説明

マルチコアファイバ

【課題】外部応力による特性の低下及びクロストークの発生が抑えられたマルチコアファイバを提供する。
【解決手段】マルチコアファイバ1はクラッド16と、クラッド16の中心部に配置された第1のコア11と、第1のコアの周囲に配置された気泡層13と、クラッドの中心以外に配置された複数の第2のコア12と、第2のコアの周囲に配置された気泡層14とで構成されており、気泡層13、14はそれぞれ第1のコア及び第2のコアに作用する外部応力を緩和し、第1のコア及び第2のコアの光軸の変位を抑え、耐マイクロベンド性能を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチコアファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数本のコアを有する光ファイバであるマルチコアファイバを伝送用ファイバとして用いる技術が提案されている。マルチコアファイバを用いることにより、1本のコアを有する光ファイバを用いる場合よりも伝送容量を大きくすることができる。
【0003】
また、クラッド内のコアの周囲に気泡の集合体を有するシングルコアファイバが知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載されたシングルコアファイバは、ファイバの長手方向に途切れることなく連続する空孔をクラッド内に有する、ホーリーファイバ(HF:Holey Fiber)等の光ファイバと異なり、製造方法に起因する光ファイバ内の残留応力がない。そのため、コアへの異方応力の集中がなく、優れたPMD(偏波モード分散)特性を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−20836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のマルチコアファイバにおいては、クラッドの中心以外に位置するコアは、クラッドの中心に位置するコアよりも外力の影響を受けやすく、外部応力によりコアの光軸が変位し易いため、光損失(マイクロベンドロス)が大きくなる。
【0006】
また、クラッドの中心以外に位置するコアに作用する外部応力は異方応力であるため、そのコアには異方歪みが生じ易い。そのため、そのコアの屈折率分布が軸対称でなくなり、PMD特性が低下する。
【0007】
また、コアの外周のクラッドが一定の屈折率を有する従来のマルチコアファイバにおいては、コアから漏れ出した光電磁波が一様に伝搬して漏洩光電磁界を生じ、近隣にあるコアに信号が漏れ易い、すなわちコア間のクロストークが発生しやすい。
【0008】
したがって、本発明の目的の一つは、外部応力による特性の低下及びクロストークの発生が抑えられたマルチコアファイバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様においては、クラッドと、前記クラッドの中心以外に位置する複数のコアと、前記コアを取り囲むように形成される複数の気泡からなる気泡層と、を含むマルチコアファイバが提供される。
【0010】
上記マルチコアファイバにおいては、前記コアの周囲に位置する前記気泡層のうち、一部の前記コアの周囲に位置する前記気泡層が、他の前記コアの周囲に位置する前記気泡層と異なる厚さを有し、識別用マーカーとして用いられてもよい。
【0011】
また、上記マルチコアファイバにおいては、前記気泡層は、気泡の密度が異なる複数の層がその厚さ方向に積層された構造を有してもよい。
【0012】
また、上記マルチコアファイバにおいては、前記コアの周囲に位置する前記気泡層のうち、一部の前記コアの周囲に位置する前記気泡層は、他の前記コアの周囲に位置する前記気泡層と気泡の密度が異なり、識別用マーカーとして用いられてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、外部応力による特性の低下及びクロストークの発生が抑えられたマルチコアファイバを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明の第1の実施の形態に係るマルチコアファイバの断面図である。
