マルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置
【課題】組成、構造、機械的性質等のいずれかが異なる複数の材料の電気化学的特性を、短時間に効率良く測定、評価できるマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置を提供する。
【解決手段】耐電解液性の絶縁体からなる第1のフロック1及び第2のフロック2とこれらのブロックの間に挟み込まれたシートスペーサ3とによりチャンネル(流路)形成体を構成して、このチャンネル構成体の内部に電解液が流れるチャンネル4を形成し、チャンネル4の壁面に電極801、802からなる電極対を、電解液の流れの方向に対して直角な方向に並べて複数個配置する。各電極対を構成する電極801,802のうち、電解液の流れの上流側に配置された電極801を作用極として用い、電解液の流れの下流側に配置された電極802を検出極として用いる。
【解決手段】耐電解液性の絶縁体からなる第1のフロック1及び第2のフロック2とこれらのブロックの間に挟み込まれたシートスペーサ3とによりチャンネル(流路)形成体を構成して、このチャンネル構成体の内部に電解液が流れるチャンネル4を形成し、チャンネル4の壁面に電極801、802からなる電極対を、電解液の流れの方向に対して直角な方向に並べて複数個配置する。各電極対を構成する電極801,802のうち、電解液の流れの上流側に配置された電極801を作用極として用い、電解液の流れの下流側に配置された電極802を検出極として用いる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極反応の解析に有効な電気化学的測定装置に関し、更に詳しくは、電気化学反応用電極触媒、二次電池や燃料電池の電極、各種表面処理等の技術分野における新規な開発、改良に役立つマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一次電池、二次電池、燃料電池、腐食、メッキ、表面処理、電気分解、電気化学反応による物質の製造や加工等の分野における研究、開発及び工業技術のレベルアップや、製品の性能の向上を図るためには、電気化学的な電極反応を解析し、その現象を解明することが不可欠である。
【0003】
一般に電極反応は、(1)反応物質の電極表面への拡散、(2)電極表面上での電荷移動及び(3)生成物質の電極表面からの逸散、の3つの過程を経て進み、そのうち最も遅い過程が電極反応速度を決める。すなわち電極反応の律速過程となる。
【0004】
上記電極反応を解明するための電気化学装置として、回転電極測定装置及び回転リングディスク電極測定装置が使用されている。回転電極測定装置は、円板状のディスク電極を絶縁体で作製した支持管の一端に埋め込み、これを電解液中で回転させて使用するものである。埋め込んだディスク電極と支持管の軸線方向の一方の端面は、研磨して同一平面になるようにしてある。支持管の軸線方向の他方の端面には、回転シャフトが取付けられていて、このシャフトをモーターで回転するようにしてある。ディスク電極とシャフトは細線を通して電気的に接続されている。回転シャフトはまた、該シャフトに摺動接触させられたブラシを通してポテンショスタット等の測定器に接続される。
【0005】
回転電極測定装置のディスク電極を電解液に浸漬して回転させると、ディスク電極の直下の電解液は、ディスク電極の平面に沿って渦を描きながら外側に流れ、その分新しい電解液が、ディスク電極に垂直な方向からディスク電極面に供給される。
【0006】
回転電極測定装置による測定方法は、電極反応の前記(1)及び(3)の過程での物質移動速度を制御する電気化学的測定法であり、前記過程(2)での電荷移動速度、すなわち電極活性を定量的に解析したいときに役立つ。
【0007】
上記回転電極測定装置で得られる情報に加えて、反応機構に関する定量的知見もあわせて得たいときには、回転リングディスク電極測定装置が用いられる。回転リングディスク電極測定装置は、上記回転ディスク電極測定装置のディスク電極の外側に、絶縁体からなる薄い層を介して、同心円状にリング電極を設けたものである。
【0008】
回転リングディスク電極測定装置のディスク電極を回転させると、回転軸からリング電極に向かう放射状の液流が生じる。リング電極の電位は、ディスク電極上で生じた反応中間体や生成物を酸化または還元できるように設定する。ディスク電極の電位とリング電極の電位は、デュアルポテンショスタットで、共通の基準電極に対して独立に制御する。
【0009】
回転電極測定装置及び回転リング電極測定装置による測定方法は、共に有用な方法ではあるが、これらの測定法では、回転シャフト部のガスシールが困難であるため、測定温度が室温から50℃付近に限定される。また、ブラシ接点部でノイズが発生するため、微小電流までの測定が不可能である。
【0010】
これらの欠点を避け、より高温領域までの測定を可能にするとともに、電気的ノイズがない状態で微少電流領域までの測定を可能にする装置として、近年、チャンネルフロー二重電極測定装置が注目され、使用されつつある。
【0011】
チャンネルフロー二重電極測定装置では、耐電解液性の絶縁体からなるチャンネル形成体内にチャンネル(電解液の流路)を形成しておき、チャンネルの内壁に作用極と検出極とを1個ずつ埋設する。作用極及び検出極は、作用極を上流側に位置させて電解液が流れる方向に並べてチャンネル形成体内に埋め込み、チャンネル内壁の内面と作用極及び検出極の電極面とを同一平面上に位置させるように研磨しておく。一方、チャンネルの内壁の作用極及び検出極が埋め込まれた面に対向する他の面側に対極を設けるとともに、参照極に接続されるポートを設けておく。
【0012】
上記チャンネル形成体とその内部に形成された作用極、検出極及び対極等からなる部分は、チャンネルフロー電極セルと呼ばれる。このチャンネルフロー電極セルと、電解液を収容した電解液タンクと、電解液タンク内の電解液をチャンネルフロー電極セルのチャンネル内に供給するポンプと、対極と作用極との間及び対極と検出極との間にそれぞれ印加する電圧を制御するポテンショスタットとにより、チャンネルフロー二重電極測定装置が構成される。
【0013】
この測定装置により、チャンネル内に電解液を、層流をなすように流して測定を行なうと、正確で再現性の良い測定結果を得ることができ、有益な電気化学的知見を求めることができる。回転電極測定装置、回転リング電極測定装置及びチャンネルフロー二重電極測定装置については、例えば非特許文献1に示されている。
【0014】
近年クリーンなエネルギ源として固体高分子形燃料電池(PEFC)が注目されており、その実用化に向けて、高性能化と高信頼性化とを図るための研究が進められている。 PEFCの高性能化と高信頼性化とを図る上での最重要課題の一つは、高活性なカソード酸素還元触媒の開発である。室温から110℃におよぶPEFCの実用温度域での実用高分散触媒の真の酸素還元活性と有害な副生成物である過酸化水素H2O2の生成率が、作用極及び検出極を有するチャンネルフロー二重電極測定法を用いて正確に測定できることがすでに非特許文献2及び3に報告されている。
【非特許文献1】社団法人電気化学会編 「電気化学測定マニュアル 基礎編」発行所 丸善株式会社 発行日 平成14年4月5日(127頁〜141頁)
【非特許文献2】H. Yano, E. Higuchi, H. Uchida, and M. Watanabe, J. Phys. Chem. B 110 (2006) 16544.
