マトリクス効果を軽減するための装置および方法
【課題】生体分析試料におけるマトリクス効果を軽減するための装置および方法を提供する。
【解決手段】支持体と、生体分析試料に存在するマトリクス干渉因子を結合することが可能である支持体に会合した吸着剤とを含む装置および方法が提供される。装置は、沈殿させたタンパク質粒子を取り除くための濾過手段をさらに含む。濾過手段は、試料から取り除かれる粒子の直径以下の最大細孔サイズを有するサイズ排除フィルターまたはポリマーのもしくは無機のモノリスであり、吸着剤と一体化することができ、または吸着剤に会合することができる。吸着剤は、マトリクス干渉因子と対象とされる検体との間での十分な選択性を特徴とし、マトリクス干渉因子の保持を提供する一方で、前記対象とされる検体の溶出を提供する(たとえば、逆相または極性修飾の逆相)。
【解決手段】支持体と、生体分析試料に存在するマトリクス干渉因子を結合することが可能である支持体に会合した吸着剤とを含む装置および方法が提供される。装置は、沈殿させたタンパク質粒子を取り除くための濾過手段をさらに含む。濾過手段は、試料から取り除かれる粒子の直径以下の最大細孔サイズを有するサイズ排除フィルターまたはポリマーのもしくは無機のモノリスであり、吸着剤と一体化することができ、または吸着剤に会合することができる。吸着剤は、マトリクス干渉因子と対象とされる検体との間での十分な選択性を特徴とし、マトリクス干渉因子の保持を提供する一方で、前記対象とされる検体の溶出を提供する(たとえば、逆相または極性修飾の逆相)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、分析試験用の生体分析試料を調製するための装置(デバイス)および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、2007年5月16日に出願された米国特許出願第11/803,824号に対する優先権を主張する。
生体分析試験および定量方法は、混入物(汚染物)からの干渉の影響を受ける。混入物は、試料中のその存在度に不均衡に、種々の検体に対する感度を下げたり、上げたりする。液体クロマトグラフィ質量分光分析/質量分光分析(LC/MS−MS)は、薬剤の代謝試験にとって好ましい方法である。しかしながら、マトリクス効果は有意な分析誤差をもたらすことがあり、マトリクス効果を検討して、精度、選択性および感度が損なわれていないことを保証すべきである(下記非特許文献1)。特に、ホスファチジルコリンのようなリン脂質は、検体の感度を低下させることによって、電気スプレーMS検出において検体のイオン化を妨害し、一般にイオン抑制またはマトリクス効果と呼ばれる。米国質量分光分析学会第52回質量分光分析会議(the American Society for Mass Spectrometry,52nd Conference)(2004年)にて提示されたAhnoff,M.およびHagelin,H.の“Matrix Effects in Electrospray Ionization: Characterization of Plasma Phospholipids as Suppressors/Enhancers of Ionization Efficiency”を参照のこと。問題をさらに悪化させることは、様々な動物種からの血液血漿のような様々な試料の異なった脂質組成が、検体の応答を変化させ、定量の問題を生じる可能性があることである。生体分析試料のリン脂質の混入から生じ得る相違する校正曲線および保持時間のシフトを報告しているBennett外による以下の提示:米国質量分光分析学会第52回質量分光分析会議(2004年)にて提示された“Managing Phospholipid−Based Matrix Effects in Bioanalysis,”www.tandemlabs.com/capabilities publications.html(2−26−07にアクセスした);“A Source of Imprecision Resulting from Ionization Suppression from Strongly Retained Phospholipids and Dioctyl Phthalate,”にて、これらのマトリクス効果はさらに議論されている。
【0003】
加えて、混入物の存在は、不完全な溶媒抽出を生じ得るので、検体濃度の過少報告を生じ、または分析計測器に蓄積することがあり、感度を破壊し、または、清浄化手順が実行されている間は不稼動時間を生じる。リン脂質のような混入物は、沈殿させた血漿試料を繰り返し分析する間に典型的な逆相HPLCカラムに蓄積する傾向を有する。蓄積されたリン脂質は、その後の注入の際に流れ出すことができ、複数回の注入の間に検体の感度をずらしていく。米国質量分光分析学会第52回質量分光分析会議(2004年)にて提示されたBennettおよびLiangの“Overcoming Matrix Effects Resulting from Biological Phospholipids Through Selective Extractions in Quantitative LC/MS/MS,”における選択的抽出を介した生体リン脂質から生じるマトリクス効果の克服」を参照のこと。リン脂質を取り除くことは、適切な条件にカラムを再生するための徹底的な溶媒洗浄を必要とする。
【0004】
これらの問題を解決する試みで種々のアプローチが利用されている。液体/液体抽出(LLE)および固相抽出(SPE)を始めとする、生体分析試料からリン脂質を取り除く現在の方法は、複雑であり、多大な方法の開発および検体喪失の可能性を必要とする。たとえば、SPEにおけるさらに強い溶出強度の溶媒の使用は、逆説的に、おそらくリン脂質による試料の汚染のために、マトリクス効果によって試料検出の低下を生じる可能性がある。しかしながら、リン脂質による試料の汚染を回避するために溶出溶媒強度を制限することは、極性の低い検体の不完全な回収を生じる可能性がある。LLEのアプローチは、たとえば、混入物を取り除くために、抽出および分離の工程を実施し、試料を乾燥させ、または凍結させるなど、混入しているリン脂質を取り除くために過大な労力と時間とを要する。たとえば、Bonfiglio外は、電気スプレーイオン化直列質量分光分析においてイオン抑制を起こす内因性の血漿成分を取り除くための幾つかの一般抽出手順の能力を議論している。メチル−t−ブチルエーテルを用いたLLEと、OasisおよびEmporeを伴うSPEと、アセトニトリル(ACN)タンパク質沈殿試料調製法とを比較した。これらの研究者らは、ACNタンパク質沈殿試料が最大のイオン抑制を示す一方でLLE抽出物は最も少ないことを見い出した。加えて、イオン抑制は検体依存性であり、最も極性の大きい検体に関連することが見い出された。全検体について最も少ないイオン抑制は、LLEとSPEとの双方で処理された試料で認められた。著者らは、イオン抑制に関与する複数の内因性の成分が存在する可能性が高く、効果はHPLC系への注入が行われた後良好に持続し、その結果、無効なデータの回収を生じると結論付けている。分析用にさらに清浄な試料を提供するための尽力にてさらなる濾過工程が示唆された(下記非特許文献2)。しかしながら、複数の試料調製工程の使用は、労力と時間とがかかり過ぎ、分析を行うコストを高める。
【0005】
つい最近、試料からリン脂質を取り除く新しいアプローチが試みられた。たとえば、Johansonは、脂質抽出物からのホスファチジルコリンを始めとするカチオン性脂質を取り除くための強力なカチオン交換カラムの使用は、粗抽出物では完全に抑制された即時検出のピークを生じることを報告した(下記非特許文献3)。下記特許文献1(Bennett外)は、支持体に結合させたリン脂質性の多価のカチオンの使用を含む生体試料からリン脂質を取り除く装置および方法を記載している。そのようなカチオンには、報告によれば、遷移金属、ランタニド類またはアクチニド類、好ましくはセリウムが挙げられる。これらリン脂質性の多価のカチオン吸着剤の使用は、Van Horne外によってさらに記載され、リン脂質分子のリン酸基に対して高いオキソ親和性を持つ吸着剤が記載された(米国製薬科学者協会の会議録で提示されたVan Horne,K.C.外、“Preventing Matrix Effects By Using New Sorbents to Remove Phospholipids from Biological Samples”)。著者らは、生体試料からのリン脂質の容易な除去および望ましい製薬検体を取り除かない抽出化学を利用した抽出物を提供する目標を報告した。報告によれば、逆相(非極性)ならびにアニオンおよびカチオンの交換を含む多数の様々なメカニズムが評価された。抽出吸着剤が、単独で、またはタンパク質沈殿、液体/液体抽出(LLE)もしくは固相抽出(SPE)と組み合わせて、リン脂質の抽出が実施された。特に、報告によれば、メタノールで再構成された、抽出物のリン脂質含量は、ランタニド吸着剤のみを用いて94〜96%ほど低下した。報告によれば、メタノールで再構成された、タンパク質を沈殿させた試料からリン脂質を取り除くためのランタニド抽出吸着剤の使用は、約92〜98%のリン脂質の除去を生じ、スパイクした検体の検出を高めた。しかしながら、その手順は遠心分離とその後の溶媒の蒸発および再構成とを必要とし、それには労力と時間とがかかり、分析を実行するコストに加えられる。報告によれば、メチル−t−ブチルエーテルLLEの後、試料からリン脂質を取り除くためのランタニド抽出吸着剤の使用は、スパイクした検体の検出を有意に高めることなく、約95〜97%のリン脂質の除去を生じた。著者らは、固定化(不動化)されたランダニド金属中心が、リン酸基への結合を介してリン脂質抽出のために高度に選択的に結合するために必須の要素であると結論付けた。
【0006】
Shen外は、検体溶液からリン脂質を取り除くための媒体の能力を判定する尽力にて3種類のイオン交換固相抽出媒体の評価を記載している。これらの著者らは、混合モード相が検体と様々な代謝産物の双方を保持する要件を満たす一方で、逆相保持メカニズムは、遅れて溶出するリン脂質が原因で生じるイオン抑制を排除することに不利であることを報告し、混合モード抽出相ではなくイオン交換メカニズムのみを使用することを勧めた(下記非特許文献4)。
【0007】
Krupeyの下記特許文献2は、脂質吸着剤用の商品名Cleanascite(商標)のもとで販売された、試料中の脂質の除去用の疎水性シリカ吸着剤およびさらなる精製に先立って試料を予備処理するための清澄化剤の使用を記載している。吸着剤を試料に加え、次いで試料を遠心分離し、結合した不純物を含有する吸着剤を取り除く。しかしながら、この手順は、吸着剤を加え、次いでそれを取り除く2つの工程を必要とし、試料から検体が除去されるリスクがある。
【0008】
Hiltunenの下記特許文献3は、脂質の混合物から脂質を単離するための超臨界流体抽出の使用を記載している。しかしながら、この手順は、特殊な設備を必要とし、試料からの脂質の除去のための失費およびコストに拍車をかける。
Little外は、「もととなる複数の反応のモニタリングにおいて」、対象とされる検体のイオン抑制を生じると同時に溶出するマトリクス構成成分があるかどうかを判定する尽力にて、製薬検体のモニタリング方法開発のための方法を記載している。しかしながら、これらの手順は、イオン抑制の原因となるマトリクス構成成分を取り除かないが、単に問題に対処しようとしているだけであり、各分析後、カラムからの最も疎水性の高い脂質の溶出を必要とする(下記非特許文献1)。
【0009】
したがって、手順には時間と労力とがかかり過ぎるものの、生体試料中の脂質混入物を取り除くために多数の方法がある。さらに、試料は、これも取り除かれなければならない混入タンパク質も含有する。しかしながら、沈殿させるための変性溶媒の使用は、脂質混入物の多大な抽出および存在する検体の有意なイオン抑制を生じる。したがって、研究者が、正常に作動する設備を維持し、生体検体の信頼できる正確な定量を達成することを望むのであれば、検体のために生体分析試料を調製するのに必要とされる最低2つの工程がある。少ない試料容量で作業する場合、または複合試験が必要である場合、そのような複数の試料調製手順は、試料を減らすので、必要とされる試験について十分な量が残らない可能性がある。さらに、複数の試料調製工程は、研究者の時間および労力の損失を生じ、分析試験研究室のコストを高める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0054077号明細書
【特許文献2】米国特許第5,885,921号明細書
【特許文献3】米国特許第5,759,549号明細書
【特許文献4】米国特許第7,125,488号明細書
【特許文献5】米国特許第7,056,858号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2006/0247361号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2006/0247362号明細書
【特許文献8】米国特許第6,491,873号明細書
【特許文献9】米国特許第6,926,823号明細書
【特許文献10】米国特許第6,576,767号明細書
【特許文献11】米国特許第6,825,269号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第2006/0216206号明細書
【特許文献13】米国特許出願公開第2006/0131238号明細書
【特許文献14】米国特許第3,480,616号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Little,J.L外、J.Chromatog.,833:219,2006
【非特許文献2】Bonfiglio,R.外、Rapid Comm.Mass.Spectr.13:1175,1999
【非特許文献3】Johanson,R.A.外、Anal.Biochem.,362:155,2007
【非特許文献4】Shen,J.X.外、J.Pharm.Biomed.Anal.,37:359,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、分析手順の実施に先立って、生体分析試料から、マトリクス効果の原因となるリン脂質とそのほかの因子との双方、およびタンパク質を取り除くことができる迅速な手順に対するニーズが依然としてある。
したがって、本発明の主な目的は、生体分析試料におけるマトリクス効果を軽減するための手順を提供することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、分析手順の実施に先立って、生体分析試料から、リン脂質、界面活性剤およびタンパク質を取り除くために迅速に実施することができる手順を提供することである。
発明のその上さらなる目的は、通常の試料調製で実施することができ、追加の工程または高価な設備を必要としない、マトリクス効果を軽減するための手順を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、支持体と、生体分析試料に存在するマトリクス干渉因子を結合することが可能である支持体に会合した吸着剤とを含み、沈殿させたタンパク質粒子を取り除くための濾過手段をさらに含む、タンパク質を沈殿させた生体分析試料においてマトリクス効果を軽減するための装置が提供される。濾過手段は、試料中に存在する沈殿させたタンパク質粒子を取り除くための直径約0.05μm〜約0.5μmの間の細孔サイズを有することを特徴とする。好ましい実施形態では、濾過手段は直径約0.1μm〜約0.2μmの間の細孔サイズを有し、特定の実施形態では、濾過手段は直径0.2μmおよび0.45μmの細孔を含む。好ましくは、濾過手段は、試料から取り除かれるべき粒子の直径以下の最大細孔サイズを有するサイズ排除フィルターまたはポリマーのもしくは無機のモノリスから選択され、吸着剤と一体化しまたは吸着剤と会合し得る。好ましくは、濾過手段が吸着剤と一体化している場合、濾過手段は、試料から粒子を排除できるように十分に小さな直径のマクロ細孔を有する多孔性の無機モノリスであり、吸着剤は、多孔性の無機モノリスに結合させた逆相または極性修飾の逆相である。好ましくは、濾過手段は、タンパク質を沈殿させた生体分析試料に光学透明度を提供するのに有効である(たとえば、524nmでの%T>95%)。
【0015】
吸着剤は、マトリクス干渉因子と対象とされる検体との間での十分な選択性を特徴として、対象とされる検体の溶出を提供する一方で、マトリクス干渉因子の保持を提供する。好ましくは、吸着剤はマトリクス干渉因子と対象とされる検体とについて1を超える選択性を特徴とし、特定の実施形態では選択性は少なくとも1.1であり、追加の実施形態では選択性は少なくとも1.2であり、さらにそのほかの実施形態では選択性は少なくとも1.3であり、追加の実施形態では選択性は少なくとも1.4であり、特定の特に好ましい実施形態では選択性は少なくとも1.5である。好ましくは、吸着剤は、逆相または極性修飾の逆相を含み、特定の実施形態では、極性修飾の逆相はアミド修飾の逆相である。マトリクス干渉因子と対象とされる検体とに対する吸着剤の選択性は、生体分析試料が少なくとも50%(v/v)の変性有機溶媒を含む場合、吸着剤はマトリクス干渉因子を保持する一方で対象とされる検体を保持しないようなものである。好ましくは、吸着剤は、生体分析試料に存在する少なくとも50%のマトリクス干渉因子を結合する一方で、装置から外に出された溶媒にて少なくとも75%の検体の回収を提供し、さらに好ましくは、吸着剤は少なくとも検体の90%の回収を提供する。好ましい実施形態では、吸着剤は、マトリクス干渉因子の少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも85%、またはさらに好ましくは少なくとも90%、そしてさらに好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%を結合する。
【0016】
典型的なマトリクス干渉因子には、界面活性剤、脂質、賦形剤または投与剤が挙げられる。装置の典型的な実施態様を、ルアーシリンジ(注射器)フィルター、個別フィルターカートリッジ、マルチウエルプレート、ピペットのチップ(先端)または複数回使用もしくは一回使用(使い捨て)のための直列(インライン)カラムとしての使用に適合させる。追加の実施形態では、支持体は装置の中でタンパク質の沈殿を行うためのリザーバ手段をさらに含む。
【0017】
本発明は、マトリクス干渉因子とタンパク質とを含む分析用の試料を調製する方法をさらに提供する。典型的な分析には、クロマトグラフィ、分光光度分析、質量分光分析など、およびそれらの組み合わせが挙げられる。たとえば、製薬検体を判定するための生体分析技術で例示となる分析方法は、LC/MS−MSである。したがって、マトリクス効果を軽減し、生体分析試料でタンパク質沈殿を取り除くための方法が提供され、前記方法は、a)支持体と支持体に会合した吸着剤とを含む装置であって、前記吸着剤は、生体分析試料に存在する対象とされる検体に対するマトリクス干渉因子について1を超える選択性を特徴とし、試料に存在するタンパク質沈殿を取り除くための濾過手段をさらに含む装置を提供することと;b)生体分析試料を吸着剤と接触させることと;c)マトリクス干渉因子と沈殿させたタンパク質とを保持する一方で、吸着剤から検体を溶出することとを含み、得られた処理された試料中のマトリクス干渉因子およびタンパク質の量は低下している。特定の実施形態では、方法は、生体分析試料を吸着剤に接触させる工程に先立って、または当該工程と同時に前記装置における生体分析試料にてタンパク質を沈殿させることをさらに含む。好ましくは、工程c)は、真空、遠心力または陽圧を用いて行って、試料が吸着剤および濾過手段を通過するようにし、それによってマトリクス干渉因子および沈澱させたタンパク質を取り除く。好ましくは、濾過手段は、試料に存在する沈殿させたタンパク質粒子を取り除くために直径約0.05μm〜約0.5μmの間の細孔サイズを有することを特徴とし、特定の実施形態では、濾過手段は約0.1μm〜約0.2μmの間の細孔サイズを有する。特定の実施形態では、濾過手段は0.1μm、0.2μmおよび0.45μmの細孔サイズを有する。好ましくは、マトリクス干渉因子は、界面活性剤、脂質、賦形剤または投与剤であり、好ましい実施形態では、脂質はリン脂質であり、界面活性剤はアニオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤から選択される。好ましくは、界面活性剤は、本明細書で記載される吸着剤を用いて有利に保持することができる炭化水素鎖を含む。好ましくは、吸着剤は、マトリクス干渉因子と対象とされる検体との間での十分な選択性を特徴とし、対象とされる検体の溶出を提供する一方でマトリクス干渉因子の保持を提供する。特定の実施形態では、吸着剤は逆相または極性修飾の逆相を含む。特定の実施形態では、マトリクス干渉因子および対象とされる検体を含む、タンパク質を沈殿させた生体分析試料にてマトリクス効果を軽減し、沈殿させたタンパク質を取り除く方法が提供され、該方法は、試料が本明細書に記載される装置を通過することを含む。
【0018】
追加の実施形態では、マトリクス干渉因子と対象とされる検体とを含む、タンパク質を沈殿させた生体分析試料にてマトリクス効果を軽減するための方法が提供され、該方法は、a)支持体と、支持体に会合した吸着剤とを含む装置であって、前記吸着剤は、生体分析試料に存在する対象とされる検体に対するマトリクス干渉因子について1を超える選択性を特徴とする装置を提供することと;b)生体分析試料を吸着剤と接触させることと;c)マトリクス干渉因子を保持する一方で吸着剤から検体を溶出することとを含み、得られた処理された試料中のマトリクス干渉因子の量は低下している。装置は、沈殿させたタンパク質粒子を取り除くための濾過手段をさらに含む。好ましい実施形態では、生体分析試料が少なくとも50%(v/v)の変性有機溶媒を含む場合、吸着剤はマトリクス干渉因子を保持する一方で対象とされる検体を保持しない。追加の実施形態では、吸着剤がマトリクス干渉因子を保持する一方で、66%、75%もしくは90%(v/v)の有機溶媒でさえ、またはpH修正剤(たとえば、酸、塩基)の存在下でも対象とされる検体を保持することはない。好ましくは、吸着剤が生体分析試料に存在するマトリクス干渉因子の少なくとも50%を結合する一方で、装置から外に出された溶媒中の検体の少なくとも90%の回収を提供し、さらに好ましくは、吸着剤は、試料に存在するマトリクス干渉因子の少なくとも70%、またはさらに好ましくは85%、またはさらに好ましくは90%、または一層さらに好ましくは95%および最も好ましくは99%を結合する。
【0019】
特定の実施形態では、組み合わせ濾過固相抽出モード(SPE)において装置を使用することができる。たとえば、方法は、生体分析試料を吸着剤と接触させるのに先立って、少なくとも1つのコンディショニング溶媒または溶媒の混合物で吸着剤を洗浄することによって、任意で吸着剤のコンディショニングを行うことをさらに含むことができる。方法は、吸着された検体およびマトリクス干渉因子を伴った吸着剤を洗浄溶媒または溶媒の混合物によって任意で洗浄して、未結合成分を取り除くことをさらに含むことができる。さらなるSPEの使用によれば、方法はさらに、順次溶媒強度を高める溶出溶媒によって吸着剤から検体を溶出し、吸着されたマトリクス干渉因子で検体が汚染されることなくさらに非極性の検体を取り除くことを含むことができる。
【0020】
追加の実施形態では、少なくとも50%(v/v)のタンパク質変性有機溶媒を含む生体分析試料におけるマトリクス効果を軽減するための方法が提供され、該方法は、a)生体分析試料に存在するマトリクス干渉因子を結合することが可能である吸着剤を提供することと;b)少なくとも10秒間、生体分析試料を吸着剤に接触させることと;c)吸着剤から溶液を分離することとを含み、得られた処理された試料中のマトリクス干渉因子の量が低下する。好ましくは、前記接触は、約10秒間〜約10分間行われ、吸着剤は、生体分析試料に存在するマトリクス干渉因子の少なくとも50%を結合する一方で、装置から外に出された溶媒における検体の少なくとも90%の回収を提供する。方法は、沈殿させたタンパク質粒子を取り除くために生体分析試料を濾過手段に接触させることをさらに含むことができる。好ましくは、濾過手段との接触および吸着剤との接触は同一工程で行う。
【0021】
追加の実施形態では、a)吸着剤の量と濾過手段とを含むことが可能である支持体を提供することと;b)マトリクス干渉因子を保持するのに有効な量の吸着剤と、試料に存在する沈殿させたタンパク質を取り除くのに有効な濾過手段とを提供することと;c)支持体内部で濾過手段と吸着剤とを組み立てることとを含む、生体分析試料においてマトリクス効果を軽減するための装置を調製する方法が提供される。
【0022】
本発明の追加の目的、利点および新規の特徴は、部分的には以下の説明で述べられ、部分的には以下の実験の際、当業者に明らかになるであろうし、本発明の実践によって教示されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の幾つかの実施形態を説明するための図である。
【図2】希釈血漿の50回の注入の間にHPLCカラムに徐々に蓄積したリン脂質(ホスファチジルコリン)を示すLC−MS/MSのトレースを示す。
【図3】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図4】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図5】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図6】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図7】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図8】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図9】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図10】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図11】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図12】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図13】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図14】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図15】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図16】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図17】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図18】逆相吸着剤についての、検体およびマトリクス干渉因子のクロマトグラムを示す。
【図19】極性修飾の逆相吸着剤についての、検体およびマトリクス干渉因子のクロマトグラムを示す。
【図20】極性修飾の逆相吸着剤についての、検体およびマトリクス干渉因子のクロマトグラムを示す。
【図21】極性修飾の逆相吸着剤についての、検体およびマトリクス干渉因子のクロマトグラムを示す。
【図22】種々の細孔サイズを持つフィルターを介した濾過に供した、タンパク質を沈殿させた試料の濁度を説明する棒グラフを示す。
【図23】2種の吸着剤によるタンパク質を沈殿させた血漿試料からのホスファチジルコリンの除去の時間依存性を示す。
【図24】2種の吸着剤によるタンパク質を沈殿させた血漿試料からのツイーン80の除去の時間依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
I.定義および概要
本発明を詳細に説明する前に、示さない限り、本発明は、それ自体変化してもよい、特定の検体、クロマトグラフィ法、濾過および精製構造などに限定されないことが理解されるべきである。本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、本発明の範囲を限定することを意図するものではないことも理解されるべきである。
【0025】
本明細書および特許請求の範囲で使用されるとき、単数形態の「不定冠詞」および「定冠詞」は、文脈から明らかにそうでない場合を除き、複数の対象が含まれることに留意しなければならない。したがって、たとえば、「検体」への言及は2種以上の検体を含み、「リン脂質」への言及は2種以上のリン脂質を含むなどである。
値の範囲が提供される場合、文脈から明らかにそうでない場合を除き、下限の単位の10分の1までの各介在する値、その範囲の上限と下限との間、およびその記載された範囲でのそのほかの記載されたまたは介在する値が本発明の範囲内に包含される。これらのさらに小さな範囲の上限および下限は独立してさらに小さな範囲に含まれてもよく、記載された範囲にて特に除外される限界を前提として本発明に包含される。記載された範囲が、一方または双方の限界を含む場合、それらの含まれた限界のいずれかまたは双方を除外する範囲も本発明に含まれる。
【0026】
本明細書で使用されるとき、用語「選択性」は、様々な保持時間で溶出する検体について補正された保持時間(Tr)の間の比を言う。以下の式、Tr−T0によって、補正Trは算出される。ここで、T0は保持されない種についての通過時間である。本明細書で使用される吸着剤は、マトリクス干渉因子と対象とされる検体との間に選択性を提供し、すなわち、検体の補正Trに対するマトリクス干渉因子の補正Trの比は、1より大きい。
【0027】
本明細書で使用されるとき、用語「検体」または「対象とされる検体」は、生物起源、有機物起源、合成物起源、天然物起源または無機物起源の試料において性状分析される、同定されるまたは定量されるべき任意の分子を意味する。たとえば、候補治療化合物またはその代謝産物は検体であり得、たとえば、血液の血漿試料、唾液、尿、飲料水、合成物もしくは天然物の混合物、または環境試料の中に存在することがある。検体は、非極性ないし極性の任意の極性を示すことができる。
【0028】
本明細書で使用されるとき、用語「マクロ細孔」は一般に、約0.05μmを超える直径を持つ細孔を言い、流体がモノリスのフィルターまたは吸着剤を通って流れることが可能なものであるという意味でこれらは「貫通細孔」であるとみなされる。用語「メソ細孔」は、約2nm〜50nmの間の直径を持つ細孔を言い、用語「ミクロ細孔」は約2.0nm未満の直径を持つ細孔を言う。
【0029】
用語「逆相」は、非極性化合物の吸着のために疎水性の表面を提供するアルキル部分または芳香族部分を含む非極性の固定(定置)相を言う。一般的な逆相固定相は、RがC18H37またはC8H17のような直鎖アルキル基であるRMe2SiClによって処理されたシリカである。別の逆相固定相は、ポリスチレン−ジビニルベンゼンによって提供される。
【0030】
用語「極性修飾の逆相」は、非極性化合物の吸着のために疎水性の表面を提供するアルキル部分または芳香族部分を含む非極性の固定相を言い、その際、たとえば、アミド、エーテル、アミノ、カルボキシ、スルホンアミドなどのような極性部分を含有(またはさらに含む)するように固定相がさらに修飾される。極性修飾の逆相固定相の非限定例は、Liの上記特許文献4、Kalluryの上記特許文献5、ならびにShahの上記特許文献6および7に記載されている。
【0031】
本明細書で使用されるとき、用語「極性の強い」は、オクタノール−水の分配係数LogPに基づいて、−1.0〜+0.5のLogP値を有する分子を意味する。
本明細書で使用されるとき、用語「極性が中程度」は、オクタノール−水の分配係数LogPに基づいて、0.5〜1.5のLogP値を有する分子を意味する。
本明細書で使用されるとき、用語「非極性」は、オクタノール−水の分配係数LogPに基づいて、2.0以上のLogP値を有する分子を意味する。
【0032】
本明細書で使用されるとき、吸着剤の極性官能性には、以下のもの、すなわち、−NRC(O)−(アミド)、−C(O)NR−(カルバミル)、−OC(O)NR−(カルバメート)、−OC(O)R(アルキルオキシ)、−NRC(O)O−(ウレタン)、−NRC(O)NR−(カルバミドまたは尿素)、−NCO(イソシアネート)、−CHOHCHOH−(ジオール)、CH2OCHCH2O−(グリシドキシ)、−(CH2CH2O)s−(エトキシ)、−(CH2CH2CH2O)s−(プロポキシ)、−C(O)−(カルボニル)、−C(O)O−(カルボキシ)、−CH2C(O)CH2−(アセトニル)、−S−(チオ)、−SS−(ジチオ)、−CHOH−、−O−(エーテル)、−SO−(スルフィニル)、−SO2−(スルホニル)、−SO3−(スルホン酸)、−OSO3(サルフェート)、−SO2NR−(スルホンアミド)、−NRq−(アミン類)および−NRq+−が挙げられるが、これらに限定されない。ここで、Rは、H(四級(第四)アミン類)、−CN(ニトリル)、−NC(イソニトリル)、−CHOCH−(エポキシ)、−NHC(NH)NH−(グアニジノ)、−NO2(ニトロ)、−NO(ニトロソ)、−OPO3−(ホスフェート)、−OH(ヒドロキシ)ではなく、sは1〜12である。