【図2】図2は、本発明の第2の実施の形態に係るマルチコアファイバの断面図である。
【図3】図3(a)は、本発明の第3の実施の形態に係るマルチコアファイバの断面図である。図3(b)は、気泡層の拡大図及び気泡層の屈折率分布を表すグラフを含む。
【図4】図4は、比較例に係るマルチコアファイバの断面図である。
【図5】図5は、マイクロベンドロスの測定結果を示すグラフである。
【図6】図6は、マクロベンドロスの測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施の形態は、複数のコアを有するマルチコアファイバであって、クラッドと、前記クラッドの中心以外に位置する複数のコアと、前記コアを取り囲むように形成される複数の気泡からなる気泡層と、を含むマルチコアファイバを提供する。以下に、このマルチコアファイバの例を詳細に説明する。
【0016】
〔第1の実施の形態〕
(マルチコアファイバの構造)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るマルチコアファイバ1の断面図である。マルチコアファイバ1は、クラッド16と、クラッド16の中心に位置する第1のコア11と、クラッド16の中心以外に位置する第2のコア12と、第1のコア11の周囲に位置する気泡層13と、第2のコア12の周囲に位置する気泡層14とを含む。
【0017】
第1のコア11、第2のコア12、気泡層13、14、及びクラッド16は、石英ガラス等からなる。第1のコア11及び第2のコア12は、Ge等の屈折率を上げるための不純物を含んでもよい。クラッド16は、F等の屈折率を下げるための不純物を含んでもよい。
【0018】
気泡層13、14は、複数の気泡15を含むため、第1のコア11及び第2のコア12よりも屈折率が低い。第1のコア11と気泡層13の比屈折率差、及び第2のコア12と気泡層14の比屈折率差は、例えば、0.86%である。
【0019】
第1のコア11及び第2のコア12は、シングルモードファイバ(SMF)からなる場合には、例えば、直径が9μmであり、クラッド16との比屈折率差が0.3〜0.8%のステップインデックスプロファイルを有する。この場合、例えば、クラッド16の外径は125μmであり、第1のコア11の中心と第2のコア12の中心の距離は33μmである。
【0020】
また、第1のコア11及び第2のコア12がマルチモードファイバ(MMF)からなる場合は、例えば、直径が50μmであり、クラッド16との最大比屈折率差が約1%のグレーデッドインデックスプロファイルを有する。この場合、例えば、クラッド16の外径は300μmであり、第1のコア11の中心と第2のコア12の中心の距離は100μmである。
【0021】
図1には、一例として、第1のコア11の周りに等間隔で配置された6つの第2のコア12が示されている。ただし、第2のコア12の数及び配置は、図1に示されるものに限られない。また、マルチコアファイバ1は、第1のコア11、すなわちクラッド16の中心に位置するコアを含まなくてもよい。
【0022】
気泡層13、14の厚さは、得ようとする光ファイバの屈折率プロファイル、分散特性などに応じて、例えば、5〜30μmの範囲で設定される。
【0023】
気泡層13、14に含まれる気泡15の形状は、第1のコア11及び第2のコア12の長さ方向に延びた楕円体である。気泡15の直径(第1のコア11及び第2のコア12の長さ方向垂直な断面の直径)は、例えば、4μm以下である。また、気泡層13、14の空隙率(気泡15の占める体積の割合)は、例えば、30%である。
【0024】
気泡層13、14は、それぞれ第1のコア11及び第2のコア12に作用する外部応力を緩和し、第1のコア11及び第2のコア12の光軸の変位を抑え、耐マイクロベンド性能を向上させることができる。特に、クラッド16の中心以外に位置する第2のコア12には外部応力が生じやすく、光軸が変位しやすいため、気泡層14による効果は重要である。
【0025】
また、気泡層14が第2のコア12に作用する異方性の外部応力を緩和することにより、第2のコア12の異方歪みが抑えられる。そのため、第2のコア12の屈折率分布がほぼ軸対象になり、PMD性能が改善される。
