説明

マスキング材

【課題】 耐久性の向上を図ることができ、繰り返し使用可能な回数を増すことができるマスキング材を提供する。
【解決手段】 マスキング材10は、熱可塑性樹脂シートを延伸成形によって所定形状に成形した成形基材10Aと、上記成形基材10Aの一面または両面に形成したエラストマー強化膜20と、の複層成形物からなり、例えば成形基材10Aが外側分割基材12と内側分割基材13との2つに分割されているのであれば、脆弱部分となる接合部分14aを該エラストマー強化膜20が覆って補強し、上記延伸成形が真空および/または圧空成形であれば、脆弱部分となる薄肉部15aを該エラストマー強化膜20が覆って補強することで、マスキング材10の耐久性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の外装材や内装材に塗装等の表面処理を施す際に、該表面処理から所定部位を保護するマスキング材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記自動車の外装材や内装材に塗装等の表面処理を施す際、塗装の塗り分けや、孔部等を保護するため、表面処理の対象にしたくない範囲(非対象範囲)をマスキング材で被覆し、保護している。
上記マスキング材において通常のものは、シート材とテープ材とからなり、該シート材で非対象範囲を覆ったうえで該テープ材により該シート材を貼着固定していたが、非対象範囲をマスキングする作業が繁雑で時間を要するうえ、一度の使用で使い捨てなければならず、無駄が多い。
そこで、マスキング材として、合成樹脂シートを延伸成形で上記非対象範囲に対応する形状に形成したものが提供されており(例えば特許文献1,2参照)、該マスキング材は、非対象範囲に対応する形状であるため該非対象範囲に被せるのみで簡単に装着が可能であり、成形体であるため繰り返しの使用が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−293170号公報
【特許文献2】特開2002−336748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記従来のマスキング材は、延伸成形でよって形成されているため、全体で一定の肉厚にすることが難しく、部位によって強度に差異がある。そして、繰り返して複数回使用すると、強度が弱い薄肉の箇所に応力が集中して破損しやすくなるという問題があり、耐久性の向上が要請されている。特に真空・圧空成形で深絞り成形した箇所や、複数に分割して成形されたものの接合部位は強度が弱く、破損しやすいので、従来のマスキング材で繰り返し使用可能な回数を増すことができない要因となっていた。
本発明は、上記従来技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、耐久性の向上を図ることができ、繰り返し使用可能な回数を増すことができるマスキング材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載のマスキング材の発明は、熱可塑性樹脂シートを延伸成形によって所定形状に成形した成形基材と、上記成形基材の一面または両面に形成したエラストマー強化膜と、の複層成形物からなることを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のマスキング材の発明において、上記延伸成形は、真空および/または圧空成形であることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載のマスキング材の発明において、上記成形基材は、複数に分割された分割基材を相互に接合して構成されたものであることを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
〔作用〕
本発明のマスキング材は、保護する部分の形状に対応するように熱可塑性樹脂シートを延伸成形して所定形状に成形した成形基材と、該成形基材の一面または両面に形成したエラストマー強化膜と、の複層成形物によって構成されている。該成形基材には、例えば延伸成形によって薄肉になった箇所、あるいは保護する部分の形状に由来して応力が集中しやすい箇所等のように、他箇所に比べて強度が低い箇所が存在しているが、このような強度が低い箇所は、エラストマー強化膜が積層されることによって補強されて強化されるので、上記マスキング材を繰り返し使用しても該強度が低い箇所で壊れにくくなる。
【0007】
〔効果〕
