説明

マルチ形空気調和機

【課題】運転中に室内機がサーモオフ状態または停止状態になったときに、サーモオフ状態または停止状態になった室内機に対応する電動膨張弁の初期開度を最適な値に設定できるマルチ形空気調和機を提供する。
【解決手段】室内熱交換器5A〜5Dを有する複数の室内機と、室外熱交換器3を有する室外機とを備える。圧縮機1と上記室内熱交換器5A〜5Dと電動膨張弁4A〜4Dと室外熱交換器3で冷媒が循環する冷媒回路を形成する。運転中に、複数の室内機の少なくとも1つが(サーモオフ状態または停止状態)になったとき、サーモオフ状態(または停止状態)になった室内機に対応する電動膨張弁の初期開度を、その室内機の室内熱交換器の仕様の重要な要素(列数と段数および有効長)により定まる熱交換能力に基づいて初期開度設定部10aにより設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の室内機を備えたマルチ形空気調和機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、マルチ形空気調和機としては、1つの室外機に複数の室内機が接続され、運転中にサーモオフ状態および停止状態の室内機に対応する電動膨張弁の開度を、その室内機の定格能力の大きさに応じて設定するものがある(例えば、特許第3195991号(特許文献1)参照)。
【0003】
ところで、上記マルチ形空気調和機では、サーモオフ状態や停止状態になった室内機は、送風ファンを停止しているので、室内熱交換器で自然対流による熱交換が行われる。このサーモオフ状態や停止状態になったとき、その室内機に対応する電動膨張弁の初期開度を、室内機の定格能力の大きさに応じた一定開度にしている。しかしながら、図3に示すように、室内機の定格能力が同じであっても、室内機の熱交換器仕様によって室内熱交換器の蒸発性能や凝縮性能が異なるため、蒸発性能や凝縮性能に応じた最適な開度を設定できないという問題がある。この場合、運転中にサーモオフ状態や停止状態になった室内機の室内熱交換器に液冷媒が溜まったり、冷媒温度が適正でなくなったりして、十分な運転能力が得られない。
【特許文献1】特許第3195991号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、この発明の目的は、運転中に室内機がサーモオフ状態または停止状態になったときに、サーモオフ状態または停止状態になった室内機に対応する電動膨張弁の初期開度を最適な値に設定できるマルチ形空気調和機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、この発明のマルチ形空気調和機は、
室内熱交換器を夫々有する複数の室内機と、室外熱交換器と圧縮機を有する室外機とを備えたマルチ形空気調和機であって、
少なくとも、上記圧縮機と上記室内熱交換器と電動膨張弁と上記室外熱交換器で冷媒が循環する冷媒回路を形成し、
運転中に、上記複数の室内機の少なくとも1つがサーモオフ状態または停止状態になったとき、上記サーモオフ状態または停止状態になった室内機に対応する上記電動膨張弁の初期開度を、その室内機の室内熱交換器の仕様の重要な要素により定まる熱交換能力に基づいて設定する初期開度設定部を備えたことを特徴とする。
【0006】
上記構成のマルチ形空気調和機によれば、運転中に、上記複数の室内機の少なくとも1つがサーモオフ状態または停止状態になったとき、初期開度設定部によって、サーモオフ状態または停止状態になった室内機に対応する上記電動膨張弁の初期開度を、その室内機の室内熱交換器の仕様の重要な要素により定まる熱交換能力に基づいて設定する。したがって、運転中に室内機がサーモオフ状態または停止状態になったときに、サーモオフ状態または停止状態になった室内機に対応する電動膨張弁の初期開度を最適な値に設定できる。すなわち、室内機の定格能力が同じであっても蒸発性能や凝縮性能が異なる種々の室内熱交換器に応じた最適な開度を設定できる。
【0007】
また、一実施形態のマルチ形空気調和機は、上記室内熱交換器の仕様の重要な要素は、少なくとも、列数と段数および有効長であることを特徴とする。
【0008】
上記実施形態のマルチ形空気調和機によれば、室内熱交換器の仕様の重要な要素のうちの、少なくとも列数と段数および有効長により定まる熱交換能力に基づいて、初期開度設定部は、サーモオフ状態または停止状態になった室内機に対応する電動膨張弁の初期開度を設定するので、室内熱交換器の熱交換能力に応じた最適な初期開度が得られる。
【0009】
また、一実施形態のマルチ形空気調和機は、上記室内熱交換器の仕様の重要な要素は、フィン仕様とフィンピッチおよび冷却管仕様を含むことを特徴とする。
【0010】
上記実施形態のマルチ形空気調和機によれば、室内熱交換器の仕様の重要な要素のうちの列数と段数および有効長に加えて、さらにフィン仕様とフィンピッチおよび冷却管仕様より定まる熱交換能力に基づいて、初期開度設定部は、サーモオフ状態または停止状態になった室内機に対応する電動膨張弁の初期開度を設定するので、室内熱交換器の熱交換能力に応じたさらに最適な初期開度が得られる。
【発明の効果】
【0011】