【0026】
さらに、気泡層13、14は非常に低い屈折率を有するため、第1のコア11及び第2のコア12から漏れる光電磁波を減衰させ、クラッド16への伝搬を防ぐ。そのため、コア間のクロストークを抑えることができる。
【0027】
なお、クラッド16の中心に位置する第1のコア11は、中心以外に位置する第2のコア12よりも外力の影響を受けにくいため、第1のコア11の周囲の気泡層13は形成されなくてもよい。
【0028】
(マルチコアファイバの製造方法)
以下に、ロッドインチューブ法による本実施の形態のマルチコアファイバ1の製造方法の一例を示す。
【0029】
まず、第1のコア11又は第2のコア12となる透明ガラス母材の外周に、CVD法により気泡層13又は気泡層14となるスート層を堆積し、コア母材を得た。次に、拡散係数の小さい不活性ガス、例えばアルゴンガスや窒素ガスの雰囲気中でコア母材に1600℃で加熱処理を施すことにより、コア母材の外側の層に気泡15を含ませる。次に、得られた直径50mmのコア母材を直径が30mmになるまで延伸する。このコア母材を7つ形成した。
【0030】
次に、別工程のVAD(Vapor phase axial deposition method)法により、クラッド16となるドーパントを含まない直径120mmの無垢なガラス母材を製造し、このガラス母材の中心と外周6箇所に研削により直径33mmの孔を開けた。次に、7つのコア母材をこれらの孔に挿入(ロッドイン)した後、電気炉延伸装置を用いてガラス母材とコア母材とを延伸一体化し、プリフォームを得た。
【0031】
次に、プリフォームを通常の線引き法により、クラッドの外径が125μmになるまで線引きし、マルチコアファイバ1を得た。なお、気泡15の形状は線引き前は略球形であるが、線引きにより楕円体に変形する。得られたマルチコアファイバ1は、第1のコア11及び第2のコア12の直径が8μm、気泡層13、14の厚さが11μm、気泡15の直径が1〜3μmであった。
【0032】
〔第2の実施の形態〕
第2の実施の形態は、識別用マーカーとしての機能を持たせるために、一部の第2のコアの周囲の気泡層の厚さ又は密度を異ならせる点において、第1の実施の形態と異なる。第1の実施の形態と同様の点については、説明を省略又は簡略化する。
【0033】
(マルチコアファイバの構造)
図2は、本発明の第2の実施の形態に係るマルチコアファイバ2の断面図である。マルチコアファイバ2は、クラッド16と、クラッド16の中心に位置する第1のコア11と、クラッド16の中心以外に位置する第2のコア12と、第1のコア11の周囲に位置する気泡層13と、第2のコア12の周囲に位置する気泡層14、24とを含む。
【0034】
気泡層24は、気泡層14よりも厚い。このため、目視により気泡層24を気泡層14から識別することができ、気泡層24を識別用マーカーとして用いることができる。なお、気泡層24の数は特に限定されず、例えば、1つであってもよい。複数の気泡層24が形成される場合は、識別用マーカーとしての機能を発揮するため、隣接して配置される。気泡層14、24の厚さは、例えば、それぞれ6μm、13μmである。
【0035】
また、気泡層24中の気泡15の密度を気泡層14中の気泡15の密度と異ならせることにより、気泡層24を識別用マーカーとして用いてもよい。さらに、気泡層24は、厚さと気泡15の密度の両方が気泡層14と異なっていてもよい。
【0036】
〔第3の実施の形態〕
第3の実施の形態は、気泡層が気泡の密度が異なる複数の層を有する点において、第1の実施の形態と異なる。第1の実施の形態と同様の点については、説明を省略又は簡略化する。
【0037】
(マルチコアファイバの構造)
図3(a)は、本発明の第3の実施の形態に係るマルチコアファイバ3の断面図である。マルチコアファイバ3は、クラッド16と、クラッド16の中心に位置する第1のコア11と、クラッド16の中心以外に位置する第2のコア12と、第1のコア11の周囲に位置する気泡層33と、第2のコア12の周囲に位置する気泡層34を含む。
【0038】
