説明

マット

【課題】滑り止め性およびクッション性、表皮材と裏材との接着性のいずれもが優れたマットを提供する。
【解決手段】マット10を、基布11aにパイル11bを植設してなる表皮材11と、ポリオレフィン系樹脂発泡体からなる裏材12とを、熱可塑性樹脂からなる接着層13を介して一体化することで形成した。裏材12がポリオレフィン系樹脂発泡体からなるため滑り止め性およびクッション性が良好である。表皮材11と裏材12が接着層13を介して熱接着されているため、接着性も良好である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はクッション効果と滑り止め効果に優れ、また表皮材と裏材の接着性に優れたマットに関する。
【背景技術】
【0002】
カーマットなどのマット(以下、本明細書では敷物類全般を意味する。)については、その裏材として不織布を用いるのが一般的である。そのマットに滑り止め性能を付与するために不織布の裏面に樹脂を噴霧して摩擦抵抗を大きくしたり、不織布に特殊な加工を施したりしたものも知られている(特許文献1参照)、
【0003】
しかし、従来のこの種のマットではその滑り止め性能が不充分であるため、別売りの滑り止めシート等をマットの下敷きにして滑り止め性能を向上させていることが多い。
このように別途滑り止めシートを準備するのは煩雑であるため、マット自体に十分な滑り止め性能を持たせることが要請されている。
【0004】
また、この種のマットは、裏材が不織布であり全体としてクッション性に乏しいため、マット自体に十分なクッション性能を持たせることも要請されている。
【0005】
さらに、マットの表皮材と裏材との接着度が弱い場合、そのマット上を歩行等して荷重がかかるとその表皮材と裏材との間に剥がれやずれが生じうる。
したがって、マットの表皮材と裏材との接着性を向上させることも要請されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−155865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の解決すべき課題は、滑り止め性およびクッション性、表皮材と裏材との接着性のいずれもが優れたマットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決するため、本発明にかかるマットとして、基布にパイルをタフティングしてなる表皮材と、ポリオレフィン系樹脂発泡体からなる裏材と、表皮材と裏材とを熱接着する熱可塑性樹脂からなる接着層と、を備える構成を採用したのである。
【発明の効果】
【0009】
裏材を構成する樹脂発泡体、特にポリオレフィン系樹脂発泡体はクッション性が良好であるため、マット全体のクッション性能が向上する。
【0010】
また裏材を構成する樹脂発泡体は、摩擦抵抗が大きいことに加えて、多孔質であることから吸盤効果により床面への密着性も高いため、マット全体の滑り止め性能が向上する。
【0011】
裏材と表皮材を熱可塑性樹脂からなる接着層を介して熱接着しているため、接着性も向上している。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態のマットの断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態について説明する。
【0014】
図1に示すように、実施形態のマット10は、表皮材11と裏材12とを接着層13により熱接着して一体化することにより形成されており、滑り止め性能、クッション性能、表皮材11と裏材12の接着性能のいずれもが優れたものである。
【0015】
詳しくは、表皮材11は、基布11aにパイル11b(カットパイル)をタフティングして形成された一般的なパイル織物であり、基布11aの裏面には、パイル11bの抜け止めのためにゴム製の抜け止め層11cが積層されている。
【0016】
ここで、基布11aおよびパイル11bの材質は特に限定されないが、ポリエステル、ポリプロピレン、ナイロン、アクリル、が例示できる。
またパイル11b糸の種類は特に限定されないが、遊毛を抑える為にはフィラメント糸を使用するのが好ましい。
さらにパイル11b単糸の繊度も特に限定されないが、1〜80デシテックス、単位面積当たりのパイル重量が200〜2500g/mが一般的である。
また、パイル11bはループパイルでも良い。
【0017】
一方裏材12は、ポリオレフィン系樹脂とガスとの混合体であるポリオレフィン系樹脂発泡体からなる。
裏材12は樹脂発泡体であるため、摩擦抵抗が大きく、また吸盤効果による床面への密着性も良好であるため、マット10に良好な滑り止め性能を付与している。
【0018】
その製造方法は特に限定されないが、押出発泡法、常圧発泡法、プレス発泡法が例示できる。
裏材12の厚みも特に限定されないが、厚みが小さいほうが軽量化および小型化が図られる一方、厚みが小さすぎるとクッション性に劣るため、その均衡上0.5〜20mmが好ましく、1〜5mmがさらに好ましい。
【0019】
さらに裏材12の、床面への対向面には、エンボス加工が施されて凹凸12aが形成されている。この凹凸12aにより裏材12の摩擦抵抗がさらに大きくなることから、滑り止め効果が一層向上している。
【0020】
ここで裏材12のポリオレフィン系樹脂の種類は特に限定されないが、低密度ポリエチレン、エチレンと炭素数が4〜12のα−オレフィンとを共重合した直鎖状のポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等が例示できる。
裏材12にさらなる滑り止め効果を付与するためには、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体のうちの少なくとも一つを含むことが好ましい。このうち、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)が硬度、コスト等の観点から特に好ましい。
【0021】
ポリオレフィン系樹脂発泡体の、耐熱性や機械的強度を向上するため各種架橋方法を用いても良い。その架橋方法は特に限定されないが、電子線架橋法、化学架橋法、シラン架橋法が例示できる。必要に応じて架橋特性を改善するジビニルベンゼン、トリメチロールプロパントリメタクリレート等の架橋助剤を用いてもよい。
またポリオレフィン系樹脂発泡体のクッション性および滑り止め性を損なわない範囲で、各種添加剤を添加してもよい。
【0022】
ポリオレフィン系樹脂発泡体の見掛け密度は25〜250kg/mが好ましく、更には33〜200kg/mが好ましい。
見掛け密度が25kg/mより小さい場合、圧縮硬さや厚み回復性が低下し、置物等による長期荷重で極端に厚みが薄くなる場合や、薄くなった厚みが回復せず窪みとなる場合があるからである。
一方見かけ密度が250kg/mを超える場合、剛性が増加し適度なクッション性を付与することが困難な場合があるからである。
ここで示す見掛け密度とは、JIS K 7222(2001年版)に準じた測定方法で測定した数値を示す。また、該ポリオレフィン系樹脂発泡体の厚みは0.5〜20mmが好ましく、更には1〜5mmが好ましい。厚みが0.5mm未満であれば底付感による適度なクッション性が阻害される場合があり、一方厚みが20mmを超えると重量増加による取扱い不良や過大なクッション性で不快感を生じ、居住空間においては、ドアなどの開閉の妨げになると考えられる場合があるからである。ここで示す厚みとは、JIS K 7222(2001年版)に準じた測定方法で測定した数値を示す。
【0023】
ポリオレフィン系樹脂発泡体は、適度に反発する好適なクッション性を付与するため、
独立気泡率が50%以上であることが好ましく、更には60%〜95%が好ましい。
独立気泡率が50%未満であれば、底付感による適度なクッション性が阻害される場合がある。ここで示す独立気泡率とは、JIS K7138(2006)「硬質発泡プラスチック-連続気泡率及び独立気泡率の求め方」の測定法2(体積膨張法による非通気体積の測定)に準拠して測定したものである。
【0024】
表皮材11と裏材12を接着する接着層13は、熱可塑性樹脂からなる。
表皮材11と裏材12とを直接貼りあわせるのではなく、熱可塑性樹脂からなる接着層13を介在させて熱接着しているため、良好な接着性能が付与されている。
【0025】
この接着層13の形成態様は特に限定されないが、押出接着法、噴霧接着法が例示できる。
表皮材11の裏面に熱可塑性樹脂を塗布し、熱セットすることにより形成するのが好ましい。
接着層13の厚みは特に限定されないが、0.2mm〜2.0mmであることが好ましく、さらには軽量化および小型化の要請と、接着性能の担保との均衡上、0.3〜0.7mmが好ましい。
【0026】
接着層13の熱可塑性樹脂は、熱接着性の観点から、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・イソプレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、クロロプレン、スチレン・ブタジエン共重合体、ブタジエン、およびポリイソブチレンのうちの少なくとも一つを含むのが好ましい。
【実施例】
【0027】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明の内容を一層明確にする。