【0033】
本明細書で使用されるとき、用語「マトリクス効果」は、検体の定量を妨害する、試料に存在する物質を言う。マトリクス効果は、混入するマトリクス構成成分を対象とされる検体と同時に溶出することによる従来のクロマトグラフィ適用によって明らかにされ、たとえば、分光光度分析の定量法の妨害の原因となる。マトリクス効果は、検体のイオン抑制が認められる場合、質量分光分析の適用で一般に認められる。
【0034】
本明細書で使用されるとき、用語「マトリクス干渉因子」は、マトリクス効果を起こす相対的に高い濃度(普通、少なくとも1mg/mL)で生体分析試料に存在し、検体の定量を妨害する物質を言う。マトリクス干渉因子は、質量分光分析のための電気スプレーイオン化の間、試料に存在する特定の検体のイオン化を一般に抑制する。検体の相対的な存在度は、マトリクス効果のために試料における真の存在度よりも不十分に見積もられ、かつ/または過少評価され、または過大に見積もられる可能性がある。
【0035】
本発明は、それらを製造する新規の試料調製装置および方法、たとえば、LC/MS用試料調製のための装置、固相抽出装置などに関する。驚くべきことに本発明は、単一の装置が、一工程で、沈殿させたタンパク質とマトリクス妨害とを取り除く二重の機能性を提供し、その結果、優れた分析能力と分析速度と分析性能とを生じることを発見した。実務家は、試料調製などに類似の装置および方法を広範に採用しているが、今日まで本発明者らが知る限り、本発明者らは初めて、沈殿させたタンパク質(およびそのほかの)粒子を取り除き、マトリクス干渉因子を吸着させる一方で、対象とされる検体を選択的に溶出させる濾過と吸着剤機能との組み合わせを発見し、これらの機能性を利用して優れた性能、時間の節約、使用および製造の容易さを有する製品を製造している。濾過手段と吸着剤と溶媒との組み合わせによって、沈殿させたタンパク質とマトリクス干渉因子、特に血漿脂質とを一工程の浄化手順で取り除くことが可能であり、その結果、利便性が高まるだけでなく、以前よりさらに清浄な分析試料を生じ、予期しないかつ驚くべき成績を生じる。
【0036】
したがって、支持体と、生体分析試料に存在するマトリクス干渉因子を結合することが可能であり支持体に会合させた吸着剤とを含む、タンパク質を沈殿させた生体分析試料においてマトリクス効果を軽減する装置が提供され、ここで、該装置は、沈殿させたタンパク質粒子を取り除くための濾過手段をさらに含む。本発明はさらに、マトリクス効果を軽減し、かつ生体分析試料におけるタンパク質沈殿物を取り除く方法を提供し、前記方法は、a)支持体と、支持体に会合させた吸着剤とを含む装置を提供することであって、前記吸着剤は、生体分析試料に存在する対象とされる検体に対してマトリクス干渉因子について1より大きい選択性を特徴とし、b)吸着剤に生体分析試料を接触させること、およびc)マトリクス干渉因子と沈殿させたタンパク質とを保持する一方で吸着剤から検体を溶出することを含み、その際、得られた処理された試料におけるマトリクス干渉因子とタンパク質の量が低下する。
【0037】
本発明の種々の態様および実施形態を以下でさらに詳細に説明する。
II.装置
本発明の装置は、沈殿させたタンパク質またはそのほかの望ましくない固形物の除去に好適な粒状の濾過手段と組み合わせて、タンパク質を沈殿させた試料からのマトリクス干渉因子(たとえば、界面活性剤、リン脂質、賦形剤、投与剤など)の除去に好適な吸着剤を含む。特定の実施形態では、粒状のフィルターの機能性および吸着剤は、組み合わせて1つの要素にされる。追加の実施形態では、粒状のフィルターは、吸着剤要素とは別の要素である。特定の追加の実施形態では、タンパク質沈殿物またはそのほかの物質が、機器の性能を妨害しない場合、またはほかの手段によって取り除かれている場合、粒状のフィルターは含まない。
【0038】
装置の幾つかの異なった実施形態を図1に示す。典型的な装置には、カートリッジ(たとえば、インラインカートリッジ、個々のフィルターカートリッジ)、ピペットのチップ(タンパク質沈殿フィルターの有無)、種々のマルチウエルプレート、シリンジフィルターおよびインラインカラムなどが含まれる。例示となる実施形態は、実施例10および11に記載され、本発明の装置を用いて可能となる試料調製手順の劇的な改善を明らかにしている。
【0039】
装置は、粒状の多孔性もしくは非多孔性の吸着剤、モノリスの吸着剤、吸着剤を含浸させた織物、繊維もしくはフィルター、または適当な選択性を持つそのほかの多孔性媒体を含むことができる。吸着剤は、以下でさらに議論されるように、高分子系またはシリカ系であることができる。装置は一般に、濾過手段、たとえば、サイズ排除フィルターまたは吸着剤およびフィルターの二つの機能を提供する吸着剤を含む。濾過手段および吸着剤の配置は一般に重要ではなく、特定の応用に適合するように所望されるとおり配置することができる。しかしながら、粒子が存在しない場合、またはほかの手段で取り除かれている場合、装置は濾過手段を省略することができる。
A.支持体
本明細書で使用されるとき、用語「支持体」は、多孔性または非多孔性の水に不溶の物質(材料)を意味する。支持体または支持する構成は、たとえば、細片、プレート、ディスク、棹(棒)、円筒、ウエル(穴)、円錐などのような多数の構成または形状のいずれか1つを有することができる。支持体または支持する構成は、疎水性または親水性であることができ、または、親水性にすることが可能なものであってもよく、無機粉末、たとえば、シリカ、ジルコニアおよびアルミナ;天然のポリマー材料、合成のまたは修飾された天然に存在するポリマー、たとえば、ニトロセルロース、セルロースアセテート、ポリ(塩化ビニル)、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルブテン)、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリ(エチレンテレフタレート)、ナイロン、ポリ(ビニルブチレート)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、またはテフロン(登録商標))、など;を含むことができ、それ自体で使用される、またはガラス、セラミックス、金属などのようなそのほかの材料と組み合わせておよび併せて使用される。支持体は、液体を、保持し、分配するのに好適な材料で構築されることができ、一般に、ポリマー材料、たとえば、ポリオレフィン、フッ素化ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セルロースアセテート、ポリスチレン、ポリスチレン/アクリロニトリルコポリマー、PVDFなどである。ポリオレフィン性の材料が好まれ、たとえば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ(テトラフルオロエチレン)またはそれらのコポリマーが好まれる。非水性液体については、非水性液体に溶解しない材料、または混入物を浸出させない材料でチューブを構築することができる。好ましくは、超清浄ポリマー、好ましくはポリプロピレンから装置が構築される。
【0040】
支持体の構造は、特定の応用のニーズに適合するいずれのサイズまたは形状であってもよい。たとえば、試料の予備処理の適用には、支持体は、図1に示されるように、個々のフィルターカートリッジ、またはマルチウエルプレート、ルアー型シリンジフィルター、ピペットチップなどの形態であってもよい。実施形態の1つでは、支持体は、Robertsの上記特許文献8に記載されたようにマルチウエル濾過装置または固相抽出装置であることができる。インラインでの使用のクロマトグラフィでは、支持体は、複数回使用または一回使用のインラインカラムなどの形態であってもよい。
【0041】
特定の実施形態では、支持体は、十分な容積を提供して、装置で直接タンパク質を沈殿させる(たとえば、装置はリザーバを含む)ことが可能であり、1つの容器で沈殿を行い、続いてマトリクス干渉因子および沈殿させたタンパク質を取り除くための装置に試料を移す必要性を予め回避する。変性有機溶媒による水性生体分析試料の3:1または4:1希釈を用いてタンパク質の沈殿を行うには、装置は、元々の試料体積の5倍までの容量を有するリザーバを含むべきである。
【0042】
固相抽出の適用については、支持体は、シリンジカートリッジ、ピペットチップなどの形態であってもよい。理論的には、サイズおよび形状に制限はなく、装置の寸法は、実用化の制約から全体として決定され得る。一部の適用については、たとえば、準備段階の適用については、非常に大きな装置が使用されてもよい。微細加工の装置についてさらに小さな構造も企図されてもよい。本発明は、十分な材料のみを必要とし、処理される部分を取り扱うのに十分なサイズの処理機器を関連するサイズ範囲でその部分を作るのに適用することができる。
B.吸着剤
生体分析試料においてマトリクス効果を軽減するための装置は、マトリクス干渉因子を選択的に保持する吸着剤を含む。好ましくは、吸着剤は逆相または極性修飾の逆相を含む。吸着剤は、生体分析試料に存在する検体とマトリクス効果に寄与する因子とを結合することが可能である。吸着剤が、検体とマトリクス干渉因子について選択的結合を示すということは、本明細書で使用される溶媒条件下では、吸着剤はマトリクス干渉因子を保持するが、検体、たとえば、ポサコナゾール(LogP=5.66)のような相対的に非極性の検体でさえ保持しないことを意味する。好ましくは、吸着剤は、生体分析試料に存在するマトリクス干渉因子の少なくとも50%を結合するが、装置から外に出された溶媒中の検体の少なくとも75%、好ましくは少なくとも90%の回収を提供する。さらに好ましい実施形態では、吸着剤は、マトリクス干渉因子の少なくとも70%、またはさらに好ましくは85%、またはさらに好ましくは90%、または一層さらに好ましくは95%、または最も好ましくは99%を結合する。
【0043】
本明細書に記載される装置および方法を用いて軽減するまたは除去することができるという条件で、マトリクス効果を起こすいずれの因子も本発明に包含されるが、試験試料中でマトリクス効果を起こす典型的な因子には界面活性剤および脂質が挙げられる。
典型的な血漿試料に必要とされる吸着剤の量は、吸着剤の結合能に依存する。典型的な血漿試料は、50μL〜200μLの間の体積を有するので、20〜30mgのPolaris(登録商標)(粒径が10μmの)C−18Aがこの試料サイズに適当な吸着剤の量である。吸着剤が、Spec(登録商標)ディスク(カリフォルニア州、パロアルトのバリアン社)のような埋め込まれた粒子を伴うガラス繊維のモノリスである場合、4〜8個のディスクが吸着剤の適当な量を提供する。特定の適用について当業者は、吸着剤の所望の量を容易に決定することができる。たとえば、異なった種の動物からの、または異なった餌を食べた動物からの血漿は、様々な量のリン脂質を含有する。試料に存在する高濃度のリン脂質については、マトリクス干渉のリン脂質の最大除去には、相対的に大量の吸着剤が必要とされる。
好ましくは、吸着剤は、干渉因子と検体との間に分離を提供するために利用される溶媒系にて、マトリクス干渉因子と対象とされる検体との間における十分な選択性を特徴とする。実施形態の1つでは、吸着剤は、ホスファチジルコリンと対象とされる検体との間で少なくとも1.0の選択性を示す。特定の吸着剤、溶媒条件、マトリクス干渉因子および対象とされる検体によって、少なくとも1.1、さらに好ましくは1.2、さらに好ましくは1.3、さらに好ましくは1.4、または一層さらに好ましくは1.5の選択性が提供される。実施例6に示されるように、極性(アミド)修飾の逆相吸着剤の使用は、マトリクス干渉因子の最適な保持およびマトリクス効果の軽減を提供する一方で、マトリクス干渉因子に先んじて溶出する検体の最大の回収を可能にする。したがって、好ましい吸着剤はアミド修飾の逆相である。
【0044】
pH修正剤の使用は、マトリクス干渉因子と対象とされる検体との間の選択性について、さらなる制御を提供する。非極性の塩基性の検体は、沈殿溶媒溶液を酸性化することによって、選択的に溶出(たとえば、吸着剤によって保持されないように)することができる。塩基のプロトン付加は、吸着剤によって提供される非極性の固定相によって保持されそうにないさらに極性の分子を提供する。同様に、酸性検体を含有する溶液の塩基性化は、低い保持をもたらすので、マトリクス干渉因子と酸性の対象とされる検体との間にさらに大きな分離および向上した選択性がもたらされる。実施例4ならびに表10および表11はさらに、本発明の装置および方法の操作においてこの原理を説明している。
【0045】
本明細書で記載される装置および方法には、原則として当該技術で既知のいかなる吸着剤も利用することができる。吸着剤には、ポリマー吸着剤、無機吸着剤、ハイブリッド有機−無機吸着剤、結合相およびこれらの組み合わせを挙げることができる。
実施形態の1つでは、吸着剤は、以下の式を有する少なくとも1種のシランとともに結合相を生じるように修飾されるモノリスまたは粒状の無機基材を含む:
R1δ−Qα−(CH2)βSiR2γX3−γ
式中、R1は、水素、C1〜C100の置換または非置換のヒドロカルビル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘテロアリールであり、その際、置換基はC1〜C12のヒドロカルビル、ヒドロキシル、アルコキシ、ハロゲン、アミノ、ニトロ、スルホおよびカルボニルから選択され、αは0または1であり、βは0〜30であり、γは0、1または2であり、δは0〜3であり、R2は、C1〜C100の置換または非置換のヒドロカルビル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘテロアリールであり、その際、置換基はC1〜C12のヒドロカルビル、ヒドロキシル、アルコキシ、ハロゲン、アミノ、ニトロ、スルホおよびカルボニルから選択され、Qは独立して−NHC(O)−、−C(O)NH−、−OC(O)NH−、−NHC(O)O−、−NHC(O)NH−、−NCO、−CHOHCHOH−、CH2OCHCH2O−、−(CH2CH2O)n−、−(CH2CH2CH2O)n−、−C(O)−、−C(O)O−、−OC(O)−、CH3C(O)CH2−、−S−、−SS−、−CHOH−、−O−、−SO−、−SO2−、−SO3−、−OSO3−、−SO2NH−、−SO2NMe−、−NH−、−NMe−、−NMe2+−、−N[(CH2)n]2+−、−CN、−NC、−CHOCH−、−NHC(NH)NH−、−NO2、−NO、−OPO3−から選択され、その際、nは1〜30であり、Xは、Liの上記特許文献4に記載されたような脱離基である。
【0046】
好ましくは、無機基材は、アルコキシシラン、アミノシラン、ヒドロキシシランまたはハロシランと反応することが可能である反応性金属酸化物を有する金属酸化物または半金属酸化物、たとえば、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ムライト、ジルコニア、バナジアもしくはチタニアまたはそれらの混合物もしくは複合体を含む。無機基材は、直径約0.001mm〜10mm、好ましくは0.005〜0.04mmのサイズの範囲にあるビーズまたは規則的なもしくは不規則の粒子の形態、任意のサイズの繊維(中空または非中空)の形態、膜、平坦な表面、たとえば、約0.1mm〜約10mmの厚さの範囲のものの形態、およびスポンジ様材料、たとえば、0.05ミクロン〜数mmの直径の細孔を持つフリットまたはモノリスの形態を取ることができる。シランによる無機基材表面の修飾の後、酸素結合を介してシランを無機基材に共有結合させて結合相を生じる。
【0047】
特定の実施形態では、修飾された無機基材は、たとえば、C8またはC18(αが0の場合)のような結合されたアルキル相であり、逆相吸着およびクロマトグラフィへの適用に有用である。特定の好ましい実施形態では、αが1であり、修飾された無機基材は、結合された極性の埋め込まれた逆相であり、少なくとも50%(v/v)有機溶媒の溶媒条件下で非極性の検体を保持することなくマトリクス干渉因子の保持を増進するのに好適である。特に好ましい実施形態では、修飾された無機基材は、たとえば、Polaris(登録商標)C−18A(カリフォルニア州、パロアルトのバリアン社を介して入手可能)のような極性の埋め込まれたアミノ官能性を有するC18の結合相を含む。別の特に好ましい実施形態では、修飾された無機基材は、たとえば、Polaris(登録商標)C−18アミド(カリフォルニア州、パロアルトのバリアン社を介して入手可能)のようなアミド官能化エンドキャップ試薬と残りのシラノール基がさらに反応するC18の結合相を含む。追加の実施形態では、修飾された無機基材は、たとえば、Polaris(登録商標)C18−エーテル、またはPolaris(登録商標)C8−エーテル(カリフォルニア州、パロアルトのバリアン社)のようなC8結合相またはエーテル官能性を含む。当業者は、Liの上記特許文献4に記載された様々な組成の結合相のいずれかが、本明細書で記載される発明の装置および方法に利用できることを認識するであろう。
【0048】
追加の実施形態では、装置は、Kalluryの上記特許文献5および8に記載されたポリマー吸着剤を含む。この吸着剤は、(i)二極性の相互作用および疎水性の相互作用の少なくとも1つを生じるように適合させたポリマー主鎖と、(ii)主鎖に会合し、プロトン受容およびプロトン供与の相互作用を受けるように適合させたアミド官能性とを含む。好ましくは、アミド官能性は共有結合を介して主鎖に会合する。本発明のポリマー吸着剤は、ポリマー主鎖に会合し、(たとえば、検体の官能性との)プロトン受容、プロトン供与および二極性の相互作用から成る群から選択される1以上の相互作用を受けるように適合させたアミド官能性も含む。代表的なアミド官能性には、アセトアミド、N−アルキルアミド、N−アリールアミドおよびN−ヘテロアリールアミドが挙げられる。
【0049】
二極性の相互作用および疎水性の相互作用の少なくとも1つを生じるように適合させたいかなるポリマーも、この実施形態ではポリマーの主鎖として採用することができる。ポリマー主鎖は、たとえば、ポリ(スチレンジビニルベンゼン)、スチレンまたはジビニルベンゼンと、(たとえば、ハロ、アルコキシ、エステルもしくはニトロのような)置換基を持つ官能化スチレンまたは複素環とのコポリマー;または、(たとえば、(しかし、それに拘束されない)ポリスチレン−ポリアクリルアミドおよびポリスチレン−ポリアクリレートのような)コポリマーを含むことができる。したがって、吸着剤におけるポリマー主鎖として採用することができるポリマーの代表的な、しかし非限定のリストには、ポリ(スチレンジビニルベンゼン)、スチレンまたはジビニルベンゼンおよびメチルメタクリレート、ハロゲン化またはニトロ化またはアミン化またはヒドロキシ化したスチレン、官能化イソシアヌレート、ウレタン、アクリルアミドまたはアクリロニトリルおよび官能化複素環系、たとえば、ビニル/アリル/ピリジンを含むコポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。実施形態の1つでは、ポリマー主鎖は、ポリ(スチレンジビニルベンゼン)を含む。特定の実施形態では、ポリマー主鎖は、直径約0.001mm〜約10mmの間、好ましくは直径約0.005mm〜約0.04mmの直径を有する球形または非球形の粒子を含むことが好ましい。
【0050】
そのほかの実施形態では、ポリマー吸着剤は、ポリマーの修飾された多孔性基材構成にて利用することができ、たとえば、モノリス、凝集粒子または織物または不織布繊維(たとえば、ガラス繊維またはポリマー繊維)の形態での多孔性基材の上に形成することができる。好ましくは、ポリマーの修飾された多孔性基材は、多孔性基材およびその上に形成されたポリマーのモノリスを含み、その際、ポリマーのモノリスは、式
【0051】
【化1】
【0052】
を有し、式中、Aは、−L−Qp−Rqによって任意で置換されたC5〜C10の単環式または二環式のアリールまたはヘテロアリールから選択され、その際、qは0〜3、pは0〜5であり、Qは、−NRC(O)−、−C(O)NR−、−OC(O)NR−、−OC(O)R、−NRC(O)O−、−NRC(O)NR−、−NCO、−CHOHCHOH−、CH2OCHCH2O−、−(CH2CH2O)s−および−(CH2CH2CH2O)s−、−C(O)−、−C(O)O−、−CH2C(O)CH2−、−S−、−SS−、−CHOH−、−O−、−SO−、−SO2−、−SO3−、−OSO3、−SO2NR−、−NRq−および−NRq+−であり、その際、Rは、H、−CN、−NC、−CHOCH−、−NHC(NH)NH−、−NO2、−NO、−OPO3−、−OHではなく、sは、1〜12であり;Rは、水素、C5〜C10の単環式または二環式のアリールまたはヘテロアリール、C1〜C12の分枝鎖、非分枝鎖または環状のヒドロカルビルであり;Pは、
【0053】
【化2】
【0054】
であり、Lは結合またはC1〜C12の分枝鎖、非分枝鎖または環状のヒドロカルビルであり、その際[−CH2−CR−L−A−P]および[−CH2−CR−L−A]の順は、Shahの上記特許文献7に記載されたランダム、ブロックまたはそれらの組み合わせである。
さらにほかの実施形態では、ポリマー吸着剤は、ポリマーの修飾された多孔性基材構成にて利用することができ、たとえば、モノリス、凝集粒子または織物または不織布繊維(たとえば、ガラス繊維またはポリマー繊維)の形態での多孔性基材の上に形成することができる。好ましくは、ポリマー吸着剤は、多孔性基材およびその上に形成された極性の官能化ポリマーのモノリスを含む、極性の官能化ポリマー修飾の多孔性基材であり、その際、ポリマーのモノリスは式
【0055】
【化3】
【0056】
を有し、式中、Aは、C1〜C12の分枝鎖または非分枝鎖のヒドロカルビルまたはハロで任意に置換されたC5〜C10の単環式または二環式のアリールまたはヘテロアリールから選択され、その際、n/mは、約0.001〜約1000であり、rは0または1であり、Qは、−NRC(O)−、−C(O)NR−、−OC(O)NR−、−OC(O)R、−NRC(O)O−、−NRC(O)NR−、−NCO、−CHOHCHOH−、CH2OCHCH2O−、−(CH2CH2O)s−および−(CH2CH2CH2O)s−(その際、sは1〜12である)、−C(O)−、−C(O)O−、−CH2C(O)CH2−、−S−、−SS−、−CHOH−、−O−、−SO−、−SO2−、−SO3−、−OSO3、−SO2NR−、−NRq−および−NRq+−、−CN、−NC、−CHOCH−、−NHC(NH)NH−、−NO2、−NO、−OPO3−、−OHまたはこれらの組み合わせであり、Lは、結合またはC1〜C12の分枝鎖、非分枝鎖または環状のヒドロカルビルであり;Rは水素であり、ハロ、ニトロまたはアルキルで任意に置換されたC5〜C10の単環式または二環式のアリールまたはヘテロアリール、C1〜C12の分枝鎖、非分枝鎖、または環状ヒドロカルビルであり、Pは、
【0057】
【化4】
【0058】
であり、その際、[−CH2−CR−L−A−Pr]および[−CH2−CR−L−Q−R−Pr]の順は、Shahの上記特許文献6に記載されたランダム、ブロックまたはそれらの組み合わせである。
さらに、多孔性基材なしで、たとえば、ビーズまたは繊維として形成されて、上述のポリマー吸着剤を本発明の装置および方法に利用することができる。さらにほかの実施形態では、吸着剤は、シリカ上に官能基を有するポリマーのネットワークの調製を記載している、Gottschallの上記特許文献9および10に記載され、instrAction社(ルートヴィヒスハーフェン、DE)介して利用可能なポリマー吸着剤であることができる。これらの吸着剤の幾つかの性能を実施例2および4で説明する。
【0059】
さらにほかの実施形態では、吸着剤は、Hudsonの上記特許文献12に記載されたような、たとえば、アルコキシシラン、アミノシラン、ヒドロキシシランまたはハロシランのようなシランと反応することが可能である反応性金属酸化物を有する金属酸化物または半金属酸化物の粒子を含む結合相で埋め込まれたガラス繊維マトリクスを含む官能化モノリス吸着剤であることができる。好適な金属酸化物および半金属酸化物には、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ムライト、ジルコニア、バナジアもしくはチタニアまたはそれらの混合物もしくは複合体、好ましくはシリカが挙げられる。同様に、ガラス繊維マトリクスは金属または半金属の酸化物で構成される。シリカとの反応後、シランは、酸素結合を介してシリカ粒子に共有結合し、金属酸化物または半金属酸化物は、たとえば、ヒドロカルビル、アミド、カルバミル、カルバメート、ウレタン、カルバミド、イソシアネート、ジオール、グリシドキシ、エトキシ、プロポキシ、カルボニル、カルボキシ、アセトニル、チオ、ジチオ、ヒドロキシ、エーテル、スルフィニル、スルホニル、スルホン酸、サルフェート、スルホンアミド、アミノ、ニトリロ、イソニトリロ、エポキシ、グアニジノ、ニトロ、ニトロソおよびホスフェートによって官能化される。
【0060】
当該技術で既知の方法によってシリカを化学的に処理する(または官能化する)ことができる。実施形態の1つでは、シリカは、アルキル部分、通常、C2〜C30のアルキル基に結合してシリカを疎水性にし、疎水性化合物の吸着のための逆相を提供する。別の実施形態では、シリカは、アミドエンドキャップ試薬によってC18結合相に結合し、または極性の埋め込まれた部分を有するC18結合相に結合し、極性修飾の逆相を提供する。シリカを修飾するのに使用することができるいかなる結合相も可能であり、たとえば、アミノ、シアノ、グリシジルなど、ならびに上記で議論したようなアニオンまたはカチオンの交換基が可能である。好ましい実施形態では、官能化されたモノリスの吸着剤は、好ましくは、SPEC(登録商標)製品に類似するオルガノシランの化学的物質(カリフォルニア州、パロアルトのバリアン社を介して入手可能)を用いて調製される、修飾されたシリカを含浸させたガラスのミクロ繊維から構成される。このモノリスの結合シリカによって、改善された流れおよび非常に少ない空隙容量が可能になり、試料の処理に使用される溶媒が少なくて済む。官能化されたモノリスの吸着剤の結合能は一般に、0.1mgの吸着剤当たり約1μg検体の範囲である。ガラス繊維のマトリクス材料は通常、名目上見積もられたサイズの蛇行性の径路を創る無作為に分布する繊維から構築され、約0.1mm〜約2mm、さらに通常では、約1mmの厚さを有する。好ましい実施形態では、吸着剤は、Spec(登録商標)IQe(カリフォルニア州、パロアルトのバリアン社)において利用されるものである。
【0061】
追加の実施形態では、吸着剤は、生体試料からリン脂質を取り除くために、上記特許文献1(Bennett外)に記載されたような支持体に結合させたリン脂質性の多価カチオンを含むことができる。そのような吸着剤は、リン脂質のようなホスフェート含有の化合物を吸着するために、遷移金属、ランタニドまたはアクチニド、好ましくはセリウムを含む。
C.濾過手段
タンパク質の濃度および組成、使用されたタンパク質沈殿法などによって、粒度は、タンパク質を沈殿させた試料において異なる。血漿試料とともに種々の変性溶媒を使用するのが分析研究室では一般的であり、血漿試料から取り除かれる粒子も同様に異なる。別の態様では、本明細書で記載される装置および方法は、生体分析試料からタンパク質が沈殿された粒子を取り除くための濾過手段を提供する。特に好ましい実施形態では、装置および方法は、たとえば、変性溶媒または塩の添加のような沈殿手順の結果生じるタンパク質粒子を取り除く。
【0062】
タンパク質沈殿物の粒度は、組成、沈殿方法およびそのほかの変数によって異なってもよいので、濾過手段を選択して所望の粒度を除去することができる。たとえば、ACNを使用する場合、沈殿させたタンパク質の直径は一般に大きいので、約0.2μm〜約0.45μmの細孔サイズを有するフィルターが、望ましくない粒子状混入物を取り除くのに一般に十分である。MeOHを使用する場合、粒経は小さくなる傾向があるので、0.1μm〜0.2μm以下のフィルターが通常十分である。実施例7に示すように、75%(v/v)MeOH/3%蟻酸によって沈殿させた血漿試料は、0.2μmの細孔サイズのCaptiva(登録商標)フィルターを用いて取り除くことができる小さな粒度を生じた。対照的に、75%(v/v)ACNによって沈殿させた血漿試料は、0.45μmの細孔サイズのCaptiva(登録商標)フィルターを用いて取り除くことができる大きな粒度を生じた。
【0063】
特定の実施形態では、濾過手段は、タンパク質を沈殿させた生体分析試料に光学透明度を提供するのに有効である(たとえば、524nmでの%Tが>95)。好ましくは、濾過手段は、試料に存在する沈殿させたタンパク質粒子を取り除くために直径約0.05μm〜約0.5μmの間の細孔サイズを有することを特徴とする。特定の実施形態では、濾過手段は、直径約0.1μm〜約0.2μmの間の細孔サイズを有することを特徴とする。特に好ましい実施形態では、濾過手段は、フィルターを通過することにより、直径0.2μmおよび0.45μmを超える粒子を排除するサイズ排除膜である。
【0064】
代替の実施形態では、濾過手段は、試料から取り除かれる粒子の直径以下の最大細孔サイズを有する、たとえば、直径約0.05μm〜約0.5μmの間の、好ましくは、直径約0.1μm〜約0.2μmの間の細孔サイズを有する無機モノリスである。特定の実施形態では、濾過手段は、吸着剤と一体化するまたは吸着剤と会合する、たとえば、試料から粒子を排除できるように十分小さな直径のマクロ細孔を有し、多孔性無機モノリスに結合された逆相または極性修飾の逆相を含む多孔性無機モノリスである。
【0065】
好ましくは、濾過手段は、Captiva(登録商標)フィルターまたはCaptiva(登録商標)プレート(96ウエル(穴)形式)のようなサイズ排除フィルターである。サイズ排除フィルターは、タンパク質の沈殿およびマトリクス干渉因子の除去で利用される溶媒条件に対して安定である、当該技術で既知のいかなる材料も含むことができる。サイズ排除フィルターに好適な材料には、限定されることなく、ポリオレフィン性材料、たとえば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ(4−メチルブテン)またはそれらのコポリマー、ナイロン、PTFE、フッ素化ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セルロースアセテート、ポリスチレン、ポリスチレン/アクリロニトリルコポリマー、PVDF、ニトロセルロース、ポリ(塩化ビニル)、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ビニルブチレート)などが挙げられ、それ自体を使用することができ、またはそのほかの材料、たとえば、ガラス、セラミックス、金属などとの組み合わせでおよび併用で使用することができる。サイズ排除フィルターは、試料に溶解しない、または混入物を溶出しない材料から構成されるべきである。好ましくは、フィルターは、超清浄なポリマー、好ましくはポリプロピレン、PVDFまたはPTFEから構成される。好ましい実施形態では、濾過手段は、ユーザーがフィルターを介して試料の溶出を開始する(たとえば、圧力、真空または遠心力を適用することによって)まで溶媒を保持する追加の利益を提供するPTFEフィルターであり、適時にわたって改善された制御を提供し、使用の追加的容易さを提供する。
【0066】
追加の実施形態では、濾過手段は、所望のサイズの粒子を取り除くのに十分な最大細孔サイズを有する(サイズ排除フィルターと同様に)ポリマーまたは無機のモノリスであることができる。通常、所望のサイズの粒子を取り除くのに十分である最大細孔サイズは、試料から取り除かれる粒子の直径よりも小さい。しかしながら、貫通細孔(マクロ細孔)を通る流体の流れのために蛇行性の径路を提供するモノリスの濾過手段では、所望のサイズの粒子を取り除くのに十分である最大細孔サイズは、試料から取り除かれる粒子の直径よりも大きくてもよい。好ましい実施形態では、濾過手段は、たとえば、Xuの上記特許文献13に記載されたように調製される多孔性ガラスのモノリスである。当業者は、たとえば、様々な溶媒、塩または酸におけるタンパク質の沈殿から生じる所与のサイズの粒子を試料から取り除くのに望ましい細孔のサイズを容易に決定することができる。当業者はまた、選択されたサイズの粒子を取り除くためのモノリスの濾過手段を容易に調製することもできる。
D.タンパク質の沈殿処理