本発明にあっては、耐久性の向上を図ることができ、繰り返し使用可能な回数を増すことができるマスキング材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態のマスキング材を使用する状態を示す斜視図。
【図2】成形基材を示す分解斜視図。
【図3】実施形態のマスキング材において、(a),(b)は成形基材の接合部分を示す断面図、(c)は薄肉部分を示す断面図。
【図4】別形態のバンパーを示す斜視図。
【図5】別形態のマスキング材を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のマスキング材を具体化した一実施例について詳細に説明する。
図1に示すように、本実施形態のマスキング材10は、自動車の内装材であるインストルメントパネルにおいて、センタークラスター1に取り付けて使用されるものである。
ここで、上記センタークラスター1の構成について概略を説明すると、該センタークラスター1は、センターコンソール2と略一体的に繋がる左右一対のサイドパネル3と、これらサイドパネル3の上部に装着される上部クラスター4と、からなる。該左右一対のサイドパネル3の間と、上部クラスター4の前面とには開口部が設けられており、該開口部にエアコンやオーディオやナビゲーション等といった機器を操作するための操作パネルが嵌め込まれるようになっている。
本実施形態のマスキング材10は、上記サイドパネル3を保護対象とし、表面処理である塗装時に該サイドパネル3に被着することで、該サイドパネル3への塗料の付着を防止している。また上記マスキング材10の周縁には翼片11が外方あるいは外側方へ差し出されるように形成されており、該翼片11によって、塗料がマスキング材10の裏側へ回り込んで該サイドパネル3を汚してしまうことが防止されている。
【0010】
図2に示すように、上記マスキング材10は、上記サイドパネル3の形状に対応するように所定形状に成形された成形基材10Aを有している。上記成形基材10Aは、複数(2つ)に分割された外側分割基材12と、内側分割基材13とを相互に接合して構成されている。
上記外側分割基材12は、熱可塑性樹脂シートを延伸成形することにより、上記サイドパネル3の外面形状に対応した形状に成形したものである。
上記内側分割基材13は、熱可塑性樹脂シートを延伸成形することにより、上記サイドパネル3の内面形状に対応した形状に成形したものである。該内側分割基材13の上縁及び前縁には、糊代14が設けられており、該糊代14に接着剤を塗布、あるいは両面粘着テープを貼着したうえで、該内側分割基材13が該糊代14を介して上記外側分割基材12と相互に接合される。
上記内側分割基材13において、前縁部には係止突部15が、上記成形基材10Aの内側へ向かって突出するように、複数個形成されている。該係止突部15は、上記サイドパネル3への上記マスキング材10の装着時に、該サイドパネル3の内面前縁に係止されることにより、塗装時に該マスキング材10が該サイドパネル3から外れてしまうことを抑制している。
【0011】
上記成形基材10Aにおいて、上記外側分割基材12及び上記内側分割基材13を所定形状に成形する延伸成形としては、真空成形、圧空成形、真空・圧空成形、加熱プレス成形、冷間プレス成形、ブロー成形、射出成形等が挙げられる。
これらの中でも、真空成形、圧空成形、真空・圧空成形、つまり真空および/または圧空成形は、成形に要する時間が短く、成形精度が良好であるため、望ましい成形方法であり、本実施形態の外側分割基材12及び内側分割基材13は真空および/または圧空成形で成形されている。一方、上記サイドパネル3に対応する形状をなす上記成形基材10Aの全体を真空および/または圧空成形で一体成形しようとする場合、特に該サイドパネル3の前縁部分に対応する箇所を非常に大きく深絞りしなければならず、成形不良の発生増加等によって却って生産効率が落ちてしまう。このため本実施形態の成形基材10Aは、外側分割基材12及び内側分割基材13の2つの分割基材に分割して成形している。
【0012】
上記成形基材10Aにおいて、上記外側分割基材12及び上記内側分割基材13に使用する熱可塑性樹脂シートとしては、延伸成形が可能なものであれば特に限定はされないが、マスキング材10としての使用を考慮すれば、弾力性や耐熱性を有しているものが望ましく、このような熱可塑性樹脂としてポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル−スチレン−共重合体(AS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル−エチレン−スチレン共重合体(AES)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニリデン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
