説明

ミスト発生装置及びミスト発生方法

【課題】微細かつ均一な粒径のミストを発生させるとともに、その発生量を正確に制御する。
【解決手段】チャンバー1内で所定粒径のミストを生成し、生成されたミストをチャンバー1の排出口6から排出するミスト発生装置である。チャンバー1内にミストを吐出する吐出部2と、チャンバー1内に外気を供給する外気供給部3と、チャンバー1内の湿度及び温度を検知する湿度検知部7及び温度検知部8とを有する。吐出部2によるミストの吐出量と、外気供給部3による外気の供給量との双方又は一方が、湿度検知部7及び温度検知部8の検知結果に基づいて制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミストを発生させる装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
所望のミストを発生させるための技術は、PIV(Particle Image Velocimetry)での液体トレーサー粒子の発生や、発熱物にミストを噴霧することで冷却を行うミスト冷却といった様々な技術分野において重要な技術である。なかでもミスト化された薬液を吐出して利用者に吸入させる吸入治療の分野では特に重要な技術である。
【0003】
薬学的に活性な薬物の肺輸送は、いくつかの異なる方法によって行われる。1つの方法によれば、薬学的に活性な薬物を、低沸点推進薬中に分散させ、加圧されたキャニスタに装填し、一般に計量吸入として知られる装置を使用することによってキャニスタから薬物/推進製剤を放出させることができる。放出後、推進薬は蒸発し、薬物粒子が患者に吸入される。他の方法では、振動を使用して、薬物の溶液又は懸濁液から微粒子のミストを生成する噴霧器が使用され、このミストが口及び/又は鼻を通じて患者に吸入される。さらに他の方法では、乾燥粉末状の薬物が吸入される。
【0004】
しかし、乾燥粉末を使用するシステムにはいくつかの問題がある。第1に、乾燥粉末は保管するのが困難であり、容易に水蒸気によって汚染され粉末が凝集する虞がある。乾燥粉末を使用しないシステムには、液体担体中に溶解又は懸濁させた薬物が含まれる。このようなシステムには利点があるが(たとえば、粉末粒子の凝集が回避される)、このようなシステムはまた、周囲の空気中の水分、すなわち湿度の影響を受ける。具体的には、そのようなシステムでは、ミストを発生させるために、水を担体として使用する。すなわち、薬物と水とを含む製剤を使用する。しかし、周囲の湿度が変動する場合、水分の蒸発の速度及び量が変動することがある。水分蒸発量は、ミスト粒子の径(以下「ミスト粒径」という。)に影響を及ぼし、粒径は、肺に達する粒子の量及び粒子が到達できる肺の特定の面積に影響を及ぼす。
【0005】
これらの問題を回避するための発明として、特許文献1にある方法が開示されている。この方法では、十分な可撓性を備えた直径が約0.25[mm]から約6.0[mm]の孔を有する多孔性膜に液体を通過させることによってミスト粒子を発生させる。また、ミスト粒子に接触させた空気を積極的に加熱することによって該粒子にエネルギーを与え、水分蒸発量を調整することによって、ミスト粒径を制御する。
【特許文献1】特開2004−290688号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示されている方法は、ミスト粒子に接触する空気を介してミスト粒子に熱エネルギーを与えることによって水分の蒸発を促して、ミスト粒径を制御するものである。この方法では熱エネルギーによって製剤の品質が劣化する虞がある。その他、多孔性膜に液体を通過させることによってミストを発生させているが、孔の直径に約0.25[mm]から約6.0[mm]の幅があるので、ミスト粒径が均一ではなく、また、ミストの発生量を正確に制御することができない。
【0007】
一方、正確に粒径が制御されたミストを発生させる方法としてインクジェット方式が知られている。しかし、インクジェット方式では、ミスト粒径が吐出ノズル径によって決まるので、吐出ノズル径に依存した粒径のミストしか得られない。また、ミスト粒径の微小化を図るために、吐出ノズル径をより小さく設計していくと、作成されるノズル径の公差の拡大によってミスト粒径の均一性が失われてしまう。
【0008】
本発明は、吐出ノズル径よりも小さく、かつ、均一な粒径のミストを発生させるとともに、その発生量を正確に制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のミスト発生装置の一つは、チャンバー内で所定粒径のミストを生成し、生成されたミストを前記チャンバーの排出口から排出するミスト発生装置である。このミスト発生装置は、前記チャンバー内にミストを吐出する吐出手段と、前記チャンバー内に外気を供給する外気供給手段と、前記チャンバー内の湿度を検知する湿度検知手段と、前記チャンバー内の温度を検知する温度検知手段とを有する。前記吐出手段による前記チャンバー内へのミストの吐出量と、前記外気供給手段による前記チャンバー内への外気の供給量との双方又は一方は、前記湿度検知手段及び前記温度検知手段の検知結果に基づいて制御される。
【0010】
