説明

マット層形成用インキ及びマット加飾シート

【課題】人が触っても指紋が付着し難く、付着した指紋が除去し易いマット面を提供するマット層を形成するのに使用される、マット層形成用インキを提供すること。
【解決手段】被装飾物品にマット面を提供するマット加飾シートのマット層を形成するのに使用され、有機溶媒、結合剤として熱硬化性樹脂及びマット剤として粒子を含む、マット層形成用インキであって、該マット剤は、平均粒子径が2〜20μmの各種粒子のうち、平均粒子径において1.5μm以上の差を有する2種類の粒子を含有するものであるマット層形成用インキ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被装飾物品にマット面を提供するマット層を形成するのに使用される、マット層形成用インキに関する。
【背景技術】
【0002】
物品に艶消しの外観が要求される場合、物品の表面に微細な凹凸を形成することが行われる。例えば、表面に微細な凹凸を形成するマット層が物品の表面に固定される。微細な凹凸が形成されることにより艶消しされた表面を「マット面」という。
【0003】
加飾シートを用いてプラスチック部品や外装品のような物品の表面を保護又は装飾する方法は従来から知られている。加飾シートは、支持体である基体シートの面上に加飾層が設けられた構成である。加飾シートはこの加飾層と共に物品の表面に固定される。加飾層は色彩、図柄などの視覚的効果を有し、物品表面に保護被覆や装飾被覆を提供する。
【0004】
艶消しも視覚的効果であるからマット層も加飾層の一種である。加飾層の最外側にマット層を位置させると、加飾シートを用いて、物品の表面にマット面を提供することができる。本明細書では、加飾シートの配置について、被装飾物品の側を内側といい、観者の側を外側という。
【0005】
特許文献1には、基体シート及び該基体シートの面上に形成されたマット層を有するマット加飾シートが記載されている。マット層は二液硬化型樹脂及び艶消し剤を含むマットコート剤からなるものである。このマット加飾シートは、マット層が最外側に位置するように成形品などの被装飾物品の表面に固定され、その結果、被装飾物品にマット面が提供される。
【0006】
しかし、マット面には微細な凹凸が存在するため、人が触ると指紋が付着し易く、一旦指紋が付着すると除去が困難である。そのため、マット面を有する装飾物品は、商品として展示されている間や使用中に人の手に触れた場合に、美観が損なわれ易いという問題がある。
【0007】
特許文献2には、表面に微細構造体(好ましくは、多数のプリズム体)を有する透明な反射フィルムが記載されている。この微細構造体は規則的なパターンで配置され、形状、高さ及び分布密度が制御されている。そのことにより表面反射分割領域を形成し、表面反射を微細構造体の面方向に分割可能としたので、平滑な表面からの特定方向への強い鏡面反射を抑えることができる。その結果、たとえ光学フィルムの表面に指紋などの汚れが付着したとしても、その汚れをあまり目立たなくすることができ、表示性能の低下を抑制し、視認性を向上させている。
【0008】
特許文献3には、傷による艶上がりが生ずることなく、汚れが付着しても簡単に除去できる艶消し塗膜及び艶消し塗料組成物が記載されている。この艶消し塗料組成物は艶消し剤(A)及び艶消し剤(B)という2種類の艶消し剤を含んでいる。そして、艶消し剤(A)の平均粒子径が艶消し剤(B)の平均粒子径より小さい。
【0009】
汚れ除去に関して、具体的には、大きな凹凸の凹部に汚れが付着し除去できなく、商品性を損ねる問題が指摘されている。また、塗膜の汚れ除去性を評価するための実験では、汚れのモデルとしてカーボンと水の混合物が用いられている。
【0010】
そうすると、ここでいう汚れは、泥のように、流動性を有していて隙間に侵入し、その後乾燥して固着してしまうような汚れを意味している。人が触った場合に付着する指紋のような油性の汚れは課題として認識されていない。
【0011】
また、上記汚れが付着する機構の説明に表れているように、特許文献3の技術は、艶消し塗膜の表面凹凸の凹部を浅くすることを目的としている。つまり、特許文献3の艶消し塗膜では、塗膜の表面において、平均粒子径が小さい艶消し剤(A)は平均粒子径が大きい艶消し剤(B)の間に入って凹部を埋める成分として機能している(図1)。それゆえ、艶消し面に形成される凹凸は浅くなり、艶消し効果が不十分である。
