説明

マロン酸塩またはアルドン酸塩を使用したレーザーイメージング方法

マークする対象物における領域上にレーザー光を指し向けることによって、対象物をマーキングするマーキング方法であって、該対象物における領域上に、少なくとも、マロン酸イオン、グルコン酸イオン、およびヘプトン酸イオンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むマーキング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザーイメージングにおける多糖の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開第02/068205号は、レーザーを照射すると、反応物に対比する色彩の反応生成物が形成されるように、分離金属化合物と反応する物質を開示している。この反応生成物を使用して対象物、例えば、食用対象物上にイメージを形成する。
【0003】
国際公開第02/068205号の反応によって、低い維持費でプリントを行い、溶媒の必要性、放出、デブリ、および抽出を回避できる。それにより休止時間を減らし、オンライン式非接触型コーディングが可能になる。プリントに関連する物質の在庫を購入する必要がない。接着問題および汚染を回避することができ、そして湿気のある状態でもコードすることができる。
【特許文献1】国際公開第02/068205号
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、特定の多糖部分がレーザー照射によって内部反応し、それによって対比色の反応生成物を形成する能力を基礎とする。本発明によれば、マロン酸イオンまたはグルコン酸イオンを含む対象物をマーキングする方法であって、その方法は、マークする対象物の領域上にレーザーを照射するステップを含む。
【0005】
使用する成分の性質および得られた反応生成物の性質に応じて、その生成物は生理学的に受容可能であり、すなわち食用になりうる。これは、食品および錠剤や丸剤などの医薬製品のマーキングに本発明を使用できることを意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明に従って、対象物は、マロン酸イオンもしくはグルコン酸イオン部分、ならびに金属イオンを含んでいてもよい。対象物における領域上のそのままの位置で着色剤、色素、または発色団である反応生成物を形成するために、レーザーを照射して、この部分に内部脱離反応を起こさせることができる。一般的には、脱離反応は脱水反応であり(すなわち水分の除去)、通常、脱離反応によってそれらの官能基は炭化される。
【0007】
通常、対象物は、基材、および該基材に被膜されたコーティングを含む。この場合、その一部分は、任意の追加の化学添加物のように、そのコーティング内に含まれるのが好ましい。
【0008】
イメージまたはマークを付ける対象物または基材は食品であってよく、例えば、菓子類、卵、またはフルーツ、あるいは錠剤や丸剤などの医薬単位用量であってよい。対象物または基材を消費し、または(仮に医薬的に)経口投与することを意図した場合、その部分および反応生成物は食用である。あるいは、対象物または基材は、紙、ポリマーフィルム、カードもしくはボード、プラスチック容器、またはイメージをプリントすることができる他の任意の品目であってよい。
【0009】
反応生成物(すなわち着色剤、色素、または発色団)は、未反応部分よりも色彩強度が強く、好ましくは、未反応部分は実質的に透明または実質的に無色である。
【0010】
多糖は、基、例えば、OHおよびCOOHを含み、それらは金属イオンによって内部脱離反応を受ける。その金属イオンは、一価、二価、または三価の金属カチオンであることが好ましい。第3の実施形態で使用するのに好ましい金属イオンの例には、NH4+、Li+、Na+、K+、Ca2+、Mg2+、Sr2+およびAl3+が含まれ、Na+が特に好ましい。一般的に、Cu2+は、その塩が非常に色彩を帯び易いので余り好ましくない。
【0011】
あるいは、金属イオンには二価の遷移金属カチオンを含めてよく、周期表第一列のものが好ましい。特に好ましい金属イオンの例には、Mn2+、Co2+、Fe2+、Ni2+、およびCu2+が含まれる。これらの中では、Mn2+およびCo2+が、その塩が一般的に比較的淡い色彩のために最も好ましく、そしてFe2+が最も好ましくない傾向がある。これは、黄色の第一鉄イオン水溶液が、大気中酸素により第二鉄イオンになることによって、時に容易に暗色に変化するためである。
【0012】
あるいは、官能基は、ジカルボン酸塩の一部を形成するものであってもよい(またはこの部分はジカルボン酸塩を含んでいてもよい)。好適なジカルボン酸塩の例には、1,2‐ジカルボン酸塩(シュウ酸塩)、1,3‐ジカルボン酸塩(マロン酸塩)、1,4‐ジカルボン酸塩、および1,5‐ジカルボン酸塩が含まれるが、1,3‐ジカルボン酸塩(マロン酸塩)が、低温で他のジカルボン酸塩よりも暗色酸化物に分解されやすく、それによって暗レーザーイメージ形成が促進されるために好ましい。
【0013】