本発明のミスト発生方法の一つは、チャンバー内で所定粒径のミストを生成し、生成されたミストを前記チャンバーの排出口から排出するミスト発生方法である。このミスト発生方法では、前記チャンバー内にミストを吐出するとともに、前記チャンバー内に外気を供給して、前記ミストと前記外気とを前記チャンバー内で混合させる。また、前記チャンバー内の湿度及び温度を検知する。そして、前記チャンバー内へのミストの吐出量と、前記チャンバー内への外気の供給量との双方又は一方を、検知された前記チャンバー内の湿度及び温度に基づいて制御する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、微細かつ均一な粒径のミストを発生させるとともに、その発生量を正確に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(実施形態1)
図1は本実施形態に係るミスト発生装置の全体構成を示す模式図である。このミスト発生装置は、ミストが排出される排出口6を備えたチャンバー1と、チャンバー内にミストを吐出する吐出手段(吐出部2)と、チャンバー内に外気を供給する外気供給手段(外気供給部3)とを有する。また、外気供給部3によってチャンバー内に供給される外気の量を制御する流量制御手段(流量制御部4)と、外気の供給量を検知する流量検知手段(流量検知部5)とを有する。さらに、チャンバー内の湿度を検知する湿度検知手段(湿度検知部7)と、温度を検知する温度検知手段(温度検知部8)とを有する。
【0013】
尚、本明細書で用いる「乾燥空気」の用語は、何らかの除湿処理が施された気体を意味し、湿潤空気とは何らかの加湿処理が施された気体を意味する。
【0014】
吐出部2は、インクジェット方式によって液体をミスト化してチャンバー1内に吐出するように構成されたものであることが望ましい。それはバブルジェット方式でもピエゾ素子を用いたインクジェット方式でもどちらでもよい。
【0015】
さらに、吐出部2は、サテライトの発生しない、単分散粒径分布を示すミストを発生させることが望ましい。サテライトを発生させない吐出方法の一例としては、吐出速度を低く設定した吐出方法が挙げられる。水を主成分とするミストの場合、吐出速度を約2[m/s]に設定することでサテライトの発生しない単分散粒径分布を示すミストを発生させることができる。サテライトの有無は、吐出されるミストの表面張力と吐出速度に大きく依存しており、吐出されるミストの表面張力に応じた吐出速度を設定することで、サテライトの発生しない吐出を実現することができる。
【0016】
図2に、吐出部2によるミストの吐出速度が大きくサテライトが発生している吐出状態を、図3に、吐出部2によるミストの吐出速度が小さくサテライトが発生していない吐出状態をそれぞれ模式的に示す。
【0017】
再び図1を参照する。外気供給部3によってチャンバー1内に供給される外気の量は、流量検知部5によって検知され、流量制御部4によって制御される。
【0018】
吐出部2から吐出されたミストと、外気供給部3によって供給された外気とは、チャンバー1内で混合される。
【0019】
ここで、吐出部2から吐出されたミスト中の水分は、吐出直後から蒸発を始める。そして、ミストから蒸発した水分によって、チャンバー1内に供給された外気の蒸気圧が飽和蒸気圧となった時点で蒸発は止まる。したがって、ミストの粒径が所定粒径になるまで水分が蒸発した時点で、外気の蒸気圧が飽和蒸気圧となるように、チャンバー1内のミストの個数濃度及び外気の供給量を制御すれば、所定粒径のミストを得ることができる。
【0020】
上記のようにしてミスト粒径を制御するためには、チャンバー1内でミストが蒸発を始めてからチャンバー1外へミストが排出されるまでの時間が、該ミストの蒸発によって外気の蒸気圧が飽和蒸気圧になるまでの時間よりも長くなければならない。換言すれば、吐出部2からミストが吐出されてからチャンバー1外へ排出されるまでに要する時間が、該ミストから蒸発した水分によって外気の蒸気圧が飽和蒸気圧になるまでに要する時間よりも長くなければならない。
【0021】
そこで、所定量の水分を蒸発させるために、湿度検知部7及び温度検知部8の双方の検知結果に基づいて、吐出部2によるミストの吐出量と、チャンバー1内への外気の供給量とが調節される。より具体的には、チャンバー1内の湿度及び温度に基づいて、吐出部2から吐出されるミストの個数濃度と、チャンバー1内に供給される外気の量とが調節される。何故なら、飽和水蒸気量は温度によって変化し、またある状態の空気に気体として溶け込める液体の量はその気体の湿度によって決まるからである。
【0022】
尚、図1では、外気の供給方向の上流に湿度検知部7が、同方向の下流に温度検知部8が配置された例が図示されている。しかし、チャンバー1の湿度及び温度が検知できるならば、湿度検知部7と温度検知部8との位置関係は特に制約されない。
【0023】
ミストの個数濃度は、吐出部2での吐出周波数を変えることによって制御することができる。また、吐出部2が備えるノズル数を変えることによっても制御することができる。さらに、吐出されるミストの合計量(合計吐出量)は、吐出回数によって制御することができる。
【0024】
チャンバー1への外気の供給量をAex[l/s]、外気の相対湿度をH[%RH]、温度をT[℃]とし、このときの飽和水蒸気量をM[g/m3]とすると、Aex中に気体として溶け込める水の量V[g]は、
【0025】
【数1】