【非特許文献3】H. Yano, J. Inukai, H. Uchida, M. Watanabe, P. K. Babu, T. Kobayashi, J. H. Chung, E. Oldfield, and A. Wieckowski, Phys. Chem. Chem.Phys, 8 (2006) 4932.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
回転電極測定装置、回転リングディスク電極測定装置、及びチャンネルフロー二重電極測定装置により、多くの電気化学的知見が得られるようになり、技術が進展してきた。しかし、近年、エネルギー、環境等の幅広い分野において、より速やかに技術の進展を図ることが待望されるようになっており、それに伴って研究開発のスピードアップを図ることが強く要請されるようになっている。研究開発のスピードアップを図るためには、電気化学的測定に要する時間を短縮することが必要である。
【0016】
本発明の目的は、高温度領域までの測定及び微少電流領域までの測定を可能にするとともに、その測定の迅速化を図り、従来のチャンネルフロー二重電極測定装置による場合に比べて、トータル測定時間を大幅に短縮することができるようにしたマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係わるマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置は、耐電解液性を有する絶縁体からなるチャンネル形成体内に電解液が流れるチャンネルを設けるとともに、該チャンネル内に、電解液が流れる方向に並ぶ2つの電極からなる電極対を複数個設けて、複数の電極対を電解液が流れる方向と直角な方向に並べて配置した構成を有するチャンネルフロー電極セルを備えたことを特徴とする。
【0018】
上記のように構成すると、電極対を1つだけ設ける場合に比べて、電気化学的な電極反応の測定を加速して迅速に行なうことができることが確認された。例えば、電極対の数を4とした場合、測定に要する時間を、電極対を1つだけ設ける場合に比べて1/4に短縮できることが確認された。
【0019】
本発明に係わるマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置により、電極活性の定量的な解析を行なうとともに、反応機構に関する定量的知見を得る場合には、各電極対のそれぞれを構成する2つの電極の内、チャンネル内に生じる電解液の流れの上流側に位置するように配置された電極及び下流側に位置するように配置された電極をそれぞれ作用極及び検出極として働かせるように構成する。即ち、電解液の流れの上流側に位置するように配置された電極及び下流側に位置するように配置された電極にそれぞれ印加する電圧の制御と、電圧及び電流の測定とを個別に行い得るようにして、電解液の流れの上流側及び下流側にそれぞれ配置された電極を作用極及び検出極として働かせる。
【0020】
また回転電極測定装置と同様に、電極活性の定量的な解析を行えばよい場合には、上記各電極対を構成する2つの電極を共に作用極として働かせるように構成することができる。即ち、電解液の流れの上流側に位置するように配置された電極及び下流側に位置するように配置された電極に共通に制御される電圧を印加して、電解液の流れの上流側及び下流側にそれぞれ配置された電極をともに作用極として働かせる。
【0021】
なおチャンネル内での電解液の層流を乱さないようにするため、各電極対を構成する2つの電極は、電解液が流れる方向に対して直角な方向に相対するチャンネルの1対の壁部のうちの一方の壁部に埋め込んで、各電極対を構成する2つの電極の電極面を該一方の壁部の内面と同一の平面上に位置させた状態にしておくのが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、チャンネル内に、電解液が流れる方向に並ぶ2つの電極からなる電極対を複数個設けて、該複数の電極対を電解液が流れる方向と直角な方向に並べて配置したことにより、電気化学的な電極反応の測定を大幅に加速して行なうことができ、測定に要する時間を大幅に短縮することができる。このように、本発明によれば、電気化学的分野での各種の測定を短時間で行なうことができるため、研究開発のスピードアップを図るという社会的な要請に応えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
本実施形態では、チャンネルを構成するチャンネル構成部材が、図1に示した第1のブロック1と、図2に示した第2のブロック2と、図3に示したシートスペーサ(シート状または薄板状のスペーサ)3とからなっている。第1のブロック1、第2のブロック2、及びシートスペーサ3はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)や、アクリル樹脂等の耐電解液性を有する絶縁材料からなっていて、図4に示すように、第2のブロック2の上にシートスペーサ3を介して第1のブロック1が配置され、第2のブロック2と第1のブロック1との間(シートスペーサ3の内側)に電解液を流すチャンネル4が形成される。
【0024】
第2のブロック2は矩形状の板からなっていて、その長手方向の一端2a寄りの部分及び他端2b寄りの部分には、該第2のブロックの幅方向に延びる長方形の第1の溝201及び第2の溝202が形成されている。第1の溝201及び第2の溝202は、第2のブロック2のチャンネル4に臨むことになる主面2cに開口した状態で設けられている。第2のブロック2の一端2a寄りの部分の内部には、該第2のブロックの一端側の端面に一端203aが開口した電解液流入孔203が形成され、この電解液流入孔203の他端203bは、第1の溝201の長手方向の中央部で該溝201内に開口している。第2のブロック2の他端2b寄りの部分の内部には、該第2のブロックの他端2b側の端面に一端204aが開口した電解液流出孔204が形成され、この電解液流出孔204の他端204bは、第2の溝202の長手方向の中央部で該溝202内に開口している。第2のブロック2の主面2cには、第1の溝201及び第2の溝202と両溝の間の部分とを取り囲む矩形状のガスケット(Oリング)収容溝205が形成されている。
【0025】
第2のブロック2の電解液流出孔204の他端の第2の溝部202内への開口部内には、第2のブロック2を貫通させた白金線からなる対極5が挿入されている。また後記する第1のブロックの電極対8aないし8dが設けられる領域に対向する位置に開口させて、参照極につながる参照極接続用ポート7が形成されている。このポート7は第2のブロック2内に設けられた孔7aと、図示しないパイプとを通して参照極が設けられた容器に接続される。
【0026】
第1のブロック1は、図1に示されているように、第2のブロック2と長さ及び幅が等しい耐電解液性絶縁材からなる長方形の板により構成されていて、その長手方向の一端1a及び他端1bをそれぞれ第2のブロック2の一端2a及び他端2bに整合させ、かつその幅方向の両端を第2のブロック2の幅方向の両端に整合させた状態で、第2のブロック2の上方に配置される。第1のブロック1の、第2のブロック2の主面2cと対向する主面1cには、第2のブロック2のガスケット収容溝と整合する矩形状のガスケット収容溝105が形成されている。また第1のブロック1の主面1cの他端1b寄りの領域には、第1のブロック1を第2のブロック2の上に配置した際に対極5よりも参照極接続用ポート7側に位置する部分に対向するようにして、複数(図示の例では4個)の電極対8aないし8dが埋め込まれている。各電極対は、図5にも示したように、チャンネル4内の電解液の流れの方向(矢印f方向)に並ぶ一対の短冊状の電極801及び802からなっている。各電極対を構成する短冊状の電極801及び802は、それぞれの長手方向を、電解液が流れる方向と直角な方向(第1のブロック1及び第2のブロック2の幅方向)に向け、かつそれぞれを電解液が流れる方向に並べた状態で平行に設けられている。