【0012】
更に、特許文献3では艶消し剤として、プロテイン粒子及びアクリル樹脂粒子等の有機材料が使用されており、艶消し効果の安定性及び持続性が不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−290389
【特許文献2】特開2004−361835
【特許文献3】特開2005−298686
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、人が触っても指紋が付着し難く、付着した指紋が除去し易いマット面を提供するマット層を形成するのに使用される、マット層形成用インキを提供することにある。
【0015】
本明細書では、人が触っても指紋が付着し難く、付着した指紋が除去し易い特性を耐指紋性という。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、被装飾物品にマット面を提供するマット加飾シートのマット層を形成するのに使用され、有機溶媒、結合剤として熱硬化性樹脂及びマット剤として粒子を含む、マット層形成用インキであって、
該マット剤は、平均粒子径が2〜20μmの各種粒子のうち、平均粒子径において1.5μm以上の差を有する2種類の粒子を含有するものであるマット層形成用インキを提供する。
【0017】
ある一形態においては、前記2種類の粒子のうちで平均粒子径が大きい方の大粒子はマット剤中に20〜60重量%の量、及び前記2種類の粒子のうちで平均粒子径が小さい方の小粒子はマット剤中に40〜80重量%の量で含有される。
【0018】
ある一形態においては、前記マット剤が前記2種類の粒子からなるものである。
【0019】
ある一形態においては、前記マット剤の平均BET比表面積が230〜500m/gである。
【0020】
ある一形態においては、前記2種類の粒子は比重において0.2以内の差を有するものである。
【0021】
ある一形態においては、前記粒子がシリカ粒子又はカーボンブラック粒子である。
【0022】
また、本発明は、基体シートの面上に加飾層を有し、最も外側に位置する加飾層がマット層であるマット加飾シートであって、該マット層が上記いずれかのマット層形成用インキから形成されたものである、マット加飾シートを提供する。
【0023】
ある一形態においては、前記マット層の厚みが0.5〜8.0μmである。
【0024】
また、本発明は、上記いずれかのマット層形成用インキを用いて形成されたマット面を有する装飾物品を提供する。
【0025】
また、本発明は、上記いずれかのマット加飾シートを用いて形成されたマット面を有する装飾物品を提供する。
【発明の効果】
【0026】
本発明のマット層形成用インキは、マット剤として均一に分散された小粒子及び大粒子を含む。そのため、本発明のマット層形成用インキから形成されるマット層は表面に不揃いな凹凸を有する。そのために、本発明のマット層形成用インキから形成されるマット面は耐指紋性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態であるマット加飾シートの構造を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態であるマット面を有する装飾物品の構造を示す断面図である。
【図3】本発明のマット面の模式拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
マット加飾シート
図1は本発明の一実施形態であるマット加飾シート5の構造を模式的に示す断面図である。基体シート1の一方の面上にマット層2が設けられ、もう一方の面上に着色層3及び接着層4が設けられている。
【0029】
基体シート1は、加飾層等をシート上に支持する用途に従来から使用されるシート材料又はフィルム材料である。フィルム材料は合成樹脂からなるシート材料をいう。合成樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ウレタン系樹脂、及び、アクリロニトリルブタジエンスチレン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の合成樹脂が好ましく挙げられる。
【0030】