あるいは、官能基は、部分式CH(OH)CH(OH)CH(OH)COO-‐のアニオンの一部を形成する(またはその部分はこれを含む)。このフラグメントを含む好適なアニオンの例は、グルコン酸イオン(HOCH2[CH(OH)]4CO2-)およびヘプトン酸イオン(HOCH2[CH(OH)]5CO2-)‐である。本実施形態によるアニオンは、任意により、ホウ酸複合体の中に含めて、例えば、その官能基がボロヘプトン酸塩の一部を形成し、またはこの部分がボロヘプトン酸塩を含むように、ボロヘプトン酸塩を形成してもよい。典型的なボロヘプトン酸塩は、ホウ素を1〜1.2%含有する。
【0014】
先の情報を基にして、当業者は、他の好適な官能基、金属イオン、および強度増強剤を知り、あるいは容易に選択し、またはそれらの適合性を試験してもよい。
【0015】
加えられるエネルギーに対してその包装が透過性を有するものであれば、マークする対象物または基材を予め包装してよいことも本発明の範囲内である。すなわち、フィルム包装した錠剤、食品、または他のそのような製品を本発明によってプリントすることができる。PE、PP、PET、PVC、セルロース、および酢酸セルロースを含め、一般的に入手できる多くの包装フィルムは、IRレーザーエネルギーを透過することが判明している。
【0016】
バッチコード、賞味期日などの用に、対象物または基材、あるいはその包装に割り当てられた空間は、(標準的な)黒色プリントとよく対比するように、通常、明色でプリントした小さなパッチである。これは、本発明系を使用し、レーザー感受性インクでプリントした白色または明色パッチであってもよい。閾値用量のレーザーエネルギーに曝露すると、インクは色を変えてイメージを示す。パッチは、包装する際に、既知のプリント技術、例えば、フレキソまたはグラビアマーキング技術によってプリントしうる。
【0017】
マークする対象物は、マーキングを妨げない追加成分によって製剤化させてもよい。好ましい実施形態では、基材をコートするためにこれらの成分を製剤化させて用いてもよい。基材に対して塗布を行うためには、例えば、ボールミル処理によって得られた溶液または分散液として、本発明で使用する一種または複数の物質を水性または非水性系で製剤化させて用いてもよい。典型的には、エタノールまたは水/エタノール混合液を含む水系で物質を製剤化する。結合剤、例えば、ポリビニルアルコール、アクリル系モノマー(Acrylics)、スチレン系ポリマー(Styrenics)、セルロース化合物、ポリウレタンを含むように物質を製剤化するのが好ましい。製剤は、IR吸収体材を任意に含有させてもよい。
【0018】
コーティングが達成可能なマーキングの透明性を決定する。従って、所望によりコーティングは一回を超えて行ってよい。さらに、従来のコーティング法によってコーティング面にカルナウバワックスなどの保護層を塗布することができる。なお、カルナウバワックスを用いる場合には、コーティングが保護層を通してレーザーでマークキングできるものとする。
【0019】
本発明で使用する成分の量は、意図した使用に関して当業者が容易に選択することができる。例えば、コーティング組成物は各成分を0.1〜20%w/v含むようにしてもよい。
【0020】
上記のように、イメージは熱を加えて形成することができる。レーザーを照射することによって局所的に熱を加えるのが好ましい。好適なレーザーとしては、Nd−YAGレーザーおよびCO2レーザー等の高エネルギーを放出するレーザーが含まれ、典型的には波長が10,600nmのレーザーである。多くの場合、典型的には800〜1500nmの範囲の波長の光を放出するダイオードレーザーなど、低エネルギーレーザーの使用が望ましいこともある。一定の状況では、このエネルギー入力では所望の反応を引き起こすのに不十分である可能性があり、その際、照射する組成物には好適な吸収材を含めるのが好ましい。
【0021】
従って、使用しうる別の添加物はIR吸収材であり、その多くは公知の物質である。大まかに言えば、本発明を目的として、そのような任意の好適な物質を組み込むことができ、当業者なら選択することができる。
【0022】
レーザーは、ドットマトリックス方式、または持続波スクライビング方式で操作することができる。この後者の方式では、プリントの質を改善することができる。このレーザーは出力が低いので、アプローチを維持する必要がない極めて確実な操作性が得られる。本系は、スクライブ方式で操作することができ、200m/minまでの移動ライン上をコードすることができる。これよりも速い速度には、ドットマトリックスプリンティングが適している。
【0023】
本系を使用して、パッキングフィルムを通してコーディングし、またはフィルムラミネート中にコーディングすることができる。低出力レーザーなら、貫通が生じるのを確実に防止できる。
【0024】
以下の実施例によって本発明を例示する。
【実施例1】
【0025】
2.74gの酢酸マンガン四水和物の脱イオン水(7g)溶液を調製した。別個に、無水シュウ酸(1.144g)の脱イオン水(6g)溶液を調製した。シュウ酸溶液を酢酸マンガン溶液に加えた。シュウ酸マンガン(1,2‐ジカルボン酸塩)の白色沈殿物が直ちに形成され、ろ過によって採取し、5gの脱イオン水で3回洗浄し、55℃で終夜乾燥させた。
【0026】