【0027】
チャンネル4内での電解液の層流を乱さないようにするため、各電極対を構成する短冊状電極は、それぞれの電極面を第1のブロック1の主面2cと同一平面上に位置させた状態で、第1のブロック1に埋め込まれている。一連の電極対8aないし8dは、電解液の層流が乱れるおそれがあるチャンネル4の幅方向の両端付近を避けるために、その両端の電極対8a及び8bとチャンネル4の幅方向の両端との間に充分な間隔を隔てた状態で設けられている。各電極801及び802から個別にリード線901及び902が導出されている。
【0028】
シートスペーサ3は、第2のブロック2及び第1のブロック1と長さ及び幅が等しい長方形の板を打ち抜いて長方形状の孔301を形成した額縁状の板からなっていて、第2のブロック2と第1のブロック1との間に挟み込まれた状態で配置される。第2のブロック2の長方形状の孔301が、チャンネル4の輪郭形状を規定する。第2のブロック2の長方形状の孔301は、ガスケット収容溝105及び205よりも内側に位置するように設けられている。
【0029】
ガスケット収容溝105内及び205内にそれぞれ耐電解液性を有する弾性材料からなるガスケット10を収容した状態で、図4に示すように、第2のブロック2、シートスペーサ3及び第1のブロック1が重ねた状態で配置され、第2のブロック2とシートスペーサ3と第1のブロック1とが、これらの四隅を貫通した通しボルト(図示せず。)と、各通しボルトに螺合されたナットとにより締結されて、マルチ・チャンネルフロー二重電極装置のチャンネルフロー電極セル11が構成される。
【0030】
本実施形態では、電解液の流れの上流側に配置された各電極801を作用極として用い、電解液の下流側に配置された各電極802を検出極として用いる。本実施形態及び後記する実施例においては、電極対8aないし8dの電極801をそれぞれ作用極として、電極対8aないし8dの電極801によりそれぞれ構成される作用極を符号W1〜W4で識別している。また電極対8aないし8dの電極802を検出極として、電極対8aないし8dの電極802によりそれぞれ構成される検出極を符号C1〜C4で識別している。この例では、作用極として用いる各電極801が金により形成され、検出極として用いる各電極802が白金により形成されている。
【0031】
図6に示したように、チャンネルフロー電極セル11の電解液流入孔203はパイプ21と流量計22とパイプ23とを通してポンプ24の吐出口に接続される。ポンプ24の吸込み口は、電解液タンク25内に収容された電解液26内に一端が挿入されたパイプ27の他端にパイプ28を通して接続されている。またチャンネルフロー電極セル11の電解液流出孔204は電解液タンク25内の電解液26中に一端が挿入されたパイプ29の他端にパイプ30を通して接続される。電解液タンク25内には、パイプ31を通してO2やN2等のガスが供給される。また.参照極接続用ポート7はパイプ32を通して可逆水素電極などからなる参照極が収容された容器に接続される。
【0032】
チャンネルフロー電極セル11と、電解液タンク25と、ポンプ24と、これらを接続する配管類と、チャンネルフロー電極セルの対極5と各電極801との間及び対極5と各電極802との間にそれぞれ印加する電圧の制御と、電極801及び802に印加されている電圧及び電極801及び802を通して流れる電流の測定とを個別に行うことができるデュアルポテンショスタット(図示せず。)とにより、本発明に係わるマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置が構成される。本発明では、電極対が複数設けられるという意味で「マルチ」といっている。
【0033】
本実施形態では、耐電解液性の絶縁体からなる第1のブロック1及び第2のフロック2とシートスペーサ3とによりチャンネル形成体を構成し、第1のブロック1と第2のブロック2との間にシートスペーサ3を介在させることによりチャンネル4を形成しているが、一方のブロックの主面に、その長手方向に延びる溝を設けることによりチャンネルを形成することもできる。また本実施形態では、第1のブロック1に電極対8aないし8dを設けているが、これらの電極対を第2のブロック2側に設けることもできる。
【0034】
即ち、本発明において用いるチャンネルフロー電極セル11は、耐電解液性の絶縁体からなるチャンネル形成体内に電解液が流れるチャンネルを設けるとともに、電解液が流れる方向に並ぶ2つの電極からなる電極対を該チャンネル内に複数個設けて、該複数の電極対を電解液が流れる方向と直角な方向に並べて配置した構成を有する。
【0035】
このようにチャンネルフロー電極セル11を構成しておくと、チャンネルフロー電極セル内に電極対を1つだけ設ける場合に比べて、電気化学的な電極反応の測定を加速して迅速に行なうことができるため、測定に要する時間を、電極対を1つだけ設ける場合に比べて大幅に短縮できる。
【0036】
上記の実施形態では、電解液の流れの上流側に配置される各電極対の電極801を作用極として用い、電解液の流れの下流側に配置される電極802を検出極として用いて、電極活性の定量的な解析を行なうとともに、反応機構に関する定量的知見を得ることができるようにしたが、電極活性の定量的な解析を行えばよい場合には、電解液の流れの上流側に位置するように配置される電極801及び下流側に位置するように配置された電極802にそれぞれ共通に制御される電圧を印加して、電極801及び802をともに作用極として働かせるようにすることもできる。
【0037】
上記の実施形態では、電解液の流出孔204の溝202内への開口部内に白金線を挿入することにより対極5を構成したが、第2のブロック2の主面2cの溝202寄りの部分に埋め込んだ状態で、板状または網状などの形状の対極を設けることもできる。
【実施例】
【0038】
本発明のマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置において、技術的にもっとも懸念されることは、一つの電極対における反応が、隣接する他の電極の反応に影響を及ぼさないか、ということである。この問題が解決されていれば、本発明の有益性は実証されたといえる。
【0039】
そこで実規模のマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置を製作し、一つの電極対における反応が、隣接する他の電極の反応に影響を及ぼすか否かについて調べた。本実施例では、図1ないし図4に示した構成を有するチャンネルフロー電極セル11を用い、各部の寸法(単位はmm)を図7に示すように設定した。
【0040】
チャンネル形成体を構成するブロック1及び2とシートスペーサ3は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)により形成した。シートスペーサー3の厚さを0.5 mm とし、このシートスペーサの内側に高さが0.5mmのチャンネル4を形成した。シートスペーサ3と第1のブロック1との間及びシートスペーサ3と第2のブロック2との間の接合部のシールを図るガスケット10としては、フッ素ゴムを用いた。
【0041】
第1のブロック1には、金製の板からなる電極(作用極)801と白金製の板からなる電極(検出極)802とからなる4個の電極対8a〜8dを、電解液の流れの方向に対して直角な方向に並べて埋め込んだ。4個の電極対をそれぞれ構成する電極801及び802の各部の寸法は総て等しく設定した。
【0042】
