説明

マスターディスク及びそのマスターディスクを用いた磁気記録媒体の製造方法

【課題】従来よりも作製が容易であり、かつ磁気転写に比べて簡易な一括転写を実現するマスターディスクを提供すること。
【解決手段】レーザー光を透過する基板100上に、レーザー光を反射または遮光することができる材料200’を成膜する(図3(a))。密着層形成の前処理を行い、電子線レジスト液をスピンコート等で塗布してレジスト膜700を形成する。ついで、基板100に、サーボ信号等の情報に対応して変調した電子ビームを照射し、レジスト膜700に所望の凹凸パターンを露光する。引き続き、現像処理を行い、図3(b)に示す構造を得る。次に、レジスト膜700のパターンをマスクにして材料200’を加工し、所望のパターンに配置された凸部200を形成する(図3(c))。最後に、レジスト膜700を酸素プラズマやレジスト剥離液等を用いて除去する(図3(d))。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスターディスク及びそのマスターディスクを用いた磁気記録媒体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に普及しているハードデイスクドライブに使用されている磁気ディスク(「ハードディスク」とも呼ばれる。)には、磁気ディスクメーカーよりドライブメーカーに納入された後、ドライブに組み込まれる前に、フォーマット情報やアドレス情報が書き込まれるのが一般的である。この書き込みは、磁気ヘッドにより行うこともできるが、これらのフォーマット情報やアドレス情報が書き込まれているマスターディスクより一括転写する方法が効率的であり、好ましい。
【0003】
一括転写(Magnetic Printing)としては、磁気を利用した磁気転写方式が一般的である。磁気転写方式は、マスターディスクと被転写ディスクであるスレーブディスクとを密着させた状態で、片側または両側に電磁石装置、永久磁石装置等の磁界生成手段を配慮して磁界を印加し、マスターディスクの有するサーボ信号等の情報に対応する磁化パターンの転写を一括して行うものである。磁気転写方式では、マスターディスクとスレーブディスクとの相対的な位置を変化させることなく適正に記録を行うことができ、しかも記録に要する時間も極めて短時間であるという利点を有している。特に、近年の電子線描画技術に代表される超微細加工技術の進歩により、最短ビット長が100nm以下である信号のパターニングも可能となり、現在のハードディスクの面密度相当の信号の一括書き込みを磁気転写により行うことも可能となってきている。
【0004】
従来、この種の磁気転写方式として各種の提案がなされている。特許文献1に記載の技術は、基板の表面に書き込まれる情報に対応する磁性材料からなる凹凸形状が形成されたマスターディスクより一括転写するものである。特許文献2に記載の技術は、磁気転写の際にマスターディスクとスレーブディスクとの密着性を向上させるものである。特許文献3には、透光性を有する非磁性基体上にサーボ信号等に対応する形状パターンが遮光性を有する強磁性薄膜の配列により形成されているマスター情報担体を介して、レーザ光を照射することにより、レーザ光照射部の保持力を低下させてサーボ信号等を磁気転写する技術が記載されている。
【0005】
ここで、図1を参照して、従来の磁気転写方式を説明する。磁気転写時は、マスターディスク10とスレーブディスク30を図1(c)に示すような位置関係にセットし、スレーブディスク30のスレーブ面3を、マスターディスク10の軟磁性材料で構成された凸部2に接触させ、所定の押圧力で密着させる。そして、マスターディスク10とスレーブディスク30が密着した状態で、磁界生成手段(図示せず)により図示の方向に磁界5を印加してマスターディスク10の凹凸パターンをスレーブディスク30のスレーブ面3に一括転写する。マスターディスク10による磁気転写は、スレーブディスク30の片面にマスターディスク10を密着させて片面に転写を行う場合と、図示しないが、スレーブディスク30の両面に一対のマスターディスクを密着させて両面で同時転写を行う場合とがある。磁界印加時には、マスターディスク10とスレーブディスク30とを一体的に回転させる。なお、この構成以外に磁界生成手段の方を回転移動させるようにしてもよい。
【0006】
次に、図2を参照して、従来のマスターディスクの製造方法を説明する。まず、図2(a)に示すように、表面が平滑かつ清浄な基板1(シリコン、ガラス、石英等)の上に、軟磁性材料2’(CoFe等)をスパッタ等により成膜する。その後、電子線レジスト液をスピンコート等で塗布してレジスト膜7を形成する。そして、高精度な回転ステージまたはX−Yステージを備えた電子ビーム露光装置(図示せず)を用いて、そのステージに搭載した基板1にサーボ信号等の情報に対応して変調した電子ビームを照射し、レジスト膜7に所望の凹凸パターンを露光する。引き続き、現像処理を行い、図2(b)に示す構造を得る。次に、図2(c)に示すように、レジスト膜7のパターンをマスクにして軟磁性層2’を反応性ガスなどを用いたRIEドライエッチングや、Arガスを用いたイオンミリングなどで加工を行い、軟磁性材料で構成された凸部2を形成する。最後に、図2(d)に示すように、レジスト膜7を酸素プラズマやレジスト剥離液などを用いて除去する。このようなプロセスを行うことで、サーボ信号等の情報に対応するパターンで配置された軟磁性材料の凸部2が形成されたマスターディスク10を作製することができる。