熱可塑性樹脂として上記したものの他に、さらなる耐熱性が必要とされるのであれば、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)、ポリエステル、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミノビスマレイミド、メチルペンテンコポリマー(TPX)、セルロースアセテート(CA)等の熱可塑性エンジニアリングプラスチックを用いてもよい。
また上記PPには、PEおよび/またはEPRによって変性したポリプロピレン(変性PP)を用いてもよい。さらにまた上記熱可塑性樹脂の二種以上を含むポリマーアロイまたはポリマーブレンドを使用してもよい。あるいは熱可塑性樹脂として、トウモロコシやサトウキビ等の澱粉から得られるポリ乳酸を原料とした生分解性樹脂を使用してもよい。これら熱可塑性樹脂の中でも、PP又は変性PPは、望ましい真空および/または圧空成形性を有し、深絞り成形が容易な材料であり、特に望ましい。
【0013】
図3(a)〜(c)に示すように、上記成形基材10Aの一面である外面には、エラストマー強化膜20が形成されている。
上記エラストマー強化膜20に使用するエラストマーとしては、熱硬化性エラストマーと熱可塑性エラストマーとが挙げられ、具体例として、ポリウレタン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、あるいはスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレンスチレンブロック共重合体(SIS)、α−メチルスチレン−ブタジエン−α−メチルスチレンブロック共重合体、α−メチルスチレン−イソプレン−α−メチルスチレンブロック共重合体、スチレン−水素添加ポリオレフィン−スチレンブロック共重合体(SEBS、SEPS)等のスチレン系エラストマー等が挙げられる、これらの中でも、ポリウレタン系エラストマー、特に熱硬化性ポリウレタン系エラストマーは、耐熱性に優れ、取り扱いが容易であるため、望ましい。
【0014】
上記外側分割基材12及び上記内側分割基材13を接合してなる上記成形基材10Aにおいては、上記外側分割基材12と上記内側分割基材13との接合部分14a(図3(a),(b)参照)、及び、上記係止突部15(図3(c)参照)が強度的に脆弱な部分となりやすい。
すなわち、接合部分14aについては、使用を繰り返すことで接合が剥がれてしまい、このような接合が剥がれた箇所から塗料等が侵入しやすくなる。また係止突部15については、一壁部が薄肉部15aとなっており、該サイドパネル3への装着時に該薄肉部15aが該サイドパネル3の内面に繰り返し摺接されることで破れて穴が空きやすくなる。
上記成形基材10Aの上記接合部分14aにおいては、該接合部分14aを外部から覆うように上記エラストマー強化膜20が形成されている。該エラストマー強化膜20は、接合部分14aが相互に剥がれないように、接合状態を維持するとともに、もしも接合部分14aが剥がれてしまった場合でも、該剥がれてしまった部分を覆うことで、上記マスキング材10の内側に塗料等が侵入してしまうことを防止する。
上記成形基材10Aの係止突部15においては、該係止突部15の内側を覆うように上記エラストマー強化膜20が形成されている。該エラストマー強化膜20は、該薄肉部15aを内側から覆うことで補強しており、該薄肉部15aの耐久性を向上させるとともに、もしも該薄肉部15aが破れてしまった場合でも、該エラストマー強化膜20が残って穴を塞ぐことで、上記マスキング材10の内側に塗料等が侵入してしまうことを防止する。
さらに上記エラストマー強化膜20は、上記成形基材10Aの外面全体に形成されることにより、上記マスキング材10をその全体にわたって補強しているので、該マスキング材10を一体的な成形物とすることができ、該マスキング材10の耐久性を向上させることが出来る。特にエラストマーとして熱硬化性ポリウレタンエラストマーを使用した場合には、該エラストマー強化膜20が耐熱性を有しているので、例えば塗料の加熱乾燥等における上記マスキング材10の耐久性を飛躍的に向上させることができる。
【0015】