図5に示すように、各電極801及び802の幅寸法をw、長さ寸法をx1、電極801の一端から電極802の一端までの距離をx2として、w=4 mm,x1=1mmとし、各電極対の電極801と802相互間の間隔を0.5 mm (=x2−x1)とした。また作用極W1ないしW4を構成する電極801,801,…相互間の間隔を7 mmとし、検出極C1ないしC4を構成する電極802,802,…相互間の間隔も7mmとした。
【0043】
更に、チャンネル4の上流側の端部と電極対との間の距離を図示のIeのように定義して、Ie = 80 mmとした。また電解液流出孔204の溝202内への開口部の中央に白金線からなる対極5を挿入した。
【0044】
チャンネル4内を流す電解液としては、1 mM K3[Fe(CN)6] + 0.5 M K2SO4を用い、測定前にN2ガスで1時間以上脱気した。参照極としては、KCl飽和Ag|AgCl 電極を用いた。電解液を循環させるポンプ24としては、ケミカルギアポンプ(協和科学株式会社製)を用い、このポンプ24により、電解液タンク25−ポンプ24−流量計22−チャンネルフロー電極セル11内−電解液タンク25の電解液流路に沿って電解液を循環させ、電解液がチャンネルフロー電極セル11内に流入する前に流量計22でその流量を測定した。
【0045】
先ず作用極として用いる各電極801で還元反応を行わせるべく、作用極を構成する電極801の参照極に対する電位を負電位とし、各電極801の電位を掃引速度20mV/secで掃引して、下記の(1)式で表される個々の電極における[Fe(CN)6]3−の還元反応の対流ボルタモグラムを求める実験を、室温で電解液の平均流速Umを種々変化させながら行った。
[Fe(CN)6]3− + e−→ [Fe(CN)6]4− (1)
【0046】
一例として最端部に配置された作用極W1で取得した対流ボルタモグラムを図8に示した。同図において、曲線a,b,c,d及びeはそれぞれ電解液の流速Umを11cm/sec,19cm/sec,25cm/sec,32cm/sec及び47cm/secとした場合である。図8から明らかなように、0.37 V付近から還元電流が流れ始め、約0.1 Vで拡散限界電流に達している。電解液の流速Umの増加とともに、拡散限界電流値が増加した。この拡散限界電流ILと電解液の流速Umの間には以下の式が成り立つはずである。
IL = 1.165 × nF[Ox]w (Um D2 x12 /h)1/3 (2)
【0047】
ここでnは全反応電子数、FはFaraday定数、w は作用極の幅(4 mm)、[Ox]及びDはそれぞれ溶液中の反応種(この場合は[Fe(CN)6]3−)の濃度及び拡散定数、x1は作用極の長さ(1 mm)、h はチャンネル高さの半分の値(0.25 mm)である。
【0048】
図9に、作用極W1,W2,W3,W4において測定した限界電流ILのUm1/3依存性を示し、図10に、検出極C1,C2,C3,C4において測定した限界電流ILのUm1/3依存性を示した。全ての電極で実験誤差内で良く一致した限界電流が観測され、原点を通る直線関係が得られた。これにより、本実施例の測定装置の構造により、全ての電極に電解液を層流状態で供給できることが確認できた。
【0049】
次に作用極で(1)式の反応を進行させながら、参照極に対する検出極の電位を0.45 V 対Ag-AgCl に設定して、[Fe(CN)6]4−を酸化する電流を測定し、捕捉率を求めた。作用極W1,W2,W3,W4及び検出極C1,C2,C3,C4の対流ボルタモグラムを図11に示した。4個の作用極及び4個の検出極ともに良く一致した応答が得られた。作用極と検出極の電流の比から求めた捕捉率を下記の表1にまとめて示す。同表から明らかなように、各電極対を構成する作用極と検出極の組み合わせでは、捕捉率が全て0.29であったが、電解液の流れに対して直角な方向に隣り合う電極対の作用極と検出極との組み合わせでは、捕捉率はゼロであった。
【表1】
【0050】
多電極系のチャンネルフロー二重電極測定装置で最も重要であるのは、前記したように、各検出極が、電解液の直上流にある作用極以外の作用極、即ち電解液流に対して斜めに位置する作用極の生成物を検出しないことである。本実施例のマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置では、表1に示すように、斜めに位置する作用極に対する検出感度はゼロであった。例えば、作用極W2のみを作動させたとき、その生成物が検出されたのは検出極C2のみであり、作用極W2に対して斜めに位置する検出極C1及びC3では作用極W2で生成された生成物が全く検出されなかった。他の作用極W1,W3,及びW4についても同様に、それぞれの斜めに位置する検出極での検出電流はゼロであり、本発明に係わるマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置の優れた性能が全て維持されていることを検証することができた。
【0051】
前述のように、固体高分子形燃料電池(PEFC)の高性能化・高信頼性化のための最重要課題の一つは、高活性なカソード酸素還元触媒の開発であり、室温から110℃におよぶPEFC実用温度域での実用高分散触媒の真の酸素還元活性と有害な副生成物である過酸化水素H2O2の生成率が、1対の作用極と検出極を有するチャンネルフロー二重電極測定法を用いて正確に測定できることはすでに非特許文献2及び3に報告されている。
【0052】
そこで、4対の作用極と検出極を有する図1ないし図4に示されたマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置を用い、4つの作用極W1ないしW4にそれぞれ4種類の異なる高分散電極触媒を分散付着させて、これら4種類の高分散電極触媒の酸素還元活性とH2O2生成率とを同時に測定する実験を行った。実験では、マルチポテンショスタットとして、北斗電工製のHA1010mM8Sを用いた。金からなる作用極W1ないしW4にそれぞれ均一に分散させたPtCo/C高分散触媒を試料No.1,No.2,No.3及びNo.4として、これらの試料の酸素還元活性と、H2O2生成率とを同時に測定した。電解液としては酸素を飽和させた0.1 M HCl4電解液を用いた。電解液の温度を60℃として、電解液の流速Umを23cm/secとし、電位掃引速度を0.5 mV/secとした。検出極C1ないしC4を通して流れる電流と各検出極の参照極に対する電位との関係を示す対流ボルタモグラムを図12に示し、作用極W1ないしW4を通して流れる電流と各作用極の参照極に対する電位との関係を示す対流ボルタモグラムを図13に示した。
【0053】
この実験から、PtCo合金/C触媒No.1が最も正の立ち上がり電位を示すことがわかった。また、触媒No.2が最もH2O2生成率が低いことが示された。このマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置により従来のチャンネルフロー二重電極測定装置と全く同じ精度を維持しながら、試験を大幅に加速して、試験に要する時間を大幅に(電極対が4対の場合には1/4に)短縮できることが確認できた。
【0054】
上記の説明では、電極対の数を4としたが、本発明において、電極対の数は2以上であればよく、上記の実施形態及び実施例に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態で用いるチャンネルフロー電極セルを構成する第1のブロックを示した底面図である。
【図2】本発明の実施形態で用いるチャンネルフロー電極セルを構成する第2のブロックを示した上面図である。
【図3】本発明の実施形態で用いるチャンネルフロー電極セルを構成するシートスペーサを示した上面図である。
【図4】本発明の実施形態で用いるチャンネルフロー電極セルの構造を示した縦断面図である。