以上より明らかなように、この発明のマルチ形空気調和機によれば、運転中に室内機がサーモオフ状態または停止状態になったときに、サーモオフ状態または停止状態になった室内機に対応する電動膨張弁の初期開度を最適な値に設定できるマルチ形空気調和機を実現することができる。
【0012】
また、一実施形態のマルチ形空気調和機によれば、室内熱交換器の仕様の重要な要素のうちの、少なくとも列数と段数および有効長により定まる熱交換能力に基づいて、初期開度設定部により、サーモオフ状態または停止状態になった室内機に対応する電動膨張弁の初期開度を設定することによって、室内熱交換器の熱交換能力に応じた最適な初期開度を得ることができる。
【0013】
また、一実施形態のマルチ形空気調和機によれば、室内熱交換器の仕様の重要な要素のうちの列数と段数および有効長に加えて、さらにフィン仕様とフィンピッチおよび冷却管仕様より定まる熱交換能力に基づいて、初期開度設定部により、サーモオフ状態または停止状態になった室内機に対応する電動膨張弁の初期開度を設定することによって、室内熱交換器の熱交換能力に応じたさらに最適な初期開度を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明のマルチ形空気調和機を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0015】
図1はこの発明の実施の一形態のマルチ形空気調和機の回路図であり、1は圧縮機、2は上記圧縮機1の吐出側に一端が接続された四路弁、3は上記四路弁2の他端に一端が接続された室外熱交換器、4A〜4Dは上記室外熱交換器3の他端に一端が夫々接続された電動膨張弁、5A〜5Dは上記電動膨張弁4A〜4Dの他端に一端が夫々接続された室内熱交換器、7は上記室内熱交換器5A〜5Dの一端に四路弁2を介して一端が接続され、他端が圧縮機1の吸入側に接続されたアキュムレータである。上記室外熱交換器3の他端と四路弁2との間に閉鎖弁11を配設すると共に、圧縮機1の吐出側とアキュムレータ8の下流側との間に閉鎖弁12を配設している。上記圧縮機1,四路弁2,室外熱交換器3,電動膨張弁4A〜4D,室内熱交換器5A〜5Dおよびアキュムレータ6で冷媒回路を構成している。このマルチ形空気調和機は、室内熱交換器5A〜5Dを夫々有する複数の室内機と、圧縮機1と四路弁2と室外熱交換器3と電動膨張弁4A〜4Dおよびアキュムレータ8を有する室外機とを備えている。
【0016】
また、上記マルチ型空気調和機は、外気温度を検出する外気温度センサ20と、室外熱交換器3の温度を検出する室外熱交換器用温度センサ21と、上記室内熱交換器5A〜5Dの温度を夫々検出する室内熱交換器用温度センサ22A〜22Dと、上記室内熱交換器5A〜5Dの電動膨張弁4A〜4Dの冷媒温度を検出する温度センサ23A〜23Dと、室内温度を検出する室内温度センサ24A〜24Dとを備えている。
【0017】
また、上記マルチ型空気調和機は、室外熱交換器用温度センサ21や室内熱交換器用温度センサ22A〜22Dおよび温度センサ23A〜23Dの検出信号に基づいて、圧縮機1や電動膨張弁4A〜4D等を制御する制御装置10を備えている。上記制御装置10は、入出力回路とマイクロコンピュータ等からなり、サーモオフ状態または停止状態になった室内機に対応する電動膨張弁の初期開度を設定する初期開度設定部10aを有している。
【0018】
上記構成のマルチ型空気調和機において、暖房運転時は、四路弁2を実線の位置に切り換えて、圧縮機1を駆動すると、圧縮機1から吐出された高圧ガス冷媒は、四路弁2を介して室内熱交換器5A〜5Dに夫々流入し、室内空気と熱交換をして凝縮する。そうして、室内熱交換器5A〜5D内で凝縮した液冷媒は、電動膨張弁4A〜4Dにより減圧された後、室外熱交換器3で室外空気と熱交換をして室内を暖房し、室外熱交換器3で蒸発したガス冷媒が、四路弁2とアキュムレータ8とを介して圧縮機1の吸入側に戻る。
【0019】
一方、冷房運転時は、四路弁2を点線の位置に切り換えて、圧縮機1を駆動すると、圧縮機1から吐出された高圧ガス冷媒は、四路弁2を介して室外熱交換器3に夫々流入し、室内空気と熱交換をして凝縮する。そうして、室外熱交換器3内で凝縮した液冷媒は、電動膨張弁4A〜4Dにより減圧された後、室内熱交換器5A〜5Dで室外空気と熱交換をして室内を冷房し、室内熱交換器5A〜5Dで蒸発したガス冷媒が、四路弁2とアキュムレータ8とを介して圧縮機1の吸入側に戻る。
【0020】
次に、暖房運転中に室内熱交換器5A〜5Dを有する室内機のうちの1つがサーモオフ状態(または停止状態)になった場合について説明する。
【0021】
暖房運転中に室内熱交換器5A〜5Dを有する室内機のうちの1つがサーモオフ状態(または停止状態)になると、制御装置10の初期開度設定部10aは、そのサーモオフ状態(または停止状態)になった室内機に対応する電動膨張弁(4A〜4D)の初期開度を、その室内機の室内熱交換器の仕様の重要な要素により定まる熱交換能力に基づいて設定する。
【0022】
上記初期開度設定部10aは、室内熱交換器の仕様の重要な要素として図2に示す列数と段数および有効長により定まる熱交換能力を用いている。図2では、列数は2列であり、段数は4段である。
【0023】