上記エラストマー強化膜20の形成方法としては、液状のエラストマーを、刷毛塗りやスプレー塗布等といった通常の塗布方法で上記成形基材10Aの一面又は両面に塗布し、乾燥させて形成する方法が挙げられる。また、液状のエラストマーに限らず、固形状のエラストマーを溶剤などに溶解させて液状としたうえで、通常の塗布方法で上記成形基材10Aの一面又は両面に塗布してもよい。さらにまた、伸びを有するシート状又はフィルム状に成形したエラストマーを上記成形基材10Aの一面又は両面に貼着することで、上記エラストマー強化膜20を形成してもよい。
【0016】
本発明のマスキング材は、上記実施形態に示した構成に限定されず、以下のように変更してもよい。
上記実施形態ではマスキング材10を、サイドパネル3を外側から覆うものとしたが、図4に示すように、自動車の外装材であるバンパー1Aに孔部として設けられた空気取入れ口5Aに挿着することで、該空気取入れ口5Aの内周面に塗料が付着することを防止するマスキング材としてもよい。また上記空気取入れ口5Aに挿着するマスキング材であれば、成形基材を複数に分割することなく一体成形してもよい。
【0017】
上記実施形態では成形基材10Aを外側分割基材12と内側分割基材13との、2つの分割基材に分割して形成したが、3つ以上の分割基材に分割してもよい。
例えば、図5に示すマスキング材30は、3つの分割基材に分割された成形基材30Aを有しており、該成形基材30Aの一面である外面の全体にエラストマー強化膜20が形成されて構成されたものである。
上記成形基材30Aは、断面クランク状をなす一対の外側分割基材32,32と、断面略U字状の中央分割基材33と、によって構成されている。該一対の外側分割基材32,32は、左右で対称となるように所定の間隔をおいて配置され、中央分割基材33は、一対の外側分割基材32,32の間へ上側から挿し入れるように配置されている。該外側分割基材32と該中央分割基材33とは、相互に接触する箇所を接合部分34aとして、該接合部分34aで粘着テープや接着剤により接合されている。
上記成形基材30Aの全体を一体成形しようとすれば、上記中央分割基材33の形状に該当する箇所を高度に深絞りする必要があるが、このような深絞りはほぼ不可能であるので、該成形基材30Aは3つの分割基材に分割して形成せざるを得ない。しかし、該成形基材30Aを3つの分割基材に分割して形成すれば、分割した分だけ接合部分34aのような脆弱部分が増えてしまい、一体成形したものに比して耐久性は低下してしまう。
一方、上記のように成形基材30Aの一面である外面の全体にエラストマー強化膜20が形成されたマスキング材30であれば、該エラストマー強化膜20によって成形基材30Aが一体化されるので、該マスキング材30を一つの大きな成形物として扱うことができるようになり、一体成形したものと比べても遜色のない耐久性を該マスキング材30に付与することができる。
【0018】
上記実施形態では成形基材10Aの外面全体に上記エラストマー強化膜20を形成したが、上記接合部分14aや上記薄肉部15a等のような脆弱部分にのみ上記エラストマー強化膜20を形成してもよい。また上記エラストマー強化膜20は、少なくとも上記接合部分14aや上記薄肉部15a等のような脆弱部分を補強するのであれば、上記成形基材10Aの内面全体に形成したり、あるいは形成部分に応じて内面および/または外面に形成したり、あるいは内面全体と外面全体の両面に形成したりしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明のマスキング材は、熱可塑性樹脂シートを延伸成形によって所定形状に成形した成形基材と、上記成形基材の一面または両面に形成したエラストマー強化膜と、の複層成形物からなり、成形基材上で耐久性の弱い部分をエラストマー強化膜で補強することが出来、耐久性が向上し、繰り返し使用可能な回数が増すから、産業上利用可能である。
【符号の説明】
【0020】
10 マスキング材
10A 成形基材
20 エラストマー強化膜



【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂シートを延伸成形によって所定形状に成形した成形基材と、
上記成形基材の一面または両面に形成したエラストマー強化膜と、
の複層成形物からなる
ことを特徴とするマスキング材。
【請求項2】
上記延伸成形は、真空および/または圧空成形である
請求項1に記載のマスキング材。
【請求項3】
上記成形基材は、複数に分割された分割基材を相互に接合して構成されたものである
請求項1又は請求項2に記載のマスキング材。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate