉄との間のイオン化傾向の差が大きくなり、鉄(または亜鉛)である磁気継鉄が腐食することになる。液体冷却式のマグネトロンでは結露が発生し易いので、イオン化傾向の差による腐食はより促進されてしまう。なお、イオン化傾向の差が大きくなる例としては、銅と鉄の他に、銅と亜鉛、アルミニウムと鉄、アルミニウムと亜鉛等がある。
【0012】
この発明は係る事情に鑑みてなされたものであり、耐衝撃性、耐振動性に優れ、また冷却ブロックや磁気継鉄の寸法にばらつきがあっても組み立てが容易であり、また金属の腐食が起こり難いマグネトロンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のマグネトロンは、陰極構体を有する陽極筒体を冷却するための冷却ブロックと、前記冷却ブロックを収容する磁気継鉄とを備えたマグネトロンであって、前記冷却ブロックと前記磁気継鉄の間に空隙を設け、該空隙に緩衝材を介在させて前記冷却ブロックと前記磁気継鉄とを固定部材で相互固定したものである。
【0014】
上記構成によれば、冷却ブロックと磁気継鉄間に空隙を設け、冷却ブロックと磁気継鉄との間に緩衝材を介在させることで、該緩衝材を外部衝撃や振動に対するダンパとして作用させることができる。これにより、陽極筒体の陰極構体への衝撃や振動を緩和でき、衝撃や振動による陰極構体のフィラメントの断線不良を軽減できる。また、冷却ブロックと磁気継鉄とが接触しないため、冷却ブロックと磁気継鉄にイオン化傾向の差の大きな金属(例えば、銅と鉄(亜鉛)、アルミニウムと鉄(亜鉛)、アルミニウムと銅等)を用いても金属の腐食が起こり難くなる。さらに、陽極円筒が冷却ブロックに固定され、冷却ブロックが磁気継鉄と相互固定されているから、陽極円筒が磁気継鉄に対して回転することを防止できる。
【0015】
また、冷却ブロックと磁気継鉄間に空隙を持たせることで、冷却ブロックや磁気継鉄に寸法のばらつきがあったとしても、上述した緩衝材がそれを吸収するため、部品の寸法精度を要求しなくてもよい。これにより、部品の精度を上げるための工数が不要になる分、コストダウンが図れる。また、冷却ブロックのサイズを従来のものより小さくできるので、これによってもコストダウンが図れる。また、冷却ブロックと磁気継鉄が接触しないため、接触度合いによるマグネトロンの磁気継鉄温度のばらつきが生じなく、一定の品質を保つことができる。さらに、磁気継鉄の温度を基に制御を行う場合、温度センサを磁気継鉄のどの部分に当てても略均一な温度計測結果が得られるので、精度の良い制御が可能となる。
【0016】
また、冷却ブロックと前記磁気継鉄とを固定部材で相互固定したので、冷却ブロックを陽極筒体に取り付けるネジ等の固定部材が緩んだ場合であっても、冷却ブロックの脱落を防止できる。
【0017】
また、上記構成において、前記固定部材と前記磁気継鉄の間に緩衝材を介在させて前記冷却ブロックと前記磁気継鉄とを前記固定部材で相互固定した。
【0018】
上記構成によれば、固定部材と磁気継鉄の間に緩衝材を介在させたので、陽極筒体の陰極構体への衝撃や振動を緩和でき、衝撃や振動による陰極構体のフィラメントの断線不良を軽減できる。
【0019】
また、上記構成において、前記緩衝材は、前記磁気継鉄の厚みよりも長く形成され、また前記磁気継鉄には、前記緩衝材を嵌挿可能な大きさの孔が形成され、該孔に前記緩衝材の一部を嵌挿させた状態で前記緩衝材を通して前記冷却ブロックと前記磁気継鉄とを相互固定した。
【0020】
上記構成によれば、緩衝材を磁気継鉄の厚みよりも長く形成し、また緩衝材の一部を磁気継鉄に形成した孔に嵌挿させた状態で該緩衝材を通して冷却ブロックと磁気継鉄とを相互固定したので、磁気継鉄に衝撃が加えられたり、振動が伝わったりしても、その衝撃や振動が冷却ブロックに伝わるのを効果的に緩和することができる。特に、ネジ、リベット、プッシュピン、アンカーボルト等の固定部材を用いて冷却ブロックと磁気継鉄とを相互固定する場合、固定部材が磁気継鉄と接触する面積をゼロ又は最小にできるので、固定部材を介して磁気継鉄から冷却ブロックに伝わる衝撃や振動を小さくできる。
【0021】
また、上記構成において、前記緩衝材が前記固定部材を兼ねるようにした。
【0022】
上記構成によれば、緩衝材が固定部材を兼ねるので、ネジ、リベット、プッシュピン、アンカーボルト等の固定部材を用意することがなくなり、コストダウンが図れる。
【0023】