また基体シートとしては、上記の合成樹脂から形成された単層シート、単層シートを2以上積層した積層シート(各単層シートの材料組成は上記群から選択された合成樹脂を使用していれば同一であっても異なっていてもよい)、上記の合成樹脂を用いた共重合シートなどが挙げられる。
【0031】
基体シートの厚みは、5〜500μmであることが好ましい。基体シートの厚みが5μm以上であると、被装飾物品に加飾シートを固定する場合に、加飾シートを金型に配置する時のハンドリング性をより十分に確保できる。また、基体シートの厚みが500μm以下であると、適度な剛性を得ることができハンドリング性をより十分に確保できるようになる。
【0032】
基体シートの面は、印刷性が良好になるように表面処理されていてよい。しかし、マット加飾シートの用途では、基体シートは単独で剥離されない。それゆえ、基体シートの面は剥離性を示す必要はなく、剥離性を付与するために表面処理される必要はない。
【0033】
マット層2はマット面を提供する層である。マット層2は基体シートの面上の一部に形成されていてもよい。マット層2を部分的に形成することにより、艶表面とマット表面とを組み合わせた表現を行うことができる。マット層2はマット加飾シートの加飾層の中で最も外側に位置する。
【0034】
マット層2としては、例えば、アミノアルキッド系樹脂、尿素メラミン系樹脂、またはこれらの混合物を主成分とし、粒子をマット剤として含有するものを用いるとよい。
【0035】
マット層2を形成するためのマット層形成用インキは、有機溶媒、結合剤として熱硬化性樹脂及びマット剤として粒子を含む組成物を用いる。マット層形成用インキはグラビア印刷が可能なインキ組成物であることが好ましい。
【0036】
有機溶媒は、グラビア印刷用インキに従来から使用されている種類のものであれば特に限定されない。例えば、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、酢酸エチル、酢酸ブチル、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサノン、イソプロピルアルコール(IPA)、メタノール、エタノールなどが挙げられる。
【0037】
熱硬化性樹脂の例としては、尿素、メラミン、グアナミン、アニリンのようなアミノ基を持った不乾性油変性アルキッドに、ホルムアルデヒドを付加縮合させて得られる樹脂を5〜40重量%配合した樹脂組成物、又はメラミンと尿素の混合物をホルムアルデヒドと共縮合反応させて得られる樹脂、エポキシ樹脂とメラミン樹脂の混合物である樹脂などが挙げられる。
【0038】
粒子は不溶性及び硬質である必要がある。マット層形成用インキには印刷インキ用の有機溶剤が含まれる。また、接着工程等においてマット層は加熱及び加圧される。そのため、粒子が耐溶剤性、耐熱性又は耐圧性に劣っていると艶消し効果が損なわれるためである。それゆえ、粒子は無機材料からなることが好ましい。
【0039】
かかる粒子の具体例には、シリカ粒子及びカーボンブラック粒子が挙げられる。シリカ粒子は、例えば石英や無水ケイ酸などによって得られるものを用いればよい。カーボンブラック粒子は、例えば、天然ガスや石油、クレオソート油などの炭化水素の熱分解と不完全燃焼の組み合わせによって得られるものを用いればよい。溶剤による膨潤性、形状安定性および成形時の耐熱性などという観点から、粒子としてシリカ粒子が特に好ましい。
【0040】
マット剤としての粒子は少なくとも2種類の粒子を含む。ここで、粒子の種類は、市場において入手可能な粒子製品を単位として区別される。例えば、艶消し剤として市販されている粒子製品のうち、何らかの特性値が相違する粒子製品は種類が異なる粒子である。
【0041】
上記2種類の粒子(粒子製品)は2〜20μmの平均粒子径を有する粒子(粒子製品)から選択される。いずれかの粒子の平均粒子径が2μm未満であるとマット面のマット感が不十分になり、20μmを超えると印刷適性に不具合が生じることとなる。
【0042】
尚、ここでいう平均粒子径は、粒子体積の累積の50%平均径であるメディアン径(D50)を意味する。平均粒子径は、レーザ回折散乱法粒度分布測定装置(例えば、ベックマン・コールター社製「LS13 320」)を用いて測定することができる。
【0043】