【図5】本発明の実施形態でチャンネルフロー電極セルのチャンネル内に設ける電極対の構成を示した拡大図である。
【図6】本実施形態のマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置の全体的な構成の一例を概略的に示した構成図である。
【図7】本発明の実施例で用いたチャンネルフロー電極セルの各部の寸法を説明するためにもちいる説明図である。
【図8】本発明の実施例において作用極において還元反応を行わせた際に一つの作用極W1で取得された対流ボルタモグラムを示したグラフである。
【図9】本発明の実施例において、4つの作用極においてそれぞれ測定した限界電流ILのUm1/3依存性(Umは電解液の流速)を示したグラフである。
【図10】本発明の実施例において、4つの検出極において測定した限界電流ILのUm1/3依存性を示したグラフである。
【図11】本発明の実施例において、4つの作用極で還元反応を進行させながら、4つの作用極で酸化電流を測定した際に作用極及び検出極で取得された対流ボルタモグラムを示したグラフである。
【図12】本発明の実施例において、4つの作用極にそれぞれ4種類の異なる高分散電極触媒を分散付着させて、これら4種類の高分散電極触媒の酸素還元活性とH2O2生成率とを同時に測定する実験を行った際に各検出極で取得された対流ボルタモグラムを示したグラフである。
【図13】本発明の実施例において、4つの作用極にそれぞれ4種類の異なる高分散電極触媒を分散付着させて、これら4種類の高分散電極触媒の酸素還元活性とH2O2生成率とを同時に測定する実験を行った際に各作用極で取得された対流ボルタモグラムを示したグラフである。
【符号の説明】
【0056】
1 第1のブロック
2 第2のブロック
3 シートスペーサ
4 チャンネル
8a〜8d 電極対
801,802 電極
W1ないしW4 作用極
C1ないしC4 検出極
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極反応の解析に有効な電気化学的測定装置に関し、更に詳しくは、電気化学反応用電極触媒、二次電池や燃料電池の電極、各種表面処理等の技術分野における新規な開発、改良に役立つマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一次電池、二次電池、燃料電池、腐食、メッキ、表面処理、電気分解、電気化学反応による物質の製造や加工等の分野における研究、開発及び工業技術のレベルアップや、製品の性能の向上を図るためには、電気化学的な電極反応を解析し、その現象を解明することが不可欠である。
【0003】
一般に電極反応は、(1)反応物質の電極表面への拡散、(2)電極表面上での電荷移動及び(3)生成物質の電極表面からの逸散、の3つの過程を経て進み、そのうち最も遅い過程が電極反応速度を決める。すなわち電極反応の律速過程となる。
【0004】
上記電極反応を解明するための電気化学装置として、回転電極測定装置及び回転リングディスク電極測定装置が使用されている。回転電極測定装置は、円板状のディスク電極を絶縁体で作製した支持管の一端に埋め込み、これを電解液中で回転させて使用するものである。埋め込んだディスク電極と支持管の軸線方向の一方の端面は、研磨して同一平面になるようにしてある。支持管の軸線方向の他方の端面には、回転シャフトが取付けられていて、このシャフトをモーターで回転するようにしてある。ディスク電極とシャフトは細線を通して電気的に接続されている。回転シャフトはまた、該シャフトに摺動接触させられたブラシを通してポテンショスタット等の測定器に接続される。
【0005】
回転電極測定装置のディスク電極を電解液に浸漬して回転させると、ディスク電極の直下の電解液は、ディスク電極の平面に沿って渦を描きながら外側に流れ、その分新しい電解液が、ディスク電極に垂直な方向からディスク電極面に供給される。
【0006】
回転電極測定装置による測定方法は、電極反応の前記(1)及び(3)の過程での物質移動速度を制御する電気化学的測定法であり、前記過程(2)での電荷移動速度、すなわち電極活性を定量的に解析したいときに役立つ。
【0007】
上記回転電極測定装置で得られる情報に加えて、反応機構に関する定量的知見もあわせて得たいときには、回転リングディスク電極測定装置が用いられる。回転リングディスク電極測定装置は、上記回転ディスク電極測定装置のディスク電極の外側に、絶縁体からなる薄い層を介して、同心円状にリング電極を設けたものである。
【0008】
回転リングディスク電極測定装置のディスク電極を回転させると、回転軸からリング電極に向かう放射状の液流が生じる。リング電極の電位は、ディスク電極上で生じた反応中間体や生成物を酸化または還元できるように設定する。ディスク電極の電位とリング電極の電位は、デュアルポテンショスタットで、共通の基準電極に対して独立に制御する。
【0009】
回転電極測定装置及び回転リング電極測定装置による測定方法は、共に有用な方法ではあるが、これらの測定法では、回転シャフト部のガスシールが困難であるため、測定温度が室温から50℃付近に限定される。また、ブラシ接点部でノイズが発生するため、微小電流までの測定が不可能である。
【0010】
これらの欠点を避け、より高温領域までの測定を可能にするとともに、電気的ノイズがない状態で微少電流領域までの測定を可能にする装置として、近年、チャンネルフロー二重電極測定装置が注目され、使用されつつある。
【0011】
チャンネルフロー二重電極測定装置では、耐電解液性の絶縁体からなるチャンネル形成体内にチャンネル(電解液の流路)を形成しておき、チャンネルの内壁に作用極と検出極とを1個ずつ埋設する。作用極及び検出極は、作用極を上流側に位置させて電解液が流れる方向に並べてチャンネル形成体内に埋め込み、チャンネル内壁の内面と作用極及び検出極の電極面とを同一平面上に位置させるように研磨しておく。一方、チャンネルの内壁の作用極及び検出極が埋め込まれた面に対向する他の面側に対極を設けるとともに、参照極に接続されるポートを設けておく。
【0012】
上記チャンネル形成体とその内部に形成された作用極、検出極及び対極等からなる部分は、チャンネルフロー電極セルと呼ばれる。このチャンネルフロー電極セルと、電解液を収容した電解液タンクと、電解液タンク内の電解液をチャンネルフロー電極セルのチャンネル内に供給するポンプと、対極と作用極との間及び対極と検出極との間にそれぞれ印加する電圧を制御するポテンショスタットとにより、チャンネルフロー二重電極測定装置が構成される。
【0013】
この測定装置により、チャンネル内に電解液を、層流をなすように流して測定を行なうと、正確で再現性の良い測定結果を得ることができ、有益な電気化学的知見を求めることができる。回転電極測定装置、回転リング電極測定装置及びチャンネルフロー二重電極測定装置については、例えば非特許文献1に示されている。
【0014】
近年クリーンなエネルギ源として固体高分子形燃料電池(PEFC)が注目されており、その実用化に向けて、高性能化と高信頼性化とを図るための研究が進められている。 PEFCの高性能化と高信頼性化とを図る上での最重要課題の一つは、高活性なカソード酸素還元触媒の開発である。室温から110℃におよぶPEFCの実用温度域での実用高分散触媒の真の酸素還元活性と有害な副生成物である過酸化水素H2O2の生成率が、作用極及び検出極を有するチャンネルフロー二重電極測定法を用いて正確に測定できることがすでに非特許文献2及び3に報告されている。
【非特許文献1】社団法人電気化学会編 「電気化学測定マニュアル 基礎編」発行所 丸善株式会社 発行日 平成14年4月5日(127頁〜141頁)
【非特許文献2】H. Yano, E. Higuchi, H. Uchida, and M. Watanabe, J. Phys. Chem. B 110 (2006) 16544.
