説明

マンホールの補修及び補強方法

【課題】既設のマンホール補修及び補強方法に関し、老齢化や劣化した構造体を撤去して交換したりせず、コンクリートパネルを用いて短い工期で安全に且つ確実に行うようにした。
【解決手段】 下水道等における既設マンホール1内の硫化水素ガス等で劣化し又は老朽化した内壁面11をピッチング工程で削り、その削り面を高圧洗浄機の噴射洗浄した後、円形を複数に分割した耐酸性コンクリートパネル10をマンホール1内で内壁面11に沿って単一段又は複数段に組み立てた後、マンホール内壁面11と耐酸性コンクリートパネル10の外表面との隙間及び隣接するコンクリートパネル同士の継ぎ目の隙間g′を耐酸性モルタル11で充填して接着固定するマンホール補修及び補強方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、既設マンホールで老齢化や劣化した構造体を補修及び補強する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、下水道管路補修については、数々の工法が存在している。そして、マンホール部分については、樹脂塗装、モルタル補修等が実施されているが、強度、接着、耐久年数等に問題があり確立されていないのが実状である。
【0003】
下水道管路は、ほぼ100%が道路下に埋設されており、工事内容によっては、当然、道路規制が必要になる。また、仮設地上バイパス工事が必要になり、工期が長期に及ぶことがあって、工期的に極めて短期間に施工しなければならない場合があり、工期が短縮できる補修、補強方法が求められている。
【0004】
また、従来から下記に示すような発明が提供されている。
【特許文献1】特開平09−268639号公報の発明
【特許文献2】特開平11−138637号公報の発明
【特許文献3】特開2002−106051号公報の発明
【0005】
上記の「特許文献1」は、ガラス繊維からなる布地をマンホール内壁面の裏打ち箇所の大きさに合わせて裁断する裁断工程と、裁断された布地にエポキシ樹脂等からなる樹脂液を含浸させる含浸工程と、樹脂液の含浸された布地を前記マンホールの内壁面の一部又は全部の裏打ち箇所に張付ける張付工程と、張付けられた布地を前記樹脂液の樹脂と接着しない材質からなるポリエチレン等の押圧部材を用いて、その樹脂液が硬化するまで押圧する押圧工程とからなる構成である。
また「特許文献2」は、隣り合うマンホール間に横管を設けてなる管渠を補修して再生させるための工法であって、上記横管とマンホールとの内周面に、可撓性および熱可塑性を有する合成樹脂製のライニング材をそれぞれ敷設し、その両ライニング材を熱溶着により一体的に接合するようにした構成である。
そして、「特許文献3」は、既設のマンホール内に桝体を挿入する。桝体の流出口とマンホールの洗出口とを下流管で接続して、マンホールを補修する。既設のマンホールは、流出口に接続された下水管などの内部を流れる下水から発生する硫化水素によりインバート部や流出口が腐蝕しやすい。マンホールの腐蝕部分をモルタルなどのライニング材で被覆して補修する場合に比べ、マンホールを簡単な手段で補修できる構成である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の上下水道の管路には人の出入りが中心に考えられて構成された昇降用マンホールのみしか配置されていないので、上下水道の管理補修等に使用される器機の搬入或いは搬出が困難である課題があった。
そして、「特許文献1」にあっては、マンホールの内壁面にガラス繊維からなる布地を裏打ち補修することによって、腐蝕に対して当該マンホールを恒久的な使用に耐える強さを有する特長を有しているが、硫化水素ガス等によって損傷を受けた部分を剥離したことによる強度不足は否めない。
次に、「特許文献2」にあっては、マンホールの内周面に敷設するライニングは、可撓性及び熱可塑性を有する合成樹脂材料を熱溶着により接合するものであるから、腐食性には有益であるが、硫化水素によって腐蝕した部分を剥離した部分の強度の補強には欠けている。