となる。
【0026】
また、吐出部2が備えるノズル数をN[個]、吐出周波数をf[Hz]とすると、単位時間あたりに吐出されるミスト数はNf[個]であり、吐出直後のミスト粒径をd0[m]、目標粒径をd’[m]とすると、蒸発する水の量V’[g]は、
【0027】
【数2】

となる。
【0028】
所定量の水分を蒸発させるには、V=V’となればよい。つまり、
【0029】
【数3】

となるように、Aex、N、fを設定すればよい。
【0030】
数式(※1)のパラメータであるAex[l/s]、T[℃]、H[%RH]、N[個]がある値に固定であるとすると、ミストの粒径変化d0[m]→d’[m]を実現するのに必要な吐出周波数f[Hz]は、
【0031】
【数4】

となり、単位時間あたりに吐出されるミストの粒子数はfN[個]であるので、時間t[s]の間に排出口6から排出されるミストの質量m’[g]は、
【0032】
【数5】

となる。
【0033】
今、当該ミスト発生装置を使用する環境及びチャンバー1内の温度をT=25[℃]、湿度をH=20%[RH]、ミストの吐出に用いられるノズル数をN=1000[個]とする。そして、上記条件下で、初期粒径d0=10[μm]のミストを蒸発させ目標粒径d’=2[μm]のミストを発生させる場合を考える。このときの経過時間t[m]と発生するミストの総質量m’[g]の関係を図4に示す。
【0034】
図4より、総質量100[mg]のミストを発生させるには、ミスト発生装置を約5.7分間稼動させればよいことがわかる。
【0035】
本実施形態のミスト発生装置は、いずれの構成要素も小型化可能であるため、携帯用ミスト発生装置としての利用に適している。
(実施形態2)
以下、本発明の実施形態の他例について説明する。図5は、本実施形態に係るミスト発生装置の全体構成を示す模式図である。
【0036】
本実施形態のミスト発生装置は、ミストが排出される排出口14を備えたチャンバー9と、チャンバー内にミストを吐出する吐出手段(吐出部10)と、チャンバー内に湿潤空気を供給する湿潤空気供給手段(湿潤空気供給部11)とを有する。また、湿潤空気供給部11によってチャンバー内に供給される湿潤空気の量を制御する流量制御手段(流量制御部12)と、チャンバー内への湿潤空気の供給量を検知する流量検知手段(流量検知部13)とを有する。さらに、チャンバー内の温度を検知する温度検知手段(温度検知部15)を有する。
【0037】
尚、吐出部10がインクジェット方式であることが望ましい点や、それがバブルジェット方式でもピエゾ素子を用いたインクジェット方式でも良いことは実施形態1と同様である。また、吐出部10が、サテライトの発生しない、単分散粒径分布を示すミストを発生させることが望ましい点も実施形態1と同様であり、そのための吐出速度の設定に関しても実施形態1と同様である。
【0038】
図5に示す湿潤空気供給部11によってチャンバー9内に供給される湿潤空気の量は流量検知部13によって検知され、流量制御部12によって制御される。
【0039】
吐出部10から吐出されたミストと、チャンバー9内に供給された湿潤空気とは、チャンバー9で混合される。
【0040】
ここでも、吐出部10から吐出されたミスト中の水分は、吐出直後から蒸発を始める。そして、ミストから蒸発した水分によって、チャンバー1内に供給された湿潤空気の蒸気圧が飽和蒸気圧となった時点で蒸発は止まる。したがって、ミストの粒径が所定粒径になるまで水分が蒸発した時点で、湿潤空気の蒸気圧が飽和蒸気圧となるように、湿潤空気の湿度及び供給量に応じて、チャンバー9でのミストの個数濃度を制御すれば、所定粒径のミストを得ることができる。
【0041】
上記ようにしてミスト粒径を制御するためには、チャンバー9内でミストが蒸発を始めてからチャンバー9外へミストが排出されるまでの時間が、該ミストの蒸発によって湿潤空気の蒸気圧が飽和蒸気圧になるまでの時間よりも長くなければならない。換言すれば、吐出部10からミストが吐出されてからチャンバー9外へ排出されるまでに要する時間が、該ミスト中の水分の蒸発によって湿潤空気の蒸気圧が飽和蒸気圧になるまでに要する時間よりも長くなければならない。
【0042】
そこで、所定量の水分を蒸発させるために、温度検知部15によって検知されるチャンバー9内の温度に応じて、吐出部10から吐出されるミストの個数濃度と、チャンバー9内に供給される湿潤空気の量とが調節される。何故なら、飽和水蒸気量は温度によって変化し、またある状態の空気に気体として溶け込める液体の量はその気体の湿度によって決まるからである。
【0043】
ミストの個数濃度は、吐出部10での吐出周波数を変えることによって制御することができる。また、吐出部10が備えるノズル数を変えることによっても制御することができる。吐出されるミストの合計量(合計吐出量)は、吐出回数によって制御することができる。
【0044】
チャンバー9への湿潤空気の供給量をAev[l/s]、湿潤空気の相対湿度をH[%RH]、温度をT[℃]とし、このときの飽和水蒸気量をM[g/m3]とすると、Aev中に気体として溶け込める水の量V[g]は、
【0045】
【数6】

となる。
【0046】
また、吐出部10が備えるノズル数をN[個]、吐出周波数をf[Hz]とすると、単位時間あたりに吐出されるミスト数はNf[個]であり、吐出直後のミスト粒径をd0[m]、目標粒径をd’[m]とすると、蒸発する水の量V’[g]は、
【0047】
【数7】

