マスター記録媒体の密着性評価方法及び密着性評価装置
【課題】 マスター記録媒体の磁気記録媒体の密着性を評価する。
【解決手段】 マスター記録媒体と磁気記録媒体との密着性を評価するためのマスター記録媒体の密着性評価方法において、マスター記録媒体の磁性層の形成された面と、磁気記録媒体の磁性層とを密着させる密着工程と、密着させたマスター記録媒体と磁気記録媒体に対し、垂直に磁界を印加する磁界印加工程と、垂直に磁界を印加した後、マスター記録媒体から磁気記録媒体を剥離する剥離工程と、剥離した磁気記録媒体において、マスター記録媒体における凹凸パターンの形成されていない領域の信号強度を計測する計測工程と、信号強度と前記信号強度の計測された磁気記録媒体の座標位置との関係を2次元的に表示する表示工程とからなることを特徴とするマスター記録媒体の密着性評価方法を提供することにより上記課題を解決する。
【解決手段】 マスター記録媒体と磁気記録媒体との密着性を評価するためのマスター記録媒体の密着性評価方法において、マスター記録媒体の磁性層の形成された面と、磁気記録媒体の磁性層とを密着させる密着工程と、密着させたマスター記録媒体と磁気記録媒体に対し、垂直に磁界を印加する磁界印加工程と、垂直に磁界を印加した後、マスター記録媒体から磁気記録媒体を剥離する剥離工程と、剥離した磁気記録媒体において、マスター記録媒体における凹凸パターンの形成されていない領域の信号強度を計測する計測工程と、信号強度と前記信号強度の計測された磁気記録媒体の座標位置との関係を2次元的に表示する表示工程とからなることを特徴とするマスター記録媒体の密着性評価方法を提供することにより上記課題を解決する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気転写に用いられる磁気記録媒体と凹凸パターンの形成されたマスター記録媒体との密着性を評価するマスター記録媒体の密着性評価方法及び密着性評価装置に関するものであり、特に、マスター記録媒体の密着性を視覚的に評価するためのマスター記録媒体の密着性評価方法及び密着性評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録再生装置は、小型でかつ大容量を実現するために、記録密度の高密度化の傾向にあり、特に、代表的な磁気記憶装置であるハードディスクドライブの分野では、技術の進歩が急激である。
【0003】
このような、磁気記録再生装置に用いられる磁気記録媒体は、情報記録領域が狭トラックで構成されており、狭いトラック幅において正確に磁気ヘッドを走査させて高いS/Nで信号を再生するために、いわゆるトラッキングサーボ技術が大きな役割を担っている。このトラッキングサーボを行うために、従来よりセクターサーボ方式が広く採用されている。
【0004】
セクターサーボ方式とは、磁気ディスク等の磁気記録媒体のデータ面において、一定角度等で正しく配列されたサーボフィールドに、トラック位置決めのためのサーボ信号や、そのトラックのアドレス情報信号、再生クロック信号等のサーボ情報を記録しておき、磁気ヘッドが、このサーボフィールドを走査してサーボ情報を読み取り自らの位置を確認しつつ修正する方式である。
【0005】
このサーボ情報は、磁気記録媒体の製造時にプリフォーマットとして予め磁気記録媒体に記録する必要があり、現在は専用のサーボ記録装置を用いてプリフォーマットが行われている。現在用いられているサーボ記録装置は、例えばトラックピッチの75%程度のヘッド幅を有する磁気ヘッドを備え、磁気ヘッドを磁気ディスクに近接させた状態で、磁気ディスクを回転させつつ、1/2トラック毎に磁気ディスクの外周から内周に移動させながらサーボ信号を記録する。そのため、1枚の磁気ディスクのプリフォーマット記録に長時間を要し、生産効率の点で問題があり、コストアップの要因となっている。
【0006】
このため、プリフォーマットを正確にかつ効率的に行う方法として、特許文献1から4に記載されているように、サーボ情報に対応したパターンが形成されているマスター記録媒体の情報を磁気記録媒体に磁気転写する方法が開示されている。
【0007】
この磁気転写は、転写用磁気ディスク等の磁気記録媒体(スレーブ媒体)に転写すべき情報に応じて凹凸パターンを有するマスター記録媒体を用い、このマスター記録媒体と磁気記録媒体とを密着させた状態で、記録用磁界を印加することにより、マスター記録媒体の凹凸パターンにより記録されている情報(例えばサーボ情報)に対応する磁気パターンを磁気記録媒体に磁気的に転写するものである。この方法では、マスター記録媒体と磁気記録媒体との相対的な位置を変化させることなく静的に記録を行うことができ、正確なプリフォーマット情報の記録が可能であり、しかも記録に要する時間も極めて短時間という利点を有している。このような磁気転写方法としては、転写される磁化情報が、磁気記録媒体に垂直に磁化され記録される垂直磁気記録と、磁気記録媒体に平行に磁化され記録される面内磁気記録の2種類存在している。
【特許文献1】特開2002−251721号公報
【特許文献2】特開2002−74655号公報
【特許文献3】特開2004−79059号公報
【特許文献4】特開2004−177783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、磁気転写方法において磁気転写の品質を高めるには、マスター記録媒体と磁気記録媒体とを密着させる際に、いかに隙間なく密着させることができるかという点が重要な課題となる。即ち、マスター記録媒体と磁気記録媒体との間で密着不良が生じると、情報の磁気転写が完全には行われず、磁気記録媒体において磁気転写がなされていない領域が発生する。磁気記録媒体に磁気転写がされていない領域が存在すると、磁気記録媒体において転写された磁気情報の信号抜けが発生して信号品位が低下し、磁気転写した情報がサーボ信号の場合ではトラッキング精度が低下し、これに伴い記録再生時の信頼性が低下する。よって、磁気転写では、磁気転写された磁気記録媒体の全面にわたり均一な転写が重要な課題である。
【0009】
しかしながら、磁気転写では、同一のマスター記録媒体で多数の磁気記録媒体に磁気転写を行うが、磁気転写の回数が増加するに従い、磁気転写された磁気記録媒体における信号出力の低下、信号抜けの発生が増加する場合がある。このような、信号抜けの発生の原因としては、磁気転写を繰り返し行うことによるマスター記録媒体の変形に起因すると考えられるが、数mm単位の領域における数十nmの高さ変形であることが多く、一般的な形状測定器等では、その差が明確にはなり難い。密着性に関しては、特に、マスター記録媒体の厚み、磁気記録媒体の材質と厚み、密着時の印加圧力に依存するものであり、全面にわたり均一な磁気転写を継続的に行うためには、マスター記録媒体の厚みやマスター記録媒体の保持機構を安定的にする必要があるが、一回ごとの転写におけるこれらの変動量は、極めて微小であるため、その変動量や影響を解析することは困難であった。
【0010】
このことを裏付けるものとして、使用したマスター記録媒体の形状測定を行った結果、磁気転写前後で微小な形状変化が生じていることが確認された。以上より、マスター記録媒体と磁気記録媒体との密着時の印加圧力の大きさがマスター記録媒体の変形の原因と考え、印加圧力を低減して磁気転写を行ったが、磁気転写を繰り返し行った後のマスター記録媒体、磁気記録媒体間の密着状態は十分確保はされず、磁気記録媒体において全面にわたり均一な磁気転写を実現することができなかった。即ち、密着時の印加圧力以外に、マスター記録媒体の形状変化させる要因が存在していることが暗示されたのである。このため、印加圧力低減のため、マスター記録媒体の厚さを薄くし、マクロ的な曲げが可能なマスター記録媒体を作製し同様の実験を行ったが、均一密着を確保するために必要な印加圧力はマスター記録媒体の厚さが厚いものとあまり変わらないという結果となった。
【0011】
一方、マスター記録媒体の変形の原因を特定するためには、マスター記録媒体の変形状態を正確に把握することが必要とされる。
【0012】
マスター記録媒体の変形に関しては、磁気記録媒体に磁気転写された情報に基づき測定する方法があるが、この方法は磁気転写された情報が欠落しているか否か、再生出力の程度により判断するものである。
【0013】
しかしながら、このような方法では、マスター記録媒体の変形の原因を特定するために必要な情報は十分得ることができず、変形の原因を特定するための有効な密着性の評価方法及び評価装置が望まれていた。
【0014】
更に具体的に説明すると、サーボフレーム数は、製造される磁気記録媒体の仕様によって異なり、また、高密度記録のためには、狭Bit化が必要であるが、マスター記録媒体に形成される凹凸パターンの高低差は、記録されるBit長に応じて異なる。このように、サーボフレーム数や凹凸パターンの高低差が異なる場合において、マスター記録媒体より磁気転写された磁気記録媒体の情報の再生信号強度を解析する方法では、マスター記録媒体の凸部と転写用磁気ディスクの記録層とは磁気転写の際密着しているため、磁気転写された情報の再生信号を解析しても出力差が明瞭でない場合が多く、ある程度の情報は得られるものの解析する上で十分に有効であるとは言い難かった。特に、転写用磁気ディスクを固定するためのホルダーの設計や吸着穴の位置、マスター記録媒体の仕様を変更した場合における密着状態の解析においては有効な方法ではなかった。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、垂直磁気転写において、マスター記録媒体の変形による磁気記録媒体の密着性の不良に関し、原因を特定しやすいマスター記録媒体の密着性評価方法及び密着性評価装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に記載の発明は、磁気転写する情報に応じて凹凸パターンを形成し前記凹凸パターン上に磁性層を形成したマスター記録媒体と、磁気転写される垂直磁化膜からなる磁性層を有する磁気記録媒体との密着性を評価するためのマスター記録媒体の密着性評価方法において、前記マスター記録媒体の磁性層の形成された面と、前記磁気記録媒体の磁性層とを密着させる密着工程と、前記密着させたマスター記録媒体と磁気記録媒体に対し、垂直に磁界を印加する磁界印加工程と、前記垂直に磁界を印加した後、マスター記録媒体から磁気記録媒体を剥離する剥離工程と、前記剥離した磁気記録媒体について、前記マスター記録媒体における凹凸パターンの形成されていない領域に対応する領域の信号強度を計測する計測工程と、前記信号強度と、前記信号強度の計測された磁気記録媒体の座標位置との関係を2次元的に表示する表示工程と、からなることを特徴とするマスター記録媒体の密着性評価方法である。
【0017】
請求項2に記載の発明は、磁気転写する情報に応じて凹凸パターンを形成し前記凹凸パターン上に磁性層を形成したマスター記録媒体と、磁気転写される垂直磁化膜からなる磁性層を有する磁気記録媒体との密着性を評価するためのマスター記録媒体の密着性評価方法において、前記マスター記録媒体の磁性層の形成された面と、前記磁気記録媒体の磁性層とを密着させる密着工程と、前記密着させたマスター記録媒体と磁気記録媒体に対し、垂直に磁界を印加する磁界印加工程と、前記垂直に磁界を印加した後、マスター記録媒体から磁気記録媒体を剥離する剥離工程と、前記剥離した磁気記録媒体について、前記マスター記録媒体における凹凸パターンの形成されていない領域に対応する領域の信号強度を計測する計測工程と、前記磁気記録媒体の各々の半径位置において、同一半径位置における周方向の前記信号強度についてフーリエ変換を行う演算工程と、前記半径位置と前記フーリエ変換により得られた次数との関係を2次元的に表示する表示工程と、からなることを特徴とするマスター記録媒体の密着性評価方法である。