そして、「特許文献3」にあっては、硫化水素によりインバート部や流出口に桝体を挿入することによって、当該インバート部や流出口の腐蝕部分を補修するが、マンホールの縦穴部位の内周面が硫化水素によって腐蝕した場合の補修についてはその対策は全く示されていない。また、上記の桝体によっては補修することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこでこの発明は、上記従来の課題を解決し、且つ発明の目的を達成するために解決するものである。
【0008】
この発明の第1は、マンホール補修及び補強方法において、下水道等における既設マンホール内の硫化水素ガス等で劣化し又は老朽化した内壁面を削り、その削り面を洗浄した後、円形を複数に分割した耐酸性コンクリートパネルをマンホール内で内壁面に沿って単一段又は複数段に組み立てた後、マンホール内壁面と耐酸性コンクリートパネル外表面との隙間及び隣接するコンクリートパネル同士の継ぎ目の隙間を、耐酸性接着剤で充填するようにしたものである。
【0009】
この発明の第2は、第1の発明に係るマンホール補修及び補強方法において、マンホール内壁面とマンホールの出入口に入る高さの耐酸性コンクリートパネル外表面との隙間及び隣接する耐酸性コンクリートパネル同士の継ぎ目の隙間に、耐酸性モルタル又は塩化ビニル等の接着樹脂を充填したものである。
【0010】
この発明の第3は、第1の発明に係るマンホール補修及び補強方法において、マンホール内部の内壁面をピックハンマー等のピッチング工程で削り、且つ削り面の洗浄に高圧洗浄機を用いるものである。
【0011】
この発明の第4は、第1の発明に係るマンホール補修及び補強方法において、マンホール内壁面に沿って組み立てた円形を複数に分割した耐酸性コンクリートパネルの継ぎ目の隙間に止め金具を差込んで隣り合う当該パネルを固定したものである。
【発明の効果】
【0012】
この発明は上記の構成からなり、次の作用効果がある。
第1に、既設マンホール内壁面表層のピッチング工程、洗浄工程、耐酸性コンクリートパネル設置工程、耐酸性接着剤充填工程を単一段の高さ60cmとし、繰り返し施工できるので、施工能率の大幅な向上を図ることができる。また、道路上の規制作業時間を大幅に短縮することが可能となり、コスト削減が可能となる。
第2に、耐酸性の高いセメントを使用し、コンクリートパネル、裏込めモルタルを使用するので、管路より発生する硫化水素ガスによるコンクリートの劣化に対して影響を極力少なくすることができ、耐用年数の改善を図ることができる。
第3に、劣化、老朽化している既設マンホール内壁面表層部分のみを補修、補強するので崩落事故などを防止でき、安全性が高い。
第4に、施工時は、既存マンホールの上流側管路に止水パッカーを設置し短時間で施工することが可能であるので、仮設地上バイパス設備等の必要が無くなる。
第5に、マンホールにおいて、この補修、補強方法を実施することによって、工期の大幅な短縮を図ることができ、欠陥が無く、補修面が紋密な壁面と、高強度の耐酸性モルタルの表面を形成できる。また、施工スピードが速いので、施工コストも安価で、施工時の安全性も高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この既設マンホールの補修、補強方法にあっては、既設マンホールのコンクリート内壁面の硫化水素ガスによる劣化部をピッチング工程のピックハンマー等にて削り取り、高圧水にて噴射洗浄し、湾曲成形した耐酸性コンクリートパネルを型枠代わりにセットし、既存マンホールトコンクリートパネルの隙間を即効性の高い耐酸性モルタルにて充填するため、養生時間を必要としない特長がある。
【実施例】
【0014】
次に、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。1はマンホールであり、平面視で円形又は角形があり、図示例は円形を示す。その円形マンホール1の内壁面11はコンクリートで成形され、且つ作業者が出入りする開口部2の直径R′は600mm、その開口部の直下から内底部にかけての直径Rは1200mmになっている。3はマンホール1の内底部、4はマンホール1の壁孔6に挿入結合する上流側の流入管、5はマンホール1の壁孔7に挿入結合する下流側の流出管、8はマンホールの内壁面11に設けたタラップ、9はマンホールの上蓋である。