まず実施例のマットの裏材に用いられるポリオレフィン系樹脂発泡体として、以下の発泡体を準備した。
低密度ポリエチレン樹脂(東ソー社製:ペトロセン342)65.5%と、エチレン・酢酸ビニル共重合体(三井・デュポンポリケミカル社製:エバフレックス V421)28%と、発泡剤アゾジカルボンアミド(永和化成工業社製:ビニホールAC#3)3.5%と、酸化防止剤(BASF社製:IRGANOX 1010)3%を、170℃に加熱した加圧式ニーダで溶融混練した後、押出機を介してペレット形状のチップを得た。このチップをTダイを設置した45mφベント式単軸押出機を用いて150℃の温度で押出し、1mm厚みのシート状組成物を得た。該シート状組成物に40kGy電離性を照射して架橋した後、240℃に過熱した熱風オーブンで発泡させ冷却ロールで平滑化して実施例の裏材に用いる、フォーム厚み1.5mm、見掛け密度140kg/m、独立発泡率87%の発泡体を得た(以下、上記発泡体という)。
【0028】
(試験1)
滑り止め効果を確認する為に滑り抵抗・水平方向試験を実施した。
床とマットとの滑り抵抗については、この抵抗・水平方向試験を測定方法として測定した数値を示す。
まず実施例1として、実施形態と同様の構成を有しかつその裏材に上記発泡体を用いたマットであって、裏面に凹凸が形成されていないものを、実施例2として、実施形態と同様の構成を有しかつその裏材に上記発泡体を用いたマットであって、裏面にエンボス加工による凹凸が形成されているものを準備した。
また、比較例1として、表皮材は実施形態と同様であり裏材にポリエチレン発泡シートにポリエチレン系樹脂をラミネートしたものを用いたマット、比較例2として表皮材は実施形態と同様であり、裏材に不織布の裏面にアクリル樹脂を適量噴霧したものを用いたマットを準備した。
【0029】
つぎにこれらの実施例および比較例のマットについて、100mm×125mmの各試験片を採取し、これをテーブルなどの上で滑らないように調整した。
さらに各試験片に荷重100g/1000g(分布荷重)を加え、フローリング上およびループカーペット上を引張り速度100mm/1minで150m滑らせた時の最大荷重を5回測定し、最大、最小値を削除した3点の平均値を小数点以下1桁まで算出しN/kgfで表した。その結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1のように、実施例のマットは、フローリング上、あるいはループカーペット上でも滑り抵抗値がそれぞれ6.8以上、8.2以上と高いことから、高い滑り止め効果があることが確認できた。
【0032】
(試験2)
クッション性を確認する為に、JIS L 1021−6(2007年改訂版)の静的荷重による厚さ減少試験に準じて圧縮弾性率試験を測定した。
まず実施例として、実施形態と同様の構成を有しかつその裏材に上記発泡体を用いたマットを準備した。また比較例1として、表皮材は実施形態と同様であり裏材が不織布(270g/m)からなるものを、比較例2として、表皮材は実施形態と同様であり裏材が不織布(400g/m)からなるものを、比較例3として、表皮材は実施形態と同様であり裏材がジュートからなるものを、比較例4として、表皮材は実施形態と同様であり裏材がポリエチレン発泡体からなるものを、比較例5として、表皮材は実施形態と同様であり裏材がウレタンからなるものを、それぞれ準備した。
【0033】
つぎに実施例および比較例のマットについて100mm×100mmの各試験片を採取し、その試験片の中央部分の2.0kPa±0.2kPaの標準圧力下での厚さ(mm)を小数点以下1けたまで測定した。
さらに各試験片の中央部分に98kPaの一定圧力を加え、5分経過後の厚さ (mm)を測定した。
測定後直ちに荷重を除き、5分経過の2.0kPa±0.2kPaの標準圧力下での厚さ(mm)を小数点1けたまで測定した。
【0034】
各試験片について、圧縮前の標準圧力下の厚さ(mm)、一定圧力下で5分経過の厚さ(mm)及び除荷重後再び標準圧力をかけたときの厚さ(mm)から、圧縮弾性率(%)を算出し、その平均値を小数点以下1けたまで求めた。その結果を表2に示す。
【0035】
【表2】

【0036】
表2のように、マットとして同規格パイル表皮材を使用した代表的な裏材を使用したものを試験した結果、実施例は最も弾性回復率が高く、良好なクッション性を備えていることが確認できた。
【0037】
(試験3)
接着性を確認する為に、JIS L 1201−9(2007改訂版)はく離強さ試験方法に準じて測定し測定結果を得た。