【0007】
【特許文献1】特開平10−40544号公報
【特許文献2】特開平10−269566号公報
【特許文献3】特開2005−228462号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1および2に記載の技術では、マスターディスクの凸部に用いる軟磁性材料として、飽和磁束密度が高い、透磁率が高い、保持力が小さい等の特性が必要であり、また、形状についても極力矩形が望ましく、厚さはビットサイズと同じ程度が好ましい等の要求がある。したがって、これらの要求を達成できる材料を選択し、更に、その材料の微細加工技術をもたなければ、転写性能の高いマスターディスクを作製することができない。また、マスターディスクとスレーブディスク(磁気記録媒体に対応)の密着性をより良好にして転写性能を高めるために、チャンバー構造内で加圧密着させ、さらに減圧させるなどの方式を用いようとすると、スレーブディスクを磁化させるのに必要な磁界がチャンバー越しになることで距離が開き、かなり強力な磁界を発生できる磁石が必要となるといった問題もある。特許文献3に記載の技術では、マスターディスクを作製するうえで、一番の課題である磁気転写に最適化した強磁性体の選択と加工を行わなければならないこと、が従来技術のままである。
【0009】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その第1の目的は、従来よりも作製が容易であり、かつ磁気転写に比べて簡易な一括転写を実現するマスターディスクを提供することにある。
【0010】
また、本発明の第2の目的は、本発明のマスターディスクを用いた磁気記録媒体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するために、第1の態様の本発明は、磁気記録媒体に予め定めた情報を一括転写するためのマスターディスクにおいて、レーザー光を透過する基板と、前記基板上の、前記レーザー光を反射または遮光する材料で構成された凸部(convex portion)とを備えることを特徴とする。前記凸部は、前記予め定めた情報に対応するパターンで前記基板上に配置されている。
【0012】
また、第2の態様の本発明は、第1の態様において、前記凸部が前記レーザー光に対して磁性膜と比較して反射率の高い金属薄膜で構成されていることを特徴とする。
【0013】
また、第3の態様の本発明は、第2の態様において、前記金属薄膜がアルミであることを特徴とする。
【0014】
また、第4の態様の本発明は、第1から第3の態様のいずれかにおいて、前記基板は、前記レ―ザー光の透過率が前記凸部の金属薄膜と比較して高いガラスで構成されていることを特徴とする。
【0015】
また、第5の態様の本発明は、予め定めた情報が記録された磁気記録媒体の製造方法において、前記磁気記録媒体の磁気記録面と、マスターディスクとを密着させるステップと、前記マスターディスクを介して前記磁気記録面にレーザー光を照射して、前記予め定めた情報を前記磁気記録面に一括転写するステップとを含むことを特徴とする。前記マスターディスクは、前記レーザー光を透過する基板と、前記基板上の、前記レーザー光を反射または遮光する材料で構成された凸部(convex portion)を備える。前記凸部は、前記予め定めた情報に対応するパターンで前記基板上に配置されている。
【発明の効果】
【0016】
本発明のマスターディスクによれば、レーザー光を透過する基板と、基板上の、レーザー光を反射または遮光する材料で構成された凸部であって、予め定めた情報に対応するパターンで基板上に配置されている凸部とを備えることにより、従来よりも作製が容易であり、かつ磁気転写に比べて簡易な一括転写を実現するマスターディスクを提供することができる。
【0017】
また、本発明のマスターディスクを用いれば、磁気転写に比べて簡易に一括転写を行うことのできる磁気記録媒体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0019】
図3に、本発明のマスターディスクの製造方法を示す。まず、図3(a)に示すように、表面が平滑かつ清浄で、レーザー光を透過する基板100(ガラス、石英等)の上に、レーザー光を反射または遮光することができる材料200’(高反射率のアルミ等)をスパッタ等により成膜する。その後、電子線レジスト液をスピンコート等で塗布してレジスト膜700を形成する。
【0020】
ついで、高精度な回転ステージまたはX−Yステージを備えた電子ビーム露光装置(図示せず)を用いて、そのステージに搭載した基板100にサーボ信号等の情報に対応して変調した電子ビームを照射し、レジスト膜700に所望の凹凸パターンを露光する。引き続き、現像処理を行い、図3(b)に示す構造を得る。
【0021】
なお、材料200’としては、Al、AlSiO、AlNd、AlNdSiO、Ag、AgNd、AgBi(ビスマス)合金などが好適である。
【0022】
次に、図3(c)に示すように、レジスト膜700のパターンをマスクにして、材料200’を反応性ガス等を用いたRIEドライエッチングやArガスを用いたイオンミリング等で加工する。
【0023】
最後に、図3(d)に示すように、レジスト膜700を酸素プラズマや、レジスト剥離液等を用いて除去する。
【0024】