【0015】
10はマンホール1の内壁面11の円周方向に沿って円形状に張設するために円形を複数枚に分割した耐酸性コンクリートパネルであり、分割した各単体のパネル101〜10nは、そのパネル加工時に内壁面11の円周方向に見合う湾曲に成形する。すなわち、マンホール1の内壁面11の直径Rが1200mmに設定されている場合は、当該パネル101〜10nの外面の隙間gを7〜11mm程度に設定すると共に、当該パネルの直径R=1200mmないし、それより5〜30mm程小径の凸弧形に成形する。
上記パネルの高さHは、マンホール開口部2の直径R′が600mmの場合は、これを通過できるようにするために600mm未満とする。この場合、円周方向の直径R1200mmを4分割にすると、直線状に測定して単一枚の横幅W≒850mm、6分割にすると単一枚の横幅W≒610mmとなる。
そして、円形を複数に分割した各単体パネル101〜10nの隣り合う継ぎ目は、5〜1
0mm程度の隙間g′を形成しておくものとする。
なお、耐酸性コンクリートパネル10(101〜10n)の板厚tは、直径R=900mmの場合は9mm、直径R=1200mmの場合は12mm程度に設定してある。
【0016】
11はその円筒体を成形する耐酸性コンクリートパネル10(101〜10n)の外表面とマンホール1の内壁面11との間に形成した隙間gと、隣接する耐酸性パネル同士の継ぎ目の隙間g′に注入打設して硬化することにより固着する耐酸性接着剤であり、具体的には耐酸性モルタルを用いるが、塩化ビニル等の樹脂接着剤を用いることもできる。
12は上流側から下流側への下水の流れを一時的に止めるために流入管4に詰める止水パッカー、13は最下段の耐酸性コンクリートパネル10(101〜10n)のうち、流入管4の壁孔6及び流出管5の壁孔7に合わせてあけた孔を示す。14は分割した耐酸性コンクリートパネル同士の継ぎ目の隙間g′に差込んで両者を固定する止め金具である。
【0017】
「耐酸性コンクリートパネルの試験成績(表1)」
1. 被試験材料:耐酸性コンクリートパネル(エレホン・化成工業株式会社「本社:大分県大分市三川新町1−1−23」の提供)
2. 試験方法:東京都下水道局施設管理部コンクリート改修マニュアル処理施設編 断面修復材の要求性能指標」に準拠した方法で、強度特性、密度特性(浸透拡散抵抗性)、耐環境性(耐硫酸性)について試験を行った。
(1) 強度特性
JIS R 5201 に示す40mm×40mm×160mm供試体により、所定の材令まで水中
養生し、曲げ、圧縮強度を測定する。
(2) 密度特性(浸透拡散抵抗性)
直径75mm×高さ150mmの円柱を材令28日まで水中養生し、その後28日間5%
硫酸に浸漬する(硫酸は1週間ごとに交換)。浸漬終了後、供試体を輪切りにし、フ
ェノールフタレイン試薬で呈色域を測る。75mmから呈色域を引き2で割った値を密
度特性とする。
・密度特性=(直径75mm−呈色域)/2
(3) 環境特性(耐硫酸性)
密度特性と同じ試験体で、硫酸への浸漬の前後での重量差を、浸漬前に対するパー
セントで表したものを耐環境性とする。
・耐環境性={(硫酸浸漬後重量−硫酸浸漬前重量)/硫酸浸漬前重量}×100

【表1】

「備考: 曲げ・圧縮強度の単位は、N/mm2
【0018】
「耐酸性モルタル試験成績」について「耐酸性モルタル配合」、「条件」、「上記配合の試験成績」を、下記の「表2」に示す。

【表2】

「備考:耐酸性セメントの養生温度による接着強度変化については図5に示す。」
【0019】
「具体的な既設マンホールの補修例」
次に、この発明による既設マンホールの補修例を説明する。
(1)既設の補修及び補強対象のマンホール道路上の交通規制を実施する。
(2)既設マンホール1内のコンクリート内壁面11の劣化状況をテストハンマー等で確認し、ピッチング工程による補修厚さや補修高さを決定する。
(3)補修対象となるマンホール1の上流側の管路内に止水パッカー12を取り付けて一時的に下水の流れを止めて施工する。
(4)硫化水素ガスで浸食された内壁面11を補修高さまで、ピックハンマー等のピッチング工程で削り取る。
(5)マンホール内壁面11の削り部位を、既存の高圧洗浄機(最大吐出圧力210kg/cm2「図示省略」)で噴射洗浄する。
