説明

マルチチップセンサ

【課題】 ECU基板に直接取り付けられるECU基板取付面を有するパッケージの中に、エレメントチップと信号処理ICチップとが少なくとも収容され、エレメントチップの平面がECU基板取付面に対して垂直になるマルチチップセンサにおいて、マルチチップセンサのECU基板取付面からの高さ(H)を小さくすること。
【解決手段】 このマルチチップセンサは、センサの検出エレメントを備えたエレメントチップ30と、検出エレメントの出力信号を処理する信号処理ICを備えた信号処理ICチップ40と、少なくともエレメントチップ30と信号処理ICチップ40とを収容するとともにECU基板取付面を有するパッケージ50とを備える。エレメントチップ30の平面とECU基板取付面とが垂直とされる一方、エレメントチップ30よりも大きい信号処理ICチップ40の平面とECU基板取付面とが平行とされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パッケージの中に、センサの検出エレメントを備えたエレメントチップと、検出エレメントの出力信号を処理する信号処理ICを備えた信号処理ICチップとが少なくとも収容されたマルチチップセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、旋回時における車両の走行安定性を維持する車両安定化制御を実行する車両の運動制御装置が広く知られている。この運動制御装置は、一般に、車輪に付与される制動力を制御するために必要な複数の電磁弁、液圧ポンプ等の複数の液圧機器を搭載した液圧ユニット(ハイドロリックユニット)と、複数の液圧機器を制御するためのECUとが一体化されてなる統合ユニットと、統合ユニットとハーネス、コネクタ等を用いて接続された統合ユニットとは別体のヨーレイトセンサ等の各種センサとから構成されていた。この場合、統合ユニットは、所謂CAN通信によりヨーレイトセンサ等からの信号を受け取ることで車両安定化制御を実行するようになっていた。
【0003】
ところで、近年、ヨーレイトセンサを統合ユニットのECU内に収容する(即ち、ECU基板に直接取り付ける)技術が開発されてきている(例えば、下記特許文献1を参照)。これによれば、上記ハーネス、コネクタを省略できることに加え、上記CAN通信のために必要であったヨーレイトセンサ内部のCPU、CANドライバ等をも省略することができるから、装置全体の製造コストを低減することができる。
【特許文献1】特表2004−506572号公報
【0004】
ECU基板に直接取り付けられるヨーレイトセンサとしては、一般に、下記特許文献2に記載のようなマルチチップセンサが使用される。図4は、ECU基板に直接取り付けられるヨーレイト検出用のマルチチップセンサの典型的な例を示した図(平面図、正面図、右側面図)である。
【特許文献2】特開2001−91613号公報
【0005】
図4に示すように、このヨーレイト検出用マルチチップセンサ1は、リードフレーム2と、車両のヨーレイトの検出エレメントを備えたエレメントチップ3と、検出エレメントの出力信号を処理する信号処理IC(カスタムIC、ASIC)を備えた信号処理ICチップ4と、リードフレーム2、エレメントチップ3、及び信号処理ICチップ4を収容するパッケージ5と、パッケージ5から突出した複数本のターミナル6とを備えている。
【0006】
エレメントチップ3と信号処理ICチップ4とは、それぞれの平面とパッケージ5のECU基板への取り付け用の平面S(以下、「ECU基板取付面」と称呼する。)とが互いに平行になるように(即ち、X−Y平面に平行に)パッケージ5内に収容されている。
【0007】
エレメントチップ3に備えられたヨーレイトの検出エレメントとしては、近時、種々の技術分野で開発が活発化してきているMEMS(Micro Electro Mechanical System)を利用した一般的なジャイロセンサの検出エレメントが使用される。このジャイロセンサの検出エレメントは、その平面に垂直な軸周りの回転レートを検出する構成となっている。
【0008】
従って、図4に示したエレメントチップ3は、Z軸周りの回転レートを検出する構成となっている。即ち、車両のヨーレイトを検出するため、図4に示したヨーレイト検出用マルチチップセンサ1は、エレメントチップ3の平面(従って、ECU基板取付面S(X−Y平面))が水平になるようにECU基板に直接取り付けられる必要がある。このためには、上記統合ユニット内のECU基板の平面は水平である必要がある。
【0009】
しかしながら、上述した統合ユニットでは、液圧ユニット内の複数の液圧機器のレイアウト上の要請等から、一般に、ECU基板は、液圧ユニット本体の所定の鉛直面に取り付けられる場合が多い。換言すれば、パッケージ5のECU基板取付面Sに対して要求される向きが、ECU基板の平面の向きに対して垂直になるという問題が発生する。
【0010】
係る問題を解消するため、ターミナル6のパッケージ5からの突出位置、方向等を若干変更し、パッケージ5のECU基板取付面を面S(X−Y平面)から面S’(Y−Z平面、図4を参照)に変更することが考えられる。換言すれば、エレメントチップ3の平面と信号処理ICチップ4の平面とを共にECU基板取付面S’と垂直にすることが考えられる。これにより、図5に示したように、鉛直のECU基板Bにパッケージ5のECU基板取付面S’を直接取り付けることで、エレメントチップ3の平面を水平とすることができる。