となる。
【0048】
所望量の水分を蒸発させるには、V=V’となればよい。つまり、
【0049】
【数8】

となるように、H 、Aev、N、fを設定すればよい。
【0050】
本実施形態に係るミスト発生装置では、ミストと混合される気体の湿度を調節可能であるため、単位時間あたりに発生させる所望粒径ミストの個数濃度と、排出口14から排出されるミストの量の両方を同時に制御することができる。
(実施形態3)
以下、本発明の実施形態の他例について説明する。図6は、本実施形態に係るミスト発生装置の全体構成を示す模式図である。
【0051】
本実施形態のミスト発生装置は、ミストが排出される排出口24を備えたチャンバー16と、チャンバー内にミストを吐出する吐出手段(吐出部17)とを有する。また、チャンバー内に湿潤空気を供給する湿潤空気供給手段(湿潤空気供給生部18)と、該供給部18によってチャンバー内に供給される湿潤空気の量を制御する第一の流量制御手段(第一の流量制御部19)とを有する。また、チャンバー内への湿潤空気の供給量を検知する第一の流量検知手段(第一の流量検知部20)を有する。さらに、チャンバー内に乾燥空気を供給する乾燥空気供給手段(乾燥空気供給部21)と、該供給部21によってチャンバー内に供給される乾燥空気の量を制御する第二の流量制御手段(第二の流量制御部22)を有する。加えて、チャンバー内への乾燥空気の供給量を検知する第二の流量検知手段(第二の流量検知部23)と、チャンバー内の温度を検知するための温度検知手段(温度検知部25)とを有する。
【0052】
尚、吐出部17がインクジェット方式であることが望ましい点や、それがバブルジェット方式でもピエゾ素子を用いたインクジェット方式でも良いことは実施形態1、2と同様である。また、吐出部17が、サテライトの発生しない、単分散粒径分布を示すミストを発生させることが望ましい点も実施形態1、2と同様であり、そのための吐出速度の設定に関しても実施形態1、2と同様である。
【0053】
吐出部17は湿潤空気供給部18よりも下流であって、乾燥空気供給部21よりも上流に配置されている。かかる配置により、吐出部17が常に湿潤空気に覆われ、吐出部の乾燥によって引き起こされる吐出不良が防止される。
【0054】
湿潤空気供給部18によってチャンバー16に供給される湿潤空気の量は、第一の流量検知部20によって検知され、第一の流量制御部19によって制御される。一方、乾燥空気供給部21によってチャンバー16内に供給される乾燥空気の量は、第二の流量検知部23によって検知され、第二の流量制御部22によって制御される。
【0055】
尚、チャンバー16内への湿潤空気の供給量が制御及び検知できるならば、第一の流量制御部19と第一の流量検知部20との位置関係は特に制約されない。同様に、チャンバー16内への乾燥空気の供給量が制御及び検知できるならば、第二の流量制御部22と第二の流量検知部23との位置関係は特に制約されない。
【0056】