【0018】
請求項3に記載の発明は、磁気転写する情報に応じて凹凸パターンを形成し前記凹凸パターン上に磁性層を形成したマスター記録媒体と、磁気転写される垂直磁化膜からなる磁性層を有する磁気記録媒体との密着性を評価するためのマスター記録媒体の密着性評価装置において、前記マスター記録媒体の磁性層の形成された面と、前記磁気記録媒体の磁性層とを密着させ、前記密着させたマスター記録媒体と磁気記録媒体に対し、垂直に磁界を印加する磁界印加手段と、前記垂直に磁界を印加した後、マスター記録媒体から磁気記録媒体を剥離し、前記剥離した磁気記録媒体について、前記マスター記録媒体における凹凸パターンの形成されていない領域に対応する領域の信号強度を計測する計測手段と、計測された前記信号強度と、前記信号強度の計測された前記磁気記録媒体における座標位置との関係を2次元的に表示する表示手段と、からなることを特徴とするマスター記録媒体の密着性評価装置である。
【0019】
請求項4に記載の発明は、磁気転写する情報に応じて凹凸パターンを形成し前記凹凸パターン上に磁性層を形成したマスター記録媒体と、磁気転写される垂直磁化膜からなる磁性層を有する磁気記録媒体との密着性を評価するためのマスター記録媒体の密着性評価装置において、前記マスター記録媒体の磁性層の形成された面と、前記磁気記録媒体の磁性層とを密着させ、前記密着させたマスター記録媒体と磁気記録媒体に対し、垂直に磁界を印加する磁界印加手段と、前記垂直に磁界を印加した後、マスター記録媒体から磁気記録媒体を剥離し、前記剥離した磁気記録媒体について、前記マスター記録媒体における凹凸パターンの形成されていない領域に対応する領域の信号強度を計測する計測手段と、前記磁気記録媒体の各々の半径位置において、同一半径位置における周方向の前記信号強度についてフーリエ変換を行う演算手段と、前記半径位置と前記フーリエ変換により得られた次数との関係を2次元的に表示する表示手段と、からなることを特徴とするマスター記録媒体の密着性評価装置である。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、垂直磁気転写において、磁気記録媒体とマスター記録媒体との密着性の程度や状況を視覚的に把握することができ、微小な密着性の変化をも検出することができるため、容易に原因の特定を行うことができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、垂直磁界を印加することによる磁気転写方法において、磁気記録媒体である転写用磁気ディスクに磁気転写されたサーボ情報が記録された領域以外の領域の再生信号の出力の積分値と、転写用磁気ディスクとマスターディスクとの密着状態との間に高い相関関係があり、この出力の積分値の情報に基づいてマスター記録媒体の密着性の評価を行うことができることを見出した結果に基づくものである。
【0022】
以下、本発明に係る実施の形態である磁気記録媒体とマスター記録媒体の密着性評価方法及び密着性評価装置について説明する。本実施の形態におけるマスター記録媒体の密着性評価方法及び密着性評価装置は、磁気転写を行った後の磁気記録媒体の計測を行うものであり、具体的な内容について順に説明する。
【0023】
〔密着性評価装置〕
本発明に係る実施の形態であるマスター記録媒体の密着性評価装置に関し、図1に基づき説明する。
【0024】
本実施の形態におけるマスター記録媒体の密着性評価装置は、制御部10、磁界印加手段30、計測手段25、表示手段20により構成されている。
【0025】
制御部10は、磁界印加手段30、計測手段25、表示手段20、その他密着性評価に必要な機構を制御するためのものである。
【0026】
磁界印加手段30は、制御部10の制御に基づき、マスター記録媒体であるマスターディスクの磁性層の形成された面と、磁気記録媒体である転写用磁気ディスクの磁性層とを密着させたものについて、垂直に記録用磁界を印加する手段である。磁界印加手段30の詳細に関しては後述する。
【0027】
計測手段20は、マスターディスクと転写用磁気ディスクを剥離した後、制御部10の制御に基づき、転写用磁気ディスクにおいて、マスターディスクより転写された情報領域以外の領域の再生信号を測定する手段である。転写される情報が、サーボ情報の場合は、磁気転写された転写用磁気ディスクにおいて、サーボ情報の記録されている領域以外の領域の再生信号を計測する手段である。計測手段25の詳細に関しては後述する。
【0028】
表示手段20は、制御部10の制御に基づき、計測手段25により計測した情報を2次元的に表示するための手段であり、ディスプレーやプリンタ等により構成されている。具体的に、本実施の形態では、転写用磁気ディスクにおける各々の座標位置における再生信号強度を座標位置と再生信号強度との関係等を表示するためのものである。
【0029】
尚、制御部10には、演算手段15が設けられる場合もある。演算手段15は、計測手段25により計測した情報に基づき、磁気記録媒体の各々の半径位置において、同一半径位置における周方向の信号強度についてフーリエ変換を行う機能を有するものである。このように演算手段15においてフーリエ変換の行われた結果については、表示手段20において、磁気記録媒体の半径位置と次数との関係が2次元的に表示される。
【0030】
以上により密着性評価装置は構成されており、密着性評価方法では、この密着性評価装置を用いてマスター記録媒体の評価が行われる。
【0031】
〔転写用磁気ディスク〕
図2(a)に示すように、最初に磁気記録媒体である転写用磁気ディスク60の初期磁化を行うが、まず、これに用いられる転写用磁気ディスク60について説明する。
【0032】
転写用磁気ディスク60は円盤状の基板の表面の片面或いは、両面に垂直磁化膜からなる磁性層が形成されたものであり、具体的には、高密度ハードディスク等が挙げられる。
【0033】
円盤状の基板は、ガラスやAl(アルミニウム)等の材料から構成されており、この基板上に非磁性層を形成した後、磁性層を形成する。
【0034】
非磁性層は、後に形成する磁性層の垂直方向の磁気異方性を大きくする等の理由により設けられる。非磁性層に用いられる材料は、Ti(チタン)、Cr(クロム)、CrTi、CoCr、CrTa、CrMo、NiAl、Ru(ルテニウム)、Pd(パラジウム)等が好ましい。非磁性層は、スパッタリング法により上記材料を成膜することにより形成される。非磁性層の厚さは、10nm〜150nmであることが好ましく、20nm〜80nmであることが更に好ましい。
【0035】
磁性層は、垂直磁化膜により形成されており、磁性層に情報が記録される。磁性層に用いられる材料は、Co(コバルト)、Co合金(CoPtCr、CoCr、CoPtCrTa、CoPtCrNbTa、CoCrB、CoNi等)、Fe、Fe合金(FeCo、FePt、FeCoNi等)等が好ましい。これらの材料は、磁束密度が大きく、成膜条件や組成を調整することにより垂直の磁気異方性を有している。磁性層は、スパッタリング法により上記材料を成膜することにより形成される。磁性層の厚さは、10nm〜500nmであることが好ましく、20nm〜200nmであることが更に好ましい。
【0036】
尚、必要に応じて、基板と非磁性層との間に、軟磁性層を設ける場合がある。磁性層の垂直磁化状態を安定させ、記録再生時の感度を向上させるためである。軟磁性層の厚さは、50nm〜2000nmであることが好ましく、80nm〜400nmであることが更に好ましい。
【0037】
本実施の形態では、転写用磁気ディスクの基板として、外形65mmの円盤状のガラス基板を用い、スパッタリング装置のチャンバー内にガラス基板を設置し、1.33×10−5Pa(1.0×10−7Torr)まで減圧した後、チャンバー内にAr(アルゴン)ガスを導入し、CrTiターゲットを用い、基板温度が200℃の条件の下で放電させることによりスパッタリング成膜をおこなう。これによりCrTiからなる非磁性層を60nm成膜する。
【0038】
この後、上記と同様にArガスを導入し、同じチャンバー内にあるCoCrPtターゲットを用い、同じく基板温度が200℃の条件の下で放電させることによりスパッタリング成膜をおこなう。これによりCoCrPtからなる磁性層を25nm成膜する。
【0039】
以上のプロセスにより、ガラス基板に非磁性層と磁性層が成膜された転写用磁気ディスク60を作製した。
【0040】
〔転写用磁気ディスクの初期磁化〕
次に、形成した転写用磁気ディスク60の初期磁化を行う。図2(a)に示すように、転写用磁気ディスク60の初期磁化(直流磁化)は、転写用磁気ディスク60に対し垂直に磁界を印加することができる後述する磁界印加手段30により初期化磁界Hiを発生させ、図3(a)に示すように、転写用磁気ディスク60の磁性層60Mについて、一方向に初期磁化Piさせる。具体的には、初期化磁界Hiとして転写用磁気ディスク60の保磁力Hc近傍の強度の磁界を発生させることにより行う。初期化磁界Hiの印加方向は、後述する記録用磁界Hdの印加方向とは逆向きの方向である。
【0041】
尚、初期磁化は、転写用磁気ディスク60を磁界印加手段に対し相対的に回転させることにより行ってもよい。
【0042】
〔マスターディスク〕
次に、マスター記録媒体であるマスターディスクについて説明する。
【0043】
最初に、図4〜図6に基づきマスターディスク66の製造方法について説明する。本実施の形態では、プレス原盤を用いるため、プレス原盤の作製工程より説明する。図4(a)に示すように、表面が平滑なガラスや石英ガラスからなる円形の基板50上に、フォトレジスト層をスピンコーター等により塗布し、プリベーク後に、この円形の基板50を回転させながら、記録する信号に対応して変調したレーザ光(或いは電子ビーム)をフォトレジスト層に照射し、フォトレジスト層の略全面に所定のパターンを露光する。その後、露光した基板50を現像液に浸漬することにより、フォトレジスト層の露光された部分が除去され、基板50上の所定の領域にフォトレジスト層51が形成されたガラス原盤52が作製される。フォトレジスト層51は、後述するように、サーボマーク信号を含むサーボフレームと、サーボ信号に関する情報を含まないダミーフレームが所定の領域に設けられる。
【0044】
次に、図4(b)に示すように、ガラス原盤52上のフォトレジスト層51が形成されている面の表面に、Niメッキ(電鋳)を行うことにより、表面にポジ状の凹凸パターンを有するNi原盤53を所定の厚さまで形成する。この後、このNi原盤53をガラス原盤52から剥離する。
【0045】
このNi原盤53をスタンパー用のプレス原盤(金型)として用いることも可能であるが、必要に応じてこのNi原盤53に凹凸バターン上に軟磁性層、保護膜等を被覆してスタンパー用のプレス原盤(金型)とする。このように軟磁性層、保護膜等を形成することにより、その後に作製する転写用磁気ディスクの磁気特性が向上するからである。
【0046】
Ni原盤53を構成する材料としては、Ni及びNi合金が主に用いられる。このNi原盤53を形成する方法としては、先に説明した無電解メッキ等によるメッキ法の他、スパッタリングやイオンプレーティングといった真空成膜法によっても作製することが可能である。また、上記真空成膜を行った後、電解メッキ等を行うことによっても作製可能である。尚、基板50上に塗布されるレジストはポジ型、ネガ型のどちらでも使用可能であるが、ポジ型とネガ型では、露光パターンが反転することに注意する必要がある。