4.52gの酢酸マンガン四水和物を10gの脱イオン水に溶解した。別個に、1.96gのマロン酸を1.5gの脱イオン水に溶解した。それらの溶液を混合した。終夜静置すると、マロン酸マンガン水和物(1,3‐ジカルボン酸塩)の沈殿物が形成され、これをろ過によって採取し、2gの脱イオン水で3回洗浄した。次いで、沈殿物を55℃で終夜乾燥させた。
【0027】
シュウ酸マンガン(2g)およびマロン酸マンガン(2g)をTexicryl 13-011ポリマー乳濁液(それぞれ4.8g)と混合した。ステアタイトボールを使用して両生成物を3時間磨砕し、次いで2.5レートのワイヤーコーティングバー(RK coaters)を使用して、別個にMWV社製カードにコートし、温風を使用し乾燥させた。
【0028】
CO2スクライビングレーザーを使用して、各コーティングをイメージ通りに曝露した。シュウ酸マンガンでは、レーザーイメージング活性が得られなかったが、それとは対照的に、マロン酸マンガンでは5Wおよび8Wのレーザー出力ではっきりとした茶褐色イメージが得られた。結果は、マロン酸塩はシュウ酸塩よりもCO2スクライビングレーザーに対してより反応することを示している。
【実施例2】
【0029】
RK Coaters社製2.5レートのワイヤーコーティングバーを使用し、MeadWestvaco Corporation社製カードに、ヘプトン酸ナトリウム二水和物(Croda)の20重量%脱イオン水溶液をコートした。温風を使用してコーティングを乾燥すると、無色の層が得られ、次いでCO2スクライビングレーザーを使用してイメージを描いた。3〜5Wの出力ではっきりとした暗褐色英数字のイメージが得られた。
【実施例3】
【0030】
RK Coaters社製2.5レートのワイヤーコーティングバーを使用し、MeadWestvaco Corporation社製カードに、ボロヘプトン酸ナトリウム(Croda)の20重量%脱イオン水溶液をコートした。温風を使用しコーティングを乾燥すると、無色層が得られ、次いでCO2スクライビングレーザーを使用してイメージを描いた。3〜5Wの出力ではっきりとした黒茶褐色英数字のイメージが得られた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マークする対象物における領域上にレーザーを照射することによって、対象物をマーキングするマーキング方法であって、該対象物の領域上に少なくともマロン酸イオンおよび部分式CH(OH)CH(OH)CH(OH)COO-‐の化合物から選ばれる少なくとも一種を含有させるマーキング方法。
【請求項2】
前記対象物は、マロン酸金属塩を含む、請求項1に記載のマーキング方法。
【請求項3】
前記金属は、ナトリウムである、請求項2に記載のマーキング方法。
【請求項4】
前記金属は、二価の遷移金属カチオンである、請求項2に記載のマーキング方法。
【請求項5】
前記金属は、Mn2+、Co2+、Fe2+、Ni2+、Cu2+のいずれか、またはそれらを組合せて得られる混合物である、請求項2に記載のマーキング方法。
【請求項6】
前記化合物は、グルコン酸塩である、請求項1に記載のマーキング方法。
【請求項7】
前記化合物は、ヘプトン酸塩である、請求項1に記載のマーキング方法。
【請求項8】
前記化合物は、一価、二価、または三価の金属カチオンのいずれか、あるいはそれらを組合せて得られる混合物を含む、請求項6または7に記載のマーキング方法。
【請求項9】
前記カチオンは、NH4+、Li+、Na+、K+、Ca2+、Mg2+、Sr2+、Al3+のいずれか、またはそれらを組合せて得られる混合物である、請求項8に記載のマーキング方法。
【請求項10】
前記官能基は、ホウ酸複合体中に含まれている、請求項6から9のいずれか1項に記載のマーキング方法。
【請求項11】
前記対象物は、医薬品または食品であり、前記反応生成物が生理学的に受容可能である、請求項1から10のいずれか1項に記載のマーキング方法。
【請求項12】
前記対象物は、基材、および該基材にコートされたマロン酸塩もしくはグルコン酸塩を含有するコーティングを含む、請求項1から11のいずれか1項に記載のマーキング方法。
【請求項13】
前記基材は、錠剤または丸剤であり、前記コーティングが医薬品を含む、請求項12に記載のマーキング方法。
【請求項14】
前記対象物は、フィルム材に包装され、または被覆されている、請求項1から13のいずれか1項に記載のマーキング方法。

【公表番号】特表2008−545560(P2008−545560A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−514185(P2008−514185)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【国際出願番号】PCT/GB2006/001969
【国際公開番号】WO2006/129078
【国際公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(507055925)データレース リミテッド (24)
【氏名又は名称原語表記】DATALASE LTD.
【Fターム(参考)】