吐出部17から吐出されたミストと、湿潤空気供給部18によって供給された湿潤空気と、乾燥空気供給部21によって供給された乾燥空気とは、チャンバー16で混合される。ここでも吐出部17から吐出されたミスト中の水分は、乾燥空気と湿潤空気との混合空気にされると蒸発を始め、ミストから蒸発した水分によって混合空気の蒸気圧が飽和蒸気圧となった時点で蒸発は止まる。したがって、ミストの粒径が所定粒径になるまで水分が蒸発した時点で、混合気体の蒸気圧が飽和蒸気圧となるように、チャンバー16内でのミストの個数濃度及び混合気体の蒸気圧を制御することで、所定粒径のミストを得ることができる。
【0057】
上記のようにしてミスト粒径を制御するためには、チャンバー16内でミストが蒸発を始めてからチャンバー16外へミストが排出されるまでの時間が、該ミストの蒸発によって混合空気の蒸気圧が飽和蒸気圧になるまでの時間よりも長くなければならない。換言すれば、吐出部17からミストが吐出されてからチャンバー16外へ排出されるまでに要する時間が、該ミストからの水分蒸発によって混合空気の蒸気圧が飽和蒸気圧になるまでに要する時間よりも長くなければならない。
【0058】
そこで、所定量の水分を蒸発させるために、温度検知部25によって検知されるチャンバー16内の温度に応じて、吐出部17から吐出されるミストの個数濃度と、チャンバー16内の混合空気の量とが調節される。何故なら、飽和水蒸気量は温度によって変化し、またある状態の空気に気体として溶け込める液体の量はその気体の湿度によって決まるからである。
【0059】
ミストの個数濃度は、吐出部17での吐出周波数を変えることによって制御することができる。また、吐出部17が備えるノズル数を変えることによっても制御することができる。吐出されるミストの合計量(合計吐出量)は、吐出回数によって制御することができる。
【0060】
チャンバー17内への湿潤空気と乾燥空気の供給量をそれぞれAw[l/s]、Ad[l/s]、混合気体の温度をT[℃]とすると、混合気体の相対湿度H[%RH]は、
【0061】
【数9】

となる。
【0062】
また、単位時間あたりに流れる混合空気の量Aunit[m3]は、
【0063】
【数10】

であり、T[℃]での飽和水蒸気量をM[g/m3]とすると、Aunit中に気体として溶け込める水の量V[g]は、
【0064】
【数11】

となる。
【0065】
また、吐出部17が備えるノズル数をN[個]、吐出周波数をf[Hz]とすると、単位時間あたりに吐出されるミスト数はNf[個]であり、吐出直後のミスト粒径をd0[m]、目標粒径をd’[m]とすると、蒸発する水の量V’[g]は、
【0066】
【数12】

となる。
【0067】
所望量の水分をミストを蒸発させるには、V=V’となればよい。つまり、
【0068】
【数13】

となるように、Aw、Ad、N、fを設定すればよい。
【0069】
乾燥空気は、湿度が0%[RH]となるようにあらかじめ調節されていることが望ましいが、湿度が既知ならば乾燥空気として外気を用いることもできる。外気の湿度をH’[%RH]、該外気のチャンバー17内への供給量をAd’[l/s]として、前述した本実施形態での関係式を改める。湿潤空気と外気との混合空気の湿度H[%RH]は、
【0070】
【数14】