2種類の粒子は、平均粒子径の差が1.5μm以上であることが好ましい。そうすることで、マット層形成用インキから形成されるマット層は表面に不揃いな凹凸を有する。結果として、被装飾物品のマット面には不揃いな深さ又は高さの凹凸が形成され、そのために耐指紋性が向上する。逆に、2種類以上の粒子であっても、平均粒子径の差が1.5μmに満たない場合には、面の深さ又は印刷面の高さに差が生じない傾向にあるため、マット層形成用インキを用いて形成されるマット面の耐指紋性が不十分になりうる。
【0044】
好ましい実施形態では、2種類の粒子の平均粒子径の差は1.5μm以上、より好ましくは1.7μm以上、更に好ましくは2.0μm以上である。
【0045】
上記2種類の粒子のうちで平均粒子径が大きい方の大粒子はマット剤中に20〜60重量%、好ましくは25〜55重量%、より好ましくは30〜50重量%の量で含有させる。大粒子の含有量が20重量%未満であるとマット感が不十分となり、60重量%を超えると塗布するインキの粘度が著しく上昇し、印刷適性が不適となる。
【0046】
上記2種類の粒子のうちで平均粒子径が小さい方の小粒子はマット剤中に40〜80重量%、好ましくは45〜75重量%、より好ましくは50〜70重量%の量で含有させる。小粒子の含有量が40重量%未満であると耐指紋性が不十分となり、80重量%を超えても耐指紋性が不十分となる。
【0047】
好ましい実施形態においては、大粒子の平均粒子径は5〜20μm、好ましくは6〜18μm、より好ましくは7〜15μmである。また、小粒子の平均粒子径は2〜5μm、好ましくは3〜4μmである。
【0048】
マット剤には、他の成分を含有させないで、大粒子及び小粒子から構成してもよい。その場合は、大粒子と小粒子の混合比は、重量比で20/80〜60/40、好ましくは25/75〜55/45、より好ましくは30/70〜50/50である。
【0049】
大粒子と小粒子の混合比が20/80未満であるとマット感が不十分となり、60/40を超えると耐指紋性が不十分となる。
【0050】
大粒子および小粒子は、各々独立して、BET比表面積が100〜500m/g、好ましくは200〜400m/g、より好ましくは250〜350m/gである。大粒子又は小粒子のBET比表面積が50m/g未満であるとマット剤が沈降し易くなる。また、大粒子又は小粒子の平均BET比表面積が低すぎると粒子が結合剤から脱落し易くなり、マット面の耐摩耗性が低下する。大粒子又は小粒子のBET比表面積が500m/gを超えるとマット剤同士が凝集し、再分散しにくくなる。
【0051】
尚、BET比表面積は、JISZ8830に規定されている試験方法によって決定することができる。
【0052】
大粒子は比重が0.1〜1、好ましくは0.15〜0.5、より好ましくは0.2〜0.4である。大粒子の比重が0.1未満であるとインキへの分散が困難となり、1を超えるとシリカが分散せずインキ中に沈降する。
【0053】
小粒子は比重が0.1〜1、好ましくは0.15〜0.5、より好ましくは0.2〜0.4である。小粒子の比重が0.1未満であるとインキへの分散が困難になり、1を超えるとインキへの分散が困難になり、沈降してしまう。
【0054】
大粒子と小粒子の比重差は小さい方が好ましい。2種類の粒子の比重差は0.3以内、好ましくは0.2以内、より好ましくは0.15以内である。2種類の粒子の比重差が0.3を超えるとインキ中での分散性が不安定となる。
【0055】
2種類の粒子を含むマット剤は平均BET比表面積が230〜500m/g、好ましくは240〜450m/g、より好ましくは250〜400m/gである。マット剤の平均BET比表面積が230m/g未満であるとマット剤の沈降が生じる。また、マット剤の平均BET比表面積が低すぎるとマット剤が結合剤から脱落し易くなり、マット面の耐摩耗性が低下する。マット剤の平均BET比表面積が500m/gを超えるとマット剤同士が凝集し、再分散しにくくなる。
【0056】
マット剤の平均BET比表面積は、マット剤に含まれる粒子のBET比表面積を、各粒子の含有比(重量比)に応じて加重平均することにより算出される。
【0057】
マット剤は、マットインキ又はマット塗料中に、典型的には、固形分を基準にして0.5〜20重量%、好ましくは1〜10重量%、より好ましくは3〜8重量%となる量で含有される。マット剤の含有量が少なすぎると良好なマット調の装飾が得られないこととなり、多すぎるとインキ中でマット剤が沈降・凝集し、印刷適性に悪影響を及ぼすこととなる。
【0058】