熟練者は、本発明の方法で利用することができる多数のタンパク質沈殿処理に気付くであろう。タンパク質を沈殿させるのに利用することができる典型的な処理には、酸処理(たとえば、トリクロロ酢酸、蟻酸など)、変性溶媒(たとえば、メタノール、アセトニトリル、アセトンなど)、熱処理(結果的にタンパク質の変性を生じる)、塩処理(たとえば、硫酸アンモニウム)、およびこれらの組み合わせが挙げられる。本明細書に記載される装置および方法は、変性溶媒(普通、少なくとも2:1の有機溶媒対水)の添加によってタンパク質の沈殿が達成される場合、試料とともに、好ましくは利用される。たとえば、メタノール、アセトンまたはアセトニトリルのような有機溶媒による水性試料の2:1または3:1希釈が、結果として、血漿、細胞培養上清、組織抽出物、組織ホモジネートなどのような生体分析試料で見い出されるタンパク質様の成分の沈殿を生じる。したがって、沈殿させた試料は通常、50%(v/v)以上の有機相(たとえば、溶媒による2:1の希釈については66%(v/v)または溶媒による3:1の希釈については75%(v/v))を含む。好ましい実施形態では、酸処理と溶媒希釈(たとえば、2:1メタノール、1%蟻酸)の組み合わせを用いてタンパク質を沈殿させる。酸を包むことは、薬物動態分析などを行う場合典型的なので、対象とされる検体が塩基性検体である場合有利である。当業者は、沈殿条件が、特定の対象とされる検体および特定の生体分析試料の性質に対して調整されることを認識するであろう。特定の条件下で、たとえば、沈殿溶液に塩基、たとえば、蟻酸アンモニウムを含めることによって塩基性溶液にて沈殿を行うことが有利であってもよい。
E.マトリクス干渉因子
マトリクス干渉因子には、質量分光分析のための電子スプレーイオン化の間、試料に存在する検体のイオン化を抑制するのに必要な相対的に高い濃度(普通、少なくとも1mg/mL)で生体分析試料に存在し得る多種多様な物質が挙げられる。マトリクス干渉因子が、まさに検体依存性である検体検出を抑制するようにはたらくということは、1つの検体の検出が別の検出よりも不利に影響を被っている可能性があることを意味する。
【0067】
一般に遭遇するマトリクス干渉因子には、試料に添加された界面活性剤およびそのほかの作用剤、血清に存在する脂質、薬物製剤に添加されている賦形剤(投与剤)が挙げられる。たとえば、試料の分析に先立ってNP40を培養細胞に添加して細胞を溶解することができる。患者または実験動物からの血液血漿は、十分な量の脂質、たとえば、コレステロール、トリグリセリド、リン脂質、リソリン脂質、リポタンパク質などを含有することが知られており、それらのすべては、マトリクス干渉効果を発揮し、かつ/または分析機器を汚染するのに十分に高い濃度で存在し得る。ポリエチレングリコール(PEG)、界面活性剤、崩壊剤(錠剤分解物質)およびそのほかの賦形剤は、薬物製剤の溶解試験に存在することができる。
【0068】
界面活性剤および血漿脂質は、生体分析試験で遭遇する最も一般的なマトリクス干渉因子の一部である。ここで記載されている装置および方法を用いて取り除くことができる血漿脂質には、吸着剤が、1種を超える対象とされる検体に対する血漿脂質の選択性を示す限り、限定されることなく、コレステロール、コレステロールエステル、トリグリセリド、リン脂質、リゾリン脂質、リポタンパク質などが挙げられる。好ましい血漿脂質は、リソ形態(たった1本のアシル鎖を有する)またはジアシル形態(2本のアシル鎖を有する)として存在し得るホスファチジルコリン(PC)である。
【0069】
現在記載されている装置および方法を用いて取り除くことができる界面活性剤には、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤または両性界面活性剤を含むイオン性界面活性剤や、非イオン性界面活性剤を含む多種多様な界面活性剤が挙げられる。非イオン性界面活性剤には、たとえば、ポリオキシステアレート、たとえば、ポリオキシ40ステアレート、ポリオキシ50ステアレート、ポリオキシ100ステアレート、ポリオキシ12ジステアレート、ポリオキシ32ジステアレートおよびポリオキシ150ジステアレート、ならびにそのほかのMyrj(商標)シリーズの界面活性剤、商標名PluronicおよびPoloxamerのもとで入手可能な一般式HO(C2H4O)a(−C3H6O)b(C2H4O)aHを有するポロキサマーとしても知られるエチレンオキシド/プロピレンオキシド/エチレンオキシドのトリブロックコポリマー、糖エステル界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル、たとえば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、およびそのほかのSpan(商標)シリーズの界面活性剤、グリセロール脂肪酸エステル、たとえば、グリセロールモノステアレート、ポリオキシエチレン誘導体、たとえば、高分子量脂肪族アルコールのポリオキシエチレンエーテル(たとえば、Brij30、35、58、78および99)ポリオキシエチレンステアレート(自己乳化)、ポリオキシエチレン40ソルビトールラノリン誘導体、ポリオキシエチレン75ソルビトールラノリン誘導体、ポリオキシエチレン6ソルビトール蜜蝋誘導体、ポリオキシエチレン20ソルビトール蜜蝋誘導体、ポリオキシエチレン20ソルビトールラノリン誘導体、ポリオキシエチレン50ソルビトールラノリン誘導体、ポリオキシエチレン23ラウリルエーテル、ブチル化ヒドロキシアニソールを伴ったポリオキシエチレン2セチルエーテル、ポリオキシエチレン10セチルエーテル、ポリオキシエチレン20セチルエーテル、ポリオキシエチレン2ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン10ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン20ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン21ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン20オレイルエーテル、ポリオキシエチレン40ステアレート、ポリオキシエチレン50ステアレート、ポリオキシエチレン100ステアレート、ソルビタンの脂肪酸エステルのポリオキシエチレン誘導体、たとえば、ポリオキシエチレン4ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン20ソルビタントリステアレート、およびTween(商標)シリーズの界面活性剤、リン脂質およびリン脂質脂肪酸誘導体、たとえば、脂肪アミンオキシド、脂肪酸アルカノールアミド、プロピレングリコールモノエステルおよびモノグリセリド、たとえば、水素添加パーム油モノグリセリド、水素添加大豆油モノグリセリド、水素添加パームステアリンモノグリセリド、水素添加野菜モノグリセリド、水素添加綿実油モノグリセリド、精製パーム油モノグリセリド、部分水素添加大豆油モノグリセリド、綿実油モノグリセリド、ヒマワリ油モノグリセリド、ヒマワリ油モノグリセリド、カノーラ油モノグリセリド、スクシニル化モノグリセリド、アセチル化モノグリセリド、アセチル化水素添加野菜油モノグリセリド、アセチル化水素添加ココナッツ油モノグリセリド、アセチル化水素添加大豆油モノグリセリド、グリセロールモノステアレート、水素添加大豆油を伴ったモノグリセリド、水素添加パーム油を伴ったモノグリセリド、スクシニル化モノグリセリドおよびモノグリセリド、モノグリセリドおよび菜種油、モノグリセリドと綿実油、プロピレングリコールモノエステルナトリウムステアロイルラクチレートシリコンジオキシドを伴ったモノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、ポリオキシエチレンステロイダルエステル、エチレンオキシドと重合したオクチルフェノールから製造され、商標名における数「100」が構造におけるエチレンオキシド単位の数に間接的に関連し(たとえば、TritonX−100(商標)は、平均分子量625で分子当たりN=9.5の平均エチレンオキシド単位を有する)、市販品においてより少ない量で存在する低モルおよび高モルの付加主成物を有するTriton−Xシリーズの界面活性剤、ならびにTritonX−100(商標)に類似する構造を有する、IgepalCA−630(商標)およびNonidetP−40M(NP−40(商標)、N−ラウロイルサルコシン、ミズーリ州、セントルイスのシグマケミカル社)を始めとする化合物、などが挙げられる。界面活性剤分子における炭化水素鎖はいずれも飽和されてもよく、または不飽和でもよく、水素添加されてもよく、または水素添加されていなくてもよい。
【0070】
糖エステル界面活性剤には、モノエステルおよびジエステルが最も好ましいが、糖脂肪酸モノエステル、糖脂肪酸ジエステル、トリエステル、テトラエステルまたはこれらの混合物が挙げられる。好ましくは、糖脂肪酸モノエステルは、直鎖または分枝鎖または飽和または不飽和のC6〜C24の脂肪酸であってもよい6〜24の炭素原子を有する脂肪酸を含む。C6〜C24の脂肪酸は、好ましくは、ステアレート、ベヘネート、ココエート、アラキドネート、パルミテート、ミリステート、ラウレート、カプレート、オレエート、ラウレートおよびそれらの混合物から選択され、部分的な範囲または組み合わせにおいて偶数または奇数の炭素を含むことができる。好ましくは、糖脂肪酸モノエステルは、少なくとも1つの糖単位、たとえば、スクロース、マルトース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、ラクトース、ソルビトール、トレハロースまたはメチルグルコースを含む。スクロースエステルのような二糖類エステルが最も好ましく、スクロースココエート、スクロースモノオクタノエート、スクロースモノデカノエート、スクロースモノ−またはジラウレート、スクロースモノミリステート、スクロースモノ−またはジパルミテート、スクロースモノ−およびジステアレート、スクロースモノ−またはジ−またはトリオレエート、スクロースモノ−またはジリノレート、スクロースポリエステル、たとえば、スクロースペンタオレエート、ヘキサオレエート、ヘプタオレエート、またはオクタオレエートならびに混合エステル、たとえば、スクロースパルミテート/ステアレートが挙げられる。
【0071】
糖エステル界面活性剤には、上記特許文献14に記載されたようなエステル化度を制御する方法を用いて製造された、スクロースステアレートを含む種々のモノ−、ジ−およびモノ/ジエステル混合物を示す名称、Crodesta F10、F50、F160およびF110のもとでニュージャージー州、パルシッパニーのCroda社によって販売されているもの、参照B370のもとで名称、Ryoto糖エステルのもとで三菱から販売されているもの(たとえば、20%モノエステルと80%ジ−、トリ−およびポリエステルとで形成されたスクロースベヘネートに相当)、名称「TegosoftPSE」のもとでGoldschmidt社から販売されているスクロースモノ−およびジ−パルミテート/ステアレート、ICI社によって名称「Arlatone2121」のもとで販売されているソルビタンステアレートのおよびスクロースココエートの混合物のような糖に由来しない別の化合物との混合に存在する糖エステル、そのほかの糖エステル、たとえば、グルコーストリオレエート、ガラクトースジ−、トリ−、テトラ−またはペンタオレエート、アラビノースジ−、トリ−またはテトラリノレート、またはキシロースジ−、トリ−またはテトラリノレート、またはそれらの混合物が挙げられる。メチルグルコースのエステルを含む、脂肪酸のそのほかの糖エステルには、Tegocare450の名称のもとでGoldschmidt社から販売されているメチルグルコースのおよびポリグリセロール−3のジステアレートが挙げられる。メチルO−ヘキサデカノイル−6−D−グルコシドおよびO−ヘキサデカノイル−6−D−マルトースのようなグルコースやマルトースのモノエステルを挙げることもできる。特定のそのほかの糖エステル界面活性剤には、脂肪酸のオキシエチレン化エステルが挙げられ、糖のオキシエチレン化エステルには、たとえば、名称「GlucamateSSE20」のもとでAmerchol社から販売されているPEG20メチルグルコースセスキステアレートのようなオキシエチレン化誘導体が挙げられる。
III.生体分析試料の調製方法
本発明はさらに、マトリクス干渉因子と分析のためのタンパク質とを含む試料を調製するための方法を提供する。当業者は、沈殿させたタンパク質を取り除き、マトリクス効果を軽減するために種々の方法で本発明の装置および方法を実施することができることを認識するであろう。典型的な分析には、クロマトグラフィ、分光光度分析、質量分光分析など、およびそれらの組み合わせが挙げられる。たとえば、製薬検体を測定するための生体分析技術で例示となる分析方法はLC/MS−MSである。
【0072】
したがって、生体分析試料においてマトリクス効果を軽減し、タンパク質の沈殿物を取り除くための方法が提供され、前記方法は、a)支持体と支持体に会合する吸着剤とを含む装置を提供することであって、前記吸着剤は、生体分析試料に存在する対象とされる検体に対するマトリクス干渉因子について1を超える選択性を特徴とし、試料に存在するタンパク質の沈殿物を取り除くための濾過手段をさらに含むものであることと、b)生体分析試料を吸着剤に接触させることと、c)マトリクス干渉因子および沈殿させたタンパク質を保持する一方で吸着剤から検体を溶出することとを含み、ここで、得られる処理された試料におけるマトリクス干渉因子およびタンパク質の量が低下する。特定の実施形態では、方法はさらに、生体分析試料を吸着剤に接触させる工程に先立って、またはそれと同時に装置における生体分析試料中のタンパク質を沈殿させることを含むことができる。好ましくは、工程c)は、陰圧(すなわち、真空を適用すること)、動電学的な力もしくは遠心力、重力もしくは毛細管に由来する陰圧、または陽圧を用いて行い、試料が吸着剤および濾過手段を通過するようにし、それによってマトリクス干渉因子および沈殿させたタンパク質を取り除く。たとえば、陰圧を使用して、市販の真空連結管を用いて96ウエルプレートまたはカートリッジを介して試料を引くことができる。陽圧を使用して、限定しないで、インラインカラムまたは一回使用のカートリッジ、ピペットチップまたはルアー型のシリンジフィルターを介して試料を押すことができる。同様に、遠心力を使用して(遠心機)フィルターカートリッジまたは96ウエルプレートなどを介して試料を押すことができる。
【0073】
好ましくは、濾過手段は、試料に存在する沈殿させたタンパク質粒子を取り除くために、直径約0.05μm〜約0.5μmの間の細孔サイズを有することを特徴とし、特定の実施形態では、濾過手段は約0.1μm〜約0.2μmの間の細孔サイズを含む。特定の実施形態では、濾過手段は、0.1μm、0.2μmおよび0.45μmの細孔サイズを含む。好ましくは、マトリクス干渉因子は、界面活性剤、脂質、賦形剤または投与剤であり、好ましい実施形態では脂質はリン脂質であり、界面活性剤は、アニオン界面活性剤および非イオン性界面活性剤から選択されたものである。好ましくは、界面活性剤は、本明細書に記載される吸着剤を用いて有利に保持されることができる炭化水素鎖を含む。好ましくは、吸着剤は、マトリクス干渉因子と対象とされる検体との間での十分な選択性を特徴とし、対象とされる検体に溶出を提供する一方でマトリクス干渉因子の保持を提供する。特定の実施形態では、吸着剤は逆相または極性修飾の逆相を含む。特定の実施形態では、マトリクス干渉因子と対象とされる検体とを含む、タンパク質を沈殿させた生体分析試料において、マトリクス効果を軽減し、沈殿させたタンパク質を取り除く方法が提供され、該方法は、本明細書で記載される装置を通って試料を通過させることを含む。
【0074】
追加の実施形態では、マトリクス干渉因子と対象とされる検体とを含む、タンパク質を沈殿させた生体分析試料においてマトリクス効果を軽減するために方法が提供され、該方法は、a)支持体と、支持体に会合する吸着剤とを含む装置を提供することであって、その際、前記吸着剤は生体分析試料に存在する対象とされる検体に対するマトリクス干渉因子についての1を超える選択性を特徴とすることと、b)生体分析試料を吸着剤と接触させることと、c)マトリクス干渉因子を保持する一方で検体を吸着剤から溶出することであって、得られる処理された試料におけるマトリクス干渉因子の量が低下するものであることを含む。装置は、沈殿させたタンパク質粒子を取り除くための濾過手段をさらに含むことができる。好ましい実施形態では、生体分析試料が少なくとも50%(v/v)の変性有機溶媒を含む場合、吸着剤はマトリクス干渉因子を保持する一方で、対象とされる検体を保持しない。追加の実施形態では、66%、75%もしくは90%(v/v)の有機溶媒でさえ、またはpH修正剤(たとえば、酸、塩基)の存在下でさえ、吸着剤がマトリクス干渉因子を保持する一方で、対象とされる検体を保持しない。好ましくは、吸着剤は、生体分析試料に存在するマトリクス干渉因子の少なくとも50%を結合する一方で、装置から外に出された溶媒中の検体の少なくとも90%の回収を提供し、さらに好ましくは、吸着剤は、試料に存在するマトリクス干渉因子の少なくとも70%、またはさらに好ましくは85%、またはさらに好ましくは90%、または一層さらに好ましくは95%および最も好ましくは99%を結合する。
【0075】
特定の実施形態では、併用濾過固相抽出モード(SPE)において装置を使用することができる。たとえば、方法は、生体分析試料を吸着剤に接触させるのに先立って、少なくとも1つのコンディショニング(調整)溶媒または溶媒の混合物によって吸着剤を洗浄することによって、任意で吸着剤をコンディショニングすることをさらに含むことができる。方法は、吸着された検体とマトリクス干渉因子とを伴う吸着剤を、洗浄溶媒または溶媒の混合物で任意で洗浄して、結合されなかった成分を取り除くことをさらに含むことができる。さらなるSPEの使用によれば、方法は、順次高めた溶媒強度の溶出溶媒によって、吸着されたマトリクス干渉因子で検体を汚染することなく、吸着剤から検体を溶出することをさらに含むことができる。
【0076】
追加の実施形態では、少なくとも50%(v/v)のタンパク質変性有機溶媒を含む生体分析試料においてマトリクス効果を軽減するための方法が提供され、該方法は、a)生体分析試料に存在するマトリクス干渉因子を結合することが可能である吸着剤を提供することと、b)生体分析試料を吸着剤に少なくとも10秒間接触させることと、c)吸着剤から溶液を分離することとを含み、得られる処理された試料におけるマトリクス干渉因子の量が低下する。好ましくは、前記接触させることは、約10秒間〜約10分間行われ、吸着剤は、生体分析試料に存在するマトリクス干渉因子の少なくとも50%を結合する一方で、装置から外に出された溶媒中の検体の少なくとも90%の回収を提供する。方法は、沈殿させたタンパク質粒子を取り除くための濾過手段に生体分析試料を接触させることをさらに含むことができる。好ましくは、濾過手段に接触させることと、吸着剤に接触させることは同一工程で行われる。
【0077】
別の実施形態では、試料をタンパク質沈殿処理に供し、次いで遠心分離を行い、または試料が、分析に先立つ除去を保証するように、十分なタンパク質を含有しないものであり、その後、マトリクス干渉因子に選択性を持つ吸着剤で処理する、たとえば、吸着剤を装填したピペットチップを用いてタンパク質ペレットから上清を移す。該方法を実施するのに好適なピペットチップの実施態様は、図1に描かれている。
【0078】
好ましい実施形態では、この方法を利用して、種々のLogP、特に2を超えるLogP値の検体を含有する試料においてマトリクス効果を軽減し、吸着剤は、極性修飾の逆相であり、pH修正剤の存在下または不存在下、0.2μmのフィルター細孔サイズとともに、高い溶媒強度(たとえば、50%(v/v)〜95%(v/v))にて使用される。たとえば、この方法は、LogP値が≦5.2である検体と、およそ20mg〜30mgの吸着剤、たとえば、Polaris(登録商標)C18−AまたはC18アミドとを含有する血漿試料について、2:1もしくは3:1の容積希釈のACNまたは3:1のMeOHを用いて沈殿を行い、タンパク質粒子とホスファチジルコリンと界面活性剤とを取り除くことを含むことができる。さらに量の多い吸着剤によって、ほとんどのリソホスファチジルコリンを取り除くことができる。
【0079】
追加の好ましい実施形態では、この方法を利用して種々のLogPの検体を含有する試料においてマトリクス効果を軽減し、吸着剤(20〜30mg)は、逆相吸着剤または極性修飾逆相吸着剤であり、66%(v/v)の有機溶媒強度および0.1〜0.2μmのフィルター細孔サイズとともに使用される。たとえば、この方法は、検体を含有する血漿試料について、3%の蟻酸を伴うMeOH(2:1)を用いて沈殿を行い、タンパク質粒子と、リソホスファチジルコリンを含む実質的にすべてのホスファチジルコリンと、ツイーン(Tween)80やSDSのような界面活性剤とを取り除くことを含む。吸着剤の量(20mg)は、血漿試料(およそ1mL未満)からの検体の回収に影響を及ぼすことなく、5mg/mLの界面活性剤を取り除くのに十分である。この実施形態の態様は、実施例5、実施例7および実施例11、ならびに図17に示されている。
【0080】
ポサコナゾールのような非極性性の高い検体は、調べた一部の溶媒およびpH条件で一貫性のない回収を示す可能性がある(実施例9を参照のこと)。当業者は、高い非極性の検体の回収について溶媒、吸着剤、溶媒強度およびpHを最適化できるが、特定のマトリクス干渉因子の除去を犠牲にする可能性があることを認識するであろう。同様に、マトリクス干渉因子すべての除去を達成してさらに清浄な試料を生じることができるが、すべての検体の回収を犠牲にする可能性がある。分析目的によって、すべてを考慮して検体をより確実に定量できるのであれば、マトリクス構成成分すべての、妥協して処理する除去を許容することができる。同様に、すべてを考慮して十分に清浄な試料を達成するさらに正確な定量が可能であるならば、妥協して処理する検体の回収が望ましいものであり得る。
IV.生体分析試料におけるマトリクス効果を軽減する装置の調製方法
追加の実施形態では、生体分析試料におけるマトリクス効果を軽減する装置を調製するために方法が提供される。実施形態の1つでは、a)ある量の吸着剤と濾過手段とを含むことが可能である支持体を提供する工程と、b)試料に存在するマトリクス干渉因子を保持するのに有効な量の吸着剤と試料に存在する沈殿させたタンパク質を取り除くための濾過手段とを提供する工程と、c)支持体の中に濾過手段および吸着剤を組み込む工程とを含む、生体分析試料においてマトリクス効果を軽減するために装置が提供される。この方法は、支持体において適当な位置に保持するように吸着剤を保持する手段および/または支持体において適当な位置に保持するように濾過手段を支持する手段を提供することをさらに含むことができる。追加の実施形態では、支持体は、生体分析試料と、タンパク質を沈殿させるために添加される溶媒とを収容することが可能であるリザーバをさらに含む。特定の実施形態では、a)サイズ排除フィルターを支持することが可能であり、ある量の吸着剤と生体分析試料とを収容することが可能である支持体を提供する工程と、b)支持体の中にサイズ排除フィルターを組み込む工程と、c)サイズ排除フィルターの上で支持体に吸着剤を組み込む工程と、d)支持体にて適当な位置に保持するように吸着剤を保持する手段を任意で提供する工程とを含む、生体分析試料においてマトリクス効果を軽減するために、装置が調製される。
【0081】
以下の装置および調製方法は、生体分析試料においてマトリクス効果と沈殿させたタンパク質とを低減するために調製され、利用されることができる装置の非限定例である。
1.マルチウエル形式での使用のための装置は:MeOH中で10mg/mLのPolaris(登録商標)C18−A(10μm)のスラリーを調製する工程であって、0.2μmのサイズ排除フィルター(ポリプロピレン)を含むCaptiva(登録商標)96ウェル(穴)プレートの各ウエルに2mL(20mg)を加える工程と;フィルターを介した吸引によってMeOHを取り除く工程と、各吸着剤床の上にフリットを置く工程とを含んで調製することができる。そのとき、装置は使用できる状態である。
【0082】
2.個々のフィルターカートリッジとしての使用のための装置は:サイズ排除膜を支持するためのフリットを伴った個々のフィルターカートリッジを提供する工程と、フリットにフィルターを組み込み、膜の上に第2のフリットをさらに組み込み、それを固定する工程と、MeOH中のスラリー(10mg/mLのスラリーから20mg)として第2のフリットの上の吸着剤を適用する工程と、MeOHを取り除く工程と、吸着剤の上に第3のフリットを適用して吸着剤を固定する工程とを含んで調製することができる。
【0083】
3.インラインでの使用のための装置は:金属またはPEEKのカラム体を提供する工程と、一端にフリットを挿入し、次いで濾過手段を挿入し、任意で次いで追加の固定フリットを挿入する工程とを含んで調製することができ、吸着剤はスラリーまたは乾燥粉末として挿入され、追加の固定手段が続き、適当な出口と入口とともにハードウエアを用いてカラムとともに使用するために接続して仕上げられる。或いは、カラム体においてゾルゲルのモノリスを調製し、乾燥し、焼成(か焼)し、修飾して所望の結合相を提供し、インライン使用のために必要なハードウエアを備え付けることができる。
【0084】
4.ピペットチップ形式における使用のための装置は:ピペットチップを提供することと、ピペットチップの小さな開口部(チップ)に中に濾過手段を挿入することとを含んで、または、その場での重合によりピペットチップに直接、モノリスの濾過手段を形成し、次いでHudsonの上記特許文献12に記載されたように調製されたガラス繊維のモノリス吸着剤のプラグ(栓)を組み込むことによって、または、濾過手段に隣接したピペットチップの中に、ある量の粒子状もしくはモノリスの吸着剤を供給することによって、調製することができる。試料にタンパク質の沈殿物が存在していなければ、濾過手段を利用しないでマトリクス効果を軽減するためにピペットチップを利用することができ、その場合、ピペットチップは、OmixIQeTomtecチップ(カリフォルニア州、パロアルトのバリアン社)のような、上記特許文献12に記載されたように調製することができる。
【0085】
5. 96ウエルプレートを調製するのに利用されたものに類似した方法で、ルアー型シリンジフィルターとして使用するための装置を調製することができる。ルアー型装置は、所望の選択性および細孔サイズの濾過手段および吸着剤に取り付けることができる。たとえば、濾過手段は、Captiva(登録商標)または0.2μmの細孔サイズのミリポアフィルターであることができ、吸着剤は、Spec(登録商標)ディスク(カリフォルニア州、パロアルトのバリアン社から入手可能)または複数のSpec(登録商標)ディスクまたは粒状の吸着剤であることができる。吸着剤と濾過手段との順序は重要ではなく、すなわち、吸着剤またはフィルターは、装置のメス型端部またはオス型端部に設置することができる。しかしながら、試料を吸着剤に接触させる前に粒子状物質を濾別することが習慣的である。
【0086】
乾燥吸着剤粒子またはモノリスの吸着剤(たとえば、結合相で埋め込まれたガラス繊維マトリクスを含む官能化モノリス吸着剤、または結合相を生じるように修飾されたゾルゲルモノリス、またはポリマーで修飾された多孔性の基材など)を、フィルターおよび/もしくはフリットの上に注ぐもしくは設置することによって、またはポリマー系のモノリス吸着剤(たとえば、アミド官能性のような極性の官能性を含むポリマー吸着剤)をフィルターおよび/もしくはフリットの上で重合することによっても、装置を調製することもできる。
【0087】
当業者は、生体分析試料の吸着剤および濾過手段との接触の順序が一般に重要ではないことを理解して、これら類似の装置を実施することができ、組み立てることができるであろう。さらに、装置は、装置の中で直接、タンパク質の沈殿物を調製し、次いで実施例11に示されるように、すべて一工程で吸着および濾過を行うためにリザーバを含む。タンパク質の吸着が、マトリクス干渉因子を保持する吸着剤の能力に有害に影響することがありうるので、試料を吸着剤に接触させるのに先立ってタンパク質の沈殿を行うことが好ましい。しかしながら、このことは使用のために必要な条件ではなく、当業者は、試料を吸着剤に接触させるのに先立って沈殿を行うことが好ましいかどうか決定して、手順を変えることができる。
【0088】
当業者は、類似の材料を置き換えて、やや異なった特質を有する装置を提供することがさらにできるであろう。たとえば、利用される細孔サイズが適用に適する限り、たとえば、Millipore、Porex、Advantecなどからのフィルターのようにいずれの濾過手段も利用することができる。同様に、特定の適用に所望されるとして、ポリプロピレン、PVDF、PTFE、ニトロセルロースなどのフィルターを利用することができる。対象とされる検体が相対的に極性であり(たとえば、LogP<2)、沈殿させたタンパク質の溶液(>50%(v/v)の有機溶媒)に関連した溶媒条件下で上手く保持されない場合、極性修飾を欠く逆相吸着剤が適当である。
【0089】
装置が一方向性の流れを提供すること、すなわち、装置は入口および出口を有し、試料が装置の一方の面または入口に適用され、処理された試料が装置の出口または他方の面から出て、一方向性を有して吸着剤および濾過手段を通過することが一般的に好ましい。しかしながら、特定の実施形態では、濾過手段を入口に設置して装置に入るものから粒子を排除することができる(たとえば、ピペットチップの実施態様)一方で、試料が装置に入るにしたがって試料からタンパク質沈殿物が濾別され、ついで試料が吸着剤に接触し、その後、濾過手段を通って取り出される。
【0090】
追加の実施形態では、たとえば、濾過手段が、沈殿させたタンパク質粒子を排除するための所望のサイズのマクロ細孔を有するモノリスの無機基材(たとえば、ゾルゲルモノリス)であり、表面修飾されて試料からマトリクス干渉因子を選択的に吸着するための逆相または極性修飾の逆相の結合相を生じる場合のように、吸着剤と濾過手段は互いに一体化される。
V.適用および使用方法
本発明の物品および方法は、クロマトグラフィ分離および分析分離の応用のための試料の調製に有利に使用することができ、その際、タンパク質や脂質/界面活性剤の混入物を欠く清浄な試料は、たとえば、クロマトグラフィ媒体および計測器への汚染を生じない。汚染は、結果としてクリーニングおよびメンテナンス、機器のズレおよび不一致について段取り時間を生じ、吸着剤の選択性や検体の滞留時間の影響を与える。
【0091】
マイクロ流体工学への応用と同様に、キャピラリーカラム、カートリッジシステムまたは従来のHPLCシステムと併せて装置を利用することができる。検体の質量分光検出による血漿検体(またはそのほかのタンパク質を含有する溶液)の高処理能力スクリーニング用の試料の調製に装置および方法が特に有利に適用され、その際、単一迅速工程で実施されたマトリクス干渉因子および沈殿させたタンパク質の減少は、多忙な実験室作業者に驚くべき好都合と使用の容易さとを提供する。装置はまたSPEでも利用することができる。
VI.発明の利点
タンパク質沈殿フィルターと、脂質、界面活性剤およびそのほかのマトリクス干渉因子を取り除くための吸着剤とを含む本発明の組み合わせ装置によって、ユーザーが典型的なタンパク質沈殿/濾過の手順で使用されるものに類似した方法で試料を処理することができるが、それは、一工程でマトリクス効果を軽減するとともにタンパク質を取り除く追加の利益を提供する。装置の使用は、分析に先立って清浄な生体分析試料を調製する工程を劇的に簡略化する。SPEを用いた別々の試料処理工程は必要ではない。したがって、組み合わせ装置の使用は、はるかに効率の高い試料調製を提供し、試料の分析に必要とされる労力とコストと時間とを低減する。
【0092】
例示となる実施形態は、実施例10および実施例11に記載され、本発明の装置を用いて可能である試料の調製手順における劇的な改善を明らかにしている。実施例11に記載されるように、単一の装置とピペッターとを用いて単一工程で試料をタンパク質沈殿手順とマトリクス干渉因子(この場合、界面活性剤およびリン脂質)の除去との双方に供すればよい。全体として、試料調製は、測定し、試料に溶媒を加えて混合するのに数分間の時間、ついで今や直ちに分析できる処理された試料を回収するのに数秒間を必要とした。
【0093】
したがって、本物品および本方法の一部の利点および特徴には、使用の容易さ、便利さ、一工程でのタンパク質/脂質/界面活性剤の除去が可能であること、時間、溶媒、材料、労力およびコストの節約が挙げられる。
以下の実施例では、使用された部材に関する精度(たとえば、量、温度など)を確保するように尽力されたが、一部の実験的な誤差および偏差があることは説明されるべきである。特に示さない限り、温度は℃であり、圧力は、大気圧またはそれに近い。溶媒はすべてHPLC等級として購入し、実験は、特に示さないかぎり、すべて大気中で普通に行った。
略記
ACN:アセトニトリル
LC/MS−MS:液体クロマトグラフィ−質量分光分析/質量分光分析
SDS:ドデシル硫酸ナトリウム
実施例1:クロマトグラフィカラムにリン脂質が蓄積する
希釈したブタ血漿を、極性修飾したC18−AのHPLCカラム(40mm×4.0mm)に注入し、40秒間保持した後、1分間でACNが10%から90%へと傾斜するACNと0.1%蟻酸との勾配プログラムを用いて血漿構成成分を溶出した。カラムを再平衡化するために10%に戻す前に、高い有機溶出を40秒間保持した(表13を参照のこと)。