また、本発明のマイクロ波利用機器は、上記発明のマグネトロンを備えたものである。
【0024】
上記構成によれば、耐衝撃性、耐振動性を向上できると共にコストダウンが図れ、さらに長期に亘って安定した動作が可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、耐衝撃性、耐振動性に優れ、また冷却ブロックや磁気継鉄の寸法にばらつきがあっても組み立てが容易であり、また金属の腐食が起こり難いマグネトロンを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明の一実施の形態に係るマグネトロンを示す側面図である。なお、同図において前述した図17と共通する部分には同一の符号を付けている。また、同図において、磁気継鉄20と冷却ブロック22との関係が分かり易いように、磁気継鉄20の内部が見えるようにしている。磁気継鉄20は、前述した図17に示す磁気継鉄4と略同様の構造を成しているが、磁気継鉄20の本体部20aと蓋部20bとの位置関係が逆になっている。つまり、本体部20aは、一端(図1では上側の端)が開口し、他端(図1では下側の端)が閉口すると共に中央部分に孔(図示略)が開けられた形状の本体部4aと、本体部4aの開口端を閉じる蓋部4bとから構成され、蓋部4bの中央部分には本体部4aに開けられた孔と同様の孔(図示略)が開けられている。本体部20aと蓋部20bとの接続はネジ21によって行われる。
【0028】
磁気継鉄20内には、2つの円環状永久磁石8A、8Bと、陽極筒体10(図17参照)と、陽極筒体10の周囲を覆う冷却ブロック22が収容されている。
【0029】
冷却ブロック22は、その一部分に締め付け部22aを有し、陽極筒体10(図17参照)に装着した後に、締め付け部22aのネジ22bを締め込むことによって陽極筒体10に固定される。冷却ブロック22は、陽極筒体10に固定したときに、磁気継鉄20との間で空隙ができるように設定されている。冷却ブロック22の内部には冷却液体を流通させるための冷却液体流通管路23が形成されており、この冷却液体流通管路23に冷却液体が流入される。
【0030】
冷却ブロック22と磁気継鉄20との接続は、図2の部分断面図に示すように、ネジ24によって行われる。この場合、冷却ブロック22と磁気継鉄20との間に、図3に示した円筒形の緩衝材25が設けられ、この緩衝材25を通してネジ止めされる。緩衝材25は、磁気継鉄24の外側表面から冷却ブロック22の表面に至る長さに形成されている。緩衝材25の材料としては、ナイロン、テフロン(登録商標)、ジュラコン(登録商標)、ウレタン、ゴム等の耐衝撃性および耐振動性に優れた樹脂材が好適である。
【0031】
磁気継鉄20にはネジ24を通す孔が形成されている。この孔は緩衝材25を嵌挿できる大きさになっている。冷却ブロック22に形成されたネジ穴は、ネジ24の取り付け可能とする大きさに形成されている。
【0032】
ネジ24及び緩衝材25を用いて冷却ブロック22と磁気継鉄20間の空隙を保ちつつ、磁気継鉄20に冷却ブロック22を固定する。この際、ネジ24を締め込むことで緩衝材25の冷却ブロック22と磁気継鉄20間の部分に圧力が加わり、これにより、図4の断面図に示すように、当該部分が潰れて広がり、冷却ブロック22と磁気継鉄20間の隙間に入り込む。この潰れて広がった部分が外部衝撃や振動に対してダンパとして効果的に作用し、陽極筒体10の陰極構体13(図17参照)への衝撃や振動を緩和できる。これにより、衝撃や振動による陰極構体13のフィラメントの断線不良を軽減できる。
【0033】
緩衝材25の潰れる度合いは、緩衝材25の硬度にもよるが、緩衝材25の冷却ブロック22側の端部に複数個の切れ目(スリットのようなもの、裂け目)を設けることで更に高めることができる(図5の(c)参照)。この潰れて広がった部分によって、耐衝撃性、耐振動性がさらに向上する。なお、図8の断面図に示すように、ネジ24の締め込みにより緩衝材25を潰さなくても外部衝撃や振動に対するダンパとしての効果を失うことはない。また、振動、衝撃を緩和するのは冷却ブロック22と磁気継鉄20間の隙間だけでなく、磁気継鉄20に形成した孔に緩衝材25の一部を嵌挿することでも緩和できる。
【0034】