【非特許文献3】H. Yano, J. Inukai, H. Uchida, M. Watanabe, P. K. Babu, T. Kobayashi, J. H. Chung, E. Oldfield, and A. Wieckowski, Phys. Chem. Chem.Phys, 8 (2006) 4932.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
回転電極測定装置、回転リングディスク電極測定装置、及びチャンネルフロー二重電極測定装置により、多くの電気化学的知見が得られるようになり、技術が進展してきた。しかし、近年、エネルギー、環境等の幅広い分野において、より速やかに技術の進展を図ることが待望されるようになっており、それに伴って研究開発のスピードアップを図ることが強く要請されるようになっている。研究開発のスピードアップを図るためには、電気化学的測定に要する時間を短縮することが必要である。
【0016】
本発明の目的は、高温度領域までの測定及び微少電流領域までの測定を可能にするとともに、その測定の迅速化を図り、従来のチャンネルフロー二重電極測定装置による場合に比べて、トータル測定時間を大幅に短縮することができるようにしたマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係わるマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置は、耐電解液性を有する絶縁体からなるチャンネル形成体内に電解液が流れるチャンネルを設けるとともに、該チャンネル内に、電解液が流れる方向に並ぶ2つの電極からなる電極対を複数個設けて、複数の電極対を電解液が流れる方向と直角な方向に並べて配置した構成を有するチャンネルフロー電極セルを備えたことを特徴とする。
【0018】
上記のように構成すると、電極対を1つだけ設ける場合に比べて、電気化学的な電極反応の測定を加速して迅速に行なうことができることが確認された。例えば、電極対の数を4とした場合、測定に要する時間を、電極対を1つだけ設ける場合に比べて1/4に短縮できることが確認された。
【0019】
本発明に係わるマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置により、電極活性の定量的な解析を行なうとともに、反応機構に関する定量的知見を得る場合には、各電極対のそれぞれを構成する2つの電極の内、チャンネル内に生じる電解液の流れの上流側に位置するように配置された電極及び下流側に位置するように配置された電極をそれぞれ作用極及び検出極として働かせるように構成する。即ち、電解液の流れの上流側に位置するように配置された電極及び下流側に位置するように配置された電極にそれぞれ印加する電圧の制御と、電圧及び電流の測定とを個別に行い得るようにして、電解液の流れの上流側及び下流側にそれぞれ配置された電極を作用極及び検出極として働かせる。
【0020】
また回転電極測定装置と同様に、電極活性の定量的な解析を行えばよい場合には、上記各電極対を構成する2つの電極を共に作用極として働かせるように構成することができる。即ち、電解液の流れの上流側に位置するように配置された電極及び下流側に位置するように配置された電極に共通に制御される電圧を印加して、電解液の流れの上流側及び下流側にそれぞれ配置された電極をともに作用極として働かせる。
【0021】
なおチャンネル内での電解液の層流を乱さないようにするため、各電極対を構成する2つの電極は、電解液が流れる方向に対して直角な方向に相対するチャンネルの1対の壁部のうちの一方の壁部に埋め込んで、各電極対を構成する2つの電極の電極面を該一方の壁部の内面と同一の平面上に位置させた状態にしておくのが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、チャンネル内に、電解液が流れる方向に並ぶ2つの電極からなる電極対を複数個設けて、該複数の電極対を電解液が流れる方向と直角な方向に並べて配置したことにより、電気化学的な電極反応の測定を大幅に加速して行なうことができ、測定に要する時間を大幅に短縮することができる。このように、本発明によれば、電気化学的分野での各種の測定を短時間で行なうことができるため、研究開発のスピードアップを図るという社会的な要請に応えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
本実施形態では、チャンネルを構成するチャンネル構成部材が、図1に示した第1のブロック1と、図2に示した第2のブロック2と、図3に示したシートスペーサ(シート状または薄板状のスペーサ)3とからなっている。第1のブロック1、第2のブロック2、及びシートスペーサ3はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)や、アクリル樹脂等の耐電解液性を有する絶縁材料からなっていて、図4に示すように、第2のブロック2の上にシートスペーサ3を介して第1のブロック1が配置され、第2のブロック2と第1のブロック1との間(シートスペーサ3の内側)に電解液を流すチャンネル4が形成される。
【0024】
第2のブロック2は矩形状の板からなっていて、その長手方向の一端2a寄りの部分及び他端2b寄りの部分には、該第2のブロックの幅方向に延びる長方形の第1の溝201及び第2の溝202が形成されている。第1の溝201及び第2の溝202は、第2のブロック2のチャンネル4に臨むことになる主面2cに開口した状態で設けられている。第2のブロック2の一端2a寄りの部分の内部には、該第2のブロックの一端側の端面に一端203aが開口した電解液流入孔203が形成され、この電解液流入孔203の他端203bは、第1の溝201の長手方向の中央部で該溝201内に開口している。第2のブロック2の他端2b寄りの部分の内部には、該第2のブロックの他端2b側の端面に一端204aが開口した電解液流出孔204が形成され、この電解液流出孔204の他端204bは、第2の溝202の長手方向の中央部で該溝202内に開口している。第2のブロック2の主面2cには、第1の溝201及び第2の溝202と両溝の間の部分とを取り囲む矩形状のガスケット(Oリング)収容溝205が形成されている。
【0025】
第2のブロック2の電解液流出孔204の他端の第2の溝部202内への開口部内には、第2のブロック2を貫通させた白金線からなる対極5が挿入されている。また後記する第1のブロックの電極対8aないし8dが設けられる領域に対向する位置に開口させて、参照極につながる参照極接続用ポート7が形成されている。このポート7は第2のブロック2内に設けられた孔7aと、図示しないパイプとを通して参照極が設けられた容器に接続される。
【0026】
第1のブロック1は、図1に示されているように、第2のブロック2と長さ及び幅が等しい耐電解液性絶縁材からなる長方形の板により構成されていて、その長手方向の一端1a及び他端1bをそれぞれ第2のブロック2の一端2a及び他端2bに整合させ、かつその幅方向の両端を第2のブロック2の幅方向の両端に整合させた状態で、第2のブロック2の上方に配置される。第1のブロック1の、第2のブロック2の主面2cと対向する主面1cには、第2のブロック2のガスケット収容溝と整合する矩形状のガスケット収容溝105が形成されている。また第1のブロック1の主面1cの他端1b寄りの領域には、第1のブロック1を第2のブロック2の上に配置した際に対極5よりも参照極接続用ポート7側に位置する部分に対向するようにして、複数(図示の例では4個)の電極対8aないし8dが埋め込まれている。各電極対は、図5にも示したように、チャンネル4内の電解液の流れの方向(矢印f方向)に並ぶ一対の短冊状の電極801及び802からなっている。各電極対を構成する短冊状の電極801及び802は、それぞれの長手方向を、電解液が流れる方向と直角な方向(第1のブロック1及び第2のブロック2の幅方向)に向け、かつそれぞれを電解液が流れる方向に並べた状態で平行に設けられている。
【0027】
チャンネル4内での電解液の層流を乱さないようにするため、各電極対を構成する短冊状電極は、それぞれの電極面を第1のブロック1の主面2cと同一平面上に位置させた状態で、第1のブロック1に埋め込まれている。一連の電極対8aないし8dは、電解液の層流が乱れるおそれがあるチャンネル4の幅方向の両端付近を避けるために、その両端の電極対8a及び8bとチャンネル4の幅方向の両端との間に充分な間隔を隔てた状態で設けられている。各電極801及び802から個別にリード線901及び902が導出されている。
【0028】
シートスペーサ3は、第2のブロック2及び第1のブロック1と長さ及び幅が等しい長方形の板を打ち抜いて長方形状の孔301を形成した額縁状の板からなっていて、第2のブロック2と第1のブロック1との間に挟み込まれた状態で配置される。第2のブロック2の長方形状の孔301が、チャンネル4の輪郭形状を規定する。第2のブロック2の長方形状の孔301は、ガスケット収容溝105及び205よりも内側に位置するように設けられている。
【0029】
ガスケット収容溝105内及び205内にそれぞれ耐電解液性を有する弾性材料からなるガスケット10を収容した状態で、図4に示すように、第2のブロック2、シートスペーサ3及び第1のブロック1が重ねた状態で配置され、第2のブロック2とシートスペーサ3と第1のブロック1とが、これらの四隅を貫通した通しボルト(図示せず。)と、各通しボルトに螺合されたナットとにより締結されて、マルチ・チャンネルフロー二重電極装置のチャンネルフロー電極セル11が構成される。