となり、以降前述と同様の考え方によって式(※3)の関係に至ることができる。
【0071】
本実施形態では、ミストと混合される気体の湿度の調節を湿潤空気と乾燥空気との混合によって実現した。また、湿潤空気供給部18と乾燥空気供給部21の配置を工夫することで、吐出部の乾燥による吐出不良を抑制し、ミストの吐出量及び濃度を正確に制御することを可能とした。
(実施形態4)
これまでは、ミストの主成分が水であることを前提として本発明の実施形態の一例について説明した。ここでは、図6を用いて、主成分が水以外のミストを発生させる場合の実施形態の一例について説明する。本例のミスト発生装置では、図6に示す湿潤空気供給部18が、吐出部17から吐出されるミストに含まれる揮発成分を含み、その揮発成分の蒸気圧が既に飽和蒸気圧に達している空気(飽和空気)を供給する部(飽和空気供給部)に置換されている。それ以外の構成は実施形態3で説明した構成と同一である。
【0072】
チャンバー17内に供給される、飽和空気及び乾燥空気の供給量をそれぞれAw[l/s]、Ad[l/s]、それらの温度を温度T[℃]、温度T[℃]での飽和蒸気圧をPs、該混合気体の蒸気圧をPaとする。このときの蒸気圧比Pcを、
【0073】
【数15】

と定義する。
【0074】
単位時間あたりに流れる混合空気の量Aunit[m3]は、
【0075】
【数16】

であり、T[℃]でのミスト主成分の飽和蒸気量をM[g/m3]とすると、Aunit中に気体として溶け込めるミスト主成分の量V[g]は、
【0076】
【数17】

となる。
【0077】
また、吐出部17が備えるノズル数をN[個]、吐出周波数をf[Hz]とすると、単位時間あたりに吐出されるミスト数はNf[個]であり、吐出直後のミスト粒径をd0[m]、目標粒径をd’[m]とすると、蒸発するミスト主成分の量V’[g]は、
【0078】
【数18】

となる。
【0079】
所望量の水分をミストから蒸発させるには、V=V’となればよい。つまり、
【0080】
【数19】

となるように、Aw、Ad、N、fを設定すればよい。
【0081】
本実施形態では、ミストと混合される気体の蒸気圧の調節を、乾燥空気と吐出部17から吐出されるミスト中に含まれる揮発成分の蒸気圧が飽和蒸気圧に達している空気との混合によって実現した。また、飽和空気供給部と、乾燥空気供給部21との配置を工夫することで、吐出部の乾燥による吐出不良を抑制し、ミストの吐出量及び発生濃度を正確に制御可能とした。もっとも、乾燥空気に代えて外気と飽和空気とを混合させて、飽和空気の蒸気圧を調節することもできる。
【0082】
ここで、実験により、粒径が10[μm]程度のミスト中の水分は、たとえ環境湿度が80%[RH]という高湿環境においても数百[msec]で蒸発することが確認できている。つまり、粒径数十[μm]程度のミストは、長くとも1[sec]以内に粒径数μmまで縮径する。
【0083】
上記のようにして所定量の水分を蒸発させるために、温度検知部25によって検知されるチャンバー16内の温度に応じて、吐出部17から吐出されるミストの個数濃度と、飽和空気と乾燥空気の混合比及び合計量が調節される。
【0084】
ミストの個数濃度は、吐出部17での吐出周波数を変えることによって制御することができる。また、吐出部17が備えるノズル数を変えることによっても制御することができる。吐出されるミストの合計量(合計吐出量)は、吐出回数によって制御することができる。
【0085】
チャンバー16の形状は円筒状であり、その直径は5[cm]とする。チャンバー16内への飽和空気と乾燥空気のそれぞれの供給量を0.4[l/s]、0.1[l/s]、それぞれの湿度を100%[RH]、0%[RH]、それら混合気体の温度を25[℃]とする。混合気体の相対湿度は80%[RH]である。
【0086】
単位時間あたりに流れる混合空気の量は0.5×10-3[m3]であり、25[℃]での飽和水蒸気量は23.1[g/m3]であるので、気体として溶け込める水の量V[g]は、
【0087】
【数20】