基体シート1の面上にマット層2を設けるには、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法など通常の印刷法を用いるとよい。効率的に高品質のパターンを形成するためには、これらの中でもグラビア印刷法を用いることが好ましい。
【0059】
マット層2の厚みは0.1μm〜50μmとする。0.1μm未満であれば、二次元や三次元形状に成形したり成形同時加飾したりする際に、基体シート1が伸ばされるので、その部分でマット層が剪断される可能性があり、マット感を喪失するおそれがある。また、50μmを越えると、二次元や三次元形状に成形したり成形同時加飾したりする際に、基体シートの伸びに追随できずマット層自体にクラックを生じてしまう。より好ましいマット層の厚みは0.5〜30μm、更に好ましくは1〜20μmである。
【0060】
着色層3は被装飾物品の地色を隠蔽して被装飾物品を着色するための層である。着色層3は、マット加飾シートの加飾層の中で、最も外側でないいずれかの位置に配置されてよい。要すれば、基体シート1とマット層2の間に着色層3が代替的に又は追加的に配置されてよい。着色層3は、基体シートの表面に、インキ又は塗料を展着させて形成する。
【0061】
着色層のバインダーとなる合成樹脂としては、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体樹脂、熱可塑ウレタン系樹脂、メタアクリル系樹脂、アクリル酸エステル系樹脂、塩化ゴム系樹脂、塩化ポリエチレン系樹脂、及び、塩素化ポリプロピレン系樹脂からなる群より選択される少なくとも1種の合成樹脂であることが好ましい。
【0062】
着色層の着色剤としては、顔料又は染料が挙げられる。着色層の着色剤は加飾シートを着色する用途に従来から使用される種類のものが用いられる。好ましい着色剤の具体例は、(1)インジゴ、アリザリン、カーサミン、アントシアニン、フラボノイド、シコニンなどの植物色素、(2)アゾ、キサンテン、トリフェニルメタンなどの食用色素、(3)黄土、緑土などの天然無機顔料、(4)アクリル系、ウレタン系などの無機顔料、(5)炭酸カルシウム、酸化チタン、アルミニウムレーキ、マダーレーキ、コチニールレーキなどが挙げられる。
【0063】
着色層を形成するために、金属薄膜細片をバインダー樹脂中に分散した、鏡面状金属光沢を有するインキ(以下、高輝性インキと言う。)からなる高輝性インキ層を用いてもよい。金属薄膜細片のインキ中の不揮発分に対する含有量は、3〜60質量%の範囲であることが好ましい。顔料として金属薄膜細片を使用した高輝性インキは、該インキを印刷又は塗布した際に金属薄膜細片が被塗物表面に対して平行方向に配向する結果、高輝度の鏡面状金属光沢が得られる。
【0064】
接着層4は、加飾シートの内側表面のうち被装飾物品に接着させたい部分に形成する。すなわち、内側表面全体を被装飾物品に接着させたい場合に、その表面全体に接着層を形成する。また、内側表面のうちの一部分を被装飾物品に接着させたい場合には、そのうちの一部分に接着層を形成する。
【0065】
接着層の構成材料としては、被装飾物品に対する十分な接着性を得ることができれば特に限定されない。接着層を被装飾物品に加熱圧着する場合には、接着層の構成材料としては、感熱性、感圧性を有する合成樹脂を適宜選択すればよい。
【0066】
例えば、被装飾物品の表面部分の構成材料がポリアクリル系樹脂の場合には、接着層の構成材料としては、ポリアクリル系樹脂を用いることが好ましい。また、例えば、被装飾物品の表面部分の構成材料がポリフェニレンオキシド共重合体、ポリスチレン系共重合体樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合には、接着層の構成材料としては、これらの樹脂と親和性のあるポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを適宜選択して採用すればよい。
【0067】
更に、例えば、被装飾物品の表面部分の構成材料がポリプロピレン樹脂の場合は、接着層の構成材料としては、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂が使用可能である。
【0068】
接着層の厚みは、0.5μm〜50μmであることが好ましい。接着層の厚みが0.5μm以上であると、十分な接着性をより容易かつ確実に得ることができるようになる。接着層の厚みが50μm以下であると、被装飾物品に加飾シートを固定した後に乾燥し易く好ましいマット層2はマット加飾シートの加飾層の中で最も外側に位置する。