なお、緩衝材25の形状が円筒形である場合の例を示したが、円筒形に限られるものではない。図5に緩衝材25の変形例を示す。図5の(a)に示す緩衝材25Aは、径の異なる2つの円筒状の部分で構成したものである。図5の(b)に示す緩衝材25Bは、板状の緩衝材を丸めて円筒形に形成したものである。また、図5の(c)に示す緩衝材25Cは、上述したように、円筒形に形成し、その一端部に複数の切れ目を設けたものである。また、図5の(d)に示す緩衝材25Dは、径の大きな中央部の両側に同一形状で中央部分よりも小径の部分で構成したものである。また、図5の(e)に示す緩衝材25Eは、角型で大きさの異なる2つの部分で構成したものである。
【0035】
図6は、図5の(a)に示す緩衝材25Aを使用した場合の冷却ブロック22と磁気継鉄20の接続を示す断面図である。なお、図5の(e)に示す緩衝材25Eを使用した場合も断面は図6と同様になる。図7は、図5の(a)に示す緩衝材25Aと略同様の形状の緩衝材25A1を使用した場合の冷却ブロック22と磁気継鉄20の接続を示す断面図である。この緩衝材25A1は、その小径部分が磁気継鉄20の外側壁面から冷却ブロック22の外側壁面に達する長さに形成されている。
【0036】
図9は、図5の(d)に示す緩衝材25Dを使用した場合の冷却ブロック22と磁気継鉄20の接続を示す断面図である。緩衝材25Dを使用する場合は、磁気継鉄20に緩衝材25Dの一方の小径部分を嵌挿できる孔を形成し、冷却ブロック22に緩衝材25Dの他方の小径部分を嵌挿できる穴を形成する。
【0037】
図10は、図5の(d)に示す緩衝材25Dを逆の形状した緩衝材25Fを使用した場合の冷却ブロック22と磁気継鉄20の接続を示す断面図である。緩衝材25Fは、その両端部分が磁気継鉄20に形成した孔よりも大きくなるので、使用する材料としては、ゴム等の柔らかい弾性体が好適である。なお、使用する材料として硬質のものを使用する場合は、中央で分割して、一方を磁気継鉄20の外側から嵌め込み、他方を磁気継鉄20の内側から嵌め込むようにすると良い。
【0038】
冷却ブロック22と磁気継鉄20間に空隙を設けることで、冷却ブロック22と磁気継鉄20にイオン化傾向の差の大きな金属(例えば、銅と鉄(亜鉛)、アルミニウムと鉄(亜鉛)、アルミニウムと銅等)を用いても金属の腐食が起こり難くなる。
【0039】
また、冷却ブロック22と磁気継鉄20間に空隙を設けることで、冷却ブロック22や磁気継鉄20に寸法のばらつきがあったとしても、緩衝材25がそれを吸収できるので、部品の寸法精度を要求しなくてもよい。これにより、部品の精度上げるための工数が不要になる分、コストダウンが図れる。また、冷却ブロック22のサイズを従来のものより小さくできることから、これによってもコストダウンが図れる。
【0040】
また、冷却ブロック22と磁気継鉄20とがネジ24で固定されているため、熱ストレスや振動により締め付け部22aが緩んだ場合であっても、冷却ブロック22の脱落を防止できる。また、冷却ブロック22と磁気継鉄20が接触しないため、接触度合いによる磁気継鉄20の温度のばらつきが生ずることがなく、一定の品質を保つことができる。さらに、磁気継鉄の温度を基に制御を行う場合、温度センサを磁気継鉄のどの部分に当てても略均一な温度計測結果が得られるので、精度の良い制御が可能となる。
【0041】
ここで、図11〜図13に、本発明のマグネトロンと従来のマグネトロンの各3本の各部における温度の違いを示す。図11は磁気継鉄20の温度(Thermo. Temp.)を示すグラフである。また、図12は入力側の円環状永久磁石8Bの温度(Magnet Temp.)を示すグラフである。また、図13はフィルタ11の温度(Case Temp.)を示すグラフである。また、各グラフにおいて横軸は陽極損失(Anode loss)である。
【0042】
図11に示すように、従来のマグネトロンは磁気継鉄4の温度にばらつきが生じている。これは磁気継鉄4と冷却ブロック1の接触状態によるものである。一方、本発明のマグネトロンは、非接触ゆえに従来のマグネトロンに対し磁気継鉄20の温度が高くなっているが、従来のマグネトロンの温度ばらつきの最大値とほぼ同じ温度であり、かつばらつきがほとんどない。
【0043】
図12に示すように、円環状永久磁石8Bの温度については、従来のマグネトロンと本発明のマグネトロンとでほとんど差がない。つまり、磁気継鉄4と冷却ブロック1との接触の有無にかかわらずほとんど差が生じていない。
【0044】