【0094】
結果は図2に示す。それは、50回の注入にわたってリン脂質(ホスファチジルコリン)がカラムに徐々に蓄積することを明らかにしている。上記非特許文献1によって記載された方法によれば、LC−MS/MSのトレースは、m/zが84.0→184.0にてホスファチジルコリンの溶出の検出によって示される。
実施例2:種々の吸着剤によるホスファチジルコリンおよびツイーン80の除去と検体の検出との相関
リン脂質および界面活性剤ツイーン80を取り除く種々の吸着剤の能力の比較を行った。アセトニトリル(ACN)またはACN(0.6mL)中の1.0%の蟻酸のいずれかの添加によってタンパク質を沈殿させ、ついで遠心して沈殿させたタンパク質を取り除く(Sorvall50mL、ロータ500rpm、20分間)ように、ブタの血漿試料(0.2mL)を処理した。上清を取り出し、以下の製薬検体:ゾルピデム、ワーファリン、キニジン、スリンダク、ロラタジン、ロペラミドおよびツイーン80(5mg/mL)についてスパイクさせた。ついで、試験吸着剤:ND06262、ND06265、ND06267(ドイツ、ルートヴィヒスハーフェンのinstrAction社)またはPolaris(登録商標)C18−アミド(カリフォルニア州、パロアルトのバリアン社)10μmシリカビーズのいずれかを介して、スパイクした血漿試料を濾過した。回収プレートの中でのCaptiva(登録商標)0.45μm膜の上に吸着剤を組み込んだ(10mgまたは20mgの吸着剤)。バリアンのPolaris(登録商標)C18−Aカラム(3μmの粒経、50mm×2.0mm)を用い、バリアン1200L LC/MS−MSシステムを用いた表1によるA:0.1%蟻酸およびB:アセトニトリルの勾配によって、10μLの分別検体を分析した。
【0095】
【表1】
【0096】
濾過膜のみでの処理(比較例)に対して、10mgまたは20mgの吸着剤について、製薬検体、ホスファチジルコリンおよびツイーン80のMS/MS応答を測定した。表2に示されるように、その質量分光分析の移行によって定量イオンを検出した。
【0097】
【表2】
【0098】
結果は、以下の図3〜図10および表3〜表6に示す。図3、図5、図7および図9は、1%蟻酸の存在下または不存在下、3:1のACN沈殿上清で処理した場合の、それぞれ10mgおよび20mgの吸着剤、ND06262、ND06265、ND06267およびPolaris(登録商標)C18−アミドによる処理によってリン脂質が低下したことを明らかにしている。図4、図6および図8は、ツイーン80について相対的に少ない低下を示すが、図10は、Polaris(登録商標)C18−アミドによるツイーン80のさらに有意な除去を明らかにしている。これらの結果を以下の表に提示する。
【0099】
【表3】
【0100】
【表4】
【0101】
【表5】
【0102】
【表6】
【0103】
さらに大量の吸着剤を使用した場合、さらに多くの界面活性剤およびリン脂質が取り除かれたということは、使用した吸着剤の量と取り除かれたツイーン80およびホスファチジルコリンの量との間に正の相関があることを示している。しかしながら、このベッド質量範囲では検体に対する感度は犠牲にされなかった。一般に、リン脂質およびツイーン80の除去は結果的に検体の検出の向上を生じ、それは、結果的にイオン抑制を低下させるマトリクス干渉因子の除去と整合性が取れている。
実施例3:タンパク質を沈殿させた試料からの界面活性剤の除去
1mg/mLの濃度までの界面活性剤(トリトン Triton)X−100、ツイーン80およびドデシル硫酸ナトリウム(SDS))とともに、1ppmまでの検体(ゾルピデム、ワーファリン、スリンダク、ロラタジン、バルデナフィル)についてブタ血漿試料をスパイクした。4種の処理のうち1つを用いて試料(200μL)に沈殿を生じさせた。
−アセトニトリル中3%の蟻酸400μL(2:1)
−アセトニトリル中3%の蟻酸600μL(3:1)
−メタノール中3%の蟻酸400μL(2:1)
−メタノール中3%の蟻酸600μL(3:1)
微量遠心機にて14,000rpmで12分間、試料を遠心した。Captiva(登録商標)0.45μm膜の上に組み込んだ20mgのPolaris(登録商標)C18−A吸着剤を用いて実施例2に記載されたように上清を抽出した。実施例2および以下に示される表7に記載されるように10μLの分別検体をHPLCで分析した。
【0104】
【表7】
【0105】
表8に示される分子イオンを用いて、検体を検出した。
【0106】
【表8】
【0107】
結果を表9に要約する。クロマトグラフィの結果は図11〜図14に示す。図11は、2:1のMeOH(A〜F)または2:1のACN(G〜L)を用いて沈殿させた血漿タンパク質のそれぞれ3つのクロマトグラムを説明する。双方の溶液は、3%の蟻酸を伴うものである。すなわち、各クロマトグラムは、3組実行された。図11A〜図11Cは、吸着剤で処理せずにタンパク質を沈殿させた血漿について得られたクロマトグラムを説明する。図11D〜図11Fは、20mgのPolaris(登録商標)C18−Aによる処理の効果(処理された試料におけるツイーン80の低下)を示す。同様に、図11G〜図11Iは、吸着剤で処理せずにタンパク質を沈殿させた血漿について得られたクロマトグラムを説明する。図11J〜図11Lは、20mgのPolaris(登録商標)C18−Aによる処理の効果(処理された試料におけるツイーン80の低下)を示す。
【0108】
図12は、2:1のMeOH(A〜F)または2:1のACN(G〜L)を用いて沈殿させた血漿タンパク質のそれぞれ3つのクロマトグラムを説明する。双方の溶液は、3%の蟻酸を伴うものである。すなわち、各クロマトグラムは、3組実行された。図12A〜図12Cは、吸着剤で処理せずにタンパク質を沈殿させた血漿について得られたクロマトグラムを説明する。図12D〜図12Fは、20mgのPolaris(登録商標)C18−Aによる処理の効果(処理された試料におけるトリトンX−100の低下)を示す。同様に、図12G〜図12Iは、吸着剤で処理せずにタンパク質を沈殿させた血漿について得られたクロマトグラムを説明する。図12J〜図12Lは、20mgのPolaris(登録商標)C18−Aによる処理の効果(処理された試料におけるトリトンX−100の低下)を示す。
【0109】
図13は、2:1のMeOH(A〜F)または2:1のACN(G〜L)を用いて沈殿させた血漿タンパク質のそれぞれ3つのクロマトグラムを説明する。双方の溶液は、3%の蟻酸を伴うものである。すなわち、各クロマトグラムは、3組実行された。図13A〜図13Cは、吸着剤で処理せずにタンパク質を沈殿させた血漿について得られたクロマトグラムを説明する。図13D〜図13Fは、20mgのPolaris(登録商標)C18−Aによる処理の効果(処理された試料におけるSDSの低下)を示す。同様に、図13G〜図13Iは、吸着剤で処理せずにタンパク質を沈殿させた血漿について得られたクロマトグラムを説明する。図13J〜図13Lは、20mgのPolaris(登録商標)C18−Aによる処理の効果(処理された試料におけるSDSの低下)を示す。
【0110】
図14は、2:1のMeOH(A〜F)または2:1のACN(G〜L)を用いて沈殿させた血漿タンパク質のそれぞれ3つのクロマトグラムを説明する。双方の溶液は、3%の蟻酸を伴うものである。すなわち、各クロマトグラムは、3組実行された。図14A〜図14Cは、吸着剤で処理せずにタンパク質を沈殿させた血漿について得られたクロマトグラムを説明する。図14D〜図14Fは、20mgのPolaris(登録商標)C18−Aによる処理の効果(処理された試料におけるホスファチジルコリンの低下)を示す。同様に、図14G〜図14Iは、吸着剤で処理せずにタンパク質を沈殿させた血漿について得られたクロマトグラムを説明する。図14J〜図14Lは、20mgのPolaris(登録商標)C18−Aによる処理の効果(処理された試料におけるホスファチジルコリンの低下)を示す。
【0111】
【表9】
【0112】
図11〜図14および表9に示されるように、調べられたプロトコル(実験)の1以上を用いて、界面活性剤および脂質は、タンパク質を沈殿させた試料から実質的に取り除くことができた。たとえば、血漿の2:1または3:1いずれかの希釈において、3%蟻酸を伴うMeOHの使用は、試料からのホスファチジルコリンおよびツイーン80の実質的に完全な除去を示した。血漿の2:1または3:1いずれかの希釈において、3%蟻酸を伴うACNの使用は、試料からのホスファチジルコリンの実質的に完全な除去およびツイーン80の有意な除去を示した。SDSの除去は溶出溶媒の強度にさらに依存しており、85%のSDSを2:1のMeOHで取り除くことができたが、3:1のMeOHでは40%しか取り除けなかった。吸着剤としてPolaris(登録商標)C18−Aを用いて、ACNは、試料からSDSを取り除くのに有効ではなかった。トリトンX−100の除去は、これらの条件下ではあまり有効ではなく、有意な除去は、ACNを用いてはあったが、MeOHではなかった。
実施例4:脂質の除去に対する酸濃度の影響
5mg/mLのツイーン80とともに、1ppmまでの検体(ゾルピデム、ワーファリン、スリンダク、ロラタジン、ロペラミド、バルデナフィル)について10mLのブタ血漿試料をスパイクした。以下の3種の処理剤のうち1種を30mL用いて試料を沈殿させた。
アセトニトリル
1%の蟻酸を含むアセトニトリル
2%の蟻酸を含むアセトニトリル
Sorvall50mLロータを用いて15℃にて8,000rpmで30分間、試料を遠心した。完全な真空のもとで、Captiva(登録商標)0.45μm膜の上に組み込んだ20mgのND06262またはPolaris(登録商標)C18−アミドの吸着剤を用いて実施例2のように、上清(800μL)の試料を濾過して、回収プレートに入れた。
【0113】
10μLの分別検体を記載されたようにHPLCで分析し、その質量分光分析の移行によって実施例3に記載されたように検体を検出した。結果を表10および表11に要約する。クロマトグラフィの結果は図15および図16に示す。図15は、未処理の試料(A、C、E)および20mgのPolaris(登録商標)C18−アミド吸着剤で処理した試料(B、D、F)を用いて生成されたクロマトグラムを示す。pH修正剤無しでの3:1のACNによる試料の処理を図15Aおよび図15Bに示す。これらの図は、試料におけるホスファチジルコリンにおける低下を示している。1%蟻酸を伴った3:1のACNによる試料の処理を図15Cおよび図15Dに示す。これらの図は、試料におけるホスファチジルコリンにおける低下を示している。2%蟻酸を伴った3:1のACNによる試料の処理を図15Eおよび図15Fに示す。これらの図は、試料におけるホスファチジルコリンにおける低下を示している。
【0114】
【表10】
【0115】
これらの結果は、ホスファチジルコリンの除去とPolaris(登録商標)C18−アミドを伴った酸濃度との間の顕著な関係を明らかにしており、2%の蟻酸は、ゾルピデムの特に高い検出を生じた。調べたこの最高の酸濃度およびACNにて、ホスファチジルコリンのほぼ完全な除去が達成され、取り除くのが著しく難しく、検体の検出でさらに大きな増大を生じる可能性があるリソホスファチジルコリンでさえ達成された。ツイーン80の除去も十分だった。これらのマトリクス干渉因子の除去は、個々の検体シグナルに対するこれらイオン抑制因子の変化し得る効果のために、結果的に検体に依存したシグナルの増大を生じる。
【0116】
【表11】
【0117】
ND06262もホスファチジルコリンの有意な除去を示したが、これらの溶媒条件下では、この吸着剤は血漿試料からツイーン80を取り除くことにはほとんど有効性を示さない。図16は、無処理の試料(A、C、E)およびND06262吸着剤20mgで処理した試料(B、D、F)を用いて生成したクロマトグラムを説明する。pH修正剤無しで3:1のACNによる試料の処理を図16Aおよび図16Bに示しており、試料におけるホスファチジルコリンの低下を示している。1%蟻酸を伴った3:1のACNによる試料の処理を図16Cおよび図16Dに示しており、試料におけるホスファチジルコリンの低下を説明している。2%蟻酸を伴った3:1のACNによる試料の処理を図16Eおよび図16Fに示しており、試料におけるホスファチジルコリンの低下を説明している。
実施例5:メタノール試験
5mg/mLのツイーン80とともに、1ppmまでの検体(ゾルピデム、ワーファリン、スリンダク、ロラタジン、ロペラミド、バルデナフィル)についてブタ血漿試料(100μL)をスパイクした。200μLのメタノール/3.0%蟻酸で血漿試料を希釈することによって試料を沈殿させた。微量遠心機にて室温で14,000rpmで15分間試料を遠心した。20mgのPolaris(登録商標)C18−A吸着剤を用いて実施例2のように、上清の試料を濾過し、または上清の試料を単に回収プレートに直接移した。
【0118】
10μLの分別検体を実施例3に記載されたようにHPLCによって分析した。結果を表12に要約する。クロマトグラフィの結果は、観察されたホスファチジルコリンの特定の種を指摘して、図17に示した。図17A〜図17Cは、吸着剤で処理せずにタンパク質を沈殿させた血漿の3つのクロマトグラムを示している(実験は3組行われた)。図17D〜図17Fは、Captiva(登録商標)0.45μm膜の上に組み込んだ20mgのPolaris(登録商標)C18−A吸着剤で処理した、タンパク質を沈殿させた血漿の3つのクロマトグラムを説明している(実験は3組行われた)。
【0119】
【表12】
【0120】
これらの結果は、これらの溶媒条件下でPolaris(登録商標)C18−A吸着剤を用いた場合、試料に存在するツイーン80およびリン脂質のほぼ完全な除去ならびに検体の完全な回収を明らかにしている。吸着剤とタンパク質の沈殿条件とのこの組み合わせによって、驚くべきことに、単純な沈殿/抽出手順にて検体を損失することなく、マトリクス干渉因子の完全な除去が得られる。
実施例6:吸着剤の選択性試験
3:1のACN希釈を用いてブタ血漿にてタンパク質を沈殿させ、実施例4に記載したように遠心によってタンパク質を取り除いた。5mg/mLのツイーン80とともに、10ppmまでの以下の検体:アミトリプチリン、スマトリプタン、ラモトリジン、ロラタジン、クロザピンおよびケチアピンについて血漿の試料をスパイクした。バリアン1200L LC/MS−MSシステムを用いた表13による、A:0.1%蟻酸、およびB:アセトニトリルの勾配による、種々の吸着剤(40mm×4.0mm)を用いたHPLCによって、10μLの上清、検体およびツイーン80の分別検体を分析した。以下の吸着剤を調べた:Polaris(登録商標)C18、Polaris(登録商標)C18−AおよびFocus(登録商標)(カリフォルニア州、パロアルトのバリアン社)およびND06047(ドイツ、ルートヴィヒスハーフェンのinstrAction社)。
【0121】
【表13】
【0122】
表12に示した質量分光分析の移行を用いて、特定の検体およびマトリクス干渉因子の定量を行った。
【0123】
【表14】
【0124】
結果は、図18〜図21に示し、A〜Hは表14に示された検体のトレースを示す。図18は、純粋な逆相吸着剤、すなわちC−18で修飾されたシリカ(Polaris(登録商標)C18)における検体およびマトリクス干渉因子の溶出を示し、この吸着剤における非極性検体の強い保持のために、後で溶出する検体の一部と、マトリクス干渉因子、ホスファチジルコリンおよびツイーン80とに保持時間の一部重なり合いがあることを明示している。ロラタジン(最も小さい極性の検体、LogP=3.65)のピークと、ホスファチジルコリンまたはツイーン80のピークの前縁との間の算出された選択性は約1である。
【0125】
図19は、極性修飾の逆相吸着剤、Polaris(登録商標)C18−Aにおける検体、およびマトリクス干渉因子の溶出を示し、酸性の溶媒溶出条件でのこの吸着体では非極性検体の強い保持がほとんどないために、後で溶出する検体と、マトリクス干渉因子、ホスファチジルコリンおよびツイーン80とについて保持時間にほとんどまったく重なり合いはないことを明示している(極性修飾の吸着剤によって塩基性の検体は保持されにくい)。
【0126】
図20は、極性修飾の逆相吸着剤、Focus(逆相アミド修飾芳香族ポリマー)における検体およびマトリクス干渉因子の溶出を示し、この吸着剤に対する非極性検体の強い保持がほとんどないために、後で溶出する検体の一部と、マトリクス干渉因子、ホスファチジルコリンおよびツイーン80とについて保持時間にほとんど重なり合いはないことを明示している。
【0127】
最後に、図21は、instrAction社のND06047(シリカビーズ上に形成されたポリマーネットワーク)における検体およびマトリクス干渉因子の溶出を示し、この吸着剤に対する非極性検体の強い滞留がほとんどないために、後で溶出する検体の一部と、マトリクス干渉因子、ホスファチジルコリンおよびツイーン80とについて保持時間にほとんどまったく重なり合いはないことを明示している。同様に、この溶出条件下では、特定の検体間での分離はほとんどないが、これらの吸着剤については検体間の分離は意図されない。
【0128】
これらのクロマトグラムは、検体およびマトリクス干渉因子の保持時間の幅広い範囲にわたって調べた吸着剤の選択性を明示している。ロラタジン(最も小さい極性を有する検体、LogP=3.65)のピークとホスファチジルコリンまたはツイーン80のピークの前縁との間の算出された選択性が、極性修飾の逆相吸着剤すべてについて1を超え、強く非極性である検体についてさえもマトリクス干渉因子、ホスファチジルコリンおよびツイーン80からの選択的分離を可能にしている。
実施例7:タンパク質沈殿の粒子サイズおよび方法
以下の4種の処理のうち1つを用いてブタ血漿試料(0.2mL)にてタンパク質を沈殿させ、66%(v/v)または75%(v/v)いずれかの有機溶媒溶液を得た。
・3%の蟻酸を伴うMeOHの0.4mLの添加
・3%の蟻酸を伴うMeOHの0.6mLの添加
・1%の蟻酸を伴うACNの0.4mLの添加
・1%の蟻酸を伴うACNの0.6mLの添加
0.45μmもしくは0.2μmの細孔サイズのフィルターを用いたCaptiva(登録商標)プレートに、または0.45μmもしくは0.2μmの細孔サイズのフィルターを用いた吸着剤(20mgの10μmのC18−A)を収容しているCaptiva(登録商標)プレートに、タンパク質を沈殿させた試料を通過させた。524nmにて透過率(%T、1cmのパス(経路)、MeOHブランクに対して)を測定して、異なったタンパク質沈殿手順により生じたタンパク質粒子の尺度としての濁度、および吸着剤の存在下または不存在下でのCaptiva(登録商標)フィルタープレートの粒子を取り除く能力を決定した。結果を図22に示す。
【0129】
図22に示されるように、MeOHの希釈溶液を用いたタンパク質の沈殿が最も小さな粒子を生じ、それは、0.45μmの細孔サイズのCaptiva(登録商標)フィルターだけを介しては濾過によって取り除くことはできなかった(%Tはゼロだった)。20mgの吸着剤の添加により、少量のタンパク質沈殿物が取り除かれた(%Tは約25%だった)。0.2μmの細孔サイズのフィルターの使用は、60%(v/v)のMeOHで沈殿させた試料について、さらに良好な結果を提供したが(約50%Tを達成した)、66%(v/v)のMeOHで沈殿させた試料については、%Tは依然としてゼロだった。20mgの吸着剤の添加は、66%(v/v)のMeOHで沈殿させた血漿について約20%T、および75%(v/v)のMeOHで沈殿させた血漿については約100%Tである、さらに良好な粒子の除去を提供した。
【0130】
ACNの希釈溶液を用いたタンパク質の沈殿は、より大きい粒子を生じ、それは、0.45μmの細孔サイズのCaptiva(登録商標)フィルターだけを介した濾過によって部分的に取り除くことができ、66%(v/v)溶液による沈殿では%Tは約5%であり、75%(v/v)溶液による沈殿では%Tは約95%だった。20mgの吸着剤の添加は、やや多くのタンパク質沈殿物を取り除き、66%(v/v)溶液による沈殿では%Tは約7%であり、75%(v/v)溶液による沈殿では%Tは約98%だった。0.2μmの細孔サイズのCaptiva(登録商標)フィルターだけの使用は、粒子の最大除去を提供し、66%(v/v)溶液による沈殿では%Tは約97%であり、75%(v/v)溶液によるの沈殿では%Tは約98%だった。20mgの吸着剤の添加は、やや多くのタンパク質沈殿物を取り除き、66%(v/v)溶液による沈殿では%Tは約99%であり、75%(v/v)溶液による沈殿では%Tは約98%だった。
【0131】
したがって、タンパク質の沈殿方法は変動する粒子サイズを生じ、それは、必要な粒子サイズの濾過能力を持つ適当な濾過方法を用いて取り除くことができる。75%(v/v)のMeOHで沈殿させた試料での許容可能なタンパク質粒子の除去は、20mgの吸着剤を伴った0.2μmの細孔サイズのCaptiva(登録商標)フィルターを用いてのみ達成された。75%(v/v)のACNで沈殿させた試料での許容可能なタンパク質粒子の除去は、20mgの吸着剤の存在下または不存在下、0.45μmの細孔サイズのCaptiva(登録商標)フィルターを用いて、または吸着剤の存在下または不存在下、0.2μmの細孔サイズのCaptiva(登録商標)フィルターを用いて達成されたが、66%(v/v)のACNについては、許容可能な粒子の除去は、0.2μmの細孔サイズフィルターによってのみ達成され、吸着剤の存在下および不存在下で同等だった。
実施例8:マトリクス干渉因子の除去速度
ACN中1.0%の蟻酸0.6mLの添加によって、ブタ血漿試料(0.2mL)のタンパク質を沈殿させた。タンパク質の沈殿物は遠心(Sorvall50mLロータにおいて5000rpmで20分間)によって取り除いた。5mg/mLのツイーン80とともに、1ppmまでの検体(ゾルピデム、ワーファリン、スリンダク、ロラタジン、バルデナフィル)について試料をスパイクした。0.45μmの細孔サイズのCaptiva(登録商標)フィルターを伴った96ウエルプレートにて、約10秒、20秒、50秒、120秒、または5秒、10秒、15秒、60秒、150秒の時間、試料を吸着剤(20mgのPolaris(登録商標)C18−アミド(10μm)またはND06262)と接触させ、ついで回収プレートを介して真空濾過によって吸着剤から分離した。吸着剤との接触時間は、可変の真空度を適用することにより流速を変えることによって制御した。−15インチHgによって、吸着剤との10秒間の接触時間が生じた。−10、−5、−2.5、−2インチHgの追加で適用された真空によって、示された接触時間が得られた。実施例2に記載されたようにHPLCによって濾液を分析し、検体の回収率と取り除かれたホスファチジルコリンおよびツイーン80の量とを測定した。結果は図23および図24に示す。
【0132】
図23は、吸着剤に対する10秒以内の暴露でPolaris(登録商標)C18−アミドによってホスファチジルコリンのおよそ75%が血漿試料から取り除かれ、調べた時間の間、それは変化しなかったこと、およびND06262は5秒以内にホスファチジルコリンの少なくとも50%を取り除くことができ、試料と吸着剤との接触の150秒間によって60%を超えてやや増加することを明示している。
【0133】
図24は、吸着剤に対する10秒以内の暴露でPolaris(登録商標)C18−アミドによってツイーン80のおよそ40%が血漿試料から取り除かれ、調べた時間の間、この量はほんのわずか増加したことを明示している。ND06262は調べた時間の間、ツイーン80をほとんど取り除くことができなかった。
検体の検出は、血漿試料とPolaris(登録商標)C18−アミドとの接触時間に依存していた。20秒以上の接触時間すべてで検体の検出が100%を超え(濾過のみに対して)ており、これは、リン脂質およびツイーン80の最大除去が吸着剤への暴露時間20秒までで起きたことを示している(データは示さず)。
【0134】
検体の検出は、血漿試料とND06262との接触時間に明瞭には依存せず、これは、この吸着剤が、これらの溶媒条件下でホスファチジルコリンおよびツイーン80を取り除くのにPolaris(登録商標)C18−アミドほど効果的ではないことを示している(データは示さず)。
実施例9:溶媒条件を最適化してホスファチジルコリンの除去を最大化すること
100ng/mL(0.1ppm)までの以下の検体:偽エフェドリン、カルバマゼピン、デスロラタジン、プロプラノロールおよびポサコナゾールについてヒトの血漿をスパイクした。スパイクした血漿の一部(0.1mL)を取り出し(n=6)、pH修正剤を伴ったまたは伴わない0.2mLまたは0.3mLの有機溶媒を各一部に加えてタンパク質を沈殿させた。調べた変性溶媒は、血漿との2:1および3:1希釈のアセトン、ACN、MeOHであり、2%の蟻酸を伴うまたは伴わないものである。20mgのPolaris(登録商標)C18−A吸着剤を含有するCaptiva(登録商標)プレートのウエルに、タンパク質を沈殿させた各血漿試料を通すか、または別の96ウエルプレートに移した。HPLCに先立って水(0.2mL)を加えて各試料を希釈し、API5000LC/MS−MSシステムを用いてその10μLの部分を分析した。プレートを通過した各試料の平均面積(エリア)カウントを、プレートを通過しなかった各試料の平均面積カウントで割ることによって回収を算出した。
【0135】
結果を以下の表15〜表18に示す。
【0136】
【表15】
【0137】
【表16】
【0138】
【表17】
【0139】
【表18】
【0140】
これらの結果は、有意な量のリソホスファチジルコリンを含めてホスファチジルコリンの驚くべき完全な除去、一方で幅広い極性の検体の吸着剤からの回収を示している。
実施例10.マトリクス効果を軽減するための装置の調製
MeOH中で10mg/mLのPolaris(登録商標)C18−A(10μm)のスラリーを調製し、0.2μmのサイズ排除フィルター(ポリプロピレン)を含むCaptiva(登録商標)96ウエルプレートの各ウエルに2mL(20mg)を加えて、生体分析試料にてマトリクス効果を軽減するために装置を調製した。フィルターを介した吸引によってMeOHを取り除き、各吸着剤床の上にフリットを置いた。そのとき、装置は使用できる状態にあった。
実施例11:マトリクス効果を軽減するための装置の性能
5mg/mLのツイーン80とともに、各1ppmまでの検体(ゾルピデム、ワーファリン、スリンダク、ロラタジン、ロペラミド、バルデナフィル)についてのブタ血漿試料をスパイクし、修飾した96ウエルCaptiva(登録商標)プレートのウエルにて、その0.2mLの部分でタンパク質を沈殿させた。0.2μmのポリプロピレンCaptiva(登録商標)フィルターの上に20mgのPolaris(登録商標)C18−A(10μm)を含有するようにプレートを修飾した。MeOH/3%蟻酸(0.6mL)を試料に加え、ピペッティング(0.6mLの5サイクル)によって混合し、ついで真空濾過によってプレートを介して濾過した。Polaris(登録商標)C18−A吸着剤の3つの異なるロットを調べた。実施例3に記載されたようにHPLCを用いて調べた試料を分析した。
【0141】
結果は、平均で>100%の検体の回収を明示し、これは、マトリクス効果が軽減されたことを示していた。この装置を用いて、ツイーン80のおよそ85%、リソホスファチジルコリンの65%およびホスファチジルコリンの99%が取り除かれた(データは示さず)。全体として、試料の調製は、測定し、試料と溶媒を混合するのに数分、ついで処理された試料を回収するのに数秒を要し、即時の分析ができる状態となる。
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、分析試験用の生体分析試料を調製するための装置(デバイス)および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願は、2007年5月16日に出願された米国特許出願第11/803,824号に対する優先権を主張する。
生体分析試験および定量方法は、混入物(汚染物)からの干渉の影響を受ける。混入物は、試料中のその存在度に不均衡に、種々の検体に対する感度を下げたり、上げたりする。液体クロマトグラフィ質量分光分析/質量分光分析(LC/MS−MS)は、薬剤の代謝試験にとって好ましい方法である。しかしながら、マトリクス効果は有意な分析誤差をもたらすことがあり、マトリクス効果を検討して、精度、選択性および感度が損なわれていないことを保証すべきである(下記非特許文献1)。特に、ホスファチジルコリンのようなリン脂質は、検体の感度を低下させることによって、電気スプレーMS検出において検体のイオン化を妨害し、一般にイオン抑制またはマトリクス効果と呼ばれる。米国質量分光分析学会第52回質量分光分析会議(the American Society for Mass Spectrometry,52nd Conference)(2004年)にて提示されたAhnoff,M.およびHagelin,H.の“Matrix Effects in Electrospray Ionization: Characterization of Plasma Phospholipids as Suppressors/Enhancers of Ionization Efficiency”を参照のこと。問題をさらに悪化させることは、様々な動物種からの血液血漿のような様々な試料の異なった脂質組成が、検体の応答を変化させ、定量の問題を生じる可能性があることである。生体分析試料のリン脂質の混入から生じ得る相違する校正曲線および保持時間のシフトを報告しているBennett外による以下の提示:米国質量分光分析学会第52回質量分光分析会議(2004年)にて提示された“Managing Phospholipid−Based Matrix Effects in Bioanalysis,”www.tandemlabs.com/capabilities publications.html(2−26−07にアクセスした);“A Source of Imprecision Resulting from Ionization Suppression from Strongly Retained Phospholipids and Dioctyl Phthalate,”にて、これらのマトリクス効果はさらに議論されている。
【0003】
加えて、混入物の存在は、不完全な溶媒抽出を生じ得るので、検体濃度の過少報告を生じ、または分析計測器に蓄積することがあり、感度を破壊し、または、清浄化手順が実行されている間は不稼動時間を生じる。リン脂質のような混入物は、沈殿させた血漿試料を繰り返し分析する間に典型的な逆相HPLCカラムに蓄積する傾向を有する。蓄積されたリン脂質は、その後の注入の際に流れ出すことができ、複数回の注入の間に検体の感度をずらしていく。米国質量分光分析学会第52回質量分光分析会議(2004年)にて提示されたBennettおよびLiangの“Overcoming Matrix Effects Resulting from Biological Phospholipids Through Selective Extractions in Quantitative LC/MS/MS,”における選択的抽出を介した生体リン脂質から生じるマトリクス効果の克服」を参照のこと。リン脂質を取り除くことは、適切な条件にカラムを再生するための徹底的な溶媒洗浄を必要とする。
【0004】
これらの問題を解決する試みで種々のアプローチが利用されている。液体/液体抽出(LLE)および固相抽出(SPE)を始めとする、生体分析試料からリン脂質を取り除く現在の方法は、複雑であり、多大な方法の開発および検体喪失の可能性を必要とする。たとえば、SPEにおけるさらに強い溶出強度の溶媒の使用は、逆説的に、おそらくリン脂質による試料の汚染のために、マトリクス効果によって試料検出の低下を生じる可能性がある。しかしながら、リン脂質による試料の汚染を回避するために溶出溶媒強度を制限することは、極性の低い検体の不完全な回収を生じる可能性がある。LLEのアプローチは、たとえば、混入物を取り除くために、抽出および分離の工程を実施し、試料を乾燥させ、または凍結させるなど、混入しているリン脂質を取り除くために過大な労力と時間とを要する。たとえば、Bonfiglio外は、電気スプレーイオン化直列質量分光分析においてイオン抑制を起こす内因性の血漿成分を取り除くための幾つかの一般抽出手順の能力を議論している。メチル−t−ブチルエーテルを用いたLLEと、OasisおよびEmporeを伴うSPEと、アセトニトリル(ACN)タンパク質沈殿試料調製法とを比較した。これらの研究者らは、ACNタンパク質沈殿試料が最大のイオン抑制を示す一方でLLE抽出物は最も少ないことを見い出した。加えて、イオン抑制は検体依存性であり、最も極性の大きい検体に関連することが見い出された。全検体について最も少ないイオン抑制は、LLEとSPEとの双方で処理された試料で認められた。著者らは、イオン抑制に関与する複数の内因性の成分が存在する可能性が高く、効果はHPLC系への注入が行われた後良好に持続し、その結果、無効なデータの回収を生じると結論付けている。分析用にさらに清浄な試料を提供するための尽力にてさらなる濾過工程が示唆された(下記非特許文献2)。しかしながら、複数の試料調製工程の使用は、労力と時間とがかかり過ぎ、分析を行うコストを高める。