【0047】
次に、図4(c)に示すように、剥離したNi原盤53をプレス原盤として、射出成型等により樹脂基板67を作製する。樹脂基板67の樹脂材料としては、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体などの塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アモルファスポリオレフィン及びポリエステルなどが挙げられる。これらの樹脂材料の中では、耐湿性、寸法安定性及び価格などの点から、現在のところポリカーボネートが好ましい。
【0048】
射出成型により樹脂基板67を形成した場合、成型品である樹脂基板67にバリ等が生じる場合があるが、このようなバリ等はバーニシュ又は研磨加工により除去する。
【0049】
また、射出成型以外の方法により樹脂基板67を形成する方法として、紫外線硬化樹脂、電子線硬化樹脂などを使用する方法もある。この場合、プレス原盤に紫外線硬化樹脂、電子線硬化樹脂をスピンコート、バーコート等の手法により塗布した後、紫外線或いは電子線を照射することにより硬化させた後、プレス原盤より剥離することにより樹脂基板67が形成される。
【0050】
以上の工程により、図4(d)に示すように、高さが、30〜150〔nm〕の凹凸パターンが形成された樹脂基板67が形成される。
【0051】
樹脂基板67を製造するためのNi原盤53の製造方法については、これ以外の方法であってもよい。上記以外の方法の一例を図5に基づき説明する。
【0052】
表面が平滑な略円形のSi基板70上に、フォトレジストをスピンコーター等により塗布し、プリベーク後に、このSi基板70を回転させながら、記録する信号に対して変調したレーザ光(或いは電子ビーム)をフォトレジストに照射し、フォトレジストの略全面について所定のパターンを露光する。その後、露光したSi基板70を現像液に浸漬させ、フォトレジストの露光された部分を除去することにより、図5(a)に示すように、Si基板70上の所定の領域にフォトレジスト層71が形成されたものが作製される。フォトレジスト層71は、後述するように、サーボマーク信号を含むサーボフレームと、サーボ信号に関する情報を含まないダミーフレームが所定の領域に設けられる。
【0053】
次に、図5(b)に示すように、Si基板70のフォトレジスト層71が形成された面について、RIE(Reactive Ion Etching)等によるドライエッチングを行う。具体的には、フォトレジスト層71が形成されたSi基板70をRIE装置の減圧チャンバー内に設置した後、RIE装置の減圧チャンバーを減圧した後、減圧チャンバー内に塩素(Cl2)ガスを導入し、RF電力を印加しプラズマを発生させることにより行った。RIEでは、フォトレジスト層71に対しSi基板70が選択的にエッチングされるため、Si基板70のフォトレジスト層71の形成されていない領域のみエッチングがなされる。
【0054】
この後、Si基板70上のフォトレジスト層71を有機溶剤等により除去することにより、表面に凹凸パターンの形成されたSi基板70が作製される。この後、図5(c)に示すように、Si基板70の凹凸パターンの形成された面にスパッタリングにより金属材料等からなる導電膜を成膜し、更に、Ni電鋳を行うことにより、Ni原盤53を形成する。この後、図5(d)に示すように、Si基板70から剥離することによりNi原盤53が作製される。ここで作製されるNi原盤53は、図4(b)において作製されるNi原盤53と同様のものであり、図4(c)に示す方法と同様の方法により、射出成型により樹脂基板67の作製をすることができるものである。
【0055】
次に、このように形成された樹脂基板67について、図6(a)に示すように、形成された樹脂基板67の凹凸パターンの形成されている面にスピンコーター等によりフォトレジスト69を塗布し、フォトレジスト69を硬化させる。具体的には、フォトレジスト69がネガレジストである場合には、紫外線等を照射して重合させる。一方、ポジレジストである場合には、ベーキング処理を行って重合させる。フォトレジスト69はスピンコーター等では均一に広がるため、樹脂基板67の表面の凹凸パターンである凸部では薄く、それ以外の凹部では厚く形成される。
【0056】
この後、図6(b)に示すように、酸素ガスを導入したアッシングを行うことにより、フォトレジスト69の表面の一部を除去する。具体的には、樹脂基板67の凹凸パターンの凸部の表面が露出したところで、アッシングを停止する。アッシングでは、厚さ方向に均等にレジスト69が除去されるが、樹脂基板67の凹凸パターンの凸部の表面が露出しても、凹部ではレジスト69が厚く形成されているため、この領域のレジスト69は残存している。
【0057】
この後、図6(c)に示すように、軟磁性体からなる磁性膜55をメッキあるいは真空蒸着等による成膜をおこなう。磁性膜55を構成する材料は、保磁力Hcが48kA/m(≒600Oe)以下の軟磁性材料により構成されていることが好ましい。具体的には、Co、Co合金(CoNi、CoNiZr、CoNbTaZr等)、Fe、Fe合金(FeCo、FeCoNi、FeNiMo、FeAlSi、FeAl、FeTaN)、Ni、Ni合金(NiFe)等が挙げられる。特に好ましいのは、磁気特性からFeCo、FeCoNiである。又、磁性膜55の厚さは、40nm〜320nmの範囲が好ましく、特に、100nm〜300nmの範囲が更に好ましい。磁性膜55は、上記材料のターゲットを用いスパッタリングや無電解メッキ等により形成される。
【0058】
尚、本実施の形態で作製されたマスターディスク66に形成される磁性層68は、Niからなるものであり、内径12〔mm〕、外形32.5〔mm〕の範囲において、厚さが、150〜300〔μm〕となるように形成されている。
【0059】
この後、リフトオフによりレジスト69上に形成されている磁性膜の除去をおこなう。具体的には、磁性膜55が成膜された基板67を有機溶剤等に浸漬させることにより、図6(d)に示すように、レジスト69の上に形成された磁性膜55が、レジスト69とともに除去される。
【0060】
以上のプロセスにより、図7に示すように、樹脂基板67の凹凸パターンと磁性層68からなるサーボフレーム56が形成されたマスターディスク66が作製される。
【0061】
本実施の形態におけるマスターディスク66には、128本のサーボフレームが形成されている。
【0062】
又、磁性層68の上にダイヤモンドライクカーボン等の保護膜や、更に、保護膜上に潤滑剤層を設けてもよい。後述するように、マスターディスク66は、転写用磁気ディスク60と密着させるが、密着させた際に磁性層68が傷つきやすく、マスターディスク66として使用できなくなってしまうことを防止するためである。また、潤滑剤層は、転写用磁気ディスク60との接触の際に生じる摩擦による傷の発生などを防止し、耐久性を向上させる効果がある。
【0063】
具体的に、保護膜として、厚さが5〜30nmのダイヤモンドライクカーボン膜を形成し、更にその上に潤滑剤層を形成した構成が好ましい。また、磁性層68と、保護膜との密着性を強化するため、磁性層68上にSi等の密着強化層を形成し、その後に保護膜を形成してもよい。
【0064】
〔密着性評価方法〕
次に、以上のように作製されたマスターディスク66と転写用磁気ディスク60との密着性評価方法について図8に基づき具体的に説明する。
【0065】
最初に、図8におけるステップ102(S102)の密着工程を行う。
【0066】
具体的には、図2(b)に示すように、上記工程により作製したマスターディスク66の凹凸パターンの形成されている面と、転写用磁気ディスク60の磁性層60Mの形成されている面とを所定の印加圧力で密着させる。
【0067】
転写用磁気ディスク60には、マスターディスク66に密着させる前に、グライドヘッド、研磨体等により、表面の微少突起又は付着塵埃を除去するクリーニング処理(バーニッシング等)が必要に応じて施される。
【0068】
尚、密着工程では、図2(b)に示すように、転写用磁気ディスク60の片面にマスターディスク66を密着させる場合と、両面に磁性層が形成された転写用磁気ディスク60について、両面からマスターディスク66を密着させる場合とがある。後者の場合では、両面を同時転写することができる利点がある。
【0069】
次に、図8におけるステップ104(S104)の磁気転写工程を行う。具体的に図2(c)に基づき説明する。
【0070】
上記密着工程により転写用磁気ディスク60とマスターディスク66とを密着させたものについて、後述する磁界印加手段30により初期化磁界Hiの向きと反対方向に記録用磁界Hdを発生させる。記録用磁界Hdを発生させることにより生じた磁束が転写用磁気ディスク60とマスターディスク66に進入することにより磁気転写が行われる。
【0071】
本実施の形態では、記録用磁界Hdの大きさは、転写用磁気ディスク60の磁性層60Mを構成する磁性材料のHcと略同じ値である。
【0072】
磁気転写は、転写用磁気ディスク60及びマスターディスク66を密着させたものを回転させつつ、磁界印加手段によって記録用磁界Hdを印加し、マスターディスク66に記録されている凹凸パターンからなる情報を転写用磁気ディスク60の磁性層60Mに磁気転写する。
【0073】
図9は、磁気転写に用いられる磁気転写装置について詳細に示したものである。磁気転写装置は、コア32にコイル33が巻きつけられた電磁石からなる磁界印加手段30を有するものであり、このコイル33に電流を流すことによりギャップ31において、密着させたマスターディスク66と転写用磁気ディスク60の磁性層60Mに対し垂直に磁界を発生する構造になっている。発生する磁界の向きは、コイル33に流す電流の向きによって変えることができる。従って、この磁気転写装置によって、初期磁化を行うことも磁気転写を行うことも可能である。この磁気転写装置により初期磁化させた後、磁気転写を行う場合には、磁界印加手段30のコイル33に、初期磁化したときにコイル33に流した電流の向きと逆向きの電流を流す。これにより、初期磁化の際の磁化向きとは反対の向きに記録用磁界Hdを発生させることができる。磁気転写は、転写用磁気ディスク60及びマスターディスク66を密着させたものを回転させつつ、磁界印加手段30によって記録用磁界Hdを印加し、マスターディスク66に記録されている凹凸パターンからなる情報を転写用磁気ディスク60の磁性層60Mに磁気転写するため、不図示の回転手段が設けられている。尚、この構成以外にも、磁界印加手段30を回転させる機構を設け、転写用磁気ディスク60及びマスターディスク66に対し、相対的に回転させる手法であってもよい。
【0074】
磁気転写工程における、転写用磁気ディスク60とマスターディスク66の断面の様子を図3(b)に示す。
【0075】
図3(b)に示すように、基板67表面に凹凸パターンが形成され、その上に磁性層68が形成されたマスターディスク66と転写用磁気ディスク60とが密着した状態においては、マスターディスク66の凸領域では、マスターディスク66の磁性層68と転写用磁気ディスク60の磁性層60Mとが接触している。
【0076】
このため、記録用磁界Hdを印加すると、磁束Gはマスターディスク66の凸領域、即ち、マスターディスク66の磁性層68と転写用磁気ディスク60の磁性層60Mと接触している領域では、記録用磁界Hdにより、マスターディスク66の磁性層68の磁化向きが記録用磁界Hdの方向に揃い、転写用磁気ディスク60の磁性層60Mに磁気情報が転写される。一方、マスターディスク66の凹領域、即ち、マスターディスク66の磁性層68が形成されていない領域では、マスターディスク66の磁性層68が存在しないため、記録用磁界Hdの印加によって、転写用磁気ディスク60の磁性層60Mの磁化向きが変わることはなく、初期磁化の状態を保ったままである。