図13に示すように、フィルタ11の温度については、磁気継鉄4の温度と同様に従来のマグネトロンは温度のばらつきが生じているのに対し、本発明のマグネトロンは従来のマグネトロンの温度ばらつきの最大値とほぼ同じ温度であり、かつばらつきがほとんどない。
【0045】
すなわち、これらのグラフから、冷却ブロック22と磁気継鉄20間に空隙を持たせることで、冷却ブロック22を磁気継鉄20に密着接触させた従来の場合と比較して、温度のばらつきを抑えることができ、円環状永久磁石8の温度やフィルタ11の温度に大きな影響を与えない。
【0046】
また、緩衝材にエポキシ系樹脂やシリコーン系樹脂、バイオプラスチック等の高熱伝導性樹脂を使用すれば、冷却効果を高められることは言うまでもない。
【0047】
このように本実施の形態のマグネトロンによれば、冷却ブロック22を磁気継鉄20に密着接触させず、冷却ブロック22と磁気継鉄20間に空隙を設け、この空隙に緩衝材25を介在させ、この緩衝材25を通して冷却ブロック22と磁気継鉄20とをネジ止めすることで相互固定するようにしたので、冷却ブロック22と磁気継鉄20にイオン化傾向の差の大きな金属を用いても金属の腐食が起こり難くなる。また、冷却ブロック22と磁気継鉄20間に緩衝材25を設けたことで、陽極筒体10の陰極構体13への衝撃や振動を緩和でき、衝撃や振動による陰極構体13のフィラメントの断線不良を軽減できる。
【0048】
また、冷却ブロック22や磁気継鉄20に寸法のばらつきがあったとしても、緩衝材25がそれを吸収するので、部品の寸法精度を要求しなくてもよく、部品の精度を上げるための工数が不要になる分、コストダウンが図れる。また、冷却ブロック22のサイズを従来のものより小さくできるので、これによってもコストダウンが図れる。
【0049】
また、冷却ブロック22を磁気継鉄20に対してネジ24で固定するので、熱ストレスや振動により締め付け部22aが緩んだ場合であっても、冷却ブロック22の脱落を防止できる。また、冷却ブロック22と磁気継鉄20が接触しないため、接触度合いによる磁気継鉄20の温度のばらつきが生じなく、一定の品質を保つことができる。
【0050】
なお、上記実施の形態では、冷却ブロック22と磁気継鉄20との間の空隙に介在させる緩衝材25として、ナイロン、テフロン(登録商標)、ジュラコン(登録商標)、ウレタン、ゴム等の耐衝撃性、耐振動性に優れた樹脂材を用いたが、これらに限定されるものではなく、プラスチック類やABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、メッシュ状の金属、硬度の低い金属等、耐衝撃性および耐振動性に優れた素材であれば、どのようなものを用いても良い。
【0051】
また、上記実施の形態では、冷却ブロック22と磁気継鉄20をネジ止めすることで、相互固定するようにしたが、ネジ24の他に、リベットやプッシュピン(差し込むことで鉤部分が広がって取り付け対象に係止されるもの)、アンカーボルトなどの固定部材を用いて相互固定するようにしても良い。また、図14に示すように、緩衝材が固定部材を兼ねるようにしても良い。図14の(a)は所謂プッシュピンと呼ばれるものであり、円筒形の基端部とテーパがかかった円錐状の先端部と基端部と先端部を接続する円筒形の接続部で構成したものである。このプッシュピンタイプの緩衝材は、その先端部を磁気継鉄20の孔を通して冷却ブロック22の穴に差し込むことで、ワンタッチで磁気継鉄20と冷却ブロック22を交互固定することができる。このプッシュピンタイプの緩衝材は固定部材を兼ねるのでネジ24が不要となり、その分、コストダウンが図れる。図14の(b)は、(a)と同形のものに、軸方向に貫通する切れ目を設けたものである。この軸方向に貫通する切れ目を設けることで、緩衝材にプラスチック等の硬い材質の使用が可能である。図14の(a)のものは、軸方向に貫通する切れ目を設けていないので、緩衝材にゴム等の比較的柔らかい材質の使用が可能である。
【0052】
また、緩衝部材として、図14に示す形状以外に、図15に示す形状のものや図16に示す形状のものも実現可能である。図15に示す形状の緩衝材は図5の(a)のものと略同様であるが、貫通する孔は形成されていない。また、図16に示す形状の緩衝材は図5の(d)のものと略同様であるが、貫通する孔は形成されていない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、耐衝撃性、耐振動性に優れ、また冷却ブロックや磁気継鉄の寸法にばらつきがあっても組み立てが容易であり、また金属の腐食が起こり難いといった効果を有し、マイクロ波利用機器等のマイクロ波発振装置に用いるマグネトロン等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施の形態に係るマグネトロンを示す側面図