【0005】
つい最近、試料からリン脂質を取り除く新しいアプローチが試みられた。たとえば、Johansonは、脂質抽出物からのホスファチジルコリンを始めとするカチオン性脂質を取り除くための強力なカチオン交換カラムの使用は、粗抽出物では完全に抑制された即時検出のピークを生じることを報告した(下記非特許文献3)。下記特許文献1(Bennett外)は、支持体に結合させたリン脂質性の多価のカチオンの使用を含む生体試料からリン脂質を取り除く装置および方法を記載している。そのようなカチオンには、報告によれば、遷移金属、ランタニド類またはアクチニド類、好ましくはセリウムが挙げられる。これらリン脂質性の多価のカチオン吸着剤の使用は、Van Horne外によってさらに記載され、リン脂質分子のリン酸基に対して高いオキソ親和性を持つ吸着剤が記載された(米国製薬科学者協会の会議録で提示されたVan Horne,K.C.外、“Preventing Matrix Effects By Using New Sorbents to Remove Phospholipids from Biological Samples”)。著者らは、生体試料からのリン脂質の容易な除去および望ましい製薬検体を取り除かない抽出化学を利用した抽出物を提供する目標を報告した。報告によれば、逆相(非極性)ならびにアニオンおよびカチオンの交換を含む多数の様々なメカニズムが評価された。抽出吸着剤が、単独で、またはタンパク質沈殿、液体/液体抽出(LLE)もしくは固相抽出(SPE)と組み合わせて、リン脂質の抽出が実施された。特に、報告によれば、メタノールで再構成された、抽出物のリン脂質含量は、ランタニド吸着剤のみを用いて94〜96%ほど低下した。報告によれば、メタノールで再構成された、タンパク質を沈殿させた試料からリン脂質を取り除くためのランタニド抽出吸着剤の使用は、約92〜98%のリン脂質の除去を生じ、スパイクした検体の検出を高めた。しかしながら、その手順は遠心分離とその後の溶媒の蒸発および再構成とを必要とし、それには労力と時間とがかかり、分析を実行するコストに加えられる。報告によれば、メチル−t−ブチルエーテルLLEの後、試料からリン脂質を取り除くためのランタニド抽出吸着剤の使用は、スパイクした検体の検出を有意に高めることなく、約95〜97%のリン脂質の除去を生じた。著者らは、固定化(不動化)されたランダニド金属中心が、リン酸基への結合を介してリン脂質抽出のために高度に選択的に結合するために必須の要素であると結論付けた。
【0006】
Shen外は、検体溶液からリン脂質を取り除くための媒体の能力を判定する尽力にて3種類のイオン交換固相抽出媒体の評価を記載している。これらの著者らは、混合モード相が検体と様々な代謝産物の双方を保持する要件を満たす一方で、逆相保持メカニズムは、遅れて溶出するリン脂質が原因で生じるイオン抑制を排除することに不利であることを報告し、混合モード抽出相ではなくイオン交換メカニズムのみを使用することを勧めた(下記非特許文献4)。
【0007】
Krupeyの下記特許文献2は、脂質吸着剤用の商品名Cleanascite(商標)のもとで販売された、試料中の脂質の除去用の疎水性シリカ吸着剤およびさらなる精製に先立って試料を予備処理するための清澄化剤の使用を記載している。吸着剤を試料に加え、次いで試料を遠心分離し、結合した不純物を含有する吸着剤を取り除く。しかしながら、この手順は、吸着剤を加え、次いでそれを取り除く2つの工程を必要とし、試料から検体が除去されるリスクがある。
【0008】
Hiltunenの下記特許文献3は、脂質の混合物から脂質を単離するための超臨界流体抽出の使用を記載している。しかしながら、この手順は、特殊な設備を必要とし、試料からの脂質の除去のための失費およびコストに拍車をかける。
Little外は、「もととなる複数の反応のモニタリングにおいて」、対象とされる検体のイオン抑制を生じると同時に溶出するマトリクス構成成分があるかどうかを判定する尽力にて、製薬検体のモニタリング方法開発のための方法を記載している。しかしながら、これらの手順は、イオン抑制の原因となるマトリクス構成成分を取り除かないが、単に問題に対処しようとしているだけであり、各分析後、カラムからの最も疎水性の高い脂質の溶出を必要とする(下記非特許文献1)。
【0009】
したがって、手順には時間と労力とがかかり過ぎるものの、生体試料中の脂質混入物を取り除くために多数の方法がある。さらに、試料は、これも取り除かれなければならない混入タンパク質も含有する。しかしながら、沈殿させるための変性溶媒の使用は、脂質混入物の多大な抽出および存在する検体の有意なイオン抑制を生じる。したがって、研究者が、正常に作動する設備を維持し、生体検体の信頼できる正確な定量を達成することを望むのであれば、検体のために生体分析試料を調製するのに必要とされる最低2つの工程がある。少ない試料容量で作業する場合、または複合試験が必要である場合、そのような複数の試料調製手順は、試料を減らすので、必要とされる試験について十分な量が残らない可能性がある。さらに、複数の試料調製工程は、研究者の時間および労力の損失を生じ、分析試験研究室のコストを高める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0054077号明細書
【特許文献2】米国特許第5,885,921号明細書
【特許文献3】米国特許第5,759,549号明細書
【特許文献4】米国特許第7,125,488号明細書
【特許文献5】米国特許第7,056,858号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2006/0247361号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2006/0247362号明細書
【特許文献8】米国特許第6,491,873号明細書
【特許文献9】米国特許第6,926,823号明細書
【特許文献10】米国特許第6,576,767号明細書
【特許文献11】米国特許第6,825,269号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第2006/0216206号明細書
【特許文献13】米国特許出願公開第2006/0131238号明細書
【特許文献14】米国特許第3,480,616号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Little,J.L外、J.Chromatog.,833:219,2006
【非特許文献2】Bonfiglio,R.外、Rapid Comm.Mass.Spectr.13:1175,1999
【非特許文献3】Johanson,R.A.外、Anal.Biochem.,362:155,2007
【非特許文献4】Shen,J.X.外、J.Pharm.Biomed.Anal.,37:359,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、分析手順の実施に先立って、生体分析試料から、マトリクス効果の原因となるリン脂質とそのほかの因子との双方、およびタンパク質を取り除くことができる迅速な手順に対するニーズが依然としてある。
したがって、本発明の主な目的は、生体分析試料におけるマトリクス効果を軽減するための手順を提供することである。
【0013】
本発明のさらなる目的は、分析手順の実施に先立って、生体分析試料から、リン脂質、界面活性剤およびタンパク質を取り除くために迅速に実施することができる手順を提供することである。
発明のその上さらなる目的は、通常の試料調製で実施することができ、追加の工程または高価な設備を必要としない、マトリクス効果を軽減するための手順を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって、支持体と、生体分析試料に存在するマトリクス干渉因子を結合することが可能である支持体に会合した吸着剤とを含み、沈殿させたタンパク質粒子を取り除くための濾過手段をさらに含む、タンパク質を沈殿させた生体分析試料においてマトリクス効果を軽減するための装置が提供される。濾過手段は、試料中に存在する沈殿させたタンパク質粒子を取り除くための直径約0.05μm〜約0.5μmの間の細孔サイズを有することを特徴とする。好ましい実施形態では、濾過手段は直径約0.1μm〜約0.2μmの間の細孔サイズを有し、特定の実施形態では、濾過手段は直径0.2μmおよび0.45μmの細孔を含む。好ましくは、濾過手段は、試料から取り除かれるべき粒子の直径以下の最大細孔サイズを有するサイズ排除フィルターまたはポリマーのもしくは無機のモノリスから選択され、吸着剤と一体化しまたは吸着剤と会合し得る。好ましくは、濾過手段が吸着剤と一体化している場合、濾過手段は、試料から粒子を排除できるように十分に小さな直径のマクロ細孔を有する多孔性の無機モノリスであり、吸着剤は、多孔性の無機モノリスに結合させた逆相または極性修飾の逆相である。好ましくは、濾過手段は、タンパク質を沈殿させた生体分析試料に光学透明度を提供するのに有効である(たとえば、524nmでの%T>95%)。
【0015】
吸着剤は、マトリクス干渉因子と対象とされる検体との間での十分な選択性を特徴として、対象とされる検体の溶出を提供する一方で、マトリクス干渉因子の保持を提供する。好ましくは、吸着剤はマトリクス干渉因子と対象とされる検体とについて1を超える選択性を特徴とし、特定の実施形態では選択性は少なくとも1.1であり、追加の実施形態では選択性は少なくとも1.2であり、さらにそのほかの実施形態では選択性は少なくとも1.3であり、追加の実施形態では選択性は少なくとも1.4であり、特定の特に好ましい実施形態では選択性は少なくとも1.5である。好ましくは、吸着剤は、逆相または極性修飾の逆相を含み、特定の実施形態では、極性修飾の逆相はアミド修飾の逆相である。マトリクス干渉因子と対象とされる検体とに対する吸着剤の選択性は、生体分析試料が少なくとも50%(v/v)の変性有機溶媒を含む場合、吸着剤はマトリクス干渉因子を保持する一方で対象とされる検体を保持しないようなものである。好ましくは、吸着剤は、生体分析試料に存在する少なくとも50%のマトリクス干渉因子を結合する一方で、装置から外に出された溶媒にて少なくとも75%の検体の回収を提供し、さらに好ましくは、吸着剤は少なくとも検体の90%の回収を提供する。好ましい実施形態では、吸着剤は、マトリクス干渉因子の少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも85%、またはさらに好ましくは少なくとも90%、そしてさらに好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%を結合する。
【0016】
典型的なマトリクス干渉因子には、界面活性剤、脂質、賦形剤または投与剤が挙げられる。装置の典型的な実施態様を、ルアーシリンジ(注射器)フィルター、個別フィルターカートリッジ、マルチウエルプレート、ピペットのチップ(先端)または複数回使用もしくは一回使用(使い捨て)のための直列(インライン)カラムとしての使用に適合させる。追加の実施形態では、支持体は装置の中でタンパク質の沈殿を行うためのリザーバ手段をさらに含む。
【0017】
本発明は、マトリクス干渉因子とタンパク質とを含む分析用の試料を調製する方法をさらに提供する。典型的な分析には、クロマトグラフィ、分光光度分析、質量分光分析など、およびそれらの組み合わせが挙げられる。たとえば、製薬検体を判定するための生体分析技術で例示となる分析方法は、LC/MS−MSである。したがって、マトリクス効果を軽減し、生体分析試料でタンパク質沈殿を取り除くための方法が提供され、前記方法は、a)支持体と支持体に会合した吸着剤とを含む装置であって、前記吸着剤は、生体分析試料に存在する対象とされる検体に対するマトリクス干渉因子について1を超える選択性を特徴とし、試料に存在するタンパク質沈殿を取り除くための濾過手段をさらに含む装置を提供することと;b)生体分析試料を吸着剤と接触させることと;c)マトリクス干渉因子と沈殿させたタンパク質とを保持する一方で、吸着剤から検体を溶出することとを含み、得られた処理された試料中のマトリクス干渉因子およびタンパク質の量は低下している。特定の実施形態では、方法は、生体分析試料を吸着剤に接触させる工程に先立って、または当該工程と同時に前記装置における生体分析試料にてタンパク質を沈殿させることをさらに含む。好ましくは、工程c)は、真空、遠心力または陽圧を用いて行って、試料が吸着剤および濾過手段を通過するようにし、それによってマトリクス干渉因子および沈澱させたタンパク質を取り除く。好ましくは、濾過手段は、試料に存在する沈殿させたタンパク質粒子を取り除くために直径約0.05μm〜約0.5μmの間の細孔サイズを有することを特徴とし、特定の実施形態では、濾過手段は約0.1μm〜約0.2μmの間の細孔サイズを有する。特定の実施形態では、濾過手段は0.1μm、0.2μmおよび0.45μmの細孔サイズを有する。好ましくは、マトリクス干渉因子は、界面活性剤、脂質、賦形剤または投与剤であり、好ましい実施形態では、脂質はリン脂質であり、界面活性剤はアニオン性界面活性剤または非イオン性界面活性剤から選択される。好ましくは、界面活性剤は、本明細書で記載される吸着剤を用いて有利に保持することができる炭化水素鎖を含む。好ましくは、吸着剤は、マトリクス干渉因子と対象とされる検体との間での十分な選択性を特徴とし、対象とされる検体の溶出を提供する一方でマトリクス干渉因子の保持を提供する。特定の実施形態では、吸着剤は逆相または極性修飾の逆相を含む。特定の実施形態では、マトリクス干渉因子および対象とされる検体を含む、タンパク質を沈殿させた生体分析試料にてマトリクス効果を軽減し、沈殿させたタンパク質を取り除く方法が提供され、該方法は、試料が本明細書に記載される装置を通過することを含む。
【0018】
追加の実施形態では、マトリクス干渉因子と対象とされる検体とを含む、タンパク質を沈殿させた生体分析試料にてマトリクス効果を軽減するための方法が提供され、該方法は、a)支持体と、支持体に会合した吸着剤とを含む装置であって、前記吸着剤は、生体分析試料に存在する対象とされる検体に対するマトリクス干渉因子について1を超える選択性を特徴とする装置を提供することと;b)生体分析試料を吸着剤と接触させることと;c)マトリクス干渉因子を保持する一方で吸着剤から検体を溶出することとを含み、得られた処理された試料中のマトリクス干渉因子の量は低下している。装置は、沈殿させたタンパク質粒子を取り除くための濾過手段をさらに含む。好ましい実施形態では、生体分析試料が少なくとも50%(v/v)の変性有機溶媒を含む場合、吸着剤はマトリクス干渉因子を保持する一方で対象とされる検体を保持しない。追加の実施形態では、吸着剤がマトリクス干渉因子を保持する一方で、66%、75%もしくは90%(v/v)の有機溶媒でさえ、またはpH修正剤(たとえば、酸、塩基)の存在下でも対象とされる検体を保持することはない。好ましくは、吸着剤が生体分析試料に存在するマトリクス干渉因子の少なくとも50%を結合する一方で、装置から外に出された溶媒中の検体の少なくとも90%の回収を提供し、さらに好ましくは、吸着剤は、試料に存在するマトリクス干渉因子の少なくとも70%、またはさらに好ましくは85%、またはさらに好ましくは90%、または一層さらに好ましくは95%および最も好ましくは99%を結合する。
【0019】
特定の実施形態では、組み合わせ濾過固相抽出モード(SPE)において装置を使用することができる。たとえば、方法は、生体分析試料を吸着剤と接触させるのに先立って、少なくとも1つのコンディショニング溶媒または溶媒の混合物で吸着剤を洗浄することによって、任意で吸着剤のコンディショニングを行うことをさらに含むことができる。方法は、吸着された検体およびマトリクス干渉因子を伴った吸着剤を洗浄溶媒または溶媒の混合物によって任意で洗浄して、未結合成分を取り除くことをさらに含むことができる。さらなるSPEの使用によれば、方法はさらに、順次溶媒強度を高める溶出溶媒によって吸着剤から検体を溶出し、吸着されたマトリクス干渉因子で検体が汚染されることなくさらに非極性の検体を取り除くことを含むことができる。
【0020】
追加の実施形態では、少なくとも50%(v/v)のタンパク質変性有機溶媒を含む生体分析試料におけるマトリクス効果を軽減するための方法が提供され、該方法は、a)生体分析試料に存在するマトリクス干渉因子を結合することが可能である吸着剤を提供することと;b)少なくとも10秒間、生体分析試料を吸着剤に接触させることと;c)吸着剤から溶液を分離することとを含み、得られた処理された試料中のマトリクス干渉因子の量が低下する。好ましくは、前記接触は、約10秒間〜約10分間行われ、吸着剤は、生体分析試料に存在するマトリクス干渉因子の少なくとも50%を結合する一方で、装置から外に出された溶媒における検体の少なくとも90%の回収を提供する。方法は、沈殿させたタンパク質粒子を取り除くために生体分析試料を濾過手段に接触させることをさらに含むことができる。好ましくは、濾過手段との接触および吸着剤との接触は同一工程で行う。
【0021】
追加の実施形態では、a)吸着剤の量と濾過手段とを含むことが可能である支持体を提供することと;b)マトリクス干渉因子を保持するのに有効な量の吸着剤と、試料に存在する沈殿させたタンパク質を取り除くのに有効な濾過手段とを提供することと;c)支持体内部で濾過手段と吸着剤とを組み立てることとを含む、生体分析試料においてマトリクス効果を軽減するための装置を調製する方法が提供される。
【0022】
本発明の追加の目的、利点および新規の特徴は、部分的には以下の説明で述べられ、部分的には以下の実験の際、当業者に明らかになるであろうし、本発明の実践によって教示されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の幾つかの実施形態を説明するための図である。
【図2】希釈血漿の50回の注入の間にHPLCカラムに徐々に蓄積したリン脂質(ホスファチジルコリン)を示すLC−MS/MSのトレースを示す。
【図3】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図4】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図5】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図6】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図7】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図8】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図9】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図10】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図11】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図12】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図13】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図14】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図15】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図16】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図17】未処理の試料に対して吸着剤による処理に供した試料のクロマトグラムを示す。
【図18】逆相吸着剤についての、検体およびマトリクス干渉因子のクロマトグラムを示す。
【図19】極性修飾の逆相吸着剤についての、検体およびマトリクス干渉因子のクロマトグラムを示す。
【図20】極性修飾の逆相吸着剤についての、検体およびマトリクス干渉因子のクロマトグラムを示す。
【図21】極性修飾の逆相吸着剤についての、検体およびマトリクス干渉因子のクロマトグラムを示す。
【図22】種々の細孔サイズを持つフィルターを介した濾過に供した、タンパク質を沈殿させた試料の濁度を説明する棒グラフを示す。
【図23】2種の吸着剤によるタンパク質を沈殿させた血漿試料からのホスファチジルコリンの除去の時間依存性を示す。
【図24】2種の吸着剤によるタンパク質を沈殿させた血漿試料からのツイーン80の除去の時間依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
I.定義および概要
本発明を詳細に説明する前に、示さない限り、本発明は、それ自体変化してもよい、特定の検体、クロマトグラフィ法、濾過および精製構造などに限定されないことが理解されるべきである。本明細書で使用される専門用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、本発明の範囲を限定することを意図するものではないことも理解されるべきである。
【0025】
本明細書および特許請求の範囲で使用されるとき、単数形態の「不定冠詞」および「定冠詞」は、文脈から明らかにそうでない場合を除き、複数の対象が含まれることに留意しなければならない。したがって、たとえば、「検体」への言及は2種以上の検体を含み、「リン脂質」への言及は2種以上のリン脂質を含むなどである。
値の範囲が提供される場合、文脈から明らかにそうでない場合を除き、下限の単位の10分の1までの各介在する値、その範囲の上限と下限との間、およびその記載された範囲でのそのほかの記載されたまたは介在する値が本発明の範囲内に包含される。これらのさらに小さな範囲の上限および下限は独立してさらに小さな範囲に含まれてもよく、記載された範囲にて特に除外される限界を前提として本発明に包含される。記載された範囲が、一方または双方の限界を含む場合、それらの含まれた限界のいずれかまたは双方を除外する範囲も本発明に含まれる。
【0026】
本明細書で使用されるとき、用語「選択性」は、様々な保持時間で溶出する検体について補正された保持時間(Tr)の間の比を言う。以下の式、Tr−T0によって、補正Trは算出される。ここで、T0は保持されない種についての通過時間である。本明細書で使用される吸着剤は、マトリクス干渉因子と対象とされる検体との間に選択性を提供し、すなわち、検体の補正Trに対するマトリクス干渉因子の補正Trの比は、1より大きい。
【0027】
本明細書で使用されるとき、用語「検体」または「対象とされる検体」は、生物起源、有機物起源、合成物起源、天然物起源または無機物起源の試料において性状分析される、同定されるまたは定量されるべき任意の分子を意味する。たとえば、候補治療化合物またはその代謝産物は検体であり得、たとえば、血液の血漿試料、唾液、尿、飲料水、合成物もしくは天然物の混合物、または環境試料の中に存在することがある。検体は、非極性ないし極性の任意の極性を示すことができる。
【0028】
本明細書で使用されるとき、用語「マクロ細孔」は一般に、約0.05μmを超える直径を持つ細孔を言い、流体がモノリスのフィルターまたは吸着剤を通って流れることが可能なものであるという意味でこれらは「貫通細孔」であるとみなされる。用語「メソ細孔」は、約2nm〜50nmの間の直径を持つ細孔を言い、用語「ミクロ細孔」は約2.0nm未満の直径を持つ細孔を言う。
【0029】
用語「逆相」は、非極性化合物の吸着のために疎水性の表面を提供するアルキル部分または芳香族部分を含む非極性の固定(定置)相を言う。一般的な逆相固定相は、RがC18H37またはC8H17のような直鎖アルキル基であるRMe2SiClによって処理されたシリカである。別の逆相固定相は、ポリスチレン−ジビニルベンゼンによって提供される。
【0030】
用語「極性修飾の逆相」は、非極性化合物の吸着のために疎水性の表面を提供するアルキル部分または芳香族部分を含む非極性の固定相を言い、その際、たとえば、アミド、エーテル、アミノ、カルボキシ、スルホンアミドなどのような極性部分を含有(またはさらに含む)するように固定相がさらに修飾される。極性修飾の逆相固定相の非限定例は、Liの上記特許文献4、Kalluryの上記特許文献5、ならびにShahの上記特許文献6および7に記載されている。
【0031】
本明細書で使用されるとき、用語「極性の強い」は、オクタノール−水の分配係数LogPに基づいて、−1.0〜+0.5のLogP値を有する分子を意味する。
本明細書で使用されるとき、用語「極性が中程度」は、オクタノール−水の分配係数LogPに基づいて、0.5〜1.5のLogP値を有する分子を意味する。
本明細書で使用されるとき、用語「非極性」は、オクタノール−水の分配係数LogPに基づいて、2.0以上のLogP値を有する分子を意味する。
【0032】
本明細書で使用されるとき、吸着剤の極性官能性には、以下のもの、すなわち、−NRC(O)−(アミド)、−C(O)NR−(カルバミル)、−OC(O)NR−(カルバメート)、−OC(O)R(アルキルオキシ)、−NRC(O)O−(ウレタン)、−NRC(O)NR−(カルバミドまたは尿素)、−NCO(イソシアネート)、−CHOHCHOH−(ジオール)、CH2OCHCH2O−(グリシドキシ)、−(CH2CH2O)s−(エトキシ)、−(CH2CH2CH2O)s−(プロポキシ)、−C(O)−(カルボニル)、−C(O)O−(カルボキシ)、−CH2C(O)CH2−(アセトニル)、−S−(チオ)、−SS−(ジチオ)、−CHOH−、−O−(エーテル)、−SO−(スルフィニル)、−SO2−(スルホニル)、−SO3−(スルホン酸)、−OSO3(サルフェート)、−SO2NR−(スルホンアミド)、−NRq−(アミン類)および−NRq+−が挙げられるが、これらに限定されない。ここで、Rは、H(四級(第四)アミン類)、−CN(ニトリル)、−NC(イソニトリル)、−CHOCH−(エポキシ)、−NHC(NH)NH−(グアニジノ)、−NO2(ニトロ)、−NO(ニトロソ)、−OPO3−(ホスフェート)、−OH(ヒドロキシ)ではなく、sは1〜12である。
【0033】
本明細書で使用されるとき、用語「マトリクス効果」は、検体の定量を妨害する、試料に存在する物質を言う。マトリクス効果は、混入するマトリクス構成成分を対象とされる検体と同時に溶出することによる従来のクロマトグラフィ適用によって明らかにされ、たとえば、分光光度分析の定量法の妨害の原因となる。マトリクス効果は、検体のイオン抑制が認められる場合、質量分光分析の適用で一般に認められる。
【0034】
本明細書で使用されるとき、用語「マトリクス干渉因子」は、マトリクス効果を起こす相対的に高い濃度(普通、少なくとも1mg/mL)で生体分析試料に存在し、検体の定量を妨害する物質を言う。マトリクス干渉因子は、質量分光分析のための電気スプレーイオン化の間、試料に存在する特定の検体のイオン化を一般に抑制する。検体の相対的な存在度は、マトリクス効果のために試料における真の存在度よりも不十分に見積もられ、かつ/または過少評価され、または過大に見積もられる可能性がある。
【0035】
本発明は、それらを製造する新規の試料調製装置および方法、たとえば、LC/MS用試料調製のための装置、固相抽出装置などに関する。驚くべきことに本発明は、単一の装置が、一工程で、沈殿させたタンパク質とマトリクス妨害とを取り除く二重の機能性を提供し、その結果、優れた分析能力と分析速度と分析性能とを生じることを発見した。実務家は、試料調製などに類似の装置および方法を広範に採用しているが、今日まで本発明者らが知る限り、本発明者らは初めて、沈殿させたタンパク質(およびそのほかの)粒子を取り除き、マトリクス干渉因子を吸着させる一方で、対象とされる検体を選択的に溶出させる濾過と吸着剤機能との組み合わせを発見し、これらの機能性を利用して優れた性能、時間の節約、使用および製造の容易さを有する製品を製造している。濾過手段と吸着剤と溶媒との組み合わせによって、沈殿させたタンパク質とマトリクス干渉因子、特に血漿脂質とを一工程の浄化手順で取り除くことが可能であり、その結果、利便性が高まるだけでなく、以前よりさらに清浄な分析試料を生じ、予期しないかつ驚くべき成績を生じる。
【0036】
したがって、支持体と、生体分析試料に存在するマトリクス干渉因子を結合することが可能であり支持体に会合させた吸着剤とを含む、タンパク質を沈殿させた生体分析試料においてマトリクス効果を軽減する装置が提供され、ここで、該装置は、沈殿させたタンパク質粒子を取り除くための濾過手段をさらに含む。本発明はさらに、マトリクス効果を軽減し、かつ生体分析試料におけるタンパク質沈殿物を取り除く方法を提供し、前記方法は、a)支持体と、支持体に会合させた吸着剤とを含む装置を提供することであって、前記吸着剤は、生体分析試料に存在する対象とされる検体に対してマトリクス干渉因子について1より大きい選択性を特徴とし、b)吸着剤に生体分析試料を接触させること、およびc)マトリクス干渉因子と沈殿させたタンパク質とを保持する一方で吸着剤から検体を溶出することを含み、その際、得られた処理された試料におけるマトリクス干渉因子とタンパク質の量が低下する。
【0037】
本発明の種々の態様および実施形態を以下でさらに詳細に説明する。
II.装置
本発明の装置は、沈殿させたタンパク質またはそのほかの望ましくない固形物の除去に好適な粒状の濾過手段と組み合わせて、タンパク質を沈殿させた試料からのマトリクス干渉因子(たとえば、界面活性剤、リン脂質、賦形剤、投与剤など)の除去に好適な吸着剤を含む。特定の実施形態では、粒状のフィルターの機能性および吸着剤は、組み合わせて1つの要素にされる。追加の実施形態では、粒状のフィルターは、吸着剤要素とは別の要素である。特定の追加の実施形態では、タンパク質沈殿物またはそのほかの物質が、機器の性能を妨害しない場合、またはほかの手段によって取り除かれている場合、粒状のフィルターは含まない。
【0038】
装置の幾つかの異なった実施形態を図1に示す。典型的な装置には、カートリッジ(たとえば、インラインカートリッジ、個々のフィルターカートリッジ)、ピペットのチップ(タンパク質沈殿フィルターの有無)、種々のマルチウエルプレート、シリンジフィルターおよびインラインカラムなどが含まれる。例示となる実施形態は、実施例10および11に記載され、本発明の装置を用いて可能となる試料調製手順の劇的な改善を明らかにしている。
【0039】
装置は、粒状の多孔性もしくは非多孔性の吸着剤、モノリスの吸着剤、吸着剤を含浸させた織物、繊維もしくはフィルター、または適当な選択性を持つそのほかの多孔性媒体を含むことができる。吸着剤は、以下でさらに議論されるように、高分子系またはシリカ系であることができる。装置は一般に、濾過手段、たとえば、サイズ排除フィルターまたは吸着剤およびフィルターの二つの機能を提供する吸着剤を含む。濾過手段および吸着剤の配置は一般に重要ではなく、特定の応用に適合するように所望されるとおり配置することができる。しかしながら、粒子が存在しない場合、またはほかの手段で取り除かれている場合、装置は濾過手段を省略することができる。
A.支持体
本明細書で使用されるとき、用語「支持体」は、多孔性または非多孔性の水に不溶の物質(材料)を意味する。支持体または支持する構成は、たとえば、細片、プレート、ディスク、棹(棒)、円筒、ウエル(穴)、円錐などのような多数の構成または形状のいずれか1つを有することができる。支持体または支持する構成は、疎水性または親水性であることができ、または、親水性にすることが可能なものであってもよく、無機粉末、たとえば、シリカ、ジルコニアおよびアルミナ;天然のポリマー材料、合成のまたは修飾された天然に存在するポリマー、たとえば、ニトロセルロース、セルロースアセテート、ポリ(塩化ビニル)、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルブテン)、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリ(エチレンテレフタレート)、ナイロン、ポリ(ビニルブチレート)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、またはテフロン(登録商標))、など;を含むことができ、それ自体で使用される、またはガラス、セラミックス、金属などのようなそのほかの材料と組み合わせておよび併せて使用される。支持体は、液体を、保持し、分配するのに好適な材料で構築されることができ、一般に、ポリマー材料、たとえば、ポリオレフィン、フッ素化ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セルロースアセテート、ポリスチレン、ポリスチレン/アクリロニトリルコポリマー、PVDFなどである。ポリオレフィン性の材料が好まれ、たとえば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ(テトラフルオロエチレン)またはそれらのコポリマーが好まれる。非水性液体については、非水性液体に溶解しない材料、または混入物を浸出させない材料でチューブを構築することができる。好ましくは、超清浄ポリマー、好ましくはポリプロピレンから装置が構築される。