【0011】
しかしながら、この場合、信号処理ICチップ4も水平となるから、ヨーレイト検出用マルチチップセンサ1のECU基板Bからの高さ(図5における水平方向の長さW)が大きくなる。これは、信号処理ICチップ4の大きさ(平面の辺の長さ)がエレメントチップ3に比して一般に大きいことに基づく。
【0012】
以上のことから、エレメントチップの平面がECU基板の平面(即ち、パッケージのECU基板取付面)に対して垂直になる場合において、マルチチップセンサのECU基板取付面からの高さを小さくすることが望まれているところである。
【発明の開示】
【0013】
本発明は係る問題に対処するためになされたものであって、その目的は、ECU基板に直接取り付けられるECU基板取付面を有するパッケージの中に、エレメントチップと信号処理ICチップとが少なくとも収容され、エレメントチップの平面がECU基板取付面に対して垂直になるマルチチップセンサにおいて、マルチチップセンサのECU基板取付面からの高さを小さくすることができるものを提供することにある。
【0014】
本発明に係るマルチチップセンサは、ECU基板取付面を有するパッケージの中に、センサの検出エレメントを備えたエレメントチップと、前記検出エレメントの出力信号を処理する信号処理ICを備えた信号処理ICチップとが少なくとも収容されている。
【0015】
本発明に係るマルチチップセンサの特徴は、前記エレメントチップが同エレメントチップの平面とECU基板取付面とが垂直になるように収容され、前記信号処置ICチップが同信号処理ICチップの平面とECU基板取付面とが平行になるように収容されたことにある。
【0016】
これによれば、エレメントチップの平面がECU基板取付面と垂直になる一方で、エレメントチップよりも一般に大きい信号処理ICチップの平面がECU基板取付面と平行になる。従って、信号処理ICチップの平面がECU基板取付面と垂直になる図5に示した場合に比してマルチチップセンサのECU基板取付面からの高さを小さくすることができる。
【0017】
本発明に係るマルチチップセンサは、前記ECU基板の平面(即ち、ECU基板取付面)が鉛直面となる場合、前記エレメントチップは、車両のヨーレイトの検出エレメントを備えることが好適である。これによれば、上述したように、MEMSを利用した一般的なジャイロセンサの検出エレメントをそのまま車両のヨーレイトの検出エレメントとして使用することができる。
【0018】
或いは、本発明に係るマルチチップセンサは、前記ECU基板の平面(即ち、ECU基板取付面)が水平面となる場合、前記エレメントチップは、車両のロールレイトの検出エレメントを備えることが好適である。この場合も、後述するように、上述したMEMSを利用した一般的なジャイロセンサの検出エレメントをそのまま車両のロールレイトの検出エレメントとして使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明によるマルチチップセンサの実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本発明の実施形態に係るマルチチップセンサ10の概略を示した平面図、正面図、及び右側面図である。
【0020】
図1に示すように、このヨーレイト検出用マルチチップセンサ10は、直方体状のリードフレーム20と、MEMSを利用したジャイロセンサの検出エレメントを備えた直方体状のエレメントチップ30と、検出エレメントの出力信号を処理する信号処理IC(カスタムIC、ASIC)を備えた直方体状の信号処理ICチップ40と、リードフレーム20、エレメントチップ30、及び信号処理ICチップ40を収容する直方体状のパッケージ50と、パッケージ50から突出した複数本(この例では、各列7本、2列で、計14本)のターミナル60とを備えている。
【0021】
エレメントチップ30、及び信号処理ICチップ40はそれぞれ、リードフレーム20と、一体的に固定され、且つ(図示しないワイヤにより)電気的に接続されている。リードフレーム20とターミナル60とも(図示しないワイヤにより)電気的に接続されている。これにより、信号処理ICによりエレメントチップ30内の検出エレメントの出力信号に対して所定の処理が施された信号がターミナル60を介してECU基板側に送出されるようになっている。
【0022】
リードフレーム20は、リードフレーム20の平面(X−Y平面)とECU基板取付面S(X−Y平面)とが平行になるようにパッケージ50内に収容されている。エレメントチップ30は、エレメントチップ30の平面(X−Z平面)とECU基板取付面S(X−Y平面)とが垂直になるようにパッケージ50内に収容されている。信号処理ICチップ40は、信号処理ICチップ40の平面(X−Y平面)とECU基板取付面S(X−Y平面)とが平行になるようにパッケージ50内に収容されている。
【0023】
エレメントチップ30に備えられたジャイロセンサの検出エレメントは、図4に示した場合と同様、その平面(X−Z平面)に垂直な軸(Y軸)周りの回転レートを検出する構成となっている。
【0024】