となる。
【0088】
吐出部17が備えるノズル数を3000[個]、吐出直後のミスト粒径を8[μm]とすると、粒径3[μm]のミストを得るには、吐出周波数3032[Hz]で吐出を行えばよい。
【0089】
また、排出口24からミストが排出されるまでに気体の蒸気圧が飽和して水分の蒸発による粒径変化を停止させるために、乾燥空気供給部21の位置から排出口24までのチャンバー16の長さは、少なくとも26[cm]以上であればよい。これにより、ミストが蒸発を始めて排出口24から排出されるまでに1[sec]以上の時間を稼ぐことができる。
【0090】
乾燥空気はあらかじめ除湿処理が施された気体であることが望ましいが、湿度が既知であり、飽和空気よりも湿度が低い場合であれば乾燥空気として外気を用いることもできる。
【0091】
本実施形態では、ミストと混合される気体の湿度調節を、飽和空気と乾燥空気の混合によって実現した。また、飽和空気供給部と乾燥空気供給部21の配置を工夫することで、吐出部の乾燥による吐出不良を抑制し、ミストの吐出量及び発生濃度を正確に制御可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】実施形態1に係るミスト発生装置の構成を示す模式図である。
【図2】インクジェット方式を用いミストを吐出する場合において、吐出速度が大きく、吐出された液体が複数個の液滴に分裂する様子を示す模式図である。
【図3】インクジェット方式を用いミストを吐出する場合において、吐出速度が小さく、吐出された液体が一つにまとまる様子を示す模式図である。
【図4】実施形態1に係るミスト発生装置の稼働時間と発生するミストの総質量との関係を示す図である。
【図5】実施形態2に係るミスト発生装置の構成を示す模式図である。
【図6】実施形態3、4に係るミスト発生装置の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0093】
1、9、16 チャンバー
2、10、17 吐出部
3 外気供給部
4、12、19、22 流量制御部
5、13、20、23 流量検知部
6、14、24 排出口
7、15、25 温度検知部
8 湿度検知部
11、18 湿潤空気供給部
21 乾燥空気供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバー内で所定粒径のミストを生成し、生成されたミストを前記チャンバーの排出口から排出するミスト発生装置であって、
前記チャンバー内にミストを吐出する吐出手段と、
前記チャンバー内に外気を供給する外気供給手段と、
前記チャンバー内の湿度を検知する湿度検知手段と、
前記チャンバー内の温度を検知する温度検知手段と、を有し、
前記吐出手段による前記チャンバー内へのミストの吐出量と、前記外気供給手段による前記チャンバー内への外気の供給量との双方又は一方が、前記湿度検知手段及び前記温度検知手段の検知結果に基づいて制御されることを特徴とするミスト発生装置。
【請求項2】
チャンバー内で所定粒径のミストを生成し、生成されたミストを前記チャンバーの排出口から排出するミスト発生装置であって、
前記チャンバー内にミストを吐出する吐出手段と、
前記チャンバー内に、湿度又は湿度と温度の双方が調節された空気を供給する空気供給手段と、
前記チャンバー内の温度を検知する温度検知手段と、を有し、
前記吐出手段による前記チャンバー内へのミストの吐出量と、前記空気供給手段による前記チャンバー内への前記空気の供給量との双方又は一方が、前記温度検知手段の検知結果に基づいて制御されることを特徴とするミスト発生装置。
【請求項3】
チャンバー内で所定粒径のミストを生成し、生成されたミストを前記チャンバーの排出口から排出するミスト発生装置であって、
前記チャンバー内にミストを吐出する吐出手段と、
前記チャンバー内に湿潤空気を供給する湿潤空気供給手段と、
前記チャンバー内に乾燥空気を供給する乾燥空気供給手段と、
前記チャンバー内の温度を検知する温度検知手段と、を有し、
前記吐出手段による前記チャンバー内へのミストの吐出量と、前記湿潤空気供給手段及び前記乾燥空気供給手段による前記チャンバー内への前記湿潤空気及び前記乾燥空気の供給量との双方又は一方が、前記温度検知手段の検知結果に基づいて制御されることを特徴とするミスト発生装置。
【請求項4】
前記湿潤空気供給手段が前記吐出手段よりも前記湿潤空気の供給方向の上流に配置され、前記乾燥空気供給手段が前記吐出手段よりも前記供給方向の下流に配置されていることを特徴とする請求項3記載のミスト発生装置。
【請求項5】