(6)補修高さ内にある既存タラップ8を酸素ガスバーナ等で切断する。
(7)4枚に分割された、耐酸性コンクリートパネル10の単体パネル(101〜10n)を、その高さH(600mm未満)方向を横向きにし(これにより、単体パネルの湾曲方向を縦向きにし)てマンホール開口部2より中に吊り下げ、内底面3に降ろす際に、又は降ろした後、横向きのパネル単体を本来の高さ方向に向け直す。この作業を単体パネルの枚数分だけ繰り返して円周方向に組み立てる。
(8)補修対象のマンホール1の内壁面11と耐酸性コンクリートパネル10の隙間gと当該パネル同士の継ぎ目の隙間g′に耐酸性モルタル11を注入打設して当該パネルを内壁面1に固着する。このとき必要に応じて隣り合うパネル同士の継ぎ目の隙間gに止め金具14を差込んで両者を固定する。
(9)前記耐酸性コンクリートパネル10を用いて上記(7)、(8)の作業を単一段又は2段以上の補修高さまで繰り返す。
(10)最後にタラップ8の取付部を内壁面11に削孔して取り付ける。
(11)マンホール1の上流側管路に詰めてある止水パッカー12を取り外して下水道の流れを再開する。
(12)現道上の交通規制を解除して完了する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明を適用したマンホールの斜視図である。
【図2】図1の上蓋を取り除いた状態の平面図である。
【図3】図1の3−3線に沿う拡大断面図である。
【図4】分割した耐酸性コンクリートパネルを円形に組み立てた斜視図である。
【図5】耐酸性セメントの養生温度による接着強度変化を示す折れ線グラフである。
【符号の説明】
【0021】
1…マンホール
2…マンホールの開口部
3…マンホールの内底部
4…マンホールの内壁孔に挿入結合する流入管
5…マンホールの内壁孔に挿入結合する流出管
6…マンホールの上部流入管側の内壁孔
7…マンホールの下部流出管側の内壁孔
8…タラップ
9…マンホール開口部の上蓋
10…耐酸性コンクリートパネル
11…接着性モルタル
12…止水パッカー
13…耐酸性コンクリートパネルにあけた流入管及び流出管用の孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下水道等における既設マンホール内の硫化水素ガスで劣化し又は老朽化した内壁面を削り、その削り面を洗浄した後、円形を複数に分割した耐酸性コンクリートパネルをマンホール内で内壁面に沿って単一段又は複数段に組み立てた後、マンホール内壁面と耐酸性コンクリートパネル外表面との隙間及び隣接するコンクリートパネル同士の継ぎ目の隙間を、耐酸性接着剤で充填することを特徴とするマンホール補修及び補強方法。
【請求項2】
マンホール内壁面とマンホールの出入口に入る高さの耐酸性コンクリートパネル外表面との隙間及び隣接する耐酸性コンクリートパネル同士の継ぎ目の隙間を、耐酸性モルタル又は塩化ビニル等の樹脂接着剤を充填した請求項1記載のマンホール補修及び補強方法。
【請求項3】
マンホール内部の内壁面をピッチング工程で削り、且つ削り面への噴射洗浄を高圧洗浄機を用いた請求項1記載のマンホール補修及び補強方法。
【請求項4】
マンホール内壁面に沿って組み立てた円形を複数に分割した耐酸性コンクリートパネルの継ぎ目の隙間を止め金具を差込んで隣り合う当該パネルを固定した請求項1記載のマンホール補修及び補強方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−285066(P2007−285066A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−116120(P2006−116120)
【出願日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【特許番号】特許第3897354号(P3897354)
【特許公報発行日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(595108136)山内工業株式会社 (1)
【出願人】(304053865)瑞穂建設株式会社 (2)
【Fターム(参考)】