【0069】
表示はしていないが、マット転写シートは、必要に応じて、ハードコート層、図柄層、アンカー層及び金属薄膜などを有してよい。
【0070】
例えば、ハードコート層は、必要に応じて、マット層の内側に配置される。ハードコート層は加飾層及び被装飾物を保護するために一定以上の硬度を有している層である。
【0071】
ハードコート層としては、熱、紫外線又は電子線等のエネルギーを印加すると架橋又は硬化するエネルギー架橋性樹脂を用いる。ハードコート層の材質としては、シアノアクリレート系やウレタンアクリレートなどの電離放射線硬化性樹脂や、アクリル系やウレタン系などの熱硬化性樹脂が挙げられるが、特に限定されない。好ましくは、エネルギー架橋性樹脂は紫外線又は電子線を印加して架橋する活性エネルギー線架橋性樹脂である。活性エネルギー線樹脂は、印加するエネルギーの量を増減することにより架橋の程度を容易に調整することができるからである。
【0072】
ハードコート層の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、リップコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。ハードコート層の厚みは0.3μm〜50μmとする。0.3μm未満であれば、充分な表面硬度が得られず。物品表面の保護機能が維持できない。一方、50μmを越えると、ハードコート層の充分な透明度が得られず着色層からの装飾機能を損なうこととなる。より好ましいハードコート層の厚みは2〜10μmである。
【0073】
ハードコート層は形成した後に架橋させることが好ましい。マット層形成用インキの印刷性が良好になるからである。架橋の程度は完全に架橋させてもよいし、また、マット層形成用インキの良好な印刷性が得られる最低限度の部分的な架橋に留めてもよい。架橋を部分的に留める場合は、ハードコート層は、被装飾物品に固定された後に完全に架橋させることが好ましい。
【0074】
また、図柄層は文字又は絵柄を示す層である。図柄層の成分及び形成方法は、図柄に応じたパターン状に形成すること以外は着色層と同様である。
【0075】
マット加飾シートを構成する層のうち各樹脂層の形成は、特に断らない限り、従来と同様の方法によって行うことができる。従来の層形成方法の例には、層を構成する成分を含むインキ又は塗料を用いたグラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0076】
被装飾物品にマット面を提供する方法
本発明のマット加飾シートを使用して、熱ロール接着又はインモールド成形などの方法により、被装飾物品の表面にマット面を提供することができる。例えば、熱ロール接着においては、マット加飾シートの接着層側(内側)の面を被装飾物品の表面に重ね、ロール転写機、アップダウン転写機などの転写機を用いて、マット加飾シートのマット層側(外側)から熱及び圧力をかける。こうすることにより、マット加飾シートの内側が被装飾物品の表面に接着し、被装飾物品の表面にマット面が固定される。
【0077】
また、インモールド射出成形においては、まず、成形用金型内に、マット加飾シートを送り込む。その際、マット加飾シートの向きは、マット層側(外側)が金型キャビティ面を向くように合わせる。
【0078】
次いで、金型を閉じ、溶融樹脂がマット加飾シートの接着層側(内側)の面に接するように、即ち、マット加飾シートが溶融樹脂と金型キャビティ面に挟まれるように、溶融樹脂を金型のキャビティ内に充填させる。その結果、溶融樹脂は成形され、同時にマット加飾シートは射出成形体の表面に接着される。樹脂を冷却し、金型を開いて射出成形体を取り出すと、マット面が射出成形体の表面に固定されている。
【0079】
マット面を有する装飾物品
上記マット面の提供方法によって、被装飾物品に固定された本発明のマット加飾シートを有してなる装飾された物品が得られる。図2は本発明の一実施形態である装飾された物品の構造を示す断面図である。装飾された物品は被装飾物品10にマット加飾シート5が固定されている。
【0080】