【0030】
本実施形態では、電解液の流れの上流側に配置された各電極801を作用極として用い、電解液の下流側に配置された各電極802を検出極として用いる。本実施形態及び後記する実施例においては、電極対8aないし8dの電極801をそれぞれ作用極として、電極対8aないし8dの電極801によりそれぞれ構成される作用極を符号W1〜W4で識別している。また電極対8aないし8dの電極802を検出極として、電極対8aないし8dの電極802によりそれぞれ構成される検出極を符号C1〜C4で識別している。この例では、作用極として用いる各電極801が金により形成され、検出極として用いる各電極802が白金により形成されている。
【0031】
図6に示したように、チャンネルフロー電極セル11の電解液流入孔203はパイプ21と流量計22とパイプ23とを通してポンプ24の吐出口に接続される。ポンプ24の吸込み口は、電解液タンク25内に収容された電解液26内に一端が挿入されたパイプ27の他端にパイプ28を通して接続されている。またチャンネルフロー電極セル11の電解液流出孔204は電解液タンク25内の電解液26中に一端が挿入されたパイプ29の他端にパイプ30を通して接続される。電解液タンク25内には、パイプ31を通してO2やN2等のガスが供給される。また.参照極接続用ポート7はパイプ32を通して可逆水素電極などからなる参照極が収容された容器に接続される。
【0032】
チャンネルフロー電極セル11と、電解液タンク25と、ポンプ24と、これらを接続する配管類と、チャンネルフロー電極セルの対極5と各電極801との間及び対極5と各電極802との間にそれぞれ印加する電圧の制御と、電極801及び802に印加されている電圧及び電極801及び802を通して流れる電流の測定とを個別に行うことができるデュアルポテンショスタット(図示せず。)とにより、本発明に係わるマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置が構成される。本発明では、電極対が複数設けられるという意味で「マルチ」といっている。
【0033】
本実施形態では、耐電解液性の絶縁体からなる第1のブロック1及び第2のフロック2とシートスペーサ3とによりチャンネル形成体を構成し、第1のブロック1と第2のブロック2との間にシートスペーサ3を介在させることによりチャンネル4を形成しているが、一方のブロックの主面に、その長手方向に延びる溝を設けることによりチャンネルを形成することもできる。また本実施形態では、第1のブロック1に電極対8aないし8dを設けているが、これらの電極対を第2のブロック2側に設けることもできる。
【0034】
即ち、本発明において用いるチャンネルフロー電極セル11は、耐電解液性の絶縁体からなるチャンネル形成体内に電解液が流れるチャンネルを設けるとともに、電解液が流れる方向に並ぶ2つの電極からなる電極対を該チャンネル内に複数個設けて、該複数の電極対を電解液が流れる方向と直角な方向に並べて配置した構成を有する。
【0035】
このようにチャンネルフロー電極セル11を構成しておくと、チャンネルフロー電極セル内に電極対を1つだけ設ける場合に比べて、電気化学的な電極反応の測定を加速して迅速に行なうことができるため、測定に要する時間を、電極対を1つだけ設ける場合に比べて大幅に短縮できる。
【0036】
上記の実施形態では、電解液の流れの上流側に配置される各電極対の電極801を作用極として用い、電解液の流れの下流側に配置される電極802を検出極として用いて、電極活性の定量的な解析を行なうとともに、反応機構に関する定量的知見を得ることができるようにしたが、電極活性の定量的な解析を行えばよい場合には、電解液の流れの上流側に位置するように配置される電極801及び下流側に位置するように配置された電極802にそれぞれ共通に制御される電圧を印加して、電極801及び802をともに作用極として働かせるようにすることもできる。
【0037】
上記の実施形態では、電解液の流出孔204の溝202内への開口部内に白金線を挿入することにより対極5を構成したが、第2のブロック2の主面2cの溝202寄りの部分に埋め込んだ状態で、板状または網状などの形状の対極を設けることもできる。
【実施例】
【0038】
本発明のマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置において、技術的にもっとも懸念されることは、一つの電極対における反応が、隣接する他の電極の反応に影響を及ぼさないか、ということである。この問題が解決されていれば、本発明の有益性は実証されたといえる。
【0039】
そこで実規模のマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置を製作し、一つの電極対における反応が、隣接する他の電極の反応に影響を及ぼすか否かについて調べた。本実施例では、図1ないし図4に示した構成を有するチャンネルフロー電極セル11を用い、各部の寸法(単位はmm)を図7に示すように設定した。
【0040】
チャンネル形成体を構成するブロック1及び2とシートスペーサ3は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)により形成した。シートスペーサー3の厚さを0.5 mm とし、このシートスペーサの内側に高さが0.5mmのチャンネル4を形成した。シートスペーサ3と第1のブロック1との間及びシートスペーサ3と第2のブロック2との間の接合部のシールを図るガスケット10としては、フッ素ゴムを用いた。
【0041】
第1のブロック1には、金製の板からなる電極(作用極)801と白金製の板からなる電極(検出極)802とからなる4個の電極対8a〜8dを、電解液の流れの方向に対して直角な方向に並べて埋め込んだ。4個の電極対をそれぞれ構成する電極801及び802の各部の寸法は総て等しく設定した。
【0042】
図5に示すように、各電極801及び802の幅寸法をw、長さ寸法をx1、電極801の一端から電極802の一端までの距離をx2として、w=4 mm,x1=1mmとし、各電極対の電極801と802相互間の間隔を0.5 mm (=x2−x1)とした。また作用極W1ないしW4を構成する電極801,801,…相互間の間隔を7 mmとし、検出極C1ないしC4を構成する電極802,802,…相互間の間隔も7mmとした。
【0043】
更に、チャンネル4の上流側の端部と電極対との間の距離を図示のIeのように定義して、Ie = 80 mmとした。また電解液流出孔204の溝202内への開口部の中央に白金線からなる対極5を挿入した。
【0044】
チャンネル4内を流す電解液としては、1 mM K3[Fe(CN)6] + 0.5 M K2SO4を用い、測定前にN2ガスで1時間以上脱気した。参照極としては、KCl飽和Ag|AgCl 電極を用いた。電解液を循環させるポンプ24としては、ケミカルギアポンプ(協和科学株式会社製)を用い、このポンプ24により、電解液タンク25−ポンプ24−流量計22−チャンネルフロー電極セル11内−電解液タンク25の電解液流路に沿って電解液を循環させ、電解液がチャンネルフロー電極セル11内に流入する前に流量計22でその流量を測定した。
【0045】
先ず作用極として用いる各電極801で還元反応を行わせるべく、作用極を構成する電極801の参照極に対する電位を負電位とし、各電極801の電位を掃引速度20mV/secで掃引して、下記の(1)式で表される個々の電極における[Fe(CN)6]3−の還元反応の対流ボルタモグラムを求める実験を、室温で電解液の平均流速Umを種々変化させながら行った。
[Fe(CN)6]3− + e−→ [Fe(CN)6]4− (1)
【0046】
一例として最端部に配置された作用極W1で取得した対流ボルタモグラムを図8に示した。同図において、曲線a,b,c,d及びeはそれぞれ電解液の流速Umを11cm/sec,19cm/sec,25cm/sec,32cm/sec及び47cm/secとした場合である。図8から明らかなように、0.37 V付近から還元電流が流れ始め、約0.1 Vで拡散限界電流に達している。電解液の流速Umの増加とともに、拡散限界電流値が増加した。この拡散限界電流ILと電解液の流速Umの間には以下の式が成り立つはずである。
IL = 1.165 × nF[Ox]w (Um D2 x12 /h)1/3 (2)
【0047】
ここでnは全反応電子数、FはFaraday定数、w は作用極の幅(4 mm)、[Ox]及びDはそれぞれ溶液中の反応種(この場合は[Fe(CN)6]3−)の濃度及び拡散定数、x1は作用極の長さ(1 mm)、h はチャンネル高さの半分の値(0.25 mm)である。
【0048】
図9に、作用極W1,W2,W3,W4において測定した限界電流ILのUm1/3依存性を示し、図10に、検出極C1,C2,C3,C4において測定した限界電流ILのUm1/3依存性を示した。全ての電極で実験誤差内で良く一致した限界電流が観測され、原点を通る直線関係が得られた。これにより、本実施例の測定装置の構造により、全ての電極に電解液を層流状態で供給できることが確認できた。
【0049】