【0040】
支持体の構造は、特定の応用のニーズに適合するいずれのサイズまたは形状であってもよい。たとえば、試料の予備処理の適用には、支持体は、図1に示されるように、個々のフィルターカートリッジ、またはマルチウエルプレート、ルアー型シリンジフィルター、ピペットチップなどの形態であってもよい。実施形態の1つでは、支持体は、Robertsの上記特許文献8に記載されたようにマルチウエル濾過装置または固相抽出装置であることができる。インラインでの使用のクロマトグラフィでは、支持体は、複数回使用または一回使用のインラインカラムなどの形態であってもよい。
【0041】
特定の実施形態では、支持体は、十分な容積を提供して、装置で直接タンパク質を沈殿させる(たとえば、装置はリザーバを含む)ことが可能であり、1つの容器で沈殿を行い、続いてマトリクス干渉因子および沈殿させたタンパク質を取り除くための装置に試料を移す必要性を予め回避する。変性有機溶媒による水性生体分析試料の3:1または4:1希釈を用いてタンパク質の沈殿を行うには、装置は、元々の試料体積の5倍までの容量を有するリザーバを含むべきである。
【0042】
固相抽出の適用については、支持体は、シリンジカートリッジ、ピペットチップなどの形態であってもよい。理論的には、サイズおよび形状に制限はなく、装置の寸法は、実用化の制約から全体として決定され得る。一部の適用については、たとえば、準備段階の適用については、非常に大きな装置が使用されてもよい。微細加工の装置についてさらに小さな構造も企図されてもよい。本発明は、十分な材料のみを必要とし、処理される部分を取り扱うのに十分なサイズの処理機器を関連するサイズ範囲でその部分を作るのに適用することができる。
B.吸着剤
生体分析試料においてマトリクス効果を軽減するための装置は、マトリクス干渉因子を選択的に保持する吸着剤を含む。好ましくは、吸着剤は逆相または極性修飾の逆相を含む。吸着剤は、生体分析試料に存在する検体とマトリクス効果に寄与する因子とを結合することが可能である。吸着剤が、検体とマトリクス干渉因子について選択的結合を示すということは、本明細書で使用される溶媒条件下では、吸着剤はマトリクス干渉因子を保持するが、検体、たとえば、ポサコナゾール(LogP=5.66)のような相対的に非極性の検体でさえ保持しないことを意味する。好ましくは、吸着剤は、生体分析試料に存在するマトリクス干渉因子の少なくとも50%を結合するが、装置から外に出された溶媒中の検体の少なくとも75%、好ましくは少なくとも90%の回収を提供する。さらに好ましい実施形態では、吸着剤は、マトリクス干渉因子の少なくとも70%、またはさらに好ましくは85%、またはさらに好ましくは90%、または一層さらに好ましくは95%、または最も好ましくは99%を結合する。
【0043】
本明細書に記載される装置および方法を用いて軽減するまたは除去することができるという条件で、マトリクス効果を起こすいずれの因子も本発明に包含されるが、試験試料中でマトリクス効果を起こす典型的な因子には界面活性剤および脂質が挙げられる。
典型的な血漿試料に必要とされる吸着剤の量は、吸着剤の結合能に依存する。典型的な血漿試料は、50μL〜200μLの間の体積を有するので、20〜30mgのPolaris(登録商標)(粒径が10μmの)C−18Aがこの試料サイズに適当な吸着剤の量である。吸着剤が、Spec(登録商標)ディスク(カリフォルニア州、パロアルトのバリアン社)のような埋め込まれた粒子を伴うガラス繊維のモノリスである場合、4〜8個のディスクが吸着剤の適当な量を提供する。特定の適用について当業者は、吸着剤の所望の量を容易に決定することができる。たとえば、異なった種の動物からの、または異なった餌を食べた動物からの血漿は、様々な量のリン脂質を含有する。試料に存在する高濃度のリン脂質については、マトリクス干渉のリン脂質の最大除去には、相対的に大量の吸着剤が必要とされる。
好ましくは、吸着剤は、干渉因子と検体との間に分離を提供するために利用される溶媒系にて、マトリクス干渉因子と対象とされる検体との間における十分な選択性を特徴とする。実施形態の1つでは、吸着剤は、ホスファチジルコリンと対象とされる検体との間で少なくとも1.0の選択性を示す。特定の吸着剤、溶媒条件、マトリクス干渉因子および対象とされる検体によって、少なくとも1.1、さらに好ましくは1.2、さらに好ましくは1.3、さらに好ましくは1.4、または一層さらに好ましくは1.5の選択性が提供される。実施例6に示されるように、極性(アミド)修飾の逆相吸着剤の使用は、マトリクス干渉因子の最適な保持およびマトリクス効果の軽減を提供する一方で、マトリクス干渉因子に先んじて溶出する検体の最大の回収を可能にする。したがって、好ましい吸着剤はアミド修飾の逆相である。
【0044】
pH修正剤の使用は、マトリクス干渉因子と対象とされる検体との間の選択性について、さらなる制御を提供する。非極性の塩基性の検体は、沈殿溶媒溶液を酸性化することによって、選択的に溶出(たとえば、吸着剤によって保持されないように)することができる。塩基のプロトン付加は、吸着剤によって提供される非極性の固定相によって保持されそうにないさらに極性の分子を提供する。同様に、酸性検体を含有する溶液の塩基性化は、低い保持をもたらすので、マトリクス干渉因子と酸性の対象とされる検体との間にさらに大きな分離および向上した選択性がもたらされる。実施例4ならびに表10および表11はさらに、本発明の装置および方法の操作においてこの原理を説明している。
【0045】
本明細書で記載される装置および方法には、原則として当該技術で既知のいかなる吸着剤も利用することができる。吸着剤には、ポリマー吸着剤、無機吸着剤、ハイブリッド有機−無機吸着剤、結合相およびこれらの組み合わせを挙げることができる。
実施形態の1つでは、吸着剤は、以下の式を有する少なくとも1種のシランとともに結合相を生じるように修飾されるモノリスまたは粒状の無機基材を含む:
R1δ−Qα−(CH2)βSiR2γX3−γ
式中、R1は、水素、C1〜C100の置換または非置換のヒドロカルビル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘテロアリールであり、その際、置換基はC1〜C12のヒドロカルビル、ヒドロキシル、アルコキシ、ハロゲン、アミノ、ニトロ、スルホおよびカルボニルから選択され、αは0または1であり、βは0〜30であり、γは0、1または2であり、δは0〜3であり、R2は、C1〜C100の置換または非置換のヒドロカルビル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、またはヘテロアリールであり、その際、置換基はC1〜C12のヒドロカルビル、ヒドロキシル、アルコキシ、ハロゲン、アミノ、ニトロ、スルホおよびカルボニルから選択され、Qは独立して−NHC(O)−、−C(O)NH−、−OC(O)NH−、−NHC(O)O−、−NHC(O)NH−、−NCO、−CHOHCHOH−、CH2OCHCH2O−、−(CH2CH2O)n−、−(CH2CH2CH2O)n−、−C(O)−、−C(O)O−、−OC(O)−、CH3C(O)CH2−、−S−、−SS−、−CHOH−、−O−、−SO−、−SO2−、−SO3−、−OSO3−、−SO2NH−、−SO2NMe−、−NH−、−NMe−、−NMe2+−、−N[(CH2)n]2+−、−CN、−NC、−CHOCH−、−NHC(NH)NH−、−NO2、−NO、−OPO3−から選択され、その際、nは1〜30であり、Xは、Liの上記特許文献4に記載されたような脱離基である。
【0046】
好ましくは、無機基材は、アルコキシシラン、アミノシラン、ヒドロキシシランまたはハロシランと反応することが可能である反応性金属酸化物を有する金属酸化物または半金属酸化物、たとえば、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ムライト、ジルコニア、バナジアもしくはチタニアまたはそれらの混合物もしくは複合体を含む。無機基材は、直径約0.001mm〜10mm、好ましくは0.005〜0.04mmのサイズの範囲にあるビーズまたは規則的なもしくは不規則の粒子の形態、任意のサイズの繊維(中空または非中空)の形態、膜、平坦な表面、たとえば、約0.1mm〜約10mmの厚さの範囲のものの形態、およびスポンジ様材料、たとえば、0.05ミクロン〜数mmの直径の細孔を持つフリットまたはモノリスの形態を取ることができる。シランによる無機基材表面の修飾の後、酸素結合を介してシランを無機基材に共有結合させて結合相を生じる。
【0047】
特定の実施形態では、修飾された無機基材は、たとえば、C8またはC18(αが0の場合)のような結合されたアルキル相であり、逆相吸着およびクロマトグラフィへの適用に有用である。特定の好ましい実施形態では、αが1であり、修飾された無機基材は、結合された極性の埋め込まれた逆相であり、少なくとも50%(v/v)有機溶媒の溶媒条件下で非極性の検体を保持することなくマトリクス干渉因子の保持を増進するのに好適である。特に好ましい実施形態では、修飾された無機基材は、たとえば、Polaris(登録商標)C−18A(カリフォルニア州、パロアルトのバリアン社を介して入手可能)のような極性の埋め込まれたアミノ官能性を有するC18の結合相を含む。別の特に好ましい実施形態では、修飾された無機基材は、たとえば、Polaris(登録商標)C−18アミド(カリフォルニア州、パロアルトのバリアン社を介して入手可能)のようなアミド官能化エンドキャップ試薬と残りのシラノール基がさらに反応するC18の結合相を含む。追加の実施形態では、修飾された無機基材は、たとえば、Polaris(登録商標)C18−エーテル、またはPolaris(登録商標)C8−エーテル(カリフォルニア州、パロアルトのバリアン社)のようなC8結合相またはエーテル官能性を含む。当業者は、Liの上記特許文献4に記載された様々な組成の結合相のいずれかが、本明細書で記載される発明の装置および方法に利用できることを認識するであろう。
【0048】
追加の実施形態では、装置は、Kalluryの上記特許文献5および8に記載されたポリマー吸着剤を含む。この吸着剤は、(i)二極性の相互作用および疎水性の相互作用の少なくとも1つを生じるように適合させたポリマー主鎖と、(ii)主鎖に会合し、プロトン受容およびプロトン供与の相互作用を受けるように適合させたアミド官能性とを含む。好ましくは、アミド官能性は共有結合を介して主鎖に会合する。本発明のポリマー吸着剤は、ポリマー主鎖に会合し、(たとえば、検体の官能性との)プロトン受容、プロトン供与および二極性の相互作用から成る群から選択される1以上の相互作用を受けるように適合させたアミド官能性も含む。代表的なアミド官能性には、アセトアミド、N−アルキルアミド、N−アリールアミドおよびN−ヘテロアリールアミドが挙げられる。
【0049】
二極性の相互作用および疎水性の相互作用の少なくとも1つを生じるように適合させたいかなるポリマーも、この実施形態ではポリマーの主鎖として採用することができる。ポリマー主鎖は、たとえば、ポリ(スチレンジビニルベンゼン)、スチレンまたはジビニルベンゼンと、(たとえば、ハロ、アルコキシ、エステルもしくはニトロのような)置換基を持つ官能化スチレンまたは複素環とのコポリマー;または、(たとえば、(しかし、それに拘束されない)ポリスチレン−ポリアクリルアミドおよびポリスチレン−ポリアクリレートのような)コポリマーを含むことができる。したがって、吸着剤におけるポリマー主鎖として採用することができるポリマーの代表的な、しかし非限定のリストには、ポリ(スチレンジビニルベンゼン)、スチレンまたはジビニルベンゼンおよびメチルメタクリレート、ハロゲン化またはニトロ化またはアミン化またはヒドロキシ化したスチレン、官能化イソシアヌレート、ウレタン、アクリルアミドまたはアクリロニトリルおよび官能化複素環系、たとえば、ビニル/アリル/ピリジンを含むコポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。実施形態の1つでは、ポリマー主鎖は、ポリ(スチレンジビニルベンゼン)を含む。特定の実施形態では、ポリマー主鎖は、直径約0.001mm〜約10mmの間、好ましくは直径約0.005mm〜約0.04mmの直径を有する球形または非球形の粒子を含むことが好ましい。
【0050】
そのほかの実施形態では、ポリマー吸着剤は、ポリマーの修飾された多孔性基材構成にて利用することができ、たとえば、モノリス、凝集粒子または織物または不織布繊維(たとえば、ガラス繊維またはポリマー繊維)の形態での多孔性基材の上に形成することができる。好ましくは、ポリマーの修飾された多孔性基材は、多孔性基材およびその上に形成されたポリマーのモノリスを含み、その際、ポリマーのモノリスは、式
【0051】
【化1】
【0052】
を有し、式中、Aは、−L−Qp−Rqによって任意で置換されたC5〜C10の単環式または二環式のアリールまたはヘテロアリールから選択され、その際、qは0〜3、pは0〜5であり、Qは、−NRC(O)−、−C(O)NR−、−OC(O)NR−、−OC(O)R、−NRC(O)O−、−NRC(O)NR−、−NCO、−CHOHCHOH−、CH2OCHCH2O−、−(CH2CH2O)s−および−(CH2CH2CH2O)s−、−C(O)−、−C(O)O−、−CH2C(O)CH2−、−S−、−SS−、−CHOH−、−O−、−SO−、−SO2−、−SO3−、−OSO3、−SO2NR−、−NRq−および−NRq+−であり、その際、Rは、H、−CN、−NC、−CHOCH−、−NHC(NH)NH−、−NO2、−NO、−OPO3−、−OHではなく、sは、1〜12であり;Rは、水素、C5〜C10の単環式または二環式のアリールまたはヘテロアリール、C1〜C12の分枝鎖、非分枝鎖または環状のヒドロカルビルであり;Pは、
【0053】
【化2】
【0054】
であり、Lは結合またはC1〜C12の分枝鎖、非分枝鎖または環状のヒドロカルビルであり、その際[−CH2−CR−L−A−P]および[−CH2−CR−L−A]の順は、Shahの上記特許文献7に記載されたランダム、ブロックまたはそれらの組み合わせである。
さらにほかの実施形態では、ポリマー吸着剤は、ポリマーの修飾された多孔性基材構成にて利用することができ、たとえば、モノリス、凝集粒子または織物または不織布繊維(たとえば、ガラス繊維またはポリマー繊維)の形態での多孔性基材の上に形成することができる。好ましくは、ポリマー吸着剤は、多孔性基材およびその上に形成された極性の官能化ポリマーのモノリスを含む、極性の官能化ポリマー修飾の多孔性基材であり、その際、ポリマーのモノリスは式
【0055】
【化3】
【0056】
を有し、式中、Aは、C1〜C12の分枝鎖または非分枝鎖のヒドロカルビルまたはハロで任意に置換されたC5〜C10の単環式または二環式のアリールまたはヘテロアリールから選択され、その際、n/mは、約0.001〜約1000であり、rは0または1であり、Qは、−NRC(O)−、−C(O)NR−、−OC(O)NR−、−OC(O)R、−NRC(O)O−、−NRC(O)NR−、−NCO、−CHOHCHOH−、CH2OCHCH2O−、−(CH2CH2O)s−および−(CH2CH2CH2O)s−(その際、sは1〜12である)、−C(O)−、−C(O)O−、−CH2C(O)CH2−、−S−、−SS−、−CHOH−、−O−、−SO−、−SO2−、−SO3−、−OSO3、−SO2NR−、−NRq−および−NRq+−、−CN、−NC、−CHOCH−、−NHC(NH)NH−、−NO2、−NO、−OPO3−、−OHまたはこれらの組み合わせであり、Lは、結合またはC1〜C12の分枝鎖、非分枝鎖または環状のヒドロカルビルであり;Rは水素であり、ハロ、ニトロまたはアルキルで任意に置換されたC5〜C10の単環式または二環式のアリールまたはヘテロアリール、C1〜C12の分枝鎖、非分枝鎖、または環状ヒドロカルビルであり、Pは、
【0057】
【化4】
【0058】
であり、その際、[−CH2−CR−L−A−Pr]および[−CH2−CR−L−Q−R−Pr]の順は、Shahの上記特許文献6に記載されたランダム、ブロックまたはそれらの組み合わせである。
さらに、多孔性基材なしで、たとえば、ビーズまたは繊維として形成されて、上述のポリマー吸着剤を本発明の装置および方法に利用することができる。さらにほかの実施形態では、吸着剤は、シリカ上に官能基を有するポリマーのネットワークの調製を記載している、Gottschallの上記特許文献9および10に記載され、instrAction社(ルートヴィヒスハーフェン、DE)介して利用可能なポリマー吸着剤であることができる。これらの吸着剤の幾つかの性能を実施例2および4で説明する。
【0059】
さらにほかの実施形態では、吸着剤は、Hudsonの上記特許文献12に記載されたような、たとえば、アルコキシシラン、アミノシラン、ヒドロキシシランまたはハロシランのようなシランと反応することが可能である反応性金属酸化物を有する金属酸化物または半金属酸化物の粒子を含む結合相で埋め込まれたガラス繊維マトリクスを含む官能化モノリス吸着剤であることができる。好適な金属酸化物および半金属酸化物には、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ムライト、ジルコニア、バナジアもしくはチタニアまたはそれらの混合物もしくは複合体、好ましくはシリカが挙げられる。同様に、ガラス繊維マトリクスは金属または半金属の酸化物で構成される。シリカとの反応後、シランは、酸素結合を介してシリカ粒子に共有結合し、金属酸化物または半金属酸化物は、たとえば、ヒドロカルビル、アミド、カルバミル、カルバメート、ウレタン、カルバミド、イソシアネート、ジオール、グリシドキシ、エトキシ、プロポキシ、カルボニル、カルボキシ、アセトニル、チオ、ジチオ、ヒドロキシ、エーテル、スルフィニル、スルホニル、スルホン酸、サルフェート、スルホンアミド、アミノ、ニトリロ、イソニトリロ、エポキシ、グアニジノ、ニトロ、ニトロソおよびホスフェートによって官能化される。
【0060】
当該技術で既知の方法によってシリカを化学的に処理する(または官能化する)ことができる。実施形態の1つでは、シリカは、アルキル部分、通常、C2〜C30のアルキル基に結合してシリカを疎水性にし、疎水性化合物の吸着のための逆相を提供する。別の実施形態では、シリカは、アミドエンドキャップ試薬によってC18結合相に結合し、または極性の埋め込まれた部分を有するC18結合相に結合し、極性修飾の逆相を提供する。シリカを修飾するのに使用することができるいかなる結合相も可能であり、たとえば、アミノ、シアノ、グリシジルなど、ならびに上記で議論したようなアニオンまたはカチオンの交換基が可能である。好ましい実施形態では、官能化されたモノリスの吸着剤は、好ましくは、SPEC(登録商標)製品に類似するオルガノシランの化学的物質(カリフォルニア州、パロアルトのバリアン社を介して入手可能)を用いて調製される、修飾されたシリカを含浸させたガラスのミクロ繊維から構成される。このモノリスの結合シリカによって、改善された流れおよび非常に少ない空隙容量が可能になり、試料の処理に使用される溶媒が少なくて済む。官能化されたモノリスの吸着剤の結合能は一般に、0.1mgの吸着剤当たり約1μg検体の範囲である。ガラス繊維のマトリクス材料は通常、名目上見積もられたサイズの蛇行性の径路を創る無作為に分布する繊維から構築され、約0.1mm〜約2mm、さらに通常では、約1mmの厚さを有する。好ましい実施形態では、吸着剤は、Spec(登録商標)IQe(カリフォルニア州、パロアルトのバリアン社)において利用されるものである。
【0061】
追加の実施形態では、吸着剤は、生体試料からリン脂質を取り除くために、上記特許文献1(Bennett外)に記載されたような支持体に結合させたリン脂質性の多価カチオンを含むことができる。そのような吸着剤は、リン脂質のようなホスフェート含有の化合物を吸着するために、遷移金属、ランタニドまたはアクチニド、好ましくはセリウムを含む。
C.濾過手段
タンパク質の濃度および組成、使用されたタンパク質沈殿法などによって、粒度は、タンパク質を沈殿させた試料において異なる。血漿試料とともに種々の変性溶媒を使用するのが分析研究室では一般的であり、血漿試料から取り除かれる粒子も同様に異なる。別の態様では、本明細書で記載される装置および方法は、生体分析試料からタンパク質が沈殿された粒子を取り除くための濾過手段を提供する。特に好ましい実施形態では、装置および方法は、たとえば、変性溶媒または塩の添加のような沈殿手順の結果生じるタンパク質粒子を取り除く。
【0062】
タンパク質沈殿物の粒度は、組成、沈殿方法およびそのほかの変数によって異なってもよいので、濾過手段を選択して所望の粒度を除去することができる。たとえば、ACNを使用する場合、沈殿させたタンパク質の直径は一般に大きいので、約0.2μm〜約0.45μmの細孔サイズを有するフィルターが、望ましくない粒子状混入物を取り除くのに一般に十分である。MeOHを使用する場合、粒経は小さくなる傾向があるので、0.1μm〜0.2μm以下のフィルターが通常十分である。実施例7に示すように、75%(v/v)MeOH/3%蟻酸によって沈殿させた血漿試料は、0.2μmの細孔サイズのCaptiva(登録商標)フィルターを用いて取り除くことができる小さな粒度を生じた。対照的に、75%(v/v)ACNによって沈殿させた血漿試料は、0.45μmの細孔サイズのCaptiva(登録商標)フィルターを用いて取り除くことができる大きな粒度を生じた。
【0063】
特定の実施形態では、濾過手段は、タンパク質を沈殿させた生体分析試料に光学透明度を提供するのに有効である(たとえば、524nmでの%Tが>95)。好ましくは、濾過手段は、試料に存在する沈殿させたタンパク質粒子を取り除くために直径約0.05μm〜約0.5μmの間の細孔サイズを有することを特徴とする。特定の実施形態では、濾過手段は、直径約0.1μm〜約0.2μmの間の細孔サイズを有することを特徴とする。特に好ましい実施形態では、濾過手段は、フィルターを通過することにより、直径0.2μmおよび0.45μmを超える粒子を排除するサイズ排除膜である。
【0064】
代替の実施形態では、濾過手段は、試料から取り除かれる粒子の直径以下の最大細孔サイズを有する、たとえば、直径約0.05μm〜約0.5μmの間の、好ましくは、直径約0.1μm〜約0.2μmの間の細孔サイズを有する無機モノリスである。特定の実施形態では、濾過手段は、吸着剤と一体化するまたは吸着剤と会合する、たとえば、試料から粒子を排除できるように十分小さな直径のマクロ細孔を有し、多孔性無機モノリスに結合された逆相または極性修飾の逆相を含む多孔性無機モノリスである。
【0065】
好ましくは、濾過手段は、Captiva(登録商標)フィルターまたはCaptiva(登録商標)プレート(96ウエル(穴)形式)のようなサイズ排除フィルターである。サイズ排除フィルターは、タンパク質の沈殿およびマトリクス干渉因子の除去で利用される溶媒条件に対して安定である、当該技術で既知のいかなる材料も含むことができる。サイズ排除フィルターに好適な材料には、限定されることなく、ポリオレフィン性材料、たとえば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ(4−メチルブテン)またはそれらのコポリマー、ナイロン、PTFE、フッ素化ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セルロースアセテート、ポリスチレン、ポリスチレン/アクリロニトリルコポリマー、PVDF、ニトロセルロース、ポリ(塩化ビニル)、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(ビニルブチレート)などが挙げられ、それ自体を使用することができ、またはそのほかの材料、たとえば、ガラス、セラミックス、金属などとの組み合わせでおよび併用で使用することができる。サイズ排除フィルターは、試料に溶解しない、または混入物を溶出しない材料から構成されるべきである。好ましくは、フィルターは、超清浄なポリマー、好ましくはポリプロピレン、PVDFまたはPTFEから構成される。好ましい実施形態では、濾過手段は、ユーザーがフィルターを介して試料の溶出を開始する(たとえば、圧力、真空または遠心力を適用することによって)まで溶媒を保持する追加の利益を提供するPTFEフィルターであり、適時にわたって改善された制御を提供し、使用の追加的容易さを提供する。
【0066】
追加の実施形態では、濾過手段は、所望のサイズの粒子を取り除くのに十分な最大細孔サイズを有する(サイズ排除フィルターと同様に)ポリマーまたは無機のモノリスであることができる。通常、所望のサイズの粒子を取り除くのに十分である最大細孔サイズは、試料から取り除かれる粒子の直径よりも小さい。しかしながら、貫通細孔(マクロ細孔)を通る流体の流れのために蛇行性の径路を提供するモノリスの濾過手段では、所望のサイズの粒子を取り除くのに十分である最大細孔サイズは、試料から取り除かれる粒子の直径よりも大きくてもよい。好ましい実施形態では、濾過手段は、たとえば、Xuの上記特許文献13に記載されたように調製される多孔性ガラスのモノリスである。当業者は、たとえば、様々な溶媒、塩または酸におけるタンパク質の沈殿から生じる所与のサイズの粒子を試料から取り除くのに望ましい細孔のサイズを容易に決定することができる。当業者はまた、選択されたサイズの粒子を取り除くためのモノリスの濾過手段を容易に調製することもできる。
D.タンパク質の沈殿処理
熟練者は、本発明の方法で利用することができる多数のタンパク質沈殿処理に気付くであろう。タンパク質を沈殿させるのに利用することができる典型的な処理には、酸処理(たとえば、トリクロロ酢酸、蟻酸など)、変性溶媒(たとえば、メタノール、アセトニトリル、アセトンなど)、熱処理(結果的にタンパク質の変性を生じる)、塩処理(たとえば、硫酸アンモニウム)、およびこれらの組み合わせが挙げられる。本明細書に記載される装置および方法は、変性溶媒(普通、少なくとも2:1の有機溶媒対水)の添加によってタンパク質の沈殿が達成される場合、試料とともに、好ましくは利用される。たとえば、メタノール、アセトンまたはアセトニトリルのような有機溶媒による水性試料の2:1または3:1希釈が、結果として、血漿、細胞培養上清、組織抽出物、組織ホモジネートなどのような生体分析試料で見い出されるタンパク質様の成分の沈殿を生じる。したがって、沈殿させた試料は通常、50%(v/v)以上の有機相(たとえば、溶媒による2:1の希釈については66%(v/v)または溶媒による3:1の希釈については75%(v/v))を含む。好ましい実施形態では、酸処理と溶媒希釈(たとえば、2:1メタノール、1%蟻酸)の組み合わせを用いてタンパク質を沈殿させる。酸を包むことは、薬物動態分析などを行う場合典型的なので、対象とされる検体が塩基性検体である場合有利である。当業者は、沈殿条件が、特定の対象とされる検体および特定の生体分析試料の性質に対して調整されることを認識するであろう。特定の条件下で、たとえば、沈殿溶液に塩基、たとえば、蟻酸アンモニウムを含めることによって塩基性溶液にて沈殿を行うことが有利であってもよい。
E.マトリクス干渉因子
マトリクス干渉因子には、質量分光分析のための電子スプレーイオン化の間、試料に存在する検体のイオン化を抑制するのに必要な相対的に高い濃度(普通、少なくとも1mg/mL)で生体分析試料に存在し得る多種多様な物質が挙げられる。マトリクス干渉因子が、まさに検体依存性である検体検出を抑制するようにはたらくということは、1つの検体の検出が別の検出よりも不利に影響を被っている可能性があることを意味する。
【0067】
一般に遭遇するマトリクス干渉因子には、試料に添加された界面活性剤およびそのほかの作用剤、血清に存在する脂質、薬物製剤に添加されている賦形剤(投与剤)が挙げられる。たとえば、試料の分析に先立ってNP40を培養細胞に添加して細胞を溶解することができる。患者または実験動物からの血液血漿は、十分な量の脂質、たとえば、コレステロール、トリグリセリド、リン脂質、リソリン脂質、リポタンパク質などを含有することが知られており、それらのすべては、マトリクス干渉効果を発揮し、かつ/または分析機器を汚染するのに十分に高い濃度で存在し得る。ポリエチレングリコール(PEG)、界面活性剤、崩壊剤(錠剤分解物質)およびそのほかの賦形剤は、薬物製剤の溶解試験に存在することができる。
【0068】
界面活性剤および血漿脂質は、生体分析試験で遭遇する最も一般的なマトリクス干渉因子の一部である。ここで記載されている装置および方法を用いて取り除くことができる血漿脂質には、吸着剤が、1種を超える対象とされる検体に対する血漿脂質の選択性を示す限り、限定されることなく、コレステロール、コレステロールエステル、トリグリセリド、リン脂質、リゾリン脂質、リポタンパク質などが挙げられる。好ましい血漿脂質は、リソ形態(たった1本のアシル鎖を有する)またはジアシル形態(2本のアシル鎖を有する)として存在し得るホスファチジルコリン(PC)である。
【0069】
現在記載されている装置および方法を用いて取り除くことができる界面活性剤には、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤または両性界面活性剤を含むイオン性界面活性剤や、非イオン性界面活性剤を含む多種多様な界面活性剤が挙げられる。非イオン性界面活性剤には、たとえば、ポリオキシステアレート、たとえば、ポリオキシ40ステアレート、ポリオキシ50ステアレート、ポリオキシ100ステアレート、ポリオキシ12ジステアレート、ポリオキシ32ジステアレートおよびポリオキシ150ジステアレート、ならびにそのほかのMyrj(商標)シリーズの界面活性剤、商標名PluronicおよびPoloxamerのもとで入手可能な一般式HO(C2H4O)a(−C3H6O)b(C2H4O)aHを有するポロキサマーとしても知られるエチレンオキシド/プロピレンオキシド/エチレンオキシドのトリブロックコポリマー、糖エステル界面活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル、たとえば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、およびそのほかのSpan(商標)シリーズの界面活性剤、グリセロール脂肪酸エステル、たとえば、グリセロールモノステアレート、ポリオキシエチレン誘導体、たとえば、高分子量脂肪族アルコールのポリオキシエチレンエーテル(たとえば、Brij30、35、58、78および99)ポリオキシエチレンステアレート(自己乳化)、ポリオキシエチレン40ソルビトールラノリン誘導体、ポリオキシエチレン75ソルビトールラノリン誘導体、ポリオキシエチレン6ソルビトール蜜蝋誘導体、ポリオキシエチレン20ソルビトール蜜蝋誘導体、ポリオキシエチレン20ソルビトールラノリン誘導体、ポリオキシエチレン50ソルビトールラノリン誘導体、ポリオキシエチレン23ラウリルエーテル、ブチル化ヒドロキシアニソールを伴ったポリオキシエチレン2セチルエーテル、ポリオキシエチレン10セチルエーテル、ポリオキシエチレン20セチルエーテル、ポリオキシエチレン2ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン10ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン20ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン21ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン20オレイルエーテル、ポリオキシエチレン40ステアレート、ポリオキシエチレン50ステアレート、ポリオキシエチレン100ステアレート、ソルビタンの脂肪酸エステルのポリオキシエチレン誘導体、たとえば、ポリオキシエチレン4ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン20ソルビタントリステアレート、およびTween(商標)シリーズの界面活性剤、リン脂質およびリン脂質脂肪酸誘導体、たとえば、脂肪アミンオキシド、脂肪酸アルカノールアミド、プロピレングリコールモノエステルおよびモノグリセリド、たとえば、水素添加パーム油モノグリセリド、水素添加大豆油モノグリセリド、水素添加パームステアリンモノグリセリド、水素添加野菜モノグリセリド、水素添加綿実油モノグリセリド、精製パーム油モノグリセリド、部分水素添加大豆油モノグリセリド、綿実油モノグリセリド、ヒマワリ油モノグリセリド、ヒマワリ油モノグリセリド、カノーラ油モノグリセリド、スクシニル化モノグリセリド、アセチル化モノグリセリド、アセチル化水素添加野菜油モノグリセリド、アセチル化水素添加ココナッツ油モノグリセリド、アセチル化水素添加大豆油モノグリセリド、グリセロールモノステアレート、水素添加大豆油を伴ったモノグリセリド、水素添加パーム油を伴ったモノグリセリド、スクシニル化モノグリセリドおよびモノグリセリド、モノグリセリドおよび菜種油、モノグリセリドと綿実油、プロピレングリコールモノエステルナトリウムステアロイルラクチレートシリコンジオキシドを伴ったモノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、ポリオキシエチレンステロイダルエステル、エチレンオキシドと重合したオクチルフェノールから製造され、商標名における数「100」が構造におけるエチレンオキシド単位の数に間接的に関連し(たとえば、TritonX−100(商標)は、平均分子量625で分子当たりN=9.5の平均エチレンオキシド単位を有する)、市販品においてより少ない量で存在する低モルおよび高モルの付加主成物を有するTriton−Xシリーズの界面活性剤、ならびにTritonX−100(商標)に類似する構造を有する、IgepalCA−630(商標)およびNonidetP−40M(NP−40(商標)、N−ラウロイルサルコシン、ミズーリ州、セントルイスのシグマケミカル社)を始めとする化合物、などが挙げられる。界面活性剤分子における炭化水素鎖はいずれも飽和されてもよく、または不飽和でもよく、水素添加されてもよく、または水素添加されていなくてもよい。