【図2】本発明の一実施の形態に係るマグネトロンの冷却ブロックと磁気継鉄との接続部分を示す断面図
【図3】本発明の一実施の形態に係るマグネトロンの緩衝材を示す図
【図4】本発明の一実施の形態に係るマグネトロンの冷却ブロックと磁気継鉄との接続部分を示す断面図
【図5】本発明の一実施の形態に係るマグネトロンの緩衝材の応用例を示す図
【図6】本発明の一実施の形態に係るマグネトロンの緩衝材の応用例を用いた場合の冷却ブロックと磁気継鉄との接続部分を示す断面図
【図7】本発明の一実施の形態に係るマグネトロンの緩衝材の応用例を用いた場合の冷却ブロックと磁気継鉄との接続部分を示す断面図
【図8】本発明の一実施の形態に係るマグネトロンの緩衝材の応用例を用いた場合の冷却ブロックと磁気継鉄との接続部分を示す断面図
【図9】本発明の一実施の形態に係るマグネトロンの緩衝材の応用例を用いた場合の冷却ブロックと磁気継鉄との接続部分を示す断面図
【図10】本発明の一実施の形態に係るマグネトロンの緩衝材の応用例を用いた場合の冷却ブロックと磁気継鉄との接続部分を示す断面図
【図11】本発明のマグネトロンと従来のマグネトロン夫々の磁気継鉄の温度を示す図
【図12】本発明のマグネトロンと従来のマグネトロン夫々の入力側円環状永久磁石の温度を示す図
【図13】本発明のマグネトロンと従来のマグネトロン夫々のフィルタの温度を示す図
【図14】本発明の一実施の形態に係るマグネトロンの緩衝材の応用例で、固定部材を兼ねたものを示す図
【図15】本発明の一実施の形態に係るマグネトロンの緩衝材の応用例で、固定部材を兼ねたものを用いた場合の冷却ブロックと磁気継鉄との接続部分を示す断面図
【図16】本発明の一実施の形態に係るマグネトロンの緩衝材の応用例で、固定部材を兼ねたものを用いた場合の冷却ブロックと磁気継鉄との接続部分を示す断面図
【図17】従来のマグネトロンを示す縦断面図
【符号の説明】
【0055】
7 貫通コンデンサ
8A、8B 円環状永久磁石
9 出力部
10 陽極筒体
11 フィルタ
12 アノードベイン
13 陰極構体
20 磁気継鉄
20a 本体部
20b 蓋部
22 冷却ブロック
22a 締め付け部
23 冷却液体流通管路
24、22b ネジ
25、25A〜25E 緩衝材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極構体を有する陽極筒体を冷却するための冷却ブロックと、
前記冷却ブロックを収容する磁気継鉄と、
を備えたマグネトロンであって、
前記冷却ブロックと前記磁気継鉄の間に空隙を設け、該空隙に緩衝材を介在させて前記冷却ブロックと前記磁気継鉄とを固定部材で相互固定したものであるマグネトロン。
【請求項2】
前記固定部材と前記磁気継鉄の間に緩衝材を介在させて前記冷却ブロックと前記磁気継鉄とを前記固定部材で相互固定したものである請求項1に記載のマグネトロン。
【請求項3】
前記緩衝材は、前記磁気継鉄の厚みよりも長く形成され、また前記磁気継鉄には、前記緩衝材を嵌挿可能な大きさの孔が形成され、該孔に前記緩衝材の一端部を嵌挿させた状態で前記緩衝材を通して前記冷却ブロックと前記磁気継鉄とを相互固定したものである請求項1又は請求項2に記載のマグネトロン。
【請求項4】
前記緩衝材が前記固定部材を兼ねるものである請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のマグネトロン。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のマグネトロンを備えたマイクロ波利用機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−43559(P2009−43559A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207060(P2007−207060)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】