次に作用極で(1)式の反応を進行させながら、参照極に対する検出極の電位を0.45 V 対Ag-AgCl に設定して、[Fe(CN)6]4−を酸化する電流を測定し、捕捉率を求めた。作用極W1,W2,W3,W4及び検出極C1,C2,C3,C4の対流ボルタモグラムを図11に示した。4個の作用極及び4個の検出極ともに良く一致した応答が得られた。作用極と検出極の電流の比から求めた捕捉率を下記の表1にまとめて示す。同表から明らかなように、各電極対を構成する作用極と検出極の組み合わせでは、捕捉率が全て0.29であったが、電解液の流れに対して直角な方向に隣り合う電極対の作用極と検出極との組み合わせでは、捕捉率はゼロであった。
【表1】
【0050】
多電極系のチャンネルフロー二重電極測定装置で最も重要であるのは、前記したように、各検出極が、電解液の直上流にある作用極以外の作用極、即ち電解液流に対して斜めに位置する作用極の生成物を検出しないことである。本実施例のマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置では、表1に示すように、斜めに位置する作用極に対する検出感度はゼロであった。例えば、作用極W2のみを作動させたとき、その生成物が検出されたのは検出極C2のみであり、作用極W2に対して斜めに位置する検出極C1及びC3では作用極W2で生成された生成物が全く検出されなかった。他の作用極W1,W3,及びW4についても同様に、それぞれの斜めに位置する検出極での検出電流はゼロであり、本発明に係わるマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置の優れた性能が全て維持されていることを検証することができた。
【0051】
前述のように、固体高分子形燃料電池(PEFC)の高性能化・高信頼性化のための最重要課題の一つは、高活性なカソード酸素還元触媒の開発であり、室温から110℃におよぶPEFC実用温度域での実用高分散触媒の真の酸素還元活性と有害な副生成物である過酸化水素H2O2の生成率が、1対の作用極と検出極を有するチャンネルフロー二重電極測定法を用いて正確に測定できることはすでに非特許文献2及び3に報告されている。
【0052】
そこで、4対の作用極と検出極を有する図1ないし図4に示されたマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置を用い、4つの作用極W1ないしW4にそれぞれ4種類の異なる高分散電極触媒を分散付着させて、これら4種類の高分散電極触媒の酸素還元活性とH2O2生成率とを同時に測定する実験を行った。実験では、マルチポテンショスタットとして、北斗電工製のHA1010mM8Sを用いた。金からなる作用極W1ないしW4にそれぞれ均一に分散させたPtCo/C高分散触媒を試料No.1,No.2,No.3及びNo.4として、これらの試料の酸素還元活性と、H2O2生成率とを同時に測定した。電解液としては酸素を飽和させた0.1 M HCl4電解液を用いた。電解液の温度を60℃として、電解液の流速Umを23cm/secとし、電位掃引速度を0.5 mV/secとした。検出極C1ないしC4を通して流れる電流と各検出極の参照極に対する電位との関係を示す対流ボルタモグラムを図12に示し、作用極W1ないしW4を通して流れる電流と各作用極の参照極に対する電位との関係を示す対流ボルタモグラムを図13に示した。
【0053】
この実験から、PtCo合金/C触媒No.1が最も正の立ち上がり電位を示すことがわかった。また、触媒No.2が最もH2O2生成率が低いことが示された。このマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置により従来のチャンネルフロー二重電極測定装置と全く同じ精度を維持しながら、試験を大幅に加速して、試験に要する時間を大幅に(電極対が4対の場合には1/4に)短縮できることが確認できた。
【0054】
上記の説明では、電極対の数を4としたが、本発明において、電極対の数は2以上であればよく、上記の実施形態及び実施例に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の実施形態で用いるチャンネルフロー電極セルを構成する第1のブロックを示した底面図である。
【図2】本発明の実施形態で用いるチャンネルフロー電極セルを構成する第2のブロックを示した上面図である。
【図3】本発明の実施形態で用いるチャンネルフロー電極セルを構成するシートスペーサを示した上面図である。
【図4】本発明の実施形態で用いるチャンネルフロー電極セルの構造を示した縦断面図である。
【図5】本発明の実施形態でチャンネルフロー電極セルのチャンネル内に設ける電極対の構成を示した拡大図である。
【図6】本実施形態のマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置の全体的な構成の一例を概略的に示した構成図である。
【図7】本発明の実施例で用いたチャンネルフロー電極セルの各部の寸法を説明するためにもちいる説明図である。
【図8】本発明の実施例において作用極において還元反応を行わせた際に一つの作用極W1で取得された対流ボルタモグラムを示したグラフである。
【図9】本発明の実施例において、4つの作用極においてそれぞれ測定した限界電流ILのUm1/3依存性(Umは電解液の流速)を示したグラフである。
【図10】本発明の実施例において、4つの検出極において測定した限界電流ILのUm1/3依存性を示したグラフである。
【図11】本発明の実施例において、4つの作用極で還元反応を進行させながら、4つの作用極で酸化電流を測定した際に作用極及び検出極で取得された対流ボルタモグラムを示したグラフである。
【図12】本発明の実施例において、4つの作用極にそれぞれ4種類の異なる高分散電極触媒を分散付着させて、これら4種類の高分散電極触媒の酸素還元活性とH2O2生成率とを同時に測定する実験を行った際に各検出極で取得された対流ボルタモグラムを示したグラフである。
【図13】本発明の実施例において、4つの作用極にそれぞれ4種類の異なる高分散電極触媒を分散付着させて、これら4種類の高分散電極触媒の酸素還元活性とH2O2生成率とを同時に測定する実験を行った際に各作用極で取得された対流ボルタモグラムを示したグラフである。
【符号の説明】
【0056】
1 第1のブロック
2 第2のブロック
3 シートスペーサ
4 チャンネル
8a〜8d 電極対
801,802 電極
W1ないしW4 作用極
C1ないしC4 検出極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐電解液性の絶縁体からなるチャンネル形成体内に電解液が流れるチャンネルを設けて該チャンネル内に、電解液が流れる方向に並ぶ2つの電極からなる電極対を複数個設け、前記複数の電極対を前記電解液が流れる方向と直角な方向に並べて配置してなるチャンネルフロー電極セルを備えたマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置。
【請求項2】
前記複数の電極対のそれぞれを構成する2つの電極の内、前記チャンネル内に生じる電解液の流れの上流側に位置するように配置された一方の電極及び下流側に位置するように配置された他方の電極をそれぞれ作用極及び検出極として働かせるように構成されている請求項1に記載のマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置。
【請求項3】
前記複数の電極対のそれぞれを構成する2つの電極を共に作用極として働かせるように構成されている請求項1に記載のマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置。
【請求項1】
耐電解液性の絶縁体からなるチャンネル形成体内に電解液が流れるチャンネルを設けて該チャンネル内に、電解液が流れる方向に並ぶ2つの電極からなる電極対を複数個設け、前記複数の電極対を前記電解液が流れる方向と直角な方向に並べて配置してなるチャンネルフロー電極セルを備えたマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置。
【請求項2】
前記複数の電極対のそれぞれを構成する2つの電極の内、前記チャンネル内に生じる電解液の流れの上流側に位置するように配置された一方の電極及び下流側に位置するように配置された他方の電極をそれぞれ作用極及び検出極として働かせるように構成されている請求項1に記載のマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置。
【請求項3】
前記複数の電極対のそれぞれを構成する2つの電極を共に作用極として働かせるように構成されている請求項1に記載のマルチ・チャンネルフロー二重電極測定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2009−98027(P2009−98027A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−270542(P2007−270542)
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(300029570)英和株式会社 (3)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月17日(2007.10.17)
【出願人】(300029570)英和株式会社 (3)
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