図3(b)は、気泡層34の拡大図及び気泡層34の屈折率分布を表すグラフを含む。気泡層34は、第1のコア11又は第2のコア12の周りの高密度層34a、高密度層34aの外側の低密度層34b、低密度層34bの外側の中密度層34cを含む。高密度層34a、低密度層34b、及び中密度層34cは、気泡層34の厚さ方向(第1のコア11又は第2のコア12の径方向)に積層される。
【0039】
中密度層34cは、低密度層34bよりも気泡15の密度が高く、屈折率が低い。高密度層34aは、中密度層34cよりも気泡15の密度が高く、屈折率が低い。また、第1のコア11及び第2のコア12は、低密度層34bよりも屈折率が高い。
【0040】
なお、気泡層34に含まれる、気泡15の密度が異なる複数の層の数は限定されず、また、それらの層の積層される順序も限定されない。また、気泡層33は、気泡層34と同様の構造を有する。
【0041】
気泡層34はその厚さ方向に多段階の等価屈折率を有するため、マルチコアファイバ1の構造分散を細かく制御することができる。
【0042】
ここで、気泡15の外径は、次の二つの方法で制御することができる。一方は、コア母材の周囲に堆積する石英ガラススート層のかさ密度を変化させる方法である。加熱(焼結)によりスートをガラス化する際、スートのかさ密度が高いほどガスが逃げる隙間が小さいため、大きな気泡15が残存する割合が高くなり、スートのかさ密度が低いほど小さな気泡15が残存する割合が高くなる。
【0043】
他方は、焼結する際の炉内ガス雰囲気中のヘリウムガスと不活性ガスの割合を変える方法である。ヘリウムガスの割合が高いほど気泡15は小さくなり易く、ヘリウムガスの割合が低いほど気泡15は大きくなり易い。
【0044】
なお、気泡15が大きいほど気泡15の密度は高くなり、気泡15が小さいほど気泡15の密度は低くなる傾向にある。よって、石英ガラススート層のかさ密度と、焼結する際の炉内ガス雰囲気中のヘリウムガスと不活性ガスとの割合を調整することにより、気泡15の直径及び気泡15の密度の双方を制御することができる。
【0045】
また、気泡15の大きさ及び形成位置を制御して、気泡15の間隔を、伝搬させる信号光の波長の二分の一に調整すれば、本実施の形態のマルチコアファイバ3において、フォトニックバンドギャップ構造を実現することができる。
【0046】
(実施の形態の効果)
上記の実施の形態によれば、気泡層がコアに作用する外部応力を緩和し、コアの光軸の変位を抑え、耐マイクロベンド性能を向上させることができる。特に、クラッドの中心以外に位置するコアは外力の影響を受けやすく、光軸が変位しやすいため、気泡層による効果は重要である。
【0047】
また、気泡層がクラッドの中心以外に位置するコアに作用する異方性の外部応力を緩和することにより、このコアに生じる異方歪みが抑えられる。そのため、このコアの屈折率分布がほぼ軸対象になり、PMD性能が改善される。
【0048】
さらに、気泡層は非常に低い屈折率を有するため、コアから漏れる光電磁波を減衰させ、クラッドへの伝搬を防ぐ。そのため、コア間のクロストークを抑えることができる。
【0049】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。また、発明の主旨を逸脱しない範囲内において上記実施の形態の構成要素を任意に組み合わせることができる。
【実施例】
【0050】
第1の実施の形態のマルチコアファイバ1と、比較例としての気泡層を含まないマルチコアファイバ4について試験を行い、耐マイクロベンドロス性能、耐マクロベンドロス性能、PMD性能、及びクロストーク性能を検証した。
【0051】
図4は、比較例に係るマルチコアファイバ4の断面図である。マルチコアファイバ4は、クラッド46と、クラッド46内の中心に位置する第1のコア41と、クラッド46内の中心以外に位置する第2のコア42と、を含む。
【0052】
第1のコア41、第2のコア42、及びクラッド46は、それぞれ第1の実施の形態のマルチコアファイバ1の第1のコア11、第2のコア12、及びクラッド16と同じ材料からなる。マルチコアファイバ4の構成は、気泡層を含まない点以外はマルチコアファイバ1の構成と同様である。