【0070】
糖エステル界面活性剤には、モノエステルおよびジエステルが最も好ましいが、糖脂肪酸モノエステル、糖脂肪酸ジエステル、トリエステル、テトラエステルまたはこれらの混合物が挙げられる。好ましくは、糖脂肪酸モノエステルは、直鎖または分枝鎖または飽和または不飽和のC6〜C24の脂肪酸であってもよい6〜24の炭素原子を有する脂肪酸を含む。C6〜C24の脂肪酸は、好ましくは、ステアレート、ベヘネート、ココエート、アラキドネート、パルミテート、ミリステート、ラウレート、カプレート、オレエート、ラウレートおよびそれらの混合物から選択され、部分的な範囲または組み合わせにおいて偶数または奇数の炭素を含むことができる。好ましくは、糖脂肪酸モノエステルは、少なくとも1つの糖単位、たとえば、スクロース、マルトース、グルコース、フルクトース、マンノース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、ラクトース、ソルビトール、トレハロースまたはメチルグルコースを含む。スクロースエステルのような二糖類エステルが最も好ましく、スクロースココエート、スクロースモノオクタノエート、スクロースモノデカノエート、スクロースモノ−またはジラウレート、スクロースモノミリステート、スクロースモノ−またはジパルミテート、スクロースモノ−およびジステアレート、スクロースモノ−またはジ−またはトリオレエート、スクロースモノ−またはジリノレート、スクロースポリエステル、たとえば、スクロースペンタオレエート、ヘキサオレエート、ヘプタオレエート、またはオクタオレエートならびに混合エステル、たとえば、スクロースパルミテート/ステアレートが挙げられる。
【0071】
糖エステル界面活性剤には、上記特許文献14に記載されたようなエステル化度を制御する方法を用いて製造された、スクロースステアレートを含む種々のモノ−、ジ−およびモノ/ジエステル混合物を示す名称、Crodesta F10、F50、F160およびF110のもとでニュージャージー州、パルシッパニーのCroda社によって販売されているもの、参照B370のもとで名称、Ryoto糖エステルのもとで三菱から販売されているもの(たとえば、20%モノエステルと80%ジ−、トリ−およびポリエステルとで形成されたスクロースベヘネートに相当)、名称「TegosoftPSE」のもとでGoldschmidt社から販売されているスクロースモノ−およびジ−パルミテート/ステアレート、ICI社によって名称「Arlatone2121」のもとで販売されているソルビタンステアレートのおよびスクロースココエートの混合物のような糖に由来しない別の化合物との混合に存在する糖エステル、そのほかの糖エステル、たとえば、グルコーストリオレエート、ガラクトースジ−、トリ−、テトラ−またはペンタオレエート、アラビノースジ−、トリ−またはテトラリノレート、またはキシロースジ−、トリ−またはテトラリノレート、またはそれらの混合物が挙げられる。メチルグルコースのエステルを含む、脂肪酸のそのほかの糖エステルには、Tegocare450の名称のもとでGoldschmidt社から販売されているメチルグルコースのおよびポリグリセロール−3のジステアレートが挙げられる。メチルO−ヘキサデカノイル−6−D−グルコシドおよびO−ヘキサデカノイル−6−D−マルトースのようなグルコースやマルトースのモノエステルを挙げることもできる。特定のそのほかの糖エステル界面活性剤には、脂肪酸のオキシエチレン化エステルが挙げられ、糖のオキシエチレン化エステルには、たとえば、名称「GlucamateSSE20」のもとでAmerchol社から販売されているPEG20メチルグルコースセスキステアレートのようなオキシエチレン化誘導体が挙げられる。
III.生体分析試料の調製方法
本発明はさらに、マトリクス干渉因子と分析のためのタンパク質とを含む試料を調製するための方法を提供する。当業者は、沈殿させたタンパク質を取り除き、マトリクス効果を軽減するために種々の方法で本発明の装置および方法を実施することができることを認識するであろう。典型的な分析には、クロマトグラフィ、分光光度分析、質量分光分析など、およびそれらの組み合わせが挙げられる。たとえば、製薬検体を測定するための生体分析技術で例示となる分析方法はLC/MS−MSである。
【0072】
したがって、生体分析試料においてマトリクス効果を軽減し、タンパク質の沈殿物を取り除くための方法が提供され、前記方法は、a)支持体と支持体に会合する吸着剤とを含む装置を提供することであって、前記吸着剤は、生体分析試料に存在する対象とされる検体に対するマトリクス干渉因子について1を超える選択性を特徴とし、試料に存在するタンパク質の沈殿物を取り除くための濾過手段をさらに含むものであることと、b)生体分析試料を吸着剤に接触させることと、c)マトリクス干渉因子および沈殿させたタンパク質を保持する一方で吸着剤から検体を溶出することとを含み、ここで、得られる処理された試料におけるマトリクス干渉因子およびタンパク質の量が低下する。特定の実施形態では、方法はさらに、生体分析試料を吸着剤に接触させる工程に先立って、またはそれと同時に装置における生体分析試料中のタンパク質を沈殿させることを含むことができる。好ましくは、工程c)は、陰圧(すなわち、真空を適用すること)、動電学的な力もしくは遠心力、重力もしくは毛細管に由来する陰圧、または陽圧を用いて行い、試料が吸着剤および濾過手段を通過するようにし、それによってマトリクス干渉因子および沈殿させたタンパク質を取り除く。たとえば、陰圧を使用して、市販の真空連結管を用いて96ウエルプレートまたはカートリッジを介して試料を引くことができる。陽圧を使用して、限定しないで、インラインカラムまたは一回使用のカートリッジ、ピペットチップまたはルアー型のシリンジフィルターを介して試料を押すことができる。同様に、遠心力を使用して(遠心機)フィルターカートリッジまたは96ウエルプレートなどを介して試料を押すことができる。
【0073】
好ましくは、濾過手段は、試料に存在する沈殿させたタンパク質粒子を取り除くために、直径約0.05μm〜約0.5μmの間の細孔サイズを有することを特徴とし、特定の実施形態では、濾過手段は約0.1μm〜約0.2μmの間の細孔サイズを含む。特定の実施形態では、濾過手段は、0.1μm、0.2μmおよび0.45μmの細孔サイズを含む。好ましくは、マトリクス干渉因子は、界面活性剤、脂質、賦形剤または投与剤であり、好ましい実施形態では脂質はリン脂質であり、界面活性剤は、アニオン界面活性剤および非イオン性界面活性剤から選択されたものである。好ましくは、界面活性剤は、本明細書に記載される吸着剤を用いて有利に保持されることができる炭化水素鎖を含む。好ましくは、吸着剤は、マトリクス干渉因子と対象とされる検体との間での十分な選択性を特徴とし、対象とされる検体に溶出を提供する一方でマトリクス干渉因子の保持を提供する。特定の実施形態では、吸着剤は逆相または極性修飾の逆相を含む。特定の実施形態では、マトリクス干渉因子と対象とされる検体とを含む、タンパク質を沈殿させた生体分析試料において、マトリクス効果を軽減し、沈殿させたタンパク質を取り除く方法が提供され、該方法は、本明細書で記載される装置を通って試料を通過させることを含む。
【0074】
追加の実施形態では、マトリクス干渉因子と対象とされる検体とを含む、タンパク質を沈殿させた生体分析試料においてマトリクス効果を軽減するために方法が提供され、該方法は、a)支持体と、支持体に会合する吸着剤とを含む装置を提供することであって、その際、前記吸着剤は生体分析試料に存在する対象とされる検体に対するマトリクス干渉因子についての1を超える選択性を特徴とすることと、b)生体分析試料を吸着剤と接触させることと、c)マトリクス干渉因子を保持する一方で検体を吸着剤から溶出することであって、得られる処理された試料におけるマトリクス干渉因子の量が低下するものであることを含む。装置は、沈殿させたタンパク質粒子を取り除くための濾過手段をさらに含むことができる。好ましい実施形態では、生体分析試料が少なくとも50%(v/v)の変性有機溶媒を含む場合、吸着剤はマトリクス干渉因子を保持する一方で、対象とされる検体を保持しない。追加の実施形態では、66%、75%もしくは90%(v/v)の有機溶媒でさえ、またはpH修正剤(たとえば、酸、塩基)の存在下でさえ、吸着剤がマトリクス干渉因子を保持する一方で、対象とされる検体を保持しない。好ましくは、吸着剤は、生体分析試料に存在するマトリクス干渉因子の少なくとも50%を結合する一方で、装置から外に出された溶媒中の検体の少なくとも90%の回収を提供し、さらに好ましくは、吸着剤は、試料に存在するマトリクス干渉因子の少なくとも70%、またはさらに好ましくは85%、またはさらに好ましくは90%、または一層さらに好ましくは95%および最も好ましくは99%を結合する。
【0075】
特定の実施形態では、併用濾過固相抽出モード(SPE)において装置を使用することができる。たとえば、方法は、生体分析試料を吸着剤に接触させるのに先立って、少なくとも1つのコンディショニング(調整)溶媒または溶媒の混合物によって吸着剤を洗浄することによって、任意で吸着剤をコンディショニングすることをさらに含むことができる。方法は、吸着された検体とマトリクス干渉因子とを伴う吸着剤を、洗浄溶媒または溶媒の混合物で任意で洗浄して、結合されなかった成分を取り除くことをさらに含むことができる。さらなるSPEの使用によれば、方法は、順次高めた溶媒強度の溶出溶媒によって、吸着されたマトリクス干渉因子で検体を汚染することなく、吸着剤から検体を溶出することをさらに含むことができる。
【0076】
追加の実施形態では、少なくとも50%(v/v)のタンパク質変性有機溶媒を含む生体分析試料においてマトリクス効果を軽減するための方法が提供され、該方法は、a)生体分析試料に存在するマトリクス干渉因子を結合することが可能である吸着剤を提供することと、b)生体分析試料を吸着剤に少なくとも10秒間接触させることと、c)吸着剤から溶液を分離することとを含み、得られる処理された試料におけるマトリクス干渉因子の量が低下する。好ましくは、前記接触させることは、約10秒間〜約10分間行われ、吸着剤は、生体分析試料に存在するマトリクス干渉因子の少なくとも50%を結合する一方で、装置から外に出された溶媒中の検体の少なくとも90%の回収を提供する。方法は、沈殿させたタンパク質粒子を取り除くための濾過手段に生体分析試料を接触させることをさらに含むことができる。好ましくは、濾過手段に接触させることと、吸着剤に接触させることは同一工程で行われる。
【0077】
別の実施形態では、試料をタンパク質沈殿処理に供し、次いで遠心分離を行い、または試料が、分析に先立つ除去を保証するように、十分なタンパク質を含有しないものであり、その後、マトリクス干渉因子に選択性を持つ吸着剤で処理する、たとえば、吸着剤を装填したピペットチップを用いてタンパク質ペレットから上清を移す。該方法を実施するのに好適なピペットチップの実施態様は、図1に描かれている。
【0078】
好ましい実施形態では、この方法を利用して、種々のLogP、特に2を超えるLogP値の検体を含有する試料においてマトリクス効果を軽減し、吸着剤は、極性修飾の逆相であり、pH修正剤の存在下または不存在下、0.2μmのフィルター細孔サイズとともに、高い溶媒強度(たとえば、50%(v/v)〜95%(v/v))にて使用される。たとえば、この方法は、LogP値が≦5.2である検体と、およそ20mg〜30mgの吸着剤、たとえば、Polaris(登録商標)C18−AまたはC18アミドとを含有する血漿試料について、2:1もしくは3:1の容積希釈のACNまたは3:1のMeOHを用いて沈殿を行い、タンパク質粒子とホスファチジルコリンと界面活性剤とを取り除くことを含むことができる。さらに量の多い吸着剤によって、ほとんどのリソホスファチジルコリンを取り除くことができる。
【0079】
追加の好ましい実施形態では、この方法を利用して種々のLogPの検体を含有する試料においてマトリクス効果を軽減し、吸着剤(20〜30mg)は、逆相吸着剤または極性修飾逆相吸着剤であり、66%(v/v)の有機溶媒強度および0.1〜0.2μmのフィルター細孔サイズとともに使用される。たとえば、この方法は、検体を含有する血漿試料について、3%の蟻酸を伴うMeOH(2:1)を用いて沈殿を行い、タンパク質粒子と、リソホスファチジルコリンを含む実質的にすべてのホスファチジルコリンと、ツイーン(Tween)80やSDSのような界面活性剤とを取り除くことを含む。吸着剤の量(20mg)は、血漿試料(およそ1mL未満)からの検体の回収に影響を及ぼすことなく、5mg/mLの界面活性剤を取り除くのに十分である。この実施形態の態様は、実施例5、実施例7および実施例11、ならびに図17に示されている。
【0080】
ポサコナゾールのような非極性性の高い検体は、調べた一部の溶媒およびpH条件で一貫性のない回収を示す可能性がある(実施例9を参照のこと)。当業者は、高い非極性の検体の回収について溶媒、吸着剤、溶媒強度およびpHを最適化できるが、特定のマトリクス干渉因子の除去を犠牲にする可能性があることを認識するであろう。同様に、マトリクス干渉因子すべての除去を達成してさらに清浄な試料を生じることができるが、すべての検体の回収を犠牲にする可能性がある。分析目的によって、すべてを考慮して検体をより確実に定量できるのであれば、マトリクス構成成分すべての、妥協して処理する除去を許容することができる。同様に、すべてを考慮して十分に清浄な試料を達成するさらに正確な定量が可能であるならば、妥協して処理する検体の回収が望ましいものであり得る。
IV.生体分析試料におけるマトリクス効果を軽減する装置の調製方法
追加の実施形態では、生体分析試料におけるマトリクス効果を軽減する装置を調製するために方法が提供される。実施形態の1つでは、a)ある量の吸着剤と濾過手段とを含むことが可能である支持体を提供する工程と、b)試料に存在するマトリクス干渉因子を保持するのに有効な量の吸着剤と試料に存在する沈殿させたタンパク質を取り除くための濾過手段とを提供する工程と、c)支持体の中に濾過手段および吸着剤を組み込む工程とを含む、生体分析試料においてマトリクス効果を軽減するために装置が提供される。この方法は、支持体において適当な位置に保持するように吸着剤を保持する手段および/または支持体において適当な位置に保持するように濾過手段を支持する手段を提供することをさらに含むことができる。追加の実施形態では、支持体は、生体分析試料と、タンパク質を沈殿させるために添加される溶媒とを収容することが可能であるリザーバをさらに含む。特定の実施形態では、a)サイズ排除フィルターを支持することが可能であり、ある量の吸着剤と生体分析試料とを収容することが可能である支持体を提供する工程と、b)支持体の中にサイズ排除フィルターを組み込む工程と、c)サイズ排除フィルターの上で支持体に吸着剤を組み込む工程と、d)支持体にて適当な位置に保持するように吸着剤を保持する手段を任意で提供する工程とを含む、生体分析試料においてマトリクス効果を軽減するために、装置が調製される。
【0081】
以下の装置および調製方法は、生体分析試料においてマトリクス効果と沈殿させたタンパク質とを低減するために調製され、利用されることができる装置の非限定例である。
1.マルチウエル形式での使用のための装置は:MeOH中で10mg/mLのPolaris(登録商標)C18−A(10μm)のスラリーを調製する工程であって、0.2μmのサイズ排除フィルター(ポリプロピレン)を含むCaptiva(登録商標)96ウェル(穴)プレートの各ウエルに2mL(20mg)を加える工程と;フィルターを介した吸引によってMeOHを取り除く工程と、各吸着剤床の上にフリットを置く工程とを含んで調製することができる。そのとき、装置は使用できる状態である。
【0082】
2.個々のフィルターカートリッジとしての使用のための装置は:サイズ排除膜を支持するためのフリットを伴った個々のフィルターカートリッジを提供する工程と、フリットにフィルターを組み込み、膜の上に第2のフリットをさらに組み込み、それを固定する工程と、MeOH中のスラリー(10mg/mLのスラリーから20mg)として第2のフリットの上の吸着剤を適用する工程と、MeOHを取り除く工程と、吸着剤の上に第3のフリットを適用して吸着剤を固定する工程とを含んで調製することができる。
【0083】
3.インラインでの使用のための装置は:金属またはPEEKのカラム体を提供する工程と、一端にフリットを挿入し、次いで濾過手段を挿入し、任意で次いで追加の固定フリットを挿入する工程とを含んで調製することができ、吸着剤はスラリーまたは乾燥粉末として挿入され、追加の固定手段が続き、適当な出口と入口とともにハードウエアを用いてカラムとともに使用するために接続して仕上げられる。或いは、カラム体においてゾルゲルのモノリスを調製し、乾燥し、焼成(か焼)し、修飾して所望の結合相を提供し、インライン使用のために必要なハードウエアを備え付けることができる。
【0084】
4.ピペットチップ形式における使用のための装置は:ピペットチップを提供することと、ピペットチップの小さな開口部(チップ)に中に濾過手段を挿入することとを含んで、または、その場での重合によりピペットチップに直接、モノリスの濾過手段を形成し、次いでHudsonの上記特許文献12に記載されたように調製されたガラス繊維のモノリス吸着剤のプラグ(栓)を組み込むことによって、または、濾過手段に隣接したピペットチップの中に、ある量の粒子状もしくはモノリスの吸着剤を供給することによって、調製することができる。試料にタンパク質の沈殿物が存在していなければ、濾過手段を利用しないでマトリクス効果を軽減するためにピペットチップを利用することができ、その場合、ピペットチップは、OmixIQeTomtecチップ(カリフォルニア州、パロアルトのバリアン社)のような、上記特許文献12に記載されたように調製することができる。
【0085】
5. 96ウエルプレートを調製するのに利用されたものに類似した方法で、ルアー型シリンジフィルターとして使用するための装置を調製することができる。ルアー型装置は、所望の選択性および細孔サイズの濾過手段および吸着剤に取り付けることができる。たとえば、濾過手段は、Captiva(登録商標)または0.2μmの細孔サイズのミリポアフィルターであることができ、吸着剤は、Spec(登録商標)ディスク(カリフォルニア州、パロアルトのバリアン社から入手可能)または複数のSpec(登録商標)ディスクまたは粒状の吸着剤であることができる。吸着剤と濾過手段との順序は重要ではなく、すなわち、吸着剤またはフィルターは、装置のメス型端部またはオス型端部に設置することができる。しかしながら、試料を吸着剤に接触させる前に粒子状物質を濾別することが習慣的である。
【0086】
乾燥吸着剤粒子またはモノリスの吸着剤(たとえば、結合相で埋め込まれたガラス繊維マトリクスを含む官能化モノリス吸着剤、または結合相を生じるように修飾されたゾルゲルモノリス、またはポリマーで修飾された多孔性の基材など)を、フィルターおよび/もしくはフリットの上に注ぐもしくは設置することによって、またはポリマー系のモノリス吸着剤(たとえば、アミド官能性のような極性の官能性を含むポリマー吸着剤)をフィルターおよび/もしくはフリットの上で重合することによっても、装置を調製することもできる。
【0087】
当業者は、生体分析試料の吸着剤および濾過手段との接触の順序が一般に重要ではないことを理解して、これら類似の装置を実施することができ、組み立てることができるであろう。さらに、装置は、装置の中で直接、タンパク質の沈殿物を調製し、次いで実施例11に示されるように、すべて一工程で吸着および濾過を行うためにリザーバを含む。タンパク質の吸着が、マトリクス干渉因子を保持する吸着剤の能力に有害に影響することがありうるので、試料を吸着剤に接触させるのに先立ってタンパク質の沈殿を行うことが好ましい。しかしながら、このことは使用のために必要な条件ではなく、当業者は、試料を吸着剤に接触させるのに先立って沈殿を行うことが好ましいかどうか決定して、手順を変えることができる。
【0088】
当業者は、類似の材料を置き換えて、やや異なった特質を有する装置を提供することがさらにできるであろう。たとえば、利用される細孔サイズが適用に適する限り、たとえば、Millipore、Porex、Advantecなどからのフィルターのようにいずれの濾過手段も利用することができる。同様に、特定の適用に所望されるとして、ポリプロピレン、PVDF、PTFE、ニトロセルロースなどのフィルターを利用することができる。対象とされる検体が相対的に極性であり(たとえば、LogP<2)、沈殿させたタンパク質の溶液(>50%(v/v)の有機溶媒)に関連した溶媒条件下で上手く保持されない場合、極性修飾を欠く逆相吸着剤が適当である。
【0089】
装置が一方向性の流れを提供すること、すなわち、装置は入口および出口を有し、試料が装置の一方の面または入口に適用され、処理された試料が装置の出口または他方の面から出て、一方向性を有して吸着剤および濾過手段を通過することが一般的に好ましい。しかしながら、特定の実施形態では、濾過手段を入口に設置して装置に入るものから粒子を排除することができる(たとえば、ピペットチップの実施態様)一方で、試料が装置に入るにしたがって試料からタンパク質沈殿物が濾別され、ついで試料が吸着剤に接触し、その後、濾過手段を通って取り出される。
【0090】
追加の実施形態では、たとえば、濾過手段が、沈殿させたタンパク質粒子を排除するための所望のサイズのマクロ細孔を有するモノリスの無機基材(たとえば、ゾルゲルモノリス)であり、表面修飾されて試料からマトリクス干渉因子を選択的に吸着するための逆相または極性修飾の逆相の結合相を生じる場合のように、吸着剤と濾過手段は互いに一体化される。
V.適用および使用方法
本発明の物品および方法は、クロマトグラフィ分離および分析分離の応用のための試料の調製に有利に使用することができ、その際、タンパク質や脂質/界面活性剤の混入物を欠く清浄な試料は、たとえば、クロマトグラフィ媒体および計測器への汚染を生じない。汚染は、結果としてクリーニングおよびメンテナンス、機器のズレおよび不一致について段取り時間を生じ、吸着剤の選択性や検体の滞留時間の影響を与える。
【0091】
マイクロ流体工学への応用と同様に、キャピラリーカラム、カートリッジシステムまたは従来のHPLCシステムと併せて装置を利用することができる。検体の質量分光検出による血漿検体(またはそのほかのタンパク質を含有する溶液)の高処理能力スクリーニング用の試料の調製に装置および方法が特に有利に適用され、その際、単一迅速工程で実施されたマトリクス干渉因子および沈殿させたタンパク質の減少は、多忙な実験室作業者に驚くべき好都合と使用の容易さとを提供する。装置はまたSPEでも利用することができる。
VI.発明の利点
タンパク質沈殿フィルターと、脂質、界面活性剤およびそのほかのマトリクス干渉因子を取り除くための吸着剤とを含む本発明の組み合わせ装置によって、ユーザーが典型的なタンパク質沈殿/濾過の手順で使用されるものに類似した方法で試料を処理することができるが、それは、一工程でマトリクス効果を軽減するとともにタンパク質を取り除く追加の利益を提供する。装置の使用は、分析に先立って清浄な生体分析試料を調製する工程を劇的に簡略化する。SPEを用いた別々の試料処理工程は必要ではない。したがって、組み合わせ装置の使用は、はるかに効率の高い試料調製を提供し、試料の分析に必要とされる労力とコストと時間とを低減する。
【0092】
例示となる実施形態は、実施例10および実施例11に記載され、本発明の装置を用いて可能である試料の調製手順における劇的な改善を明らかにしている。実施例11に記載されるように、単一の装置とピペッターとを用いて単一工程で試料をタンパク質沈殿手順とマトリクス干渉因子(この場合、界面活性剤およびリン脂質)の除去との双方に供すればよい。全体として、試料調製は、測定し、試料に溶媒を加えて混合するのに数分間の時間、ついで今や直ちに分析できる処理された試料を回収するのに数秒間を必要とした。
【0093】
したがって、本物品および本方法の一部の利点および特徴には、使用の容易さ、便利さ、一工程でのタンパク質/脂質/界面活性剤の除去が可能であること、時間、溶媒、材料、労力およびコストの節約が挙げられる。
以下の実施例では、使用された部材に関する精度(たとえば、量、温度など)を確保するように尽力されたが、一部の実験的な誤差および偏差があることは説明されるべきである。特に示さない限り、温度は℃であり、圧力は、大気圧またはそれに近い。溶媒はすべてHPLC等級として購入し、実験は、特に示さないかぎり、すべて大気中で普通に行った。
略記
ACN:アセトニトリル
LC/MS−MS:液体クロマトグラフィ−質量分光分析/質量分光分析
SDS:ドデシル硫酸ナトリウム
実施例1:クロマトグラフィカラムにリン脂質が蓄積する
希釈したブタ血漿を、極性修飾したC18−AのHPLCカラム(40mm×4.0mm)に注入し、40秒間保持した後、1分間でACNが10%から90%へと傾斜するACNと0.1%蟻酸との勾配プログラムを用いて血漿構成成分を溶出した。カラムを再平衡化するために10%に戻す前に、高い有機溶出を40秒間保持した(表13を参照のこと)。
【0094】
結果は図2に示す。それは、50回の注入にわたってリン脂質(ホスファチジルコリン)がカラムに徐々に蓄積することを明らかにしている。上記非特許文献1によって記載された方法によれば、LC−MS/MSのトレースは、m/zが84.0→184.0にてホスファチジルコリンの溶出の検出によって示される。
実施例2:種々の吸着剤によるホスファチジルコリンおよびツイーン80の除去と検体の検出との相関
リン脂質および界面活性剤ツイーン80を取り除く種々の吸着剤の能力の比較を行った。アセトニトリル(ACN)またはACN(0.6mL)中の1.0%の蟻酸のいずれかの添加によってタンパク質を沈殿させ、ついで遠心して沈殿させたタンパク質を取り除く(Sorvall50mL、ロータ500rpm、20分間)ように、ブタの血漿試料(0.2mL)を処理した。上清を取り出し、以下の製薬検体:ゾルピデム、ワーファリン、キニジン、スリンダク、ロラタジン、ロペラミドおよびツイーン80(5mg/mL)についてスパイクさせた。ついで、試験吸着剤:ND06262、ND06265、ND06267(ドイツ、ルートヴィヒスハーフェンのinstrAction社)またはPolaris(登録商標)C18−アミド(カリフォルニア州、パロアルトのバリアン社)10μmシリカビーズのいずれかを介して、スパイクした血漿試料を濾過した。回収プレートの中でのCaptiva(登録商標)0.45μm膜の上に吸着剤を組み込んだ(10mgまたは20mgの吸着剤)。バリアンのPolaris(登録商標)C18−Aカラム(3μmの粒経、50mm×2.0mm)を用い、バリアン1200L LC/MS−MSシステムを用いた表1によるA:0.1%蟻酸およびB:アセトニトリルの勾配によって、10μLの分別検体を分析した。
【0095】
【表1】
【0096】
濾過膜のみでの処理(比較例)に対して、10mgまたは20mgの吸着剤について、製薬検体、ホスファチジルコリンおよびツイーン80のMS/MS応答を測定した。表2に示されるように、その質量分光分析の移行によって定量イオンを検出した。
【0097】
【表2】
【0098】
結果は、以下の図3〜図10および表3〜表6に示す。図3、図5、図7および図9は、1%蟻酸の存在下または不存在下、3:1のACN沈殿上清で処理した場合の、それぞれ10mgおよび20mgの吸着剤、ND06262、ND06265、ND06267およびPolaris(登録商標)C18−アミドによる処理によってリン脂質が低下したことを明らかにしている。図4、図6および図8は、ツイーン80について相対的に少ない低下を示すが、図10は、Polaris(登録商標)C18−アミドによるツイーン80のさらに有意な除去を明らかにしている。これらの結果を以下の表に提示する。
【0099】
【表3】
【0100】
【表4】
【0101】
【表5】
【0102】
【表6】
【0103】
さらに大量の吸着剤を使用した場合、さらに多くの界面活性剤およびリン脂質が取り除かれたということは、使用した吸着剤の量と取り除かれたツイーン80およびホスファチジルコリンの量との間に正の相関があることを示している。しかしながら、このベッド質量範囲では検体に対する感度は犠牲にされなかった。一般に、リン脂質およびツイーン80の除去は結果的に検体の検出の向上を生じ、それは、結果的にイオン抑制を低下させるマトリクス干渉因子の除去と整合性が取れている。
実施例3:タンパク質を沈殿させた試料からの界面活性剤の除去
1mg/mLの濃度までの界面活性剤(トリトン Triton)X−100、ツイーン80およびドデシル硫酸ナトリウム(SDS))とともに、1ppmまでの検体(ゾルピデム、ワーファリン、スリンダク、ロラタジン、バルデナフィル)についてブタ血漿試料をスパイクした。4種の処理のうち1つを用いて試料(200μL)に沈殿を生じさせた。
−アセトニトリル中3%の蟻酸400μL(2:1)
−アセトニトリル中3%の蟻酸600μL(3:1)
−メタノール中3%の蟻酸400μL(2:1)
−メタノール中3%の蟻酸600μL(3:1)
微量遠心機にて14,000rpmで12分間、試料を遠心した。Captiva(登録商標)0.45μm膜の上に組み込んだ20mgのPolaris(登録商標)C18−A吸着剤を用いて実施例2に記載されたように上清を抽出した。実施例2および以下に示される表7に記載されるように10μLの分別検体をHPLCで分析した。
【0104】
【表7】
【0105】
表8に示される分子イオンを用いて、検体を検出した。
【0106】
【表8】
【0107】
結果を表9に要約する。クロマトグラフィの結果は図11〜図14に示す。図11は、2:1のMeOH(A〜F)または2:1のACN(G〜L)を用いて沈殿させた血漿タンパク質のそれぞれ3つのクロマトグラムを説明する。双方の溶液は、3%の蟻酸を伴うものである。すなわち、各クロマトグラムは、3組実行された。図11A〜図11Cは、吸着剤で処理せずにタンパク質を沈殿させた血漿について得られたクロマトグラムを説明する。図11D〜図11Fは、20mgのPolaris(登録商標)C18−Aによる処理の効果(処理された試料におけるツイーン80の低下)を示す。同様に、図11G〜図11Iは、吸着剤で処理せずにタンパク質を沈殿させた血漿について得られたクロマトグラムを説明する。図11J〜図11Lは、20mgのPolaris(登録商標)C18−Aによる処理の効果(処理された試料におけるツイーン80の低下)を示す。
【0108】
図12は、2:1のMeOH(A〜F)または2:1のACN(G〜L)を用いて沈殿させた血漿タンパク質のそれぞれ3つのクロマトグラムを説明する。双方の溶液は、3%の蟻酸を伴うものである。すなわち、各クロマトグラムは、3組実行された。図12A〜図12Cは、吸着剤で処理せずにタンパク質を沈殿させた血漿について得られたクロマトグラムを説明する。図12D〜図12Fは、20mgのPolaris(登録商標)C18−Aによる処理の効果(処理された試料におけるトリトンX−100の低下)を示す。同様に、図12G〜図12Iは、吸着剤で処理せずにタンパク質を沈殿させた血漿について得られたクロマトグラムを説明する。図12J〜図12Lは、20mgのPolaris(登録商標)C18−Aによる処理の効果(処理された試料におけるトリトンX−100の低下)を示す。
【0109】
図13は、2:1のMeOH(A〜F)または2:1のACN(G〜L)を用いて沈殿させた血漿タンパク質のそれぞれ3つのクロマトグラムを説明する。双方の溶液は、3%の蟻酸を伴うものである。すなわち、各クロマトグラムは、3組実行された。図13A〜図13Cは、吸着剤で処理せずにタンパク質を沈殿させた血漿について得られたクロマトグラムを説明する。図13D〜図13Fは、20mgのPolaris(登録商標)C18−Aによる処理の効果(処理された試料におけるSDSの低下)を示す。同様に、図13G〜図13Iは、吸着剤で処理せずにタンパク質を沈殿させた血漿について得られたクロマトグラムを説明する。図13J〜図13Lは、20mgのPolaris(登録商標)C18−Aによる処理の効果(処理された試料におけるSDSの低下)を示す。
【0110】