チャンバー内で所定粒径のミストを生成し、生成されたミストを前記チャンバーの排出口から排出するミスト発生装置であって、
前記チャンバー内にミストを吐出する吐出手段と、
前記吐出手段から吐出される前記ミストに含まれる揮発成分の蒸気圧が飽和蒸気圧となっている空気を前記チャンバー内に供給する飽和空気供給手段と、
前記チャンバー内に外気を供給する外気供給手段と、
前記チャンバー内の温度を検知する温度検知手段と、を有し、
前記吐出手段による前記チャンバー内へのミストの吐出量と、前記飽和空気供給手段による前記チャンバー内への前記空気の供給量及び前記外気供給手段による前記チャンバー内への前記外気の供給量との双方又は一方が前記温度検知手段の検知結果に基づいて制御されることを特徴とするミスト発生装置。
【請求項6】
前記飽和空気供給手段が前記吐出手段よりも前記空気の供給方向の上流に配置され、前記外気供給手段が前記吐出手段よりも前記供給方向の下流に配置されていることを特徴とする請求項5記載のミスト発生装置。
【請求項7】
前記吐出手段がインクジェット方式で前記ミストを吐出するものであることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載のミスト発生装置。
【請求項8】
チャンバー内で所定粒径のミストを生成し、生成されたミストを前記チャンバーの排出口から排出するミスト発生方法であって、
前記チャンバー内にミストを吐出するとともに、前記チャンバー内に外気を供給して、前記ミストと前記外気とを前記チャンバー内で混合させ、
前記チャンバー内の湿度を検知し、
前記チャンバー内の温度を検知し、
前記チャンバー内へのミストの吐出量と、前記チャンバー内への外気の供給量との双方又は一方を、検知された前記チャンバー内の湿度及び温度に基づいて制御することを特徴とするミスト発生方法。
【請求項9】
チャンバー内で所定粒径のミストを生成し、生成されたミストを前記チャンバーの排出口から排出するミスト発生方法であって、
前記チャンバー内にミストを吐出するとともに、前記チャンバー内に湿度又は湿度と温度の双方が調節された空気を供給して、前記ミストと前記空気とを前記チャンバー内で混合させ、
前記チャンバー内の温度を検知し、
前記チャンバー内へのミストの吐出量と、前記チャンバー内への前記空気の供給量との双方又は一方を、検知された前記チャンバー内の温度に基づいて制御することを特徴とするミスト発生方法。
【請求項10】
チャンバー内で所定粒径のミストを生成し、生成されたミストを前記チャンバーの排出口から排出するミスト発生方法であって、
前記チャンバー内にミストを吐出するとともに、前記チャンバー内に湿潤空気及び乾燥空気を供給して、前記ミストと前記湿潤空気と前記乾燥空気とを前記チャンバー内で混合させ、
前記チャンバー内の温度を検知し、
前記チャンバー内へのミストの吐出量と、前記チャンバー内への前記湿潤空気及び前記乾燥空気の供給量との双方又は一方を、検知された前記チャンバー内の温度に基づいて制御することを特徴とするミスト発生方法。
【請求項11】
前記チャンバー内に吐出された前記ミストを前記湿潤空気と混合させた後に、前記乾燥空気と混合させることを特徴とする請求項10記載のミスト発生方法。
【請求項12】
チャンバー内で所定粒径のミストを生成し、生成されたミストを前記チャンバーの排出口から排出するミスト発生方法であって、
前記チャンバー内にミストを吐出するとともに、前記チャンバー内に、前記ミストに含まれる揮発成分の蒸気圧が飽和蒸気圧となっている空気及び外気を供給して、前記ミストと前記空気と前記外気とを前記チャンバー内で混合し、
前記チャンバー内の温度を検知し、
前記チャンバー内へのミストの吐出量と、前記チャンバー内への前記空気及び前記外気の供給量との双方又は一方を、検知された前記チャンバー内の温度に基づいて制御することを特徴とするミスト発生方法。
【請求項13】
前記チャンバー内に吐出された前記ミストを前記空気と混合させた後に、前記外気と混合させることを特徴とする請求項12記載のミスト発生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−34377(P2009−34377A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201838(P2007−201838)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.バブルジェット
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】