【0053】
本実施の形態においては、マルチコアファイバ1の第1のコア11及び第2のコア12、並びにマルチコアファイバ4の第1のコア41及び第2のコア42は、シングルモードファイバである。また、6つの第2のコア12、42がマルチコアファイバ1、4にそれぞれ含まれる。
【0054】
本実施例におけるマルチコアファイバ1、4の具体的な仕様を以下に述べる。第1のコア11、41及び第2のコア12、42の直径は9μm、第1のコア11とクラッド16の比屈折率差、第2のコア12とクラッド16の比屈折率差、第1のコア41とクラッド46の比屈折率差、及び第2のコア42とクラッド46の比屈折率差は0.36%、クラッド16、45の外径は125μm、第1のコア11の中心と第2のコア12の中心との距離、及び第1のコア41の中心と第2のコア42の中心との距離は33μmである。
【0055】
また、マルチコアファイバ1において、第1のコア11と気泡層13の比屈折率差、第2のコア12と気泡層14の比屈折率差は0.86%、気泡層13、14の空隙率は30%、気泡層13、14の厚さは6μmである。
【0056】
〔耐マイクロベンドロス性能の検証〕
本実施例におけるマイクロベンドロスは、JIS#150のサンドペーパーを表面に敷いた胴径300mmのボビンに長さ400mの光ファイバを張力150gで巻き付けたときの1km当たりの損失増加量で定義される。
【0057】
図5は、マルチコアファイバ1の第1のコア11及び第2のコア12、並びにマルチコアファイバ4の第1のコア41及び第2のコア42のマイクロベンドロスの測定結果を示すグラフである。
【0058】
第1の実施の形態のマルチコアファイバ1においては、気泡層13、14が緩衝層として働いて、第1のコア11及び第2のコア12への外力の影響を抑える。そのため、図5に示されるように、第1のコア11と第2のコア12は、優れた耐マイクロベンド性能を有する。また、第1のコア11と第2のコア12は、ほぼ同じ耐マイクロベンド性能を有する。これは、外力の影響を受けやすい第2のコア12の光軸の変化が効果的に抑えられていることを表している。
【0059】
一方、比較例のマルチコアファイバ4においては、外力の影響を緩和する気泡層が存在しないため、第1のコア41及び第2のコア42の耐マイクロベンド性能は第1のコア11及び第2のコア12のマイクロベンド性能よりも低い。また、クラッド46の中心以外に位置する第2のコア42は特に外力の影響を受けやすいため、第2のコア42の耐マイクロベンド性能は第1のコア41のマイクロベンド性能よりも低い。
【0060】
〔耐マクロベンドロス性能の検証〕
本実施例におけるマクロベンドロスは、一定の径のマンドレルに光ファイバを巻きつけたときの損失増加量で定義される。本実施例では、第2のコア12のうち、マンドレルに巻き付けられた状態で最も内周側に位置するもの(最もマンドレルに近いもの)について検証を行った。第2のコア42についても同様である。ただし、実際には、マンドレルに巻き付けられた状態で最も内周側に位置する第2のコア12(第2のコア42)と、最も外周側に位置する第2のコア12(第2のコア42)とでは、耐マクロベンドロス性能に大きな差はない。これは、最も内周側に位置する第2のコア12(第2のコア42)と、最も外周側に位置する第2のコア12(第2のコア42)との巻きつけ径の差は100μm程度であり、マンドレルの径と比較すると非常に小さいためである。
【0061】
図6は、マルチコアファイバ1の第1のコア11及び第2のコア12、並びにマルチコアファイバ4の第1のコア41及び第2のコア42のマクロベンドロスの測定結果を示すグラフである。
【0062】
図6に示されるように、第1のコア11及び第2のコア12のマクロベンドロスは、第1のコア41及び第2のコア42のマクロベンドロスの1/10程度であり、第1のコア11及び第2のコア12は優れた耐マクロベンドロス性能を有する。これは、気泡層13、14の屈折率が非常に低いため、第1のコア11及び第2のコア12の比屈折率差が大きくなり、光モードの閉じ込め性能が向上したことによる。
【0063】
〔PMD性能の検証〕