このようなプロセスを行うことで、レーザー光を透過する基板100と、基板100上の、レーザー光を反射または遮光する材料で構成された凸部(convex portion)であって、サーボ信号等の予め定めた情報に対応するパターンで基板100上に配置されている凸部200とを備えるマスターディスク1000を作製することができる。
【0025】
本発明によれば、従来のマスターディスクの作製では、強磁性材料の特性変化(エッチングダメージや腐食による特性劣化)のために用いることが困難であった、半導体などで用いられている金属加工技術(反応性ガスを用いたRIE装置によるドライエッチング)を用いることが可能となり、マスターディスクの作製が非常に容易となる。
【0026】
ここで、図4を参照して、本発明のマスターディスクを用いた磁気記録媒体の製造方法を説明する。転写時は、マスターディスク1000とスレーブディスク3000を図4(c)に示すような位置関係にセットし、スレーブディスク3000(磁気記録媒体に対応)のスレーブ面300(磁気記録面に対応)を、マスターディスク1000の凸部200に接触させ、所定の押圧力で密着させる。そして、マスターディスク1000とスレーブディスク3000を密着させた状態で、レーザー照射手段(図示せず)によりレーザー光600を照射することにより、スレーブディスク3000のスレーブ面300のうちレーザー光600が照射された照射部800がほぼ非磁性になる。したがって、マスターディスク1000の凸部200に対応するサーボ信号等の情報が、スレーブディスク3000のスレーブ面300に一括転写される。ここで、照射に使用するレーザー光600は、照射することによりスレーブ面300を非磁性化させることが可能なレーザー光を使用する。例えば、YAGレーザー(波長532nm、パルス幅3−6nsec、繰り返し20Hz、パワー5mJ)を使用する。
【0027】
なお、スレーブディスク3000は、磁気記録面であるスレーブ面300を有するスレーブディスク基板400である。
【0028】
また、スレーブディスク3000への転写の際、磁気転写のように円周方向に磁界を加える必要がないために、転写装置もシンプルな構造とすることができ、簡易に一括転写が可能になるメリットもある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(a)〜(c)は、従来の磁気転写方式を説明するための図である。
【図2】(a)〜(d)は、従来のマスターディスクの製造方法を示す図である。
【図3】(a)〜(d)は、本発明のマスターディスクの製造方法を示す図である。
【図4】(a)〜(c)は、本発明のマスターディスクを用いた磁気記録媒体の製造方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0030】
1 基板
2 凸部
2’ 軟磁性層
3 スレーブ面
4 スレーブディスク基板
5 転写用磁界
7 電子線レジスト
10 マスターディスク
30 スレーブディスク
100 基板
200 凸部
200’ 軟磁性材料
300 スレーブ面(磁気記録面に対応)
400 スレーブディスク基板
600 レーザー光
700 電子線レジスト
800 照射部
1000 マスターディスク
3000 スレーブディスク(磁気記録媒体に対応)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録媒体に予め定めた情報を一括転写するためのマスターディスクにおいて、
レーザー光を透過する基板と、
前記基板上の、前記レーザー光を反射または遮光する材料で構成された凸部(convex portion)であって、前記予め定めた情報に対応するパターンで前記基板上に配置されている凸部と
を備えることを特徴とするマスターディスク。
【請求項2】
前記凸部は、前記レーザー光に対する磁性膜と比較して反射率の高い金属薄膜で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のマスターディスク。
【請求項3】
前記金属薄膜は、アルミであることを特徴とする請求項2に記載のマスターディスク。
【請求項4】
前記基板は、前記レ―ザー光の透過率が前記凸部の金属薄膜と比較して高いガラスで構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のマスターディスク。
【請求項5】
予め定めた情報が記録された磁気記録媒体の製造方法において、
前記磁気記録媒体の磁気記録面と、マスターディスクとを密着させるステップと、
前記マスターディスクを介して前記磁気記録面にレーザー光を照射して、前記予め定めた情報を前記磁気記録面に一括転写するステップと
を含み、
前記マスターディスクは、
前記レーザー光を透過する基板と、
前記基板上の、前記レーザー光を反射または遮光する材料で構成された凸部(convex portion)であって、前記予め定めた情報に対応するパターンで前記基板上に配置されている凸部と
を備えることを特徴とする製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−108570(P2010−108570A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−281575(P2008−281575)
【出願日】平成20年10月31日(2008.10.31)
【出願人】(503361248)富士電機デバイステクノロジー株式会社 (1,023)