【0077】
次に、図8におけるステップ106(S106)の剥離工程を行う。剥離工程では、転写用磁気ディスク60をマスターディスク66から取り外すものである。これにより、図3(c)に示すように、転写用磁気ディスク60の磁性層60Mには、サーボ信号等の磁気パターンの情報が、初期磁化Piの反対向きの磁化となる記録磁化Pdとして記録される。尚、転写用磁気ディスク60の磁性層60Mは垂直磁化膜であることから、初期磁化Piと記録磁化Pdは境界には磁壁Dが形成される。
【0078】
又、マスターディスク66の基板67に形成された凹凸パターンは、図6(d)に示すポジパターンと反対のネガパターンであってもよい。この場合、初期化磁界Hiの方向及び記録用磁界Hdの方向を各々逆方向にすることにより、転写用磁気ディスク60の磁性層60Mに、同様の磁化パターンを磁気転写することができるからである。
【0079】
尚、本実施の形態では、磁界印加手段は、電磁石の場合について説明したが、同様に磁界が発生する永久磁石を用いても良い。
【0080】
次に、図8におけるステップ108(S108)の計測工程を行う。計測工程では、図1に示した計測手段25を用いるが、この計測手段25について詳細に説明する。計測手段25に用いた測定装置は、電磁変換特性測定装置(協同電子社製LS−90)である。この装置において、磁気ヘッドには、再生ヘッドギャップが0.06μm、再生トラック幅が0.14μm、記録ヘッドギャップが0.4μm、記録トラック幅が2.4μmであるMRヘッドを使用した。読み込んだ信号をスペクトロアナライザーで周波数分解し、1次信号のピーク強度を測定した。
【0081】
この装置により得られた情報を基に、サーボ信号領域の情報のみを除去することにより、サーボ信号領域以外の領域の信号強度の計測を行うものである。
【0082】
本実施の形態では、転写用磁気ディスクの回転数は、4200〔rpm〕で回転させ、サンプリング速度は、1〔Gs/sec〕として、出力の積分値を用いた。尚、サーボ仕様が異なる場合、データの収集数が異なることから、上記出力の積分値をデータ点数で平均化した出力を用いた。
【0083】
図10は、上記計測装置により測定した直後の転写用磁気ディスクの再生信号波形を示す。この再生信号波形はサーボ信号を含むものであるが、この再生信号よりサーボ領域に記録されているサーボ信号を除去することにより、転写用磁気ディスクのサーボ領域以外の領域の再生信号を得ることができる。
【0084】
次に、図8におけるステップ110(S110)の表示工程を行う。
【0085】
表示工程では、このように計測された出力の積分値と転写用磁気ディスクの座標位置との関係について、表示手段20であるディスプレー上に表示する。
【0086】
図11は、転写用磁気ディスク一周あたりのサーボフレーム数が128本の場合において、本実施の形態により得られた結果を示す。表示手段20において、図に示すように転写用磁気ディスク60の座標位置と出力の積分値が表示されるが、この関係が密着性と高い相関性を有しているため、この表示に基づき密着状態が視覚的に理解することができる。よって、マスターディスク66と転写用磁気ディスク60との密着状況を瞬時に把握することができ、密着不良の原因調査等において極めて有効である。
【0087】
即ち、本実施の形態では、垂直磁化膜からなる磁性層を有する転写用磁気ディスク60について、マスターディスク66に記録されている情報を垂直磁界の印加により磁気転写する方法においては、磁気転写された転写用磁気ディスク60におけるサーボ領域以外の領域の再生信号は、記録されるサーボフレーム数、マスターディスク66の厚さ、マスターディスク66に形成される凹凸パターンの高低差、マスターディスク66と転写用磁気ディスク60との密着させる際の印加圧力に依存することが解った。従って、この再生信号を解析することにより、マスターディスク66と転写用磁気ディスク60との密着性、マスターディスク66の変形量を評価する際の情報量を増加させることができ、評価が飛躍的に向上させることができた。
【0088】
また、この密着性評価方法ではマスターディスク66の密着状態が視覚化されるため、マスターディスク66の密着状態の最適化、マスターディスク66や転写用磁気ディスク60を固定するための吸引機構の最適化、この吸引機構とサーボフレーム数との相関関係、マスターディスク66の剛性及び形成される凹凸パターンの高低差と密着状態との相関関係等の解析を行う上で極めて効果的である。
【0089】
〔第2の実施の形態〕
第2の実施の形態は、転写用磁気ディスク60の再生出力の積分値についてフーリエ変換を行い、その結果を表示するマスター記録媒体の密着性評価方法である。
【0090】
第2の実施の形態のマスター記録媒体の密着性評価方法について、図12に基づき具体的に説明する。
【0091】
最初に、ステップ202(S202)における密着工程を行う。具体的な内容は第1の実施の形態と同様である。
【0092】
次に、ステップ204(S204)における磁界印加工程を行う。具体的な内容は第1の実施の形態と同様である。
【0093】
次に、ステップ206(S206)における剥離工程を行う。具体的な内容は第1の実施の形態と同様である。
【0094】
次に、ステップ208(S208)における計測工程を行う。具体的な内容は第1の実施の形態と同様である。
【0095】
次に、ステップ210(S210)における演算工程を行う。この演算工程では、計測工程により計測した転写用磁気ディスク60のサーボ領域以外の領域の再生信号出力の積分値について、図1に示す演算手段15により、転写用磁気ディスク60の各々の半径位置において、同一半径位置における周方向の信号強度についてフーリエ変換を行うものである。
【0096】
次に、ステップ212(S212)における表示工程を行う。表示工程では、上記演算工程において、演算手段15により行われたフーリエ変換の結果について、表示手段25に表示するためのものである。具体的に、本実施の形態において、この表示手段25に表示される結果は、転写用磁気ディスク60の半径位置と次数との関係が2次元的に表示される。具体的に、本実施の形態により得られた転写用磁気ディスク60の半径位置と次数の関係を図13に示す。図13に示されるように、半径位置と次数の関係が一目して理解することができるため、マスターディスク66と転写用磁気ディスク60との密着性の評価を視覚的に瞬時にすることができる。
【0097】
以上、本発明に係るマスター記録媒体の密着性評価方法及び密着性評価装置について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行うことは可能である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明に係るマスター記録媒体の密着性評価装置のブロック図
【図2】磁気転写における工程の概要図
【図3】磁気転写における各工程における転写用磁気ディスクの断面図
【図4】磁気転写に用いるマスターディスクの形成方法の工程図(1)
【図5】磁気転写に用いる別のマスターディスクの形成方法の工程図(1)
【図6】磁気転写に用いるマスターディスクの形成方法の工程図(2)
【図7】形成されたマスターディスクの上面図
【図8】本発明の第1の実施の形態におけるマスターディスクの密着性評価方法のフローチャート
【図9】本発明に用いられる磁気転写装置の断面図
【図10】本発明の第1の実施の形態における評価装置より出力されたサーボ信号を含む出力波形図
【図11】本発明の第1の実施の形態における密着性評価方法により得られた関係図
【図12】本発明の第2の実施の形態におけるマスターディスクの密着性評価方法のフローチャート
【図13】本発明の第2の実施の形態における密着性評価方法により得られた関係図
【符号の説明】
【0099】
10…制御部、15…演算手段、20…表示手段、25…計測手段、30…磁界印加手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気転写に用いられる磁気記録媒体と凹凸パターンの形成されたマスター記録媒体との密着性を評価するマスター記録媒体の密着性評価方法及び密着性評価装置に関するものであり、特に、マスター記録媒体の密着性を視覚的に評価するためのマスター記録媒体の密着性評価方法及び密着性評価装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気記録再生装置は、小型でかつ大容量を実現するために、記録密度の高密度化の傾向にあり、特に、代表的な磁気記憶装置であるハードディスクドライブの分野では、技術の進歩が急激である。
【0003】
このような、磁気記録再生装置に用いられる磁気記録媒体は、情報記録領域が狭トラックで構成されており、狭いトラック幅において正確に磁気ヘッドを走査させて高いS/Nで信号を再生するために、いわゆるトラッキングサーボ技術が大きな役割を担っている。このトラッキングサーボを行うために、従来よりセクターサーボ方式が広く採用されている。
【0004】
セクターサーボ方式とは、磁気ディスク等の磁気記録媒体のデータ面において、一定角度等で正しく配列されたサーボフィールドに、トラック位置決めのためのサーボ信号や、そのトラックのアドレス情報信号、再生クロック信号等のサーボ情報を記録しておき、磁気ヘッドが、このサーボフィールドを走査してサーボ情報を読み取り自らの位置を確認しつつ修正する方式である。
【0005】
このサーボ情報は、磁気記録媒体の製造時にプリフォーマットとして予め磁気記録媒体に記録する必要があり、現在は専用のサーボ記録装置を用いてプリフォーマットが行われている。現在用いられているサーボ記録装置は、例えばトラックピッチの75%程度のヘッド幅を有する磁気ヘッドを備え、磁気ヘッドを磁気ディスクに近接させた状態で、磁気ディスクを回転させつつ、1/2トラック毎に磁気ディスクの外周から内周に移動させながらサーボ信号を記録する。そのため、1枚の磁気ディスクのプリフォーマット記録に長時間を要し、生産効率の点で問題があり、コストアップの要因となっている。
【0006】
このため、プリフォーマットを正確にかつ効率的に行う方法として、特許文献1から4に記載されているように、サーボ情報に対応したパターンが形成されているマスター記録媒体の情報を磁気記録媒体に磁気転写する方法が開示されている。
【0007】
この磁気転写は、転写用磁気ディスク等の磁気記録媒体(スレーブ媒体)に転写すべき情報に応じて凹凸パターンを有するマスター記録媒体を用い、このマスター記録媒体と磁気記録媒体とを密着させた状態で、記録用磁界を印加することにより、マスター記録媒体の凹凸パターンにより記録されている情報(例えばサーボ情報)に対応する磁気パターンを磁気記録媒体に磁気的に転写するものである。この方法では、マスター記録媒体と磁気記録媒体との相対的な位置を変化させることなく静的に記録を行うことができ、正確なプリフォーマット情報の記録が可能であり、しかも記録に要する時間も極めて短時間という利点を有している。このような磁気転写方法としては、転写される磁化情報が、磁気記録媒体に垂直に磁化され記録される垂直磁気記録と、磁気記録媒体に平行に磁化され記録される面内磁気記録の2種類存在している。
【特許文献1】特開2002−251721号公報
【特許文献2】特開2002−74655号公報
【特許文献3】特開2004−79059号公報