PMD性能は、測定法規格 ITU−T Rec. G650.3(07/2007)、5.1.2項のいずれかの方法により測定し、距離依存性を表すPMD係数測定値で評価した。
【0064】
以下の表1に、マルチコアファイバ1の第1のコア11及び第2のコア12、並びにマルチコアファイバ4の第1のコア41及び第2のコア42のPMD係数測定値の測定結果を示す。
【0065】
【表1】

【0066】
クラッドの中心に位置するコアに生じる応力は異方性が低いため、マルチコアファイバ1の第1のコア11とマルチコアファイバ4の第1のコア41は、ともに優れたPMD性能を示している。
【0067】
一方、クラッドの中心以外に位置するコアに生じる応力は異方性が高いため、マルチコアファイバ4の第2のコア42のPMD性能は低い。しかし、マルチコアファイバ1の第2のコア12は、気泡層14により応力が緩和されているため、屈折率分布が軸対称に近づいてPMD性能が改善されている。
【0068】
〔クロストーク性能の検証〕
コア間のクロストークは、光ファイバをボビンに巻きつけた状態で測定した。測定には、損失を測定する測定系を使用し、誘導コアに光源を接続し、その誘導コアの遠方端はダミー成端をし、非誘導コアの遠方端に受光パワーメータを接続し、非誘導コアの近端はダミー成端をし、波長1550nmの光の損失値をクロストーク値として測定した。
【0069】
以下の表2に、マルチコアファイバ1の第1のコア11及び第2のコア12、並びにマルチコアファイバ4の第1のコア41及び第2のコア42のクロストーク値の測定結果を示す。
【0070】
【表2】

【0071】
第1のコア11及び第2のコア12は、非常に低い屈折率を有する気泡層13、14にそれぞれ覆われているため、第1のコア11及び第2のコア12から漏れる光電磁波は減衰し、クラッド16への伝搬が抑えられる。そのため、隣接する第2のコア42間、及び第1のコア41−第2のコア42間のクロストーク値は低く抑えられている。
【0072】
一方、周囲に気泡層が存在しない第1のコア41及び第2のコア42から漏れ出した光電磁波は、クラッド46へ一様に伝搬して漏洩光電磁界を生じる。そのため、隣接する第2のコア12間、及び第1のコア11−第2のコア12間のクロストーク値は大きい。
【0073】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0074】
1、2、3 マルチコアファイバ
11 第1のコア
12 第2のコア
13、14、24、33、34 気泡層
15 気泡
16 クラッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッドと、
前記クラッドの中心以外に位置する複数のコアと、
前記コアを取り囲むように形成される複数の気泡からなる気泡層と、
を含むマルチコアファイバ。
【請求項2】
前記コアの周囲に位置する前記気泡層のうち、一部の前記コアの周囲に位置する前記気泡層が、他の前記コアの周囲に位置する前記気泡層と異なる厚さを有し、識別用マーカーとして用いられる、
請求項1に記載のマルチコアファイバ。
【請求項3】
前記気泡層は、気泡の密度が異なる複数の層がその厚さ方向に積層された構造を有する、
請求項1又は2に記載のマルチコアファイバ。
【請求項4】
前記コアの周囲に位置する前記気泡層のうち、一部の前記コアの周囲に位置する前記気泡層は、他の前記コアの周囲に位置する前記気泡層と気泡の密度が異なり、識別用マーカーとして用いられる、
請求項1に記載のマルチコアファイバ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−20207(P2013−20207A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155653(P2011−155653)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人情報通信研究機構、「高度通信・放送研究開発委託研究/革新的光ファイバ技術の研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】