図2は、図1に示したマルチチップセンサ10(のECU基板取付面S)を車両に搭載される上述した車両安定化制御用の統合ユニット内のECUの基板B1の平面(鉛直面)に直接取り付けた場合の概略斜視図である。
【0025】
この場合、エレメントチップ30の平面は水平面(X−Z平面)となる。従って、エレメントチップ30に備えられたジャイロセンサの検出エレメントは、鉛直線(Y軸)周りの回転レート、即ち、車両のヨーレイトを検出する「車両のヨーレイトの検出エレメント」を構成することになる。換言すれば、この場合、マルチチップセンサ10は、車両のヨーレイト検出用マルチチップセンサとなる。
【0026】
ここで、図2から容易に理解できるように、信号処理ICチップ40よりも小さいエレメントチップ30の平面が水平となる一方、信号処理ICチップ40の平面が鉛直となる。従って、図5に示した場合(長さW)に比してマルチチップセンサのECU基板取付面Sからの高さ(水平方向の長さH)を小さくすることができる。
【0027】
ところで、エレメントチップの平面がECU基板の平面の向き(即ち、パッケージのECU基板取付面の向き)に対して垂直になる場合の他の例として、カーテンエアバック制御用のECUの基板に取り付けられる車両のロールレイト検出用マルチチップセンサがある。
【0028】
即ち、カーテンエアバック制御用のECUは通常、車両のシートの下の空間に配置され、このECUの基板は水平となる場合が多い。他方、車両のロールレイトは、車体前後方向の水平軸周りの回転レートであるから、この場合、エレメントチップの平面は、車体前後方向の水平軸に垂直(即ち、鉛直)とされる必要がある。従って、エレメントチップの平面がECU基板の平面の向き(即ち、パッケージのECU基板取付面の向き)に対して垂直になる。
【0029】
図3は、図1に示したマルチチップセンサ10(のECU基板取付面S)を車両に搭載される上述したカーテンエアバック制御用のECUの基板B2の平面(水平面)に直接取り付けた場合の概略斜視図である。
【0030】
この場合、エレメントチップ30の平面は、車体前後方向の水平軸(Y軸)に垂直な鉛直面(X−Z面)となる。従って、エレメントチップ30に備えられたジャイロセンサの検出エレメントは、車体前後方向の水平軸(Y軸)周りの回転レート、即ち、車両のロールレイトを検出する「車両のロールレイトの検出エレメント」を構成することになる。
【0031】
この場合、信号処理ICチップ40よりも小さいエレメントチップ30の平面が鉛直となる一方、信号処理ICチップ40の平面が水平となる。従って、図2の場合と同様、図5に示した場合(長さW)に比してマルチチップセンサ10のECU基板取付面Sからの高さ(鉛直方向の長さH)を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態に係るマルチチップセンサの概略を示した平面図、正面図、及び右側面図である。
【図2】図1に示したマルチチップセンサを鉛直のECUの基板の平面(鉛直面)に直接取り付けた場合の概略斜視図である。
【図3】図1に示したマルチチップセンサを水平のECUの基板の平面(水平面)に直接取り付けた場合の概略斜視図である。
【図4】従来のマルチチップセンサの概略を示した平面図、正面図、及び右側面図である。
【図5】図4に示したマルチチップセンサを鉛直のECUの基板の平面(鉛直面)に直接取り付けた場合の概略斜視図である。
【符号の説明】
【0033】
10…マルチチップセンサ、30…エレメントチップ、40…信号処理ICチップ、50…パッケージ、B1,B2…ECUの基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサの検出エレメントを備えたエレメントチップと、
前記検出エレメントの出力信号を処理する信号処理ICを備えた信号処理ICチップと、
少なくとも前記エレメントチップと前記信号処理ICチップとを収容するとともに、ECU基板への取り付け用の平面を有するパッケージと、
を備えたマルチチップセンサにおいて、
前記エレメントチップの平面と前記ECU基板への取り付け用の平面とが垂直になっていて、且つ、前記信号処理ICチップの平面と前記ECU基板への取り付け用の平面とが平行になっていることを特徴とするマルチチップセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチチップセンサにおいて、
前記ECU基板の平面が鉛直面となる場合に適用され、
前記エレメントチップは、車両のヨーレイトの検出エレメントを備えたことを特徴とするマルチチップセンサ。
【請求項3】
請求項1に記載のマルチチップセンサにおいて、
前記ECU基板の平面が水平面となる場合に適用され、
前記エレメントチップは、車両のロールレイトの検出エレメントを備えたことを特徴とするマルチチップセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−33079(P2007−33079A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−213179(P2005−213179)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)