【特許文献4】特開2004−177783号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、磁気転写方法において磁気転写の品質を高めるには、マスター記録媒体と磁気記録媒体とを密着させる際に、いかに隙間なく密着させることができるかという点が重要な課題となる。即ち、マスター記録媒体と磁気記録媒体との間で密着不良が生じると、情報の磁気転写が完全には行われず、磁気記録媒体において磁気転写がなされていない領域が発生する。磁気記録媒体に磁気転写がされていない領域が存在すると、磁気記録媒体において転写された磁気情報の信号抜けが発生して信号品位が低下し、磁気転写した情報がサーボ信号の場合ではトラッキング精度が低下し、これに伴い記録再生時の信頼性が低下する。よって、磁気転写では、磁気転写された磁気記録媒体の全面にわたり均一な転写が重要な課題である。
【0009】
しかしながら、磁気転写では、同一のマスター記録媒体で多数の磁気記録媒体に磁気転写を行うが、磁気転写の回数が増加するに従い、磁気転写された磁気記録媒体における信号出力の低下、信号抜けの発生が増加する場合がある。このような、信号抜けの発生の原因としては、磁気転写を繰り返し行うことによるマスター記録媒体の変形に起因すると考えられるが、数mm単位の領域における数十nmの高さ変形であることが多く、一般的な形状測定器等では、その差が明確にはなり難い。密着性に関しては、特に、マスター記録媒体の厚み、磁気記録媒体の材質と厚み、密着時の印加圧力に依存するものであり、全面にわたり均一な磁気転写を継続的に行うためには、マスター記録媒体の厚みやマスター記録媒体の保持機構を安定的にする必要があるが、一回ごとの転写におけるこれらの変動量は、極めて微小であるため、その変動量や影響を解析することは困難であった。
【0010】
このことを裏付けるものとして、使用したマスター記録媒体の形状測定を行った結果、磁気転写前後で微小な形状変化が生じていることが確認された。以上より、マスター記録媒体と磁気記録媒体との密着時の印加圧力の大きさがマスター記録媒体の変形の原因と考え、印加圧力を低減して磁気転写を行ったが、磁気転写を繰り返し行った後のマスター記録媒体、磁気記録媒体間の密着状態は十分確保はされず、磁気記録媒体において全面にわたり均一な磁気転写を実現することができなかった。即ち、密着時の印加圧力以外に、マスター記録媒体の形状変化させる要因が存在していることが暗示されたのである。このため、印加圧力低減のため、マスター記録媒体の厚さを薄くし、マクロ的な曲げが可能なマスター記録媒体を作製し同様の実験を行ったが、均一密着を確保するために必要な印加圧力はマスター記録媒体の厚さが厚いものとあまり変わらないという結果となった。
【0011】
一方、マスター記録媒体の変形の原因を特定するためには、マスター記録媒体の変形状態を正確に把握することが必要とされる。
【0012】
マスター記録媒体の変形に関しては、磁気記録媒体に磁気転写された情報に基づき測定する方法があるが、この方法は磁気転写された情報が欠落しているか否か、再生出力の程度により判断するものである。
【0013】
しかしながら、このような方法では、マスター記録媒体の変形の原因を特定するために必要な情報は十分得ることができず、変形の原因を特定するための有効な密着性の評価方法及び評価装置が望まれていた。
【0014】
更に具体的に説明すると、サーボフレーム数は、製造される磁気記録媒体の仕様によって異なり、また、高密度記録のためには、狭Bit化が必要であるが、マスター記録媒体に形成される凹凸パターンの高低差は、記録されるBit長に応じて異なる。このように、サーボフレーム数や凹凸パターンの高低差が異なる場合において、マスター記録媒体より磁気転写された磁気記録媒体の情報の再生信号強度を解析する方法では、マスター記録媒体の凸部と転写用磁気ディスクの記録層とは磁気転写の際密着しているため、磁気転写された情報の再生信号を解析しても出力差が明瞭でない場合が多く、ある程度の情報は得られるものの解析する上で十分に有効であるとは言い難かった。特に、転写用磁気ディスクを固定するためのホルダーの設計や吸着穴の位置、マスター記録媒体の仕様を変更した場合における密着状態の解析においては有効な方法ではなかった。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、垂直磁気転写において、マスター記録媒体の変形による磁気記録媒体の密着性の不良に関し、原因を特定しやすいマスター記録媒体の密着性評価方法及び密着性評価装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に記載の発明は、磁気転写する情報に応じて凹凸パターンを形成し前記凹凸パターン上に磁性層を形成したマスター記録媒体と、磁気転写される垂直磁化膜からなる磁性層を有する磁気記録媒体との密着性を評価するためのマスター記録媒体の密着性評価方法において、前記マスター記録媒体の磁性層の形成された面と、前記磁気記録媒体の磁性層とを密着させる密着工程と、前記密着させたマスター記録媒体と磁気記録媒体に対し、垂直に磁界を印加する磁界印加工程と、前記垂直に磁界を印加した後、マスター記録媒体から磁気記録媒体を剥離する剥離工程と、前記剥離した磁気記録媒体について、前記マスター記録媒体における凹凸パターンの形成されていない領域に対応する領域の信号強度を計測する計測工程と、前記信号強度と、前記信号強度の計測された磁気記録媒体の座標位置との関係を2次元的に表示する表示工程と、からなることを特徴とするマスター記録媒体の密着性評価方法である。
【0017】
請求項2に記載の発明は、磁気転写する情報に応じて凹凸パターンを形成し前記凹凸パターン上に磁性層を形成したマスター記録媒体と、磁気転写される垂直磁化膜からなる磁性層を有する磁気記録媒体との密着性を評価するためのマスター記録媒体の密着性評価方法において、前記マスター記録媒体の磁性層の形成された面と、前記磁気記録媒体の磁性層とを密着させる密着工程と、前記密着させたマスター記録媒体と磁気記録媒体に対し、垂直に磁界を印加する磁界印加工程と、前記垂直に磁界を印加した後、マスター記録媒体から磁気記録媒体を剥離する剥離工程と、前記剥離した磁気記録媒体について、前記マスター記録媒体における凹凸パターンの形成されていない領域に対応する領域の信号強度を計測する計測工程と、前記磁気記録媒体の各々の半径位置において、同一半径位置における周方向の前記信号強度についてフーリエ変換を行う演算工程と、前記半径位置と前記フーリエ変換により得られた次数との関係を2次元的に表示する表示工程と、からなることを特徴とするマスター記録媒体の密着性評価方法である。
【0018】
請求項3に記載の発明は、磁気転写する情報に応じて凹凸パターンを形成し前記凹凸パターン上に磁性層を形成したマスター記録媒体と、磁気転写される垂直磁化膜からなる磁性層を有する磁気記録媒体との密着性を評価するためのマスター記録媒体の密着性評価装置において、前記マスター記録媒体の磁性層の形成された面と、前記磁気記録媒体の磁性層とを密着させ、前記密着させたマスター記録媒体と磁気記録媒体に対し、垂直に磁界を印加する磁界印加手段と、前記垂直に磁界を印加した後、マスター記録媒体から磁気記録媒体を剥離し、前記剥離した磁気記録媒体について、前記マスター記録媒体における凹凸パターンの形成されていない領域に対応する領域の信号強度を計測する計測手段と、計測された前記信号強度と、前記信号強度の計測された前記磁気記録媒体における座標位置との関係を2次元的に表示する表示手段と、からなることを特徴とするマスター記録媒体の密着性評価装置である。
【0019】
請求項4に記載の発明は、磁気転写する情報に応じて凹凸パターンを形成し前記凹凸パターン上に磁性層を形成したマスター記録媒体と、磁気転写される垂直磁化膜からなる磁性層を有する磁気記録媒体との密着性を評価するためのマスター記録媒体の密着性評価装置において、前記マスター記録媒体の磁性層の形成された面と、前記磁気記録媒体の磁性層とを密着させ、前記密着させたマスター記録媒体と磁気記録媒体に対し、垂直に磁界を印加する磁界印加手段と、前記垂直に磁界を印加した後、マスター記録媒体から磁気記録媒体を剥離し、前記剥離した磁気記録媒体について、前記マスター記録媒体における凹凸パターンの形成されていない領域に対応する領域の信号強度を計測する計測手段と、前記磁気記録媒体の各々の半径位置において、同一半径位置における周方向の前記信号強度についてフーリエ変換を行う演算手段と、前記半径位置と前記フーリエ変換により得られた次数との関係を2次元的に表示する表示手段と、からなることを特徴とするマスター記録媒体の密着性評価装置である。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、垂直磁気転写において、磁気記録媒体とマスター記録媒体との密着性の程度や状況を視覚的に把握することができ、微小な密着性の変化をも検出することができるため、容易に原因の特定を行うことができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、垂直磁界を印加することによる磁気転写方法において、磁気記録媒体である転写用磁気ディスクに磁気転写されたサーボ情報が記録された領域以外の領域の再生信号の出力の積分値と、転写用磁気ディスクとマスターディスクとの密着状態との間に高い相関関係があり、この出力の積分値の情報に基づいてマスター記録媒体の密着性の評価を行うことができることを見出した結果に基づくものである。
【0022】
以下、本発明に係る実施の形態である磁気記録媒体とマスター記録媒体の密着性評価方法及び密着性評価装置について説明する。本実施の形態におけるマスター記録媒体の密着性評価方法及び密着性評価装置は、磁気転写を行った後の磁気記録媒体の計測を行うものであり、具体的な内容について順に説明する。
【0023】
〔密着性評価装置〕
本発明に係る実施の形態であるマスター記録媒体の密着性評価装置に関し、図1に基づき説明する。
【0024】
本実施の形態におけるマスター記録媒体の密着性評価装置は、制御部10、磁界印加手段30、計測手段25、表示手段20により構成されている。
【0025】
制御部10は、磁界印加手段30、計測手段25、表示手段20、その他密着性評価に必要な機構を制御するためのものである。
【0026】
磁界印加手段30は、制御部10の制御に基づき、マスター記録媒体であるマスターディスクの磁性層の形成された面と、磁気記録媒体である転写用磁気ディスクの磁性層とを密着させたものについて、垂直に記録用磁界を印加する手段である。磁界印加手段30の詳細に関しては後述する。
【0027】
計測手段20は、マスターディスクと転写用磁気ディスクを剥離した後、制御部10の制御に基づき、転写用磁気ディスクにおいて、マスターディスクより転写された情報領域以外の領域の再生信号を測定する手段である。転写される情報が、サーボ情報の場合は、磁気転写された転写用磁気ディスクにおいて、サーボ情報の記録されている領域以外の領域の再生信号を計測する手段である。計測手段25の詳細に関しては後述する。
【0028】
表示手段20は、制御部10の制御に基づき、計測手段25により計測した情報を2次元的に表示するための手段であり、ディスプレーやプリンタ等により構成されている。具体的に、本実施の形態では、転写用磁気ディスクにおける各々の座標位置における再生信号強度を座標位置と再生信号強度との関係等を表示するためのものである。
【0029】