なお、制御装置10の初期開度設定部10aでは、室内熱交換器の仕様の重要な要素により定まる熱交換能力の情報は、室外機に接続された各室内機から送信される。したがって、例えば、ある部屋の室内機を室内熱交換器の熱交換能力の異なる他の室内機に交換しても、交換後の室内機から送信された熱交換能力の情報を用いることによって、運転中にサーモオフ状態(または停止状態)になった室内機に対応する電動膨張弁の初期開度を最適な値に設定することが可能となる。
【0024】
次に、運転中にサーモオフ状態(または停止状態)になった室内機に対応する電動膨張弁の初期開度を設定した後、室内熱交換器用温度センサ22A〜22Dにより検出された室内熱交換器5A〜5Dの冷媒温度や温度センサ23A〜23Dにより検出された冷媒温度などに基づいて、制御装置10は、サーモオフ状態(または停止状態)になった室内機に対応する電動膨張弁の開度を、フィードバック制御により最適値に調整する。
【0025】
したがって、運転中にサーモオフ状態(または停止状態)になった室内機に対応する電動膨張弁の初期開度を最適な値に設定することによって、後のフィードバック制御によって電動膨張弁の開度を最適値に調整するまでの時間が早くなるので、常に効率のよい運転が可能となる。
【0026】
このように、上記マルチ形空気調和機によれば、運転中に、複数の室内機の少なくとも1つがサーモオフ状態(または停止状態)になったとき、初期開度設定部10aによって、サーモオフ状態(または停止状態)になった室内機に対応する電動膨張弁の初期開度を、その室内機の室内熱交換器の仕様の重要な要素により定まる熱交換能力に基づいて設定するので、運転中に室内機がサーモオフ状態または停止状態になった室内機に対応する電動膨張弁の初期開度を最適な値に設定することができる。
【0027】
また、室内熱交換器の仕様の重要な要素のうちの列数と段数および有効長により定まる熱交換能力に基づいて、初期開度設定部10aは、サーモオフ状態(または停止状態)になった室内機に対応する電動膨張弁の初期開度を設定するので、室内熱交換器の熱交換能力に応じた最適な初期開度を得ることができる。
【0028】
なお、室内熱交換器の仕様の重要な要素として、上記列数と段数および有効長に加えて、フィン仕様(フィンの形状や有効表面積など)とフィンピッチおよび冷却管仕様(管径など)により定まる熱交換能力を用いてもよい。この場合、室内熱交換器の熱交換能力に応じたさらに最適な初期開度を得ることができる。
【0029】
上記実施の形態では、1つの室外機に4つの室内機が接続されたマルチ形空気調和機について説明したが、マルチ形空気調和機はこれに限らず、2,3または4以上の室内機が接続されたマルチ形空気調和機にこの発明を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1はこの発明の実施の一形態のマルチ形空気調和機の構成図である。
【図2】図2は上記マルチ形空気調和機の室内機の室内熱交換器の模式図である。
【図3】図3は定格能力(能力クラス)が同じでも室内機の熱交換器仕様により熱交換器能力が異なることを示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1…圧縮機
2…四路弁
3…室外熱交換器
4A〜4D…電動膨張弁
5A〜5D…室内熱交換器
7…アキュムレータ
10…制御部
10a…初期開度設定部
11,12…閉鎖弁
20…外気温度を検出する外気温度センサ
21…室外熱交換器用温度センサ
22A〜22D…室内熱交換器用温度センサ
23A〜23D…温度センサ
24A〜24D…室内温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内熱交換器(5A〜5D)を夫々有する複数の室内機と、室外熱交換器(3)と圧縮機(1)を有する室外機とを備えたマルチ形空気調和機であって、
少なくとも、上記圧縮機(1)と上記室内熱交換器(5A〜5D)と電動膨張弁(4A〜4D)と上記室外熱交換器(3)で冷媒が循環する冷媒回路を形成し、
運転中に、上記複数の室内機の少なくとも1つがサーモオフ状態または停止状態になったとき、上記サーモオフ状態または停止状態になった室内機に対応する上記電動膨張弁の初期開度を、その室内機の室内熱交換器の仕様の重要な要素により定まる熱交換能力に基づいて設定する初期開度設定部(10a)を備えたことを特徴とするマルチ形空気調和機。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチ形空気調和機において、
上記室内熱交換器の仕様の重要な要素は、少なくとも、列数と段数および有効長であることを特徴とするマルチ形空気調和機。
【請求項3】
請求項2に記載のマルチ形空気調和機において、
上記室内熱交換器の仕様の重要な要素は、フィン仕様とフィンピッチおよび冷却管仕様を含むことを特徴とするマルチ形空気調和機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−40563(P2007−40563A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−222949(P2005−222949)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】