被装飾物品は、加飾シートを用いて装飾可能な表面を有する物品であれば、特に限定されない。マット面の耐指紋性を発揮させる観点からは、通常の使用形態において、表面が人の手が触れる製品又は部品が好ましい。例えば、携帯電話の本体カバー、ノート型パソコンの本体カバー、メディアプレーヤーの本体カバー等が挙げられる。
【0081】
本発明のマット層形成用インキは、マット剤として均一に分散された小粒子及び大粒子を含む。そのため、本発明のマット層形成用インキから形成されるマット層は表面に不揃いな凹凸を有する。その結果、装飾物品のマット面には不揃いな凹凸が多数存在する。
【0082】
図3は本発明のマット面の模式拡大断面図である。マット面301には微細な多数の凹凸が形成されている。マット面301の凹凸は深さ又は高さが不揃いである。また、マット面301の凹凸の間隔S(ピッチ)、すなわち1つの山及びそれに隣り合う1つの谷に対応する平均線302の長さは不規則である。
【0083】
このマット面の算術平均粗さRa(JIS B−0601(1994))は0.05〜1.5μm、好ましくは0.1〜1.0μm、より好ましくは0.2〜0.8μmである。Raが0.05μm未満であるとマット面の外観の艶消し感が不足し、1.5μmを超えると凹凸が摩耗し易くなる。
【0084】
マット面の凹凸は深さ又は高さが不揃いである。凹凸の深さ又は高さがほぼ一定に揃っているか、又は凹凸のピッチがほぼ規則的(一定)であるとマット面の耐指紋性が低下し、また、艶消し効果も低下する。
【0085】
例えば、凹凸の高さ又は深さの不揃いの程度は、個々の凹凸の高さ又は深さの値がそれらの平均値からどれ位離れているかで表現することができる。ここで、基準長さlを10mmとして測定される、本発明のマット面の算術平均粗さRa値を1と仮定する。
【0086】
この場合、本発明のマット面には、基準長さl中に、平均線302からの高さが2.0を超える凸部が7個〜100個、好ましくは10〜50個、より好ましくは15〜40個存在する。そして、好ましくは、これに加えて、基準長さl中に、平均線302からの深さが2.0を越える凹部が7個〜100個、好ましくは10〜50個、より好ましくは15〜40個存在する。
【0087】
また、この場合、好ましくは、基準長さl中の最大高さRy(平均線302を中心にした最大振幅)は約1〜20μm、好ましくは約2〜15μm、より好ましくは約4〜10μmである。また、基準長さl中の平均線302を中心にした最小振幅は約0.1〜10μm、好ましくは約1〜6μm、より好ましくは約2〜5μmである。
【0088】
また、この場合、好ましくは、基準長さl中の凹凸のピッチの最小値は約0.1〜1μm、好ましくは約0.2〜0.8μm、より好ましくは約0.3〜0.7μmである。また、基準長さl中の凹凸のピッチの最大値は約1〜10μm、好ましくは約2〜8μm、より好ましくは約2.5〜5μmである。
【0089】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。尚、実施例中「部」又は「%」で表される量は特に断りなき限り重量基準である。
【実施例】
【0090】
実施例1〜6及び比較例1〜5
幅650mm、厚み38×10−3mm(38μm)の2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを基体シートとして用いた。この基体シートの一方の面に、グラビア印刷法を用いて、アミノアルキッド樹脂とアクリル樹脂の混合物に、マット剤としてシリカ粒子を添加したマットインキを印刷して、マット層を形成した。マット層の乾燥厚さは2μmとした。マットインキの組成は次の通りである。
【0091】
【表1】

【0092】
シリカ粒子としては次の種類のものを準備し、表3に示す様に組み合わせてマット剤として使用した。マット剤のBET比表面積はJISZ8830に従って分析をすることにより決定した。
【0093】
【表2】

【0094】
次いで、基体シートのもう一方の面に、着色層を3層重ねて印刷した。各層を形成する印刷インキとしては、酸化チタンを3.0重量%添加したアクリル系樹脂を使用した。印刷はグラビア印刷法を用いて行った。
【0095】
全ての着色層を乾燥させた後、最内側着色層を含め積層シートの面全体を被覆するように、アクリル樹脂、厚み1×10−3mm(1μm)となるようにグラビア印刷法でコーティングし、接着層を形成した。
【0096】
得られた加飾シートを透明アクリル板に接着させたところ、透明アクリル板の表面には艶消しされたマット面が提供された。