まず実施例1として、実施形態と同様の構成を有しかつその裏材に上記発泡体を用いたマットを準備した。その表皮材と裏材との接着はスチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・イソプレン共重合体の混合体、樹脂量230〜320g/mの押出接着法によった。
また実施例2として、実施形態と同様の構成を有しかつその裏材に上記発泡体を用いたマットを準備した。その表皮材と裏材との接着はスチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・イソプレン共重合体の混合体、樹脂量160〜190g/mの噴霧接着法によった。
比較例1として、実施形態と同様の構成を有しかつその裏材に上記発泡体を用いたマットを準備した。その表皮材と裏材との接着はポリエチレン系樹脂を使用し、樹脂量は200〜290g/mの押出接着法によった。
比較例2として、実施形態と同様の構成を有しかつその裏材に上記発泡体を用いたマットを準備した。その表皮材と裏材との接着はポリエチレン系樹脂を使用し、樹脂量は120〜150g/mの噴霧接着法によった。
比較例3として、実施形態と同様の構成を有しかつその裏材に上記発泡体を用いたマットを準備した。その表皮材と裏材との接着はポリエチレン系樹脂を使用し、接着強度を上げるため、樹脂量は噴霧接着法により、比較例2より30g/m、塗布量をアップした150〜180g/mとした。
【0038】
つぎに実施例1〜2及び比較例1〜3のマットについて、幅50mm、長さ200mmの各試験片を採取し、裏張り材を短辺の片側から、あらかじめ50mmを手ではく離しておく。はく離は、試験片の長さ方向で行う。分離させた試験片をそれぞれ引張試験機のつかみにはさみ、300mm/min±10mm/minの一定速度で引張り、試験時の応力−伸長挙動を記録し、はく離時の応力(N)の変動記録をとり、試験片が分離するまで試験を行った。
【0039】
はく離強さを、各試験片の応力―伸長変動記録の中央の50%領域を5等分し各区間のピークの最大値を求め、平均値(N)を小数点以下1けたまでを求めた。その結果を表3に示す。
また、タフテッドカーペットの裏張り材のはく離強さの基準は、たて、よこ、ともに24.5(N)以上とする。ただし、発泡材(合成ゴムなど)を裏張りしたもの及び裏張り材のないものは除く。と規定されている。(JIS L 4405 2000年版)
【0040】
【表3】

【0041】
表3のように、実施例1〜2においては、通常基準であるはく離強さをクリアしており、接着性が良好であるが、比較例1〜3においては接着性が弱く基準に達していないことがわかった。特に、実施例1については、接着法と選択した樹脂の組合せにより格段に接着性の良い結果が得られ、安全なマットを提供できることを証明できた。
【符号の説明】
【0042】
10 実施形態のマット
11 表皮材
11a 基布
11b パイル
11c 抜け止め層
12 裏材
12a 凹凸
13 接着層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布にパイルをタフティングしてなる表皮材11と、
ポリオレフィン系樹脂発泡体からなる裏材12と、
前記表皮材および裏材を熱接着する熱可塑性樹脂からなる接着層13と、を備えるマット。
【請求項2】
前記裏材12は、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体およびアクリロニトリル・ブタジエン共重合体のうちの少なくとも一つを含む請求項1に記載のマット。
【請求項3】
前記裏材12の独立気泡率は、50%以上である請求項1または2に記載のマット。
【請求項4】
前記裏材12は、エンボス加工による凹凸12aを有する請求項1から3のいずれかに記載のマット。
【請求項5】
前記接着層13は、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・イソプレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、クロロプレン、スチレン・ブタジエン共重合体、ブタジエン、およびポリイソブチレンのうちの少なくとも一つを含む請求項1から4のいずれかに記載のマット。

【図1】
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【公開番号】特開2012−223476(P2012−223476A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95698(P2011−95698)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(591004456)東和織物株式会社 (3)
【Fターム(参考)】