尚、制御部10には、演算手段15が設けられる場合もある。演算手段15は、計測手段25により計測した情報に基づき、磁気記録媒体の各々の半径位置において、同一半径位置における周方向の信号強度についてフーリエ変換を行う機能を有するものである。このように演算手段15においてフーリエ変換の行われた結果については、表示手段20において、磁気記録媒体の半径位置と次数との関係が2次元的に表示される。
【0030】
以上により密着性評価装置は構成されており、密着性評価方法では、この密着性評価装置を用いてマスター記録媒体の評価が行われる。
【0031】
〔転写用磁気ディスク〕
図2(a)に示すように、最初に磁気記録媒体である転写用磁気ディスク60の初期磁化を行うが、まず、これに用いられる転写用磁気ディスク60について説明する。
【0032】
転写用磁気ディスク60は円盤状の基板の表面の片面或いは、両面に垂直磁化膜からなる磁性層が形成されたものであり、具体的には、高密度ハードディスク等が挙げられる。
【0033】
円盤状の基板は、ガラスやAl(アルミニウム)等の材料から構成されており、この基板上に非磁性層を形成した後、磁性層を形成する。
【0034】
非磁性層は、後に形成する磁性層の垂直方向の磁気異方性を大きくする等の理由により設けられる。非磁性層に用いられる材料は、Ti(チタン)、Cr(クロム)、CrTi、CoCr、CrTa、CrMo、NiAl、Ru(ルテニウム)、Pd(パラジウム)等が好ましい。非磁性層は、スパッタリング法により上記材料を成膜することにより形成される。非磁性層の厚さは、10nm〜150nmであることが好ましく、20nm〜80nmであることが更に好ましい。
【0035】
磁性層は、垂直磁化膜により形成されており、磁性層に情報が記録される。磁性層に用いられる材料は、Co(コバルト)、Co合金(CoPtCr、CoCr、CoPtCrTa、CoPtCrNbTa、CoCrB、CoNi等)、Fe、Fe合金(FeCo、FePt、FeCoNi等)等が好ましい。これらの材料は、磁束密度が大きく、成膜条件や組成を調整することにより垂直の磁気異方性を有している。磁性層は、スパッタリング法により上記材料を成膜することにより形成される。磁性層の厚さは、10nm〜500nmであることが好ましく、20nm〜200nmであることが更に好ましい。
【0036】
尚、必要に応じて、基板と非磁性層との間に、軟磁性層を設ける場合がある。磁性層の垂直磁化状態を安定させ、記録再生時の感度を向上させるためである。軟磁性層の厚さは、50nm〜2000nmであることが好ましく、80nm〜400nmであることが更に好ましい。
【0037】
本実施の形態では、転写用磁気ディスクの基板として、外形65mmの円盤状のガラス基板を用い、スパッタリング装置のチャンバー内にガラス基板を設置し、1.33×10−5Pa(1.0×10−7Torr)まで減圧した後、チャンバー内にAr(アルゴン)ガスを導入し、CrTiターゲットを用い、基板温度が200℃の条件の下で放電させることによりスパッタリング成膜をおこなう。これによりCrTiからなる非磁性層を60nm成膜する。
【0038】
この後、上記と同様にArガスを導入し、同じチャンバー内にあるCoCrPtターゲットを用い、同じく基板温度が200℃の条件の下で放電させることによりスパッタリング成膜をおこなう。これによりCoCrPtからなる磁性層を25nm成膜する。
【0039】
以上のプロセスにより、ガラス基板に非磁性層と磁性層が成膜された転写用磁気ディスク60を作製した。
【0040】
〔転写用磁気ディスクの初期磁化〕
次に、形成した転写用磁気ディスク60の初期磁化を行う。図2(a)に示すように、転写用磁気ディスク60の初期磁化(直流磁化)は、転写用磁気ディスク60に対し垂直に磁界を印加することができる後述する磁界印加手段30により初期化磁界Hiを発生させ、図3(a)に示すように、転写用磁気ディスク60の磁性層60Mについて、一方向に初期磁化Piさせる。具体的には、初期化磁界Hiとして転写用磁気ディスク60の保磁力Hc近傍の強度の磁界を発生させることにより行う。初期化磁界Hiの印加方向は、後述する記録用磁界Hdの印加方向とは逆向きの方向である。
【0041】
尚、初期磁化は、転写用磁気ディスク60を磁界印加手段に対し相対的に回転させることにより行ってもよい。
【0042】
〔マスターディスク〕
次に、マスター記録媒体であるマスターディスクについて説明する。
【0043】
最初に、図4〜図6に基づきマスターディスク66の製造方法について説明する。本実施の形態では、プレス原盤を用いるため、プレス原盤の作製工程より説明する。図4(a)に示すように、表面が平滑なガラスや石英ガラスからなる円形の基板50上に、フォトレジスト層をスピンコーター等により塗布し、プリベーク後に、この円形の基板50を回転させながら、記録する信号に対応して変調したレーザ光(或いは電子ビーム)をフォトレジスト層に照射し、フォトレジスト層の略全面に所定のパターンを露光する。その後、露光した基板50を現像液に浸漬することにより、フォトレジスト層の露光された部分が除去され、基板50上の所定の領域にフォトレジスト層51が形成されたガラス原盤52が作製される。フォトレジスト層51は、後述するように、サーボマーク信号を含むサーボフレームと、サーボ信号に関する情報を含まないダミーフレームが所定の領域に設けられる。
【0044】
次に、図4(b)に示すように、ガラス原盤52上のフォトレジスト層51が形成されている面の表面に、Niメッキ(電鋳)を行うことにより、表面にポジ状の凹凸パターンを有するNi原盤53を所定の厚さまで形成する。この後、このNi原盤53をガラス原盤52から剥離する。
【0045】
このNi原盤53をスタンパー用のプレス原盤(金型)として用いることも可能であるが、必要に応じてこのNi原盤53に凹凸バターン上に軟磁性層、保護膜等を被覆してスタンパー用のプレス原盤(金型)とする。このように軟磁性層、保護膜等を形成することにより、その後に作製する転写用磁気ディスクの磁気特性が向上するからである。
【0046】
Ni原盤53を構成する材料としては、Ni及びNi合金が主に用いられる。このNi原盤53を形成する方法としては、先に説明した無電解メッキ等によるメッキ法の他、スパッタリングやイオンプレーティングといった真空成膜法によっても作製することが可能である。また、上記真空成膜を行った後、電解メッキ等を行うことによっても作製可能である。尚、基板50上に塗布されるレジストはポジ型、ネガ型のどちらでも使用可能であるが、ポジ型とネガ型では、露光パターンが反転することに注意する必要がある。
【0047】
次に、図4(c)に示すように、剥離したNi原盤53をプレス原盤として、射出成型等により樹脂基板67を作製する。樹脂基板67の樹脂材料としては、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体などの塩化ビニル樹脂、エポキシ樹脂、アモルファスポリオレフィン及びポリエステルなどが挙げられる。これらの樹脂材料の中では、耐湿性、寸法安定性及び価格などの点から、現在のところポリカーボネートが好ましい。
【0048】
射出成型により樹脂基板67を形成した場合、成型品である樹脂基板67にバリ等が生じる場合があるが、このようなバリ等はバーニシュ又は研磨加工により除去する。
【0049】
また、射出成型以外の方法により樹脂基板67を形成する方法として、紫外線硬化樹脂、電子線硬化樹脂などを使用する方法もある。この場合、プレス原盤に紫外線硬化樹脂、電子線硬化樹脂をスピンコート、バーコート等の手法により塗布した後、紫外線或いは電子線を照射することにより硬化させた後、プレス原盤より剥離することにより樹脂基板67が形成される。
【0050】
以上の工程により、図4(d)に示すように、高さが、30〜150〔nm〕の凹凸パターンが形成された樹脂基板67が形成される。
【0051】
樹脂基板67を製造するためのNi原盤53の製造方法については、これ以外の方法であってもよい。上記以外の方法の一例を図5に基づき説明する。
【0052】
表面が平滑な略円形のSi基板70上に、フォトレジストをスピンコーター等により塗布し、プリベーク後に、このSi基板70を回転させながら、記録する信号に対して変調したレーザ光(或いは電子ビーム)をフォトレジストに照射し、フォトレジストの略全面について所定のパターンを露光する。その後、露光したSi基板70を現像液に浸漬させ、フォトレジストの露光された部分を除去することにより、図5(a)に示すように、Si基板70上の所定の領域にフォトレジスト層71が形成されたものが作製される。フォトレジスト層71は、後述するように、サーボマーク信号を含むサーボフレームと、サーボ信号に関する情報を含まないダミーフレームが所定の領域に設けられる。
【0053】
次に、図5(b)に示すように、Si基板70のフォトレジスト層71が形成された面について、RIE(Reactive Ion Etching)等によるドライエッチングを行う。具体的には、フォトレジスト層71が形成されたSi基板70をRIE装置の減圧チャンバー内に設置した後、RIE装置の減圧チャンバーを減圧した後、減圧チャンバー内に塩素(Cl2)ガスを導入し、RF電力を印加しプラズマを発生させることにより行った。RIEでは、フォトレジスト層71に対しSi基板70が選択的にエッチングされるため、Si基板70のフォトレジスト層71の形成されていない領域のみエッチングがなされる。
【0054】
この後、Si基板70上のフォトレジスト層71を有機溶剤等により除去することにより、表面に凹凸パターンの形成されたSi基板70が作製される。この後、図5(c)に示すように、Si基板70の凹凸パターンの形成された面にスパッタリングにより金属材料等からなる導電膜を成膜し、更に、Ni電鋳を行うことにより、Ni原盤53を形成する。この後、図5(d)に示すように、Si基板70から剥離することによりNi原盤53が作製される。ここで作製されるNi原盤53は、図4(b)において作製されるNi原盤53と同様のものであり、図4(c)に示す方法と同様の方法により、射出成型により樹脂基板67の作製をすることができるものである。
【0055】
次に、このように形成された樹脂基板67について、図6(a)に示すように、形成された樹脂基板67の凹凸パターンの形成されている面にスピンコーター等によりフォトレジスト69を塗布し、フォトレジスト69を硬化させる。具体的には、フォトレジスト69がネガレジストである場合には、紫外線等を照射して重合させる。一方、ポジレジストである場合には、ベーキング処理を行って重合させる。フォトレジスト69はスピンコーター等では均一に広がるため、樹脂基板67の表面の凹凸パターンである凸部では薄く、それ以外の凹部では厚く形成される。
【0056】
この後、図6(b)に示すように、酸素ガスを導入したアッシングを行うことにより、フォトレジスト69の表面の一部を除去する。具体的には、樹脂基板67の凹凸パターンの凸部の表面が露出したところで、アッシングを停止する。アッシングでは、厚さ方向に均等にレジスト69が除去されるが、樹脂基板67の凹凸パターンの凸部の表面が露出しても、凹部ではレジスト69が厚く形成されているため、この領域のレジスト69は残存している。
【0057】
この後、図6(c)に示すように、軟磁性体からなる磁性膜55をメッキあるいは真空蒸着等による成膜をおこなう。磁性膜55を構成する材料は、保磁力Hcが48kA/m(≒600Oe)以下の軟磁性材料により構成されていることが好ましい。具体的には、Co、Co合金(CoNi、CoNiZr、CoNbTaZr等)、Fe、Fe合金(FeCo、FeCoNi、FeNiMo、FeAlSi、FeAl、FeTaN)、Ni、Ni合金(NiFe)等が挙げられる。特に好ましいのは、磁気特性からFeCo、FeCoNiである。又、磁性膜55の厚さは、40nm〜320nmの範囲が好ましく、特に、100nm〜300nmの範囲が更に好ましい。磁性膜55は、上記材料のターゲットを用いスパッタリングや無電解メッキ等により形成される。