【0097】
表面粗さの測定
東京精密社製表面粗さ測定器「サーフコム1500SD」を用いて、JIS B−0601に準ずる方法(基準長さl=10mm)により、凹凸の深さ及び高さを測定し、マット面の算術平均粗さRa及び最大高さRy等を決定した。結果を表3に示す。
【0098】
耐指紋性の評価
(1)指紋除去容易性:
JIS K2246に記載されている指紋除去性試験方法に準拠して実施した。なお、指紋が除去されたかどうかの判断は、試験片の人工指紋液を付着させた部分の外観を三波長光源下にて20cm離して目視で観察することにより行った。結果を表3に示す。
【0099】
評価基準

【0100】
(2)指紋付着困難性:
転写品の表面に指を複数回接触させ、何回目で転写品の表面に指紋が付着するか試験した。指紋が付着したかどうかの判断は、試験片の指が接触した部分の外観を三波長光源下にて20cm離して目視で観察することにより行った。結果を表3に示す。
【0101】
評価基準

【0102】
表面光沢の測定
日本電色社製光沢計「PG−1M」を用いて、JIS Z−8741に準ずる方法により、マット面の光沢度を測定した。結果を表3に示す。
【0103】
評価基準

【0104】
マット面耐久性の評価
JIS K7204に記載されている磨耗輪による磨耗試験方法に準拠して、マット面の耐摩耗性を試験した。なお判断は、磨耗させた部分において、1mm×1mm以上の面積が削り取られたかどうか目視で観察することにより行った。結果を表3に示す。
【0105】
評価基準

【0106】
【表3】

【0107】
【表4】

【符号の説明】
【0108】
1…基体シート、
2…マット層、
3…着色層、
4…接着層、
5…マット加飾シート、
10…被装飾物品、
301…マット面、
302…平均線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被装飾物品にマット面を提供するマット加飾シートのマット層を形成するのに使用され、有機溶媒、結合剤として熱硬化性樹脂及びマット剤として粒子を含む、マット層形成用インキであって、
該マット剤は、平均粒子径が2〜20μmの各種粒子のうち、平均粒子径において1.5μm以上の差を有する2種類の粒子を含有するものであるマット層形成用インキ。
【請求項2】
前記2種類の粒子のうちで平均粒子径が大きい方の大粒子はマット剤中に20〜60重量%の量、及び前記2種類の粒子のうちで平均粒子径が小さい方の小粒子はマット剤中に40〜80重量%の量で含有される請求項1に記載のマット層形成用インキ。
【請求項3】
前記マット剤が前記2種類の粒子からなるものである請求項1又は2に記載のマット層形成用インキ。
【請求項4】
前記マット剤の平均BET比表面積が230〜500m/gである請求項1〜3のいずれか一項に記載のマット層形成用インキ。
【請求項5】
前記2種類の粒子は比重において0.2以内の差を有するものである請求項1〜4のいずれか一項に記載のマット層形成用インキ。
【請求項6】
前記粒子がシリカ粒子又はカーボンブラック粒子である請求項1〜5のいずれか一項に記載のマット層形成用インキ。
【請求項7】
基体シートの面上に加飾層を有し、最も外側に位置する加飾層がマット層であるマット加飾シートであって、該マット層が請求項1〜6のいずれか一項に記載のマット層形成用インキから形成されたものである、マット加飾シート。
【請求項8】
前記マット層の厚みが0.5〜8.0μmである請求項7に記載のマット加飾シート。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のマット層形成用インキを用いて形成されたマット面を有する装飾物品。
【請求項10】
請求項7又は8に記載のマット加飾シートを用いて形成されたマット面を有する装飾物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−41390(P2012−41390A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181336(P2010−181336)
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【出願人】(000231361)日本写真印刷株式会社 (477)
【Fターム(参考)】