図14は、2:1のMeOH(A〜F)または2:1のACN(G〜L)を用いて沈殿させた血漿タンパク質のそれぞれ3つのクロマトグラムを説明する。双方の溶液は、3%の蟻酸を伴うものである。すなわち、各クロマトグラムは、3組実行された。図14A〜図14Cは、吸着剤で処理せずにタンパク質を沈殿させた血漿について得られたクロマトグラムを説明する。図14D〜図14Fは、20mgのPolaris(登録商標)C18−Aによる処理の効果(処理された試料におけるホスファチジルコリンの低下)を示す。同様に、図14G〜図14Iは、吸着剤で処理せずにタンパク質を沈殿させた血漿について得られたクロマトグラムを説明する。図14J〜図14Lは、20mgのPolaris(登録商標)C18−Aによる処理の効果(処理された試料におけるホスファチジルコリンの低下)を示す。
【0111】
【表9】
【0112】
図11〜図14および表9に示されるように、調べられたプロトコル(実験)の1以上を用いて、界面活性剤および脂質は、タンパク質を沈殿させた試料から実質的に取り除くことができた。たとえば、血漿の2:1または3:1いずれかの希釈において、3%蟻酸を伴うMeOHの使用は、試料からのホスファチジルコリンおよびツイーン80の実質的に完全な除去を示した。血漿の2:1または3:1いずれかの希釈において、3%蟻酸を伴うACNの使用は、試料からのホスファチジルコリンの実質的に完全な除去およびツイーン80の有意な除去を示した。SDSの除去は溶出溶媒の強度にさらに依存しており、85%のSDSを2:1のMeOHで取り除くことができたが、3:1のMeOHでは40%しか取り除けなかった。吸着剤としてPolaris(登録商標)C18−Aを用いて、ACNは、試料からSDSを取り除くのに有効ではなかった。トリトンX−100の除去は、これらの条件下ではあまり有効ではなく、有意な除去は、ACNを用いてはあったが、MeOHではなかった。
実施例4:脂質の除去に対する酸濃度の影響
5mg/mLのツイーン80とともに、1ppmまでの検体(ゾルピデム、ワーファリン、スリンダク、ロラタジン、ロペラミド、バルデナフィル)について10mLのブタ血漿試料をスパイクした。以下の3種の処理剤のうち1種を30mL用いて試料を沈殿させた。
アセトニトリル
1%の蟻酸を含むアセトニトリル
2%の蟻酸を含むアセトニトリル
Sorvall50mLロータを用いて15℃にて8,000rpmで30分間、試料を遠心した。完全な真空のもとで、Captiva(登録商標)0.45μm膜の上に組み込んだ20mgのND06262またはPolaris(登録商標)C18−アミドの吸着剤を用いて実施例2のように、上清(800μL)の試料を濾過して、回収プレートに入れた。
【0113】
10μLの分別検体を記載されたようにHPLCで分析し、その質量分光分析の移行によって実施例3に記載されたように検体を検出した。結果を表10および表11に要約する。クロマトグラフィの結果は図15および図16に示す。図15は、未処理の試料(A、C、E)および20mgのPolaris(登録商標)C18−アミド吸着剤で処理した試料(B、D、F)を用いて生成されたクロマトグラムを示す。pH修正剤無しでの3:1のACNによる試料の処理を図15Aおよび図15Bに示す。これらの図は、試料におけるホスファチジルコリンにおける低下を示している。1%蟻酸を伴った3:1のACNによる試料の処理を図15Cおよび図15Dに示す。これらの図は、試料におけるホスファチジルコリンにおける低下を示している。2%蟻酸を伴った3:1のACNによる試料の処理を図15Eおよび図15Fに示す。これらの図は、試料におけるホスファチジルコリンにおける低下を示している。
【0114】
【表10】
【0115】
これらの結果は、ホスファチジルコリンの除去とPolaris(登録商標)C18−アミドを伴った酸濃度との間の顕著な関係を明らかにしており、2%の蟻酸は、ゾルピデムの特に高い検出を生じた。調べたこの最高の酸濃度およびACNにて、ホスファチジルコリンのほぼ完全な除去が達成され、取り除くのが著しく難しく、検体の検出でさらに大きな増大を生じる可能性があるリソホスファチジルコリンでさえ達成された。ツイーン80の除去も十分だった。これらのマトリクス干渉因子の除去は、個々の検体シグナルに対するこれらイオン抑制因子の変化し得る効果のために、結果的に検体に依存したシグナルの増大を生じる。
【0116】
【表11】
【0117】
ND06262もホスファチジルコリンの有意な除去を示したが、これらの溶媒条件下では、この吸着剤は血漿試料からツイーン80を取り除くことにはほとんど有効性を示さない。図16は、無処理の試料(A、C、E)およびND06262吸着剤20mgで処理した試料(B、D、F)を用いて生成したクロマトグラムを説明する。pH修正剤無しで3:1のACNによる試料の処理を図16Aおよび図16Bに示しており、試料におけるホスファチジルコリンの低下を示している。1%蟻酸を伴った3:1のACNによる試料の処理を図16Cおよび図16Dに示しており、試料におけるホスファチジルコリンの低下を説明している。2%蟻酸を伴った3:1のACNによる試料の処理を図16Eおよび図16Fに示しており、試料におけるホスファチジルコリンの低下を説明している。
実施例5:メタノール試験
5mg/mLのツイーン80とともに、1ppmまでの検体(ゾルピデム、ワーファリン、スリンダク、ロラタジン、ロペラミド、バルデナフィル)についてブタ血漿試料(100μL)をスパイクした。200μLのメタノール/3.0%蟻酸で血漿試料を希釈することによって試料を沈殿させた。微量遠心機にて室温で14,000rpmで15分間試料を遠心した。20mgのPolaris(登録商標)C18−A吸着剤を用いて実施例2のように、上清の試料を濾過し、または上清の試料を単に回収プレートに直接移した。
【0118】
10μLの分別検体を実施例3に記載されたようにHPLCによって分析した。結果を表12に要約する。クロマトグラフィの結果は、観察されたホスファチジルコリンの特定の種を指摘して、図17に示した。図17A〜図17Cは、吸着剤で処理せずにタンパク質を沈殿させた血漿の3つのクロマトグラムを示している(実験は3組行われた)。図17D〜図17Fは、Captiva(登録商標)0.45μm膜の上に組み込んだ20mgのPolaris(登録商標)C18−A吸着剤で処理した、タンパク質を沈殿させた血漿の3つのクロマトグラムを説明している(実験は3組行われた)。
【0119】
【表12】
【0120】
これらの結果は、これらの溶媒条件下でPolaris(登録商標)C18−A吸着剤を用いた場合、試料に存在するツイーン80およびリン脂質のほぼ完全な除去ならびに検体の完全な回収を明らかにしている。吸着剤とタンパク質の沈殿条件とのこの組み合わせによって、驚くべきことに、単純な沈殿/抽出手順にて検体を損失することなく、マトリクス干渉因子の完全な除去が得られる。
実施例6:吸着剤の選択性試験
3:1のACN希釈を用いてブタ血漿にてタンパク質を沈殿させ、実施例4に記載したように遠心によってタンパク質を取り除いた。5mg/mLのツイーン80とともに、10ppmまでの以下の検体:アミトリプチリン、スマトリプタン、ラモトリジン、ロラタジン、クロザピンおよびケチアピンについて血漿の試料をスパイクした。バリアン1200L LC/MS−MSシステムを用いた表13による、A:0.1%蟻酸、およびB:アセトニトリルの勾配による、種々の吸着剤(40mm×4.0mm)を用いたHPLCによって、10μLの上清、検体およびツイーン80の分別検体を分析した。以下の吸着剤を調べた:Polaris(登録商標)C18、Polaris(登録商標)C18−AおよびFocus(登録商標)(カリフォルニア州、パロアルトのバリアン社)およびND06047(ドイツ、ルートヴィヒスハーフェンのinstrAction社)。
【0121】
【表13】
【0122】
表12に示した質量分光分析の移行を用いて、特定の検体およびマトリクス干渉因子の定量を行った。
【0123】
【表14】
【0124】
結果は、図18〜図21に示し、A〜Hは表14に示された検体のトレースを示す。図18は、純粋な逆相吸着剤、すなわちC−18で修飾されたシリカ(Polaris(登録商標)C18)における検体およびマトリクス干渉因子の溶出を示し、この吸着剤における非極性検体の強い保持のために、後で溶出する検体の一部と、マトリクス干渉因子、ホスファチジルコリンおよびツイーン80とに保持時間の一部重なり合いがあることを明示している。ロラタジン(最も小さい極性の検体、LogP=3.65)のピークと、ホスファチジルコリンまたはツイーン80のピークの前縁との間の算出された選択性は約1である。
【0125】
図19は、極性修飾の逆相吸着剤、Polaris(登録商標)C18−Aにおける検体、およびマトリクス干渉因子の溶出を示し、酸性の溶媒溶出条件でのこの吸着体では非極性検体の強い保持がほとんどないために、後で溶出する検体と、マトリクス干渉因子、ホスファチジルコリンおよびツイーン80とについて保持時間にほとんどまったく重なり合いはないことを明示している(極性修飾の吸着剤によって塩基性の検体は保持されにくい)。
【0126】
図20は、極性修飾の逆相吸着剤、Focus(逆相アミド修飾芳香族ポリマー)における検体およびマトリクス干渉因子の溶出を示し、この吸着剤に対する非極性検体の強い保持がほとんどないために、後で溶出する検体の一部と、マトリクス干渉因子、ホスファチジルコリンおよびツイーン80とについて保持時間にほとんど重なり合いはないことを明示している。
【0127】
最後に、図21は、instrAction社のND06047(シリカビーズ上に形成されたポリマーネットワーク)における検体およびマトリクス干渉因子の溶出を示し、この吸着剤に対する非極性検体の強い滞留がほとんどないために、後で溶出する検体の一部と、マトリクス干渉因子、ホスファチジルコリンおよびツイーン80とについて保持時間にほとんどまったく重なり合いはないことを明示している。同様に、この溶出条件下では、特定の検体間での分離はほとんどないが、これらの吸着剤については検体間の分離は意図されない。
【0128】
これらのクロマトグラムは、検体およびマトリクス干渉因子の保持時間の幅広い範囲にわたって調べた吸着剤の選択性を明示している。ロラタジン(最も小さい極性を有する検体、LogP=3.65)のピークとホスファチジルコリンまたはツイーン80のピークの前縁との間の算出された選択性が、極性修飾の逆相吸着剤すべてについて1を超え、強く非極性である検体についてさえもマトリクス干渉因子、ホスファチジルコリンおよびツイーン80からの選択的分離を可能にしている。
実施例7:タンパク質沈殿の粒子サイズおよび方法
以下の4種の処理のうち1つを用いてブタ血漿試料(0.2mL)にてタンパク質を沈殿させ、66%(v/v)または75%(v/v)いずれかの有機溶媒溶液を得た。
・3%の蟻酸を伴うMeOHの0.4mLの添加
・3%の蟻酸を伴うMeOHの0.6mLの添加
・1%の蟻酸を伴うACNの0.4mLの添加
・1%の蟻酸を伴うACNの0.6mLの添加
0.45μmもしくは0.2μmの細孔サイズのフィルターを用いたCaptiva(登録商標)プレートに、または0.45μmもしくは0.2μmの細孔サイズのフィルターを用いた吸着剤(20mgの10μmのC18−A)を収容しているCaptiva(登録商標)プレートに、タンパク質を沈殿させた試料を通過させた。524nmにて透過率(%T、1cmのパス(経路)、MeOHブランクに対して)を測定して、異なったタンパク質沈殿手順により生じたタンパク質粒子の尺度としての濁度、および吸着剤の存在下または不存在下でのCaptiva(登録商標)フィルタープレートの粒子を取り除く能力を決定した。結果を図22に示す。
【0129】
図22に示されるように、MeOHの希釈溶液を用いたタンパク質の沈殿が最も小さな粒子を生じ、それは、0.45μmの細孔サイズのCaptiva(登録商標)フィルターだけを介しては濾過によって取り除くことはできなかった(%Tはゼロだった)。20mgの吸着剤の添加により、少量のタンパク質沈殿物が取り除かれた(%Tは約25%だった)。0.2μmの細孔サイズのフィルターの使用は、60%(v/v)のMeOHで沈殿させた試料について、さらに良好な結果を提供したが(約50%Tを達成した)、66%(v/v)のMeOHで沈殿させた試料については、%Tは依然としてゼロだった。20mgの吸着剤の添加は、66%(v/v)のMeOHで沈殿させた血漿について約20%T、および75%(v/v)のMeOHで沈殿させた血漿については約100%Tである、さらに良好な粒子の除去を提供した。
【0130】
ACNの希釈溶液を用いたタンパク質の沈殿は、より大きい粒子を生じ、それは、0.45μmの細孔サイズのCaptiva(登録商標)フィルターだけを介した濾過によって部分的に取り除くことができ、66%(v/v)溶液による沈殿では%Tは約5%であり、75%(v/v)溶液による沈殿では%Tは約95%だった。20mgの吸着剤の添加は、やや多くのタンパク質沈殿物を取り除き、66%(v/v)溶液による沈殿では%Tは約7%であり、75%(v/v)溶液による沈殿では%Tは約98%だった。0.2μmの細孔サイズのCaptiva(登録商標)フィルターだけの使用は、粒子の最大除去を提供し、66%(v/v)溶液による沈殿では%Tは約97%であり、75%(v/v)溶液によるの沈殿では%Tは約98%だった。20mgの吸着剤の添加は、やや多くのタンパク質沈殿物を取り除き、66%(v/v)溶液による沈殿では%Tは約99%であり、75%(v/v)溶液による沈殿では%Tは約98%だった。
【0131】
したがって、タンパク質の沈殿方法は変動する粒子サイズを生じ、それは、必要な粒子サイズの濾過能力を持つ適当な濾過方法を用いて取り除くことができる。75%(v/v)のMeOHで沈殿させた試料での許容可能なタンパク質粒子の除去は、20mgの吸着剤を伴った0.2μmの細孔サイズのCaptiva(登録商標)フィルターを用いてのみ達成された。75%(v/v)のACNで沈殿させた試料での許容可能なタンパク質粒子の除去は、20mgの吸着剤の存在下または不存在下、0.45μmの細孔サイズのCaptiva(登録商標)フィルターを用いて、または吸着剤の存在下または不存在下、0.2μmの細孔サイズのCaptiva(登録商標)フィルターを用いて達成されたが、66%(v/v)のACNについては、許容可能な粒子の除去は、0.2μmの細孔サイズフィルターによってのみ達成され、吸着剤の存在下および不存在下で同等だった。
実施例8:マトリクス干渉因子の除去速度
ACN中1.0%の蟻酸0.6mLの添加によって、ブタ血漿試料(0.2mL)のタンパク質を沈殿させた。タンパク質の沈殿物は遠心(Sorvall50mLロータにおいて5000rpmで20分間)によって取り除いた。5mg/mLのツイーン80とともに、1ppmまでの検体(ゾルピデム、ワーファリン、スリンダク、ロラタジン、バルデナフィル)について試料をスパイクした。0.45μmの細孔サイズのCaptiva(登録商標)フィルターを伴った96ウエルプレートにて、約10秒、20秒、50秒、120秒、または5秒、10秒、15秒、60秒、150秒の時間、試料を吸着剤(20mgのPolaris(登録商標)C18−アミド(10μm)またはND06262)と接触させ、ついで回収プレートを介して真空濾過によって吸着剤から分離した。吸着剤との接触時間は、可変の真空度を適用することにより流速を変えることによって制御した。−15インチHgによって、吸着剤との10秒間の接触時間が生じた。−10、−5、−2.5、−2インチHgの追加で適用された真空によって、示された接触時間が得られた。実施例2に記載されたようにHPLCによって濾液を分析し、検体の回収率と取り除かれたホスファチジルコリンおよびツイーン80の量とを測定した。結果は図23および図24に示す。
【0132】
図23は、吸着剤に対する10秒以内の暴露でPolaris(登録商標)C18−アミドによってホスファチジルコリンのおよそ75%が血漿試料から取り除かれ、調べた時間の間、それは変化しなかったこと、およびND06262は5秒以内にホスファチジルコリンの少なくとも50%を取り除くことができ、試料と吸着剤との接触の150秒間によって60%を超えてやや増加することを明示している。
【0133】
図24は、吸着剤に対する10秒以内の暴露でPolaris(登録商標)C18−アミドによってツイーン80のおよそ40%が血漿試料から取り除かれ、調べた時間の間、この量はほんのわずか増加したことを明示している。ND06262は調べた時間の間、ツイーン80をほとんど取り除くことができなかった。
検体の検出は、血漿試料とPolaris(登録商標)C18−アミドとの接触時間に依存していた。20秒以上の接触時間すべてで検体の検出が100%を超え(濾過のみに対して)ており、これは、リン脂質およびツイーン80の最大除去が吸着剤への暴露時間20秒までで起きたことを示している(データは示さず)。
【0134】
検体の検出は、血漿試料とND06262との接触時間に明瞭には依存せず、これは、この吸着剤が、これらの溶媒条件下でホスファチジルコリンおよびツイーン80を取り除くのにPolaris(登録商標)C18−アミドほど効果的ではないことを示している(データは示さず)。
実施例9:溶媒条件を最適化してホスファチジルコリンの除去を最大化すること
100ng/mL(0.1ppm)までの以下の検体:偽エフェドリン、カルバマゼピン、デスロラタジン、プロプラノロールおよびポサコナゾールについてヒトの血漿をスパイクした。スパイクした血漿の一部(0.1mL)を取り出し(n=6)、pH修正剤を伴ったまたは伴わない0.2mLまたは0.3mLの有機溶媒を各一部に加えてタンパク質を沈殿させた。調べた変性溶媒は、血漿との2:1および3:1希釈のアセトン、ACN、MeOHであり、2%の蟻酸を伴うまたは伴わないものである。20mgのPolaris(登録商標)C18−A吸着剤を含有するCaptiva(登録商標)プレートのウエルに、タンパク質を沈殿させた各血漿試料を通すか、または別の96ウエルプレートに移した。HPLCに先立って水(0.2mL)を加えて各試料を希釈し、API5000LC/MS−MSシステムを用いてその10μLの部分を分析した。プレートを通過した各試料の平均面積(エリア)カウントを、プレートを通過しなかった各試料の平均面積カウントで割ることによって回収を算出した。
【0135】
結果を以下の表15〜表18に示す。
【0136】
【表15】
【0137】
【表16】
【0138】
【表17】
【0139】
【表18】
【0140】
これらの結果は、有意な量のリソホスファチジルコリンを含めてホスファチジルコリンの驚くべき完全な除去、一方で幅広い極性の検体の吸着剤からの回収を示している。
実施例10.マトリクス効果を軽減するための装置の調製
MeOH中で10mg/mLのPolaris(登録商標)C18−A(10μm)のスラリーを調製し、0.2μmのサイズ排除フィルター(ポリプロピレン)を含むCaptiva(登録商標)96ウエルプレートの各ウエルに2mL(20mg)を加えて、生体分析試料にてマトリクス効果を軽減するために装置を調製した。フィルターを介した吸引によってMeOHを取り除き、各吸着剤床の上にフリットを置いた。そのとき、装置は使用できる状態にあった。
実施例11:マトリクス効果を軽減するための装置の性能
5mg/mLのツイーン80とともに、各1ppmまでの検体(ゾルピデム、ワーファリン、スリンダク、ロラタジン、ロペラミド、バルデナフィル)についてのブタ血漿試料をスパイクし、修飾した96ウエルCaptiva(登録商標)プレートのウエルにて、その0.2mLの部分でタンパク質を沈殿させた。0.2μmのポリプロピレンCaptiva(登録商標)フィルターの上に20mgのPolaris(登録商標)C18−A(10μm)を含有するようにプレートを修飾した。MeOH/3%蟻酸(0.6mL)を試料に加え、ピペッティング(0.6mLの5サイクル)によって混合し、ついで真空濾過によってプレートを介して濾過した。Polaris(登録商標)C18−A吸着剤の3つの異なるロットを調べた。実施例3に記載されたようにHPLCを用いて調べた試料を分析した。
【0141】
結果は、平均で>100%の検体の回収を明示し、これは、マトリクス効果が軽減されたことを示していた。この装置を用いて、ツイーン80のおよそ85%、リソホスファチジルコリンの65%およびホスファチジルコリンの99%が取り除かれた(データは示さず)。全体として、試料の調製は、測定し、試料と溶媒を混合するのに数分、ついで処理された試料を回収するのに数秒を要し、即時の分析ができる状態となる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質を沈殿させた生体分析試料においてマトリクス効果を軽減するための装置であって、
a)支持体と
b)前記生体分析試料に存在するマトリクス干渉因子を結合することが可能であり、前記支持体に会合した吸着剤とを含み、
当該装置が、沈殿させたタンパク質粒子を取り除くための濾過手段をさらに含む装置。
【請求項2】
前記濾過手段が、前記試料に存在する沈殿させたタンパク質粒子を取り除くために、直径約0.05μm〜約0.5μmの間の細孔サイズを有することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記濾過手段が、前記試料から取り除かれる前記粒子の直径以下の最大細孔サイズを有するサイズ排除フィルターまたはポリマーもしくは無機モノリスから選択される請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記濾過手段が、前記吸着剤と一体化されている、または前記吸着剤に会合されている請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記吸着剤と一体化された前記濾過手段が、前記試料から粒子を排除できるように十分小さな直径のマクロ細孔を有する多孔性無機モノリスであり、前記吸着剤は前記多孔性無機モノリスに結合された逆相または極性修飾の逆相である請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記吸着剤が、前記マトリクス干渉因子と対象とされる検体との間での十分な選択性を特徴とし、前記マトリクス干渉因子の保持を提供する一方で、前記対象とされる検体の溶出を提供する請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記吸着剤が、マトリクス干渉因子と対象とされる検体とについて、1より大きい選択性を特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記吸着剤が、逆相または極性修飾の逆相を含む請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記極性修飾の逆相が、アミド修飾の逆相である請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記マトリクス干渉因子が、界面活性剤、脂質、賦形剤または投与剤である請求項1に記載の装置。
【請求項11】
複数回使用または一回使用のためのルアー型シリンジフィルター、個々のフィルターカートリッジ、マルチウエルプレート、ピペットチップまたはインラインカラムとして使用するために適合させた請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記支持体が、当該装置の中でタンパク質の沈殿を行うためにリザーバ手段をさらに含む請求項1に記載の装置。
【請求項13】
生体分析試料においてマトリクス効果を軽減し、タンパク質の沈殿物を取り除く方法であって、
a)支持体と前記支持体に会合する吸着剤とを含む装置であって、前記吸着剤が、前記生体分析試料に存在する対象とされる検体に対するマトリクス干渉因子について1を超える選択性を特徴とし、前記試料に存在するタンパク質の沈殿物を取り除くための濾過手段をさらに含む装置を提供することと、
b)前記生体分析試料を前記吸着剤に接触させることと、
c)前記マトリクス干渉因子、および沈殿させたタンパク質を保持する一方で、前記検体を前記吸着剤から溶出させることとを含み、
前記得られた処理された試料における前記マトリクス干渉因子の量は低下している方法。
【請求項14】
前記生体分析試料を前記吸着剤に接触させる工程に先立って、または当該工程と同時に、前記装置において前記生体分析試料中のタンパク質を沈殿させることをさらに含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
工程c)が、真空、遠心力、電気力的な力、重力または毛細管力または陽圧を用いて実行される請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記濾過手段が、前記試料に存在する沈殿させたタンパク質粒子を取り除くために、直径約0.05μm〜約0.5μmの間の細孔サイズを有することを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記マトリクス干渉因子が、界面活性剤、脂質、賦形剤または投与剤である請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記吸着剤が、前記マトリクス干渉因子と対象とされる検体との間での十分な選択性を特徴とし、前記マトリクス干渉因子の保持を提供する一方で、前記対象とされる検体の溶出を提供する請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記吸着剤が、逆相または極性修飾の逆相を含む請求項13に記載の方法。
【請求項20】
マトリクス干渉因子、および対象とされる検体を含むタンパク質を沈殿させた生体分析試料においてマトリクス効果を軽減し、沈殿させたタンパク質を取り除く方法であって、前記試料を請求項11に記載の装置に通すことを含む方法。
【請求項21】
生体分析試料においてマトリクス効果を軽減するための装置を調製する方法であって、
a)ある量の吸着剤、および濾過手段を含むことが可能である支持体を提供することと、
b)マトリクス干渉因子を保持するのに有効な量の吸着剤と、前記試料中に存在する沈殿させたタンパク質を取り除くのに有効な濾過手段とを提供することと、
c)前記支持体の中に、前記濾過手段、および前記吸着剤を組み込むこととを含む方法。
【請求項1】
タンパク質を沈殿させた生体分析試料においてマトリクス効果を軽減するための装置であって、
a)支持体と
b)前記生体分析試料に存在するマトリクス干渉因子を結合することが可能であり、前記支持体に会合した吸着剤とを含み、
当該装置が、沈殿させたタンパク質粒子を取り除くための濾過手段をさらに含む装置。
【請求項2】
前記濾過手段が、前記試料に存在する沈殿させたタンパク質粒子を取り除くために、直径約0.05μm〜約0.5μmの間の細孔サイズを有することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記濾過手段が、前記試料から取り除かれる前記粒子の直径以下の最大細孔サイズを有するサイズ排除フィルターまたはポリマーもしくは無機モノリスから選択される請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記濾過手段が、前記吸着剤と一体化されている、または前記吸着剤に会合されている請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記吸着剤と一体化された前記濾過手段が、前記試料から粒子を排除できるように十分小さな直径のマクロ細孔を有する多孔性無機モノリスであり、前記吸着剤は前記多孔性無機モノリスに結合された逆相または極性修飾の逆相である請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記吸着剤が、前記マトリクス干渉因子と対象とされる検体との間での十分な選択性を特徴とし、前記マトリクス干渉因子の保持を提供する一方で、前記対象とされる検体の溶出を提供する請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記吸着剤が、マトリクス干渉因子と対象とされる検体とについて、1より大きい選択性を特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記吸着剤が、逆相または極性修飾の逆相を含む請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記極性修飾の逆相が、アミド修飾の逆相である請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記マトリクス干渉因子が、界面活性剤、脂質、賦形剤または投与剤である請求項1に記載の装置。
【請求項11】
複数回使用または一回使用のためのルアー型シリンジフィルター、個々のフィルターカートリッジ、マルチウエルプレート、ピペットチップまたはインラインカラムとして使用するために適合させた請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記支持体が、当該装置の中でタンパク質の沈殿を行うためにリザーバ手段をさらに含む請求項1に記載の装置。
【請求項13】
生体分析試料においてマトリクス効果を軽減し、タンパク質の沈殿物を取り除く方法であって、
a)支持体と前記支持体に会合する吸着剤とを含む装置であって、前記吸着剤が、前記生体分析試料に存在する対象とされる検体に対するマトリクス干渉因子について1を超える選択性を特徴とし、前記試料に存在するタンパク質の沈殿物を取り除くための濾過手段をさらに含む装置を提供することと、
b)前記生体分析試料を前記吸着剤に接触させることと、
c)前記マトリクス干渉因子、および沈殿させたタンパク質を保持する一方で、前記検体を前記吸着剤から溶出させることとを含み、
前記得られた処理された試料における前記マトリクス干渉因子の量は低下している方法。
【請求項14】
前記生体分析試料を前記吸着剤に接触させる工程に先立って、または当該工程と同時に、前記装置において前記生体分析試料中のタンパク質を沈殿させることをさらに含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
工程c)が、真空、遠心力、電気力的な力、重力または毛細管力または陽圧を用いて実行される請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記濾過手段が、前記試料に存在する沈殿させたタンパク質粒子を取り除くために、直径約0.05μm〜約0.5μmの間の細孔サイズを有することを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記マトリクス干渉因子が、界面活性剤、脂質、賦形剤または投与剤である請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記吸着剤が、前記マトリクス干渉因子と対象とされる検体との間での十分な選択性を特徴とし、前記マトリクス干渉因子の保持を提供する一方で、前記対象とされる検体の溶出を提供する請求項13に記載の方法。
【請求項19】
前記吸着剤が、逆相または極性修飾の逆相を含む請求項13に記載の方法。
【請求項20】
マトリクス干渉因子、および対象とされる検体を含むタンパク質を沈殿させた生体分析試料においてマトリクス効果を軽減し、沈殿させたタンパク質を取り除く方法であって、前記試料を請求項11に記載の装置に通すことを含む方法。
【請求項21】
生体分析試料においてマトリクス効果を軽減するための装置を調製する方法であって、
a)ある量の吸着剤、および濾過手段を含むことが可能である支持体を提供することと、
b)マトリクス干渉因子を保持するのに有効な量の吸着剤と、前記試料中に存在する沈殿させたタンパク質を取り除くのに有効な濾過手段とを提供することと、
c)前記支持体の中に、前記濾過手段、および前記吸着剤を組み込むこととを含む方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公表番号】特表2010−527450(P2010−527450A)
【公表日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508525(P2010−508525)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【国際出願番号】PCT/US2008/063468
【国際公開番号】WO2008/144285
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(599060928)バリアン・インコーポレイテッド (81)
【公表日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【国際出願番号】PCT/US2008/063468
【国際公開番号】WO2008/144285
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(599060928)バリアン・インコーポレイテッド (81)
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