【0058】
尚、本実施の形態で作製されたマスターディスク66に形成される磁性層68は、Niからなるものであり、内径12〔mm〕、外形32.5〔mm〕の範囲において、厚さが、150〜300〔μm〕となるように形成されている。
【0059】
この後、リフトオフによりレジスト69上に形成されている磁性膜の除去をおこなう。具体的には、磁性膜55が成膜された基板67を有機溶剤等に浸漬させることにより、図6(d)に示すように、レジスト69の上に形成された磁性膜55が、レジスト69とともに除去される。
【0060】
以上のプロセスにより、図7に示すように、樹脂基板67の凹凸パターンと磁性層68からなるサーボフレーム56が形成されたマスターディスク66が作製される。
【0061】
本実施の形態におけるマスターディスク66には、128本のサーボフレームが形成されている。
【0062】
又、磁性層68の上にダイヤモンドライクカーボン等の保護膜や、更に、保護膜上に潤滑剤層を設けてもよい。後述するように、マスターディスク66は、転写用磁気ディスク60と密着させるが、密着させた際に磁性層68が傷つきやすく、マスターディスク66として使用できなくなってしまうことを防止するためである。また、潤滑剤層は、転写用磁気ディスク60との接触の際に生じる摩擦による傷の発生などを防止し、耐久性を向上させる効果がある。
【0063】
具体的に、保護膜として、厚さが5〜30nmのダイヤモンドライクカーボン膜を形成し、更にその上に潤滑剤層を形成した構成が好ましい。また、磁性層68と、保護膜との密着性を強化するため、磁性層68上にSi等の密着強化層を形成し、その後に保護膜を形成してもよい。
【0064】
〔密着性評価方法〕
次に、以上のように作製されたマスターディスク66と転写用磁気ディスク60との密着性評価方法について図8に基づき具体的に説明する。
【0065】
最初に、図8におけるステップ102(S102)の密着工程を行う。
【0066】
具体的には、図2(b)に示すように、上記工程により作製したマスターディスク66の凹凸パターンの形成されている面と、転写用磁気ディスク60の磁性層60Mの形成されている面とを所定の印加圧力で密着させる。
【0067】
転写用磁気ディスク60には、マスターディスク66に密着させる前に、グライドヘッド、研磨体等により、表面の微少突起又は付着塵埃を除去するクリーニング処理(バーニッシング等)が必要に応じて施される。
【0068】
尚、密着工程では、図2(b)に示すように、転写用磁気ディスク60の片面にマスターディスク66を密着させる場合と、両面に磁性層が形成された転写用磁気ディスク60について、両面からマスターディスク66を密着させる場合とがある。後者の場合では、両面を同時転写することができる利点がある。
【0069】
次に、図8におけるステップ104(S104)の磁気転写工程を行う。具体的に図2(c)に基づき説明する。
【0070】
上記密着工程により転写用磁気ディスク60とマスターディスク66とを密着させたものについて、後述する磁界印加手段30により初期化磁界Hiの向きと反対方向に記録用磁界Hdを発生させる。記録用磁界Hdを発生させることにより生じた磁束が転写用磁気ディスク60とマスターディスク66に進入することにより磁気転写が行われる。
【0071】
本実施の形態では、記録用磁界Hdの大きさは、転写用磁気ディスク60の磁性層60Mを構成する磁性材料のHcと略同じ値である。
【0072】
磁気転写は、転写用磁気ディスク60及びマスターディスク66を密着させたものを回転させつつ、磁界印加手段によって記録用磁界Hdを印加し、マスターディスク66に記録されている凹凸パターンからなる情報を転写用磁気ディスク60の磁性層60Mに磁気転写する。
【0073】
図9は、磁気転写に用いられる磁気転写装置について詳細に示したものである。磁気転写装置は、コア32にコイル33が巻きつけられた電磁石からなる磁界印加手段30を有するものであり、このコイル33に電流を流すことによりギャップ31において、密着させたマスターディスク66と転写用磁気ディスク60の磁性層60Mに対し垂直に磁界を発生する構造になっている。発生する磁界の向きは、コイル33に流す電流の向きによって変えることができる。従って、この磁気転写装置によって、初期磁化を行うことも磁気転写を行うことも可能である。この磁気転写装置により初期磁化させた後、磁気転写を行う場合には、磁界印加手段30のコイル33に、初期磁化したときにコイル33に流した電流の向きと逆向きの電流を流す。これにより、初期磁化の際の磁化向きとは反対の向きに記録用磁界Hdを発生させることができる。磁気転写は、転写用磁気ディスク60及びマスターディスク66を密着させたものを回転させつつ、磁界印加手段30によって記録用磁界Hdを印加し、マスターディスク66に記録されている凹凸パターンからなる情報を転写用磁気ディスク60の磁性層60Mに磁気転写するため、不図示の回転手段が設けられている。尚、この構成以外にも、磁界印加手段30を回転させる機構を設け、転写用磁気ディスク60及びマスターディスク66に対し、相対的に回転させる手法であってもよい。
【0074】
磁気転写工程における、転写用磁気ディスク60とマスターディスク66の断面の様子を図3(b)に示す。
【0075】
図3(b)に示すように、基板67表面に凹凸パターンが形成され、その上に磁性層68が形成されたマスターディスク66と転写用磁気ディスク60とが密着した状態においては、マスターディスク66の凸領域では、マスターディスク66の磁性層68と転写用磁気ディスク60の磁性層60Mとが接触している。
【0076】
このため、記録用磁界Hdを印加すると、磁束Gはマスターディスク66の凸領域、即ち、マスターディスク66の磁性層68と転写用磁気ディスク60の磁性層60Mと接触している領域では、記録用磁界Hdにより、マスターディスク66の磁性層68の磁化向きが記録用磁界Hdの方向に揃い、転写用磁気ディスク60の磁性層60Mに磁気情報が転写される。一方、マスターディスク66の凹領域、即ち、マスターディスク66の磁性層68が形成されていない領域では、マスターディスク66の磁性層68が存在しないため、記録用磁界Hdの印加によって、転写用磁気ディスク60の磁性層60Mの磁化向きが変わることはなく、初期磁化の状態を保ったままである。
【0077】
次に、図8におけるステップ106(S106)の剥離工程を行う。剥離工程では、転写用磁気ディスク60をマスターディスク66から取り外すものである。これにより、図3(c)に示すように、転写用磁気ディスク60の磁性層60Mには、サーボ信号等の磁気パターンの情報が、初期磁化Piの反対向きの磁化となる記録磁化Pdとして記録される。尚、転写用磁気ディスク60の磁性層60Mは垂直磁化膜であることから、初期磁化Piと記録磁化Pdは境界には磁壁Dが形成される。
【0078】
又、マスターディスク66の基板67に形成された凹凸パターンは、図6(d)に示すポジパターンと反対のネガパターンであってもよい。この場合、初期化磁界Hiの方向及び記録用磁界Hdの方向を各々逆方向にすることにより、転写用磁気ディスク60の磁性層60Mに、同様の磁化パターンを磁気転写することができるからである。
【0079】
尚、本実施の形態では、磁界印加手段は、電磁石の場合について説明したが、同様に磁界が発生する永久磁石を用いても良い。
【0080】
次に、図8におけるステップ108(S108)の計測工程を行う。計測工程では、図1に示した計測手段25を用いるが、この計測手段25について詳細に説明する。計測手段25に用いた測定装置は、電磁変換特性測定装置(協同電子社製LS−90)である。この装置において、磁気ヘッドには、再生ヘッドギャップが0.06μm、再生トラック幅が0.14μm、記録ヘッドギャップが0.4μm、記録トラック幅が2.4μmであるMRヘッドを使用した。読み込んだ信号をスペクトロアナライザーで周波数分解し、1次信号のピーク強度を測定した。
【0081】
この装置により得られた情報を基に、サーボ信号領域の情報のみを除去することにより、サーボ信号領域以外の領域の信号強度の計測を行うものである。
【0082】
本実施の形態では、転写用磁気ディスクの回転数は、4200〔rpm〕で回転させ、サンプリング速度は、1〔Gs/sec〕として、出力の積分値を用いた。尚、サーボ仕様が異なる場合、データの収集数が異なることから、上記出力の積分値をデータ点数で平均化した出力を用いた。
【0083】
図10は、上記計測装置により測定した直後の転写用磁気ディスクの再生信号波形を示す。この再生信号波形はサーボ信号を含むものであるが、この再生信号よりサーボ領域に記録されているサーボ信号を除去することにより、転写用磁気ディスクのサーボ領域以外の領域の再生信号を得ることができる。
【0084】
次に、図8におけるステップ110(S110)の表示工程を行う。
【0085】
表示工程では、このように計測された出力の積分値と転写用磁気ディスクの座標位置との関係について、表示手段20であるディスプレー上に表示する。
【0086】
図11は、転写用磁気ディスク一周あたりのサーボフレーム数が128本の場合において、本実施の形態により得られた結果を示す。表示手段20において、図に示すように転写用磁気ディスク60の座標位置と出力の積分値が表示されるが、この関係が密着性と高い相関性を有しているため、この表示に基づき密着状態が視覚的に理解することができる。よって、マスターディスク66と転写用磁気ディスク60との密着状況を瞬時に把握することができ、密着不良の原因調査等において極めて有効である。
【0087】
即ち、本実施の形態では、垂直磁化膜からなる磁性層を有する転写用磁気ディスク60について、マスターディスク66に記録されている情報を垂直磁界の印加により磁気転写する方法においては、磁気転写された転写用磁気ディスク60におけるサーボ領域以外の領域の再生信号は、記録されるサーボフレーム数、マスターディスク66の厚さ、マスターディスク66に形成される凹凸パターンの高低差、マスターディスク66と転写用磁気ディスク60との密着させる際の印加圧力に依存することが解った。従って、この再生信号を解析することにより、マスターディスク66と転写用磁気ディスク60との密着性、マスターディスク66の変形量を評価する際の情報量を増加させることができ、評価が飛躍的に向上させることができた。
【0088】
また、この密着性評価方法ではマスターディスク66の密着状態が視覚化されるため、マスターディスク66の密着状態の最適化、マスターディスク66や転写用磁気ディスク60を固定するための吸引機構の最適化、この吸引機構とサーボフレーム数との相関関係、マスターディスク66の剛性及び形成される凹凸パターンの高低差と密着状態との相関関係等の解析を行う上で極めて効果的である。
【0089】
〔第2の実施の形態〕
第2の実施の形態は、転写用磁気ディスク60の再生出力の積分値についてフーリエ変換を行い、その結果を表示するマスター記録媒体の密着性評価方法である。
【0090】
第2の実施の形態のマスター記録媒体の密着性評価方法について、図12に基づき具体的に説明する。
【0091】
最初に、ステップ202(S202)における密着工程を行う。具体的な内容は第1の実施の形態と同様である。
【0092】
次に、ステップ204(S204)における磁界印加工程を行う。具体的な内容は第1の実施の形態と同様である。
【0093】
次に、ステップ206(S206)における剥離工程を行う。具体的な内容は第1の実施の形態と同様である。
【0094】
次に、ステップ208(S208)における計測工程を行う。具体的な内容は第1の実施の形態と同様である。
【0095】
次に、ステップ210(S210)における演算工程を行う。この演算工程では、計測工程により計測した転写用磁気ディスク60のサーボ領域以外の領域の再生信号出力の積分値について、図1に示す演算手段15により、転写用磁気ディスク60の各々の半径位置において、同一半径位置における周方向の信号強度についてフーリエ変換を行うものである。
【0096】
次に、ステップ212(S212)における表示工程を行う。表示工程では、上記演算工程において、演算手段15により行われたフーリエ変換の結果について、表示手段25に表示するためのものである。具体的に、本実施の形態において、この表示手段25に表示される結果は、転写用磁気ディスク60の半径位置と次数との関係が2次元的に表示される。具体的に、本実施の形態により得られた転写用磁気ディスク60の半径位置と次数の関係を図13に示す。図13に示されるように、半径位置と次数の関係が一目して理解することができるため、マスターディスク66と転写用磁気ディスク60との密着性の評価を視覚的に瞬時にすることができる。
【0097】
以上、本発明に係るマスター記録媒体の密着性評価方法及び密着性評価装置について詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行うことは可能である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明に係るマスター記録媒体の密着性評価装置のブロック図
【図2】磁気転写における工程の概要図
【図3】磁気転写における各工程における転写用磁気ディスクの断面図
【図4】磁気転写に用いるマスターディスクの形成方法の工程図(1)
【図5】磁気転写に用いる別のマスターディスクの形成方法の工程図(1)
【図6】磁気転写に用いるマスターディスクの形成方法の工程図(2)
【図7】形成されたマスターディスクの上面図
【図8】本発明の第1の実施の形態におけるマスターディスクの密着性評価方法のフローチャート
【図9】本発明に用いられる磁気転写装置の断面図
【図10】本発明の第1の実施の形態における評価装置より出力されたサーボ信号を含む出力波形図
【図11】本発明の第1の実施の形態における密着性評価方法により得られた関係図
【図12】本発明の第2の実施の形態におけるマスターディスクの密着性評価方法のフローチャート
【図13】本発明の第2の実施の形態における密着性評価方法により得られた関係図
【符号の説明】
【0099】
10…制御部、15…演算手段、20…表示手段、25…計測手段、30…磁界印加手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気転写する情報に応じて凹凸パターンを形成し前記凹凸パターン上に磁性層を形成したマスター記録媒体と、磁気転写される垂直磁化膜からなる磁性層を有する磁気記録媒体との密着性を評価するためのマスター記録媒体の密着性評価方法において、
前記マスター記録媒体の磁性層の形成された面と、前記磁気記録媒体の磁性層とを密着させる密着工程と、
前記密着させたマスター記録媒体と磁気記録媒体に対し、垂直に磁界を印加する磁界印加工程と、
前記垂直に磁界を印加した後、マスター記録媒体から磁気記録媒体を剥離する剥離工程と、
前記剥離した磁気記録媒体について、前記マスター記録媒体における凹凸パターンの形成されていない領域に対応する領域の信号強度を計測する計測工程と、
前記信号強度と、前記信号強度の計測された磁気記録媒体の座標位置との関係を2次元的に表示する表示工程と、
からなることを特徴とするマスター記録媒体の密着性評価方法。
【請求項2】
磁気転写する情報に応じて凹凸パターンを形成し前記凹凸パターン上に磁性層を形成したマスター記録媒体と、磁気転写される垂直磁化膜からなる磁性層を有する磁気記録媒体との密着性を評価するためのマスター記録媒体の密着性評価方法において、
前記マスター記録媒体の磁性層の形成された面と、前記磁気記録媒体の磁性層とを密着させる密着工程と、
前記密着させたマスター記録媒体と磁気記録媒体に対し、垂直に磁界を印加する磁界印加工程と、
前記垂直に磁界を印加した後、マスター記録媒体から磁気記録媒体を剥離する剥離工程と、
前記剥離した磁気記録媒体について、前記マスター記録媒体における凹凸パターンの形成されていない領域に対応する領域の信号強度を計測する計測工程と、
前記磁気記録媒体の各々の半径位置において、同一半径位置における周方向の前記信号強度についてフーリエ変換を行う演算工程と、
前記半径位置と前記フーリエ変換により得られた次数との関係を2次元的に表示する表示工程と、
からなることを特徴とするマスター記録媒体の密着性評価方法。
【請求項3】
磁気転写する情報に応じて凹凸パターンを形成し前記凹凸パターン上に磁性層を形成したマスター記録媒体と、磁気転写される垂直磁化膜からなる磁性層を有する磁気記録媒体との密着性を評価するためのマスター記録媒体の密着性評価装置において、
前記マスター記録媒体の磁性層の形成された面と、前記磁気記録媒体の磁性層とを密着させ、
前記密着させたマスター記録媒体と磁気記録媒体に対し、垂直に磁界を印加する磁界印加手段と、
前記垂直に磁界を印加した後、マスター記録媒体から磁気記録媒体を剥離し、
前記剥離した磁気記録媒体について、前記マスター記録媒体における凹凸パターンの形成されていない領域に対応する領域の信号強度を計測する計測手段と、
計測された前記信号強度と、前記信号強度の計測された前記磁気記録媒体における座標位置との関係を2次元的に表示する表示手段と、
からなることを特徴とするマスター記録媒体の密着性評価装置。
【請求項4】
磁気転写する情報に応じて凹凸パターンを形成し前記凹凸パターン上に磁性層を形成したマスター記録媒体と、磁気転写される垂直磁化膜からなる磁性層を有する磁気記録媒体との密着性を評価するためのマスター記録媒体の密着性評価装置において、
前記マスター記録媒体の磁性層の形成された面と、前記磁気記録媒体の磁性層とを密着させ、
前記密着させたマスター記録媒体と磁気記録媒体に対し、垂直に磁界を印加する磁界印加手段と、
前記垂直に磁界を印加した後、マスター記録媒体から磁気記録媒体を剥離し、
前記剥離した磁気記録媒体について、前記マスター記録媒体における凹凸パターンの形成されていない領域に対応する領域の信号強度を計測する計測手段と、
前記磁気記録媒体の各々の半径位置において、同一半径位置における周方向の前記信号強度についてフーリエ変換を行う演算手段と、
前記半径位置と前記フーリエ変換により得られた次数との関係を2次元的に表示する表示手段と、
からなることを特徴とするマスター記録媒体の密着性評価装置。
【請求項1】
磁気転写する情報に応じて凹凸パターンを形成し前記凹凸パターン上に磁性層を形成したマスター記録媒体と、磁気転写される垂直磁化膜からなる磁性層を有する磁気記録媒体との密着性を評価するためのマスター記録媒体の密着性評価方法において、
前記マスター記録媒体の磁性層の形成された面と、前記磁気記録媒体の磁性層とを密着させる密着工程と、
前記密着させたマスター記録媒体と磁気記録媒体に対し、垂直に磁界を印加する磁界印加工程と、
前記垂直に磁界を印加した後、マスター記録媒体から磁気記録媒体を剥離する剥離工程と、
前記剥離した磁気記録媒体について、前記マスター記録媒体における凹凸パターンの形成されていない領域に対応する領域の信号強度を計測する計測工程と、
前記信号強度と、前記信号強度の計測された磁気記録媒体の座標位置との関係を2次元的に表示する表示工程と、
からなることを特徴とするマスター記録媒体の密着性評価方法。
【請求項2】
磁気転写する情報に応じて凹凸パターンを形成し前記凹凸パターン上に磁性層を形成したマスター記録媒体と、磁気転写される垂直磁化膜からなる磁性層を有する磁気記録媒体との密着性を評価するためのマスター記録媒体の密着性評価方法において、
前記マスター記録媒体の磁性層の形成された面と、前記磁気記録媒体の磁性層とを密着させる密着工程と、
前記密着させたマスター記録媒体と磁気記録媒体に対し、垂直に磁界を印加する磁界印加工程と、
前記垂直に磁界を印加した後、マスター記録媒体から磁気記録媒体を剥離する剥離工程と、
前記剥離した磁気記録媒体について、前記マスター記録媒体における凹凸パターンの形成されていない領域に対応する領域の信号強度を計測する計測工程と、
前記磁気記録媒体の各々の半径位置において、同一半径位置における周方向の前記信号強度についてフーリエ変換を行う演算工程と、
前記半径位置と前記フーリエ変換により得られた次数との関係を2次元的に表示する表示工程と、
からなることを特徴とするマスター記録媒体の密着性評価方法。
【請求項3】
磁気転写する情報に応じて凹凸パターンを形成し前記凹凸パターン上に磁性層を形成したマスター記録媒体と、磁気転写される垂直磁化膜からなる磁性層を有する磁気記録媒体との密着性を評価するためのマスター記録媒体の密着性評価装置において、
前記マスター記録媒体の磁性層の形成された面と、前記磁気記録媒体の磁性層とを密着させ、
前記密着させたマスター記録媒体と磁気記録媒体に対し、垂直に磁界を印加する磁界印加手段と、
前記垂直に磁界を印加した後、マスター記録媒体から磁気記録媒体を剥離し、
前記剥離した磁気記録媒体について、前記マスター記録媒体における凹凸パターンの形成されていない領域に対応する領域の信号強度を計測する計測手段と、
計測された前記信号強度と、前記信号強度の計測された前記磁気記録媒体における座標位置との関係を2次元的に表示する表示手段と、
からなることを特徴とするマスター記録媒体の密着性評価装置。
【請求項4】
磁気転写する情報に応じて凹凸パターンを形成し前記凹凸パターン上に磁性層を形成したマスター記録媒体と、磁気転写される垂直磁化膜からなる磁性層を有する磁気記録媒体との密着性を評価するためのマスター記録媒体の密着性評価装置において、
前記マスター記録媒体の磁性層の形成された面と、前記磁気記録媒体の磁性層とを密着させ、
前記密着させたマスター記録媒体と磁気記録媒体に対し、垂直に磁界を印加する磁界印加手段と、
前記垂直に磁界を印加した後、マスター記録媒体から磁気記録媒体を剥離し、
前記剥離した磁気記録媒体について、前記マスター記録媒体における凹凸パターンの形成されていない領域に対応する領域の信号強度を計測する計測手段と、
前記磁気記録媒体の各々の半径位置において、同一半径位置における周方向の前記信号強度についてフーリエ変換を行う演算手段と、
前記半径位置と前記フーリエ変換により得られた次数との関係を2次元的に表示する表示手段と、
からなることを特徴とするマスター記録媒体の密着性評価装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2008−16083(P2008−16083A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−183529(P2006−183529)
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月3日(2006.7.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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